(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】殺ウイルス性ナノ粒子及びインフルエンザウイルスに対するその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/54 20170101AFI20240626BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20240626BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20240626BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240626BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
A61K47/54
A61K31/702
A61K47/40
A61P31/12
A61P31/16
(21)【出願番号】P 2021510835
(86)(22)【出願日】2019-09-03
(86)【国際出願番号】 EP2019073459
(87)【国際公開番号】W WO2020048976
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-26
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512008613
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】タッパレル ヴー カロリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】カーニョ ヴァレリア
(72)【発明者】
【氏名】コカビイク オズグン
(72)【発明者】
【氏名】ステラッチ フランチェスコ
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0135477(US,A1)
【文献】国際公開第2009/001805(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/015465(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/199179(WO,A1)
【文献】Antiviral Research,2005年,Vol.68,p.116-123
【文献】Chem Commun,2017年,Vol.53,p.10528-10531
【文献】Biomaterials,2016年,Vol.78,p.74-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアに共有結合された複数のリガンドとを含む殺ウイルス性ナノ粒子であって、前記リガンドの少なくとも一部分は三糖部分を含み、
前記コアはシクロデキストリンであり、
前記リガンド
が同じであるか又は異なり、
三糖部分を含む前記リガンドが疎水性であり、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンド
が少なくとも2個の炭素原子を有し、
各三糖部分は、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)
、又は6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)
を含む、殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項2】
シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、及びγ-シクロデキストリンを含む群から選択される請求項1に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項3】
前記リガンドが、置換されていてもよいC
4~C
30アルキルに基づくリガンドである請求項1又は請求項2に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項4】
前記リガンドが、置換されていてもよいC
6~C
15アルキルに基づくリガン
ドである請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項5】
前記リガンドの一部又はすべてが3’SLNを含み、前記リガンドの一部又はすべてが6’SLNを含み、前記リガンドのすべてではなく一部が三糖部分を含まない請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項6】
式(I)によって表される殺ウイルス性ナノ粒子であって、
【化1】
前記式(I)中、
mは2~8であり、
nは2~28又は4~13であ
り、
各三糖部分は、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)、又は6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)を含む、殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項7】
シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンを含む群から選択される請求項6に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項8】
mが3又は4である請求項6又は請求項7に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項9】
式(II)によって表される殺ウイルス性ナノ粒子、又はその薬学的に許容できる塩である殺ウイルス性ナノ粒子であって、
【化2】
前記式(II)中、
各Rは、独立に、
少なくとも2個の炭素原子を有する、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドであり、前記リガンドのうちの少なくとも2つは
、疎水性であり、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)及び6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)を含む群から選択される三糖部分を有するか、又は前記リガンドのうちの少なくとも1つは3’SLNを有しかつ別のリガンドは6’SLNを有し、
各R’は、独立に、H、-(CH
2)
y-COOH、-(CH
2)
y-SO
3
-、
又はポリマ
ーであり、
xは6、7又は8であり、
yは4~20の整数である
殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項10】
R’がHである請求項9に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項11】
前記アルキルに基づくリガンドが、置換されていてもよいC
4~C
30アルキルに基づくリガンドである請求項9又は請求項10に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項12】
前記
少なくとも2つの疎水性であるアルキルに基づくリガンドが、6’SLNを含む置換されていてもよいC
6~C
15アルキルに基づくリガンドである請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項13】
有効量の1種以上の請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子と、少なくとも1種の薬学的に許容できる賦形剤、担体及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項14】
インフルエンザウイルス感染症及び/若しくはインフルエンザウイルスと関連する疾患を治療並びに/又は予防することにおいて使用するための、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
【請求項15】
有効量の1種以上の請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子と、任意に少なくとも1種の好適なエアロゾル担体とを含む殺ウイルス性組成物。
【請求項16】
請求項13に記載の医薬組成物若しくは請求項15に記載の殺ウイルス性組成物、若しくは請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子を使用する工程を備える
非生物の表面の消毒及び/又は殺菌の方法。
【請求項17】
請求項13に記載の医薬組成物
、又は請求項15に記載の殺ウイルス性組成物、又は1種以上の請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子
を含む装置であって、前記装置が、前記医薬組成物、前記殺ウイルス性組成物若しくは前記殺ウイルス性ナノ粒子を付与又は分注するための手
段を含む
、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三糖部分を含む殺ウイルス性ナノ粒子及びインフルエンザウイルスに対するその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは、最も感染力の強いウイルスの一つでである。毎年、様々なインフルエンザ株が動物の集団及び人間の集団ともにその大部分に感染し、乳幼児、高齢者、免疫力の低い人たちを危険にさらしており、これらの人々はすべてインフルエンザ関連の合併症による入院や死亡のリスクを抱えている。その結果、季節性インフルエンザは社会経済に大きな影響を与える。実際、呼吸器系疾患は、先進国や主に発展途上国の医療費総額のかなりの部分を占めている。インフルエンザは非常に急速に変異するため、ワクチンの開発はいまだに大きな課題となっている。毎年の流行ではなく時折発生するパンデミックに焦点を当てた場合、ワクチン開発はさらに大きな課題となる。このような場合、平均6ヶ月という新しいワクチンの開発期間は、深刻なリスクとなる。さらには、ワクチンがあったとしても、適切なワクチン接種率を達成することは、当然の結論とは言えない。それゆえ、スペイン風邪等の新たなパンデミックのリスクは依然として存在し、世界の健康に対する最大の脅威の1つとして認識されている。
【0003】
当然のことながら、ワクチンに続く第2の防御策は、抗ウイルス薬である。現在、多くの抗インフルエンザ薬が承認されている。例えば、ザナミビルやオセルタミビル等のノイラミニダーゼ阻害剤、アマンタジン等のイオンチャネル阻害剤、ウミフェノビル等の融合阻害剤(ロシアと中国のみ)、そして最近米国と日本で承認されたバロキサビル・マルボキシル等のポリメラーゼ阻害剤である。しかし、現在の薬剤の有効性は理想的なものとは程遠いことが認識されている。これらの薬剤には、重大な副作用から短期間の使用の後の薬剤耐性ウイルスの出現にわたる懸念がある。この問題の重要性に鑑み、他の多くの薬剤が臨床試験に入っている。これらの薬剤の大半は、ウイルスと宿主細胞の融合を阻害するモノクローナル抗体である。これらの薬剤は有望ではあるが、製造工程上、かなりのコストがかかることが予想される。
【0004】
ウイルスの保存された部分を標的とした分子の開発については、かなり多くの研究ラインがある。さらに、毒性が限定された殺ウイルス性の(すなわち不可逆的な)薬剤の探索は非常に困難であり続けてきた。最近、カエルの皮膚から単離されたペプチドがそのような特性を持つことが見出されたが、そのEC50はマイクロモルに過ぎず、その毒性については議論の余地がある。
【0005】
ウイルスのヘマグルチニン(HA)と宿主細胞上のシアル酸(SA)を持つ糖タンパク質との相互作用は、インフルエンザ感染の主要なステップである。SAとHAの結合親和性は低く、多価の結合によって補われている。この自然現象にヒントを得て、ポリマー、デンドリマー、ナノ粒子等のSAをコーティングした多価材料を用いて、インフルエンザウイルスを阻害する試みがいくつかなされている。
【0006】
Reuterらは、直鎖状ポリマー、櫛状分岐ポリマー、デンドロン等の様々な構造のシアル酸修飾ポリマー材料を合成し、A型インフルエンザウイルスの様々な株に対して試験を行った。高分子量(100kDa超)の分岐した構造体のみが、マイクロモル濃度のシアル酸でインフルエンザウイルスの1株であるX-31を阻害することが判明した。Pappらは、シアル酸で機能化した金ナノ粒子(NP)のインフルエンザウイルスX-31株に対する阻害活性を調べ、コア径14nmのNPが2nmのNPよりも優れた阻害活性を持つことを報告した。しかしながら、この研究では、Pappらはウイルスを阻害するためのNPの濃度については言及していない。同じグループは、シアル酸で修飾された様々なサイズの糖鎖構造も合成し、ミリモル濃度でX-31株を阻害した。
【0007】
ヒトインフルエンザウイルスは、糖タンパク質上のα2,6結合したSAと優先的に結合することが知られていた。より最近では、α2,6-シアリルラクトースを有する多価材料が、マイクロモルの低濃度でインフルエンザウイルスを阻害することが示された。Tangらは、α2,6-シアリルラクトースを有するブラシポリマーを合成した。このブラシポリマーは、シアル酸単位のマイクロモル濃度でインフルエンザA PR8株を阻害した。Kwonらは、PAMAMデンドリマーをα2,6-シアリルラクトースで修飾し、インフルエンザA PR8、CAL 09、NWS 33等の複数のインフルエンザ株を阻害した。
