IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社の特許一覧

特許7510235能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法
<>
  • 特許-能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法 図1
  • 特許-能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法 図2
  • 特許-能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法 図3
  • 特許-能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法 図4
  • 特許-能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法 図5
  • 特許-能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法 図6
  • 特許-能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法 図7
  • 特許-能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】能動騒音低減装置、移動体装置、及び、能動騒音低減方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 11/02 20060101AFI20240626BHJP
   G10K 11/178 20060101ALN20240626BHJP
【FI】
B60R11/02 S
G10K11/178 120
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021004545
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022109166
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】322003857
【氏名又は名称】パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】谷 充博
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-261774(JP,A)
【文献】特開2002-354576(JP,A)
【文献】特開平07-020884(JP,A)
【文献】特開2018-161927(JP,A)
【文献】特開平07-104768(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0365133(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体装置に取り付けられた参照信号源によって出力される、前記移動体装置内の空間における騒音と相関を有する参照信号が入力される参照信号入力部と、
前記参照信号入力部に入力される前記参照信号に適応フィルタを適用することにより、前記騒音を低減するためのキャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を生成する適応フィルタ部と、
所定の更新式に基づいて前記適応フィルタの係数を算出するフィルタ係数更新部と
記フィルタ係数更新部が前記キャンセル音の出力が開始される第一タイミングよりも前の第二タイミングに算出した前記適応フィルタの係数である第一係数、及び、前記空間の温度が記憶される記憶部とを備え、
前記フィルタ係数更新部は、
前記第二タイミングにおける前記空間の温度と前記第一タイミングにおける前記空間の温度との差が閾値以上であるか否かを判定し、
前記閾値以上であると判定した場合には、前記第一タイミングにおいて、0より大きく1よりも小さい第一補正係数を使用して前記第一係数を補正し、補正後の前記第一係数を前記更新式の初期値として使用し、
前記閾値未満であると判定した場合には、前記第一タイミングにおいて、0より大きく1よりも小さい第二補正係数であって前記第一補正係数よりも大きい第二補正係数を使用して前記第一係数を補正し、補正後の前記第一係数を前記更新式の初期値として使用する
能動騒音低減装置。
【請求項2】
前記第二タイミングは、前記移動体装置のイグニッション電源がオフされるタイミングであり、
前記第一タイミングは、前記第二タイミング後の直近の、前記能動騒音低減装置がオンされるタイミングである
請求項1に記載の能動騒音低減装置。
【請求項3】
前記第二タイミングは、前記能動騒音低減装置の出荷前のタイミングである
請求項1に記載の能動騒音低減装置。
【請求項4】
前記第二タイミングは、前記移動体装置が互いに異なる複数の移動条件で移動した直後のタイミングである
請求項3に記載の能動騒音低減装置。
【請求項5】
さらに、前記第一係数が記憶される記憶部を備え、
前記能動騒音低減装置は、前記第一係数を前記記憶部に記憶する処理を禁止する機能を有する
請求項3または4に記載の能動騒音低減装置。
【請求項6】
前記能動騒音低減装置は、第一動作モード及び第二動作モードのいずれかで選択的に動作し、
前記フィルタ係数更新部は、
前記第一動作モードにおける前記キャンセル音の出力が開始される前記第一タイミングにおいて、前記第一係数を前記更新式の初期値として使用し、
前記第二動作モードにおける前記キャンセル音の出力が開始されるタイミングにおいて、前記第一係数と異なる第二係数であって、前記フィルタ係数更新部が当該タイミングよりも前に算出した前記適応フィルタの係数である第二係数を前記更新式の初期値として使用する
請求項1~5のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項7】
前記フィルタ係数更新部は、
前記第二タイミングにおいて前記第一係数を不揮発性の記憶部に記憶し、
前記第一タイミングにおいて前記記憶部に記憶された前記第一係数を読み出して前記更新式の初期値として使用する
請求項1~のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項8】
前記フィルタ係数更新部は、
前記第二タイミングにおいて前記第一係数を揮発性の記憶部に記憶し、
前記第一タイミングにおいて前記記憶部に記憶された前記第一係数を読み出して前記更新式の初期値として使用する
請求項1~のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項9】
