(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】判定装置、判定方法、判定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240626BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
A61B6/03 577
A61B6/03 560T
A61B6/03 560J
A61B10/00 T
(21)【出願番号】P 2021518396
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2020018537
(87)【国際公開番号】W WO2020226155
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019089266
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「難治性疾患実用化研究事業」「難治性副腎疾患の診療に直結するエビデンス創出」再委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 紘嗣郎
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】FUNDER, W. John et al.,"The Management of Primary Aldosteronism: Case Detection, Diagnosis, and Treatment: An Endocrine So,The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism,2016年05月01日,Volume 101, Issue 5,Pages 1889-1916
【文献】一般社団法人 日本内分泌学会・日本内分泌外科学会 編集,"日本内分泌学会臨床重要課題「わが国の原発性アルドステロン症の診療に関するコンセンサス・ステートメン,日本内分泌学会雑誌,vol.92, Suppl.Sep,2016年,p.27
【文献】柴田 洋孝,"原発性アルドステロン症に関する最近の進歩",公益財団法人山口内分泌疾患研究振興財団 内分泌に関する最新情報,2017年,2017年3月号,1-9頁
【文献】MORIYA, Ayako et al.,"ACTH stimulation test and computed tomography are useful for differentiating the subtype of primary,Endocrine Journal,2017年,vol.64, No.1,pp.65-73
【文献】方波見卓行 他,”原発性アルドステロン症における副腎CTの診断的意義",血圧,2017年,vol.24, no.12,pp.34(854)-37(857)
【文献】福満 隼人 他,”P-U2-4 アルドステロン産生腺腫の分泌能は腫瘍径と正の相関を示す”,日本内分泌学会雑誌,2019年10月20日,第95巻 第2号 第29回臨床内分泌代謝,796頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B6/00-6/14、10/00
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原発性アルドステロン症である被検者について、1以上の所定因子の情報を取得する因子情報取得部と、
前記被検者の副腎のコンピュータ断層撮影による画像に含まれる腫瘍のうち最大の腫瘍の大きさである腫瘍径を取得する腫瘍径取得部と、
前記因子情報取得部が取得した前記1以上の所定因子の情報に基づいて、
前記被検者がS-PAL(small PA-lesion)である確率を算出し、前記腫瘍径及び前記確率に基づい
て、前記被検者について副腎摘出の手術適応を判定する演算部と、
を備える判定装置。
【請求項2】
前記1以上の所定因子は、血清カリウム値及び血漿アルドステロン濃度を含む、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記腫瘍径が第1閾値以上であり、かつ、前記確率が第2閾値未満である場合、前記被検者について副腎摘出の手術適応であると判定する、
請求項1または2に記載の判定装置。
【請求項4】
コンピュータが、
原発性アルドステロン症である被検者について、1以上の所定因子の情報を取得し、
前記被検者の副腎のコンピュータ断層撮影による画像に含まれる腫瘍のうち最大の腫瘍の大きさである腫瘍径を取得し、
取得された前記1以上の所定因子の情報に基づいて、
