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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ワイヤ放電加工装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/04 20060101AFI20240625BHJP
   B23H 1/02 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B23H7/04 D
B23H1/02 A
B23H1/02 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023207077
(22)【出願日】2023-12-07
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】202311272610.2
(32)【優先日】2023-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 潤
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-301682(JP,A)
【文献】特開2000-84737(JP,A)
【文献】特開昭54-147592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス生成回路と、ゲート信号生成回路と、両極性回路とを備えるワイヤ放電加工装置の製造方法であって、
前記パルス生成回路は、前記両極性回路のスイッチング素子を制御するための電圧パルスを前記ゲート信号生成回路に差動方式で出力し、
前記ゲート信号生成回路は、フォトカプラとスイッチングドライバとを備え、前記フォトカプラは前記パルス生成回路からの差動電圧パルスを受信して前記スイッチングドライバに出力し、前記スイッチングドライバは前記スイッチング素子を駆動させるゲート信号を生成し、
前記両極性回路は、各辺に前記スイッチング素子が設けられているブリッジ回路であり、前記ゲート信号を受信することにより前記スイッチング素子が制御され、ワイヤと被加工物との間の加工間隙に極性が周期的に切り替わる極間電圧パルスを供給し、
前記フォトカプラは信号入力経路に抵抗器を備えており、
前記製造方法は、調整工程を備え、
前記調整工程では、前記パルス生成回路又は外部のパルス生成装置が生成した調整用電圧パルスを前記ゲート信号生成回路に供給したときの、前記スイッチング素子の出力電圧波形を、前記抵抗器の抵抗値を変化させることによって調整する、
ワイヤ放電加工装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤ放電加工装置の製造方法であって、
前記調整工程は、前記ゲート信号生成回路と前記両極性回路を有する基板が前記ワイヤ放電加工装置から独立した前記外部のパルス生成装置によって前記調整用電圧パルスが供給される状態で実施され、
前記調整工程後に前記基板を前記ワイヤ放電加工装置に組み込む、組み込み工程を備える、
ワイヤ放電加工装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のワイヤ放電加工装置の製造方法であって、
前記スイッチング素子は電界効果トランジスタであり、
前記調整工程では、前記電界効果トランジスタのソースドレイン間の電圧波形のパルス幅を既定範囲内に収める、ワイヤ放電加工装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤとワークとの間に電圧を印加して、ワイヤとワークとの間に放電電流を発生させてワークを切断するワイヤ放電加工装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、ワイヤとワークとの間の極間電圧を調整して、ワイヤとワークのとの極間距離を制御することにより、安定した品質及び加工性能を実現することができるワイヤ放電加工装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-202606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より安定した品質及び加工性能が求められる中で、ワイヤとワークとの間の極間電圧パルスをより高い周波数にすることで、細かい面粗さを高速で加工することが可能となってきた。しかしながら、高周波パルスによるワイヤ放電加工においては、放電パルスの伝達経路に存在する電気素子Tのスレショルド電圧の個体差によるバラツキを原因とするパルス幅の微小変化が最終段の極間パルス幅に累積して現れるという現象が発生する。この現象により機差が発生し、放電パルスの状態を指定する加工条件データベースの加工性能の再現性を阻害する大きな要因となっている。
