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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】油圧ユニット
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/00 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
F15B11/00 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021013382
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116949
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 敏行
(72)【発明者】
【氏名】尾中 正人
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-301188(JP,A)
【文献】特開2005-030559(JP,A)
【文献】特開2002-012392(JP,A)
【文献】特開2015-068389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ(3)に作動油を供給する固定容量型または可変容量型の油圧ポンプ(P)と、
上記油圧ポンプ(P)を駆動する回転数可変のモータ(M)と、
上記油圧ポンプ(P)の吐出圧力を検出する圧力センサ(PS1)と、
流量指令信号および切替指令信号を主機コントローラから受けると共に、上記流量指令信号および切替指令信号に基づいて、上記モータ(M)の回転数(F)を制御する制御部(10)と
を備え、
上記制御部(10)は、上記切替指令信号を受ける前に上記流量指令信号を受けて、上記流量指令信号が示す目標流量に上記油圧ポンプ(P)の吐出流量を合わせるように、上記モータ(M)の回転数(F)を制御する共に、上記切替指令信号を受けて、上記圧力センサ(PS1)により検出された現在圧力(PH0)と目標圧力(P)とに応じて上記油圧ポンプ(P)の吐出流量を上記目標流量に対して下げるように、上記モータ(M)の回転数(F)を制御
上記制御部(10)は、上記切替指令信号を受けると、上記現在圧力(P H0 )の増加に従って上記油圧ポンプ(P)の吐出流量を上記目標流量に対して下げるように、直線で表される圧力-流量特性に従って上記モータ(M)の回転数(F)を制御し、
上記制御部(10)は、上記切替指令信号を受けると、
【数1】
F:回転数[r/min]
:係数
:目標圧力[kPa]
H0 :現在圧力[kPa]
:下限回転数[r/min]
で表される圧力-流量特性に従って上記モータ(M)の回転数(F)を制御し、
上記アクチュエータ(3)と上記油圧ポンプ(P)とを接続するメインラインの一部にホース(H1,H2)が用いられているとき、上記係数K は、
【数3】
:上記ホース(H1,H2)の圧力容積[m ]
k:上記ホース(H1,H2)の圧縮率[1/kPa]
j:上記モータ(M)の回転子の慣性モーメント[kg・m ]
で表される、油圧ユニット。
【請求項2】
アクチュエータ(3)に作動油を供給する固定容量型または可変容量型の油圧ポンプ(P)と、
上記油圧ポンプ(P)を駆動する回転数可変のモータ(M)と、
上記油圧ポンプ(P)の吐出圧力を検出する圧力センサ(PS1)と、
流量指令信号および切替指令信号を主機コントローラから受けると共に、上記流量指令信号および切替指令信号に基づいて、上記モータ(M)の回転数(F)を制御する制御部(10)と
を備え、
上記制御部(10)は、上記切替指令信号を受ける前に上記流量指令信号を受けて、上記流量指令信号が示す目標流量に上記油圧ポンプ(P)の吐出流量を合わせるように、上記モータ(M)の回転数(F)を制御する共に、上記切替指令信号を受けて、上記圧力センサ(PS1)により検出された現在圧力(PH0)と目標圧力(P)とに応じて上記油圧ポンプ(P)の吐出流量を上記目標流量に対して下げるように、上記モータ(M)の回転数(F)を制御
上記制御部(10)は、上記切替指令信号を受けると、上記現在圧力(P H0 )の増加に従って上記油圧ポンプ(P)の吐出流量を上記目標流量に対して下げるように、曲線で表される圧力-流量特性に従って上記モータ(M)の回転数(F)を制御し、
上記制御部(10)は、上記切替指令信号を受けると、
【数2】
F:回転数[r/min]
:係数
:目標圧力[kPa]
H0 :現在圧力[kPa]
:下限回転数[r/min]
で表される圧力-流量特性に従って上記モータ(M)の回転数(F)を制御し
上記アクチュエータ(3)と上記油圧ポンプ(P)とを接続するメインラインの一部にホース(H1,H2)が用いられているとき、上記係数K は、
