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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】脂溶性ビタミン含有エマルション
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/15 20160101AFI20240626BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240626BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240626BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 3/02 20060101ALN20240626BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20240626BHJP
   A61K 31/593 20060101ALN20240626BHJP
   A61K 31/122 20060101ALN20240626BHJP
   A61K 9/107 20060101ALN20240626BHJP
   A61K 47/24 20060101ALN20240626BHJP
   A61K 47/14 20170101ALN20240626BHJP
   A61K 47/10 20170101ALN20240626BHJP
   A61K 47/26 20060101ALN20240626BHJP
【FI】
A23L33/15
A61K8/06
A61K8/67
A61K8/55
A61K8/39
A61K8/86
A61K8/34
A61Q19/00
A61Q17/04
A61Q11/00
A61Q5/00
A61P3/02 109
A61P3/02 102
A61K45/00
A61K31/593
A61K31/122
A61K9/107
A61K47/24
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020145055
(22)【出願日】2020-08-10
(65)【公開番号】P2022032017
(43)【公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 裕子
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031954(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0011229(KR,A)
【文献】特開平3-27293(JP,A)
【文献】特開平9-157179(JP,A)
【文献】特開2008-239580(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0189316(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K8/
A61Q
C09K23/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の脂溶性ビタミン含有エマルションを含む食品又は化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂溶性ビタミン含有エマルション及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
脂溶性ビタミンは、種々の機能性が知られており、幅広い利用が望まれているが、脂溶性成分のため、飲料や水性食品への添加が難しく、利用用途が限られている。
【0003】
特許文献1には、脂溶性ビタミン類を界面活性剤の存在下で、粒子径を110nm以下の可溶化状態にしてなる生体利用率を改善したことを特徴とする脂溶性ビタミン類の水性組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ビタミンKを含有する食品として、メナキノン、中鎖トリグリセライド、抽出トコフェロール、SAIB(ショ糖酢酸イソブチル)を混合し、60℃に加熱溶解した後、この溶液を、グリセリン、水及びグリセリン脂肪酸エステルの混合液に添加、撹拌混合し、分散させた後、ホモジナイザーにて乳化し、ビタミンK(メナキノン)0.1%含有の乳化製剤が得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-175664号公報
【文献】特開平11-127816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、脂溶性ビタミンを含有する水中油型乳化物であって、微細な構造の脂溶性ビタミン含有エマルションを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、脂溶性ビタミンと、少なくともリン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、酵素処理フラボノイド及び水とを混合して乳化処理することで、微細な構造の脂溶性ビタミン含有エマルションが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]の態様に関する。
