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特許7510229二酸化炭素動態シミュレーション装置、コンピュータプログラム及び記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】二酸化炭素動態シミュレーション装置、コンピュータプログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20240101AFI20240626BHJP
   A01G 9/18 20060101ALI20240626BHJP
   A01G 7/02 20060101ALI20240626BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G06Q50/02
A01G9/18
A01G7/02
A01G7/00 603
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024513330
(86)(22)【出願日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2023044184
【審査請求日】2024-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2023029301
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390010814
【氏名又は名称】株式会社誠和
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】新村 素晴
(72)【発明者】
【氏名】大出 浩睦
【審査官】野口 俊明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-193591(JP,A)
【文献】特開平8-172913(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021142(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
A01G 9/18
A01G 7/02
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農業用ハウスにおける二酸化炭素の動態をシミュレーションする二酸化炭素動態シミュレーション装置であって、
前記農業用ハウス内で栽培される植物の純光合成量を、前記植物による二酸化炭素の吸収量として求める吸収量算出部と、
所定期間における、二酸化炭素供給源から前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量に対する前記吸収量の割合を、前記農業用ハウスに供給された前記二酸化炭素の利用率として求める利用率算出部と
を有する二酸化炭素動態シミュレーション装置。
【請求項2】
前記吸収量算出部は、全天日射量、前記農業用ハウスの光透過率、植物の受光率及び前記農業用ハウスの室内二酸化炭素濃度を用いて前記純光合成量を求める請求項1記載の二酸化炭素動態シミュレーション装置。
【請求項3】
前記室内二酸化炭素濃度が、前記農業用ハウスの空気の室内外の換気率に基づき算出され、
前記換気率が、前記農業用ハウスの屋外比エンタルピーと室内比エンタルピーの差を用いて算出される請求項2記載の二酸化炭素動態シミュレーション装置。
【請求項4】
前記吸収量算出部は、
前記光透過率を含む前記農業用ハウスの構造情報を取得するハウス構造情報取得部と、
前記受光率を含む栽培対象の前記植物の情報を取得する植物情報取得部と、
前記農業用ハウスの設置地域の気象情報を取得する気象情報取得部と
を有する請求項2記載の二酸化炭素動態シミュレーション装置。
【請求項5】
前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量を、前記二酸化炭素供給源として化石燃料の燃焼により二酸化炭素を発生させる装置を用いて賄う場合の第1温室効果ガス排出量を求める第1温室効果ガス排出量算出部と、
前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量を、前記二酸化炭素供給源として排ガス発生源から排出される排ガスから回収された二酸化炭素により賄う場合の第2温室効果ガス排出量を求める第2温室効果ガス排出量算出部と、
前記第1温室効果ガス排出量と前記第2温室効果ガス排出量との差分を、前記排ガスを利用した場合の温室効果ガス削減量として算出する温室効果ガス削減量算出部と
を有する請求項1記載の二酸化炭素動態シミュレーション装置。
【請求項6】
前記第1温室効果ガス排出量算出部は、前記二酸化炭素の供給量と前記二酸化炭素の吸収量との差分を前記第1温室効果ガス排出量として求める請求項5記載の二酸化炭素動態シミュレーション装置。
【請求項7】
前記第2温室効果ガス排出量算出部は、前記二酸化炭素の吸収量に相当する値を負数として、前記第2温室効果ガス排出量を求める請求項5記載の二酸化炭素動態シミュレーション装置。
【請求項8】
前記二酸化炭素の供給量を、前記化石燃料を利用して供給する場合と前記排ガスを利用して供給する場合とで比較し、二酸化炭素供給コストの削減費用を求めるコスト算出部を有する請求項5記載の二酸化炭素動態シミュレーション装置。
【請求項9】
コンピュータを、農業用ハウスにおける二酸化炭素動態シミュレーション装置として機能させるコンピュータプログラムであって、
前記農業用ハウス内で栽培される植物の純光合成量を、前記植物による二酸化炭素の吸収量として求める手順と、
所定期間における、二酸化炭素供給源から前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量に対する前記吸収量の割合を、前記農業用ハウスに供給された前記二酸化炭素の利用率として求める手順と
を前記コンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記二酸化炭素の吸収量を求める手順では、全天日射量、前記農業用ハウスの光透過率、植物の受光率及び前記農業用ハウスの室内二酸化炭素濃度を用いて前記純光合成量を求める請求項9記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
前記室内二酸化炭素濃度が、前記農業用ハウスの空気の室内外の換気率に基づき算出され、
前記換気率が、前記農業用ハウスの屋外比エンタルピーと室内比エンタルピーの差を用いて算出される請求項10記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
前記二酸化炭素の吸収量を求める手順では、
前記光透過率を含む前記農業用ハウスの構造情報を取得する手順と、
