(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】新規なフタロシアニンナノワイヤーおよびその用途
(51)【国際特許分類】
C07D 487/22 20060101AFI20240626BHJP
C01G 3/00 20060101ALI20240626BHJP
C01G 9/00 20060101ALI20240626BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240626BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240626BHJP
【FI】
C07D487/22
C01G3/00
C01G9/00 Z
B82Y40/00
B82Y30/00
(21)【出願番号】P 2022529398
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 KR2020010060
(87)【国際公開番号】W WO2021101016
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2019-0149244
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520355529
【氏名又は名称】ポステック・リサーチ・アンド・ビジネス・ディヴェロップメント・ファウンデイション
【氏名又は名称原語表記】POSTECH RESEARCH AND BUSINESS DEVELOPMENT FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】(JIGOK‐DONG), 77, CHEONGAM‐RO,NAM‐GU, POHANG‐SI, GYEONGSANBUK‐DO 37673,REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヒチョル
(72)【発明者】
【氏名】ユン、ヨンクワン
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534953(JP,A)
【文献】国際公開第2010/122921(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102206863(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1952223(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103322800(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104557952(CN,A)
【文献】J. Phys. Chem. C,2012,116,pp.5524-5530,DOI: 10.1021/jp212635w
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D、C01G、B82Y
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)M-フタロシアニンを、電気加熱炉システムにある石英管の中心に位置するセラミックボートに装填する段階であって、
前記Mは亜鉛または銅であり、基板は前記石英管の端部に配置される;
2)前記装填された前記1)段階のM-フタロシアニンを気化させる段階であって、本2)段階におけるM-フタロシアニン化合物は、470~700℃の温度で気化される;
3)前記2)段階における気化M-フタロシアニンを不活性気体を用いて輸送する段階であって、
本3)段階における不活性気体の流速は1900~2100sccmの範囲である;及び
4)前記3)段階の輸送された気化M-フタロシアニンを収集し、M-フタロシアニン結晶形態に析出させる段階であって、
本4)段階における収集は、室温~80℃でSi(100)基板上で凝縮し、再結晶するものである;
を含むM-フタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項2】
前記3)段階後、超音波処理する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のM-フタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項3】
前記製造されたM-フタロシアニンナノワイヤーは、直径が30~50nmであり、長さが1~10μmであることを特徴とする、請求項1に記載のM-フタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項4】
α型結晶を95重量%以上含
むM-フタロシアニンナノワイヤー