【0006】
低周波領域において矩形波として扱える電圧パルスも実際には電圧の立ち上がり、立ち下りの遷移領域が存在する。そのため高周波領域では台形波としての性質が顕著に現れることになる。放電パルスを伝達する電気素子Tは、入力パルスに反応する閾値であるスレショルド電圧Vthを個別に有している。電気素子Tのスレショルド電圧Vthは仕様として1V程度の個体差を許容している場合が多い。このスレショルド電圧Vthの個体差により入力パルスに対して出力パルスの立ち上がり、又は/及び立ち下りの開始のタイミングにズレが発生することになる。その結果として入力パルス幅Tinと出力パルス幅Toutがワイヤ放電加工機毎に異なる現象が発生する。
【0007】
例えば、入力ピーク電圧Vpeakの1/2を電気素子Tのスレショルド電圧Vthの基準値とすると、電気素子Tのスレショルド電圧Vthが入力ピーク電圧Vpeakの1/2より高い場合には出力パルス幅Toutは入力パルス幅Tinより短くなり、スレショルド電圧Vthが入力ピーク電圧Vpeakの1/2よりも低い場合には出力パルス幅Toutは入力パルス幅Tinよりも長くなる(図1)。
【0008】
つまり、入力パルス幅Tinが同一であっても、基準となるスレショルド電圧VRth(以下、基準スレショルド電圧)よりもスレショルド電圧Vthが高い場合には、基準時の出力パルス幅TRoutより出力パルス幅Toutが短くなる。基準スレショルド電圧VRthよりもスレショルド電圧Vthが低い場合には、基準時の出力パルス幅TRoutより出力パルス幅Toutが長くなる。一般的な電圧設定では、前者のスレショルド電圧Vthが、基準スレショルド電圧VRthよりも高く設定される組み合わせが使われることが多い。そのため放電パルスが電気素子Tを通過する度にパルス幅Toutの減少が累積し、段を経る毎に短くなっていく傾向にある。
【0009】
よって、入力パルス幅Tinが同一であっても、各電気素子Tのスレショルド電圧Vthの個体差から、出力パルス幅Toutの機差が生じ、これにより、同一仕様の回路であっても最終段の放電パルス幅に機差が発生することになる。そして放電パルス幅と放電加工エネルギーは比例するので同機種の装置においても装置毎に放電加工の状況が異なる結果になる。この影響によって単一のワイヤ放電加工装置の加工性能が向上していても、量産した各ワイヤ放電加工装置において同一の加工条件で加工を行っても加工結果にばらつきが生じ、各装置による加工寸法の再現性が低くなる。そのため加工条件データベース全体の加工寸法精度を向上させることが難しいという、高周波パルスによるワイヤ放電加工特有の課題があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、放電パルスの伝達経路に存在する電気素子のスレショルド電圧Vthの個体差が累積することで発生する最終段のパルス幅Toutの違いを解消する。これにより加工寸法のばらつきを小さくし、加工寸法の再現性を向上させることができるワイヤ放電加工装置の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]パルス生成回路と、ゲート信号生成回路と、両極性回路とを備えるワイヤ放電加工装置の製造方法であって、前記パルス生成回路は、前記両極性回路のスイッチング素子を制御するための電圧パルスを前記ゲート信号生成回路に差動方式で出力し、前記ゲート信号生成回路は、フォトカプラとスイッチングドライバとを備え、前記フォトカプラは前記パルス生成回路からの差動電圧パルスを受信して前記スイッチングドライバに出力し、前記スイッチングドライバは前記スイッチング素子を駆動させるゲート信号を生成し、前記両極性回路は、各辺に前記スイッチング素子が設けられているブリッジ回路であり、前記ゲート信号を受信することにより前記スイッチング素子が制御され、ワイヤと被加工物との間の加工間隙に極性が周期的に切り替わる極間電圧パルスを供給し、前記フォトカプラは信号入力経路に抵抗器を備えており、前記製造方法は、調整工程を備え、前記調整工程では、前記パルス生成回路又は外部のパルス生成装置が生成した調整用電圧パルスを前記ゲート信号生成回路に供給したときの、前記スイッチング素子の出力電圧波形を、前記抵抗器の抵抗値を変化させることによって調整する、ワイヤ放電加工装置の製造方法。
