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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】細胞凝集塊を解離させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20240626BHJP
   C12M 1/02 20060101ALN20240626BHJP
【FI】
C12N5/07
C12M1/02 A
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2018539858
(86)(22)【出願日】2017-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 CA2017050073
(87)【国際公開番号】W WO2017127921
(87)【国際公開日】2017-08-03
【審査請求日】2019-12-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】62/287,103
(32)【優先日】2016-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518264871
【氏名又は名称】センター フォー コマーシャリゼーション オブ リジェネレイティブ メディスン
【氏名又は名称原語表記】CENTRE FOR COMMERCIALIZATION OF REGENERATIVE MEDICINE
【住所又は居所原語表記】661 University Avenue,Suite 1002,Toronto,Ontario M5G 1M1 Canada
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ティミンズ,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】チャン,レスリー
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】中村 浩
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/106141号(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0221476号明細書(US,A1)
【文献】特開2014-094005号公報(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0344598号明細書(US,A1)
【文献】特表2018-501804号公報(JP,A)
【文献】国際公開第2009/050694号(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/113369号(WO,A1)
【文献】Appl.Microbiol.Biotechnol.,2006年,Vol.72,pp.1144-1151
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
C12M1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌リアクター内で細胞凝集塊を解離させる方法であって、
- 攪拌リアクター内に細胞凝集塊を含み容積が少なくとも500mLである細胞培養物を供給すること;
- 該細胞凝集塊を解離試薬と接触させること;および
- 該細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、該細胞凝集塊に前記攪拌リアクターによって発生される解離力を4時間以下加えること
を含み、
該細胞培養物の濃縮および/または洗浄を手作業で行わないことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記接触が、攪拌リアクター内で前記解離力を加える前に、または加えると同時に起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触が、攪拌リアクター内で前記解離力を加えた後に起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記解離力を、スターラー、インペラー、パドルもしくはホイールの動きによって、揺動によって、または攪拌リアクターに強制的に送り込まれる流体の流れによって発生させる、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記供給する工程が、前記細胞培養物を攪拌リアクター内で細胞を培養する攪拌速度に曝すことを含み、前記解離力を発生する攪拌速度が該細胞を培養する攪拌速度の50%~500%である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記解離力を発生する攪拌速度と前記細胞を培養する攪拌速度が同等である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞凝集塊を前記解離試薬に曝す前に前記細胞培養物を洗浄することをさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記解離試薬を中和および/または希釈することをさらに含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記解離した細胞を洗浄することをさらに含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
閉鎖系内で実施される、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記攪拌リアクターが、攪拌槽型リアクター、波動混合/揺動リアクター、上下攪拌バイオリアクター、スピナーフラスコ、振とうフラスコ、振とうバイオリアクター、パドルミキサーまたは垂直ホイールバイオリアクターである、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記攪拌リアクターが、攪拌槽型リアクターである、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記細胞培養物の容積が500mL~2000Lである、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記細胞培養物の容積が1L~1,000Lである、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記細胞培養物が1×10個/mL~1×1015個/mLの細胞を含む、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
