(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】可塑性油脂組成物およびこれを用いた食品
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
A23D7/00 500
A23D7/00 506
A23D7/00 508
(21)【出願番号】P 2018247913
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】永井 利治
(72)【発明者】
【氏名】石嵜 直純
(72)【発明者】
【氏名】笠松 恵里華
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-184638(JP,A)
【文献】特開2015-156855(JP,A)
【文献】国際公開第03/061397(WO,A1)
【文献】AGRITECH,2009年,Vol.29,No.3,pp.154-158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)~(C):
(A)POP、POS、およびSOSから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(B)PPO、PSO、SPO、およびSSOから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(C)sn-PPC4
を含有し、成分(A)の合計質量、成分(B)の合計質量、および成分(C)の質量の比が、三角図表における点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点d(33:65:2)、及び点e(33:24:43)を順に結ぶ直線で囲まれた範囲内である、可塑性油脂組成物であって、
前記可塑性油脂組成物中の油脂において、0℃で流動状の油脂を15~40質量%含有し、乳脂肪を35~70質量%含有する、可塑性油脂組成物。
ただし、成分(A)~(C)において、
POPは、グリセロール1分子の1位および3位にPが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
POSは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にOが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にOが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SOSは、グリセロール1分子の1位および3位にSが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PPOは、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にPが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PSOは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SPOは、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にPが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SSOは、グリセロール1分子の1位および2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にSが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
sn-PPC4は、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にC4が結合したトリアシルグリセロールを示し、また、C4は酪酸、Pはパルミチン酸、Sはステアリン酸、Oはオレイン酸をそれぞれ示す。
【請求項2】
以下の成分(A)~(C):
(A)POP、POS、およびSOSから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(B)PPO、PSO、SPO、およびSSOから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(C)sn-PPC4
を含有し、成分(A)の合計質量、成分(B)の合計質量、および成分(C)の質量の比が、三角図表における点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点f(45:53:2)、及び点g(45:24:31)を順に結ぶ直線で囲まれた範囲内である、可塑性油脂組成物であって、
前記可塑性油脂組成物中の油脂において、0℃で流動状の油脂を20~40質量%、および乳脂肪を17.5~70質量%含有する、可塑性油脂組成物。
ただし、成分(A)~(C)において、
POPは、グリセロール1分子の1位および3位にPが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
POSは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にOが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にOが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SOSは、グリセロール1分子の1位および3位にSが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PPOは、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にPが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PSOは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SPOは、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にPが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SSOは、グリセロール1分子の1位および2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にSが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
sn-PPC4は、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にC4が結合したトリアシルグリセロールを示し、また、C4は酪酸、Pはパルミチン酸、Sはステアリン酸、Oはオレイン酸をそれぞれ示す。
【請求項3】
以下の成分(A)~(C):
(A)POP、POS、およびSOSから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(B)PPO、PSO、SPO、およびSSOから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(C)sn-PPC4