前記受光率を含む栽培対象の前記植物の情報を取得する手順と、
前記農業用ハウスの設置地域の気象情報を取得する手順と
を前記コンピュータに実行させる請求項10記載のコンピュータプログラム。
【請求項13】
さらに、前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量を、前記二酸化炭素供給源として化石燃料の燃焼により二酸化炭素を発生させる装置を用いて賄う場合の第1温室効果ガス排出量を求める手順と、
前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量を、前記二酸化炭素供給源として排ガス発生源から排出される排ガスから回収された二酸化炭素により賄う場合の第2温室効果ガス排出量を求める手順と、
前記第1温室効果ガス排出量と前記第2温室効果ガス排出量との差分を、前記排ガスを利用した場合の温室効果ガス削減量として算出する手順と
を前記コンピュータに実行させる請求項9記載のコンピュータプログラム。
【請求項14】
さらに、前記二酸化炭素の供給量を、前記化石燃料を利用して供給する場合と前記排ガスを利用して供給する場合とで比較し、二酸化炭素供給コストの削減費用を求める手順を前記コンピュータに実行させる請求項13記載のコンピュータプログラム。
【請求項15】
請求項9~14のいずれか1に記載のコンピュータブログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウス内の二酸化炭素の動態をシミュレーションする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策は喫緊の課題として種々検討されている。特に、二酸化炭素等の温室効果ガスを排出する発電所、変電所、工場、清掃工場等における温室効果ガスの削減は温暖化対策に大きな効果が期待できる。
【0003】
特許文献1では、都市ごみ、下水汚泥、産業廃棄物等の廃棄物を焼却処理する焼却炉を備えた焼却処理系統と、湿潤系廃棄物をメタン発酵処理するメタン発酵槽を備えたメタン発酵処理系統とからなる廃棄物複合焼却処理システムが開示されている。メタンガス及び二酸化炭素を回収して分離し、燃焼処理系統で発生する灰の洗浄にこの分離した二酸化炭素を利用するなど、システム内で再利用して省資源化を図ろうとするものである。
【0004】
特許文献2では、火力発電所の二酸化炭素を多く含む熱排気を大気に放出せず、海水を利用して所定温度まで低下させる熱交換を行い、この二酸化炭素を含んだ熱排気を植物工場に供給し、温室効果ガスの大気への放出を抑制する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3では、火力発電所やごみ焼却場等から排出される排ガスから、二酸化炭素吸収能力を備えた水膜を利用して二酸化炭素を分離する技術が開示されており、分離した二酸化炭素を植物育成に用い、それにより、二酸化炭素を大気中に放出せずに有効利用し、地球環境問題の解決を図ることも記載されている。
【0006】
非特許文献1では、地球温暖化防止技術の一つとして、ガス等の燃焼により発生する熱を農業用ハウスに供給して暖房を賄うと共に、排ガスから二酸化炭素を取り出して供給し、植物の成長を促す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-212524号公報
【文献】特開平3-236723号公報
【文献】特開2021-133314号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】エネフロ、ENERGY FRONTLINE、2021年4月13日、Vol.25、「CO2でトマトがぐんぐん!一石三鳥の最新技術とは?」 URL:https://ene-fro.com/article/ef195_a1/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3及び非特許文献1に開示の技術は、基本的には、様々なエネルギー排出設備から排出される二酸化炭素や熱を回収し、他の用途に活用することによって大気中への温室効果ガスの放出量を抑制する技術である。このうち、特許文献2~3及び非特許文献1では、植物に二酸化炭素を供給することにより二酸化炭素の大気への放出量を抑制する点で共通している。
【0010】
植物の二酸化炭素の吸収能力を利用するとしても、それにより、大気への二酸化炭素の放出量を抑制する効果を高めようとするならば、それなりの栽培面積を確保できる農業用ハウスを構築する必要がある。しかしながら、栽培面積が大きくなるほど農業用ハウスの建設コストが増加することはもちろんであり、建設する場合には、エネルギー排出設備から排出される二酸化炭素を最大限有効利用可能な規模の栽培面積を確保できる農業用ハウスであることが望まれる。
【0011】
ところが、上記従来の技術では、植物の栽培によって二酸化炭素を消費させるという概念が提示されているのみであり、当該農業用ハウスに供給される二酸化炭素が、植物によってどの程度吸収されるかについての検討は全くなされていない。
【0012】
このようなこともあり、農業用ハウスの活用による温暖化防止を図る手法は、普及率の点では十分なものではない。温暖化防止対策のために農業用ハウスを建設しようとする場合に、回収可能な排ガスを、その農業用ハウスで利用した場合にどの程度の二酸化炭素の削減を達成できるのかということが事前に予測できれば、新たな農業用ハウスの建設のための動機付けになる。その際、二酸化炭素の削減の効果を金額的に把握できればその効果はさらに増すことも期待できる。もちろん、既存の農業用ハウスにおいても、近隣のエネルギー排出設備からの排ガスを利用した場合における二酸化炭素の削減量や経済的な効果を把握できれば、排ガス利用のさらなる促進を図ることが期待される。
【0013】
一方、農業用ハウスにおいては、光合成を促進するため、二酸化炭素発生装置を設置して二酸化炭素を供給することが行われている。暖房装置の排ガスを利用することも既に行われている。すなわち、工場等の別の施設の排ガスを利用しない場合でも、光合成促進のために、化石燃料によって稼働する装置を用いて積極的に二酸化炭素を供給することは行われている。しかしながら、供給された二酸化炭素によって植物の光合成がどの程度促進されたかを逐一数値的に把握することは困難であり、実用化の点では十分ではない。
【0014】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、農業用ハウスにおける二酸化炭素の動態を把握できると共に、発電所や工場等の排ガス中の二酸化炭素の循環利用を促し、温室効果ガスの削減に寄与できる二酸化炭素動態シミュレーション装置、コンピュータプログラム及び記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の二酸化炭素動態シミュレーション装置は、
