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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】果実加工品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20240626BHJP
   A23B 7/005 20060101ALI20240626BHJP
   A23B 7/024 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23B7/005
A23B7/024
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020032347
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021122267
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大隅 賢
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-236612(JP,A)
【文献】特開昭54-084056(JP,A)
【文献】特表2016-501553(JP,A)
【文献】特開2017-225365(JP,A)
【文献】特開2004-194512(JP,A)
【文献】特開2016-073321(JP,A)
【文献】特開2012-130293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23B
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の製造方法により得られる、果実ペースト乾燥塊。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実加工品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実はビタミン等の栄養が豊富で、特に皮周辺に栄養成分や芳香成分が多く含まれていることが知られている。栄養豊富な上、おいしいため、嗜好性が高いが、腐敗し易いため、以前から、乾燥品の利用もされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、原料としてりんごの外果皮や種子を取り除かないで、苦みや渋みをなくし、且つ糖度を高めることができるりんご果実粉末の製造方法として、細分化工程及び酵素分解を促進させる熟成工程を含む製造方法が開示されている。また、特許文献2では、ピューレ状にした果実原料に、セルロースを添加し、これをモールドトレーに充填して凍結乾燥する果実加工品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-198232号公報
【文献】特許第4217080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
果実の加工過程では、果実そのものの風味が失われると共に、褐変等の問題も生じ易く、加工する上で必要な添加物が使用されてきた。本発明では、添加物を使用しないことで、より安全で自然に近い加工品の提供を目指すと共に、褐変を抑えることができ、また、果実そのものの風味を保持し、栄養分を多く含むことができる製造方法及び加工品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、果実を加熱後、皮ごとペースト状にし、成型トレーに充填後、凍結し、減圧下で乾燥することで、酵素を失活させて褐変を抑えつつ、熱ダメージを最小限に抑えることで果実そのものの風味を味わうことができる乾燥品を製造できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、以下の[1]~[4]の態様に係る。
[1]果実を加熱後、皮ごとペースト状にし、成型トレーに充填後、凍結し、減圧下で乾燥する、果実ペースト乾燥塊の製造方法。
[2]皮以外の不可食部を含む果実において該不可食部を除去する工程を含む、[1]記載の製造方法。
