(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 13/02 20060101AFI20240626BHJP
F04D 29/62 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
F04D13/02 A
F04D29/62 A
(21)【出願番号】P 2020134103
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】392008437
【氏名又は名称】株式会社久保田鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直丈
(72)【発明者】
【氏名】丹生 丹
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-120249(JP,A)
【文献】特開2012-143078(JP,A)
【文献】特開2019-146329(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0064695(US,A1)
【文献】特開2005-307909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16、
17/00-19/02、
21/00-25/16、
29/00-35/00
H05K 15/00-15/02、
15/04-15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキシャルギャップモータによって回転駆動されるインペラと、当該インペラを収容するハウジングとを備えた電動ポンプにおいて、
前記アキシャルギャップモータは、樹脂製のモータ筐体に固定された
金属製のステータ及び当該ステータに巻装されたコイルと、前記インペラに固定された磁石及びバックヨークと、前記インペラを回転可能に支持する
金属製のシャフトとを備え、前記ステータの回転中心線方向の端面と前記磁石とが回転中心線方向に並ぶように配置され、
前記ステータの中心部には、前記シャフトが挿通するシャフト挿通孔が形成され、
前記ステータ及び前記コイルは、前記モータ筐体を構成する樹脂材によって覆われて当該モータ筐体と一体化され、
前記シャフトの基端側には、径方向に延びる第1孔及び第2孔が前記シャフトの回転中心線方向に互いに間隔をあけて形成されており、
前記樹脂材の一部が前記第1孔及び前記第2孔に充填された状態で固化しており、
前記モータ筐体は、
少なくとも前記ステータの一部を覆う被覆部を有する一次成形樹脂材と、
前記ステータ及び前記コイルにおける前記一次成形樹脂材で覆われた部分以外の部分を覆うとともに、前記一次成形樹脂材と一体化された二次成形樹脂材とを有していることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ポンプにおいて、
前記シャフトの基端側の少なくとも一部は、前記モータ筐体を構成する樹脂材によって覆われて当該モータ筐体と一体化されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の電動ポンプにおいて、
前記ステータ及び前記シャフトの基端側は、前記一次成形樹脂材にインサート成形され、
前記コイルは、前記二次成形樹脂材にインサート成形されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項4】
請求項2に記載の電動ポンプにおいて、
前記シャフトの基端側は、前記一次成形樹脂材にインサート成形され、
前記ステータ及び前記コイルは、前記二次成形樹脂材にインサート成形されていることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項5】
請求項2に記載の電動ポンプにおいて、
前記ステータ、前記コイル及び前記シャフトの基端側は、前記二次成形樹脂材にインサート成形されていることを特徴とする電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラの回転動作により流体の吸入・吐出を行う電動ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば電動ポンプは、回転動作により水の吸入・吐出を行うインペラと、当該インペラを回転させるモータとを備えており、モータは、ハウジングに固定されたステータ及び当該ステータに巻装されたコイルと、インペラに固定された磁石及びバックヨークとで構成されている。また、インペラを回転可能に支持するシャフトが設けられており、このシャフトの基端側は外部に露出している。