解離後の凝集塊の細胞生存率が50%~100%である、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
解離後の凝集塊の細胞生存率が90%よりも高い、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
解離後の凝集塊に含まれる凝集塊が、供給された細胞凝集塊と比べて少なくとも50%小さくなっている、請求項1~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
解離後の凝集塊が単一に分離された細胞を含む、請求項1~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
供給された細胞凝集塊の直径が150μm~800μmである、請求項1~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
供給された細胞凝集塊の直径が200μm~400μmである、請求項1~19のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記細胞凝集塊が多能性(pluripotent)幹細胞を含む、請求項1~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記細胞凝集塊が多能性(multipotent)幹細胞および/または前駆細胞を含む、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記細胞凝集塊が体細胞を含む、請求項1~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
発生させる解離力が、レイノルズ数>1000において、最大の細胞凝集塊のサイズ未満であり、かつ細胞凝集塊内の単一細胞の直径より大きなコルモゴロフ渦サイズを含む、請求項1~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
細胞を継代するための方法であって、
- 第1の攪拌リアクター内に細胞凝集塊を含み容積が少なくとも500mLである細胞培養物を供給すること;
- 該細胞凝集塊を解離試薬と接触させること;
- 該細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、該細胞凝集塊に前記攪拌リアクターによって発生される解離力を4時間以下加えること;および
- 解離後の細胞凝集塊の少なくとも一部を培養し、それによって細胞を継代すること
を含み、
該細胞培養物の濃縮および/または洗浄を手作業で行わないことを特徴とする方法。
【請求項27】
前記解離後の凝集塊の一部が第1の攪拌リアクター内で培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記解離後の凝集塊の一部が第2の攪拌リアクター内で培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
第2の攪拌リアクターが第1の攪拌リアクターとは異なる種類かつ/または異なるサイズの攪拌リアクターである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
第2の攪拌リアクターが第1の攪拌リアクターよりも大きい、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
攪拌リアクター内で幹細胞または前駆細胞の集団から、解離した分化細胞を作製する方法であって、
- 攪拌リアクター内に、幹細胞または前駆細胞の集団を含み容積が少なくとも500mLである細胞培養物を供給すること;
- 分化に適した条件下で攪拌リアクター内の幹細胞および/または前駆細胞を分化細胞へと分化させ、分化細胞凝集塊を得ること;
- 該分化細胞凝集塊を解離試薬と接触させること;および
- 該分化細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、該分化細胞凝集塊に前記攪拌リアクターによって発生される解離力を4時間以下加えること
を含み、
該細胞培養物の濃縮および/または洗浄を手作業で行わないことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
先行出願の相互参照
本出願は、パリ条約の下、2016年1月26日に出願された米国仮出願62/287103号に基づく優先権を主張するものであり、該出願は参照によりその全体が本明細書に記載されたものとして援用される。
【0002】
本明細書は全体として、懸濁液中で細胞凝集塊を培養することに関する。より具体的には、本明細書は、攪拌リアクター内で細胞凝集塊を解離させることに関する。
【背景技術】
【0003】
細胞凝集塊の浮遊培養は、細胞集団を増殖させるためのよく知られた技術であり、細胞集団としては、例えば多能性(pluripotent)幹細胞、多能性(multipotent)幹細胞、および種々のさらに分化したかつ/または最終分化した細胞型などが挙げられる。浮遊培養による細胞増殖の成功は、例えば、マウス1,2,3およびヒト4,5の胚性幹細胞(ESC)ならびにマウス6,7およびヒト8-10の人工多能性幹細胞(iPSC)において示されている。凝集塊の浮遊培養に適したさらなる細胞型としては、例えば、神経幹細胞および/または神経前駆細胞11,12、間葉系幹細胞18、ならびに心筋細胞13のような分化細胞などが挙げられる。
【0004】
従来、細胞凝集塊の解離は、解離液とピペッティングとを使用して手作業で細胞凝集塊を崩すことにより行われてきた。ピペットを用いた細胞凝集塊の解離には時間がかかり、明確な定義がなく、また十分な制御ができない。手作業による細胞凝集塊の解離の結果は操作者の技能に依存し、少なくとも細胞の回収率と生存率に関しては変動が大きい。
【0005】
一般に、細胞凝集塊の浮遊培養は、研究開発での使用に適した規模で行われてきた。より大きな規模での細胞培養が、例えばプロセス開発、細胞の商業生産、臨床試験用の細胞増殖および/または細胞バンクなどのために必要とされている。懸濁液中での細胞の商業生産が増加していることから、より大きな規模で細胞凝集塊を解離させる必要も増加するであろう。バイオリアクターから細胞を回収するために、手作業による細胞凝集塊の解離が適用されてきた7,10,13,14。しかしながら、手作業による細胞凝集塊の解離が有効であるのは、少量の液体(例えば約25mL未満)中の少数の細胞(例えば約2×10個未満)への適用に限られる。
【0006】
