(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】変換可能なプラズマ源および方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/26 20060101AFI20240626BHJP
A61B 18/14 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H05H1/26
A61B18/14
(21)【出願番号】P 2022503984
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 CA2020051067
(87)【国際公開番号】W WO2021022371
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-10-21
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510303442
【氏名又は名称】ザ ロイヤル インスティテューション フォー ザ アドバンスメント オブ ラーニング/マクギル ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】522025569
【氏名又は名称】ネクスプラズマジェン インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NEXPLASMAGEN INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボワヴェール,ジーン-セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】レヴェイユ,ヴァレリー
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-129484(JP,A)
【文献】特開2003-100733(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0029500(US,A1)
【文献】仁宮一章、他,非平衡大気圧プラズマジエットにより誘導される 細胞内、細胞外のOHラジカル生成と細胞殺傷効果の評価,第75回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集,日本,応用物理学会,2014年09月17日,08-175,20p-S8-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
B01J 10/00-12/02、14/00-19/32
A61N 1/00-1/44
A61B 18/00-18/18
A61F 7/00-7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ源であって、
一定幅のギャップおよび誘電体障壁によって分離された第1の中空電極および第2の中空電極
と、
ガス供給ユニットを備え、
第1の破壊電圧を有するプラズマ形成ガスおよび前記第1の破壊電圧よりも大きい第2の破壊電圧を有する非プラズマ形成ガスを提供して、前記プラズマ源が、第1の構成および第2の構成のいずれか1つでプラズマを選択的に産生するように構成され、
i)前記第1の構成において、
前記プラズマ形成ガスが、前記ギャップ内を流れ、一方で、前記非プラズマ形成ガスが、前記第1の中空電極内を流れ、
ii)前記第2の構成において、前記プラズマ形成ガスが、前記第1の中空電極内を流れ、前記非プラズマ形成ガスが、前記ギャップ内を流れ
、
前記ガス供給ユニットが、前記第1の構成および前記第2の構成において、前記プラズマ源を選択的に動作させる、
プラズマ源。
【請求項2】
前記プラズマ形成ガスが、ヘリウム、アルゴン、ネオン、N
2、O
2、空気およびH
2のうちの1つである、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項3】
前記非プラズマ形成ガスが、アルゴン、ネオン、N
2、O
2、空気およびH
2のうちの1つである、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項4】
反応性種の源が、i)前記プラズマ形成ガス、およびii)前記非プラズマ形成ガスのうちの少なくとも1つに注入される、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項5】
反応性種の源が、i)前記プラズマ形成ガス、およびii)前記非プラズマ形成ガスのうちの少なくとも1つに注入され、前記反応性種の源が、N
2、O
2、空気、気体状の化合物、蒸気およびエアロゾルのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項6】
前記第1の中空電極および
前記第2の中空電極のうちの少なくとも1つが、通電電極である、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項7】
前記第1の中空電極が、同軸配置で前記第2の中空電極内の中心にある、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項8】
前記第1の中空電極が、同軸配置で前記第2の中空電極内の中心にあり、前記第2の中空電極が、5mm~1mの範囲の長さを有し、前記第1の中空電極が、前記第2の中空電極内で後退し、プラズマが、100Hz~100MHzの範囲の正弦波励起周波数を有する電圧波形によって誘導される、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項9】
前記第1の中空電極が、同軸配置で前記第2の中空電極内の中心にあり、前記第2の中空電極が、5mm~1mの範囲の長さを有し、前記第1の中空電極が、前記第2の中空電極内で少なくとも1mm後退し、プラズマが、100Hz~100MHzの範囲の正弦波励起周波数を有する電圧波形によって誘導される、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項10】
前記第1の中空電極が、同軸配置で前記第2の中空電極内の中心にあり、前記第2の中空電極が、5mm~1mの範囲の長さを有し、前記第1の中空電極が、前記第2の中空電極内で少なくとも1mm後退し、プラズマが、100Hz~100MHzの範囲の正弦波励起周波数を有する電圧波形によって誘導され、前記プラズマ源が、0.1W/cm
3~500W/cm
3の範囲のプラズマ電力密度で動作する、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項11】