[2][1]に記載のワイヤ放電加工装置の製造方法であって、前記調整工程は、前記ゲート信号生成回路と前記両極性回路を有する基板が前記ワイヤ放電加工装置から独立した前記外部のパルス生成装置によって前記調整用電圧パルスが供給される状態で実施され、前記調整工程後に前記基板を前記ワイヤ放電加工装置に組み込む、組み込み工程を備える、ワイヤ放電加工装置の製造方法。
[3][1]又は[2]に記載のワイヤ放電加工装置の製造方法であって、前記スイッチング素子は電界効果トランジスタであり、前記調整工程では、前記電界効果トランジスタのソースドレイン間の電圧波形のパルス幅を既定範囲内に収める、ワイヤ放電加工装置の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るワイヤ放電加工装置の製造方法では、パルス生成回路又は外部のパルス生成装置が生成した調整用電圧パルスをゲート信号生成回路に供給したときの、ゲート信号生成回路が備えるフォトカプラの信号入力経路に備える抵抗器の抵抗値を変化させる。両極性回路が備えるスイッチング素子の出力電圧波形を調整する調整工程を備える構成により、機差による加工結果のばらつきを補正し、加工寸法の再現性を向上させることが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電気素子Tの入力ピーク電圧Vpeakに対するスレショルド電圧Vthによる出力パルス幅Toutの変化の説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係るワイヤ放電加工装置における放電加工回路1の概略図である。
図3】本発明の一実施形態に係るパルス生成装置50の概略図である。
図4】本発明の一実施形態に係るパルス生成装置50が出力する調整用電圧パルス波形の概略図である。
図5】系統SGLのスイッチング素子401bのソースドレイン間の電圧波形を示す図である。
図6】調整工程の仕組みの説明図である。
図7】測定に使用したゲート信号生成回路30の回路図である。
図8】基板X1及び基板X2における系統GGLの調整工程実施前のソースドレイン間の電圧波形である。
図9】基板X1及び基板X2における系統SGLの調整工程実施前のソースドレイン間の電圧波形である。
図10】基板X1及び基板X2の調整工程実施前の無負荷極間パルス波形である。
図11】基板X1及び基板X2における系統GGLの調整工程実施後のソースドレイン間の電圧波形である。
図12】基板X1及び基板X2の調整工程実施後の無負荷極間パルス波形である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0015】
1. ワイヤ放電加工装置
ワイヤ放電加工は、ワイヤ放電加工装置が備えるワイヤと被加工物との間に形成される加工間隙に所定の電圧パルスを印加して断続的に放電を発生させ、放電加工エネルギーによって被加工物から材料を除去し、被加工物を所望の加工形状に切断加工するものである。ワイヤ放電加工装置は放電加工回路1を備える。
【0016】
図2に、本発明の一実施形態に係るワイヤ放電加工装置における放電加工回路1の概略図を示す。放電加工回路1は、ワイヤと被加工物の加工間隙に放電を発生させるための電圧を印加するための回路である。放電加工回路1は、パルス生成回路10、通信ケーブル20、ゲート信号生成回路30、及び両極性回路40を備えることができる。放電加工回路1は、両極性回路40が備える各スイッチング素子401a、401b、401c、401dにそれぞれ接続される4つの系統SGU、SGL、GGU、GGLを備える。
【0017】
1.1 パルス生成回路10