上記の欠点の1以上を解消または緩和することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、攪拌リアクター内で細胞凝集塊を解離させる方法が提供される。該方法は、攪拌リアクター内に細胞凝集塊を含む細胞培養物を供給すること;該細胞凝集塊を解離試薬と接触させること;前記攪拌リアクター内で解離力を発生させること;および接触後の細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、接触後の細胞凝集塊を発生した解離力に曝し、それによって前記攪拌リアクター内で該細胞凝集塊を解離させることを含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記接触は、攪拌リアクター内で前記解離力を発生させる前に、または実質的に発生と同時に起こる。いくつかの実施形態において、前記接触は、攪拌リアクター内で前記解離力を発生させた後に起こる。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記解離力は、スターラー、インペラー、パドルもしくはホイールの動きによって、揺動によって、または攪拌リアクターに強制的に送り込まれる流体の流れによって発生させる。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記供給工程は、前記細胞培養物を攪拌リアクター内で培養力に曝すことを含み、ここで前記解離力は該培養力の約50%~500%である。いくつかの実施形態において、前記解離力と前記培養力はほぼ同等である。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記方法は、前記細胞凝集塊を前記解離試薬に曝す前に前記細胞培養物を洗浄することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、解離試薬を中和および/または希釈することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、解離した細胞を洗浄することをさらに含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記方法は、閉鎖系内で実施される。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクターは、攪拌槽型リアクター、波動混合/揺動リアクター、上下攪拌バイオリアクター、スピナーフラスコ、振とうフラスコ、振とうバイオリアクター、パドルミキサーまたは垂直ホイールバイオリアクターであり、好ましくは攪拌槽型リアクターである。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記細胞培養物の容積は約50mL~2000L、好ましくは約1L~1,000Lである。いくつかの実施形態において、前記細胞培養物は約1×10個/mL~1×1015個/mLの細胞を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、解離後の凝集塊の細胞生存率は約50%~100%、好ましくは90%よりも高い。いくつかの実施形態において、解離後の凝集塊に含まれる凝集塊は、供給された細胞凝集塊と比べて少なくとも50%小さくなっている。いくつかの実施形態において、解離後の凝集塊は実質的に単一に分離された細胞を含む。いくつかの実施形態において、前記供給された細胞凝集塊の直径は約150μm~800μmであり、好ましくは約200μm~400μmである。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記細胞凝集塊は、多能性(pluripotent)幹細胞を実質的に含む。いくつかの実施形態において、前記細胞凝集塊は、多能性(multipotent)幹細胞および/または前駆細胞を実質的に含む。いくつかの実施形態において、前記細胞凝集塊は、体細胞を実質的に含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、発生させる解離力は、レイノルズ数>1000において、最大の細胞凝集塊のサイズ未満であり、かつ細胞凝集塊内の単一細胞の直径より大きなコルモゴロフ渦サイズを含む。いくつかの実施形態において、前記条件は、約2分~24時間、好ましくは約10分~4時間である時間を含む。
【0018】
一態様において、細胞を継代する方法が提供される。該方法は、第1の攪拌リアクター内に細胞凝集塊を含む細胞培養物を供給すること;該細胞凝集塊を解離試薬と接触させること;前記攪拌リアクター内で解離力を発生させること;接触後の細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、接触後の細胞凝集塊を発生した解離力に曝し、それによって前記第1の攪拌リアクター内で該細胞凝集塊を解離させること;および解離後の細胞凝集塊の少なくとも一部を培養し、それによって細胞を継代することを含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記解離後の凝集塊の一部は、第1の攪拌リアクター内で培養される。いくつかの実施形態において、前記解離後の凝集塊の一部は、第2の攪拌リアクター内で培養される。いくつかの実施形態において、第2の攪拌リアクターは第1の攪拌リアクターとは異なる種類かつ/または異なるサイズの攪拌リアクターであり、好ましくは、第2の攪拌リアクターは第1の攪拌リアクターよりも大きい。
【0020】
一態様において、攪拌リアクター内で幹細胞または前駆細胞の集団から、解離した分化細胞を作製する方法が提供される。該方法は、攪拌リアクター内に幹細胞または前駆細胞の集団を含む細胞培養物を供給すること;分化に適した条件下で攪拌リアクター内の幹細胞および/または前駆細胞を分化細胞へと分化させること;該分化細胞凝集塊を解離試薬と接触させること;前記攪拌リアクター内で解離力を発生させること;接触後の分化細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、接触後の分化細胞凝集塊を発生した解離力に曝し、それによって前記攪拌リアクター内で解離した分化細胞を作製することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の特徴は、添付の図面を参照する以下の詳細な説明により、さらに明らかになる。
【0022】
図1】本発明により提供される、細胞凝集塊を解離させる方法の様々な特徴および実施形態を示す(スケールバー:500μm)。
【0023】
図2】本発明により提供される方法の一実施形態による、細胞凝集塊の経時的な解離を示す。
【0024】
