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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】圧縮機及び冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20240626BHJP
   F04C 29/06 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
F04C18/02 311B
F04C29/06 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022118140
(22)【出願日】2022-07-25
(65)【公開番号】P2024015821
(43)【公開日】2024-02-06
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 亮
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 康夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025762(JP,A)
【文献】特開2002-242872(JP,A)
【文献】特開2011-043138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機において、
筒状の胴部(20a)を有するケーシング(20)と、
前記ケーシング(20)に収容され、前記胴部(20a)に固定される固定対象部材(F)と、
前記胴部(20a)の周方向に複数設けられた溶接部(80)であって、前記胴部(20a)と前記固定対象部材(F)とを繋ぐ複数の溶接部(80)とを備え、
前記固定対象部材(F)は、冷媒を圧縮する圧縮機構(40)、又は該圧縮機構(40)に接続される駆動軸(11)を回転可能に支持する支持部材(B)であり、
前記圧縮機(10)の定格運転状態における前記胴部(20a)の内径と前記固定対象部材(F)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H8/f7、F8/h9、H7/f7、F8/h6、H7/g6、又はG7/h6に対応する嵌め合い関係であり、
前記嵌め合い関係は、前記胴部(20a)と前記固定対象部材(F)との間に、互いに接触する部分と互いに接触せずに僅かな隙間(G)が形成される部分とが生じる関係であり、
前記圧縮機構(40)から前記固定対象部材(F)に伝搬した振動のエネルギーが、前記固定対象部材(F)と前記ケーシング(20)との間の摩擦による熱エネルギーに変換されることにより、前記圧縮機構(40)から伝搬した振動が減衰され
圧縮機。
【請求項2】
前記圧縮機(10)の組立状態における前記胴部(20a)の内径と前記固定対象部材(F)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H7/n6、H7/r6、H7/s6、H8/u8に対応する嵌め合い関係である
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記圧縮機構(40)を支持する、前記支持部材(B)としての主軸受ハウジング(50)を備え、
前記圧縮機構(40)は、固定スクロール(60)及び該固定スクロール(60)と噛み合う旋回スクロール(70)を有し、
前記固定対象部材(F)は、前記主軸受ハウジング(50)である
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記溶接部(80)では、前記胴部(20a)及び前記固定対象部材(F)がピン(81)を介して溶接される
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の圧縮機(10)と、
前記圧縮機(10)で圧縮された冷媒が流れる冷媒回路(1a)とを備える
冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機及び冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ケーシングと、圧縮機構と、該圧縮機構に接続されたクランクシャフト(駆動軸)を軸支するハウジングとを備えるスクロール圧縮機が開示されている。圧縮機構は、固定スクロールと、該固定スクロールと噛み合う可動スクロール(旋回スクロール)を有する。ハウジングは、ケーシングに圧接される圧接部と、圧接部から離れた位置でケーシングに対して隙間を介して対向する対向部とを有する。特許文献1のスクロール圧縮機では、ハウジングの対向部とケーシングとが溶接される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-25762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のスクロール圧縮機では、可動スクロールは、クランクシャフトに接続されると共に、固定スクロールとハウジングとによって挟持される。そのため、スクロール圧縮機の運転中に圧縮機構で発生した振動が、クランクシャフト及びハウジングを介してケーシングに伝搬する。ケーシングに振動が伝搬すると、スクロール圧縮機から発生する放射音(騒音)が増大するという問題があった。
【0005】