前記被検者がS-PAL(small PA-lesion)である確率を算出し、前記腫瘍径及び前記確率に基づいて、前記被検者につ
いて副腎摘出の手術適応を判定する、
ことを実行する判定方法。
【請求項5】
コンピュータが、
原発性アルドステロン症である被検者について、1以上の所定因子の情報を取得し、
前記被検者の副腎のコンピュータ断層撮影による画像に含まれる腫瘍のうち最大の腫瘍の大きさである腫瘍径を取得し、
取得された前記1以上の所定因子の情報に基づいて、
前記被検者がS-PAL(small PA-lesion)である確率を算出し、前記腫瘍径及び前記確率に基づいて、前記被検者につ
いて副腎摘出の手術適応を判定する、
ことを実行するための判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定装置、判定方法、判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
原発性アルドステロン症(primary aldosteronism: PA)は、副腎皮質から過剰なアルドステロンが産生されて、塩分や水分の貯留を介して重度な高血圧となる疾患である。高血圧に加えて、アルドステロンは血管に直接作用して血管の線維化やリモデリングを促進することから、脳心血管系の合併症、特に高頻度に脳卒中を合併させることが知られる。このようなPAは、高血圧患者の約10%を占める頻度の高い二次性高血圧疾患である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-500538号公報
【文献】特表2013-534911号公報
【文献】国際公開第2014/054675号
【文献】国際公開第2017/175494号
【文献】国際公開第2012/157130号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PAは主に片側性のアルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma: APA)と両側性の特発性アルドステロン症(idiopathic hyperaldosteronism: IHA)に分類される。前者は一方の副腎を摘除する副腎摘除術により治癒する一方、後者は生涯にわたるミネラロコルチコイド受容体(アルドステロンの受容体)阻害薬による治療を要する。PAが片側性APAであるか両側性IHAであるかを区別する方法として、コンピュータ断層撮影(computed tomography: CT)による副腎腫瘍の検出あるいは副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling: AVS)が行われる。CTによる副腎腫瘍の検出は非侵襲的であるが、高頻度に副腎偶発腫(ホルモン産生のない腫瘍)も誤検出するため、その特異度は70%程度である。一方で、AVSは、左右の細い副腎静脈にX線透視下でカテーテルを挿入し、副腎静脈からの血液を採取して左右のアルドステロン・コルチゾール比を比較して、左右の比が4以上(この値はガイドラインにより異なる)の場合に片側性APAと診断する方法である。AVSは高度な技術を要する検査法であり、AVSの検査費用は高額である。また、AVSには、患者の身体の負担が大きいという問題がある。よって、可能な限りAVSを行わずに、片側性APAを検出することが望ましい。
【0005】
本発明は、原発性アルドステロン症患者から副腎摘出の手術適応を判定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
【0007】
即ち、第1の態様は、
原発性アルドステロン症である被検者について、1以上の所定因子の情報を取得する因子情報取得部と、
前記被検者の副腎のコンピュータ断層撮影による画像に含まれる腫瘍のうち最大の腫瘍の大きさである腫瘍径を取得する腫瘍径取得部と、
前記因子情報取得部が取得した前記1以上の所定因子の情報に基づいて、前記被検者の副腎のアルドステロン産生腺腫が所定の大きさ未満である確率を算出し、前記腫瘍径及び前記確率に基づいて、前記被検者について副腎静脈サンプリングの必要性を判定する演算部と、
を備える判定装置とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原発性アルドステロン症患者から副腎摘出の手術適応を判定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、L-PALとS-PALとの閾値を変化させた場合の術後のPA治癒率の比較の例を示すテーブルである。
【
図2】