パルス生成回路10は、両極性回路40のスイッチング素子401a~401dを制御するための電圧パルスをゲート信号生成回路30に差動方式で出力することができる回路である。具体的には、パルス生成回路10は、放電パルス生成用のFPGA101(Field Programmable Gate Array)と差動出力ドライバ102とを備る。FPGA101で生成した所定の電圧パルスを、スイッチング素子401a~401dに接続される系統毎に差動出力ドライバ102の各端子に入力することができる。図2の例では、系統SGUはスイッチング素子401aに、系統SGLはスイッチング素子401bに、系統GGUはスイッチング素子401cに、系統GGLはスイッチング素子401dに接続されている。例えば、両極性回路40のスイッチング素子401aと401bが駆動することで逆極性、スイッチング素子401cと401dが駆動することで正極性となるように差動出力ドライバ102の各端子に電圧パルスを入力することができる。
【0018】
差動出力ドライバ102は、通信ケーブル20と接続しており、通信ケーブル20を介してゲート信号生成回路30に差動電圧パルスを出力することができる。差動方式の出力とすることでノイズを低減させることができる。フェライトコア21は内部に通した通信ケーブル20のノイズを除去する。
【0019】
1.2 ゲート信号生成回路30
ゲート信号生成回路30は、パルス生成回路10からの差動電圧パルスを入力として受け取り、両極性回路40のスイッチング素子401a~401dを駆動させるゲート信号を生成することができる回路である。図2に示すゲート信号生成回路30では系統SGUの構成のみを示すが、系統SGU、SGL、GGU、GGLは同様の構成である。不図示の系統SGL、GGU、GGLの、これらの系統に含まれる構成要素の符号は、系統SGUに含まれる構成要素の符号の添字の「a」を、SGLは「b」、GGUは「c」、GGLは「d」に変更したものとする。
【0020】
ゲート信号生成回路30は、スイッチング素子401a、401b、401c、401dにそれぞれ接続されるフォトカプラ301a、301b、301c、301dとスイッチングドライバ302a、302b、302c、302dとを備える。フォトカプラ301a~301dは、電気的に絶縁した状態で入力側から出力側に信号を伝達するために用いられ、パルス生成回路10からの差動電圧パルスを受信してスイッチングドライバ302a~302dにそれぞれ信号を出力する。スイッチングドライバ302a~302dはスイッチング素子401a~401dを駆動させるゲート信号を生成する。
【0021】
フォトカプラ301a~301dの信号入力経路には直列接続された抵抗器が備えられる。具体的には、固定抵抗器(図示せず)及び半固定抵抗器Ra、Rb、Rc、Rdが設けられている。固定抵抗器はフォトカプラ301a~301dに過剰な電流が流れないように保護抵抗として設けられる。固定抵抗器の抵抗値は、250~300Ω程度が好ましい。半固定抵抗器Ra~Rdは、抵抗値を調整することによってフォトカプラ301a~301dに流れる電流値を変化させ、両極性回路40が備えるスイッチング素子401a~401dの出力電圧波形ないしワイヤと被加工物に印加される極間パルス波形を調整するために設けられる。具体的な調整方法については後述する。
【0022】
1.3 両極性回路40
両極性回路40は、各辺にスイッチング素子401a~401dがそれぞれ設けられているブリッジ回路である。ゲート信号生成回路30から極性の異なる各ゲート信号をスイッチング素子401a~401dが受信することにより、各スイッチング素子401a~401dが制御され、ワイヤと被加工物との間の加工間隙に極性が周期的に切り替わる電圧パルス(以下、両極性パルス)を供給することができる。スイッチング素子401a~401dは、電界効果トランジスタとでき、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)とできる。
【0023】
両極性回路40では、スイッチング素子401a、401cの接続点が入力部402a、スイッチング素子401b、401dの接続点が入力部402bとなっている。スイッチング素子401a、401dの接続点が出力部403a、スイッチング素子401b、401cの接続点が出力部403bとなっている。入力部402a、402bには直流電源(図示せず)が接続されており、入力部402a、402bに直流電圧が印加される。出力部403a、403bは、ワイヤと被加工物とそれぞれ接続されている。前述のゲート信号によってスイッチング素子401a~401dのオンオフが制御されることで、出力部403a、403bから両極性パルスが出力され、加工間隙に電圧が印加されて加工が可能となるよう構成されている。