本開示の目的は、圧縮機の騒音を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、圧縮機(10)を対象とする。圧縮機(10)は、筒状の胴部(20a)を有するケーシング(20)と、前記ケーシング(20)に収容され、前記胴部(20a)に固定される固定対象部材(F)と、前記胴部(20a)の周方向複数設けられた溶接部(80)であって、前記胴部(20a)と前記固定対象部材(F)とを繋ぐ複数の溶接部(80)とを備える。前記固定対象部材(F)は、冷媒を圧縮する圧縮機構(40)、又は該圧縮機構(40)に接続される駆動軸(11)を回転可能に支持する支持部材(B)である。前記圧縮機(10)の定格運転状態における前記胴部(20a)の内径と前記固定対象部材(F)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H8/f7、F8/h9、H7/f7、F8/h6、H7/g6、又はG7/h6に対応する嵌め合い関係である。
【0007】
第1の態様では、ケーシング(20)の胴部(20a)と固定対象部材(F)とは溶接部によって固定される。圧縮機(10)の定格運転状態において、ケーシング(20)内における冷媒の圧力が上昇することに伴って胴部(20a)が膨張し、胴部(20a)の内径と固定対象部材(F)の外径とがISO286にて定められる上記嵌め合い関係になる。この嵌め合い関係では、胴部(20a)と固定対象部材(F)との間に局所的な隙間が生じる。このとき、固定対象部材(F)は、ケーシング(20)に対して相対的に僅かに動くことが可能になる。これにより、圧縮機(10)の運転に伴って圧縮機構(40)から固定対象部材(F)に伝搬した振動のエネルギーが、固定対象部材(F)の動きによる運動エネルギー又は固定対象部材(F)とケーシング(20)との間の摩擦による熱エネルギーに変換されるので、圧縮機構(40)から伝搬した振動が減衰される。その結果、圧縮機(10)で発生する騒音を低減できる。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、前記圧縮機(10)の組立状態における前記胴部(20a)の内径と前記固定対象部材(F)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H7/n6、7/r6、7/s6、8/u8に対応する嵌め合い関係である。
【0009】
第2の態様では、圧縮機(10)の組立状態において胴部(20a)の内径と固定対象部材(F)の外径とがISO286にて定められる上記嵌め合い関係にあるので、固定対象部材(F)が溶接部(80)及び嵌め合いによって胴部(20a)に固定される。
【0010】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記圧縮機構(40)を支持する、前記支持部材(B)としての主軸受ハウジング(50)を備える。前記圧縮機構(40)は、固定スクロール(60)及び該固定スクロール(60)と噛み合う旋回スクロール(70)を有する。前記固定対象部材(F)は、前記主軸受ハウジング(50)である。
【0011】
第3の態様では、固定対象部材(F)がスクロール圧縮機(10)の主軸受ハウジング(50)である。主軸受ハウジング(50)は、圧縮機構(40)を支持するので、圧縮機構(40)の振動が伝わりやすい。胴部(20a)の内径と主軸受ハウジング(50)の外径とにおいてISO286にて定められる上記嵌め合い関係を適用することによって、圧縮機の騒音をより低減できる。
【0012】
第4の態様は、第1~第3のいずれか1つの態様において、前記溶接部(80)では、前記胴部(20a)及び前記固定対象部材(F)がピン(81)を介して溶接される。
【0013】
第5の態様は、第1~第4のいずれか1つの態様の圧縮機(10)と、前記圧縮機(10)で圧縮された冷媒が流れる冷媒回路(1a)とを備える冷凍装置である。
【0014】
第5の態様では、圧縮機(10)の騒音を低減した冷凍装置(1)を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態の冷凍装置の構成を示す冷媒回路図である。
図2図2は、スクロール圧縮機の構成を示す縦断面図である。
図3図3は、図2のIII-III線矢視断面図である。
図4図4は、スクロール圧縮機の組立状態における接触領域周辺の拡大図である。
図5図5は、スクロール圧縮機の定格運転状態における図3に相当する図である。
図6図6は、嵌め合い関係を示す用語と、該嵌め合い関係に対応するISO286に規定された公差クラスと、該公差クラスに対応する基準寸法φ145mmにおける寸法公差範囲とを示す表である。
図7図7は、変形例1の副軸受を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《実施形態》
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比または数を誇張または簡略化して表す場合がある。
【0017】
(1)冷凍装置の概要
図1に示すように、圧縮機(10)は、冷凍装置(1)に設けられる。冷凍装置(1)は、冷媒が充填された冷媒回路(1a)を有する。冷媒回路(1a)は、圧縮機(10)、放熱器(3)、減圧機構(4)、及び蒸発器(5)を有する。減圧機構(4)は、例えば、膨張弁である。冷媒回路(1a)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う。
【0018】
冷凍装置(1)は、空気調和装置である。空気調和装置は、冷房専用機、暖房専用機、あるいは冷房と暖房とを切り換える空気調和装置であってもよい。この場合、空気調和装置は、冷媒の循環方向を切り換える切換機構(例えば四方切換弁)を有する。冷凍装置(1)は、給湯器、チラーユニット、庫内の空気を冷却する冷却装置などであってもよい。冷却装置は、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナなどの内部の空気を冷却する。