図2は、実施形態の判定装置の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、判定装置における、被検者の副腎の腫瘍がS-PALである確率pの算出の動作フローの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、発明の構成は、開示の実施形態の具体的構成に限定されない。発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0011】
〔実施形態〕
(概要)
アルドステロン産生細胞(アルドステロン産生腺腫)を特異的に検出する免疫染色法(アルドステロン合成酵素[CYP11B2]をコルチゾールの合成酵素[CYP11B1]と区別して検出する染色法)が開発され、APAの病理学的確定診断が可能となっている。PAでない副腎や腫瘍が明らかでないPA副腎に、小型で多発するアルドステロン産生細胞クラスタ(aldosterone-producing cell clusters: APCCs)やAPCCsからAPAへの移行かもしれない病変(possible APCC-to-APA transitional lesions: pAATLs)が検出されている。PA患者でCT画像において副腎に腫瘍が認められるにも関わらず、その腫瘍が偶発腫である場合には、PAのほとんどの病変は多発するAPCCsやpAATLsであることが判明している。したがって、APAとAPCCsあるいはpAATLsを術前に予測する方法が確立されれば、CT画像で腫瘍があるPA症例がAPAなのか、あるいは偶発腫及びAPCCs/pAATLsなのかを予測できる。
【0012】
ここで、副腎摘出後のCYP11B2染色によるCYP11B2陽性の病変のうち最大の病変)を、閾値以上である大きなPA病変(large PA-lesion: L-PAL)と閾値未満である小さなPA病変(small PA-lesion: S-PAL)とに分類した。ここでは、L-PALとS-PALとの閾値を5mmとしている。その結果、L-PALでは有意(P<0.05)に術後のPA治癒率が高く、S-PALで術後のPA持続率がともに高いことが判明している。このことは、L-PALは単発性であることが多い一方、S-PALは多発性であることが多いことから、S-PALは両側性であるためと推定される。
【0013】
図1は、L-PALとS-PALとの閾値を変化させた場合の術後のPA治癒率の比較の例を示すテーブルである。
図1のテーブルでは、L-PALとS-PALとの閾値を6mm、5mm、4mm、3mm、2mmとしたときの、術後の完全治癒、及び、術後の一部治癒または未治癒の件数及び割合について、L-PALとS-PALとで比較している。割合は、L-PALまたはS-PALの全件数(完全治癒、一部治癒、及び、未治癒)に対する割合である。例えば、閾値を6mmとしたとき、L-PALの症例のうち、66件(79.5%)で完全治癒となり、17件(20.5%)で一部治癒または未治癒となっている。また、閾値を6mmとしたとき、S-PALの症例のうち、19件(61.3%)で完全治癒となり、12件(38.7%)で一部治癒または未治癒となっている。また、各閾値について、L-PALとS-PALとの差の有意性を示すP値の算出を行っている。
図1のテーブルの例では、閾値を5mmとしたとき、L-PALの完全治癒の割合が最も高くなり、P値が最も低くなっている。よって、L-PALとS-PALとの閾値を5mmとすることが好ましいことが分かる。ここでは、患者の術後のアルドステロンレニン比(aldosteron-to-renin ratio: ARR)が200未満かつ血清カリウム値が3.5mEq/L以上である患者について、完全治癒としている。また、患者の術後のARRが、200以上かつ術前のARRの50%未満であり、血清カリウム値が3.5mEq/L以上である患者について、一部治癒としている。さらに、残りの患者については、未治癒としている。L-PALとS-PALとの閾値は、L-PALの患者の術後のPA治癒率が、S-PALの患者の術後のPA治癒率よりも有意に高くなる他の値であってもよい。当該閾値は、実際の症例に基づいて決定され得る。
【0014】
術前因子と、摘出した副腎がS-PALである(閾値(5mm)以下の大きさのPA病変である)か否かとの対応関係、及び、単変量解析、多変量ロジスティック回帰分析により、S-PALを予測する(S-PALである確率を計算する)ための独立した術前因子が分かる。S-PALを予測するための独立した術前因子の候補として、年齢、性別、BMI(body mass index)、血圧、血清カリウム値、血漿アルドステロン濃度、血漿レニン活性等が挙げられる。血清カリウム値、血漿アルドステロン濃度、血漿レニン活性は、血液検査によって測定可能な量である。統計解析により、S-PALを予測するための独立した術前因子は、血清カリウム値と血漿アルドステロン濃度であることが分かった。これらの因子からS-PALである確率を計算する回帰式が得られる。S-PALである確率を計算する式を算出するために、単変量解析、多変量ロジスティック回帰分析以外の統計解析手法が使用されてもよい。S-PALである確率が低いことは、L-PALである確率が高いことを示す。S-PALである確率は、L-PALでない確率と同義である。
