IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クレハの特許一覧

特許7510013有機バインダー、無機材料成形体製造用組成物、グリーン体および無機材料成形体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】有機バインダー、無機材料成形体製造用組成物、グリーン体および無機材料成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/02 20060101AFI20240625BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20240625BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20240625BHJP
   B01J 27/135 20060101ALI20240625BHJP
   B01J 31/26 20060101ALI20240625BHJP
   B01J 27/128 20060101ALI20240625BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20240625BHJP
   C04B 35/634 20060101ALI20240625BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B22F3/02 M
B22F3/10 C
B22F1/10
B01J27/135 Z
B01J31/26 Z
B01J27/128 Z
B01J31/02 101Z
C04B35/634 600
C08G63/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023535184
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2022023800
(87)【国際公開番号】W WO2023286509
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2021117314
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】東瀬 壮慶
(72)【発明者】
【氏名】小林 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】松本 健志
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-213678(JP,A)
【文献】特表2020-501941(JP,A)
【文献】特開2008-222535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結可能な無機粉末を成形するために使用する有機バインダーであって、
バインダー成分としてポリグリコール酸、および
前記ポリグリコール酸の分解触媒またはその前駆体を含有し、
前記ポリグリコール酸は、該ポリグリコール酸を成形して得られる樹脂成形体が下記条件(A)を満たすことになるポリグリコール酸であることを特徴とする有機バインダー:
(A)80℃の水中での7日間の重量減少率が50%以上である。
【請求項2】
焼結可能な無機粉末100重量部、および請求項1に記載の有機バインダー1~30重量部を含む、無機材料成形体製造用組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の無機材料成形体製造用組成物を成形してなる、グリーン体。
【請求項4】
請求項2に記載の無機材料成形体製造用組成物を成形してグリーン体を得るグリーン体成形工程、
上記グリーン体に含まれる上記ポリグリコール酸を解重合させることにより、上記グリーン体から上記ポリグリコール酸を除去して脱脂体を得る脱脂工程、および
上記脱脂体を焼成して無機材料の成形体を得る焼結工程を含む、無機材料成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の無機材料成形体製造用組成物を成形してグリーン体を製造するグリーン体成形工程、
上記グリーン体を80~160℃の水と接触させることにより、上記グリーン体に含まれる上記ポリグリコール酸を分解し、除去して脱脂体を得る脱脂工程、および
上記脱脂体を焼成して無機材料の成形体を得る焼結工程を含む、無機材料成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機バインダー、無機材料成形体製造用組成物、グリーン体、脱脂体、無機材料成形体および無機材料成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機材料粉末とこれを結着させるバインダーとを含む組成物を用いて金属射出成形を行い、これを焼成して焼結体として金属成形体を得る方法が、従来知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、主として無機材料で構成された粉末と、アルカリ性ガスの作用により分解可能な樹脂を含有する結合材とを含む成形体形成用組成物を成形して得られる成形体が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、金属粉末に有機バインダーとして乳酸ポリマーを配合した金属粉末組成物を用い、これを成形したグリーン成形体を加熱して乳酸ポリマーを除去した後、焼成して金属成形品を得る方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、有機バインダー成分として生分解性樹脂を含む組成物を用いて成形体を形成し、当該生分解性樹脂を分解する作用を発現する分解酵素を含む水中に成形体を保持し、脱脂体を得て、当該脱脂体を加熱して焼結体を得る方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、バインダーシステムと当該バインダーシステムに分散された粉末材料とを含む供給原料を押し出して3次元物体を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-222535
