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特許7510167緊張材の定着方法、緊張材の緊張力調整方法及びジャッキ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】緊張材の定着方法、緊張材の緊張力調整方法及びジャッキ装置
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20240626BHJP
   E04C 5/12 20060101ALI20240626BHJP
   E01D 19/10 20060101ALI20240626BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20240626BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20240626BHJP
   F16B 7/18 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
E04G21/12 104C
E04G21/12 104F
E04C5/12
E01D19/10
E01D19/12
E02D5/80 Z
F16B7/18 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020192594
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2021088920
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019210151
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163110
【氏名又は名称】極東鋼弦コンクリート振興株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】山形 直樹
(72)【発明者】
【氏名】板谷 英克
(72)【発明者】
【氏名】菊池 厚
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223206(JP,A)
【文献】特開2017-095984(JP,A)
【文献】実開昭57-088822(JP,U)
【文献】米国特許第03559275(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/12
E04C 5/00-5/20
E01D 1/00-24/00
E02D 5/22-5/80
F16B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラムチェアを備えたジャッキ装置を用いた緊張材の定着方法であって、
支圧板に当接しない第1の状態の前記ラムチェア内側を挿通するように、前記緊張材を前記ジャッキ装置に固定する工程と、
前記ジャッキ装置で加圧して前記緊張材を引っ張りながら定着具を介して支圧板に定着し、前記定着具によって定着された前記緊張材に対する前記ジャッキ装置の緊張力を減圧する1次定着工程と、
前記第1の状態の前記ラムチェアを移動させて前記支圧板に当接する工程と、
前記ラムチェアを前記支圧板に当接させた状態で前記ジャッキ装置を再度加圧して前記支圧板から前記定着具を離間させ、前記支圧板から離間した状態で前記定着具を前記支圧板に固定する2次定着工程と、を含み、
前記ラムチェアは、前記ジャッキ装置とネジ嵌合又はカム機構によって連結されており、
前記支圧板に当接する工程は、前記ラムチェアを回転させて前記支圧板に向かって引き出すことを特徴とする緊張材の定着方法。
【請求項2】
ラムチェアを備えたジャッキ装置を用いた緊張材の定着方法であって、
支圧板に当接しない第1の状態の前記ラムチェア内側を挿通するように、前記緊張材を前記ジャッキ装置に固定する工程と、
前記ジャッキ装置で加圧して前記緊張材を引っ張りながら定着具を介して支圧板に定着し、前記定着具によって定着された前記緊張材に対する前記ジャッキ装置の緊張力を減圧する1次定着工程と、
前記第1の状態の前記ラムチェアを移動させて前記支圧板に当接する工程と、
前記ラムチェアを前記支圧板に当接させた状態で前記ジャッキ装置を再度加圧して前記支圧板から前記定着具を離間させ、前記支圧板から離間した状態で前記定着具を前記支圧板に固定する2次定着工程と、を含み、
前記ラムチェアは、互いに対向し基部を中心に拡開可能な一対の腕部を備え、前記緊張材を前記ジャッキ装置に固定する工程では、前記一対の腕部が前記ジャッキ装置の外面を挟むことにより前記ジャッキ装置に取り付けられ、前記支圧板に当接する工程では、前記ジャッキ装置から外され、前記支圧板と前記ジャッキ装置との間に設置されることを特徴とする緊張材の定着方法。
【請求項3】
ラムチェアを備えたジャッキ装置を用いた緊張材の定着方法であって、
支圧板に当接しない第1の状態の前記ラムチェア内側を挿通するように、前記緊張材を前記ジャッキ装置に固定する工程と、
前記ジャッキ装置で加圧して前記緊張材を引っ張りながら定着具を介して支圧板に定着し、前記定着具によって定着された前記緊張材に対する前記ジャッキ装置の緊張力を減圧する1次定着工程と、
前記第1の状態の前記ラムチェアを移動させて前記支圧板に当接する工程と、
前記ラムチェアを前記支圧板に当接させた状態で前記ジャッキ装置を再度加圧して前記支圧板から前記定着具を離間させ、前記支圧板から離間した状態で前記定着具を前記支圧板に固定する2次定着工程と、を含み、
前記支圧板に当接する工程では、前記ラムチェアを油圧によって前記支圧板側に移動させて前記支圧板に当接させることを特徴とする緊張材の定着方法。
【請求項4】
前記定着具は、前記支圧板に当接するスリーブと前記スリーブに挿入されるウェッジとを含むくさび定着具であり、
前記スリーブに当接する第1当接部と前記ウェッジに当接する第2当接部とを含み、内側に前記緊張材が挿通する押さえ部材が前記ジャッキ装置に設けられているとともに、前記押さえ部材に前記ラムチェアが嵌合しており、
前記1次定着工程は、前記ラムチェアが前記第1の状態において前記くさび定着具を介した前記緊張材の定着を行う工程であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の緊張材の定着方法。
