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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】絶縁電線およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20240626BHJP
   H01B 13/14 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H01B13/14 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023137014
(22)【出願日】2023-08-25
(65)【公開番号】P2024031961
(43)【公開日】2024-03-07
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2022134381
(32)【優先日】2022-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 星風
(72)【発明者】
【氏名】和田 広明
(72)【発明者】
【氏名】堀澤 和史
(72)【発明者】
【氏名】助川 勝通
(72)【発明者】
【氏名】谷本 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 英樹
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/088968(WO,A1)
【文献】特開平07-249319(JP,A)
【文献】特表2016-516608(JP,A)
【文献】特表2019-519062(JP,A)
【文献】特開2009-245858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体上に形成され、溶融加工性のフッ素樹脂を含有するフッ素樹脂層とを備えており、前記導体から前記フッ素樹脂層を剥離することにより測定されるピール強度が、0.30N/mm以上であり、前記フッ素樹脂層中の前記フッ素樹脂以外の他の成分の含有量が、前記フッ素樹脂層中の前記フッ素樹脂の質量に対して、30質量%未満である絶縁電線。
【請求項2】
前記導体の断面形状が、略矩形である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
導体と、前記導体上に形成され、溶融加工性のフッ素樹脂を含有するフッ素樹脂層とを備えており、前記導体から前記フッ素樹脂を引き抜くことにより測定される引き抜き強度が、4N以上であり、前記フッ素樹脂層が、溶融状態の前記フッ素樹脂の温度よりも高い温度に加熱した前記導体上に、溶融状態の前記フッ素樹脂を押し出すことにより、形成される絶縁電線。
【請求項4】
前記導体の断面形状が、略円形である請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記フッ素樹脂層が、溶融状態の前記フッ素樹脂の温度よりも高い温度に加熱した前記導体上に、溶融状態の前記フッ素樹脂を押し出すことにより、形成される請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記導体が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種から構成される請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記導体の面粗さSzが、0.2~12μmである請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記フッ素樹脂層の厚みが、40~300μmである請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項9】
前記フッ素樹脂層の比誘電率が、2.5以下である請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項10】
25℃で測定する部分放電開始電圧が、下記の関係式を充足する請求項1または3に記載の絶縁電線。
部分放電開始電圧(V) ≧ 5.5×t + 600
t:フッ素樹脂層の膜厚(μm)
【請求項11】
下記式で算出される変化率が、10%未満である請求項1または3に記載の絶縁電線。
変化率(%)=[(25℃で測定する部分放電開始電圧)-(200℃で測定する部分放電開始電圧)]/(25℃で測定する部分放電開始電圧)×100
【請求項12】
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、0.1~120g/10分である請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項13】
前記フッ素樹脂の融点が、240~320℃である請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項14】
前記フッ素樹脂が官能基を有しており、前記フッ素樹脂の官能基数が、炭素原子10個あたり、5~2000個である請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項15】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項16】
前記フッ素樹脂のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全モノマー単位に対して、1.0~30.0モル%である請求項15に記載の絶縁電線。
【請求項17】
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を含有する請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項18】
前記フッ素樹脂が、カルボニル基含有基、アミノ基、ヒドロキシ基、-CFH基、オレフィン基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する請求項1または3に記載の絶縁電線。
【請求項19】
押出成形機を用いて、請求項1または3に記載の絶縁電線を製造するための絶縁電線の製造方法であって、
前記フッ素樹脂を加熱することにより前記フッ素樹脂を溶融させ、溶融状態の前記フッ素樹脂の温度よりも高い温度に加熱した導体上に、溶融状態の前記フッ素樹脂を押し出すことにより、前記導体上に前記フッ素樹脂層を形成する製造方法。
【請求項20】
ハロゲンヒータを用いて前記導体を加熱する請求項19に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導体上にフッ素樹脂からなる絶縁層を設けた絶縁電線において、前記導体と共に前記絶縁層を誘導加熱処理して前記導体に対する前記絶縁層のピール強度を0.05N/mm以上にしたことを特徴とする絶縁電線が記載されている。
【0003】
特許文献2には、通電加熱で導体表面の酸化膜を形成させた絶縁電線が記載されている。
【0004】
特許文献3には、ポリエーテルケトンケトン樹脂を主成分としてポリエーテルケトンケトンを結晶化させない条件において導体を加熱し製造される絶縁電線が記載されている。
【0005】
特許文献4には、ポリフェニレンサルファイドおよびポリエーテルケトンケトンを主成分とし、通電加熱で最大360度導体加熱した絶縁電線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-245857号公報
【文献】特開2014-154511号公報
【文献】特開2015-138626号公報
【文献】特開2014-103045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示では、導体と、導体を被覆するフッ素樹脂層とが十分な強度で密着した絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示によれば、導体と、前記導体上に形成され、溶融加工性のフッ素樹脂を含有するフッ素樹脂層とを備えており、前記導体から前記フッ素樹脂層を剥離することにより測定されるピール強度が、0.30N/mm以上である絶縁電線が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、導体と、導体を被覆するフッ素樹脂層とが十分な強度で密着した絶縁電線を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本開示の絶縁電線は、導体と、導体上に形成され、溶融加工性のフッ素樹脂を含有するフッ素樹脂層とを備えている。