【0003】
また、特許文献1の電動ポンプは、積層鉄板のコアとコイル支持枠に巻回されたコイルよりなるステータを樹脂製のモータハウジング内に一体的にモールドすることによって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電動ウォーターポンプのハウジングの内部には水が存在しているので、その水がステータやコイルに接触する可能性がある。水がステータやコイルに接触すると、長期間の使用によってステータやコイルが腐食してしまうおそれがある。ウォーターポンプ以外の電動ポンプであっても、使用環境によっては水がステータやコイルに接触するおそれがあるので、同様な問題が起こり得る。
【0006】
この点、特許文献1の電動ポンプでは、コイルが巻回されたステータを樹脂製のモータハウジング内に一体的にモールドしているので、樹脂材によって水の浸入が抑制され、水がステータに接触し難くなるという利点があると考えられる。
【0007】
ここで、ロータとステータが軸方向に対向して配置されるアキシャルギャップモータを挙げる。このアキシャルギャップモータがポンプの動力源として用いられることがあり、アキシャルギャップモータの場合、性能を高めるためには、ロータとステータとの間隔をできるだけ狭める必要がある。
【0008】
ところが、特許文献3の電動ポンプのようにステータを樹脂材に埋設する構造をアキシャルギャップモータに適用しようとした場合、ロータとステータとの間に樹脂材が存在することになるので、少なくとも樹脂材の厚み分は、ロータとステータとの間隔が広がってしまい、性能が低下するおそれがある。
【0009】
このことに対し、ステータを覆う樹脂材の厚みを薄くする方法が考えられるが、樹脂材の厚みを薄くすればするほど、成形時の溶融樹脂の流動性が悪化してしまい、成形が困難になる。特に、ステータは複数のコイルを有しているので形状が複雑であり、上述した薄肉部分の成形難易度が高かった。ステータを覆う部分の樹脂材に、わずかでも成形不良が発生すると、その部分から水が浸入し、ステータに接触してしまう。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アキシャルギャップモータのステータを覆う樹脂材を、成形不良を招くことなく薄肉化してロータとステータとの間隔を狭め、性能向上と防食性向上とを両立させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1の発明は、アキシャルギャップモータによって回転駆動されるインペラと、当該インペラを収容するハウジングとを備えた電動ポンプにおいて、前記アキシャルギャップモータは、樹脂製のモータ筐体に固定されたステータ及び当該ステータに巻装されたコイルと、前記インペラに固定された磁石及びバックヨークと、前記インペラを回転可能に支持するシャフトとを備え、前記ステータの回転中心線方向の端面と前記磁石とが回転中心線方向に並ぶように配置され、前記ステータ及び前記コイルは、前記モータ筐体を構成する樹脂材によって覆われて当該モータ筐体と一体化され、前記モータ筐体は、少なくとも前記ステータの一部を覆う被覆部を有する一次成形樹脂材と、前記ステータ及び前記コイルにおける前記一次成形樹脂材で覆われた部分以外の部分を覆うとともに、前記一次成形樹脂材と一体化された二次成形樹脂材とを有していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、一次成形樹脂材と、当該一次成形樹脂材の成形後に成形される二次成形樹脂材とを含んだモータ筐体となる。一次と二次に分けてモータ筐体を成形していることで、一次成形樹脂材の形状を簡素化しながら、二次成形樹脂材によって複雑な形状のステータ及びコイルの少なくとも一部を覆うことにより、高い防水性が得られ、防食性が高まる。例えばコイルの端子は樹脂材から露出していてもよく、この程度の露出であれば防食性の低下は殆ど懸念されない。
【0013】
一次成形樹脂材の形状が簡素化することにより、ステータの一部、例えば回転中心線方向の端面を覆う被覆部の成形性が良好になるので、薄肉化した被覆部であっても成形不良が起こりにくくなる。これにより、ロータとステータとの間隔を狭めてアキシャルギャップモータの性能を高めることができる。尚、ステータの側面の一部または全部を被覆部で覆ってもよいし、ステータの回転中心線方向の端面の一部または全部を被覆部で覆ってもよい。本例に限らず、被覆部で覆う範囲は任意に設定することができる。