【0008】
インフルエンザウイルスをインビトロで阻害するためのマイクロモルの物質濃度はまだ高すぎ、インビボでの濃度はさらに高くなる。また、侵入阻害剤の多くはウイルス増殖抑止性であり、インビトロでウイルスと物質の複合体を希釈すると、ウイルスは再び感染力を持つようになる。
【0009】
広範囲で効果的なワクチンが存在しない現在、インフルエンザに対する治療薬を求めるニーズはまだ満たされていない。理想的な抗インフルエンザ薬は、広範囲に作用し、ウイルスの高度に保存された部分を標的とし、低濃度で、(体液中での希釈に起因する有効性の喪失を避けるために)不可逆的な効果、すなわち殺ウイルス性を有し、明らかに非毒性であることが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Reuter,J.D.ら、Bioconjug.Chem. 10、271-278(1999)
【文献】Papp,I.ら、Small 6、(2010)
【文献】Tang,S.ら、ACS Macro Lett. 5、413-418(2016)
【文献】Kwon,S.-J.ら、Nat.Nanotechnol. 12、48-54(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この課題に対処するために、本発明は、HAと強く相互作用し、インフルエンザウイルスの感染力を低濃度で不可逆的に阻害し、かつ極めて低い毒性を示すナノ粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、コアと、このコアに共有結合された複数のリガンドとを含む殺ウイルス性ナノ粒子であって、上記リガンドの少なくとも一部分は三糖部分を含み、
上記コアはシクロデキストリンであり、
上記リガンドは、同じであるか又は異なり、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドであり、
各三糖部分は、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)及び6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)から選択される殺ウイルス性ナノ粒子を提供する。
【0013】
本発明の別の態様は、式(I)によって表される殺ウイルス性ナノ粒子であって、
【化1】
上記式(I)中、
mは2~8であり、
nは2~28又は4~13である
殺ウイルス性ナノ粒子を提供する。
【0014】
本発明の別の態様は、式(II)によって表される殺ウイルス性ナノ粒子又はその薬学的に許容できる塩である殺ウイルス性ナノ粒子であって、
【化2】
上記式(II)中、
各Rは、独立に、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドであり、上記リガンドのうちの少なくとも2つは、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)及び6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)を含む群から選択される三糖部分を有するか、又は上記リガンドのうちの少なくとも1つは3’SLNを有しかつ別のリガンドは6’SLNを有し、
各R’は、独立に、H、-(CH
2)
y-COOH、-(CH
2)
y-SO
3
-、ポリマー又は水可溶化部分であり、
xは6、7又は8であり、
yは4~20の整数である
殺ウイルス性ナノ粒子を提供する。
【0015】
本発明のさらなる態様は、有効量の1種以上の本発明の殺ウイルス性ナノ粒子と、少なくとも1種の薬学的に許容できる賦形剤、担体及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0016】
本発明のさらなる態様は、インフルエンザウイルス感染症及び/若しくはインフルエンザウイルスと関連する疾患を治療並びに/又は予防することにおいて使用するための本発明の殺ウイルス性ナノ粒子を提供する。
【0017】
本発明のさらなる態様は、有効量の1種以上の本発明の殺ウイルス性ナノ粒子と、任意に少なくとも1種の好適なエアロゾル担体とを含む殺ウイルス性組成物を提供する。
【0018】
本発明のさらなる態様は、本発明の殺ウイルス性組成物、又は本発明の殺ウイルス性ナノ粒子を使用する工程を備える消毒及び/又は殺菌の方法を提供する。
【0019】
本発明のさらなる態様は、本発明の殺ウイルス性組成物又は1種以上の本発明の殺ウイルス性ナノ粒子と、この殺ウイルス性組成物若しくは殺ウイルス性ナノ粒子を付与又は分注するための手段とを含む装置を提供する。
【0020】
本発明のさらなる態様は、殺菌のため、及び/若しくは消毒のための、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子又は本発明の殺ウイルス性組成物の使用を提供する。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
コアと、前記コアに共有結合された複数のリガンドとを含む殺ウイルス性ナノ粒子であって、前記リガンドの少なくとも一部分は三糖部分を含み、
前記コアはシクロデキストリンであり、
前記リガンドは、同じであるか又は異なり、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドであり、
各三糖部分は、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)及び6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)から選択される殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目2)
シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン又はこれらの組み合わせを含む群から選択される項目1に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目3)
前記リガンドが、置換されていてもよいC
4
~C
30
アルキルに基づくリガンドである項目1又は項目2に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目4)
前記リガンドが、置換されていてもよいC
6
~C
15
アルキルに基づくリガンド化合物である項目1から項目3のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目5)
前記リガンドの一部又はすべてが3’SLNを含み、前記リガンドの一部又はすべてが6’SLNを含み、前記リガンドのすべてではなく一部が三糖部分を含まない項目1から項目4のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目6)
式(I)によって表される殺ウイルス性ナノ粒子であって、
【化1】
前記式(I)中、
mは2~8であり、
nは2~28又は4~13である
殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目7)
シクロデキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンを含む群から選択される項目6に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目8)
mが3又は4である項目6又は項目7に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目9)
式(II)によって表される殺ウイルス性ナノ粒子、又はその薬学的に許容できる塩である殺ウイルス性ナノ粒子であって、
【化2】
前記式(II)中、
各Rは、独立に、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドであり、前記リガンドのうちの少なくとも2つは、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)及び6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)を含む群から選択される三糖部分を有するか、又は前記リガンドのうちの少なくとも1つは3’SLNを有しかつ別のリガンドは6’SLNを有し、
各R’は、独立に、H、-(CH
2
)
y
-COOH、-(CH
2
)
y
-SO
3
-
、ポリマー又は水可溶化部分であり、
xは6、7又は8であり、
yは4~20の整数である
殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目10)
R’がHである項目9に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目11)
前記アルキルに基づくリガンドが、置換されていてもよいC
4
~C
30
アルキルに基づくリガンドである項目9又は項目10に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目12)
前記アルキルに基づくリガンドが、6’SLNを含む置換されていてもよいC
6
~C
15
アルキルに基づくリガンドである項目9から項目11のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目13)
有効量の1種以上の項目1から項目12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子と、少なくとも1種の薬学的に許容できる賦形剤、担体及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物。
(項目14)
インフルエンザウイルス感染症及び/若しくはインフルエンザウイルスと関連する疾患を治療並びに/又は予防することにおいて使用するための、項目1から項目12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子。
(項目15)
有効量の1種以上の項目1から項目12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子と、任意に少なくとも1種の好適なエアロゾル担体とを含む殺ウイルス性組成物。
(項目16)
項目13若しくは項目15に記載の殺ウイルス性組成物、若しくは項目1から項目12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子を使用する工程を備える消毒及び/又は殺菌の方法。
(項目17)
項目13若しくは項目15に記載の殺ウイルス性組成物、又は1種以上の項目1から項目12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子と、前記殺ウイルス性組成物又は前記殺ウイルス性ナノ粒子を付与又は分注するための手段とを含む装置。
(項目18)
殺菌のため、及び/若しくは消毒のための、項目1から項目12のいずれか1項に記載の殺ウイルス性ナノ粒子又は項目13若しくは項目15に記載の殺ウイルス性組成物の使用。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、異なるリガンド組成を有するNPの化学構造を示す。NPの平均直径:2.9±0.9nm。
【
図2】
図2は、H3N2ウイルスVic/11株のTEM画像を示す。NPなしの場合(A)、LD 6’SLN NPと1時間インキュベートした後のウイルス(B)、PEG(5)NPとインキュベートした後のウイルス(C)。
【
図3(1)】
図3は、C15-6’SLN修飾β-CDの化学構造を示す(A)。異なるインフルエンザ株に対する修飾CDのEC
50濃度(B)、Neth/09株に対する殺ウイルス活性(C)、MucilAirを用いたエキソビボ実験(D)。
【
図3(2)】
図3Eは、HAの球状頭部と相互作用する修飾CDの図を示す。
【
図4(1)】
図4は、例示的な修飾シクロデキストリンを示す。CDβあたりの6’SLN又は3’SLNの数は、
1H NMRによって算出された平均数である。修飾シクロデキストリンの代表的な化学構造は、NMRの結果に基づいて構築した。EC
50は、A/Netherlands/2009(H1N1)に対する24時間後(hpi)のMDCK細胞での半数阻害濃度を表す(
図7)。N/A:評価できない。これらの三次元構造の参照を容易にするために、後方のシクロデキストリン糖鎖、リガンド、三糖の一部は示されていない。
【
図5】
図5は、
図4に示された修飾シクロデキストリンの特徴を明らかにするために実施した
1H NMR研究を示す。β-シクロデキストリン1つあたりの6’SLN又は3’SLNの平均数は、三糖由来の特徴的なピーク(◆)とβ-シクロデキストリンからのピーク(●)を比較することによって算出した。どちらのピークも1つの水素に対応している。
【
図6】
図6は、A/Netherlands/2009 H1N1に対するC6-6’(A)、C14-6’(B)、C11-3’(C)及びC1-6’(D)の抗ウイルス活性を示す用量反応曲線を示す。結果は、二重に行った2回の独立した実験の平均値である。