前記第1の中空電極が、同軸配置で前記第2の中空電極内の中心にあり、前記第2の中空電極が、5mm~1mの範囲の長さを有し、前記第1の中空電極が、前記第2の中空電極内で少なくとも1mm後退し、プラズマが、100Hz~100MHzの範囲の正弦波励起周波数を有する電圧波形によって誘導され、前記第2の構成において、前記ギャップ内の前記非プラズマ形成ガスが静的容積である場合、前記プラズマ形成ガスが、少なくとも0.1slmの流量で、前記第1の中空電極を充填するようになっている、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項12】
前記ガス供給ユニットが、i)
前記ギャップおよびii)
前記第1の中空電極のうちの1つへの前記プラズマ形成ガスの注入を制御し、かつ、i)前記第1の中空電極およびii)前記ギャップのうちの1つへの前記非プラズマ形成ガスの注入を制御する、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項13】
前記ガス供給ユニットが、i)前記プラズマ形成ガスを前記ギャップに、かつ、前記非プラズマ形成ガスを前記第1の中空電極に誘導すること、および、ii)前記プラズマ形成ガスを前記第1の中空電極に、かつ、前記非プラズマ形成ガスを前記ギャップに誘導することのうちの1つを選択的に行う、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項14】
前記ガス供給ユニットが、前記プラズマ形成ガスと混合された反応性種の源の選択的な注入をさらに制御する、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項15】
前記プラズマ形成ガスが、前記プラズマ源をパージするために前記第1の構成と前記第2の構成との間で切り替えるときに、流れるようになっている、請求項1に記載のプラズマ源。
【請求項16】
がん細胞を標的とする、請求項1に記載のプラズマ源の使用。
【請求項17】
AU565、MDA-MB-231、MDA-MB-361 MDA-MB-468、MDA-MB-157、MDA-MB-175-VII、BT-549、MCF-7、HS578T、HCC1428、HCC1569、HCC1954、T47DおよびZR-75-1乳がん細胞株、STS117およびSTS109軟組織肉腫細胞株のうちの少なくとも1つを標的とする、請求項1に記載のプラズマ源の使用。
【請求項18】
腫瘍切除後の腫瘍床におけるがん細胞を標的とする、請求項1に記載のプラズマ源の使用。
【請求項19】
手術後に創傷を消毒すること、治癒を促進すること、傷跡のサイズを減少させることのうちの1つを行うための、請求項1に記載のプラズマ源の使用。
【請求項20】
プラズマ活性液を産生するための、請求項1に記載のプラズマ源の使用。
【請求項21】
i)低浸透深度を有する低電力密度プラズマを生成するための前記第1の構成、および、ii)高浸透深度を有する高電力密度プラズマを生成するための前記第2の構成のうちの1つにおける、請求項1に記載のプラズマ源の使用。
【請求項22】
一定幅の前記ギャップによって、
前記第2の中空電極から分離された
前記第1の中空電極に第1のガスを注入することと、印加された電力の下で
前記ギャップに第2のガスを注入することと、を含み、前記第1および第2のガスが、異なる破壊電圧を有する、細胞傷害性反応性種を産生するための、請求項1に記載のプラズマ源の使用。
【請求項23】
一定幅の前記ギャップによって、
前記第2の中空電極から分離された
前記第1の中空電極に第1のガスを注入することと、印加された電力の下で
前記ギャップに第2のガスを注入することと、を含み、前記第1および第2のガスが、異なる破壊電圧を有する、反応性種を産生するための、請求項1に記載のプラズマ源の使用。
【請求項24】
一定幅のギャップおよび誘電体障壁によって分離された第1の中空電極および第2の中空電極を提供することと、
第1の破壊電圧を有する
プラズマ形成ガスおよび前記第1の破壊電圧よりも大きい第2の破壊電圧を有する非プラズマ形成ガスを選択することと、
ガス供給ユニットを提供することと、
前記ガス供給ユニットを使用することによって、
i)前記ギャップに前記プラズマ形成ガスを、前記第1の中空電極内に前記非プラズマ形成ガスを注入することと、
ii)前記第1の中空電極内に前記プラズマ形成ガスを注入することであって、前記非プラズマ形成ガスが前記ギャップ内を流れる、ことと、
のうちのいずれか1つ
が行われて、プラズマを選択的に産生することと、を含む、プラズマ生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ源に関する。より具体的には、本発明は、変換可能なプラズマ源および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非熱的大気圧プラズマは、過去数十年の間に、ますます興味を持って調査されてきた。特に、近年の研究は、農業、食品加工、および医学などの生物学の異なる小領域への応用に注力している。
【0003】
ほとんどのプラズマ源は、ガス流量、ガス組成物および印加された電力などの制御パラメータを使用して最適化され得るプラズマを維持するが、産生されたプラズマの特性を重要に変更する能力を有するプラズマ源はほとんどない。実際には、ガス流量、ガス組成物および印加された電力を変化させることは、プラズマの非熱的性質、すなわち、これらのパラメータが特定の閾値を超えるときの室温をはるかに上回る温度の急激な増加によって定義されるように、典型的には、限られた範囲内でのみであるが、電子密度およびエネルギーなどのプラズマ特性を変化させ得る。
【0004】
励起波形を修正することは、プラズマパラメータのより良い制御を得るために使用されてもよく、例えば、単一のプラズマ源を使用して放電を室温近くに維持しながら、周波数をkHzからMHzに増加させることによって、時間および空間の平均電子密度を3桁増加させ得る。ナノ秒パルス放電ならびに三角形および鋸歯波形などの他の非正弦波形も、プラズマの特性を調整するために使用され得る。しかし、これらの方法は通常、ナノ秒パルサーまたは空芯カスタム変圧器などの特殊な機器を必要とし、性質を任意に調整するためには複数の電力システムが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当技術分野では、依然としてプラズマ源および方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
より具体的には、本発明によれば、プラズマ源であって、一定幅のギャップおよび誘電体障壁によって分離された第1の中空電極および第2の中空電極を備え、第1の破壊電圧を有するプラズマ形成ガスおよび第1の破壊電圧よりも大きい第2の破壊電圧を有する非プラズマ形成ガスを提供して、プラズマ源が、第1の構成および第2の構成のうちのいずれか1つにおいて、プラズマを選択的に産生するように構成され、i)第1の構成では、プラズマ形成ガスがギャップ内を流れる一方で、非プラズマ形成ガスが第1の中空電極内を流れ、ii)第2の構成では、プラズマ形成ガスが第1の中空電極内を流れ、非プラズマ形成ガスがギャップ内を流れる、プラズマ源が提供される。
