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特許7509933環状オレフィン系樹脂組成物および成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】環状オレフィン系樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20240625BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20240625BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240625BHJP
   C08F 232/08 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08L45/00
C08K5/103
C08K5/053
C08F232/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022579596
(86)(22)【出願日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2022004197
(87)【国際公開番号】W WO2022168901
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2021018162
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】濱田 悠也
(72)【発明者】
【氏名】春谷 昌克
(72)【発明者】
【氏名】奥野 孝行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久博
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-172665(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033968(WO,A1)
【文献】特開2015-199939(JP,A)
【文献】特開2006-232714(JP,A)
【文献】特開2002-194230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系共重合体(A)と、
ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化合物(B)と、
ポリグリセリン(C)と、
を含む環状オレフィン系樹脂組成物であって、
前記化合物(B)の量が、前記環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、0.05質量部以上3質量部以下であり、
前記ポリグリセリン(C)の量が、前記環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、0.001質量部以上0.04質量部以下であり、
前記環状オレフィン系共重合体(A)が、構造単位(a)と構造単位(b)とを有する付加重合体を含み、
前記ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化合物(B)が、トリグリセリンと、炭素原子数8以上24以下の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルを含み、
前記ポリグリセリン(C)が、トリグリセリンおよびテトラグリセリンを含む、環状オレフィン系樹脂組成物。
構造単位(a):下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の構造単位。
構造単位(b):下記一般式(II)で表される繰り返し単位(AA)と、下記一般式(III)で表される繰り返し単位(AB)と、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位(AC)とからなる群より選択される少なくとも1種の環状オレフィン由来の構造単位。
【化1】
上記一般式(I)において、R 300 は水素原子、または炭素数1~29の直鎖または分岐状の炭化水素基を示す。
【化2】
上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1である。R 61 ~R 78 ならびにR a1 およびR b1 は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R 75 ~R 78 は、互いに結合して単環または多環を形成してもよい。
【化3】
上記一般式(III)において、xおよびdはそれぞれ独立に0または1以上の整数である。yおよびzはそれぞれ独立に0~2の整数である。R 81 ~R 99 は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基である。R 89 およびR 90 が結合している炭素原子と、R 93 が結合している炭素原子またはR 91 が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよい。また、y=z=0のとき、R 92 とR 99 またはR 95 とR 99 とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【化4】
上記一般式(IV)において、R 100 、R 101 は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1~5の炭化水素基を示す。fは、1≦f≦18である。
【請求項2】
請求項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
前記環状オレフィン系共重合体(A)が、
前記一般式(II)で表される繰り返し単位(AA)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構造単位(D)を有し、
前記繰り返し単位(AA)が芳香環を含まず、
前記芳香環を有する環状オレフィンが、下記(D-1)式で表される化合物、下記(D-2)式で表される化合物、下記(D-3)式で表される化合物からなる群より選択される一種または二種以上を含む、環状オレフィン系樹脂組成物。
【化5】
上記(D-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2である。R~R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R10~R17の内1つは結合手である。また、q=0のとき、R10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。また、q=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【化6】
