(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】試験器
(51)【国際特許分類】
G01N 33/15 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
G01N33/15 A
(21)【出願番号】P 2020170253
(22)【出願日】2020-10-08
【審査請求日】2023-09-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「創薬基盤推進研究事業」「次世代医薬品の効率的実用化推進のための品質評価技術基盤の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 清彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 葵
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054535(JP,A)
【文献】特開2006-322744(JP,A)
【文献】登録実用新案第3144767(JP,U)
【文献】特開2009-058322(JP,A)
【文献】特開2000-214171(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0207691(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/15
G01N 35/00-37/00
G01N 1/00- 1/44
G01N 33/48-33/98
G01N 31/00-31/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験液中の製剤を試験するための試験器であって、
試験液を収容するための試験容器を含み、
前記試験容器がフロート板を有
し、
前記試験が、崩壊試験又は溶出試験であり、
前記試験液が炭酸緩衝液である、試験器。
【請求項2】
前記フロート板は平板形状を有し、前記試験器使用時において前記試験液面の90%以上を被覆する、請求項1に記載の試験器。
【請求項3】
前記フロート板は樹脂製である、請求項1又は2に記載の試験器。
【請求項4】
フロート板を試験液の液面に浮遊させて試験を実施する工程を含む、
製剤試験法であって、
該製剤試験が崩壊試験又は溶出試験であり、
前記試験液が炭酸緩衝液である、製剤試験法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験器に関する。
【背景技術】
【0002】
製剤試験として各種の試験方法が存在し、例えば溶出試験又は崩壊試験といった製剤試験においては、消化管内に極力近い試験条件で実施することが好ましい。
【0003】
かかる試験条件の中でも特に重要なpH条件は、ヒトの消化管内の条件を模する必要があり、消化管内では炭酸緩衝液により概ね6.5~7.4程度に維持されている。しかしながら、上記した溶出試験又は崩壊試験といった製剤試験では、炭酸緩衝液ではなく、リン酸緩衝液によりpHの維持が為されることが一般的である。
【0004】
この理由は、炭酸緩衝液を使用して試験を実施した場合、試験器中の炭酸緩衝液表面からCO2が放出されることにより、緩衝液のpHが変動してしまうためである。この問題を解決するため、溶出試験等に際して炭酸緩衝液中にCO2を持続的にバブリングして放出し、炭酸緩衝液のpHを維持する方法も考えられている。
【0005】
しかしながら、当該方法では、仮に界面活性剤を含む炭酸緩衝液を使用して試験実施する必要がある場合、気泡の発生が妨げとなって適性に試験実施できなくなることが懸念される。また、バブリング実施のために特殊で大掛かりな装置が必要となることにより高コストとなりがちなうえ、試験操作も煩雑なものとなりかねない。
【0006】
このように、大掛かりな装置を必要とすることなく、炭酸緩衝液のpHを維持することが可能な試験器が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、製剤試験に際して、大掛かりな設備を必要とすることなく、試験液のpHの維持が可能な試験器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、炭酸緩衝液を入れるための試験容器にフロート板を設けることで、上述のような大掛かりな設備を必要とすることなく試験を実施できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の試験器を提供する。
項1.
試験液中の製剤を試験するための試験器であって、
試験液を収容するための試験容器を含み、
前記試験容器がフロート板を有する、試験器。
項2.
前記フロート板は平板形状を有し、前記試験器使用時において前記試験液面の90%以上を被覆する、請求項1に記載の試験器。
項3.
前記フロート板は樹脂製である、請求項1又は2に記載の試験器。
項4.
前記製剤試験が、崩壊試験又は溶出試験である、請求項1~3の何れか1項に記載の試験器。
項5.
フロート板を試験液の液面に浮遊させて試験を実施する工程を含む、製剤試験法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の試験器は、製剤試験に際して大掛かりな設備を要することなく、試験液のpHを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶出試験器の外観を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る溶出試験器を構成する試験容器の断面図である。
【
図3】各pHにおける実施例及び比較例の60分間のpH推移を示すグラフである。
【
図4】各緩衝液濃度における実施例及び比較例の60分間のpH推移を示すグラフである。
【
図5】実施例1及び比較例1の24時間のpH推移を示すグラフである。
【
図6】実施例3~6の60分間のpH推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の試験器は、製剤試験に使用され、試験液を収容するための試験容器を含む。また、試験容器はフロート板を備える。
【0013】
