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  • 特許-抗グリピカン3抗体およびその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】抗グリピカン3抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240626BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240626BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240626BHJP
   C07K 1/13 20060101ALI20240626BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20240626BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240626BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240626BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240626BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240626BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240626BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240626BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240626BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240626BHJP
【FI】
C12N15/13
A61K35/17
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61K48/00
A61P1/16
A61P15/08
A61P25/00
A61P35/00
C07K1/13
C07K16/30 ZNA
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
C12N15/63 Z
C12P21/08
【請求項の数】 32
(21)【出願番号】P 2018506197
(86)(22)【出願日】2016-08-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 CN2016092833
(87)【国際公開番号】W WO2017020812
(87)【国際公開日】2017-02-09
【審査請求日】2019-07-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】201510481235.1
(32)【優先日】2015-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522072507
【氏名又は名称】クレージュ メディカル カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CRAGE MEDICAL CO.,LIMITED
【住所又は居所原語表記】Flat/RM A 12/F,ZJ 300,300 Lock hart Road,Wan Chai,Hong Kong,China
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100213171
【弁理士】
【氏名又は名称】高河原 芳子
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ファマオ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ボー
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】荒木 英則
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/145469(WO,A1)
【文献】特表2010-533498(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0170114(US,A1)
【文献】国際公開第2014/180306(WO,A1)
【文献】Immunology today, 1993, vol. 14, no. 6, pp. 243-246
【文献】Journal of molecular biology, 1992, vol. 224, no.2, pp.487-499
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
CAPLUS/ BIOSIS/ MEDLINE/ EMBASE/ WPIDS (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的にグリピカン3を認識する抗体であって、前記抗体は:
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、および配列番号20で示されるCDR3を有し、ならびに重鎖可変領域が配列番号10で示されるCDR1、配列番号12で示されるCDR2、および配列番号14で示されるCDR3を有する、抗体(a);
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、および配列番号20で示されるCDR3を有し、ならびに重鎖可変領域が配列番号60で示されるCDR1、配列番号61で示されるCDR2、および配列番号14で示されるCDR3を有する、抗体(b);
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、および配列番号20で示されるCDR3を有し、ならびに重鎖可変領域が配列番号62で示されるCDR1、配列番号63で示されるCDR2、および配列番号14で示されるCDR3を有する、抗体(c);
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、および配列番号20で示されるCDR3を有し、ならびに重鎖可変領域が配列番号64で示されるCDR1、配列番号65で示されるCDR2、および配列番号14で示されるCDR3を有する、抗体(d);
軽鎖可変領域が配列番号67で示されるCDR1、配列番号68で示されるCDR2、および配列番号20で示されるCDR3を有し、ならびに重鎖可変領域が配列番号10で示されるCDR1、配列番号66で示されるCDR2、および配列番号14で示されるCDR3を有する、抗体(e);
軽鎖可変領域が配列番号69で示されるCDR1、配列番号70で示されるCDR2、および配列番号20で示されるCDR3を有し、ならびに重鎖可変領域が配列番号10で示されるCDR1、配列番号66で示されるCDR2、および配列番号14で示されるCDR3を有する、抗体(f);または
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、および配列番号20で示されるCDR3を有し、ならびに重鎖可変領域が配列番号10で示されるCDR1、配列番号71で示されるCDR2、および配列番号72で示されるCDR3を有する、抗体(g)
を含む、前記抗体。
【請求項2】
請求項1に記載の抗体であって、
抗体(a)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号4のうちの1~121番目で示され、および前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号4のうちの137~247番目で示されるか;
抗体(b)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号25のうちの1~121番目で示され、および前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号25のうちの137~247番目で示されるか;
抗体(c)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号27のうちの1~121番目で示され、および前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号27のうちの137~247番目で示されるか;
抗体(d)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号29のうちの1~121番目で示され、および前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号29のうちの137~247番目で示されるか;
抗体(e)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号31のうちの1~121番目で示され、および前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号31のうちの137~247番目で示されるか;
抗体(f)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号33のうちの1~121番目で示され、および前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号33のうちの137~247番目で示されるか;または
抗体(g)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号35のうちの1~121番目で示され、および前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号35のうちの137~247番目で示される、
抗体。
【請求項3】
特異的にグリピカン3を認識する抗体であって、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含有し、その重鎖可変領域が配列番号73で示されるCDR1、配列番号74で示されるCDR2、および配列番号75で示されるCDR3を含み、ならびにその軽鎖可変領域が配列番号76で示されるCDR1、配列番号77で示されるCDR2、および配列番号78で示されるCDR3を含む、前記抗体。
【請求項4】
請求項3に記載の抗体であって、配列番号58で示されるアミノ酸配列の重鎖可変領域、および配列番号59で示されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域を有する、前記抗体。
【請求項5】
請求項3に記載の抗体であって、配列番号81で示されるアミノ酸配列の重鎖可変領域、および配列番号82で示されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域を有する、前記抗体。
【請求項6】
ヒト化抗体である、請求項3に記載の抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体をコードする核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の発現ベクターを含むか、またはゲノムに請求項7に記載の核酸が組み込まれた宿主細胞。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体の使用であって、特異的にグリピカン3を発現する腫瘍細胞を標的とする標的性薬物、抗体薬物抱合体または多機能抗体の製造、または
グリピカン3を発現する腫瘍を診断する試薬の製造、または
キメラ抗原受容体で修飾された免疫細胞の製造における、前記使用。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体と、
それと連結した、腫瘍表面マーカーを標的とする分子、腫瘍を抑制する分子、免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子または検出可能な標識物から選ばれる機能性分子と、
を含む多機能免疫複合体。
【請求項12】
請求項11に記載の多機能免疫複合体であって、腫瘍表面マーカーを標的とする分子は腫瘍表面マーカーと結合する抗体または配位子であるか、あるいは
前記の腫瘍を抑制する分子は抗腫瘍サイトカインまたは抗腫瘍毒素である、前記多機能免疫複合体。
【請求項13】
サイトカインはIL-12、IL-15、IFN-β、およびTNF-αを含む、請求項12に記載の多機能免疫複合体。
【請求項14】
請求項11に記載の多機能免疫複合体であって、検出可能な標識物は、蛍光標識物、もしくは呈色標識物を含むか、または
免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子はT細胞の表面マーカーと結合する抗体で、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体とT細胞が関与する二重機能抗体になることができる、
前記多機能免疫複合体。
【請求項15】
請求項12に記載の多機能免疫複合体であって、腫瘍表面マーカーと結合する抗体は、グリピカン3以外のほかの抗原を認識する抗体であって、前記のほかの抗原は、EGFR、EGFRvIII、メソテリン(mesothelin)、HER2、EphA2、Her3、EpCAM、MUC1、MUC16、CEA、クローディン18.2、葉酸受容体、クローディン6、WT1、NY-ESO-1、MAGE 3、ASGPR1またはCDH16を含むか、または
免疫細胞の表面マーカーと結合する抗体は抗CD3抗体である、
前記多機能免疫複合体。
【請求項16】
多機能免疫複合体が、融合ポリペプチドであり、かつ請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体およびそれと連結した機能性分子の間に、さらに連結ペプチドを含む、請求項15に記載の多機能免疫複合体。
【請求項17】
請求項11~16のいずれか一項に記載の多機能免疫複合体をコードする核酸。
【請求項18】
請求項11~16のいずれか一項に記載の多機能免疫複合体の使用であって、抗腫瘍薬の製造、または
グリピカン3を発現する腫瘍を診断する試薬の製造、または
キメラ抗原受容体で修飾された免疫細胞の製造における、前記使用。
【請求項19】
免疫細胞が、T細胞、NK細胞またはNKT細胞を含む、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体を含むキメラ抗原受容体であって、前記のキメラ抗原受容体は順に連結した請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体、膜貫通領域および細胞内シグナル領域を含み、前記の細胞内シグナル領域はCD3ζ、FcεRIγ、CD27、CD28、CD137、CD134、MyD88、CD40の細胞内シグナル領域の配列、またはこれらの組み合わせから選ばれる、前記キメラ抗原受容体。
【請求項21】
請求項20に記載のキメラ抗原受容体であって、
膜貫通領域はCD8またはCD28の膜貫通領域を含むか、または
キメラ抗原受容体は:
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体、CD8およびCD3ζ;
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体、CD8、CD137およびCD3ζ;
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体、CD28分子の膜貫通領域、CD28分子の細胞内シグナル領域およびCD3ζ;または
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体、CD28分子の膜貫通領域、CD28分子の細胞内シグナル領域、CD137およびCD3ζ;
の順で連結した抗体、膜貫通領域および細胞内シグナル領域を含むか、または
抗体は一本鎖抗体またはドメイン抗体であるか、または
キメラ抗原受容体は:
配列番号49またはそのうちの22~346番目で示されるアミノ酸配列;
配列番号50またはそのうちの22~447番目で示されるアミノ酸配列;
配列番号51またはそのうちの22~491番目で示されるアミノ酸配列;
配列番号52またはそのうちの22~494番目で示されるアミノ酸配列;
配列番号53またはそのうちの22~536番目で示されるアミノ酸配列;
配列番号86で示されるアミノ酸配列;
配列番号88で示されるアミノ酸配列;または
配列番号90で示されるアミノ酸配列を有する、
前記キメラ抗原受容体。
【請求項22】
請求項20または21に記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸。
【請求項23】
請求項22に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項24】
請求項23に記載のベクターを含むウイルス。
【請求項25】
請求項20または21に記載のキメラ抗原受容体、または請求項22に記載の核酸、または請求項23に記載の発現ベクター、または請求項24に記載のウイルスの、グリピカン3を発現する腫瘍を標的とする遺伝子修飾された免疫細胞の製造における使用。
【請求項26】
グリピカン3を発現する腫瘍は、肝臓癌、メラノーマ、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫、および神経芽細胞腫を含む、請求項25に記載の使用。
【請求項27】
遺伝子修飾された免疫細胞であって、
請求項22に記載の核酸、または請求項23に記載の発現ベクターまたは請求項24に記載のウイルスを形質導入されているか、あるいは
表面に請求項20または21に記載のキメラ抗原受容体が発現されている、
前記免疫細胞。
【請求項28】
請求項27に記載の遺伝子修飾された免疫細胞であって、
さらに、外来のサイトカインのコード配列を担持し、または
さらにもう1種類のキメラ抗原受容体を発現し、当該受容体はCD3ζを含まないが、CD28の細胞内シグナルドメイン、CD137の細胞内シグナルドメインまたはこの両者の組み合わせを含むか、または
さらにケモカイン受容体を発現し、または
さらにPD-1の発現を低下させるsiRNAまたはPD-L1を遮断するタンパク質を発現するか、または