上記式(D-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。R18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。また、q=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【化7】
上記式(D-3)中、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。また、q=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。また、q=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。
【請求項3】
請求項1または2に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
示差走査熱量計で測定される、前記環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移温度が130℃以上170℃以下である、環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項5】
光学部材である、請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系共重合体は、例えば、撮像レンズ、fθレンズ、ピックアップレンズ等の光学レンズに用いられる。このような光学レンズ等の成形体に用いられる環状オレフィレン系共重合体は、透明性が高いこと、寸法安定性に優れること、耐熱性に優れること、耐湿性に優れること等の特性が要求される。
【0003】
このような環状オレフィレン系共重合体を含む樹脂組成物としては、例えば、特許文献1に記載の発明がある。特許文献1には、環状オレフィン系重合体(A)と、トリグリセリン脂肪酸エステルと、を含む環状オレフィン系樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、脂環構造含有重合体とポリグリセリン脂肪酸エステル系添加剤とを含有する樹脂組成物であって、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル系添加剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物の1種又は2種以上からなるものであり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル系添加剤の水酸基価が320~700mgKOH/gであり、前記ポリグリセリン脂肪酸エステル系添加剤の含有量が、脂環構造含有重合体100重量部に対して、0.2~2.0重量部であることを特徴とする樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-172665号公報
【文献】国際公開第2017/033968号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、環状オレフィレン系共重合体には、例えば、特許文献1で開示されているような、80℃90%RHなどの過酷な耐湿熱試験下での耐久性が求められている。環状オレフィレン系共重合体は、特許文献2に開示されている添加剤のような親水剤を含まないと、高温高湿下で、環状オレフィン系樹脂は微細なクラックが発生してしまい、内部ヘイズが上昇してしまう問題があった。一方で、親水剤の種類によっては、環状オレフィン系樹脂との相溶性が悪い問題もある。
【0007】
また、環状オレフィン系樹脂組成物を用いてレンズ等の成形体を成形する際、金型内部が汚染される問題があった。特に、金型のレンズ面が汚染されると、成形体であるレンズの光学特性が低下してしまう問題があった。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みなされたものであり、内部ヘイズが低く、かつ連続成形により金型内部の汚染を抑制することが可能な環状オレフィン系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、親水剤のガス化によって金型が汚染され、親水剤中に不純物として含まれる未反応のアルコールが金型を汚染することを見出した。上記発見に基づき、本発明者らはさらに検討を重ねた結果、ポリグリセリンを特定量含むことで、内部ヘイズが低く、高温高湿下でも内部ヘイズの上昇を抑制でき、かつ連続成形においても金型内部の汚染を抑制することが可能な環状オレフィレン系共重合体樹脂組成物が得られることを初めて見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す環状オレフィン系樹脂組成物および成形体が提供される。
【0011】
[1]
環状オレフィン系共重合体(A)と、
ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化合物(B)と、
ポリグリセリン(C)と、
を含む環状オレフィン系樹脂組成物であって、
上記化合物(B)の量が、上記環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、0.05質量部以上3質量部以下であり、
上記ポリグリセリン(C)の量が、上記環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、0.001質量部以上0.04質量部以下である、環状オレフィン系樹脂組成物。
[2]
上記[1]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
上記環状オレフィン系共重合体(A)が、構造単位(a)と構造単位(b)とを有する、環状オレフィン系樹脂組成物。
構造単位(a):下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の構造単位。
構造単位(b):下記一般式(II)で表される繰り返し単位(AA)と、下記一般式(III)で表される繰り返し単位(AB)と、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位(AC)とからなる群より選択される少なくとも1種の環状オレフィン由来の構造単位。
【化1】
上記一般式(I)において、R300は水素原子、または炭素数1~29の直鎖または分岐状の炭化水素基を示す。
【化2】