【請求項5】
前記2次定着工程は、前記定着具の外周に設けられたリングナットを回転させて前記支圧板に当接させ、前記支圧板から離間した状態で前記定着具を前記支圧板に固定する工程、又は前記支圧板から離間した前記定着具との隙間にプレートを差し込んで前記定着具を前記支圧板に固定する工程を含むことを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の緊張材の定着方法。
【請求項6】
緊張材に緊張力を付与するジャッキ装置であって、
支圧板から突出した前記緊張材が固定されるジャッキ本体部と、
前記ジャッキ本体部に固定された前記緊張材に緊張力を付与するピストンと、
前記ピストンに対してネジ嵌合又はカム機構によって連結されており、前記支圧板に当接しない第1の状態と、回転動作によって前記第1の状態から前記支圧板に向かって移動して前記支圧板に当接する第2の状態とに移動可能なスライド式ラムチェアと、を備え、
前記スライド式ラムチェアは、前記第1の状態において前記スライド式ラムチェア内側を前記緊張材が挿通可能な中空状に形成されているとともに、前記ジャッキ本体部又は前記ピストンに対して相対的に移動可能であることを特徴とするジャッキ装置。
【請求項7】
緊張材に緊張力を付与するジャッキ装置であって、
支圧板から突出した前記緊張材が固定されるジャッキ本体部と、
前記ジャッキ本体部に固定された前記緊張材に緊張力を付与するピストンと、
互いに対向し基部を中心に拡開可能な一対の腕部を備え、前記支圧板に当接しない第1の状態と、前記支圧板に当接する第2の状態とに設置可能なアタッチメント式ラムチェアと、を備え、
前記アタッチメント式ラムチェアは、前記第1の状態では、前記一対の腕部が前記ジャッキ装置の外面を挟むことにより前記ジャッキ装置に取り付けられ、前記第2の状態では、前記ジャッキ装置から外されて、前記支圧板と前記ジャッキ装置との間に設置されることを特徴とするジャッキ装置。
【請求項8】
緊張材に緊張力を付与するジャッキ装置であって、
支圧板から突出した前記緊張材が固定されるジャッキ本体部と、
前記ジャッキ本体部に固定された前記緊張材に緊張力を付与するピストンと、
前記ジャッキ本体部又は前記ピストンに対して相対的に移動可能であり、前記支圧板に当接しない第1の状態と、油圧によって前記第1の状態から前記支圧板に向かって移動して前記支圧板に当接する第2の状態とに移動可能な油圧式ラムチェアと、を備えることを特徴とするジャッキ装置。
【請求項9】
前記緊張材を定着する定着具は、前記支圧板に当接するスリーブと前記スリーブに挿入されるウェッジとを含むくさび定着具であり、
前記スリーブに当接する第1当接部と前記ウェッジに当接する第2当接部とを含む押さえ部材を有することを特徴とする請求項6からのいずれか1つに記載のジャッキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊張材の定着方法、緊張材の緊張力調整方法及びジャッキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PC鋼材をコンクリート躯体に定着固定するPC(プレストレストコンクリート)構造物(例えば、橋梁の橋桁)では、PC鋼材が張架されるコンクリート躯体の端部にジャッキ装置を配置し、PC鋼材を引っ張って緊張させる。また、地滑り・土砂崩落対策や地盤安定化などで用いられるグラウンドアンカー工法においても、同様に、PC鋼材等の引っ張り力(緊張力)を利用しており、グラウンドアンカーのPC鋼材をジャッキ装置で引っ張って緊張させる。
【0003】
そして、PC鋼材等の緊張材の定着固定において、くさび定着固定の場合、ジャッキ装置の加圧によりスリーブにウェッジを圧入した後、ジャッキ装置の圧力を減圧すると、くさび定着具に緊張力が移行し、ウェッジの移動に伴う緊張力(定着荷重)のセットロスが発生することが知られている。
【0004】
特許文献1は、ジャッキ装置で加圧してPC鋼材を引っ張りながらスリーブにウェッジを圧入する1次定着を行った後に、さらにジャッキ装置で加圧してPC鋼材を引っ張り、支圧板から浮き上がったスリーブに対し、スリーブ外周に設けられたリングナットを回転させて浮き上がった隙間を埋めるようにリングナットを支圧板に当接させる2次定着を行う。このような2次定着によって1次定着で生じる緊張力のセットロスを補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-242438号公報
【文献】特開2007-231683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、1次定着の際のジャッキ装置の設置作業において、2次定着を想定し、くさび定着具とジャッキ装置との間にラムチェアを予め配置し、ラムチェアが配置された状態(ラムチェアが支圧板に当接した状態)で1次定着を行っている。このため、ラムチェアを別途設置する手間が発生する。
【0007】
特に、ラムチェアは、あくまでも2次定着で必要な部材であり、1次定着では不要であるため、1次定着を行うためには、アジャストプレートや押さえ板を設置しなければならず、手間の掛かる作業及び操作が発生する。
【0008】
そこで本発明の一つの目的は、定着具による定着後の減圧で生じる緊張力の減少に対する補完定着(2次定着)を、簡易な構成でかつ作業手間を低減させて行うことができる緊張材の定着方法及びジャッキ装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、定着具に固定されている緊張材の緊張力を簡易に調整できる緊張力調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本願発明は、緊張材の緊張定着方法であり、ラムチェアを備えたジャッキ装置を用いる。支圧板に当接しない第1の状態の前記ラムチェア内側を挿通するように、緊張材をジャッキ装置に固定する工程と、ジャッキ装置で加圧して緊張材を引っ張りながら定着具を介して支圧板に定着し、定着具によって定着された緊張材に対するジャッキ装置の緊張力を減圧する1次定着工程と、第1の状態のラムチェアを移動させて支圧板に当接する工程と、ラムチェアを支圧板に当接させた状態でジャッキ装置を再度加圧して支圧板から定着具を離間させ、支圧板から離間した状態で定着具を支圧板に固定する2次定着工程と、を含む。
