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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20240625BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H05K1/02 B
H05K1/09 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023204790
(22)【出願日】2023-12-04
【審査請求日】2023-12-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000130606
【氏名又は名称】株式会社サトーセン
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】清水 良太
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-114804(JP,A)
【文献】特開2023-124799(JP,A)
【文献】特開平10-294535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性および/または屈曲性を有する下地部材と、
前記下地部材上に所定パターンをなすように形成された、液体金属を含む導電層と、
前記導電層上に積層されたコーティング層と
を備え
前記コーティング層の両縁は前記導電層の両縁の幅を超えることなく、
前記導電層の両縁には前記導電層を所定のパターンに固定するための壁や溝を有さず空間が設けられるように構成されている、回路基板。
【請求項2】
伸縮性および/または屈曲性を有する下地部材と、
前記下地部材の平面上に所定パターンをなすように形成された、液体金属を含む導電層と、
前記導電層上に積層されたコーティング層と
を備え、
前記導電層は、前記液体金属とは異なる、導電性を有するベース材を有し、
前記液体金属は前記ベース材上に積層されている、回路基板。
【請求項3】
前記ベース材と前記液体金属とは金属結合されている、請求項2に記載の回路基板。
【請求項4】
伸縮性および/または屈曲性を有する下地部材と、
前記下地部材の平面上に所定パターンをなすように形成された、液体金属を含む導電層と、
前記導電層上に積層されたコーティング層と
を備え、
前記液体金属が前記下地部材上に直接積層されており、
前記液体金属の配線幅方向の両側には、前記液体金属とは異なる、導電性を有するベー
ス材が配置されている、回路基板。
【請求項5】
前記コーティング層は、絶縁性を有し、乾燥により固化する樹脂材料の塗布またはフィ
ルム状体の貼り付けにより形成される、請求項1、2または4のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項6】
前記下地部材上に形成された、外部機器との接続のための配線端子と、
前記下地部材上に形成された、人体の皮膚に接触する電極パッドと
を備え、
前記導電層の一端は前記配線端子に接続され、前記導電層の他端は前記電極パッドに接
続されている、請求項1、2または4のいずれか一項に記載の回路基板。
【請求項7】
前記回路基板を約20%伸縮させる試験を500サイクル~1000サイクル行った後
の前記導電層の抵抗値が約20Ω以下である、請求項1、2または4のいずれか一項に記載の回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板に関し、特に、伸縮性、屈曲性などを有するフレキシブルな回路基板に用いられる配線構造であって液体金属を含む構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生体信号を検出するウェアラブルデバイス、ロボットの可動部に用いられるデバイスといった、伸縮性あるいは屈曲性のあるフレキシブルデバイスの開発が盛んになってきている。
【0003】
このようなデバイスでは、デバイスの伸縮時あるいは屈曲時に断線しないように高い伸縮性あるいは屈曲性を有する導電材料が求められており、例えば、導電性ポリマーといった有機導電材が知られているが、配線材料として用いるには抵抗が高い。
【0004】
そこで、伸縮性のある低抵抗な配線材料が求められ、現在のところ、金属粒子とポリマーを複合した伸縮導電材として金属ペーストが有力である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-183207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、金属ペーストなどの伸縮性導電材では、伸縮、屈曲などの変形の頻度が大きくなるにつれて抵抗値が加速的に増大するため長期間安定した精度および機能を維持することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、従来の液体金属を有さない伸縮性導電材を用いた回路基板に比べて、長期間の使用による繰り返し伸縮および/または屈曲に対しても安定した電気特性を維持することができる回路基板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の項目を提供する。
