(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】液状炭化水素の増産方法
(51)【国際特許分類】
C10G 2/00 20060101AFI20240626BHJP
C07C 1/04 20060101ALI20240626BHJP
C07C 9/14 20060101ALI20240626BHJP
C10L 1/32 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C10G2/00
C07C1/04
C07C9/14
C10L1/32 D
(21)【出願番号】P 2024009752
(22)【出願日】2024-01-25
【審査請求日】2024-02-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514134321
【氏名又は名称】株式会社コスモス
(74)【代理人】
【識別番号】100084696
【氏名又は名称】赤尾 直人
(72)【発明者】
【氏名】山田 豊滋
(72)【発明者】
【氏名】竹本 正
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特許第7385972(JP,B1)
【文献】特許第7385974(JP,B1)
【文献】特許第7428453(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 2/00
C10L 1/32
C07C 1/02
C07C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
継続的に供給されている二酸化炭素が溶解しており、かつ液状炭化水素と混合状態にある水を収容している反応槽内にて光触媒を介して、二酸化炭素及び水を一酸化炭素及び水素に還元し、更に当該光触媒を介した当該一酸化炭素と当該水素との化学反応によって当該液状炭化水素を更に合成する方法であって、前記二酸化炭素と空気との混合気体の気泡を当該反応槽の底部及び/又は側部から供給するか、又は二酸化炭素の気泡及び空気の気泡を夫々当該反応槽の底部及び側部から供給するか、若しくは夫々当該反応槽の側部及び底部から供給することによって、反応槽の上側領域にて生成されている液状炭化水素の層における上側界面が、前記層を通過した二酸化炭素と空気との混合気体との接触状態を維持している液状炭化水素の合成方法
を行う各
反応槽毎の構成単位を、順次上下方向に複数段配置しており、かつ各
反応槽を、前記混合気体が流動している
中空状のパイプを介して上下方向に
連通状態にて結合している液状炭化水素の増産方法。
【請求項2】
最も高い位置の
反応槽において、液状炭化水素の層を通過した混合気体における二酸化炭素が通過後消失していることを特徴とする請求項1記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項3】
複数段の配置を水平方向に複数個並存した状態にあることを特徴とする請求項1記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項4】
水が、
各反応槽にて流動していることを特徴とする請求項1記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項5】
パイプの全て又は一部に対し、二酸化炭素を供給していることを特徴とする請求項1記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項6】
各反応槽の全て又は一部において、底部及び/又は側部にて混合又は供給されている空気の供給量を調整することを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項7】
各反応槽の全て又は一部において、前記上側界面の上側に空気を送付し、かつ当該送付量を調整することを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項8】
各反応槽の全て又は一部において、前記上側界面の上側にて二酸化炭素の濃度を測定していることを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項9】
各反応槽の全て又は一部において、液状炭化水素の層内に、気泡の移動速度を緩和する抵抗素子を備えていることを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項10】