【
図7】
図7は、B/Wisconsin/2010(A)、A/Clinical/2018 H1N1(B)、A/Singapore/2004 H3N2(C)、及びB/Clinical/2018(D)に対するC11-6’の抗ウイルス活性を示す用量反応曲線を示す。結果は、二重に行った2回の独立した実験の平均値である。
【
図8】
図8は、鳥類株A/turkey/Turkey/2005 H5N1(C11-6’対照と一緒に)(A)及びA/Turkey/Italy/977/1999 H7N1(B)に対するC11-3’の抗ウイルス活性を示す用量反応曲線を示す。グラフAの場合、FACSとICCの両方の方法で感染を定量化した。結果は、二重に行った2回の独立した実験の平均値である。
【
図9】
図9は、C11-6’及びP8-6’のインビトロでの抗ウイルス活性比較を示す。パネル(a)と(b)は、左のグラフに、A/NL/09に対する各化合物の阻害活性を、細胞生存率アッセイの結果と重ね合わせて示す。すべての化合物が非常に類似した挙動を示す。これらのパネルの右側のグラフには、殺ウイルス(すなわち希釈)試験の結果が示されている。なお、図の軸において、ffuはフォーカス形成単位を意味し、NTは非処置を意味する。(c)では、C11-6’を以下のウイルス株に対して試験した。A/Singapore/2004(H3N2)、B/Wisconsin/2010、及びA/Clinical/2018(H1N1)。結果は、二重に行った2回の独立した実験の平均値とSEMである。
【
図10】
図10は、A/Netherhands/2009(H1N1)に対するC14-6’(A)、C6-6’(B)及びC11-3’(C)の殺ウイルス活性を示す。実験は、100μg/mLの化合物濃度を用いて行った。結果は、2回の独立した実験の平均とSEMである。
【
図11】
図11は、C11-6’及びP8-6’のエキソビボ阻害活性の比較を示す。C11-6’は臨床的パンデミックであるH1N1 09株に対して、共処理条件で完全な防御効果を発揮したのに対し、P8-6’は感染初期にわずかな防御効果しか発揮しなかった(a)。
図11(b)では、感染後7日目(共処理条件)の免疫蛍光法により、C11-6’による保護効果が確認された。赤:モノクローナル抗体インフルエンザA、青:DAPI、緑:β-IV-チューブリン(繊毛細胞のマーカー)。各組織の厚さは対応する画像の下部に示されている(b)。また、C11-6’は後処理の条件でも高い効果を示した(c)。(a)及び(c)の結果は、二重に行った2~4回の独立した実験の平均値及びSEMである。(b)の画像は、各条件で撮影した10枚の画像の代表である。
【
図12】
図12は、感染した組織からのLDH放出を示す。組織は感染させられ、感染時にC11-6’(50μg)又はP8-6’で処理された。96時間後及び24時間後に行った頂部洗浄液(アピカル洗浄液)をLDH測定に供した。結果は、H1N1及びH1N1 C11-6’については2回の独立した実験、P8-6’については二重に行った1回の実験の平均値及びSEMである。
【
図13】
図13は、長時間の共処理実験を示す。組織は感染させられ、感染時にC11-6’(50μg)で処理された。最初の5日間は毎日の頂部洗浄液が採取され、続いて9日目、17日目、23日目にも洗浄液を採取して(その前日の洗浄液も採取)、日々のウイルス生成量を評価した。結果は、二重に行った1回の実験の平均値である。
【
図14】
図14は、エキソビボでの毒性を示す。組織は、毎日添加した異なる用量のC11-6’又は同量の培地若しくはtriton 5%で処理した。処置後96時間目に組織を、A)MTTアッセイ、B)組織の生存率を評価するLDHアッセイ、C)経上皮抵抗性評価、及びD)炎症促進性サイトカインの放出を評価するためのELISAアッセイに供した。LDHとELISAは採取した基礎培地で行った。実験は2回の独立した実験の平均及びSEMである。
【
図15】
図15は、C11-6’のインビボ抗ウイルス活性を示す。(a~c)マウスは、A/NL/09の感染と同時に、及び感染後48時間に、PBS又はC11-6’で鼻腔内処置された。感染後48時間及び96時間後にウイルス量が定量化され(a)、感染したマウスの罹患率(体温低下(b)及び体重減少(c))が毎日モニタリングされた。(d~f)感染後6時間後から3日間、毎日、マウスはPBS又はC11-6’で鼻腔内処置された(14μg/マウス)。感染したマウスの罹患率(d~e)と生存率(f)が毎日モニタリングされた。結果は平均値±SEMで表されている。矢印は処置の時を示す。
【
図16】
図16は、β-シクロデキストリン、6’SLN-β-エチルアミン、C11-6’の
1H NMRスペクトルを重ねて示す。
【
図17】
図17は、得られた化合物が結合していない三糖を含まないことを明らかにする、C11-6’のDOSYスペクトルを示す。
【
図18】
図18は、FACSで行われたゲーティング戦略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、及びその他の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。本明細書で論じられる刊行物及び出願は、本願の出願日より前に開示されていることのみを目的として提供されている。本明細書のいかなる部分も、本発明が先行発明のおかげでそのような公開に先立つ権利を有していないことを認めるものとは解釈されない。加えて、材料、方法及び例は例示に過ぎず、限定することを意図したものではない。
【0023】
矛盾する場合、定義を含め、本明細書が優先する。特段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本明細書の主題が属する技術分野の当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を有する。本明細書で使用される以下の定義は、本発明の理解を容易にするために提供されるものである。
【0024】
用語「comprise」は、一般的に「include(含む)」という意味で使用され、つまり、1つ以上の特徴又は構成要素の存在を許可する。加えて、本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「comprising」という言葉は、「consisting of(…からなる)」及び/又は「consisting essentially of(…から実質的になる)」の用語で記述された類似の実施形態を含むことができる。
【0025】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、本明細書で「A及び/又はB」等のフレーズで使用される用語「及び/又は」は、「A及びB」、「A又はB」、「A」、及び「B」を含むことが意図されている。
【0026】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈と明らかに矛盾する場合を除いて、複数の指示対象を含む。
【0027】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「少なくとも1つのC原子」等のフレーズで使用される「少なくとも1つ」という用語は、「1つのC原子」又は「2つのC原子」又はそれ以上のC原子を意味することができる。
【0028】
本明細書で使用する場合、「ウイルス増殖抑止性」という用語は、抗ウイルス組成物との相互作用後にウイルスの感染性が可逆的に阻害されることを示す、インビトロ試験によって決定される抗ウイルス効果の特徴を指す。この相互作用は、例えば、ウイルスに結合すること、又は別の態様でウイルスの表面リガンドに干渉することにより、感染性を阻害する。しかしながら、(例えば希釈により)相互作用が終了すると、ウイルスの再構成を促進する材料又は条件が加えられていない場合には、ウイルスが感染力を回復する可能性がある。
【0029】
本明細書で使用する場合、「殺ウイルス性」という用語は、抗ウイルス性の化合物又は組成物との相互作用後にウイルスの感染性が不可逆的に阻害されることを示す、インビトロ試験によって決定される抗ウイルス効果の特徴を指す。この相互作用は、例えば、ウイルスに結合すること、又は別の態様でウイルスの表面リガンドに干渉することにより、感染性を阻害する。しかしながら、(例えば希釈により)相互作用が終了した後であっても、ウイルスの再構成を促進する材料又は条件が加えられていない場合には、ウイルスが感染力を回復することは本質的に不可能である。
【0030】
本明細書で使用する場合、「生体適合性」という用語は、生きている細胞、組織、臓器、又は系との適合性であり、損傷、毒性、又は免疫系による拒絶の重大なリスクがないことを指す。
【0031】
本明細書で使用する場合、「ナノ粒子」で用いられるような「ナノ」は、ナノメートルサイズを有する粒子等、ナノメートルサイズを指し、特定の形状の限定を伝えることを意図していない。特に、「ナノ粒子」には、ナノスフェア、ナノチューブ、ナノボックス、ナノクラスター、ナノロッドなどが包含される。特定の実施形態では、本明細書で企図されているナノ粒子及び/又はナノ粒子コアは、概して多面体又は球形の幾何学的形状を有する。
【0032】
本明細書で使用する場合、「インフルエンザ」は、シアル酸を求めて空気中を伝搬する(ヒト又は動物の)RNAウイルス、例えばA型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、D型インフルエンザウイルスを指す。A型インフルエンザウイルスには、以下の血清型が包含される:H1N1、H2N2、H3N2、H5N1、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3、H10N7、H7N9、及びH6N1。
【0033】
本明細書で使用する場合、用語「アルキル」は、1~50個の炭素原子、好ましくは4~30個の炭素原子を含む直鎖状の炭化水素鎖を指す。アルキルの代表例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書で使用する場合、「カルボキシアルキル」という用語は、本明細書で定義されたアルキル基を介して親分子部分に付加されたカルボキシ基を指す。
【0035】
α2,6結合シアル酸は、ヒトインフルエンザウイルスと相互作用することが知られているが、高親和性の結合をもたらす正確な糖鎖配列は、文献上不明であった。本発明者らは、大多数のヒトインフルエンザウイルスが、2つ以上の、好ましくは3つ又は4つの三糖部分で終わる糖鎖、具体的には6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)又は3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)に高親和性で結合することを明らかにした。
【0036】
本発明の一態様は、コアと、このコアに共有結合された複数のリガンドとを含む殺ウイルス性ナノ粒子であって、このリガンドの少なくとも一部分は三糖部分を含み、
上記コアは、金属ナノ粒子又は有機材料であり、好ましくは、この金属ナノ粒子は、金ナノ粒子、酸化鉄ナノ粒子、銀ナノ粒子、白金ナノ粒子、コバルトナノ粒子、亜鉛ナノ粒子、シリカナノ粒子、セレン化カドミウムナノ粒子、金銀合金ナノ粒子、酸化アルミニウムナノ粒子、酸化銅ナノ粒子、酸化マグネシウムナノ粒子、酸化ニッケルナノ粒子、二酸化チタンナノ粒子、酸化亜鉛ナノ粒子を含む群から選択され、より好ましくは、この金属ナノ粒子は、金ナノ粒子であり、上記有機材料は、シクロデキストリン、ポリマー、デンドリマー、及びデンドロンを含む群から選択され、好ましくはこの有機材料はシクロデキストリンであり、
上記リガンドは、同じであるか又は異なり、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンド又はポリエチレングリコール(PEG)に基づくリガンドであり、好ましくは、この置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドは、置換されていてもよいC4~C30アルキルに基づくリガンドであり、より好ましくは、この置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドは、置換されていてもよいC4~C30カルボキシアルキルであり、好ましくは、PEGに基づくリガンドは、PEG3、PEG4、PEG5、PEG6、PEG7、PEG8を含む群から選択され、より好ましくは、このリガンドは、ポリエチレングリコール5(PEG5)、16-メルカプトヘキサデコン酸(C15)、及び11-メルカプトウンデカン酸を含む基から誘導され、
上記三糖部分は、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)及び/又は6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)である
殺ウイルス性ナノ粒子を提供する。
【0037】
本発明に関しては、三糖部分は、他のリガンドが三糖部分とインフルエンザウイルスとの間の相互作用を妨げないような方法で、ナノ粒子(NP)の外側表面に共有結合されたリガンド上に露出している。
【0038】
上記コアの平均直径は、約1.0nm~約200nm、好ましくは1nm~5nm、最も好ましくは1.5nm~3nmの範囲である。全体のナノ粒子サイズは、平均粒子径が3nm~250nm、又は3nm~200nm、好ましくは3nm~10nm、より好ましくは4.5nm~6nmである。