【0010】
(2)上記(1)において、定着具としては、支圧板に当接するスリーブとスリーブに挿入されるウェッジとを含むくさび定着具を用いることができる。このとき、スリーブに当接する第1当接部とウェッジに当接する第2当接部とを含み、内側に緊張材が挿通する押さえ部材がジャッキ装置に設けられ、押さえ部材にラムチェアが嵌合するように構成することができる。そして、1次定着工程は、ラムチェアが第1の状態においてくさび定着具を介した緊張材の定着を行う工程とすることができる。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)において、ラムチェアは、ジャッキ装置とネジ嵌合によって連結するように構成されており、上記支圧板に当接する工程は、ラムチェアを回転させて支圧板に向かって引き出す工程である。
【0012】
(4)上記(1)又は(2)において、ラムチェアは、互いに対向し基部を中心に拡開可能な一対の腕部を備え、緊張材をジャッキ装置に固定する工程では、一対の腕部がジャッキ装置の外面を挟むことによりジャッキ装置に取り付けられ、支圧板に当接する工程では、ジャッキ装置から外され、支圧板とジャッキ装置との間に設置されることができる。
【0013】
(5)上記(1)又は(2)において、支圧板に当接する工程では、ラムチェアを油圧によって支圧板側に移動させて支圧板に当接させることができる。
【0014】
(6)上記(1)から(5)において、2次定着工程は、定着具の外周に設けられたリングナットを回転させて支圧板に当接させ、支圧板から離間した状態で定着具を支圧板に固定する工程、又は支圧板から離間した定着具との隙間にプレートを差し込んで定着具を支圧板に固定する工程を含むように構成することができる。
【0015】
(7)本願発明である緊張材の緊張力調整方法では、定着具に固定された緊張材にジャッキ装置を取り付け、ジャッキ装置に設けられたラムチェアを移動させて支圧板に当接させ、ラムチェアを介して支圧板で反力を取りながら、ジャッキ装置により緊張材を緊張させて支圧板から定着具を離間させ、支圧板から離間した状態で定着具を固定することで、緊張材の緊張力を調整する。
【0016】
(8)本願発明の緊張材に緊張力を付与するジャッキ装置は、支圧板から突出した緊張材が固定されるジャッキ本体部と、ジャッキ本体部に固定された緊張材に緊張力を付与するピストンと、支圧板に当接しない第1の状態と、第1の状態からスライド移動して支圧板に当接する第2の状態とに移動可能なスライド式ラムチェアと、を備える。そして、スライド式ラムチェアは、第1の状態においてスライド式ラムチェア内側を緊張材が挿通可能な中空状に形成されているとともに、ジャッキ本体部又はピストンに対して相対的に移動可能である。
【0017】
(9)上記(8)において、緊張材を定着する定着具としては、支圧板に当接するスリーブとスリーブに挿入されるウェッジとを含むくさび定着具とすることができる。このとき、ジャッキ装置には、スリーブに当接する第1当接部とウェッジに当接する第2当接部とを含む押さえ部材を設けることができ、押さえ部材にスライド式ラムチェアを嵌合させることができる。
【0018】
(10)本願発明は、緊張材に緊張力を付与するジャッキ装置であって、支圧板および支圧板上にある定着具から突出した緊張材が固定されるジャッキ本体部と、定着具を加圧し緊張材に緊張力を付与するピストンと、互いに対向し基部を中心に拡開可能な一対の腕部を備え、緊張材の1次定着時にはジャッキ本体部又はピストンに取り付けられ、1次定着後に緊張材に緊張力を付与して定着具を支圧板から離間させるときには、支圧板と当接する位置に設置されるラムチェアを備える。
【0019】
(11)本願発明は、緊張材に緊張力を付与するジャッキ装置であって、支圧板および支圧板上にある定着具から突出した緊張材が固定されるジャッキ本体部と、ジャッキ本体部との相対移動により緊張材に緊張力を付与するピストンと、支圧板に当接しない第1の状態と、支圧板に当接する第2の状態とに移動可能なラムチェアと、ラムチェアを駆動する油圧機構を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明である緊張材の定着方法によれば、支圧板に当接しない第1の状態で定着具を介して支圧板に緊張材を定着する1次定着後に、第1の状態(例えば、収納状態)のラムチェアを移動させて支圧板に当接し、ラムチェアを支圧板に当接させた状態でジャッキ装置を再度加圧して支圧板から定着具を離間させ、支圧板から離間した状態で定着具を支圧板に固定する2次定着を行う。
【0021】
したがって、1次定着及びその後のジャッキ装置の減圧後に、第1の状態にあるラムチェアを引き出して移動させるだけで、2次定着の準備を完了することができる。定着具による定着後の減圧で生じる緊張力の減少に対する2次定着(補完定着)を、作業手間を低減させつつ、迅速に行うことができる。
【0022】
本発明である緊張材の緊張力調整方法によれば、ジャッキ装置と、ジャッキ装置に設けられたラムチェアを用いることにより、定着具に固定された緊張材の緊張力を簡易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態の定着方法で使用されるスライド式ラムチェアを備えたジャッキ装置及び定着具の概略説明図である。
図2】本実施形態のジャッキ装置の構成説明図(a)、及びスライド式ラムチェアの構成説明図(b)である。
図3】本実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
図4図3に続く、本実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
図5図4に続く、本実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
図6】本実施形態のジャッキ装置の変形例を示す図である。
図7】本実施形態の2次定着工程の変形例を示す図である。
図8】本実施形態のスライド式ラムチェアの第1変形例を示す図である。
図9】本実施形態のスライド式ラムチェアの第2変形例を示す図である。