前記フィルタ係数更新部は、前記能動騒音低減装置への電力供給が遮断されることの通知を受けた場合、または、電力供給が遮断されることを検知した場合に、前記第二タイミングにおいて前記第一係数を不揮発性の記憶部に記憶する
請求項に記載の能動騒音低減装置。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の能動騒音低減装置と、
前記参照信号源とを備える
移動体装置。
【請求項11】
能動騒音低減装置によって実行される能動騒音低減方法であって、
移動体装置に取り付けられた参照信号源によって出力される、前記移動体装置内の空間における騒音と相関を有する参照信号に適応フィルタを適用することにより、前記騒音を低減するためのキャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を生成する生成ステップと、
所定の更新式に基づいて前記適応フィルタの係数を算出する算出ステップと、
前記キャンセル音の出力が開始される第一タイミングよりも前の第二タイミングに算出された前記適応フィルタの係数である第一係数、及び、前記空間の温度を記憶するステップと、
前記第二タイミングにおける前記空間の温度と前記第一タイミングにおける前記空間の温度との差が閾値以上であるか否かを判定するステップとを含み、
前記算出ステップにおいては、
前記閾値以上であると判定された場合には、前記第一タイミングにおいて、0より大きく1よりも小さい第一補正係数を使用して前記第一係数を補正し、補正後の前記第一係数を前記更新式の初期値として使用し、
前記閾値未満であると判定された場合には、前記第一タイミングにおいて、0より大きく1よりも小さい第二補正係数であって前記第一補正係数よりも大きい第二補正係数を使用して前記第一係数を補正し、補正後の前記第一係数を前記更新式の初期値として使用する
能動騒音低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、騒音にキャンセル音を干渉させることでこの騒音を能動的に低減する能動騒音低減装置、これを備える移動体装置、及び能動騒音低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、騒音と相関を有する参照信号と、所定空間内の騒音及びキャンセル音が干渉した残留音に基づく誤差信号とを用いてキャンセル音源から騒音を打ち消すためのキャンセル音を出力することにより、騒音を能動的に低減する能動騒音低減装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。能動騒音低減装置は、誤差信号の二乗和が最小になるように、適応フィルタを用いてキャンセル音を出力するためのキャンセル信号を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/006846号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、能動騒音低減装置においては、キャンセル音の出力が開始されてから騒音を低減する効果が得られるまでの時間を短縮することが課題となる。
【0005】
本開示は、キャンセル音により騒音を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる能動騒音低減装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る能動騒音低減装置は、移動体装置に取り付けられた参照信号源によって出力される、前記移動体装置内の空間における騒音と相関を有する参照信号が入力される参照信号入力部と、前記参照信号入力部に入力される前記参照信号に適応フィルタを適用することにより、前記騒音を低減するためのキャンセル音の出力に用いられるキャンセル信号を生成する適応フィルタ部と、所定の更新式に基づいて前記適応フィルタの係数を算出するフィルタ係数更新部とを備え、前記フィルタ係数更新部は、前記キャンセル音の出力が開始される第一タイミングにおいて、前記フィルタ係数更新部が前記第一タイミングよりも前の第二タイミングに算出した前記適応フィルタの係数である第一係数を前記更新式の初期値として使用する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の能動騒音低減装置は、キャンセル音により騒音を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態に係る車両を上方から見た模式図である。
図2図2は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、実施の形態に係る能動騒音低減装置の基本動作のフローチャートである。
図4図4は、キャンセル音の早期適応を図るための動作のフローチャートである。
図5図5は、補正係数の決定動作例1のフローチャートである。
図6図6は、補正係数の決定動作例2のフローチャートである。
図7図7は、動作モードに応じて係数を選択する動作のフローチャートである。
図8図8は、第一係数を不揮発性記憶領域に記憶するか否かを選択する動作のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0010】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化される場合がある。
【0011】
なお、以下の実施の形態における、「タイミング」の用語は、厳密な意味で用いられるものではない。例えば、キャンセル音の出力が開始されるタイミングとは、実質的にキャンセル音の出力が開始されたと考えられる、ある程度の時間幅を持つ概念であり、ある瞬間を意味するものではない。車両の動力源がオフされるタイミング、車両が移動を停止するタイミング、及び、車両が移動を再開するタイミング等も同様である。
【0012】
(実施の形態)
[車両の構成]
以下、実施の形態に係る車両、及び、当該車両に搭載される能動騒音低減装置について説明する。まず、実施の形態に係る車両について説明する。図1は、実施の形態に係る車両を上方から見た模式図である。
【0013】
車両50は、移動体装置の一例であって、実施の形態に係る能動騒音低減装置10と、参照信号源51と、キャンセル音源52と、誤差信号源53と、車両本体54と、車両制御部55とを備える。車両50は、具体的には、自動車であるが、特に限定されない。
【0014】
参照信号源51は、車両50の車室内の空間56における騒音と相関を有する参照信号を出力するトランスデューサである。実施の形態では、参照信号源51は、加速度センサであり、空間56外に配置される。具体的には、参照信号源51は、左前輪付近のサブフレーム(または、左前輪のタイヤハウス)に取り付けられる。なお、参照信号源51の取り付け位置は、特に限定されない。参照信号源51が加速度センサである場合、能動騒音低減装置10は、空間56における騒音に含まれるロードノイズの成分を低減することができる。ロードノイズは伝播経路が複雑であるため、複数箇所に加速度センサを配置する構成が有用である。なお、参照信号源51は、マイクロフォンであってもよい。