であって、前記Mが亜鉛または銅である、前記M-フタロシアニンナノワイヤー。
【請求項5】
α型結晶を98重量%以上含
むM-フタロシアニンナノワイヤー
であって、前記Mが亜鉛または銅である、前記M-フタロシアニンナノワイヤー。
【請求項6】
前記M-フタロシアニンナノワイヤーの直径が30~50nmであり、長さが1~10μmである、請求項4または5に記載のM-フタロシアニンナノワイヤー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフタロシアニンナノワイヤーおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
有機、無機結晶の結晶構造を制御することは、多形を有する結晶の体系的な研究において重要な要求事項である。多数の結晶成長方法のうち、ZnPc NWを含む様々な次元の数多くの有機、無機結晶を成長させるために広く使用されるPVT法は、選択的構造において結晶を成長させにくいと考えられてきたが、このことは、結晶の結晶構造が一般的に、主に熱力学で決まる固有の特性で固定され、PVTが様々な力学パラメータを有する一定の温度で作動するからである。
【0003】
1つ以上の多形体を有することは、多様で弱い非-芳香属性分子間のファンデルワールス力により、有機および有機金属分子の結晶において極めて一般的である。特に、種々の弱い相互作用部位を有するいくつかのフタロシアニンの多形は、積層構造に応じて異なる電気的および光学的特性のため、広く研究されてきた。例えば、α相チタニルフタロシアニンは、層間電子カップリングによりβ相チタニルフタロシアニンよりも250~750倍高い移動度を示す。さらに、三斜晶系及び単斜晶系鉛フタロシアニンの異なるπ-πスタッキング相互作用は、異なるQ帯吸収特性を示すが、これは鉛フタロシアニンの電子構造が積層構造の変化により容易に制御されることができることを意味する。多形体構造を有する様々なフタロシアニンの中、標的分子ZnPcは、癌光線療法に対する有望な光増感剤として多くの関心を集めている。ZnPcは、細胞傷害性活性化酸素種を生成し、悪性腫瘍を破壊する光線力学的効果を示すだけでなく、組織透過スペクトル波長範囲650~900nmにおいて大きな光吸収断面積を有する。しかしながら、ZnPcの実際的な適用への決定的な限界は、体液に対する不十分な溶解度をもたらす高い疎水性の特徴にある。したがって、このような障害を克服するための様々な手法として、例えば、水溶性を改善したZnPc誘導体および輸送ZnPcを可能にする送達システムが開発された。しかしながら、このような手法は複雑な後処理段階を必要とし、これは様々な副産物を生成し、不可避の損傷をもたらすおそれがある。先に本発明者らは、改善された水分散性および効率において、光線力学および光熱性能という二重の効果を奏する高品質のα型ZnPcナノワイヤー(NWs)を報告したが、これらはいずれもインビトロおよびインビボでの癌光線療法においてシナジー効果を有する。しかしながら、同時に、得られたα型およびβ型ZnPcを相分離することが難しく、依然として少量のβ型ZnPcの存在が溶液中の凝集および沈殿を引き起こすので、実際の抗癌物質において依然として大きな制限として残る。
【0004】
したがって、高品質かつ高収率α型ZnPc NWの成長は、臨床試験を含む実際の応用分野において重要かつ緊急な課題である。そこで、本発明者らは、α型ZnPc NWの選択的成長のための容易かつ効率的な方法の開発に重点を置いた。様々なPC研究において、結晶相は結晶の大きさと密接な関連があるとしてよく知られている。しかしながら、溶液-相結晶化は、キャッピング剤または界面活性剤のようなさらなる化学物質を用いずに結晶の大きさを制御することは困難である。したがって、純粋で高品質な結晶を得るのに好適な気相結晶化法であるPVT法を用いており、キャリアガスの流速が生成された結晶の大きさと密接な関連があることを確認した。キャリアガスの流速を増加させることにより、ZnPc NWの結晶の大きさを減少させることに成功し、高収率のα型ZnPc NWを成長させることができる。特に、2000sccmのキャリアガスの流速で成長させたβ型ZnPc NWは、水に8時間分散させた後、相当な凝集なく非常に高い水分散性を示した。
【0005】
特に本発明の先行文献である大韓民国特許登録第10-1352931号において、気化フタロシアニンを輸送するキャリアガスの流速が800sccmに過ぎず、このような製造工程を通じて製造されたフタロシアニンのα型の重量%は、実際は90重量%に過ぎずないので、相当なβ型フタロシアニン化合物が含まれており、水分散性が相対的に低下するという限界が存在した。
【0006】
そこで、本発明者らは、本発明のZnPc NWが、分子の結晶化を理解し、特に結晶の結晶構造制御及び実際のがん治療の商用化に用いることができることに着目し、高純度、高収率のフタロシアニン化合物を開発して発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、