【文献】特開平8-311504
【文献】特開2000-38604
【文献】特表2020-501941
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
焼結体の形状または寸法精度の観点から無機材料粉末に対するバインダーの量は、少ないもので1%程度に抑制される。そのため、グリーン体は脆く、脱脂および/または焼結の操作において崩壊したり破損したりして、目的の形状を得られないことがある。また、それ自体柔軟性の高いポリマーをバインダーに用いることで脆性を改善することは可能である。しかしながら、そのようなポリマーは流動性が高く、たとえば単糸のような形状のグリーン体を得ることが困難である。
【0009】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、脆性が改善され、破損しにくいグリーン体を与えるバインダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る有機バインダーは、焼結可能な無機粉末を成形するために使用する有機バインダーであって、バインダー成分としてポリグリコール酸、およびポリグリコール酸の分解触媒またはその前駆体を含有することを特徴とする有機バインダーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、破損しにくいグリーン体を与える有機バインダーが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0013】
〔有機バインダー〕
有機バインダーは、金属射出成形技術等の無機粉末から成形体を製造する際、その前駆体となるグリーン体を成形するために使用するバインダーであり、樹脂等の有機物をバインダー成分として含む。成形されたグリーン体からバインダーを除去(脱脂)して脱脂体を得、脱脂体を焼成することで最終的な無機材料成形体を焼結体として得る。本実施形態における有機バインダーは、バインダー成分としてポリグリコール酸を含有する。
【0014】
本明細書において「ポリグリコール酸」は、グリコール酸由来の構造単位のみを有するホモポリマーに加え、グリコール酸由来の構造単位と他の構造単位を1種または複数種有するコポリマーをも含むことを意図している。他の構造単位としては、カルボン酸系化合物由来の構造単位およびアルコール系化合物由来の構造単位等が挙げられる。
【0015】
カルボン酸系化合物の一例としては、シュウ酸、ベンゼンジカルボン酸、メタンジカルボン酸、フェニルメタンジカルボン酸、エタンジカルボン酸、フェニルエタンジカルボン酸、プロパンジカルボン酸、フェニルプロパンジカルボン酸、ブタンジカルボン酸、フェニルブタンジカルボン酸、ペンタンジカルボン酸、フェニルペンタンジカルボン酸、ヘキサンジカルボン酸、フェニルヘキサンジカルボン酸、ヘプタンジカルボン酸、フェニルヘプタンジカルボン酸、オクタンジカルボン酸、フェニルオクタンジカルボン酸、ノナンジカルボン酸、フェニルノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、フェニルデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フェニルドデカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、フェニルウンデカンジカルボン酸、エテンジカルボン酸、フェニルエテンジカルボン酸、プロペンジカルボン酸、フェニルプロペンジカルボン酸、ブテンジカルボン酸、フェニルブテンジカルボン酸、ペンテンジカルボン酸、フェニルペンテンジカルボン酸、ヘキセンジカルボン酸、フェニルヘキセンジカルボン酸、ヘプテンジカルボン酸、フェニルヘプテンジカルボン酸、オクテンジカルボン酸、フェニルオクテンジカルボン酸、ノネンジカルボン酸、フェニルノネンジカルボン酸、デセンジカルボン酸、フェニルデセンジカルボン酸、ドデセンジカルボン酸、フェニルドデセンジカルボン酸、ウンデセンジカルボン酸、フェニルウンデセンジカルボン酸、エチンジカルボン酸、フェニルエチンジカルボン酸、プロピンジカルボン酸、フェニルプロピンジカルボン酸、ブチンジカルボン酸、フェニルブチンジカルボン酸、ペンチンジカルボン酸、フェニルペンチンジカルボン酸、ヘキシンジカルボン酸、フェニルヘキシンジカルボン酸、ヘプチンジカルボン酸、フェニルヘプチンジカルボン酸、オクチンジカルボン酸、フェニルオクチンジカルボン酸、ノニンジカルボン酸、フェニルノニンジカルボン酸、デシンジカルボン酸、フェニルデシンジカルボン酸、ドデシンジカルボン酸、フェニルドデシンジカルボン酸、ウンデシンジカルボン酸、フェニルウンデシンジカルボン酸、ヒドロキシベンゼンカルボン酸、フェニルヒドロキシエタンカルボン酸、ヒドロキシプロパン酸、フェニルヒドロキシプロパン酸、ヒドロキシブタン酸、フェニルヒドロキシブタン酸、ヒドロキシペンタン酸、フェニルヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、フェニルヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、フェニルヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸、フェニルヒドロキシオクタン酸、ヒドロキシノナン酸、フェニルヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、フェニルヒドロキシデカン酸、ヒドロキシドデカン酸、フェニルヒドロキシドデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、フェニルヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシプロペン酸、フェニルヒドロキシプロペン酸、ヒドロキシブテン酸、フェニルヒドロキシブテン酸、ヒドロキシペンテン酸、フェニルヒドロキシペンテン酸、ヒドロキシヘキセン酸、フェニルヒドロキシヘキセン酸、ヒドロキシヘプテン酸、フェニルヒドロキシヘプテン酸、ヒドロキシオクテン酸、フェニルヒドロキシオクテン酸、ヒドロキシノネン酸、フェニルヒドロキシノネン酸、ヒドロキシデセン酸、フェニルヒドロキシデセン酸、ヒドロキシドデセン酸、フェニルヒドロキシドデセン酸、ヒドロキシウンデセン酸、フェニルヒドロキシウンデセン酸、ヒドロキシプロピン酸、フェニルヒドロキシプロピン酸、ヒドロキシブチン酸、フェニルヒドロキシブチン酸、ヒドロキシペンチン酸、フェニルヒドロキシペンチン酸、ヒドロキシヘキシン酸、フェニルヒドロキシヘキシン酸、ヒドロキシヘプチン酸、フェニルヒドロキシヘプチン酸、ヒドロキシオクチン酸、フェニルヒドロキシオクチン酸、ヒドロキシノニン酸、フェニルヒドロキシノニン酸、ヒドロキシデシン酸、フェニルヒドロキシデシン酸、ヒドロキシドデシン酸、フェニルヒドロキシドデシン酸、ヒドロキシウンデシン酸およびフェニルヒドロキシウンデシン酸が挙げられる。
【0016】
アルコール系化合物の一例としては、ベンゼンジオール、メタンジオール、フェニルメタンジオール、エタンジオール、フェニルエタンジオール、プロパンジオール、フェニルプロパンジオール、ブタンジオール、フェニルブタンジオール、ペンタンジオール、フェニルペンタンジオール、ヘキサンジオール、フェニルヘキサンジオール、ヘプタンジオール、フェニルヘプタンジオール、オクタンジオール、フェニルオクタンジオール、ノナンジオール、フェニルノナンジオール、デカンジオール、フェニルデカンジオール、ウンデカンジオール、フェニルウンデカンジオール、ドデカンジオール、フェニルドデカンジオール、エテンジオール、フェニルエテンジオール、プロペンジオール、フェニルプロペンジオール、ブテンジオール、フェニルブテンジオール、ペンテンジオール、フェニルペンテンジオール、ヘキセンジオール、フェニルヘキセンジオール、ヘプテンジオール、フェニルヘプテンジオール、オクテンジオール、フェニルオクテンジオール、ノネンジオール、フェニルノネンジオール、デセンジオール、フェニルデセンジオール、ウンデセンジオール、フェニルウンデセンジオール、ドデセンジオール、フェニルドデセンジオール、エチンジオール、フェニルエチンジオール、プロピンジオール、フェニルプロピンジオール、ブチンジオール、フェニルブチンジオール、ペンチンジオール、フェニルペンチンジオール、ヘキシンジオール、フェニルヘキシンジオール、ヘプチンジオール、フェニルヘプチンジオール、オクチンジオール、フェニルオクチンジオール、ノニンジオール、フェニルノニンジオール、デシンジオール、フェニルデシンジオール、ウンデシンジオール、フェニルウンデシンジオール、ドデシンジオール、フェニルドデシンジオール、グリセリンおよびペンタエリスリトールが挙げられる。
【0017】
なかでも高強度の点から、ポリグリコール酸はグリコール酸ホモポリマーが好ましい。また、グリーン体の形状維持に有利な機械強度を得る観点から、ポリグリコール酸の好ましい重量平均分子量は1000以上1000000以下であり、より好ましくは10000以上500000以下であり、さらに好ましくは20000以上300000以下である。
【0018】
本実施形態の有機バインダーに使用可能な、商業的に入手可能なポリグリコール酸としては、Kuredux 100R90等のKureduxシリーズ(株式会社クレハ製)が挙げられる。
【0019】
有機バインダーは、本発明の効果を阻害しない範囲で、バインダー成分としてのポリグリコール酸の他に、他の樹脂を1種または2種以上含んでいてもよい。有機バインダーが含み得る他の樹脂としては、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸およびポリカプロラクトン等のポリエステル;ポリメタクリレートおよびポリブチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール等のポリエーテル;ナイロン6、ナイロン11,ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610,ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9TおよびナイロンM5T等のポリアミド;ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルおよびポリビニルアルコール等のビニル樹脂;ポリ-2-メチル-2-オキサゾリン、ポリ-2-エチル-2-オキサゾリンおよびポリ-2-プロピル-2-オキサゾリン等のポリオキサゾリン;ポリカーボネート系樹脂;ポリエーテルイミド系樹脂;セルロース、メチルセルロース、スクロースおよびスクラロース等の多糖類またはこれらの共重合体;ならびにEmpower Materials Inc.製であるQPAC(登録商標)25、QPAC(登録商標)40、QPAC(登録商標)100、QPAC(登録商標)130およびQPAC(登録商標)PBC等の市販の熱分解性結着ポリマー等が挙げられる。
【0020】
有機バインダーは、弾性、剛性、靭性および塑性の付与等の目的に応じて、可塑剤および酸化防止剤等の添加剤を1種または2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
【0021】
有機バインダー中のポリグリコール酸の量は、好ましくは0.1~100重量%である。後述するように、本実施形態における有機バインダーは、バインダー成分がポリグリコール酸であることにより穏和な条件での脱脂が容易となる。したがって、グリーン体におけるバインダー成分の易除去性の観点から、有機バインダー中のポリグリコール酸の量は、20~100重量%であることがより好ましく、50~100重量%であることがさらに好ましい。
【0022】
また、バインダー成分がポリグリコール酸である有機バインダーを用いることで、脆性が改善され、破損しにくいグリーン体を得ることができる。
【0023】