【0007】
一定幅のガスギャップによって、第2の中空電極から分離された第1の電極に第1のガスを注入することと、印加された電力の下でガスギャップに第2のガスを注入することと、を含み、第1および第2のガスが、異なる破壊電圧を有する、細胞傷害性反応性種の産生方法がさらに提供される。
【0008】
一定幅のガスギャップによって、第2の中空電極から分離された第1の電極に第1のガスを注入することと、印加された電力の下でガスギャップに第2のガスを注入することと、を含み、第1および第2のガスが、異なる破壊電圧を有する、反応性種の産生方法がさらに提供される。
【0009】
異なる破壊電圧の少なくとも2つのガスを選択することと、一定幅のガスギャップによって、第2の中空電極から分離された第1の電極に第1のガスを注入することと、印加された電力の下でガスギャップに第2のガスを注入することと、を含む、プラズマ生成方法がさらに提供される。
【0010】
本発明の他の目的、利点および特徴は、添付の図面を参照してのみ例として与えられる、以下の特定の実施形態の非限定的な説明を読むとより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付図は以下の通りである。
【0012】
【
図1】本開示の一態様の実施形態による、プラズマ源の回路の概略図である。
【0013】
【
図2A】本開示の態様の一実施形態による、第1の構成で動作中の
図1のプラズマ源の概略断面図である。
【0014】
【
図2B】本開示の態様の一実施形態による、
図1のプラズマ源の概略断面図である。
【0015】
【
図2C】本開示の態様の一実施形態による、第2の構成で動作中の
図1のプラズマ源の概略断面図である。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【
図3A】本開示の一態様の実施形態による、ガス供給ユニットの概略図である。
【0020】
【
図3B】本開示の一態様の実施形態による、ガス供給ユニットの概略図である。
【0021】
【
図3C】本開示の一態様の実施形態による、ガス供給ユニットの概略図である。
【0022】
【
図4A】発電機に4.3slmのヘリウムおよび10Wの電力を有する、Ωモードの第1の構成での光学発光スペクトルを示す。
【0023】
【
図4B】発電機に4.3slmのヘリウムおよび35Wを有する、γモードの第1の構成での光学発光スペクトルを示す。
【0024】
【
図4C】発電機に0.6slmのヘリウムおよび35Wを有する、第2の構成での光学発光スペクトルを示す。
【0025】
【
図5A】発電機に25Wを、中央電極と接地電極との間のギャップ内に4.3slmのヘリウムガス流量を有し、中央電極に0.05slmのO
2が注入された、または中央電極と接地電極との間のギャップに0.002slmのO
2が注入されたγモードにおける第1の構成でのプラズマの発光スペクトルを示す。
【0026】
【
図5B】発電機に25Wを、中央電極と接地電極との間のギャップ内に4.3slmのヘリウムガスの流れを有するγモードにおける第1の構成での放電の光学発光に対するO
2の注入場所の影響を示す。
【0027】
【
図6A】プラズマ点火を制御するためのパルスガス流の例を示す。ヘリウム流量は4.3slmに設定されている。
【0028】
【
図6B】ガスパルスによって制御されるプラズマ点火中のガス流の軸に沿った可視光発光を示す。プロトタイプは第1の構成で設定され、ヘリウム流量は2秒間で4.3slmに設定され、発電機の電力は35Wに設定されている。
【0029】
【
図7A】1.5mlのマイクロチューブ内の400μlのDMEM中の懸濁液中のMDA-MB-231細胞株を第1の構成でプラズマに曝露した6日後の正規化細胞数を示す。ヘリウム流量は4.3slmであり、発電機での電力は10Wであり、ノズルの先端から液面までの距離は5mmである。
【0030】
【
図7B】1.5mlのマイクロチューブ内の400μlのDMEM中の懸濁液中のMDA-MB-231細胞株を第1の構成でプラズマに曝露した6日後の正規化細胞数を示す。ヘリウム流量は4.3slmであり、発電機での電力は20Wであり、ノズルの先端から液面までの距離は5mmである。
【0031】
【
図7C】1.5mlのマイクロチューブ内の400μlのDMEM中の懸濁液中のMDA-MB-231細胞株を第2の構成でプラズマに曝露した6日後の正規化細胞数を示す。ヘリウム流量は0.6slmであり、発電機での電力は35Wであり、ノズルの先端から液面までの距離は5mmである。
【0032】
【
図8】1.5mlのマイクロチューブ内の400μlのDMEM中の懸濁液中の異なる細胞株を第2の構成でプラズマに曝露した6日後の成長速度阻害(GR)値を示す。ヘリウム流量は0.6slmであり、発電機での電力は35Wであり、ノズルの先端から液面までの距離は5mmである。
【0033】
【
図9A】ノズルの端部から5mmのペトリ皿の底部にMDA-MB-231細胞株を有するΩモードの第1の構成で処理した直後のヨウ化プロピジウム染色を有する細胞の蛍光顕微鏡画像を示し、発電機での電力は10Wであり、4.3slmの名目上純粋なヘリウムは、4.3slmの名目上純粋なヘリウムのみ(ガス)に対して、プラズマ形成ガス(プラズマ)として注入される。
【0034】
【
図9B】ノズルの端部から5mmのペトリ皿の底部にMDA-MB-231細胞株を有するγモードの第1の構成で処理した直後のヨウ化プロピジウム染色を有する細胞の蛍光顕微鏡画像を示し、発電機での電力は35Wであり、4.3slmの名目上純粋なヘリウムは、4.3slmの名目上純粋なヘリウムのみ(ガス)に対して、プラズマ形成ガス(プラズマ)として注入される。
【0035】
【
図9C】ノズルの端部から5mmのペトリ皿の底部にMDA-MB-231細胞株を有する第2の構成で処理した直後のヨウ化プロピジウム染色を有する細胞の蛍光顕微鏡画像を示し、発電機での電力は35Wであり、0.6slmの名目上純粋なヘリウムは、4.3slmの名目上純粋なヘリウムのみ(ガス)に対して、プラズマ形成ガス(プラズマ)として注入される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに詳細に例示される。
【0037】
本開示の態様によれば、プラズマ源は、ガスギャップ(GG)および誘電体障壁(DB)によって分離された第1および第2の電極を備える。2つの電極の各々は、ガス流を含有するように構成され、したがって、本明細書では中空と呼ばれる。
【0038】