1)M-フタロシアニンを気化させる段階であって、
前記Mは、亜鉛または銅であること;
2)前記1)段階における気化M-フタロシアニンを不活性気体を用いて輸送する段階であって、
前記不活性気体の流速は、1900~2100sccmの範囲であること;及び
3)前記2)段階における輸送された気化M-フタロシアニンを収集し、M-フタロシアニン結晶形態で析出させる段階;
を含むM-フタロシアニンナノワイヤーの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明では、前記製造方法により製造されたM-フタロシアニンナノワイヤーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明の一態様は、
1)M-フタロシアニンを気化させる段階であって、
前記Mは、亜鉛または銅であること;
2)前記1)段階における気化M-フタロシアニンを不活性ガスを用いて輸送する段階であって、
前記不活性ガスの流速は、1900~2100sccmの範囲であること;及び
3)前記2)段階における輸送された気化M-フタロシアニンを収集し、M-フタロシアニン結晶形態で析出させる段階;
を含むM-フタロシアニンナノワイヤーの製造方法を提供する。
【0010】
本発明のフタロシアニンは、下記式1の化合物の化学構造を有する。
【化1】
【0011】
具体的な一実施形態において、前記M-フタロシアニンのMは、下記式2の化合物のようにフタロシアニン内部の4個の窒素原子と結合した形態であってもよい。
【化2】
【0012】
前記Mは、亜鉛または銅であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0013】
前記2)段階における気化M-フタロシアニン化合物が不活性気体を用いて輸送する段階において、不活性気体の流速を調節し、α型M-フタロシアニン結晶の重量百分率を選択的に調節することができる。
【0014】
前記不活性気体の好ましい一例は、アルゴンガスであり、気化されたM-フタロシアニンを凝縮させ、再結晶化するためのキャリアガスとして用いることができる不活性気体を自由に用いることができる。
【0015】
前記不活性気体の流速は、1900~2100sccmの範囲であり、好ましくは1950~2050sccmの範囲であってもよく、最も好ましくは2000sccmである。前記不活性ガスの流速を前記範囲内に調節し、下記式3のα型M-フタロシアニン結晶の重量を選択的に調節することができる。
【化3】
【0016】
前記1)段階におけるM-フタロシアニン化合物は、本発明による(α)型のM-フタロシアニンナノワイヤーは、M-フタロシアニンを蒸気-凝縮-再結晶化(vapor-condensation-recrystallization,VCR)して得られることを特徴とする。より具体的には、(α)型のM-フタロシアニンナノワイヤーは、原料M-フタロシアニン(例えば、粉末状態)を470~700℃ 、好ましくは470~600℃ 、より好ましくは500℃に加熱して蒸発した蒸気を前記加熱温度より低い温度、例えば、常温~80℃の基板上で凝縮し、再結晶させることにより、M-フタロシアニンを基板上でナノワイヤーの形態で成長させることによって得ることができる。このようにして得られたα型のM-フタロシアニンナノワイヤーの直径は、約30~50nmであり、長さは約1~10μmであってもよい。
【0017】
前記3)段階における収集は、常温~80℃でSi(100)基板上に凝縮して再結晶するものであってもよい。
【0018】
また、α型M-フタロシアニンナノワイヤーは、既存のフタロシアニン粉末と異なり、水への溶解度及び分散性が非常に優れており、水溶液状態での安定性が著しく増進されたことを特徴とする(水溶液状態で3ヶ月以上安定性維持)。α型M-フタロシアニンナノワイヤーの水溶解度は、超音波処理などの攪拌によってさらに増進させることができる。このようにして得られたα型M-フタロシアニンナノワイヤーの水への溶解度及び分散性は常温で120mg/Lまで可能である。
【0019】
前記目的を達成するための本発明のもう一つの態様は、前記方法で製造されたM-フタロシアニンナノワイヤーである。
【0020】
前記M-フタロシアニンナノワイヤーは、α型結晶を95重量%以上含むものであってもよく、好ましくはα型結晶を98重量%以上含むものであってもよい。前記結晶形態の重量は、上述のように不活性ガスの流速を適切な範囲に調節することによって制御することができる。
【0021】
前記M-フタロシアニン化合物は、主にα及びβ型、主に前記式3の結晶構造を有するα型の混合結晶形態である。α型結晶は、結晶形の少なくとも50%を構成する主相(major phase)である。前記β型フタロシアニンの存在が溶液中の凝集及び沈殿を引き起こすため、α型結晶を95重量%、好ましくは98重量%以上、最も好ましくは98重量%超含有して優れた水分散性を維持させることができる。