【0009】
(項目1)
伸縮性および/または屈曲性を有する下地部材と、
前記下地部材上に所定パターンをなすように形成された、液体金属を含む導電層と、
前記導電層上に積層されたコーティング層と
を備えた、回路基板。
【0010】
(項目2)
前記導電層の周囲には空間を有するように構成されている、項目1に記載の回路基板。
【0011】
(項目3)
前記液体金属が前記下地部材上に直接積層されている、項目1に記載の回路基板。
【0012】
(項目4)
前記導電層は、前記液体金属とは異なる、導電性を有するベース材を有し、
前記液体金属は前記ベース材上に積層されている、項目1に記載の回路基板。
【0013】
(項目5)
前記液体金属の配線幅方向の両側には、前記液体金属とは異なる、導電性を有するベース材が配置されている、項目3に記載の回路基板。
【0014】
(項目6)
前記ベース材と前記液体金属とは金属結合されている、項目1に記載の回路基板。
【0015】
(項目7)
前記コーティング層は、絶縁性を有し、乾燥により固化する樹脂材料の塗布またはフィルム状体の貼り付けにより形成される、項目1に記載の回路基板。
【0016】
(項目8)
前記下地部材上に形成された、外部機器との接続のための配線端子と、
前記下地部材上に形成された、人体の皮膚に接触する電極パッドと
を備え、
前記導電層の一端は前記配線端子に接続され、前記導電層の他端は前記電極パッドに接続されている、項目1に記載の回路基板。
【0017】
(項目9)
前記回路基板を約20%伸縮させる試験を500サイクル~1000サイクル行った後の前記導電層の抵抗値が約20Ω以下である、項目1に記載の回路基板。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来の液体金属を有さない伸縮性導電材を用いた回路基板に比べて、長期間の使用による繰り返し伸縮および/または屈曲に対しても安定した電気特性を維持することができる回路基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態1による回路基板1を説明するための図。
図2】本発明の実施形態2による回路基板2を示す図。
図3図2に示す実施形態2の回路基板の変形例を示す図。
図4】本発明の回路基板の繰り返し伸縮試験の試験サンプルを示す図。
図5】実施形態1に示す回路基板の繰り返し伸縮試験を行った際の配線の抵抗値の変化を示す図。
図6】実施形態2に示す回路基板の変形例の繰り返し伸縮試験を行った際の配線の抵抗値の変化を示す図。
図7】本発明の回路基板の応用例を説明するための図であり、回路基板を肌に直接貼り付けする場合、およびウェアラブルデバイスを構成する回路基板として用いる場合を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0021】
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0022】
本発明は、従来の伸縮性導電材を用いたものに比べて、長期間の使用による繰り返し伸縮および/または屈曲に対しても安定した電気特性を維持することができる回路基板を得ることを課題とし、
伸縮性および/または屈曲性を有する下地部材と、
下地部材上に所定パターンをなすように形成された、液体金属を含む導電層と、
導電層上に積層されたコーティング層と
を備えた、回路基板を提供することにより、上記の課題を解決したものである。
【0023】
従って、本発明の回路基板は、伸縮性、屈曲性などを有する下地部材上に形成されてコーティング層に覆われた導電層が液体金属を含ものであれば、特に限定されるものではない。ここで、回路とは電気の流れる道筋である。
【0024】
そして、回路基板とは、液体金属を含む所定パターンの導電層を下地部材上に形成して導電層をコーティング層で被覆したものであり、その他の構成は限定されるものではない。
【0025】
(下地部材)
下地部材としては、伸縮性および/または屈曲性を有する素材であれば任意の素材であり得る。例えば、布であってもよいし、ポリウレタン、紙、ゴム、布、あるいはシリコーンなどであってもよい。特に、回路基板を直接肌に貼り付ける回路基板として用いる場合は、下地部材はポリウレタンあるいはシリコーンが好ましく、回路基板をウェアラブル製品とした回路基板に用いる場合には布が好ましい。
【0026】
(液体金属の材料)
液体金属とは室温付近で液体状になる金属あるいは合金であり、液体金属の材料としては、特定の材料に限定されるものではないが、例えば、水銀あるいはガリウムであり、またはガリウムと他の金属との合金である、ガリウムとインジウムの合金、ガリウムとインジウムと錫の合金、あるいはガリウムとインジウムと亜鉛の合金などが用いられる。液体金属は室温付近において流動性を有する金属であるため、連続的な伸縮あるいは屈曲に対しても抵抗が低く保つことが可能であり、断線の抑制が可能である。
