(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】スラリー立体光硬化造形設備
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20240626BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240626BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20240626BHJP
B22F 10/16 20210101ALI20240626BHJP
【FI】
B28B1/30 101
B28B1/30
B33Y30/00
B22F1/10
B22F10/16
(21)【出願番号】P 2022194361
(22)【出願日】2022-12-05
【審査請求日】2022-12-05
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523203137
【氏名又は名称】品瓷科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】汪家昌
(72)【発明者】
【氏名】游信樺
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-501708(JP,A)
【文献】特開2001-150557(JP,A)
【文献】登録実用新案第3224277(JP,U)
【文献】特開2021-049777(JP,A)
【文献】特開2005-059477(JP,A)
【文献】特開2016-159569(JP,A)
【文献】特開2018-126974(JP,A)
【文献】特開2003-053847(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0162657(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0229428(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01270185(EP,A1)
【文献】特開2022-024960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 30/00
B22F 1/10
B22F 10/00 - 12/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラリー立体光硬化造形設備であって、
材料掻き取りステージを有し、前記材料掻き取りステージは、材料掻き取り面を頂面に有するとともに切り欠きを周囲の一方側に有し、前記切り欠きの外側は、開放端とされて開口を有する機体と、
前記機体にモータが設けられ、前記モータに回転軸が連結され、前記回転軸にブレードホルダが結合され、前記ブレードホルダにドクターブレードが設けられ、前記ドクターブレードの縁には、前記材料掻き取り面に近接又は当接する刃が備えられ、前記ドクターブレードが回転する時に前記刃が作用する範囲は、材料掻き取り範囲として定義され、前記切り欠きは、少なくとも一部が前記材料掻き取り範囲内に位置するスラリー敷き均し装置と、
前記切り欠きに印刷ステージが設けられ、前記印刷ステージにおける前記材料掻き取り範囲内に位置する縁は、前記切り欠きの縁に並接され、前記印刷ステージは、リニアアクチュエータによって駆動されてリニアに昇降され、前記リニアアクチュエータは、前記機体に設けられている印刷ステージ変位装置と、
前記機体に設けられてレンズを有し、前記レンズは、前記印刷ステージの方向に向けられている投影装置と、
材料排出口を有し、前記材料排出口は、前記材料掻き取り範囲に向けられているスラリー供給装置とを含み、
前記材料掻き取りステージ
の前記材料掻き取り面の外周は前記切り欠きに対応する部分を除いて円形であり、前記スラリー敷き均し装置における前記回転軸は前記材料掻き取り面の中心に位置し、前記ドクターブレードの回転軸の他端までの大きさは切り欠きの外側であるスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項2】
