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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】殻付き喫食用エビの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/40 20160101AFI20240625BHJP
【FI】
A23L17/40 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023553008
(86)(22)【出願日】2023-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2023031372
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022157093
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青野 道洋
(72)【発明者】
【氏名】若狹 友哉
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-158285(JP,A)
【文献】特許第7084564(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第102228272(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第114230502(CN,A)
【文献】特開2008-245624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の有機酸と、炭酸塩とを含む、pHが4以上7以下の浸漬液に未加熱状態の殻付きエビを浸漬させる、殻付き喫食用エビの製造方法。
【請求項2】
前記炭酸塩が炭酸水素ナトリウムである、請求項1に記載の殻付き喫食用エビの製造方法。
【請求項3】
前記浸漬液中、前記有機酸の濃度が2質量%以上である、請求項1又は2に記載の殻付き喫食用エビの製造方法。
【請求項4】
前記有機酸の量が、前記浸漬液中、4質量%以上10質量%以下であり、前記炭酸塩の量が、前記浸漬液中4質量%以上10質量%以下である、請求項1又は2に記載の殻付き喫食用エビの製造方法。
【請求項5】
前記有機酸と、前記炭酸塩とを水の存在下で混合し、当該混合から0分以上10分以下経過した間に、前記未加熱状態の殻付きエビを投入する、請求項1又は2に記載の殻付き喫食用エビの製造方法。
【請求項6】
前記有機酸がクエン酸である、請求項1又は2に記載の殻付き喫食用エビの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殻ごと喫食する殻付き喫食用エビの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にエビは殻を外して喫食され、そのぷりぷりとした食感が親しまれている。一方でエビ殻はカルシウム豊富であり、殻付きエビを喫食できれば、殻を廃棄処理するコストを低減できるうえ、ボリューム感の付与効果もあって経済的に有利であり、更に、カルシウムなどのミネラル豊富な健康食品としての付加価値も付与できる。従って、殻付きエビを低コストで美味しく喫食できるようにする技術への要望は強い。
【0003】
従来、エビを殻ごと喫食するにあたり、エビ殻が硬く食べづらいという問題があるが、この問題を解決するために、殻の軟化処理として、塩酸による浸漬処理(特許文献1)、減圧加熱及び加圧加熱を施す工程(特許文献2)、有機酸及びキチン分解酵素による処理(特許文献3)等が提案されている。特許文献3には、酸味の強さを考慮して、有機酸として酢酸緩衝液を用いる事が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-268916号公報
【文献】特開2006-20527号公報
【文献】特開2008-245624号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1の塩酸などの強酸を用いる方法、特許文献2の減圧加熱及び加圧加熱による方法はいずれもエビ身の食感及び食味が大きく劣化する問題がある。また出願人は、特許文献3記載の酢酸緩衝液を用いた場合も、殻の軟化効果が不十分なだけでなく、身のぷりぷりした食感の劣化防止効果が十分とはいいがたいことを知見した。