【0022】
重複する内容は、本明細書の複雑性を考慮して省略し、本明細書において特に断りのない用語は、本発明が属する技術分野で通常使用される意味を有するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のM-フタロシアニンナノワイヤーは、キャリアガスの流速を適切な範囲に調節し、M-フタロシアニンナノワイヤーの結晶形態を調節することができ、水分散性に優れ、凝集なしに親水性溶媒中に存在することができるので、多様な用途で活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】それぞれ異なる流速条件で成長させたZnPC結晶の実験計画及び形態を示す。(a)ZnPc結晶を成長させるために使用されるPVTシステムの概略図である。(b)50sccm、(c)200sccm、(d)800sccmおよび投射2000sccmのキャリアガスの流速で成長させたZnPc結晶のSEM画像を示したものである。
【
図2】α型ZnPc結晶の結晶構造分析に関するものであって、それぞれ(a)異なる流速条件で成長させたZnPc結晶のPXRDパターン、(b)低倍率のTEM画像、(c)α型ZnPc NWの高解像度TEM画像([100]投射のZnPc NWのSAEDパターン)、(d)平面分子の法線方向に沿ったα型ZnPc結晶の積層配列、投射(c)の拡大画像、(f)[100]投射に対するZnPc分子の連続的層の概略図を示したものである。
【
図3】水分散性試験及び流速により得られたZnPc結晶統計研究に関するものであって、それぞれ(a)キャリアガスの流速に応じて水中に分散されたZnPc結晶の画像、(b)異なる流速条件で成長させたZnPc結晶の統計的幅およびα型重量%傾向を示したものである。
【
図4】2000sccmの流速で得られた最も薄い幅(12nm)を有するα型ZnPcナノワイヤーのTEM画像を示したものである。
【
図5】β型ZnPcナノワイヤーの結晶構造を分析したものであって、(a)低倍率(b)高倍率TEM画像を示したものである。
【
図6】(a)はα型ZnPc基準溶液を得るための模式図であり、(b)は様々な濃度で抽出されたα型ZnPc及び基準溶液の画像を示したものである。(c)は抽出されたα型ZnPcのPXRDパターンを示すものであり、(d)は基準溶液のUV-VISスペクトルを示すものであり、投射はα型ZnPcの基準溶液の吸光度と濃度との間の線形適合グラフを示したものである。
【
図7】(a)50sccm、(b)200sccm、(c)800sccm、(d)2000sccmの流速で成長させたCuPc結晶のSEM画像を示したものである。
【
図8】キャリアガスの流速に応じて水分散されたCuPc結晶の画像を示したものである。
【
図9】異なる流速で成長させたCuPcナノワイヤー結晶のPXRDパターンを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、以下の実施例は本発明をより容易に理解するために供されるものに過ぎず、実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
実施例1.ZnPc及びCuPcナノワイヤーの製造及びキャリアガスの流速によるナノワイヤーの特性変化の分析
ZnPc粉末を前駆体として用いて、蒸気-凝縮-再結晶法(vaporization-condensation-recrystallization, VCR)と呼ばれる蒸気輸送(physical vapor transport)を介してアルファ(α)型のZnPcナノワイヤーを製造した。
【0027】
ZnPcナノワイヤーおよびCuPcナノワイヤーは、それぞれ精製することなく市販の亜鉛フタロシアニン(ZnPc、97%、シグマアルドリッチ)および銅フタロシアニン(CuPc、97%、シグマアルドリッチ)前駆体を用いて調製した。具体的には、ZnPcまたはCuPc粉末(0.02g、シグマアルドリッチ)を電気加熱炉システムにある石英管(quartz tube)の中心に位置するセラミックボート(ceramic boat)に装填した。セラミックボート内に積載された約20mgの前駆体を石英保護管を用いてチューブ炉の中央に配置させた。結晶を効果的に収集するために、温度が80℃未満で自然に低下した石英管の端部にSi基板片を配置した。5分間1000sccmの流速でArガスを用いて石英管をフラッシュした後、特定のAr流速(50、200、800、2000sccm)下で炉温度を500℃まで上昇させた。目標温度で10分間反応させた後、炉の電源を遮断し、炉を自然に室温まで冷却した。このようなVCR過程を
図1(a)に概略的に示した。
【0028】