各反応槽の全て又は一部において、超音波振動によってナノバブルを形成している酸素を含有している水を、反応槽の底部及び/又は側部に供給していることを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項11】
各反応槽の全て又は一部において、超音波振動によってナノバブルを形成している二酸化炭素及び/又は空気を含有している水を、反応槽の底部及び/又は側部に供給していることを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項12】
各反応槽の全て又は一部において、前記混合気体における二酸化炭素の濃度が430ppm~2000ppmであることを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項13】
各反応槽の全て又は一部において、溶解している酸素に対し紫外線を照射することを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の液状炭化水素の増産方法。
【請求項14】
各反応槽の全て又は一部において、混合状態にある前記液状炭化水素と前記水とが反応槽に流入していることを特徴とする請求項1,2,3,4,5の何れか一項に記載の液状炭化水素の増産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中において光触媒を介して二酸化炭素及び水を一酸化炭素及び水素に還元し、当該光触媒を介した当該一酸化炭素と当該水素との化学反応によって液状炭化水素を合成し、かつ増産する方法を対象としている。
【背景技術】
【0002】
水中において二酸化炭素を還元させて液状炭化水素を合成することは、既に従来技術によって提唱されている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、光電気化学セルにおいて、二酸化炭素を含む水中に酸素を供給し、二酸化炭素を還元することによって、液状炭化水素を生成する方法が提唱されている(page 81, lines 4- 21)。
【0004】
即ち、特許文献1における光触媒は、光電気化学セルを前提としており、陰極において液状炭化水素等による燃料を生成していることを前提としている(Claims 2, 77, 79)。
【0005】
従って、特許文献1においては、純然たる光触媒による二酸化炭素及び水の還元が実現している訳ではない。
現に、特許文献1においては、水に対する紫外線の照射による酸素の活性化は実現されていない(この点において、特許文献2の場合と明らかに相違している。)。
【0006】
本願の発明者らは、特許文献2に示すような二酸化炭素が溶解している水中に酸素を供給し、かつ酸素のナノバブルを発生させ、紫外線の照射によってナノバブルから生成された活性酸素の存在下において、光触媒を介して二酸化炭素及び水を一酸化炭素及び水素に還元することを前提とする液状炭化水素の製造方法及び製造装置に関与している。
【0007】
しかしながら、特許文献2の場合には、酸素のナノバブルの生成、及び紫外線の照射による活性酸素の生成を必要不可欠としている点において、その構成は、必ずしもシンプルではない。
【0008】
特許文献1及び同2において、光触媒を介して液状炭化水素を生成した場合には、液状炭化水素の層が水よりも上側領域にて生成されている。
【0009】
このような場合、二酸化炭素を含有する上側の空気との接触状態が実現するが、その場合には、空気が含有する炭酸ガスの濃度によって、水中の二酸化炭素における還元効率が左右される。
【0010】
このような還元効率の作用状況を考慮し、出願人は、従来技術の問題点を克服するために、以下のような合成方法、及び合成装置につき、既に特願2022-192688号出願に及んでいる(以下前記出願に基づく合成方法を「先願合成方法(1)」と略称し、前記出願に基づく合成装置を「先願合成装置(2)」と略称する)。
(1)継続的に供給されている二酸化炭素が溶解しており、かつ液状炭化水素と混合状態にある継続的に供給されている二酸化炭素が溶解しており、かつ液状炭化水素と混合状態にある水を収容している反応槽内にて光触媒を介して、二酸化炭素及び水を一酸化炭素及び水素に還元し、更に当該光触媒を介した当該一酸化炭素と当該水素との化学反応によって当該液状炭化水素を更に合成する方法であって、前記二酸化炭素と空気との混合気体の気泡を当該反応槽の底部及び/又は側部から供給するか、又は二酸化炭素の気泡及び空気の気泡を夫々当該反応槽の底部及び側部から供給するか、若しくは夫々当該反応槽の側部及び底部から供給することによって、反応槽の上側領域にて生成されている液状炭化水素の層における上側界面が、前記層を通過した二酸化炭素と空気との混合気体との接触状態を維持している液状炭化水素の合成方法による各構成単位を、順次上下方向に複数段配置しており、かつ各構成単位の貯水層を、前記混合気体が流動しているパイプを介して上下方向に結合している液状炭化水素の増産方法。