【数3】
:上記ホース(H1,H2)の圧力容積[m ]
k:上記ホース(H1,H2)の圧縮率[1/kPa]
j:上記モータ(M)の回転子の慣性モーメント[kg・m ]
で表される、油圧ユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の油圧ユニットにおいて、
上記制御部(10)は、上記切替指令信号を受けるまでは、上記油圧ポンプ(P)の吐出流量または吐出圧力を一定に保つように上記モータ(M)の回転数(F)を制御する、油圧ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油圧ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ユニットとしては、工作機械などの油圧シリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、油圧ポンプを駆動する回転数可変のモータとを備えたものがある(例えば、特開2006-214511号公報(特許文献1)参照)。
【0003】
上記油圧ユニットでは、油圧シリンダの駆動に先だって油圧シリンダの動作ストロークをモータの回転数に基づいて求めるティーチング動作を行い、油圧シリンダが動作するときに、減速開始位置になるまでモータを第1速度で回転させ、減速開始位置になった後は動作を終了するまでモータを第1速度よりも低い第2速度で回転させることにより、油圧シリンダの動作を緩やかに停止させ、サージ圧の増大を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-214511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記油圧ユニットでは、油圧シリンダの駆動前にティーチング動作を行って油圧シリンダの動作範囲を求めて、減速時にモータの回転数を低速にするので、モータの回転数の調整が煩わしいという問題がある。
【0006】
本開示では、煩わしいモータの回転数の調整なしにサージ圧を制御できる油圧ユニットを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の油圧ユニットは、
アクチュエータに作動油を供給する固定容量型または可変容量型の油圧ポンプと、
上記油圧ポンプを駆動する回転数可変のモータと、
上記油圧ポンプの吐出圧力を検出する圧力センサと、
上記モータの回転数を制御する制御部と
を備え、
上記制御部は、切替指令を受けて、上記圧力センサにより検出された現在圧力と目標圧力とに応じて上記油圧ポンプの吐出流量を目標流量に対して下げるように、上記モータの回転数を制御する。
【0008】
本開示によれば、切替指令を受けた制御部によって、圧力センサにより検出された現在圧力と目標圧力とに応じて油圧ポンプの吐出流量を目標流量に対して下げるように、モータの回転数を制御するので、煩わしい油圧ポンプの回転数の調整なしにアクチュエータが停止したときに不要なサージ圧が発生しないようにできる。したがって、煩わしいモータ回転数の調整なしにサージ圧を制御できる。
【0009】
また、本開示の1つの態様に係る油圧ユニットでは、
上記制御部は、上記切替指令を受けると、上記現在圧力の増加に従って上記油圧ポンプの吐出流量を上記目標流量に対して下げるように、直線で表される圧力-流量特性に従って上記モータの回転数を制御する。
【0010】
本開示によれば、切替指令を受けた制御部によって、直線で表される圧力-流量特性に従ってモータの回転数を制御して、現在圧力の増加に従って油圧ポンプの吐出流量を目標流量に対して下げるので、スムーズにアクチュエータを減速できる。
【0011】
また、本開示の1つの態様に係る油圧ユニットでは、
上記制御部は、上記切替指令を受けると、
【数1】
F:回転数[r/min]
:係数
:目標圧力[kPa]
H0:現在圧力[kPa]
:下限回転数[r/min]
で表される圧力-流量特性に従って上記モータの回転数を制御する。
【0012】
本開示によれば、上記式で表される圧力-流量特性に従ってモータの回転数を制御するので、モータの回転数制御が容易にできる。
【0013】
また、本開示の1つの態様に係る油圧ユニットでは、
上記制御部は、上記切替指令を受けると、上記現在圧力の増加に従って上記油圧ポンプの吐出流量を上記目標流量に対して下げるように、曲線で表される圧力-流量特性に従って上記モータの回転数を制御する。
【0014】
本開示によれば、切替指令を受けた制御部によって、曲線で表される圧力-流量特性に従ってモータの回転数を制御して、現在圧力の増加に従って油圧ポンプの吐出流量を目標流量に対して下げるので、スムーズにアクチュエータを減速できる。
【0015】
また、本開示の1つの態様に係る油圧ユニットでは、
上記制御部は、上記切替指令を受けると、
【数2】
