IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱樹脂インフラテック株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社大林組の特許一覧 ▶ 株式会社コンステックの特許一覧

特許7510136コンクリート保護材、下塗り材、保護層形成方法及びコンクリート構造物
<>
  • 特許-コンクリート保護材、下塗り材、保護層形成方法及びコンクリート構造物 図1
  • 特許-コンクリート保護材、下塗り材、保護層形成方法及びコンクリート構造物 図2
  • 特許-コンクリート保護材、下塗り材、保護層形成方法及びコンクリート構造物 図3
  • 特許-コンクリート保護材、下塗り材、保護層形成方法及びコンクリート構造物 図4
  • 特許-コンクリート保護材、下塗り材、保護層形成方法及びコンクリート構造物 図5
  • 特許-コンクリート保護材、下塗り材、保護層形成方法及びコンクリート構造物 図6
  • 特許-コンクリート保護材、下塗り材、保護層形成方法及びコンクリート構造物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】コンクリート保護材、下塗り材、保護層形成方法及びコンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/62 20060101AFI20240626BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240626BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240626BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240626BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240626BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240626BHJP
【FI】
C04B41/62
E04G23/02 A
C09D201/00
C09D163/00
C09D5/00 D
C09D7/61
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020185532
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2021147306
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2020046478
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】000130374
【氏名又は名称】株式会社コンステック
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石塚 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 善彦
(72)【発明者】
【氏名】植松 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 利充
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 壮大
(72)【発明者】
【氏名】小柳 光生
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102976788(CN,A)
【文献】特開2000-044367(JP,A)
【文献】特開2001-342085(JP,A)
【文献】特開平01-282174(JP,A)
【文献】特開平01-282173(JP,A)
【文献】特開2005-248692(JP,A)
【文献】特開平03-167269(JP,A)
【文献】特開2000-086942(JP,A)
【文献】特開2017-177102(JP,A)
【文献】特開2018-012788(JP,A)
【文献】特開平07-330469(JP,A)
【文献】実開昭54-131561(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/62
E04G 23/02
C09D 201/00
C09D 163/00
C09D 5/00
C09D 7/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明塗料を主材とするコンクリート保護材であって、
酸化チタン黒色に発色させるカーボンを顔料として含み、
当該保護材の全量に対して、前記酸化チタンの含有量が0.4質量%から1.5質量%、前記カーボンの含有量が0.007質量%から0.045質量%であり、
当該保護材の塗布乾燥後のJIS K7375に準拠して測定される全光線透過率が20%から60%であることを特徴とするコンクリート保護材。
【請求項2】