【0006】
したがって、本発明の課題は、工数の少ない極めて簡便な方法にて、低コストに、身の食感の劣化を抑制しつつ、殻ごと喫食したときに奥歯で咀嚼したときの殻の硬さや殻の口残り感を効果的に改善できる殻付き喫食用エビの製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、驚くべきことに、有機酸とともに炭酸塩を含有する浸漬液に未加熱の殻付きエビを浸漬させることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
本発明は上記知見に基づくものであり、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の有機酸と、炭酸塩とを含む浸漬液に未加熱状態の殻付きエビを浸漬させる、殻付き喫食用エビの製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明では、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の有機酸と、炭酸塩とを含む浸漬液に未加熱状態の殻付きエビを浸漬させることで、身の食感が良好なまま、奥歯で咀嚼したときの殻の硬さやエビを咀嚼する際の殻が口内に長く残る感覚を効果的に低減できる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられるが、炭酸水素ナトリウムを用いることが、身の食感向上や異味、殻や身の白濁等の変色の低減の点で好ましい。
【0010】
本発明では殻の軟化効果が高く、また身の食感の劣化防止効果が得やすい点から、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び乳酸の中でもクエン酸又はリンゴ酸を用いる事が好ましく、クエン酸を用いることが奥歯で咀嚼したときの殻の硬さや殻の口残り感を特に効果的に軽減でき、身の食感劣化防止効果とのバランスに優れる点で最も好ましい。
【0011】
本発明では、有機酸と炭酸塩を水の存在下で混合させて浸漬液を調製する。本発明において、用いる有機酸の量は、浸漬液中、2質量%以上であることで、殻の軟化効果が得られるため好ましく、4質量%以上であることが、殻軟化効果が高い点で好ましく、5質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることが特に好ましい。浸漬液に用いる有機酸の量は、浸漬液中、10質量%以下であることが、身の食感の良好さや異味の防止の点で好ましく、9質量%以下であることがより好ましい。なお、ここでいう有機酸の量は、得られる浸漬液の質量に対する有機酸の添加量の割合であればよい。
【0012】
また、本発明において、用いる炭酸塩は、浸漬液中、2質量%以上であることで、身の食感向上効果が得られるため好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることが特に好ましい。用いる炭酸塩は、浸漬液中、10質量%以下であることが、身の食感の良好さや異味の点で好ましく、9質量%以下であることがより好ましい。なお、ここでいう炭酸塩の量は、得られる浸漬液の質量に対する炭酸塩の添加量の割合であればよい。
【0013】
本発明において、浸漬液における有機酸と炭酸塩の使用量は、固形分として、有機酸:炭酸塩の質量比が100:80~130であることが身の食感及び殻の食感の両立バランスが良い点から好ましく、100:90~130であることが更に好ましく、100:90~120であることがより一層好ましく、100:95~115であることが最も好ましい。
【0014】
本発明で用いる浸漬液は、エビの身質の風味や身質の向上等の点から、食塩を含有することが好ましく、その場合の食塩の量としては、浸漬液中、1~4質量%であることが好ましく、1.5~3質量%であることがより好ましい。
【0015】