前記回転軸の端面に割り溝が備えられ、前記割り溝は、前記回転軸の軸心を貫通するとともに固定ネジ孔を底面に有し、前記ブレードホルダは、内端部と、外端部とを有し、前記ブレードホルダの内端部に固定貫通孔が備えられ、且つ前記ブレードホルダの内端部が前記割り溝に挿入され、前記固定貫通孔に合わせて固定部材が設けられており、前記固定部材は、頭部と、前記頭部に接続されたねじロッドとを有し、前記ねじロッドは、前記固定貫通孔を通って前記固定ネジ孔にネジ止めされている、請求項1に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項3】
前記機体は、フレームを有し、前記フレームは、印刷ステージブラケットを有し、前記材料掻き取りステージは、前記印刷ステージブラケットに着脱可能に設けられている、請求項2に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項4】
前記材料掻き取りステージにおける前記材料掻き取り範囲の中心に対応する位置には、回転軸通過孔が形成され、前記モータは、前記材料掻き取りステージの下方に位置し、且つ前記回転軸は、上向きに前記回転軸通過孔に回動可能に穿通されている、請求項3に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項5】
前記印刷ステージは、前記開口を介して前記切り欠きに移入又は前記切り欠きから移出可能であり、前記リニアアクチュエータは、出力端を有し、前記出力端に印刷ステージブラケットが結合され、前記印刷ステージは、前記印刷ステージブラケットに着脱可能に設けられている、請求項1に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項6】
前記印刷ステージブラケットと前記機体との間にリニアスライドレールが結合されている、請求項5に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項7】
前記機体にファンホルダが設けられ、前記ファンホルダにファンが結合されている、請求項1~6の何れか一項に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項8】
前記材料掻き取り面における前記材料掻き取り範囲外に位置する部分には、第一フェンスが設けられ、前記印刷ステージ頂面における前記材料掻き取り範囲外に位置する部分には、第二フェンスが設けられ、前記第一フェンスの両端と前記第二フェンスの両端とが並接されて環形とされて前記材料掻き取り範囲の周囲を取り囲んでいる、請求項1~6の何れか一項に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項9】
前記スラリー供給装置は、1つの攪拌槽を有し、前記攪拌槽に合わせて蠕動ポンプが設けられており、前記蠕動ポンプにシリカゲル管が穿設され、前記シリカゲル管は、一端が前記攪拌槽に伸入し、他端が前記材料排出口を形成している、請求項1~6の何れか一項に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項10】
前記スラリー供給装置は、いくつかの攪拌槽を有し、各々の攪拌槽に合わせて蠕動ポンプが設けられており、各々の蠕動ポンプにシリカゲル管が穿設され、各シリカゲル管は、一端が各攪拌槽に伸入し、他端が前記材料排出口に集められている、請求項1~6の何れか一項に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【請求項11】
前記印刷ステージの底側には、前記印刷ステージに接触する温度制御装置が設けられているとともに、前記材料排出口の周囲には、別の温度制御装置が設けられている、請求項1~6の何れか一項に記載のスラリー立体光硬化造形設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3D印刷設備に関し、特に、スラリー立体光硬化造形設備に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス、金属又は複合材料を印刷する従来の光硬化3D印刷設備は、調製されたスラリーを材料槽内に入れてから、スラリーの表面を光源で選択的に照射することにより、材料槽内の昇降可能な印刷ステージ上で複数の構造層を1層ずつ硬化させて、最終的に複数の構造層の積層で完成品が形成されるようにしている。
【0003】
上記従来の光硬化3D印刷設備は、セラミックス等の材料の印刷に使用可能であるが、印刷中には、本体の印刷の他に、サポート構造の印刷も必要となり、これらのサポート構造は、多くの場合、熟練者によって設計される必要があるだけでなく、その完成品が非常に慎重に取り除かれる必要もあり、それに、スラリーの表面を均すためのドクターブレードは、材料槽内の比較的高粘度のセラミックススラリーを直線運動で擦り切るものであり、最良でも0.1ミリメートル級の層厚になるまでしか比較的遅い速度で敷けないため、印刷に時間が掛かることに加えて、印刷された完成品も十分に繊細なものにならない。