さらに安全スイッチを発現し、前記安全スイッチは誘導性カスパーゼ9(iCaspase-9)、短縮型EGFR(Truancated EGFR)またはRQR8を含み、または
免疫細胞はT細胞、NK細胞またはNKT細胞を含む、
前記免疫細胞。
【請求項29】
サイトカインは、IL-12、IL-15またはIL-21を含む、請求項28に記載の遺伝子修飾された免疫細胞。
【請求項30】
ケモカイン受容体はCCR2である、請求項28に記載の遺伝子修飾された免疫細胞。
【請求項31】
腫瘍を抑制する薬物の製造における、請求項27~30のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された免疫細胞の使用であって、前記の腫瘍はグリピカン3を発現する腫瘍である、前記使用。
【請求項32】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体または当該抗体をコードする核酸、または
請求項11~16のいずれか一項に記載の免疫複合体または当該複合体をコードする核酸、または
請求項20または21に記載のキメラ抗原受容体または当該キメラ抗原受容体をコードする核酸、または
請求項27~30のいずれか一項に記載の遺伝子修飾された免疫細胞、
を含む薬物組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍免疫治療または診断の分野に関し、より具体的に、特異的にグリピカン3(GPC3)を認識する抗体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、免疫エフェクター細胞に基づいた養子免疫療法は一部の腫瘍においてある程度の効果が得られ、しかもこのような免疫治療法は抗体治療の上記欠点を克服することができるが、大半の腫瘍における治療効果は満足できるものと言えない[Grupp SAら Adoptive cellular therapy. Curr Top Microbiol Immunol. 2011, 344:149-72.]。近年、細胞毒性Tリンパ球(cytotoxic lymphocyte、CTL)の標的細胞に対する認識特異性はT細胞受容体(T Cell Receptor、TCR)に依存するという発見に基づき、腫瘍細胞関連抗原に対する抗体のscFvをT細胞受容体のCD3ζまたはFcεRIγなどの細胞内シグナルの活性化モチーフと融合させてキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor、CAR)とし、そしてそれをたとえばレンチウイルス感染などの方法によってT細胞の表面に遺伝子的に修飾する。このようなCAR T細胞は主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex、MHC)に制限されない様態で選択的にTリンパ球の標的を腫瘍細胞に変えて特異的に腫瘍を殺傷することができる。CAR T細胞は腫瘍免疫治療の分野における一つの新たな免疫治療策略である。CAR修飾免疫エフェクター細胞、特にT細胞を設計する場合、標的となる抗原遺伝子は実に重要な選択で、体内の遺伝子発現の複雑性および様々な制御不能な要素を考えると、CARに適する遺伝子の選択は非常に困難である。そして、多くの腫瘍特異的抗原はそれに対するCAR修飾免疫エフェクター細胞の構築に適する特異性分子がなかなか見つからない。
【0003】
グリピカン3 (Glypican-3、GPC3、またDGSX、GTR2-2、MXR7、OCI-5、SDYS、SGB、SGBSまたはSGBS1ともいう)は細胞表面タンパク質で、ヘパラン硫酸プロテオグリカンファミリーに属する。GPC3遺伝子がコードして70-kDa程度の前駆体のコアタンパク質を生成させ、当該前駆体タンパク質はフーリン(furin)によって切断されて40-kDa程度の可溶性の血液に入ることが可能なアミノ末端(N末端)のペプチドと30-kDa程度の2つのヘパラン硫酸(HS)糖鎖を含有する膜に結合するカルボキシ末端(C末端)のペプチドが生成する。GPC3タンパク質はグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)によって細胞膜にアンカーする。
【0004】
GPC3は胎児の肝臓で高度発現されるが、正常成人の肝臓組織で発現されないが、肝細胞癌で再び発現され、肝臓癌の発生・進展と非常に密接な関係があり、肝臓癌の発生の早期検出率が高いが、肝臓癌の進展につれ、その検出率も高くなる。一方、GPC3の発現は、肝臓腺癌、胆管細胞癌、肝臓転移癌および12種類のよく見られる固形腫瘍と21種類の非肝臓癌細胞系のいずれにおいても検出されていない。また、GPC3は、たとえばメラノーマ、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫、神経芽細胞腫などの腫瘍においても発現される。GPC3の肝細胞癌、メラノーマなどの腫瘍における特異的高発現を考えると、腫瘍免疫治療の標的の候補の一つとされている。
【0005】
抗GPC3抗体による肝臓癌の検出および抗GPC3抗体を使用する抗体依存性細胞傷害(ADCC)または補体依存性細胞傷害(CDC)の研究方案はすでに報告されたが、現在、薬用の抗GPC3抗体はまだなく、中外製薬社によってCN200580000807.4で公開されたGC33抗体だけが第I相臨床研究を行われ、臨床応用の状況はまだ検討されている。
さらに、抗GPC3抗体は直接治療性抗体としてだけでなく、診断、キメラ抗原受容体(CAR)で修飾されたT細胞などの免疫治療などへの使用も期待されている。従来の研究では、異なる抗体は免疫原性を示し、この免疫原性は抗体または誘導される治療製剤の治療効果および副作用につながることがある。たとえば、マウス抗メソテリン(mesothelin)抗体に基づいたCAR T細胞はアレルギー反応を引き起こし、人体内における長期間生存に影響を与える。このような考慮の上、本分野では、固形腫瘍への応用において良好な腫瘍殺傷活性および優れた臨床応用の将来性があるように、新たな抗GPC3抗体を製造してさらに最適化することによって、抗GPC3抗体が確実に腫瘍の診断と治療に使用され、多くの患者がその恩恵を受けるようにする必要がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、抗グリピカン3抗体およびその使用を提供することにある。
本発明の第一の側面では、特異的にグリピカン3(GPC3)を認識する抗体であって、軽鎖可変領域および重鎖可変領域を有し、かつ、
その軽鎖可変領域のCDR1は、配列番号16、配列番号67、配列番号69からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有し、
その軽鎖可変領域のCDR2は、配列番号18、配列番号68、配列番号70からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有し、
その軽鎖可変領域のCDR3は、配列番号20のアミノ酸配列を有し、
その重鎖可変領域のCDR1は、配列番号10、配列番号60、配列番号62、配列番号64からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有し、
その重鎖可変領域のCDR2は、配列番号12、配列番号61、配列番号63、配列番号65、配列番号66、配列番号71からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有し、
その重鎖可変領域のCDR3は、配列番号14、配列番号72からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有する、
抗体を提供する。
【0007】
一つの好適な例において、前記の抗体は、
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、配列番号20で示されるCDR3を有するか、重鎖可変領域が配列番号10で示されるCDR1、配列番号12で示されるCDR2、配列番号14で示されるCDR3を有する抗体(a)(P7D4)、
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、配列番号20で示されるCDR3を有するか、重鎖可変領域が配列番号60で示されるCDR1、配列番号61で示されるCDR2、配列番号14で示されるCDR3を有する抗体(b)(am4)、
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、配列番号20で示されるCDR3を有するか、重鎖可変領域が配列番号62で示されるCDR1、配列番号63で示されるCDR2、配列番号14で示されるCDR3を有する抗体(c)(am14)、
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、配列番号20で示されるCDR3を有するか、重鎖可変領域が配列番号64で示されるCDR1、配列番号65で示されるCDR2、配列番号14で示されるCDR3を有する抗体(d)(am20)、
軽鎖可変領域が配列番号67で示されるCDR1、配列番号68で示されるCDR2、配列番号20で示されるCDR3を有するか、重鎖可変領域が配列番号10で示されるCDR1、配列番号66で示されるCDR2、配列番号14で示されるCDR3を有する抗体(e)(am35)、
軽鎖可変領域が配列番号69で示されるCDR1、配列番号70で示されるCDR2、配列番号20で示されるCDR3を有するか、重鎖可変領域が配列番号10で示されるCDR1、配列番号66で示されるCDR2、配列番号14で示されるCDR3を有する抗体(f)(am42)、
軽鎖可変領域が配列番号16で示されるCDR1、配列番号18で示されるCDR2、配列番号20で示されるCDR3を有するか、重鎖可変領域が配列番号10で示されるCDR1、配列番号71で示されるCDR2、配列番号72で示されるCDR3を有する抗体(g)(T2-23)、
(a)~(g)のうちのいずれかに記載の抗体によって識別される抗原決定基と同様の抗原決定基を識別する抗体(h)、
を含む。
【0008】
もう一つの好適な例において、前記の特異的にグリピカン3(GPC3)を認識する抗体は、一本鎖抗体(scFV)、モノクローナル抗体、ドメイン抗体、Fab断片、Fd断片、Fv断片、F(ab’)2断片およびその誘導体、あるいはほかの形態の抗体でもよく、好ましくは一本鎖抗体である。
もう一つの好適な例において、前記の特異的にグリピカン3(GPC3)を認識する抗体はヒト化のものまたは完全ヒト由来のもので、好ましくは完全ヒト由来のものである。
もう一つの好適な例において、抗体(a)(P7D4)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号4のうちの1~121番目で示され、または前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号4のうちの137~247番目で示されるか、
抗体(b)(am4)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号25のうちの1~121番目で示され、または前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号25のうちの137~247番目で示されるか、
抗体(c)(am14)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号27のうちの1~121番目で示され、または前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号27のうちの137~247番目で示されるか、
抗体(d)(am20)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号29のうちの1~121番目で示され、または前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号29のうちの137~247番目で示されるか、
抗体(e)(am35)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号31のうちの1~121番目で示され、または前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号31のうちの137~247番目で示されるか、
抗体(f)(am42)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号33のうちの1~121番目で示され、または前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号33のうちの137~247番目で示されるか、あるいは
抗体(g)(T2-23)の重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号35のうちの1~121番目で示され、または前記の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号35のうちの137~247番目で示される。
【0009】
本発明のもう一つの側面では、特異的にグリピカン3(GPC3)を認識する抗体であって、ヒト化モノクローナル抗体で、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含有し、その重鎖可変領域が配列番号73で示されるCDR1、配列番号74で示されるCDR2、配列番号75で示されるCDR3を含むか、その軽鎖可変領域が配列番号76で示されるCDR1、配列番号77で示されるCDR2、配列番号78で示されるCDR3を含む抗体を提供する。
一つの好適な例において、当該抗体は配列番号58で示されるアミノ酸配列の重鎖可変領域、または配列番号59で示されるアミノ酸配列の軽鎖可変領域を有する。
本発明のもう一つの側面では、前記のいずれかに記載の抗体をコードする核酸を提供する。
本発明のもう一つの側面では、前記の核酸を含む発現ベクターを提供する。
本発明のもう一つの側面では、前記の発現ベクターを含むか、あるいはゲノムに前記の核酸が組み込まれた宿主細胞を提供する。
【0010】
本発明のもう一つの側面では、前記のいずれかに記載の抗体の使用であって、特異的にグリピカン3を発現する腫瘍細胞を標的とする標的性薬物、抗体薬物抱合体または多機能抗体の製造、あるいはグリピカン3を発現する腫瘍を診断する試薬の製造、あるいはキメラ抗原受容体で修飾された免疫細胞の製造における使用を提供する。
本発明のもう一つの側面では、前記のいずれかに記載の抗体と、それと結合(共役結合、カップリング、付着、吸着を含む)した、腫瘍表面マーカーを標的とする分子、腫瘍を抑制する分子、免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子または検出可能な標識物から選ばれる機能性分子とを含む、多機能免疫複合体を提供する。
【0011】
一つの好適な例において、前記の多機能免疫複合体では、前記の腫瘍表面マーカーを標的とする分子は腫瘍表面マーカーと結合する抗体または配位子であるか、前記の腫瘍を抑制する分子は抗腫瘍サイトカインまたは抗腫瘍毒素で、好ましくは、前記のサイトカインはIL-12、IL-15、IFN-β、TNF-αを含むが、これらに限定されない。
もう一つの好適な例において、前記の多機能免疫複合体では、前記の検出可能な標識物は、蛍光標識物、呈色標識物を含む。
【0012】
もう一つの好適な例において、前記の多機能免疫複合体では、前記の腫瘍表面マーカーと結合する抗体は、グリピカン3以外のほかの抗原を認識する抗体で、前記のほかの抗原は、EGFR、EGFRvIII、メソテリン(mesothelin)、HER2、EphA2、Her3、EpCAM、MUC1、MUC16、CEA、クローディン18.2、葉酸受容体、クローディン6、WT1、NY-ESO-1、MAGE 3、ASGPR1またはCDH16を含む。
もう一つの好適な例において、前記の多機能免疫複合体では、前記の免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子はT細胞の表面マーカーと結合する抗体で、前記のいずれかに記載の抗体とT細胞が関与する二重機能抗体(Bispecific T cell engager、BiTE)になる。
もう一つの好適な例において、前記の多機能免疫複合体では、前記の免疫細胞の表面マーカーと結合する抗体は抗CD3抗体である。
もう一つの好適な例において、前記の抗CD3抗体は、一本鎖抗体(scFV)、モノクローナル抗体、Fab断片、Fd断片、Fv断片、F(ab’)2断片およびその誘導体、あるいはほかの形態の抗体で、好ましくは一本鎖抗体である。
もう一つの好適な例において、前記の抗CD3抗体はヒト化のもの、キメラのもの、完全ヒト由来のものまたはネズミ由来のものである。
もう一つの好適な例において、前記の多機能免疫複合体は融合ポリペプチドで、前記のいずれかに記載の抗体およびそれと連結した機能性分子の間に、さらに連結ペプチド(リンカー)が含まれている。
もう一つの好適な例において、前記の連結ペプチドの配列は(GlyGlyGlyGlySer)nで、ここで、nは1~5の整数で、好ましくは、n=3である。
もう一つの好適な例において、前記の多機能免疫複合体はポリペプチド投与または遺伝子投与の形態を使用する。
本発明のもう一つの側面では、前記のいずれかに記載の多機能免疫複合体をコードする核酸を提供する。
本発明のもう一つの側面では、前記の多機能免疫複合体の使用であって、抗腫瘍薬の製造、あるいはグリピカン3を発現する腫瘍を診断する試薬の製造、あるいはキメラ抗原受容体で修飾された免疫細胞の製造における使用を提供する。好ましくは、前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞またはNKT細胞を含む。
【0013】
本発明のもう一つの側面では、前記のいずれかに記載の抗体を含むキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor、CAR)であって、前記のキメラ抗原受容体は順に連結した前記のいずれかに記載の抗体、膜貫通領域および細胞内シグナル領域を含み、前記の細胞内シグナル領域はCD3ζ、FcεRIγ、CD27、CD28、CD137、CD134、MyD88、CD40の細胞内シグナル領域の配列、またはこれらの組み合わせから選ばれるキメラ抗原受容体を提供する。
もう一つの好適な例において、前記のキメラ抗原受容体では、前記の膜貫通領域はCD8またはCD28の膜貫通領域を含む。
【0014】