【0015】
キャンセル音源52は、キャンセル信号を用いてキャンセル音を空間56に出力する。実施の形態では、キャンセル音源52は、スピーカであるが、車両50の一部の構造体(例えば、サンルーフなど)がアクチュエータ等の駆動機構によって加振されることにより、キャンセル音が出力されてもよい。また、能動騒音低減装置10において、複数のキャンセル音源52が使用されてもよく、キャンセル音源52の取り付け位置は特に限定されない。
【0016】
誤差信号源53は、空間56において騒音とキャンセル音とが干渉することによって得
られる残留音を検出し、残留音に基づく誤差信号を出力する。誤差信号源53は、マイクロフォン等のトランスデューサであり、ヘッドライナー等、空間56内に設置されることが望ましい。なお、車両50は、誤差信号源53を複数備えてもよい。
【0017】
車両本体54は、車両50のシャーシ及びボディなどによって構成される構造体である。車両本体54は、キャンセル音源52及び誤差信号源53が配置される空間56(車室内空間)を形成する。
【0018】
車両制御部55は、車両50の運転手の操作等に基づいて、車両50を制御(駆動)する。また、車両制御部55は、車両50の状態を示す車両状態信号を能動騒音低減装置10へ出力する。車両制御部55は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)であり、具体的には、プロセッサ、マイクロコンピュータまたは専用回路などによって実現される。車両制御部55は、プロセッサ、マイクロコンピュータ、及び専用回路のうちの2つ以上の組み合わせによって実現されてもよい。
【0019】
[能動騒音低減装置の構成]
次に、能動騒音低減装置10の構成について説明する。図2は、能動騒音低減装置10の機能構成を示すブロック図である。
【0020】
図2に示されるように、能動騒音低減装置10は、参照信号入力端子11と、キャンセル信号出力端子12と、誤差信号入力端子13と、車両状態信号入力端子14と、適応フィルタ部15と、模擬音響伝達特性フィルタ部16と、フィルタ係数更新部17と、記憶部18とを備える。適応フィルタ部15、模擬音響伝達特性フィルタ部16、及び、フィルタ係数更新部17は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサまたはマイクロコンピュータがソフトウェアを実行することによって実現される。適応フィルタ部15、模擬音響伝達特性フィルタ部16、及び、フィルタ係数更新部17は、回路などのハードウェアによって実現されてもよい。また、適応フィルタ部15、模擬音響伝達特性フィルタ部16、及び、フィルタ係数更新部17は、一部がソフトウェアによって実現され、他の一部がハードウェアによって実現されてもよい。
【0021】
[基本動作]
上述のように、能動騒音低減装置10は、騒音低減動作を行う。まず、能動騒音低減装置10の基本動作について図2に加えて図3を参照しながら説明する。図3は、能動騒音低減装置10の基本動作のフローチャートである。
【0022】
まず、参照信号源51から参照信号入力端子11に、騒音N0と相関を有する参照信号が入力される(S11)。参照信号入力端子11は、参照信号入力部の一例であって、具体的には、金属等により形成される端子である。
【0023】
参照信号入力端子11に入力された参照信号は、適応フィルタ部15及び模擬音響伝達特性フィルタ部16に出力される。適応フィルタ部15は、参照信号入力端子11に入力される参照信号に適応フィルタを適用する(畳み込む)ことにより、キャンセル信号を生成する(S12)。適応フィルタ部15は、いわゆるFIRフィルタまたはIIRフィルタによって実現される。適応フィルタ部15は、生成したキャンセル信号をキャンセル信号出力端子12に出力する。キャンセル信号は、騒音N0を低減するためのキャンセル音N1の出力に用いられ、キャンセル信号出力端子12に出力される(S13)。
【0024】
キャンセル信号出力端子12は、キャンセル信号出力部の一例であって、金属等により形成される端子である。キャンセル信号出力端子12には、適応フィルタ部15によって
生成されたキャンセル信号が出力される。
【0025】
キャンセル信号出力端子12には、キャンセル音源52が接続される。このため、キャンセル音源52にはキャンセル信号出力端子12を介してキャンセル信号が出力される。キャンセル音源52は、キャンセル信号に基づいてキャンセル音N1を出力する。
【0026】
誤差信号源53は、キャンセル信号に対応してキャンセル音源52から発生されるキャンセル音N1と騒音N0との干渉による残留音を検出し、残留音に対応する誤差信号を出力する。この結果、誤差信号入力端子13には、誤差信号が入力される(S14)。誤差信号入力端子13は、誤差信号入力部の一例であって、金属等により形成される端子である。
【0027】
次に、模擬音響伝達特性フィルタ部16は、キャンセル信号出力端子12から誤差信号入力端子13までの音響伝達特性を模擬した模擬伝達特性で参照信号を補正した第一濾波参照信号を生成する(S15)。言い換えれば、模擬伝達特性は、キャンセル音源52の位置から誤差信号源53の位置までの音響伝達特性(つまり、空間56における音響伝達特性)を模擬したものである。模擬伝達特性は、例えば、あらかじめ空間56において実測され、記憶部18に記憶される。なお、模擬伝達特性は、あらかじめ定めた値を使用しないアルゴリズムによって定められてもよい。
【0028】
記憶部18は、模擬伝達特性が記憶される記憶装置である。記憶部18は、具体的には、半導体メモリなどによって実現される。なお、適応フィルタ部15、模擬音響伝達特性フィルタ部16、及び、フィルタ係数更新部17がDSPなどのプロセッサによって実現される場合、記憶部18には、プロセッサによって実行される制御プログラムも記憶される。記憶部18には、適応フィルタ部15、模擬音響伝達特性フィルタ部16、及び、フィルタ係数更新部17が行う信号処理に用いられるその他のパラメータが記憶されてもよい。なお、記憶部18には、後述する適応フィルタの係数が記憶される領域として、揮発性記憶領域18a及び不揮発性記憶領域18bが含まれる。
【0029】
フィルタ係数更新部17は、誤差信号と、生成された第一濾波参照信号とに基づいて、適応フィルタの係数Wを逐次更新する(S16)。
【0030】