【0012】
フッ素樹脂は、非粘着性を有していることから、絶縁電線の導体上にフッ素樹脂層を直接設ける場合には、導体とフッ素樹脂層とが十分な強度で密着しない問題がある。したがって、従来の絶縁電線を湾曲させたり、折り曲げたりすると、フッ素樹脂層が導体から浮いてしまったり、フッ素樹脂層にシワが生じたりする問題がある。
【0013】
本開示の第1の絶縁電線は、導体からフッ素樹脂層を剥離することにより測定されるピール強度が、0.30N/mm以上である。したがって、本開示の第1の絶縁電線は、導体と、導体を被覆するフッ素樹脂層とが十分な強度で密着しており、湾曲または折り曲げによりフッ素樹脂層が導体から浮きにくく、フッ素樹脂層にシワが生じにくい。
【0014】
本開示の第1の絶縁電線が有する導体の断面形状は、典型的には、略矩形である。本開示の第1の絶縁電線は平角線であってよい。特に、導体の断面形状が長方形である場合には、絶縁電線をエッジワイズ方向に折り曲げると、曲げ外周部を被覆するフッ素樹脂層は、曲げ内周部を被覆するフッ素樹脂層よりも大きく伸ばされることになり、フッ素樹脂層が導体から剥がれて浮きが生じやすい。また、絶縁電線をエッジワイズ方向に折り曲げると、曲げ内周部を被覆するフッ素樹脂層は、曲げ外周部を被覆するフッ素樹脂層よりも大きく縮むことになり、フッ素樹脂層にシワが生じやすい。本開示の第1の絶縁電線は、導体と、導体を被覆するフッ素樹脂層とが十分な強度で密着していることから、エッジワイズ方向に折り曲げた場合でも、フッ素樹脂層が導体から浮きにくく、フッ素樹脂層にシワが生じにくい。
【0015】
本開示の第1の絶縁電線が示すピール強度は、好ましくは0.50N/mm以上であり、より好ましくは1.00N/mm以上、さらに好ましくは1.70N/mm以上、特に好ましくは3.00N/mm以上である。ピール強度の上限は限定されないが、たとえば、10.00N/mmであってよい。
【0016】
ピール強度は、100mm/minの速度で、フッ素樹脂層を導体から長軸方向(長手方向)に30mmの距離を剥離する際に測定される最大の引張応力である。
【0017】
本開示の第2の絶縁電線は、導体からフッ素樹脂を引き抜くことにより測定される引き抜き強度が、4N以上である。したがって、本開示の第2の絶縁電線は、導体と、導体を被覆するフッ素樹脂層とが十分な強度で密着しており、湾曲または折り曲げによりフッ素樹脂層が導体から浮きにくく、フッ素樹脂層にシワが生じにくい。
【0018】
本開示の第2の絶縁電線が有する導体の断面形状は、典型的には、略円形である。本開示の第2の絶縁電線は、丸線であってよい。
【0019】
本開示の第1の絶縁電線が示す引き抜き強度は、好ましくは5N以上であり、より好ましくは6N以上であり、さらに好ましくは12N以上であり、尚さらに好ましくは20N以上である。引き抜き強度の上限は限定されないが、たとえば、50Nであってよい。
【0020】
引き抜き強度は、50mm/minの速度で、フッ素樹脂層を導体から長軸方向(長手方向)に30mmの距離を引き抜く際に測定される最大の引張応力である。
【0021】
なお、断面形状が略矩形の絶縁電線には、通常、導体上にピール強度が測定できる程度の幅を有する平面が存在する。一方、断面形状が略円形の絶縁電線には、通常、導体上にピール強度が測定できる程度の幅を有する平面が存在しておらず、この点で、断面形状が略矩形の絶縁電線と断面形状が略円形の絶縁電線とは相違している。
【0022】
次に、導体および被覆層の構成について、より詳細に説明する。本開示において、第1の絶縁電線および第2の絶縁電線を、単に「絶縁電線」ということがある。
【0023】
(導体)
導体は、単線、集合線、撚線などであってよいが、単線であることが好ましい。導体の断面の形状は、略矩形および略円形のいずれであってもよい。
【0024】
導体としては、導電材料から構成されるものであれば特に限定されないが、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、銀、ニッケルなどの材料により構成することができ、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金により構成されたものが好ましい。また、銀めっき、ニッケルめっきなどのめっきを施した導体を用いることもできる。銅としては、無酸素銅、低酸素銅、銅合金などを用いることができる。
【0025】
導体の断面が略矩形である場合、すなわち、導体が平角導体である場合、導体の断面の幅は1~75mmであってよく、導体の断面の厚さは0.1~30mmであってよい。導体の外周径は、6.5mm以上であってよく、200mm以下であってよい。また、幅の厚さに対する比は、1超30以下であってよい。
【0026】
導体の断面が略円形である場合、すなわち、導体が丸導体である場合、導体の直径は、好ましくは0.1~10mmであり、より好ましくは0.3~3mmである。
【0027】
導体の面粗さSzは、導体とフッ素樹脂層とが一層強固に密着することから、好ましくは0.2~12μmであり、より好ましくは1μm以上であり、さらに好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以下である。
【0028】
導体の面粗さは、エッチング処理、ブラスト処理、レーザー処理などの表面処理方法により、導体を表面処理することにより調整することができる。また、表面処理により、導体の表面に凹凸を設けてもよい。凸部から凸部の凹凸間距離は小さいほど好ましく、たとえば、5μm以下である。また、凹凸の大きさは、たとえば、未加工面に対する凸部を切断した時の1つあたりの凹部面積が1μm以下である。凹凸形状は、クレーター型の単一な凹凸形状でもよく、アリの巣状に枝分かれしているものでもよい。
【0029】
(フッ素樹脂層)
フッ素樹脂層は、溶融加工性のフッ素樹脂を含有する。本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性のフッ素樹脂は、後述する測定方法により測定されるメルトフローレートが0.01~500g/10分であることが通常である。
【0030】
フッ素樹脂のメルトフローレートは、好ましくは10~100g/10分である。メルトフローレートの上限は、より好ましくは80g/10分以下であり、さらに好ましくは70g/10分以下である。メルトフローレートが100g/10分以下である場合、当該樹脂を被覆した電線を曲げ加工した際のクラックを抑制できる点で好ましい。メルトフローレートの下限は、好ましくは20g/10分以上であり、より好ましくは50g/10分以上である。メルトフローレートが10g/10分以上である場合、当該樹脂を被覆成形する際のメルトフラクチャーの発生を抑制できる点で好ましい。フッ素樹脂のメルトフローレートが上記範囲内にあることにより、フッ素樹脂層を容易に形成できるとともに、得られるフッ素樹脂層の機械的強度および外観が優れたものとなる。
【0031】
本開示において、フッ素樹脂のメルトフローレートは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0032】
フッ素樹脂の融点は、好ましくは200~322℃であり、より好ましくは210℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、特に好ましくは240℃以上であり、より好ましくは320℃以下である。
【0033】
融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0034】
溶融加工性のフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン(TFE)/フルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、TFE/エチレン/HFP共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体〔ECTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、TFE/ビニリデンフルオライド(VdF)共重合体〔VT〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、TFE/VdF/CTFE共重合体〔VTC〕、TFE/HFP/VdF共重合体などが挙げられる。
【0035】
フッ素樹脂としては、耐熱性、成形性、電気特性に優れており、導体とフッ素樹脂層とが一層強固に密着することから、TFE/FAVE共重合体、および、TFE/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0036】