また、バインダー成分がポリグリコール酸であることにより、熱処理による脱脂を行う場合に、解重合反応にてポリグリコール酸を分解し、グリーン体から除去することができる。重合体鎖の分解がランダムに引き起こされる熱分解反応と異なり、解重合反応は重合体鎖の末端から進行する制御された分解である。熱分解反応では、分解がランダムに引き起こされるため、重合体鎖の一部が脱脂体に残留する恐れがある。重合体鎖の一部が脱脂体に残留すると、酸素存在下で焼成した際に、焼結体に炭として残ることになる。これに対し、解重合反応によれば、重合体鎖の一部が脱脂体に残留することを防ぐことができる。それにより、酸素存在下で焼成した際に、焼結体に炭として残ることを防ぐことができる。また、ポリグリコール酸の解重合反応は、熱分解反応よりも低い温度で進行する。したがって、熱分解よりも低温条件で脱脂を行うことが可能となる。
【0024】
(有機バインダーの第一の態様)
本実施形態の有機バインダーの第一の態様では、有機バインダーにはポリグリコール酸の分解触媒またはその前駆体が含まれる。
【0025】
本明細書において「ポリグリコール酸の分解触媒」とは、ポリグリコール酸を低分子量化させる反応、具体的には加水分解反応またはエステル交換反応を触媒する物質をいう。具体的には、分解触媒は、金属イオンを含む塩類、有機酸、および塩基である。このうち、金属イオンを含む塩類、および有機酸は、ルイス酸触媒としてポリグリコール酸のカルボニル基酸素に作用することで、加水分解反応またはエステル交換反応を促進する。一方、塩基は、ルイス塩基触媒としてポリグリコール酸の末端官能基に作用することで、加水分解反応またはエステル交換反応を促進する。
【0026】
本明細書において「低分子量化」とは、分解してもとのポリグリコール酸よりも低分子量になることを指し、モノマー、ダイマーまたはオリゴマーに変化することも含む。
【0027】
分解触媒として機能する金属イオンを含む塩類としては、具体的には、リチウムイオン、ベリリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、スカンジウムイオン、チタンイオン、バナジウムイオン、クロムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、ガリウムイオン、ゲルマニウムイオン、ルビジウムイオン、ストロンチウムイオン、イットリウムイオン、ジルコニウムイオン、ニオブイオン、モリブデンイオン、テクネチウムイオン、ルテニウムイオン、ロジウムイオン、パラジウムイオン、銀イオン、カドミウムイオン、インジウムイオン、スズイオン、セシウムイオン、バリウムイオン、ランタノイドイオン、ハフニウムイオン、タンタルイオン、タングステンイオン、レニウムイオン、オスミウムイオン、イリジウムイオン、金イオン、水銀イオン、タリウムイオンおよび鉛イオン等の金属イオンを含む有機または無機塩類が挙げられる。中でも、チタンイオン、ゲルマニウムイオン、ジルコニウムイオン、スズイオンまたはランタノイドイオンを含む有機または無機塩類が好ましく、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンブトキシド、塩化チタン、硫酸チタン、水酸化チタン、酸化チタン、テトラメチルゲルマン、テトラエチルゲルマン、テトラフェニルゲルマン、塩化ゲルマニウム、硫酸ゲルマニウム、水酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ブタン酸スズ、ペンタン酸スズ、ヘキサン酸スズ、ヘプタン酸スズ、オクタン酸スズ、ノナン酸スズ、デカン酸スズ、塩化スズ、硫酸スズ、水酸化スズおよび酸化スズがより好ましい。
【0028】
分解触媒として機能する有機酸としては、具体的には、有機カルボン酸化合物、有機ホウ酸化合物、有機リン酸化合物および有機スルホン酸化合物が挙げられる。中でも、有機カルボン酸化合物、有機リン酸化合物および有機スルホン酸化合物が好ましく、有機カルボン酸化合物がより好ましい。有機カルボン酸化合物としては、具体的には、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸プロピル、リン酸ジプロピル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル、リン酸プロピル、リン酸ジプロピル、リン酸へキシル、リン酸ジへキシル、リン酸へプチル、リン酸ジへプチル、リン酸オクチル、リン酸ジオクチル、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
【0029】
分解触媒として機能する塩基としては、具体的には、窒素原子を含む有機アミン化合物もしくは複素環式化合物が挙げられる。具体的には、ピロール、インドール、ピリジン、アミノピリジン、ジメチルアミノピリジン、キノリン、ジアザビシクロノネンおよびジアザビシクロウンデセン等が挙げられる。
【0030】
本明細書において「分解触媒の前駆体」とは、それ自体は分解触媒として作用しないものの、何らかの作用を受けて構造が変化することで、分解触媒として機能するようになるものをいう。分解触媒が有機酸である場合、有機酸とアルコール類もしくはフェノール類とのエステルまたは有機酸の無水物が分解触媒の前駆体に該当し、具体的には、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸へキシル、ギ酸ヘプチル、ギ酸オクチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸へキシル、酢酸ヘプチル、酢酸オクチル、シュウ酸無水物、コハク酸無水物、マロン酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物、フタル酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ピロメリット酸二無水物、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリへキシル、リン酸トリへプチル、リン酸トリオクチル、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、p-トルエンスルホン酸プロピル、p-トルエンスルホン酸ブチル、p-トルエンスルホン酸ペンチル、p-トルエンスルホン酸