【0014】
第2の発明では、前記シャフトの基端側の少なくとも一部は、前記モータ筐体を構成する樹脂材によって覆われて当該モータ筐体と一体化されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、インペラを支持するシャフトも、ステータ及びコイルと共にモータ筐体と一体化することができる。
【0016】
第3の発明では、前記ステータ及び前記シャフトの基端側は、前記一次成形樹脂材にインサート成形され、前記コイルは、前記二次成形樹脂材にインサート成形されていることを特徴とする。
【0017】
第4の発明では、前記シャフトの基端側は、前記一次成形樹脂材にインサート成形され、前記ステータ及び前記コイルは、前記二次成形樹脂材にインサート成形されていることを特徴とする。
【0018】
第5の発明は、前記ステータ、前記コイル及び前記シャフトの基端側は、前記二次成形樹脂材にインサート成形されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、一次成形樹脂材の成形時に複雑な形状であるコイルが存在しないので、一次成形樹脂材の成形性がより一層良好になる。
【0020】
第6の発明では、前記シャフトの基端側には、径方向に延びる孔が形成されており、前記樹脂材の一部が前記孔に充填された状態で固化していることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、シャフトのモータ筐体に対する回り止めが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アキシャルギャップモータのステータを覆う樹脂材を、成形不良を招くことなく薄肉化してロータとステータとの間隔を狭めることができ、性能向上と防食性向上とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態1に係る電動ウォーターポンプの正面図である。
【
図3】ステータを柱状部の突出方向先端側から見た図である。
【
図6】ステータとシャフトがインサート成形された一次成形樹脂材を示す断面図である。
【
図7】コイルがインサート成形された二次成形樹脂材を示す断面図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係る一次成形樹脂材を示す断面図である。
【
図9】本発明の実施形態3に係る一次成形樹脂材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る電動ウォーターポンプ1の正面図である。電動ウォーターポンプ1は、車両に搭載されている各種機器を冷却する冷却水を所定の経路内で循環させるためのものである。前記各種機器としては、例えば走行用モータ、インバータ回路、エンジン、変速機、空調機器等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、他の機器の冷却水を循環させることもできる。この実施形態の説明では、
図1及び
図2の上側を電動ウォーターポンプ1の上側といい、
図1及び
図2の下側を電動ウォーターポンプ1の下側というものとするが、これは説明の便宜を図るために定義するだけであり、実際の使用時の姿勢を限定するものではなく、どのような姿勢で電動ウォーターポンプ1を使用してもよい。
【0026】
以下の説明では、本発明を電動ウォーターポンプ1に適用した場合について説明したが、これに限らず、本発明は、様々な液体や気体を送る電動ポンプに適用することもできる。また、気体を送る電動ポンプは、ブロアーやファン、圧縮機等であってもよい。
【0027】
図2に示すように、電動ウォーターポンプ1は、アキシャルギャップモータ2と、モータ筐体3と、インペラ4と、ハウジング5と、回路基板(制御基板)6と、背面部材7とを備えている。インペラ4はハウジング5内に収容されており、このハウジング5内に収容されたインペラ4がアキシャルギャップモータ2によって所定の方向に回転駆動されるようになっている。
【0028】
(ハウジング5の構成)
ハウジング5は、例えば樹脂材を射出成形してなる射出成形品である。
図1に示す正面視においてハウジング5の中央に位置する部分には、