農業用ハウスにおける二酸化炭素の動態をシミュレーションする二酸化炭素動態シミュレーション装置であって、
前記農業用ハウス内で栽培される植物の純光合成量を、前記植物による二酸化炭素の吸収量として求める吸収量算出部と、
所定期間における、二酸化炭素供給源から前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量に対する前記吸収量の割合を、前記農業用ハウスに供給された前記二酸化炭素の利用率として求める利用率算出部と
を有する。
【0016】
前記吸収量算出部は、全天日射量、前記農業用ハウスの光透過率、植物の受光率及び前記農業用ハウスの室内二酸化炭素濃度を用いて前記純光合成量を求める構成であることが好ましい。
【0017】
前記室内二酸化炭素濃度が、前記農業用ハウスの空気の室内外の換気率に基づき算出され、
前記換気率が、前記農業用ハウスの屋外比エンタルピーと室内比エンタルピーの差を用いて算出されることが好ましい。
【0018】
前記吸収量算出部は、
前記光透過率を含む前記農業用ハウスの構造情報を取得するハウス構造情報取得部と、
前記受光率を含む栽培対象の前記植物の情報を取得する植物情報取得部と、
前記農業用ハウスの設置地域の気象情報を取得する気象情報取得部と
を有することが好ましい。
【0019】
前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量を、前記二酸化炭素供給源として化石燃料の燃焼により二酸化炭素を発生させる装置を用いて賄う場合の第1温室効果ガス排出量を求める第1温室効果ガス排出量算出部と、
前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量を、前記二酸化炭素供給源として排ガス発生源から排出される排ガスから回収された二酸化炭素により賄う場合の第2温室効果ガス排出量を求める第2温室効果ガス排出量算出部と、
前記第1温室効果ガス排出量と前記第2温室効果ガス排出量との差分を、前記排ガスを利用した場合の温室効果ガス削減量として算出する温室効果ガス削減量算出部と
を有することが好ましい。
【0020】
前記第1温室効果ガス排出量算出部は、前記二酸化炭素の供給量と前記二酸化炭素の吸収量との差分を前記第1温室効果ガス排出量として求めることが好ましい。
前記第2温室効果ガス排出量算出部は、前記二酸化炭素の吸収量に相当する値を負数として、前記第2温室効果ガス排出量を求めることが好ましい。
【0021】
前記二酸化炭素の供給量を、前記化石燃料を利用して供給する場合と前記排ガスを利用して供給する場合とで比較し、二酸化炭素供給コストの削減費用を求めるコスト算出部を有することが好ましい。
【0022】
また、本発明は、
コンピュータを、農業用ハウスにおける二酸化炭素動態シミュレーション装置として機能させるコンピュータプログラムであって、
前記農業用ハウス内で栽培される植物の純光合成量を、前記植物による二酸化炭素の吸収量として求める手順と、
所定期間における、二酸化炭素供給源から前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量に対する前記吸収量の割合を、前記農業用ハウスに供給された前記二酸化炭素の利用率として求める手順と
を前記コンピュータに実行させるコンピュータプログラム
を提供する。
【0023】
前記二酸化炭素の吸収量を求める手順では、全天日射量、前記農業用ハウスの光透過率、植物の受光率及び前記農業用ハウスの室内二酸化炭素濃度を用いて前記純光合成量を求めることが好ましい。
前記室内二酸化炭素濃度が、前記農業用ハウスの空気の室内外の換気率に基づき算出され、
前記換気率が、前記農業用ハウスの屋外比エンタルピーと室内比エンタルピーの差を用いて算出されることが好ましい。
【0024】
前記二酸化炭素の吸収量を求める手順では、
前記光透過率を含む前記農業用ハウスの構造情報を取得する手順と、
前記受光率を含む栽培対象の前記植物の情報を取得する手順と、
前記農業用ハウスの設置地域の気象情報を取得する手順と
を前記コンピュータに実行させることが好ましい。
【0025】
さらに、前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量を、前記二酸化炭素供給源として化石燃料の燃焼により二酸化炭素を発生させる装置を用いて賄う場合の第1温室効果ガス排出量を求める手順と、
前記農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量を、前記二酸化炭素供給源として排ガス発生源から排出される排ガスから回収された二酸化炭素により賄う場合の第2温室効果ガス排出量を求める手順と、
前記第1温室効果ガス排出量と前記第2温室効果ガス排出量との差分を、前記排ガスを利用した場合の温室効果ガス削減量として算出する手順と
を前記コンピュータに実行させることが好ましい。
【0026】
さらに、前記二酸化炭素の供給量を、前記化石燃料を利用して供給する場合と前記排ガスを利用して供給する場合とで比較し、二酸化炭素供給コストの削減費用を求める手順を前記コンピュータに実行させることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、前記コンピュータブログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。コンピュータプログラムを記憶した記録媒体は、非一過性の記録媒体であっても良い。非一過性の記録媒体は特に限定されないが、例えば フレキシブルディスク、ハードディスク、CD-ROM、MO(光磁気ディスク)、DVD-ROM、メモリカードなどの記録媒体が挙げられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、農業用ハウス内における植物による二酸化炭素の吸収量を測定できる。よって、所定期間における二酸化炭素の供給量と吸収量により、農業用ハウスに供給された二酸化炭素の利用率を求めることができる。これにより、当該農業用ハウスにおける二酸化炭素の供給、吸収、換気に伴う二酸化炭素の農業用ハウス外へ排出等の動態を定量的に把握可能となる。また、二酸化炭素供給源として排ガスを利用し、植物に吸収させることで、温室効果ガスの削減に寄与できると共に、排ガスの供給量、植物による二酸化炭素の吸収量、利用率を求めることで、削減効果を定量的、さらには経済的に把握でき、工場等の排ガスを利用するための農業用ハウスの設置の促進に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の一の実施形態に係る二酸化炭素動態シミュレーション装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、ディスプレイに表示される入力画面及び出力画面の一例を示した図である。
