(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】差圧弁およびそれを有する弁装置
(51)【国際特許分類】
F16K 17/30 20060101AFI20240626BHJP
F16K 11/24 20060101ALI20240626BHJP
F25B 41/20 20210101ALI20240626BHJP
【FI】
F16K17/30 A
F16K11/24 Z
F25B41/20 Z
(21)【出願番号】P 2020215071
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡利 大介
(72)【発明者】
【氏名】山際 利信
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】堀田 照之
(72)【発明者】
【氏名】高木 智弘
(72)【発明者】
【氏名】釘尾 誠司
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152848(JP,A)
【文献】特開2000-193105(JP,A)
【文献】特開2016-217513(JP,A)
【文献】特開2006-183881(JP,A)
【文献】特開2001-235054(JP,A)
【文献】特開平07-133972(JP,A)
【文献】中国実用新案第205908804(CN,U)
【文献】特開2021-085546(JP,A)
【文献】特開2021-085548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 11/22 - 11/24
F16K 17/18 - 17/34
F25B 41/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室と背圧室とを有する弁本体と、前記弁室と前記背圧室とを区画するように配置された合成樹脂製のダイアフラムと、前記弁本体との間に前記ダイアフラムの外周部を挟むように配置された円環形状の保持部材と、前記弁室に配置され、前記ダイアフラムによって移動される弁体と、を有する差圧弁であって、
前記ダイアフラムの中央部が、前記弁室と前記背圧室との差圧がない状態で円錐台形状となるように構成され、
前記弁体が、前記ダイアフラムの中央部に取り付けられており、
前記差圧弁が、前記ダイアフラムの外周部の前記弁室側の面に重ねて配置された円環形状の封止部材と、前記ダイアフラムの外周部の
前記背圧室側の面に重ねて配置され
た合成樹脂製の円環形状の保護シート
と、を有し
、
前記封止部材、前記ダイアフラムの外周部および前記保護シートが、前記弁本体と前記保持部材とに挟まれて保持されていることを特徴とする差圧弁。
【請求項2】
前記封止部材が、ポリテトラフルオロエチレン製である、請求項1に記載の差圧弁。
【請求項3】
前記保護シートの内径が、前記ダイアフラムの中央部の外径より小さい、
請求項1または請求項2に記載の差圧弁。
【請求項4】
前記保持部材が、前記保護シートに接する円環平面と、円筒形状の内周面と、前記円環平面と前記内周面とを滑らかに接続する曲面形状の接続面と、を有し、
前記保護シートの内径が、前記保持部材の
前記内周面の径より小さい、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の差圧弁。
【請求項5】
流入口と、前記流入口に接続された主弁室と、前記主弁室に主弁座を介して接続された第1流出口と、前記主弁室に分岐通路を介して接続された差圧弁室と、前記差圧弁室に差圧弁座を介して接続された第2流出口と、を有する弁本体と、
前記主弁室に配置され、前記主弁座を開閉する主弁体と、
前記差圧弁室と背圧室としての前記第1流出口とを区画するように配置された合成樹脂製のダイアフラムと、
前記弁本体との間に前記ダイアフラムの外周部を挟むように配置された円環形状の保持部材と、
前記差圧弁室に配置され、前記ダイアフラムによって移動される差圧弁体と、を有する弁装置であって、
前記ダイアフラムの中央部が、前記差圧弁室と前記第1流出口との差圧がない状態で円錐台形状となるように構成され、
前記差圧弁体が、前記ダイアフラムの中央部に取り付けられており、