図2に示すようにインペラ4の回転中心線方向に突出する吸入管部50が一体成形されている。吸入管部50の先端部(上流端部)には、吸入口50aが開口している。吸入口50aには、図示しない吸入側配管を流通した冷却水が吸入されるようになっている。
【0029】
ハウジング5は、吸入管部50の基端部(下流端部)から径方向に延びるポンプ室形成壁部51を有しており、吸入管部50の突出方向と反対側は略全体が開放された形状となっている。ポンプ室形成壁部51の内方には、吸入管部50の下流端部に連通するポンプ室S1が形成されており、このポンプ室S1内にインペラ4が収容されている。ポンプ室形成壁部51には、吸入管部50の基端部から径方向に離れた部分に膨出部51aが形成されている。膨出部51aは、インペラ4の回転中心線周りに円弧状に延びるように形成されており、その膨出部51aの内方には、ポンプ室S1に連通する流出通路S2が形成されている。
【0030】
図1に示すように、ハウジング5における流出通路S2の下流端部に対応する部分には、吐出管部52が一体成形されている。吐出管部52は、インペラ4の回転中心を中心とする仮想円の接線方向に突出するように形成されている。吐出管部52の基端部(上流端部)は、流出通路S2の下流端部と連通している。吐出管部52の先端部(下流端部)には、吐出口52aが開口している。吐出口52aには、図示しない吐出側配管が連通しており、吐出管部52を流通した冷却水が吐出側配管に流入するようになっている。
【0031】
(モータ筐体3の構成)
モータ筐体3は、例えば樹脂材を射出成形してなる射出成形品であり、ハウジング5を開放側から覆うように形成されている。モータ筐体3を構成している樹脂材は、詳細は後述するが、一次成形樹脂材300と、二次成形樹脂材400とを有している。一次成形樹脂材300及び二次成形樹脂材400を有するモータ筐体3の成形方法についても後述する。
【0032】
図1に示すように、モータ筐体3の上側は、ハウジング5の上側よりも上方へ突出している。
図2に示すように、モータ筐体3は、後述するアキシャルギャップモータ2のステータ20及びコイル21が埋め込まれるステータ埋込部31を有している。ステータ埋込部31は、厚肉な板状をなしており、ハウジング5のポンプ室形成壁部51と対向するように配置されている。ステータ埋込部31と、ハウジング5のポンプ室形成壁部51との間に、上記ポンプ室S1が形成されている。
【0033】
また、モータ筐体3には、ハウジング5のポンプ室形成壁部51の内側に嵌まるように形成された環状部30が設けられている。環状部30は、ステータ埋込部31の周縁部からハウジング5内へ向けて突出するように形成されており、この環状部30の外周面と、ポンプ室形成壁部51の内周面とは互いに密着するようになっている。環状部30の外周面と、ポンプ室形成壁部51の内周面とを密着させることにより、両者間の水密性が確保される。モータ筐体3の外周部には、被締結部54がインペラ4の回転中心線Xの径方向へ突出するように形成されている。各被締結部54には、インペラ4の回転中心線X方向に貫通する締結孔54aが形成されている。
【0034】
環状部30の外周面と、ポンプ室形成壁部51の内周面とを密着、もしくは接着することにより、両者間の水密性及び気密性が確保される。他の接合例として、環状部30とポンプ室形成壁部51とを例えばスピン融着(溶着)することもでき、これにより、ガスケットなどの封止部品とボルト締結を廃止しながら2部品を接合して水密性及び気密性を確保できる。また、融着等することなく、環状部30とポンプ室形成壁部51との間にガスケットなどの封止部品(図示せず)を介在させた状態で、ボルト締結して両者を接合してもよい。環状部30とポンプ室形成壁部51との接合構造は、水密性及び気密性を確保できればよいので、上述した構造以外の接合構造を用いることも可能である。
【0035】
被締結部54の締結孔54aには例えば防振ゴムなどで構成された筒状の弾性材100が装着される。弾性材100の内部には、金属製のカラー101が挿入されている。カラー101の端面にはワッシャ102が当接するように配設されている。この状態でボルトBの軸部を、ワッシャ102及びカラー101に挿入してエンジンE等に締結することで電動ウォーターポンプ1をエンジンE等にフローティングマウントすることができる。この取付構造は一例であり、必要に応じて変更することができる。また、電動ウォーターポンプ1は車体に取り付けてもよい。
【0036】
(アキシャルギャップモータ2の構成)