もう一つの好適な例において、前記のキメラ抗原受容体では、前記のキメラ抗原受容体は、前記のいずれかに記載の抗体、CD8およびCD3ζ、前記のいずれかに記載の抗体、CD8、CD137およびCD3ζ、前記のいずれかに記載の抗体、CD28分子の膜貫通領域、CD28分子の細胞内シグナル領域およびCD3ζ、あるいは前記のいずれかに記載の抗体、CD28分子の膜貫通領域、CD28分子の細胞内シグナル領域、CD137およびCD3ζのような順で連結した抗体、膜貫通領域および細胞内シグナル領域を含む。
【0015】
もう一つの好適な例において、、前記のキメラ抗原受容体では、前記の抗体は一本鎖抗体またはドメイン抗体である。もう一つの好適な例において、前記のキメラ抗原受容体は、
配列番号49またはそのうちの22~346番目で示されるアミノ酸配列、
配列番号50またはそのうちの22~447番目で示されるアミノ酸配列、
配列番号51またはそのうちの22~491番目で示されるアミノ酸配列、
配列番号52またはそのうちの22~494番目で示されるアミノ酸配列、
配列番号53またはそのうちの22~536番目で示されるアミノ酸配列、
配列番号85で示されるアミノ酸配列、
配列番号86で示されるアミノ酸配列、あるいは
配列番号87で示されるアミノ酸配列、
を有する。
【0016】
本発明のもう一つの側面では、前記のキメラ抗原受容体をコードする核酸を提供する。もう一つの好適な例において、前記のキメラ抗原受容体をコードする核酸は、
配列番号44またはそのうちの380~1420番目またはそのうちの443~1420番目で示されるヌクレオチド配列、
配列番号45またはそのうちの380~1723番目またはそのうちの443~1723番目で示されるヌクレオチド配列、
配列番号46またはそのうちの380~1855番目またはそのうちの443~1855番目で示されるヌクレオチド配列、
配列番号47またはそのうちの380~1864番目またはそのうちの443~1864番目で示されるヌクレオチド配列、
配列番号48またはそのうちの380~1990番目またはそのうちの443~1990番目で示されるヌクレオチド配列、
配列番号85で示されるヌクレオチド配列、
配列番号87で示されるヌクレオチド配列、あるいは
配列番号89で示されるヌクレオチド配列、
を有する。
【0017】
本発明のもう一つの側面では、前記のキメラ抗原受容体をコードする核酸を含む発現ベクターを提供する。もう一つの好適な例において、前記の発現ベクターはレンチウイルスプラスミドpWPT(またはpWPT-eGFP)由来のものである。
本発明のもう一つの側面では、前記ベクターを含むウイルスを提供する。
前記のキメラ抗原受容体またはそれをコードする核酸、あるいは当該核酸を含む発現ベクターまたはウイルスの使用であって、グリピカン3を発現する腫瘍細胞を標的とする遺伝子修飾された免疫細胞の製造のための使用である。
もう一つの好適な例において、前記グリピカン3を発現する腫瘍は、肝臓癌、メラノーマ、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫、神経芽細胞腫を含むが、これらに限定されない。
本発明のもう一つの側面では、遺伝子修飾された免疫細胞であって、前記のキメラ抗原受容体をコードする核酸、あるいは当該核酸を含むベクターまたはウイルスを形質導入されたか、その表面に前記のキメラ抗原受容体が発現された細胞を提供する。
【0018】
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞は、さらに、外来のサイトカインのコード配列を担持する。好ましくは、前記のサイトカインは、IL-12、IL-15またはIL-21を含む。
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞はさらにもう1種類のキメラ抗原受容体を発現し、当該受容体はCD3ζを含まないが、CD28の細胞内シグナルドメイン、CD137の細胞内シグナルドメインまたはこの両者の組み合わせを含む。
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞はさらにケモカイン受容体を発現する。好ましくは、前記のケモカイン受容体はCCR2を含む。
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞はさらにPD-1の発現を低下させるsiRNAまたはPD-L1を遮断するタンパク質を発現する。
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞はさらに安全スイッチを発現する。好ましくは、前記の安全スイッチは誘導性カスパーゼ9(iCaspase-9)、短縮型EGFR(Truancated EGFR)またはRQR8を含む。
もう一つの好適な例において、前記の免疫細胞は、T細胞、NK細胞またはNKT細胞を含む。
【0019】
本発明のもう一つの側面では、前記の遺伝子修飾された免疫細胞の使用であって、腫瘍を抑制する薬物の製造に使用され、前記の腫瘍はグリピカン3を発現する腫瘍である使用を提供する。
本発明のもう一つの側面では、
前記のいずれかに記載の抗体または当該抗体をコードする核酸、あるいは
前記のいずれかに記載の免疫複合体または当該複合体をコードする核酸、あるいは
前記のいずれかに記載のキメラ抗原受容体または当該キメラ抗原受容体をコードする核酸、あるいは
前記のいずれかに記載の遺伝子修飾された免疫細胞、
を含む薬物組成物(薬物または診断試薬を含む)を提供する。
本発明の他の主旨は、本文の公開される内容によって、この分野の技術者にとっては明らかになっている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図面の説明
図1図1は、単一ファージELISA実験における抗体P1B12EおよびP7D4のヒトGPC3および対照BSAに対する結合状態である。抗体P1B12EおよびP7D4のヒトGPC3および陰性対照BSAに対する値から、選別された二つの抗体が特異的にヒトGPC3と結合することが証明された。
図2図2は、ヒトGPC3抗体の精製電気泳動像である。
図3図3は、抗体scFv-P1B12E-FcおよびscFv-P7D4-FcのGPC3発現陽性のHepG2細胞に対する結合活性分析である。
図4図4は、P7D4系列の抗体のGPC3対する結合能力のSPR分析である。
図5図5は、P7D4系列の抗体の組換えヒトGPC3に対する特異的結合である。
図6図6は、発現・精製されたGPC3タンパク質のSDS PAGE電気泳動による同定である。
図7図7は、抗体Y035のヒトGPC3に対する結合の動態学的分析である。
図8図8は、抗体5A5のヒトGPC3に対する結合の動態学的分析である。
図9図9は、抗体Y035のGPC3発現陽性のHepG細胞に対する特異的結合である。
【0021】
具体的な実施形態
本発明者は深く研究して選別したところ、特異的にGPC3を認識する抗体を得たが、一本鎖抗体およびヒト化抗体を含む。本発明の抗体は様々な標的性抗腫瘍薬および腫瘍の診断薬の製造に使用することができる。
抗GPC3抗体
本発明者は、完全ヒト由来抗体ライブラリーから選別してGPC3結合性能が良好な特異的抗体を得、さらにアミノ酸の突然変異をさせて親和性が顕著に向上した抗GPC3抗体を得、そしてその結合性能を発揮する重要なCDR領域を発見した。
また、本発明者は、ハイブリドーマ技術によってネズミ由来の抗GPC3抗体を得、比較を繰り返し、GPC3に対する結合性能が優れたヒト化抗GPC3抗体を得、そしてその結合性能を発揮する重要なCDR領域を発見した。
【0022】
本発明の抗体は完全な免疫グロブリン分子でもよく、抗原結合断片でもよく、Fab断片、Fd断片、Fv断片、F(ab')2断片、相補性決定領域(CDR)断片、一本鎖抗体(scFv)、ドメイン抗体、2価一本鎖抗体、一本鎖ファージ抗体、二重特異性二本鎖抗体、三本鎖抗体、四本鎖抗体を含むが、これらに限定されない。
【0023】
抗体の抗原結合特性は、重鎖および軽鎖可変領域に位置する3つの特定の領域によって特徴付けられ、相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)と呼ばれ、前記のCDR領域によって可変領域が4つのフレームワーク領域(FR)に分かれ、4つのFRのアミノ酸配列が比較的に保存され、直接結合反応に関与しない。これらのCDRは環状構造を形成し、その中のFRで形成されるβシートによって空間構造上で近づき、重鎖におけるCDRおよび相応の軽鎖におけるCDRが抗体の抗原結合部位を構成する。同類の抗体のアミノ酸配列の比較によってどのアミノ酸がFR或いはCDR領域を構成するか確認することが出来る。CDR領域は免疫学で注目されるタンパク質の配列で、本発明の抗体のCDR領域は斬新なものである。前記抗体は本明細書で開示されたCDR領域の2つ、3つ、4つ、5つまたはすべての6つを含んでもよい。
【0024】
本発明のもう一つの側面では、本明細書に記載の抗体の機能的バリアントが含まれている。前記バリアントは親抗体と競合してGPC3と特異的に結合することができ、かつ腫瘍細胞の発現するGPC3を認識する能力は本発明の実施例で提供された具体的な抗体に近い。前記機能的バリアントは保存配列修飾を有してもよく、ヌクレオチドおよびアミノ酸の置換、挿入および欠失を含む。これらの修飾は本分野で既知の標準技術によって導入されてもよいが、たとえば部位特異的変異導入およびランダムPCRによる異変導入が挙げられ、かつ天然および非天然のヌクレオチドおよびアミノ酸を含む。好ましくは、配列の修飾は前記抗体のCDR領域以外の領域に生じた。
【0025】
免疫複合体
また、本発明は、本明細書に記載の抗体および少なくとも1つのほかの種類の機能性分子を含む多機能免疫複合体を提供する。前記の機能性分子は、腫瘍表面マーカーを標的とする分子、腫瘍を抑制する分子、免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子または検出可能な標識物から選ばれる機能性分子とを含むが、これらに限定されない。前記抗体と前記機能性分子は共役結合、カップリング、付着、架橋などの形態で複合体を構成してもよい。
【0026】
一つの好適な形態として、前記免疫複合体は、本発明の抗体および少なくとも1つの腫瘍表面マーカーを標的とする分子または腫瘍を抑制する分子を含んでもよい。前記の腫瘍を抑制する分子は抗腫瘍サイトカインまたは抗腫瘍毒素でもよく、好ましくは、前記のサイトカインはIL-12、IL-15、IFN-β、TNF-αを含むが、これらに限定されない。前記の腫瘍表面マーカーを標的とする分子は、たとえば本発明の抗体と協同作用し、より精確に腫瘍細胞を標的としてもよい。
【0027】
一つの好適な形態として、前記免疫複合体は、本発明の抗体および検出可能な標識物を含んでもよい。前記の検出可能な標識物は、蛍光標識物、呈色標識物を含むが、これらに限定されず、たとえば酵素、補欠分子族、蛍光材料、発光材料、生物発光材料、放射性材料、陽電子放出金属や非放射性常磁性金属イオンが挙げられる。1つ以上の標識物を含んでもよい。検出および/または分析および/または診断のために標識抗体に使用される標識は、使用される検出/分析/診断の技術および/または方法、たとえば免疫組織化学染色(組織)サンプル、フローサイトメトリーなどによるものである。本分野で既知の検出/分析/診断の技術および/または方法に適する標識は当業者に熟知のものである。
【0028】
一つの好適な形態として、前記免疫複合体は、本発明の抗体および免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子を含んでもよい。前記免疫細胞の表面マーカーを標的とする分子は免疫細胞を識別することができ、本発明の抗体を免疫細胞に持っていき、同時に本発明の抗体は免疫細胞が腫瘍細胞を標的とするようにさせることによって、免疫細胞が特異的に腫瘍を殺傷するようにすることができる。
【0029】
直接または間接に(たとえばリンカーで)複合させて化学的に免疫複合体を形成する形態の一つとして、前記免疫複合体は本発明の抗体および適切なほかのタンパク質を含む融合タンパク質として生成してもよい。融合タンパク質は本分野で既知の方法によって生成することができ、たとえば核酸分子を構築して前記核酸分子を発現させることによって組み換えて生成し、前記核酸分子は読み枠に合う抗体をコードするヌクレオチド配列および適切な標識をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0030】
本発明のもう一つの側面では、本発明の少なくとも一つの抗体、その機能的バリアントまたは免疫複合体をコードする核酸分子を提供する。関連の配列を獲得すれば、組換え法で大量に関連配列を獲得することができる。この場合、通常、その配列をベクターにクローンした後、細胞に導入し、さらに通常の方法で増殖させた宿主細胞から関連配列を単離して得る。
【0031】
さらに、本発明は、上述の適当なDNA配列及び適当なプロモーター或いは制御配列を含むベクターに関する。これらのベクターは、タンパク質を発現するように、適当な宿主細胞の形質転換に用いることができる。宿主細胞は、原核細胞、例えば細菌細胞、或いは、低等真核細胞、例えば酵母細胞、或いは、高等真核細胞、例えば哺乳動物細胞でもよい。
【0032】
キメラ抗原受容体および遺伝子修飾された免疫細胞
本発明は、免疫エフェクター細胞(免疫細胞)の表面に発現されるキメラ抗原受容体であって、順に連結した細胞外結合領域、膜貫通領域および細胞内シグナル領域を含み、中では、前記細胞外結合領域は本発明の抗体を含む受容体を提供する。当該キメラ抗原受容体を免疫エフェクター細胞の表面に発現させることによって、免疫エフェクター細胞がGPC3を発現する腫瘍細胞に対して高度特異性の細胞毒性作用を有するようにすることができる。
本明細書で用いられるように、前記の「免疫細胞」と「免疫エフェクター細胞」は入れ替えて使用することができ、T細胞、NK細胞またはNKT細胞などを含み、好ましくはNK細胞およびT細胞である。
本発明の好適な形態として、前記のキメラ抗原受容体では、含まれる抗体は一本鎖抗体で、CD8のヒンジ領域でCD8またはCD28の膜貫通領域と連結し、膜貫通領域の次に細胞内シグナル領域が隣接する。
本発明には、前記キメラ抗原受容体をコードする核酸も含まれる。本発明は、さらに、本発明と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドまたはポリペプチドの断片、類似物および誘導体をコードする上記ポリヌクレオチドの変異体に関する。
【0033】
キメラ抗原受容体の膜貫通領域は、CD8またはCD28などのタンパク質の膜貫通領域から選ばれる。ヒトCD8タンパク質はヘテロ二量体で、αβまたはγδの二本鎖からなる。本発明の一つの実施形態において、膜貫通領域はCD8αまたはCD28の膜貫通領域から選ばれる。また、CD8αヒンジ領域(hinge)は、可撓性の領域であるため、CD8またはCD28と膜貫通領域とヒンジ領域はキメラ抗原受容体CARの標的識別ドメインscFvと細胞内シグナル領域の連結に使用される。
【0034】
細胞内シグナル領域は、CD3ζ、FcεRIγ、C27、CD28、CD137、CD134、MyD88、CD4タンパク質の細胞内シグナル領域、およびこれらの組み合わせから選ばれる。CD3分子は5つのサブユニットからなり、中では、CD3ζサブユニット(CD3 zetaとも呼ばれ、Zと略す)は3つのITAMモチーフを含み、当該モチーフはTCR-CD3複合体における重要なシグナル伝達領域である。CD3δZは短縮されたITAMモチーフを有さないCD3ζ配列で、実践において通常陰性対照として構築される。FcεRIγは主に肥満細胞および好塩基球の表面に分布し、一つのITAMモチーフを含み、構造、分布および機能ではCD3ζと類似である。また、前記のように、CD28、CD137、CD134は共刺激シグナル分子で、それぞれリガンドと結合した後その細胞内シグナル領域による共刺激作用で免疫エフェクター細胞(主にT細胞)の持続的な増殖が生じ、かつ免疫エフェクター細胞のIL-2およびIFN-γなどのサイトカインの分泌レベルを上げると同時に、CAR免疫エフェクター細胞の体内における生存期間および抗腫瘍効果を向上させる。
本発明のキメラ抗原受容体は、
本発明の抗体、CD8およびCD3ζ、
本発明の抗体、CD8、CD137およびCD3ζ、
本発明の抗体、CD28分子の膜貫通領域、CD28分子の細胞内シグナル領域およびCD3ζ、あるいは
本発明の抗体、CD28分子の膜貫通領域、CD28分子の細胞内シグナル領域、CD137およびCD3ζ、
およびこれらの組み合わせ、
のような順で連結することができる。
ここで、関連キメラ抗原受容体タンパク質におけるCD28aはCD28分子の膜貫通領域を、CD28bはCD28分子の細胞内シグナル領域を表す。上記各キメラ抗原受容体はscFv(GPC3)-CARと総称される。
【0035】
本発明は、さらに、上記免疫エフェクター細胞の表面に発現されるキメラ抗原受容体タンパク質をコードする核酸を含むベクターを提供する。一つの具体的な実施形態において、本発明で使用されるベクターは、レンチウイルスプラスミドベクターpWPT-eGFPである。当該プラスミドは、第三世代の自己不活性化レンチウイルスベクターシステムに属し、当該システムは計3つのプラスミド、すなわちタンパク質Gag/Pol、Revタンパク質をコードするパッケージングプラスミドpsPAX2、VSV-Gタンパク質をコードするエンベローププラスミドPMD2.G、および空ベクターpWPT-eGFPを有し、核酸配列への組み込み、すなわちCARの核酸配列のコーディングに使用することができる。空ベクターpWPT-eGFPにおいて、伸長因子-1 α(elongation factor-1α、EF-1α)プロモーターで強化型緑色蛍光タンパク質(enhanced green fluorescent protein、eGFP)の発現を調節する。一方、CARをコードする目的核酸配列を含む組み換え発現ベクターpWPT-eGFP-F2A-CARは、口蹄疫ウイルス(food-and-mouth disease virus、FMDV)由来のリボソームスキッピング配列(ribosomal skipping sequence 2A)(F2Aと略す)によってeGFPとCARの共発現が実現される。
【0036】
本発明は、さらに、上記ベクターを含むウイルスを含む。本発明のウイルスは、パッケージング後の感染力を有するウイルスを含み、感染力を有するウイルスへのパッケージングに必要な成分を含むパッケージングされるウイルスも含む。本分野で既知のほかの外来遺伝子の免疫エフェクター細胞への形質導入に使用できるウイルスおよびそれに相応するプラスミドベクターも本発明に使用することができる。
【0037】