前記弁装置が、前記ダイアフラムの外周部の前記差圧弁室側の面に重ねて配置された円環形状の封止部材と、前記ダイアフラムの外周部の
前記第1流出口側の面に重ねて配置され
た合成樹脂製の円環形状の保護シート
と、を有し
、
前記封止部材、前記ダイアフラムの外周部および前記保護シートが、前記弁本体と前記保持部材とに挟まれて保持されていることを特徴とする弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差圧弁およびその差圧弁を有する弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の弁装置の一例である差圧弁付電磁弁が特許文献1に開示されている。特許文献1の電磁弁は、1つの弁本体に電磁弁部と差圧弁部とが一体的に設けられている。弁本体は、主弁室と、差圧弁室と、流入口と、第1流出口と、第2流出口と、を有している。流入口は、主弁室に接続されている。主弁室は、主弁座を介して第1流出口に接続されている。主弁室は、分岐通路を介して差圧弁室にも接続されている。差圧弁室は、差圧弁座を介して第2流出口に接続されている。電磁弁部は、主弁座を開閉する主弁体を有している。差圧弁部は、差圧弁座を開閉する差圧弁体を有している。
【0003】
差圧弁体は、差圧弁室と第1流出口(背圧室)とを区画するように配置された合成樹脂製のダイアフラムに取り付けられている。ダイアフラムの外周部は、弁本体と円筒形状の保持部材との間に挟まれている。保持部材は、内周面とダイアフラムに接する円環平面とを有しており、円環平面と内周面とが曲面形状の接続面で滑らかに接続されている。電磁弁では、接続面に沿うようにダイアフラムが変形して、ダイアフラムの変形箇所が一箇所に集中することを防いでいる。差圧弁体は、差圧弁室と第1流出口との差圧でダイアフラムが変形すると、差圧弁座を開閉するように移動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した電磁弁は、例えば、ヒートポンプシステムで用いられる。ヒートポンプシステムの冷媒には、電磁弁やポンプの動作によって生じた金属粉などの異物が含まれていることがある。異物は、ダイアフラムが変形した際に、ダイアフラムと保持部材との間に挟まってしまうことがある。これにより、ダイアフラムが損傷してしまうおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、異物によるダイアフラムの損傷を抑制できる差圧弁およびそれを有する弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る差圧弁は、弁室と背圧室とを有する弁本体と、前記弁室と前記背圧室とを区画するように配置された合成樹脂製のダイアフラムと、前記弁本体との間に前記ダイアフラムの外周部を挟むように配置された円環形状の保持部材と、前記弁室に配置され、前記ダイアフラムによって移動される弁体と、を有する差圧弁であって、前記ダイアフラムの外周部の一方の面に重ねて配置され、前記ダイアフラムとともに前記弁本体と前記保持部材とに挟まれる合成樹脂製の円環形状の保護シートを有していることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、差圧弁が、ダイアフラムの外周部の一方の面に重ねて配置され、ダイアフラムとともに弁本体と保持部材とに挟まれる合成樹脂製の円環形状の保護シートを有している。このようにしたことから、ダイアフラムが変形した際に、弁本体または保持部材と保護シートとの間に異物が挟まり、ダイアフラムに異物が直接的に接触することを防ぐことができる。そのため、差圧弁において、ダイアフラムの損傷を抑制できる。
【0009】
本発明において、前記ダイアフラムの中央部が、前記弁室と前記背圧室との差圧がない状態で円錐台形状となるように構成され、前記弁体が、前記ダイアフラムの中央部に取り付けられている。このようにすることで、弁体の移動量を大きくすることができる。
本発明において、前記封止部材が、ポリテトラフルオロエチレン製であることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記保護シートの内径が、前記ダイアフラムの中央部の外径より小さいことが好ましい。このようにすることで、ダイアフラムの変形箇所を開弁時と閉弁時とで異なる箇所にでき、ダイアフラムの耐久性が向上する。