本明細書に示される実施例では、第1の電極は通電電極(PE)であり、第2の電極は接地電極(GE)である。あるいは、両方の電極に通電されてもよく、異なる励起波によって供給される二重励起およびしたがって2つの電極が使用されてもよい。
【0039】
さらに、本明細書に示される実施例では、プラズマ源は、同軸配置で示され、通電電極(PE)は、接地電極(GE)として外部中空接地電極内の中心にある中空電極である。例えば、一定の厚さを有する中央電極(PE)と誘電体障壁誘電体(DB)との間のガスギャップ(GG)を有する、正方形(
図10A)、平面間(
図10B)、ガスガイド(Gg)を使用して形成されるガスギャップ(GG)、または曲面間(
図10C)の配置などの代替的な配置が企図されてもよい。
【0040】
図1は、本開示の態様の一実施形態による、プラズマ源の横断面図である。
【0041】
中央中空電極(PE)は、放電を点火するために通電されている。本明細書の実施例では、正弦波形の電圧が、約5MHz~約20MHzの範囲の周波数、例えば13.56MHzの周波数で使用される。例えば、正方形、三角形、および鋸歯形状などの他の励起波形が使用されてもよく、周波数は、以下に記載されるプラズマ源構成における放電を依然として維持することを可能にしながら、異なる放電力学および異なる産生プラズマ特性を有する約100Hz~約100MHzの範囲内で選択されてもよい。約100Hz~約100MHzの範囲を超える周波数も考慮されてもよく、プラズマ源は、0.1W/cm3~500W/cm3の範囲のプラズマ電力密度で動作する。
【0042】
本開示の一態様の実施形態によれば、第1の構成では、プラズマ形成ガス(G)は、中央電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間に形成されるガスギャップ(GG)に注入され、非プラズマ形成ガス(NG)は、中央電極(PE)の中央ギャップ(CG)に注入される。
【0043】
N
2、O
2、空気、気体状の化合物、蒸気およびエアロゾルなどの反応性種(R)の源は、流動残光(FA)または流出ゾーン(RZ)において反応性種を選択的に生成するために、プラズマ形成ガス(G)と一緒に中央電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間に、かつ/または非プラズマ形成ガス(NG)と一緒に中央電極(PE)内に形成されるガスギャップ(GG)(
図2A、2Dを参照)に注入されてもよい。
【0044】
非プラズマ形成ガス(NG)は、反応性種(R)の源であってもよく、このような場合、プラズマ形成ガス(G)をパルス化することによって、プラズマ非形成ガス(NG)の濃度を増加させてもよい。例えば、以下で説明する
図6に示されるように、例えば、プラズマ形成ガスがガスギャップ(GG)に存在するかどうかに応じて、プラズマがオンおよびオフになる。この特定の場合、非プラズマ形成ガス(NG)は周囲空気であり、プラズマ形成ガス(G)の流れが切断されるとすぐに、非プラズマ形成ガス(NG)はプラズマ源全体を充填し、プラズマは消滅する。
【0045】
この第1の構成では、13.56MHz正弦波励起波形で通電された
図2B、2Eのプラズマ源を使用して、中央電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間に形成されたガスギャップ(GG)内にプラズマ形成ゾーンを形成し、プラズマ産生反応性種(P)は、ガスの巻き込みによって、プラズマ源の出口へ、かつ外向きに下流に吹き出される(
図2Dの矢印を参照されたい)。放電を開始する供給電力では、プラズマ形成ガスの性質、ならびに非プラズマ形成ガス(NG)のフラックスおよび濃度に応じて、第1のモード(以下に説明するγモード)では、プラズマ(P)が電界からのエネルギー供給を有さない反応性流動残光(FA)がプラズマ源の出口で観察される。反応性流動残光(FA)は、非蛍光流出反応性ゾーン(RZ)に終わる。この第1のモードでは、プラズマ源内の中央電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間に形成されたガスギャップ(GG)内で産生された大きなプラズマ容積は、したがって、以下で説明するように、例えば、治療に使用されてもよい反応性蛍光反応性流動残光(FA)および非蛍光流出反応性ゾーン(RZ)を含む反応性ゾーンにプラズマ源の外側に輸送される反応性種を生成する。第2のモード(以下で説明するΩモード)では、流動残光(FA)は観察されないが、非蛍光流出反応性ゾーン(RZ)内のプラズマ源の出力で反応性種が産生される。
【0046】
第2の構成では、プラズマ形成ガス(G)は、中央電極(PE)内の中央ギャップ(CG)内に注入され、非プラズマ形成ガス(NG)は、中央電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間のガスギャップ(GG)内に注入される。
【0047】
N
2、O
2、空気、気体状の化合物、蒸気およびエアロゾルなどの反応性種(R)の源は、流動残光(FA)または流出ゾーン(RZ)において反応性種を選択的に生成するために、非プラズマ形成ガス(NG)と共に中央電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間に形成されるガスギャップ(GG)に注入され、かつ/またはプラズマ形成ガス(G)と共に中央ギャップ(CG)(
図2Cおよび2F)に注入されてもよい。
【0048】
したがって、第2の構成(
図2C、2F)で設定された場合、
図2B、2Eのプラズマ源は、13.56MHz正弦波励起波形で通電され、中央電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間のガスギャップ(GG)でプラズマが生成される第1の構成(
図2A、2D)で設定された場合とは対照的に、
図2Fに示すように、中央電極(PE)の出口で噴出モードでプラズマ(P)を産生し、プラズマ源の長手方向軸に沿って濃縮される。
【0049】
本開示の態様の一実施形態によれば、ガス供給ユニットは、非プラズマ形成ガス(NG)の第1の電極内または第1の電極と誘電体障壁(DB)との間のガスギャップ(GG)内への注入を制御しながら、第1の電極内または第1の電極と誘電体障壁(DB)との間のガスギャップ(GG)内でプラズマ形成ガス(G)の注入を制御することによって、第1の構成または第2の構成を選択的に可能にするために使用される。
図3Aは、本開示の一態様の実施形態による、プラズマ形成ガス(G)としてヘリウムを、かつ非プラズマ形成ガス(NG)として周囲空気を使用して、プラズマを生成するためのガス供給ユニットを示す。ヘリウムシリンダ(He)は、3方向弁を介してプラズマ源に接続され、例えば、3方向弁の第1の位置は、周囲空気が第1の電極(PE)を充填することを可能にしながら、プラズマ源のガスギャップ(GG)内でヘリウムを誘導し、したがって、プラズマ源を第1の構成に設定する。第1の電極(PE)内のヘリウムを誘導する3方向弁の第2の位置は、周囲空気がプラズマ源のガスギャップ(GG)を充填することを可能にしながら、プラズマ源を第2の構成に設定する。