【0015】
S-PALである確率pを計算する回帰式は、S-PALを予測するための独立した術前因子である血清カリウム値と血漿アルドステロン濃度を用いて、例えば、次のように表される。
【数1】
ここで、PACは、術前の血漿アルドステロン濃度(pg/mL)である。Kは、術前の血清カリウム値(mEq/L)である。また、変数A、B、Cは、単変量解析、多変量ロジスティック回帰分析によって得られる係数である。実際の症例から、例えば、A=-0.00374、B=1.730、C=-5.902と求まる。この式により、術前に測定した血清カリウム値と血漿アルドステロン濃度とから、副腎の腫瘍がS-PALである確率pを算出することができる。変数A、B、Cは、ここに挙げた値に限定されるものではなく、実際の症例に基づいて決定され得る。また、S-PALを予測するための独立した術前因子は、血清カリウム値及び血漿アルドステロン濃度に限定されるものではない。当該術前因子は、血清カリウム値または血漿アルドステロン濃度であってもよい。あるいは、当該術前因子は、上記のような統計解析に基づいて決定される1以上の術前因子(例えば、P値が0.001未満である術前因子)であってもよい。これらの場合、S-PALである確率pを計算する回帰式は、決定された術前因子に応じて周知の統計解析手法に基づいて算出される。
【0016】
また、病理学的な腫瘍のCTによる検出感度や特異度は不明のままであることから、CT画像上の副腎の腫瘍径(tumor in CT: T-CT)の閾値(2mm-10mm)に関して、摘出した副腎のPA病変のサイズとの比較による統計解析により、検討を行った。具体的には、受診者操作特性(receiver operating characteristic: ROC)曲線下の面積(area under the curve: AUC)を計算して各閾値における予測値を推定したところ、AUCが閾値3-5mm(AUC=0.691)で最も大きくなった。この結果、T-CTの閾値は5mmで病理における5mmの閾値の予測に最もよい閾値のひとつであることが判明した。ここで、CT画像上の腫瘍径(T-CT)は、CT画像において最も大きい腫瘍のサイズとする。
【0017】
(構成例)
図2は、本実施形態の判定装置の構成例を示す図である。判定装置100は、腫瘍径取得部102、術前因子取得部104、演算部106、出力部108、格納部110を含む。判定装置100は、人体(被検者)の副腎の腫瘍がS-PALである確率pを算出する装置である。
【0018】
腫瘍径取得部102は、コンピュータ断層撮影装置で撮影された人体(被検者)の副腎のCT画像における当該副腎の腫瘍の大きさ(腫瘍径)を取得する。腫瘍径取得部102は、CT画像における副腎の腫瘍のうち最大の腫瘍の大きさ(腫瘍径)を、CT画像における副腎の腫瘍径(tumor in CT; T-CT)として、取得する。腫瘍径取得部102は、判定装置100に接続されるコンピュータ断層撮影装置等から、CT画像における被検者の副腎の腫瘍径を取得する。腫瘍径取得部102は、被検者の副腎を含む部分が撮影されたCT画像を取得し、既知の画像処理により、CT画像における副腎の腫瘍のうち最大の腫瘍の腫瘍径を算出することにより、CT画像における副腎の腫瘍径を取得してもよい。また、腫瘍径取得部102は、キーボード、タッチパネル等の入力手段等により、利用者(医師等)に被検者のCT画像における副腎の腫瘍径(CT画像における副腎の腫瘍のうち最大の腫瘍の大きさ)を入力させることにより、当該腫瘍径を取得してもよい。取得された当該腫瘍径は、格納部110に格納される。
【0019】
術前因子取得部104は、S-PALを予測するための独立した術前因子である、被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度を取得する。術前因子取得部104は、被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度を、判定装置100に接続される血液検査装置等から取得する。また、術前因子取得部104は、キーボード、タッチパネル等の入力手段等により、利用者(医師等)に被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度を入力させることにより、当該術前因子を取得してもよい。取得された当該術前因子は、格納部110に格納される。ここでは、術前因子を、被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度としているが、統計解析等に基づいて、副腎の腫瘍がS-PALであるか否かと関連する他の因子が含まれてもよい。