[1]脂溶性ビタミンと、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、酵素処理フラボノイド及び水とを含む、脂溶性ビタミン含有エマルションであって、エマルション全体を100重量%とした場合に、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量が6重量%以上であって、さらにポリオール含有量が12重量%以上である、脂溶性ビタミン含有エマルション。
[2]リン脂質1重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量が0.1重量部以上5重量部以下である、[1]記載の脂溶性ビタミン含有エマルション。
[3]エマルション全体を100重量%とした場合に、ポリオール含有量が60重量%以下である、[1]又は[2]記載の脂溶性ビタミン含有エマルション。
[4]耐塩性を有する、[1]~[3]の何れかに記載の脂溶性ビタミン含有エマルション。
[5][1]~[4]の何れかに記載の脂溶性ビタミン含有エマルションを含む食品又は化粧品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、微細な構造を有する脂溶性ビタミン含有エマルションを提供できるようになった。そのため、液状食品に使用した場合においても、濁り等による製品価値の低下を招きにくく、さらに、常圧下で乳化処理できるため、減圧条件下で乳化処理する必要がなく、特殊な減圧装置等を必要としないため、製造コストが安く、容易に脂溶性ビタミン含有エマルションを製造することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、脂溶性ビタミンと、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、酵素処理フラボノイド及び水とを含む、脂溶性ビタミン含有エマルションであって、脂溶性ビタミン、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、酵素処理フラボノイド及び水からなる、脂溶性ビタミン含有エマルションであるのが好ましい。製造方法は特に限定されないが、脂溶性ビタミンと、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、酵素処理フラボノイド及び水を含む原料を乳化処理することで、水中油型乳化物である脂溶性ビタミン含有エマルションが得られ、微細な構造を有し、耐冷凍性及び耐塩性を有するのが好ましく、さらに耐熱性を有するのがより好ましく、さらに耐酸性を有するのがさらに好ましい。
【0011】
本発明に記載の脂溶性ビタミンは、ビタミンA、D、E、K及びそれらの前駆体等、脂溶性のビタミンであれば特に限定されず、ビタミンAとしては、レチノール、デヒドロレチノール等が例示でき、ビタミンDとしては、エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、コレカルシフェロール(ビタミンD3)等が例示でき、ビタミンEとしては、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール及びミックストコフェロール(α体、β体、γ体、δ体の混合物)、並びにα-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノール及びミックストコトリエノール(α体、β体、γ体、δ体の混合物)が例示でき、ビタミンKとしては、フィロキノン(ビタミンK1)、メナキノン(ビタミンK2)、メナジオン(ビタミンK3)等が例示でき、乳化物の原料として、脂溶性ビタミンを含む組成物や市販の製剤を使用することができる。
【0012】
脂溶性ビタミン含有量は、原料全体を100重量%とした場合又は脂溶性ビタミン含有エマルション全体を100重量%とした場合に、0.001重量%以上20重量%以下が好ましく、0.002重量%以上15重量%以下がより好ましく、0.005重量%以上10重量%以下がさらに好ましい。
【0013】
本発明に記載のリン脂質は、本発明の脂溶性ビタミン含有エマルションが得られれば特に限定されないが、大豆レシチン、ひまわりレシチン、卵黄レシチン等のレシチンが例示でき、ホスホリパーゼ等の酵素で分解した酵素分解レシチンが好ましい。リン脂質含有量は、原料全体を100重量%とした場合又は脂溶性ビタミン含有エマルション全体を100重量%とした場合に、1.2重量%以上20重量%以下が好ましく、1.5重量%以上15重量%以下がより好ましく、2.0重量%以上13重量%以下がさらに好ましく、耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性を有するエマルションを得るためには1.5重量%以上10重量%以下とするのが好ましく、7重量%以下とするのがより好ましい。
【0014】
本発明に記載のポリグリセリン脂肪酸エステルは、本発明の脂溶性ビタミン含有エマルションが得られれば特に限定されず、市販の食品用乳化剤を使用することができる。デカグリセリンモノカプレート、テトラグリセリンモノラウレート、ペンタグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノラウレート、ペンタグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノミリステート、ペンタグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンジステアレート、ペンタグリセリンモノオレエート、ヘキサグリセリンモノオレエート、デカグリセリンモノオレエート等が例示でき、一種又は二種類以上を使用できる。ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値(Hydrophile-Lipophile Balance Value)は、10~20が好ましく、12~18がより好ましい。
【0015】
ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量は、原料全体を100重量%とした場合又は脂溶性ビタミン含有エマルション全体を100重量%とした場合に、6.0重量%以上が好ましく、6.5重量%以上がより好ましく、7.0重量%以上がさらに好ましく、上限は特に限定されないが、30重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。また、リン脂質1重量部に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量は0.1重量部以上5.0重量部以下が好ましく、0.2重量部以上4.5重量部以下がより好ましく、0.4重量部以上4.0重量部以下がさらに好ましい。前記範囲にすることで、耐熱性、耐冷凍性、耐酸性及び耐塩性に優れた乳化物が得られる。
【0016】
本発明に記載のポリオールは、二価以上のアルコールであれば特に限定されず、グリセリン、プロピレングリコール、1、3-ブタンジオール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、イノシトール、マルチトール、ラクチトール、還元水あめ、還元澱粉分解物、フルクトース、グルコース、ガラクトース、マンノース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、澱粉分解物、水溶性食物繊維等が例示でき、一種又は二種類以上を使用できる。
【0017】
ポリオール含有量は、原料全体を100重量%とした場合又は脂溶性ビタミン含有エマルション全体を100重量%とした場合に、12重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましく、20重量%以上がさらに好ましく、上限は特に限定されないが、80重量%以下が好ましく、75重量%以下がより好ましく、70重量%以下がさらに好ましく、60重量%以下が特に好ましく、耐熱性及び耐冷凍性に優れた乳化物が得られる。好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上であれば、さらに、耐酸性及び耐塩性を有する乳化物を得ることができる。また、水1重量部に対して、ポリオール含有量は0.1重量部以上20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、3重量部未満がさらに好ましく、2.8重量部以下が特に好ましい。
【0018】
本発明に記載の酵素処理フラボノイドは、酵素処理により糖を付加させ溶解性を高めた酵素処理フラボノイドであれば、特に限定されず、市販品を使用することができる。例えば、酵素処理によりグルコースを付加した酵素処理ルチン、酵素処理クエルシトリン、酵素処理イソクエルシトリン、酵素処理ヘスペリジン、酵素処理ナリンジン等が例示でき、該酵素処理フラボノイドは、ルチン、クエルシトリン、イソクエルシトリン、ヘスペリジン、ナリンジンよりさらに糖が付加し、該配糖体より大幅に溶解性が改善されている。酵素処理フラボノイドは、一種又は二種類以上を使用でき、含有量は、原料全体を100重量%とした場合又は脂溶性ビタミン含有エマルション全体を100重量%とした場合に、0.01重量%以上15重量%以下が好ましく、0.02重量%以上10重量%以下がより好ましく、0.03重量%以上7.0重量%以下がさらに好ましく、脂溶性ビタミン1重量部に対して、アグリコン部分であるケルセチン、ヘスペレチン又はナリンゲニン(フラボノイドアグリコン)として、2重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましく、5重量部以上がさらに好ましく、10重量部以上が特に好ましい。酵素処理フラボノイドを含ませることで、乳化が安定した微細な脂溶性ビタミン含有エマルションが得られる。
【0019】
本発明に記載の水は、飲食品に配合できる水であればよく、特に限定されない。原料全体を100重量%とした場合又は脂溶性ビタミン含有エマルション全体を100重量%とした場合に、水を3重量%以上80重量%以下含むのが好ましく、5重量%以上70重量%以下含むのがより好ましく、7重量%以上65重量%以下含むのがさらに好ましく、10重量%以上60重量%以下含むのが特に好ましい。
【0020】