図3】本発明により提供される方法の一実施形態に付された、2種類のhPSC細胞株の評価を示す。HES2(黒)およびESI-17(灰色)hPSCを、ミニバイオリアクターMiniBio 500内で連続して5継代増殖させたが、(A)増殖率、生存率;(B)多分化能;および(C)核型(左:HES2 46,XX、右:ESI-17 46,XX)への悪影響はなかった。
【0025】
図4】本発明により提供される方法の一実施形態により作製され回収された心筋細胞の評価を示す。(A)cTnT細胞の接着効率が解離の影響を受けなかったことを示す。(B)心筋トロポニンT(cTnT)の発現が解離後も維持されたことを示す。
【0026】
図5】Ambr(登録商標)15バイオリアクター内で小さな凝集塊、中程度の凝集塊および大きな凝集塊を解離させた後の培養物の生存率を示す棒グラフである。(N=3,データは、平均値±標準偏差として示す)。
【0027】
図6】異なる大きさの凝集塊をAmbr(登録商標)15の容器内で解離させた際に生存細胞として残存していた細胞のパーセンテージを示す棒グラフである。(N=3,データは、平均値±標準偏差として示す)。
【0028】
図7】攪拌速度を変えてAmbr(登録商標)15の容器内で中程度の凝集塊を解離させた際に生存細胞として残存していた細胞のパーセンテージを示す棒グラフである。N=3,データは、平均値±標準偏差として示す;点線は、解離開始時の容器内の細胞密度を示す)。
【0029】
図8】3つの異なる様式のSTRにおける、細胞生存率、凝集塊残存率、回収率、および50%TrypLE(登録商標)Select/50%PBSによる解離までの時間を示す棒グラフである。N=3,データは、平均値±標準偏差として示す。
【0030】
図9】(A)解離前;および(B)Ambr(登録商標)15内で3時間のコラゲナーゼ解離を行った後の心筋細胞凝集塊の顕微鏡画像を示す(スケールバー:100μm)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
他で定義されない限り、本明細書で使用される科学技術用語はすべて、概して本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0032】
I.定義
【0033】
本明細書中、「凝集塊」および「細胞凝集塊」という語は、細胞同士の相互作用によって(例えば、互いへの生物学的接着によって)、細胞間の会合が生じている複数個の細胞を指す。生物学的接着は、例えば、インテグリン、免疫グロブリン、カドヘリン、セレクチンまたは他の細胞接着分子のような表面タンパク質を通じたものであってもよい。例えば、細胞が懸濁液中で自然に会合し、細胞間接着を形成すること(例えば、自己集合)によって凝集塊を形成したものであってもよく、あるいは、AggreWell(Stem Cell Technologies社)の技術、マルチウォールプレート内での遠心分離(スピンEB法)、懸滴または他の方法の使用によって細胞を強制的に凝集させたものであってもよい。いくつかの実施形態において、細胞凝集塊は実質的に均質(すなわち、主として同種の細胞を含有)であってもよい。いくつかの実施形態において、細胞凝集塊は非均質(すなわち、2種以上の細胞を含有)、例えば胚様体などであってもよい。
【0034】
本明細書中、「継代」および「継代する」という語は、接着細胞を継代培養するプロセスを指し、該プロセスでは、新鮮培地の添加によって細胞接着を解離させ、細胞密度(単位容積または単位面積当たりの細胞数)を低減させる。継代は、培養物中の細胞数を増加させたり、かつ/または培養物中の細胞株もしくは細胞の寿命を延ばしたりするために使用される技術である。
【0035】
本明細書中、「増殖」という語は、分化を伴う、あるいは伴わない細胞の増殖を指し、継代を行わない増殖、1回行う増殖、複数回行う増殖および/または連続継代増殖を含みうる。
【0036】
本明細書中、「解離させる」および「解離」という語は、凝集した細胞同士を分離させるプロセスを指す。例えば、解離は、凝集塊における細胞同士の相互作用および細胞と細胞外マトリックスとの細胞間相互作用が分断され、凝集塊内の細胞がばらばらになるものであってもよい。
【0037】
本明細書中、「解離した」および「解離した凝集塊」という語は、単一の細胞、または元の細胞凝集塊よりも小さな(すなわち、解離前の凝集塊よりも小さな)細胞凝集塊または細胞集団を指す。例えば、解離した凝集塊は、解離前の細胞凝集塊の約50%以下の表面積、容積または直径を有するものであってよい。
【0038】
本明細書中、「攪拌リアクター」および「攪拌バイオリアクター」という語は、細胞培養のための動的液体環境を提供するように構成された、閉鎖培養容器を指す。攪拌リアクターとしては、攪拌槽型バイオリアクター、波動混合/揺動バイオリアクター、上下攪拌バイオリアクター(すなわち、ピストン運動を含む攪拌リアクター)、スピナーフラスコ、振とうフラスコ、振とうバイオリアクター、パドルミキサー、垂直ホイールバイオリアクターなどが挙げられるが、これらに限定はされない。攪拌リアクターは、容積約2mL~20,000Lの細胞培養物を収容するよう構成されたものであってもよい。
【0039】
本明細書中、「解離試薬」という語は、例えば酵素および/またはキレート剤のような、細胞同士を分離させる1種以上の薬剤を含む溶液を指す。例えば、解離試薬は、細胞同士の結合および/または細胞外マトリックスタンパク質と細胞との結合を分断することによって、懸濁液中で凝集する細胞を解離させてもよい。例えば、解離試薬は、分子を捕捉(例えばカルシウム依存性接着分子を引き離すキレート化)することによって、細胞接着タンパク質間の結合の形成を弱めたり断ち切ったりするものであってもよく、タンパク質を切断するもの(例えば、トリプシンのようなセリンプロテアーゼ、コラゲナーゼ、ディスパーゼまたはパパイン)であってもよく、細胞表面分子が結合するような、あるいは細胞が内部に取り込まれるような、その他の細胞外マトリックス成分を切断するもの(例えばヒアルロニダーゼ)であってもよく、かつ/またはそのような結合分子を細胞表面から切断するものであってもよい(例えば、セリンプロテアーゼによるインテグリンの切断など)。
【0040】
本明細書中、「解離力」という語は、細胞の凝集塊を解離するために必要とされる物理的な力を指す。実施の際、細胞が懸濁されている液体(例えば、細胞培養培地)が対流することにより、前記解離力が細胞凝集塊に加えられる。この流れは、細胞凝集塊を収容するバイオリアクター容器システムに適用される攪拌の手段(例えば、1以上のスターラー、インペラー、パドル、ロッキングまたはホイールの動きによってもたらされる攪拌)によって生じるものであってもよく、該懸濁システムに入る強制的な(例えば、ポンプによる)流れによるものであってもよい。本発明により提供される方法を使用した細胞凝集塊の解離に必要な力の大きさ(すなわちサイズ、範囲または規模)は、所望の解離の程度および/または細胞凝集塊の組成(例えば細胞型)に依存しうる。いくつかの実施形態では、解離力およびそれが作用する長さスケール(すなわち効力の及ぶ距離)を、質量/エネルギー輸送現象および流体力学(例えばコルモゴロフの長さスケールおよびレイノルズ数、流体力学モデリング)を説明する方程式を用いて予測してもよい。いくつかの実施形態では、凝集塊の特定の集団に加えられる力の大きさおよび/または性質(例えば、断続的か連続的か)を、経験的に決定してもよい。