【0020】
演算部106は、被検者の腫瘍径取得部102で取得した腫瘍のサイズと、術前因子取得部104で取得した術前因子とに基づいて、被検者の副腎の腫瘍がS-PALである確率pを算出する。算出された確率pは、格納部110に格納される。演算部106は、腫瘍径取得部102で取得されたCT画像における被検者の副腎の腫瘍径が所定値以上であるか否かを判定する。また、演算部106は、算出した確率pが所定値以上であるか否かを判定する。さらに、演算部106は、確率p、CT画像における副腎の腫瘍径T-CTに基づいて、被検者に対するAVSの要否を判定する。
【0021】
出力部108は、演算部106で算出された被検者の副腎の腫瘍がS-PALである確率pを、ディスプレイ等の表示手段に表示する。
【0022】
格納部110は、腫瘍径取得部102で取得された腫瘍径(T-CT)、術前因子取得部104で取得された被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度等の術前因子、演算部106で算出された確率p等を格納する。格納部110は、判定装置100で使用される値、データ、テーブル、計算式等を格納する。
【0023】
図3は、情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3に示す情報処理装置90は、一般的なコンピュータの構成を有している。判定装置100は、
図3に示すような情報処理装置90を用いることによって、実現される。
図3の情報処理装置90は、プロセッサ91、メモリ92、記憶部93、入力部94、出力部95、通信制御部96を有する。これらは、互いにバスによって接続される。メモリ92及び記憶部93は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である。情報処理装置のハードウェア構成は、
図3に示される例に限らず、適宜構成要素の省略、置換、追加が行われてもよい。
【0024】
情報処理装置90は、プロセッサ91が記録媒体に記憶されたプログラムをメモリ92の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等が制御されることによって、所定の目的に合致した機能を実現することができる。
【0025】
プロセッサ91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)である。
【0026】
メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。メモリ92は、主記憶装置とも呼ばれる。
【0027】
記憶部93は、例えば、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)である。また、記憶部93は、リムーバブルメディア、即ち可搬記録媒体を含むことができる。リムーバブルメディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、あるいは、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)のようなディスク記録媒体である。記憶部93は、二次記憶装置とも呼ばれる。
【0028】
記憶部93は、情報処理装置90で使用される、各種のプログラム、各種のデータ及び各種のテーブルを読み書き自在に記録媒体に格納する。記憶部93には、オペレーティングシステム(Operating System :OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。記憶部93に格納される情報は、メモリ92に格納されてもよい。また、メモリ92に格納される情報は、記憶部93に格納されてもよい。
【0029】
オペレーティングシステムは、ソフトウェアとハードウェアとの仲介、メモリ空間の管理、ファイル管理、プロセスやタスクの管理等を行うソフトウェアである。オペレーティングシステムは、通信インタフェースを含む。通信インタフェースは、通信制御部96を介して接続される他の外部装置等とデータのやり取りを行うプログラムである。外部装置等には、例えば、他の情報処理装置、外部記憶装置等が含まれる。
【0030】
入力部94は、キーボード、ポインティングデバイス、ワイヤレスリモコン、タッチパネル等を含む。また、入力部94は、カメラのような映像や画像の入力装置や、マイクロフォンのような音声の入力装置を含むことができる。
【0031】