乳化処理は、前記成分を混合し、均質化すればよく、一般的な乳化方法で行うことができる。例えば、水、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリオールを混合して水相部を調製し、この水相部と、油相部である脂溶性ビタミンとを、公知の乳化方法により乳化処理し、さらに酵素処理フラボノイドを加えてさらに乳化処理することで製造できる。乳化処理に用いる乳化装置としては、ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の高速回転型乳化装置、高圧ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー等の高圧乳化装置、超音波式乳化装置、膜式乳化装置等を例示でき、二種類以上の装置を組み合わせてもよい。本発明は、常圧下での乳化処理で、微細な乳化粒子が均一に分散した乳化物を得ることが可能なため、特殊な減圧装置等を必要とせず、製造コストが安く、容易に微細な構造を有する脂溶性ビタミン含有エマルションを製造することが可能である。
【0021】
本発明の脂溶性ビタミン含有エマルションは、微細な乳化粒子径を有していれば特に限定されないが、平均粒子径は5~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましく、10~150nmがさらに好ましい。乳化粒子の平均粒子径は、市販の粒度分布計等で測定することができる。本発明の脂溶性ビタミン含有エマルションは微細な乳化粒子径を有することで、乳化が壊れにくく、乳化安定性に優れている。さらに、濁りが忌避されるようなクリアな液状食品に添加した際でも、白濁することなく透明性を保持できる。
【0022】
また、本発明の脂溶性ビタミン含有エマルションは、耐冷凍性及び耐塩性を有するのが好ましく、さらに耐熱性を有するのがより好ましく、さらに耐酸性を有するのがさらに好ましい。尚、耐冷凍性、耐熱性及び耐酸性を有するとは、詳細には、後述の[評価試験1]に記載の条件で、各耐性試験を行った後の濁度が、OD700が0.12以下であり、耐塩性を有するとは、詳細には、後述の[評価試験3]に記載の条件で、耐塩性試験を行った後の濁度が、OD700が0.12以下である。
【0023】
本発明の脂溶性ビタミン含有エマルションを各食品又は化粧品へ添加することで、脂溶性ビタミン含有エマルションを含む食品又は化粧品を製造できる。添加する食品は特に限定されないが、ソース、ドレッシング等の調味料、非アルコール飲料、アルコール飲料等の飲料、スープ等の液状食品、機能性食品等が例示できる。特に脂溶性ビタミン含有エマルション中の組成によっては、耐熱性の他に、耐冷凍性や耐酸性を付加できることから、乳化が壊れやすい冷凍・解凍を伴う食品や酸性食品への添加も可能である。また、添加する化粧品は特に限定されないが、化粧水、美容液、UVケア商品、口腔用商品、毛髪用商品等が例示できる。各食品又は化粧品への添加量は特に限定されないが、好ましくは0.01~40重量%、より好ましくは0.05~30重量%、さらに好ましくは0.1~20重量%である。
【実施例
【0024】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0025】
[試験例1]
(酵素処理フラボノイド添加効果の検討)
表1記載の原料割合でビタミンK含有エマルション各20gを調製した。
ポリオールとして食品添加物グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)とリン脂質として酵素分解レシチンであるSLP(登録商標)-ホワイトリゾ(リン脂質含有量:92%以上、辻製油株式会社製)とを混合し、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフト(登録商標)Q-17S(HLB:12.0、太陽化学株式会社製)又はサンソフト(登録商標)Q-14S(HLB:14.5、太陽化学株式会社製)と水道水とを加え、ウォーターバスで加温しながら混合、溶解後、脂溶性ビタミンとしてビタミンK製剤であるK2オイル M-9000(総ビタミンK2含量:8814μg/g、株式会社J-オイルミルズ製)を加えて、ホモジナイザー(ヒスコトロンNS-20、株式会社マイクロテック・ニチオン製)を用いて乳化処理(20,000rpm、1分間)した後、酵素処理フラボノイドとして酵素処理ルチンであるαGルチンPS(ケルセチン含量:40.6%、東洋精糖株式会社製)若しくは酵素処理ヘスペリジンであるαGヘスペリジンPA-T(ヘスペレチン含量:37.1%、東洋精糖株式会社製)、又はフラボノイドとしてルチン若しくはヘスペリジンを加えて、ホモジナイザーを用いてさらに乳化処理(20,000rpm、1分間)を行うことにより、試験例1-1~1-6のビタミンK含有エマルション各20gを得た。尚、試験例1-3及び1-6は、酵素処理フラボノイド又はフラボノイドを加えなかった。
尚、酵素処理フラボノイド添加による、ビタミンK光劣化の抑制効果はみられなかった。
【0026】
[評価試験1]
(目視確認及び耐熱性試験、耐冷凍性試験又は耐酸性試験前後の濁度の確認)
試験例1-1~1-6の各ビタミンK含有エマルションについて、原液及び10%水溶液を目視確認すると共に、(1)耐熱性試験、(2)耐冷凍性試験又は(3)耐酸性試験を行い、試験前後の濁度として、分光光度計(UV-1900、株式会社島津製作所製)を用いて、光路長1cm、波長700nmの条件で光学密度700(OD700)を測定し、結果を表1に示した。最初に水で各ビタミンK含有エマルションの10%水溶液を調製して検体とし、(1)耐熱性試験では、検体を121℃、20分間加熱処理し、(2)耐冷凍性試験は、検体を-20℃で24時間冷凍保存後、解凍した。(3)耐酸性試験は、0.1Mクエン酸溶液(pH4.0)で各ビタミンK含有エマルションの10%溶液を調製して検体とし、121℃、20分間加熱処理した。なお、10%水溶液(試験前)のOD700が0.12以上の検体については、その後の耐性試験は行わなかった。