【0011】
本発明において、前記保持部材が、前記保護シートに接する円環平面と、円筒形状の内周面と、前記円環平面と前記内周面とを滑らかに接続する曲面形状の接続面と、を有し、前記保護シートの内径が、前記保持部材の前記内周面の径より小さいことが好ましい。このようにすることで、保護シートが接続面全体と向かい合うように配置され、ダイアフラムと接続面との間に異物が挟まることをより確実に回避して、ダイアフラムの損傷をさらに抑制できる。
【0012】
本発明において、前記差圧弁が、前記ダイアフラムの外周部の他方の面に重ねて配置され、前記ダイアフラムとともに前記弁本体と前記保持部材とに保持される円環形状の封止部材をさらに有している。このようにすることで、弁室と背圧室とを互いに効果的に密閉できる。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の他の一態様に係る弁装置は、流入口と、前記流入口に接続された主弁室と、前記主弁室に主弁座を介して接続された第1流出口と、前記主弁室に分岐通路を介して接続された差圧弁室と、前記差圧弁室に差圧弁座を介して接続された第2流出口と、を有する弁本体と、前記主弁室に配置され、前記主弁座を開閉する主弁体と、前記差圧弁室と背圧室としての前記第1流出口とを区画するように配置された合成樹脂製のダイアフラムと、前記弁本体との間に前記ダイアフラムの外周部を挟むように配置された円環形状の保持部材と、前記差圧弁室に配置され、前記ダイアフラムによって移動される差圧弁体と、を有する弁装置であって、前記ダイアフラムの中央部が、前記差圧弁室と前記第1流出口との差圧がない状態で円錐台形状となるように構成され、前記弁体が、前記ダイアフラムの中央部に取り付けられており、前記弁装置が、前記ダイアフラムの外周部の前記差圧弁室側の面に重ねて配置された円環形状の封止部材と、前記ダイアフラムの外周部の前記第1流出口側の面に重ねて配置された合成樹脂製の円環形状の保護シートと、を有し、前記封止部材、前記ダイアフラムの外周部および前記保護シートが、前記弁本体と前記保持部材とに挟まれて保持されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、弁装置が、ダイアフラムの外周部の一方の面に重ねて配置され、ダイアフラムとともに弁本体と保持部材とに挟まれる合成樹脂製の円環形状の保護シートを有している。このようにしたことから、ダイアフラムが変形した際に、弁本体または保持部材と保護シートとの間に異物が挟まり、ダイアフラムに異物が直接的に接触することを防ぐことができる。そのため、弁装置において、ダイアフラムの損傷を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異物によるダイアフラムの損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例に係る差圧弁付電磁弁の断面図である。
【
図2】
図1の差圧弁付電磁弁が有する差圧弁部の拡大断面図である(閉弁状態)。
【
図3】
図2における一点鎖線の円で囲った箇所の拡大断面図である。
【
図4】
図1の差圧弁付電磁弁が有する差圧弁部の拡大断面図である(開弁状態)。
【
図5】
図4における一点鎖線の円で囲った箇所の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の弁装置の一実施例に係る差圧弁付電磁弁について、
図1~
図5を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施例に係る差圧弁付電磁弁の断面図である。
図2は、
図1の差圧弁付電磁弁が有する差圧弁部の拡大断面図である。
図2は、閉弁状態の差圧弁部を示す。
図3は、
図2における一点鎖線の円で囲った箇所の拡大断面図である。
図4は、
図1の差圧弁付電磁弁が有する差圧弁部の拡大断面図である。
図4は、開弁状態の差圧弁部を示す。
図5は、
図4における一点鎖線の円で囲った箇所の拡大断面図である。以下の説明において、「上下左右」との用語は、各図に記載の構成要素の相対的な位置関係を示している。
【0019】
図1~