フィルタ係数更新部17は、具体的には、LMS(Least Mean Square)法を用いて、誤差信号の二乗和が最小になるように適応フィルタの係数Wを算出し、算出した適応フィルタの係数を適応フィルタ部15に出力する。また、フィルタ係数更新部17は、適応フィルタの係数を逐次更新する。誤差信号のベクトルをe、第一濾波参照信号のベクトルをRと表現すると、適応フィルタの係数Wは、以下の(式1)で表現される。なお、nは自然数であり、サンプリング周期Tsでn番目のサンプルを表す。μはスカラ量であり、1サンプリング当たりの適応フィルタの係数Wの更新量を決定するステップサイズパラメータである。
【0031】
【数1】
【0032】
なお、フィルタ係数更新部17は、LMS法以外の方法で適応フィルタの係数Wを更新してもよい。
【0033】
[キャンセル音の早期適応を図るための動作]
一般に、能動騒音低減装置10は、一からキャンセル音N1の出力が開始されるタイミ
ング(以下、第一タイミングとも記載される)においては、適応フィルタの係数Wの初期値(つまりW(0))を0として、所定の更新式(上記(式1))に基づく適応フィルタの係数Wの算出(更新)を開始する。そうすると、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでに時間がかかってしまうことが課題となる。
【0034】
そこで、フィルタ係数更新部17は、フィルタ係数更新部17によって算出された適応フィルタの係数Wを不揮発性記憶領域18bに記憶しておき、初期値として使用することでキャンセル音N1の騒音N0への早期適応を図る。図4は、キャンセル音N1の早期適応を図るための動作のフローチャートである。
【0035】
車両50の走行中(言い換えれば、移動中)において、フィルタ係数更新部17は、更新式に基づいて適応フィルタの係数Wを算出する(S21)。このとき、1サンプリング前の適応フィルタの係数Wは、揮発性記憶領域18aに記憶される。
【0036】
車両50のイグニッション電源がオフされた場合など、能動騒音制御装置10がオフされる場合に、停止信号を、車両制御部55から車両状態信号入力端子14を介して取得する(S22)。この停止信号は、言い換えれば、車両50が停止したことを通知するための信号である。
【0037】
フィルタ係数更新部17は、停止信号を取得したことを契機に、直近のタイミング(以下、第二タイミングとも記載される)にフィルタ係数更新部17によって算出された適応フィルタの係数Wを第一係数として不揮発性記憶領域18bに記憶する(S23)。より詳細には、フィルタ係数更新部17は、揮発性記憶領域18aに記憶していた直近のタイミングに算出された適応フィルタの係数Wを読み出し、不揮発性記憶領域18bに第一係数として記憶する。
【0038】
ここでの直近のタイミングに算出された適応フィルタの係数Wとは、厳密な意味ではなく、例えば、適応フィルタの係数Wの実質的な最終値である。直近のタイミングに算出された適応フィルタの係数Wは、直近の所定期間に算出された適応フィルタの係数Wの、平均値、中央値、または最大値などであってもよい。ステップS23の後、車両50のバッテリから能動騒音低減装置10への電力供給がオフされるため、能動騒音低減装置10は電源オフ状態となる(S24)。
【0039】
その後、車両50のエンジンがオンされると、能動騒音低減装置10は車両50のバッテリからの電力供給を受けて起動し(S25)、キャンセル音N1の出力を開始する。このときフィルタ係数更新部17は、ステップS23において不揮発性記憶領域18bに記憶された第一係数を読み出し(S26)、読み出した第一係数を初期値として使用した更新式に基づいて適応フィルタの係数Wを算出する(S27)。
【0040】
以上説明したように、フィルタ係数更新部17は、キャンセル音N1の出力が開始される第一タイミングにおいて、フィルタ係数更新部17が第一タイミングよりも前の第二タイミングに算出した適応フィルタの係数Wである第一係数を更新式の初期値として使用する。これにより、能動騒音低減装置10は、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0041】
また、図4の例では、第二タイミングは、車両50が走行を停止するタイミングであり、第一タイミングは、例えば、走行が停止された後の直近の、車両50が走行を再開するタイミングである。能動騒音低減装置10がロードノイズを対象とするような場合、車両50が走行を停止し再開するときには同種の路面を走行している可能性が高い。つまり、走行停止時の適応フィルタの係数Wが、走行再開時にも有効である可能性が高い。したが
って、動作例1のような構成は、ロードノイズを対象とする能動騒音低減装置10において特に有効であると考えられる。
【0042】
なお、図4の例では、フィルタ係数更新部17は、停止信号を取得したことを契機に(つまり、車両50が走行を停止するときに)不揮発性記憶領域18bに第一係数を記憶したが、このような構成は必須ではない。例えば、フィルタ係数更新部17は、停止信号に無関係に、車両50の走行中に定期的に第一係数を不揮発性記憶領域18bに記憶してもよい。また、第一係数は、停止信号以外の信号が取得されたことを契機に不揮発性記憶領域18bに記憶されてもよい。第一係数は、第一タイミングよりも前の第二タイミングに記憶されていればよい。
【0043】
[第一係数の補正]
ところで第一係数が記憶された第二タイミングにおける車両50の状態と、第一係数が読み出される第一タイミングにおける車両50の状態とが大きく異なる場合、第一係数を初期値として使用すると、第一係数が現在の騒音N0に適応したものではないため、第一タイミングにおいて出力されるキャンセル音N1自体が異音となってしまう可能性がある。
【0044】
そこで、フィルタ係数更新部17は、第一タイミングにおいて、第一係数に代えて、第一係数に0より大きく1よりも小さい補正係数を乗算した補正後第一係数を更新式の初期値として使用してもよい。これにより、能動騒音低減装置10は、キャンセル音N1が異音となってしまうことを抑制しつつ、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0045】
補正係数は、例えば、あらかじめ定められた固定値であるが、第二タイミングから第一タイミングまでの期間の長さに応じて定められてもよい。図5は、このような補正係数の決定動作例1のフローチャートである。
【0046】
フィルタ係数更新部17は、第二タイミングを記憶部18に記憶しておき、第一タイミングにおいて第二タイミングから第一タイミングまでの期間の長さが閾値以上であるか否かを判定する(S31)。
【0047】
フィルタ係数更新部17は、第二タイミングから第一タイミングまでの期間(経過時間)の長さが閾値以上であると判定した場合(S31でYes)、第一補正係数を使用して第一係数を補正する(S32)。一方、フィルタ係数更新部17は、第二タイミングから第一タイミングまでの期間の長さが閾値未満であると判定した場合(S31でNo)、第一補正係数よりも大きい第二補正係数を使用して第一係数を補正する(S33)。なお、第一補正係数及び第二補正係数は、いずれも0より大きく1より小さい値となる。