へキシル、p-トルエンスルホン酸ヘプチル、p-トルエンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸プロピル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸ペンチル、ベンゼンスルホン酸へキシル、ベンゼンスルホン酸ヘプチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸プロピル、メタンスルホン酸ブチル、メタンスルホン酸ペンチル、メタンスルホン酸へキシル、メタンスルホン酸ヘプチル、メタンスルホン酸オクチル、トリフルオロメタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸エチル、トリフルオロメタンスルホン酸プロピル、トリフルオロメタンスルホン酸ブチル、トリフルオロメタンスルホン酸ペンチル、トリフルオロメタンスルホン酸へキシル、トリフルオロメタンスルホン酸ヘプチルおよびトリフルオロメタンスルホン酸オクチル等が挙げられる。分解触媒が塩基である場合、アミド化合物、イミン化合物、ニトリル化合物またはイソシアネート化合物が分解触媒の前駆体に該当し、具体的には、ホルムアミド、アセトアミド、ベンズアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアニリド、グリオキサールビス(2-ヒドロキシアニル)、N-サリチリデンアニリン、ベンゾフェノンイミン、ベンジリデンアニリン、ベンジリデン-2-ナフチルアミン、N,N’-ジフェニルホルムアミジン、1,2-ジシアノナフタレン、3,3’-イミノジプロピオニトリル、イソシアン酸ブチル、イソシアン酸ペンチル、イソシアン酸へキシル、イソシアン酸へキシル、イソシアン酸オクチル、イソシアン酸フェニル、イソシアン酸メトキシフェニル、イソシアン酸ナフチル、イソシアン酸アダマンチル、キシリレンイソシアナートおよびキシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0031】
有機バインダー中の分解触媒またはその前駆体の量は、分解触媒またはその前駆体も含めた有機バインダー全量に対し、好ましくは、0.001~50重量%であり、より好ましくは、0.001~40重量%であり、さらに好ましくは、0.005~30重量%である。
【0032】
分解触媒またはその前駆体は、化合物によっては、ポリグリコール酸の製造に用いられる合成触媒でもあり得る。このような化合物を分解触媒またはその前駆体として用いる場合には、当該化合物をポリグリコール酸の製造時に添加して合成触媒として使用し、ポリグリコール酸中に残存する当該化合物をそのまま、有機バインダー中に含ませる分解触媒またはその前駆体として使用してもよい。また、分解触媒またはその前駆体としても利用し得る化合物をポリグリコール酸の製造時に合成触媒として用いた場合であっても、同一の、または相違する分解触媒または前駆体を、有機バインダーに別途添加してもよい。
【0033】
分解触媒および前駆体は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
有機バインダー自体に分解触媒またはその前駆体が含まれていることにより、脱脂処理時に触媒等をグリーン体自体または処理液に添加することなく、バインダー成分の除去を促進することができる。また分解触媒が添加された処理液が不要となるため、グリーン体を処理液に浸漬させる必要がなく、熱処理による脱脂でも触媒による分解促進効果をもたらすことができる。
【0035】
(有機バインダーの第二の態様)
本実施形態の有機バインダーの第二の態様では、ポリグリコール酸として、該ポリグリコール酸そのものを成形して得られる樹脂成形体が下記条件(A)を満たすことになるポリグリコール酸を用いる:
(A)80℃の水中での7日間の重量減少率が50%以上である。
【0036】
詳細には、条件(A)は、樹脂成形体が、単糸直径20μmのフィラメント状の成形体である場合の条件である。また、80℃の水中での7日間の重量減少率とは、以下の方法によって測定するものである。すなわち、バイアル瓶中に成形体1gを投入し、ここに脱イオン水を50ml加える。バイアル瓶ごと80℃の恒温器の中に静置して、7日間経過後に取り出す。ろ紙を用いてバイアル瓶の中身を重力ろ過し、ろ紙上に残った分解残渣を乾燥させる。乾燥後の重量を測定し、初期重量からの減少率(%)を求める。なお、乾燥条件としては、23℃、露点-40℃の湿度環境下、24時間の静置である。
【0037】
また、本態様におけるポリグリコール酸は、上述の樹脂成形体が下記条件(A’)を満たすことになるポリグリコール酸であることがより好ましく、下記条件(A’’)を満たすことになるポリグリコール酸であることがさらに好ましい。
【0038】
(A’)80℃の水中での7日間の重量減少率が70%以上である。
【0039】
(A’’)80℃の水中での7日間の重量減少率が90%以上である。
【0040】
このようなポリグリコール酸は、バインダー成分としてグリーン体中に存在する場合であっても、水中での分解に優れたものとなる。結果、このようなポリグリコール酸を用いた有機バインダーを用いることにより、水中にグリーン体を浸漬させ脱脂を行う場合に、バインダー成分の除去速度を高めることができる。
【0041】
なお、ポリグリコール酸の結晶化度を調整することにより、成形体における所望の重量減少率を実現することができる。例えば、加熱融解後に急冷することで結晶化度の低いポリグリコール酸が得られ、80℃の水中での7日間の重量減少率を高めることができる。また、グリコール酸と他のモノマー種との共重合体とすることによっても結晶化度を低くすることができ、結果として80℃の水中での7日間の重量減少率を高めることができる。他のモノマー種としては、上述したコポリマーの構造単位の由来となるカルボン酸系化合物およびアルコール系化合物等が挙げられる。
【0042】
また、ポリグリコール酸の重合体鎖に親水性の化学構造を含ませることで、加水分解に必要な水を高分子中に多く取り込むことができるようになり、水中でのバインダー成分の分解をさらに加速させることができる。例えば、ポリグリコール酸を構成する構造単位の一つとして、親水性の化学構造を有する構造単位を含ませることにより、ポリグリコール酸の重合体鎖に親水性の化学構造を含ませることができる。