【0024】
2. パルス生成装置50
パルス生成装置50は、ワイヤ放電加工装置から独立した外部の装置であり、放電加工装置の製造工程において、放電加工回路1から出力される電圧パルスを調整するためのチェッカーとして機能する。図3にパルス生成装置50の概略図を示す。パルス生成装置50は、放電加工回路1のゲート信号生成回路30に接続可能に構成されている。
【0025】
パルス生成装置50は、パルス生成回路10と同様の構成とできる。具体的には、パルス生成装置50は、放電パルス生成用のFPGA501と差動出力ドライバ502とを備える。FPGA501で生成された所定の調整用電圧パルスは、系統毎に差動出力ドライバ502の各端子に入力することができる。図3の例では、系統SGUはスイッチング素子401aに、系統SGLはスイッチング素子401bに、系統GGUはスイッチング素子401cに、系統GGLはスイッチング素子401dに接続している。
【0026】
差動出力ドライバ502は、4パターンの調整用電圧パルス(差動電圧パルス)をゲート信号生成回路30が備えるスイッチング素子401a~401dにそれぞれ出力することができる。図4は、パルス生成装置50が各系統に出力する調整電圧パルス波形の一例である。
【0027】
3. ワイヤ放電加工装置の製造方法
放電加工装置の製造方法は、調整工程と組み込み工程とを備える。
【0028】
3.1 調整工程
調整工程は、放電加工回路1から出力される電圧パルスのパルス幅Toutを調整するための工程である。調整工程は、放電加工回路1におけるゲート信号生成回路30と両極性回路40とを有する基板Xが作製された後、放電加工装置から独立した外部のパルス生成装置50によって調整用電圧パルスを基板Xに供給した状態で実施することができる。
【0029】
調整工程では、まず、パルス生成装置50に基板Xを接続する。次いで、パルス生成装置50がそれぞれの系統に対応する4パターンの調整用電圧パルスをゲート信号生成回路30に入力する。その際のスイッチング素子401a~401dの出力電圧波形のパルス幅Toutが規定範囲内に収まるように半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値を調整する。ここで、半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値を小さくしすぎると、通信ケーブル20に設けられるフェライトコア21が発熱してしまう虞がある。したがって、半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値は300Ω以上の範囲で調整されることが好ましい。
【0030】
スイッチング素子401a~401dの出力電圧波形のパルス幅Toutは、パルス生成装置50によって調整用電圧パルスが供給されたときの、スイッチング素子401a~401dのソースドレイン間の電圧波形のパルス幅と対応関係にある。図5は、系統SGLのスイッチング素子401bのソースドレイン間の電圧波形を示す図の一例である。パルス幅Toutの規定範囲は、例えば36~38nsとできる。
【0031】
高周波パルスを用いるワイヤ放電加工装置では、放電加工回路1内に設けられる種々の電気素子のスレショルド電圧Vthによって、電気素子を通過する度にパルス幅Toutが変動し得る。また、スレショルド電圧Vthの個体差により、装置毎に極間パルスのパルス幅が異なって、加工結果に機差が生じる。
【0032】
図6は、本発明に係る調整工程の仕組みについての例示的な説明図である。図6では、パルス生成装置50が出力する調整用電圧パルス(以下、初期パルス)のパルス幅Tinが100nsであるときの、スイッチング素子401a~401dの出力電圧パルスのパルス幅Toutが目標50nsのところ40nsであったとしている。フォトカプラ301a~301dを経た電圧パルスは、前段の初期パルスと比べて変化する。この変化量は入力パルス電圧の立ち上がり、立ち下り時にフォトカプラ301a~301dのスレショルド電圧Vthを通過するタイミングに依存する。ここで、半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値を変化させることによって、入力電圧の立ち上がりの傾きを変化させることができる。その効果としてフォトカプラ301a~301dにおけるスレショルド電圧Vthに達するまでの微小時間を変化させることが可能である。すなわち、電圧パルスとの立ち上がり開始からスレショルド電圧Vthを通過するまでの微小時間の変化量を、半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値によるパルス幅Toutの調整しろとできる。