OD700が、全試験で0.12未満のものを「○」、少なくとも1つの耐性試験で0.12以上の結果があるものを「△」、10%水溶液(試験前)が0.12以上のものを「×」として、表1に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
ビタミンK、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水に、さらに酵素処理フラボノイドを加えて乳化処理した試験例1-1及び1-4では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で透明であり、濁度の測定においても、10%水溶液、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験前後の液は、何れもOD700が0.12未満であり、希釈した10%水溶液を耐性試験に供しても乳化状態を維持でき、耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた微細なエマルションであることが分かった。
【0029】
一方、酵素処理フラボノイドの代わりに、ルチン若しくはヘスペリジンを使用した試験例1-2及び1-5、又は無添加の試験例1-3及び1-6では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で懸濁しており、濁度の測定においても、10%水溶液の調製後にOD700が0.12以上となり、微細なエマルションは得られなかった。
【0030】
よって、ビタミンK、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水に、ルチン又はヘスペリジンに糖をさらに付加させることで溶解性を大幅に高めた酵素処理ルチン又は酵素処理ヘスペリジンをさらに加えることで、透明度の高い微細なエマルションが得られ、耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性にも優れることが分かった。
【0031】
[試験例2]
(酵素処理フラボノイド濃度の検討)
【0032】
表2記載の原料割合でビタミンK含有エマルション各20gを調製した。
酵素処理フラボノイドとして酵素処理ルチンを0~5%とする以外は、試験例1-1と同様に実施し、試験例2-1~2-4のビタミンK含有エマルション各20gを得た。尚、試験例2-1は、酵素処理フラボノイドを加えなかった。
尚、ビタミンK製剤中のビタミンK2含量から乳化物中のビタミンK2含量を算出し、また酵素処理ルチン中の基本骨格であるケルセチンの含量から乳化物中のケルセチン含量を算出し、ビタミンK2を1重量部とした場合のケルセチン(重量部)を表2に示した。
【0033】
[評価試験2]
(目視確認及び分光光度計による濁度の確認)
試験例2-1~2-4の各ビタミンK含有エマルションについて、原液及び10%水溶液を目視確認すると共に、10%水溶液の濁度について、分光光度計(UV‐1900)を用いて、評価試験1と同様に測定し、結果を表2に示した。
10%水溶液のOD700が、0.12未満のものを「○」、0.12以上のものを「×」として、表2に示した。
【0034】
【表2】
【0035】
ビタミンK、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水に、さらに酵素処理ルチン0.5~5%を加えて乳化処理した試験例2-2~2-4では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で透明であり、濁度の測定においても、10%水溶液は何れもOD700が0.12未満であり、微細なエマルションであることが分かった。
【0036】
[試験例3]
(リン脂質濃度の検討)
表3記載の原料割合でビタミンK含有エマルション各20gを調製した。
リン脂質を0~15%とする以外は、試験例1-1と同様に実施し、試験例3-1~3-5のビタミンK含有エマルション各20gを得た。尚、試験例3-1は、リン脂質を加えなかった。
【0037】
[評価試験1]
(目視確認及び耐熱性試験、耐冷凍性試験又は耐酸性試験前後の濁度の確認)
試験例3-1~3-5の各ビタミンK含有エマルションについて、試験例1記載の評価試験1と同様に実施し、結果を表3に示した。
【0038】
【表3】
【0039】
ビタミンK、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、酵素処理フラボノイド及び水を、リン脂質含有量が2~7%となるように配合して乳化処理した試験例3-2~3-4では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で透明又はほぼ透明であり、濁度の測定においても、10%水溶液、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験前後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈した10%水溶液を耐性試験に供しても乳化状態を維持でき、耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた微細なエマルションであることが分かった。