【0041】
II.攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法
【0042】
本明細書は全体として、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法に関する。驚くべきことに、発明者らは、攪拌リアクター内で細胞凝集塊を解離試薬と接触させ、さらに攪拌リアクター内で、例えばスターラー、インペラー、パドル、ロッキングもしくはホイールの動きによって、または強制的な流体の流れによって解離力を発生させて該細胞凝集塊に加えることで、細胞凝集塊の解離が達成可能であることを見出した。発明者らが知る限りでは、リアクター内で細胞凝集塊を解離させることを目的として一般的な攪拌リアクターによって生じた解離力と解離試薬とを組み合わせることを含む、細胞凝集塊を解離させるための方法やシステムについての記載は過去にない。
【0043】
これまで、細胞凝集塊の解離は、一般的には、解離溶液中で手作業(例えば、ピペッティング)によって行われていた。この方法では、解離試薬(典型的には酵素)と、懸濁液を繰り返しピペットチップの開口部を通過させることで得られる流体の力およびせん断力の組み合わせにより、細胞凝集塊を分解させる。この技術は、少なくとも細胞の回収と生存率の点において変動が大きくなる可能性があり、少量の液体(例えば約25mL未満)中の少数の細胞(例えば約2×10個未満)への適用においてのみ有効である。手作業での細胞凝集塊の解離にこのような短所があるにもかかわらず、この技術はバイオリアクターから回収される細胞に繰り返し適用されており7,10,13,14、そこでの細胞の解離は、1mL13および30mL14の溶液中、手作業で行われている。
【0044】
細胞凝集塊を解離させるためのいくつかの代替法が、検討され開発されている。例えば、毛細管流動装置は、毛細管の直径を通して細胞凝集塊にせん断応力を加えることによって細胞凝集塊の解離を誘導することが報告されており、このせん断応力は、解離試薬の非存在下で細胞凝集塊を解離させるのに十分であったとされている15。この毛細管流動装置に関する論文の著者らは、該方法において解離試薬を使用すべきでないことを強調している。この毛細管流動装置により、細胞凝集塊が解離するという結果が得られたが、解離した細胞の生存率は60パーセント未満であった15。また、閉鎖バイオリアクターシステム内での細胞凝集塊の解離を可能にするシステムおよび方法の開発の必要性も認識されていた。例えば、国際公開第2016/113369号パンフレットでは、この問題に対処するために、スライスグリッドに細胞凝集塊を通して切断し、より小さな凝集塊とすることが報告されている16。ロッキングプラットフォームバッグバイオリアクター内で多能性幹細胞凝集塊を閉鎖系継代する方法として、酵素による解離薬剤で細胞凝集塊を処理し、次いで、処理した細胞凝集塊を、サンプリングポートと浸漬管に接続されたシリンジ内へ吸引する方法17が報告されている。シリンジの開口部を通して細胞凝集塊を「吸引」することにより、該凝集塊を分解させるのに十分なせん断力が与えられる。
【0045】
毛細管流動に関する論文15では、解離試薬は回避すべきであることが示唆されているが、本発明により提供される解離方法は、それとは対照的に、解離試薬の使用を含む。解離試薬を用いた凝集塊の解離が困難であるのは、少なくとも、細胞の単層のみを分解して表面から分離すればよいという表面からの細胞の解離とは対照的に、細胞凝集塊の解離が、凝集塊の表面上に存在する細胞間のみならず凝集塊の中心部に存在する細胞同士の細胞間会合の解離をも必要とすることによる。また、細胞培養物の攪拌により、静的な浮遊培養と比べて、培養物中の栄養素および酸素の物質移動が改善されるかもしれない。しかしながら、攪拌によって、懸濁液中で増殖する細胞にストレスおよび/または損傷を与えるような流体力学が培養物内に生じうることもよく知られている。
【0046】
本発明の結果は、少なくとも、攪拌リアクター内で細胞凝集塊を解離試薬に接触させつつ、接触後の凝集塊を解離力に曝すことが、細胞凝集塊を解離させるのに十分であっただけでなく、いくつかの実施形態においては、細胞の生存率および/または収率に実質的に負の影響を及ぼさなかったという結果が予期せぬものであったことから、驚くべきものである。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、50%を超える、55%を超える、60%を超える、65%を超える、70%を超える、80%を超える、85%を超える、90%を超える、95%を超える、または96%を超えるレベルの細胞生存率を達成しつつ細胞凝集塊を解離させるために使用することができる。また、いくつかの実施形態において、毛細管流動装置やスライスグリッドのような、通常攪拌リアクター内に備わっていたり攪拌リアクターとともに提供されたりすることのないさらなる装置は、細胞凝集塊の解離には必要とされない。
【0047】
本明細書は、概して、攪拌リアクター内で細胞凝集塊を解離させる方法に関し、該方法は、
- 攪拌リアクター内に細胞凝集塊を含む細胞培養物を供給する工程;
- 該細胞凝集塊を解離試薬と接触させる工程;
- 前記攪拌リアクター内で解離力を発生させる工程;および
- 接触後の細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、接触後の細胞凝集塊を発生した解離力に曝す工程
を有する。
【0048】
いくつかの好ましい実施形態において、開示の方法は、大きな規模(例えば、約1L~1000L)での使用および/または閉鎖された攪拌リアクターシステム内での使用に適している。
【0049】
開示の方法におけるそれぞれの工程および該方法の様々な実施形態について、以下でさらに詳細に説明する。
【0050】
II(A):細胞凝集塊を含む細胞培養物の、攪拌リアクター内への供給
【0051】
細胞凝集塊を解離させるための前記方法は、細胞凝集塊と細胞培養培地を含む細胞培養物を攪拌リアクター内に供給することを含む。
【0052】