を含有し、成分(A)の合計質量、成分(B)の合計質量、および成分(C)の質量の比が、三角図表における点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点f(45:53:2)、及び点g(45:24:31)を順に結ぶ直線で囲まれた範囲内である、可塑性油脂組成物(ただし、タンパク質を25~30質量%、灰分を15~20質量%含有するタンパク質濃縮ホエイを含むものを除く)であって、
前記可塑性油脂組成物中の油脂において、乳脂肪を17.5~70質量%、おおよび0℃で流動状の油脂を15~40質量%含有する、可塑性油脂組成物。
ただし、成分(A)~(C)において、
POPは、グリセロール1分子の1位および3位にPが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
POSは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にOが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にOが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SOSは、グリセロール1分子の1位および3位にSが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PPOは、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にPが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PSOは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SPOは、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にPが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SSOは、グリセロール1分子の1位および2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にSが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
sn-PPC4は、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にC4が結合したトリアシルグリセロールを示し、また、C4は酪酸、Pはパルミチン酸、Sはステアリン酸、Oはオレイン酸をそれぞれ示す。
【請求項4】
以下の成分(A)~(C):
(A)POP、POS、およびSOSから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(B)PPO、PSO、SPO、およびSSOから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(C)sn-PPC4
を含有し、成分(A)の合計質量、成分(B)の合計質量、および成分(C)の質量の比が、三角図表における点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点f(45:53:2)、及び点g(45:24:31)を順に結ぶ直線で囲まれた範囲内である、スプレッド用またはフィリング用の可塑性油脂組成物あって、
前記可塑性油脂組成物中の油脂において、乳脂肪を17.5~70質量%、おおよび0℃で流動状の油脂を15~40質量%含有する、可塑性油脂組成物。
ただし、成分(A)~(C)において、
POPは、グリセロール1分子の1位および3位にPが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
POSは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にOが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にOが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SOSは、グリセロール1分子の1位および3位にSが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PPOは、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にPが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PSOは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SPOは、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にPが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SSOは、グリセロール1分子の1位および2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にSが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
sn-PPC4は、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にC4が結合したトリアシルグリセロールを示し、また、C4は酪酸、Pはパルミチン酸、Sはステアリン酸、Oはオレイン酸をそれぞれ示す。
【請求項5】
スプレッド用またはフィリング用の可塑性油脂組成物である、請求項1~
3いずれか一項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項6】
練り込み用である、請求項1~
3いずれか一項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項7】
前記可塑性油脂組成物中の油脂において、成分(A)を3質量%以上、10.0質量%以下含有する、請求項1~
6いずれか一項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項8】
エステル交換をしていないパーム系油脂を5質量%以上含有する、請求項1乃至
7
いずれか一項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項9】
前記可塑性油脂組成物は、ヨウ素価4以上の部分水素添加油を含有しない、請求項1乃至
8いずれか一項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項10】
油脂を連続相とする乳化物である、請求項1乃至
9いずれか一項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項11】
請求項1乃至