【0039】
いくつかの実施形態では、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子におけるコアは、有機材料、好ましくはポリマーであり、ポリマーは、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリジオキサノン(PDO)、及びポリ(乳酸-co-グリコール酸)を含む群から選択される。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子におけるコアは、有機材料であり、好ましくは、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)及びビス-MPAを含む群から選択されるデンドリマーである。
【0041】
いくつかの実施形態では、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子におけるコアは、有機材料であり、好ましくは、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)及びビス-MPAを含む群から選択されるデンドロンである。
【0042】
好ましい実施形態では、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子におけるコアは、シクロデキストリンである有機材料である。
【0043】
シクロデキストリン(CD)は、α(14)-結合したグルコピラノシド単位からなる、天然に存在する環状グルコース誘導体である。その環状構造は、グルコース単位の一級ヒドロキシルが狭い面に、二級ヒドロキシルが広い側の面にある、円錐台形を形成している。各面は、容易に、かつ独立して官能基を持つことができる。最も一般的に使用される天然のCDは、6、7、8つのグルコピラノシド単位を持ち、それぞれα、β、γシクロデキストリンと呼ばれている。好ましいシクロデキストリンはβである。CDの環状構造のため、CDは、ゲスト分子と超分子包接錯体を形成することができる空洞を有する。CDは天然に存在し、容易に官能化され、ゲストを包摂するための空洞を有し、生体適合性があるため、薬物送達や芳香剤などを含む多くの商業的用途に使用されている。CDの各面の反応性の違いを利用して、様々な修飾されたシクロデキストリンが合成されてきた。CDの一級側の面はより容易に修飾され、置換の程度と位置を制御することが可能である。ハロゲン化されたCD等の優れた脱離基を持つCD誘導体は、CDの官能化において重要な中間体である。CDの一級ヒドロキシル単位をすべてヨード単位で置き換えることで、二級ヒドロキシルと剛直な円錐台形状をそのまま残したまま、一級側の面を完全に官能化できる中間体が得られる。1つの実施形態では、ヘプタキス-6-ヨード-6-デオキシ-β-シクロデキストリンを合成し、続いてメルカプトウンデカオスルホン酸(MUS)と反応させることで、ウンデカナオスルホン酸基で一級側の面が官能化されたCDが得られた。その後、シクロデキストリンの二級側の面を独立して修飾し、さらなる可溶化基、色素分子、ポリマー等を導入することが可能である。さらに、β-CDのサイズ(d 約1.5nm)は、本発明のコアにとって好ましいナノサイズに含まれ、HA球状頭部(約5nm)とよく一致する。β-シクロデキストリンは、殺ウイルス活性に寄与すると考えられている剛直な化学構造を有しており、狭い面に応じて最大7つの三糖結合リガンドを持つことができ、好ましくは3~4つの三糖結合リガンドを持つことができ、3はインフルエンザウイルスHA球状頭部にあるシアル酸結合点の数である。
【0044】
また、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子は、精製された単一の分子又は化合物であることも可能であり、これらも本発明の範囲に包含されることが意図されている。
【0045】
本発明の一実施形態は、コアと、このコアに共有結合された複数のリガンドとを含む殺ウイルス性ナノ粒子であって、上記リガンドの少なくとも一部分は三糖部分を含み、
上記コアはシクロデキストリンであり、好ましくはα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン又はこれらの組み合わせを含む群から選択され、
上記リガンドは、同じであるか又は異なり、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンド、好ましくは置換されていてもよいC4~C30アルキルに基づくリガンド、より好ましくは置換されていてもよいC6~C15アルキルに基づくリガンドであり、
各三糖部分は、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)及び6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)から選択される
殺ウイルス性ナノ粒子を提供する。
【0046】
本発明の殺ウイルス性ナノ粒子のいくつかの実施形態では、上記リガンドの一部又はすべてが3’SLNを含み、上記リガンドの一部又はすべてが6’SLNを含み、上記リガンドのすべてではなく一部が三糖部分を含まない。
【0047】
上記コアがシクロデキストリンである本発明の殺ウイルス性ナノ粒子は、式(I)によって表すことができる。
【化3】
上記式(I)中、
mは2~8であり、好ましくはmは2~7又は2~6であり、より好ましくはmは3又は4であり、
nは2~28又は4~13又は4~30又は6~15であり、好ましくは2~28又は4~13であり、いくつかの実施形態ではnは2又は4又は6~13又は28又は30であり、
好ましくは、シクロデキストリンは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0048】
本発明の別の態様は、式(II)によって表される殺ウイルス性ナノ粒子、又はその薬学的に許容できる塩である殺ウイルス性ナノ粒子を提供する。
【化4】
上記式(II)中、
各Rは、独立に、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドであり、このリガンドのうちの少なくとも2つは、3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)及び6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)を含む群から選択される三糖部分を有するか、又は上記リガンドのうちの少なくとも1つは3’SLNを有しかつ別のリガンドは6’SLNを有し、好ましくは、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドは、置換されていてもよいC
4~C
30アルキルに基づくリガンド、より好ましくは置換されていてもよいC
6~C
15アルキルに基づくリガンド、又は6’SLNを含む置換されていてもよいC
6~C
15アルキルに基づくリガンドであり、
各R’は、独立に、H、-(CH
2)
y-COOH、-(CH
2)
y-SO
3
-、ポリマー又は水可溶化部分であり、好ましくは、R’はHであり、好ましくは、R’は、独立に、H、-(CH
2)
y-COOH、-(CH
2)
y-SO
3
-、又はポリマーであり、好ましくは、R’は、独立に、-(CH
2)
y-COOH、-(CH
2)
y-SO
3
-、又はポリマーであり、好ましくは、R’は、独立に、H、-(CH
2)
y-COOH、又は-(CH
2)
y-SO
3
-であり、好ましくは、R’は、独立に、-(CH
2)
y-COOH、又は-(CH
2)
y-SO
3
-であり、
xは6、7又は8であり、
yは、少なくとも4~約20の整数であり、好ましくは、yは少なくとも4であり、好ましくは、yは4~20であり、好ましくは、yは7~11であり、最も好ましくは、yは10であり、他の実施形態では、yは少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11であり、他の実施形態では、yは、最大100、最大70、最大50、最大25、最大20、最大15である。
【0049】
本発明の殺ウイルス性ナノ粒子に含まれるポリマーは、合成ポリマー及び天然ポリマーの両方から選択することができる。本発明の一実施形態では、合成ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリルアミド)(PAAm)、ポリ(n-ブチルアクリレート)、ポリ(α-エステル)、(PEG-b-PPO-b-PEG)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(pNIPAAM)、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)及び/又はこれらの組み合わせを含む群から選択されるが、これらに限定されない。本発明の別の実施形態では、天然ポリマーは、デキストラン、デキストリン、グルコース、セルロース及び/又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0050】
本発明の殺ウイルス性ナノ粒子のいくつかの実施形態では、三糖部分は、好ましくは6’SLNであり、これはヒトインフルエンザ株に特異的である。本発明の殺ウイルス性ナノ粒子の他の実施形態では、三糖部分は、好ましくは3’SLNであり、これは鳥インフルエンザ株に特異的である。
【0051】
本発明の殺ウイルス性ナノ粒子のリガンド(又はリガンド化合物)は、通常は十分に長く(少なくとも2つ、又は少なくとも4つ、又は少なくとも6つの炭素原子)、疎水性である。
【0052】
典型的には、本発明に関しては、置換されていてもよいアルキルに基づくリガンドは、ヘキサン、ペンタン、オクタン、ウンデカン、ヘキサデカンに基づくリガンドを含む群から選択される。
【0053】
本発明の殺ウイルス性ナノ粒子の置換されたアルキルに基づくリガンド、置換されたC4~C30アルキルに基づくリガンド、及び置換されたC4~C30カルボキシアルキルは、アルケニル、アルケニルチオ、アルケニルオキシ、アルコキシ、アルコキシアルコキシ、アルコキシアルコキシアルコキシ、アルコキシアルコキシアルキル、アルコキシアルキル、アルコキシルカルボニル、アルコキシカルボニルアルコキシ、アルコキシカルボニルアルキル、アルコキシスルホニル、アルキル、アルキルアミドアルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルアルコキシ、アルキルカルボニルアルキル、アルキルカルボニルアルキルチオ、アルキルカルボニルオキシ、アルキルカルボニルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルフィニルアルキル、アルキルスルホニル、アルキルスルホニルアルキル、アルキルチオ、アルキルチオアルキル、アルキルチオアルコキシ、アルキニル、アルキニルオキシ、アルキニルチオ、アリール、アリールカルボニル、アリールオキシ、アリールスルホニル、カルボキシ、カルボキシアルコキシ、カルボキシアルキル、シアノ、シアノアルコキシ、シアノアルキル、シアノアルキルチオ、1,3-ジオキソラニル、ジオキサニル、ジチアニル、エチレンジオキシ、ホルミル、ホルミルアルコキシ、ホルミルアルキル、ハロアルケニル、ハロアルケニルオキシ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロアルキニル、ハロアルキニルオキシ、ハロゲン、複素環、ヘテロシクロカルボニル、ヘテロシクロキシ、ヘテロシクロスルホニル、ヒドロキシ、ヒドロキシアルコキシ、ヒドロキシアルキル、メルカプト、メルカプトアルコキシ、メルカプトアルキル、メチレンジオキシ、及びニトロを含む群から独立に選択される1つ、2つ、3つ、4つ又は5つの置換基で置換されている。好ましくは、置換されたアルキルに基づくリガンド、置換C4~C30アルキルに基づくリガンド、及び置換されたC4~C30カルボキシアルキルは、1つのメルカプト基(未修飾シクロデキストリンの対応する酸素を置換)で置換されている。好ましい置換されたアルキルに基づくリガンドは、アルキルアミドアルキル置換されたC4~C30又はC2~C28又はC4~C13のアルキルに基づくリガンドである。
【0054】
上記リガンドと三糖部分を含むリガンドの割合(百分率)は、75%:25%~95%:5%、好ましくは88%:12%である。
【0055】
本開示に関しては、「複数のリガンド」は、本発明の複数のリガンドによって部分的又は完全にコーティングされた殺ウイルス性ナノ粒子コアを指し、それらのリガンドの少なくとも一部分は、本発明の三糖部分を含む。このコーティングは、均質であってもよく、構造化されていなくてもよく、又は構造化されていてもよい。いくつかの実施形態では、当該殺ウイルス性ナノ粒子は、本発明の三糖部分を含むリガンドの非常に高い密度(HD)、例えば全リガンドの25%を含む。いくつかの実施形態では、当該殺ウイルス性ナノ粒子は、1nm2あたり約2~約5つの本発明のリガンドを含み、このリガンドの少なくとも一部分は三糖部分を含む。他の実施形態では、当該殺ウイルス性ナノ粒子は、1nm2あたり4つの本発明のリガンドを含んでおり、このようなリガンドの少なくとも一部分は三糖部分を含む。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明の複数のリガンドは、ポリエチレングリコール5(PEG(5))及び16-メルカプトヘキサデコン酸(C15)等の、少なくとも2種の構造的に異なるリガンドの混合物を含む。本明細書で使用する用語「少なくとも2種の構造的に異なるリガンドの混合物」は、上で定義された本発明の2種以上のリガンドの組み合わせであって、それらのリガンドは少なくとも1つの位置で化学組成が互いに異なる組み合わせを指す。この混合物は、有利には、三糖部分を持たないリガンドが、三糖部分を持つリガンドに対して最適な間隔を提供し、三糖部分とインフルエンザウイルスHAとの間の相互作用を妨げないように編成することができる。従って、三糖部分を持たないリガンドと三糖部分を持つリガンドの間には、約75:25~約95:5、好ましくは約88:12の範囲の百分率比が存在することになる。