【0048】
このように、フィルタ係数更新部17は、第二タイミングから第一タイミングまでの期間が長いほど補正係数を小さい値に決定する。一般に、第二タイミングから第一タイミングまでの期間が長いほど、車両50の状態が変化している可能性が高い。能動騒音低減装置10は、第二タイミングから第一タイミングまでの期間が長いほど補正係数を小さくすることで、キャンセル音N1が異音となってしまうことを抑制することができる。
【0049】
また、補正係数は、第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差に応じて決定されてもよい。図6は、このような補正係数の決定動作例2のフローチャートである。
【0050】
フィルタ係数更新部17は、第二タイミングにおける空間56の温度を記憶部18に記
憶しておき、第一タイミングにおいて、第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差(温度差)が閾値以上であるか否かを判定する(S41)。なお、フィルタ係数更新部17は、例えば、車両制御部55が車両状態信号として出力する空間56の温度を示す信号を、車両状態信号入力端子14を介して取得することで、空間56の温度をモニタすることができる。
【0051】
フィルタ係数更新部17は、第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差が閾値以上であると判定した場合(S41でYes)、第一補正係数を使用して第一係数を補正する(S42)。一方、フィルタ係数更新部17は、第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差が閾値未満であると判定した場合(S41でNo)、第一補正係数よりも大きい第二補正係数を使用して第一係数を補正する(S43)。なお、第一補正係数及び第二補正係数は、いずれも0より大きく1より小さい値となる。
【0052】
このように、フィルタ係数更新部17は、第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差が大きいほど補正係数を小さい値に決定する。第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差が大きいことは、車両50の状態が大きく変化していることに相当する。このため、能動騒音低減装置10は、第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差が大きいほど補正係数を小さくすることで、キャンセル音N1が異音となってしまうことを抑制することができる。
【0053】
なお、図5及び図6の例では、フィルタ係数更新部17は、補正係数の値を2段階に変更したが、互いに異なる複数の閾値を用いることにより3段階以上に細かく変更してもよい。例えば、経過時間と補正係数との関係を示す計算式、または、経過時間と補正係数との関係を示すテーブル情報が記憶部18に記憶されていれば、フィルタ係数更新部17は、記憶部18に記憶された計算式またはテーブル情報を用いて細かく補正係数を決定することができる。同様に、例えば、温度差と補正係数との関係を示す計算式、または、温度差と補正係数との関係を示すテーブル情報が記憶部18に記憶されていれば、フィルタ係数更新部17は、記憶部18に記憶された計算式またはテーブル情報を用いて細かく補正係数を決定することができる。
【0054】
また、補正係数は、基準温度(例えば、20℃以上25℃以下の所定温度)と第一タイミングにおける空間56の温度との差に応じて決定されてもよい。この場合、第一タイミングにおける空間56の温度が基準温度よりも低いか高いかによって、単位温度(例えば、1℃)あたりの補正値(補正量)が変更されてもよい。基準温度は、例えば、音響伝達関数を計測するときの空間56の温度である。一般的に、基準温度よりもマイナスに温度が変化すると、基準温度よりもプラス側に温度が変化したときよりも音響伝達特性の変化が大きい。第一タイミングにおける空間56の温度が基準温度よりも低いときに、第一タイミングにおける空間56の温度が基準温度よりも高いときよりも補正量が大きく設定されれば、音響伝達特性の変化に応じた補正が実現可能である。
【0055】
また、フィルタ係数更新部17は、第一係数をそのまま使用するか、補正後第一係数を使用するかを第二タイミングから第一タイミングまでの期間の長さに応じて決定してもよい。同様に、フィルタ係数更新部17は、第一係数をそのまま使用するか、補正後第一係数を使用するかを第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差に応じて決定してもよい。
【0056】
[動作モード]
能動騒音低減装置10が複数の動作モードで動作可能である場合、フィルタ係数更新部
17は、初期値として使用される係数Wを動作モード毎に記憶してもよい。複数の動作モードは、例えば、空間56における1つの座席を対象として、当該座席の近傍の騒音を低減する動作モード、及び、空間56における4つの座席を対象として、4つの座席それぞれの近傍の騒音を低減する動作モードなどを含む。なお、空間56における複数の座席が騒音低減の対象となる場合には、複数の座席それぞれに誤差信号源53が設置される。以下では、複数の動作モードのうちの任意の2つの動作モードを第一動作モード及び第二動作モードと定義して説明を行う。
【0057】
例えば、フィルタ係数更新部17は、第一動作モードで動作中に停止信号を取得すると、直近のタイミング(つまり、第一動作モードで動作していたタイミング)にフィルタ係数更新部17によって算出された適応フィルタの係数Wを第一係数として不揮発性記憶領域18bに記憶する。一方、フィルタ係数更新部17は、第二動作モードで動作中に停止信号を取得すると、直近のタイミング(つまり、第二動作モードで動作していたタイミング)にフィルタ係数更新部17によって算出された適応フィルタの係数Wを第一係数とは別に第二係数として不揮発性記憶領域18bに記憶する。
【0058】
このように、初期値として使用される係数Wが動作モード毎に記憶されていれば、能動騒音低減装置10は、現在の動作モードに応じて係数Wを選択することで、キャンセル音N1が異音となってしまうことを抑制することができる。図7は、動作モードに応じて係数Wを選択する動作のフローチャートである。
【0059】
フィルタ係数更新部17は、キャンセル音N1の出力を開始するときに、現在の動作モードが第一動作モードであるか第二動作モードであるかを判定する(S51)。なお、現在の動作モードは、例えば、記憶部18に記憶されるフラグなどによって特定可能である。