本発明は、さらに、本発明の核酸または本発明の当該核酸を含有する上記組み換えプラスミド、あるいは当該プラスミドを含むウイルスを形質導入した遺伝子修飾された免疫エフェクター細胞を提供する。本分野の通常の核酸形質導入方法は、非ウイルスの形質導入方法もウイルスによる形質導入方法も本発明に使用することができる。非ウイルスの形質導入方法は、エレクトロポレーション法およびトランスポゾン法を含む。最近、Amaxa社によって研究開発されたNucleofectorヌクレオフェクション装置は、直接外来遺伝子を細胞核に導入して目的遺伝子の効率的なトランスフェクションを実現することができる。さらに、眠り姫トランスポゾン(Sleeping Beauty system)またはPiggyBacトランスポゾンなどのトランスポゾンシステムのトランスフェクション効率は通常のエレクトロポレーション法よりも大幅に向上し、nucleofectorトランスフェクション装置とSB眠り姫トランスポゾンシステムの併用が既に報告され[Davies JK.ら Combining CD19 redirection and alloanergization to generate tumor-specific human T cells for allogeneic cell therapy of B-cell malignancies. Cancer Res, 2010, 70(10): OF1-10.]、当該方法は高いトランスフェクション効率も有し、目的遺伝子の部位特異的組み込みも実現できる。本発明の一つの実施形態において、キメラ抗原受容体の遺伝子修飾を実現する免疫エフェクター細胞のトランスフェクション方法はウイルス、たとえばレトロウイルスまたはレンチウイルスに基づいたトランスフェクション方法である。当該方法はトランスフェクション効率が高い、外来遺伝子を安定して発現する、および体外で免疫エフェクター細胞を臨床級の数に培養する時間を短縮させるなどの利点がある。当該遺伝子組み換え免疫エフェクター細胞の表面では、形質導入された核酸は転写、翻訳によってその表面に発現される。様々な培養の腫瘍細胞に対して体外細胞毒性実験を行うことによって、本発明の免疫エフェクター細胞は高度特異性の腫瘍細胞殺傷効果(細胞毒性とも呼ばれる)を有することが証明された。そのため、本発明のキメラ抗原受容体タンパク質をコードする核酸、当該核酸を含むプラスミド、当該プラスミドを含むウイルスおよび上記核酸、プラスミドまたはウイルスを形質導入した遺伝子組み換え免疫エフェクター細胞は有効に腫瘍の免疫治療に使用することができる。
【0038】
本発明に係る免疫細胞は、さらに、外来のサイトカインのコード配列を持ってもよい。前記のサイトカインは、IL-12、IL-15やIL-21などを含む。これらのサイトカインは免疫調節または抗腫瘍の活性を有し、エフェクターT細胞および活性化NK細胞の機能を強化させるか、直接抗腫瘍作用を発揮することができる。そのため、当業者には、これらのサイトカインの応用は前記の免疫細胞のさらなる作用の発揮に有利であることがわかる。
本発明に係る免疫細胞は上記キメラ抗原受容体以外のもう1種類のキメラ抗原受容体を発現してもよいが、当該受容体はCD3ζを含まないが、CD28の細胞内シグナルドメイン、CD137の細胞内シグナルドメインまたはこの両者の組み合わせを含む。
本発明に係る免疫細胞はケモカイン受容体を発現してもよい。前記のケモカイン受容体はCCR2を含むが、これに限定されない。当業者には、前記のCCR2ケモカイン受容体は体内のCCR2を競合的結合させることができ、腫瘍転移の阻止に有利であることがわかる。
本発明に係る免疫細胞はPD-1の発現を低下させるsiRNAまたはPD-L1を遮断するタンパク質を発現してもよい。当業者には、競合的にPD-L1とその受容体PD1の相互作用を遮断し、抗腫瘍T細胞反応の回復に有利であるため、腫瘍の生長を抑制することがわかる。
本発明に係る免疫細胞は安全スイッチを発現してもよい。好ましくは、前記の安全スイッチは誘導性カスパーゼ9(iCaspase-9)、短縮型EGFR(Truancated EGFR)またはRQR8を含む。
【0039】
薬物組成物
本発明の抗体、当該抗体を含む免疫複合体および遺伝子修飾された免疫細胞は薬物組成物または診断試薬の製造に使用することができる。前記の組成物は、有効量の前記抗体、免疫複合体または免疫細胞以外、薬学的に許容される担体を含んでもよい。用語「薬学的に允許される」とは、分子自体と組成物を適当に動物或いはヒトに投与する場合、不利な反応、アレルギー反応或いは他の不良反応が生じないことを指す。
【0040】
薬学的に許容される担体またはその成分にできる一部の物質の具体的な例は、糖類、たとえば乳糖、ブドウ糖やショ糖、デンプン、たとえばコーンスターチやバレイショデンプン、セルロースおよびその誘導体、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースやメチルセルロース、トラガカントゴム粉末、麦芽、ゼラチン、タルク、固体潤滑剤、たとえばステアリン酸やステアリン酸マグネシウム、硫酸カルシウム、植物油、たとえば落花生油、綿実油、ゴマ油、オリーブオイル、コーン油やカカオオイル、多価アルコール、たとえばプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトールやポリエチレングリコール、アルギン酸、乳化剤、たとえばTween(登録商標)、湿潤剤、たとえばドデシル硫酸ナトリウム、着色剤、調味剤、打錠剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、発熱性物質除去蒸留水、等張塩溶液、およびリン酸塩緩衝液などがある。
本発明の組成物は、必要により各種の剤形に調製することができ、かつ医者が患者の種類、年齢、体重及び基本病状、投与形態などの要素によって患者に有益な投与量を決めて使用することができる。投与形態は、たとえば注射またはほかの治療形態を使用してもよい。
【0041】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばJ. Sambrookら編著、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」、第三版、科学出版社、2002年に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。
【0042】
実施例1.ヒトGPC3と結合する特異的一本鎖抗体(scFv)の製造
1.1 ファージディスプレイに基づいたGPC3と特異的に結合する抗体の選別
ファージディスプレイ技術によって、完全ヒト由来抗体ライブラリーからヒトGPC3(以下huGPC3と略す)特異的抗体を選別した。この目的のために、400 mlの2×YT/アンピシリン培地にファージディスプレイ完全ヒト由来一本鎖抗体天然ライブラリーのグリセロールストック(上海鋭勁生物技術有限公司から購入)を接種し、細胞密度をOD600 = 0.1にし、37℃および200 rpmの条件で細胞密度がOD600 = 0.5になるように振とう培養した。 1012 pfuのM13KO7補助ファージ(Invitrogenから購入)で感染させ、30℃および50 rpmの条件で30分間培養した。50 mg/Lのカナマイシンを入れた後、37℃および200 rpmの条件で30分間振とう培養した後、遠心(15分間、1600×g、4℃)で分離して沈殿させ、400 mlの2×YT/アンピシリン/カナマイシン培地に再懸濁させ、37℃および200 rpmの条件で16時間振とう培養した。最後に、細胞を遠心(20分間、5000×g、4℃)で分離して沈殿させてから除去し、上清を規格0.45 μmのろ膜でろ過した後、1/4体積20%(w/v)PEG8000、2.5 M NaCl溶液を入れて氷浴で1時間保温してファージ顆粒を沈殿させた。その後、遠心して沈殿させ(20分間、8000×g、4℃)、上清を捨て、ファージを25 mlの予め冷やしたPBS(137 mM NaCl、2.7 mM KCl、8 mM Na2HPO4、2 mM KH2PO4)に再懸濁させ、遠心した(5分間、20000×g、4℃)。上清液に1/4体積20%(w/v)PEG8000、2.5 M NaCl溶液を入れ、かつ氷浴で30分間ファージ顆粒を再沈殿させた。遠心して沈殿させ(30分間、20000×g、4℃)、再びファージ沈殿を2 mlの予め冷やしたPBSに再懸濁させ、氷上に30分間置いて遠心した(30分間、17000×g、4℃)。上清液を含4%(w/v)BSA含有PBS溶液と1:1で混合させ、回転混合器に置き、室温で30分間保温した後、そのまま選別に使用した。
【0043】
上記ファージ抗体ライブラリーを使用し、ビオチンで標識されたヒトGPC3組換えタンパク質(上海鋭勁生物技術有限公司から購入)に対し、4回の指向選別を行ったが、選別のプロトコールは以下の通りである。当該ファージライブラリーとビオチンで標識された抗原GPC3を室温で2時間保温した後、ブロッキング液である2%(w/v)BSA(ウシ血清アルブミン、上海生工から購入)でブロッキングされたストレプトアビジン磁気ビーズMyOne C1(Invitrogenから購入)と室温で30分間保温した。その後、PBST(0.1%ツイン-20含有)緩衝液で磁気ビーズを洗浄し、非特異的に結合するファージまたは結合能力の弱いファージを除去した。結合能力の強いファージは、グリシン-塩酸(pH 2.2)でビーズから溶離し、Tris中和液(pH 9.1)で中和した後、対数増殖中期にある大腸菌ER2738に感染させ、そして次の選別に使用された。上記4回の選別において、ビーズの使用量はそれぞれ50μl、20μl、10μlおよび10μlで、ビオチンで標識された抗原GPC3濃度はそれぞれ200nM、10nM、5nMおよび1nMで、PBSTの洗浄回数はそれぞれ10回、10回、15回および20回であった。
【0044】
1.2 GPC3と特異的に結合する抗体の同定
4回目の選別で得られたクローンからランダムに96個を選択し、かつ単一ファージELISA(酵素結合免疫吸着実験)によってそのヒトGPC3との結合能力を分析した。この目的のために、96ウェルディープウェルプレートにおいて各単一集落を300 μlの2×YT/アンピシリン培地(2%ブドウ糖含有)に接種し、かつ37℃および250 rpmで16時間振とう培養した。20 μlの培養物を500 μlの2×YT/アンピシリン培地(0.1%ブドウ糖含有)に接種し、37℃および250 rpmで1.5時間振とう培養した。補助ファージ溶液を用意し、75 μlのM13KO7(力価:3×1012 pfu/ml)を取って15 mlの2×YT培地に混合し、50 μl/ウェルでプレートに入れた。37℃および150 rpmの条件で30分間培養した後、用意されたカナマイシン溶液を50 μl/ウェルで入れ(180 μlの50 mg/mlカナマイシンを取って、15 mlの2×YT培地に入れた)、37℃および250 rpmで16時間振とう培養した。最後に、細胞を遠心して沈殿させ(30分間、5000×g、4℃)、上清を新しい96ウェルディープウェルプレートに移した。
【0045】
単一ファージELISAを行うため、96ウェルMediSorp ELISAプレート(Nuncから購入)においてそれぞれ100 ng/ウェルの抗原GPC3および陰性対照であるタンパク質BSA(100 μl/ウェル)を使用し、4℃で一晩コーティングした。各ウェルを2%BSA(w/v)含有PBSTでブロッキングした。そしてPBSTでウェルを3回洗浄して洗浄液を捨てた。その後、100 μl/ウェルで以上で調製された各ファージ溶液をプレートにおける各ウェルに入れた。37℃で2時間保温した後、PBSTで3回洗浄した。結合したファージを検出するため、抗M13抗体-スーパーオキシドディスムターゼ抱合体(GE Healthcareから購入)を1:5000でPBSTに希釈し、かつ100 μl取って各ウェルに入れた。37℃で1時間保温した後、PBSTで3回洗浄し、さらにPBSで3回洗浄した。最後に、50 μlのTMB基質を吸い取ってウェルに入れ、かつ室温で10分間呈色させた後、各ウェルに50 μlの2M H2SO4を入れて呈色反応を止めた。酵素結合免疫測定装置(Bio-Rad)によって450 nmで吸光値を測定した。
配列決定分析と合わせると、二つの異なる一本鎖抗体P1B12E(配列番号1(ヌクレオチド)、2(アミノ酸))およびP7D4(配列番号3(ヌクレオチド)、4(アミノ酸))が観察され、ELISA実験ではヒトGPC(huGPC3)に対する結合シグナルは顕著に強く、BSAに対して結合しなかった(図1)。
【0046】
実施例2.抗GPC3の一本鎖抗体の発現と精製
標準プロトコールに従い、プライマー対のV5-P1B12E-F(配列番号5)およびV5-P1B12E-R (配列番号6)で選別して得られたクローンP1B12Eのプラスミド(pCantab 5E-P1B12E)からscFv-P1B12E断片を増幅し、プライマー対のV5-P7D4-F (配列番号7)およびV5-P7D4-R (配列番号8)で選別して得られたクローンP7D4のプラスミド(pCantab 5E-P7D4)からscFv-P7D4断片を増幅し、NheI/BamHI(NEBから購入)で二重酵素切断し、T4 DNAリガーゼ(NEBから購入)で同様にNheI/BamHIで二重酵素切断されたベクタープラスミドpCMV-V5-Fc(当該ベクターはマルチクローニングサイトの下流にヒト抗体IgG1を発現するFc断片が融合され、以下V5-Fcと略し、上海鋭勁生物技術有限公司から購入)と連結し、かつ宿主菌TOP10に形質転換し、クローンを選択してPCRで陽性クローンを同定して配列決定で確認し、それぞれV5-scFv-P1B12E-FcおよびV5-scFv-P7D4-Fc真核発現プラスミドを得た。
【0047】
上記発現プラスミドをそれぞれ良好に生長したHEK-293F細胞に形質移入し、37℃、5%CO2、125rpmでシェーカーで7日連続培養し、4000rpmで10min遠心し、沈殿を除去し、上清を収集し、かつ0.45 μmろ膜でろ過し、処理されたサンプルをprotein A(GEから購入)親和カラムによって親和精製し、最終的に精製された抗体-Fc融合タンパク質としてscFv-P1B12E-FcおよびscFv- P7D4-Fcを得たが、同定結合を図2に示すように、その分子量は50 kD程度であった。
【0048】
実施例3.フローサイトメーターによる各細胞系と抗GPC3一本鎖抗体の結合状態の分析
蛍光活性化細胞選別装置(FACS) (BD社、FACS Calibur)によって抗体scFv-P1B12E-FcおよびscFv-P7D4-FcとGPC3陽性の肝臓癌HepG2細胞系(ATCC)のそれぞれの結合能力を分析した。
具体的な方法は以下の通りである。
1).対数増殖期の肝臓癌HepG2細胞系を6 cmシャーレに接種し、接種の細胞密度が約90%で、37℃のインキュベーターで一晩培養した。
2).10 mMのEDTAで細胞を消化し、200 g×5 minで遠心して細胞を収集した。1×106~1×107/mLの濃度で1%ウシ胎児血清含有リン酸塩緩衝液(NBS PBS)に再懸濁させ、100 μl/管の量でフローサイトメーター専用管に入れた。
3).200 g×5 minで遠心し、上清を捨てた。
4).それぞれ測定される抗体scFv-P1B12E-FcおよびscFv-P7D4-Fcを入れ、同時にPBSを陰性対照とし、抗体の最終濃度は10μg/mlで、各管に100ulずつ入れた。氷浴で45分間置いた。
5).各管に1%NBS PBSを2 mlずつ入れ、200 g×5 minで遠心し、計2回行った。
6).上清を捨て、1:50で希釈したFITC蛍光で標識されたヒツジ抗ヒト抗体(上海康成生物工程有限公司から)を各管に100 μlずつ入れた。氷浴で45分間置いた。
7).各管に1%NBS PBSを2mlずつ入れ、200 g×5 minで遠心し、計二回行った。
8).上清を捨て、300 μlの1%NBS PBSに再懸濁させ、フローサイトメーターで検出した。
9).フローサイトメーターのデータ解析ソフトWinMDI 2.9でデータを解析した。
結果は図3に示すように、フローサイトメトリー分析の結果から、抗体scFv-P7D4-Fcは特異的にGPC3を発現するHepG2細胞を認識することができたが、抗体scFv-P1B12E-FcはHepG2細胞と結合しなかったことがわかる。
【0049】
実施例4.GPC3結合能力の向上したP7D4一本鎖抗体バリアントの選別と製造
P7D4一本鎖抗体のGPC3に対する結合能力を向上させるため、それぞれその重鎖CDR1およびCDR2領域、または軽鎖CDR1およびCDR2領域の一部のアミノ酸をランダムに突然変異させ、かつ相応する親和性成熟ライブラリーH12およびL12を構築した。
4.1 P7D4の軽鎖と重鎖およびそのCDR領域
P7D4 scFvのヌクレオチド配列は以下の通りである(配列番号3;ここで、76~105番目は重鎖CDR1で、148~198番目は重鎖CDR2で、295~330番目は重鎖CDR3で、475~516番目は軽鎖CDR1で、562~582番目は軽鎖CDR2で、679~708番目は軽鎖CDR3である。ここで、1~363番目は重鎖のヌクレオチド配列で、409~741番目は軽鎖のヌクレオチド配列で、364-408番目は(Gly4Ser)3連結配列である。)。
【0050】
【0051】
P7D4 scFvのアミノ酸配列は以下の通りである(配列番号4)。
P7D4 VH CDR1:
ヌクレオチド配列:GGATTCACCTTCAGTAGCTATGCTATGCAC (配列番号9);
アミノ酸配列:GFTFSSYAMH (配列番号10)。
P7D4 VH CDR2:
ヌクレオチド配列:gctattagtggtagtggtggtagcacatactacgcagactccgtgaagggc (配列番号11);
アミノ酸配列:AISGSGGSTYYADSVKG (配列番号12)。
P7D4 VH CDR3:
ヌクレオチド配列:gatcgacgagggagccacgctgatgcttttgatgtc (配列番号13);
アミノ酸配列:DRRGSHADAFDV (配列番号14)。
P7D4 VL CDR1:
ヌクレオチド配列:actggaaccagcagtgacgttggtggttataactatgtctcc (配列番号15);
アミノ酸配列:TGTSSDVGGYNYVS (配列番号16)。
P7D4 VL CDR2:
ヌクレオチド配列:ggtaacagcaatcggccctca (配列番号17);
アミノ酸配列:GNSNRPS (配列番号18)。
P7D4 VL CDR3:
ヌクレオチド配列:cagtcctatgacagcagcctgcgtgtggta (配列番号19);
アミノ酸配列:QSYDSSLRVV (配列番号20)。
【0052】