【0057】
本発明の一実施形態によれば、PEG(5)と16-メルカプトヘキサデコン酸(C15)との混合リガンドの金ナノ粒子(NP)が合成された。PEG(5)はNPの水溶性を高めるのに対し、C15は三糖をグラフトさせるためのリガンドである。リガンドの選択は、1)C15は、HA上の約4nm離れた3つのシアル酸結合点をターゲットにするのに十分な長さであること、2)炭素に基づく剛直なリガンドは殺ウイルス活性を高めること、という2つの理由に基づいている。
【0058】
上記リガンドは、一般的に、三糖部分とインフルエンザヘマグルチニンとの結合を最適化する量でコアの表面に存在する。上記コアは、典型的には1nm2あたり4つのリガンドを有する。いくつかの実施形態では、コアは、1nm2あたり約2~約5つのリガンドを有する。
【0059】
本発明の殺ウイルス性ナノ粒子の重要な利点は、詳細な毒性分析により、組織構造の変化や炎症促進性サイトカインの放出が見られなかったことである。インビボ試験では、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子による処置は、感染前又は感染後の薬剤の添加とは無関係に、感染したマウスの健康状態を著しく改善し、肺のウイルス量を減少させるということが示された。
【0060】
本発明の別の態様は、有効量の1種以上の本発明の殺ウイルス性ナノ粒子と、少なくとも1種の薬学的に許容できる賦形剤、担体及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物を開示する。
【0061】
適切な賦形剤、担体、希釈剤については、それらを記載する「Comprehensive Medicinal Chemistry」(Pergamon Press 1990)の第5巻25.2章や、「Lexikon der Hilfsstoffe fuer Pharmazie, Kosmetik und angrenzende Gebiete」(H.P.Fiedlerによる、Editio Cantor、2002)等の標準的な文献が参照されてもよい。用語「薬学的に許容できる担体、賦形剤及び/又は希釈剤」は、一般的に安全で、許容される毒性を有する医薬組成物の調製に有用な担体、賦形剤又は希釈剤を意味する。許容できる担体、賦形剤、希釈剤には、ヒトの医薬用だけでなく、獣医用として許容できるものも含まれる。本明細書及び特許請求の範囲で使用される「薬学的に許容できる担体、賦形剤及び/又は希釈剤」には、そのような担体、賦形剤及び/又は希釈剤の1つと2つ以上の両方が含まれる。
【0062】
任意に、本発明の医薬組成物は、1つ又は複数の追加の活性剤、好ましくは抗ウイルス剤をさらに含む。
【0063】
本発明の方法で使用される本発明の殺ウイルス性ナノ粒子は、治療的投与のための様々な製剤及び医薬品に組み込むことができる。より詳細には、本明細書で提供される殺ウイルス性ナノ粒子は、適切な、薬学的に許容できる担体、賦形剤及び/又は希釈剤と組み合わせて医薬組成物に配合することができ、固体、半固体、液体又は気体の形態の製剤、例えば、錠剤、カプセル、丸薬、粉末、顆粒、ドラジェ、ゲル、スラリー、軟膏、溶液、坐剤、注射剤、吸入剤及びエアロゾルへと配合することができる。このように、当該殺ウイルス性ナノ粒子の投与は、経口、口腔内、吸入(肺、鼻)、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、頭蓋内及び/又は気管内の投与等、様々な方法で達成することができる。さらに、当該殺ウイルス性ナノ粒子は、デポ剤や徐放性製剤として、全身性ではなく局所的に投与することが可能である。当該殺ウイルス性ナノ粒子は、一般的な賦形剤、希釈剤、担体と一緒に製剤化し、錠剤に圧縮したり、経口投与に便利なエリキシル剤や溶液として製剤化したり、筋肉内や静脈内の経路によって投与したりすることができる。当該殺ウイルス性ナノ粒子は、経皮的に投与することも可能であり、徐放性製剤等として製剤化することもできる。当該殺ウイルス性ナノ粒子は、単独で投与することも、互いに組み合わせて投与することも、あるいは他の公知の化合物と組み合わせて使用することもできる。本発明で使用するのに好適な製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company(1985)、フィラデルフィア、ペンシルベニア州、第17版)に見出され、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。さらに、薬物送達のための方法の簡単な総説については、参照により本明細書に組み込まれる、Langer、Science(1990) 249:1527-1533を参照されたい。
【0064】
徐放性製剤が調製されてもよい。徐放性製剤の好適な例としては、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子を含む固体疎水性ポリマーの半透過性マトリクスが挙げられ、このマトリクスは、成形品、例えばフィルム、又はマイクロカプセルの形態にある。徐放性マトリクスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書)、L-グルタミン酸と[γ]エチル-L-グルタメートとの共重合体、非分解性のエチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸共重合体と酢酸ロイプロリドからなる注射用微小球(ミクロスフェア))等の分解性乳酸-グリコール酸共重合体、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0065】
また、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子は、例えば、コアセルベーション技術や界面重合によって調製されたマイクロカプセルに封入されてもよく、例えば、それぞれコロイド薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンにおいて、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに封入することができる。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版、Osol,A.編(1980)に開示されている。
【0066】
本明細書に記載されている医薬組成物は、当業者にとって公知である方法、すなわち、従来の混合、溶解、造粒、ドラギー化、湿式粉砕(浮遊)、乳化、カプセル化、封入、又は凍結乾燥のプロセスによって製造することができる。以下の方法及び賦形剤は単なる例示であり、決して限定するものではない。注射のために、殺ウイルス性ナノ粒子(及び任意に別の活性剤)は、それらを水性又は非水性の溶媒、例えば、植物性又は他の類似の油、合成脂肪族酸グリセリド、高級脂肪族酸のエステル、又はプロピレングリコールに溶解、懸濁、又は乳化することにより製剤へと配合することができ、必要に応じて、可溶化剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤、及び防腐剤等の従来の添加剤を用いることができる。好ましくは、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子は、水溶液、好ましくはハンクス液、リンゲル液、生理食塩水バッファ等の生理学的に適合したバッファ中で製剤化することができる。経粘膜投与の場合は、浸透させるべきバリアーに適した浸透剤が製剤中に用いられる。このような浸透剤は、当該技術分野で一般的に公知である。
【0067】
好ましくは、非経口投与のための医薬製剤は、水溶性の形態の当該殺ウイルス性ナノ粒子の水溶液を含む。加えて、当該殺ウイルス性ナノ粒子の懸濁液は、適切な油性注射用懸濁液として調製することができる。適切な親油性の溶媒又はビヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、又はオレイン酸エチルやトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、又はリポソームが含まれる。水性注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストラン等の、懸濁液の粘度を高める物質を含むことができる。任意に、懸濁液は、高濃度溶液の調製を可能にするために、当該殺ウイルス性ナノ粒子の溶解度を増加させる適切な安定剤又は薬剤を含むこともできる。
【0068】
単一の剤形とするために担体物質と組み合わせることができる本発明の殺ウイルス性ナノ粒子の量は、治療するウイルス疾患、哺乳類の種、及び特定の投与方法によって変わることになる。また、特定の患者に対する具体的な投与量は、当業者にはよく理解されているとおり、採用する特定の化合物の活性、治療を受ける個体の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食生活、投与の時間と経路、排泄率、以前に投与された他の薬剤、治療を受ける特定のウイルス疾患の重症度を含めた様々な要因に依存する。
【0069】
本発明のさらなる態様は、インフルエンザウイルス感染症及び/若しくはインフルエンザウイルスと関連する疾患を治療並びに/又は予防する方法であって、必要とする対象に、治療上有効な量の1種以上の本発明の殺ウイルス性ナノ粒子を投与する工程を備える方法を提供する。
【0070】
本発明の別の態様は、インフルエンザウイルス感染症及び/若しくはインフルエンザウイルスと関連する疾患を治療並びに/又は予防することにおいて使用するための本発明の殺ウイルス性ナノ粒子を提供する。
【0071】
本明細書で使用する「対象」又は「患者」という用語は当該技術分野でよく知られており、本明細書中では、イヌ、ネコ、ラット、マウス、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ラクダ等の哺乳動物、最も好ましくはヒトを指すために互換的に使用される。ニワトリなどの他の動物も、これらの用語に包含される。好ましい実施形態では、「対象」又は「患者」という用語は、ヒト及び動物、例えば、イヌ、ネコ、ラット、マウス、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、ニワトリを指す。いくつかの実施形態では、この対象は、治療を必要としている対象、又はインフルエンザウイルスに感染している対象である。他の実施形態では、対象は、ニワトリ等の鳥インフルエンザに感染した動物であることができる。しかしながら、他の実施形態では、対象は、健康な対象又は既に治療を受けた対象であることが可能である。この用語は、特定の年齢又は性別を示すものではない。従って、男性か女性かにかかわらず、成人、子供、及び新生児(新生仔)の対象が包含されることが意図されている。
【0072】
「治療」は、治療的な処置及び予防的又は防止的な措置の両方を指す。治療を必要とするものには、すでにインフルエンザウイルスに感染しているものだけでなく、インフルエンザウイルスの感染を予防したいものも含まれる。従って、本発明で治療すべき哺乳動物、好ましくはヒト、は、インフルエンザウイルスに感染していると診断されていてもよいし、インフルエンザウイルスに感染する素因又は感受性を有していてもよい。治療には、インフルエンザウイルス感染に起因する疾患若しくは状態の少なくとも1つの症状を改善すること、そのような疾患若しくは状態を治癒すること、及び/又はそのような疾患若しくは状態の発症を予防することが含まれる。予防することとは、例えば、侵入後のウイルスイベントに影響を与えることによって、インフルエンザウイルスが感染又は疾患を引き起こす能力を減弱又は低下させることを意味する。
【0073】
治療を目的とした「哺乳動物」とは、ヒト、家畜や農場の動物、又はペット動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ウシ、サル等を含む、哺乳動物に分類されるあらゆる動物を指す。好ましくは、この哺乳動物はヒトである。
【0074】
用語「治療上有効な量」は、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子が、受容対象においてインフルエンザウイルスを変化させ、それを不活性化するのに有効な量、及び/又は、その存在が受容対象の生理的状態に検出可能な変化をもたらす場合、例えば、ウイルス感染に関連する少なくとも1つの症状を改善し、少なくとも1つのウイルス剤の伝播速度を防止又は低下させる量を指す。
【0075】