【発明の概要】
【0004】
これに鑑みて、本発明の目的は、ドクターブレードの360度連続回転により、平面的な印刷ステージ上に光硬化スラリー層を循環的に形成し、印刷時にサポート構造の印刷が不要となるとともに、より薄い厚さのスラリー層を構造層として光硬化させることで精細な完成品が印刷されるスラリー立体光硬化造形設備を提供することにある。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、機体と、スラリー敷き均し装置と、印刷ステージ変位装置と、投影装置と、スラリー供給装置を含むスラリー立体光硬化造形設備を提供する。前記機体は、材料掻き取りステージを有し、前記材料掻き取りステージは、材料掻き取り面を頂面に有するとともに切り欠きを周囲の一方側に有し、前記切り欠きの外側は、開放端とされて開口を有する。前記スラリー敷き均し装置は、前記機体にモータが設けられ、前記モータに回転軸が連結され、前記回転軸にブレードホルダが結合され、前記ブレードホルダにドクターブレードが設けられ、前記ドクターブレードの縁には、前記材料掻き取り面に近接又は当接する刃が備えられ、前記ドクターブレードが回転する時に前記刃が作用する範囲は、材料掻き取り範囲として定義され、前記切り欠きは、少なくとも一部が前記材料掻き取り範囲内に位置する。前記印刷ステージ変位装置は、前記切り欠きに印刷ステージが設けられ、前記印刷ステージにおける前記材料掻き取り範囲内に位置する縁は、前記切り欠きの縁に並接され、前記印刷ステージは、リニアアクチュエータによって駆動されてリニアに昇降され、前記リニアアクチュエータは、前記機体に設けられている。前記投影装置は、前記機体に設けられてレンズを有し、前記レンズは、前記印刷ステージの方向に向けられている。前記スラリー供給装置は、材料排出口を有し、前記材料排出口は、前記材料掻き取り範囲に向けられている。
【0006】
本発明の作動時に、前記モータは、前記ドクターブレードを駆動して前記ドクターブレードの初期位置から同一方向に沿って回転させ、前記スラリー供給装置は、前記ドクターブレードが1周回転した度に、スラリーを前記材料排出口から、前記ドクターブレードが前記印刷ステージを通過した後に進行し続ける方向の材料掻き取り面上に送り出して、前記ドクターブレードにより、材料排出口から送り出されたスラリー及び材料掻き取り面上の残留材料を、材料掻き取り範囲内の材料掻き取り面及び印刷ステージの頂面に逐次に敷設する。
【0007】
スラリーが前記印刷ステージの表面に敷設された度に、スラリー層が1層形成され、次に、前記印刷ステージが一層のスラリー層の厚さに相当する距離だけ降下されて、前記投影装置で前記スラリー層が照射されてその一部が構造層として硬化され、上記のスラリーの敷設、印刷ステージの降下及び投影装置の照射の過程を繰り返せば、逐次に降下された印刷ステージ上に複数の構造層がそれぞれ形成され、複数の構造層が積層されることで、例えばセラミックスに焼成するためのグリーン体のような印刷完成品とされ、洗浄を経てグリーン体が得られた後、グリーン体は、高温焼結炉内に送り込まれてセラミックスに焼成されることが可能である。
【0008】
上記スラリーは、敷設時に低粘度を有するが、敷き終わった後にその粘度が向上可能であり、このようなスラリーは、スラリーに揮発性溶媒を添加するか、又はスラリーを加熱することで獲得可能である。敷設時の低粘度によれば、高い敷設速度を達成すると同時に、より薄い層厚になるように敷くことができる。敷き終わった層は、溶媒の揮発又はスラリーの冷却によって高粘度とされることが可能であり、このような高粘度のスラリーは、造形中のワークピースをサポート及び保護可能となる。つまり、高い敷設速度によれば、印刷時間を短縮可能であり、より薄い層厚及びスラリーからのサポート及び保護によれば、より繊細な完成品を印刷可能となる。
【0009】
本発明の効用としては、ドクターブレードが回転するように敷設することで、ドクターブレードの戻り時間が節約され、それに、スラリーの残留材料がドクターブレードに付着するため、ドクターブレードが戻る時にスラリーの残留材料が造形領域に落ちて加工に影響を与えることも回避できる。また、毎回敷設されたスラリーの残留材料は、ドクターブレードが再度回転する時に通過する経路上に位置するため、スラリーの残留材料が再利用されることが可能であり、製造生産上の経済性に優れている。