図2に示すように、アキシャルギャップモータ2は、モータ筐体3に固定されたステータ20及び当該ステータ20に巻装されたコイル21と、インペラ4に固定された磁石22及びバックヨーク23と、モータ筐体3に固定された金属製のシャフト24とを備えている。ステータ20は、詳細は後述するが、
図3及び
図4に示すような形状である。
図2に示すように、ステータ20の回転中心線方向の端面20fと磁石22とが回転中心線方向に並ぶように配置されている。
【0037】
シャフト24は導電性を有する部材で構成されており、例えば鉄等を挙げることができる。シャフト24の基端側(
図2の左側)は、モータ筐体3のステータ埋込部31の中心部に埋め込まれて当該モータ筐体3を構成する樹脂材によって覆われた状態で保持されている。シャフト24の先端側は、ステータ埋込部31からハウジング5内に突出するように配設されており、シャフト24におけるハウジング5内へ突出した部分によってインペラ4を回転可能に支持している。シャフト24の中心線はインペラ4の回転中心線Xとなる。
【0038】
ステータ20及びコイル21は、モータ筐体3を構成する樹脂材によって覆われて当該モータ筐体3と一体化されている。すなわち、ステータ20は、鉄等の金属製の部材からなるものであり、
図3及び
図4に示すように、円板状のベース部20aと、該ベース部20aの外周部分からハウジング5内へ向けて突出し、シャフト24周りに等間隔に位置する複数の柱状部20bとを有している。柱状部20bは、ベース部20aの一方の側面(
図4における右側に位置する側面)からベース部20aの板厚方向に突出している。
【0039】
ベース部20aの中心部には、シャフト24の基端側が挿通するシャフト挿通孔(貫通孔)20cが形成されている。シャフト挿通孔20cは、回転中心線Xを通っており、ベース部20aの両側面に開口している。シャフト挿通孔20cは、円形にすることができるが、その形状は特に限定されるものではない。
【0040】
各柱状部20bの回転中心線と直交する方向の断面形状は、径方向内側へ行くほど周方向の幅が狭くなっており、具体的には径方向内側に頂点を有する三角形状とされている。従って、例えば
図3に示すように、回転中心線Xの周方向に隣合う柱状部20b、20bの互いに対向する側面同士の間隔は、径方向外側から内側まで略等しく設定される。この互いに対向する側面間に、コイル21を構成する線材が位置している。
【0041】
尚、ステータ20は、例えば圧粉成形によって得ることができるが、その他にも、例えば複数の珪素鋼板を積層した積層構造のものであってもよいし、鋳造品であってもよく、また、これら以外の方法で製造されたものであってもよい。
【0042】
柱状部20bの突出方向先端部は閉塞されている。この柱状部20bの端面20fは、平坦面で構成されており、
図2に示すように磁石22に対して回転中心線X方向に対向するように配置されている。柱状部20bの突出方向先端部を閉塞しているので、磁石22と対向する部分の面積を広く確保することができ、これにより、アキシャルギャップモータ2の効率の低下が抑制される。
【0043】
図2に示すように、シャフト24の基端側は、ステータ20のシャフト挿通孔20cに挿通されている。シャフト24の基端側とステータ20とは相対回転することがないように、シャフト24の基端側及びステータ20は、ステータ埋込部31に対して固定されている。シャフト24の固定構造については後述する。
【0044】
ステータ20の各柱状部20bにコイル21が巻装されてコイル21とステータ20とが一体化されている。従って、アキシャルギャップモータ2は複数のコイル21をシャフト24周りに等間隔に備えている。各コイル21の端部には、当該コイル21に電力を供給するための端子21aが設けられており、この端子21aは回路基板6に接続されている。
【0045】
一方、磁石22及びバックヨーク23は、インペラ4の羽根部41を構成する電磁シールド樹脂材によって覆われてインペラ4と一体化されている。電磁シールド樹脂材は、電磁波をシールドすることが可能な樹脂材であり、従来から周知の材料である。例えばベース樹脂材に導電性炭素繊維を配合することによって得られた電磁シールド樹脂材を使用することができる。例えば、ポリフェニレンサルファイドをベース樹脂とした炭素繊維強化熱可塑性樹脂が好適であるが、これに限られるものではない。
【0046】
磁石22は、例えば樹脂磁石等を用いることができる。磁石22は円板状に形成され、その中心部に、厚み方向に貫通する貫通孔(図示せず)を有している。磁石22には、複数のN極部分とS極部分とがシャフト24周りに交互に設けられている。磁石22とステータ20の柱状部20bとの間隔ができるだけ小さくなるように、磁石22のステータ20に対する位置が設定されている。