図10】本実施形態の複数の緊張材を定着する定着具に適用された態様を説明するための図である。
図11】本第2実施形態のジャッキ装置およびアタッチメント式ラムチェアの構成説明図である。
図12】本第2実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
図13図12に続く、本第2実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
図14】本第3実施形態のジャッキ装置および油圧式ラムチェアの構成説明図、および本第3実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
図15図14に続く、本第3実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
図16図15(a)に続く、本第3実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
図17】本第3実施形態の他のジャッキ装置および油圧式ラムチェアの構成説明図、および緊張材の定着方法を説明するための図である。
図18図17に続く、本第3実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
図19図18に続く、本第3実施形態の緊張材の定着方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態につき、図面を参照して説明する。
【0025】
(第1実施形態)
図1から図9は、第1実施形態を示す図である。図1は、本実施形態の緊張材の定着方法で使用されるスライド式ラムチェア140を備えたジャッキ装置100及び定着具10の概略説明図である。以下の説明では、プレストレストコンクリート構造物(PC構造物、例えば、橋桁など)を例に本定着方法を説明するが、上述したように、グランドアンカー工法における定着方法にも適用可能である。また、外ケーブル方式の緊張材の定着方法としても適用可能である。
【0026】
本実施形態の緊張材(例えば、PC鋼材)Cは、定着具10を介して支圧板1に定着される。定着具10は、くさび定着具であり、緊張材Cが挿通する貫通孔を備えたスリーブ11と、スリーブ11に挿入されるウェッジ12とから構成されている。ウェッジ12は、緊張材Cの周囲に設けられ、緊張材Cと共にスリーブ11に挿入されることで、くさび作用により緊張材Cを周囲から押圧し、緊張力が付与された状態で緊張材Cを支圧板1に固定する。
【0027】
スリーブ11の外周面には、リングナット13が設けられている。リングナット13は、スリーブ11の外周面に形成されたネジ溝11aとネジ嵌合しており、支圧板1に対して軸方向(緊張材Cの長手方向)に移動することができる。リングナット13は、スリーブ11の端面11bよりも支圧板1側に突出した位置に移動することができ、後述するように、リングナット13を回転してスリーブ11の端面11bと支圧板1との間の隙間分移動させ、支圧板1に当接するまで締付けることで、スリーブ11(定着具10)が支圧板1から離間した状態(浮いた状態)で支圧板1に緊張材Cを定着固定することができる。
【0028】
ジャッキ装置100は、緊張材Cに緊張力を付与するセンターホールジャッキである。ジャッキ本体部110は、支圧板1から突出した緊張材Cを固定するためのジャッキウェッジ110aを備える。ピストン120は、ジャッキ本体部110に対して相対移動し、ジャッキ本体部110に固定された緊張材Cに緊張力を付与する加圧ピストンである。ピストン120の先端部には、定着具10のスリーブ11及びウェッジ12と当接する押さえ部材130が設けられている。
【0029】
押さえ部材130は、ピストン120と一体的に設けることができ、例えば、ピストン120の先端部を成形して押さえ部材130を備えるように構成することができる。また、押さえ部材130は、ピストン120に対して着脱可能な別体の部材として設けることもできる。押さえ部材130の端面131は、緊張材Cの貫通孔131aを中心にその周囲に、ウェッジ12と当接する当接面131b(第2当接部に相当する)と、当接面131bの外側に位置し、スリーブ11と当接する当接面131c(第1当接部に相当する)とが設けられている。当接面131bは、例えば、ウェッジ12の大きさ(径方向又は/及び軸方向の大きさ)に合わせて調整可能な構成を採用することができ、当接治具132を用いることができる。当接治具132は、貫通孔131aよりも径方向に幅広に形成された凹部と嵌合し、軸方向においてウェッジ12の端面と対向する位置に設けられている。なお、当接治具132を使用しない態様であってもよい。
【0030】
そして、本実施形態のジャッキ装置100は、スライド式ラムチェア140を備えている。スライド式ラムチェア140は、支圧板1に当接しない第1の状態と、第1の状態からスライド移動して支圧板1に当接する第2の状態とに移動可能に設けられる。スライド式ラムチェア140は、ピストン120の先端部に設けられる定着具10の押さえ部材130の外周と、ネジ嵌合によって連結されている。第1の状態とは、収納状態であり、図1の例は、スライド式ラムチェア140が第2の状態を示している。
【0031】
なお、上述したように、ピストン120の先端部を押さえ部材130として適用することができるので、スライド式ラムチェア140は、ピストン120の先端部外周に、ネジ嵌合によって連結する態様であってもよい。
【0032】
図2は、本実施形態のジャッキ装置100の構成説明図及びスライド式ラムチェアの構成説明図である。図2(b)に示すように、スライド式ラムチェア140は、第1の状態においてスライド式ラムチェア140内側を緊張材Cが挿通可能な筒状の中空部材で構成されており、作業窓141を備えている。スライド式ラムチェア140の内面にはネジ溝が形成されており、図2(a)に示すように、回転させることで、実線で示した第1の状態(収納状態)と2点鎖線で示した第2の状態とに遷移することができる。
【0033】
図3から図5を参照して、本実施形態の緊張材の定着方法を説明する。図3(a)は、定着具10のセッティング工程であり、スリーブ11に、支圧板1の貫通孔から突出する緊張材Cを挿通し、支圧板1に密着させると共に、ウェッジ12をスリーブ11に挿入して緊張材Cをウェッジ12で挟み込む。