【0019】
(2)圧縮機
本実施形態の圧縮機(10)は、スクロール圧縮機である。スクロール圧縮機(10)は、ケーシング(20)と、電動機(30)と、駆動軸(11)と、圧縮機構(40)とを備える。ケーシング(20)には、電動機(30)、駆動軸(11)、及び圧縮機構(40)が収容される。
【0020】
なお、以下の説明において、「軸方向」とは、駆動軸(11)が延びる方向のことであり、「径方向」とは、駆動軸(11)の軸心に直交する方向のことであり、「周方向」とは、駆動軸(11)の軸心を基準とした周方向である。「径方向内側」とは、駆動軸(11)の軸心に近い側であり、「径方向外側」とは、駆動軸(11)の軸心に遠い側である。
【0021】
(2-1)ケーシング
ケーシング(20)は、縦長の密閉容器によって構成される。ケーシング(20)は、上下方向に延びる円筒状の胴部(20a)と、該胴部(20a)の両端を閉塞する2つの蓋部(20b)を有する。胴部(20a)を軸方向から見たときに、胴部(20a)は非真円形状である。
【0022】
ケーシング(20)の底部には、油溜まり部(21)が設けられる。油溜まり部(21)には、潤滑油が貯留される。ケーシング(20)の上部には、吸入管(12)が接続される。ケーシング(20)の胴部(20a)には、吐出管(13)が接続される。
【0023】
(2-2)電動機
電動機(30)は、ステータ(31)と、ロータ(32)とを有する。ステータ(31)は、ケーシング(20)の内周面に固定される。ロータ(32)は、ステータ(31)の内側に配置される。ロータ(32)には、駆動軸(11)が貫通する。ロータ(32)は、駆動軸(11)に固定される。
【0024】
(2-3)駆動軸
駆動軸(11)は、ケーシング(20)の中心軸に沿って上下方向に延びる。駆動軸(11)は、主軸部(14)と、偏心部(15)とを有する。
【0025】
偏心部(15)は、主軸部(14)の上端に設けられる。偏心部(15)は、その外径が主軸部(14)の外径よりも小さい。偏心部(15)の軸心は、主軸部(14)の軸心に対して所定距離だけ偏心している。
【0026】
主軸部(14)の上部は、後述するハウジング(50)を貫通し、該ハウジング(50)の上部軸受(51)に回転可能に支持される。主軸部(14)の下部は、後述する副軸受(22)に回転可能に支持される。
【0027】
(2-4)ハウジング
ケーシング(20)には、ハウジング(50)が収容される。ハウジング(50)は、駆動軸(11)を回転可能に支持する主軸受支持部材である。ハウジング(50)は、本開示の支持部材(B)に対応するとともに、本開示の主軸受ハウジング(50)に対応する。
【0028】
ハウジング(50)は、圧縮機構(40)の下方に配置される。ハウジング(50)は、圧縮機構(40)を支持する。ハウジング(50)は、電動機(30)の上方に配置される。ハウジング(50)と電動機(30)との間には、吐出管(13)の流入端が配置される。
【0029】
ハウジング(50)は、軸方向(上下方向)に延びる円筒状に形成される。ハウジング(50)の上側部分の外径は、該ハウジング(50)の下側部分の外径よりも大きく形成されている。ハウジング(50)の上側部分の内径は、該ハウジング(50)の下側部分の内径よりも大きく形成されている。
【0030】
ハウジング(50)は、環状部(52)と、凹部(53)と、上部軸受(51)とを有する。環状部(52)は、ハウジング(50)の外周部に設けられている。環状部(52)は、軸方向からみて非真円形状である。凹部(53)は、ハウジング(50)の上部中央部分に形成されている。凹部(53)の中央は、下方に窪んだ皿状に形成されている。凹部(53)は、後述する旋回スクロール(70)のボス部(73)を収容するクランク室(54)を構成している。
【0031】
クランク室(54)では、偏心部(15)が偏心回転する。上部軸受(51)は、ハウジング(50)の下側に形成される。具体的には、上部軸受(51)は、凹部(53)の下に形成される。上部軸受(51)の内周には、軸受メタル(51a)が嵌合される。上部軸受(51)は、軸受メタル(51a)を介して、駆動軸(11)の主軸部(14)を回転可能に支持する。
【0032】
図3に示すように、環状部(52)の外周面には、切欠き部(55)が形成される。切欠き部(55)は、環状部(52)を上下方向に貫通する。切欠き部(55)は、径方向内側に窪んでいる。切欠き部(55)とケーシング(20)の内周面との間には、圧縮機構(40)から吐出されたガス冷媒が通過する吐出通路(56)が形成される。
【0033】
ハウジング(50)は、ケーシング(20)の内部に固定される。具体的には、ハウジング(50)の環状部(52)の外周面が、ケーシング(20)の胴部(20a)の内周面に固定される。ハウジング(50)の固定構造については、後述する。
【0034】
(2-5)圧縮機構
圧縮機構(40)は、固定スクロール(60)と、旋回スクロール(70)とを備える。固定スクロール(60)は、ハウジング(50)の上面に固定される。旋回スクロール(70)は、固定スクロール(60)とハウジング(50)との間に配置される。
【0035】
(2-5-1)固定スクロール
固定スクロール(60)は、固定側鏡板(61)と、固定側ラップ(62)と、外周壁(63)とを有する。固定側鏡板(61)は、円板状に形成される。
【0036】
固定側ラップ(62)は、渦巻き状に形成される。固定側ラップ(62)は、固定側鏡板(61)の前面(図2における下面)から下方に突出している。固定側ラップ(62)は、固定側鏡板(61)における外周壁(63)の内側に配置される。
【0037】