4.2 H12親和性成熟ライブラリーの構築
P7D4一本鎖抗体に対して配列アラインメントと分析を行うことによって、P7D4の重鎖の1番目と2番目のCDR領域の一部のアミノ酸が選択され、プライマーでランダムな突然変異を導入し、重鎖親和性成熟ライブラリーの構築に使用した。
P7D4突然変異体ライブラリーをコードするDNA断片を製造するため、プラスミドpCantab 5E-P7D4を鋳型とし、PCR方法によってそれぞれ2つのDNA断片を得た後、ブリッジPCRの方法によってアセンブリしてなった。具体的に以下の操作工程を使用した。遺伝子を合成するため、50 μlの容積重量でPCR反応を行い、各反応ではプラスミドpCantab 5E-P7D4を鋳型とし、各プライマーの最終濃度は0.2 μMで、そして5 μl 10× KOD Plus緩衝液、4 μl dNTPs(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP、それぞれ2 mM)、2 μl 25 mM MgSO4および1 U KOD Plus(Takaraから購入)を入れ、水で所定体積にした後、熱循環装置でPCRプロセスを始めた。反応は、まずサンプルを94℃に加熱して5分間前変性させた後、温度を制御しながら25サイクルを行い、各サイクルは94℃ 30秒、56℃ 30秒および68℃ 30秒であった。最後に、68℃に10分間維持した。一つ目の断片の増幅はプライマーS1(配列番号21、CAACGTGAAAAAATTATTATTCGC)および74H12F1r(配列番号22、CCAGCCCCTTGCCTGGAGCCTGGCGGACCCAMNNCATAGCATAMNNACTGAAGGTGAATCCAG)を、二つ目の断片はプライマー74H12F2f(配列番号23、GCTCCAGGCAAGGGGCTGGAGTGGGTCTCANNKATTAGTNNKNNKGNTNNKNNKACATACTACGCAGACTCC)およびS6(配列番号21、GTAAATGAATTTTCTGTATGAGG)を使用した。
【0053】
予想PCR産物はアガロースゲル電気泳動の分析によって同定され、かつWizard SV Gel and PCR Clean-upキット(Promegaから購入)でサンプルから精製して回収した。二つの断片は等モル比で2回目のブリッジPCRに鋳型として投入され、反応系は上記のKOD Plus系のままで、反応はまずサンプルを94℃に加熱して5分間前変性させた後、温度を制御しながら10サイクルを行い、各サイクルの反応条件は94℃ 30秒、60℃ 30秒および68℃ 30秒であった。最後に、68℃に10分間維持した。その後、反応系に直接最終濃度が0.2 μMになるようにプライマーS1およびS6を入れ、かつPCRプロセスを開始した。反応は、まずサンプルを94℃に加熱して5分間前変性させた後、温度を制御しながら25サイクルを行い、各サイクルは94℃ 30秒、56℃ 30秒および68℃ 30秒であった。最後に、68℃に10分間維持した。予想PCR産物は調製アガロースゲル電気泳動の分析によって分離され、かつWizard SV Gel and PCR Clean-upキットでメーカーの説明に従って精製して回収した。
【0054】
完全なライブラリーDNA断片の両末端はそれぞれsfiIおよびNotI制限酵素の切断部位を含有し、制限酵素sfiI/NotIで制限消化を行い、同じ二重酵素切断されたファージベクターpCANTAB 5Eに挿入した。連結産物をWizard SV Gel and PCR Clean-upキットでサンプルにおけるDNAを分離して脱塩し、電気的形質転換に使用した。電気的形質転換時、エレクトロポレーションキュベットおよびエレクトロポレーションシステムGene Pulser II(Bio-Radから購入)によって、自家製の感受性大腸菌ER2738(NEBから購入)を形質転換させた。最後に一つの8.9×109の突然変異体を含有するライブラリーが確認された。
【0055】
4.3 L12親和性成熟ライブラリーの構築
P7D4一本鎖抗体に対して配列アラインメントと分析を行うことによって、P7D4の軽鎖の1番目と2番目のCDR領域の一部のアミノ酸が選択され、プライマーでランダムな突然変異を導入し、軽鎖親和性成熟突然変異体ライブラリーの構築に使用した。
P7D4突然変異体ライブラリーをコードするDNA断片を製造するため、プラスミドpCantab 5E-P7D4を鋳型とし、PCR方法によってそれぞれ2つのDNA断片を得た後、ブリッジPCRの方法によってアセンブリしてなった。具体的に以下の操作工程を使用した。遺伝子を合成するため、50 μlの容積重量でPCR反応を行い、各反応ではプラスミドpCantab 5E-P7D4を鋳型とし、各プライマーの最終濃度は0.2 μMで、そして5 μl 10× KOD Plus緩衝液、4 μl dNTPs(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP、それぞれ2 mM)、2 μl 25 mM MgSO4および1 U KOD Plusを入れ、水で所定体積にした後、熱循環装置でPCRプロセスを始めた。反応は、まずサンプルを94℃に加熱して5分間前変性させた後、温度を制御しながら25サイクルを行い、各サイクルは94℃ 30秒、56℃ 30秒および68℃ 30秒であった。最後に、68℃に10分間維持した。一つ目の断片の増幅はプライマーS1および74L12F1r(配列番号83、GTTTGGGGGCTTTGCCTGGGTACTGTTGGTACCAGGAGACM NNAHNMNNAHNACCAACGTCACTGCTG)を、二つ目の断片はプライマー74L12F2f(配列番号84、ACCCAGGCAAAGCCCCCAAACTCCTCATCTATNNKNNKNNKNN KCGGCCCTCAGGGGTC)およびS6を使用した。
【0056】
予想PCR産物はアガロースゲル電気泳動の分析によって同定され、かつWizard SV Gel and PCR Clean-upキットでサンプルから精製して回収した。二つの断片は等モル比で2回目のブリッジPCRに鋳型として投入され、反応系は上記のKOD Plus系のままで、プライマーが存在しない条件において、反応はまずサンプルを94℃に加熱して5分間前変性させた後、温度を制御しながら10サイクルを行い、各サイクルの反応条件は94℃ 30秒、60℃ 30秒および68℃ 30秒であった。最後に、68℃に10分間維持した。その後、反応系に直接最終濃度が0.2 μMになるようにプライマーS1およびS6を入れ、かつPCRプロセスを開始した。反応は、まずサンプルを94℃に加熱して5分間前変性させた後、温度を制御しながら25サイクルを行い、各サイクルは94℃ 30秒、56℃ 30秒および68℃ 30秒であった。最後に、68℃に10分間維持した。予想PCR産物は調製アガロースゲル電気泳動の分析によって分離され、かつWizard SV Gel and PCR Clean-upキットでメーカーの説明に従って精製して回収した。
【0057】
完全なライブラリーDNA断片の両末端はそれぞれsfiIおよびNotI制限酵素の切断部位を含有し、制限酵素sfiI/NotIで制限消化を行い、同じ二重酵素切断されたファージベクターpCANTAB 5Eに挿入した。連結産物をWizard SV Gel and PCR Clean-upキットでサンプルにおけるDNAを分離して脱塩し、電気的形質転換に使用した。電気的形質転換時、エレクトロポレーションキュベットおよびエレクトロポレーションシステムGene Pulser IIによって、自家製の感受性大腸菌ER2738を形質転換させた。最後に一つの1.1×1010の突然変異体を含有するライブラリーが確認された。
さらに、本発明者はerror prone PCRの策略も使用し、P7D4断片全体をランダムに突然変異させ、容量が7.9×109のライブラリーT2を構築し、ここで、増幅プライマー対はS1およびS6で、クローニングおよび構築の方法は上記H12およびL12と同様である。
以上の3つの親和性成熟ライブラリーの選別は実施例1における選別過程と同様である。選別によって、本発明者は6つの高親和性のP7D4系列の突然変異体クローンam4、am14、am20、am35、am42およびT2-23を同定したが、その配列情報は以下の通りである。
【0058】
am4のヌクレオチド配列(配列番号24;ここで、76~105番目は重鎖CDR1で、148~198番目は重鎖CDR2で、295~330番目は重鎖CDR3で、475~516番目は軽鎖CDR1で、562~582番目は軽鎖CDR2で、679~708番目は軽鎖CDR3である。ここで、1~363番目は重鎖のヌクレオチド配列で、409~741番目は軽鎖のヌクレオチド配列で、364-408番目は(Gly4Ser)3連結配列である。):
am4のアミノ酸配列(配列番号25):
重鎖CDR1:GFTFSTYAMT (配列番号60)
重鎖CDR2:SISSSGESTYYADSVKG (配列番号61)
重鎖CDR3:DRRGSHADAFDV (配列番号14)
軽鎖CDR1:TGTSSDVGGYNYVS (配列番号16)
軽鎖CDR2:GNSNRPS (配列番号18)
軽鎖CDR3:QSYDSSLRVV (配列番号20)
ここで、1~121番目は重鎖のアミノ酸配列で、137~247番目は軽鎖のアミノ酸配列である。122~136番目は(Gly4Ser)3連結配列である。
【0059】
am14のヌクレオチド配列(配列番号26;ここで、76~105番目は重鎖CDR1で、148~198番目は重鎖CDR2で、295~330番目は重鎖CDR3で、475~516番目は軽鎖CDR1で、562~582番目は軽鎖CDR2で、679~708番目は軽鎖CDR3である。ここで、1~363番目は重鎖のヌクレオチド配列で、409~741番目は軽鎖のヌクレオチド配列で、364-408番目は(Gly4Ser)3連結配列である。):
am14のアミノ酸配列(配列番号27):
重鎖CDR1:GFTFSTYAMA (配列番号62)
重鎖CDR2:EISSSGSRTYYADSVKG (配列番号63)
重鎖CDR3:DRRGSHADAFDV (配列番号14)
軽鎖CDR1:TGTSSDVGGYNYVS (配列番号16)
軽鎖CDR2:GNSNRPS (配列番号18)
軽鎖CDR3:QSYDSSLRVV (配列番号20)
ここで、1~121番目は重鎖のアミノ酸配列で、137~247番目は軽鎖のアミノ酸配列で、122~136番目は(Gly4Ser)3連結配列である。
【0060】
am20のヌクレオチド配列(配列番号28;76~105番目は重鎖CDR1で、148~198番目は重鎖CDR2で、295~330番目は重鎖CDR3で、475~516番目は軽鎖CDR1で、562~582番目は軽鎖CDR2で、679~708番目は軽鎖CDR3である。ここで、1~363番目は重鎖のヌクレオチド配列で、409~741番目は軽鎖のヌクレオチド配列である。364~408番目は(Gly4Ser)3連結配列である。):
am20のアミノ酸配列(配列番号29):
重鎖CDR1:GFTFSTYAMA (配列番号64)
重鎖CDR2:AISMSGESTYYADSVKG (配列番号65)
重鎖CDR3:DRRGSHADAFDV (配列番号14)
軽鎖CDR1:TGTSSDVGGYNYVS (配列番号16)
軽鎖CDR2:GNSNRPS (配列番号18)
軽鎖CDR3:QSYDSSLRVV (配列番号20)
ここで、1~121番目は重鎖のアミノ酸配列で、137~247番目は軽鎖のアミノ酸配列で、122~136番目は(Gly4Ser)3連結配列である。
【0061】
am35のヌクレオチド配列(配列番号30;76~105番目は重鎖CDR1で、148~198番目は重鎖CDR2で、295~330番目は重鎖CDR3で、475~516番目は軽鎖CDR1で、562~582番目は軽鎖CDR2で、679~708番目は軽鎖CDR3である。ここで、1~363番目は重鎖のヌクレオチド配列で、409~741番目は軽鎖のヌクレオチド配列である。364~408番目は(Gly4Ser)3連結配列である。):
am35のアミノ酸配列(配列番号31):
重鎖CDR1:GFTFSSYAMH (配列番号10)
重鎖CDR2:AISSSGGSTYYADSVKG (配列番号66)
重鎖CDR3:DRRGSHADAFDV (配列番号14)
軽鎖CDR1:TGTSSDVGHKFPVS (配列番号67)
軽鎖CDR2:KNLLRPS (配列番号68)
軽鎖CDR3:QSYDSSLRVV (配列番号20)
ここで、1~121番目は重鎖のアミノ酸配列で、137~247番目は軽鎖のアミノ酸配列である。122~136番目は(Gly4Ser)3連結配列である。
【0062】
am42のヌクレオチド配列(配列番号32;76~105番目は重鎖CDR1で、148~198番目は重鎖CDR2で、295~330番目は重鎖CDR3で、475~516番目は軽鎖CDR1で、562~582番目は軽鎖CDR2で、679~708番目は軽鎖CDR3である。ここで、1~363番目は重鎖のヌクレオチド配列で、409~741番目は軽鎖のヌクレオチド配列である。364~408番目は(Gly4Ser)3連結配列である。):
am42のアミノ酸配列(配列番号33):
重鎖CDR1:GFTFSSYAMH (配列番号10)
重鎖CDR2:AISSSGGSTYYADSVKG (配列番号66)
重鎖CDR3:DRRGSHADAFDV (配列番号14)
軽鎖CDR1:TGTSSDVGLMHNVS (配列番号69)
軽鎖CDR2:KSSSRPS (配列番号70)
軽鎖CDR3:QSYDSSLRVV (配列番号20)
ここで、1~121番目は重鎖のアミノ酸配列で、137~247番目は軽鎖のアミノ酸配列である。122~136番目は(Gly4Ser)3連結配列である。
【0063】
T2-23のヌクレオチド配列(配列番号34;76~105番目は重鎖CDR1で、148~198番目は重鎖CDR2で、295~330番目は重鎖CDR3で、475~516番目は軽鎖CDR1で、562~582番目は軽鎖CDR2で、679~708番目は軽鎖CDR3である。ここで、1~363番目は重鎖のヌクレオチド配列で、409~741番目は軽鎖のヌクレオチド配列である。364~408番目は(GLY4SER)3連結配列である。
T2-23のアミノ酸配列(配列番号35):
重鎖CDR1:GFTFSSYAMH (配列番号10)
重鎖CDR2:AISSSGRSTYYADSVEG (配列番号71)
重鎖CDR3:DRRGSHADALNV (配列番号72)
軽鎖CDR1:TGTSSDVGGYNYVS (配列番号16)
軽鎖CDR2:GNSNRPS (配列番号18)
軽鎖CDR3:QSYDSSLRVV (配列番号20)
ここで、1~121番目は重鎖のアミノ酸配列で、137~247番目は軽鎖のアミノ酸配列である。122~136番目は(GLY4SER)3連結配列である。
【0064】
4.4 P7D4系列の抗体のGPC3対する結合能力のSPR分析
P7D4系列の抗体とGPC3の結合を定量的に分析するために、Biacore T200システム(GEから購入)で捕獲法によってそれぞれP7D4系列の一本鎖抗体の親和性および動態学のパラメーターを測定した。メーカーの説明に従い、NHS/EDCカップリングで第1級アミノ基によって抗ヒトIgG(Fc)の抗体(GEから購入)をセンサーチップCM5のカルボキシメチルグルカンの表面にカップリングした。測定は25℃、30μl/min、 1×HBS-EP+使用緩衝液において行われ、再生条件は3 M MgCl2、10μl/minで30秒作用するものである。各測定サイクルにおいて、測定される抗体はまずチップに捕獲され、所定濃度の分析物GPC3にチップの表面を通させ、ヒトGPC3と捕獲された抗体が相互作用してセンサー表面の分子濃度が変化し、SPRシグナルの変化から測定され、かつレゾナンスユニット(RU)で表示される。レゾナンスユニット(RU)を時間に対してプロットし、得られたセンサーグラムでは結合および解離の過程を含むを反応過程全体を記録した(図4)。すべての単一サイクルの動態学において、GPC3の濃度はそれぞれ5nM、10nM、20nM、40nMおよび80nMである。Biacore T200 evaluation softwareによって得られた作用曲線を評価し、かつ親和性のKD値を計算した。すべてのP7D4系列の一本鎖抗体のそれぞれのGPC3に対する結合のデータを表1にまとめた。
【表1】
表1から、改造されたP7D4系列の突然変異体の一本鎖抗体は良好な親和性を有し、P7D4一本鎖抗体に対して顕著に向上したことがわかる。
【0065】
4.5 P7D4系列の抗体の認識特異性の分析
P7D4系列の抗体のGPC3タンパク質に対する結合特異性を分析するために、ELISA実験によって、それぞれP7D4系列の一本鎖抗体のそれぞれの組換えヒトGPC1(rhGPC1)、GPC2(rhGPC2)、GPC3(rhGPC3)、GPC5(rhGPC5)およびGPC6(rhGPC6)(R&D社)を含むヒトGPCファミリーのメンバーに対する結合活性を測定した。
【0066】
このために、0.1M NaHCO3(pH 9.6)コーディング液で以上の5種類の抗原を希釈し、各ウェルに100 ng、50 μl/ウェルで、4℃で一晩コーディングし、かつ2% (w/v)BSA含有PBSTで室温で2時間ブロッキングした。その後、PBSTでプレートを3回洗浄してきれいに除去した。そして、各ウェルに100 ngの各抗体タンパク質のPBST溶液を入れ、各サンプルの測定に平行重複ウェルで分析した。37℃で2時間保温した後、PBSTで3回洗浄し、その後1:20000で希釈されたHRPで標識されたウサギ抗ヒトFc抗体(上海鋭勁生物技術有限公司から購入)を100 μl/ウェル入れ、37℃で1時間反応させた。検出のために、PBSTでウェルを3回洗浄し、さらにPBSで3回洗浄し、最後にTMBを入れて10分間呈色させ、各ウェルに50 μlの2M H2SO4を入れて呈色反応を止め、酵素結合免疫測定装置(Bio-Rad)によって450 nmで吸光値を測定した。
結果は図5に示すように、すべてのP7D4系列の一本鎖抗体はいずれも特異的にヒトGPC3と結合したが、ヒトGPC1、GPC2、GPC5およびGPC6と結合しなかった。
【0067】
実施例5 ヒトGPC3抗原および当該抗原に対するヒト化モノクローナル抗体の製造
5.1 ヒトGPC3の真核発現系における発現と精製
5.1.1 GPC3ベクターの構築と同定