当業者であれば、細胞凝集塊を特定の種類の攪拌リアクター内で培養することが望ましい場合もあることを理解するであろう。例えば、ユーザは、特定の種類および/またはサイズおよび/または特定の種類のインペラーを有するリアクターにおける使用のために開発されたプロトコルを有するという理由から、細胞凝集塊の培養を特定の種類の攪拌リアクターで行うことを選択してもよい。また、ユーザは、特定の種類および/またはサイズおよび/または特定の種類のインペラーを有するリアクターが利用可能であるという理由から、または既存のワークフローに適するという理由から、細胞凝集塊の培養を特定の種類の攪拌リアクターで行うことを選択してもよい。本発明により提供される方法の1つの利点は、その実施形態のうちのいくつかにおいて、特定の種類(例えば、特定の形状、容積、インペラーの種類など)の攪拌リアクターの使用に限定されないことである。
【0053】
いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、攪拌槽型リアクター(STR)内で実施できる。いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、波動混合/揺動バイオリアクター内で実施できる。いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、上下攪拌リアクター内で実施できる。いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、バイオリアクタースピナーフラスコ内で実施できる。いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、振とうフラスコリアクター内で実施できる。いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、振とうバイオリアクター内で実施できる。いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、パドルミキサーリアクター内で実施できる。いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、垂直ホイールバイオリアクター内で実施できる。
【0054】
いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約20,000Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約2,000Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約200Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約100Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約50Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約20Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約10Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約50mL~約1Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約100mL~約10Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約100mL~約5Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約150mL~約1Lである。いくつかの実施形態において、前記攪拌リアクター中の培養容器の容積は、約1L~約1,000Lである。
【0055】
当業者であれば、1種の、または2種以上の異なる細胞型を含む細胞凝集塊を培養することが望ましい場合もあることを理解するであろう。本発明により提供される方法の1つの利点は、その実施形態のうちのいくつかにおいて、特定の細胞型や特定の種類(例えば、多能性か体細胞性か、均質であるか非均質であるか)の細胞凝集塊の使用に限定されないことである。
【0056】
攪拌浮遊培養において凝集塊としての細胞を培養することは、細胞集団、例えばマウスまたはヒトのES細胞、iPS細胞、神経幹細胞および/もしくは神経前駆細胞、または心筋細胞のような分化細胞を増殖させるための既知の技術である。
【0057】
開示の方法の1以上の実施形態における使用に適した細胞培養物には、様々な種類がある。例えば、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)またはヒト多能性幹細胞(hPSC)を含む成体幹細胞のような、凝集塊形態にある多能性幹細胞(PSC)を含む細胞培養物が、開示の方法における使用に適しているかもしれない。例えば、正常細胞および/または1以上の病的状態を示す細胞を含む成体の体細胞や最終分化細胞のような、凝集塊形態にある非多能性細胞が、本発明により提供される方法を用いた使用に適しているかもしれない。好ましい一実施形態では、本発明により提供される方法における使用に適した細胞培養物は、hPSC凝集塊を含む。好ましい一実施形態では、本発明により提供される方法における使用に適した細胞培養物は、ヒト心筋細胞凝集塊を含む。
【0058】
本発明により提供される方法における使用に適した細胞型には、以下に記載される細胞型の1以上が挙げられるが、これらに限定はされない:多能性幹細胞および/またはその子孫(例えば外胚葉性、内胚葉性、および中胚葉性子孫細胞);間葉系幹細胞、心臓細胞(例えば心筋細胞);筋骨格細胞(例えば軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、筋細胞、腱細胞);神経系細胞(例えば神経細胞、星状細胞、網膜色素上皮細胞(RPE細胞)、光受容体、大膠細胞);肝細胞(例えば肝細胞、胆管細胞);膵細胞(例えばβ細胞、α細胞);脂肪細胞(例えば白色脂肪、褐色脂肪およびベージュ脂肪);腎臓細胞(例えば有足細胞、導管細胞);ホルモン分泌細胞(例えば甲状腺細胞、副腎細胞、下垂体細胞);肺細胞(例えばクララ細胞、肺上皮細胞、肺胞細胞);皮膚細胞(例えば角化細胞、表皮細胞、基底細胞、有毛細胞)、または多能性細胞に由来しない前述の細胞のいずれか;間葉系幹細胞および/または前駆細胞;神経幹細胞および/または前駆細胞;繊維芽細胞;上皮細胞(例えば皮膚上皮、腸上皮);内皮細胞(例えばHUVEC、微小血管EC);ならびに間質細胞。
【0059】
上記の細胞型の維持に適した細胞培養培地は当技術分野で知られており、本発明により提供される方法における使用に適しうる。
【0060】