【0050】
ガス供給ユニットが
図3Bに示され、プラズマ形成ガス(G)としてヘリウムを、かつ非プラズマ形成ガス(NG)としてO
2を使用することは、例えば、ボール弁と、ヘリウム供給線と、O
2供給線と、を備え、質量流れコントローラのために放置されたMFCが、ボール弁のガス入力に接続されている。ボール弁は、第1の電極(PE)のギャップ(CG)または第1の電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間のガスギャップ(GG)のいずれかにガスを誘導するように動作してもよい。
【0051】
図3Cは、例えば、プラズマ形成ガス(G)としてヘリウムを、かつ非プラズマ形成ガス(NG)としてN
2またはO
2を選択的に注入するためのガス供給ユニットの概略図である。第1の3方向弁は、例えば、ヘリウムから分離された、もしくはヘリウムと混合されたO
2もしくはN
2を選択的に注入すること、またはO
2/N
2を注入しないことを可能にし、4方向クロスオーバー弁は、例えば、プラズマ形成(G)を第1の電極(PE)に、かつ非プラズマ形成ガス(NG)を第1の電極(PE)と第2の電極(PE)との間のガスギャップ(GG)に誘導するために、またはその逆に使用され、第2の3方向弁は、例えば、O
2、N
2、またはなしのいずれかの反応性ガスを選択するために使用され、第3の3方向弁は、例えば、プラズマ源の構成を切り替えるときに、ヘリウムを全ガス供給ユニットに通し、O
2およびN
2の線をパージすることを可能にする。
【0052】
本開示の一態様の実施形態による方法は、非プラズマ形成ガス(NG)および非プラズマ形成ガス(NG)よりも低い破壊電圧を有するプラズマ形成ガス(G)を選択することと、一定の厚さのガスギャップ(GG)および誘電体障壁(DB)によって第2の電極から分離された第1の電極内にプラズマ形成ガス(G)および非プラズマ形成ガス(NG)を流動させることと、プラズマ形成ガス(G)または非プラズマ形成ガス(NG)のうちのいずれが所与の時間に第1の電極内を流動するかを選択することと、放電を開始することと、を含む。
【0053】
周囲空気中で動作する場合、停滞した周囲空気は、プラズマ形成ガスまたは非プラズマ形成ガスのいずれかとして使用されてもよい。
【0054】
反応性種(R)ガスの担体がさらに選択され、流動残光(FA)または流出ゾーン(RZ)において反応性種を選択的に生成するために、i)プラズマ形成ガス(G)、およびii)非プラズマ形成ガス(NG)のうちの少なくとも1つを注入されてもよい。
【0055】
いずれのガスも、例えば、予め混合されたガス、化学前駆体、蒸気および水を含むガスの組み合わせであってもよい。
【0056】
低い破壊電圧ガスおよびプラズマ形成ガス(G)としてヘリウムを、かつ空気、分子酸素(O2)または分子窒素(N2)を非プラズマ形成ガス(NG)およびより高い破壊電圧ガスならびに反応性種ガス(R)の担体として使用して、実験を行った。試験されたガスの組み合わせはHe-空気、He-O2、He-N2であった。例えば、He-Ar、He-Ne、Ne-Ar、Ne-空気、Ne-O2、Ne-N2、Ar-空気、Ar-O2、およびAr-N2などの他のガスの組み合わせ、ならびに例えば、予め混合されたガス、化学前駆体、蒸気および水を含む組み合わせが使用されてもよい。
【0057】
実験では、4mmの内径および6mmの外径を有する316ステンレス鋼チューブは、外部電極(PE)として使用され、誘電体障壁(DB)は、内径3mmおよび外径4mmを有する溶融シリカチューブであり、中央電極(PE)は、内径0.686mmおよび外径1.067mmを有するステンレス鋼針であった(
図2Bを参照)。それぞれ内径0.4064mmまたは外径1.1938mm、および内径0.7112または外径1.615mmを有する針もまた、これらの配置に使用され得る。
【0058】
図2Bのプラズマ源を使用すると、プラズマは、5mmの長さL
2および1mmの直径φ
2を有してもよい(
図2Eを参照)。通電電極14および接地電極18の相対径は、それらの間のガスギャップが電極間のほぼ均一な電界を維持し、したがって内部構成においてΩモードを維持することを可能にするように選択されたことが見出された。本実施例(
図2)では、したがって、通電電極14の外径は、ガスギャップがプラズマの開始を可能にするために少なくとも約100マイクロメートルであるように、最大でも約2.8mmで選択される。
【0059】
図2Bに概略的に示されるように、例えば、中央電極(PE)は、局所電界が第2の構成におけるプラズマ源の出力でプラズマ容積(P)を産生するのに十分に強いように、外部電極(PE)よりもわずかに、約1.5mm短いように選択された。より短い中央電極(PE)の場合、反応性ゾーン(RZ)、流動残光(FA)、またはプラズマ(P)の流出物は、例えば、外部電極の標的治療ゾーンへの出口に到達しない場合がある。プラズマは、より長い中央電極(PE)で開始されてもよく、このような場合、第2の構成における電界の形状は、例えば、電子密度およびエネルギーなどの異なる処理特性への応用のために、コロナ放電の電界の形状に向かって変化してもよい。放電がγモードにない場合、2つの電極間に印加される電界の形状は、中央電極(PE)と外部電極(PE)との間で本質的に均一であり、中央電極(PE)の端部にわずかな強調がある。
【0060】
本方法は、対象とするプラズマの容積、分布、および特性に従って、選択されたガスの印加された電力、ガスおよび流れを選択することを含む。
【0061】
例えば、
図3Aのガス供給ユニットを使用して、プラズマ形成ガス(G)が中央電極(PE)と外部電極(PE)との間のガスギャップ(GG)に注入され、非プラズマ形成ガス(NG)が中央ギャップ(CG)に注入される第1の構成が選択されてもよい。
【0062】
本実施例では、プラズマ形成ガスがヘリウムであり、放電を維持するために中央電極(PE)に印加される電圧が最小電圧に近い場合、プラズマはΩモードで生成され、中央電極(PE)と外部電極(PE)との間のガスギャップ(GG)において半径方向に均一な電界および可視的な着色によって特徴付けられる。Ωモードは、冷却システムまたは方法を必要とせずに維持されてもよい。反応性ゾーン(RZ)で産生される反応性種は、例えば、液体、表面、または生物学的液体、表面、細胞、組織、および基材を含む基材に誘導され得る。
【0063】