上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1である。R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成してもよい。
【化3】
上記一般式(III)において、xおよびdはそれぞれ独立に0または1以上の整数である。yおよびzはそれぞれ独立に0~2の整数である。R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基である。R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよい。また、y=z=0のとき、R92とR99またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【化4】
上記一般式(IV)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1~5の炭化水素基を示す。fは、1≦f≦18である。
[3]
上記[2]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
上記環状オレフィン系重合体(A)が、
上記一般式(II)で表される繰り返し単位(AA)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構造単位(D)を有し、
上記繰り返し単位(AA)が芳香環を含まず、
上記芳香環を有する環状オレフィンが、下記(D-1)式で表される化合物、下記(D-2)式で表される化合物、下記(D-3)式で表される化合物からなる群より選択される一種または二種以上を含む、環状オレフィン系樹脂組成物。
【化5】
上記(D-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2である。R~R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R10~R17の内1つは結合手である。また、q=0のとき、R10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。また、q=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【化6】
上記式(D-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。R18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。また、q=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【化7】
上記式(D-3)中、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。また、q=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。また、q=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
[4]
上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物であって、
示差走査熱量計で測定される、上記環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移温度が130℃以上170℃以下である、環状オレフィン系樹脂組成物。
[5]
上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物を含む、成形体。
[6]
光学部材である、上記[5]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の環状オレフィン系樹脂組成物であれば、従来の環状オレフィレン系共重合体よりも高い耐湿熱性を有する成形体を形成できる。このような成形体であれば、内部ヘイズが低く、かつ、耐湿熱試験前後での内部ヘイズの増加を抑制できる。また、連続成形による金型内部の汚染を抑制することができ、特に金型のレンズ面の汚れを抑制することができる。従って、主に光学用途やレンズに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に基づいて説明する。なお、実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は、特に断りがなければ、A以上B以下を示す。
【0014】
上述のように、本発明者らの知見によれば、従来の環状オレフィレン系共重合体や樹脂は、高温多湿環境下に長時間曝されると、内部ヘイズ等が生じる一方、親水剤の種類によっては環状オレフィン系樹脂との相溶性が悪い問題があった。また、環状オレフィン系樹脂組成物を用いてレンズ等の成形体を成形する際、金型内部が汚染される問題があった。
【0015】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、ポリグリセリンを特定量含む環状オレフィン系樹脂組成物から得られる成形体であれば、従来の環状オレフィン系樹脂組成から得られる成形体より高い耐湿熱性を有することと、連続成形により金型内部の汚染を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成は、以下である。
【0017】
<環状オレフィン系樹脂組成物>
本実施形態に係る環状オレフィレン系樹脂組成物は、
環状オレフィン系共重合体(A)と、
ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化合物(B)と、
ポリグリセリン(C)と、
を含む環状オレフィン系樹脂組成物であって、
上記化合物(B)の量が、上記環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、0.05質量部以上3質量部以下であり、
上記ポリグリセリン(C)の量が、上記環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、0.001質量部以上0.04質量部以下である。
【0018】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成であれば、連続成形により金型内部の汚染を抑制することができ、特に金型のレンズ面の汚れを抑制することができる。また、金型内部だけでなく、ベント汚れも抑制することもできる。
また、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成の成形体であれば、内部ヘイズが低くかつ、耐湿熱試験前後での内部ヘイズの増加を少なくすることができる。さらに、成形体は耐湿熱試験前後で透明性を維持できるため、透明性が要求される用途にも好適に用いることができる。