保護材のBH型粘度計で測定した23℃における20rpm時の粘度が、6Pa・sから10Pa・sであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート保護材。
【請求項3】
請求項1に記載のコンクリート保護材の下塗り材であってコンクリート構造物の表面に塗布される二液型の下塗り材において、
エポキシ樹脂を含む主剤(A材)と硬化剤(B材)とを含み、且つ、当該下塗り材全量に対する固形分の割合が0.75質量%から10質量%であることを特徴とする下塗り材。
【請求項4】
コンクリート構造物の表面に、エポキシ樹脂を含む主剤(A材)と硬化剤(B材)とを含む下塗り材を塗布する工程と、
前記下塗り材に重ねて請求項1又は2に記載のコンクリート保護材を塗布する工程と、
を有することを特徴とするコンクリート構造物表面の保護層形成方法。
【請求項5】
コンクリート構造物の表面に、請求項3に記載の下塗り材を塗布する工程と、
前記下塗り材に重ねて請求項1から3の何れかに記載のコンクリート保護材を塗布する工程と、
を有することを特徴とするコンクリート構造物表面の保護層形成方法。
【請求項6】
エポキシ樹脂を含む主剤(A材)と硬化剤(B材)とを含む下塗り材の塗布膜と、請求項1又は2に記載のコンクリート保護材の塗布膜が、この順に重なった保護層を表面に有するコンクリート構造物。
【請求項7】
請求項3に記載の下塗り材の塗布膜と、請求項1又は2に記載のコンクリート保護材の塗布膜が、この順に重なった保護層を表面に有するコンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築分野や土木分野のコンクリート構造物(以下、単に「構造物」ともいう。)の表面を保護するための保護材と、コンクリート構造物の表面に補修のための保護層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の表面に現出した傷やひび割れなどを補修する処理では、補修した面への劣化因子の侵入を抑制するとともに、補修した面の美観向上のため、透明な塗料をコンクリート構造物の表面に塗布して保護することが行われている。
【0003】
コンクリート構造物の表面保護のためのコーティング方法としては、例えばコンクリート構造物の素地の表面状態を外側から目視確認できるようにするために、構造物の表面に下塗り材を塗り付けた後にガラス繊維シートを貼り付け、その上から透明ポリウレタン樹脂溶液からなる塗料を塗布して、コンクリート構造物の表面に透明な保護層を形成するものが知られている(例えば特許文献1参照)。
また、コンクリート構造物の表面に透明塗料の塗装ムラができるのを防止するため、時間経過とともに自然退色する性質を有する染料を、透明な塗料に配合して用いることが知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-1707号公報
【文献】特開平11-12065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリート構造物表面の劣化した部分を補修し、補修処理を施した表面部分に透明塗料を塗布して保護層を形成した際、透明塗料をそのまま塗布すると、第1にコンクリート構造物の表面に濡れ感が現出して残り、本来のコンクリートの素地の質感が損なわれるという問題があった。また、第2に前記濡れ感が現出することと相俟って補修箇所が余計に目立つようになり、補修後のコンクリート構造物表面の意匠性を悪化させることがあるという問題があった。
【0006】
前記第1の問題は、艶消しタイプのクリア塗料を使用することで濡れ感の現出を若干抑えることができるが、濡れ感が多少なりとも残ることで本来のコンクリート素地の質感と異なる風合いの外観のものとなることに変わりはない。
第2の問題は、顔料を含ませたクリア塗料であるカラーコートを使用することで、補修箇所が見えないようにすることは可能である。しかし、カラーコートを補修面に塗って補修箇所を覆い隠すことができたとしても、現状使用されているカラーコートにコンクリートの素地の色合いが再現されるような品質のものはなく、現状のカラーコートを補修面に塗ると、恰も補修面全体にコンクリートの素地とは異なる色のペンキをベタ塗りしたような外観のものとなってしまい、元のコンクリート表面の意匠性を再現することができなかった。
【0007】