【0027】
また、液体金属の層の厚さは、任意であり得るが、漏洩を防止するために約2μm~約50μm程度の厚さが好ましい。
【0028】
(ベース材)
ベース材は、上記導電層に含まれるものであり、下地部材に対して所定のパターンで液体金属を配置する際のベースとなるものである。下地部材上のベース材の上に液体金属を積層させてもよいし、下地部材上で2つのベース材間を挟む形でその間に液体金属を配置させるものであってもよい。
【0029】
ベース材としては、特定の材料に限定されるものではないが、液体金属との親和性(金属結合の容易性)が高いものが好ましい。例えば、銀、銅、カーボンであってもよい。しかし、本発明はこれに限定されない。またベース材は接着剤などを含むペースト状が好ましいが、本発明はこれに限定されない。
【0030】
例えば、ベース材として銀ペーストと、液体金属としてのガリウムインジウムとの金属結合は、ベース材と液体金属との親和性が高いものとして期待される。
【0031】
(コーティング層)
コーティング層の材料としては、絶縁性を有するものであれば特定の材料に限定されるものではない。例えば、乾燥により固化する樹脂材料、あるいはフィルム状に形成された樹脂材料が用いられる。また、コーティング層は、例えば、伸縮性のある絶縁インクであってもよい。コーティング層の具体的な材料および形成方法は、メーカの製造設備に適したものが採用されるのが一般的である。
【0032】
なお、コーティング層の形成方法は、印刷だけでなく、スプレーディスペンサー、ジェット方式が利用可能であり、さらには、ベース材および液体金属の層の形成にもこれらの方法が適用可能である。
【0033】
本件発明の導電層に含まれる液体金属は、下地部材上に直接積層されていてよいし、あるいは、その土台となるベース材を介して積層されていてもよい。液体金属が下地部材上にベース材を介して積層された導電層の構造では、ベース材と液体金属とは金属結合の効果により液体金属はベース材上から漏洩することなく所定のパターンに保持される。
【0034】
なお、液体金属が下地部材上に直に積層された導電層の構造では、液体金属の層を薄膜とすることにより、所定のパターンから漏洩することを防止することが可能となる。
【0035】
上記の構成を備えることにより、導電層の周囲に空間を設けることが可能となるため、液体金属を所定のパターンに固定するための溝や側壁などを設ける必要がなくなり、構造を簡単にすることや、特に工数を削減するが可能となる。その結果、回路基板を安価に製造することも可能となる。
【0036】
なお、液体金属が下地部材上に直に積層された導電層の構造では、下地部材上に配置された液体金属の層の配線幅方向に壁を形成するベース材を設けてもよい。壁を設けることにより液体金属の所定パターンからの漏洩を確実に防止することが可能となる。
【0037】
本発明の導電層に液体金属を含む回路基板においては、繰り返し伸縮した場合であっても、配線の抵抗値が安定しており長期的に精度および機能を保持することが可能となる。
【0038】
さらに、回路基板は、1つの実施形態では、下地部材上に形成された、外部機器との接続のための配線端子と、下地部材に形成された、人体の皮膚に接触する電極パッドとを備え、導電層の一端は配線端子に接続され、導電層の他端は電極パッドに接続されている。
【0039】
このように本発明の回路基板は、伸縮性、屈曲性などを有する下地部材上に形成されてコーティング層に覆われた導電層が液体金属を含ものであれば、特に限定されるものではないが、以下の実施形態1では、導電層は、液体金属とその土台となるベース材とを有し、液体金属は、下地部材上にベース材を介して積層されているものを回路基板として挙げ、実施形態2では、液体金属が下地部材上に直に積層されている回路基板を挙げ、その変形例では、実施形態2の回路基板において液体金属の両側にベース材を壁として配置したものを挙げる。
【0040】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0041】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による回路基板1を示す図であり、導電層に含まれる液体金属がその土台となるベース材を介して回路基板上に配置されている場合を示している。
【0042】
この実施形態1の回路基板1は、伸縮性および屈曲性を有する下地部材101と、下地部材101上に所定パターンをなすように形成された、液体金属を含む導電層110と、導電層110上に積層された絶縁性のコーティング層120とを備えている。なお、図1では、コーティング層120を透視して、導電層110を構成するベース材110bおよび液体金属110aを示している。
【0043】