【0043】
親水性の化学構造を有する構造単位としては、例えば、極性をもつ化学構造、たとえばエーテル官能基またはエステル官能基を含む構造単位等が挙げられる。具体的にはグリコール酸を除くヒドロキシカルボン酸、グリコールまたはジカルボン酸に由来する構造単位であり、好ましくはヒドロキシベンゼンカルボン酸、フェニルヒドロキシエタンカルボン酸、ヒドロキシプロパン酸、フェニルヒドロキシプロパン酸、ヒドロキシブタン酸、フェニルヒドロキシブタン酸、ヒドロキシペンタン酸、フェニルヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、フェニルヒドロキシヘキサン酸、メタンジオール、フェニルメタンジオール、エタンジオール、フェニルエタンジオール、プロパンジオール、フェニルプロパンジオール、ブタンジオール、フェニルブタンジオール、ペンタンジオール、フェニルペンタンジオール、ヘキサンジオール、フェニルヘキサンジオール、グリセリン、シュウ酸、ベンゼンジカルボン酸、メタンジカルボン酸、フェニルメタンジカルボン酸、エタンジカルボン酸、フェニルエタンジカルボン酸、プロパンジカルボン酸、フェニルプロパンジカルボン酸、ブタンジカルボン酸、フェニルブタンジカルボン酸、ペンタンジカルボン酸、フェニルペンタンジカルボン酸、ヘキサンジカルボン酸またはフェニルヘキサンジカルボン酸等に由来する構造単位が挙げられる。
【0044】
なお、第二の態様における有機バインダーに対し、第一の態様にて説明した分解触媒またはその前駆体を添加してもよい。
【0045】
〔無機材料成形体製造用組成物〕
本実施形態における無機材料成形体製造用組成物は、焼結可能な無機粉末と、本実施形態の有機バインダーとを含む。
【0046】
本明細書において「焼結可能な無機粉末」とは、当該粉末をその融点以下かつ一部液相を生ずる温度に加熱した場合に、焼き締まって固体を生成することのできる粉末を意図している。焼結可能な無機粉末の具体的な例としては、金属粉末、金属酸化物粉末、金属炭化物粉末、金属窒化物粉末および金属ホウ化物粉末などを例示することができる。より具体的には、金属粉末としては、鉄、アルミニウム、銅、チタン、モリブデン、ジルコニウム、コバルト、ニッケルおよびクロムなどの金属粉、ならびにこれらの金属を主成分とするステンレス粉、高速度粉、超合金粉および磁性材料粉などの合金粉が挙げられる。金属酸化物粉末としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、ムライト、コーヂュライト、酸化ベリウムおよび酸化トリウムなどの粉末が挙げられる。金属炭化物粉末としては、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化ジルコニア、炭化チタニウム、炭化ジルコニウムおよび炭化タングステンなどの粉末が挙げられる。金属窒化物粉末としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタニウム、窒化ジルコニウム、窒化バナジウムおよび窒化ニオブなどの粉末が挙げられる。金属ホウ化物粉末としては、ホウ化クロムおよびホウ化ジルコニウムなどの粉末が挙げられる。
【0047】
一実施形態において、無機材料成形体製造用組成物における無機粉末と有機バインダーとの比率は、無機粉末100重量部に対し、好適には有機バインダー1~30重量部であり、より好適には1~20重量部であり、さらに好適には1~10重量部である。
【0048】
無機材料成形体製造用組成物は、無機粉末および有機バインダーの他に、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、分散剤(滑剤)、可塑剤および酸化防止剤等が挙げられる。添加剤は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。無機材料成形体製造用組成物に添加物を含ませる場合、無機材料成形体製造用組成物における添加物の含有量は、1~20重量%であることが好ましく、1~10重量%であることがより好ましく、1~5重量%であることがさらに好ましい。
【0049】
無機材料成形体製造用組成物の各成分の混練は、加圧または双腕ニーダー式混練機、ロール式混練機、バンバリー型混練機、1軸または2軸押出機等の各種混練機を用いて行うことができる。ポリグリコール酸は加水分解しやすいため、可能な限り露点の低い雰囲気下で混練することが望ましい。
【0050】
(無機材料成形体の製造方法)
以下に、本実施形態の無機材料成形体製造用組成物を用いて無機材料成形体を製造する方法について説明する。
【0051】
[グリーン体の成形]
まず、無機材料成形体製造用組成物を所定の形状に成形した成形体であるグリーン体を得る。グリーン体の成形は、例えば、射出成形法、押出成形法、プレス成形法およびカレンダ成形法等の各種成形法により行うことができる。なかでも、射出成形法および押出成形法が工程に利用され、射出成形法が特に好適に利用される。ポリグリコール酸は加水分解しやすいため、可能な限り露点の低い雰囲気下で成形することが望ましい。
【0052】
無機材料成形体製造用組成物は、混練物そのものを用いてもよいし、混練物より造粒されたペレットを用いてもよい。
【0053】
[脱脂体の製造]
得られたグリーン体に脱脂処理を施すことで、グリーン体からバインダー成分が除去された、脱脂体を得る。脱脂処理は、多くの方法が知られているが、本実施形態においては、水処理または熱処理によりバインダー成分を分解し、除去する方法が好適に用いられる。
【0054】
水処理での脱脂における水処理の条件は、グリーン体のサイズ、形状、用いた有機バインダーの組成、および用いた無機材料成形体製造用組成物の組成等に応じて、適宜設定すればよい。
【0055】
例えば、水の温度は、80~160℃であり、好ましくは80~150℃であり、より好ましくは80~120℃である。
【0056】
また、処理時間は、例えば、1時間~10日間、1時間~7日間または1時間~3日間であり得る。