【0047】
バックヨーク23は、例えば鉄等の金属製の部材で構成されている。バックヨーク23も円板状に形成され、磁石22におけるステータ20と反対側の面に積層されて当該磁石22と一体化されている。バックヨーク23の厚みと磁石22の厚みとは同程度にしてもよいし、異なっていてもよい。バックヨーク23の中心部には、厚み方向に貫通する貫通孔(図示せず)が形成されており、このバックヨーク23の貫通孔と、磁石22の貫通孔とは相互の中心が同軸上(シャフト24の中心線上)に位置するように配置されている。バックヨーク23の外径は磁石22の外径よりも大きく設定してもよいし、同程度に設定してもよい。
【0048】
(インペラ4の構成)
インペラ4は、上述した電磁シールド樹脂材を射出成形してなる射出成形品であり、磁石22及びバックヨーク23が内蔵された部材である。インペラ4は、モータ筐体3に固定されたシャフト24に対して回転可能に支持される軸受部40と、複数の羽根部41と、磁石22及びバックヨーク23を覆うカバー部42とが一体成形されたものである。したがって、軸受部40、羽根部41、磁石22及びバックヨーク23は一体となって回転する回転体となる。この実施形態では、羽根部41とは別部材で構成されるとともに当該羽根部41を覆う樹脂製のシュラウド43も備えている。
【0049】
軸受部40は、例えば円筒状部材からなるものであり、シャフト24と同軸上に配置され、当該軸受部40の内方にシャフト24の先端側が相対回転可能に挿通されるようになっている。本実施形態の軸受部40は、導電性を有する部材で構成されている。軸受部40は、例えばカーボン等で構成することができるが、これに限られるものではなく、例えばボールベアリング等で構成することもできる。軸受部40にカバー部42及び羽根部41が固定されている。シャフト24及び軸受部40の両方が導電性部材からなるものであるとともに、軸受部40の内周面がシャフト24の外周面に接触していることから、シャフト24及び軸受部40は導通可能な状態になる。
【0050】
バックヨーク23は、軸受部40の周囲を囲むように配設されている。すなわち、バックヨーク23の貫通孔内に軸受部40の基端側が配置されており、バックヨーク23の貫通孔の内周面と軸受部40の外周面との間には、羽根部41を構成する電磁シールド樹脂材が介在している。バックヨーク23と軸受部40とは、当該バックヨーク23と当該軸受部40との間に介在された電磁シールド樹脂材によって一体化されている。磁石22も同様に電磁シールド樹脂材によって軸受部40と一体化されている。また、軸受部40は、羽根部41を構成する樹脂材にインサート成形することもできる。
【0051】
電磁シールド樹脂材は導電性を有しており、またシャフト24及び軸受部40も導電性を有しているので、電磁シールド樹脂材が持つ電荷は、軸受部40を介してシャフト24に移動可能になる。シャフト24は、回路基板6のグランドに接続されている。従って電磁シールド樹脂材を回路基板6のグランドに電気的に接続することができる。
【0052】
図2に示すように、インペラ4の軸受部40の先端側には、先端側環状部材46が配設されている。先端側環状部材46にはシャフト24が挿通しており、シャフト24における先端側環状部材46よりも先端側には、止め輪47が設けられている。この止め輪47により、インペラ4がシャフト24の中心線方向に移動するのが抑制されている。
【0053】
(スラスト軸受構造)
図2に示すように、本実施形態の電動ウォーターポンプ1は、シャフト24に回転可能に支持されたインペラ4の軸受部40に作用するスラスト力を受けつつ、軸受部40の回転を許容するスラスト軸受部品60を備えている。スラスト軸受部品60は、軸受部40の軸方向の端面と摺動可能に配設されている。以下、スラスト軸受部品60を使用したスラスト軸受構造の詳細について説明する。
【0054】
まず、シャフト24の詳細構造について説明する。
図5に示すように、シャフト24の基端側には、先端側よりも大径に形成された大径部24aが形成されている。大径部24aにおける先端側の端面24bは、回転中心線Xに対して直交しており、回転中心線Xの周方向に連続している。シャフト24の大径部24aは、モータ筐体3に嵌合するようになっている。このモータ筐体3には、スラスト軸受部品60が収容されている。
【0055】