TFE/FAVE共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびフルオロアルキルビニルエーテル(FAVE)単位を含有する共重合体である。
【0037】
FAVE単位を構成するFAVEとしては、一般式(1):
CF=CFO(CFCFYO)-(CFCFCFO)-Rf (1)
(式中、YはFまたはCFを表し、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。pは0~5の整数を表し、qは0~5の整数を表す。)で表される単量体、および、一般式(2):
CFX=CXOCFOR (2)
(式中、Xは、同一または異なり、H、FまたはCFを表し、Rは、直鎖または分岐した、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が1~6のフルオロアルキル基、若しくは、H、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種の原子を1~2個含んでいてもよい炭素数が5または6の環状フルオロアルキル基を表す。)で表される単量体からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0038】
FAVEとしては、なかでも、一般式(1)で表される単量体が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PEVEおよびPPVEからなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、PPVEが特に好ましい。
【0039】
TFE/FAVE共重合体のFAVE単位の含有量は、導体とフッ素樹脂層とが一層強固に密着することから、全モノマー単位に対して、好ましくは1.0~30.0モル%であり、より好ましくは1.2モル%以上であり、さらに好ましくは1.4モル%以上であり、尚さらに好ましくは1.6モル%以上であり、特に好ましくは1.8モル%以上であり、より好ましくは3.5モル%以下であり、さらに好ましくは3.2モル%以下であり、尚さらに好ましくは2.9モル%以下であり、特に好ましくは2.6モル%以下である。
【0040】
TFE/FAVE共重合体のTFE単位の含有量は、導体とフッ素樹脂層とが一層強固に密着することから、全モノマー単位に対して、好ましくは99.0~70.0モル%であり、より好ましくは96.5モル%以上であり、さらに好ましくは96.8モル%以上であり、尚さらに好ましくは97.1モル%以上であり、特に好ましくは97.4モル%以上であり、より好ましくは98.8モル%以下であり、さらに好ましくは98.6モル%以下であり、尚さらに好ましくは98.4モル%以下であり、特に好ましくは98.2モル%以下である。
【0041】
本開示において、共重合体中の各モノマー単位の含有量は、19F-NMR法により測定する。
【0042】
TFE/FAVE共重合体は、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体の含有量は、TFE/FAVE共重合体の全モノマー単位に対して、好ましくは0~29.0モル%であり、より好ましくは0.1~5.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~1.0モル%である。
【0043】
TFEおよびFAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ=CZ(CF(式中、Z、ZおよびZは、同一または異なって、HまたはFを表し、Zは、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、官能基を有する単量体等が挙げられる。なかでも、HFPが好ましい。
【0044】
TFE/FAVE共重合体としては、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体、および、上記TFE/HFP/FAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE単位およびFAVE単位のみからなる共重合体がより好ましい。
【0045】
TFE/FAVE共重合体の融点は、耐熱性および耐ストレスクラック性の観点から、好ましくは240~322℃であり、より好ましくは285℃以上であり、より好ましくは320℃以下であり、さらに好ましくは315℃以下であり、特に好ましくは310℃以下である。融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて測定できる。
【0046】
TFE/FAVE共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは70~110℃であり、より好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。ガラス転移温度は、動的粘弾性測定により測定できる。
【0047】
TFE/FAVE共重合体の比誘電率は、電気特性の観点から、好ましくは2.4以下であり、より好ましくは2.1以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは1.8以上である。比誘電率は、ネットワークアナライザーHP8510C(ヒューレットパッカード社製)および空洞共振器を用いて、共振周波数および電界強度の変化を20~25℃の温度下で測定して得られる値である。
【0048】
TFE/HFP共重合体は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位を含有する共重合体である。
【0049】
TFE/HFP共重合体のHFP単位の含有量は、導体とフッ素樹脂層とが一層強固に密着することから、全モノマー単位に対して、好ましくは0.1~30.0モル%であり、より好ましくは0.7モル%以上であり、さらに好ましくは1.4モル%以上であり、より好ましくは10.0モル%以下である。
【0050】
TFE/HFP共重合体のTFE単位の含有量は、導体とフッ素樹脂層とが一層強固に密着することから、全モノマー単位に対して、好ましくは70.0~99.9モル%であり、より好ましくは90.0モル%以上であり、より好ましくは99.3モル%以下であり、さらに好ましくは98.6モル%である。
【0051】
TFE/HFP共重合体は、TFEおよびHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位を含有することもできる。この場合、TFEおよびHFPと共重合可能な単量体の含有量は、TFE/HFP共重合体の全モノマー単位に対して、好ましくは0~29.9モル%であり、より好ましくは0.1~5.0モル%であり、さらに好ましくは0.1~1.0モル%である。
【0052】
TFEおよびHFPと共重合可能な単量体としては、FAVE、CZ=CZ(CF(式中、Z、ZおよびZは、同一または異なって、HまたはFを表し、Zは、H、FまたはClを表し、nは2~10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、および、CF=CF-OCH-Rf(式中、Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体、官能基を有する単量体等が挙げられる。なかでも、FAVEが好ましい。
【0053】
TFE/HFP共重合体の融点は、好ましくは200~322℃であり、より好ましくは210℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、特に好ましくは240℃以上であり、より好ましくは320℃以下であり、さらに好ましくは300℃未満であり、特に好ましくは280℃以下である。
【0054】
TFE/HFP共重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは60~110℃であり、より好ましくは65℃以上であり、より好ましくは100℃以下である。
【0055】
フッ素樹脂は、官能基を有することが好ましい。フッ素樹脂が官能基を有することにより、導体とフッ素樹脂層とをより一層強固に密着させることができる。
【0056】
官能基としては、カルボニル基含有基、アミノ基、ヒドロキシ基、-CFH基、オレフィン基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0057】