【0057】
水処理は、グリーン体を水中に浸漬させて静置させることで行うことができる。
【0058】
熱処理での脱脂における熱処理の条件も、グリーン体のサイズ、形状、用いた有機バインダーの組成、および用いた無機材料成形体製造用組成物の組成等に応じて、適宜設定すればよい。
【0059】
例えば、熱処理は、酸化性、還元性または不活性ガス雰囲気中で行うことができる。また、熱処理は、減圧下、常圧下または加圧下で行うことができる。
【0060】
本実施形態における熱処理による脱脂は、上述の通り、重合体鎖の分解がランダムに引き起こされる熱分解反応ではなく、重合体鎖の末端から進行する解重合反応によるポリグリコール酸の分解である。したがって、熱処理の温度は、ポリグリコール酸の解重合反応が進行する温度であればよく、典型的には200℃以上であり、好ましくは210℃以上であり、より好ましくは220℃以上である。また、熱処理の温度は、熱分解反応の進行が抑えられる温度であることが好ましく、典型的には300℃以下であり、好ましくは280℃以下であり、より好ましくは250℃以下である。昇温速度は、例えば、0.1℃/min~100℃/minであり得る。昇温後の保持時間は、例えば、1時間~50時間である。熱処理環境は加圧、大気圧または減圧を問わないが減圧であることが好ましい。熱処理雰囲気は空気下または水素ガスおよび窒素ガス等の不活性ガス下を問わないが、不活性ガス下であることが好ましい。
【0061】
[無機材料成形体の製造]
得られた脱脂体を焼成することで、脱脂体中の無機粉末が焼結し、焼結体としての無機材料成形体が得られる。焼成の条件は、脱脂体のサイズ、形状、および用いた無機材料成形体製造用組成物の組成に応じて、適宜設定すればよい。焼成は、通常、酸化性、還元性または不活性ガス雰囲気中で行うことができる。また、減圧下、常圧下または加圧下で行うことができる。焼成温度は、例えば、150~2000℃であり得る。昇温速度は0.1℃/min~100℃/minであり得る。昇温後の保持時間は、例えば、10分~50時間である。焼成環境は加圧、大気圧または減圧を問わないが大気圧であることが好ましい。焼成雰囲気は空気下または水素ガスおよび窒素ガス等の不活性ガス下を問わないが、不活性ガス下であることが好ましい。
【0062】
(まとめ)
本発明の一態様に係る有機バインダーは、焼結可能な無機粉末を成形するために使用する有機バインダーであって、バインダー成分としてポリグリコール酸、およびポリグリコール酸の分解触媒またはその前駆体を含有する。
また、本発明の一態様に係る有機バインダーは、上記ポリグリコール酸の分解触媒またはその前駆体を含む。
また、本発明の一態様に係る有機バインダーにおいて、上記ポリグリコール酸は、該ポリグリコール酸を成形して得られる樹脂成形体が下記条件(A)を満たすことになるポリグリコール酸である:
(A)80℃の水中での7日間の重量減少率が50%以上である。
本発明の一態様に係る無機材料成形体製造用組成物は、焼結可能な無機粉末100重量部、および上述の有機バインダー1~30重量部を含む。
本発明の一態様に係るグリーン体は、上述の無機材料成形体製造用組成物を成形してなる、グリーン体である。
本発明の一態様に係る脱脂体は、上述のグリーン体から上記ポリグリコール酸が除去された、脱脂体である。
本発明の一態様に係る無機材料成形体は、上述の脱脂体を焼成してなる、無機材料成形体である。
本発明の一態様に係る無機材料成形体の製造方法は、上述の無機材料成形体製造用組成物を成形してグリーン体を得るグリーン体成形工程、上記グリーン体に含まれる上記ポリグリコール酸を解重合させることにより、上記グリーン体から上記ポリグリコール酸を除去して脱脂体を得る脱脂工程、および上記脱脂体を焼成して無機材料の成形体を得る焼結工程を含む。
本発明の一態様に係る無機材料成形体の製造方法は、上述の無機材料成形体製造用組成物を成形してグリーン体を製造するグリーン体成形工程、上記グリーン体を80~160℃の水と接触させることにより、上記グリーン体に含まれる上記ポリグリコール酸を分解し、除去して脱脂体を得る脱脂工程、および上記脱脂体を焼成して無機材料の成形体を得る焼結工程を含む。
【0063】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例
【0064】
(測定方法)
以下の実施例における各種物性の測定方法および/または測定条件は以下の通りである。
【0065】
〔重量平均分子量〕
サンプル約10mgをジメチル硫酸(DMSO)0.5mlで150℃において加熱溶解し、室温まで冷却した。その溶液を1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)で10mlにメスアップし測定を行った。測定条件は以下に示す。
装置:shodexGPC-104(detector: RI, column: HFIP-606M×2)
溶媒:5mM CFCOONa in HFIP
標準物質としてPMMAを用い、重量平均分子量を算出した。
【0066】
〔熱重量測定〕
サンプル約10mgを精秤してセラミックパンにセットし、窒素雰囲気下で測定を行った。測定条件は以下に示す。
装置:TGA/DSC3+
温度:25℃-(10℃/min)-235℃(10min keep) 。
【0067】
〔曲げ弾性率〕
装置:(株)島津製作所製 オートグラフ AG-2000E
試験片形状:幅13mm、厚さ3mm、長さ128mm
下部支点間距離:48mm
試験速度:1mm/min
温度:23℃。
【0068】
〔引張強度〕
装置:(株)島津製作所製 オートグラフ AG-2000E
試験片形状:ASTM D638 Type-I
掴み具間距離:115mm
試験速度:50mm/min
温度:23℃。
【0069】
(実施例1)水処理における分解挙動1
[調製例1]