外周壁(63)は、略筒状に形成される。外周壁(63)は、固定側鏡板(61)の前面(図2における下面)の外縁から下方に突出する。外周壁(63)は、固定側ラップ(62)の外周側を囲むように設けられる。固定側ラップ(62)の先端面(図2における下面)と外周壁(63)の先端面(図2おける下面)とは、概ね同じ高さに位置している。
【0038】
固定側鏡板(61)は、外周側に位置して固定側ラップ(62)と連続的に形成される。固定側ラップ(62)の先端面と外周壁(63)の先端面とは略面一に形成される。固定スクロール(60)は、ハウジング(50)に固定される。
【0039】
(2-5-2)旋回スクロール
旋回スクロール(70)は、旋回側鏡板(71)と、旋回側ラップ(72)と、ボス部(73)とを有する。旋回側鏡板(71)は円板状に形成される。旋回側ラップ(72)は、渦巻き状に形成される。旋回側ラップ(72)は、旋回側鏡板(71)の前面(図2おける上面)から上方に突出する。旋回側ラップ(72)は、固定側ラップ(62)に噛み合う。
【0040】
ボス部(73)は、旋回側鏡板(71)の背面(図2における下面)の中心部に形成される。ボス部(73)には、駆動軸(11)の偏心部(15)が挿入される。これにより、駆動軸(11)が旋回スクロール(70)に連結される。言い換えると、駆動軸(11)は、圧縮機構(40)に接続される。
【0041】
(2-5-3)吸入ポート、吐出口
固定スクロール(60)の外周壁(63)には、吸入ポート(64)が形成される。吸入ポート(64)は、固定側ラップ(62)の巻き終わり付近に開口する。吸入ポート(64)には、吸入管(12)の下流端が接続される。
【0042】
固定スクロール(60)の固定側鏡板(61)の中央には、吐出口(65)が形成される。固定スクロール(60)の固定側鏡板(61)の上面には、吐出口(65)が開口する。吐出口(65)から吐出された高圧のガス冷媒は、ハウジング(50)に形成された吐出通路(56)を介して下部空間(24)に流出する。
【0043】
(2-5-4)流体室
圧縮機構(40)は、冷媒が流入する流体室(S)を有する。流体室(S)は、固定スクロール(60)と旋回スクロール(70)との間に形成される。旋回スクロール(70)の旋回側ラップ(72)は、固定スクロール(60)の固定側ラップ(62)に噛み合うように配置される。固定側ラップ(62)と旋回側ラップ(72)とが噛み合うことによって、流体室(S)でガス冷媒が圧縮される。
【0044】
(2-6)オルダム継手
ハウジング(50)の上部には、オルダム継手(45)が設けられる。オルダム継手(45)は、ハウジング(50)と旋回スクロール(70)との間に配置される。オルダム継手(45)は、公転している旋回スクロール(70)が自転することを阻止している。
【0045】
(2-7)副軸受
副軸受(22)は、駆動軸(11)を回転可能に支持する補助軸受支持部材である。副軸受(22)は、駆動軸(11)における圧縮機構(40)と反対側の端部(図2における下端部)を支持する。副軸受(22)の上側部分の内周には、軸受メタル(23)が嵌合される。副軸受(22)は、軸受メタル(23)を介して、駆動軸(11)の主軸部(14)を回転可能に支持する。副軸受(22)は、ケーシング(20)に収容される。副軸受(22)は、電動機(30)におけるハウジング()と反対側に配置される。本実施形態では、副軸受(22)は、電動機(30)の下方に配置される。
【0046】
副軸受(22)は、ケーシング(20)の内部に固定される。詳細には、副軸受(22)の外周面が、胴部(20a)の内周面に固定される。副軸受(22)は、溶接ピン(81)及び接合部(82)を介して胴部(20a)に溶接される。本実施形態では、ケーシング(20)と副軸受(22)とは嵌め合いによって固定されていない。
【0047】
(2-8)給油路
駆動軸(11)の内部には、給油路(16)が形成される。給油路(16)は、駆動軸(11)の下端から上端に亘って上下方向に延びる。駆動軸(11)の下端部には、ポンプ(25)が接続される。ポンプ(25)は、例えば容積式のポンプである。ポンプ(25)の下端部は、油溜まり部(21)に浸漬される。
【0048】
ポンプ(25)は、駆動軸(11)の回転に伴って油溜まり部(21)から潤滑油を吸い上げ、給油路(16)に搬送する。給油路(16)は、油溜まり部(21)の潤滑油を、副軸受(22)と駆動軸(11)との摺動面、及び上部軸受(51)と駆動軸(11)との摺動面に供給するとともに、ボス部(73)と駆動軸(11)との摺動面に供給する。給油路(16)は、駆動軸(11)の上端面に開口し、潤滑油を駆動軸(11)の上方に供給する。
【0049】
(3)圧縮機の運転動作
スクロール圧縮機(10)の運転動作について説明する。
【0050】
(3-1)冷媒の流れ
図2において、電動機(30)を作動させると、駆動軸(11)が回転駆動する。旋回スクロール(70)は、駆動軸(11)の回転に伴って旋回運動する。ここで、旋回スクロール(70)は、オルダム継手(45)によって自転が阻止されているので、駆動軸(11)の軸心を中心に偏心回転を行う。
【0051】
旋回スクロール(70)が旋回運動すると、吸入管(12)を介して吸入ポート(64)に流入した冷媒が流体室(S)で圧縮される。流体室(S)で圧縮された高圧のガス冷媒は、吐出口(65)から吐出され、ハウジング(50)に形成された吐出通路(56)を経由して下部空間(24)に流出する。下部空間(24)の高圧のガス冷媒は、吐出管(13)を介して、ケーシング(20)の外部へ吐出される。
【0052】
(3-2)潤滑油の流れ
駆動軸(11)の回転に伴い、油溜まり部(21)の高圧の潤滑油は、ポンプ(25)によって吸い上げられて駆動軸(11)の給油路(16)を上方へ流れ、駆動軸(11)の偏心部(15)の上端の開口から旋回スクロール(70)のボス部(73)の内部へ流出する。
【0053】