【0019】
[環状オレフィン系共重合体(A)]
本実施形態に係る環状オレフィレン系共重合体(A)は,環状オレフィンに由来する構造単位を必須構成単位とする共重合体である。
環状オレフィレン系共重合体(A)としては、例えば、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)が挙げられる。
【0020】
本実施形態に係る共重合体(A1)を構成する環状オレフィン化合物は、特に限定されないが、例えば、国際公開第2006/0118261号の段落0037~0063に記載の環状オレフィンモノマーを挙げることができる。
【0021】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(A1)は、得られる光学部品の透明性および屈折率の性能バランスを良好に保ちつつ耐熱性をさらに向上できたり、成形性を向上できたりする観点から、構造単位(a)と構造単位(b)とを有することが好ましい。
【0022】
構造単位(a):下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の構造単位。
【0023】
【化8】
【0024】
上記一般式(I)において、R300は水素原子、または炭素数1~29の直鎖または分岐状の炭化水素基を示す。
【0025】
構造単位(b):下記一般式(II)で表される繰り返し単位(AA)と、下記一般式(III)で表される繰り返し単位(AB)と、下記一般式(IV)で表される繰り返し単位(AC)とからなる群より選択される少なくとも1種の環状オレフィン由来の構造単位。
【0026】
【化9】
【0027】
上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1である。R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成してもよい。
【0028】
【化10】
【0029】
上記一般式(III)において、xおよびdはそれぞれ独立に0または1以上の整数である。yおよびzはそれぞれ独立に0~2の整数である。R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基である。R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよい。また、y=z=0のとき、R92とR99またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0030】
【化11】
【0031】
上記一般式(IV)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素数1~5の炭化水素基を示す。fは、1≦f≦18である。
【0032】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合原料の一つであるオレフィンモノマーは、付加重合して上記一般式(I)で表される構成単位を形成するものである。具体的には、上記一般式(I)に対応する下記一般式(Ia)で表されたオレフィンモノマーが用いられる。
【0033】
【化12】
【0034】
上記一般式(Ia)において、R300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖または分岐状の炭化水素基を示す。
上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。より優れた耐熱性、機械的特性および光学特性を有する光学部品を得る観点から、これらの中でも、エチレンとプロピレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーは、2種類以上を用いても良い。
【0035】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、オレフィン由来の構造単位(a)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは20モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上80モル%以下、特に好ましくは50モル%以上70モル%以下である。
なお、オレフィン由来の構造単位(a)の割合は、13C-NMRによって測定することができる。
【0036】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合原料の1つである環状オレフィンモノマーは、付加重合して上記一般式(II)、上記一般式(III)または上記一般式(IV)で表される環状オレフィン由来の構造単位(b)を形成するものである。具体的には、上記一般式(II)、上記一般式(III)、および上記一般式(IV)にそれぞれ対応する、一般式(IIa)、(IIIa)、および(IVa)で表される環状オレフィンモノマーが用いられる。
【0037】
【化13】
【0038】
上記一般式(IIa)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R61~R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78は、互いに結合して単環または多環を形成してもよい。
【0039】
【化14】
【0040】
上記一般式(IIIa)において、xおよびdはそれぞれ独立に0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzはそれぞれ独立に0、1または2であり、R81~R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R92とR99またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0041】
【化15】
【0042】
上記一般式(IVa)において、R100、R101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0043】
共重合成分として、上述した一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマーを用いることにより、環状オレフィレン系共重合体(A)の溶媒への溶解性がより向上することにより、成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。
【0044】