【0034】
図3(b)は、ジャッキ装置100の据え付け工程であり、押さえ部材130、ピストン120及びジャッキ本体部110に緊張材Cを挿通し、ジャッキウェッジ110aで緊張材Cを把持し、固定する。このとき、押さえ部材130の当接面131bがウェッジ12と当接し、当接面131cがスリーブ11と当接する位置で、ジャッキ本体部110に緊張材Cを固定する。なお、図3(b)に示すように、押さえ部材130の外周には、スライド式ラムチェア140が設けられており、当該図3(b)の工程は、支圧板1に当接しない収納状態(第1の状態)のスライド式ラムチェア140の内側を挿通するように、緊張材Cをジャッキ装置100に固定する工程でもある。
【0035】
図3(c)は、緊張材Cを引っ張りながら定着具10を介して支圧板1に当該緊張材Cを固定する緊張工程である。ジャッキ装置100に接続されている電動ポンプ(不図示)を操作してピストン120を駆動し、所定の緊張力まで加圧する。ジャッキ装置100は、当接面131cが当接するスリーブ11に反力を取り、ピストン120の加圧で緊張材Cを引っ張りつつ、当接面131b(圧入機構)でウェッジ12を圧入する。図3(c)の緊張工程は、1次定着工程の一部である。
【0036】
ここまでの各工程において、スライド式ラムチェア140は、収納状態にあり、スライド式ラムチェア140の端面が、押さえ部材130の端面131と略同一面に位置している。このため、押さえ部材130の端面131が隠れることなく、ラムチェアを設置していない状態と同様に露出するため、ジャッキ装置100の据え付け工程を円滑に行うことができる。
【0037】
図4(a)は、緊張力を減圧する工程であり、この減圧工程は、1次定着工程の一部である。定着具10によって定着された緊張材Cに作用していた所定の緊張力を徐々に減圧すると、ジャッキ装置100のストロークが戻り、定着具10と押さえ部材130の端面131との間に隙間Dが形成される。この隙間Dは、後述する2次定着(セットロスを補正する補完定着)工程における定着具10の移動量に応じて確保される空間である。当該図4(a)の減圧工程では、定着具10に緊張力が移行し、ウェッジ12の移動に伴う緊張力のセットロスが発生する。
【0038】
図4(b)は、収納状態のスライド式ラムチェア140をスライド移動させて支圧板1に当接する工程である。押さえ部材130にネジ嵌合しているスライド式ラムチェア140を回転させて支圧板1に向かって引き出し、密着させる。
【0039】
図4(c)は、1次定着工程におけるセットロスを補正するための2次定着工程である。ジャッキ装置100を再度加圧して緊張材Cを引っ張り、スライド式ラムチェア140が当接する支圧板1に反力を取り、支圧板1から定着具10を離間させてセットロス分の緊張力を付与する。そして、支圧板1から離間した状態で定着具10を支圧板1に固定する。このとき、定着具10を支圧板1から離間させる距離d、すなわち、定着具10及び支圧板1の間の隙間の距離dは、図4(a)の減圧工程において形成される、定着具10と押さえ部材130の端面131との間の隙間D以下となる幅で、定着具10の移動が許容される。このため、セットロス分の緊張に対応する距離dに基づいて、図4(a)において確保される空間(隙間Dの距離≧距離d)が予め設定される。
【0040】
図5は、2次定着工程において、支圧板1から離間した状態で定着具10を支圧板1に固定する工程を説明する図である。スリーブ11(定着具10)の外周に設けられたリングナット13を回転させて支圧板1に当接して密着させる。つまり、支圧板1から浮いた定着具10との間の隙間を埋めるように、リングナット13を支圧板1に向かって移動させて、定着具10を支圧板1に定着する。
【0041】
このように本実施形態の定着方法は、1次定着工程後に、収納状態にあるスライド式ラムチェア140を引き出してスライド移動させるだけで、2次定着の準備を完了することができる。定着具10による1次定着工程時の減圧で生じる緊張力の減少に対する2次定着(補完定着)を、作業手間を低減させつつ、迅速に行うことができる。
【0042】
図6は、本実施形態のジャッキ装置100の変形例を示す図である。図6のジャッキ装置100Aは、ジャッキウェッジ110aが、ジャッキ本体部110の後端に設けられている。このようなジャッキ装置100Aにおいても、本実施形態の定着方法及びスライド式ラムチェア140を適用することができる。また、ピストン120は、ジャッキ本体部110の後端に設けられていてもよい。そして、このピストン120の後端にジャッキウェッジ110aと、ジャッキウェッジ110aが圧入されるジャッキ用スリーブ111とが設けられていてもよい(図14参照)。ここで、押さえ部材130は、ピストン120が配置される側とは反対側において、ジャッキ本体部110に固定することができ、この押さえ部材130に対してスライド式ラムチェア140を嵌合させることができる。この場合でも、第3実施形態に参照されるように、1次定着工程および2次定着工程を行うことができる。
【0043】
図7は、本実施形態の2次定着工程の変形例を示す図である。図7の変形例では、スリーブ11のリングナット13の代わりに、支圧板1から距離dだけ離間した定着具10との隙間に作業窓141を介してプレートPを差し込んで定着具10を支圧板1に固定する態様を示している。
【0044】
図8は、本実施形態のスライド式ラムチェア140の第1変形例を示す図である。図8のスライド式ラムチェア140Aは、押さえ部材130Aの径方向に延設されたフランジ部142を備えている。図8の網目状の領域がフランジ部142に相当する。押さえ部材130Aの径がリングナット13を含む定着具10の径よりも小さくても、フランジ部142により、支圧板1に当接するスライド式ラムチェア140Aの周壁部が定着具10の外側に位置するので、2次定着工程において、支圧板1に反力を取りつつ、定着具10がスライド式ラムチェア140A内を移動する空間を確保することができる。
【0045】
図8の変形例を適用すれば、スライド式ラムチェア140は、全体が筒状の形状でなくてもよい。つまり、フランジ部142を含む押さえ部材130とのネジ嵌合以外の部分は、定着具10の周囲に位置し、支圧板1に当接して反力を取ることができる形状であればよく、例えば、コの字状の形状であってもよい。