ボス部(73)に供給された潤滑油は、駆動軸(11)の偏心部(15)とボス部(73)との隙間を介してハウジング(50)の凹部(53)へ流出する。
【0054】
凹部(53)に溜まった潤滑油は、ハウジング(50)及び固定スクロール(60)に形成された油通路(図示省略)を介して、固定スクロール(60)と旋回スクロール(70)との摺動面に供給された後、油溜まり部(21)に戻される。
【0055】
(4)ハウジングの固定構造
ハウジング(50)の固定構造について説明する。
【0056】
本実施形態では、ハウジング(50)が本開示の固定対象部材(F)に対応する。固定対象部材(F)は、ケーシング(20)に収容され、ケーシング(20)の胴部(20a)に固定される。
【0057】
図3に示すように、ハウジング(50)は、ケーシング(20)における胴部(20a)の内周面と接触する接触領域(A)を有する。接触領域(A)は、ハウジング(50)の環状部(52)の外周面に形成される。ハウジング(50)の接触領域(A)は、環状部(52)の外周面において切欠き部(55)を除く領域である。ハウジング(50)の接触領域(A)は、軸方向からみて円弧状に形成される。言い換えると、本実施形態のハウジング(50)は、1つの接触領域(A)を有する。ハウジング(50)は、接触領域(A)において溶接及び嵌め合いによってケーシング(20)に固定される。
【0058】
(4-1)溶接部
図2に示すように、スクロール圧縮機(10)は、胴部(20a)とハウジング(50)とを繋ぐ複数(本実施形態では、4つ)の溶接部(80)を有する。溶接部(80)では、溶接ピン(81)及び接合部(82)を介して、胴部(20a)とハウジング(50)とが固定される。溶接部(80)は、ケーシング(20)にハウジング(50)が固定された状態で、ハウジング(50)に形成された穴に溶接ピン(81)を圧入し、該溶接ピン(81)と胴部(20a)との間を溶接することにより形成される。接合部(82)は、溶接に伴って、溶接ピン(81)及び胴部(20a)が溶けることで形成される部分である。
【0059】
図3に示すように、溶接部(80)は、胴部(20a)の周方向に沿って所定の間隔を空けて配置される。言い換えると、4つの溶接部(80)は、1つの接触領域(A)において周方向に沿って設けられる。このように、スクロール圧縮機(10)が周方向に沿って設けられる複数の溶接部(80)を有するので、ケーシング(20)に対してハウジング(50)の位置が相対的にずれることを抑制できる。
【0060】
(4-2)嵌め合い関係
ハウジング(50)における環状部(52)の外径とケーシング(20)における胴部(20a)の内径とは嵌め合い関係にあることで、ハウジング(50)がケーシング(20)に保持される。
【0061】
ここで、本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、該スクロール圧縮機(10)の組立状態と定格運転状態とにおいて、ハウジング(50)の外径とケーシング(20)の内径との嵌め合い関係が異なる。スクロール圧縮機(10)の組立状態と定格運転状態とにおけるハウジング(50)の外径とケーシング(20)の内径との嵌め合い関係について、図4及び図5を参照しながら、詳細に説明する。
【0062】
なお、ここでいう「組立状態」とは、スクロール圧縮機(10)が冷媒回路(1a)に接続されておらず、ケーシング(20)内の圧力が大気圧と同一の状態をいう。また、ここでいう「定格運転状態」とは、スクロール圧縮機(10)が冷媒回路(1a)に接続されて、該スクロール圧縮機(10)を定格条件で運転させたときの状態をいう。
【0063】
ここでの定格条件とは、ISO5151及びJIS B 8615に規定された定格条件のことである。この定格条件でのケーシング(20)内の高圧圧力は、冷媒回路(1a)に充填される冷媒の種類によって異なる。例えば、冷媒がR32の場合では、上記定格条件での高圧圧力は2.7MPaG以上且つ3.4MPaG以下であり、冷媒がR410Aの場合では、上記定格条件での高圧圧力は2.6MPaG以上且つ3.3MPaG以上である。
【0064】
ところで、各嵌め合い関係では、該嵌め合い関係にある軸及び穴の基準寸法に対する軸及び穴のそれぞれの寸法公差が異なる。ここで、基準寸法は、ISO286-1:2010における図示サイズ(nominal size)のことである。本実施形態では、環状部(52)の外径及び胴部(20a)の内径の基準寸法φは、145mmである。また、本実施形態の冷媒回路(1a)に充填される冷媒は、R32であり、ケーシング(20)の厚さは4.4mmである。
【0065】
図4は、スクロール圧縮機(10)の組立状態における接触領域(A)周辺の様子を示す拡大図である。図4に示すように、スクロール圧縮機(10)の組立状態では、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間に隙間がなく、互いに接触している。
【0066】
本実施形態のスクロール圧縮機(10)の組立状態における胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とは、ISO286-1:2010(以下、ISO286という)にて定められる穴の公差クラス(tolerance class)と軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H7/n6に対応する関係である。言い換えると、組立状態において、胴部(20a)の内径における公差クラスはISO286にて定められる穴の公差クラスにおけるH7に対応し、且つ環状部(52)の外径における公差クラスはISO286にて定められる軸の公差クラスにおけるn6に対応する。
【0067】
