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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20240625BHJP
   B23H 1/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B23H7/02 S
B23H1/02 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023207073
(22)【出願日】2023-12-07
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】202311278021.5
(32)【優先日】2023-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 潤
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-301682(JP,A)
【文献】特開2000-84737(JP,A)
【文献】特開昭54-147592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス生成回路と、ゲート信号生成回路と、両極性回路とを備えるワイヤ放電加工装置であって、
前記パルス生成回路は、前記両極性回路のスイッチング素子を制御するための電圧パルスを前記ゲート信号生成回路に差動方式で出力し、
前記ゲート信号生成回路は、フォトカプラとスイッチングドライバとを備え、前記フォトカプラは前記パルス生成回路からの差動電圧パルスを受信して前記スイッチングドライバに出力し、前記スイッチングドライバは前記スイッチング素子を駆動させるゲート信号を生成し、
前記両極性回路は、各辺に前記スイッチング素子が設けられているブリッジ回路であり、前記ゲート信号を受信することにより前記スイッチング素子が制御され、ワイヤと被加工物との間の加工間隙に極性が周期的に切り替わる電圧パルスを供給し、
前記フォトカプラは信号入力経路に半固定抵抗器を備えてなる、ワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤ放電加工装置であって、
前記半固定抵抗器に直列に配置された固定抵抗器を更に備える、ワイヤ放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤとワークとの間に電圧を印加して、ワイヤとワークとの間に放電電流を発生させてワークを切断するワイヤ放電加工装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、ワイヤとワークとの間の極間電圧を調整して、ワイヤとワークのとの極間距離を制御することにより、安定した品質及び加工性能を実現することができるワイヤ放電加工装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-202606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より安定した品質及び加工性能が求められる中で、ワイヤとワークとの間の極間電圧パルスをより高い周波数にすることで、細かい面粗さを高速で加工することが可能となってきた。しかしながら、高周波パルスによるワイヤ放電加工においては、放電パルスの伝達経路に存在する電気素子Tのスレショルド電圧の個体差によるバラツキを原因とするパルス幅の微小変化が最終段の極間パルス幅に累積して現れるという現象が発生する。この現象により機差が発生し、放電パルスの状態を指定する加工条件データベースの加工性能の再現性を阻害する大きな要因となっている。
【0006】
低周波領域において矩形波として扱える電圧パルスも実際には電圧の立ち上がり、立ち下りの遷移領域が存在する。そのため高周波領域では台形波としての性質が顕著に現れることになる。放電パルスを伝達する電気素子Tは、入力パルスに反応する閾値であるスレショルド電圧Vthを個別に有している。電気素子Tのスレショルド電圧Vthは仕様として1V程度の個体差を許容している場合が多い。このスレショルド電圧Vthの個体差により入力パルスに対して出力パルスの立ち上がり、又は/及び立ち下りの開始のタイミングにズレが発生することになる。その結果として入力パルス幅Tinと出力パルス幅Toutがワイヤ放電加工機毎に異なる現象が発生する。
【0007】
例えば、入力ピーク電圧Vpeakの1/2を電気素子Tのスレショルド電圧Vthの基準値とすると、電気素子Tのスレショルド電圧Vthが入力ピーク電圧Vpeakの1/2より高い場合には出力パルス幅Toutは入力パルス幅Tinより短くなり、スレショルド電圧Vthが入力ピーク電圧Vpeakの1/2よりも低い場合には出力パルス幅Toutは入力パルス幅Tinよりも長くなる(図1)。