【0010】
スラリーは、揮発性溶媒を含むように配合されてもよい。こうすれば、スラリーは、材料供給装置から送り出される時に高い流動性を有することができ、敷設に有利となり、印刷ステージへの1回の敷設が完了した後、溶媒が揮発されることでスラリー層の流動性が低下され、両者の粘度差により、敷設の際、前の層は、高い構造性を維持でき、ドクターブレード上のスラリーによるせん断力で変位ないし損傷されることがない一方で、揮発後のスラリー層は、高い構造性を有し、自然なサポートとなるため、印刷中には、サポート構造を築く必要がない。揮発後のスラリー層は、体積が小さくなるため、高固形分の複合材料のワークピース又はグリーン体となり、グリーン体は、加熱脱脂を経て樹脂及び他の添加剤を焼失させてから焼結されると、高緻密度のワークピースが得られる。
【0011】
スラリーは、異なる温度で異なる流動性を有するように配合されてもよい。こうすれば、スラリーは、材料供給装置から送り出される時に加熱されると、高い流動性を有し、敷設に有利となり、印刷ステージへの1回の敷設が完了した後、スラリーがステージ上で冷却されることでスラリー層の流動性が低下され、両者の粘度差により、敷設の際、前の層は、高い構造性を維持でき、ドクターブレード上のスラリーによるせん断力で変位ないし損傷されることがない一方で、冷却後のスラリー層は、高い構造性を有し、自然なサポートとなるため、印刷中には、サポート構造を築く必要がない。グリーン体は、加熱脱脂を経て樹脂及び他の添加剤を焼失させてから焼結されると、高緻密度のワークピースが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一好ましい実施例の斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の上記の好ましい実施例における印刷ステージを降下させる斜視図である。
【
図11】
図11は、本発明の別の好ましい実施例における
図6の断面方向に対応する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明をより明確に説明するために、好ましい実施例を掲示し、図面を参照して以下に詳しく説明する。
図1~
図6を参照して、本発明の一好ましい実施例に係るスラリー立体光硬化造形設備100は、機体10と、前記機体10にそれぞれ設けられたスラリー敷き均し装置20、印刷ステージ変位装置30、投影装置40と、材料を前記機体10に供給するスラリー供給装置50とを含み、スラリーが逐次に敷設されてなるスラリー層を構造層として段階的に光硬化させるとともに積層させて完成品とし、例えばセラミックススラリーでセラミックスのグリーン体を印刷するために使用される。
【0014】
前記機体10は、材料掻き取りステージ12を有し、前記材料掻き取りステージ12は、材料掻き取り面121を頂面に有し、前記材料掻き取りステージ12の周囲の一方側が前記材料掻き取りステージ12内に凹んで切り欠き122が形成されており、前記切り欠き122の外側は、開放端とされるとともに開口123を有し、この好ましい実施例において、前記切り欠き122は、内側が狭くて外側が広い台形の切り欠きであるが、他の好ましい実施例において、前記切り欠き122は、扇形の切り欠き、又は、円弧状の縁とされる切り欠きであってもよい。
【0015】
前記スラリー敷き均し装置20は、モータ22を有し、前記モータ22は、前記機体10に設けられ、前記モータ22には、カップリング221を介して回転軸24が連結され、前記回転軸24にブレードホルダ26が結合され、前記ブレードホルダ26にドクターブレード28が設けられ、前記ドクターブレード28は、前記回転軸24の周囲の一方側に位置し、前記ドクターブレード28の縁には、刃281が備えられ、前記ドクターブレード28は、軟質材料又は硬質材料製であるとともに、前記刃281が前記材料掻き取り面121に近接又は当接するものとされてもよい。
図5及び
図7~
図8Aを併せて参照して、前記ドクターブレード28が回転する時に前記刃281が前記材料掻き取り面121に作用する範囲は、材料掻き取り範囲Aとして定義され、前記切り欠き122は、少なくとも一部が前記材料掻き取り範囲A内に位置し、例えば、この好ましい実施例において、前記切り欠き122の全ては、前記材料掻き取り範囲A内に位置する。
【0016】