浸漬液は、水の存在下において有機酸及び炭酸塩並びに必要に応じてその他の成分を混合することで調製することができる。有機酸及び炭酸塩を水の存在下で混合させると、発泡が起こる。未加熱の殻付きエビは、水の存在下で有機酸及び炭酸塩を混合させた直後に投入してもよく、有機酸及び炭酸塩を混合させてから一定の時間が経過して発泡がある程度終了した時点で投入してもよい。特に好ましくは、有機酸及び炭酸塩を水に混合させてから0~30分の間に未加熱状態の殻付きエビを浸漬液に投入することが作業性の点で好ましく、有機酸及び炭酸塩を混合させてから0~10分の間に未加熱状態の殻付きエビを浸漬液に投入することがより好ましい。ここでいう「有機酸及び炭酸塩を水に混合させてから」とは、有機酸と炭酸塩とで水との混合のタイミングが異なる場合は、後から混合した成分の水との混合時点であり、当該混合時点は水に接触した時点とする。
【0016】
浸漬液のpHが4~7であることが好適である。pHが4以上であることで身質が硬化しない利点がある。またpHが7以下であることで効果的に殻軟化がなされる利点がある。特にpHは4~6であることが好ましく、4.5~5.5であることがより好適であり、5.0~5.2であることが特に好適である。この範囲であることで、殻の軟化と身の劣化防止の両立を特に効果的に図ることができる。ここでいう浸漬液のpHは浸漬液の温度が20℃の時のpHとする。測定はエビ投入を行わない状態で行い、有機酸と炭酸塩の混合から1時間半以上経過した後に、30分ごとに3回測定した平均とする。
【0017】
浸漬液量は殻付きエビ100質量部に対し、100~120質量部であることがエビ全体が浸漬することで本発明の効果が高く且つ経済性がある点で好ましく、100~115質量部であることがより好ましい。
【0018】
本発明において浸漬液には、生きているエビを投入してもよいが、その必要はなく、漁獲後に冷凍及び解凍を経たエビを用いてもよい。浸漬液には、未加熱状態のエビを投入する。未加熱状態とは例えば60℃以上の加熱処理が施されていないことを指し、50℃以上の加熱処理が施されていないことを指すことが特に好ましい。
【0019】
本発明の浸漬処理に供する殻付きエビは、腹部の身と、腹部の身を被覆する殻とを有する。殻は腹部の身を一部のみ被覆していてもよいし、腹部の身の全体を被覆していてもよい。腹部の身は第1腹節~第6腹節まで6つの腹節を有する。それぞれを被覆する殻部として、腹部の殻は、第1腹節側甲~第6腹節側甲を有している。浸漬液に供する未加熱の殻付きエビは頭胸部が除去されていてもいなくてもよいが、殻付きエビが頭胸部を有することは、腹部の身の食感とともに良好な殻の食感を有するボリュームあるエビを、低コストに得られる点で好ましい。殻付きエビは脚部を除去されているものであってもよく、脚部が未除去であってもよいが、ボリューム感の点から未除去であることが好ましい。
【0020】
本発明の浸漬液への浸漬処理は、通常好ましくは4時間以上であり、殻の軟化の効果が得られる点から、8時間以上であることがより好ましく、とりわけ、12時間以上であることがより好ましく、14時間以上であることが特に好ましい。また、浸漬液の浸漬処理は、それ以上経過しても効果が高まらないことから24時間以下であることが好適であり、20時間以下がより好ましく、18時間以下であることが特に好ましい。
【0021】
本発明の浸漬処理時における浸漬液の温度は、長時間浸漬させたときの衛生的な観点及び殻の軟化の効率性の点から、2~10℃であることが好ましく、4~8℃であることが特に好ましい。
【0022】
本発明で用いる浸漬液中、水、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸並びに炭酸塩並びに食塩以外の成分の量は、10.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下が更に一層好ましく、3.0質量%以下が特に好ましく、1.0質量%以下が最も好ましく、水、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸並びに炭酸塩及び食塩並びに食塩以外の成分を非含有であってもよい。なお、ここでいう“水、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸並びに炭酸塩及び食塩並びに食塩以外の成分”には、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸又は乳酸と炭酸塩とが反応することで生じる塩は含めないものとする。