図5に示すように、本実施例の差圧弁付電磁弁1(以下、単に「電磁弁1」という。)は、弁本体10を有している。弁本体10には、電磁弁部30と、差圧弁部50と、が設けられている。
【0020】
弁本体10は、略直方体形状を有している。弁本体10は、流入口11と、主弁室12と、差圧弁室13と、第1流出口14と、第2流出口15と、を有している。
【0021】
流入口11は、弁本体10の左側面10aに開口している。流入口11は、主弁室12に接続されている。主弁室12には、主弁口16を囲む円形の主弁座17が設けられている。主弁室12は、主弁座17および主弁口16を介して第1流出口14に接続されている。第1流出口14は、弁本体10の左側面10aに開口している。主弁室12は、分岐通路18を介して差圧弁室13にも接続されている。差圧弁室13には、差圧弁口19を囲む円形の差圧弁座20が設けられている。差圧弁室13は、差圧弁座20および差圧弁口19を介して第2流出口15に接続されている。第2流出口15は、弁本体10の背面に開口している。
【0022】
電磁弁部30は、吸引子31と、キャン32と、プランジャ33と、電磁コイル34と、弁軸35と、パイロット弁体36と、主弁体40と、を有している。
【0023】
吸引子31は、大径円筒部31aと、大径円筒部31aの上端に連設された小径円筒部31bと、を一体的に有している。大径円筒部31aは、弁本体10にねじ構造で固定されている。小径円筒部31bは、弁本体10から上方に向けて延びるように配置されている。
【0024】
キャン32は、上端が塞がれた円筒形状を有している。キャン32の下端には、吸引子31の小径円筒部31bが挿入されている。キャン32は、吸引子31に接合されている。
【0025】
プランジャ33は、キャン32の内径よりわずかに小さい外径を有する円筒形状を有している。プランジャ33は、キャン32の内側に上下方向に移動可能に配置されている。プランジャ33と吸引子31の小径円筒部31bとの間には、開弁ばね38が配置されている。開弁ばね38は、圧縮コイルばねであり、プランジャ33を上方に向けて押している。
【0026】
電磁コイル34は、キャン32の外径よりわずかに大きい内径を有する円筒形状を有している。電磁コイル34の内側には、キャン32が挿入される。電磁コイル34は、その電磁力によって吸引子31およびプランジャ33が磁化されるように、キャン32の外側に配置されている。
【0027】
弁軸35は、細長い円筒形状を有している。弁軸35の上端は、プランジャ33に固定されている。弁軸35は、吸引子31の小径円筒部31bに挿入されている。弁軸35は、小径円筒部31bによって上下方向に移動可能に支持されている。弁軸35には、上端から下端近傍まで延在する流体通路35aが設けられている。
【0028】
パイロット弁体36は、弁軸35の下端に一体的に設けられている。パイロット弁体36の下面には、円板形状のパッキン36aが取り付けられている。
【0029】
主弁体40は、円柱形状の胴部41と、胴部41の上部に配置された上フランジ部42と、胴部41の下部に配置された下フランジ部43と、を一体的に有している。胴部41には、上端から下端まで貫通するパイロット弁口44が設けられている。胴部41の上端には、パイロット弁口44を囲むパイロット弁座45が設けられている。上フランジ部42は、吸引子31の大径円筒部31aの内側に上下方向に摺動可能に配置されている。上フランジ部42は、主弁室12と吸引子31の内側のパイロット弁室37とを区画している。上フランジ部42には、主弁室12とパイロット弁室37とを接続する均圧通路42aが設けられている。下フランジ部43の下面には、円環板形状のパッキン43aが取り付けられている。下フランジ部43の外径は、上フランジ部42の外径より小さい。主弁体40の上フランジ部42と弁本体10との間には、開弁ばね39が配置されている。開弁ばね39は、圧縮コイルばねであり、主弁体40を上方に向けて押している。
【0030】
なお、電磁弁部30は、電磁コイル34に通電していないときに開弁状態となるノーマルオープン形電磁弁であるが、電磁コイル34に通電していないときに閉弁状態となるノーマルクローズ形電磁弁であってもよい。
【0031】
差圧弁部50は、ダイアフラム51と、保護シート52と、封止部材53と、保持部材54と、差圧弁枠55と、差圧弁体56と、ストッパ57と、を有している。
【0032】