【0046】
図9は、本実施形態のスライド式ラムチェア140の第2変形例を示す図である。本実施形態では、スライド式ラムチェア140の内周面が押さえ部材130の外周面と嵌合しているが、本変形例では、スライド式ラムチェア140の外周面が押さえ部材130に形成されたガイド部130aの内周面と嵌合(例えば、ネジ嵌合)している。
【0047】
ガイド部130aは円筒状に形成されており、ガイド部130aの内側には、スライド式ラムチェア140を収容するための収容スペースが形成されている。ガイド部130aに対してスライド式ラムチェア140を回転させることにより、支圧板1に当接しない第1の状態と、支圧板1に当接する第2の状態との間で、スライド式ラムチェア140を移動させることができる。
【0048】
図10は、複数の緊張材Cを定着する定着具10Aに、本定着方法が適用された態様を示す図である。定着具10Aは、複数本の緊張材Cが挿通される複数の貫通孔を備えたスリーブ11Aと、緊張材Cが挿通された各貫通孔に対して挿入されるウェッジ12Aとで構成されている。ジャッキ装置100は、中心に複数の貫通孔を備えており、各緊張材Cがジャッキウェッジで把持・固定される。スライド式ラムチェア140は、複数本の緊張材Cが定着される定着具10Aを内部に収容可能な大きさに形成されており、1次定着工程(緊張材Cを引っ張りながら定着具10Aで定着固定してジャッキ装置100の緊張力を減圧する工程)の後に、スライド式ラムチェア140を引き出して支圧板1に当接し、2次定着工程を容易に行うことができる。
【0049】
本実施形態では、スライド式ラムチェア140及び押さえ部材130をネジ嵌合によって連結し、このネジ嵌合の作用によってスライド式ラムチェア140をスライド移動させているが、これに限るものではない。すなわち、押さえ部材130に対してスライド式ラムチェア140をスライド移動させることができればよい。
【0050】
具体的には、カム及びカムフォロアによって構成されるカム機構を用いて、スライド式ラムチェア140をスライド移動させることができる。カム機構を適用する場合には、スライド式ラムチェア140及び押さえ部材130の一方にカムを設け、スライド式ラムチェア140及び押さえ部材130の他方にカムフォロアを設ければよい。例えば、カムをピンで構成し、カムフォロアをピンと係合する溝で構成することができる。
【0051】
(第2実施形態)
図11(a)はジャッキ装置100Bの構成説明図である。ジャッキ装置100Bにおいて、ピストン120は、ジャッキ本体部110から伸縮可能に突出する円柱状のピストン本体121と、ピストン本体121の先端にありピストン本体121よりも径が大きく軸長が短い円柱状の押さえ部材130と、を備える。押さえ部材130の先端面には、定着具10のスリーブ11と当接する前述の当接面131cと、当接面131cより奥にありウェッジ12と当接する前述の当接面131bと、がある。
【0052】
押さえ部材130の先端面に円環状の案内部133がある。案内部133の内径は、定着具10を通すことが可能な大きさとなっており、案内部133の内側に当接面131c、132bが位置する。
【0053】
ピストン本体121の外周面には、アタッチメント式ラムチェア140Bが着脱可能に取り付けられている。図11(b)、(C)はアタッチメント式ラムチェア140Bの構成説明図であり、図11(b)は側面図、図11(c)は正面図である。アタッチメント式ラムチェア140Bは、円環状であり、一対の腕部143と、一対の保持部144とを備える。一対の腕部143は、外方に湾曲し互いに対向し基部を中心に拡開可能である。腕部143には作業窓141がある。
【0054】
保持部144は、腕部143の基部を回動可能、かつ腕部143を閉じる方向に付勢する。保持部144には、腕部143の基部を貫通する可動ピン145が設けられている。可動ピン145は、保持部144内を図11(c)中左右方向に移動可能であり、保持部144から左右方向外側に抜けないようになっている。また、可動ピン145は、バネ等の弾性部材によって左右方向の外側に付勢され、腕部143を閉じる方向に付勢する。また、アタッチメント式ラムチェア140Bの上部には、環状のピン146が取り付けられている。ピン146は、アタッチメント式ラムチェア140Bがピストン本体121に取り付けられているとき、ジャッキ装置100Bを吊り下げるために用いられる。作業員は、アタッチメント式ラムチェア140Bを開きピストン本体121に被せることで、アタッチメント式ラムチェア140Bを開いた状態でピストン本体121に取り付けることができる。
【0055】
緊張材Cの定着方法では、図12(a)に示すように、ジャッキ装置100Bは、まず、支圧板1,定着具10、ピストン120、ジャッキ本体部110に通された緊張材Cをジャッキウェッジ110aで把持し、緊張材Cをジャッキ本体部110に固定する(据え付け工程)。この際、押さえ部材130は定着具10に当接した状態とされる。その後、ジャッキ装置100Bは、図12(b)に示すように、ジャッキウェッジ110aによって緊張材Cをジャッキ本体部110に固定した状態で、ピストン120により定着具10を加圧する。
【0056】
これにより、定着具10で反力をとり、ジャッキ装置100Bは、緊張材Cを引っ張りながら、緊張材Cを定着具10を介して支圧板1に定着させる、すなわち1次定着工程を行う。図12(a)、(b)に示すように、1次定着工程までの工程は、アタッチメント式ラムチェア140Bがピストン120に取り付けられた状態で行われる。
【0057】
続いて、ジャッキ装置100Bは、緊張材Cに対する緊張力を減圧する。これにより、定着具10に緊張力が移行し、定着具10のウェッジ12の移動に伴う緊張力のセットロスが発生するとともに、図12(c)に参照されるように、ピストン120のストロークが戻り、押さえ部材130と定着具10との間に隙間D(セットロス分の作業空間)が生じる。
【0058】