【0033】
同様にして、初期パルスは、放電加工回路1の伝達経路内に存在するその他の電気素子のスレショルド電圧Vthによって累積的にパルス幅Toutが変化する。半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値によるパルス幅Toutの調整しろは、極間電圧の前段に設けられる両極性回路40が備える各スイッチング素子401a~401dの出力電圧波形のパルス幅Toutまで引き継がれる。すなわち、図6において、スイッチング素子401aの出力電圧波形のパルス幅Toutが40nsであり、目標値が50nsである場合、調整しろが20nsであるすると、半固定抵抗器Ra~Rdの抵抗値の調整により、パルス幅Toutを50nsに調整することが可能になる。
【0034】
本調整工程では、各スイッチング素子401a~401dの出力電圧波形のパルス幅Toutを規定範囲になるように調整することで、放電加工回路1の電気素子のスレショルド電圧Vthの個体差から生じる機差を補正することができる。本調整工程により、高周波パルスを用いた高精度な加工が可能であると同時に、各放電加工装置による放電加工エネルギーが均一になり、加工寸法の再現性を向上させることができる。なお、本明細書における高精度とは、加工寸法が高精度であること、かつ、加工面の面粗さが細かいことを指す。
【0035】
高周波パルスを用いるワイヤ放電加工装置では、パルス幅Toutの大小を最終段の無負荷極間パルス波形の高周波振幅W1、W2(正極性側の高周波振幅をW1、逆極性側の高周波振幅をW2とする)の大きさで評価することもできる。例えば、放電加工回路1は、系統SGLのスイッチング素子401bに接続されるゲート信号生成回路30が備える半固定抵抗器Rbの抵抗値を変化させることで、高周波振幅W1を調整することができるように構成されている。また例えば、系統GGLのスイッチング素子401dに接続されるゲート信号生成回路30が備える半固定抵抗器Rdの抵抗値を変化させることで、高周波振幅W2を調整することができるように構成されている。例えば、高周波振幅W1、W2は規定値に対して±3V以内となることが好ましい。後述する実験では高周波振幅W1、W2の値も用いて本調整工程の評価を行った。
【0036】
3.2 組み込み工程
組み込み工程は、調整工程後に基板Xをワイヤ放電加工装置に組み込む工程である。具体的には、基板Xは、放電加工装置の放電加工回路1のパルス生成回路10と通信ケーブル20を介してゲート信号生成回路30と接続可能に組み込まれる。
【0037】
4. その他の実施形態
調整工程は、パルス生成装置50の代わりに放電加工回路1が備えるパルス生成回路10によって行われてもよい。本実施形態における調整工程は、パルス生成回路10、ゲート信号生成回路30及び両極性回路40が接続された後に行われ、パルス生成回路10が生成した差動電圧パルスである調整用電圧パルスを基板Xに供給する状態で実施されることができる。
【0038】
5. 実施例
以下において、調整工程を実施した具体的な実験結果を説明する。
【0039】
5.1 概要
2つの基板X1、X2を用いて、基板X1、X2のゲート信号生成回路30がそれぞれ備えるフォトカプラ301b、301dの信号入力経路に設けられた可変抵抗器R64、R73の抵抗値を調整することで、スイッチング素子401b、401dのソースドレイン間の電圧波形のパルス幅を個別に補正した。その後、実際の加工に使用する放電加工回路1の最終段である無負荷極間パルス波形を比較した。
【0040】
5.2 測定方法
図7にゲート信号生成回路30のうち本実験で調整工程を実施した系統のゲート信号生成回路30の回路図を示す。本実験では、ゲート信号生成回路30と両極性回路40をそれぞれ備える基板X1、X2を用いてそれぞれパルス生成回路10によって調整用電圧パルスを生成した。系統GGLと系統SGLのゲート信号生成回路30の可変抵抗器R64、R73の抵抗値を変化させてスイッチング素子401b、401dのソースドレイン間の電圧波形のパルス幅Toutが37ns付近になるように調整することとした。また、調整工程を実施した際の無負荷極間パルス波形を測定した。スイッチング素子401b、401dにはMOSFETを用いた。スイッチング素子401b、401dのソースドレイン間の電圧波形及び無負荷極間パルス波形はオシロスコープによって測定を行った。