印加された電力が最小破壊電圧に到達するために必要な閾値電力よりも著しく大きい場合、例えばヘリウムの2倍の場合、放電は、γモードで持続され得、中央電極(PE)と外部電極(PE)との間のガスギャップ(GG)において放射状に不均一な電界および視覚的側面によって特徴付けられ、典型的には、電界強度は、中央電極(CR)に向かって増加し、より多くの電子が放射状状態でヘリウム原子を励起するのに十分なエネルギーを有するにつれて、
図4Bおよび
図4Aに見られるように、色は(紫色からピンクがかった色に)変化する。γモードは、Ωモードよりもエネルギーが高く、プラズマ源の出口に流動残光(FA)を生じさせ、これは、例えば、液体、表面または生物学的液体、表面、細胞、組織を含む基材を直接処理するために使用され得る。
【0064】
ガス温度は、調節可能なデューティサイクルを有するオン/オフタイプの高速サイクルに従って印加された電力を変調することによって、周囲温度に近い状態で制御されてもよい。デューティサイクルは、変調周波数に応じて、1~99%まで変化し得る。約1Hz~約30kHzの範囲の変調周波数値が効率的に試験され、より広い範囲が使用されてもよい。約1kHzを超えると、プラズマ再点火は、前の変調サイクルメモリ効果の影響を受けてもよい。
【0065】
放電がΩモードにあるかγモードにあるかにかかわらず、反応性種(R)の源は、流動残光(FA)または流出ゾーン(RZ)で反応性種を選択的に生成するために、プラズマ形成ガス(G)内、非プラズマ形成ガス(NG)内、またはプラズマ形成ガス(G)および非プラズマ形成ガス(NG)の両方内に注入されてもよい。
【0066】
第1の構成は、大面積にわたる治療を可能にする。例えば、
図2Bのプラズマ源を有する流動残光(FA)または流出ゾーン(RZ)、すなわち治療面積は、3mmの直径φ
1を有する。第1の構成では、流動残光(FA)は、約3mmの長さL
1を有してもよい(
図2Dを参照)。
【0067】
第2の構成では、プラズマ形成ガス(G)が中央ギャップ(CG)に注入され、非プラズマ形成ガス(NG)が、中央電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間、したがってガスギャップ(GG)に注入されるか、または周囲空気が、中央電極(PE)と誘電体障壁(DB)との間、したがってガスギャップ(GG)内の間の空間を自然に充填する(
図2Fを参照)。
【0068】
印加された電力が、プラズマ形成ガス(G)の破壊を可能にするのに十分に高い電圧を維持するのに十分な高さであるが、非プラズマ形成ガス(NG)を破壊しないのに十分な低さである場合、誘電体障壁(DB)と中央電極(PE)との間、またはガスギャップ(GG)内でプラズマ容積は生成されない。対照的に、プラズマ形成ガス(G)および中央電極(PE)の外側端部の電界の同時存在のゾーンは、プラズマ容積(P)を含有する。このプラズマ容積は小さいため、第2の構成では、放散電力密度が高くてもよく、ガス温度は周囲温度に近いままである。結果として、上述のように、100%未満のデューティサイクルを有する変調周波数などの冷却システムまたは方法は必要とされない。
【0069】
実際、一定の電力で、プラズマ源に入るガスは、ほぼ周囲温度であるため、ガスの加熱は、プラズマ源内で費やされる時間の関数である。本明細書で使用されるパラメータを考慮すると、ガスの試料は、第1の構成のプラズマ(P)において、第2の構成よりも約3倍多く通過するため、第1の構成では、第2の構成と比較してガスの加熱が増加する。冷却側では、直接またはプラズマ源の壁を通して、周囲空気などの冷たい源と接触するプラズマの表面が大きいほど、したがって、プラズマ容積に対してこの接触面が大きいほど、冷却がより効果的である。本明細書に示すパラメータを考慮すると、表面/容積比は、第2の構成では、第1の構成よりも約2倍大きい。
【0070】
第2の構成では、誘電体障壁(DB)と中央電極(PE)との間のガスギャップ(GG)に注入された非プラズマ形成ガス(NG)は、対象とする反応性種を最適化するために、または生成されたプラズマ容積を周囲空気から分離するように選択されてもよい。
【0071】
第2の構成では、反応性種(R)の源は、混合物としてプラズマ形成ガス(G)内に、もしくは非プラズマ形成ガス(NG)内に、またはその両方に注入され得る。
【0072】
図2Bの例では、第2の構成では、プラズマは、5mmの長さL
2および1mmの直径φ
2を有してもよい(
図2Fを参照)。
【0073】
中央電極(PE)および外部電極(PE)の相対径は、ガスギャップ(GG)が電極間のほぼ均一な電界を維持し、したがって第1の構成においてΩモードを維持するように選択されていることが見出された。本実施例(
図2)では、したがって、中央電極(PE)の外径は、ガスギャップ(GG)がプラズマの開始を可能にするために少なくとも約100μmであるように、最大でも約2.8mmで選択される。
【0074】
したがって、本方法は、異なる破壊電圧の、蒸気もしくは周囲空気または他のガスであってもよい少なくとも2つのガスを選択することと、一定幅のガスギャップによって、第2の電極から分離された第1の電極に少なくとも第1のガスを注入することと、ガスギャップに第2のガスを注入することと、を含む。
【0075】
肉眼、カメラまたは分光器で観察すると、産生された発光の配置、強度、および主波長は、プラズマ源が第1の構成で動作するか、または第2の構成で動作するかに依存する。光学発光分光法の結果は、生成されたプラズマおよび流出物の根本的構成要素の異なる性質、密度およびエネルギーに起因して、第1の構成および第2の構成において、原子および分子の遷移ならびにそれらの強度が、200~880nmの範囲内で異なることを示す(
図4を参照)。
【0076】
図4に見ることができるように、本開示の態様によるデバイスは、その動作構成に応じて異なる光学発光スペクトルを生成する。第1の構成では、Ωモードでの主発光は、OH分子発光(306nm付近のバンドヘッド)ならびにヘリウムおよび酸素原子線発光(それぞれ706nmおよび777nm付近の中心)である(
図4A)。このγモードでは、He線(706nm付近の中心)が主発光となり、他のすべてのヘリウム発光が優先的に増加する(
図4B)。第2の構成では、Ωおよびγモードとは対照的に、N
2分子発光がスペクトルを支配する(
図4C)。第1の構成から第2の構成まで、He線比は増加する(706nmの中心波長に対して587nmの中心波長、および728nmの中心波長に対して668nmの中心波長)。大気圧低温ヘリウム放電において、これらの線比は電子エネルギーの良好な指標であり、電子エネルギーは、以下の表1に示すように、Ωモード(第1の構成)からγモード(第1の構成)へ、第2の構成へと増加することが予想される。
【表1】
【0077】
図5は、中央電極(PE)と外部電極(PE)との間のガスギャップ(GG)において、25Wの印加された電力、4.3slmのヘリウムガス流量を有するγモード(第1の構成)における放電の光学発光に対するO
2の流れの影響を示す。原子酸素の光学発光(中心波長777nm)も示されている。