ダイアフラム51は、例えば、ポリイミドなどの合成樹脂製の薄膜体である。ダイアフラム51は、弁本体10内において差圧弁室13と背圧室としての第1流出口14とを区画するように配置されている。ダイアフラム51は、中央部51aと、外周部51bと、を一体的に有している。中央部51aは、差圧弁室13と第1流出口14との差圧がない状態で差圧弁室13側に突出する円錐台形状となるように構成されている。外周部51bは、円環形状を有している。外周部51bの内周縁は、中央部51aの外周縁に連設されている。
図3において、中央部51aと外周部51bとの境界を矢印Aで示す。なお、本明細書における円錐台形状とは、例えば中央部分が緩やかに隆起したドーム形状のように、外周縁や天井部分が滑らかな湾曲面で連結された形状、および、外周縁や天井部分が滑らかな湾曲面で構成された形状を含むものとする。
【0033】
保護シート52は、例えば、ポリイミドなどの合成樹脂製の薄膜体である。保護シート52は、円環形状を有している。保護シート52の外径は、ダイアフラム51の外径と同じである。保護シート52の内径は、ダイアフラム51の中央部51aの外径より僅かに小さい。保護シート52の内径をこのような寸法にすることで、ダイアフラムの変形箇所を開弁時と閉弁時とで異なる箇所にできる。そのため、ダイアフラム51の耐久性が向上する。保護シート52の内径は、ストッパ57とダイアフラム51の間に挟まれないように、
図3に示す閉弁状態でのダイアフラム51とストッパ57との当接範囲(当接面)よりも大きいことが望ましい。このようにすることで、保護シート52の内周部がダイアフラム51の中央部51aに重なることを防ぎ、差圧に対するダイアフラム51の変形特性が変化してしまうことを抑制できる。保護シート52は、ダイアフラム51の外周部51bにおける第1流出口14側の面(一方の面)に密に重なるように配置されている。なお、本実施例において、保護シート52は、ダイアフラム51と同じ材料で構成されており、ダイアフラム51と同じ厚さを有する。ダイアフラム51の材質は冷媒、例えばHFC134aあるいはHFO1234yf中で使用可能な合成樹脂製であればよく、板厚はダイアフラム51の変形特性を損なわない範囲のものであればよい。保護シート52は、ダイアフラム51の外周部51bにおける差圧弁室13側の面に密に重なるように配置されていてもよい。また、本実施例では、保護シート52の内径がダイアフラム51の中央部51aの外径より僅かに小さいが、保護シート52の内径と中央部51aの外径とが同一であってもよい。なお、保護シート52の内径を中央部51aの外径より大きくした場合であっても、異物によるダイアフラム51の損傷を抑制する効果は有している。
【0034】
封止部材53は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの合成樹脂製である。封止部材53は、ダイアフラム51と同じ外径の円環板形状を有している。封止部材53は、ダイアフラム51の外周部51bにおける差圧弁室13側の面(他方の面)に密に重なるように配置されている。
【0035】
保持部材54は、全体的に円環形状を有している。保持部材54は、円筒部54aと、フランジ部54bと、を一体的に有している。フランジ部54bは、円筒部54aの一端(各図において右端)に連設されている。フランジ部54bには、保護シート52に接する円環平面54cが設けられている。円環平面54cと円筒部54aの円筒形状の内周面54dとは、曲面形状の接続面54eで滑らかに接続されている。内周面54dの径は、保護シート52の内径より大きい。
【0036】
保持部材54は、弁本体10内の保持面10bとの間に、保護シート52、ダイアフラム51の外周部51bおよび封止部材53を挟むように配置されている。保護シート52と保持部材54の接続面54eとの隙間は、径方向外側に向かうにしたがって徐々に狭くなるように形成されている。
【0037】
差圧弁枠55は、一端(
図1において左端)が塞がれた円筒形状を有している。差圧弁枠55の一端には、流通孔55aが設けられている。差圧弁枠55の内側空間は、流通孔55aを介して第1流出口14に接続されている。差圧弁枠55の他端は、保持部材54の円筒部54aと嵌合されている。差圧弁枠55の他端は、弁本体10にねじ構造で固定されている。差圧弁枠55は、保持部材54を弁本体10の保持面10b側に押し付けている。これにより、保護シート52、ダイアフラム51の外周部51bおよび封止部材53が、互いに重ねられた状態で保持部材54と弁本体の保持面10bとの間に保持される。