出力部95は、LCD(Liquid Crystal Display)、EL(Electroluminescence)パネル、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、PDP(Plasma Display Panel)等の表示装置、プリンタ等の出力装置を含む。また、出力部95は、スピーカのような音声の出力装置を含むことができる。
【0032】
通信制御部96は、他の装置と接続し、情報処理装置90と他の装置との間の通信を制御する。通信制御部96は、例えば、LAN(Local Area Network)インタフェースボード、無線通信のための無線通信回路、有線通信のための通信回路である。LANインタフェースボードや無線通信回路は、インターネット等のネットワークに接続される。
【0033】
情報処理装置90は、プロセッサが補助記憶部に記憶されたプログラムを主記憶部の作業領域に実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器等の制御を行う。これにより、情報処理装置は、所定の目的に合致した機能を実現することができる。主記憶部及び補助記憶部は、情報処理装置が読み取り可能な記録媒体である。
【0034】
(動作例)
図4は、判定装置における、被検者の副腎の腫瘍がS-PALである確率pの算出の動作フローの例を示す図である。ここでは、判定装置100は、原発性アルドステロン症(PA)の患者(被検者)について、副腎の腫瘍がS-PALである確率pの算出をする。判定装置100は、確率p等に基づいて、被検者についてAVSの要否等を判定する。また、あらかじめ、コンピュータ断層撮影装置によって被検者の副腎のCT画像が撮影されており、血液検査装置によって被検者の血液の検査がされているものとする。ここでは、判定装置100は、PAの患者である被検者に対して判定を行う。被検者がPAの患者であるか否かは、周知の診断方法等によって判明しているとする。
【0035】
S101では、判定装置100の腫瘍径取得部102は、コンピュータ断層装置によって撮影された被検者の副腎のCT画像における当該副腎の腫瘍の大きさ(腫瘍径)を取得する。腫瘍径取得部102は、CT画像における副腎の腫瘍のうち最大の腫瘍の大きさ(腫瘍径)を、CT画像における副腎の腫瘍径(tumor in CT; T-CT)として、取得する。腫瘍径取得部102は、判定装置100に接続されるコンピュータ断層撮影装置等から、CT画像における被検者の副腎の腫瘍径を取得する。このとき、コンピュータ断層撮影装置等において、CT画像における被検者の副腎の腫瘍径が算出されているものとする。また、腫瘍径取得部102は、被検者の副腎を含む部分が撮影されたCT画像を取得し、既知の画像処理により、CT画像における副腎の腫瘍のうち最大の腫瘍の腫瘍径を算出することにより、CT画像における副腎の腫瘍径を取得してもよい。また、腫瘍径取得部102は、入力手段等により、利用者(医師等)に被検者のCT画像における副腎の腫瘍径を入力させることにより、当該腫瘍径を取得してもよい。取得された当該腫瘍径は、格納部110に格納される。
【0036】
S102では、判定装置100の術前因子取得部104は、S-PALを予測するための独立した術前因子を取得する。ここでは、当該術前因子を、被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度とする。当該術前因子は、当該2種類に限定されるものではなく、別の因子であってもよい。術前因子は、統計解析等に基づいて、副腎の腫瘍がS-PALであるか否かと有意に関係があるものとする。術前因子は、血液から得られる因子以外の因子であってもよい。術前因子取得部104は、被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度を、判定装置100に接続される血液検査装置等から取得する。血液検査装置では、予め、術前因子である、被検者から採取された血液から血清カリウム値、及び、血漿アルドステロン濃度を検出されている。また、術前因子取得部104は、キーボード、タッチパネル等の入力手段等により、利用者(医師等)に被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度を入力させることにより、当該術前因子を取得してもよい。取得された当該術前因子は、格納部110に格納される。
【0037】
S103では、判定装置100の演算部106は、CT画像における副腎の腫瘍径(T-CT)が第1所定値未満であるか否かを判定する。演算部106は、格納部110に格納されるT-CT、第1所定値を抽出し、判定を行う。ここでは、第1所定値は、5mmとする。第1所定値は、AVSの要否を判定する閾値となる。副腎の腫瘍径が小さくなるほど、片側性APAであるか両側性IHAを判別し難くなる。そのため、第1所定値未満では、AVSを行うことが必要であると判断する。T-CTが第1所定値未満である場合(S103;YES)、処理がS106に進む。T-CTが第1所定値以上である場合(S103;NO)、処理がS104に進む。