F:回転数[r/min]
:係数
:目標圧力[kPa]
H0:現在圧力[kPa]
:下限回転数[r/min]
で表される圧力-流量特性に従って上記モータの回転数を制御する。
【0016】
本開示によれば、上記式で表される圧力-流量特性に従って油圧ポンプの回転数を制御するので、モータの回転数制御が容易にできる。
【0017】
また、本開示の1つの態様に係る油圧ユニットでは、
上記アクチュエータと上記油圧ポンプとを接続するメインラインの一部にホースが用いられているとき、上記係数Kは、
【数3】
:上記ホースの圧力容積[m]
k:上記ホースの圧縮率[1/kPa]
j:上記モータ(M)の回転子の慣性モーメント[kg・m]
で表される。
【0018】
本開示によれば、アクチュエータと油圧ポンプとを接続するメインラインの一部に用いられるホースにおいて蓄積される圧力エネルギーを考慮することで、モータの回転数制御が最適に行える。
【0019】
また、本開示の1つの態様に係る油圧ユニットでは、
上記制御部は、上記切替指令を受けるまでは、上記油圧ポンプの吐出流量または吐出圧力を一定に保つように上記モータの回転数を制御する。
【0020】
本開示によれば、切替指令を受けるまでは、制御部によって、油圧ポンプの吐出流量または吐出圧力を一定に保つようにモータの回転数を制御するので、切替指令を受けるまでアクチュエータを速く動作させることができ、時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の第1実施形態の油圧ユニットの概略ブロック図である。
図2】第1実施形態の油圧ユニットの圧力-流量特性を示す図である。
図3A】第1実施形態の圧力指令が7MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ユニットの圧力-流量特性を示す図である。
図3B】第1実施形態の圧力指令が5MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ユニットの圧力-流量特性を示す図である。
図3C】第1実施形態の圧力指令が3MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ユニットの圧力-流量特性を示す図である。
図4A】第1実施形態の圧力指令が7MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図4B】比較例の圧力指令が7MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図5A】第1実施形態の圧力指令が5MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図5B】比較例の圧力指令が5MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図6A】第1実施形態の圧力指令が3MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図6B】比較例の圧力指令が3MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図7A】第1実施形態の圧力指令が7MPa、流量指令が2000r/minで負荷があるときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図7B】比較例の圧力指令が7MPa、流量指令が2000r/minで負荷があるときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図8A】第1実施形態の圧力指令が5MPa、流量指令が2000r/minで負荷があるときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図8B】比較例の圧力指令が5MPa、流量指令が2000r/minで負荷があるときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図9A】第1実施形態の圧力指令が3MPa、流量指令が2000r/minで負荷があるときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図9B】比較例の圧力指令が3MPa、流量指令が2000r/minで負荷があるときの油圧ポンプの圧力とモータの回転数の変化を示す図である。
図10】第2実施形態の油圧ユニットの圧力-流量特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態を説明する。なお、図面において、同一の参照番号は、同一部分または相当部分を表わすものである。また、長さ、幅、厚さ、深さ等の図面上の寸法は、図面の明瞭化と簡略化のために実際の尺度から適宜変更されており、実際の相対寸法を表してはいない。