[3]100℃以下で加熱する、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4][1]~[3]の何れかに記載の製造方法により得られる、果実ペースト乾燥塊。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、加熱により酵素を失活させることで褐変のない自然な果実の色を保持できると共に、甘さを高めることができ、また加熱後にペースト化することで熱ダメージを最小限に抑えて果実の風味を保持でき、水に溶解して喫食することで、生鮮果実よりさらにおいしいすりおろした果実のような味わいを楽しむことができるようになった。また、加熱工程を含むことで殺菌できるため、微生物による汚染の心配がなく、さらに添加物も必要としないため、乳幼児や高齢者でも安心して食べることができる。加えて、塊状であることで、吸湿性が少なく、水への溶解性が良い。
【発明を実施するための形態】
【009】
本発明の果実ペースト乾燥塊は、果実を加熱後、皮ごとペースト状にし、成型トレーに充填後、凍結し、減圧下で乾燥することで得られる。
【0010】
本発明に使用する果実は、実であれば特に限定されず、果物でも野菜でも良く、りんご、梨、洋梨、キウイ、柿、桃、びわ、パイナップル、ぶどう、いちじく、ブルーベリー、マンゴー、パパイヤ、バナナ、メロン、いちご、すいか及びトマトからなる群から選択される少なくとも一種であるのが好ましく、洗浄して使用する。
【0011】
本発明の加熱は、果実の酵素を失活でき、かつ加熱による激しい風味劣化をおこさない方法であれば特に限定されないが、例えば、温水中でボイル又は蒸煮により加熱することで実施でき、温水又は蒸気の温度は100℃以下が好ましく、90~95℃がより好ましく、果実中心部の温度が、好ましくは60~95℃程度、より好ましくは70~90℃程度、さらに好ましは80~85℃程度になるように加熱するのが良い。加熱により果実表面の菌数を抑え、甘味を高めることができ、さらに酵素を失活させることで、果実の褐変を抑えられ、果実本来の色を保持できる。また、高温にし過ぎないことで、風味劣化を抑えられ、果実の風味を保持できる。
【0012】
加熱は、皮付きのまま行えばよく、皮付近に多い栄養成分を留めておくと共に、果実成分の流出も抑制できる。加熱時の果実成分の流出は少ない程よく、成分流出を抑えることで、果実の栄養成分や味を保持できる。加熱時の果実塊の表面積を100%とした場合に、皮で覆われた部分が50%以上であるのが好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましく、90%以上が最も好ましい。尚、いちごのように皮がない果実は、外表面が皮で覆われた部分に相当する。果実をそのまま温水中でボイル又は蒸煮により加熱したり、ヘタ、種、軸等の皮以外の不可食部を除去した果実を温水中でボイル又は蒸煮により加熱したりすることで実施でき、ペースト状にする前に加熱する必要があり、細切後の加熱は不適切である。
【0013】
皮以外の不可食部とは、種、ヘタ、軸等の通常食べない部分を指すが、例えば、キウイ、ブルーベリー、いちご及びトマトの種のように、通常食べることができる種や、パイナップルの芯は、皮以外の不可食部には該当せず、製造工程で除く必要はない。例えばブルーベリーのように全て食べることができる果実やいちじくのような皮のみ除去して食べる果実は、除去工程は不要であり、皮以外の不可食部が存在する果実のみ該工程を行う。除去方法は、不可食部分を除くことができれば特に限定されないが、例えば手作業で除去する他、芯とり機や裏ごし機等、機械的に行うことができる。除去工程は、果実によって加熱前又は加熱後に適宜行うのが良く、例えば、りんごや梨のように実部分を細切することなく簡便に不可食部を除去でき、かつ除去後の加熱で成分流出が比較的少ない果実は、加熱前に除去すれば良く、柿やすいかのように種が実全体に散在する果実や、メロンのようにカット面から成分流出が起こり易いような果実は加熱後に除去する必要がある。加熱で成分流出が比較的少ない果実であっても、加熱前のカットは不可食部を除くための最小限のカットにとどめるのが好ましい。
【0014】
本発明では加熱後に、皮ごとペースト状にすれば良く、メッシュ、ミンチ機、ミキサー、チョッパー等を使用して行うことができ、トレー充填時に均一化及び充填がし易く、喫食時に皮が不快でない程度であれば特に限定されないが、好ましくは皮片の長さが2mm以下、より好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下、特に好ましくは0.1mm以下が良い。
【0015】
ペースト化する前後で加水しても良いが、加熱後の果実重量を100重量%とした場合に、加水率は20重量%以下が好ましく、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、加水しないのがさらに好ましい。