10いずれか一項に記載された可塑性油脂組成物を用いた食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑性油脂組成物およびこれを用いた食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動植物油脂を原料とするマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなど可塑性油脂組成物は、加温、融解した原料油脂を冷却し、練りを加える工程を経て製造される。可塑性油脂組成物は、これらの工程を通して油脂の結晶が生じ、かかる油脂の結晶がネットワークを形成することで、パン・菓子・調理品などの練り込み用途や、ロールイン、フィリングまたはトッピング用途に好適な可塑性を持つにいたる。
【0003】
また、可塑性油脂組成物としては、生乳を原料とするバターが古来、製造・利用されている。バターは、独特の風味やコクに優れているため、現在でもパン・菓子・調理品などの練り込み用途や、ロールイン、フィリングまたはトッピング用途に広く供されているが、原材料の組み合わせや製造方法の条件によりある程度、物性の調製が可能なマーガリンやファットスプレッドと比べると、練り込みやすさや伸展性、保型性などが劣る場合があった。
そこで、従来、マーガリンやファットスプレッド類に乳脂肪を原料の一部とすることによって、バターに近い風味やコクを持ちながら、練り込みやすさや伸展性、保型性などをある程度担保させる技術が広く知られている。
【0004】
一方で、可塑性油脂組成物の油脂結晶が、製造後から時間を経るにつれて変化することに起因すると考えられるいくつかの課題が存在する。
第一は、可塑性油脂組成物全体が硬くなる現象である。このことにより、可塑性油脂組成物の可塑性が損なわれ、可塑性油脂組成物を生地に練りこんだり、ロールインしたり、フィリングとして絞り出したり、塗り広げたりすることが困難になり、また口溶けが悪くなることがある。
第二は、可塑性油脂組成物中に細かいざらつきが発生する現象である。このことにより、特にフィリング用途において口当たりが悪くなったり、つやがなくなることがある。
第三は、可塑性油脂組成物中に、1~5mmほどの粒状の組織(ブツ)が現れる現象である。かかるブツは、可塑性油脂組成物を生地に練りこんだり、ロールインしたりする際も残存するため、生地の形成に悪影響を及ぼしたり、フィリングとして絞り出したり、塗り広げたりする際に商品表面に現れて、商品価値を損ねたり、口溶けを悪くさせることがある。
【0005】
近年、可塑性油脂組成物の油脂原料として、パーム油が使用されている。パーム油は、植物油脂の中でも適度な固さをもち、また安価で供給が安定していることなどから、広く活用されることが求められている。
しかし、パーム油は、グリセロール1分子の1位および3位にPが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロール(POP)を多く含有することから結晶化が遅いことが知られている。そのため、パーム油を用いた可塑性油脂組成物は、硬くなりやすかったり、経時的に結晶が粗大化して、ブツと呼ばれる粒状のかたまりが発生するなどの問題があった。
【0006】
そこで、かかる問題を解消してパーム油を活用すべく、パーム油とエステル交換油を使用することで可塑性油脂組成物の物性を改良する試みがなされている。
例えば、特許文献1には、トリグリセリドの組成を特定するとともに、ラウリン系油脂とパーム系油脂を特定割合で用いたエステル交換油を含有する練り込み用油脂組成物が開示されている。
また、特許文献2では、エステル交換油を用いずにパーム系油脂とラウリン系油脂、融点が50℃以上の油脂を含有し、特定のトリグリセリドの含有量と、構成脂肪酸におけるラウリン酸の含有量を特定した可塑性油脂組成物が、貯蔵中にブツやザラが生じにくいことが開示されている。
また、特許文献3には、飽和-不飽和-飽和型のトリグリセリドを10%以上含む油脂と、飽和-飽和-不飽和型のトリグリセリドを10%以上含有する油脂、または、不飽和-飽和-不飽和型のトリグリセリドを10%以上含有する油脂、または、同一種類のトリグリセリドを10%以上含有していない油脂の何れかを1:5~5:1の割合で配合することによって直径20μm以上の粒状結晶が生成しないことが開示されている。また、保存中において温度変化が生じた場合において粒状結晶が生成しないことが開示され、実施例においても、温度を5℃と20℃とに12時間サイクルで変化させて保存している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-142569号公報
【文献】特開2013-066431号公報
【文献】特開2002-180084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の技術においては、硬さの変化を抑制する効果はみられるものの、冷蔵保管時のブツの発生を抑制する点において改善の余地があった。
また、特許文献2記載の技術においては、冷蔵保管時のブツの発生の抑制の課題が認識されておらず、また融点が50℃以上の油脂を含有することにより、口溶けが悪く、特にフィリング、スプレッド用途に適するものではなかった。
また、特許文献3記載の技術は、実施例1に開示されるように、油脂混合物を完全に融解させたあと、急冷し、全体を結晶化させた油脂混合物について、粒状結晶の生成を抑制することに着目したものであった。そのため、特に乳脂肪を含有し、冷却、練り工程を経た可塑性油脂組成物においては、これを冷蔵保存すると、長期間でのブツの発生が十分抑制されないことが、本発明者らの検討にて明らかとなった。
【0009】
一般に、可塑性油脂組成物は、用途が異なったり、含まれる副素材の種類、量または乳化の強さ等の違いによって菌に対する耐性が異なるため、保管条件や使用条件に応じた検討が重要となる。
本発明者は、可塑性油脂組成物の油脂結晶に起因すると考えられる課題を検証した結果、全体が硬く変化する場合と、ザラが発生する場合と、ブツが発生する場合とを区別した上で、油脂の配合と保管条件を検討し、特にブツの発生原因について鋭意検討を行った結果、パーム油に含まれるPOP以外にも、対称型のトリアシルグリセロールであるPOS、SOSにより、ブツが発生する傾向があることを知見した。特にPOS、SOSはPOPよりも融点が高く、ブツの発生に寄与する可能性が高いと考えられた。さらに、可塑性油脂組成物の硬さの変化を抑制するためにラウリン系油脂を原料の一部としたエステル交換油を用いた場合において、特に冷蔵保管時に、ブツの発生がより顕著になることが見出された。
また、さらに検討を行った結果、ラウリン系油脂を原料の一部としたエステル交換油を用いた場合以外にも、特に乳脂肪を一定量使用した場合において、冷蔵保管時に顕著なブツの発生がみられることが見出された。
【0010】
そこで、本発明においては、乳脂肪を一定量用いることを前提として、ブツの発生を抑制し、かつ、経日的に硬くなることによるゴリつき感を抑制する観点から、さらに検討を行った結果、トリアシルグリセロールの組成を従来技術とは異なる範囲で、特定条件に制御することが極めて有効なことが見出され、本発明が完成された。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
以下の成分(A)~(C):