【0038】
差圧弁体56は、略円板形状を有している。差圧弁体56は、差圧弁室13に左右方向に摺動可能に配置されている。差圧弁体56の一方の端面(
図1において右端面)には、円板形状のパッキン56aが取り付けられている。差圧弁体56は、ダイアフラム51の中央部51aに取り付けられている。具体的には、
差圧弁体56とストッパ57とが、中央部51aを挟んで互いに結合されている。ストッパ57は、差圧弁枠55の内側に配置されている。ストッパ57は、差圧弁体56が最大開弁位置に至ると差圧弁枠55のストッパ面55bに当接して、差圧弁体56の開弁方向の移動を規制する。ストッパ57と差圧弁枠55との間には、閉弁ばね58が配置されている。閉弁ばね58は、圧縮コイルばねであり、ストッパ57を介して差圧弁体56を右方(閉弁方向)に押している。
【0039】
次に、電磁弁1の動作の一例について説明する。
【0040】
図1に電磁コイル34に通電していない状態の電磁弁1を示す。
図1において、パイロット弁体36(具体的にはパッキン36a)がパイロット弁座45から離れており、パイロット弁座45が開いている。また、主弁体40(具体的にはパッキン43a)が主弁座17から離れており、主弁座17が開いている。このとき、流入口11から主弁室12に流れ込んだ冷媒は、主弁座17および主弁口16を介して第1流出口14に流れるとともに、分岐通路18を介して差圧弁室13に流れる。そのため、差圧弁室13および第1流出口14の圧力差が比較的小さく、
図2、
図3に示すように、ダイアフラム51の中央部51aは差圧弁室13側に突出する円錐台形状となる。これにより、差圧弁体56(具体的にはパッキン56a)が、差圧弁座20に接して、差圧弁座20を閉じる。差圧弁座20が閉じていると、差圧弁室13の冷媒は、差圧弁室13に留まり第2流出口15に流れない。
【0041】
そして、電磁コイル34に通電すると、プランジャ33が吸引子31に引き寄せられ、パイロット弁体36が下方に移動する。そして、パイロット弁体36がパイロット弁座45に接して主弁体40を下方に押し、主弁体40が主弁座17に接する。これにより、パイロット弁体36がパイロット弁座45を閉じ、主弁体40が主弁座17を閉じて、主弁室12から第1流出口14への冷媒の流れが遮断される。
【0042】
主弁体40が主弁座17を閉じて少し経つと、
第1流出口14の圧力が差圧弁室13の圧力に対して低下する。そのため、差圧弁室13および第1流出口14の圧力差が比較的大きくなり、
図4、
図5に示すように、ダイアフラム51の中央部51aが、第1流出口14側に突出するように変形する。これにより、差圧弁体56が、差圧弁座20から離れ、差圧弁座20を開く。差圧弁座20が開くと、差圧弁室13の冷媒が、差圧弁座20および差圧弁口19を介して第2流出口15に流れる。
【0043】
ダイアフラム51の変形によって保護シート52と保持部材54の接続面54eとの隙間が小さくなる。これにより、当該隙間に進入した異物が保護シート52と保持部材54との間に挟まることがある。しかしながら、保護シート52が、ダイアフラム51の外周部51bに重ねて配置されており、ダイアフラム51に直接的に異物が接触することを防いでいる。
【0044】
そして、電磁コイル34を再び通電していない状態にすると、プランジャ33が開弁ばね38によって上方に押され、パイロット弁体36がパイロット弁座45から離れ、パイロット弁座45が開く。パイロット弁室37の冷媒がパイロット弁座45およびパイロット弁口44を介して第1流出口14に流れて、冷媒による主弁体40を主弁座17に押し付ける力が弱まる。主弁体40が開弁ばね39によって上方に押され、主弁体40が、主弁座17から離れ、主弁座17を開く。これにより、主弁室12の冷媒は、主弁座17および主弁口16を介して第1流出口14に流れる。そのため、差圧弁室13および第1流出口14の圧力差が比較的小さくなり、
図2、
図3に示すように、ダイアフラム51の中央部51aは差圧弁室13側に突出する円錐台形状に復帰する。これにより、差圧弁体56が、差圧弁座20に接して、差圧弁座20を閉じる。