続いて、ピストン120に取り付けられたアタッチメント式ラムチェア140B(図12(b))は、作業員が一対の腕部143を開くことでピストン120の外周面から取り外される。アタッチメント式ラムチェア140Bは、作業員により、図12(c)に示すように、支圧板1と、定着具10から退避したピストン120の先端部(押さえ部材130)との間に設置される。この際、アタッチメント式ラムチェア140Bは、ピストン120に取り付けられた図12(b)の状態よりも腕部143が閉じた状態になる。また、アタッチメント式ラムチェア140Bは、案内部133に嵌められ、位置決めされる。この際、アタッチメント式ラムチェア140B内に定着具10が、軸方向において少なくとも隙間D(セットロス分の作業空間)の余裕をもって収容されるように、アタッチメント式ラムチェア140Bの軸長は設定されている。
【0059】
図12(c)において、アタッチメント式ラムチェア140Bと押さえ部材130との間に隙間が生じる場合、ジャッキ装置100Bは、ピストン120を伸ばしてアタッチメント式ラムチェア140Bに当接させる。この状態で、図13(a)に示すように、ジャッキ装置100Bは、再びピストン120によってアタッチメント式ラムチェア140Bを加圧する。これによりジャッキ装置100Bは、アタッチメント式ラムチェア140Bを介して支圧板1に圧力を掛けることができ、支圧板1で反力をとり緊張材Cを引っ張ることができる。これにより、セットロス分の緊張力が緊張材Cに加えられるとともに、定着具10は、支圧板1から所定の距離dだけ離れる。
【0060】
続いて、図13(b)に示すように、作業員が作業窓141からリングナット13を回動させて支圧板1に当接させることで、支圧板1から離間した状態で定着具10を支圧板1に固定する。続いてピストン120を後退させてピストン120による圧力を減圧することで、緊張力がジャッキ装置100Bから定着具10に移行する。これにより、緊張材Cにセットロス分の緊張力を加えて緊張材Cを支圧板1に定着させる2次定着工程が完了する。その後、アタッチメント式ラムチェア140Bが定着具10の周囲から外されるとともに、ジャッキ装置100Cが緊張材Cから取り外され、緊張材Cにおいて定着具10から飛び出た余長が切断される。
【0061】
本実施形態でも、1次定着工程後に、アタッチメント式ラムチェア140Bをジャッキ本体部110と支圧板1との間に設置する際に、ジャッキ本体部110を緊張材Cから取り外す必要がない。そのため、続く2次定着を迅速に行うことができる。
【0062】
なお、ピストン120は、ジャッキ本体部110の後端に設けられ、このピストン120の後端にジャッキウェッジ110a、およびジャッキウェッジ110aが圧入されるジャッキ用スリーブ111が設けられていてもよい(図14参照)。そして、アタッチメント式ラムチェア140Bは、1次定着工程ではピストン120の外周面に取り付けられて、ジャッキ装置100による減圧工程後には、ジャッキ本体部110と支圧板1との間に設置されてもよい。本実施形態では、アタッチメント式ラムチェア140Bをピストン120の外周面に取り付けるようにしているが、これに限るものではない。具体的には、ジャッキ本体部110にアタッチメント式ラムチェア140Bを取り付ける部分を設けてもよい。
【0063】
(第3実施形態)
図14(a)はジャッキ装置100Cの構成説明図である。ジャッキ装置100Cは、ジャッキ本体部110と、ピストン120(第2ピストン)と、油圧式ラムチェア140Cと、油圧システム(不図示)とを備える。ジャッキ本体部110は、ピストン120を後方に向かって油圧により伸縮させる。なお、ジャッキ装置100Cにおける支圧板1側を前側、支圧板1から離れる側を後側とする。ピストン120の後端には、ジャッキ用スリーブ111がある。ジャッキ用スリーブ111には、内面がテーパ状の孔がその軸心に沿って形成されている。この孔に、緊張材Cに固定された楔状のジャッキウェッジ110aが圧入される。これにより、支圧板1に当接しない状態の油圧式ラムチェア140Cの内側を挿通するように、緊張材Cがジャッキ装置100C(ピストン120)に固定される。
【0064】
ジャッキ本体部110の前側には、押さえ部材130がある。押さえ部材130には、定着具10のスリーブ11と当接する前述の当接面131cと、当接面131cより奥(後側)にあり定着具10のウェッジ12と当接する当接面131bと、がある。
【0065】
緊張材Cの定着方法では、ジャッキ本体部110は、ピストン120の後端に緊張材Cが固定され、かつ当該ジャッキ本体部110(押さえ部材130)が定着具10に当接した状態で、ピストン120を後方に移動させる。これにより、ジャッキ本体部110は、緊張材Cに緊張力を付与するとともに、定着具10を介して支圧板1に緊張材Cを定着する、すなわち1次定着工程を行う。
【0066】
押さえ部材130の径方向外側には、環状のシリンダ160がある。シリンダ160内に、環状の油圧式ラムチェア140Cがある。油圧式ラムチェア140Cは、シリンダ160から前方に進退するように設置されている。油圧式ラムチェア140Cには、油圧式ラムチェア140Cを貫通する不図示の作業窓がある。油圧式ラムチェア140Cの後部には、作動油から受圧しシリンダ160の内壁に摺動するピストン部140C1がある。シリンダ160内において、ピストン部140C1の前後に、油圧システムの一部である油経路151,152が開口しており、油経路151,152を流れる作動油の流量等を制御することで、油圧式ラムチェア140Cのジャッキ本体部110からの伸縮量を制御できるようになっている。油圧システムの一部である油経路153は、ピストン120を駆動するために用いられる。1次定着工程時には、油圧式ラムチェア140Cは、シリンダ160内に退避した状態とされる。
【0067】
ジャッキ装置100Cは、図14(b)に示すように、ピストン120のストロークを戻して緊張材Cを減圧し、緊張力を定着具10に移行させる。定着具10のウェッジ12の移動に伴い、緊張力のセットロスが発生する。ジャッキウェッジ110aは、ジャッキ用スリーブ111から外れる。
【0068】
図15(a)に示すように、作業員により、ジャッキ装置100Cは、定着具10から軸方向に少なくとも隙間D(セットロス分の作業空間)離した位置に位置づけられる。作業員によって、ジャッキウェッジ110aが再度ジャッキ用スリーブ111に圧入され、緊張材Cに固定される。そして、ジャッキ装置100Cは、油圧により油圧式ラムチェア140Cを支圧板1に当接させる。油圧式ラムチェア140Cの不図示の作業窓が支圧板1とジャッキ本体部110の間に位置づけられる。