図3図3は、吸収量算出部において日中放熱量の算出過程を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、吸収量算出部において室内二酸化炭素濃度の算出過程を説明するためのフローチャートである。
図5図5は、吸収量算出部において純光合成量、植物による二酸化炭素の吸収量の算出過程を説明するためのフローチャートである。
図6図6は、二酸化炭素の供給量の算出過程を説明するためのフローチャートである。
図7図7は、本発明の他の実施形態に係る二酸化炭素動態シミュレーション装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、さらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係る二酸化炭素動態シミュレーション装置1の概略構成を示した図である。この図に示したように、本実施形態の二酸化炭素動態シミュレーション装置1は、プロセッサ(CPU)1a、記憶部(本明細書において「記憶部」と称する場合、主記憶装置、ストレージ等、揮発性や不揮発性の記録媒体のいずれも含む意味であり、いずれかに限定するものではない)1bを備えたコンピュータ(コンピュータの種類は限定されるものではなく、パーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ、携帯型情報端末等を含む)から構成される。
【0031】
具体的には、本実施形態の二酸化炭素動態シミュレーション装置1には、当該二酸化炭素動態シミュレーション装置1であるコンピュータを、吸収量算出部11、利用率算出部12として機能させる手順を実行するコンピュータプログラムが記憶部1bに記憶されている。コンピュータプログラムは、通常、当該コンピュータ(二酸化炭素動態シミュレーション装置1)に内蔵又は外付けのハードディスクやSSD等の不揮発性の記録媒体に記憶され、上記プロセッサ1aによって読み出されて実行される。また、各種データの記憶場所は、二酸化炭素動態シミュレーション装置1に内蔵又は外付けの記憶部のほか、通信回線を介して接続された記憶部であってもよい。
【0032】
吸収量算出部11は、農業用ハウス内で栽培される植物の純光合成量を、植物による二酸化炭素(CO)の吸収量として求める。純光合成量Pは、植物によって実際に吸収される二酸化炭素の吸収量であり、全天日射量(MJ/m)(Io)、農業用ハウスの被覆材の光透過率(τ)、植物の受光率(φ)、農業用ハウスの室内二酸化炭素濃度(室内CO濃度:Cin)、光合成速度への変換係数(m/J)(μ)、逆反応に係る因子(δ)に基づき求めることができる。全天日射量(MJ/m)(I)×農業用ハウスの被覆材の光透過率(τ)は、農業用ハウスの入射太陽熱量(MJ/m)となる。
【0033】
具体的には以下の(1)~(4)の連立方程式を用いて求めることができる。
(1)二酸化炭素の得失(室内外の二酸化炭素の換気交換量(E))
E=V(Cin-Cout
(V:空気の換気量、Cout :大気中の二酸化炭素濃度(定数でよい))
(2)二酸化炭素の吸収量(P)
P=I・τ・φ・μ・Cin/(Cout+δ)
(3)二酸化炭素の供給量(S)
S=P+E
(4)熱収支方程式
・τ=kcover・1/β・(Tin-Tout)+V・(Hin-Hout)・ρ
(kcover:被覆材の熱貫流率、β:保温比(被覆面積に対する床面積の比率)、Tin:室内温度、Tout:屋外温度、Hin:室内比エンタルピー、Hout:屋外比エンタルピー、ρ:空気密度)
【0034】
吸収量算出部11は、ハウス情報取得部111、植物情報取得部112、気象情報取得部113を備えている。
ハウス情報取得部111は、シミュレーションする農業用ハウスの構造情報を取得する。構造情報には、農業用ハウスの屋根材の種類、光透過率及び屋根材の種類別に紐付けられた平均放熱係数、設計床面積、設計被覆面積等である。本実施形態では、設計床面積、設計被覆面積といった農業用ハウスのサイズについては、シミュレーション用の定形のサイズであってもよいし、建設予定の土地の面積から大凡想定可能なサイズを指定できるようにしてもよい。また、建設予定の地域における工場等からの排熱を利用することを前提として、所定の植物を所定の期間栽培するのに必要な暖房用の熱量を当該排熱で賄うことができるサイズの農業用ハウスの設計床面積、設計被覆面積をシミュレーションし、そのデータを用いることもできる。構造情報は、構造情報データベース31に記憶されており、ハウス情報取得部111は、構造情報データベース31にアクセスして必要な情報を取得する。
【0035】
植物情報取得部112は、栽培対象の植物の情報を取得する。植物の情報には、植物の種類別に規定される受光率、光合成量への変換係数(m/J)、当該植物の栽培に適する日中の換気温度(日中換気温度)を含み、これらの情報が植物の種類別に植物情報データベース32に記憶されている。なお、「換気温度」は、栽培対象となる植物にとって適正な昼間の管理温度であり、後述する日中室内気温の予測値を求める際に利用される。
【0036】
気象情報取得部113は、農業用ハウスを設置する地域の気象情報を取得する。気象情報には、地域の日毎の日中平均気温、日毎の最高気温、日毎の最低気温、日毎の合計全天日射量、日毎の日長を含む、これらの情報は、地域に対応させて気象情報データベース33に記憶されている。気象情報データベース33は、当該地域の地域気象観測システム(アメダス)等から必要な情報を取り込んで形成することができる。なお、本実施形態では、気象情報取得部113は、これらの情報を気象情報データベース33にアクセスして読み出すが、当該地域の地域気象観測システム等に直接アクセスして読み出す仕組みとすることも可能である。
【0037】
なお、地名、植物の種類、農業用ハウスの屋根材の種類、並びに、二酸化炭素(CO)の供給量等は、適宜の入力装置を用いて入力され、図2に示したようなディスプレイの入力画面(図2の画面の左半分)に表示される。
【0038】
利用率算出部12は、所定期間における、二酸化炭素供給源から農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量に対する上記吸収量算出部11により求められた二酸化炭素の吸収量の割合を利用率として求める。二酸化炭素の供給量は、二酸化炭素供給源から想定される供給量を、上記のように、入力画面に入力することにより設定される。二酸化炭素の吸収量、供給量及び利用率は、図2の画面の右半分に相当する出力画面に出力される。
【0039】
二酸化炭素供給源には、二酸化炭素発生装置等、化石燃料の燃焼により二酸化炭素を発生させる装置のほか、排ガスを利用する場合、発電所、変電所、工場、清掃工場等の排ガス発生源が該当する。
【0040】
次に、本実施形態の二酸化炭素動態シミュレーション装置1を用いた二酸化炭素動態のシミュレーション例を説明する。