生成された結晶の形態は、走査電子顕微鏡(SEM、JSM-7401F、JEOL)によって分析しました。結晶の電子充電を防止し、結晶表面上に導電性層を生成するために、白金がコーティングされた。また、PAL (Pohang Accelerator Laboratory)の5Dビームラインから、ZnPc及びCuPc結晶のX線回折パターンを得ました。得られたすべてのデータは、対照群とのより良い比較のためにCuKの波長(λ=1.541841Å)に変換した。高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM、JEM-2200FS、JEOL)を構造分析に使用し、ZnPc結晶を炭素コーティングされたCuグリッドにスタンプし、TEM測定用サンプルを作成した。
【0029】
α型及びβ型ZnPc結晶の安定性は、これらの格子電位及び表面エネルギーにより結晶の大きさに影響を受ける。有機分子結晶の原子間非結合電位を推定することに用いられるバッキンガム方程式によれば、α型ZnPcは、結晶の大きさがより小さいときにβ型よりも安定的である。一般に気相蒸着工程の場合、結晶の大きさはキャリアガスの流速に大きく影響される。したがって、α型ZnPc結晶を選択的に得るために、アルゴンガスの流速を50~2000sccmに調節した。
図1b~eは、異なる流速のアルゴンガスから得られたZnPc結晶のSEM画像を示す。流速が増加するにつれて、結晶の幅は約460nm(50sccmで(
図1(b))から35nm(2000sccmで(
図1投射))まで減少した。得られたZnPc結晶の結晶構造を確認するために、本発明者らは粉末X線粉末回折(PXRD)及び高分解能透過電子顕微鏡(HR-TEM)を測定した。
図2(a)は、異なる流速条件で成長した結晶のPXRDスペクトルを示している。α型及びβ型ZnPc結晶のパッキング構造が異なるため、互いに異なる特性のX線回折パターンを示した。ZnPc結晶のαおよびβ型の代表的な特性回折平面のいずれかは、それぞれ2θ=7.712及び2θ=18.783で回折ピークを示す(002)及び(202)平面である。50sccmの流速で成長させたZnPc結晶の場合(
図2(a)の黒線)、β型の(202)平面の回折ピークが明らかに示されており、α型の(002)平面が欠落しているが、これはβ型ZnPc結晶が比較的低い流速のキャリアガスから支配的に得られたことを意味する。一方、β型の(202)回折ピークが徐々に減少し、流速が増加するほどα型で観測された(002)ピークが新たに登場した。2000sccm(
図2(a)の赤線)の流速において、α型の明確な(002)回折面とβ型の(202)回折面の消滅を観察することができ、これはα型ZnPc結晶が比較的高い流速で選択的に成長することを意味する。これらの結果は、PVT法でキャリアガスの流速を変化させることによりZnPcの結晶相が制御されることに成功したことを示している。
【0030】
実施例2.ZnPC結晶の結晶構造分析
α型およびβ型ZnPc結晶の特徴的な結晶面もTEM測定により確認した。
図2(b)は、約50nmの幅および数マイクロメートルスケールの長さを有する均一な表面を有するα型ZnPc NWの低倍率画像を示す。本発明者らは、2000sccmの流速で得られた最も薄いNWの幅が約15nm、具体的には12nmであることに注目した(
図4)。また、
図2(c)および
図2投射は、明確に定義された結晶面を示すα型ZnPc NWのHR-TEM画像である。
図2(c)は、
図2(a)のPXRDパターンにおいて観察された(002)回折平面の距離によく一致する1.134nmの格子距離を有する明確な回折スポットを示すNWの電子回折パターンである(2θ=7.712でd(002)=11.464Å)。
図2投射は、
図2(f)において赤線で示すように整列されたZnイオンに対応する(002)格子の拡大画像である。
図2(d)は、b軸に沿ってα型ZnPcの分子構造および詳細なステーキング配列であり、これは、π-π相互作用によって積層された方向[010]に沿ってZnPc NWの成長方向を示す。α及びβ型ZnPcの分子パッキング構造の最大の差異点は、列方向(b軸)と平面分子ZnPcの法線方向(the normal of the planar ZnPc molecule)の間の角度である。ZnPc β型(≒ 45°)よりも小さいα型の角度(≒25°)により、α型ZnPc NWの亜鉛及び窒素原子は、水分子、配位結合、水素結合により相互作用することができる結合部位を用いることができる。一方、水分子は、Zn(II)イオンと窒素原子が隣接するZnPcとの間に配位結合を形成する。また、明確に定義されたβ型ZnPc結晶の単結晶構造が確認された(
図5)。β型の(202)面の格子距離は0.480nmであり、これは、
図2(a)のPXRDの結果(d(202)=4.724Åで2θ=18.783)と良好に一致する。それぞれの流速条件で得られたZnPc結晶の結晶構造分析から、まず結晶相とキャリアガス流速間の関係に対する直接的な証拠が確認されたが、これはα型ZnPcの選択的成長において核心たるものであった。
【0031】
実施例3.ZnPc及びCuPc結晶の水分散性試験及び統計学的分析