本発明は従来の技術の有することのような問題点に鑑み、コンクリート構造物の表面を補修処理するのに伴って構造物表面に保護材を塗布して保護層を形成するにあたり、構造物表面が濡れ色にならないようにすること、補修箇所を目立たないように覆い隠すことができ、且つ元のコンクリート素地の自然な質感・風合いを保って構造物表面の当初の意匠性を再現し維持することができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記第1の問題に関してコンクリート表面に濡れ色が残らないようにするために講じる手段を鋭意研究した結果、後述するように、保護材の塗布に先立ってコンクリート構造物の表面に塗布する下塗り材を、その固形分が所定の範囲に調整されたものを用いることで、コンクリート表面に濡れ色がつくことを解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明者は前記第1の問題及び第2の問題に関してコンクリート素地の質感を残しつつ補修箇所を目立たないようするために講じる手段を鋭意研究した結果、透明な塗料に顔料としてチタンとカーボンを所定の割合で配合した保護材を用いることで、元のコンクリート表面の風合いを残しつつも補修跡を目につかないように覆い隠すことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、透明塗料を主材とするコンクリート保護材であって、
酸化チタン黒色に発色させるカーボンを顔料として含み、
当該保護材の全量に対して、前記酸化チタンの含有量が0.4質量%から1.5質量%、前記カーボンの含有量が0.007質量%から0.045質量%であり、
当該保護材の塗布乾燥後のJIS K7375に準拠して測定される全光線透過率が20%から60%であることを特徴とする。
本発明のコンクリート保護材は、BH型粘度計で測定した23℃における20rpm時の粘度が、6Pa・sから10Pa・sであることを特徴とする。
また、本発明は、前記コンクリート保護材の下塗り材であってコンクリート構造物の表面に塗布される二液型の下塗り材であり、エポキシ樹脂を含む主剤(A材)と硬化剤(B材)とを含み、且つ、当該下塗り材全量に対する固形分の割合が0.75質量%から10質量%であることを特徴とする。
本発明のコンクリート構造物表面の保護層形成方法は、コンクリート構造物の表面に、エポキシ樹脂を含む主剤(A材)と硬化剤(B材)とを含む下塗り材を塗布する工程と、前記下塗り材に重ねて前記コンクリート保護材を塗布する工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明の保護層形成方法は、下塗り材全量に対する固形分の割合が前記のものである下塗り材を用いることを特徴とする。
本発明のコンクリート構造物は、エポキシ樹脂を含む主剤(A材)と硬化剤(B材)とを含む下塗り材の塗布膜と、前記コンクリート保護材の塗布膜が、この順に重なった保護層を表面に有することを特徴とする。
また、本発明のコンクリート構造物は、下塗り材全量に対する固形分の割合が前記のものである下塗り材の塗布膜と、前記コンクリート保護材の塗布膜が、この順に重なった保護層を表面に有することを特徴とする。
【0010】
〔コンクリート保護材〕
コンクリート保護材は、透明な塗料を主材とする。
主材となる塗料の素材としては、アクリルシリコン系の合成樹脂、アクリル合成樹脂、フッ素合成樹脂、ポリウレタン合成樹脂などを成分とする水系樹脂を用いることができる。
具体的には、例えば、「ダイヤ水系CRPシステム」の水系アクリルシリコン樹脂製の塗料(株式会社ダイフレックス製)や「ビュートップシリコン 調色対応品」や「キクスイSA工法」の水系シリコン樹脂製の塗料(菊水化学工業株式会社製)、「アクアプリズム」の水系フッ素樹脂製の塗料(関西ペイント株式会社製)などを用いることができる。
【0011】
コンクリート保護材は、前記透明な塗料に顔料として、後述するチタンとカーボンを混錬して製造される。顔料の配合量は、製造された保護材をその塗布対象に塗布して、乾燥後のJIS K7375に準拠して測定される全光線透過率が20%から60%となるように調整される。
全光線透過率が20%より小さいと、保護材が塗布されたコンクリート表面が、黒色又は白色系の塗料で覆われたような色合いがついた外観のものとなり、元のコンクリート素地の風合いが見えなくなってしまう。
他方、全光線透過率が60%よりも大きいと、元のコンクリート素地の風合いは現出するが、補修箇所の傷跡や補修跡は隠すことができず、目立ってしまう。よって、保護材を塗布して乾燥後のJIS K7375に準拠して測定される全光線透過率が20%から60%の範囲内となるように配合量が調整されていることが好ましい。
【0012】
〔顔料〕
前記のとおり、コンクリート保護材には顔料としてチタンとカーボンが配合される。
チタンは、これを混入することで透明な塗料を含む保護材を白色に発色させ、同じくカーボンは黒色に発色させるが、構造体表面に保護材を塗布した状態でコンクリート素地の風合いが現出する程度に保護材の透明度が保持され、且つ補修箇所が覆い隠れる程度の色合いの配合量に調整されていることが肝要である。
【0013】
とりわけ、コンクリート素地を隠蔽するように作用するチタンの配合割合を適正に設定する必要があり、チタンは保護材の全量100質量%に対し、0.4質量%から1.5質量%含有されていることが好ましい。
チタンの含有量が0.4質量%よりも小さいと、保護材が塗布されたコンクリート表面の補修箇所を覆い隠すことができず、1.5質量%よりも大きいと補修箇所は隠れるものの補修面は灰色の塗料で全体を塗りつぶしたような外観となり、コンクリート素地の風合いが見えなくなってしまうことから上記範囲に設定するのが好ましい。かかる観点からチタンの含有量は0.6質量%以上がより好ましく、0.7質量%以上が特に好ましい。一方上限は、1.3質量%以下がより好ましく、1.2質量%以下が特に好ましい。