本発明の別の態様は、有効量の1種以上の本発明の殺ウイルス性ナノ粒子と、任意に少なくとも1種の好適な担体又はエアロゾル担体とを含む殺ウイルス性組成物を提供する。「有効量」は、インフルエンザウイルスを不可逆的に阻害するのに十分な量、すなわち、殺ウイルス効果を得るのに十分な量を指す。一実施形態では、好適な担体は、安定剤、香料、着色料、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、又はそれらの混合物を含む群から選択される。別の実施形態では、当該殺ウイルス性組成物は、液体、ゲル、フォーム(泡沫)、スプレー又はエマルションの形態であることができる。さらなる実施形態では、当該殺ウイルス性組成物は、芳香剤、殺菌液、又は消毒液とすることができる。
【0076】
本発明の別の態様は、本発明の殺ウイルス性組成物又は1種以上の本発明の殺ウイルス性ナノ粒子と、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子を付与及び/又は分注するための手段とを含む装置(又は製品)を提供する。別の実施形態では、上記手段は、ディスペンサー、スプレーアプリケーター、又は本発明の殺ウイルス性ナノ粒子に浸した固体支持体を含む。別の実施形態では、この支持体は、織布又は不織布、織物、ペーパータオル、コットンウール、吸収性ポリマーシート、又はスポンジである。
【0077】
本発明の別の態様は、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子又は本発明の殺ウイルス性組成物又は本発明の医薬組成物を用いた消毒及び/又は殺菌の方法を提供する。
【0078】
好ましい実施形態では、当該消毒及び/又は殺菌の方法は、(i)少なくとも1種の本発明の殺ウイルス性ナノ粒子、又は本発明の殺ウイルス性組成物、又は本発明の医薬組成物を準備する工程と、(ii)インフルエンザウイルスに汚染された表面、又はインフルエンザウイルスに汚染されたと疑われる表面を、少なくとも1種の本発明の殺ウイルス性ナノ粒子、又は本発明の殺ウイルス性組成物、又は本発明の医薬組成物と、殺ウイルス効果を得るのに十分な時間接触させる工程とを備える。いくつかの実施形態では、インフルエンザウイルスに汚染された表面は、ヒト又は動物の皮膚である。他の実施形態では、インフルエンザウイルスに汚染された表面は、医療機器、衣類、マスク、家具、部屋等の非生物の表面である。
【0079】
本発明の別の態様は、殺菌のため、及び/若しくは消毒のための、本発明の殺ウイルス性ナノ粒子又は本発明の殺ウイルス性組成物又は本発明の医薬組成物の使用を提供する。いくつかの実施形態では、殺菌及び消毒は、インフルエンザウイルスに汚染された表面又はインフルエンザウイルスに汚染されたと疑われる表面のためのものである。いくつかの好ましい実施形態では、この表面は、ヒト又は動物の皮膚である。他の好ましい実施形態では、上記表面は、医療機器、衣類、マスク、家具、部屋等の非生物の表面である。一実施形態では、本発明の殺ウイルス性組成物又は本発明の医薬組成物は、頻繁に使用する殺ウイルス性手指消毒剤として使用される。別の実施形態では、本発明の殺ウイルス性組成物又は本発明の医薬組成物は、噴霧によって付与される。さらなる実施形態では、本発明の殺ウイルス性組成物又は本発明の医薬組成物は、保護マスク上に塗布される。
【0080】
当業者であれば、本明細書に記載された発明は、具体的に記載されたもの以外にも変形及び変更が可能であることを理解できるであろう。本発明は、その趣旨又は本質的な特性から逸脱しない範囲で、そのようなすべての変形及び変更を含むことを理解されたい。また、本発明は、本明細書で言及又は示されているすべての工程、特徴、組成物及び化合物を、個別に又はまとめて、並びに上記工程又は特徴の任意及びすべての組み合わせ又は任意の2つ以上を含む。それゆえ、本開示は、すべての態様において例示されただけであり、制限的ではないと考えられ、本発明の範囲は添付の請求項によって示され、均等の意味及び範囲内に入るすべての変更は、本発明に包含されることが意図されている。
【0081】
前述の説明は、以下の実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。しかしながら、このような実施例は、本発明を実施する方法を例示するものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0082】
実験データ
密度アッセイ
最適な6’SLN密度を明らかにするために、3つの異なる6-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(6’SLN)密度のNPを合成した(
図1)。また、PEG(5)及び3-シアリル-N-アセチルラクトースアミン(3’SLN)でコーティングした金ナノ粒子を用いた対照実験も行った。
【0083】
2種のA型インフルエンザ株H1N1(Neth/09)及びH3N2(Sing/04)、並びに1種のB型インフルエンザ株Yamagataについて、用量反応性の比較試験を行った。LD-6’SLN NPは、試験したすべてのウイルスに対して最も低い半数阻害濃度(EC50)を有する。一般的に、NPはB型よりもA型をよく阻害した。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
次に、阻害のメカニズムが不可逆的であるか否かを調べるために、殺ウイルス性アッセイを行った。殺ウイルス性アッセイでは、NPを対応するIC99濃度のウイルスと一定時間インキュベートした。その後、接種物の連続希釈を行い、ウイルスの残存感染力を測定した。Neth/09株及びSing/04株に対するLD 6’SLN NPの殺ウイルス活性は、用量反応実験に比べてウイルス濃度を10倍に高めて試験した。Neth/09株の力価は2ログ(対数)低下したのに対し、Sing/04株は1.5ログ低下した。ウイルスの力価が1~2ログ低下するということは、ウイルスが不可逆的に阻害されていることを示す。
【0088】
ウイルスとNPとの相互作用を明らかにするTEM研究
ウイルスとNPとの相互作用は、電子顕微鏡観察(TEM)でも示された。H3N2 Vic/11ウイルスをLD 6’SLN NPと1時間インキュベートした。TEMのグリッドを調製した後、メチルタングステン染色を行った。ウイルスの大部分はLD 6’SLN NPで完全に覆われていた(
図2B)。PEG(5)NPを用いた対照実験では、NPは全周に渡っていたが、ウイルスのエンベロープには付着していなかった(
図2C)。
【0089】
鳥インフルエンザウイルスを阻害するNPの可能性
インフルエンザのパンデミックは、通常、動物のインフルエンザ株とヒトのインフルエンザ株が混じり合うときに現れる。それゆえ、次の目標は、本発明のNPで鳥インフルエンザ株を不可逆的に阻害することである。予備的な研究を、卵馴化ウイルス株であるCAL/09を用いて行った。Neth/09とCAL/09は非常によく似た2種のヒトH1N1株である。LD-6’SLN NPはNeth/09株に対して強い活性を有する。しかしながら、鶏卵を用いて複製されたCAL/09株は、LD 3’SLN NPとより高い親和性で結合する(表4)。この結果は、LD-3’SLN NPが鳥インフルエンザ株を阻害することを示す。
【0090】
【0091】
金のコアからシクロデキストリンのコアへ
ヒトインフルエンザウイルスは、C15-6’SLNをグラフトした金NPで不可逆的に阻害された。しかしながら、医薬品への応用には、金コアを有機材料に変えることが重要である。ポリマー、デンドリマー、デンドロン等の異なる有機材料の中でも、シクロデキストリン(CD)は、HAを標的にするために6’SLNを持つリガンドをグラフトするのに好ましいコアである。
【0092】
CDのサイズ(d 約1.5nm)は、本発明の金(金属)NP(約3nm)に匹敵し、HAの球状頭部(約5nm)とよく一致する。金(金属)NPと同様、シクロデキストリンは剛直な化学構造を持っており、これはリガンドとともに殺ウイルス活性に寄与する。また、β-シクロデキストリンは最大で7つの三糖(より好ましくは3又は4つの三糖)を持つことができ、3はHA球状頭部のシアル酸結合点の正確な数である(
図3A)。それゆえ、金ナノ粒子と非常によく似た方法で、β-CDをC15-6’SLNで修飾した。
【0093】
シアル酸を持つ従来の有機材料と比較して、異なるヒトインフルエンザウイルスに対して有意に低いEC
50値が得られた(
図3B)。修飾シクロデキストリンの殺ウイルス活性はインビボ及びエキソビボの実験の両方で証明され、これらの実験でウイルスの力価は数ログ低下した(
図3C及び
図3D)。エキソビボでの成功裏の結果は、修飾シクロデキストリンがインビボでウイルスを不可逆的に阻害することを示す。
【0094】
ナノ材料を用いてヒトインフルエンザウイルスを不可逆的に阻害するためには、リガンドと同様に三糖の選択が非常に重要であることがここで示される。金ナノ粒子とシクロデキストリンの2つの異なるコアにあるC15-6’SLNリガンドは、非常に低いナノ材料濃度でいくつかの株のヒトインフルエンザウイルスを阻害した。三糖単位では低nM範囲(1~100nM)のEC50濃度が達成されたが、同様の材料についての文献のEC50値は50~500倍高かった。
【0095】
修飾シクロデキストリンのインビトロ抗ウイルス活性
化学構造と抗ウイルス活性の関係を調べるために、β-シクロデキストリン(β-CD)を、三糖を用いて及び用いずに、異なるリガンドで修飾した。例示的な修飾シクロデキストリンを
図4に示す。これらは、
1H核磁気共鳴分光法(NMR)で測定したところ、同等の数の三糖を有する(
図5及び表5参照)。インフルエンザA/Netherlands/2009(H1N1)株(A/NL/09)に対する用量反応アッセイを行い、これらのNPの阻害活性を比較した(
図6)。感染は、感染後24時間(感染後の時間、hpi)に、免疫細胞化学的なアッセイで定量化した。十分に長い疎水性リガンドと6’SLN末端基を持つβ-CD(C6-6’SLN、C11-6’SLN及びC14-6’SLN)は、インフルエンザA/NL/09による細胞への感染に対して強い阻害活性を示し、EC
50値はナノモル範囲であった。他方、より短いリガンドC1-6’SLNを有するβ-CDは、感染をほとんど阻害しなかった。十分に長いリガンドを導入することで、末端基の柔軟性が明らかに高まり、その結果、阻害濃度が減少した。疎水性のリガンドを親水性のPEG8リガンドに置き換えた場合(PEG8-6’SLN)、EC
50は同等であった(ただし若干高かった)。
【0096】
【0097】
A/NL/09に対して最も良好な阻害活性を示したナノ粒子であるC11-6’SLNは、A型及びB型の両方のヒトインフルエンザ株に対して強い抗ウイルス活性を示した(表6及び
図7)。重要なのは、C11-6’SLNが、University Hospital of Geneva(ジュネーブ大学病院)の患者から分離され、細胞内で1回だけ継代された、ごく最近のA(H1N1)型及びB型の臨床株(2017/2018年のインフルエンザシーズンのもの)を阻害したことである。C11-6’SLNは、HSPG結合ウイルスであるHSV-2に対しては抗ウイルス活性を示さず、これは、この化合物のシアル酸依存性ウイルスに対する特異性を示す。
【0098】
6’SLNはヒトのインフルエンザ株に特異的であることが知られているが、3’SLNは鳥インフルエンザ株に一次付着点として好まれる。このアプローチの汎用性、とりわけ種の壁を越える能力を持つことが知られているインフルエンザ株に対する汎用性を証明するために、C11-3’SLNを合成し、鳥インフルエンザ株に対して試験した(
図4)。C11-3’SLNは、H5N1及びH7N1の2つの鳥インフルエンザ株を、それぞれ4.1μg/ml及び8.8μg/mlの濃度で阻害することに成功した(表6参照)。事実上、これらの結果は、ヒト株に対して採用した上記戦略を裏付けるものである。重要なのは、これらの鳥類株の1つであるH5N1は、次のインフルエンザ・パンデミックを引き起こす可能性が高いということである。C11-3’SLNがヒト株であるA/NL/09を阻害することができるかどうか、及びC11-6’SLNが鳥類株であるH5N1に対しても活性を示すかどうかをさらに試験した。C11-3’SLNはA/NL/09に対して良好な阻害活性を示したが(
図4及び表6)、C11-6’SLNはH5N1に対して活性を示さなかった(表6及び
図8)。これらの結果は、異なるタイプのシアル酸に対する鳥類株とヒト株の結合親和性を比較した過去の文献と一致している。鳥インフルエンザ株(特にH5N1株)は、薄くて直線的なトランス構造を持つα-2,3結合シアル酸に優先的に結合する。他方、ヒト株のより広いシアル酸結合部位は、嵩高いシス構造を持つα-2,6結合シアル酸及びより幅の狭い-2,3結合シアル酸の両方に対応できる。
【0099】
【0100】
続いて、阻害メカニズム、すなわち殺ウイルス性(不可逆的)であるか又はウイルス増殖抑止性(可逆的)であるかを明らかにするために、殺ウイルス性アッセイを行った。β-シロデキストリンのコア及び6’SLNの部分を共通にするが、異なるリガンドを持つ類似のナノ粒子を合成することで、殺ウイルス作用をもたらす構造的特徴が浮き彫りになる(
図9及び