ヒト肝臓癌細胞系Huh-7のcDNAを鋳型とし、GPC3-F: GATCGCTAGCAcagcccccgccgccgc (配列番号54)、GPC3-R: GTACGGATCCttcagcggggaatgaacgttc (配列番号55)のようなプライマーでPCR増幅を行い、両末端に酵素切断部位NheI/BamHIの付いたGPC3断片(1.6kb)を得、得られたPCR断片を制限酵素NheI/BamHI(Fermentas社から購入)で二重酵素切断し、同時にプラスミドベクターV5H(Raygeneから購入)を同様に制限酵素NheI/BamHIで二重酵素切断し、アガロースゲル電気泳動後ベクターおよび挿入断片を回収し、さらにT4 DNAリガーゼ(NEB社から)で連結して宿主菌TOP10(LIFE社から)に形質転換し、アンピシリン耐性による選別を行い、クローンの抽出プラスミドを制限酵素NheI/BamHI(Fermentas社から購入)で二重酵素切断して挿入断片を含有すると同定された陽性クローンを選択し、かつ配列決定によって検証され、正確なヒトGPC3遺伝子配列を含有する真核発現プラスミドV5H-GPC3を得た。
【0068】
5.1.2 ヒトGPC3タンパク質の発現と精製
5.1.2.1 V5H-GPC3プラスミドのリポソーム形質移入と培養
良好に生長したHEK293F細胞(HEK293F、LIFE社から購入)を1×106 細胞/mLの密度で細胞三角培養フラスコに接種し、37℃、5% CO2、120rpmで一晩培養して使用に備えた。上記工程で得られたプラスミドV5H-GPC3とリポソーム293Fectin(LIFE社から購入)をそれぞれDMEMで希釈してやさしく混合し、室温で20minインキュベートし、インキュベートしたDNA-リポソーム複合体を293F細胞に入れ、37℃、5% CO2、120rpmで72h培養した。細胞培養液を収集し、4500gで15min遠心し、細胞を除去し、上清を取った。
【0069】
5.1.2.2 GPC3タンパク質の精製
1mlのNi-NTAアガロース親和フィラーをカラムに充填し、Ni-NTA親和カラムをカラムの10倍体積の平衡緩和液(50mM PB、0.3M NaCl、10mMイミダゾール、pH8.0)で平衡化した。遠心した細胞培養液の上清を1ml/minでNi-NTA親和カラムにかけ、通った液を収集して4℃で保存した。カラムの10倍体積の洗浄緩衝液1(50mM PB、0.3M NaCl、20mMイミダゾール、pH8.0)で洗浄し、通った液を収集して4℃で保存した。カラムの4~5倍体積の溶離緩衝液(50mM PB、0.3M NaCl、250mMイミダゾール、pH8.0)で溶離し、溶離液を収集し、透析液(50mM PB、pH7.8、0.3M NaCl、5%グリセリン)で4℃で一晩透析し、GPC3(H)を得、少量を取ってSDS PAGE電気泳動を行った(図6)。
【0070】
5.2 ヒトGPC3抗原免疫
組換えタンパク質免疫:上記実施例5.1で得られた1mlの精製ヒトGPC3タンパク質GPC3(H)(1.0mg/mL)を抗原として1 mLの完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich社から購入)と十分に乳化混合し、6~8週齢のBALB/cマウスに対して皮下免疫を行い、各マウスに100μgのヒトGPC3(H)タンパク質抗原で免疫を行った。4週間後、ヒトGPC3抗原と不完全フロイントアジュバントを乳化混合し、マウスに腹腔注射して免疫を行い、各マウスに50μgずつ、その後2週間ごとに、腹腔に50μgの抗原による強化免疫を続けた。4回目の強化免疫の1週間後、GPC3(H)タンパク質でコーティングし、ELISA法によってマウスの血清抗体価を検出し、マウスの血清抗体価が>10 5になるまで強化免疫を続けた。
最後の強化免疫の3週間後、上記ヒトGPC3(H)タンパク質20μgで脾内免疫を行い、使用に備えた。
【0071】
5.3 抗ヒトGPC3ハイブリドーマ細胞株の構築
マウスの脾内強化免疫の4日間後、無菌の状況で脾臓を取り、100メッシュのフィルターネットでリンパ球を分離し、骨髄腫細胞系SP2/0と融合し、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン(hypoxathine, aminopterin and thymidine、HAT)の選択性培養を3日間行った後、HT培地を追加し、1週間培養を続けた。
GPC3(H)でコーティングし、ELISAで陽性クローンを選別し、有限希釈法でサブクローンを3回行い、2か月続けて培養し、最後に安定したハイブリドーマ細胞系を得た(クローンをそれぞれ5A5、7C9、11D3と名付けた)。
【0072】
5.4 腹水の生産および抗体の精製
8~10週齢のF1マウスの腹腔に100μLのプリスタン(Sigma-aldrich社から購入)を注射し、1週間後、上記実施例5.4のハイブリドーマ細胞クローンを5×105細胞/マウスの量でマウスの腹腔に注射して腹水を生成させ、7~10日後腹水を採取し、10000gで10min遠心し、上清を取って使用に備えた。プロテインG親和カラム(GE社から購入)を室温に戻し、カラムの5倍体積のPBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH 7.4)で平衡化した。腹水の上清を等体積でPBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH 7.4)と均一に混合し、0.22μMフィルターでろ過し、ろ過された腹水の上清液をプロテインG親和カラムにかけ、カラムの5倍体積のPBSで洗浄した。溶離緩衝液(0.1M グリシン HCl、pH2.7)で溶離し、溶離液に1/10体積の中和緩衝液(1M NaH2PO4、pH9.0)で中和した。溶液をPBS(0.01M PB、0.15M NaCl、pH 7.4)で透析し、その間に液を2回交換し、2回の液交換の時間の間隔は5時間超であった。透析溶液を10000gで10min遠心し、上清液を0.22μmろ過膜でろ過して保存し、精製された各クローンに相応して生成した抗ヒトGPC3モノクローナル抗体の溶液を得た。分析したところ、5A5は良好な抗原結合能力を有する。
【0073】
5.5 GPC3クローン5A5のヒト化
5.5.1 5A5抗体の配列分析
5A5は良好な抗原結合能力を有する。5A5抗体遺伝子の可変領域の配列VLとVHを測定し、Kabat、ChothiaおよびIMGTの3種類の抗体CDR領域の命名方法を合わせ、抗体の軽鎖と重鎖の6つのCDR領域の配列を確定した。
5A5重鎖のヌクレオチド配列は以下の通りである(配列番号56;ここで、下線の3つの区域は順にCDR1、CDR2、CDR3である。):
CAGGTTCAACTGCAGCAGTCTGGGACTGAGCTGGTGAGGCCTGGGGCTTCAGTGAAGCTGTCCTGCAAGGCTTTGGGCTACACATTTACTGACTATGAAATGCACTGGGTGAAGCAGACACCTGTGCATGGCCTGGAGTGGATTGGAGCTATTCATCCAGGAAGTGGTGATACTGCCTACAATCAGAGGTTCAAGGGCAAGGCCACACTGACTGCAGACAAATCTTCCAGCACAGCCTACATGGAGTACAGCAGCCTGACATCTGAGGACTCTGCTGTCTATTACTGTACAAGATTTTATTCCTATGCTTACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACTGTCTCTGCA
【0074】
5A5軽鎖のヌクレオチド配列は以下の通りである(配列番号57;ここで、下線の3つの区域は順にCDR1、CDR2、CDR3である。):
GATGTTGTGATGACCCAAACTCCACTCTCCCTGCCTGTCAGTCTTGGAGATCAAGCCTCCATCTCTTGCAGATCTAGTCAGAGCCTTGTACACAGTAATGGAAACACCTATTTACAGTGGTACCTGCAGAAGCCAGGCCAGTCTCCAAAGCTCCTGATCTACAAAGTTTCCAATCGATTTTCTGGGGTCCCAGACAGGTTCAGTGGCAGAGGATCAGGGACAGATTTCACACTCAAGATCAGCAGAGTGGAGGCTGAGGATCTGGGAGTTTATTTCTGCTCTCAAAGTATATATGTTCCGTACACGTTCGGAGGAGGGACCAAGCTGGAAATAAAACGG
5A5重鎖のアミノ酸配列(配列番号81;ここで、下線の3つの区域は順にCDR1、CDR2、CDR3である。):
QVQLQQSGTELVRPGASVKLSCKALGYTFTDYEMHWVKQTPVHGLEWIGAIHPGSGDTAYNQRFKGKATLTADKSSSTAYMEYSSLTSEDSAVYYCTRFYSYAYWGQGTLVTVSA
5A5軽鎖のアミノ酸配列(配列番号82;ここで、下線の3つの区域は順にCDR1、CDR2、CDR3である。):
DVVMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSLVHSNGNTYLQWYLQKPGQSPKLLIYKVSNRFSGVPDRFSGRGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFCSQSIYVPYTFGGGTKLEIKR
【0075】
5.5.2 抗体鋳型の選択
抗体鋳型のフレームワーク領域の選択は主に、免疫原性、抗原結合特性、発現および抗体の安定性と4つの要素がある。
(1) 特許WO2008021156によって抗体の軽・重鎖の可変領域における抗体ループ構造を支持するアミノ酸残基および軽・重鎖の結合領域のアミノ酸残基を確認した。
(2) 5A5の軽鎖または重鎖の可変領域の全長とIMGT、V BASEまたはNCBIからの抗体種の配列相同性のアラインメントを行った。
(3) 5A5の軽鎖または重鎖の可変領域におけるCDR領域内のループ支持に関連するアミノ酸残基を除去した後、IMGT、V BASEまたはNCBIからの抗体種との配列相同性のアラインメントを行った。
(4) 5A5の軽鎖または重鎖の可変領域におけるCDR領域のアミノ酸残基を除去した後、IMGT、V BASEまたはNCBIからの抗体種との配列相同性のアラインメントを行った。
(5) 5A5の軽鎖または重鎖の配列におけるループ支持に関連するアミノ酸残基だけを残した後、IMGT、V BASEまたはNCBIからの抗体種との配列相同性のアラインメントを行った。
(6) 5A5の軽鎖または重鎖のフレームワークにおけるループ支持に関連するアミノ酸残基だけを残した後、IMGT、V BASEまたはNCBIからの抗体種との配列相同性のアラインメントを行った。
(7) 配列相同性のアラインメントの結果を合わせ、相同性の高い抗体種を抗体鋳型として選択した。
(8) 重鎖の配列相同性のアラインメントの結果:相同性に基づき、VH1_69*06 (IMGT、登録番号:L22583)を5A5重鎖の抗体鋳型として選択した。
(9) 軽鎖の配列相同性のアラインメントの結果:相同性に基づき、VK2D_29*02(IMGT、登録番号:U41644)を5A5軽鎖の抗体鋳型として選択した。
【0076】
5.5.3 CDRの移植
抗体鋳型のCDR領域を5A5抗体の軽鎖または重鎖のCDR領域に変更した。最終に、ヒト化抗体(Y035)を確定した。そのアミノ酸配列は以下の通りである。
ヒト化Y035重鎖(配列番号:58):
EVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFSDYEMHWVRQAPGQGLEWMGAIHPGSGDTAYNQRFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARFYSYAYWGQGTLVTVSA
重鎖CDR1のアミノ酸配列:Asp Tyr Glu Met His (配列番号73);
重鎖CDR2のアミノ酸配列:Ala Ile His Pro Gly Ser Gly Asp Thr Ala Tyr Asn Gln Arg Phe Lys Gly (配列番号:74);
重鎖CDR1のアミノ酸配列:Phe Tyr Ser Tyr Ala Tyr (配列番号75);
ヒト化Y035軽鎖(配列番号:59):
DIVMTQTPLSLPVTPGEPASISCRSSQSLVHSNGNTYLQWYLQKPGQSPQLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCSQSIYVPYTFGQGTKLEIKR
軽鎖CDR1のアミノ酸配列:Arg Ser Ser Gln Ser Leu Val His Ser Asn Gly Asn Thr Tyr Leu Gln (配列番号:76);
軽鎖CDR2のアミノ酸配列:Lys Val Ser Asn Arg Phe Ser (配列番号77);
軽鎖CDR3のアミノ酸配列:Ser Gln Ser Ile Tyr Val Pro Tyr Thr (配列番号78);
【0077】
5.5.4 ヒト化抗体の発現と精製
(1) ヒト化抗体(Y035)のアミノ酸配列に基づき、ヌクレオチド配列を設計して合成した。
合成された軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号:79、シグナルペプチドのコード配列を含む):
合成された重鎖のヌクレオチド配列(配列番号:80、シグナルペプチドのコード配列を含む):
【0078】
(2) 合成された抗体のヌクレオチド配列(シグナルペプチドは16~81番目(軽鎖)と31~84番目(重鎖)である)、抗体の可変領域、定常領域を哺乳動物細胞発現ベクターに挿入することによってそれぞれ重鎖と軽鎖を含有する抗体発現ベクターを構築し、配列決定によって抗体配列が設計と一致していると同定された。具体的に以下の通りである。
EcoRVおよびBsiWIで合成された軽鎖およびpIK-hu12L(上海鋭勁生物技術有限公司から購入)を二重酵素切断し、軽鎖をpIK-hu12Lに挿入した。
EcoRVおよびNheIで合成された重鎖および改造されたpIH-hu12H(上海鋭勁生物技術有限公司から購入。CH1に同義突然変異によって1つのNheI酵素切断部位を増やした。)を二重酵素切断し、軽鎖をpIH-hu12Lに挿入した。
【0079】
酵素切断を経て連結したベクターでTOP10感受性細胞を形質転換し、PCRによって陽性クローンを同定し、配列決定によって配列が正確なクローンと同定された。ベクターで293Fectinによって293F細胞に一過性形質移入を行って発現させた。遠心して293F培養上清を収集し、0.45umフィルターでろ過し、プロテインAカラムによってクロマトグラフィーを行った。分光光度計でA280を測定することによって精製抗体の濃度を確認した。
【0080】
5.6 ヒト化抗体Y035のヒトGPC3対する結合能力のSPR分析
抗体Y035と抗原タンパク質のヒトGPC3の結合を定量的に分析するために、Biacore T200システム(GEから購入)で複数サイクルの動態学測定方法によって、抗体Y035の親和性および動態学のパラメーターを測定した。メーカーの説明に従い、NHS/EDCカップリングで第1級アミノ基によって抗原タンパク質のヒトGPC3(上海鋭勁生物技術有限公司から購入)をセンサーチップCM5のカルボキシメチルグルカンの表面にカップリングし、配位子の最終のカップリング量は305RUであった。動態学測定は25℃、30μl/min、 1×HBS-EP+使用緩衝液において行われ、再生条件は10 mM グリシン-HCl (pH2.5)、10μl/minで25秒作用するものである。各測定サイクルにおいて、特定の濃度の抗体Y035にチップの表面を通させ、抗体とチップに固定化された抗原タンパク質のヒトGPC3が相互作用してセンサー表面の分子濃度が変化し、SPRシグナルの変化から測定され、かつレゾナンスユニット(RU)で表示される。レゾナンスユニット(RU)を時間に対してプロットし、かつ固定化されなかった抗原の参照チャンネルのRU数値を引いた後、得られたセンサーグラムでは結合および解離の過程を含むを反応過程全体を記録した。抗体Y035および抗体5A5のヒトGPC3に対する結合の動態学的分析は図7~8の通りである。動態学測定の異なるサイクルの実験において、抗体Y035の濃度はそれぞれ6.25nM、12.5nM、25nM、50nMおよび100nMである。Biacore T200 evaluation softwareによって得られた作用曲線を評価し、かつ親和性のKD値を計算した。同様の方法によって、Y035に対してヒト化改造する前の親ネズミのモノクローナル抗体5A5の親和性および動態学のパラメーターも測定分析を行った。抗体Y035および5A5のそれぞれのヒトGPC3タンパク質に対する結合のデータを表2にまとめたが、ヒト化改造された後の抗体Y035のヒトGPC3タンパク質に対する結合能力は大幅にネズミ由来の5A5よりも優れた。
【表2】
【0081】
5.7 抗体Y035の細胞結合活性のFACS分析
蛍光活性化細胞選別装置(FACS)によって抗体Y035のGPC3陽性の肝臓癌HepG2細胞系(ATCC)との結合能力を分析し、GPC3発現陰性の293T(ATCC)細胞を陰性対照として使用した。
具体的な方法は以下の通りである。
1) 対数増殖期の細胞HepG2および293Tをそれぞれ6 cmシャーレに接種し、接種の細胞密度が約90%で、37℃のインキュベーターで一晩培養した。
2) 10 mMのEDTAで細胞を消化し、200 g×5 minで遠心して細胞を収集した。1×106~1×107/mLの濃度で1%ウシ胎児血清含有リン酸塩緩衝液(NBS PBS)に再懸濁させ、100 μl/管の量でフローサイトメーター専用管に入れた。
3) 200 g×5 minで遠心し、上清を捨てた。
4) 2つの細胞系の実験群はそれぞれ測定される抗体Y035を入れ、もう一つの対照は抗体が入っていないPBSブランク対照である。抗体の最終濃度はいずれも20 μg/mlで、各管に100ulずつ入れた。氷浴で45分間置いた。
5) 各管に1%NBS/PBSを2mlずつ入れ、200 g×5 minで遠心し、計二回行った。
6) 上清を捨て、1:100で希釈したヒツジ抗ヒト抗体-FITC(上海業力生物科技有限公司から)を各管に100 μlずつ入れた。氷浴で45分間置いた。
7) 各管に1%NBS/PBSを2mlずつ入れ、200 g×5 minで遠心し、計二回行った。
8) 上清を捨て、300 μlの1%NBS PBSに最懸濁させ、フローサイトメーターで検出した。
フローサイトメーター装置のデータ分析ソフトFlowjo7.6でデータを分析し、結果は図9に示すように、フローサイトメトリー分析の結果から、抗体Y035は特異的にGPC3を発現するHepG2細胞を認識することができたが、GPC3発現陰性の293T細胞と結合しなかったことがわかる。
【0082】
実施例6.P7D4一本鎖抗体に基づいたCAR発現ベクターの構築およびレンチウイルスの製造