(2)液状炭化水素と混合状態にある水を収容している反応槽内にて光触媒を介して、反応槽の底部及び/又は側部にて継続的に供給されている二酸化炭素を、水中内にて一酸化炭素及び水素に還元し、当該光触媒を介した当該一酸化炭素と当該水素との化学反応によって更に液状炭化水素を反応槽の上側領域にて層状に合成する装置であって、当該反応槽内において、前記光触媒を有している光触媒手段を備え、かつ当該反応槽の底部及び/又は側部にて前記二酸化炭素と空気との混合気体の供給源と接続するか、又は当該反応槽の底部及び側部にて夫々酸素の供給源及び空気の供給源と接続するか、若しくは当該反応槽の側部及び底部にて夫々二酸化炭素の供給源及び空気の供給源と接続している液状炭化水素の合成装置による各構成単位を、順次上下方向に複数段積層しており、かつ各構成単位の貯水層を上下方向に結合するパイプを介して前記混合気体が上側に流動している液状炭化水素の増産装置。
先願合成方法(1)及び先願合成装置(2)においては、極めて合理的な液状炭化水素の生成を実現することができる。
但し、先願合成方法(1)及び先願合成装置(2)においては、液状炭化水素を量的に増産する構成迄想定している訳ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】WO2010/042196 A1
【文献】特許第6440742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、酸素及び二酸化炭素が溶解している水に対する光触媒を介して液状炭化水素を極めて効率的に生成する各反応槽毎の構成単位に立脚したうえで、液状炭化水素の増産方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明の基本構成は、以下の基本構成からなる。
継続的に供給されている二酸化炭素が溶解しており、かつ液状炭化水素と混合状態にある水を収容している反応槽内にて光触媒を介して、二酸化炭素及び水を一酸化炭素及び水素に還元し、更に当該光触媒を介した当該一酸化炭素と当該水素との化学反応によって当該液状炭化水素を更に合成する方法であって、前記二酸化炭素と空気との混合気体の気泡を当該反応槽の底部及び/又は側部から供給するか、又は二酸化炭素の気泡及び空気の気泡を夫々当該反応槽の底部及び側部から供給するか、若しくは夫々当該反応槽の側部及び底部から供給することによって、反応槽の上側領域にて生成されている液状炭化水素の層における上側界面が、前記層を通過した二酸化炭素と空気との混合気体との接触状態を維持している液状炭化水素の合成方法を行う各反応槽毎の構成単位を、順次上下方向に複数段配置しており、かつ各反応槽を、前記混合気体が流動している中空状のパイプを介して上下方向に連通状態にて結合している液状炭化水素の増産方法。
【発明の効果】
【0014】
基本構成の各反応槽においては、水よりも上側領域にて生成されている液状炭化水素の層を、通過する二酸化炭素と空気との混合気体との接触及び前記層の上側界面における二酸化炭素と空気との混合気体との接触状態の維持によって、極めて効率的な二酸化炭素の還元、更には液状炭化水素の合成を実現することができる。
即ち、前記混合気体による気泡が前記層を当該気泡の全表面における接触を伴った状態にて通過する段階及び上側界面における接触状態の維持による段階の双方によって、前記効率的な合成を可能としているが、特に前者による効果は、液状炭化水素の合成が順次進行し、上側領域の層が大きくなるに従って一層顕著となる。
各反応槽においては、二酸化炭素を継続的に供給することを前提としているが、前記二酸化炭素と空気との混合気体を供給する場合には、当然前記効果が発生している。
たとえ前記混合気体の供給ではなく、二酸化炭素及び空気を夫々反応槽の底部及び側部から供給するか、若しくは反応槽の側部及び底部から供給する場合であっても、前記層を通過するに至るまでに、気泡は相当の割合にて二酸化炭素と空気との混合気体を生成していることから、前記効果を実現することができる。
【0015】
基本構成における各反応槽は、先願合成方法(1)及び先願合成装置(2)の場合と同様に、特許文献1における電極を採用する構成に比し極めてシンプルであって、しかも電圧の印加を要せずに、純然たる光触媒反応によって、燃料となる液状炭化水素を得ることができる。
【0016】