カルボニル基含有基は、構造中にカルボニル基(-C(=O)-)を含有する基である。カルボニル基含有基としては、たとえば、
カーボネート基[-O-C(=O)-OR(式中、Rは炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)]、
アシル基[-C(=O)-R(式中、Rは炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)]
ハロホルミル基[-C(=O)X、Xはハロゲン原子]、
ホルミル基[-C(=O)H]、
式:-R-C(=O)-R(式中、Rは、炭素原子数1~20の2価の有機基であり、Rは、炭素原子数1~20の1価の有機基である)で示される基、
式:-O-C(=O)-R(式中、Rは、炭素原子数1~20のアルキル基またはエーテル結合性酸素原子を含む炭素原子数2~20のアルキル基である)で示される基、
カルボキシル基[-C(=O)OH]、
アルコキシカルボニル基[-C(=O)OR(式中、Rは、炭素原子数1~20の1価の有機基である)]、
カルバモイル基[-C(=O)NR(式中、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~20の1価の有機基である)]、
酸無水物結合[-C(=O)-O-C(=O)-]、
などをあげることができる。
【0058】
の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。上記Rの具体例としては、メチレン基、-CF-基、-C-基などがあげられ、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などがあげられる。また、RおよびRの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基などがあげられる。
【0059】
ヒドロキシ基は、-OHで示される基または-OHで示される基を含む基である。本開示において、カルボキシル基を構成する-OHは、ヒドロキシ基に含まない。ヒドロキシ基としては、-OH、メチロール基、エチロール基などが挙げられる。
【0060】
オレフィン基(Olefinic group)とは、炭素-炭素二重結合を有する基である。オレフィン基としては、下記式:
-CR10=CR1112
(式中、R10、R11およびR12は、同じであっても異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子または炭素原子数1~20の1価の有機基である。)で表される官能基が挙げられ、-CF=CF、-CH=CF、-CF=CHF、-CF=CHおよび-CH=CHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0061】
イソシアネート基は、-N=C=Oで示される基である。
【0062】
また、官能基として、-CH基、-CFH基などの非フッ素化アルキル基または部分フッ素化アルキル基を挙げることもできる。
【0063】
フッ素樹脂の官能基数は、導体とフッ素樹脂層とが一層強固に密着することから、炭素原子10個あたり、5~2000個であることが好ましい。官能基の個数は、炭素原子10個あたり、より好ましくは50個以上であり、さらに好ましくは100個以上であり、特に好ましくは200個以上であり、より好ましくは1500個以下であり、さらに好ましくは1300個以下であり、特に好ましくは1100個以下であり、最も好ましくは1000個以下である。
【0064】
また、フッ素樹脂の官能基数は、電気特性に優れる被覆層を形成できることから、炭素原子10個あたり5個未満であってよい。
【0065】
上記官能基は、共重合体(フッ素樹脂)の主鎖末端または側鎖末端に存在する官能基、および、主鎖中または側鎖中に存在する官能基であり、好適には主鎖末端に存在する。上記官能基としては、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONH、-OH、-CHOHなどが挙げられ、-CFH、-COF、-COOH、-COOCHおよび-CHOHからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。-COOHには、2つの-COOHが結合することにより形成されるジカルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)が含まれる。
【0066】
上記官能基の種類の同定および官能基数の測定には、赤外分光分析法を用いることができる。
【0067】
官能基数については、具体的には、以下の方法で測定する。まず、共重合体を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、共重合体の赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得る。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、共重合体における炭素原子1×10個あたりの官能基数Nを算出する。
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0068】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表1に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0069】
【表1】
【0070】
なお、-CHCFH、-CHCOF、-CHCOOH、-CHCOOCH、-CHCONHの吸収周波数は、それぞれ表中に示す、-CFH、-COF、-COOH freeと-COOH bonded、-COOCH、-CONHの吸収周波数から数十カイザー(cm-1)低くなる。
従って、たとえば、-COFの官能基数とは、-CFCOFに起因する吸収周波数1883cm-1の吸収ピークから求めた官能基数と、-CHCOFに起因する吸収周波数1840cm-1の吸収ピークから求めた官能基数との合計である。
【0071】
上記官能基数は、-CF=CF、-CFH、-COF、-COOH、-COOCH、-CONHおよび-CHOHの合計数であってよく、-CFH、-COF、-COOH、-COOCHおよび-CHOHの合計数であってよい。
【0072】
上記官能基は、たとえば、フッ素樹脂を製造する際に用いた連鎖移動剤や重合開始剤によって、フッ素樹脂(共重合体)に導入される。たとえば、連鎖移動剤としてアルコールを使用したり、重合開始剤として-CHOHの構造を有する過酸化物を使用したりした場合、フッ素樹脂の主鎖末端に-CHOHが導入される。また、官能基を有する単量体を重合することによって、上記官能基がフッ素樹脂の側鎖末端に導入される。フッ素樹脂は、官能基を有する単量体に由来する単位を含有してもよい。
【0073】
官能基を有する単量体としては、特開2006-152234号に記載のジカルボン酸無水物基((-CO-O-CO-)を有しかつ環内に重合性不飽和基を有する環状炭化水素モノマー、国際公開第2017/122743号に記載の官能基(f)を有する単量体などが挙げられる。官能基を有する単量体としては、なかでも、カルボキシ基を有する単量体(マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ウンデシレン酸等);酸無水物基を有する単量体(無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸等);水酸基またはエポキシ基を有する単量体(ヒドロキシブチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル等)等が挙げられる。
【0074】
フッ素樹脂は、例えば、その構成単位となるモノマーや、重合開始剤等の添加剤を適宜混合して、乳化重合、懸濁重合を行う等の従来公知の方法により製造することができる。
【0075】
フッ素樹脂層は、必要に応じて他の成分を含んでもよい。他の成分としては、架橋剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、発泡剤、発泡核剤、酸化防止剤、界面活性剤、光重合開始剤、摩耗防止剤、表面改質剤、有機・無機系の各種顔料、銅害防止剤、気泡防止剤密着付与剤、潤滑剤、加工助剤、着色剤、リン系安定剤、潤滑剤、離型剤、摺動材、紫外線吸収剤、染顔料、補強材、ドリップ防止剤、充填材、硬化剤、紫外線硬化剤、難燃剤等の添加剤等を挙げることができる。フッ素樹脂層中の他の成分の含有量としては、フッ素樹脂層中のフッ素樹脂の質量に対して、好ましくは30質量%未満であり、より好ましくは10質量%未満であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、下限は特に限定されないが、0質量%以上であってもよい。すなわち、フッ素樹脂層は、他の成分を含有しなくてもよい。