一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマーの具体例については、国際公開第2006/0118261号の段落0037~0063に記載の化合物を用いることができる。
【0045】
具体的には、ビシクロ-2-ヘプテン誘導体(ビシクロヘプト-2-エン誘導体)、トリシクロ-3-デセン誘導体、トリシクロ-3-ウンデセン誘導体、テトラシクロ-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ-3-ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ-4-ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-4-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ-5-ドコセン誘導体、ノナシクロ-5-ペンタコセン誘導体、ノナシクロ-6-ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3~20のシクロアルキレン誘導体が挙げられる。
【0046】
一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)の中でも、一般式(IIa)で表される環状オレフィンが好ましい。
【0047】
上記一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマーとして、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネンとも呼ぶ。)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)を用いることが好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを用いることがより好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため共重合体および光学部品の弾性率が保持され易くなる利点がある。
【0048】
本実施形態に係る共重合体(A1)を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、環状オレフィンモノマー由来の構造単位(b)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上60モル%以下、特に好ましくは30モル%以上50モル%以下である。
【0049】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れ、高精度の光学部品を得ることができることから、本実施形態に係る共重合体(A1)としては、ランダム共重合体を用いることが好ましい。
【0050】
本実施形態に係る共重合体(A1)としては、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体およびエチレンとビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンとのランダム共重合体であることが好ましく、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体がより好ましい。
【0051】
本実施形態に係る共重合体(A1)は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本実施形態に係る共重合体(A1)は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0053】
本実施形態において、上記環状オレフィン系共重合体(A)が、上記一般式(II)で表される繰り返し単位(AA)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構造単位(D)を有し、上記繰り返し単位(AA)が芳香環を含まず、上記芳香環を有する環状オレフィンが、下記(D-1)式で表される化合物、下記(D-2)式で表される化合物、下記(D-3)式で表される化合物からなる群より選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
【0054】
【化16】
【0055】
上記(D-1)中、nおよびqはそれぞれ独立に0、1または2である。R~R17はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、R10~R17の内1つは結合手である。また、q=0のとき、R10とR11、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。また、q=1または2のときR10とR11、R11とR17、R17とR17、R17とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R15とR16、R16とR16、R16とR10は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、また上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0056】
【化17】
【0057】
上記式(D-2)中、nおよびmはそれぞれ独立に0、1または2であり、qは1、2または3である。R18~R31はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。また、q=1のときR28とR29、R29とR30、R30とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。またq=2または3のときR28とR28、R28とR29、R29とR30、R30とR31、R31とR31は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0058】
【化18】
【0059】
上記式(D-3)中、qは1、2または3であり、R32~R39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。また、q=1のときR36とR37、R37とR38、R38とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。また、q=2または3のときR36とR36、R36とR37、R37とR38、R38とR39、R39とR39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0060】
また、(D-1)~(D-3)の炭素原子数1~20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、および芳香環炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0061】