また、本発明で用いる浸漬液中、水、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸並びに炭酸塩並びに食塩以外の成分の量は、水、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸並びに炭酸塩並びに食塩の合計量100質量部に対し、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、25質量部以下が更に一層好ましく、10質量部以下が特に好ましく、5質量部以下が最も好ましく、1質量部以下が更に一層好ましい。
【0023】
また、本発明ではクルマエビ属(penaeidea)、コエビ属(caridea)、オトヒメエビ属(stenopodidea)のエビを用いる事が好ましく、クルマエビ科(Penaeidae)のエビを用いる事がより好ましい。クルマエビ科(Penaeidae)としては、バナメイ(Litopenaeus vannamei)、ブラックタイガー(Penaeus monodon)、クルマエビ(Marsupenaeus japonicus)、シバエビ(Metapenaeusjoyneri)、プーバラン(Metapenaeus dobsoni)、エンデバーシュリンプ(Metapanaeusendeavouri)、バングラデシュブラウン(Metapenaeus onoceros)、タイショウエビ(Fenneropenaeus chinensis)、バナナエビ(Fenneropenaeus merguiensis)等が挙げられる。とりわけ本発明では、バナメイエビを用いることが、市場に多く出回るエビに対し、低コストに殻軟化を図れ、優れた経済効果を奏する点で特に好ましい。
【0024】
本発明では、上記有機酸及び炭酸塩を含む浸漬液に浸漬後、洗浄処理を行ってもよく、洗浄処理を行わなくてもよい。この場合の洗浄処理には、通常、水を用いる。具体的には洗浄処理としては、例えば流水での洗浄や貯水での洗浄が挙げられる。製造時間の短縮の点から、水での洗浄を行う場合、洗浄時間は、例えば10分以下が好ましく、5分以下がより好ましく、1分以下が特に好ましい。ここでいう洗浄時間とは、間歇的に洗浄を行う場合には、各洗浄時間の合計をいう。
【0025】
本発明では、上記有機酸及び炭酸塩の浸漬液に浸漬後、更なる有機酸水溶液での浸漬処理は行わないことが好ましい。これは、酸味や身の変質の点(エビの筋肉が縮む等)で望ましくないためである。
【0026】
なお本発明では、上記の有機酸及び炭酸塩による浸漬処理の前に、エビに保水剤による浸漬処理を施してもよい。
保水剤としては、アルカリ剤が挙げられ、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。保水剤は、これらの1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
但し、本発明では、有機酸及び炭酸塩を混合した浸漬液を用いる事で、事前の保水処理がなくとも、良好な身質の食感及び殻の食感を得ることが出来る。
【0027】
本発明は上記の方法で製造した殻付きエビを提供するものである。本発明者は特定の殻の厚さのエビを特定の有機酸及び炭酸塩を含む浸漬液で処理することで、奥歯で咀嚼したときの殻の硬さを効果的に低減でき、エビを飲み込んだ後の殻が口内に残る感覚(殻の口残り感)も抑制でき、更に身の食感の低下を抑制できることを見出した。しかしながら、エビは天然物であり、浸漬後のエビの殻や身の物性は個体ごとに異なるほか、物性の規定には、新たな分析手法を確立する必要があり、膨大な時間が必要となる。そこで出願人は、エビを特定の浸漬処理を行うことにより本発明を規定することとした。このように本願において、殻付きエビを物の構成を規定することには、不可能又は非実際的な事情が存在した。
【0028】
本発明の殻付き喫食用エビは、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の有機酸の含量が、エビ100g当たり、800~2,400mg/100gであることが好ましく、1200~2,000mg/100gであることがより好ましい。このような有機酸含量を有することで、一層殻が軟化して、美味しく喫食できるようになる。当該有機酸量とするためには、上記製造方法において、浸漬液中の有機酸含量を調整するとともに、浸漬時間を調整し、更に浸漬液に浸漬後に、洗浄時間を短くするか或いは洗浄を行わないようにすればよい。