(A)POP、POS、およびSOSから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(B)PPO、PSO、SPO、およびSSOから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(C)sn-PPC4
を含有し、成分(A)の合計質量、成分(B)の合計質量、および成分(C)の質量の比が、三角図表における点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点d(33:65:2)、及び点e(33:24:43)を順に結ぶ直線で囲まれた範囲内である、可塑性油脂組成物を提供する。
ただし、成分(A)~(C)において、
POPは、グリセロール1分子の1位および3位にPが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
POSは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にOが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にOが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SOSは、グリセロール1分子の1位および3位にSが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PPOは、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にPが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PSOは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SPOは、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にPが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SSOは、グリセロール1分子の1位および2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にSが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
sn-PPC4は、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にC4が結合したトリアシルグリセロールを示し、また、C4は酪酸、Pはパルミチン酸、Sはステアリン酸、Oはオレイン酸をそれぞれ示す。
【0012】
また、本発明は、可塑性油脂組成物を用いた食品を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ブツの発生とゴリつき感が抑制された可塑性油脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る可塑性油脂組成物の成分(A)~(C)の組成範囲を示す三角図表である。
【
図2】本実施形態に係る可塑性油脂組成物の成分(A)~(C)の好ましい組成範囲を示す三角図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、説明する。
本実施形態に係る可塑性油脂組成物は、以下の成分(A)~(C)を含むものである。
(A)POP、POS、およびSOSから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(B)PPO、PSO、SPO、およびSSOから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(C)sn-PPC4
【0016】
ただし、成分(A)~(C)において、
POPは、グリセロール1分子の1位および3位にPが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
POSは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にOが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にOが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SOSは、グリセロール1分子の1位および3位にSが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PPOは、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にPが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PSOは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SPOは、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にPが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SSOは、グリセロール1分子の1位および2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にSが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
sn-PPC4は、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にC4が結合したトリアシルグリセロールを示し、また、C4は酪酸、Pはパルミチン酸、Sはステアリン酸、Oはオレイン酸をそれぞれ示す。
【0017】
図1は、本実施形態に係る可塑性油脂組成物の成分(A)~(C)の組成範囲を示す三角図表である。
図1には、成分(A)~(C)をそれぞれ軸とした三角図表において、成分(A)~(C)の合計を100質量%とした場合の成分(A)~(C)の質量比について、点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点d(33:65:2)、及び点e(33:24:43)が示されている。本実施形態に係る可塑性油脂組成物は、これら点a~eを順に結んだ直線で囲まれた範囲内の組成を有する。
【0018】
ここで、成分(A)は、POP、POS、およびSOSから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロールであり、主にパーム系油脂やパーム系油脂を原料とするエステル交換油に含まれるトリアシルグリセロールであって、なかでも、対称型のトリアシルグリセロールの合計質量を示すものである。
成分(B)は、PPO、PSO、SPO、およびSSOから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロールであり、主にパーム系油脂やパーム系油脂を原料とするエステル交換油に含まれるトリアシルグリセロールであって、なかでも、非対称型のトリアシルグリセロールの合計質量を示すものである。
成分(C)は、sn-PPC4であり、当該sn-PPC4は乳脂肪に含まれる代表的なトリアシルグリセロールである。なお、sn-PPC4には、位置異性体、鏡像異性体が存在するが、乳脂肪においては極微量しか含まれず、本実施形態においては検出限界以下である。