【0008】
つまり、入力パルス幅Tinが同一であっても、基準となるスレショルド電圧VRth(以下、基準スレショルド電圧)よりもスレショルド電圧Vthが高い場合には、基準時の出力パルス幅TRoutより出力パルス幅Toutが短くなる。基準スレショルド電圧VRthよりもスレショルド電圧Vthが低い場合には、基準時の出力パルス幅TRoutより出力パルス幅Toutが長くなる。一般的な電圧設定では、スレショルド電圧Vthが、基準スレショルド電圧VRthよりも高く設定される組み合わせが使われることが多い。そのため放電パルスが電気素子Tを通過する度にパルス幅の減少が累積し、段を経る毎に短くなっていく傾向にある。
【0009】
よって、入力パルス幅Tinが同一であっても、各電気素子Tのスレショルド電圧Vthの個体差から、出力パルス幅Toutの機差が生じ、これにより、同一仕様の回路であっても最終段の放電パルス幅に機差が発生することになる。そして放電パルス幅と放電加工エネルギーは比例するので同機種の装置においても装置毎に放電加工の状況が異なる結果になる。この影響によって単一のワイヤ放電加工装置の加工性能が向上していても、量産した各ワイヤ放電加工装置において同一の加工条件で加工を行っても加工結果にばらつきが生じ、各装置による加工寸法の再現性が低くなる。そのため加工条件データベース全体の加工寸法精度を向上させることが難しいという、高周波パルスによるワイヤ放電加工特有の課題があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、放電パルスの伝達経路に存在する電気素子のスレショルド電圧Vthの個体差が累積することで発生する最終段のパルス幅の違いを解消する。これにより各装置による加工寸法のばらつきを小さくし、加工寸法と加工性能の再現性を向上させることができるワイヤ放電加工装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]パルス生成回路と、ゲート信号生成回路と、両極性回路とを備えるワイヤ放電加工装置であって、前記パルス生成回路は、前記両極性回路のスイッチング素子を制御するための電圧パルスを前記ゲート信号生成回路に差動方式で出力し、前記ゲート信号生成回路は、フォトカプラとスイッチングドライバとを備え、前記フォトカプラは前記パルス生成回路からの差動電圧パルスを受信して前記スイッチングドライバに出力し、前記スイッチングドライバは前記スイッチング素子を駆動させるゲート信号を生成し、前記両極性回路は、各辺に前記スイッチング素子が設けられているブリッジ回路であり、前記ゲート信号を受信することにより前記スイッチング素子が制御され、ワイヤと被加工物との間の加工間隙に極性が周期的に切り替わる電圧パルスを供給し、前記フォトカプラは信号入力経路に半固定抵抗器を備えてなる、ワイヤ放電加工装置。
[2][1]に記載のワイヤ放電加工装置であって、前記半固定抵抗器に直列に配置された固定抵抗器を更に備える、ワイヤ放電加工装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るワイヤ放電加工装置では、ゲート信号生成回路が備えるフォトカプラの信号入力経路に半固定抵抗器を備えている構成により、装置毎に無負荷極間パルス波形の高周波振幅を調整することができる。したがって機差による加工結果のばらつきを補正し、加工寸法の再現性を向上させることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電気素子Tの入力ピーク電圧Vpeakに対するスレショルド電圧Vthによる出力パルス幅Toutの変化の説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係るワイヤ放電加工装置における放電加工回路1の概略図である。
図3】本発明の一実施形態に係るワイヤ放電加工装置の無負荷極間パルス波形を示す図である。
図4】測定に使用したゲート信号生成回路30の回路図である。
図5】可変抵抗器R64の抵抗値を約330Ωで固定して可変抵抗器R73の抵抗値を変化させたときの無負荷極間パルス波形を示す図である。
図6】可変抵抗器R64の抵抗値を約330Ωで固定して可変抵抗器R73の抵抗値を変化させたときの無負荷極間パルス波形の高周波振幅W1、W2の電位差の変化を示すグラフである。
図7】可変抵抗器R64の抵抗値を約330Ωで固定して可変抵抗器R73の抵抗値を変化させたときの無負荷極間パルス波形のピーク電圧値A1、A2を示すグラフである。
図8】可変抵抗器R73の抵抗値を約330Ωに固定して可変抵抗器R64の抵抗値を変化させたときの無負荷極間パルス波形を示す図である。