製剤試験としては、薬局方に規定される各種の製剤試験を例示することが可能であり、特に限定はない。具体的には、金属性異物試験、製剤均一性試験、製剤の粒度の試験、制酸力試験、注射剤の採取容量試験、注射剤の不溶性異物試験、注射剤の不溶性微粒子試験、点眼剤の不溶性微粒子試験、崩壊試験、溶出試験、及び点眼剤の不溶性異物検査を例示することができる。これらの中でも、炭酸緩衝液を試験液として使用することにメリットのある、崩壊試験又は溶出試験に使用することが好ましい。
【0014】
試験器は、試験液を収容するための試験容器を含み、試験器に設けられる試験容器は一つであってもよいし、複数であってもよい。
【0015】
本発明の試験器を崩壊試験器として使用する場合、後述するフロート板以外の構成については、公知の態様の試験器を使用することが可能である。また、本発明の試験器を溶出試験器として使用する場合についても同様に、フロート板以外の構成については工程の態様の試験器を使用することが可能であり、回転バスケット法、パドル法、及びフロースルーセル法等の各種の溶出試験器の態様に適用可能である。その他の試験器に適用する場合においても同様にすることができる。
【0016】
換言すると、本発明の試験器は、市販の試験器に対し、後述するフロート板のみを作製及び装着させることにより得ることも可能である。
【0017】
試験容器は、フロート板を有する。当該フロート板は、試験容器内部に収納されていることが好ましく、試験液を試験容器に収容した際に、試験液面上に浮遊させて使用される。もちろん、試験実施時にフロート板を試験容器内に収納して使用してもよい。
【0018】
フロート板を構成するための材料は、試験容器内に収容する試験液(炭酸緩衝液など)よりも軽い密度を有するものであれば特に限定はない。具体的には、(発泡)樹脂材料、撥水性の紙材料、及び木などを例示することが可能である。
【0019】
フロート板の形状については、例えば板状とすることが好ましい。厚みについても特に限定はなく、1~50mmとすることが好ましく、3~10mmとすることがより好ましい。
【0020】
また、フロート板は、試験液の液面に浮遊した状態で、試験液液面の90%以上を被覆する。換言すると、フロート板の俯瞰面積は、試験容器の試験液を収容する内腔の周方向断面積(但し、後述する
図1の実施形態のごとく、液面より攪拌装置等が伸びる場合は、左記断面積から攪拌装置の周方向断面積を除いた断面積とする。)の90%以上である。試験液液面の少なくとも90%を被覆できない場合、炭酸緩衝液を試験液として使用した場合に、炭酸緩衝液中の二酸化炭素が液面から大気中に放出されやすくなり、試験実施中の試験液pHの維持が困難となってしまう。
【0021】
同様の観点から、試験液のpHの維持をより確実なものとするために、フロート板は、試験液の液面に浮遊した状態で、試験液液面の95%以上を被覆できるようにすることが好ましい。換言すると、フロート板の俯瞰面積は、試験容器の試験液を収容する内腔の周方向断面積(但し、後述する
図1の実施形態のごとく、液面より攪拌装置等が伸びる場合は、左記断面積から攪拌装置の周方向断面積を除いた断面積とする。)の95%以上とすることが好ましい。
【0022】
試験液としては、上記した試験で使用される各種の試験液を使用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、炭酸緩衝液又はリン酸緩衝液を例示することが可能である。特に、試験液として炭酸緩衝液を使用する必要のある場合には、大掛かりな設備が不要であり、好適である。
【0023】
次に本発明の試験器の具体的な実施態様の一例を、図面に基づき説明する。
【0024】
図1に示すのは、本発明の試験器を溶出試験器として使用する実施形態の一例である。
【0025】
当該実施形態において、溶出試験器1は、1個又は複数の試験容器2を備えて構成される。
図2に示すとおり、試験容器内には、被験製剤Aを溶出させるための攪拌装置3が設けられ、該攪拌装置3は回転軸31及び攪拌翼32を備える。その他、試験実施時の試験液のpHをモニターするためのpHメーター4等を、試験液中に設置することも好ましい。
【0026】
当該溶出試験器1を使用して試験を実施する際には、その液面にフロート板Bを浮遊させた状態で試験実施する。フロート板Bには、攪拌装置3の回転軸31及び/又はpHメーター4を挿通させるための貫通孔を設けてもよい。
【0027】
また、本発明は、フロート板を試験液の液面に浮遊させて試験実施する工程を有する製剤試験法に関する発明を包含する。当該試験法は、上記した薬局方に規定される各種の製剤試験に適用可能であり、試験液及びフロート板としても上記したものと同様のものを使用することができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0030】
ERWEKA社製、型番:DT800の溶出試験器を使用し、
図2に示すように試験容器に、10mMの炭酸水素ナトリウム水溶液490mLを入れ、これに塩酸10mLを滴下してそれぞれ順にpH6.0、6.5、7.0及び7.4の炭酸緩衝液を得た。液面にフロート板(発泡スチロール製、厚さ2cm)をセットし、実施例1とした。同様に、2.0mM、5.0mM、10mM、20mM及び50mMの炭酸水素ナトリウム水溶液490mLを入れ、これに塩酸10mLを滴下してそれぞれ順にpH6.5の炭酸緩衝液を得た。液面にフロート板(発泡スチロール製、厚さ2cm)をセットし、実施例2とした。一方、それぞれの緩衝液についてフロート板を設けない態様の比較例を準備し、これをそれぞれ比較例1及び2とした。その後、各実施例及び比較例の試験容器のpHを経時的に60分間測定した。また、実施例1と比較例1とについては、経時的に24時間、pHの測定を行った。
【0031】
図3および
図4に示すとおり、各実施例の試験容器中の試験液は、経時的な変化が殆ど確認されず、試験液のpHが維持されていた。
図5に示すとおり、24時間の測定でも、実施例1の試験容器ではpHが維持された。
【0032】
次に、実施例2における各フロート板の大きさが、液面の80%(実施例3)、90%(実施例4)、95%(実施例5)および100%(実施例6)ものをさらに準備し、実施例3~6について、10mM炭酸緩衝液を用いて、pH6.5におけるpH変動を60分間経時的に測定した。
【0033】
図6に示すとおり、フロート板による液面の被覆面積の多い実施例ほど、pHを効率的に維持可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0034】
1 試験器
2 試験容器
3 攪拌装置
31 回転軸
32 攪拌翼
4 pHメーター
A 試験対象の製剤(薬剤)
B フロート板