このような環状オレフィン系共重合体(A)であれば、耐湿熱試験前後でのヘイズの発生をより抑制することができる。また、連続成形による金型内部の汚染をより抑制することができる。
【0062】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(A)の全構造単位を100モル%としたときの、一般式(II)で表される繰り返し単位(AA)および芳香環を有する環状オレフィンから導かれる構造単位(D)の合計含有量は、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上80モル%以下、さらにより好ましくは30モル%以上80モル%以下、より一層好ましくは40モル%以上78モル%以下である。
本実施形態において、繰り返し単位(AA)および構造単位(D)の含有量は、例えば、H-NMRまたは13C-NMRによって測定することができる。
【0063】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(A)の含有量は、樹脂組成物中、好ましくは80質量%以上99質量%以下、より好ましくは90質量%以上99質量%以下、さらに好ましくは95質量%以上99質量%以下である。
【0064】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、130℃以上170℃以下の範囲にあることが好ましい。環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が上記範囲であると、車載カメラレンズや携帯機器用カメラレンズ等の耐熱性が求められる光学部品として使用する際に、十分な耐熱性を得ることができるとともに、良好な成形性を得ることができる。
【0065】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定計(DSC)を用いて測定することができる。例えば、SIIナノテクノロジー社製RDC220を用いて、窒素雰囲気下で常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に、5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に、5分保持し、次いで10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際にガラス転移温度を測定することができる。
【0066】
[ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化合物(B)]
本実施形態に係るエステル化合物(B)は、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化合物であって、2量体以上のポリグリセリンと、炭素原子数8以上24以下の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルである。上記エステル化合物(B)は、好ましくは3量体であるトリグリセリンと、炭素原子数8以上24以下の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルである。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物が、エステル化合物(B)を含むことによって、高温高湿下においても、環状オレフィン系樹脂は微細なクラックの発生を抑制することができ、内部ヘイズの上昇を抑制できる。
【0067】
このようなポリグリセリンと飽和または不飽和脂肪酸とのエステルの例としては、例えば、トリグリセリンオレイン酸エステルやテトラグリセリンオレイン酸エステル、ポリグリセリンオレート等が例示できる。
【0068】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物の上記エステル化合物(B)の含有量は、環状オレフィレン系共重合体(A)100質量部に対して、一般的には0.05質量部以上3質量部以下、好ましくは0.5質量部以上2質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以上1.5質量部以下である。
エステル化合物(B)の含有量が、上記下限値以上であれば、耐湿熱試験前後での内部ヘイズの変化量を抑えることができる。また、上記上限値以下であれば、耐湿熱試験前の内部ヘイズを抑制することができる。
【0069】
[ポリグリセリン(C)]
本実施形態に係る環状オレフィレン系樹脂組成物は、ポリグリセリン(C)を特定量含む。これにより、親水剤に不純物として含まれるアルコールのガス化による、連続成形における金型汚染を抑制することが可能となる。
【0070】
上記ポリグリセリン(C)は、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等を例示できるが、これらに限定するものではない。また、ポリグリセリンは1種類を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
上記ポリグリセリン(C)の含有量は、上記環状オレフィン系共重合体(A)100質量部に対して、0.001質量部以上0.04質量部以下であり、好ましくは0.001質量部以上0.03質量部以下、さらに好ましくは0.01質量部以上0.015質量部以下である。
ポリグリセリン(C)が上記範囲内であれば、従来の耐湿熱試験よりシビアな耐湿熱試験(例えば、85℃95%RH1008時間等)前後であっても、内部ヘイズの変化量を少なくすることができる。また、成形体の連続成形時において、金型内部の汚染を抑制できる。
【0072】
上記ポリグリセリン(C)の含有量の調整は、例えば、環状オレフィン系樹脂組成物を調製する際に添加し調整する方法が例示できる。他の態様としては、親水剤調製時に、エステル化合物(B)に対して未反応となる量のポリグリセリンを添加することで、含有量を調整する方法も例示できる。本実施形態に係るポリグリセリン(C)の含有量が、上記範囲内であれば、含有量の調整方法は特に限定されない。
【0073】
(その他の成分)
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂は、必要に応じて、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、金属不活性剤、塩酸吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、天然油、合成油、ワックス、有機または無機の充填剤等を、本実施形態の目的を損なわない範囲で配合することができ、その配合割合は適宜量である。