前記印刷ステージ変位装置30は、印刷ステージ32を有し、前記印刷ステージ32は、前記切り欠き122に並接して設けられ、前記印刷ステージ32における前記材料掻き取り範囲A内に位置する縁は、前記切り欠き122の縁に並接され、前記印刷ステージ32は、リニアアクチュエータ34によって駆動されて上下方向に沿ってリニアに昇降可能であり、前記リニアアクチュエータ34は、前記機体10に設けられ、前記印刷ステージ32が初期位置にあるとき、前記印刷ステージ32の頂面が前記材料掻き取り面121と揃えられ、前記印刷ステージ32は、前記リニアアクチュエータ34によって駆動されて最低位置まで低下されることが可能である。
【0017】
前記投影装置40は、前記印刷ステージ32の方向に向かって照射するレンズ42を有し、前記投影装置40として、DLP(Digital Light Processing)又はLCD(liquid crystal display)のプロジェクタ又はレーザ光走査装置が採用されてもよく、前記投影装置40は、高解像度(FHD、4Kないし8K)を有し、印刷対象となるグリーン体の寸法の精度要件を満たすことができ、前記投影装置40から照射する光源は、紫外光、近紫外光又は可視光とされてもよく、印刷完成品の各層に対応する層パターンを投影又は走査により印刷ステージ32上に照射する。
【0018】
図1及び
図8Aを併せて参照して、前記スラリー供給装置50は、前記材料掻き取り範囲Aに向かってスラリーを送り出す材料排出口52を有し、前記材料排出口52の直下範囲に位置する材料掻き取り面121を材料載置領域Bとして定義し、前記材料排出口52から送り出されたスラリーは、前記材料載置領域Bの範囲に落下される。光硬化造形で使用されるスラリーは、通常、粉末、バインダー及び溶媒を含み、そのうち、粉末は、ポリマー、セラミックス、金属又は複合材料の粉末であり、粉末の微細度は、ナノメートル、マイクロメートル級であってもよく、バインダーは、光硬化樹脂であり、溶媒は、バインダーを希釈するためのものであり、通常、スラリーの粘度を低減して揮発を早めることができるようにアルコール系溶媒とされるが、バインダーの溶媒として水が使用されてもよく、同時に加熱による補助で揮発を促進すれば、造形エリアの固形分の向上及び高粘度によるサポート性が達成される。敷設後のスラリー層と、スラリー供給装置50から供給されたスラリーとの間に比較的大きな粘度差がない場合は、スラリー敷き均し装置20のドクターブレード28の回転速度を低下させてもよい。こうすれば、せん断力の低減効果を奏することができる。又は、例えば、材料排出口52の周囲、材料掻き取り面121及び印刷ステージ32等に温度制御装置を設けることで、材料排出口52及び材料掻き取り面121の温度を上昇させてスラリーの粘度を低下させ、印刷ステージ32の温度を低下させてスラリー層の粘度を上昇させて、スラリーとスラリー層との間に高い粘度差を持たせるようにした場合も、スラリー内には、希釈剤として溶媒を使用する必要がなくなる。
【0019】
上記の好ましい実施例において、前記切り欠き122と前記材料載置領域Bとは、前記材料掻き取り範囲Aにおける反対方向となる両側に位置し、前記ドクターブレード28は、回転を開始していない初期位置として、前記材料載置領域Bと前記印刷ステージ32との間に位置し、前記ドクターブレード28は、前記モータ22によって駆動されて回転を開始すると、前記材料載置領域Bの方向に向かって回転を開始し、且つ前記ドクターブレード28は、回転中に常に同一方向に沿って回転し、前記ドクターブレード28が1周回転する過程は、印刷層構造サイクルとして定義される。
【0020】
前記スラリー立体光硬化造形設備100が作動すると、
図1及び
図7~
図8Cに示す好ましい実施例を参照して、前記モータ22は、前記ドクターブレード28を駆動して初期位置から同一方向に沿って回転させ、前記スラリー供給装置50は、前記ドクターブレード28が1周回転した度に、つまり1回の印刷層構造サイクルの後に、スラリーを前記材料排出口52から前記材料載置領域B上に送り出し、次に、前記材料載置領域Bを回転しながら通過するドクターブレード28は、送り出された直後のスラリー及び前方材料掻き取り面121上に残った残留材料を、材料掻き取り範囲A内の材料掻き取り面121及び印刷ステージ32の頂面に逐次に敷設し、印刷ステージ32の頂面に敷設されたスラリーにより、スラリー層が形成される。
【0021】