図9】可変抵抗器R73の抵抗値を約330Ωに固定して可変抵抗器R64の抵抗値を変化させたときの無負荷極間パルス波形の高周波振幅W1、W2の電位差の変化を示すグラフである。
図10】可変抵抗器R73の抵抗値を約330Ωに固定して可変抵抗器R64の抵抗値を変化させたときの無負荷極間パルス波形のピーク電圧値A1、A2を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0015】
1. ワイヤ放電加工装置
ワイヤ放電加工は、ワイヤ放電加工装置が備えるワイヤと被加工物との間に形成される加工間隙に所定の電圧パルスを印加して断続的に放電を発生させ、放電加工エネルギーによって被加工物から材料を除去し、被加工物を所望の加工形状に切断加工するものである。ワイヤ放電加工装置は放電加工回路1を備える。
【0016】
図2に、本発明の一実施形態に係るワイヤ放電加工装置における放電加工回路1の概略図を示す。放電加工回路1は、ワイヤと被加工物の加工間隙に放電を発生させるための電圧を印加するための回路である。放電加工回路1は、パルス生成回路10、通信ケーブル20、ゲート信号生成回路30、及び両極性回路40を備えることができる。放電加工回路1は、両極性回路40が備える各スイッチング素子401a、401b、401c、401dにそれぞれ接続される4つの系統SGU、SGL、GGU、GGLを備える。
【0017】
1.1 パルス生成回路10
パルス生成回路10は、両極性回路40のスイッチング素子401a~401dを制御するための電圧パルスをゲート信号生成回路30に差動方式で出力することができる回路である。具体的には、パルス生成回路10は、放電パルス生成用のFPGA101(Field Programmable Gate Array)と差動出力ドライバ102とを備える。FPGA101で生成した所定の電圧パルスを、スイッチング素子401a~401dに接続される系統毎に差動出力ドライバ102の各端子に入力することができる。図2の例では、系統SGUはスイッチング素子401aに、系統SGLはスイッチング素子401bに、系統GGUはスイッチング素子401cに、系統GGLはスイッチング素子401dに接続されている。例えば、両極性回路40のスイッチング素子401aと401bが駆動することで逆極性、スイッチング素子401cと401dが駆動することで正極性となるように、差動出力ドライバ102の各端子に電圧パルスを入力することができる。
【0018】
差動出力ドライバ102は、通信ケーブル20と接続しており、通信ケーブル20を介してゲート信号生成回路30に差動電圧パルスを出力することができる。差動方式の出力とすることでノイズを低減させることができる。フェライトコア21は内部に通した通信ケーブル20のノイズを除去する。
【0019】
1.2 ゲート信号生成回路30
ゲート信号生成回路30は、パルス生成回路10からの差動電圧パルスを入力として受け取り、両極性回路40のスイッチング素子401a~401dを駆動させるゲート信号を生成することができる回路である。図2に示すゲート信号生成回路30では系統SGUの構成のみを示すが、系統SGU、SGL、GGU、GGLは同様の構成である。不図示の系統SGL、GGU、GGLの、これらの系統に含まれる構成要素の符号は、系統SGUに含まれる構成要素の符号の添字の「a」を、SGLは「b」、GGUは「c」、GGLは「d」に変更したものとする。
【0020】
ゲート信号生成回路30は、スイッチング素子401a、401b、401c、401dにそれぞれ接続されるフォトカプラ301a、301b、301c、301dとスイッチングドライバ302a、302b、302c、302dとを備える。フォトカプラ301a~301dは、電気的に絶縁した状態で入力側から出力側に信号を伝達するために用いられ、パルス生成回路10からの差動電圧パルスを受信してスイッチングドライバ302a~302dにそれぞれ信号を出力する。スイッチングドライバ302a~302dはスイッチング素子401a~401dを駆動させるゲート信号を生成する。
【0021】
フォトカプラ301a~301dの信号入力経路には直列接続された抵抗器を備える。具体的には、固定抵抗器(図示せず)及び半固定抵抗器Ra、Rb、Rc、Rdが設けられている。固定抵抗器はフォトカプラ301a~301dに過剰な電流が流れないように保護抵抗として設けられる。固定抵抗器の抵抗値は、250~300Ω程度が好ましい。半固定抵抗器Ra~Rdは、抵抗値を調整することによってフォトカプラ301a~301dに流れる電流値を変化させ、ワイヤと被加工物に印加される極間パルス波形を調整するために設けられる。具体的な調整方法については後述する。
【0022】
1.3 両極性回路40