保護材の製造に用いるチタンとしては酸化チタン、例えば汎用の酸化チタンである「R980」(石原産業株式会社製)を用いることができる。
【0014】
カーボンは、コンクリート表面の補修箇所を隠蔽する機能を奏するチタンの白色の発色を、コンクリート素地の色に近い色となるように補正する機能を奏し、その配合割合は、補修処理が施されるコンクリート構造体の原色に応じて適宜に調整することができる。
後述する実施例によれば、チタンは保護材の全量100質量%に対し、0.007質量%から0.045質量%の範囲で、チタンの配合割合に対応して設定することで、保護材が塗布されたコンクリート表面の補修箇所を覆い隠して目立たなくし、且つ元のコンクリート素地の風合いが残った外観のものにすることができることを確認している。
保護材の製造に用いるカーボンとしては、「ケッチェンブラック」シリーズ(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、「Ensaco」シリーズ(Imerys社製)、「デンカブラック」シリーズ(デンカ株式会社製)等、各シリーズのカーボンを用いることができる。
【0015】
〔保護材の粘度〕
補修処理が施されたコンクリート構造物の表面に保護材を塗布して保護層を形成するにあたり、コンクリートの中性化を防止するなど補修した面への劣化因子の侵入を抑制するために、保護層は十分な塗膜厚みを確保して形成されていることが好ましい。
他方、塗膜厚みが大きくなると、保護材を塗装した面の光透過性が低下して曇りが増し、コンクリート素地の自然な風合いが損なわれることとなる。保護材の粘度が小さいと、保護材の緩さから構造体の壁面に塗ったときなどは壁面に沿って流れ落ちる量が多くなり、一回の塗布作業で十分な塗布量を確保することができない。
かかる観点から、コンクリート保護材の粘度は、BH型粘度計の20回転の粘度が6Pa・sから10Pa・sであることが好ましい。
粘度が6Pa・sより小さいと保護材を塗布したときの塗布膜が薄くなり、透過度が増して補修箇所を十分に被覆することができず、10Pa・sより大きいと膜厚が大きくなりすぎて透過率が悪くなり、コンクリート素地の自然な風合いの外観は得られない。上記範囲内であれば一回の塗布作業でコンクリート表面に十分な膜厚を確保して保護材を定着させ、補修箇所の隠蔽とコンクリート素地の風合いの現出を両立させることが可能である。
粘度の調整は、ベースとなる塗料の樹脂に顔料と、適宜な量の増粘剤を、混ぜて行うことができる。
【0016】
〔保護材の製造〕
コンクリート保護材は、クリア塗料に顔料であるチタンとカーボンを配合し、混錬して製造することができる。
この際、ベースとなる塗料の樹脂に顔料を入れて単に混錬したのでは、チタンが比較的重い成分であるため、均一に混ざるまで時間を要する。
そのため、混錬前に、チタンを水と混ぜたチタンスラリーを事前に作製しておき、プレミクスしたスラリーをベース樹脂に混ぜることが分散効率の点で好ましい。ベース樹脂を半分にした状態で前記顔料を混ぜて分散させ、その後、他半分のベース樹脂を混ぜて混錬してもよい。顔料とともに適宜な分散材を入れて混ぜてもよい。
チタンとカーボンの粒径は、コンクリート表面に材料の粒が残ると目につきやすいので、ともに粒径が小さいものを用いることが好ましい。
【0017】
〔下塗り材〕
前述のとおり、構造体表面に保護材を塗布して保護層を形成するに際し、コンクリート表面に濡れ感が出ないようにすることについて検討を行ったところ、下塗り材の固形分の量を所定の量に調整することで、コンクリート表面に濡れ感が出ることを抑制でき、濡れ感が出ることを抑制することで補修箇所が目立たなくなることを見出した。
具体的には、コンクリート構造物の表面に塗布される二液型の下塗り材であり、エポキシ樹脂を含む主剤(A材)と硬化剤(B材)とを含み、且つ、下塗り材全量に対する固形分の割合が4質量%から10質量%であることが好ましい。ここで、固形分とはJIS K 5407に基づき測定される加熱残分のことである。
前記A材とB材とを所定の割合で混ぜることにより固形分を調節することができる。A材とB材の混合比率は、好ましくは1:1である。
かかる割合で固形分を含む下塗り材をコンクリート表面に塗布したときに濡れ感が現出するのを効果的に防止することが可能である。濡れ感が出ないことで補修傷や補修跡も目立たなくなる。
硬化剤としては、例えばポリアミドアミン、脂肪族アミン、芳香族アミン、イミダゾール類、ポリメルカプタンなどを主成分として含むことが好ましい。また、可使時間が長く物性に優れた塗膜が得やすい観点から、ポリアミドアミンであることがより好ましい。
下塗り材としては、上記保護材で用いる透明塗料を用いることができる。構造体壁面に一回の塗布で適宜な厚みの塗布膜が定着するように、適宜な量の増粘剤を混ぜることが好ましい。
より好ましくは、前記A材が3質量%から5質量%のケイ酸塩を含むエポキシ樹脂であれば、下塗り材がコンクリート表面に浸透しやすくなり、濡れ色が出ることを防止しつつ、コンクリート表面の保護効果を向上させることが可能である。