【0069】
ジャッキ装置100Cは、図15(b)に示すように、ピストン120を伸ばすことなくさらに油圧式ラムチェア140Cを伸ばすことにより、支圧板1で反力をとりながらセットロス分の緊張力を緊張材Cに加えることができる。あるいは、ジャッキ装置100Cは、図15(a)の状態から、図16(a)に示すように、ジャッキ本体部110に対する油圧式ラムチェア140Cの位置を固定制御したままピストン120を伸ばすことで、すなわちジャッキ本体部110を前方に押し出すことで、油圧式ラムチェア140Cを加圧する。これにより、ジャッキ装置100Cは、支圧板1で反力をとりながらセットロス分の緊張力を緊張材Cに加えることができる。定着具10は、支圧板1から所定の距離dだけ離れる。
【0070】
図16(b)に示すように、作業員が油圧式ラムチェア140Cの不図示の窓からリングナット13を回動させ、支圧板1に当接させることで、定着具10は、支圧板1から離間した状態で支圧板1に固定される。その後、油圧式ラムチェア140Cまたはピストン120の減圧によって、緊張力が定着具10に移行する。これにより、緊張材Cにセットロス分の緊張力を加えて緊張材Cを支圧板1に固定する2次定着工程が完了する。
【0071】
本実施形態でも、油圧式ラムチェア140Cをジャッキ本体部110と支圧板1との間に設置する際に、ジャッキ本体部110を緊張材Cから取り外す必要がない。そのため、1次定着工程後に、2次定着を迅速に行うことができる。
【0072】
なお、図17(a)に示すように、ジャッキ装置100Dにおいて、ピストン120は、第1実施形態のように、ジャッキ本体部110に対して前方に伸縮し、押さえ部材130を前後に移動させるように設けられていてもよい。ピストン120は、シリンダ160の内側にあり、シリンダ160と相対的に移動可能である。この場合、緊張材Cの定着方法では、第1実施形態のように、ジャッキ本体部110は、緊張材Cが当該ジャッキ本体部110に固定された状態で、図17(a)(b)に示すように、定着具10をピストン120を駆動して加圧する。これにより、ジャッキ装置100Dは、緊張材Cに緊張力を付与するとともに、定着具10を介して支圧板1に緊張材Cを1次定着する。なお、緊張材Cは、ジャッキ本体部110内のジャッキウェッジ110aに把持されることにより、ジャッキ本体部110に固定される。
【0073】
続いて、ジャッキ本体部110は、図18(a)に示すように、減圧してピストン120を後退させることにより、緊張力を定着具10に移行させるとともに、定着具10から離れた位置に位置づけられる。続いて、図18(b)に示すように、ジャッキ本体部110は、油圧式ラムチェア140Dを油圧により支圧板1に向かって移動させ支圧板1に当接させる。
【0074】
続いて、図19(a)に示すように、ジャッキ本体部110がさらに油圧式ラムチェア140Dを伸ばすことで、緊張材Cに緊張力が付与されて定着具10が支圧板1から離間する。続いて、図19(b)に示すように、リングナット13等により定着具10が支圧板1から離間した状態で支圧板1に固定される。その後、油圧式ラムチェア140Dが減圧され、緊張力の定着具10への移行等が行われて2次定着工程が完了し、セットロス分の緊張力を加えた状態で緊張材Cが支圧板1に固定される。
【0075】
(第4実施形態)
上述した第1実施形態から第3実施形態では、2次定着工程において、1次定着工程で発生するセットロスを補正しているが、これに限るものではない。すなわち、本実施形態である緊張材Cの緊張力調整方法では、セットロスの分だけ緊張力を付与するのではなく、1次定着工程の後に、本実施形態で説明した2次定着工程と同様の工程を行うことにより、緊張力を所望の値に調整することができる。上述したように、セットロスを補正する場合には、セットロス分の緊張に対応する距離dだけ定着具10を支圧板1から離間させているが、この距離dを適宜決めることにより、1次定着完了時の緊張力よりも、緊張力をセットロスよりも少ない量、またはセットロスと同じ量、またはセットロスよりも大きい量増大させることができ、緊張力を所望の値に調整することができる。
【0076】
さらに、本実施形態の緊張材Cの緊張力調整方法は、定着具10により定着済みの緊張材Cに対し、ジャッキ装置100A~100Dとラムチェア140A~140Dを用いて、第1~第3実施形態の2次定着工程と同様の工程のみを行い、緊張材Cの緊張力を増大させるように調整することも含む。
【0077】
本実施形態の緊張力調整方法において、スライド式ラムチェア140を利用する場合、図4(a)を参照すると、ジャッキ装置100を、緊張材Cの延びる方向において定着具10から離れた位置に配置する。続いて、ジャッキウェッジ110aに緊張材Cを把持させ、ジャッキ装置100に緊張材Cを固定する。ジャッキ装置100に緊張材Cを固定した後、図4(b)に示すように、スライド式ラムチェア140を回して支圧板1側に移動させることにより、スライド式ラムチェア140を支圧板1に当接させる。
【0078】
次に、図4(c)に示すように、支圧板1で反力を取りながら、ジャッキ装置100により緊張材Cを緊張させて支圧板1から定着具10を適宜の距離d、離間させる。次に、図5に示すように、定着具10が支圧板1から離間した状態でリングナット13(図5)やプレートP(図7)等を利用して定着具10を支圧板1に固定することで、緊張材Cの緊張力を距離dに応じて増大させるように調整できる。
【符号の説明】
【0079】
1 支圧板
10,10A 定着具
11,11A スリーブ
11a ネジ溝
11b 端面
12,12A ウェッジ
13 リングナット
100,100A~100D ジャッキ装置
110 ジャッキ本体部
110a ジャッキウェッジ
120 ピストン
130,130A 押さえ部材
131 端面
131a 貫通孔
131b 当接面(第2当接部)
131c 当接面(第1当接部)
140,140A スライド式ラムチェア
140B アタッチメント式ラムチェア
140C,140D 油圧式ラムチェア
141 作業窓
142 フランジ部
P プレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19