両極性回路40は、各辺にスイッチング素子401a~401dがそれぞれ設けられているブリッジ回路である。ゲート信号生成回路30から極性の異なる各ゲート信号をスイッチング素子401a~401dが受信することにより、各スイッチング素子401a~401dが制御され、ワイヤと被加工物との間の加工間隙に極性が周期的に切り替わる電圧パルス(以下、両極性パルス)を供給することができる。スイッチング素子401a~401dは、電界効果トランジスタとでき、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)とできる。
【0023】
両極性回路40では、スイッチング素子401a、401cの接続点が入力部402a、スイッチング素子401b、401dの接続点が入力部402bとなっている。スイッチング素子401a、401dの接続点が出力部403a、スイッチング素子401b、401cの接続点が出力部403bとなっている。入力部402a、402bには直流電源(図示せず)が接続されており、入力部402a、402bに直流電圧が印加される。出力部403a、403bは、ワイヤ及び被加工物とそれぞれ接続されている。前述のゲート信号によってスイッチング素子401a~401dのオンオフが制御されることで、出力部403a、403bから両極性パルスが出力され、加工間隙に電圧が印加されて加工が可能となるよう構成されている。
【0024】
2. パルス調整方法
図3は、高周波無負荷極間パルス波形を示す図の一例である。W1は、正極性側の高周波振幅であり、W2は、逆極性側の高周波振幅である。A1は正極性側のピーク電圧であり、A2は逆極性側のピーク電圧である。本発明に係るパルス調整方法では、各放電加工装置の極間パルス波形の高周波振幅W1、W2が規定値になるように調整される。例えば、既定値は80~90Vとでき、既定値の±3V以内となるように調整することが好ましい。
【0025】
高周波振幅W1、W2は、フォトカプラ301a~301dの信号入力経路に設けられた半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値を変化させることで調整可能である。例えば、図3に示す例では、スイッチング素子401bに接続されるゲート信号生成回路30が備える半固定抵抗器Rbの抵抗値を変化させることで、高周波振幅W1を調整することができる。スイッチング素子401dに接続されるゲート信号生成回路30が備える半固定抵抗器Rdの抵抗値を変化させることで、高周波振幅W2を調整することができる。半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値を小さくしすぎると、通信ケーブル20に設けられるフェライトコア21が発熱してしまう虞がある。したがって、半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値は300Ω以上の範囲で調整されることが好ましい。
【0026】
高周波パルスを用いるワイヤ放電加工装置では、放電加工回路1内に設けられる電気素子Tのスレショルド電圧Vthによって、入力パルスのパルス幅から最終段である極間パルスのパルス幅が変動し得る。スレショルド電圧Vthの個体差により、装置毎に極間パルスのパルス幅が異なって、加工結果に機差が生じる。半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値を変化させることによって、フォトカプラ301a~301dの入力電流が変化するため、電圧パルスの立ち上がりも変化する。これにより、フォトカプラ301a~301dにおけるスレショルド電圧に達するまでの微小時間も変化し、パルス幅も変化する。パルス幅が変化すると最終段の無負荷極間パルスの高周波振幅W1、W2も変化する。
【0027】
したがって、高周波パルスを用いるワイヤ放電加工装置では、パルス幅の大小を無負荷極間パルス波形の高周波振幅W1、W2の大きさで評価することができる。具体的には、高周波振幅W1、W2が大きいほどパルス幅が長い傾向があり、パルス幅が長いと放電加工エネルギーが大きくなるという性質を有する。本パルス調整方法では、最終段の無負荷極間パルスの高周波振幅W1、W2を既定値になるように調整することで、電気素子Tのスレショルド電圧Vthの個体差から生じる機差を補正することができる。本パルス調整方法により、高周波パルスを用いた高精度な加工が可能であると同時に、各放電加工装置による放電加工エネルギーが均一になり、加工寸法の再現性を向上させることができる。なお、本明細書における高精度とは、加工寸法が高精度であること、かつ、加工面の面粗さが細かいことを指す。
【0028】
元電圧であるパルス生成回路10が出力する電圧パルスの大きさを調整するのではなく、抵抗値を変化させてフォトカプラ301a~301dの入力電流を調整するように構成することで、生成パルスを変更せずに機差を補正することが可能である。また、パルス生成回路で使用している最小クロック時間(例えば、12.5nsec)よりも短い1ns単位で補正できるので、パルス補正が高精度に実施できる。