ZnPcおよびCuPcナノワイヤー分散水溶液は、Si基板上に集められた結晶を水に添加した後、超音波洗浄機(UCS-10、JEIOTECH)で40分間超音波処理して調製した。異なる流速で得られたα型ZnPc結晶の定量分析のために、本発明者らは、UV-VIS分光光度計(UV-2600、SHIMADZU)を用いて測定されたα型のユニークな光吸収帯を使用した。α型の濃度と吸光度との関係を示す参照データを得るために、ZnPcを脱イオン水に分散させた後、24時間保存したZnPc溶液からα型ZnPcを分離した。実験過程の概略図を
図7(a)に示した。分離されたα型ZnPcは、α型の特徴的な回折パターンを示し(
図7(c))、5つの基準溶液のUV-VISスペクトルは濃度の増加に応じて同じピーク位置と、増加した吸収強度を示した(
図7(d))。濃度および吸光度は、
図3投射に示すように線形関係を示した。
【0032】
参照データに基づいて、異なる流速で得られた各溶液におけるα型ZnPcの濃度は、8時間保存されたZnPc溶液の上部(十分に分散された)部分の730nmで示される光吸光度を測定することで決定された。試料溶液の吸光度を
図7投射に示す基準線形当てはめデータと一致させ、α型ZnPcの濃度に水の体積を乗じて各流速条件でα型ZnPcの重量%を算出した。
【0033】
α型ZnPcの最大の利点は、水分散性が大幅に向上されることである。異なる流速条件で得られたZnPc及びCuPc結晶の水分散性を確認するために、同じ量の各生成物を脱イオン水(DI)に分散させた。
図3(a)の上部の写真は、ZnPcを均一に分散させるために40分間超音波処理した後に、得られた溶液の写真である。50sccmの流速で得られたZnPc結晶を使用して調製された最も左側の溶液が淡い青色を有することを除いて、他の溶液は類似の濃い青色を示した。周囲条件で8時間保存した後、50sccmの流速で得られた結晶によって調製されたZnPc溶液は強い沈殿を示しており、流速が増加するにつれて沈殿量が減少した(
図3(a)の底)。特に、2000sccmの流速(
図3(b)の一番右)で得られたZnPc結晶を用いて調製した溶液は、顕著な沈殿なしに改善された水分散性を示した。これらの結果は、キャリアガス流速が増加するにつれてα型ZnPcの割合が増加したPXRDデータとよく一致した。
【0034】
各溶液において、α型ZnPcの定量分析のために、沈殿物(β型ZnPc)を分離し、残った溶液のUV-VISスペクトルを測定した(
図6(d))。780nmで示されたα型ZnPcの特徴的な吸収ピークを使用して、溶液中のα型ZnPcの重量百分率は、ピーク強度を基準溶液の吸収スペクトルと比較することにより計算した。PXRDデータから予想されるように(
図2(a))、キャリアガスの流速が増加するにつれて、製品中のα型ZnPcの計算された重量百分率が増加した(
図3(b)の青線)。さらに、驚くべきことに、2000sccmの流速でα型の百分率は98%を超えた。
図3(b)の黒線は、流速が460nm(50sccm)から35nm(2000sccm)まで増加するにつれて減少するZnPc結晶の流速と平均幅との関係を示す。α型ZnPc NWの平均幅、百分率およびキャリアガスの流速、前記3つの重要な値を比較し、分析することにより、α型ZnPcがNWの幅を効率よく減少させる高い流速のキャリアガス中で相当有利に成長することを明確に確認した。
【0035】
実施例4.キャリアガス流速によるCuPcナノワイヤーの特性分析
様々な用途を確認するために、発光ダイオードのための優れた正孔注入材料としてよく知られている銅フタロシアニン(CuPc)の相を制御しようとした。水および他の有機溶媒への溶解度が低いため、ターゲット基板にCuPcを均一にコーティングすることは、デバイスへの適用において大きな制限の1つである。したがって、キャリアガスの流速を制御してCuPc結晶のサイズを小さくし、CuPcの水分散性を向上させた。ZnPcと同様に、CuPcはナノワイヤー状の形態とCuPc NWの幅を示し、キャリアガスの流速を増加させて減少させることに成功した(
図7)。水分散性試験により、高い流速のキャリアガスで成長したCuPc NWが水分散性に優れることを確認した。
図8の結果から、本発明者らは、流速制御方法が様々なPC結晶に適用可能であることを確信した。
【0036】
要約すると、本発明の発明者らは、凝集または顕著な沈殿なしに高い水分散性を示す高収率のα型ZnPc NWを得ることに成功した。α型ZnPc NWの選択的成長は、PVT法でキャリアガスの流速を制御することによって達成される。形態観察および結晶構造分析を通じてZnPc結晶の幅がZnPc結晶の位相に影響するキャリアガスの流速によって成功的に制御されることを証明した。2000sccmの流速で成長した結晶のUV-VIS分析により、ZnPc結晶の98%以上がα型ZnPcであることを確認した。したがって、本発明の結果は、流速制御が所望の相を有するZnPc結晶を得るための効果的な方法であることができることを実証した。