【0060】
フィルタ係数更新部17は、現在の動作モードが第一動作モードであると判定した場合(S51で第一動作モード)、不揮発性記憶領域18bから第一係数を読み出し(S52)、読み出した第一係数を初期値として使用した更新式に基づいて適応フィルタの係数Wを算出する(S53)。
【0061】
一方、フィルタ係数更新部17は、現在の動作モードが第二動作モードであると判定した場合(S51で第二動作モード)、不揮発性記憶領域18bから第二係数を読み出し(S54)、読み出した第二係数を初期値として使用した更新式に基づいて適応フィルタの係数Wを算出する(S55)。
【0062】
このように、フィルタ係数更新部17は、現在の動作モードに応じた係数Wを更新式の初期値として使用する。これにより、能動騒音低減装置10は、キャンセル音N1が異音となってしまうことを抑制しつつ、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0063】
[変形例]
上記実施の形態では、能動騒音低減装置10は、車両制御部55から停止信号を取得したことを契機に電源オフ状態(シャットダウン状態)に遷移し、電源オフ状態の能動騒音低減装置10においては、記憶部18への電力供給が遮断される。上記図4のフローチャートのステップS23においては、記憶部18への電力供給が遮断されることを想定して、揮発性記憶領域18aに記憶していた直近のタイミングに算出された適応フィルタの係数Wを読み出し、不揮発性記憶領域18bに第一係数として記憶した。
【0064】
しかしながら、能動騒音低減装置10は、停止信号を取得したことを契機に電源オフ状
態に遷移するのではなく、スリープ状態に遷移してもよい。スリープ状態の能動騒音低減装置10においては、記憶部18への電力供給が維持されるため、揮発性記憶領域18aに記憶していた直近のタイミングに算出された適応フィルタの係数Wをそのまま第一係数として使用することができる。つまり、第一係数は、揮発性記憶領域18aに記憶されてもよい。
【0065】
このような能動騒音低減装置10は、揮発性記憶領域18aに記憶されていた適応フィルタの係数Wを読み出して不揮発性記憶領域18bに記憶し直す処理を省略することができる。この結果、能動騒音低減装置10は、記憶部18の記憶容量の低減、終了時間の短縮、及び、起動時間の短縮を図ることができる。
【0066】
また、車両50のバッテリ交換時など、強制的に電力供給が遮断されることでスリープ状態を維持できない場面も想定される。このような場合、車両制御部55が、電力供給が遮断されるか否かが区別された2種類の停止信号(第一停止信号及び第二停止信号)を選択的に出力することで、フィルタ係数更新部17は、第一係数を不揮発性記憶領域18bに記憶(移動)するか否かを選択することができる。図8は、第一係数を不揮発性記憶領域18bに記憶(移動)するか否かを選択する動作のフローチャートである。
【0067】
フィルタ係数更新部17は、停止信号を、車両制御部55から車両状態信号入力端子14を介して取得する(S61)。フィルタ係数更新部17は、取得した停止信号が、能動騒音低減装置10への電力供給が遮断されることを示す第一停止信号であるか、能動騒音低減装置10への電力供給が維持されることを示す第二停止信号であるかを判定する(S62)。
【0068】
フィルタ係数更新部17は、ステップS61において取得した停止信号が第一停止信号であると判定した場合(S62で第一停止信号)、揮発性記憶領域18aに記憶していた直近のタイミングに算出された適応フィルタの係数Wを読み出し、不揮発性記憶領域18bに第一係数として記憶する(S63)。その後、能動騒音低減装置10は、電源オフ状態となる(S64)。
【0069】
一方、フィルタ係数更新部17は、ステップS61において取得した停止信号が第二停止信号であると判定した場合(S62で第二停止信号)、揮発性記憶領域18aに記憶していた直近のタイミングに算出された適応フィルタの係数Wの不揮発性記憶領域18bへの記憶を行わない(S65)。その後、能動騒音低減装置10は、スリープ状態となる(S66)。この場合、揮発性記憶領域18aに記憶していた直近のタイミングに算出された適応フィルタの係数Wが、そのまま第一係数として使用される。
【0070】
このように、フィルタ係数更新部17は、基本的には、第二タイミングにおいて第一係数を揮発性記憶領域18aに記憶しつつ、能動騒音低減装置10への電力供給が遮断されることの通知を受けた場合(つまり、第一停止信号を取得した場合)に、第二タイミングにおいて第一係数を不揮発性記憶領域18bに記憶する。これにより、能動騒音低減装置10は、電力供給の遮断により揮発性記憶領域18aに記憶された第一係数が消去されてしまうような場合も、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0071】
なお、フィルタ係数更新部17は、能動騒音低減装置10への電力供給が遮断されることを自発的に検知し、第二タイミングにおいて第一係数を不揮発性記憶領域18bに記憶してもよい。電力供給の遮断を検知する方法については既存のどのような方法が用いられてもよい。
【0072】
[その他の変形例]
上記実施の形態では、能動騒音低減装置10は、能動騒音低減装置10が過去に算出したフィルタ係数Wを更新式の初期値として使用したが、初期値は設計者等によってあらかじめ定められた0以外の値であってもよい。
【0073】
例えば、初期値は、設計者等があらかじめシミュレーションによって算出した値であってもよい。また、複数の車両50のそれぞれについて当該車両50を実際に走行させてフィルタ係数Wを算出し、算出された複数のフィルタ係数の平均値が初期値としてあらかじめ記憶部18に記憶されていてもよい。このようにシミュレーションまたはチューニングにより初期値が決定されれば、路面性状、及び、車速などが異なる条件で適応フィルタ部15を適応させることで様々な帯域が励起されるので、様々な走行条件で騒音を低減する性能を向上させることができる。
【0074】
また、上記実施の形態では、適応フィルタの係数Wが記憶部18に記憶されるタイミングは、エンジンがオフされるタイミングであったが、このようなタイミングに限定されない。例えば、車両50が出荷される際に行われる出荷検査の際に適応フィルタの係数Wの更新が行われ、このときの係数Wが初期値として記憶されてもよい。この出荷検査の際に、路面性状、及び、車速などが互いに異なる条件(移動条件)で車両50を走行させ、適応フィルタ部15を適応させることで様々な成分が励起された係数Wを記憶部18に記憶することができる。
【0075】