図10)。不可逆的なウイルス阻害の重要な要素の1つは、結合部分(ここでは6’SLN)が疎水性のリガンドによって担われることであるという仮説を立てた。この仮説を検証するために、C11-6’SLNとP8-6’SLNを比較した。簡単に説明すると、完全に保護する量の化合物(10μgのC11-6’と50μgのP8-6’)をA/NL/09と1時間インキュベートした。接種物の連続希釈を行い、その後、感染性を評価した。C11-6’の場合、(a)のグラフは希釈しても完全に保護されていることを示し、(c)のグラフはこの特性が多くの異なる株に対して見られることを示す。これを不可逆的(すなわち、希釈に強い)阻害活性といい、殺ウイルスメカニズムと呼ぶ。P8-6’の場合、(b)のグラフは、初期濃度では完全に保護されていたが、希釈すると対照サンプル(ウイルスのみ)の感染力との差がなくなったことを示す。つまり、阻害効果は可逆的である(ウイルス増殖抑止性である)ことが判明した。この2つのナノ粒子は、リガンドの疎水性のみが異なり、同等の阻害活性を示す。殺ウイルス性アッセイでは、C11-6’SLNはウイルスの力価を1000倍に低下させたが(
図9b)、P8-6’SLNの場合は感染が完全に回復した(
図9a)。従って、C11-6’SLNはウイルスに対して不可逆的な阻害効果を持つのに対し、P8-6’SLNの効果は可逆的である。注目すべきは、どちらのナノ粒子も細胞に対して無毒性であることである(
図9a及び
図9b)。他のインフルエンザ株に対するC11-6’SLNの殺ウイルス活性をさらに調べたところ、株によらず不可逆的な活性が確認された(
図9c)。
【0101】
修飾シクロデキストリンのエキソビボ活性
ヒトの気道上皮を再構成した3DモデルであるMucilAir(登録商標)を用いて、エキソビボ実験を行った。この気液界面培養物は、ヒトにおけるインフルエンザウイルス複製の主要な部位であるヒトの上気道上皮の偽重層構造(基底細胞、繊毛細胞、杯細胞)とバリアー防御機構(すなわち、粘膜繊毛クリアランス及び上皮細胞免疫)の両方を完全に模倣する。エキソビボ実験は、適応バイアスを排除するため、細胞内で継代培養されていない臨床H1N1パンデミック09株を用いて行った。C11-6’SLN又はP8-6’SLN(50μg/組織)とウイルス(10
4RNAコピー/組織)を、事前にインキュベートすることなく、組織の頂部(アピカル)表面に最初に同時に添加した。4時間後、接種物を除去し、組織を洗浄し、ナノ粒子を再添加することなく、組織の頂部洗浄液からqPCRを用いて感染の進行を毎日モニタリングした。C11-6’SLNは、実験の全過程を通じてウイルスの複製を完全に阻止したのに対して、P8-6’SLNは、感染後最初の2日間(感染後の日数、dpi)はウイルスの複製をわずかに低下させたが、それ以降は阻止しなかった(
図11a)。
【0102】
さらに、C11-6’SLNで処理した組織では、ウイルスの複製が阻害されていることは、感染細胞が存在しないことや、処理した組織の形態が乱れていないことからも明らかであり、未処理の組織やP8-6’SLNで処理した組織とは明らかに異なっていた(
図11b)。免疫蛍光画像と頂部洗浄液中の乳酸脱水素酵素(LDH)の放出がないこととから、繊毛細胞層と生理的な繊毛の運動及び組織の完全性とが保たれていることが明らかになった(
図11b及び
図12)。これとは対照的に、未処理の組織又はP8-6’SLNで処理した対照組織では、繊毛細胞層の変化と感染細胞の存在により、厚みが減少していた(
図11b)。処理した組織でqPCRにより検出された残留ウイルスレベルが感染性であることを除外するために、組織を23日間培養下で保ったが、経時的なウイルス力価の上昇は観察されず、一方で未処理の組織では持続的にウイルスが排出されていた(
図13)。重要なのは、C11-6’SLN(30μg/組織)を治療目的での投与を模して1dpiから24時間ごとに4日間投与したより厳しい後処理条件でも、エキソビボ実験を行ったことである。また、この条件では、上記ナノ粒子は顕著な阻害活性を示し、治療薬としての可能性が証明された(
図11c)。同じエキソビボモデルで、高用量のC11-6’SLNを毎日投与した場合の生体適合性を評価した。C11-6’SLNは、上述の条件において、細胞毒性や炎症促進活性を示さなかった(
図14)。
【0103】
修飾シクロデキストリンのインビボ活性
BALB/cマウスを用いて、共処置と後処置の両方の条件でインビボ実験を行った。共処置実験では、マウスにC11-6’SLN(25μg/マウス)とA/NL/09(100感染粒子/マウス)を同時に経鼻経路で投与した。C11-6’SLNの投与が感染動物の生理的状態に与える影響を推定するために、マウスの体温と体重を毎日測定した。2dpiにおいて、マウスの半分を無作為に安楽死させ、残りのマウスをC11-6’SLNで再処置した。第2群のマウスは4dpiで安楽死させた。気管支肺胞洗浄液(BAL)からウイルスの力価を定量した(
図15a)。処置を受けたマウスでは、感染後2日目及び4日目にウイルス力価の有意な低下が観察された(
図15a)。また、C11-6’SLNの抗ウイルス作用により、無処置のマウスに比べて体重と体温の両方が有意に維持され、罹患率が著しく低下した(
図15b及び
図15c)。総合すると、これらの結果は、C11-6’SLNナノ粒子は、インビボでの肺におけるウイルスの感染と拡散を防ぐ能力があることを実証する。
【0104】
C11-6’SLNのインビボでの治療潜在能力は、後処置の条件でも評価した。マウスをA/NL/09(100感染粒子/マウス)に感染させ、6hpiでC11-6’SLN(14μg/マウス)で処置し、その後3日間毎日、同じ用量のナノ粒子で処置した(
図15d~f)。毎日、マウスの体重と体温を測定した。後処置の条件ではC11-6’SLNの効力は低下していたが、それでも感染の進行を遅らせた。処置したマウスは、罹患徴候の減少(
図15d及び15e)及び臨床スコアの改善を示した。これらの感染動物の生理状態の改善は、生存期間の延長にもつながった(
図15f)。
【0105】
方法
修飾シクロデキストリンの合成
化学物質:Neu5Acα(2,6)-Galβ(1-4)-GlcNAc-β-エチルアミン及びNeu5Acα(2,3)-Galβ(1-4)-GlcNAc-β-エチルアミンはTCI chemicals(ティーシーアイ・ケミカルズ)から購入した。ヘプタキス-(6-デオキシ-6-メルカプト)-β-シクロデキストリン及びカルボキシメチル-β-シクロデキストリンナトリウム塩は、Cyclodextrin-Shop(シクロデキストリンショップ)から購入した。11-ドデセン酸はabcr GmbH(アーベーツェーエル)から購入した。14-ペンタデセン酸はLarodan AB(ラロダン)から購入した。マレイミド-PEG8-CH2CH2COOHはPurePEG(ピュアーペグ)から購入した。その他の化学物質及び溶媒はすべてSigma-Aldrich(シグマ・アルドリッチ)から購入した。
【0106】
方法:インフルエンザウイルスを標的としたシクロデキストリン誘導体を3工程で合成した。第1の工程は、シクロデキストリンへのリガンドの結合であった。第2の工程は、リガンドの-COOH末端基をN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化することであった。第3の工程は、リガンドへのSLNのグラフトであった。
【0107】
工程1:リガンドによるβ-シクロデキストリンの修飾
5mLのDMSO中で、0.04mmolのヘプタキス-(6-デオキシ-6-メルカプト)-β-シクロデキストリンを、UVランプ(250W)の存在下で、0.28mmolのアリル末端基とカルボン酸末端基を持つ2官能分子(リガンド)(6-ヘプテン酸、11-ドデセン酸又は14-ペンタデセン酸等)と一晩撹拌した。得られたヘプタキス-(6-デオキシ-6-アルカン酸チオン)-β-シクロデキストリン誘導体を、DCM-ジエチルエーテル混合物から遠心分離により沈殿させ、真空下で乾燥させた。
【0108】
PEG8スペーサーでβ-シクロデキストリンを修飾するために、0.04mmolのヘプタキス-(6-デオキシ-6-メルカプト)-β-シクロデキストリンを、0.28mmolのマレイミド-PEG8-CH2CH2COOHとともに、5mLのリン酸バッファ(pH:6.8)中で一晩撹拌した。この修飾β-シクロデキストリンを透析で精製し、凍結乾燥した。
【0109】
工程2:NHS活性化反応
それぞれ工程1で得られたシクロデキストリン誘導体0.04mmolを、1.12mmolのN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、0.56mmolのエチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC-hcl)、及び0.02mmolの4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)とともに、5mLのDMSO中で一晩撹拌した。得られたNHS活性化シクロデキストリン誘導体を、まず氷冷した水で沈殿させ、アセトニトリル及びジエチルエーテルで洗浄した。生成物を真空下で乾燥させた。
【0110】
C1-6’を得るために、工程1を省略し、NHS活性化反応を直接行った。カルボキシメチル-β-シクロデキストリンナトリウム塩(0.04mmol)を、1.12mmolのNHS、0.56mmolのEDC-hcl及び0.02mmolのDMAPを加えることで直接活性化した。活性化反応を一晩行った。得られたシクロデキストリン誘導体を、まずDCM-ジエチルエーテル混合液から沈殿させ、さらに3回洗浄した。この生成物を真空下で乾燥させた。6’SLNグラフト化は工程3と同様に行った。
【0111】
工程3:三糖グラフト化
5.6μmolのNeu5Acα(2,6)-Galβ(1-4)-GlcNAc-β-エチルアミン(C11-3’の場合はNeu5Acα(2,3)-Galβ(1-4)-GlcNAc-β-エチルアミン)を、工程2で得られたシクロデキストリン誘導体1.6μmolと混合した。15μmolのトリエチルアミン(TEA)を加え、1mLのDMSO中で一晩反応させた。反応生成物を0.01Mリン酸バッファ(pH:7.5)で希釈し、アミコンフィルター(MWCO:3k)を用いて濃縮した。得られたヘプタキス-(6-デオキシ-6-SLN-エチルカルボキサミド-アルキルチオ)-β-シクロデキストリン誘導体をさらに蒸留水で洗浄し、凍結乾燥によって乾燥した。リガンド修飾シクロデキストリンへの三糖のグラフト化は、
1H及びDOSY NMR研究で確認した(
図16及び
図17)。
【0112】
C15-6’SLN修飾シクロデキストリンの合成
β-CDのC15修飾:55mgのチオール修飾β-CDと70mgの14-ペンタデセン酸を5mLのDMSO中で、紫外線下で一晩撹拌した。
【0113】
C15-β-CDのNHS活性化:得られた材料を、DMF中で、100mgのNHS、75mgのEDC、2.5mgのDMAPを用いて一晩かけて活性化した。NHSで活性化したC15-β-CDを氷冷した水で沈殿させ、さらに3回洗浄した。最後の沈殿はアセトニトリルで行った。
【0114】
C15-β-CDへの6’SLNのグラフト化:5mgのC15-β-CD及び5mgのアミン官能化6’SLN及び3mgのTEAをDMSO中で一晩撹拌した。得られた材料を、アミコンフィルターを用いて洗浄した。
【0115】
PEGナノ粒子の合成
PEG(5)NPの合成:15mLのEtOH中の88.6mgのテトラクロロ金(3)酸三水和物(HAuCl4・3H2O)を、5mLのEtOH中の56mgのHS-PEG(5)と10分かけて混合した。この混合物に、37.5mLのEtOH中の94.6mgの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を滴下して加えた。完全なNP形成のために、一晩反応させた。結果として得られたNPは、EtOH-H2O溶媒混合物を使用してアミコンフィルターを用いて洗浄した。
【0116】
PEG(5)-C15混合リガンドNP:1.5mgの16-メルカプトヘキサデカン酸(HS-C15-COOH)及び20mgのPEG(5)NPを用いて、DMF中で一晩、リガンド交換反応を行った。DMF-ジエチルエーテル混合液からNPを沈殿させ、さらに3回洗浄した。
【0117】
NPのNHS活性化:15mgのNPを、10mgのN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)、2mgのエチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、0.1mgの4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)を用いて、DMF中で一晩、活性化した。得られたNPをDMF-ジエチルエーテル混合液から析出させ、さらに3回洗浄した。
【0118】
NPへの6’SLNのグラフト化:1mLのDMSO中の5mgのNHS活性化NPを、3mLの0.1Mリン酸バッファ(pH:7.5)中の1.7mgのアミン官能化6’SLNと混合した。5時間反応させた後、6’SLNグラフトNPをアミコンフィルターで洗浄した。
【0119】
生物学的アッセイ