【0016】
本発明で使用する成型トレーは、果実ペーストを凍結できれば特に限定されず、直方体、円柱形、球形、ハート型、星型、板状等、適宜使用できるが、凍結後にトレーのまま乾燥してもよく、凍結品を粉砕後、乾燥してもよい。乾燥に供する凍結品は1mm以上であれば特に限定されず、例えば、直方体の場合、一辺が5~100mmが好ましく、10~80mmがより好ましく、深さが5~50mm程度のトレーを使用するのが好ましい。
【0017】
本発明では、常法に従って凍結乾燥すれば良く、例えば果実ペーストを成型トレーに充填し、予備凍結後、減圧(真空)乾燥すれば良く、乾燥開始時の品温は、-25~-10℃が好ましく、-20~-15℃がより好ましい。減圧時の密閉系内の気圧は、250Pa以下が好ましく、20~100Paがより好ましく、100Pa以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明の果実ペースト乾燥塊は、前記の方法で得られ、1mm以上の乾燥塊であれば特に限定されないが、粉末状は吸湿し易いため不適切である。様々な食品に利用することができる。果実を使用して喫食する食品であれば特に限定されないが、例えば、水、お湯、炭酸水、清涼飲料水等に溶解して喫食してもよく、離乳食や介護食に利用できる。また、ドレッシング、ソース、カレー、スープ、菓子等にも利用できる。
【実施例
【0019】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、各原料及び素材の%は別記がない限り全て重量%である。成型乾燥用トレーについては全て67mm×38mm×22mmのものを使用した。
【実施例1】
【0020】
洗浄後、ヘタ及び種を含む芯部分を除去した後、半分にカットして種の除去を確認した生鮮りんご1kgを、90℃以上の温水1.6L中で、中心温度が80℃以上になるように12分間加熱後、ミキサーにて粉砕し、ペースト状にした後、目開き1mmのメッシュにて裏ごしし、成型乾燥用トレーに充填して冷凍した後、常法にて凍結乾燥を行ない、ブロック状のりんごペースト乾燥塊142gを得た。製造条件、前記生鮮りんご1kgに対する乾燥塊の収率を表1にまとめた。尚、加熱処理後の水のBxは0.9で、冷凍後の重量は937gだった。
【0021】
[比較例1]
(皮除去)
洗浄後、ヘタ及び種を含む芯部分を除去し、半分にカットして種の除去を確認した後、皮を剥いた生鮮りんご1kgを、実施例1と同様に処理し、ブロック状のりんごペースト乾燥塊136gを得た。製造条件、前記生鮮りんご1kgに対する乾燥塊の収率を表1にまとめた。尚、加熱処理後の水のBxは2.2で、冷凍後の重量は875gだった。
【0022】
[比較例2]
(ペースト化後に加熱)
洗浄後、ヘタ及び種を含む芯部分を除去した後、半分にカットして種の除去を確認した生鮮りんご1kgを、ミキサーにて粉砕し、ペースト状にした後、品温80℃以上になるように湯煎で12分間加熱し、目開き1mmのメッシュにて裏ごしし、成型乾燥用トレーに充填して冷凍した後、常法にて凍結乾燥を行ない、ブロック状のりんごペースト乾燥塊157gを得た。製造条件、前記生鮮りんご1kgに対する乾燥塊の収率を表1にまとめた。尚、冷凍後の重量は1kgだった。
【0023】
[比較例3]
(非加熱)
洗浄後、ヘタ及び種を含む芯部分を除去した後、半分にカットして種の除去を確認した生鮮りんご1kgを、ミキサーにて粉砕し、ペースト状にした後、目開き1mmのメッシュにて裏ごしし、成型乾燥用トレーに充填して冷凍した後、常法にて凍結乾燥を行ない、ブロック状のりんごペースト乾燥塊144gを得た。製造条件、前記生鮮りんご1kgに対する乾燥塊の収率を表1にまとめた。尚、冷凍後の重量は1kgだった。
また、凍結前のペーストを、皮付き生鮮りんごのすりおろし品(未加工品1)として、製造条件及びBxを表1にまとめた。
【0024】
[比較例4]
(皮除去、非加熱)
洗浄後、ヘタ及び種を含む芯部分を除去し、半分にカットして種の除去を確認した後、皮を剥いた生鮮りんご1kgを、ミキサーにて粉砕し、ペースト状にした後、目開き1mmのメッシュにて裏ごしし、成型乾燥用トレーに充填して冷凍した後、常法にて凍結乾燥を行ない、ブロック状のりんごペースト乾燥塊143gを得た。製造条件、前記生鮮りんご1kgに対する乾燥塊の収率を表1にまとめた。尚、冷凍後の重量は1kgだった。
また、凍結前のペーストを、皮無し生鮮りんごのすりおろし品(未加工品2)として、製造条件及びBxを表1にまとめた。
【0025】
[評価試験]