【0023】
〔第1実施形態〕
図1は、本開示の第1実施形態の油圧ユニット1を用いた油圧装置の概略ブロック図である。この油圧装置は、射出成形機、プレス機、工作機械などの産業機械(主機)に用いられる。
【0024】
この第1実施形態の油圧装置は、図1に示すように、油圧ユニット1と、方向制御弁2(4ポート3位置)と、アクチュエータの一例としての油圧シリンダ3とを備える。油圧シリンダ3は、片ロッド油圧シリンダであり、ピストン31と、ピストン31に一端が接続されたロッド32と、ヘッド側ポート3aとロッド側ポート3bとを有している。
【0025】
油圧ユニット1は、油圧シリンダ3に作動油を供給する固定容量型の油圧ポンプPと、油圧ポンプPを駆動する回転数可変のモータMと、油圧ポンプPの吐出圧力を検出する圧力センサPS1と、モータMの回転数Fを制御するコントローラ10と、作動油を貯めるタンクTとを備えている。コントローラ10は、制御部の一例である。なお、この実施形態では、固定容量型の油圧ポンプPを用いたが、可変容量型の油圧ポンプを用いてもよい。
【0026】
油圧ポンプPの吐出ポートを、ホースH1を介して方向制御弁2のポンプポート23に接続している。方向制御弁2のタンクポート24をホースH2を介してタンクTに接続している。また、方向制御弁2の負荷ポート21を油圧シリンダ3のヘッド側ポート3aに接続している。また、第2方向制御弁20の負荷ポート22を方向制御弁2の負荷ポート22に接続している。
【0027】
方向制御弁2のソレノイドsol1,sol2の両方が非励磁の場合、方向制御弁2は中央の切り換え位置となり、負荷ポート21,22とポンプポート23とタンクポート24は閉鎖状態となる。一方、方向制御弁2のソレノイドsol1を励磁した場合、方向制御弁2は左側の切り換え位置となり、負荷ポート21とポンプポート23とが連通し、負荷ポート22とタンクポート24とが連通する。他方、方向制御弁2のソレノイドsol2を励磁した場合、方向制御弁2は右側の切り換え位置となり、負荷ポート21とタンクポート24とが連通し、負荷ポート22とポンプポート23とが連通する。
【0028】
この油圧装置では、油圧シリンダ3と油圧ポンプPとが方向制御弁2を介して接続されたメインラインの一部にホースH1,H2が用いられている。
【0029】
コントローラ10は、交流電源(200V)からの交流電圧を任意の周波数のモータ駆動電圧に変換するインバータ(図示せず)を備える。コントローラ10は、主機コントローラ(図示せず)からの圧力指令信号,流量指令信号および切替指令信号に基づいてモータMを制御する。主機コントローラは、例えば、油圧シリンダ3のロッド32の位置を位置センサ(図示せず)により検出して、ロッド32の位置が減速開始位置に達したとき、切替指令信号を出力する。
【0030】
上記油圧装置は、油圧シリンダ3のピストン31が左端にある状態から油圧シリンダ3を駆動するとき、ソレノイドsol1を励磁して方向制御弁2は左側の切り換え位置し、モータMにより油圧ポンプPを駆動することによりピストン31を一定速度で右方向に移動させる。次に、コントローラ10は、切替指令信号を受けて、圧力センサPS1により検出された現在圧力と目標圧力とに応じて油圧ポンプPの吐出流量を目標流量に対して下げるように、モータMの回転数Fを制御する。そうして、油圧シリンダ3のロッド32の先端がワークWに当たって停止する。
【0031】
図2は、油圧ユニット1の圧力-流量特性を示しており、図2において、横軸は油圧ポンプPの吐出圧力[kPa]を表し、縦軸はモータMの回転数F[r/min]を表している。
【0032】
ここで、モータMの回転数F[r/min]は、油圧ポンプPの吐出流量に比例し、油圧ポンプPの1回転あたりの吐出流量とモータMの単位時間あたりの回転数Fとの積が、油圧ポンプPの単位時間あたりの吐出流量となる。以下の説明では、便宜上、モータMの回転数F[r/min]を油圧ポンプPの吐出流量として取り扱う。
【0033】
油圧ユニット1のコントローラ10は、図2に示す実線で示す速度一定動作時の圧力-流量特性C1と、図2に示す点線で示す減速動作時の圧力-流量特性C2とを切り替える。ここで、モータMの下限回転数Fを600[r/min]としている。なお、モータMの下限回転数Fは、油圧ユニット1が使用される油圧回路などの構成に応じて設定される。
【0034】
<モータMの回転数Fの制限>
上記構成の油圧装置において、油圧シリンダ3のロッド32がワークWに当たったときに発生するサージ圧は、油圧ユニット1の油圧ポンプPの運動エネルギーが圧力エネルギーとなることで発生する。
【0035】
そして、次の(a)~(d)の過程を経てサージ圧が発生する。
(a) 油圧シリンダ3のロッド32がワークWに当たる。
(b) 油圧シリンダ3の圧力が上昇する(油圧ポンプPの吐出圧が上昇)。