上記嵌め合い関係は、いわゆるlocational transition fit - interferenceとして示される嵌め合い関係である。この嵌め合い関係は、部品同士を相対的に動かし得ない関係である。
【0068】
本実施形態では、スクロール圧縮機(10)の組立状態(具体的には、ケーシング(20)内の圧力が大気圧と同じ状態)における寸法公差範囲は、基準寸法に対して14μm以上且つ43μm以下(14μm~43μm)である。具体的には、本実施形態の組立状態における最小許容寸法は145.014mmであり、最大許容寸法は145.043mmである。この嵌め合い関係は、いわゆる「しまりばめ」に相当する。
【0069】
図5は、スクロール圧縮機(10)の定格運転状態における接触領域(A)周辺の様子を示す拡大図である。図5に示すように、スクロール圧縮機(10)の定格運転状態では、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間に僅かな隙間が形成される。
【0070】
スクロール圧縮機(10)が運転を開始すると、ケーシング(20)に吸入されたガス冷媒が圧縮機構(40)において圧縮されてケーシング(20)内に吐出されることによって、ケーシング(20)内の圧力が上昇する。ケーシング(20)内の圧力が上昇すると、ケーシング(20)が膨張する。これにより、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間に僅かな隙間が形成される。
【0071】
なお、図5では図を分かりやすくするために胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面とが接触していないが、実際には胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間には、局所的な隙間(G)が形成される。言い換えると、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面とは、互いに接触する部分と、互いに接触せず僅かな隙間(G)が形成される部分とが生じる。このように、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間に局所的な隙間(G)が形成されるのは、胴部(20a)の内形および環状部(52)の外形のそれぞれは厳密には軸方向からみて非真円形状であること、胴部(20a)の内周面が軸方向において僅かに傾いている場合があること等に起因する。
【0072】
本実施形態のスクロール圧縮機(10)の定格運転状態における胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラス(tolerance class)と軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H7/g6に対応する関係である。言い換えると、定格運転状態において、胴部(20a)の内径における公差クラスはISO286にて定められる穴の公差クラスにおけるH7に対応し、且つ環状部(52)の外径における公差クラスはISO286にて定められる軸の公差クラスにおけるg6に対応する。
【0073】
上記嵌め合い関係は、いわゆるsliding fit - constrainedとして示される嵌め合い関係である。この嵌め合い関係は、部品同士を相対的に動かし得る関係である。
【0074】
本実施形態のスクロール圧縮機(10)の定格運転状態(具体的には、ケーシング(20)内の圧力が2.5MPaの場合)における寸法公差範囲は、基準寸法に対して-43μm以上且つ14μm以下である(-43μm~14μm)。具体的には、本実施形態の定格運転状態における最小許容寸法は144.957mmであり、最大許容寸法は145.014mmである。この嵌め合い関係は、いわゆる「すきまばめ」に相当する。詳細には、この嵌め合い関係は、いわゆる「精転合」に相当する。
【0075】
このように、スクロール圧縮機(10)が組立状態から定格運転状態になることで、胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径との嵌め合い関係が変化する。
【0076】
上記のようにスクロール圧縮機(10)の定格運転状態では、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間には局所的な隙間(G)が形成されるとともに、周方向に設けられた複数の溶接部(80)によってケーシング(20)とハウジング(50)との大きな位置ずれが抑制されている。そのため、ハウジング(50)は、ケーシング(20)に対して相対的に僅かに動くことが可能になる。
【0077】
これにより、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間に隙間(G)が形成されている部分では、圧縮機構(40)からハウジング(50)に伝わった振動によってハウジング(50)が振動することで、振動によるエネルギーが運動エネルギーに変換されて、圧縮機構(40)から伝わってきた振動が減衰する。
【0078】
加えて、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面とが接触している部分では、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面とが擦れ合うことで、振動によるエネルギーが摩擦による熱エネルギーに変換されて、圧縮機構(40)から伝わってきた振動が減衰する。
【0079】