【0076】
機械特性の向上、成形加工性の向上の図る等の目的で、フッ素樹脂層は、添加剤、充填剤を含んでもよい。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンミルドファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、メタルファイバー、アスベスト、ロックウール、セラミックファイバー、スラグファイバー、チタン酸カリウムウィスカー、ボロンウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、ワラストナイト、パリゴルスカイト、セピオライト、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、ポリイミド繊維及びポリベンズチアゾール繊維、等の繊維状充填剤、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、マイカ、クレー、パイロフィライト、グラファイト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、黒鉛、等が例示される。
【0077】
低誘電化の向上のために、フッ素樹脂層に気泡を持たせることも有効である。無機系の発泡核剤として窒化ホウ素、タルク、ゼオライト、マイカ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ドロマイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、酸化鉄、等が例示される。電線加工時に、不活性なガス、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等を被覆材に注入し、発泡させることで、気泡を得ることができる。微細な中空粒子、中空カプセル、中空バルーン、中空ポリマー粒子等を材料に混ぜ込むことで、気泡を得ることができる。例えば、アクリル中空粒子、シリカ中空粒子、アルミナ中空粒子、セラミック中空粒子、ガラスバルーン、ガラス中空粒子等を挙げることができる。中空粒子のサイズは、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm未満であり、さらに好ましくは500nm以下であり、下限は特に限定されないが、30nm以上であってもよい。
【0078】
フッ素樹脂層の厚みは、絶縁特性の観点から、好ましくは40~300μmであり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは60μm以上であり、より好ましくは250μm以下であり、さらに好ましくは200μm以下である。
【0079】
フッ素樹脂層の比誘電率は、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2.4以下であり、さらに好ましくは2.3以下であり、尚さらに好ましくは2.2以下であり、特に好ましくは2.1以下であり、好ましくは1.8以上である。比誘電率は、ネットワークアナライザーHP8510C(ヒューレットパッカード社製)および空洞共振器を用いて、共振周波数および電界強度の変化を20~25℃の温度下で測定して得られる値である。
【0080】
絶縁電線の25℃で測定する部分放電開始電圧は、絶縁特性の観点から、下記の関係式を充足することが好ましい。
部分放電開始電圧(V) ≧ 5.5×t + 600
t:フッ素樹脂層の膜厚(μm)
【0081】
絶縁電線の部分放電開始電圧は、温度が変化しても変化しにくいことが好ましい。絶縁電線の25℃で測定する部分放電開始電圧と、200℃で測定する部分放電開始電圧とから、下記式により算出される変化率は、好ましくは10%未満であり、より好ましくは5%未満である。
変化率(%)=[(25℃で測定する部分放電開始電圧)-(200℃で測定する部分放電開始電圧)]/(25℃で測定する部分放電開始電圧)×100
【0082】
(その他の層)
本開示の絶縁電線は、フッ素樹脂層の外周に形成された他の層をさらに備えるものであってもよい。
【0083】
本開示の絶縁電線においては、導体とフッ素樹脂層とが十分な強度で密着しており、したがって、導体とフッ素樹脂層との間には他の層は存在せず、導体とフッ素樹脂層とが直接密着している。
【0084】
他の層としては、フッ素樹脂層の外周に形成され、熱可塑性樹脂を含有する層が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタラートなどが挙げられる。
【0085】
(絶縁電線の製造方法)
本開示の絶縁電線は、たとえば、押出機を用いて、フッ素樹脂を加熱して溶融させ、溶融した状態のフッ素樹脂を導体上に押し出して、被覆層を形成することにより製造することができる。
【0086】
この際、溶融状態のフッ素樹脂の温度よりも高い温度に加熱した導体上に、溶融状態のフッ素樹脂を押し出すことにより、導体とフッ素樹脂層とが十分な強度で密着した絶縁電線を得ることができる。
【0087】
押出成形機としては、特に限定されないが、シリンダー、ダイおよび導体を送り出す通過口を有するニップルを備える押出成形機を用いることができる。
【0088】
溶融状態のフッ素樹脂の温度は、通常、フッ素樹脂の融点以上であり、好ましくはフッ素樹脂の融点から15℃高い温度以上であり、より好ましくはフッ素樹脂の融点から20℃高い温度以上であり、さらに好ましくはフッ素樹脂の融点から25℃以上高い温度であり、尚さらに好ましくはフッ素樹脂の融点から40℃高い温度以上であり、特に好ましくはフッ素樹脂の融点から80℃高い温度以上であり、最も好ましくはフッ素樹脂の融点から100℃高い温度以上である。溶融状態のフッ素樹脂の温度の上限には限定はないが、電線成形時の樹脂の熱分解を抑えられる点と、電線成形時に樹脂の変色を抑えられる点で、510℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましい。溶融状態のフッ素樹脂の温度は、押出成形機のシリンダーの温度、ダイの温度などを調整することにより、調整することができる。溶融状態のフッ素樹脂の温度は、たとえば、熱電対を用いて、ダイヘッド出口から吐出されるフッ素樹脂の温度を測定することにより、特定することができる。
【0089】
加熱した導体の温度は、溶融状態のフッ素樹脂の温度よりも高い温度であり、好ましくは溶融状態のフッ素樹脂の温度から15℃高い温度以上であり、より好ましくは20℃高い温度以上であり、さらに好ましくは30℃高い温度以上である。加熱した導体の温度の上限には限定はないが、たとえば、700℃以下である。
加熱した導体の温度は、たとえば、接触式温度計または非接触温度計を用いて、加熱装置と押出成形機の間の導体の温度を測定することにより、特定することができる。
【0090】
加熱した導体の温度は、押出成形機に送り込む前の導体を加熱装置により加熱することにより、調整することができる。加熱装置としては、ハロゲンヒータ、カーボンヒータ、タングステンヒータ、熱風加熱装置、誘導加熱装置、マイクロ波加熱装置、過熱水蒸気発生装置、バーナーなど、高温で一定の範囲内を一気に加熱する装置であれば大きさや形状、装置個数、加熱源個数は問わない。また、異なる手法同士を組み合わせて使用することもでき、熱源は複数使用してもよい。一気に広範囲を均一に照射できる理由より、ハロゲンヒータでの加熱が好ましい。
【0091】
加熱の条件は、導体と樹脂とが接触する時の導体温度が成形温度(ヘッド温度)よりも高くなる条件であれば特に限定されず、成形機と加熱装置の距離は近くても離れていてもよい。また、導体加熱範囲通過後の走行線周囲には導体の保温目的で異なる加熱装置や加熱管、保温管、断熱材があってもよい。
【0092】
押出成形の際のライン速度は、0.1~50m/分であってよく、好ましくは20m/分以下である。
【0093】
フッ素樹脂層を形成した後、絶縁電線を冷却することができる。冷却方法は、特に限定されず、水冷、空冷などの方法であってよい。空冷により絶縁電線を冷却すると、適度な速度で冷却することができるので、フッ素樹脂層の厚みが均一になる傾向がある。
【0094】
フッ素樹脂層を形成した後、絶縁電線に対して、熱処理をしてもよい。熱処理は、フッ素樹脂層を形成した後あれば、冷却の前に行ってもよいし、冷却の後に行ってもよい。熱処理の温度は、通常、フッ素樹脂のガラス転移点以上であり、好ましくは融点から15℃高い温度以上であり、好ましくはフッ素樹脂の融点から50℃高い温度以下である。