殻付き喫食用エビの有機酸含有量は高速液体クロマトグラフ法(HPLC)により測定できる。例えばクエン酸含量は後述する実施例に記載の方法にて測定される。
【0029】
以上の工程により得られる未加熱状態の殻付き喫食用エビは殻ごと喫食可能であり、油調する、煮る、蒸す、焼く等の各種の調理に使用でき、加熱済みの殻付き喫食用エビとなる。未加熱状態の殻付き喫食用エビは加熱調理用として流通販売されることができる。
未加熱状態の殻付きエビ及び加熱済みの殻付きエビを冷凍又はチルドするタイミングは、上記有機酸及び炭酸塩を含む浸漬液への浸漬後であれば、いずれであってもよい。
【0030】
例えば未加熱状態の殻付き喫食用エビは、上記有機酸及び炭酸塩の浸漬液への浸漬後にそのまま冷凍状態で保存できる。また未加熱状態の殻付き喫食用エビを加熱して加熱済みの殻付きエビを得る際には、冷凍、チルド等のいずれの状態のものを各種の加熱調理(油調、煮る、蒸す、焼く等)に供してもよく、殻付き喫食用エビを加熱調理後、そのまま冷凍又はチルド状態で保存してもよい。冷凍状態とは、通常10℃未満の温度範囲での保存をさし、冷凍は通常-3℃より低く-45℃より高い温度で行われる。例えば本発明の殻付き喫食用エビが冷凍されたものは電子レンジ加熱又は自然解凍等により解凍して喫食した場合に、奥歯で咀嚼したときの殻の硬さの低減や殻残り感の低減といった効果が得られるものである。
本発明の殻付き喫食用エビは、冷凍食品、レンジ加熱用食品、ダイエット用食品、フライ等の油調商品、チルド食品等の各種加工食品やその製造原料として用いることができる。
【実施例
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0032】
(実施例1-1、2-1、3-1、4-1)
表1に記載の有機酸を8質量部、炭酸水素ナトリウム(重曹)を8質量部、及び食塩2質量部を、20℃の水82質量部と混合し、浸漬液を調製した。水への有機酸及び重曹の混合から5分後に、未加熱状態であり、頭胸部及び脚部を未除去である、腹部の殻を有する殻付きバナメイエビを投入し、冷蔵庫に静置させて16時間(浸漬液の温度は6.0℃)浸漬させた。浸漬液の量はバナメイエビ100質量部に対し、液量が110質量部であった。浸漬したエビは液切り後、バッター液に漬け、180℃の食用油で3分間油調した。浸漬液の20℃のpHを表1に示す。
【0033】
(比較例1)
有機酸を8質量部、炭酸水素ナトリウム(重曹)を8質量部、及び食塩2質量部を水82質量部と混合する代わりに、特許文献3において官能評価結果が高かった(特許文献3の図5を参照)4%酢酸緩衝液(酢酸-酢酸Na)(pH5.0)を浸漬液として用いた。その点以外は実施例1と同様にした。
【0034】
(比較例2)
バナメイエビの浸漬液への浸漬処理を行わなかった以外は実施例1と同様にした。
【0035】
(殻の食感評価I)
油調後に、10人のパネラーで喫食し、下記の評価基準にて評価した。表1に、10人のパネラーの評価点の平均値を示す。本評価では評価点は低いほど効果が優れている。
【0036】
●奥歯で咀嚼したときの殻の硬さ
10 きわめて強い。
9: 非常に強い。
8: 強い。
7: やや強い。
6: どちらでもない。
5: やや弱い。
4: 弱い。
3: とても弱い。
2: 非常に弱い。
1: きわめて弱い。
【0037】
●殻の口残り感
10: きわめて強い。
9: 非常に強い。
8: 強い。
7: やや強い。
6: どちらでもない。
5: やや弱い。
4: 弱い。
3: とても弱い。
2: 非常に弱い。
1: きわめて弱い。
【0038】
(身の食感)
油調後のエビを5人のパネラーにて喫食して、下記基準にて評価した。評価点の平均値を下記表1に示す。本評価は評価点が高いほど優れている。
5:ぷりぷりしている。
4:ぷりっとしている。
3:かたい。
2:繊維感が残る。
1:ぼそぼそする。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に記載のように、各実施例の浸漬液は、身の食感を未処理(比較例2)と同等としながら、奥歯で咀嚼したときの殻の硬さ及び殻の口残り感を効果的に低減できることが判る。これに対し、特許文献3に記載の4%酢酸緩衝液(酢酸-酢酸Na)(pH5.0)を用いた比較例1では、殻の口残り感の低減効果が十分に得られなかった。また比較例1では、身質のぼそつきが感じられ、身の食感が低下していた。