スラスト軸受部品60は、全体として円形に近い板状をなしており、その中心部にはシャフト24が挿通するようになっている。スラスト軸受部品60における軸受部40の端面と摺動する面は、回転中心線Xと直交する方向に延びている。
【0056】
(シャフト24の回り止め構造)
図5に示すように、シャフト24の大径部24aよりも基端側には、径方向に延びる第1孔24c及び第2孔24dと、回転中心線X方向に延びる第3孔24eとが形成されている。第1孔24cは、第2孔24dよりもシャフト24の先端側に位置しており、第1孔24cと第2孔24dとは回転中心線X方向に互いに間隔をあけて設けられている。第3孔24eは、第1孔24cに連通するとともに第2孔24dにも連通している。第3孔24eの基端部は、シャフト24の基端面に開口している。
【0057】
モータ筐体3の成形時には、当該モータ筐体3を構成する樹脂材が流動しており、この流動状態の樹脂材が第1孔24c及び第2孔24dと第3孔24eとに流入し、充填される。この状態で溶融樹脂材が固化すると、シャフト24がモータ筐体3に対して回転不能に一体化される。尚、シャフト24には、第1孔24cと第2孔24dとの一方のみ設けてもよい。また、第3孔24eは省略してもよい。
【0058】
(一次成形樹脂材及び二次成形樹脂材)
モータ筐体3は、一次成形樹脂材300(
図6に示す)と二次成形樹脂材400(
図7に示す)とを有している。一次成形とは最初の射出成形であり、この一次成形で一次成形樹脂材300が得られる。二次成形とは一次成形後の射出成形であり、この二次成形で二次成形樹脂材400が得られる。一次成形樹脂材300と、二次成形樹脂材400とは同じ樹脂であってもよいし、異なる樹脂であってもよい。
【0059】
一次成形のとき、金型(図示せず)にはシャフト24とステータ20とを保持しておく。その後、金型内のキャビティに溶融状態の樹脂材を供給し、当該金型の成形面で成形する。このとき、上述したように、溶融状態の樹脂材がシャフト24の第1孔24c及び第2孔24dと第3孔24eとに流入して回り止めとなる。溶融樹脂は、シャフト24の基端側の外周面だけでなく、例えばステータ20の側面やステータ20の端面20fに沿って流動した後、固化する。溶融樹脂が固化することで一次成形樹脂材300が得られる。ステータ20の端面20fで固化した樹脂材は、ステータ20の端面20fを覆う被覆部301となり、従って、一次成形樹脂材300は被覆部301を有している。被覆部301は、ステータ20の端面20fに沿って延びる薄い板状をなしており、厚みは1.0mm以下に設定されている。このように被覆部301の厚みを薄くすることで、ステータ20と磁石22とを接近させることができ、アキシャルギャップモータ2の性能を高めることができる。
【0060】
また、一次成形樹脂材300は、コイル21が無い状態で、シャフト24の一部及びステータ20を覆うように成形すればよいので、一次成形樹脂材300の形状を簡素化することができる。一次成形樹脂材300の形状が簡素化することにより、ステータ20の端面20fを覆う被覆部301が薄くても、被覆部301の成形性が良好になるので、成形不良が起こりにくくなる。また、被覆部301の成形精度が向上する。
【0061】
一次成形樹脂材300の成形後、コイル21をインサート成形する。まず、コイル21を、樹脂材で被覆されたステータ20の柱状部20bに取り付ける。その後、二次成形に移る。二次成形のとき、金型(図示せず)に一次成形樹脂材300及びコイル21を保持しておく。その後、金型内のキャビティに溶融状態の樹脂材を供給し、当該金型の成形面で成形する。溶融樹脂が固化することで二次成形樹脂材400が得られる。二次成形樹脂材400により、コイル21が覆われるとともに、コイル21がステータ20と一体化する。二次成形樹脂材400は、モータ筐体3の上側へ延びる部分や被締結部54を有しており、一次成形樹脂材300に比べて大きい。
【0062】
図6及び
図7に示すように、一次成形樹脂材300には、シャフト24の第3孔24eから流出した樹脂材によって棒状部500が一体成形される。この棒状部500は、
図2に示すように背面部材7をモータ筐体3に固定する際に溶融温度まで加熱され、いわゆる熱カシメするための部分である。
【0063】
(電動ウォーターポンプ1の動作)
回路基板6を介してアキシャルギャップモータ2に電力を供給すると、インペラ4がアキシャルギャップモータ2によって回転中心線X周りに回転する。インペラ4が回転すると、冷却水がハウジング5の吸入管部50に吸入されてポンプ室S1内に流入する。ポンプ室S1内に流入した冷却水は、インペラ4の羽根部41によって径方向外方へ流れて流出通路S2に流入する。流出通路S2を流通した冷却水は、吐出管部52から吐出する。