【0018】
〔保護層の形成方法〕
上記コンクリート保護材を用いて、補修処理がされたコンクリート表面に保護層を形成するには、前記下塗り材をコンクリート表面に塗布する工程と、下塗り材に重ねてコンクリート保護材を塗布する工程により行うことができ、これにより、下塗り材の塗布膜と、前記コンクリート保護材の塗布膜がこの順に重なった保護層を表面に有するコンクリート構造物が得られる。
前記のように、保護層の厚みを大きく確保して、補修した面への劣化因子の侵入を抑制するため、前記コンクリート保護材を塗布面が乾燥した後、これに重ねて透明な塗料を塗布することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のコンクリート構造物の保護材によれば、透明塗料を含み、所定範囲の全光線透過率となるように調整されており、これを補修がなされたコンクリート構造物の表面に塗布することで、構造物表面を保護する保護層が形成される。保護層による塗膜で表面が覆われた構造物は、補修した部分が保護層で覆い隠されて目立たなくなる一方、保護層を透けてコンクリート素地の質感が外側から見て取れ、補修前のコンクリートの自然な質感・風合いを保った外観のものにすることができる。
また、本発明の下塗り材を補修がなされたコンクリート構造物の表面に塗布することにより、構造物表面が濡れ色に発色することを抑えることができ、下塗り材に重ねて前記保護材を塗布して保護層を形成すれば、補修した部分を覆い隠しつつ、構造物表面の当初の意匠性を再現し維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例と比較例の試験結果を示した表である。
図2】実施例と比較例における保護材に含まれる所定量のカーボンに対してチタンの含有量が異なるときの全光線透過率の変化を示した図である。
図3】実施例と比較例における保護材に含まれる所定量のチタンスラリーに対してカーボンの含有量が異なるときの全光線透過率の変化を示した図である。
図4】コンクリート構造物の表面に汎用のクリア塗料で保護層を形成した場合のコンクリート表面の外観写真である。
図5】コンクリート構造物の表面に実施例5の保護材で保護層を形成した場合のコンクリート表面の外観写真図である。
図6】下塗り材についての実施例と比較例の試験結果を示した表である。
図7】実施例と比較例の下塗り材をコンクリート歩道板に塗布して乾燥させたときの外観写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、実施例に基づいて説明する。
なお、以下の実施例は、本発明を説明するための例示であり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0022】
[実施例1]
保護材の材料として、クリア塗料:水系アクリルシリコン樹脂エマルジョン(粘度:2.80Pa・s、TI値:1.8、固形分:34%、比重:1.00g/cm)、チタン:酸化チタン「R-980」(石原産業株式会社製)、カーボン:水性カーボン「Black FLTR Conc」(大日精化工業株式会社製)、増粘材:水系ウレア変性ウレタン(比重:1.04)を用い、保護材全体100質量%に対して、チタン0.6質量%、カーボン0.0079質量%の配合量となるように調整し、これらを混錬して保護材を製造した。
製造した保護材の透過性を測定するため、縦横が150mm×70mmの離型紙上に、WET0.2mmの塗布量で保護材を塗布し、23℃環境下で24時間乾燥させた後、40℃環境下で24時間乾燥させ、脱型裏返しし、さらに40℃環境下で48時間乾燥させて測定試験体を得た。
【0023】
[実施例2]
チタン0.6質量%、カーボン0.0191質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0024】
[実施例3]
チタン0.6質量%、カーボン0.0428質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0025】
[実施例4]
チタン0.9質量%、カーボン0.0076質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0026】
[実施例5]
チタン0.9質量%、カーボン0.0161質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0027】
[実施例6]
チタン0.9質量%、カーボン0.0372質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0028】
[実施例7]
チタン1.2質量%、カーボン0.0112質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0029】
[実施例8]
チタン1.2質量%、カーボン0.0175質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0030】