また、車両50を納入する際の輸送時に適応フィルタの係数Wの更新が行われ、このときの係数Wが初期値として記憶部18に記憶されてもよい。適応フィルタの係数Wの更新が行われる前の大元の初期値は、0であるが、上記のようにシミュレーションまたはチューニングによって定められた値であってもよい。このようにユーザーに納品される前に適応フィルタの係数Wを更新することで,車両毎の個体差を調整し,騒音を低減する性能を向上させることができる。
【0076】
また、出荷検査等の際に通常はあり得ない条件で車両50が走行する場合(例えば、車両50シャーシダイナモを走行する場合など)には、出荷検査等の際に算出された適応フィルタの係数Wが初期値として記憶されてしまうと、この係数Wは一般的でない値となってしまう。これを防ぐために、出荷検査等の際には算出された係数Wは初期値として記憶部18には記憶されない、といった方策がとられてもよい。例えば、能動騒音低減装置10が検査モードに遷移しているときには、係数Wは初期値として記憶部18には記憶されなくてもよい。つまり、能動騒音低減装置10は、係数Wを初期値として記憶部18に記憶する処理を禁止する機能を有していてもよい。このときの大元の初期値は、0であるが、上記のようにシミュレーションまたはチューニングによって定められた値であってもよい。
【0077】
[効果等]
以上説明したように、能動騒音低減装置10は、車両50に取り付けられた参照信号源51によって出力される、車両50内の空間56における騒音N0と相関を有する参照信号が入力される参照信号入力端子11と、参照信号入力端子11に入力される参照信号に適応フィルタを適用することにより、騒音N0を低減するためのキャンセル音N1の出力に用いられるキャンセル信号を生成する適応フィルタ部15と、所定の更新式に基づいて適応フィルタの係数Wを算出するフィルタ係数更新部17とを備える。フィルタ係数更新部17は、キャンセル音N1の出力が開始される第一タイミングにおいて、フィルタ係数更新部17が第一タイミングよりも前の第二タイミングに算出した適応フィルタの係数Wである第一係数を更新式の初期値として使用する。
【0078】
このような能動騒音低減装置10は、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0079】
また、例えば、第二タイミングは、車両50のイグニッション電源がオフされるなど能動騒音低減装置10の電源がオフされる前のタイミングであり、第一タイミングは、第二タイミングの後の直近の、車両50の能動騒音低減装置10がオンされるタイミングである。
【0080】
このような能動騒音低減装置10は、車両50が移動を再開するときに、直近まで使用していた適応フィルタの係数Wを更新式の初期値として使用することで、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0081】
また、例えば、第二タイミングは、能動騒音低減装置10の出荷前のタイミングである。
【0082】
このような能動騒音低減装置10は、出荷前にチューニングされた適応フィルタの係数Wを更新式の初期値として使用することで、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0083】
また、例えば、第二タイミングは、車両50が互いに異なる複数の走行条件(移動条件)で走行(移動)した直後のタイミングである。
【0084】
このような能動騒音低減装置10は、出荷前に様々な成分が励起された適応フィルタの係数Wを更新式の初期値として使用することで、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0085】
また、例えば、能動騒音低減装置10は、さらに、第一係数が記憶される記憶部18を備える。能動騒音低減装置10は、第一係数を記憶部18に記憶する処理を禁止する機能を有する。
【0086】
このような能動騒音低減装置10は、通常はあり得ない条件で車両50が走行する場合に算出された適応フィルタの係数Wが初期値として記憶されてしまうことを抑制することができる。
【0087】
また、例えば、能動騒音低減装置10は、第一動作モード及び第二動作モードのいずれかで選択的に動作する。フィルタ係数更新部17は、第一動作モードにおけるキャンセル音N1の出力が開始される第一タイミングにおいて、第一係数を更新式の初期値として使用し、第二動作モードにおけるキャンセル音N1の出力が開始されるタイミングにおいて、第一係数と異なる第二係数であって、フィルタ係数更新部17が当該タイミングよりも前に算出した適応フィルタの係数Wである第二係数を更新式の初期値として使用する。
【0088】
このような能動騒音低減装置10は、現在の動作モードに応じた係数Wを更新式の初期値として使用することで、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0089】
また、例えば、フィルタ係数更新部17は、第一タイミングにおいて、第一係数に代えて、第一係数に0より大きく1よりも小さい補正係数を乗算した補正後第一係数を更新式の初期値として使用する。
【0090】
このような能動騒音低減装置10は、キャンセル音N1が異音となってしまうことを抑制しつつ、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0091】
また、例えば、補正係数は、第二タイミングから第一タイミングまでの期間が長いほど小さい値となる。
【0092】
このような能動騒音低減装置10は、第二タイミングから第一タイミングまでの期間の長さに基づいて、キャンセル音N1が異音となってしまうことを抑制することができる。
【0093】
また、例えば、補正係数は、第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差が大きいほど小さい値となる。
【0094】
このような能動騒音低減装置10は、第二タイミングにおける空間56の温度と第一タイミングにおける空間56の温度との差に基づいて、キャンセル音N1が異音となってしまうことを抑制することができる。
【0095】
また、例えば、フィルタ係数更新部17は、第二タイミングにおいて第一係数を不揮発性記憶領域18bに記憶し、第一タイミングにおいて不揮発性記憶領域18bに記憶された第一係数を読み出して更新式の初期値として使用する。不揮発性記憶領域18bは、不揮発性の記憶部の一例である。
【0096】
このような能動騒音低減装置10は、第二タイミングと第一タイミングとの間で能動騒音低減装置10への電力供給が遮断されたとしても、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0097】
また、例えば、フィルタ係数更新部17は、第二タイミングにおいて第一係数を揮発性記憶領域18aに記憶し、第一タイミングにおいて揮発性記憶領域18aに記憶された第一係数を読み出して更新式の初期値として使用する。揮発性記憶領域18aは、揮発性の記憶部の一例である。