前記各反応槽の場合には、前記二酸化炭素と空気との混合気体を供給するか、又は二酸化炭素及び空気を供給しており、しかも当該空気中に酸素が含有されていることから、特許文献2のように、酸素の供給、更には当該酸素のナノバブルの形成を必要不可欠としている訳ではない点においてシンプルな構成を実現している。
【0017】
このように、前記各反応槽を採用している基本構成は、先願合成方法(1)及び先願合成装置(2)の場合と同様に、シンプルな構成でありながら、極めて効率的な液状炭化水素の生成を実現することができる。
因みに、特許文献2の構成のうちには、別途調整した液状炭化水素と酸素のナノバブルから生成される活性酸素の存在下において、二酸化炭素を還元させる構成も包摂されているが、このような混合状態を、例えば24時間設置した場合に、液状炭化水素が更に合成される割合は、通常10~15%である(段落[0029])のに対し、前記各反応槽の場合には、液状炭化水素と接触している空気の二酸化炭素の濃度を430ppm~2000ppmの範囲内にて調整することによって、更に合成される液状炭化水素の割合を、20~30%とすることができる。
これらの各反応槽による効果に加えて、基本構成においては、各反応槽を上下方向に複数段積層することによって、各反応槽の効果を重畳することができる。
具体的には、積層によって供給された混合気体又は空気と水との接触領域を順次増加することが可能となり、ひいては液状炭化水素の増産を実現することができる。
【0018】
更には、基本構成において、所定の液状炭化水素を合成する場合には、後述するように相当量の二酸化炭素を必要とし、かつ相当量の酸素を排出するが、その結果、諸々の製造工程において排出された二酸化炭素を費消し、かつ酸素を生成するという植物の作用と同様の生活環境の向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】基本構成における各
反応槽の作動を示すブロック図である。
【
図2】基本構成を現実に実施する場合に対応する装置の各
反応槽及び当該反応槽と一体を成す装置に関する模式図であり、(a)は、二酸化炭素と空気との混合気体による供給源を反応槽の底部及び/又は側部にて接続すると共に((a)の上側は底部にて接続する場合を示し、下側は底部及び側部にて接続する場合を示すが、側部にて接続する構成も当然採用可能である。)、かつ混合される空気の量を調整する実施形態を示しており、(b)は、二酸化炭素及び空気の供給源を夫々反応槽の底部及び側部とを接続していると共に、反応槽の上側にて空気を供給し、しかも供給量を調整している実施形態を示し、(c)は二酸化炭素及び空気の供給源を夫々反応槽の側部及び底部に接続し、かつ反応槽の上側にて空気を供給し、しかも供給量を調整している実施形態を示す。
【
図3】基本構成の方法を示すブロック図である。 尚、矢印は、二酸化炭素と空気との混合ガスの流動方向を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
基本構成は、
図1及び
図3の各ブロック図に示すように、継続的に供給されている二酸化炭素が溶解しており、かつ液状炭化水素HCと混合状態にある水Wを収容している反応槽1内にて光触媒を介して、二酸化炭素及び水Wを一酸化炭素及び水素に還元し、更に当該光触媒を介した当該一酸化炭素と当該水素との化学反応によって当該液状炭化水素HCを更に合成する方法であって、
反応槽1の底部及び/又は側部から前記二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mの気泡を供給するか、又は空気Aの気泡を供給することによって、反応槽1の上側領域にて生成されている液状炭化水素HCの層における上側界面が、前記層を通過した二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mとの接触状態を維持している液状炭化水素HCの合成方法
を行う各
反応槽1毎の構成単位を、順次上下方向に複数段積層しており、かつ各
反応槽1を、前記混合気体Mが流動している
中空状のパイプ
7を介して
上下方向に連通状態にて結合している液状炭化水素HCの増産方法である。
【0021】
基本構成を現実に実施する場合に対応する各
反応槽1及び当該反応槽1と一体を成す装置は、
図2(a)、(b)、(c)の模式図に示すように、液状炭化水素HCと混合状態にある水Wを収容している反応槽1内にて光触媒を介して、反応槽内にて継続的に供給されている二酸化炭素を、水中内にて一酸化炭素及び水素に還元し、当該光触媒を介した当該一酸化炭素と当該水素との化学反応によって更に液状炭化水素HCを反応槽1の上側領域にて層状に合成する装置であって、当該反応槽1内における光触媒手段、及び当該反応槽1の底部及び/又は側部にて前記二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mの供給源