【0041】
図8に基板X1及び基板X2の系統GGLにおける調整工程実施前のソースドレイン間の電圧波形を示す。図9に基板X1及び基板X2の系統SGLにおける調整工程実施前のソースドレイン間の電圧波形を示す。図10に基板X1及び基板X2の調整工程実施前の無負荷極間パルス波形を示す。
【0042】
図9に示すように、調整前時点で系統SGLにおけるパルス幅Toutは、基板X1が38.4ns、基板X2が38.0nsであり、目標値である37nsの許容範囲内であった。図10に示すように無負荷極間パルス波形の高周波振幅W1は、基板X1が90.0V、基板X2が87.0Vであり、高周波振幅W1の目標とする90Vの許容範囲内であった。したがって、可変抵抗器R73の抵抗値は調整せず、系統GGLが備える可変抵抗器R64の抵抗値のみを変化させて行った。
【0043】
5.3 測定結果
図11に基板X1及び基板X2の系統GGLにおける調整工程実施後のソースドレイン間の電圧波形を示す。図12に基板X1及び基板X2の調整工程実施後の無負荷極間パルス波形を示す。表1に可変抵抗器R64の抵抗値の調整の前後におけるソースドレイン間の電圧波形のパルス幅Toutと無負荷極間パルス波形の高周波振幅W2を示す。
【表1】
【0044】
調整工程によって、基板X1、基板X2いずれにおいてもパルス幅Toutを37nsの許容範囲内(36~38ns)に調整することができた。無負荷極間パルス波形の高周波振幅W2をいずれも90V程度の値に調整することができた。したがって、基板X1と基板X2のソースドレイン間の電圧波形及び無負荷極間パルス波形を近い値に調整でき、調整工程を実施することによって、波形の機差を補正できることがわかった。
【符号の説明】
【0045】
1 :放電加工回路
10 :パルス生成回路
101 :FPGA
102 :差動出力ドライバ
20 :通信ケーブル
21 :フェライトコア
30 :ゲート信号生成回路
301a~301d:フォトカプラ
302a~302d:スイッチングドライバ
40 :両極性回路
401a~401d:スイッチング素子
402a、402b:入力部
403a、403b:出力部
50 :パルス生成装置
501 :FPGA
502 :差動出力ドライバ
A1、A2 :ピーク電圧値
Ra~Rd :半固定抵抗器
T :電気素子
in :入力パルス幅
out :出力パルス幅
Rout :基準時の出力パルス幅
peak :入力ピーク電圧
th :スレショルド電圧
Rth :基準スレショルド電圧
W1 :高周波振幅
W2 :高周波振幅
X、X1、X2 :基板
【要約】
【課題】装置毎の加工寸法のばらつきを小さくし加工寸法の再現性を向上させることができるワイヤ放電加工装置の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば、パルス生成回路又はパルス生成装置が生成した調整用電圧パルスをゲート信号生成回路に供給したときの、スイッチング素子の出力電圧波形を抵抗器の抵抗値を変化させることによって調整する調整工程を備えるワイヤ放電加工装置の製造方法が提供される。放電加工装置は、スイッチング素子を制御するための電圧パルスをゲート信号生成回路に差動方式で出力するパルス生成回路、信号入力経路に抵抗器を備え、差動電圧パルスを受信してスイッチングドライバに出力するフォトカプラ及びゲート信号を生成するスイッチングドライバを備えるゲート信号生成回路、並びにゲート信号によってスイッチング素子が制御されることより加工間隙に極性が周期的に切り替わる電圧パルスを供給する両極性回路を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
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図6
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図8
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図10
図11
図12