前記印刷ステージ32は、毎回の印刷層構造サイクルにおいて、ドクターブレード28によってスラリーが敷設されると、1層のスラリー層の厚さに相当する距離だけ降下され、次に、前記投影装置40から完成品の層パターンで前記スラリー層が照射されてその一部が構造層として硬化される。上記のスラリー供給装置50によるスラリーの送り出し、ドクターブレード28によるスラリーの敷設、印刷ステージ32の降下、及び投影装置40によるスラリー層へ照射の過程を何度も繰り返せば、
図9~
図10を参照して、最低位置まで逐次に降下された印刷ステージ32上には、複数の構造層を積層してなる精細な印刷完成品が形成され、洗浄を経て印刷完成品が得られる。例えば、印刷完成品は、セラミックスのグリーン体であり、グリーン体は、高温焼結炉内に送り込まれてセラミックス完成品に焼成されることが可能である。
【0022】
上記の好ましい実施例の具体的な構造を更に説明すると、
図1~
図6を参照して、前記機体10は、中空の枠体構造とされるフレーム14を有し、前記機体10のフレーム14にファンホルダ16が設けられ、前記ファンホルダ16にファン161が結合され、前記ファン161によって前記印刷ステージ32の頂面の方向に向かって送風し続けられることで、前記スラリー供給装置50から送り出された直後のスラリーは、低い粘度を有して流動性が良いスラリーとされることが可能であるのに対して、ドクターブレード28によって印刷ステージ32の頂面に敷設されたスラリーは、その中の溶媒の揮発により、又は風に吹かれることにより、揮発が加速される。又は、
図11に示す別の好ましい実施例において、前記印刷ステージ32は、例えばアルミ板のような金属ステージとされるとともに、印刷ステージ32の底側には、前記印刷ステージ32に接触する温度制御装置37が設けられており、温度制御装置37によって前記印刷ステージ32が加熱されることで、スラリー内の溶媒が揮発されて、スラリーは、乾燥されて粘度が高くて流動性が低いスラリー層とされ、構造層となるように投影装置40による照射に適するものとなる。別の好ましい実施例における残りの構造及び使用方式の何れも、この好ましい実施例と同じである。上記ファン161又は温度制御装置37を設けることで、前記スラリー供給装置50から供給されたスラリーの流動性が向上されて、ドクターブレード28によってスラリーが印刷ステージ32の頂面に敷設される時に剪切刀による変位の影響を低減でき、ワークピースの寸法の正確性が保される。溶媒揮発後のスラリー層は、体積が減少するため、高い粉末固形分を有する。例えば、印刷物は、高固形分のグリーン体であり、グリーン体は、加熱脱脂を経て樹脂及び他の添加剤を焼失させてから焼結されると、高緻密度で高強度の最終ワークピースが得られる。
【0023】
この好ましい実施例において、前記リニアアクチュエータ34は、電動伸縮ロッドであるとともに出力端341を頂端に有し、前記出力端341に印刷ステージブラケット36が結合され、前記印刷ステージブラケット36と前記機体10のフレーム14との間にリニアスライドレール361が結合され、前記リニアスライドレール361は、前記印刷ステージブラケット36を、前記リニアアクチュエータ34によって駆動されて安定して昇降動作可能となるように案内するものであり、前記印刷ステージブラケット36の頂面には、レール362が備えられ、前記印刷ステージ32の底部には、前記レール362に合わせたスライド溝321が備えられている。前記印刷ステージ32における前記切り欠き122に向く部分は、前記材料掻き取りステージ12の開口123から前記切り欠き122に移入可能であり、前記印刷ステージ32における前記切り欠き122に向く部分が前記開口123から前記切り欠き122への移入中には、前記印刷ステージ32のスライド溝321は、前記レール362に沿って進入することで、最終的に、前記印刷ステージ32が前記印刷ステージブラケット36上に設けられる。
図11を参照して、上記の別の好ましい実施例において、前記温度制御装置37は、前記印刷ステージブラケット36上に設けられた印刷ステージ32に接触して前記印刷ステージ32に対する加熱又は冷却の温度制御を行うことができるように、その具体的な位置として、前記印刷ステージブラケット36の頂部に設けられている。
【0024】