導電層110は、下地部材101に形成された銀ペーストからなるベース材110b上に合金(ここではガリウムインジウム)からなる液体金属110aを積層した構造となっている。ベース材110bの銀ベースと液体金属110aである水銀とは金属結合状態を奏する。なお、ここで液体金属110aは、合金ではなく単一の金属元素からなる金属(例えば、水銀)でもよい。
【0044】
そして、導電層110は、その上面および/または両側面は伸縮性のある絶縁インクからなるコーティング層120により被覆されており、導電層110とコーティング層120とにより配線10が形成されており、配線10の両端部は、電極パッドあるいは配線端子に接続されている(図7参照)。
【0045】
液体金属110aの層の厚みは、流動性の高い液体金属110aがベース材110b上でより確実に保持されるように薄くしており、例えば、その厚さは約2μm~約50μmの範囲内の厚さとしている。液体金属110aの層が上記範囲よりも薄すぎると、配線10を構成する導電層110の抵抗が増大し、液体金属110aが上記範囲よりも厚すぎると、漏洩する恐れが発生する。
【0046】
このような回路基板1は、その表面のうちの導電層110を形成したい領域に所定パターンの金属ペースト層を形成し、その上に液体金属110aを積層(配置)し、その後、伸縮性のある絶縁インクなどのコーティング層120を形成することで作製される。
【0047】
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2による回路基板を説明するための図であり、導電層を構成する液体金属が回路基板上に直に配置されている場合を示す。なお、図2においても、コーティング層220を透視して、導電層210aを構成する液体金属を示している。
【0048】
この実施形態2の回路基板2は、下地部材101と、下地部材101上に所定パターンをなすように形成された導電層210aと、導電層210a上に積層された絶縁性のコーティング層220とを備えている。ここで、導電層210aは、下地部材101上に直に液体金属を積層してなる構造となっている。
【0049】
そして、液体金属からなる導電層210aは、その上面および両側面はコーティング層220により被覆されており、導電層210aとコーティング層220とにより配線20が形成されており、配線20の両端部は、電極パッドおよび配線端子に接続されている(図7参照)。
【0050】
ここで、下地部材101、導電層210aを構成する液体金属、コーティング層220としては、実施形態1で示したものと同一の材料が用いられる。
【0051】
なお、液体金属が下地部材101上に直に積層された導電層210aの構造では、下地部材上に配置された液体金属の層の配線幅方向の両側に壁となるベース材を配置するのが好ましい。なぜなら、液体金属の層の両側に壁として位置するベース材により、液体金属の漏洩が抑制されるからである。
【0052】
(実施形態2の変形例)
図3は、図2に示す回路基板の変形例を説明するための図である。なお、図3においても、コーティング層220を透視して、導電層210を構成する液体金属210aおよびベース材210bを示している。
【0053】
この変形例の回路基板2aでは、実施形態2の回路基板2において、導電層を形成する液体金属210aの両側に壁となるベース材210bが配置されている。ここでは、液体金属210aとその両側のベース材210bとが導電層210を形成し、導電層210とコーティング層220とにより配線20aが形成されている。なお、ベース材210bには実施形態1のベース材110bと同一の材料が用いられる。
【0054】
この変形例による回路基板2aでは、実施形態2の回路基板2に比べて、液体金属210aの層の両側に壁として位置するベース材210bにより液体金属の漏洩がより抑制される。
【0055】
(本発明の回路基板の性能試験)
試験サンプルは図4に示すものであり、ここでは、導電層を構成するベース材の厚さは約25μmである。ここで導電層はドット表示で示している。
【0056】
なお、導電層を構成するガリウムとインジウムの合金である液体金属の厚みを3種類(約2μm、約25μm、約50μm)と変化させたものを用意し、導電層の抵抗値の試験を行った。試験条件は、回路基板を定常状態(伸縮なし)から回路基板の全体の長さの約20%の長さ分(図4における長さ85mmに対する20%、すなわち約17mm)を伸長させるステップと、伸長させた後に元の定常状態の長さに縮小させるステップとの伸縮工程を1サイクルとし、複数設定された所定サイクル行った後にそれぞれ電気抵抗値を測定するものである。また、参考例として、従来技術の回路基板として、導電層に液体金属を用いずに銀ペーストからなる導電層である場合の試験も行っている。
【0057】
図5は、実施形態1に示す回路基板の連続伸縮試験の試験結果を示す図である。また、図6は、実施形態2の変形例に示す回路基板の連続伸縮試験の試験結果を示す図である。
【0058】
図5、6ともに、縦軸は測定した電気抵抗値であり、横軸は連続伸縮のサイクル数である。図5、6に示されているように、いずれの厚さの場合も、サイクル数の増大とともに抵抗値が増加する傾向にあるが、参考例で示す従来技術の場合に比べて、サイクル数の増大に対する抵抗値の増大が低く抑えられている。