【0095】
フッ素樹脂層を形成した後、フッ素樹脂層上に他の層を形成する材料を押し出して、他の層を形成してもよいし、同時多層溶融押出成形法により、フッ素樹脂層を形成するとともに、フッ素樹脂層上に他の層を形成してもよい。
【0096】
本開示の絶縁電線は、たとえば、LAN用ケーブル、USBケーブル、Lightningケーブル、HDMI(登録商標)ケーブル、QSFPケーブル、航空宇宙用電線、地中送電ケーブル、海底電力ケーブル、高圧ケーブル、超電導ケーブル、ラッピング電線、自動車用電線、ワイヤーハーネス・電装品、ロボット・FA用電線、OA機器用電線、情報機器用電線(光ファイバケーブル、LANケーブル、HDMIケーブル、ライトニングケーブル、オーディオケーブル等)、通信基地局用内部配線、大電流内部配線(インバーター、パワーコンディショナー、蓄電池システム等)、電子機器内部配線、小型電子機器・モバイル配線、可動部配線、電気機器内部配線、測定機器類内部配線、電力ケーブル(建設用、風力/太陽光発電用等)、制御・計装配線用ケーブル、モーター用ケーブル等に好適に使用できる。
【0097】
本開示の絶縁電線は、巻回されて、コイルとして使用することができる。本開示の絶縁電線およびコイルは、モータ、発電機、インダクターなどの電気機器または電子機器に好適に用いることができる。また、本開示の絶縁電線およびコイルは、車載用モータ、車載用発電機、車載用インダクターなどの車載用電気機器または車載用電子機器に好適に用いることができる。
【0098】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0099】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
導体と、前記導体上に形成され、溶融加工性のフッ素樹脂を含有するフッ素樹脂層とを備えており、前記導体から前記フッ素樹脂層を剥離することにより測定されるピール強度が、0.30N/mm以上である絶縁電線が提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
前記導体の断面形状が、略矩形である第1の観点による絶縁電線が提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
導体と、前記導体上に形成され、溶融加工性のフッ素樹脂を含有するフッ素樹脂層とを備えており、前記導体から前記フッ素樹脂を引き抜くことにより測定される引き抜き強度が、4N以上である絶縁電線が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
前記導体の断面形状が、略円形である第3の観点による絶縁電線が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
前記フッ素樹脂層が、溶融状態の前記フッ素樹脂の温度よりも高い温度に加熱した前記導体上に、溶融状態の前記フッ素樹脂を押し出すことにより、形成される第1~第4のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
前記導体が、銅、銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金からなる群より選択される少なくとも1種から構成される第1~第5のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
前記導体の面粗さSzが、0.2~12μmである第1~第6のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
前記フッ素樹脂層の厚みが、40~300μmである第1~第7のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
前記フッ素樹脂層の比誘電率が、2.5以下である第1~第8のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
25℃で測定する部分放電開始電圧が、下記の関係式を充足する第1~第9のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
部分放電開始電圧(V) ≧ 5.5×t + 600
t:フッ素樹脂層の膜厚(μm)
<11> 本開示の第11の観点によれば、
下記式で算出される変化率が、10%未満である第1~第10のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
変化率(%)=[(25℃で測定する部分放電開始電圧)-(200℃で測定する部分放電開始電圧)]/(25℃で測定する部分放電開始電圧)×100
<12> 本開示の第12の観点によれば、
前記フッ素樹脂のメルトフローレートが、0.1~120g/10分である第1~第11のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<13> 本開示の第13の観点によれば、
前記フッ素樹脂の融点が、240~320℃である第1~第12のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<14> 本開示の第14の観点によれば、
前記フッ素樹脂が官能基を有しており、前記フッ素樹脂の官能基数が、炭素原子10個あたり、5~2000個である第1~第13のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<15> 本開示の第15の観点によれば、
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する第1~第14のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<16> 本開示の第16の観点によれば、
前記フッ素樹脂のフルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量が、全モノマー単位に対して、1.0~30.0モル%である第15の観点による絶縁電線が提供される。
<17> 本開示の第17の観点によれば、
前記フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン単位およびヘキサフルオロプロピレン単位を含有する第1~第14のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<18> 本開示の第18の観点によれば、
前記フッ素樹脂が、カルボニル基含有基、アミノ基、ヒドロキシ基、-CFH基、オレフィン基、エポキシ基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する第1~第17のいずれかの観点による絶縁電線が提供される。
<19> 本開示の第19の観点によれば、
押出成形機を用いて、第1~第18の観点による絶縁電線を製造するための絶縁電線の製造方法であって、
前記フッ素樹脂を加熱することにより前記フッ素樹脂を溶融させ、溶融状態の前記フッ素樹脂の温度よりも高い温度に加熱した導体上に、溶融状態の前記フッ素樹脂を押し出すことにより、前記導体上に前記フッ素樹脂層を形成する製造方法が提供される。
<20> 本開示の第20の観点によれば、
ハロゲンヒータを用いて前記導体を加熱する第19の観点による製造方法が提供される。
【実施例
【0100】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0102】
(メルトフローレート(MFR))
ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で、内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出する共重合体の質量(g/10分)を求めた。
【0103】
(融点)
示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における融解熱量の極大値に対応する温度として求めた。
【0104】
(フッ素樹脂の組成)
19F-NMR法により測定した。
【0105】
(官能基数)
フッ素樹脂を330~340℃にて30分間溶融し、圧縮成形して、厚さ0.20~0.25mmのフィルムを作製した。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析装置〔FT-IR(商品名:1760X型、パーキンエルマー社製)により40回スキャンし、分析して赤外吸収スペクトルを得、完全にフッ素化されて官能基が存在しないベーススペクトルとの差スペクトルを得た。この差スペクトルに現れる特定の官能基の吸収ピークから、下記式(A)に従って、フッ素樹脂における炭素原子10個あたりの官能基数Nを算出した。