【0045】
以上説明したように、電磁弁1は、流入口11と、流入口11に接続された主弁室12と、主弁室12に主弁座17を介して接続された第1流出口14と、主弁室12に分岐通路18を介して接続された差圧弁室13と、差圧弁室13に差圧弁座20を介して接続された第2流出口15と、を有する弁本体10を有する。電磁弁1は、主弁室12に配置され、主弁座17を開閉する主弁体40と、差圧弁室13と第1流出口14とを区画するように配置された合成樹脂製のダイアフラム51と、弁本体10との間にダイアフラム51の外周部51bを挟むように配置された円環形状の保持部材54と、差圧弁室13に配置され、ダイアフラム51によって移動される差圧弁体56と、を有する。そして、ダイアフラム51の外周部51bにおける第1流出口14側(すなわち保持部材54側)の面に重ねて配置され、ダイアフラム51とともに弁本体10と保持部材54とに挟まれる合成樹脂製の円環形状の保護シート52を有している。
【0046】
このようにしたことから、ダイアフラム51が変形した際に、保持部材54と保護シート52との間に異物が挟まり、ダイアフラム51に異物が直接的に接触することを防ぐことができる。そのため、電磁弁1において、ダイアフラム51の損傷を抑制できる。
【0047】
また、ダイアフラム51の中央部51aが、差圧弁室13と第1流出口14との差圧がない状態で円錐台形状となるように構成されている。そして、差圧弁体56が、ダイアフラム51の中央部51aに取り付けられている。このようにすることで、差圧弁体56の移動量を大きくすることができる。
【0048】
また、保持部材54が、保護シート52に接する円環平面54cと、円筒形状の内周面54dと、円環平面54cと内周面54dとを滑らかに接続する曲面形状の接続面54eと、を有している。そして、保護シート52の内径が、保持部材54の内周面54dの径より小さい。このようにすることで、保護シート52が接続面54e全体と向かい合うように配置され、ダイアフラム51と接続面54eとの間に異物が挟まることをより確実に回避して、ダイアフラム51の損傷をさらに抑制できる。
【0049】
また、電磁弁1が、ダイアフラム51の外周部51bにおける差圧弁室13側(すなわち弁本体10側)の面に重ねて配置され、ダイアフラム51とともに弁本体10と保持部材54とに保持される円環形状の封止部材53を有している。このようにすることで、ダイアフラム51と弁本体10との間を効果的に封止でき、差圧弁室13と第1流出口14とを互いに効果的に密閉できる。
【0050】
なお、本実施例の電磁弁1は、電磁弁部30と差圧弁部50とを有する複合弁であったが、本発明を単体の差圧弁に適用してもよい。
【0051】
上記に本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。前述の実施例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施例の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨に反しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…差圧弁付電磁弁、10…弁本体、10a…左側面、10b…保持面、11…流入口、12…主弁室、13…差圧弁室、14…第1流出口、15…第2流出口、16…主弁口、17…主弁座、18…分岐通路、19…差圧弁口、20…差圧弁座、30…電磁弁部、31…吸引子、31a…大径円筒部、31b…小径円筒部、32…キャン、33…プランジャ、34…電磁コイル、35…弁軸、35a…流体通路、36…パイロット弁体、36a…パッキン、37…パイロット弁室、38、39…開弁ばね、40…主弁体、41…胴部、42…上フランジ部、42a…均圧通路、43…下フランジ部、43a…パッキン、44…パイロット弁口、45…パイロット弁座、50…差圧弁部、51…ダイアフラム、51a…中央部、51b…外周部、52…保護シート、53…封止部材、54…保持部材、54a…円筒部、54b…フランジ部、54c…円環平面、54d…内周面、54e…接続面、55…差圧弁枠、55a…流通孔、55b…ストッパ面、56…差圧弁体、56a…パッキン、57…ストッパ、58…閉弁ばね