このように、スクロール圧縮機(10)の定格運転状態において、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間には局所的な隙間(G)が形成されてハウジング(50)が僅かに動くことで、圧縮機構(40)で発生する振動を効果的に減衰させることができる。その結果、スクロール圧縮機(10)において発生する騒音を低減できる。
【0080】
なお、本実施形態における基準寸法、寸法公差範囲、冷媒の種類、及びケーシングの厚さは一例である。また、スクロール圧縮機(10)の定格運転状態におけるケーシング(20)の膨張の度合いは、冷媒回路(1a)に充填される冷媒の種類及びケーシング(20)の厚さ等によって異なる。
【0081】
ここで、図6に、嵌め合い関係を示す用語と、該嵌め合い関係に対応するISO286に規定された公差クラスと、該公差クラスに対応する基準寸法φ145mmにおける寸法公差範囲とを示す。
【0082】
図6に示すように、本実施形態のスクロール圧縮機(10)の組立状態における胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H7/r6、H7/s6、又はH8/u8に対応する嵌め合い関係であるであってもよい。
【0083】
上記嵌め合い関係は、いわゆるlocational interference fit、medium drive fit、又はforce fitで示される嵌め合い関係である。これらの嵌め合い関係は、部品同士を相対的に動かし得ない関係である。上記嵌め合い関係は、いわゆる「しまりばめ」に相当する。
【0084】
図6に示すように、本実施形態のスクロール圧縮機(10)の定格運転状態における胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H8/f7、F8/h9、H7/f7、F8/h6、又はG7/h6に対応する嵌め合い関係であってもよい。
【0085】
上記嵌め合い関係は、いわゆるclose running fit、sliding fit - free、又はsliding fit - constrainedとして示される嵌め合い関係である。これらの嵌め合い関係は、部品同士を相対的に動かし得る関係である。これらの嵌め合い関係は、いわゆる「すきまばめ」に相当する。
【0086】
スクロール圧縮機(10)の定格運転状態における胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とが、上記ISO286にて定められる嵌め合い関係である場合においても、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H7/g6である場合と同様に、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間には局所的な隙間(G)が形成される。これにより、スクロール圧縮機(10)の運転に伴って圧縮機構(40)からハウジング(50)に伝搬した振動のエネルギーが、ハウジング(50)の動きによる運動エネルギー又はハウジング(50)とケーシング(20)との間の摩擦による熱エネルギーに変換されることにより、圧縮機構(40)から伝搬した振動が減衰される。その結果、スクロール圧縮機(10)で発生する騒音を低減できる。
【0087】
(5)特徴
(5-1)特徴1
スクロール圧縮機(10)の定格運転状態におけるケーシング(20)の胴部(20a)の内径とハウジング(50)の環状部(52)の外形とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H8/f7、F8/h9、H7/f7、F8/h6、H7/g6、又はG7/h6に対応する嵌め合い関係である。
【0088】
スクロール圧縮機(10)の定格運転状態において、ケーシング(20)内における冷媒の圧力が上昇することに伴って胴部(20a)が膨張し、胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とがISO286にて定められる上記嵌め合い関係になる。この嵌め合い関係では、胴部(20a)の内周面と環状部(52)の外周面との間に局所的な隙間(G)が生じる。このとき、ハウジング(50)は、ケーシング(20)に対して相対的に僅かに動くことが可能になる。これにより、スクロール圧縮機(10)の運転に伴って圧縮機構(40)からハウジング(50)に伝搬した振動のエネルギーが、ハウジング(50)の動きによる運動エネルギー又はハウジング(50)とケーシング(20)との間の摩擦による熱エネルギーに変換されるので、圧縮機構(40)から伝搬した振動が減衰される。その結果、スクロール圧縮機(10)で発生する騒音を低減できる。
【0089】
(5-2)特徴2
スクロール圧縮機(10)の組立状態における胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H7/n6、H7/r6、H7/s6、H8/u8に対応する嵌め合い関係である。
【0090】
スクロール圧縮機(10)の組立状態において胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とがISO286にて定められる上記嵌め合い関係にあるので、ハウジング(50)の環状部(52)が溶接部(80)及び嵌め合いによって胴部(20a)に固定される。
【0091】
また、ハウジング(50)の環状部(52)をISO286にて定められる上記嵌め合い関係によって胴部(20a)に保持した後に溶接部(80)を形成することで、溶接部(80)を形成する際のハウジング(50)の位置ずれが抑制されるので、組立作業性が向上する。
【0092】
(5-3)特徴3