前記機体10のフレーム14は、反対の両側における横梁141によって印刷ステージブラケット142を形成しており、前記材料掻き取りステージ12は、前記印刷ステージブラケット142に着脱可能に設けられ、前記材料掻き取りステージ12における前記材料掻き取り範囲Aの中心に対応する位置には、回転軸通過孔124が形成されている。前記スラリー敷き均し装置20のモータ22は、前記材料掻き取りステージ12の下方に位置し、且つ前記回転軸24は、上向きに前記材料掻き取りステージ12の回転軸通過孔124に回動可能に穿通されている。前記回転軸24の頂端面に割り溝241が備えられ、前記割り溝241は、前記回転軸24の軸心及びその周面の反対の両側を貫通し、前記割り溝241の底面に固定ネジ孔242が備えられ、前記ブレードホルダ26は、内端部と、外端部とを有し、前記ブレードホルダ26の内端部に固定貫通孔261が備えられ、前記ブレードホルダ26の内端部が前記割り溝241に挿入され、前記固定貫通孔261に合わせて固定部材21が設けられており、前記固定部材21は、頭部211と、前記頭部211に接続されたねじロッド212とを有し、前記頭部211は、グリップ形状であり、前記ねじロッド212は、前記固定貫通孔261を通って前記固定ネジ孔242にネジ止めされて、前記ブレードホルダ26の内端部を前記回転軸24に結合固定している。
【0025】
ドクターブレード28によるスラリーの敷設中に、スラリーが材料掻き取りステージ12の周囲に飛び散らされて残留材料が収集され難くなるか又は周囲の環境が汚されることを回避するために、前記材料掻き取り面121における前記材料掻き取り範囲A外に位置する部分には、第一フェンス18が設けられ、この好ましい実施例において、前記第一フェンス18は、C字状のノッチ付きの仕切り板であり、前記第一フェンス18の異なる両端は、前記開口123の反対の両側まで延在し、前記印刷ステージ32の頂面における前記材料掻き取り範囲A外に位置する部分には、第二フェンス38が設けられ、前記第二フェンス38は、前記第一フェンス18のノッチに合わせた仕切り板であり、第一フェンス18の両端と第二フェンス38の両端とが並接されて前記材料掻き取り範囲Aの周囲を取り囲む円環形とされ、外へのスラリーの飛び散りを回避するために使用される。他の好ましい実施例において、前記第一フェンス18と前記第二フェンス38とは、方形、多角形又は他の取り囲み形状となるように取り囲んでもよい。
【0026】
ドクターブレード28を洗浄する必要がある場合は、前記固定部材21を回動させて取り外してから、前記回転軸24から前記ブレードホルダ26及び前記ドクターブレード28を外せば、前記ドクターブレード28を取り出して洗浄することが可能となる。前記材料掻き取りステージ12上の残留材料を洗浄して回収する必要がある場合は、前記ブレードホルダ26及び前記ドクターブレード28を取り外した後、前記印刷ステージブラケット142によって上向きに前記材料掻き取りステージ12を持ち上げて前記材料掻き取りステージ12を前記回転軸24から離脱させ、次に、前記材料掻き取りステージ12を傾斜させて、それを前記フレーム14の中空箇所から取り出して洗浄することが可能となる。前記第一フェンス18及び前記第二フェンス38によって、外へ飛び散るスラリーが阻止されるため、スラリーの材料は、前記材料掻き取りステージ12上に残ることになり、前記材料掻き取りステージ12を洗浄すると、スラリー内の粉末を回収でき、残留材料の回収により、材料の無駄を回避し、製造コストを低減することができる。
【0027】
前記スラリー供給装置50は、1つ、いくつか又は複数の攪拌槽54を有し、この好ましい実施例において、前記スラリー供給装置50に2つの攪拌槽54が設けられ、各々の攪拌槽54に合わせて蠕動ポンプ56が設けられており、各々の蠕動ポンプ56にシリカゲル管561が穿設され、各シリカゲル管561は、一端が各攪拌槽54に伸入し、他端が前記材料排出口52に集められており、上記スラリー供給装置50が2つの攪拌槽54を有するように設けられることで、異なる攪拌槽54内の原料を混合してスラリーとして調製し、同一材料排出口52から送り出すことが可能となる。他の好ましい実施例において、前記スラリー供給装置50に攪拌槽54が1つしか設けられていない場合、前記シリカゲル管561における前記攪拌槽54に伸入していない他端は、前記材料排出口52となれ、この材料排出口52から前記攪拌槽54内のスラリーが外に送り出される。
【0028】
前記印刷ステージ32は、毎回の印刷層構造サイクルにおいて、ドクターブレード28によってスラリーが敷設されると、1層のスラリー層の厚さに相当する距離だけ降下されるが、前記印刷ステージ32の降下時には、前記スラリー層と前記材料掻き取り面121の縁におけるスラリーとがくっつくため、前記印刷ステージ32を降下させる具体的な駆動方式としては、
図9及び