2又は
二酸化炭素の供給源3及び空気Aの供給源
4と接続している液状炭化水素HCの合成装置からなる。
【0022】
基本構成(1)の各反応槽1においては、二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mの気泡を反応槽1の底部及び/又は側部から供給する場合と、二酸化炭素の気泡及び空気Aの気泡を二酸化炭素と混合せずに夫々反応槽1の底部及び側部から供給するか、若しくは夫々反応槽1の側部及び底部から供給する場合との双方が包摂されているが、通常は、効率的な液状炭化水素HCの合成を考慮し、最初から混合気泡Mを供給する構成を採用する場合が多い。
以下、基本構成の各反応槽1における実施形態の技術的特徴点について、具体的に説明する。
【0023】
各反応槽1においては、液状炭化水素HCの生成のために二酸化炭素の継続的な供給を技術的前提としているが、既に効果の項において指摘したように、上側領域における液状炭化水素HCの層と、層を通過する二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mとの接触、更には、液状炭化水素HCが生成されている水Wの上側界面と二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mとの接触によって前記還元反応が促進される根拠については、以下のような技術的事項を推定することができる。
【0024】
水中に溶解している二酸化炭素については、水に対する光触媒によって、ラジカル水、即ち化学反応を起こし易い活性化した水の状態を形成した場合には、以下のような当該ラジカル化を原因とする還元反応については、以下のような反応式を相当の確率を以て想定することができる。
nCO2+(2n+1)H2O→nCO+(2n+1)H2+(3n+1/2)O2 ・・・(1)
即ち、前記(1)式においては、順次左側から右側への還元反応を呈しているが、個別の反応に着目した場合、部分的には、一酸化炭素分子が酸化されて二酸化炭素分子に変化する逆反応も存在するが、全体としては、順次二酸化炭素分子が一酸化炭素分子に還元される反応が進行することに帰する。
【0025】
前記(1)式の反応式に引き続き、ラジカル水中において、当該ラジカル化を原因として、以下のような液状炭化水素HCを更に生成する反応式についても、以下の反応式を相当の確率を以て想定することができる。
(2n+1)H2+nCO→CnH2n+2+nH2O ・・・(2)
従って、水Wの上側領域に生成されているCnH2n+2による液状炭化水素HCの層は、前記(2)の反応式に由来している。
尚、炭素数nは、予め配合され、かつラジカル水と混合状態にある液状炭化水素HCの炭素数と同一であることから、予め配合される液状炭化水素HCは、鋳型又は別名として種油と称されている。
但し、どうして、更に合成される液状炭化水素HCの炭素数nが鋳型である液状炭化水素HCの炭素数と同一であるかの根拠については、完全に解明されている訳ではない。
【0026】
前記想定による(1)式、及び(2)式によれば、1モルの液状炭化水素CnH2n+2を合成する場合には、nモルの二酸化炭素が費消され(3n+1)/2モルの酸素が発生する。
したがって、n=14とし、10モルの液状炭化水素であるC14H30を合成する場合には、140モル、即ち6160gの二酸化炭素を必要とし、215モル、即ち6880gの酸素が生成され、重量を基準とした場合、3.1倍の二酸化炭素が費消され、3.5倍の酸素が排出されることに帰する。
即ち、前記想定した場合であっても、所定量の液状炭化水素を合成する場合には、数倍の二酸化炭素を費消し、数倍の酸素が発生するが、このような二酸化炭素の費消及び酸素の発生は、産業上、発生した二酸化炭素の費消をすると共に、酸素の生成を実現できることから、植物と同様の生活環境の改善に寄与することができる。
但し、自然環境の下に二酸化炭素を供給しかつ費消する場合には、きのこ類を培養し、かつ当該きのこが発生する二酸化炭素を供給しかつ費消する方法も採用することができる。
【0027】
前記反応式(1)及び(2)の場合、液状炭化水素HCの層を通過している段階にあり、かつ空気Aと混合気体Mを生成している二酸化炭素、及び前記層の上側にて空気Aと混合気体Mを生成している二酸化炭素は、非極性液体である液状炭化水素HCと親和性を有することを原因として、液状炭化水素HCの層を透過し、更には下側領域の水Wが極性液体であっても、水Wに溶解し易いことを原因として、水Wの側に移行し、かつ溶解する。