また、浸漬液を水切りしただけで洗浄せずに油調したにもかかわらず、各実施例のエビは異味がなく、殻や身の白濁等の不自然な変色も確認されなかった。これに対し、比較例1では、苦味が感じられた。
【0041】
(実施例I~IV(有機酸と重曹の量変更))
有機酸として、表2及び表3に示す有機酸を用いた。また有機酸と重曹の量を表2及び表3に示す量とした(例えば2%の場合は、有機酸と重曹のそれぞれが浸漬液中2質量%である)。その点以外は実施例1と同様として油調後のエビを得た。
【0042】
(殻の食感評価II、身の食感評価)
油調後に、5人のパネラーで喫食し、殻の食感を下記の評価基準にて評価した。また油調後に、5人のパネラーで喫食し、身の食感を下記評価基準にて評価した。表2に、5人のパネラーの殻の食感評価の評価点の平均値を示し、表3に身の食感評価の評価点の平均値を示す。これらの評価点は高いほど効果が優れている。なお表2及び表3において、8%の条件の実施例I~IVは、それぞれ上記の実施例1-1、2-1、3-1、4-1と同一条件である。表2には、比較例2の評価結果も併せて示す。
【0043】
(評価基準)
●殻の食感評価II
5: 柔らかいと感じる。
4: やや柔らかい。
3: 柔らかさも硬さも強くなく、標準的である。
2: やや硬い。
1: 硬いと感じる。
●身の食感評価
5: ぷりぷりしている。
4: ぷりっとしている。
3: かたい。
2: 繊維感が残る。
1: ぼそぼそする。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
表2及び表3に示すように、本発明では、幅広い濃度範囲で殻の食感の軟化と、身の食感の低下防止を図ることができることが判る。
また有機酸及び重曹の濃度を8%とは異なる別濃度とした場合も、8%の場合と同様、浸漬液を水切りしただけで洗浄せずに油調したにもかかわらず、各実施例のエビは異味がなく、白濁等の不自然な変色も確認されなかった。
【0047】
(実施例1-2、1-3:有機酸と炭酸塩の量比を変更)
実施例1-1において、炭酸塩の量は変更せず、クエン酸の量を表4に示すように変更した以外は実施例1-1と同様として殻付き喫食用エビを製造した。得られたエビについて、奥歯で咀嚼したときの殻の硬さ、殻の口残り感、身の食感評価、殻の食感評価IIを上記と同様に行った。結果を表4に示す。表4のpHは浸漬液のpHである。
【0048】
【表4】
【0049】
実施例1-1と同じ方法にて得られた殻付き喫食用エビについて、一部を浸漬液に浸漬後、液切りして冷凍した後、解凍した。また残りの一部をバッター液に漬け、180℃の食用油で3分間油調した。得られた殻付きエビ(未加熱品、及び加熱済み品)について、以下のようにしてクエン酸量を測定した結果、未加熱品のクエン酸含量はエビ100g当たり、1,600mg/100gであり、油調済み品のクエン酸含量は1,700mg/100gであった。
(クエン酸量の測定方法)
試料をミキサーで粉砕、均質化し、調製試料とした。調製試料を一部採取し、精製水を加え振とうした。遠心分離した上澄みをろ過し、残渣に精製水を加え、同操作を繰り返した。上澄み液を合わせ、定容、適宜希釈を行い、試験溶液とした。試験溶液をHPLCに注入し、クロマトグラムを得た。クエン酸標準溶液及び試験溶液のクエン酸のピーク面積から、試料100gあたりのクエン酸含有量を求めた。
HPLCとしては、株式会社 島津製作所、機種名:Prominenceを用いた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、身の食感の劣化を抑制しつつ、殻ごと喫食したときに奥歯で咀嚼したときの殻の硬さが効果的に低減され、殻の口残り感が抑制されるほか、異味が無い殻付き喫食用エビが提供される。
【要約】
本発明は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び乳酸から選ばれる少なくとも一種の有機酸と、炭酸塩とを含む浸漬液に未加熱状態の殻付きエビを浸漬させる、殻付き喫食用エビの製造方法である。炭酸塩が炭酸水素ナトリウムであることが好ましい。前記浸漬液の調製に用いる前記有機酸の量が、2質量%以上であることも好ましい。前記浸漬液のpHが4以上7以下であることも好ましい。前記有機酸の量が、前記浸漬液中、4質量%以上10質量%以下であり、前記炭酸塩の量が、前記浸漬液中4質量%以上10質量%以下であることも好ましい。