【0074】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、好ましくは成形体とすることができる。環状オレフィン系樹脂組成物を成形して、成形体を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃、より好ましくは230℃~330℃の範囲で適宜選択される。
【0075】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、例えば、環状オレフィン系共重合体(A)および必要に応じて添加されるその他の成分を、押出機およびバンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いて溶融混練する方法;環状オレフィン系共重合体(A)および必要に応じて添加されるその他の成分を共通の溶媒に溶解した後、溶媒を蒸発させる方法;貧溶媒中に環状オレフィン系共重合体(A)および必要に応じて添加されるその他の成分の溶液を加えて析出させる方法;等の方法により得ることができる。
【0076】
次いで、得られた成形体を、例えば、(環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)-40)℃~(環状オレフィン系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)-5)℃の範囲で、2~8時間アニール処理をすることにより、光学部材を得ることができる。上記アニール処理をすることにより、成形体中の環状オレフィン系共重合体(A)の分子が緩和し、自由体積が減少する。そのため加熱処理しても比重の変化(体積の変化)が起きにくくなる。
ここで、アニール処理の条件を厳しくすると、成形体が変形してしまい、戻らなくなってしまうため、上記の条件で、かつ、成形体が変形しない範囲で行うことが好ましい。すなわち、成形体の変形が起きないような温度および時間でアニール処理を行うことが好ましい。
【0077】
以上のようにして得られた光学部材は、耐湿熱性に優れる。そのため、耐湿熱試験前後での内部ヘイズの増加を抑制することができ、主に光学用途やレンズに好適に用いることができる。また、耐湿熱試験前後で透明性を維持できるため、透明性が要求される用途にも好適に用いることができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例
【0079】
以下、本実施形態を、実施例等を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0080】
(例1)
<環状オレフィン系共重合体(A)の重合>
(触媒の調製)
VO(OC)Clをシクロヘキサンで希釈し、バナジウム濃度が6.7mmol/Lであるバナジウム触媒のシクロヘキサン溶液を調製した。エチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C1.5Cl1.5)をシクロヘキサンで希釈し、アルミニウム濃度が107mmol/Lである有機アルミニウム化合物触媒のシクロヘキサン溶液を調製した。
【0081】
(重合)
攪拌式重合器(内径500mm、反応容積100L)を用いて、連続的にエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合反応を行った。重合溶媒としてシクロヘキサンを使用した。この共重合反応を行う際は、上記方法によって調製されたバナジウム触媒のシクロヘキサン溶液を、重合器内のシクロヘキサンに対するバナジウム触媒濃度が0.6mmol/Lになるように、重合器内に供給した。
【0082】
また、有機アルミニウム化合物であるエチルアルミニウムセスキクロリドを、アルミニウムとバナジウムの質量比(Al/V)が18.0になるように重合器内に供給した。重合温度を8℃とし、重合圧力を1.8kg/cmGとして連続的に共重合反応を行い、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体(エチレン・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン共重合体)を得た。
【0083】
(脱灰)
重合器より抜出した、エチレン・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン共重合体溶液に、水およびpH調節剤として、濃度25質量%のNaOH溶液を添加し、重合反応を停止させた。また、エチレン・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン共重合体中に存在する触媒残渣を除去(脱灰)し、ポリマー溶液Aを得た。
上記脱灰処理を行った、エチレン・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン共重合体のシクロヘキサン溶液(ポリマー溶液A、ポリマー濃度7.7質量%)に安定剤として、ペンタエリスリチル‐テトラキス[3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を、上記共重合体100質量部に対して0.4質量部となるように添加した後、一旦、有効容量1.0cmの撹拌槽を用いて1時間混合した。
【0084】
(脱溶媒)
熱源として20kg/cmGの水蒸気を用いた二重管式加熱器(外管径2B、内管径3/4B、長さ21m)に、濃度を5質量%とした上記共重合体のシクロヘキサン溶液を150kg/Hの量で供給して、180℃に加熱した。
熱源として25kg/cmGの水蒸気を用いた二重管式フラッシュ乾燥器(外管径2B、内管径3/4B、長さ27m)とフラッシュホッパー(容積200L)とを用いて、上記加熱工程を経た上記共重合体のシクロヘキサン溶液から重合溶媒であるシクロヘキサンとともに大半の未反応モノマーを除去することでフラッシュ乾燥された溶融状態の環状オレフィンランダム共重合体(環状オレフィン系共重合体(A-1))を得た。示差走査熱量計で測定した、環状オレフィン系共重合体(A-1)のガラス転移温度(Tg)は161℃であった。
【0085】
<ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化合物(B)>
ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化合物である(B)は、トリグリセリンオレートを用いた。
【0086】
<ポリグリセリン(C)>
・ポリグリセリン(C-1):トリグリセリンとテトラグリセリンとの混合物。
トリグリセリン:テトラグリセリン=6:1