【0019】
本実施形態において、乳脂肪とは、牛等の反芻動物の乳由来の脂質であり、特に牛の乳由来の脂質を好適に例示することができる。一般に、乳脂肪は、約99重量%のトリグリセリドと、ジグリセリド、モノグリセリド、ラクトン類、メチルケトン類、アルデヒド類、脂肪酸類及び含硫化合物等のその他の成分を含有している。乳脂肪は、バターやバターオイルの原材料として用いることができる。
【0020】
本実施形態に係る可塑性油脂組成物は、成分(A)~(C)の質量比を三角図表における点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点d(33:65:2)、及び点e(33:24:43)を順に結ぶ直線で囲まれた範囲内とすることによって、ブツの発生とゴリつき感が抑制できる。かかる理由の詳細は明らかではないが、以下のように推測される。
まず、本発明者が、乳脂肪を一定量使用した可塑性油脂組成物に発生したブツを採取し、そのトリアシルグリセロール組成について分析を行ったところ、ブツ部分のトリアシルグリセロール組成が、ブツ以外のトリアシルグリセロール組成と比較して、対称型のトリアシルグリセロール(POP、POS、SOS)の濃度が高いことが見出された。また、乳脂肪および原料としてパーム系油脂を含有するエステル交換油、パーム系油脂の相溶性が、可塑性油脂組成物に含まれるトリアシルグリセロール組成の対称性によって変化する傾向が見出された。
そこで、本発明者は、トリアシルグリセロール組成の対称性に着目するとともに、乳脂肪に特徴的なsn-PPC4と、対称型のトリアシルグリセロールと、非対称型のトリアシルグリセロールとの組成を制御することで、ブツの発生とゴリつき感が抑制できる範囲があることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
さらに、本実施形態の可塑性油脂組成物は、以下の条件を満たすことにより、より効果的かつ安定的にブツの発生とゴリつき感の抑制を両立できるようになる。
【0022】
本実施形態の可塑性油脂組成物は、成分(A)~(C)の質量比が、三角図表における点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点f(45:53:2)、及び点g(45:24:31)を順に結ぶ直線で囲まれた範囲内であることが好ましい。
図2には、成分(A)~(C)をそれぞれ軸とした三角図表において、成分(A)~(C)の合計を100質量%とした場合の成分(A)~(C)の質量比について、点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点f(45:53:2)、及び点g(45:24:31)が示されている。本実施形態に係る可塑性油脂組成物は、これら点a~c,f,およびgを順に結んだ直線で囲まれた範囲内の組成を有することが好ましい。
【0023】
本実施形態の可塑性油脂組成物中の油脂全体に対して、成分(A)を3質量%以上含有することが好ましく、成分(A)を5質量%以上含有することがより好ましい。一方、本実施形態の可塑性油脂組成物中の油脂全体に対して、成分(A)を20質量%以下含有することが好ましく、成分(A)を15質量%以下含有することがより好ましい。これにより、乳脂肪由来の風味、コクが得られつつ、ブツの発生とゴリつき感が抑制できる。
【0024】
また、本実施形態の可塑性油脂組成物中の油脂全体に対して、乳脂肪を好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上、更に好ましくは10%以上含有することが好ましい。乳脂肪の含有量を、上記下限値以上とすることにより、乳脂肪由来の風味、コクが得られつつ、ブツの発生とゴリつき感が抑制できるようになる。
一方、乳脂肪を、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、最も好ましくは40質量%以下含有することが好ましい。乳脂肪の含有量を上記上限値以下とすることにより、ブツの発生とゴリつき感を抑制しやすくなる。
【0025】
また、本実施形態の可塑性油脂組成物中の油脂において、0℃で流動状の油脂を15~40質量%含有することが好ましく、18~35質量%含有することがより好ましい。
0℃で流動状の油脂の含有量を、上記下限値以上とすることにより、ブツの発生とゴリつき感が抑制しやすくなる。
一方、0℃で流動状の油脂の含有量を、上記上限値以下とすることにより、ブツの発生とゴリつき感を抑制しやすくなる。
なお、0℃で流動状の油脂とは、環境温度0℃において流動する油脂を意図する。例えば、なたね油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ひまわり油、ごま油、オリーブ油、サフラワー油、中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(MCT)等が挙げられる。
【0026】
本実施形態の可塑性油脂組成物は、具体的に、上記の乳脂肪にくわえ、(i)パーム系油脂と、(ii)エステル交換油と、を用いることが好ましい。
また、本実施形態の可塑性油脂組成物は、ヨウ素価4以上の部分水素添加油を含有しないことが好ましい。これにより、後述する部分水素添加油の使用を制限できる。
【0027】
(i)パーム系油脂としては、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム中融点部などのパーム油の分別油、およびそれらの水素添加油が挙げられる。ここで、水素添加油は、近年心疾患との関連から使用が敬遠される部分水素添加油(ヨウ素価4を超える)ではなく、極度硬化油(ヨウ素価が4以下)の使用が好ましい。また、本実施形態においては、(i)パーム系油脂は、エステル交換をしていないパーム系油脂である。
なお、パーム核油は、パームの種子から搾油される油脂であり、パーム油とは特性が異なるため、本実施形態のパーム系油脂には含まれない。
【0028】
本実施形態の可塑性油脂組成物は、安価なパーム系油脂を一定量含有させる観点から、(i)パーム系油脂の含有量を、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上とする。
一方、本実施形態の可塑性油脂組成物は、取扱い性を良好にする観点から、(i)パーム系油脂の含有量を、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下とする。
なお、本実施形態においては、(i)パーム系油脂と、後述の(ii)エステル交換油の原料油として用いられるパーム系油脂とを区別する。
【0029】
(ii)エステル交換油は、少なくともパルミチン酸またはステアリン酸、およびオレイン酸を含有する油脂を原料の一部として用いればよく、これらを一定以上含有する油脂としてパーム系油脂、ラード系油脂、牛脂系油脂を原料として用いることが好ましい。また、パルミチン酸またはステアリン酸、およびオレイン酸の何れかの脂肪酸を多く含有する油脂を組み合わせて用いてもよく、例えばなたね油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ひまわり油、サフラワー油等のオレイン酸を多く含有する油脂と、パーム分別硬質部、ラード分別硬質部、牛分別硬質部、および各種動植物油脂の極度硬化油等のパルミチン酸またはステアリン酸を多く含有する油脂を組み合わせて原料として用いることも好ましい。中でも、安定的に供給される油脂としてパーム系油脂を原料として用いることが好ましい。(ii)エステル交換油としては、エステル交換油1種類を単独で用いてもよいし、異なる原料を用いたエステル交換油2種類以上を混合して用いてもよい。