当業者であれば、特定のサイズの(例えば、特定の平均直径を有する)細胞凝集塊を培養することが望ましい場合もあることを理解するであろう。例えば、ユーザは、特定のサイズを有する細胞凝集塊の使用を必要とするプロトコルを有するという理由から、特定のサイズの細胞凝集塊を培養することを選択してもよい。本発明により提供される方法の1つの利点は、その実施形態のうちのいくつかにおいて、特定のサイズの細胞凝集塊(例えば、特定の平均凝集塊直径または平均凝集塊直径範囲を有する細胞集団)の使用に限定されないことである。
【0061】
いくつかの実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約150~800μmである凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。いくつかの実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約800μm以下である凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。いくつかの実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約600μm以下である凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。いくつかの実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約500μm以下である凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。いくつかの実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約400μm以下である凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。いくつかの実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約300μm以下である凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。いくつかの実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約200μm以下である凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。いくつかの実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約150μm以下である凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。好ましい実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約300~500μmである凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。好ましい実施形態において、解離前のサイズとして平均直径が約150~300μmである凝集塊を含む細胞培養物は、開示の方法における使用に適している。
【0062】
当業者であれば、細胞凝集塊を特定の細胞密度で培養することが望ましい場合もあることを理解するであろう。例えば、ユーザは、特定の密度を有する細胞凝集塊の使用を必要とするプロトコルを有するという理由から、特定の密度の細胞凝集塊を培養することを選択してもよい。本発明により提供される方法の1つの利点は、その実施形態のうちのいくつかにおいて、特定の密度の細胞培養物の使用に限定されないことである。
【0063】
いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、少なくとも5×10個/mLの細胞密度で実施できる。例えば、いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、少なくとも1×1012個の細胞を含む少なくとも2000Lの細胞培養容量で実施できる。
【0064】
II(B):細胞凝集塊と解離試薬との接触
【0065】
前記方法はさらに、攪拌リアクター内の前記細胞凝集塊を、例えば、トリプシン、EDTA、HyClone HyQTase、TrypLE(登録商標)Select、Accutase(登録商標)、Accumax(登録商標)、ReLeSR(登録商標)、コラゲナーゼII、コラゲナーゼIVもしくはDNase Iのような1以上の酵素を含む溶液のような解離試薬、またはGentle Cell Dissociation Reagent(登録商標)もしくはZymeFree(登録商標)などの酵素を含まない解離試薬と接触させることを含む。
【0066】
当業者であれば、細胞凝集塊を特定の種類の解離試薬と接触させることが望ましい場合もあることを理解するであろう。例えば、ユーザは、特定の解離試薬を過去に使用した経験があるという理由および/または特定の解離試薬のコスト効率が良いという理由から、特定の解離試薬の使用を選択してもよい。本発明により提供される方法の1つの利点は、その実施形態のうちのいくつかにおいて、特定の解離試薬の使用に限定されないことである。
【0067】
いくつかの実施形態において、前記方法で使用する特定の解離試薬は、解離させる細胞型および/または所望の最終生成物(例えば、単一細胞、特定の目標直径を有するより小さな凝集塊など)に応じて決定してもよい。解離試薬は、例えばリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)、ハンクス平衡塩類溶液または超高純度蒸留水のような希釈剤で希釈して提供されてもよい。解離試薬は、細胞外マトリックス(ECM)を分解したり、かつ/または、細胞接着分子とその結合パートナーとの結合を弱めたり切断したりするのに十分な濃度で提供されてもよく、例えば、表1に記載の濃度の1以上の濃度であってよい。本発明により提供される方法で使用する解離試薬の具体的な濃度は、当業者が決定してもよい。
【0068】
【表1】
【0069】
細胞凝集塊を解離させるための方法の一部として解離試薬を使用することの1つの利点は、細胞凝集塊の解離を必要とする1以上の既存の作業フローに容易に組み込めるということである。例えば、解離試薬は、攪拌の停止中または攪拌の実行中に、攪拌槽型リアクターに加えてもよい。したがって、一実施形態において、本発明により提供される方法は、細胞培養のための閉鎖系内で使用してもよい。一実施形態において、本発明により提供される方法は、細胞培養のための開放系内で使用してもよい。いくつかの実施形態において、細胞培養物への解離試薬の追加は、手作業で行ってもよい。いくつかの実施形態において、細胞培養物への解離試薬の追加は、自動または半自動で行ってもよい。
【0070】