(c) 圧力制御している油圧ユニット1は減速を開始する。
(d) ピストン31の減速が間に合わず圧力目標を超えて圧力が上昇する(サージ発生)。
【0036】
このとき、油圧シリンダ3のロッド32がワークWに当たって停止したとき、油圧ポンプPの運動エネルギーは、モータMの減速による回生エネルギーと、ホースH1,H2および油圧シリンダ3に発生する圧力エネルギーとの和となる。
【0037】
ホースH1,H2に蓄積される圧力エネルギーE[kPa]は、
【数4】
:圧力容積[m]
k :圧縮率[1/kPa]
:圧力[kPa]
H0:初期圧力[kPa]
:モータMの運動エネルギー
×s:コントローラ10で回収するエネルギー[J]
Loss:その他の損失[J]
で表される。
【0038】
ホースH1,H2の圧力P[kPa]は、
【数5】
で表される。Loss≒0として圧力P[kPa]を簡略化すると、
【数6】
で表され、係数Aは、
【数7】
である。
【0039】
モータMの回転数F[r/min]は、
【数8】
で表され、係数Ksは、
【数9】
j:モータMの回転子の慣性モーメント[kg・m]
である。
【0040】
ここで、モータMの回転数F[r/min]は、Pを目標圧力[kPa]とし、PH0を現在圧力[kPa]とし、下限回転数[r/min]をFとすると、
【数10】
で表され、この式(1)から、サージ圧をゼロとするために制限すべきモータMの回転数Fを求めることによって、図2に示す点線で示す減速動作時の圧力-流量特性C2を得る。
【0041】
油圧ユニット1のコントローラ10は、速度一定動作時の圧力-流量特性C1に従ってモータMの回転数Fを制御し、切替指令信号を受けると、圧力センサPS1により検出された現在圧力PH0と目標圧力Pとに応じて油圧ポンプPの吐出流量を目標流量に対して下げるように、モータMの回転数Fを制御する。これにより、煩わしい油圧ポンプPの回転数Fの調整なしに油圧ポンプPが停止したときに不要なサージ圧が発生しないようにできる。したがって、油圧ユニット1は、モータMの回転数Fの調整なしにサージ圧を制御できる。
【0042】
また、切替指令信号を受けたコントローラ10によって、上記式(1)の曲線で表される圧力-流量特性に従ってモータMの回転数Fを制御して、現在圧力PH0の増加に従って油圧ポンプPの吐出流量を目標流量に対して下げるので、スムーズに油圧シリンダ3を減速できる。
【0043】
また、上記式(1)で表される圧力-流量特性C2に従ってモータMの回転数Fを制御するので、モータMの回転数制御が容易にできる。
【0044】
また、上記式(1)において係数Ksを、
【数11】
とすることにより、油圧シリンダ3と油圧ポンプPとを接続するメインラインの一部に用いられるホースH1,H2において蓄積される圧力エネルギーが考慮されるので、モータMの回転数制御が最適に行える。
【0045】
また、切替指令信号を受けるまでは、図2に示す圧力-流量特性C1に従って油圧ポンプPの吐出流量を一定に保つようにモータMの回転数を制御するので、切替指令信号を受けるまで油圧シリンダ3を速く動作させることができ、時間を短縮できる。なお、切替指令信号を受けるまで、油圧ポンプPの吐出圧力を一定に保つようにモータMの回転数を制御する油圧ユニットに、この開示のモータMの回転数制御を適用してもよい。
【0046】
図3Aは、圧力指令が7MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ユニット1の圧力-流量特性を示し、図3Bは、圧力指令が5MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ユニット1の圧力-流量特性を示し、図3Cは、圧力指令が3MPa、流量指令が2000r/minのときの油圧ユニット1の圧力-流量特性を示している。
【0047】
油圧ユニット1のコントローラ10は、図3A図3Cに示すように、圧力指令の圧力値に応じた圧力-流量特性を用いて、モータMの回転数Fを制御する。コントローラ10は、実線で示す速度一定動作時の圧力-流量特性C1と、点線で示す減速動作時の圧力-流量特性C2とを切り替える。
【0048】
図4A,図5A,図6Aは、第1実施形態の図3A図3Cに示す圧力-流量特性C2のみを用いた油圧ユニット1の油圧ポンプPの圧力とモータMの回転数Fの変化を示しており、流量指令が2000r/minにおいて圧力指令が7MPa,5MPa,3MPaのときの圧力と回転数Fの変化を示している。
【0049】
これに対して、図4B,図5B,図6Bは、図3A図3Cに示す圧力-流量特性C1のみを用いた比較例の油圧ポンプPの圧力とモータMの回転数Fの変化を示しており、流量指令が2000r/minにおいて圧力指令が7MPa,5MPa,3MPaのときの圧力と回転数Fの変化を示している。
【0050】