・ポリグリセリン(C-2):ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンとの混合物。
ジグリセリン:トリグリセリン:テトラグリセリン=5:60:9
【0087】
(押出)
ベント付二軸混練押出機を用い、上記の溶融状態の環状オレフィン系共重合体(A-1)を押出機の樹脂装入部より装入した後、揮発物を除去する目的でベント部分からトラップを介し真空ポンプで吸引しつつ、ベント部よりも下流側のシリンダー部に、トリグリセリンオレートを、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して0.90質量部、ポリグリセリン(C-1)を環状オレフィン系共重合体(A-1)に対して0.0072質量部添加し、押出機のベント部より下流側で混錬した。この時、押出機ダイバーダー部で樹脂温度の最大値と最小値の差が3℃以内になるように押出機の条件を調整した。
次いで、押出機出口に取り付けられたアンダーウォーターペレタイザーにより混錬物をペレット化し、得られたペレットを温度100℃の熱風にて4時間乾燥した。
さらに重合器内の平均滞留時間から計算される樹脂量の3~5倍程度の樹脂を洗浄のために流し、その後サンプルを採取する操作を行うことによって、環状オレフィン系共重合体(A-1)を含む樹脂組成物を得た。鉄原子(Fe)の混入を抑えるため、ポリマー製造設備にはステンレス製の配管や重合装置を用いた。
【0088】
(例2)
トリグリセリンオレートの添加量を、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して0.80質量部、ポリグリセリン(C-1)の添加量を、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して0.0064質量部としたこと以外は例1と同様にして、樹脂組成物を製造した。
【0089】
(例3)
トリグリセリンオレートの添加量を、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して1.5質量部、ポリグリセリン(C-1)の添加量を、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して0.012質量部としたこと以外は例1と同様にして、樹脂組成物を製造した。
【0090】
(例4)
環状オレフィン系共重合体(A)としてTOPAS(登録商標)COC 5013L-10(ポリプラスチックス社製、ノルボルネンとエチレンとの付加共重合体、以下環状オレフィン系共重合体(A-2)と呼ぶ)を二軸押出機(日本製鋼所社製:TEX44SS-30BW-3V)に投入した。さらに、環状オレフィン系共重合体(A-2)100質量部に対して、0.90質量部のトリグリセリンオレート、0.0072質量部のポリグリセリン(C-1)をそれぞれ添加し、溶融混錬し、ペレット化させ、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0091】
(例5)
トリグリセリンオレートの添加量を、環状オレフィン系共重合体(A-2)100質量部に対して1.5質量部、ポリグリセリン(C-1)の添加量を、環状オレフィン系共重合体(A-2)100質量部に対して0.012質量部としたこと以外は例4と同様にして、樹脂組成物を製造した。
【0092】
(例6)
トリグリセリンオレートの添加量を、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して0.85質量部としたこと、ポリグリセリン(C)としてポリグリセリン(C-1)の代わりにポリグリセリン(C-2)を用い、その添加量を環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して0.063質量部としたこと以外は例1と同様にして、樹脂組成物を製造した。
【0093】
(例7)
トリグリセリンオレートの添加量を、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して4.0質量部、ポリグリセリン(C-1)の添加量を、環状オレフィン系共重合体(A-1)100質量部に対して0.032質量部としたこと以外は例1と同様にして、樹脂組成物を製造した。
【0094】
<評価>
[内部ヘイズ]
射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度275℃、金型温度120℃で、得られた樹脂組成物を射出成形し、光学面を持つ35mm×65mm×厚み3mmtのテストピースを成形した。
テストピースの内部ヘイズはベンジルアルコールを使用し、JIS K-7105に基づいて測定した。
【0095】
[耐湿熱試験]
内部ヘイズ測定で作製したテストピースを、温度85℃、相対湿度95%の雰囲気下に1008時間放置した。その後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気に取り出して48時間後に内部ヘイズを測定した。
耐湿熱試験後の内部ヘイズから耐湿熱試験前の内部ヘイズを差し引いた変化量(以下、Δ内部ヘイズ)を測定した。
【0096】
[金型レンズ面汚れ]
レンズ部分の直径が6.0mm、レンズ部分の厚みが0.5mmの平板レンズを形成する金型と射出成型機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いてシリンダー温度285℃、金型温度は105℃の条件で、得られた樹脂組成物を射出成型し、合計4500ショット成形した。900ショット毎に金型のレンズ面の汚れをデジタルマイクロスコープVHX-5000(キーエンス社製)で観察した。
レンズ面汚れが観察されたショット数を表1に記載した。4500ショットでも発生しなかった場合は「無し」とした。
【0097】
例1~7の結果を表1に示す。「-」は評価未実施を意味する。
【0098】
【表1】
【0099】
ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化合物(B)と、ポリグリセリン(C)を特定量含む例1~5では、内部ヘイズが低く、かつ、耐湿熱試験前後での内部ヘイズの発生を抑制できた。また、連続成形により金型内部の汚染を抑制することができ、特に金型のレンズ面の汚れを抑制することができた。
【0100】
一方、ポリグリセリンを特定量以上含む例6では、金型レンズ面汚れを抑制することができず、900ショットで面汚れが発生してしまった。例7に関してはペレットが白濁してしまったため、金型レンズ面汚れを評価しなかった。
【0101】
この出願は、2021年2月8日に出願された日本出願特願2021-018162号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。