【0041】
[二酸化炭素吸収量の算出]
本実施形態において二酸化炭素吸収量は純光合成量であり、上記(1)~(4)の式を用いて求めることができる。以下においては上記(1)~(4)の式を用いた二酸化炭素吸収量の算出ステップの一例を説明する。
【0042】
(情報の取得)
シミュレーション実行者等が、入力装置から図2に示した入力画面に必要事項を入力する(図3のS301)。入力項目としては、地名(例えば、札幌)、植物の種類(例えば、トマト)、屋根材の種類(例えば、FRA)である。これらの情報が入力されると、ハウス情報取得部111が構造情報データベース31にアクセスし(S302)、屋根材の種類に対応した平均放熱係数(例えば、5)を読み込むと共に、シミュレーション用の所定のサイズの農業用ハウスの設計床面積(例えば、1000m)、設計被覆面積(例えば、1890.58m)を取得する(S303)。なお、「設計床面積」は、建設予定の農業用ハウスの床面積の設計値であり、計算負荷を軽減するため、例えば方形の床形状と仮定して算出される値である。「設計被覆面積」は、農業用ハウスの側面、妻面、屋根を形成する天井面と矢切面を合わせた、被覆材により被覆される面積の設計値である。「平均放熱係数」は、一晩の暖房熱量を当該一晩の夜間デグリアワーと被覆面積で割って得られる一晩の暖房負荷係数を、実験期間内の複数種類のフィルム(屋根材、内張被覆材(カーテン))について求め、それらをフィルム(屋根材、内張被覆材(カーテン))の種類別に平均化した値である。本実施形態では、1980年11月9日~1981年2月3日にかけて、株式会社誠和の小山工場圃場に建設したA~Cの3つのハウス(表面積:262m、床面積:120m、外被膜:農業用塩化ビニルフィルム、暖房方式:温風暖房機、カーテンの形式:Aハウス・・・農業用ビニルフィルム一層、B,Cハウス・・・二軸二層、カーテン位置(下層):A,Bハウス・・・1.8m(地上より)、Cハウス・・・1.85m(地上より)、二層の場合の層間距離:20cm)にそれぞれ4つの栽培ベッドを設けて行った実験により求めた値を採用した。実験は、各栽培ベッド上のみ黒マルチで被覆し、栽培ベッド毎に、野沢菜、レタス、さやえんどう、いんげんを植え、各ハウスにおける暖房負荷係数の平均値をフィルムの種類に対応して求め、Aハウスの暖房負荷係数を100%としたときに、B,Cハウスの暖房負荷係数が各種フィルムの組み合わせによって何%の値になったかを求め、この値を「平均放熱係数」としたものである。
【0043】
植物情報取得部112は、植物情報データベース32にアクセスし(S304)、入力された栽培対象の植物である「トマト」に対応する日中換気温度(23℃)を取得する(S305)。
気象情報取得部113は、気象情報データベース33にアクセスし(若しくは公開気象データ等から)(S306)、「札幌」の日毎の日中平均気温(過去1年間の気象データから得られる日最高気温と日最低気温を用いて幾何的に日毎に求めた平均の外気温)及び日毎の日長(s)=32400s(本実施形態では固定値を採用するが、緯度と季節を考慮した値を用いることも可能)を取得する(S307)。
これらの情報を取得したならば、吸収量算出部11は、さらに以下のステップを実行する。
【0044】
(日中放熱量の算出)
まず、日毎の日中平均気温と日中換気温度(23℃)を用いて、日毎の日中室内気温を求める(S308)。日毎の日中室内気温は、日毎の日中室内気温を目的変数とし、日毎の日中平均気温と日中換気温度(23℃)を説明変数とした回帰分析による求めた近似式である機械学習モデルにより求めることができる。本実施形態において求めた近似式によれば、日毎の日中平均気温が5℃未満の場合は、(日中換気温度-2)により求め、日毎の日中平均気温が5℃以上の場合は、(-0.8224×日毎の日中平均気温+1.299×日中換気温度+0.03229×日毎の日中平均気温の平方-18.94/日毎の日中平均気温)により求める。この例は、日毎の日中平均気温が-0.7291℃の例であるため、前者の式を用い「21℃」と算出される(S308)。
次に、保温比を求める(S309)。保温比は、設計床面積/設計被覆面積であり、上記の例では、1000/1890.58=0.5289と求められる。
【0045】
次に、日毎の日中放熱量(MJ/m)を次式により求める(S310)。
日毎の日中放熱量(MJ/m)=(日毎の日中室内気温(℃)-日毎の日中平均気温(℃))/保温比×屋根材の平均放熱係数×日毎の日長(s)/3600×4.186/1000=7.7384(MJ/m
【0046】
(日毎の太陽熱差し引きの算出)
次に、気象情報データベース33若しくは公開気象データ等から取得した「札幌」の日毎の合計全天日射量(MJ/m)(1年間の気象データから求める)と構造情報データベース31から取得した屋根材の光透過率とを掛け合わせて日毎の入射太陽熱(MJ/m)を得る(図4のS401)。この日毎の入射太陽熱(MJ/m)と図3のS310により求めた日毎の日中放熱量(MJ/m)とを用いて日毎の太陽熱差し引き(MJ/m)を次のように求める(S402)。
【0047】
日毎の日中放熱量(MJ/m)>日毎の入射太陽熱(MJ/m)の場合は、「0」と算出する。
日毎の日中放熱量(MJ/m)≦日毎の入射太陽熱(MJ/m)の場合は、「日毎の日中放熱量(MJ/m)-日毎の入射太陽熱(MJ/m)」により求める。
【0048】
(屋外比エンタルピーの算出)
次に、気象情報データベース33若しくは公開気象データ等から取得した地域の日毎の最高気温及び日毎の最低気温を用いて日毎の屋外比エンタルピー(J/kg)を求める(S403)。屋外比エンタルピーは以下の学習済みモデルを用いて求めた。
まず、複数の観測地点の気象官署から取得した日中の平均気温と日中の絶対湿度を用い、日中の比エンタルピーを、一般式:
H=1.006・Td+(1.86)・Td+2501)・χ
により求める(Tdは気温、χは絶対湿度)。
【0049】
得られた比エンタルピーを目的変数とし、1日ごとに最高気温と最低気温を取得して両者を説明変数とする。この操作を、上記複数の観測地点の気象官署から、それぞれ約2年分のデータを得て逐一行い、線形回帰によって学習済みモデルを生成する。一例として、本実施形態で用いた学習済みモデルを示すと次のとおりである。
【0050】
屋外比エンタルピー(J/kg):H=4211+1389・T+382.4・T-16.26・T +55.90T (T:日毎の最高気温、T:日毎の最低気温)(決定係数=0.9683)
これにより、地域の日毎の最高気温及び日毎の最低気温を用いて屋外比エンタルピーを求める。
【0051】
(室内比エンタルピーの算出)