【0029】
3. 実施例
以下において、パルス調整方法を実施した具体的な実験結果を説明する。
【0030】
3.1 概要
放電加工回路1のゲート信号生成回路30が備えるフォトカプラ301b、301dの信号入力経路に設けられた可変抵抗器R64、R73の抵抗値を変化させることで、無負荷極間パルス波形に与える影響を評価した。
【0031】
3.2 測定方法
図4に、ゲート信号生成回路30のうち本実験のパルス調整方法を実施した系統の回路図を示す。本実験では、系統GGLと系統SGLのゲート信号生成回路30の可変抵抗器R64、R73の抵抗値をそれぞれ変化させて無負荷極間パルス波形の変化を確認した。具体的には、(1)可変抵抗器R64の抵抗値を約330Ωで固定し、可変抵抗器R73の抵抗値を0~450Ωの間で変化させたときの無負荷極間パルス波形、(2)可変抵抗器R73の抵抗値を約330Ωで固定し、可変抵抗器R64の抵抗値を0~450Ωの間で変化させたときの無負荷極間パルス波形を測定した。無負荷極間パルス波形はオシロスコープを用いて確認した。
【0032】
3.3 測定結果
(1)可変抵抗器R73の抵抗値による無負荷極間パルス波形の変化
図5に、可変抵抗器R64の抵抗値を約330Ωで固定して可変抵抗器R73の抵抗値を変化させたときの無負荷極間パルス波形を示す。図6に、無負荷極間パルス波形の高周波振幅W1、W2の電位差の変化を示す。図7に、無負荷極間パルス波形のピーク電圧値A1、A2を示す。可変抵抗器R73の抵抗値が変化すると、正極性側の高周波振幅W1が変化し、逆極性側の高周波振幅W2はほとんど変化しなかった(図6)。抵抗値の変化(0~450Ω)に対して高周波振幅W1の変化量は58Vであった。ピーク電圧値A1、A2はほとんど変化しなかった(図7)。
【0033】
(2)可変抵抗器R64の抵抗値による無負荷極間パルス波形の変化
図8に、可変抵抗器R73の抵抗値を約330Ωに固定して可変抵抗器R64の抵抗値を変化させたときの無負荷極間パルス波形を示す。図9に、無負荷極間パルス波形の高周波振幅W1、W2の電位差の変化を示す。図10に、無負荷極間パルス波形のピーク電圧値A1、A2を示す。可変抵抗器R64の抵抗値が変化すると、逆極性側の高周波振幅W2が変化し、正極性側の高周波振幅W1はほとんど変化しなかった(図9)。抵抗値の変化(0~450Ω)に対して高周波振幅W2の変化量は46Vであった。ピーク電圧値A1、A2はほとんど変化しなかった(図10)。
【0034】
上記結果から、フォトカプラ301b、301dの信号入力経路に設けられた可変抵抗器R64、R73の抵抗値を変化させることで、無負荷極間パルス波形の調整が可能であることがわかった。ピーク電圧値A1、A2がほぼ変化しなかったことから、可変抵抗器R64、R73の抵抗値のみの調整で高周波パルス波形の機差を補正できることがわかった。
【符号の説明】
【0035】
1 :放電加工回路
10 :パルス生成回路
101 :FPGA
102 :差動出力ドライバ
20 :通信ケーブル
21 :フェライトコア
30 :ゲート信号生成回路
301a~301d:フォトカプラ
302a~302d:スイッチングドライバ
40 :両極性回路
401a~401d:スイッチング素子
402a、402b:入力部
403a、403b:出力部
A1、A2 :ピーク電圧値
Ra~Rd :半固定抵抗器
T :電気素子
in :入力パルス幅
out :出力パルス幅
Rout :基準時の出力パルス幅
peak :入力ピーク電圧
th :スレショルド電圧
Rth :基準スレショルド電圧
W1 :高周波振幅
W2 :高周波振幅
【要約】
【課題】高精度な加工が可能であり、装置毎の加工寸法のばらつきを小さくし加工寸法の再現性を向上させることができるワイヤ放電加工装置を提供する。
【解決手段】本発明によれば、両極性回路のスイッチング素子を制御するための電圧パルスをゲート信号生成回路に差動方式で出力するパルス生成回路と、フォトカプラとスイッチングドライバとを備えフォトカプラはパルス生成回路からの差動電圧パルスを受信してスイッチングドライバに出力しスイッチングドライバはスイッチング素子を駆動させるゲート信号を生成するゲート信号生成回路と、各辺にスイッチング素子が設けられているブリッジ回路でありゲート信号を受信することによりスイッチング素子が制御されワイヤと被加工物との間の加工間隙に極性が周期的に切り替わる電圧パルスを供給する両極性回路とを備え、フォトカプラは信号入力経路に半固定抵抗器を備えてなるワイヤ放電加工装置が提供される。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10