【0098】
このような能動騒音低減装置10は、揮発性記憶領域18aに記憶されていた適応フィルタの係数Wを読み出して不揮発性記憶領域18bに記憶し直す処理を省略することができる。
【0099】
また、例えば、フィルタ係数更新部17は、能動騒音低減装置10への電力供給が遮断されることの通知を受けた場合、または、電力供給が遮断されることを検知した場合に、第二タイミングにおいて第一係数を不揮発性記憶領域18bに記憶する。
【0100】
このような能動騒音低減装置10は、電力供給の遮断により揮発性記憶領域18aに記憶された第一係数が消去されてしまうような場合も、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0101】
また、車両50は、能動騒音低減装置10と、参照信号源51とを備える。
【0102】
このような車両50は、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0103】
また、能動騒音低減装置10によって実行される能動騒音低減方法は、車両50に取り付けられた参照信号源51によって出力される、車両50内の空間56における騒音N0
と相関を有する参照信号に適応フィルタを適用することにより、騒音N0を低減するためのキャンセル音N1の出力に用いられるキャンセル信号を生成する生成ステップと、所定の更新式に基づいて前記適応フィルタの係数を算出する算出ステップとを含む。算出ステップにおいては、キャンセル音N1の出力が開始される第一タイミングにおいて、能動騒音低減装置10が第一タイミングよりも前の第二タイミングに算出した適応フィルタの係数である第一係数を更新式の初期値として使用する。
【0104】
このような能動騒音低減方法は、キャンセル音N1により騒音N0を低減する効果が得られるようになるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0105】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態について説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0106】
例えば、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置は、車両以外の移動体装置に搭載されてもよい。移動体装置は、例えば、航空機または船舶であってもよい。また、本開示は、このような車両以外の移動体装置として実現されてもよい。
【0107】
また、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置の構成は、一例である。例えば、能動騒音低減装置は、D/A変換器、フィルタ、電力増幅器、または、A/D変換器などの構成要素を含んでもよい。
【0108】
また、上記実施の形態では、参照信号入力部、誤差信号入力部、キャンセル信号出力部は互いに異なる端子として説明されたが、単一の端子であってもよい。例えば、参照信号源、誤差信号源、及び、キャンセル音源などのデバイスを数珠繋ぎに接続できるデジタル通信規格によれば、単一の端子によって参照信号入力部、誤差信号入力部、及び、キャンセル信号出力部を実現することが可能である。
【0109】
また、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置が行う処理は、一例である。例えば、上記実施の形態で説明されたデジタル信号処理の一部がアナログ信号処理によって実現されてもよい。
【0110】
また、例えば、上記実施の形態において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、複数の処理の順序が変更されてもよいし、複数の処理が並行して実行されてもよい。
【0111】
また、上記実施の形態において、各構成要素は、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0112】
また、上記実施の形態において、各構成要素は、ハードウェアによって実現されてもよい。例えば、各構成要素は、回路(または集積回路)でもよい。これらの回路は、全体として1つの回路を構成してもよいし、それぞれ別々の回路でもよい。また、これらの回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
【0113】
また、各構成要素は、回路(または集積回路)でもよい。これらの回路は、全体として1つの回路を構成してもよいし、それぞれ別々の回路でもよい。また、これらの回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
【0114】
また、本開示の全般的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの非一時的な記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0115】
例えば、本開示は、能動騒音低減装置(コンピュータまたはDSP)が実行する能動騒音低減方法として実現されてもよいし、上記能動騒音低減方法をコンピュータまたはDSPに実行させるためのプログラムとして実現されてもよい。また、本開示は、このようなプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体として実現されてもよい。また、本開示は、移動体装置(例えば、車両)または能動騒音低減システムとして実現されてもよい。このような移動体装置または能動騒音低減システムは、例えば、上記実施の形態に係る能動騒音低減装置と、参照信号源とを備える。
【0116】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、または、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本開示の能動騒音低減装置は、例えば、車室内の騒音を低減することができる装置として有用である。
【符号の説明】
【0118】
10 能動騒音低減装置
11 参照信号入力端子
12 キャンセル信号出力端子
13 誤差信号入力端子
14 車両状態信号入力端子
15 適応フィルタ部
16 模擬音響伝達特性フィルタ部
17 フィルタ係数更新部
18 記憶部
18a 揮発性記憶領域
18b 不揮発性記憶領域
50 車両
51 参照信号源
52 キャンセル音源
53 誤差信号源
54 車両本体
55 車両制御部
56 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8