【0030】
パーム系油脂としては、例えば、パーム油およびその分別油、またはこれらの極度硬化油(ヨウ素価4以下であることが好ましい)が挙げられる。
【0031】
(ii)エステル交換油は、原料油脂としてパーム系油脂を好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上含有することができる。
(ii)エステル交換油は、上記の原料油脂以外にも、いかなる油脂を原料としていてもよく、上記のパーム系油脂、ラード系油脂、牛脂系油脂の他、ラウリン系油脂、乳脂、なたね油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ひまわり油、ごま油、オリーブ油、および、それらの分別油、極度硬化油などが挙げられる。中でも、ラウリン系油脂を原料油脂として用いた場合には可塑性油脂組成物のかたさの変化を抑制する効果が期待されることから、ラウリン系油脂を原料として好適に用いることができる。
ラウリン系油脂とは、構成脂肪酸中のラウリン酸含量が30質量%以上である油脂であり、好ましくは40~55質量%、より好ましくは45~50質量%である。
ラウリン系油脂としては、例えば、ヤシ油、パーム核油、およびこれらの分別油、または極度硬化油(ヨウ素価4以下であることが好ましい)が挙げられる。
また、(ii)エステル交換油は、原料油脂として、近年心疾患との関連から使用が敬遠される部分水素添加油(ヨウ素価4を超える)を使用しないことが好ましい。
【0032】
なお、(ii)エステル交換油の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、化学的触媒による方法、酵素による方法いずれを用いることもできる。
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、上記酵素としては、アルカリゲネス属、リゾープス属、アスペルギルス属、ムコール属、およびペニシリウム属等に由来するリパーゼが挙げられる。また、上記酵素は、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の状態で用いることもできる。
【0033】
また、上述した成分(A)~(C)の質量比を特定の範囲内に制御する観点から、上記化学的触媒および酵素による方法のいずれかを用いる場合においても、エステル交換反応において、脂肪酸残基が交換されるグリセロール骨格上の位置選択性を適宜調整することができる。こうした位置選択性を調整するために、例えば、触媒の選択、触媒との接触時間、反応温度、固定化酵素担体の選択などを行うことができる。
【0034】
本実施形態の可塑性油脂組成物は、ブツの発生を効果的に抑制する観点から、(ii)エステル交換油の含有量を、好ましくは8質量%以上、より好ましくは13質量%以上とする。
一方、本実施形態の可塑性油脂組成物は、取扱い性を良好にする観点から、(ii)エステル交換油の含有量を、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下とする。
【0035】
本実施形態の可塑性油脂組成物は、必要により、その他の油脂を混合してもよい。その他の油脂としては、例えば、パーム系油脂、ラード、乳脂肪、ヤシ油、パーム核油、なたね油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ひまわり油、ごま油、オリーブ油、および、それらの分別油、水素添加油、エステル交換油などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
なお、水素添加油は、近年心疾患との関連から使用が敬遠される部分水素添加油(ヨウ素価4以上)ではなく、極度硬化油(ヨウ素価が4未満)の使用が好ましい。
【0036】
さらに、本実施形態の可塑性油脂組成物は、必要により、水、乳化剤、増粘安定剤、乳製品、食塩、塩化カリウムなどの塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸などの酸味料、糖類、甘味料、着色料、酸化防止剤、植物蛋白、卵および各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、および香辛料などを含有することができる。
【0037】
上記の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、およびポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリドなどの合成乳化剤:大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、および乳脂肪球皮膜などの天然乳化剤が挙げられる。
【0038】
上記の増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、デキストリン、澱粉、化工澱粉、およびデキストランなどが挙げられる。
【0039】
上記乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、クリームパウダー、サワークリーム、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、バターミルク、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエイプロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン、および乳清ミネラル等が挙げられる。
【0040】
上記の糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、はちみつ、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、還元乳糖、ソルビトール、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、およびトレハロース等が挙げられる。
【0041】
本発明の可塑性油脂組成物は、0~15℃で保管されるものであることが好ましく、0~10℃であることがより好ましく、3~8℃がさらに好ましい。本発明の可塑性油脂組成物は、低温化で保存されても、ブツの発生が抑制されるものである。
【0042】
本発明の可塑性油脂組成物の用途は、特に限定されず、練り込み用、スプレッド用またはフィリング用が挙げられる。練り込みした際に、ゴリつかずに生地に練りこみやすく、かつ、ブツにより生地に穴が形成されることを抑制する観点から、ベーカリー製品の練り込み用として好適に用いられる。また、ブツの発生による外観および食感の低下を抑止しつつ、ゴリつき感を抑制し、絞りだしたり塗り広げたりする際に良好な観点から、スプレッド用またはフィリング用として好適に用いられる。