図3のS308により求められた日毎の日中室内気温を用いて、室内比エンタルピー(J/kg)を求める(S404)。室内比エンタルピーを求めるための室内気温は、実際の農業用ハウスのデータを用いて線形回帰による学習済みモデルを生成して求める。具体的には、本出願人の関連会社である株式会社トマトパークが運営する農業用ハウスにおいて、昼間の室内気温(目的変数)、昼平均外気温(説明変数)、換気温度(説明変数)を数十週分測定し、線形回帰によって学習済みモデルを生成した。さらに、χを求めるための相対湿度を固定値とし、また、室内気温(Td)を一定範囲に区切って回帰分析して、室内比エンタルピーを目的変数とする学習済みモデルを生成した。一例として、本実施形態で用いた学習済みモデルを示すと次のとおりである。
【0052】
室内比エンタルピー(J/kg):H=63.242Td+181.18Td+16504(室内気温Td=10~40℃の範囲において決定係数=0.9996)
【0053】
(換気率の算出)
次に、農業用ハウスの室内外の空気の日毎の換気率(m/m)を求める(S405)。日毎の換気率は、上記により求められた日毎の太陽熱差し引き(MJ/m)、屋外比エンタルピー(J/kg)、及び室内比エンタルピー(J/kg)に加え、ハウス情報取得部111により構造情報データベース31から取得される屋根材の種類に対応して規定された時間あたりの隙間換気率(m/hm)(例えば:1.8m/hm)及び「札幌」に紐付けられた上記の日毎の日長(s)(32400s)を用いて求められる(S406,S407)。
【0054】
具体的には、まず、
屋外比エンタルピー(J/kg)と室内比エンタルピー(J/kg)の差分で除した値(EA)
=100000×日毎の太陽熱差し引き(MJ/m)/(屋外比エンタルピー(J/kg)-室内比エンタルピー(J/kg))/1.2(空気の密度kg/m
と、
隙間換気率(m/hm)と日毎の日長(s)とを掛けた値(EB)
=日毎の換気率(m/m)=隙間換気率(m/hm)×日毎の日長(s)/3600
とを比較する。
【0055】
比較の結果、EA<EBの場合には、日毎の換気率(m/m)=隙間換気率(m/hm)×日毎の日長(s)/3600が採用される。
EA≧EBの場合には、100000×日毎の太陽熱差し引き(MJ/m)/(屋外比エンタルピー(J/kg)-室内比エンタルピー(J/kg))/1.2(空気の密度kg/m)が採用される。
【0056】
(室内二酸化炭素濃度の算出)
吸収量算出部11は、さらに、二酸化炭素の供給量の入力値と設計床面積から単位面積あたりの二酸化炭素供給量を求め(S408)、この値に日毎の日長(s)=32400sを掛けて、日毎の単位面積あたり二酸化炭素供給量を求める(S409)。なお、二酸化炭素供給量がkg単位の場合には、1気圧、25℃のときの二酸化炭素1mの質量で除し、m単位に換算して求める(S410)。また、気象情報取得部113が気象情報データベース33より、「札幌」の屋外二酸化炭素濃度(410ppm)を取得する(S411、S412)。
【0057】
吸収量算出部11の植物情報取得部112は、植物情報データベース32にアクセスし、「トマト」に関し、逆反応に係る因子(δ)、受光率(φ)、変換係数を取得する(S413~S415)。変換係数によって受光量(MJ)を光合成量(m)に換算する。
吸収量算出部11は、上記の情報が得られたならば、それらを用いて次式により日毎の室内二酸化炭素濃度を算出する(S417)。
【0058】
室内二酸化炭素濃度=(-(受光率×日毎の入射太陽熱×変換係数+日毎の換気率×δ-日毎の二酸化炭素供給量(面積あたり)(m/m)-日毎の換気率×室内二酸化炭素濃度)+(( 受光率×日毎の入射太陽熱×変換係数+日毎の換気率×δ-日毎の二酸化炭素供給量(面積あたり)(m/m)-日毎の換気率×屋外二酸化炭素濃度)-4×日毎の換気率×(-δ×日毎の二酸化炭素供給量(面積あたり)(m/m)-δ×日毎の換気率×屋外二酸化炭素濃度))の平方根)/2/日毎の換気率(m/m
【0059】
図4は、吸収量算出部11により、室内二酸化炭素濃度を求めるまで、具体的に数値をはてはめた計算結果の一例を示している。このようにして、例えば、室内二酸化炭素濃度=0.004432509が求められる。
【0060】
(日毎の純光合成量の算出)
植物情報取得部112によって植物情報データベース32にアクセスし、「トマト」に関し、逆反応に係る因子(δ)、受光率(φ)、変換係数を取得する(図5のS501~S503)。変換係数によって受光量(MJ)を光合成量(m)に換算する(S504)。
ハウス情報取得部111によって構造情報データベース31にアクセスし、設計床面積を取得する(S505)。
これらのデータに、日毎の入射太陽熱(MJ/m)(S401)、日毎の室内二酸化炭素濃度(S417)を用い、日毎の純光合成量を求める(S506)。
本実施形態では、次式により求められる。
日毎の純光合成量(m)=日毎の入射太陽熱(MJ/m)×受光率×変換係数(m/J)×日毎の室内二酸化炭素濃度×設計床面積/(δ+日毎の室内二酸化炭素濃度)
【0061】
(二酸化炭素吸収量の算出)
得られた日毎の純光合成量(m)が日毎の二酸化炭素吸収量となり、換算係数を掛けてkg単位に変換することで(S507)、日毎の二酸化炭素吸収量がkg単位で求められる(S508)。
栽培期間(例えば、栽培開始日9月1日、栽培終了日:翌年の6月1日)中の日毎の二酸化炭素吸収量を合計すると当該栽培期間全体の期間二酸化炭素吸収量が求められる。シミュレーションとしては、月単位で期間二酸化炭素吸収量を求め(S509)、1年分積算することで、年間の二酸化炭素吸収量を求めることができる(S510)。二酸化炭素吸収量をこのようにある期間単位で、例えば、実際の栽培期間、月間、年間で算出することで、後述の利用率算出部12、第1温室効果ガス排出量算出部13、第2温室効果ガス排出量算出部14、温室効果ガス削減量算出部15及びコスト算出部16において、二酸化炭素の利用率、削減量等を比較できる。
【0062】
図5は、吸収量算出部11により二酸化炭素吸収量を算出する過程の計算結果の一例を示したものである。この例では、日毎の純光合成量=9.877358432m=17.76936782kg、日毎の二酸化炭素吸収量=17.76936782kg、1ヶ月間(上記栽培期間中の1月1日から1月31日までの積算の例)の期間二酸化炭素吸収量=0.65249752t、年間の期間二酸化炭素吸収量=10.10189154tと求められている。吸収量算出部11は、「10.1t」を図2に示した出力画面の「CO吸収量」の欄に出力し、表示させる(S511)。
【0063】
[利用率の算出]
利用率算出部12は、吸収量算出部11により得られた二酸化炭素吸収量を用いて利用率を算出する。
利用率は二酸化炭素供給量との比較で求められる。二酸化炭素供給量は次のようにして求める。
【0064】
まず、二酸化炭素供給量として例えば15kg/hが入力されたとする(図2の入力画面参照)。これを上記の設計床面積1000mで除し、単位面積あたりの時間供給量0.015kg/hmを算出する(図6のS601)。次に、「札幌」の日長(32400s)を気象情報データベース33から読み込み(S602)、日毎の単位面積あたりの時間供給量を求め(S603)、さらに設計床面積1000mを掛けて、日毎の二酸化炭素供給量135kgを求める(S604)。