【0028】
前記溶解によって、前記(1)の還元による反応式が促進され、ひいては、(2)式の合成反応もまた促進されることに帰する。
前記(1)、(2)の各反応式に着目する限り、前記界面の上側において調整自在の液状炭化水素HCの濃度については、高いほど前記(1)式及び前記(2)式の各反応が促進されるが如くである。
【0029】
ところが、発明者らの経験によれば、二酸化炭素の濃度が高いほど前記(1)、及び(2)式の反応が促進される訳ではなく、前記界面の上側における二酸化炭素が所定の濃度を超えた場合には、かえって液状炭化水素HCの生成が減少する場合があることが判明している。
【0030】
二酸化炭素の濃度が所定の数値を超えた場合に、液状炭化水素HCの合成効率が低下する正確な根拠については、現時点では明らかではない。
但し、前記(1)、(2)の反応式における光触媒の機能が、二酸化炭素が所定の濃度を超えた場合には、却って低下することを推定することができる。
【0031】
前記上側界面における二酸化炭素の適切の濃度は、水中に含有される二酸化炭素の含有量によって左右されるが、大抵の場合、430ppm~2000ppmの数値範囲によって適切な二酸化炭素の濃度を設定することができる。
【0032】
二酸化炭素の継続的な供給を前提としている基本構成においては、二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mの供給又は空気Aの供給によって、前記のような適切な数値範囲の二酸化炭素の濃度を実現することができる。
【0033】
酸素のナノバブルを必要不可欠とする特許文献2の構成の場合には、反応槽1における温度としては、室温40℃が好ましく、特に30℃がより好ましいことが想定されていた(段落[0028])。
これに対し、前記各反応槽1の場合には、水温については自然状態の場合、冷却する場合、加熱する場合の何れをも包摂しているが、水温は、液状炭化水素HCの合成効率にさしたる影響を与えない。
【0034】
その根拠は、前記(1)式の還元反応及び(2)式の液状炭化水素HCの合成反応によって作用する光触媒によって、水中にて局所的に熱振動よりも桁違いに大きな振動数による分子の振動が生じており、水温を左右する熱振動は、前記分子運動に殆ど影響を与えないことにあるものと解される。
【0035】
前記(1)式の還元反応は、平穏な状態であることが好ましい。
このような場合、前記各反応槽1のように、空気A又は二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mの気泡を水W中に上昇させた場合に、前記(1)式の還元反応に支障が生ずるような平穏状態が破壊されるが如き懸念が想定されるが、現実には、このような破壊は生じていない。
【0036】
その根拠は、前記気泡の上昇によって、水W内において、前記還元反応に支障が生ずるような振動状態、及び乱流状態が形成されていないことから、前記還元反応と前記気泡の上昇とは十分両立し得ることにある。
現に、空気A又は二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mによる気泡を供給していない従来技術の場合であっても、継続的に供給されている二酸化炭素の気泡による移動を原因として、前記(1)式の還元反応に格別の支障は生じていない。
【0037】
基本構成の各
反応槽1の場合には、底部及び/又は側部にて混合又は供給されている空気Aの供給量を調整する実施形態を採用することができ、その場合に対応する装置としては、
図2(a)に示すように、底部及び/又は側部にて混合又は供給されている空気Aに対する供給量調整器具4を採用している。
但し、
図2(a)は、混合される前の空気Aに対する供給量調整器具4を採用した場合を示す。
【0038】
前記実施形態の場合には、供給する二酸化炭素、又は空気A、又は二酸化炭素と空気Aの混合気体Mの供給量を調整することによって、液状炭化水素HCの合成効率を調整し、しかも430ppm~2000ppmという好ましい二酸化炭素の濃度を設定することができる。
【0039】
基本構成の各
反応槽1においては、前記上側界面の上側に空気Aを送付し、かつ当該送付量を調整する実施形態を採用することができ、その場合に対応する装置としては、
図2(b)に示すように、反応槽1の上側にて空気供給源3及び供給量調整器具4を採用している。
【0040】
前記実施形態においては、二酸化炭素と空気Aとの混合気体M又は空気Aの供給量を一定とした上で、水W面の上側にて供給する空気Aの供給量を調整することによって、液状炭化水素HCの合成効率を調整し、かつ430ppm~2000ppmという好ましい二酸化炭素の濃度を設定することができる。