固定対象部材(F)は、スクロール圧縮機(10)のハウジング(50)である。ハウジング(50)は圧縮機構(40)を支持するので、圧縮機構(40)の振動が伝わりやすい。胴部(20a)の内径とハウジング(50)の外径とにおいてISO286にて定められる上記嵌め合い関係を適用することによって、圧縮機の騒音をより低減できる。
【0093】
(5-4)特徴4
溶接部(80)では、ケーシング(20)の胴部(20a)及びハウジング(50)の環状部(52)が溶接ピン(81)を介して溶接される。
【0094】
(5-5)特徴5
冷凍装置(1)は、本実施形態のスクロール圧縮機(10)と、該スクロール圧縮機(10)で圧縮された冷媒が流れる冷媒回路(1a)とを備える。これにより、スクロール圧縮機(10)の騒音を低減した冷凍装置(1)を提供できる。
【0095】
(6)変形例
上記実施形態については以下のような変形例としてもよい。なお、以下の説明では、原則として上記実施形態と異なる点について説明する。
【0096】
(6-1)変形例1
本実施形態のスクロール圧縮機(10)では、固定対象部材(F)は、副軸受(22)でもよい。副軸受(22)は、本開示の支持部材(B)に対応する。副軸受(22)は、駆動軸(11)を介して圧縮機構(40)に繋がっているため、圧縮機構(40)で発生した振動が駆動軸(11)を介して副軸受(22)に伝搬する。
【0097】
ここで、図7に示すように、副軸受(22)は、ケーシング(20)を横断するように形成される。副軸受(22)は、中央部に形成された円環状の円環部(22a)と、該円環部から径方向外側に突出する3つの突出部(22b)を有する。円環部(22a)の中央には、駆動軸(11)が挿通される。3つの突出部(22b)は、周方向に所定の間隔を空けて配置される。
【0098】
副軸受(22)には、ケーシング(20)の胴部(20a)の内周面と接触する接触領域(A)が複数(本変形例では、3つ)形成される。副軸受(22)の接触領域(A)は、各突出部(22b)の外周面に形成される。副軸受(22)の各接触領域(A)は、軸方向からみて円弧状に形成される。
【0099】
本変形例では、スクロール圧縮機(10)の運転停止状態において、副軸受(22)は、接触領域(A)において溶接及び嵌め合いによってケーシング(20)に固定される。本変形例では、3つの溶接部(80)が胴部(20a)の周方向に沿って所定の間隔を空けて配置される。3つの溶接部(80)のそれぞれは、各接触領域(A)に設けられる。言い換えると、1つの接触領域(A)に対して1つの溶接部(80)が設けられる。このように、スクロール圧縮機(10)が周方向に沿って設けられる複数の溶接部(80)を有するので、ケーシング(20)に対して副軸受(22)の位置が相対的にずれることを抑制できる。
【0100】
本変形例では、スクロール圧縮機(10)の組立状態における胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H7/n6、H7/r6、H7/s6、H8/u8に対応する嵌め合い関係である。
【0101】
本変形例では、スクロール圧縮機(10)の定格運転状態における胴部(20a)の内径と環状部(52)の外径とは、ISO286にて定められる穴の公差クラスと軸の公差クラスとの組み合わせ(穴/軸)が、H8/f7、F8/h9、H7/f7、F8/h6、H7/g6、又はG7/h6に対応する嵌め合い関係である。
【0102】
これにより、固定対象部材(F)が副軸受(22)である場合においても、ケーシング(20)の胴部(20a)の内周面と副軸受(22)の各突出部(22b)の外周面との間に局所的な隙間(G)が形成されるので、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0103】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0104】
上記実施形態の圧縮機(10)は、ロータリ圧縮機であってもよい。この場合、固定対象部材(F)は、フロントヘッド、シリンダ、又はリアヘッドであってもよい。シリンダは、圧縮機構を構成する部材であって、ピストンとともに流体室を形成する。フロントヘッド及びリアヘッドは、駆動軸を回転可能に支持する軸受支持部材である。フロントヘッド又はリアヘッドは、本開示の支持部材(B)に対応する。シリンダ、フロントヘッド及びリアヘッドは円筒状に形成される。シリンダ、フロントヘッド、及びリアヘッドの外周面はケーシングの内周面に固定される。
【0105】
また、上記実施形態の圧縮機(10)がロータリ圧縮機である場合、支持部材(B)は、フロントヘッド本体をケーシングに支持するマウンティングプレートであってもよい。マウンティングプレートは、フロントヘッドの構成部品である。フロントヘッドがマウンティングプレートを有する場合には、フロントヘッドは該マウンティングプレートを介してケーシングに固定される。マウンティングプレートは、例えば、ケーシングの内周に沿うとともに全周に亘って形成され、縦断面が略L字状に形成される板状の部材である。
【0106】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0107】
以上に述べた「第1」、「第2」、「第3」…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上説明したように、本開示は、圧縮機及び冷凍装置について有用である。
【符号の説明】
【0109】
1 冷凍装置
1a 冷媒回路
10 圧縮機(スクロール圧縮機)
11 駆動軸
20 ケーシング
20a 胴部
40 圧縮機構
50 ハウジング(主軸受ハウジング)
60 固定スクロール
70 旋回スクロール
80 溶接部
81 溶接ピン(ピン)
B 支持部材
F 固定対象部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7