【0038】
S104では、演算部106は、被検者の副腎の腫瘍がS-PALである確率pを算出する。確率pを算出する計算式は、例えば、上記の回帰式である。演算部106は、格納部110に格納される、S102で取得した術前因子である被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度を使用して、計算式により、被検者の副腎の腫瘍がS-PALである確率pを算出する。演算部106は、算出した確率pを格納部110に格納する。
【0039】
S105では、演算部106は、S104で算出した確率pが第3所定値以上であるか否かを判定する。演算部106は、格納部110に格納される確率p、第3所定値を抽出し、判定を行う。ここでは、第3所定値は、31.8%とする。第3所定値は、過去の症例において、確率pが第3所定値以上である患者の割合が25%であることを基準に決定されている。確率pが第3所定値以上である場合(S105;YES)、処理がS106に進む。確率pが第3所定値未満である場合(S105;NO)、処理がS107に進む。第3所定値は、過去の症例、統計解析等に基づいて、確率pが第3所定値以上である場合に両側性IHAである可能性があるか否か等に基づいて決定されてもよい。両側性IHAである可能性がある場合には、AVSを行うことが望ましい。
【0040】
S106では、演算部106は、PA患者において、CT画像における副腎の腫瘍径(T-CT)が第1所定値未満であると、片側性APAであるか両側性IHAを判別し難いため、別の検査であるAVSを行うことが必要であると判定する。また、演算部106は、確率pが第3所定値以上である場合、副腎の腫瘍が片側性APAであるか両側性IHAであるかを判別し難いため、AVSを行うことが必要であると判定する。出力部108は、判定結果を、ディスプレイ等に表示すること等により出力する。
【0041】
S107では、判定装置100の演算部106は、CT画像における副腎の腫瘍径(T-CT)が第2所定値未満であるか否かを判定する。演算部106は、格納部110に格納されるT-CT、第2所定値を抽出し、判定を行う。第2所定値は、第1所定値以上の値である。ここでは、第2所定値は、9mmとする。第2所定値は、手術適用を判定する閾値の1つとなる。第2所定値は、過去の症例において、T-CTが第2所定値以上である患者の割合が75%であることを基準に決定されている。副腎の腫瘍径が大きくなるほど、片側性APAである可能性が高まる。T-CTが第2所定値未満である場合(S107;YES)、処理がS109に進む。T-CTが第2所定値以上である場合(S107;NO)、処理がS108に進む。第2所定値は、第1閾値の一例である。
【0042】
S108では、演算部106は、S104で算出した確率pが第4所定値以上であるか否かを判定する。第4所定値は、第3所定値以下の値である。ここでは、第4所定値は、15.5%とする。第4所定値は、過去の症例において、確率pが第4所定値以上である患者の割合が50%であることを基準に決定されている。演算部106は、格納部110に格納される確率p、第4所定値を抽出し、判定を行う。確率pが第4所定値以上である場合(S108;YES)、処理がS109に進む。確率pが第3所定値未満である場合(S108;NO)、処理がS110に進む。第4所定値は、第2閾値の一例である。
【0043】
第2所定値、第4所定値は、例えば、過去の症例、統計解析等に基づいて、T-CTが第2所定値以上で確率pが第4所定値未満である場合に片側性APAである可能性が高いか否か等に基づいて決定されてもよい。
【0044】
S109では、演算部106は、PA患者において、CT画像における副腎の腫瘍径(T-CT)が第1所定値以上第2所定値未満であり、確率pが第3所定値未満である場合、別の検査であるAVSを行うことを推奨すると判定する。また、演算部106は、T-CTが第1所定値以上であり、確率pが第4所定値以上第3所定値未満である場合も、別の検査であるAVSを行うことを推奨すると判定する。これらの場合、PA患者が、片側性APAである可能性が高いものの、両側性IHAの可能性もあるため、演算部106は、AVSを行うことを推奨すると判定するものである。出力部108は、判定結果を、ディスプレイ等に表示すること等により出力する。
【0045】