【0040】
一方、リン脂質無添加の試験例3-1又はリン脂質含有量が15%の試験例3-5では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で透明又はほぼ透明であり、濁度の測定においても、10%水溶液はOD700が0.12未満だったが、試験例3-1では、耐熱性試験後及び耐酸性試験後に何れもOD700が0.12以上となり、また試験例3-5では、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験前後で何れもOD700が0.12以上となり、耐熱性及び耐酸性を有する微細なエマルションとするためには、リン脂質が必要であり、一方で、リン脂質が15%以上になると耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性が失われることが分かった。
【0041】
[試験例4]
(ポリグリセリン脂肪酸エステル濃度の検討)
表4記載の原料割合でビタミンK含有エマルション各20gを調製した。
ポリグリセリン脂肪酸エステルを0~15%とする以外は、試験例1-1と同様に実施し、試験例4-1~4-5のビタミンK含有エマルション各20gを得た。尚、試験例4-1は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを加えなかった。
【0042】
[評価試験1]
(目視確認及び耐熱性試験、耐冷凍性試験又は耐酸性試験前後の濁度の確認)
試験例4-1~4-5の各ビタミンK含有エマルションについて、試験例1記載の評価試験1と同様に実施し、結果を表4に示した。
【0043】
【表4】
【0044】
ビタミンK、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、酵素処理フラボノイド及び水を、ポリグリセリン脂肪酸エステル含有量が7~15%となるように配合して乳化処理した試験例4-3~4-5では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で透明であり、濁度の測定においても、10%水溶液、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験前後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈した10%水溶液を耐性試験に供しても乳化状態を維持でき、耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた微細なエマルションであることが分かった。
【0045】
一方、ポリグリセリン脂肪酸エステル無添加の試験例4-1及びポリグリセリン脂肪酸エステル含有量が5%の試験例4-2では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で懸濁しており、濁度の測定においても、10%水溶液の調製後にOD700が0.12以上となり、微細なエマルションは得られなかった。
【0046】
[試験例5]
(ポリオール濃度の検討)
表5記載の原料割合でビタミンK含有エマルション各20gを調製した。
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフト(登録商標)A-171E(HLB:12.7、太陽化学株式会社製)を10%、酵素処理フラボノイドとして酵素処理ルチンであるαGルチンPS(ケルセチン含量:40.6%)を0.2%、ポリオールを0~70%とする以外は、試験例1-1と同様に実施し、試験例5-1~5-5のビタミンK含有エマルション各20gを得た。尚、試験例5-1は、ポリオールを加えなかった。
【0047】
[評価試験1]
(目視確認及び耐熱性試験、耐冷凍性試験又は耐酸性試験前後の濁度の確認)
試験例5-1~5-5の各ビタミンK含有エマルションについて、試験例1記載の評価試験1と同様に実施し、結果を表5に示した。
【0048】
【表5】
【0049】
ビタミンK、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、酵素処理フラボノイド及び水を、ポリオール含有量が40~70%となるように配合して乳化処理した試験例5-4及び5-5では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で透明であり、濁度の測定においても、10%水溶液、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験前後の液は、OD700が何れも0.12未満であり、希釈した10%水溶液を耐性試験に供しても乳化状態を維持でき、耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた微細なエマルションであることが分かった。
【0050】
一方、ポリオール無添加の試験例5-1又はポリオール含有量が10%の試験例5-2では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で懸濁しており、濁度の測定においても、10%水溶液の調製後にOD700が0.12以上となり、微細なエマルションは得られなかった。また、ポリオール含有量が20%の試験例5-3では、各ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で透明であり、濁度の測定においても、10%水溶液の調製後、耐熱性試験後及び耐冷凍性試験後にOD700が0.12未満だったが、耐酸性試験後にOD700が0.12以上となり、耐酸性を有していなかった。