図5Aから見ることができるように、中央電極(PE)と外部電極(PE)との間のギャップ(GG)内のプラズマ形成ガスGを用いたO
2の注入は、中央ギャップ(CG)内のO
2の注入と比較して、酸素線発光の強度を最大化する。対照的に、例えばHeのような他の発光は、プラズマ形成ガス(G)を用いたO
2の注入の場合、より強度が低い。中央ギャップ(CG)へのO
2の注入の場合、
図5Bは、HeおよびO線の唯一の変動が、両方の発光が低減される0~0.002slmの間で発生することを示している。中央電極(PE)と外部電極(PE)との間のガスギャップ(GG)への注入の場合、0~0.002slmの間では、O線は増加し、He線は減少し、次いで0.002slmを超えると、両方の線は減少する。これは、少量のO
2をプラズマ形成ガス(G)に注入するために、原子酸素の産生が最大化されることを示唆する。
【0078】
上述のように、各電極のそれぞれの長さは、プラズマ形成ガス(G)が誘電体障壁(DB)と中央電極(PE)との間のガスギャップ(GG)に注入され、非プラズマ形成ガス(NG)が中央ギャップ(CG)内に注入される、または自然に存在する周囲空気が中央ギャップ(CG)内を流れる構成(第1の構成は
図2Dを参照)で、プラズマ残光および流出物を生成するのに十分に大きいように選択される。例えば、約1cm~約1mの長さは、外部電極(PE)に対して選択されてもよい。
【0079】
非プラズマ形成ガス(NG)が誘電体障壁(DB)と中央電極(PE)との間のガスギャップ(GG)に注入される構成(第2の構成、
図2F)において、電界がプラズマ容積を産生し、維持するのに十分であるために、中央電極(PE)の長さは、外部電極(PE)の長さよりもわずかに短いように選択される。
【0080】
本方法は、プラズマ源のすべての構成でプラズマ容積を生成することを可能にする。静的容積のガスが、ガスの流れなしにプラズマ源を充填している場合、第1の構成のプラズマは、十分な印加された電力を使用して点火され得る。プラズマを第1の構成で維持するために、非プラズマ形成ガスは必要とされない。第2の構成を選択するために、ガスギャップ(GG)内の非プラズマ形成ガスが静的容積である場合、中央電極(PE)に、例えば、少なくとも0.1slmの最小プラズマ形成ガス流が供給される。
【0081】
ヘリウムは、両方の構成において、周囲空気もしくは二原子酸素または二原子窒素注入と併せて、プラズマ形成ガス(G)として使用された。すべての構成において、約10W~約50Wの印加された電力が使用され、これは、第1の構成(
図2A)のプラズマ(P)に注入される最大約10Wに対応する。
【0082】
図6は、プラズマ形成ガス(G)のパルスを使用して、放電の点火が制御され得ることを示す。
図6Aは、ヘリウムが2秒間最大4.3slmに設定されたときのガス流のプロファイルを示す。35Wの印加された電力を有する第1の構成では、過渡γモードが維持される。
図6Bは、このようなガスパルス中の可視光発光の進化を示す。光発光は、放電の消滅前に最大であることが見出される。プラズマ形成ガスのパルスを使用することにより、周囲空気、反応性種の源、および周囲空気が点火中および放電の消滅中に高濃度で混合されるプラズマ形成ガスとの間の相互作用を最大化することが可能である。
【0083】
本方法では、通電電極および接地電極の配置および位置を選択的に制御し、プラズマ形成ガスおよび非プラズマ形成ガスの注入を、選択された電極の配置および電極の位置、ならびにガス流量、ガス組成物、印加された電力、励起波形、励起周波数または反復周波数、デューティサイクルを含む選択された他のパラメータで選択的に制御することにより、プラズマ生成の異なる構成が可能である。各構成は、特定の容積、分布、および特性によって特徴付けられるプラズマを生成する。反応性種の源はまた、さらなる制御性のために、プラズマ形成ガス内または非プラズマ形成ガス内に注入されてもよい。
【0084】
本開示のプラズマ源を、様々ながん細胞株:例えば、MDA-MB-231、MDA-MB-436、BT747、MCF7、およびHCC1143などの乳がん細胞株、ならびに例えば、STS117、およびSTS109などの軟組織肉腫細胞株の治療に使用した。
図7~9は、生体外治療の例を示す。
【0085】
図7Aは、1.5mlのマイクロチューブ内の400μlのDMEM中の懸濁液中のMDA-MB-231細胞株を第1の構成でプラズマに曝露した6日後の正規化細胞数を示す。ヘリウム流量は4.3slmであり、発電機での電力は10Wであり、ノズルの先端から液面までの距離は5mmである。
【0086】
図7Bは、1.5mlのマイクロチューブ内の400μlのDMEM中の懸濁液中のMDA-MB-231細胞株を第1の構成でプラズマに曝露した6日後の正規化細胞数を示す。ヘリウム流量は4.3slmであり、発電機での電力は20Wであり、ノズルの先端から液面までの距離は5mmである。
【0087】
図7Cは、1.5mlのマイクロチューブ内の400μlのDMEM中の懸濁液中のMDA-MB-231細胞株を第2の構成でプラズマに曝露した6日後の正規化細胞数を示す。ヘリウム流量は0.6slmであり、発電機での電力は35Wであり、ノズルの先端から液面までの距離は5mmである。
【0088】
図7の懸濁液で処理した細胞の用量応答曲線から、3つの放電モードすべてが最大90%の抗増殖能力を提供することを観察することが可能である。噴出モード(第2の構成)よりも、γモードおよびΩモード(第1の第2の構成)で同じ抗増殖能力に到達するためにより多くの時間が必要である。これは、噴出モードがより多くの細胞傷害性反応性種を産生するか、または懸濁液中の細胞に作用するためにより高い濃度でそれらを産生することを示唆する。
【0089】
図8は、摂動GR阻害値の存在下および非存在下での成長速度の比に基づく成長速度阻害GR値を使用して得られた用量応答曲線を、以下の関係を使用して計算し得ることを示す。
【数1】
【0090】
x(c)は、濃度cでの処理試料の細胞数、x0は、時間t=0秒での治療試料の細胞数、xctlは、x(c)と同時の対照試料の細胞数である。
【0091】
図8において、用量は0秒~120秒まで左から右に増加する。
図8から、同じ用量の非熱プラズマが、様々な細胞株に異なる細胞傷害効果をもたらすことは明らかである。例えば、MDA-MB-231およびMDA-MB-361は、非熱プラズマの用量の比較的低い影響を有する。しかしながら、この治療は、両方の細胞株に対して非常に異なる抗増殖作用を有し、MDA-MB-231は弱い応答であるが、MDA-MB-361は強い応答である。逆に、T47DおよびHCC1569などの細胞株は、30秒で弱い応答、および120秒で強い応答を有する用量に強く依存する。細胞株が同じ治療に対する多種多様な応答を示すという事実は、異なる標的に対して調節可能な異なる特性を可能にする高度に調節可能なプラズマ源の利点を示す。