【0041】
供給量の調整という前記実施形態の場合には、基本構成の各
反応槽1の場合には、前記上側界面の上側にて二酸化炭素の濃度を測定している構成を採用することができ、その場合に対応する装置としては、
図2(a)、(b)、(c)に示すように、反応槽1の上側に二酸化炭素の濃度の測定器具5を備えることによって正確な二酸化炭素の濃度を設定している。
【0042】
基本構成の各反応槽1においては、液状炭化水素HCの層内に、気泡の移動速度を緩和する抵抗素子を備えている実施形態を採用することができ、その場合に対応する装置としては、反応槽1内に単数又は複数のフィルターを設置している。
前記実施形態においては、気泡が液状炭化水素HCの最下層に至る迄の時間を長時間とし、(1)、(2)の反応が実現する機会を増加することができる。
基本構成の各反応槽1においては、供給する混合気体Mにおける二酸化炭素の濃度を予め調整するか、又は供給する二酸化炭素及び空気Aの層を予め調整することによって混合気体Mにおける二酸化炭素の濃度が430ppm~2000ppmであるような実施形態を採用することができ、その場合に対応する装置としては、反応槽1の上側にて二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mの上昇を遮断する遮蔽板を設けている。
前記実施形態においては、空気Aとの混合気体Mにおける二酸化炭素の濃度を反応槽1の全領域にて大気圧の場合に概略等しい430ppmよりも相当大きな濃度に設定し、かつ前記(1)、(2)の反応式を効率的に推進することができる。
特に、複数個の遮蔽板の相互間に所定の隙間を設け、かつ隙間の程度を調整し得ることを特徴とする構成を採用した場合には、隙間の調整によって、当該濃度を適宜選択することができる。
【0043】
基本構成の各反応槽1においては、超音波振動によってナノバブルを形成している酸素を含有している水Wを、反応槽1の底部及び/又は側部に供給している実施形態を採用することができ、その場合に対応する装置としては、超音波振動装置を備えた水槽にてナノバブルを形成した酸素の供給槽を反応槽1の底部及び/又は側部と接続している。
【0044】
前記実施形態の場合には、予め超音波振動によって酸素のナノバブルを形成した上で、反応槽1内にナノバブルを供給することによって、液状炭化水素HCの合成効率を向上させることを可能とする一方、反応槽1内にて超音波による振動が発生していない以上、前記(1)の還元化反応を平穏な状態にて実現することができる。
【0045】
基本構成の各反応槽1においては、超音波振動によってナノバブルを形成している二酸化炭素及び/又は空気Aを含有している水を、反応槽1の底部及び/又は側部に供給していることを特徴とする実施形態を採用し、対応する装置としては、超音波振動装置を備えた水W中にて、ナノバブルを形成した二酸化炭素及び/又は空気Aの供給槽を反応槽1の底部及び/又は側部に接続する構成を採用することができる。
【0046】
前記実施形態においては、ナノバブル化した二酸化炭素及び/又は空気Aが活性化しており、液状炭化水素HCの合成効率を向上させることができる。
【0047】
具体的に説明するに、ナノバブルによって、二酸化炭素及び/又は空気Aによる気泡の体積が狭小化することによって水W中を移動する速度が低下し、二酸化炭素と混合せずに供給された空気Aが別途供給されている二酸化炭素の混合状態が生じ易いだけでなく、液状炭化水素HCの層を移動する速度が減少し、前記層が前記混合気体Mと接触する期間が増加することによって、前記合成効率の向上を助長することができる。
【0048】
しかも、反応槽1の外部にて超音波振動が実現するため、上記酸素のナノバブルの場合と同様に、前記(1)式の還元反応を平穏な状態にて実現することができる。
【0049】
基本構成の各反応槽1においては、溶解している酸素に対し、紫外線を照射する実施形態を採用し、その場合に対応する装置としては、反応槽1内に溶解している酸素に対する紫外線照射装置を採用している。
紫外線の照射によって溶解している酸素の活性化した場合には、活性化しない場合に比し、二酸化炭素の還元効率を大幅に増進することができる。
【0050】
その根拠については、溶解している酸素の活性化によって過酸化水素(H2O2)が生成され、その結果、以下のような化学式によって、効率的な二酸化炭素の還元を想定することができる。
CO2+H2O2→CO+H2+3O2/2 ・・・(3)
【0051】
このように、基本構成の各反応槽1においては、様々な実施形態を採用し、前記各特徴点による固有の効果を発揮することができる。