【0059】
具体的には、従来技術の場合には、試験前の抵抗値が約5Ω以下であり、350サイクル後までは抵抗値10Ω~20Ω内に収まっているが、それ以降になると抵抗値が急激に増大し、500サイクル後には抵抗値約40Ωを超えている。それに対して本発明の回路基板では、サイクル数の増大に対しても抵抗値の増大率は低く1000サイクル後であっても、約20Ω以下という低い値を維持している。特に、液体金属の厚みを約25~約50μmにおいては1000サイクル後であっても約10Ω以下であり、試験前の抵抗値をほとんど変化なく安定して電気特性を維持していることがわかった。
【0060】
また、別の観点からいうと、従来の回路基板においては、500サイクル~1000サイクルの間で抵抗値が試験前に比べて約10倍を超えるのに対して、本件発明の回路基板においては、500サイクル~1000サイクルにおいて、抵抗値が試験前に比べて約3倍以下に抑えられている。
【0061】
また、実施形態2の変形例の回路基板である、液体金属210aが下地部材101上に直接積層され、かつ、液体金属210aの両側に壁としてベース材210bが配置されている回路基板2aでは、液体金属110aが下地部材101上にベース材110bを介して積層されている実施形態1の回路基板1に比べて、液体金属の厚さが約50μmおよび約2μmである場合には抵抗値の増大の実質的な違いはないが、液体金属の厚さが約25μmである場合には、サイクル数にかかわらず抵抗値は低い値を維持している。
【0062】
これらの結果から、本発明の回路基板では、長期間の使用に繰り返し伸縮および/または屈曲に対しても電気特性の安定化が図れるという、従来技術の回路基板では達成できない優れた効果を奏するものである。
【0063】
図7は、本発明の回路基板の応用例を説明するための図であり、図7(a)は、本発明の回路基板を人の肌に直接貼り付ける回路基板として用いる場合を示し、図7(b)は、本発明の回路基板を、ウェアラブルデバイスを構成する回路基板として用いる場合を示す。
【0064】
まず、本発明の回路基板が、図7(a)に示すように、人体の肌に直接貼り付ける場合を説明する。
【0065】
例えば、実施形態1の回路基板1の下地部材101を人の肌50aに貼り付ける。
【0066】
この場合、具体的には、実施形態1の回路基板1の下地部材101の裏面が粘着材、粘着テープなどで人体の肌50aに貼り付けられる。ここでは、この回路基板1は、人の肌に取り付けられた配線端子12および電極パッド11を電気的に接続するのに用いられる。なお、電極パッド11は人体の皮膚に接触する部材であり、配線端子12は、外部機器との接続のための部材である。
【0067】
また、回路基板は、配線10に加えて、この配線10により接続される配線端子12および電極パッド11を含むものであってもよい。
【0068】
次に、本発明の回路基板は、図7(b)に示すように、ウェアラブルデバイスを構成する回路基板として用いる場合を説明する。
【0069】
例えば、実施形態1の回路基板1を用いてウェアラブルデバイスWdを構成する場合、回路基板1の下地部材101の裏面をシャツ50bの生地の裏面に貼り付ける。この場合、回路基板1の配線10は、シャツの生地の裏面に形成された配線端子12および電極パッド11を電気的に接続する。なお、配線10と配線端子12は、シャツの生地の表面に取り付けてもよい。
【0070】
なお、このように応用される本発明の回路基板としては、実施形態1の回路基板1に代えて、実施形態2の回路基板2あるいはその変形例の回路基板2aを用いてもよい。
【0071】
また、図7(b)において、回路基板の下地部材をシャツに貼り付ける形態を説明したが、回路基板の下地部材をシャツとしてもよい。
【0072】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、従来の伸縮性導電材料を用いたものに比べて、長期間の使用による繰り返し伸縮および/または屈曲に対しても安定した電気特性を維持することができる回路基板を得ることができるものとして有用である。
【符号の説明】
【0074】
1、2、2a 回路基板
10、20、20a 配線
11 電極パッド
12 配線端子
101 下地部材
110、210 導電層
110a、210a 液体金属
110b、210b ベース材
120、220 コーティング層
【要約】
【課題】本発明の課題は、従来の伸縮性導電材料を用いたものに比べて、長期間の使用による繰り返し伸縮および/または屈曲に対しても安定した電気特性を維持することができる回路基板を得ることである。
【解決手段】本発明の回路基板1は、伸縮性および/または屈曲性を有する下地部材101と、下地部材101上に所定パターンをなすように形成された、液体金属110aを含む導電層110と、導電層110上に積層されたコーティング層120とを備えている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7