【0092】
図9Aは、ノズルの端部から5mmのペトリ皿の底部にMDA-MB-231細胞株を有するΩモードの第1の構成で処理した直後のヨウ化プロピジウム染色を有する細胞の蛍光顕微鏡画像を示し、発電機での電力は10Wであり、4.3slmの名目上純粋なヘリウムは、電力なしで4.3slmの名目上純粋なヘリウムのみ(ガス)に対して、プラズマ形成ガス(G)として注入される。
【0093】
図9Bは、ノズルの端部から5mmのペトリ皿の底部にMDA-MB-231細胞株を有するγモードの第1の構成で処理した直後のヨウ化プロピジウム染色を有する細胞の蛍光顕微鏡画像を示し、発電機での電力は35Wであり、4.3slmの名目上純粋なヘリウムは、電力なしで4.3slmの名目上純粋なヘリウムのみ(G)に対して、プラズマ形成ガス(G)として注入される。
【0094】
図9Cは、ノズルの端部から5mmのペトリ皿の底部にMDA-MB-231細胞株を有する第2の構成で処理した直後のヨウ化プロピジウム染色を有する細胞の蛍光顕微鏡画像を示し、発電機での電力は35Wであり、0.6slmの名目上純粋なヘリウムは、電力なしで0.6slmの名目上純粋なヘリウムのみ(G)に対して、プラズマ形成ガス(G)として注入される。
【0095】
培養地細胞が存在しない場合、ガス流の乾燥効果による損傷などの物理的要因により感受性がより高いため、
図9は、第1の構成(Ωおよびγモードの両方であるが、特にモード)が細胞の直接処理により好適である可能性を示す。実際、γモードを使用すると、ガス流によって損傷する細胞はほとんどないが、ほとんどすべての細胞が非熱プラズマによって損傷する。
【0096】
異なる治療方法が調査されている。第1の構成(
図2A)は、ペトリ皿の底部に堆積した細胞の直接処理に有利であることが見出された。第2の構成(
図2C)は、例えば、マイクロチューブに含有される培地中に懸濁された細胞の処理に有利であることが証明された。
【0097】
本変換可能なプラズマ源は、例えば、乳がん腫瘍を除去した後、乳房保存的手術または乳房切除と併せて使用されてもよい。次いで、変換可能なプラズマ源を使用して、腫瘍除去後の腫瘍床および他の組織を治療し、健常な細胞への損傷を低減した残存がん細胞を死滅させる。生体外治療結果によれば、第1の構成は、このような応用に最も好適であってもよい。第2の構成は、例えば、材料に応じて、第1の構成のマイクロメートル範囲から例えばミリメートル範囲まで延在する、ヒト組織などのdへのより大きな深度の浸透に到達するように選択されてもよい。例えば、第1の構成の実験データは、腫瘍における約300μmの浸透深度を示し、噴出モードでは、細胞の懸濁液における数ミリメートルの浸透深度が測定される。手術中、第2の構成は、残存するがん細胞または腫瘍を有する高用量小領域で治療するために使用されてもよく、例えば、到達が困難な領域または切除が不可能な場所に位置する領域に到達するための方法を提供し、それにより、腫瘍床または他の組織内にがん細胞を残すリスクをさらに低減する。両方の構成は、創傷を閉じる前に腫瘍床を洗浄するために使用されてもよいプラズマ処理液体を産生し得る。最後に、術後に両方の構成を用いて創傷を消毒し、治癒を促進し、傷跡のサイズを減少させてもよい。
【0098】
本プラズマ源は、例えば、AU565、MDA-MB-231、MDA-MB-361 MDA-MB-468、MDA-MB-157、MDA-MB-175-VII、BT-549、MCF-7、HS578T、HCC1428、HCC1569、HCC1954、T47DおよびZR-75-1乳がん細胞株、ならびにSTS117およびSTS109軟組織肉腫細胞株のがん治療のために使用されてもよい。
【0099】
したがって、本変換可能なプラズマ源は、異なる構成において使用されてもよく、各構成は、例えば、医療分野において、異なる用途に関連する異なる特徴を有する異なるプラズマ容積を生成することを可能にする。この汎用性は、がん治療の応用のために得られた結果に反映される。
【0100】
一般に、腫瘍学における、または例えば、慢性創傷治癒、歯学、美容、皮膚科などの他の医療領域、ならびに表面機能化および薄膜コーティングなどの非医療分野における応用は、本発明の変換可能なプラズマ源から利益を得てもよい。
【0101】
本明細書に示されるような同軸プラズマ源の場合、中央電極(PE)の直径は、電極間でほぼ均一な電界を生成し、したがって、第1の構成(
図2A)のΩモードでのプラズマ容積、および第2の構成(
図2C)のプラズマ動作を維持するように選択されてもよい。本変換可能なプラズマ源は、第1の構成から第2の構成に切り替えられ、単一のプラズマ源を有する2つの構成を可能にしてもよい。ある構成から別の構成への切り替えが容易に実行され、デバイスの機械的な変更を必要としないため、ユーザ、例えば外科医は、動作中に任意に構成を切り替えてもよく、切り替えには約1秒を要する。これは、エンドユーザが単一のプラズマデバイスに3つのプラズマデバイスを持ち、Ωモードでの第1の構成、γモードでの第1の構成、および噴出モードでの第2の構成を提供するかのような構成である。
【0102】
プラズマ源の特定の構成を選択する能力は、各用途の特異性を選択的に標的化し、特定の用途を最適化することを可能にする。本明細書に記載されるような多構成の変換可能なプラズマ源は、例えば、第1の構成を有するペトリ皿の底部でのバックグロウン細胞または第2の構成を有する懸濁細胞の処理のために前述したように、基質上のプラズマの異なる効果の実験室試験にも関心がある。
【0103】
本構成可能なマルチモードプラズマ源およびΩモード(第1の構成)、γモード(第1の構成)、および噴出モード(第2の構成)として定義される非熱プラズマを生成するための方法、ならびに関連するプラズマ流出物は、選択的に生成されるプラズマ反応性種の性質の汎用性および制御と共に、プラズマ化学の柔軟性および純度が必要とされる用途のための反応性種の範囲の選択的産生に応用されてもよい。
【0104】
プラズマ源は、一定幅のギャップおよび誘電体障壁によって分離された第1の中空電極および第2の中空電極を備え、プラズマ源は、第1の構成または第2の構成のうちのいずれか1つで選択的にプラズマを産生するように構成され、i)第1の構成において、プラズマ形成ガスが、ギャップ内を流れ、一方で、非プラズマ形成ガスが、第1の中空電極内を流れ、ii)第2の構成において、プラズマ形成ガスが、第1の中空電極内を流れ、非プラズマ形成ガスが、ギャップ内を流れる。方法は、異なる破壊電圧の少なくとも2つのガスを選択することと、一定幅のガスギャップによって、第2の中空電極から分離された第1の電極に第1のガスを注入することと、印加された電力の下でガスギャップに第2のガスを注入することと、を含む。
【0105】
特許請求の範囲は、実施例に記載される実施形態によって限定されるべきではなく、全体として説明と一致する最も広い解釈が与えられるべきである。