【0064】
(実施形態1の作用効果)
以上説明したように、本実施形態1によれば、一次成形樹脂材300と、当該一次成形樹脂材300の成形後に成形される二次成形樹脂材400とを含んだモータ筐体3とすることができる。一次と二次に分けてモータ筐体3を成形していることで、一次成形樹脂材300の形状を簡素化しながら、二次成形樹脂材400によって複雑な形状のステータ20及びコイル21を全体的に覆うことにより、高い防水性が得られ、防食性が高まる。
【0065】
一次成形樹脂材300の形状が簡素化することにより、ステータ20の端面20fを覆う被覆部301が薄肉であっても成形不良が起こりにくくなる。これにより、磁石22とステータ20との間隔を狭めてアキシャルギャップモータ2の性能を高めることができる。
【0066】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2に係る一次成形樹脂材300を示すものである。この実施形態2では、シャフト24の基端側のみを一次成形樹脂材300にインサート成形している点で実施形態1と異なっており、他の部分は実施形態1と同じである。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0067】
実施形態2では、一次成形のとき、金型(図示せず)にはシャフト24のみ保持しておく。その後、金型内のキャビティに溶融状態の樹脂材を供給し、当該金型の成形面で成形する。次いで、二次成形に移る。二次成形のとき、金型(図示せず)に一次成形樹脂材300、ステータ20及びコイル21を保持しておく。その後、金型内のキャビティに溶融状態の樹脂材を供給し、当該金型の成形面で成形すると、ステータ20及びコイル21がインサート成形される。
【0068】
この実施形態2の場合も、実施形態1と同様に、アキシャルギャップモータ2のステータ20の端面20fを覆う樹脂材を、成形不良を招くことなく薄肉化して磁石22とステータ20との間隔を狭めることができ、性能向上と防食性向上とを両立できる。
【0069】
(実施形態3)
図9は、本発明の実施形態3に係る一次成形樹脂材300を示すものである。この実施形態3では、ステータ20、シャフト24及びコイル21の全てを一次成形樹脂材300にインサート成形していない点で実施形態1と異なっており、他の部分は実施形態1と同じである。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0070】
実施形態3では、一次成形のとき、金型(図示せず)にはステータ20、シャフト24及びコイル21を保持していない。その後、金型内のキャビティに溶融状態の樹脂材を供給し、当該金型の成形面で成形する。このとき、被覆部301が成形される。次いで、二次成形に移る。二次成形のとき、金型(図示せず)に一次成形樹脂材300、ステータ20、シャフト24及びコイル21を保持しておく。その後、金型内のキャビティに溶融状態の樹脂材を供給し、当該金型の成形面で成形すると、ステータ20、シャフト24及びコイル21が二次成形樹脂材にインサート成形される。
【0071】
この実施形態3の場合も、実施形態1と同様に、アキシャルギャップモータ2のステータ20の端面20fを覆う樹脂材を、成形不良を招くことなく薄肉化して磁石22とステータ20との間隔を狭めることができ、性能向上と防食性向上とを両立できる。
【0072】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0073】
すなわち、上記実施形態では、シャフト24及びスラスト軸受部品60が共にモータ筐体3に固定されているが、これに限らず、シャフト24が回転する構造であってもよいし、スラスト軸受部品60が回転する構造であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明は、例えば自動車に搭載される電動ウォーターポンプに適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 電動ウォーターポンプ
2 アキシャルギャップモータ
3 モータ筐体
4 インペラ
5 ハウジング
20 ステータ
20f 端面
21 コイル
23 バックヨーク
24 シャフト
24c 第1孔
24d 第2孔
24e 第3孔
300 一次成形樹脂材
301 被覆部
400 二次成形樹脂材