図10を併せて参照して、前記リニアアクチュエータ34によって前記印刷ステージ32を駆動して1層のスラリー層の厚さ超の距離だけ降下させて、前記リニアアクチュエータ34の頂面の周囲におけるスラリー層と、前記材料掻き取り面121の縁におけるスラリーとを分断させたてから、前記印刷ステージ32を再度駆動して1層のスラリー層の厚さ分の降下に相当する距離まで上昇させる。
【0029】
本発明に係るスラリー立体光硬化造形設備100は、上記の説明のように印刷完成品を段階的に製造するために使用される他に、前記印刷ステージ32における前記切り欠き122に向く部分が前記材料掻き取りステージ12の開口123から前記切り欠き122に移入可能であるため、本発明に係るスラリー立体光硬化造形設備100は、自動化設備と協働して連続的な生産製造が可能である。連続的な生産製造が開始すると、自動化設備(不図示)は、1つの印刷ステージ32を前記印刷ステージブラケット36上に載せ、次に、ファン161は、オンされて前記印刷ステージ32の頂面の方向に向かって送風し続け、前記スラリー供給装置50と協働して複数の印刷層構造サイクル内で順次にスラリーを送り出すとともに、前記スラリー敷き均し装置20は、複数の印刷層構造サイクルにおけるスラリーの敷設中に、ドクターブレード28を回転させてスラリーを前記印刷ステージ32の頂面に敷設し、前記印刷ステージ32は、ドクターブレード28によってスラリーが敷設された度に、1層のスラリー層の厚さに相当する距離だけ降下され、次に、前記投影装置40から印刷完成品の層パターンで前記スラリー層が照射されてスラリー層の一部が構造層として硬化される。
【0030】
リニアアクチュエータ34によって前記印刷ステージブラケット36及び前記印刷ステージ32が最低位置まで順次に降下されるとともに、前記印刷ステージ32上の印刷完成品の印刷も完了すると、自動化設備は、前記印刷ステージブラケット36上から印刷ステージ32及びその上の印刷完成品、例えばセラミックスのグリーン体を取り出し、その後に洗浄設備まで送って洗浄し、グリーン体を焼成して成形させることが可能となる。その同時に、前記リニアアクチュエータ34によって前記印刷ステージブラケット36が初期位置まで上昇されると、前記自動化設備は、新たな1つの印刷ステージ32を印刷ステージブラケット36上に載せ、新しいラウンドの完成品印刷手順をスタートさせ、これを何度も繰り返せば、本発明は、製品又はグリーン体の連続的な3D印刷が可能となり、1つの印刷完成品の印刷後に中断する必要がない。
【0031】
上述した本発明のスラリー供給装置50による材料掻き取りステージ12の材料掻き取り面121上へのスラリーの押し出し、リニアアクチュエータ34の駆動による前記印刷ステージ32の順次降下、及び投影装置40によるスラリー層への照射等の手順の動作過程の時間は、それぞれ、円を描くように回転するドクターブレード28による材料掻き取り面121及び印刷ステージ32へのスラリーの敷設の動作過程の時間と重複し、毎回の印刷層構造サイクルの時間は、ドクターブレード28が1周回転する時間に相当する。このように、スラリー供給装置50、リニアアクチュエータ34及び投影装置40等の装置の動作は、ドクターブレード28の回転過程と同時に進行し、互いに待つ必要がなく、生産製造の時間を節約できる。
【0032】
上述したのは、本発明の好ましい可能な実施例に過ぎず、本発明の明細書及び特許請求の範囲を利用してなされた同等バリエーションは、何れも本発明の特許範囲内に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0033】
[本発明]
100:スラリー立体光硬化造形設備
10:機体
12:材料掻き取りステージ
121:材料掻き取り面
122:切り欠き
123:開口
124:回転軸通過孔
14:フレーム
141:横梁
142:印刷ステージブラケット
16:ファンホルダ
161:ファン
18:第一フェンス
20:スラリー敷き均し装置
21:固定部材
211:頭部
212:ねじロッド
22:モータ
221:カップリング
24:回転軸
241:割り溝
242:固定ネジ孔
26:ブレードホルダ
261:固定貫通孔
28:ドクターブレード
281:刃
30:印刷ステージ変位装置
32:印刷ステージ
321:スライド溝
34:リニアアクチュエータ
341:出力端
36:印刷ステージブラケット
361:リニアスライドレール
362:レール
37:温度制御装置
38:第二フェンス
40:投影装置
42:レンズ
50:スラリー供給装置
52:材料排出口
54:攪拌槽
56:蠕動ポンプ
561:シリカゲル管
A:材料掻き取り範囲
B:材料載置領域