[実施例9]
チタン1.2質量%、カーボン0.0356質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0031】
[比較例1]
チタン0.3質量%、カーボン0.0188質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0032】
[比較例2]
チタン0.3質量%、カーボン0.0375質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0033】
[比較例3]
チタン1.8質量%、カーボン0.0094質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0034】
[比較例4]
チタン1.8質量%、カーボン0.0188質量%の配合割合となるように調整する以外、実施例1と同様にして保護材を製造し、測定試験体を得た。
【0035】
〔保護材の透過性の評価〕
各実施例と比較例で得られた測定試験体について、JIS K7375に準拠した測定方法により全光線透過率を測定した。その結果を図1の表中に示す。同図中、全光線透過率が20%から60%の範囲内であったものは「〇」、範囲外のものには「×」を付した。
【0036】
〔保護層の外観評価〕
実施例と比較例で得られた保護材を、補修処理がされた300mm×300mmのコンクリート構造物の表面に塗布して保護層を形成し、その外観を評価した。以下に詳細を記載する。
先ず、補修処理として、前記300mm×300mmのコンクリート構造物の表面の一部をディスクグラインダーで削り、削った箇所を樹脂モルタルで修復した。
この補修箇所を含むコンクリート構造物全面に、下塗り材:「MYルーファープライマーSP」(固形分7.5%、三菱ケミカルインフラテック株式会社製)を中毛ローラーにより100g/mで塗布し、その上に前記保護材を中毛ローラーにより130g/mで塗布して保護膜を形成した。
保護層の外観評価を前記表中に示す。目視により補修跡が目立たないものには「〇」、補修跡が目立つ又はコンクリート素地の風合いが現れなかったものには「×」を付して評価した。
【0037】
上記評価によれば、実施例1から実施例8の保護材は全光線透過率が20%から60%の範囲内であり、各実施例の保護材を用いてコンクリート表面に保護層を形成した場合、その外観は補修箇所が目立たなく、尚且つコンクリート素地の風合いが透過して表面が現れたものとなり、意匠性を向上することができた。
各比較例の保護材は全光線透過率が上記範囲外であり、比較例の保護材を用いてコンクリート表面に保護層を形成した場合、比較例1は補修跡が目立って意匠性を損ね、比較例2では補修跡がやや目立つ外観となった。比較例3と比較例4では、コンクリート表面が塗りつぶされた外観となり、コンクリート素地の風合いが現れなかった。
【0038】
各実施例と比較例のチタンとカーボンの配合比率と全光線透過率の測定値の相関を図2図3に示す。
図2は、保護材の全体量に対するカーボン含有量が所定の範囲(0.007~0.045質量%)であるとき、チタン含有量の違いによって全光線透過率がどのように変わるかを示したグラフある。測定結果をプロットしたこのグラフから、チタン含有量が0.4~1.5質量%の範囲であれば、全光線透過率20~60%を満たし得ることがわかる。
図3は、保護材の全体量に対するチタン含有量が所定の範囲(0.4~1.5質量%)であるときに、カーボン含有量の違いが全光線透過率にどのような影響を与えるかについて示したグラフある。このグラフからは、カーボン含有量が0.007~0.045質量%の範囲において、全光線透過率20~60%を満たし得ることがわかる。
両グラフに示された相関を比較すると、カーボン含有量よりもチタン含有量を操作するほうが全光線透過率への影響が大きいことがわかる。
【0039】
図4は、コンクリート構造物の表面に汎用のクリア塗料を塗布して保護層を形成した場合の形成前(上側の写真)と形成後(下側の写真)の構造物表面の外観を示している。
同図に示されるように、汎用のクリア塗料をコンクリート構造物に塗ると、構造物表面が濡れ色に発色し、塗った後の方が塗る前よりも表面の濃淡が強調された外観となり、逆に表面の汚れが目立ってしまうことがあった。
【0040】
図5は、コンクリート構造物の表面に前記実施例5の保護材を塗布して保護層を形成した場合の形成前(上側の写真)と形成後(下側の写真)の構造物の表面の外観を示している。
同図に示されるように、保護材を塗布して保護層を形成することで、元の構造物表面の汚れや経時に伴って表出した表面の濃淡が保護層で覆い隠されて目立たたなくなり、しかも保護層を透過してコンクリートの素地が表面に現れて見え、構造物表面をコンクリートの風合いを生かした綺麗な外観に装飾することができている。
【0041】
〔実施例10〕
下塗り材の材料として、エポキシ樹脂を含む主剤(A材)と硬化剤(B材)を含む水系アクリルゴム防水材「MYルーファープライマーSP」(固形分7.5%、三菱ケミカルインフラテック株式会社製)を用い、水で希釈して下塗り材を作製した。