露点-40℃以下に管理されているドライルーム内でビーカーに入れたグリコリド(クレハ社製、遊離酸濃度2eq/t)を、100℃に加熱して完全に溶融させた。このグリコリドの融液にドデシルアルコール(純正化学製)をグリコリドに対して0.18mol%、及び2塩化スズ二水和物(関東化学製)をグリコリドに対して5ppm添加して撹拌し、均一になってからさらに5分間撹拌した。この融液を速やかにガラス製の試験管に移し、170℃で7時間重合させた。その後、室温まで冷却し、粉砕機で粉砕することでポリグリコール酸(PGA)粉砕物を得た。このPGA粉砕物を二軸押出機(東洋精機製作所製、2D25S)で溶融混練して、PGAペレットを得た。得られたPGAの重量平均分子量は22万であった。このPGAには、重合時に添加した2塩化スズ二水和物がそのまま持ち込まれ、分解触媒として機能し得る。
【0070】
Fiber Extrusion Technology社製紡糸機「C0115」を使用し、得られたPGAペレットから単糸直径20μm、延伸倍率2倍のフィラメントを紡糸し、水処理の試験用フィラメントを得た(フィラメントA1)。
【0071】
[調製例2]
調製例1で得られたPGAペレットとポリL-乳酸(PLLA;Nature works製、4032D)とを重量比50:50で混合し、さらに最終の2塩化スズ二水和物の量が5ppmとなるように2塩化スズ二水和物を追加添加することで、PGA、PLLAおよび2塩化スズ二水和物の混合物を得た。
【0072】
PGAペレットの代わりに、当該混合物を使用した以外は、調製例1と同様にして試験用フィラメントを得た(フィラメントB1)。
【0073】
[調製例3]
PLLA(Nature works製、4032D)に対して2塩化スズ二水和物を5ppm添加することで、PLLAと2塩化スズ二水和物との混合物を得た。PGAペレットの代わりに、当該混合物を使用した以外は、調製例1と同様にして試験用フィラメントを得た(フィラメントa1)。
【0074】
[分解の評価]
バイアル瓶の中に試験用フィラメントを1g計り取り、さらに脱イオン水を50ml加え、バイアル瓶ごと80℃の恒温器の中に静置した。7日間静置後、予め秤量したろ紙と漏斗を用いてバイアル瓶の中身をろ過し、ろ別した分解残渣をろ紙ごと乾燥させた。乾燥条件としては23℃、露点-40℃の湿度環境下において24時間静置した。その後、残渣およびろ紙の重量を測定し、ろ紙の初期重量を差し引くことで残渣の重量を得た。残渣の重量と試験用フィラメントとの初期重量の差を試験用フィラメントの初期重量で割ることにより重量減少率(wt.%)を算出した。結果を表1に表す。
【表1】
【0075】
(実施例2)水処理における分解挙動2
[調製例4]
実施例1の調製例1と同様にして水処理の試験用フィラメントを得た(フィラメントA2)。
【0076】
[調製例5]
調製例1で得られたPGAに対して、濃度が9重量%となるように3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を添加することで、PGAとBTDAとの混合物を得た。PGAペレットの代わりに、当該混合物を使用した以外は、調製例1と同様にして試験用フィラメントを得た(フィラメントA3)。
【0077】
[調製例6]
BTDAの添加量を23重量%とした以外は、調製例5と同様にして試験用フィラメントを得た(フィラメントA4)。
【0078】
[調製例7]
実施例1の調製例3と同様にして試験用フィラメントを得た(フィラメントa2)。
【0079】
[分解の評価]
静置の条件を80℃、3日間に変更した以外は、実施例1と同様にして重量減少率(wt.%)を算出した。結果を表2に表す。
【表2】
【0080】
(実施例3)熱処理における分解挙動
[PGAの合成]
容積1Lのセパラブルフラスコに、グリコール酸70質量%の水溶液(Chemours社製、高純度グレード)1.3kgを仕込んだ。次いで、これを、大気圧で撹拌しながら加熱して室温から215℃まで昇温加熱し、生成水を留出させながら重縮合反応を行った。次いで、フラスコ内を大気圧から3kPaまで徐々に減圧した後、215℃で3時間加熱して、未反応原料等の低沸物を留出し、重量平均分子量20,000のポリグリコール酸(PGA)を得た。
【0081】
[解重合速度の評価]
HFIPに分解触媒である塩化第一鉄またはチタンテトラブトキシドをそれぞれ添加し塩化第一鉄含有溶液及びチタンテトラブトキシド含有溶液を調製した。PGAに塩化第一鉄含有溶液またはチタンテトラブトキシド含有溶液をそれぞれ添加し、各溶液にPGAを溶解させた。その後、減圧乾燥によりHFIPを除去することで、分解触媒1mol%を含む、分解触媒含有PGAを得た。
【0082】
塩化第一鉄含有溶液を添加したものをサンプルA、チタンテトラブトキシド含有溶液を添加したものをサンプルB、分解触媒を加えなかったPGAをサンプルCとした。それぞれのサンプルについて熱重量測定を実施した。235℃到達時点から10分間の熱重量減少率を時間(10分)で除して重量減少速度(wt.%/h)を算出した。結果を表3に表す。
【表3】
【0083】
[熱処理後の有機バインダー残留量の評価]
調製例1で得られたPGAおよび調製例3で得られたPLLA約0.2mgを秤量し、それぞれガスクロマトグラフ質量分析を実施した。235℃-10分間の条件で樹脂0.1mgあたりの解重合物質(ラクチド,グリコリド)発生量を測定した。結果を表4に表す。
【表4】
【0084】
PGAはPLLAよりも解重合物質の発生量が多く、重合体鎖の一部が脱脂体に残留しにくいと考えられる。
【0085】
(実施例4)物性測定
東芝機械(株)製射出成型機IS75Eを用いて、PGAおよびPLLAの引張試験用試験片および曲げ試験用試験片を射出成形により作製した。PGAは、調製例1で得られたPGAを使用した。PLLAは、実施例1および2と同じPLLA(Nature works製、4032D)を使用した。各試験片は120℃窒素雰囲気下のオーブンに1時間静置してアニールを施した後、引張強度および曲げ弾性率を評価した。結果を表5に表す。
【表5】
【0086】
PGAおよびPLLAのいずれも加水分解性のポリマーであるが、PLLAと比較してPGAの方が曲げ弾性率、引張強度共に高いため、バインダー成分としてPGAを用いた場合には、外力に対する変形が小さく、かつ破壊されにくいグリーン体を得ることができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、無機材料成形体の製造に利用することができる。