【0106】
N=I×K/t (A)
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルムの厚さ(mm)
【0107】
参考までに、本開示における官能基について、吸収周波数、モル吸光係数および補正係数を表2に示す。また、モル吸光係数は低分子モデル化合物のFT-IR測定データから決定したものである。
【0108】
【表2】
【0109】
(フッ素樹脂層の厚み)
マイクロメータにより測定した。
【0110】
(導体と樹脂とが接触する時の導体温度)
導体加熱範囲の走行線の動く方向の下流側の端部から走行線の動く方向に10cm離れた箇所に焦点が当たるように非接触式放射温度センサー(ジャパンセンサー社製)を固定し、導体加熱範囲外での導体温度を測定した。導体の断面形状が略矩形の場合、測定面は導体の長面部(主面)、短面部(側面)それぞれを測定し、校正としてそれぞれの面における加熱前の導体表面を接触式温度計(安立計器社製)で測定した温度(室温)を設定した。測定角度は面に対し垂直となるようにし、熱源および室内の光反射の影響を受けないよう、熱源と温度測定部との間に遮光板を設置した。
【0111】
また、導体加熱範囲の走行線の動く方向の下流側の端部から走行線の動く方向に10cm離れた箇所に走査型接触式温度計を固定し、導体表面温度を測定することもできる。測定面は導体の断面形状が略矩形の場合、導体の長面部(主面)、短面部(側面)それぞれを測定し、センサーに対し直角に導体が接触するように設置する。また、導体の断面形状が丸形の場合、走行導体がセンサーに対し直角に導体が接触するように設置する。
【0112】
また、導体の断面形状が略矩形の場合、長面部(主面)と短面部(側面)との温度差が±20℃以内となっていることを確認する。
【0113】
(導体の加熱方法)
加熱源はハロゲンヒータ(ランプヒータ)のライン光加熱(インフリッヂ工業社製)を用い、押出成形機入口とハロゲンヒータの中央ランプの長さが35cmになるように設置した。また、導体表面に対しランプが垂直に当たるようにしてヒーターを固定した。
【0114】
(導体と樹脂とが接触する時の樹脂温度)
電線被覆成形を開始する前に、押出成形機のダイから溶融状態のフッ素樹脂を押し出し、押し出されたフッ素樹脂のダイヘッド出口での温度を、熱電対により測定した。
【0115】
(面粗さSz)
レーザー顕微鏡(キーエンス製)で8000μmの視野における面粗さSzを測定した。
【0116】
(比誘電率)
上述したメルトインデクサーで作成したストランドを、幅2mm・長さ100mmの短冊状に切り出し、ネットワークアナライザーHP8510C(ヒューレットパッカード社製)および空洞共振器を用いて、2.45GHzの時の共振周波数および電界強度の変化を20~25℃の温度下で測定した。
【0117】
(引き抜き強度)
AGS-X オートグラフ(5kN)(島津製作所製)を用い、測定した。電線を70mmに切断し、端から20mmのみの被覆をあらかじめ引き剥がした後、上部チャックに導体径より太く電線径より細い穴をあけた治具を取り付けた。次に、引き剥がした導体のみの部分を治具に通した後、下部チャックに引き剥がした導体を固定した。そして、引張方向に装置を動かすことで、被膜部分のみを引き抜いた。移動距離が30mmとなるまで50mm/minで引っ張った時の最大点応力を引き抜き強度とした。
【0118】
(ピール強度)
AGS-J オートグラフ(50N)(島津製作所製)を用い、測定した。長軸方向に50mm略平行に2本、その両端を短軸方向に被膜を直角に切り込み、端を10mm剥離させ、上部チャックに挟んだ。導体は長面方向が水平になるよう下部に固定した。引張方向に装置を動かしたとき、その縦方向の移動距離に応じて横方向に連動して動く治具を用い、剥離した被膜が常に長面方向の導体と垂直になるよう角度を調整した。30mm剥離させるまで100mm/minで引っ張った時の引張応力を測定し、その最大点応力をピール強度とした。
【0119】
すなわち、AGS-J オートグラフ(50N)(島津製作所製)を用い、絶縁電線の導体(平角線)の主面上の被膜のピール強度を測定した。ここで、平角線の二組の対向する面のうち、導体の幅方向の寸法の大きい面(導体長手方向に対して直角な長辺の面)を主面とし、主面に直交する面導体(長手方向に対して直角な短辺の面)を側面とする。主面の導体の幅方向の寸法は、側面の導体の幅方向の寸法よりも大きい。一方の主面上の被膜に、絶縁電線の長手方向に沿って、略平行する2本の切り込みを入れ、さらに、50mmの間隔で、長手方向に直交した2本の切り込みを入れた。切り込みを入れた被膜の端部を導体から剥離させ、10mmのつかみしろを設けた。他方の主面が下を向くように、絶縁電線を治具に固定し、つかみしろを上部チャックに挟み、90度に折り返した。治具に固定された絶縁電線と被膜との角度が90度に保たれるように動く治具を用いた。被膜を100mm/minの引張速度で30mm剥離させ、引張応力を測定し、その最大点応力をピール強度とした。
【0120】
(曲げ試験)
U字コイルを用い、基点から10mm地点の両側を長軸方向(長手方向)にR2曲げた時に、フッ素樹脂層に浮き、しわおよびクラックの少なくとも1つが発生したものを×、浮き、しわおよびクラックが発生しなかったものを〇とした。
【0121】
(絶縁電線の外観)
絶縁被覆にメルトフラクチャーおよび変色の少なくとも1つが発生したものを×、メルトフラクチャーおよび変色発生しなかったものを〇とした。
【0122】
(部分放電開始電圧(PDIV)(25℃、200℃))
絶縁電線を90cmの長さで2本切り出し、13.5Nの張力をかけながらより合わせ、中央部の125mmの範囲に8回のより部を持つ、よりあわせコイルを作成した。その後、試料端部10mmの絶縁被膜を取り払い、部分放電測定器(総研電気社製DAC-PD-7)を用いて、環境温度25℃(相対湿度50%)または200℃(相対湿度50%)で、2本の絶縁電線の導体間に50Hz正弦波の交流電圧を加えることで測定した。昇圧速度50V/sec、降圧速度50V/sec、電圧保持時間を0secとして、10pC以上の放電が発生した時点の電圧を部分放電開始電圧とした。
【0123】
実施例および比較例では、次の導体を用いた。
導体1:断面が略矩形の銅製平角線、厚さ(短辺)2.0mm、幅(長辺)3.4mm
導体2:断面が略円形の銅製丸線、直径1.0mm
【0124】
比較例1、比較例1’
比較例1、比較例1’の絶縁被膜形成樹脂にはテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)の共重合体(PFA)で、MFRが14g/10min、融点が306℃のものを使用した。また、電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は365℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は260℃とした。
密着性の指標として、比較例1での丸線における引き抜き強度は2.0N、比較例1’での平角線におけるピール強度は0.001N/mmとなり、平角線での曲げ加工時にも被膜の浮きおよびしわが見られたことから、導体に対する樹脂の密着は抱きつき程度で非密着であることが確認できた。
【0125】
比較例2
比較例2の絶縁被膜形成樹脂にはテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)の共重合体(PFA)で、MFRが68g/10min、融点が295℃のものを使用した。また、電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は360℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は300℃とした。
密着性の指標として、比較例2での平角線におけるピール強度は0.25N/mmとなり、平角線での曲げ加工時にも被膜の浮きおよびしわが見られたことから、導体に対する樹脂の密着は抱きつき程度で非密着であることが確認できた。
【0126】
実施例1、実施例1’
実施例1、実施例1’の絶縁被膜形成樹脂は比較例2と同じのものを用いた。電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は330℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は350℃とした。