S110では、演算部106は、PA患者において、CT画像における副腎の腫瘍径(T-CT)が第2所定値以上であり、確率pが第4所定値未満である場合、手術適用であると判定する。即ち、この場合、演算部106は、PA患者が片側性APAである可能性が高いため、AVSを行わずに、手術により腫瘍のある副腎を摘出することを推奨すると判定する。出力部108は、判定結果を、ディスプレイ等に表示すること等により出力する。
【0046】
判定装置100は、
図4の動作フローにおいて、可能な限り、動作の順番を入れ替えて実行してもよい。また、例えば、副腎摘出の手術適応を判定する場合に、判定装置100は、S101、S102、S107、S108、S110のみを実行してもよい。
【0047】
(実際の症例)
図5は、実際の症例を示す図である。
図5の表では、副腎摘出手術を行ったPA患者の治療結果を、T-CT、副腎腫瘍がS-PALである確率p、副腎摘出後のPA病変がS-PALであるかL-PALであるかで、分類している。治療結果は、完全治癒、一部治癒、未治癒、不明で分類している。完全治癒、一部治癒、未治癒の条件については上記と同様である。T-CTについては、5.0mm未満、5.0mm以上9.0mm未満、9.0mm以上13.5mm未満、13.5mm以上17.0mm未満、17.0mm以上で分類している。ここで示す症例において、T-CTが、9.0mm未満である患者の割合が25%、13.5mm未満である患者の割合が50%、17.0mm未満である患者の割合が75%である。また、確率pについては、4.3%未満、4.3%以上15.5%未満、15.5%以上31.8%未満、31.8%以上で分類している。ここで示す症例において、確率pが、4.3%未満である患者の割合が25%、15.5%未満である患者の割合が50%、31.8%未満である患者の割合が75%である。
【0048】
図5の表において、T-CTが13.5mm(第2所定値)以上であり、確率pが15.5%(第4所定値)未満である患者の場合(グループC、D、E、H、I、J)、ほとんどの患者(S-PALの患者を含む)において、治療結果が、完全治癒または一部治癒となっている。よって、この場合、AVSを省略して、副腎摘出の手術を行ってもよいことを示している。
【0049】
(実施形態の作用、効果)
本実施形態の判定装置100は、PA患者である被検者の術前因子を取得して、当該術前因子に基づいて被検者の副腎の腫瘍がS-PALである確率pを算出する。S-PALを予測するための独立した術前因子として、被検者の血清カリウム値、及び、被検者の血漿アルドステロン濃度が挙げられる。判定装置100は、確率p及びCT画像における被検者の腫瘍径(T-CT)に基づいて、AVSの要否、副腎摘出の手術適応等を判定する。S-PALの確率pが低く(第4所定値未満)、CT画像における腫瘍の大きさ(T-CT)が大きい(第2所定値以上)患者に対して、副腎摘出の手術適応と判定する。判定装置100によれば、副腎の腫瘍がS-PALである確率pが低く(L-PALの可能性が高い)、CT画像における副腎の腫瘍径が大きい患者に対しては、片側性APAである可能性が高い(副腎摘出手術適応)と判定することができる。当該患者に対しては、AVSを行わなくてもよい。これにより、医師等がPA患者の副腎摘出の手術適応を判断する際に、負担の大きいAVSを行うPA患者を減らすことができる。
【0050】
〈コンピュータ読み取り可能な記録媒体〉
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0051】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体内には、CPU、メモリ等のコンピュータを構成する要素を設け、そのCPUにプログラムを実行させてもよい。
【0052】
また、このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、DAT、8mmテープ、メモリカード等がある。
【0053】
また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM等がある。
【0054】
(その他)
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらはあくまで例示にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、各構成の組み合わせなど、当業者の知識に基づく種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
100: 判定装置
102: 腫瘍径取得部
104: 術前因子取得部
106: 演算部
108: 出力部
110: 格納部
90: 情報処理装置
91: プロセッサ
92: メモリ
93: 記憶部
94: 入力部
95: 出力部
96: 通信制御部