【0043】
本発明の可塑性油脂組成物は、マーガリン、ファットスプレッドなどの連続相を油相とする乳化物、または水をほとんど含有しないショートニングタイプのどちらでもよい。また、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングに、糖類やジャム、乳製品などの呈味成分を混合したバタークリーム類でもよい。
【0044】
また、本発明の可塑性油脂組成物は、菌に対する耐性を求められ、低温での保管を要する場合を考慮し、油脂を連続相とする乳化物であることが好ましい。
【0045】
本発明の可塑性油脂組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、好ましい方法について以下に説明する。
本発明の可塑性油脂組成物の製造方法は、油相と水相とを混合して混合物を得る工程と、当該混合物を冷却し、練りおよび/または圧力を加えて急冷可塑化を行なう工程と、を有することが好ましい。以下、各工程について、詳述する。
まず、乳脂肪を含有する上記の油脂を用意し、加温、融解する。つぎに、当該油脂に必要に応じて乳化剤や着香料等の原料を溶解し、油相とする。当該油相に、水に水溶性のその他の成分を必要により添加した水相を、必要に応じて加え、混合し、混合物を得る。つづけて、得られた混合物を殺菌処理するのが望ましい。
また、別の態様として、以下の製造方法が挙げられる。
まず、乳脂肪を含有する、または、乳脂肪を含有しない上記の油脂を用意し、加温、融解する。つぎに、必要に応じて乳化剤や着香料等の原料を溶解し、油相とする。当該油相に、バター、バターを含有する調製品、牛乳、またはクリーム等の乳脂肪を含有する乳製品、及び、必要に応じて水に水溶性のその他の成分を必要により添加した水相を、必要に応じて加え、混合し、混合物を得る。また、当該乳製品は、水に混合、または分散、または溶解されて水相の一部として混合されて構わない。つづけて、得られた混合物を殺菌処理するのが望ましい。
殺菌方式は、特に限定されないが、タンクでのバッチ式、プレート型熱交換機、および掻き取り式熱交換機を用いた連続方式などが挙げられる。また殺菌温度は、好ましくは80~100℃、より好ましくは80~95℃、さらに好ましくは80~90℃である。
次に、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なった後、当該混合物を冷却し、練りおよび/または圧力を加えて急冷可塑化を行なう。
急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、およびケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブチラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等を用いて冷却した後、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)、レスティングチューブ、またはホールディングチューブなどを用いて練りおよび/または圧力を加えることにより行ってもよく、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターの組み合わせにより行ってもよい。この急冷可塑化を行なうことにより、油脂組成物に可塑性が付与され、本発明の可塑性油脂組成物が得られる。
なお、本発明の可塑性油脂組成物のいずれかの製造工程で、窒素、および空気等を含気させてもよい。
【0046】
本発明の可塑性油脂組成物は、練りこみ用途としてさまざまなベーカリー製品、調理品に用いることができる。ベーカリー製品としては、例えば、食パン、菓子パン、および調理パンなどのパン類、ならびに、デニッシュ・ペストリー、パイ、シュー、ドーナツ、ケーキ、クッキー、ビスケット、ワッフル、スコーン、および蒸し菓子などが挙げられる。調理品としては、ハンバーグ、つくね、肉団子、餃子、シューマイ、チキンナゲット、および成形肉などの畜肉加工食品、コロッケ、およびハッシュドポテトなどのポテト加工食品、ホワイトソース、デミグラスソース、各種パスタソース、およびグラタンなどのソース類、オムレツなどの卵加工食品、水産練り製品などが挙げられる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 以下の成分(A)~(C):
(A)POP、POS、およびSOSから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(B)PPO、PSO、SPO、およびSSOから選ばれる少なくとも1種、または2種以上のトリアシルグリセロール
(C)sn-PPC4
を含有し、成分(A)の合計質量、成分(B)の合計質量、および成分(C)の質量の比が、三角図表における点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点d(33:65:2)、及び点e(33:24:43)を順に結ぶ直線で囲まれた範囲内である、可塑性油脂組成物。
ただし、成分(A)~(C)において、
POPは、グリセロール1分子の1位および3位にPが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
POSは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にOが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にOが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SOSは、グリセロール1分子の1位および3位にSが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PPOは、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にPが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PSOは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SPOは、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にPが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SSOは、グリセロール1分子の1位および2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にSが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
sn-PPC4は、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にC4が結合したトリアシルグリセロールを示し、また、C4は酪酸、Pはパルミチン酸、Sはステアリン酸、Oはオレイン酸をそれぞれ示す。
2. 前記可塑性油脂組成物中の油脂において、乳脂肪を5~70質量%含有する、1.に記載の可塑性油脂組成物。