密着性の指標として、実施例1での丸線における引き抜き強度は14.0N、実施例1’での平角線におけるピール強度は1.80N/mmとなり、平角線での曲げ加工時には被膜のしわだけでなく浮きも見られなかったことから、導体に対する樹脂の密着は導体形状に関わらず比較例1、比較例1’よりそれぞれ高くなっていることが確認できた。
【0127】
実施例2、実施例2’
実施例2、実施例2’の絶縁被膜形成樹脂は比較例1、比較例1’と同じのものを用いた。電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は420℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は450℃とした。
密着性の指標として、実施例1での丸線における引き抜き強度は20.0N、実施例1’での平角線におけるピール強度は2.80N/mmとなり、平角線での曲げ加工時には被膜のしわだけでなく浮きも見られなかったことから、導体に対する樹脂の密着は導体形状に関わらず実施例1、実施例1’よりそれぞれ高くなっていることが確認できた。
【0128】
実施例3、実施例3’
実施例3、実施例3’の絶縁被膜形成樹脂にはテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)の共重合体(PFA)で、MFRが28g/10min、融点が303℃のものを使用した。また、電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は330℃とし、押出被覆層を140μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は350℃とした。
密着性の指標として、実施例3での丸線における引き抜き強度は15.0N、実施例3’での平角線におけるピール強度は1.80N/mmとなり、平角線での曲げ加工時には被膜のしわだけでなく浮きも見られなかった。
【0129】
実施例4、実施例4’
実施例4、実施例4’の絶縁被膜形成樹脂は比較例1、比較例1’と同じのものを用いた。電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は350℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は400℃とした。また、実施例4’の絶縁電線は、成形後の電線を330℃で2分、350℃で1分焼成した。
密着性の指標として、実施例4、実施例4’での平角線におけるピール強度はそれぞれ2.21N/mm、2.20N/mmとなり、密着力は同等レベルとなった。
【0130】
実施例5
実施例5の絶縁被膜形成樹脂には実施例3’と同じのものを用いた。電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は310℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は320℃とした。
密着性の指標として、実施例5での平角線におけるピール強度は0.93N/mmとなり、平角線での曲げ加工時には被膜のしわだけでなく浮きも見られなかった。
【0131】
実施例6
実施例6の絶縁被膜形成樹脂は比較例2と同じのものを用いた。電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は300℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は320℃とした。
密着性の指標として、実施例6での平角線におけるピール強度は1.00N/mmとなり、平角線での曲げ加工時には被膜のしわだけでなく浮きもが見られなかった。
【0132】
実施例7、実施例7’
実施例7の絶縁被膜形成樹脂にはテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)の共重合体(PFA)で、MFRが2g/10min、融点が307℃のものを使用した。また、電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は424℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は455℃とした。
密着性の指標として、実施例7での丸線における引き抜き強度は16.0N、実施例7‘での平角線におけるピール強度は1.70N/mmとなり、平角線での曲げ加工時には被膜のしわだけでなく浮きもが見られなかったが、電線表面にメルトフラクチャーが発生し、外観不良となった。
【0133】
実施例8
実施例8の絶縁被膜形成樹脂にはテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)の共重合体(PFA)で、MFRが68g/10min、融点が295℃のものを用いた。実施例8の導体には、表面粗度Szが7.72μmのものを用いた。電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は360℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は400℃とした。
密着性の指標として、実施例8での平角線におけるピール強度は3.50N/mmとなり、平角線での曲げ加工時には被膜のしわだけでなく浮きも見られなかった。
【0134】
比較例3、比較例3’
比較例3、比較例3’の絶縁被膜形成樹脂は比較例1、比較例1’と同じのものを用いた。電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は365℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、ヘッド出口の導体温度は260℃とした。また、 比較例3、比較例3’の絶縁電線は、成形後の電線を330℃で2分、350℃で1分焼成した。
密着性の指標として、比較例3での丸線における引き抜き強度は3.0N、比較例3’での平角線におけるピール強度は0.001N/mmとなり、密着力は比較例1と同等レベルとなった。
【0135】
比較例4
比較例4の絶縁被膜形成樹脂は比較例1と同じのものを用いた。比較例4の導体には、導体のみを380℃で加熱し、巻き取ったものを使用した。導体巻取り後は比較例1と同様に、電線成形におけるダイ出口の樹脂温度を365℃、導体と樹脂とが接触する時の導体温度を260℃とし、押出被覆層を200μm形成した。
密着性の指標として、比較例4での丸線における引き抜き強度は3.0Nとなり、密着力は比較例1と同等レベルとなった。
【0136】
実施例9、実施例9’
実施例9、実施例9’の絶縁被膜形成樹脂は比較例1と同じのものを用いた。電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は365℃とし、押出被覆層をそれぞれ100μm、60μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は380℃とした。
密着性の指標として、実施例9での丸線における引き抜き強度は11.0N、実施例9’での平角線におけるピール強度は0.62N/mmとなり、密着力は比較例3’、比較例4よりも高い密着力となった。
【0137】
実施例10
実施例10の絶縁被膜形成樹脂にはテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)の3元共重合体で、MFRが6g/10min、融点が265℃のものを使用した。また、電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は300℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は323℃とした。
密着性の指標として、実施例10での平角線におけるピール強度は1.20N/mmとなったが、電線表面にメルトフラクチャーが発生し、外観不良となった。
【0138】
実施例11
実施例11の絶縁被膜形成樹脂にはテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体で、MFRが6g/10min、融点が270℃のものを使用した。また、電線成形におけるダイ出口の樹脂温度は325℃とし、押出被覆層を200μm形成した。ここで、導体と樹脂とが接触する時の導体温度は350℃とした。
密着性の指標として、実施例11での丸線における引き抜き強度は15.0Nとなった。
【0139】
電線成形の条件および結果を表3および表4に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
【表4】