【0051】
[試験例6]
(耐塩性の検討)
表6記載の原料割合でビタミンK含有エマルション各20gを調製した。
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフト(登録商標)Q-17S(HLB:12.0)を12%、酵素処理フラボノイドとして酵素処理ルチンであるαGルチンPS(ケルセチン含量:40.6%)を5%とする以外は、試験例1-1と同様に実施し、試験例6-1及び6-2のビタミンK含有エマルション各20gを得た。尚、試験例6-2は、酵素処理フラボノイドを加えなかった。
【0052】
[評価試験3]
(目視確認及び耐塩性試験前後の濁度の確認)
試験例6-1及び6-2の各ビタミンK含有エマルションについて、原液及び10%水溶液を目視確認すると共に、耐塩性試験を行い、試験前後の濁度として、10%水溶液の濁度について、分光光度計(UV-1900)を用いて、評価試験1と同様に測定し、結果を表6に示した。耐塩性試験は、10%食塩水で各ビタミンK含有エマルションの10%溶液を調製して検体とし、95℃、30分間加熱処理した。
OD700が、0.12未満のものを「○」、0.12以上のものを「×」として、表6に示した。
【0053】
【表6】
【0054】
ビタミンK、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール、酵素処理フラボノイド及び水を乳化処理した試験例6-1では、ビタミンK含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で透明であり微細なエマルションであり、さらに、耐塩性を有することが分かった。
【0055】
[試験例7]
(ビタミンD含有エマルションの検討)
表7記載の原料割合でビタミンD含有エマルション各20gを調製した。
脂溶性ビタミンとしてビタミンKの代わりにビタミンD製剤である理研D3オイル100(コレカルシフェロール含量:0.25%、理研ビタミン株式会社製)を用いた。
ポリオールとして食品添加物グリセリン(阪本薬品工業株式会社製)とリン脂質として酵素処理レシチンであるSLP(登録商標)-ホワイトリゾ(リン脂質含有量:92%以上、辻製油株式会社製)とを混合し、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしてサンソフト(登録商標)Q-17S(HLB:12.0)、酵素処理フラボノイドとして酵素処理ルチンであるαGルチンPS(ケルセチン含量:40.6%)、水道水とを加え、ウォーターバスで加温しながら混合、溶解後、脂溶性ビタミンとして理研D3オイル100を加えて、ホモジナイザー(ヒスコトロンNS-20)を用いて、乳化処理(20,000rpm、1分間)を行い、試験例7-1~7-5のビタミンD含有エマルション各20gを得た。
尚、ビタミンD製剤中のコレカルシフェロール含量から乳化物中のコレカルシフェロール含量を算出し、また酵素処理ルチン中の基本骨格であるケルセチンの含量から乳化物中のケルセチン含量を算出し、コレカルシフェロールを1重量部とした場合のケルセチン(重量部)を表7に示した。
【0056】
[評価試験1]
(目視確認及び耐熱性試験、耐冷凍性試験又は耐酸性試験前後の濁度の確認)
試験例7-1~7-5の各ビタミンK含有エマルションについて、試験例1記載の評価試験1と同様に実施し、結果を表7に示した。
【0057】
【表7】
【0058】
ビタミンD、リン脂質、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオール及び水に、さらに酵素処理フラボノイドを加えて乳化処理した試験例7-2~7-5では、各ビタミンD含有エマルションの原液及び10%水溶液は何れも目視確認で透明であり、濁度の測定においても、10%水溶液、耐熱性試験後、耐冷凍性試験後及び耐酸性試験前後の液は、何れもOD700が0.12未満であり、希釈した10%水溶液を耐性試験に供しても乳化状態を維持でき、耐熱性、耐冷凍性及び耐酸性に優れた微細なエマルションであることが分かった。
【0059】
[まとめ]
以上より、脂溶性ビタミンを、少なくとも、リン脂質、7%以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、20%以上のポリオール、酵素処理フラボノイド及び水存在下で乳化処理することで、乳化物自体が透明で、微細なエマルションが得られることが分かった。また、エマルション全体を100重量%とした場合に、リン脂質を2~7%とすることで、加熱しても乳化が壊れない耐熱性に優れた脂溶性ビタミン含有エマルションを形成することができ、また、ポリオールを20%以上とすることで、酸性下で加熱しても乳化が壊れない耐酸性も付与できることが分かった。
よって、本発明の脂溶性ビタミン含有エマルションは、酸性飲料を含む飲料、ソース、ドレッシング等の調味料、スープ等の液状食品等、製造過程に加熱工程を含むような商品に添加でき、さらに機能性食品や化粧品としても利用可能で、微細な構造のため添加により溶液が濁り難く、透明性が求められる商品に最適である。