即ち、基本構成は、このような特徴点による効果を複数段の積層を介して液体炭化水素の増産を実現していることに帰する。
以下、基本構成自体の実施形態について説明する。
基本構成においては、最も高い位置の反応槽1において、液状炭化水素HCの層を通過した混合気体Mにおける二酸化炭素が通過後消失していることを特徴とする実施形態を採用することができる。
【0052】
前記実施形態の場合には、各反応槽1にて供給された二酸化炭素の全てを液状炭化水素HCの生成のために費消するという効率的な増産を実現することができる。
基本構成においては、上下方向の積層を水平方向に並存した状態にて複数個を配置することを特徴とする実施形態を実現することができる。
【0053】
このような実施形態の場合には、積層による増産に加えて、水平方向における並存による増産を更に助長することができる。
【0054】
基本構成においては、水Wが、反応槽1内にて流動していることを特徴とする実施形態を採用することができる。
水が流動している場合には、混合気体Mの気泡、二酸化炭素の気泡、及び空気Aの気泡は何れも反応槽1内において、水平方向に流動し、流動距離が増加する。
【0055】
のみならず、前記各気泡は流動に際し、水から流動方向への圧力を受けることによって体積が減少し、その結果、液状炭化水素HCの最下層への上昇する速度が減少することを原因として、当該最下層にまで移動する時間もまた増加する。
【0056】
このように、各気泡の移動距離及び移動時間の増加によって、各気泡と水Wとが接触しあう機会が増加し、ひいては液状炭化水素HCの生成量を増加する。
したがって、前記実施形態の場合には、反応槽1の体積が実施的に増加したことを意味しており、液状炭化水素HCの増産を更に助長することができる。
【0057】
基本構成においては、各反応槽1を結合しているパイプの全て又は一部に対し、二酸化炭素を供給することを特徴とする実施形態を採用することができる。
【0058】
このような特徴によって、二酸化炭素が供給されているパイプの上側の反応槽1における混合気体Mは、適切な高い濃度による二酸化炭素によって前記(1)及び基本構成(2)の各化学反応を効率的に実現することができる。
以下、実施例について説明する。
【実施例】
【0059】
実施例は、基本構成が採用している各反応槽1において、混合状態にある前記液状炭化水素HCと前記水Wとが反応槽1に流入していることを特徴としている。
【0060】
このような特徴によって、反応槽1内においては、反応槽1に流入した液状炭化水素HCと、二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mによる気泡との頻繁な接触が実現され、液状炭化水素HCの合成効率が一層助長されることに帰する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
基本構成に立脚している本発明においては、液状炭化水素が生成されている層における二酸化炭素と空気との混合気体による気泡の全表面との接触、更には、当該層の上側界面における二酸化炭素と空気との混合気体との接触によって液状炭化水素を効率的に生成することを前記各反応槽において実現したうえで、このような生成を積層によって更に増強するという多大なメリットを有しており、産業上の利用価値は絶大である。
【符号の説明】
【0062】
W 水
A 空気
HC 液状炭化水素(hydrocarbonの略)
M 二酸化炭素と空気の混合気体
1 反応槽
2 二酸化炭素と空気との混合気体の供給源又は空気の供給源
3 二酸化炭素供給源
4 空気の供給源
5 供給量調整器具
6 二酸化炭素の濃度測定器具
7 パイプ
【要約】
【課題】酸素及び二酸化炭素から液状炭化水素を増産する方法の提供。
【解決手段】液状炭化水素HCと混合状態にある水Wを収容している反応槽1内にて光触媒を介して、二酸化炭素及び水Wを一酸化炭素及び水素に還元し、光触媒を介した一酸化炭素と水素との化学反応によって液状炭化水素HCを合成する方法であって、二酸化炭素と空気Aとの混合気体Mを反応槽1の底部及び/又は側部から供給するか、又は二酸化炭素及び空気Aを夫々反応槽1の底部及び側部から供給するか、若しくは夫々反応槽1の側部及び底部から供給することによって、水Wの上側に合成されている液状炭化水素HCの層を通過する混合気体Mの気泡との接触、前記層の上側界面との混合気体Mとの接触による
各作動を実現する各反応槽1毎の構成単位
を、中空状のパイプ7を介して上下方向に連通状態にて結合するという積層によって前記課題を達成している液状炭化水素HCの合成方法。
【選択図】
図3