本実施例では、下塗り材全質量に対する固形分の割合が0.75質量%となるように水の希釈量を調整して下塗り材を得た。
【0042】
得られた下塗り材を、30cm×30cmのコンクリート板(基材)を縦横に三等分して作製された10cm×10cmの試験片の表面に、中毛ローラーにより100g/mで塗布し、これを23℃で7日間乾燥して下塗り材の塗布膜を形成し、得られた塗布膜の表面の濡れ色の外観評価を行った。
その結果を図6の表中に示す。
【0043】
また、前記試験片の下塗り材の塗布膜が形成された面に、実施例5の保護材を130g/mで塗布し、23℃で7日間乾燥させて保護材の塗装面を得た。得られた塗装面について建研式付着試験機を用いて付着試験を行って評価した。
その結果を図6の表中に示す。
【0044】
[実施例11]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が0.99質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0045】
[実施例12]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が1.61質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0046】
[実施例13]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が3.99質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0047】
[実施例14]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が5.92質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0048】
[実施例15]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が7.78質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0049】
[実施例16]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が9.85質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0050】
[比較例5]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が0.02質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0051】
[比較例6]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が0.21質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0052】
[比較例7]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が0.59質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0053】
[比較例8]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が11.78質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0054】
[比較例9]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が13.85質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0055】
[比較例10]
下塗り材全質量に対する固形分の割合が15.75質量%となるように水の希釈量を調整する以外、実施例1と同様にして下塗り材を製作し、評価を行った。
【0056】
前記各実施例と比較例の下塗り材の塗布膜の濡れ色の評価結果を図6の表中に示す。また、濡れ色が表出していないか目立たないものには「〇」、目立つものには「×」を図6の表中に付した。
同じく保護材の塗装面の付着試験の評価結果を図6の表中に示す。
なお、付着試験は、以下の基準により評価した。
〇:下塗り材と保護材とが付着しており、コンクリート基材が凝集破壊する。
×:下塗り材とコンクリート板(基材)との界面で界面剥離する。
【0057】
また、実施例11から16と、比較例8から10でそれぞれ用いた下塗り材を、コンクリート歩道板に塗布して乾燥させたときの外観を図7に示す。比較例では濡れ色が表出して目立っていることが確認できる。
【0058】
前記実施例10から16、比較例5から10の結果から、特定の範囲の固形分を有する下塗り材を用いたときに濡れ色の抑制と付着性との両立を図れることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7