3. 前記可塑性油脂組成物中の油脂において、0℃で流動状の油脂を15~40質量%含有する、1.または2.に記載の可塑性油脂組成物。
4. 成分(A)の合計質量、成分(B)の合計質量、および成分(C)の質量の比が、三角図表における点a(65:24:11)、点b(65:27:8)、点c(50:48:2)、点f(45:53:2)、及び点g(45:24:31)を順に結ぶ直線で囲まれた範囲内である、1.乃至3.いずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
5. 前記可塑性油脂組成物中の油脂において、成分(A)を3質量%以上含有する、1.乃至4.いずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
6. エステル交換をしていないパーム系油脂を5質量%以上含有する、1.乃至5.いずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
7. 前記可塑性油脂組成物は、ヨウ素価4以上の部分水素添加油を含有しない、1.乃至6.いずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
8. 油脂を連続相とする乳化物である、1.乃至7.いずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
9. 0~15℃で保管される、1.乃至8.いずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
10. スプレッド用またはフィリング用である、1.乃至9.いずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
11. 練り込み用である、1.乃至9.いずれか一つに記載の可塑性油脂組成物。
12. 1.乃至11.のいずれか一つに記載された可塑性油脂組成物を用いた食品。
【実施例】
【0048】
次に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0049】
(1)可塑性油脂組成物の調製
(1-1)エステル交換油1の調製
ラウリン系油脂(パーム核油)37質量%と、パーム系油脂(パーム分別軟質油・パーム極度硬化油)63質量%を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行って、エステル交換油脂1を得た。
(1-2)エステル交換油2の調製
材料として、パーム分別軟質部100質量%を用いた以外は、エステル交換油脂1と同様の方法でエステル交換することでエステル交換油2を得た。
【0050】
(2)マーガリンの調製
原料となる油脂組成が表1に示す割合となるように、60℃に加熱、溶解して混合し、油脂80.2重量部に対して、さらに大豆レシチンを0.2重量部溶解した。
これらを撹拌しながら、60℃に加温した水を19.8重量部加え、撹拌、乳化した後、冷却しながら練りを加えることで、マーガリンを調製した。
【0051】
(3)評価
得られたマーガリンを用いて以下の評価を行った。
まず、調製されたマーガリンは、25℃で12時間保管した後に5℃で保管した。調製後、1週間ごとに、5℃の保管庫から取り出した直後に、スパチュラでマーガリン10g程度をビニールシートの上に塗り広げ、ブツの発生の有無とゴリつき感の有無(マーガリンが硬く、塗り広げた際になめらかに広がらない状態)を12週まで確認した。
観察されたブツは、いずれも常温で数時間放置してから塗り広げた時に、ブツとして認識できないものであった。
評価は、熟練した専門家4~6名で行い、マーガリンを塗り広げる者以外は、目視でブツの有無、ゴリつきの有無を確認し、全員で判定した。
ブツ、ゴリつき感それぞれについて、発生していた場合を「+」、発生していなかった場合を「-」として評価し、「+」となった週と併せて、結果を表1に示した。なお、12週においても、ブツ、ゴリつき感が発生していなかった場合は、「12週」の表記とともに「-」を表記した。
【0052】
(4)トリアシルグリセロールの定量方法
実施例および比較例で用いた油脂について、トリアシルグリセロール(TAG)をHPLC-ESI-MS/MSシステムを用い、以下に示す方法で分離・定量した。結果を、表1に示す。
【0053】
(4-1)油脂試料液の調製
油脂試料をアセトン/アセトニトリル混合溶媒に希釈し、終濃度およそ60-120μg/mlの油脂試料溶液とした。また、このときに、内部標準物質としてトリウンデカノインを終濃度0.5μg/mlとなるよう添加した。
(4-2)POP、PPO、POS、PSO+SPO、SOS、SSOの定量方法
・TAG標準用液の調製
POP、rac-PPO、rac-POS、rac-PSO、SOS、rac-SSO、(いずれも月島食品工業製)を標準物質とし、標準溶液(1.0~25μg/ml)を調製した。また、このときに、各希釈倍率の標準溶液に、内部標準物質としてトリウンデカノインを終濃度0.5μg/mlとなるよう添加した。
・HPLCによる分離条件
上記TAG標準溶液、または油脂試料溶液を以下の条件のHPLCシステムに注入し、TAG分子種の異性体分離を行った。
装置:高速液体クロマトグラフAlliance e2695(Waters)
カラム:SunShell C30,2.6μm 2.1mm i.d.×150mm(クロマニックテクノロジーズ)
カラムオーブン温度:20℃
流量:0.4ml/min
移動相:アセトン/アセトニトリルを0分から10分の間に80/20から90/10、10分から10.1分の間に90/10から100/0にリニアに変化させ、その後分析終了まで保持した。
・定量
検出にはESI-MS/MSシステム(Waters社製Quattro micro API)を用い、MRMモードでピークを検出した。
MRMトランジッション
PPO(m/z 850.8→551.5,577.5)
PSO(m/z 878.8→577.5,579.5,605.6,)
SSO(m/z 906.9→607.6,605.6)
測定するサンプルにより、適宜定量イオンを選択し、定量計算に用いた。
TAG溶液の分析により得られたイオンクロマトグラムの各TAGのピーク面積により検量線を作成し、油脂試料の各TAGを定量した。
なお、分離できないPSOとSPOに関しては、rac-PSOを標準物質として検量線を作成し、合計量として定量した。ここで「rac-」はラセミ体を示し、例えばrac-PSOはsn-PSO、sn-OSPの等量混合物であることを示す。また、「sn-」はトリアシルグリセロールが鏡像異性体の一方であることを示し、例えばsn-PSOはグリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロールであり、sn-OSPはグリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールであることを表す。
【0054】
(4-3)sn-PPC4の定量方法
J.Oleo Sci.,64,(9)943-952(2015)に記載のHPLC-APCI-MSによるTAG分析法に準じた方法で乳脂肪のsn-PPC4の定量を行った。
【0055】
【0056】
実施例のマーガリンは、5℃の条件で保存しても、調製後12週後においても、ブツの発生およびゴリつき感がみられなかった。