例示として、以下で構築された本発明のレンチウイルスプラスミドで使用されたベクターシステムは、第三世代の自己不活性化レンチウイルスベクターシステムに属し、当該システムは計4つのプラスミド、すなわちタンパク質Gag/PolをコードするパッケージングプラスミドpMDLg RRE(addgeneから購入)、Revタンパク質をコードするパッケージングプラスミドpRSV-REV(addgeneから購入)、VSV-Gタンパク質をコードするパッケージングプラスミドpCMV-VSV-G(addgeneから購入)および空ベクターpRRLSIN-cPPT.PGK-GFP.WPRE(addgeneから購入)に基づいた目的遺伝子CARをコードする組み換え発現ベクターを有し、当該システムは有効に複製可能なレンチウイルス顆粒を形成するリスクを低下させることができる。
【0083】
本システムにおいて、本発明者はまず通常の分子クローニングの技術手段によって、空ベクターpRRLSIN-cPPT.PGK-GFP.WPREを改造し、元のベクターのプロモーターの代わりに伸長因子-1α(elongation factor-1α、EF-1αと略す)のプロモーターを使用し、かつプロモーターとCD8αspシグナルペプチドの間にMluI酵素切断部位を増やした。具体的に、ClaI/SalI (NEBから購入)でベクターpWPT-EGFP(addgeneから購入)を二重酵素切断し、1.1KbのDNA断片を回収し、T4 DNAリガーゼでClaI/SalI で二重酵素切断されたベクターpRRLSIN-cPPT.PGK-GFP.WPREに連結して宿主菌TOP10に形質転換し、クローンを選択して集落PCRによって陽性クローンと同定して配列決定で確認され、組換えプラスミドpRRLSIN-cPPT.EF-1α-EGFP.WPREを得た。
前記最適化されたP7D4 scFvでキメラ抗原受容体を製造した。表3は本発明で例示されたキメラ抗原受容体の各部分の連結順を説明する。
【表3】
注:CD28aはCD28分子の膜貫通領域を、CD28bはCD28分子の細胞内シグナル領域を表す。
【0084】
1.核酸断片の増幅
(1) scFv配列の増幅
それぞれV5-scFv-P7D4-Fcプラスミドを鋳型とし、フォワードプライマーP7D4fd(配列番号36、一部のCD8シグナルペプチド(CD8sp)を含む配列、プライマー配列:ctccacgccgccaggccgcaggtgcagctgcaggag)およびリバースプライマーP7D4re(配列番号37、一部のCD8ヒンジを含む配列、プライマー配列:CGGCGCTGGCGTCGTGGTACCTAGGACGGTGACCTTGG) をプライマー対とし、PCR増幅してP7D4 scFv断片を得た。

(2) キメラ抗原受容体のほかの部分の核酸配列
抗GPC3キメラ抗原受容体タンパク質のP7D4 scFv以外のほかの部分の核酸配列は特許出願番号201310164725.Xで公開された配列番号26、27、28、29および30を鋳型としてPCR法によって得られた。
【0085】
具体的に、中にCD8αsp配列を含む断片F1は本実施例で構築されたプラスミドpRRLSIN-cPPT.EF-1α-EGFP.WPREを鋳型とし、プライマー対のPWXLF(配列番号38、プライマー配列:gcaggggaaagaatagtagaca)およびPRRL-CD8SP-R1(配列番号39、プライマー配列:CGGCCTGGCGGCGTGGAG)でPCR増幅して得られた。
【0086】
CD8-CD3δ zeta(δZ)を含む断片F3-δZは特許出願201310164725.Xにおける配列番号:26のプラスミドを鋳型とし、プライマー対のPRRL-CD8hinge(配列番号40、プライマー配列:accacgacgccagcgccg)およびδZ re(配列番号41、プライマー配列:GAGGTCGACCTACGCGGGGGCGTCTGCGCTCCTGCTGAACTTCACTCT)でPCR増幅して得られた。
【0087】
CD8-CD3 zeta(Z)を含む断片F3-Z、CD8-CD137-CD3 zeta(BBZ)を含む断片F3-BBZ、CD28a-CD28b-CD3 zeta(28Z)を含む断片F3-28ZおよびCD28a-CD28b-CD137-CD3 zeta(28BBZ)を含む断片F3-28BBZ配列はそれぞれ特許出願201310164725.Xにおける配列番号27、配列番号28、配列番号29および配列番号30に相応するプラスミドを鋳型とし、プライマー対のPRRL-CD8hinge(配列番号42、プライマー配列:accacgacgccagcgccg)およびR3R(配列番号43、プライマー配列:aatccagaggttgattgtcgacctagcgagggggcagggcctgc)でPCR増幅して得られた。
【0088】
2、核酸断片のアセンブリ
それぞれ前記のように得られたF1核酸断片を、等モルのP7D4 scFv核酸断片および等モルのF3-δZまたはF3-ZまたはF3-BBZまたはF3-28ZまたはF3-28BBZ核酸片段と、3つの断片のアセンブリのPCRを行い、アセンブリ条件は予備変性:94℃、4min、変性:94℃、40s、アニーリング:60℃、40s、伸長:68℃、140sで、5サイクルを行った後、68℃、10minで伸長させ、DNAポリメラーゼおよびフォワードプライマーPWXLFとリバースプライマーR3R(CD8-CD3δ zetaに相応するリバースプライマーはδZ reで、ほかのリバースプライマーはR3Rである)を補充した後、PCR増幅を30サイクル行い、増幅条件は予備変性:94℃、4min、変性:94℃、40s、アニーリング:60℃、40s、伸長:68℃、140sで、30サイクルを行った後、68℃、10minで伸長させた。本実施例で構築されたF1断片、P7D4 scFvまたはP7D4突然変異体scFv、および各F3断片からなる断片はCAR断片と略し、増幅して得られた断片はそれぞれ
P7D4 scFv-δZ (配列番号44)、
P7D4 scFv-Z (配列番号45)、
P7D4 scFv-BBZ (配列番号46)、
P7D4 scFv-28Z (配列番号47)、
P7D4 scFv-28BBZ (配列番号48)という。
【0089】
3.レンチウイルスプラスミドベクターの構築
本実施例で構築されたF1断片、P7D4 scFv、およびF3断片からなる断片(CAR断片と略す)を制限酵素MluI/SalIで二重酵素切断し、同様に二重酵素切断されたpRRLSIN-cPPT.EF-1α-EGFP.WPREベクターに連結することによって、各キメラ抗原受容体を発現するレンチウイルスベクターpRRLSIN-cPPT.EF-1α-CARを構築した。構築できたベクターはMluI/SalIの酵素切断によって同定され、そして配列決定によって正確と確認された後、レンチウイルスのパッケージングに使用した。前記のように、関連CAR遺伝子は転写・翻訳されてペプチド鎖になり、CD8αシグナルペプチドの誘導によって抗GPC3キメラ抗原受容体を細胞膜に局在化させた。
以上の構築によって、それぞれ5つのCARポリペプチド配列を得たが、
P7D4-δZ (配列番号49)、
P7D4-Z (配列番号50)、
P7D4-BBZ (配列番号51)、
P7D4-28Z (配列番号52)、
P7D4-28BBZ (配列番号53)という。
【0090】
4.プラスミドの293Tへの形質移入およびレンチウイルスのパッケージング
6~10代目まで培養したHEK-293T細胞(ATCC:CRL-11268)を10 cmシャーレに6×106の密度で接種し、37℃、5% CO2で一晩培養し、形質移入への使用に備えた。培地は10%牛胎児血清含有DMEM(いずれもLife社から購入)である。
形質移入の手順は以下の通りである。
4.1 A液の調製:5.2 μgの各目的遺伝子プラスミドpRRLSIN-cPPT.EF-1α-CARを、それぞれ6.2 μgのパッケージングプラスミドpMDLg RREとpRSV-REV、および2.4 μgのエンベローププラスミドpCMV-VSV-Gとともに、800 μLの無血清DMEM培養液に懸濁させ、均一に混合した。
4.2 B液の調製:60μgのPEI(ポリエチレンイミン1μg/μl、Polysciences社から購入)を800μLの無血清DMEM培養液に溶解させ、軽く均一に混合し、室温で5minインキュベートした。
4.3 形質移入複合体の形成:A液をB液に入れて軽く混合し、入れた後すぐボルテックスで混合するか軽く均一に混合し、室温で20minインキュベートした。
4.4 1.6mLの形質移入複合体をHEK-293T細胞に滴下し、4~5時間後、2%FBSのDMEM培地で形質移入の293T細胞の液置換を行った。
【0091】
形質移入から72 hインキュベートした後、0.45 μmのフィルター(Millipore社から購入)でろ過してウイルスを収集し、その後Beckman Optima L-100XP超遠心機で28000 rpm、4℃で2時間遠心し、遠心上清を捨て、遠心で得られた沈殿を原液体積の1/10~1/50のAIM-V培養液(Life社から購入)で再懸濁させ、100 μL/管で分注して-80℃で凍結保存し、ウイルスの滴定またはT細胞への感染に備えた。
【0092】
実施例7.CTL細胞への組み換えレンチウイルスの感染
健常者の末梢血から密度勾配遠心法によってヒト末梢血単核球(上海市血液センターから提供)を得、約2×106/mLの密度でAIM-Vリンパ球培地(Invitrogen社から購入)を入れて培養し、そして細胞:磁気ビーズの比率が1:1になるように抗CD3およびCD28抗体で被覆された磁気ビーズ(Invitrogen社から購入)を入れ、同時に最終濃度300 U/mLの組換えヒトIL-2(上海華新生物高技術有限公司)を入れて48 h刺激培養した後、上記組み換えレンチウイルス(MOI≒10)でT細胞を感染した。感染された細胞を一日おきに5×105/mLの密度で継代するとともに、リンパ球培養液に最終濃度300 U/mLの組換えヒトIL-2を追加した。
【0093】
感染されたCTL細胞は、培養の8日目にフローサイトメトリーによって異なる各キメラ抗原受容体の発現を検出した。His-tagの付いたヒトGPC3組換えタンパク質(上海鋭勁生物技術有限公司から購入)でFACS検出を行った。まず、細胞を当該タンパク質(50 ug/ml)とともに1 hrインキュベートし、D-PBSで2回洗浄した後、抗His-tagの抗体(1:50希釈、上海睿星生物技術有限公司から購入)を入れ、1hrインキュベートした後、D-PBSで2回洗浄した後、FITCで標識されたヒツジ抗ネズミ二次抗体(上海康成生物技術有限公司)を入れ、50 minインキュベートし、D-PBSで3回洗浄した後、FACS検出を行った。感染されていないT細胞を陰性対照とし、異なるキメラ抗原受容体を発現するウイルスでT細胞を感染した陽性率は表4に示す。当該陽性率の結果から、レンチウイルス感染方法によってある程度の陽性率を有するCAR+ T細胞が得られることが分かった。
【表4】
【0094】
T細胞は、それぞれ異なるキメラ抗原受容体でパッケージングされたウイルスにそれぞれ感染された後、細胞密度5×105/mlで一日おきに継代培養し、カウントし、そして継代した細胞培養液にIL-2を追加し(最終濃度300 U/ml)、培養の11日目に約100~1000倍増幅したが、異なるキメラ抗原受容体を発現するT細胞は体外である程度の増幅が可能であることが示され、その後の体外毒性試験および体内試験に保障を与えた。
【0095】
実施例8.キメラ抗原受容体を発現するT細胞の体外毒性効果実験
体外毒性実験で使用された材料は以下の通りである。
表5に示されたGPC3陽性肝臓癌細胞(HepG2とHuh-7)およびGPC3陰性肝臓癌細胞(SK-HEP-1)を標的細胞とし、エフェクター細胞は実施例7で検証された体外で12日間培養され、FACSによってキメラ抗原受容体の発現が検出された陽性細胞をキメラ抗原受容体陽性(CAR+)のCTLと記し、エフェクター細胞対標的細胞比は場合によってそれぞれ3:1、1:1および1:3とし、標的細胞数は10000個/ウェルとし、異なるエフェクター細胞対標的細胞比でエフェクター細胞を対応させた。各群ではいずれも重複ウェルを5つとし、5つの重複ウェルの平均値を取った。検出時間は18hであった。
ここで、各実験群および各対照群は以下の通りである。
各実験群:各標的細胞+異なるキメラ抗原受容体を発現するCTL。
コントロール群1:標的細胞最大放出LDH。
コントロール群2:標的細胞自発放出LDH。
対照群3:LDH自発放出のエフェクター細胞。
【0096】
検出方法:CytoTox 96非放射性細胞毒性検出キット(Promega社)で行われた。当該方法は比色法に基づいた検出方法で、51Cr放出法の代わりとして使用することができる。CytoTox 96R検出で定量的に乳酸脱水素酵素(LDH)を測定した。LDHは安定した細胞質酵素で、細胞が溶解する時に放出され、その放出形態は放射性解析における51Crの放出形態と基本的に同様である。放出されたLDH培地上清において、30分間カップリングする酵素反応によって検出することができ、酵素反応においてLDHは一種のテトラゾリド(INT)を赤色のホルマザン(formazan)に変換させることができる。生成した赤色産物の量は分解した細胞数に正比例した。具体的には、CytoTox 96非放射性細胞毒性検出キットの取扱説明書を参照する。
細胞毒性の計算式は以下の通りである。
【数1】
【0097】
具体的に、表5に示すように、本発明のP7D4の一本鎖抗体のCARはいずれも顕著なGPC3陽性肝臓癌細胞を殺傷する活性を有し、中では、第二世代および第三世代のP7D4 CAR T細胞は第一世代よりも抗腫瘍活性がやや強かった。また、すべてのCAR T細胞はGPC3陰性のSK-HEP-1陽性肝臓癌細胞のいずれにも殺傷活性がなかった。これらの結果から、P7D4は選択的にGPC3陽性の肝臓癌細胞に対し、有効な殺傷を行うことができることが示された。また、本発明のP7D4を発現する第一、二、三世代のCAR TはGPC3陽性腫瘍細胞にエフェクター細胞対標的細胞比勾配依存性を示し、すなわちエフェクター細胞対標的細胞比が高くなるほど、細胞の毒性作用が強くなる。
【表5】
【0098】
実施例9 Y035とGC33に基づいたCAR-T細胞の製造と比較
実施例6および7の操作を参照し、Y035の軽鎖可変領域および重鎖可変領域に基づき、それぞれY035-BBZ 、Y035-28ZおよびY035-28BBZの2種類のCAR-T細胞を製造し、GC33の軽鎖可変領域および重鎖可変領域に基づき、それぞれGC33-28ZおよびC33-28BBZの2種類のCAR-T細胞を製造し、対照とした。キメラ抗原受容体の各部分の連結順は表6に示す。
【表6】
【0099】
ここで、Y035-BBZのヌクレオチド配列は以下の通りである(配列番号85)。
gaggtgcagctggtgcagagcggcgccgaggtgaagaagcccggcgccagcgtgaaggtgagctgcaaggccagcggctacaccttcagcgactacgagatgcactgggtgcggcaggcccccggccagggcctggagtggatgggcgccatccaccccggcagcggcgacaccgcctacaaccagcggttcaagggccgggtgaccatcaccgccgacaagagcaccagcaccgcctacatggagctgagcagcctgcggagcgaggacaccgccgtgtactactgcgcccggttctacagctacgcctactggggccagggcaccctggtgaccgtgagcgccggtggaggcggttcaggcggaggtggttctggcggtggcggatcggacatcgtgatgacccagacccccctgagcctgcccgtgacccccggcgagcccgccagcatcagctgccggagcagccagagcctggtgcacagcaacggcaacacctacctgcagtggtacctgcagaagcccggccagagcccccagctgctgatctacaaggtgagcaaccggttcagcggcgtgcccgaccggttcagcggcagcggcagcggcaccgacttcaccctgaagatcagccgggtggaggccgaggacgtgggcgtgtactactgcagccagagcatctacgtgccctacaccttcggccagggcaccaagctggagatcaaacgtaccacgacgccagcgccgcgaccaccaacaccggcgcccaccatcgcgtcgcagcccctgtccctgcgcccagaggcgtgccggccagcggcggggggcgcagtgcacacgagggggctggacttcgcctgtgatatctacatctgggcgcccttggccgggacttgtggggtccttctcctgtcactggttatcaccctttactgcaaacggggcagaaagaaactcctgtatatattcaaacaaccatttatgagaccagtacaaactactcaagaggaagatggctgtagctgccgatttccagaagaagaagaaggaggatgtgaactgagagtgaagttcagcaggagcgcagacgcccccgcgtacaagcagggccagaaccagctctataacgagctcaatctaggacgaagagaggagtacgatgttttggacaagagacgtggccgggaccctgagatggggggaaagccgagaaggaagaaccctcaggaaggcctgtacaatgaactgcagaaagataagatggcggaggcctacagtgagattgggatgaaaggcgagcgccggaggggcaaggggcacgatggcctttaccagggtctcagtacagccaccaaggacacctacgacgcccttcacatgcaggccctgccccctcgc
【0100】
Y035-BBZのアミノ酸配列は以下の通りである(配列番号86)。
EVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFSDYEMHWVRQAPGQGLEWMGAIHPGSGDTAYNQRFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARFYSYAYWGQGTLVTVSAGGGGSGGGGSGGGGSDIVMTQTPLSLPVTPGEPASISCRSSQSLVHSNGNTYLQWYLQKPGQSPQLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCSQSIYVPYTFGQGTKLEIKRTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYKQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR
【0101】
Y035-28Zのヌクレオチド配列は以下の通りである(配列番号87)。
gaggtgcagctggtgcagagcggcgccgaggtgaagaagcccggcgccagcgtgaaggtgagctgcaaggccagcggctacaccttcagcgactacgagatgcactgggtgcggcaggcccccggccagggcctggagtggatgggcgccatccaccccggcagcggcgacaccgcctacaaccagcggttcaagggccgggtgaccatcaccgccgacaagagcaccagcaccgcctacatggagctgagcagcctgcggagcgaggacaccgccgtgtactactgcgcccggttctacagctacgcctactggggccagggcaccctggtgaccgtgagcgccggtggaggcggttcaggcggaggtggttctggcggtggcggatcggacatcgtgatgacccagacccccctgagcctgcccgtgacccccggcgagcccgccagcatcagctgccggagcagccagagcctggtgcacagcaacggcaacacctacctgcagtggtacctgcagaagcccggccagagcccccagctgctgatctacaaggtgagcaaccggttcagcggcgtgcccgaccggttcagcggcagcggcagcggcaccgacttcaccctgaagatcagccgggtggaggccgaggacgtgggcgtgtactactgcagccagagcatctacgtgccctacaccttcggccagggcaccaagctggagatcaaacgtaccacgacgccagcgccgcgaccaccaacaccggcgcccaccatcgcgtcgcagcccctgtccctgcgcccagaggcgtgccggccagcggcggggggcgcagtgcacacgagggggctggacttcgcctgtgatttttgggtgctggtggtggttggtggagtcctggcttgctatagcttgctagtaacagtggcctttattattttctgggtgaggagtaagaggagcaggctcctgcacagtgactacatgaacatgactccccgccgccccgggccaacccgcaagcattaccagccctatgccccaccacgcgacttcgcagcctatcgctccagagtgaagttcagcaggagcgcagacgcccccgcgtaccagcagggccagaaccagctctataacgagctcaatctaggacgaagagaggagtacgatgttttggacaagagacgtggccgggaccctgagatggggggaaagccgcagagaaggaagaaccctcaggaaggcctgtacaatgaactgcagaaagataagatggcggaggcctacagtgagattgggatgaaaggcgagcgccggaggggcaaggggcacgatggcctttaccagggtctcagtacagccaccaaggacacctacgacgcccttcacatgcaggccctgccccctcgc
【0102】
Y035-28Zのアミノ酸配列は以下の通りである(配列番号88)。
EVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFSDYEMHWVRQAPGQGLEWMGAIHPGSGDTAYNQRFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARFYSYAYWGQGTLVTVSAGGGGSGGGGSGGGGSDIVMTQTPLSLPVTPGEPASISCRSSQSLVHSNGNTYLQWYLQKPGQSPQLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCSQSIYVPYTFGQGTKLEIKRTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPQRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR
【0103】
Y035-28BBZのヌクレオチド配列は以下の通りである(配列番号89)。
gaggtgcagctggtgcagagcggcgccgaggtgaagaagcccggcgccagcgtgaaggtgagctgcaaggccagcggctacaccttcagcgactacgagatgcactgggtgcggcaggcccccggccagggcctggagtggatgggcgccatccaccccggcagcggcgacaccgcctacaaccagcggttcaagggccgggtgaccatcaccgccgacaagagcaccagcaccgcctacatggagctgagcagcctgcggagcgaggacaccgccgtgtactactgcgcccggttctacagctacgcctactggggccagggcaccctggtgaccgtgagcgccggtggaggcggttcaggcggaggtggttctggcggtggcggatcggacatcgtgatgacccagacccccctgagcctgcccgtgacccccggcgagcccgccagcatcagctgccggagcagccagagcctggtgcacagcaacggcaacacctacctgcagtggtacctgcagaagcccggccagagcccccagctgctgatctacaaggtgagcaaccggttcagcggcgtgcccgaccggttcagcggcagcggcagcggcaccgacttcaccctgaagatcagccgggtggaggccgaggacgtgggcgtgtactactgcagccagagcatctacgtgccctacaccttcggccagggcaccaagctggagatcaaacgtaccacgacgccagcgccgcgaccaccaacaccggcgcccaccatcgcgtcgcagcccctgtccctgcgcccagaggcgtgccggccagcggcggggggcgcagtgcacacgagggggctggacttcgcctgtgatttttgggtgctggtggtggttggtggagtcctggcttgctatagcttgctagtaacagtggcctttattattttctgggtgaggagtaagaggagcaggctcctgcacagtgactacatgaacatgactccccgccgccccgggccaacccgcaagcattaccagccctatgccccaccacgcgacttcgcagcctatcgctccaaacggggcagaaagaaactcctgtatatattcaaacaaccatttatgagaccagtacaaactactcaagaggaagatggctgtagctgccgatttccagaagaagaagaaggaggatgtgaactgagagtgaagttcagcaggagcgcagacgcccccgcgtaccagcagggccagaaccagctctataacgagctcaatctaggacgaagagaggagtacgatgttttggacaagagacgtggccgggaccctgagatggggggaaagccgcagagaaggaagaaccctcaggaaggcctgtacaatgaactgcagaaagataagatggcggaggcctacagtgagattgggatgaaaggcgagcgccggaggggcaaggggcacgatggcctttaccagggtctcagtacagccaccaaggacacctacgacgcccttcacatgcaggccctgccccctcgc
【0104】
Y035-28BBZのアミノ酸配列は以下の通りである(配列番号90)。
EVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFSDYEMHWVRQAPGQGLEWMGAIHPGSGDTAYNQRFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARFYSYAYWGQGTLVTVSAGGGGSGGGGSGGGGSDIVMTQTPLSLPVTPGEPASISCRSSQSLVHSNGNTYLQWYLQKPGQSPQLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCSQSIYVPYTFGQGTKLEIKRTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACDFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPQRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR
【0105】
GPC3陽性肝臓癌細胞Huh-7を標的細胞として使用し、実施例8で使用された体外毒性実験方法を参照して体外テストを行い、エフェクター細胞対標的細胞比が1:3である場合、Y035-28ZおよびY035-28BBZのHuh-7対する殺傷率は共に35%以上に達したが、GC33-28Zの殺傷率は6%だけで、GC33-28BBZの殺傷率は23%だけで、エフェクター細胞対標的細胞比が1:1である場合、Y035-28ZのHuh-7に対する殺傷率は60%以上に達したが、GC33-28Zの殺傷率は22%だけで、以上の結果から、本出願のY035-CAR T細胞の細胞殺傷活性がGC33-CAR T細胞よりも顕著に優れたことが示された。
【0106】
実施例10 二重特異性抗体BiTEの製造
(1)Y035一本鎖抗体のヌクレオチド配列の製造
対数増殖期までモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞株を培養した時、細胞計数を行い、1×107のハイブリドーマ細胞株を取った。TRIzolR Plus RNA精製キット(Invitrogen、12183-555)の説明書に従い、細胞沈殿から全RNAを抽出した。
a. cDNAの逆転写
ハイブリドーマ細胞の全RNAを鋳型とし、High capacity RNA to cDNA kit(Invitrogen、4387406)によって、説明書に従って逆転写してcDNAを合成した。
b. 5'-RACE法による可変領域の増幅
cDNAを鋳型とし、5'-Full RACE kit(TAKARA、D315)によって、プライマーtgctttggtttccaggtgcaagatgtgaggtgcagctggtgcaga(配列番号91)およびプライマーTATCGGATCCACCACCTCCACGTTTGATCTCCAGCTTGGTG(配列番号92)で増幅した。PCR産物を1.5%アガロースゲル電気泳動によって分離した後、得られたPCR産物はY035一本鎖抗体の核酸である。
【0107】
(2)CD3一本鎖抗体の核酸配列の構築
特許201310025302.Xで公開された抗EpCAM/CD3二重特異性抗体を鋳型とし、プライマー(配列番号93、gatatcaaactgcagcagtcag)およびプライマー(配列番号94、GAGAGGGAGTACTCACCCCAAC)でPCRを行い、具体的な反応はKOD PLUS酵素の説明書を参照し、ゲルを回収して精製し、得られたPCR産物はCD3一本鎖抗体の核酸である。
【0108】
(3)NheI酵素切断部位の導入
ベクターPIHを鋳型とし、プライマー(ggctaactagagaacccactgc、配列番号95)およびPH-R(ACATCTTGCACCTGGAAACCAAAGC、配列番号96)でPCRを行い、具体的な反応はKOD PLUS酵素の説明書を参照し、ゲルを回収してPCR産物を精製し、NheI酵素切断の付いた小さい断片を得た。
【0109】
(4)Y035/CD3二重特異性抗体のコード配列核酸の構築
工程(1)、(2)、(3)で得られたPCR産物に対してオーバーラップPCRを行い、プライマー(配列番号95)およびプライマー(配列番号92)でPCRを行い、ゲルを回収してPCR産物を精製し、すなわち、Y035/CD3二重特異抗体のコード配列(配列番号97)で、配列は以下の通りである。
gaggtgcagctggtgcagagcggcgccgaggtgaagaagcccggcgccagcgtgaaggtgagctgcaaggccagcggctacaccttcagcgactacgagatgcactgggtgcggcaggcccccggccagggcctggagtggatgggcgccatccaccccggcagcggcgacaccgcctacaaccagcggttcaagggccgggtgaccatcaccgccgacaagagcaccagcaccgcctacatggagctgagcagcctgcggagcgaggacaccgccgtgtactactgcgcccggttctacagctacgcctactggggccagggcaccctggtgaccgtgagcgccggtggaggcggttcaggcggaggtggttctggcggtggcggatcggacatcgtgatgacccagacccccctgagcctgcccgtgacccccggcgagcccgccagcatcagctgccggagcagccagagcctggtgcacagcaacggcaacacctacctgcagtggtacctgcagaagcccggccagagcccccagctgctgatctacaaggtgagcaaccggttcagcggcgtgcccgaccggttcagcggcagcggcagcggcaccgacttcaccctgaagatcagccgggtggaggccgaggacgtgggcgtgtactactgcagccagagcatctacgtgccctacaccttcggccagggcaccaagctggagatcaaacgtggaggtggtggatccgatatcaaactgcagcagtcaggggctgaactggcaagacctggggcctcagtgaagatgtcctgcaagacttctggctacacctttactaggtacacgatgcactgggtaaaacagaggcctggacagggtctggaatggattggatacattaatcctagccgtggttatactaattacaatcagaagttcaaggacaaggccacattgactacagacaaatcctccagcacagcctacatgcaactgagcagcctgacatctgaggactctgcagtctattactgtgcaagatattatgatgatcattactgccttgactactggggccaaggcaccactctcacagtctcctcagtcgaaggtggaagtggaggttctggtggaagtggaggttcaggtggagtcgacgacattcagctgacccagtctccagcaatcatgtctgcatctccaggggagaaggtcaccatgacctgcagagccagttcaagtgtaagttacatgaactggtaccagcagaagtcaggcacctcccccaaaagatggatttatgacacatccaaagtggcttctggagtcccttatcgcttcagtggcagtgggtctgggacctcatactctctcacaatcagcagcatggaggctgaagatgctgccacttattactgccaacagtggagtagtaacccgctcacgttcggtgctgggaccaagctggagctgaaa
【0110】
(5)Y035/CD3を標的とする二重特異性抗体の発現と精製
Y035/CD3 BiTEのプラスミドを真核細胞293Fに一過性形質移入を行い、細胞の形質移入の過程は293 fectin説明書を参照した。培養上清を金属アフィニティークロマトグラフィーカラムNiSepharoseTM 6 Fast Flow (GE Healthcare Bio-Science社から購入)によって精製し、Y035/CD3の二重特異性抗体(配列番号98)を得、配列は以下の通りである。
EVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFSDYEMHWVRQAPGQGLEWMGAIHPGSGDTAYNQRFKGRVTITADKSTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCARFYSYAYWGQGTLVTVSAGGGGSGGGGSGGGGSDIVMTQTPLSLPVTPGEPASISCRSSQSLVHSNGNTYLQWYLQKPGQSPQLLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDVGVYYCSQSIYVPYTFGQGTKLEIKRGGGGSDIKLQQSGAELARPGASVKMSCKTSGYTFTRYTMHWVKQRPGQGLEWIGYINPSRGYTNYNQKFKDKATLTTDKSSSTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARYYDDHYCLDYWGQGTTLTVSSVEGGSGGSGGSGGSGGVDDIQLTQSPAIMSASPGEKVTMTCRASSSVSYMNWYQQKSGTSPKRWIYDTSKVASGVPYRFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGAGTKLELK
【0111】
GPC3発現陽性のHepG2およびSK-Hep-1 GPC3を標的細胞として選択し、Y035/CD3 BiTEの体外における細胞毒性作用を研究したところ、結果から、溶解度が0.1ng/mlのY035/CD3 BiTEのHepG2に対する細胞殺傷作用は約60%に達し、SK-Hep-1 GPC3に対する細胞作用は約40%に達したことが示された。CN103833852Aに記載のGPC3/CD3 BiTEと比べ、細胞毒性は顕著に増加した。
【0112】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、この分野の技術者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の様態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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