このように、第1実施形態の油圧ユニット1では、比較例に比べて同じ流量指令が2000r/minで動作してもサージ圧が低くなる。
【0051】
また、図7A,図8A,図9Aは、油圧シリンダ3の負荷がある場合に、図3A図3Cに示す圧力-流量特性C2のみを用いた油圧ユニット1の油圧ポンプPの圧力とモータMの回転数Fの変化を示しており、流量指令が2000r/minにおいて圧力指令が7MPa,5MPa,3MPaのときの油圧ポンプPの圧力とモータMの回転数Fの変化を示している。
【0052】
これに対して、図7B,図8B,図9Bは、油圧シリンダ3の負荷がある場合に、図3A図3Cに示す圧力-流量特性C1のみを用いた比較例の油圧ポンプPの圧力とモータMの回転数Fの変化を示しており、流量指令が2000r/minにおいて圧力指令が7MPa,5MPa,3MPaのときの油圧ポンプPの圧力とモータMの回転数Fの変化を示している。
【0053】
比較例では、油圧シリンダ3の負荷がある場合、方向制御弁2の閉動作のタイミングで初期圧力が高いためにサージ圧がより高くなるが、そのような負荷がある場合であっても、第1実施形態の油圧ユニット1では、比較例に比べて同じ流量指令(2000r/min)で動作してもサージ圧を低くできる。
【0054】
上記第1実施形態の油圧ユニット1では、主機コントローラ側において、動作速度を優先した速度一定制御(圧力-流量特性C1を用いた制御)と、サージ圧の低下を優先した速度制御(圧力-流量特性C2を用いた制御)とを選択することができる。
【0055】
〔第2実施形態〕
この第2実施形態の油圧ユニット1は、コントローラ10の圧力-流量特性を除いて第1実施形態の油圧ユニット1と同一の構成をしている。
【0056】
図10は、第2実施形態の油圧ユニット1の圧力-流量特性を示しており、図2において、横軸は油圧ポンプPの吐出圧力[kPa]を表し、縦軸はモータMの回転数F[r/min]を表している。
【0057】
油圧ユニット1のコントローラ10は、図10に示す実線で示す速度一定動作時の圧力-流量特性C3と、図10に示す点線で示す減速動作時の圧力-流量特性C4とを切り替える。ここで、モータMの下限回転数Fを600[r/min]としている。なお、モータMの下限回転数Fは、油圧ユニット1が使用される油圧回路などの構成に応じて設定される。
【0058】
この油圧ユニット1では、コントローラ10(制御部)は、主機コントローラ(図示せず)からの切替指令信号を受けると、現在圧力PH0の増加に従って油圧ポンプPの吐出流量を目標流量に対して下げるように、
【数12】
F:回転数[r/min]
:係数
:目標圧力[kPa]
H0:現在圧力[kPa]
:下限回転数[r/min]
で表される圧力-流量特性C4に従ってモータMの回転数Fを制御する。
【0059】
このように、切替指令信号を受けたコントローラ10によって、上記式(2)の直線で表される圧力-流量特性C4に従ってモータMの回転数Fを制御して、現在圧力PH0の増加に従って油圧ポンプPの吐出流量を目標流量に対して下げるので、スムーズに油圧シリンダ3を減速できる。
【0060】
また、上記式(2)で表される圧力-流量特性C4に従ってモータMの回転数Fを制御するので、モータMの回転数制御が容易にできる。
【0061】
また、上記式(2)において係数Ksを、
【数13】
:ホースH1,H2の圧力容積[m]
k:ホースH1,H2の圧縮率[1/kPa]
j:モータMの回転子の慣性モーメント[kg・m]
とすることにより、油圧シリンダ3と油圧ポンプPとを接続するメインラインの一部に用いられるホースH1,H2において蓄積される圧力エネルギーが考慮されるので、モータMの回転数制御が最適に行える。
【0062】
上記第2実施形態の油圧ユニット1は、第1実施形態の油圧ユニット1と同様の効果を有する。
【0063】
上記第1,第2実施形態では、アクチュエータとして片ロッド型の油圧シリンダ3を用いた油圧装置について説明したが、アクチュエータは、他の構成の油圧シリンダなどでもよい。
【0064】
本開示の具体的な実施の形態について説明したが、本開示は上記第1,第2実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、上記第1,第2実施形態で記載した内容を適宜組み合わせたものを、本開示の一実施形態としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…油圧ユニット
2…方向制御弁
3…油圧シリンダ(アクチュエータ)
10…コントローラ
21,22…負荷ポート
23…ポンプポート
24…タンクポート
31…ピストン
32…ロッド
3a…ヘッド側ポート
3b…ロッド側ポート
M…モータ
P…油圧ポンプ
PS1…圧力センサ
sol1,sol2…ソレノイド
T…タンク
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10