日毎の二酸化炭素供給量が求められたならば、日毎の二酸化炭素供給量を適宜の期間分積算し、上記の二酸化炭素吸収量と同様に、実際の栽培期間、月間、年間等の単位で期間二酸化炭素供給量を算出する(S605~S607)。それにより、例えば、1月の1ヶ月間の期間二酸化炭素供給量=4.185t、年間の期間二酸化炭素供給量=40.77tと求められる。利用率算出部12は、「40.8t」を図2に示した出力画面の「CO供給量」の欄に出力し、表示させる(S607)。
【0065】
利用率算出部12は、利用率を、例えば、年間で比較した場合には、10.10/40.77=24.8%と算出し、1月の1ヶ月分で比較した場合には、0.652/4.185=15.6%と算出する。
図2に示した出力画面の例では、年間の二酸化炭素吸収量として「CO吸収量:10.1t」、年間の二酸化炭素供給量として「CO供給量:40.8t」が表示されているが、利用率算出部12はさらに、年間の利用率を「CO利用率」の欄に「25%」と出力して表示させる。
【0066】
本実施形態の二酸化炭素動態シミュレーション装置によれば、このように、農業用ハウスに供給する二酸化炭素の吸収量や利用率を求めることができる。これにより、農業用ハウスにおける二酸化炭素の動態を明確に把握できる。また、吸収量及び利用率を把握できることから、利用率に見合わない過剰な二酸化炭素の供給を抑制でき、化石燃料の燃焼により二酸化炭素を供給する装置を用いる場合でも、その稼働数や出力を適正化するのに役立つ。その結果、二酸化炭素を供給する装置を稼働することによる必要以上の温室効果ガスの排出抑制につながる。
【0067】
次に、二酸化炭素の動態を把握するために吸収量及び利用率を求めることに加え、二酸化炭素供給源として化石燃料の使用により二酸化炭素を発生させる装置を用いた場合と、工場等からの排ガスを利用する場合とを比較し、排ガスを利用した場合の温室効果ガスの削減への寄与をシミュレーションできる本発明の他の実施形態に係る二酸化炭素動態シミュレーション装置1について説明する。
【0068】
本実施形態では、図7に示したように、上記実施形態と同様に、吸収量算出部11及び利用率算出部12を有すると共に、第1温室効果ガス排出量算出部13、第2温室効果ガス排出量算出部14、温室効果ガス削減量算出部15及びコスト算出部16として機能させる手順を実行するコンピュータプログラムが記憶部1bに記憶されている。
【0069】
第1温室効果ガス排出量算出部13は、農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量を、化石燃料の燃焼により二酸化炭素を発生させる装置を用いて賄う場合の第1温室効果ガス排出量を求める機能を備え、第2温室効果ガス排出量算出部14は、排ガス発生源から排出される排ガスから分離・回収された二酸化炭素を利用して、供給量を賄う場合の第2温室効果ガス排出量を算出する機能を備える。温室効果ガス削減量算出部15は、第1温室効果ガス排出量と記第2温室効果ガス排出量との差分を、排ガス発生源から供給される排ガスを利用した場合の温室効果ガス削減量として算出する。
【0070】
第1温室効果ガス排出量は、農業用ハウス内への供給量のうち、植物による吸収量を除いた量が相当する。第2温室効果ガス排出量は、排ガスを利用しているため、換気に伴う屋外への排出量は新たな二酸化炭素の排出量とはならない。その結果、植物によって吸収される分、温室効果ガスの排出量は減ることになり、第2温室効果ガス排出量算出部14は、農業用ハウス内への供給量のうち全量を排ガスから分離・回収した二酸化炭素により賄った場合には第2温室効果ガス排出量として、吸収量算出部11により求められる吸収量に相当する量を負数で算出する。よって、温室効果ガス削減量算出部15では、第1温室効果ガス排出量の値に、第2温室効果ガス排出量の絶対値の値を加算した値を削減量として出力する。結果的には、排ガスにより二酸化炭素供給量の全量を賄った場合には、化石燃料を使用する装置と比較して、二酸化炭素の供給量分が両者の差分すなわち削減量となる。
【0071】
第1温室効果ガス排出量算出部13、第2温室効果ガス排出量算出部14及び温室効果ガス削減量算出部15は、第1温室効果ガス排出量、第2温室効果ガス排出量及び温室効果ガス削減量を求めたならば、その値を、それぞれ図2に示した出力画面に出力して表示させる。
【0072】
コスト算出部16は、二酸化炭素供給量から二酸化炭素の供給に要したコストを算出する。化石燃料を利用した場合の二酸化炭素供給コストと、排ガスを利用した場合の二酸化炭素供給コストを比較し、両者の差分を二酸化炭素供給コストの削減費用として求める。
化石燃料を燃焼させる装置を用いた場合の二酸化炭素供給コストは、燃料の単価、燃料の発熱量及び炭素排出係数により求められる。
排ガスを利用した場合の二酸化炭素の質量単価は、排ガス発生源の企業、農業用ハウスの建設者、行政等における当事者間の取り決め等で定めることができる。また、二酸化炭素排出量取引の市場価格を参照することもできる。いずれにしても、化石燃料を使用する場合の二酸化炭素コストより相当程度安価に設定される。
【0073】
次に、本実施形態の二酸化炭素動態シミュレーション装置1を用いて温室効果ガスの削減状況をシミュレーションする例を説明する。
【0074】
[温室効果ガス削減量の算出]
二酸化炭素供給源として化石燃料の燃焼により二酸化炭素を発生させる装置を用いた場合の温室効果ガス排出量と排ガスからの二酸化炭素を用いた場合の温室効果ガス排出量の差分を温室効果ガス削減量として算出する。
【0075】
(化石燃料の使用により二酸化炭素を発生させる装置を用いた場合)
第1温室効果ガス排出量算出部13において、次式により求める。
第1温室効果ガス排出量=二酸化炭素供給量-二酸化炭素吸収量
上記の例を用いて年間で比較すると、第1温室効果ガス排出量は、
40.77t-10.10t=30.67t
と求められる。
【0076】
(二酸化炭素の供給量の全量を排ガスで賄う場合)
第2温室効果ガス排出量算出部14において、次式により求める。
第2温室ガス排出量=-二酸化炭素吸収量
上記の例を用いて年間で比較すると、
第2温室効果ガス排出量=-10.10t
と求められる。
【0077】
(温室効果ガス削減量)
温室効果ガス削減量算出部15において、次式により求める。
温室効果ガス削減量=第1温室効果ガス排出量-第2温室効果ガス排出量
上記の例では、温室効果ガス削減量は、
30.67t-(-10.10t)=40.77t
と求められる。
【0078】