実施例1、比較例1~4の各りんごペースト乾燥塊7gを100gの水で各々溶解して評価用に調製し、溶解前の乾燥塊の色、溶解後の液状の色及び味について表1にまとめた。尚、何れも溶解性は良かった。また、単なる生鮮りんごのすりおろし品として、未加工品1(皮付き)及び2(皮無し)も評価した。乾燥塊の溶解後の濃度と合わせるため、各未加工品に加水して評価用に調製し、味について表1にまとめた。尚、味の評価は、りんご風味、甘味、酸味、青臭み及び渋味について、○:感じる、△:やや感じる、×:感じないで評価した。
【0026】
また、実施例1のブロック状のりんごペースト乾燥塊と、該乾燥塊を1mm以下に粉砕した粉末とを、薬包紙上で湿度30%の状況下にて20分間放置し、吸湿状態を確認した。
【0027】
各製造工程における凍結性について、○:良い、△:やや悪い、×:悪い、及び乾燥性について、◎:大変良い、○:良い、△:やや悪い、×:悪いで評価し、表1にまとめた。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から、皮以外の不可食部を除去したりんごを、加熱後、皮ごとペースト状にし、成型トレーに充填後、凍結し、減圧下で乾燥した実施例1の乾燥塊は、皮を含むことで薄いピンク色を呈し、褐変はみられなかった。溶解後の味は、甘味があり、少し酸味もあるりんごの味わいで、皮に由来すると思われる青臭みもなく、大変おいしいものだった。
【0030】
一方、皮を除去して処理した比較例1の乾燥塊は、褐変は見られず、りんごの実の色である薄い黄色で、溶解後の味はやや甘味のあるりんごの味わいだったが、酸味は感じられず、全体的に味が薄かった。これは、加熱処理後の水のBxが、実施例1より約2.4倍高かったことが示すように、りんご中の水溶性固形分が、皮をむいてボイルしたことで、約2.4倍流出したことによると思われた。また、ペースト化後に加熱した比較例2の乾燥塊は、褐変しており、溶解後の味も、やや甘味はあるがりんご風味は薄れ、若干の青臭みもあった。褐変は、一般的にカット面が空気に触れると酵素によってポリフェノールが酸化されて起こる現象のため、加熱前にペースト状にして空気との接触面が増えたことで、酵素反応が進んだと思われ、また、ペースト状態での加熱により、風味が失われ、さらに生の状態で皮を細切したことで皮由来の青臭みが発現したと思われた。さらに、非加熱の比較例3の乾燥塊は、ひどく褐変しており、溶解後の味も、若干の甘味と酸味はあるがりんご風味は薄れ、青臭みと渋味があった。これは、加熱しないことで、酵素が失活せず、より褐変が進み、生の状態で皮を細切し、その後も加熱しないことで、不快な青臭みと渋味が発現し、風味自体が弱まったと思われた。比較例4の乾燥塊は、ひどく褐変しており、溶解後の味も、やや酸味はあるがりんご風味は薄れ、甘味も無かった。これは、比較例3と同様に加熱しないことで、酵素が失活せず、より褐変が進んだと思われるが、皮がないため、不快な青臭みや渋味は感じられない代わりに、甘味も感じられなかったと思われた。
【0031】
また、単なる生鮮りんごのすりおろし品として評価した、未加工品1(皮付き)及び2(皮無し)は、何れもりんご風味は弱く、甘味も無かった。さらに未加工品1は、酸味、青臭み及び渋味があり、未加工品2は、皮がないため不快な青臭みや渋味は感じられなかったが、やや酸味があった。
【0032】
以上より、皮ごと処理することで、皮付近に多く存在する栄養成分を、最終的に多く含むことができるだけでなく、皮があることで、果実中の水溶性固形分の流出が抑えられ、味を良く保つことができ、また、加熱することで殺菌できると共に、甘味を高めることができ、ペースト化前に加熱することで、果実内部と空気との接触面が小さい段階で酵素を失活させて褐変を防ぐと共に、風味劣化を抑え、青臭みや渋味が無く、生鮮りんごのすりおろし品よりさらにおいしい味わいを得られることが分かった。
【0033】
また、乾燥後に粉砕すると、微粉が吸湿し、固結してしまったため、乾燥後に粉砕して粉末化はせず、塊状態が良いことが分かった。
【0034】
製造工程においても、実施例1が凍結性、乾燥性とも最も良く、効率よく簡便に本発明の果実ペースト乾燥塊を製造できることが分かった。
【実施例2】
【0035】
生鮮梨を使用して、実施例1と同様に処理し、ブロック状の梨ペースト乾燥塊を得た。該乾燥物7gを100gの水で溶解したところ、溶解性が良く、甘味のある梨の味わいだった。
【実施例3】
【0036】
洗浄後、ヘタを除去した生鮮キウイを使用して、実施例1と同様に処理し、ブロック状のキウイペースト乾燥塊を得た。該乾燥物7gを100gの水で溶解したところ、溶解性が良く、甘味のあるキウイの味わいだった。