材料:DMEM-Glutamax培地はThermo Fischer Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)から購入した。洗浄バッファ用のTween 20(登録商標)及び3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)錠剤はSigma Aldrichから購入した。一次抗体(A型インフルエンザモノクローナル抗体)は、Light Diagnostics(ライト・ダイアグノスティクス)から購入した。二次抗体(抗マウスIgG、HRP結合抗体)はCell Signaling Technology(登録商標)から購入した。テトラゾリウム化合物[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、分子内塩;MTS]と電子結合試薬(フェナジン・エトスルフェート;PES)を含むCellTiter 96(登録商標) AQueous One Solution Cell Proliferation AssayはPromega(プロメガ)から購入した。
【0120】
細胞培養:
MDCK(メイディン・ダービー・イヌ腎臓細胞、Madin-Darby Canine Kidney Cells)細胞株は、ATCC(アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)、ロックビル(Rockville)、メリーランド州)から購入した。この細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むグルコース添加ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM+GlutaMAX(商標))中で培養した。MDCK細胞株は、CO2(5%)を含む加湿空気中で37℃で培養した。
【0121】
ウイルス株:
HSV-2の臨床分離株は、もともとはM.Pistello教授(ピサ大学(University of Pisa)、イタリア)から提供されたもので、Vero細胞でのプラークアッセイにより増殖させ、滴定した。H1N1 Neth09及びB Yamagataは、M.Schmolke教授(University of Geneva(ジュネーブ大学))からの寄贈品である。鳥類株NIBRG-23(A/turkey/Turkey/1/2005 H5N1表面タンパク質及びA/PR/8/34(H1N1)バックボーンを用いて逆遺伝学的に調製したもの)は、イギリス国立生物学的製剤研究所(National Institute for Biological Standards and Controls)、ポッターズ・バー(Potters Bar)、英国から入手し、10日齢の胚化鶏卵でさらに増殖させた後、ウイルスの精製と特性評価を行った。臨床サンプルは、University Hospital of Geneva(ジュネーブ大学病院)から匿名の患者から提供された。すべてのインフルエンザ株は、TPCK処理したトリプシン(0.2mg/ml)の存在下、MDCK細胞上でICCにより増殖、滴定した。
【0122】
細胞生存率アッセイ
細胞生存率は、MTS[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム]アッセイにより測定した。96ウェルプレートに播種したコンフルエントな細胞培養物を、抗ウイルスアッセイについて記載したのと同じ実験条件で、異なる濃度のナノ粒子又はリガンドと三重にインキュベートした。CellTiter 96 Proliferation Assay Kit(Promega、マディソン(Madison)、ウィスコンシン州、米国)によって、製造者の使用説明書に従って細胞生存率を測定した。吸光度は、マイクロプレートリーダー(Model 680、BIORAD(バイオ・ラッド))を用いて490nmで測定した。ナノ粒子又はシクロデキストリンの異なる濃度における細胞生存率への影響は、処理した細胞の吸光度を培養液のみでインキュベートした細胞の吸光度と比較することにより、パーセントで表した。50%細胞毒性濃度(CC50)及び95%信頼区間(CI)は、Prismソフトウェア(Graph-Pad Software(グラフパッド・ソフトウェア)、サンディエゴ、カリフォルニア州)を用いて求めた。
【0123】
阻害アッセイ
MDCK細胞を96ウェルプレートに24時間前にプレプレーティングした。濃度を上げた材料をインフルエンザウイルス(MOI:H5N1では0.02又は0.01、その他のウイルスでは0.1)と37℃で1時間インキュベートした後、この混合物を細胞に添加した。ウイルスの吸着(37℃で1時間)後、接種したウイルスを除去し、細胞を洗浄して新鮮な培地を加えた。37℃で24時間インキュベートした後、免疫細胞化学(ICC)アッセイで感染を分析した。細胞を固定し、メタノールで透過処理した。その後、一次抗体(1:100希釈)を加え、37℃で1時間インキュベートした。細胞を洗浄バッファ(DPBS+Tween 0.05%)で3回洗浄した後、2次抗体(1:750希釈)を加えた。1時間後、細胞を洗浄し、DAB溶液を加えた。感染細胞を数え、処理した条件と未処理の条件での感染細胞の数を比較して感染率を算出した。
【0124】
H5N1の場合は、フローサイトメトリーを用いた阻害アッセイを追加で行った。MDCK細胞を24時間前に24ウェルプレートにプレプレーティングした(75,000細胞/ウェル)。濃度を上げた材料をインフルエンザウイルス(MOI:0.04)とともに37℃で1時間インキュベートした後、この混合物を細胞に添加した。ウイルスの吸着(37℃で1時間)後、接種したウイルスを除去し、細胞を洗浄して新鮮な培地を加えた。37℃で5時間インキュベートした後、フローサイトメトリーで感染を分析した。簡単に説明すると、細胞をトリプシン処理し、IC固定バッファ(Thermo Fisher Scientific、オランダ)を用いて室温で15分間固定した後、1×IC透過処理バッファ(Thermo Fisher Scientific、オランダ)を用いて4℃で15分間透過処理を行った。Anti-Influenza A Virus Nucleoproteinマウスモノクローナル抗体[D67J](FITC)(Abcam ab210526、オランダ)を用いて、4℃で30分間、細胞を染色した。抗体の希釈率は透過処理バッファで1:80とし、チューブあたり50μlを加えた。FACS解析は、FACS Calibur 3ソフトウェアを用いて行った。感染細胞数の50%減少をもたらす濃度(有効濃度(EC
50))をPrismソフトウェアを用いて決定した。
図18に示すように、FACSのゲーティング戦略を行った。FSC/SSCに基づいて最初のゲーティングを行い、次にFITCのネガティブゲートを行った。このゲーティングを残りのサンプルに適用した。
【0125】
H7N1の感染力はルシフェラーゼ活性で評価した。MDCK細胞を96ウェルプレートに5×104個で播種した。24時間後、培地を無血清培地に交換した。濃度を上げたC11-3’を、ナノルシフェラーゼ(NanoLuciferase)をコードするH7N1 A/Turkey/Italy/977/1999の100pfuとインキュベートした。この混合物を37℃で1時間インキュベートした後、細胞に加えて37℃でさらに1時間インキュベートした(1ウェルあたり100μL)。細胞を洗浄し、培地を1μg/mLのTPCK-トリプシンを含む無血清培地に交換した。感染から24時間後、細胞を洗浄した後、PBSで1/2に希釈したNano Glo(登録商標)Luciferase Assay Buffer(Promega)を1ウェルあたり40μL用いて溶解した。Tecan Infinite M200PROプレートリーダーを用いて、細胞溶解液中のルシフェラーゼ活性を測定した。PBSで1/5000に希釈したNano Glo(登録商標)Luciferase Assay Substrate(Promega)15μlを各ウェルの細胞溶解液15μlに加えた。
【0126】
殺ウイルス性アッセイ
ウイルス(フォーカス形成単位(ffu):105/mL)と試験材料(EC99濃度、表7)を37℃で1時間インキュベートした。ウイルス-材料複合体の連続希釈を、未処理の対照とともに行い、細胞上に移した。1時間後、上記混合物を除去し、新鮮な培地を加えた。翌日、ウイルスの力価をICCアッセイで評価した。ICCアッセイでは、上述の同じ手順に従った。
【0127】
【0128】
データ解析
すべての結果は、二重に行った3回の独立した実験の平均値として提示されている。阻害曲線のEC50値は、GraphPad Prismバージョン5.0(GraphPad Software、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)というプログラムを用いて回帰分析を行い、可変勾配-シグモイド用量反応曲線に当てはめて算出した。
【0129】
エキソビボ
共処理番号1:H1N1 Neth/09株(pfu:104~105)及びCD-C15-6’SLN(400μg/mL)をMucilAir(ヒト気道上皮の再構築物)に同時に添加した。4時間後、上清を除去し、新鮮な培地を加えた。上清のウイルス力価を24時間ごとにqPCRで追跡した。
共処理番号2:インビトロで再構築したヒト気道上皮、MucilAir組織(Epithelix Sarl(エピセリクス)、ジュネーブ、スイス)を、健康なドナーに由来する鼻ポリープ上皮細胞の混合物から気液界面で培養した。インフルエンザH1N1 pdm 2009臨床株(104rnaコピー/組織)及びC11-6’(50μg/組織)を、未処理の対照とともに、事前にインキュベートすることなく組織に移した。4時間のインキュベーション後、組織を2回洗浄した。1日ごとに基礎培地を交換した。毎日qPCR測定を行うために、200μLの培地を組織に加え、20分後に回収した。EZNAウイルス抽出キット(Omega Biotek(オメガ・バイオテック))で抽出したRNAを、StepOne ABI Thermocycler中でQuantiTectキット(番号204443;Qiagen(キアゲン)、ヒルデン(Hilden)、ドイツ)を用いてqPCRを使用することにより定量した。
【0130】
後処理:MucilAirの組織をH1N1 pdm 2009に感染させた(104コピー/組織)。4時間後に接種物を除去し、組織を洗浄した。20時間後、20分間(’)の頂部洗浄を行い、続いてC11-6’(30μg/組織)、又は未処理組織では同量の培地を頂部に加えた。毎日、20分間(’)の頂部洗浄の後、C11-6’の新たな添加を行った。その後、RNAを抽出し、上述の方法でqPCRを行った。毒性研究のために、ウイルスのない状態で同様の手順を行った。
【0131】
免疫蛍光
インフルエンザ感染細胞は、A型インフルエンザ抗体(Light Diagnostic)を用いて直接検出し、βチューブリン一次ウサギ抗体(Abcam(アブカム))を繊毛細胞のマーカーとして使用した。二次抗体としてAlexa 488-ヤギ抗ウサギ抗体及びAlexa 594-ヤギ抗マウス抗体(Life Technologies(ライフ・テクノロジーズ))を使用し、核をDAPIで染色した。画像は、Zeiss LSM 700 Meta共焦点顕微鏡で取得し、Imarisで処理した。
【0132】
乳酸脱水素酵素アッセイ(LDH)
基礎培地中のLDH放出は、Cytotoxicity Detection Kit(Roche(ロシュ) 04744926001)を用いて測定した。
【0133】
MTTアッセイ
MTT溶液をMucilAir培地(1mg/ml)で希釈し、300μlを24ウェルプレートに基礎培地として加えた。37℃で4時間培養した後、組織を新しいプレートに移し、1mlのDMSOで溶解した。上清を570nmで読み取った。処理した組織と未処理の組織を比較して、生存率を算出した。
【0134】
ELISA
インターロイキン-6(IL-6)、CXCモチーフケモカイン10(CXCL10又はIP-10)、CCモチーフケモカイン5(CCL5又はRANTES)、インターロイキン-8(IL-8又はCXCL-8)、及びインターフェロンλ(IL-29/IL-28B)を、異なる濃度のCDで毎日処理した後に、ELISA法(R&D DY206-05、DY266-05、DY278-05、DY208-05、DY1598B-05)により基礎培地中で測定した。
【0135】
インビボ
前処置:5匹のBALB/cマウスの4群を、0日目に50μlのPBS又はC11-6’(50μl中25μg)で処置し、直ちにA/NL/09(102ffu)を接種した。毎日マウスの体温と体重を測定した。感染後2日目に2群のマウスを犠牲にした(1群はpbs、もう1群はC11-6’処置)。肺ホモジネートと鼻粘膜、及び気管支肺胞洗浄液を採取し、qPCR測定によりウイルスの力価を定量した。C11-6’処置群は、同量のナノ粒子で再処置した。2日後、残ったすべてのマウスを犠牲にし、肺ホモジネートと鼻粘膜を採取した。組織を破壊した後、RNAをTrizolで抽出し、qPCRを用いて定量し、BALはプラークアッセイに供した。2回の独立した実験を行った。
【0136】
後処置:10匹のBALB/cマウスの2群を、A/NL/09(102ffu)に感染させ、感染後6時間目に処置し、その後7日間毎日処置した。マウスの体温と体重を毎日測定した。生存試験では人道的なエンドポイントを用い、体重が開始時の体重の75%に減少した時点で頸椎脱臼によりマウスを安楽死させた。加えて、(刺激に反応せず、気づかないような)瀕死の状態になった動物も安楽死させた。
【0137】
用量反応アッセイ
一定ウイルス濃度(ffu:103)を、用量の異なるナノ粒子と一緒に、37℃で1時間インキュベートした。その後、この混合物を細胞に移した。1時間後、混合物を除去し、細胞を洗浄した。翌日、免疫細胞化学(ICC)アッセイで感染を分析した。
【0138】
参考文献
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