この例では、二酸化炭素の供給量の全量を排ガスで賄うことを前提としているため、第1温室効果ガス排出量-第2温室効果ガス排出量の差分である温室効果ガスの削減量は、二酸化炭素の供給量と等しくなるが、例えば、時期的に工場等から十分な排ガスの供給が得られない場合には、その分、化石燃料を燃焼させて発生させた二酸化炭素で補うこととなる。その場合、例えば、栽培期間1年のうち1ヶ月間化石燃料を利用し、その他の時期については排ガスを利用する想定とした場合、1ヶ月分については、第1温室効果ガス排出量算出部13と同様に、「二酸化炭素供給量-二酸化炭素吸収量」により期間温室効果ガス削減量を算出し、その他の期間については、二酸化炭素吸収量に相当する値の負数を期間温室効果ガス排出量として算出し、両者を積算した値を第2温室効果ガス排出量として求める。
【0079】
例えば、年間の二酸化炭素供給量を上記と同じ40.77t、年間の二酸化炭素吸収量を上記と同じ10.10tとした場合において、化石燃料を利用して二酸化炭素を供給した1ヶ月間の期間温室ガス排出量は、1ヶ月間の期間二酸化炭素供給量を3.5t、1ヶ月間の期間二酸化炭素吸収量を2.1tと仮定すると、「3.5-2.1=1.4t」となる。排ガスを利用した他の11ヶ月間の期間温室効果ガス排出量(期間二酸化炭素吸収量)は、「10.10-2.1=-8t」となる。よって、両者を合算した「-6.6t」が第2温室効果ガス排出量となり、温室効果ガス削減量は、「30.67-(-6.6)=37.27t」となる。
【0080】
そこで、図2に示したように、入力情報として、二酸化炭素供給量のうちの排ガス利用の割合を循環率として入力可能としておくことが好ましい。
この場合、吸収量算出部11では、日毎の二酸化炭素吸収量の積算をこの循環率に相当する期間を除いて行い、第2温室効果ガス排出量算出部14においては、上記のように、化石燃料を使用して供給した期間と排ガスを利用して供給した期間とを合算することで、循環率に従った第2温室効果ガス排出量を求めることができる。
【0081】
図2に示した出力画面では、「CO吸収量」と表示されている欄において、第1温室効果ガス排出量算出部13、第2温室効果ガス排出量算出部14及び温室効果ガス削減量算出部15により、それぞれ、化石燃料の使用により二酸化炭素を発生させる装置を用いた場合(資源循環なし)の年間温室効果ガス排出量として「30.7t」が出力され、循環率100%で排ガスを利用した場合(資源循環あり)の年間温室効果ガス排出量として年間二酸化炭素吸収量に相当する値の負数である「-10.1t」が出力され、温室効果ガス削減量として、「40.8t」が出力されて表示される。
【0082】
[二酸化炭素供給コストの削減費用の算出]
コスト算出部16は、上記の二酸化炭素供給量を化石燃料の燃焼により二酸化炭素を発生させる装置によって賄った場合の二酸化炭素供給コストと、排ガスを利用して賄った場合の二酸化炭素供給コストとを比較する。
【0083】
(化石燃料の使用により二酸化炭素を発生させる装置を用いた場合)
例えば、燃料としてLPGを用いる装置の場合、LPGの燃料単価を¥256/kgとすると、発熱量50.08MJ/kg、炭素排出係数;0.01637kgC/MJより、二酸化炭素の質量単価は、
256/(0.01637×50.08×44/12)=¥85
となる。
二酸化炭素の供給量が、上記の例より、1月の1ヶ月間の期間二酸化炭素供給量=4.185t、年間の期間二酸化炭素供給量=40.77tとすると、次のように算出される。
1月の月間二酸化炭素供給コスト=¥85×4185kg=¥355,725
年間二酸化炭素供給コスト=¥85×40770kg=¥3,465,450
【0084】
(二酸化炭素の供給量の全量を排ガスで賄う場合)
排ガスの取引価格より、二酸化炭素の質量単価を¥38と仮定し、上記と同様に算出する。
1月の月間二酸化炭素供給コスト=¥38×4185kg=¥159,030
年間二酸化炭素供給コスト=¥38×40770kg=¥1,549,260
【0085】
(二酸化炭素供給コストの削減費用)
1月の月間二酸化炭素削減費用=¥355,725-¥159,030=¥196,695
年間二酸化炭素削減費用=¥3,465,450-¥1,549,260=¥1,916,190
【0086】
なお、循環率を設定した場合には、上記の温室効果ガス排出量、温室効果ガス削減量を求める場合と同様に、循環率に応じて二酸化炭素の供給コスト、二酸化炭素供給コストの削減費用が算出される。
【0087】
図2に示した出力画面では、「COコスト」と表示されている欄において、コスト算出部16により、化石燃料の使用により二酸化炭素を発生させる装置を用いた場合(資源循環なし)の年間二酸化炭素供給コストとして「¥3,465,450」が出力され、循環率100%で排ガスを利用した場合(資源循環あり)の年間二酸化炭素供給コストとして「¥1,549,260」が出力され、削減費用として「¥1,916,190」が出力されて表示される。
【0088】
以上より、本実施形態の二酸化炭素動態シミュレーション装置1は、二酸化炭素供給量を排ガスにより賄った場合に、化石燃料を使用して二酸化炭素を供給する装置を用いる場合よりどの程度の量削減できるかを、また、二酸化炭素の供給コストをどの程度削減できるかを定量的に明確に示すことができる。
【0089】
よって、本実施形態では、排ガスを循環利用する農業用ハウスを建設することのメリットを明確化でき、温室効果ガスの削減に貢献できる農業用ハウスの建設を促すインセンティブとなる。また、排ガスを排出する工場等においても、温室効果ガスの削減を図ることができ、二酸化炭素排出量取引の活性化につなげることができる。すなわち、上記の「資源循環あり」の場合の年間二酸化炭素供給コストの例である「¥1,549,260」は、排ガス提供サイドである工場等から見れば、従来大気中に放出していたに過ぎない排ガスを基にした新たな売り上げとなる。よって、図2の出力画面において、この金額を排ガス提供サイドにおける総売上として表示する項目を設けることも好ましい。このような数値を農業用ハウスの建設前に把握できることは、排ガス提供サイドにおいて、農業用ハウスとの連携を図ることに対するインセンティブとなる。
【符号の説明】
【0090】
1 二酸化炭素動態シミュレーション装置
11 吸収量算出部
111 ハウス情報取得部
112 植物情報取得部
113 気象情報取得部
12 利用率算出部
13 第1温室効果ガス排出量算出部
14 第2温室効果ガス排出量算出部
15 温室効果ガス削減量算出部
16 コスト算出部
【要約】
農業用ハウスにおける二酸化炭素の動態を把握する。
農業用ハウス内で栽培される植物の純光合成量を、植物による二酸化炭素の吸収量として求める吸収量算出部11と、二酸化炭素供給源から農業用ハウス内へ供給される二酸化炭素の供給量に対する吸収量の割合を、農業用ハウスに供給された前記二酸化炭素の利用率として求める利用率算出部12とを有する。農業用ハウスに供給する二酸化炭素の吸収量や利用率を求めることができ、二酸化炭素の動態を明確に把握できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7