いくつかの実施形態において、解離試薬は、あらかじめ決められていてもよい。いくつかの実施形態において、解離試薬の濃度は、あらかじめ決められていてもよい。
【0071】
いくつかの実施形態において、前記方法は、該方法における使用に適した解離試薬を決定する工程をさらに含んでもよい。例えば、この決定工程は、モデリング、実証試験またはその組み合わせを含んでもよい。
【0072】
いくつかの実施形態において、前記方法は、該方法における使用に適した解離試薬の濃度を決定する工程をさらに含んでもよい。例えば、この決定工程は、モデリング、実証試験またはその組み合わせを含んでもよい。
【0073】
II(C):攪拌リアクター内での解離力の発生
【0074】
本発明により提供される方法は、攪拌リアクター内で、解離試薬への曝露との組み合わせにおいて細胞凝集塊を解離させるのに十分な解離力を発生させることを含む。
【0075】
いくつかの実施形態においては、リアクター内の細胞培養物を解離試薬に接触させた後すぐに、攪拌リアクター内で解離力を発生させる。いくつかの実施形態では、解離力を発生させる工程は、細胞凝集塊を解離薬剤に接触させる工程に先行してもよい。いくつかの実施形態では、解離力を発生させる工程と細胞凝集塊を解離薬剤に接触させる工程は、実質的に同時に行われてもよい。
【0076】
解離力の発生においては、リアクター内での流体の特定の流れ方と強度(例えば乱流、エネルギー散逸、長さスケールまたはせん断力)に応じた攪拌速度(例えばインペラー速度またはロッキング速度)に設定する。選択する特定の解離力は、リアクターシステム(例えば混合システム、容器の寸法、培養物の量など)、所望の最終生成物、細胞型および/または解離試薬に応じて決定してもよい。
【0077】
当業者であれば、特定の攪拌速度を有する解離力を発生させることが望ましい場合もあることを理解するであろう。例えば、ユーザは、特定の種類のリアクターおよび/または特定の量での使用に適しているという理由から、特定の攪拌速度の使用を選択してもよい。例えば、ユーザは、特定の細胞型での使用に適しているという理由から、特定の攪拌速度の使用を選択してもよい。本発明により提供される方法の1つの利点は、その実施形態のうちのいくつかにおいて、特定の攪拌速度の使用に限定されないことである。
【0078】
いくつかの実施形態において、解離力を加えることは、攪拌リアクター内での攪拌速度を第1の速度(細胞凝集塊を培養する際の速度に相当し、本明細書では培養力と呼ぶ)から(解離力に対応する)第2の速度へと調節することを含む。いくつかの実施形態において、解離力は、懸濁液中の細胞凝集塊の培養に使用される力より大きくてもよい。
【0079】
驚くべきことに、いくつかの実施形態において、解離力は培養力とほぼ同等であってもよい。いくつかの実施形態において、解離力は培養力より小さくてもよい。
【0080】
いくつかの実施形態において、解離力は、あらかじめ決められていてもよい。いくつかの実施形態において、解離力の速度は、あらかじめ決められていてもよい。
【0081】
いくつかの実施形態において、前記方法は、該方法における使用に適した解離力を決定する工程をさらに含んでもよい。例えば、この決定工程は、モデリング、実証試験またはその組み合わせを含んでもよい。
【0082】
いくつかの実施形態において、前記方法は、該方法における使用に適した解離力の速度を決定する工程をさらに含んでもよい。例えば、この決定工程は、モデリング、実証試験またはその組み合わせを含んでもよい。
【0083】
いくつかの実施形態において、適切な解離力は、ユーザが攪拌リアクター内の流体力学パラメータを考慮することにより決定してもよい。例えば、コルモゴロフ渦サイズおよびレイノルズ数は、単独でまたは組み合わせて考慮されてもよい2つの流体力学パラメータである。いくつかの好ましい実施形態において、コロモゴロフ渦サイズは、解離される細胞凝集塊が渦に捕捉されて渦の力/エネルギーの散逸に曝されるように、最大の細胞凝集塊よりは小さいが該細胞凝集塊中の細胞の直径よりは大きい。いくつかの好ましい実施形態において、レイノルズ数は1000よりも大きい。
【0084】
II(D):接触後の細胞凝集塊の解離に十分な条件下での、発生した解離力への接触後の細胞凝集塊の曝露
【0085】
解離試薬に接触した細胞培養物は、細胞凝集塊をより小さな凝集塊、細胞集団および/または単一細胞(操作者の所望に応じていずれでもよい)へと分解するのに十分な条件の下、リアクター内で解離力に曝される。
【0086】
当業者であれば、凝集塊の解離を特定の条件下で実施することが望ましい場合もあることを理解するであろう。例えば、ユーザは、特定のワークフローに最適であるという理由から、凝集塊を比較的短時間で解離させることを選択してもよい。例えば、ユーザは、該ワークフローにおける別の1以上の工程で使用される温度であるという理由から、細胞凝集塊を特定の温度で解離させることを選択してもよい。本発明により提供される方法の1つの利点は、その実施形態のうちのいくつかにおいて、1以上の特定の条件下での解離に限定されないことである。
【0087】
これに関連して、「条件」の一例は時間である。時間は、所望の最終生成物、解離試薬、細胞型、流体力学環境および/または温度に応じて決定してもよい。いくつかの実施形態において、接触後の細胞凝集塊を発生した解離力に曝す工程は、特定の曝露時間に限定されない。本発明により提供される方法のいくつかの実施形態において、曝露工程の条件は、凝集塊を解離させるための時間として約3分~24時間の範囲を含む。いくつかの実施形態において、該時間は約10分~4時間である。いくつかの実施形態において、該時間は約5分~3時間である。いくつかの実施形態において、該時間は約9分~1時間である。いくつかの実施形態において、該時間は約18~35分である。
【0088】
いくつかの実施形態において、該曝露時間は、あらかじめ決められていてもよい。
【0089】
いくつかの実施形態において、前記方法は、該方法における使用に適した曝露時間を決定する工程をさらに含んでもよい。例えば、この決定工程は、モデリング、実証試験またはその組み合わせを含んでもよい。
【0090】
「条件」の別の一例は温度である。接触後の細胞凝集塊を解離させるのに十分な温度条件は、解離試薬(およびその酵素反応速度論)、解離させる凝集塊のサイズ、該凝集塊の組成(細胞型を含む)、および/または所望の最終生成物に応じて決定してもよい。いくつかの実施形態において、接触後の細胞凝集塊を発生した解離力に曝す工程は、特定の温度に限定されない。より正確に言えば、解離試薬に接触した細胞培養物は、細胞凝集塊を解離させるのに十分な温度でリアクター内の解離力に曝されればよい。本発明により提供される方法のいくつかの実施形態において、曝露工程の条件は、凝集塊を解離させるための温度として約18℃~38℃の範囲を含む。いくつかの実施形態において、該温度は、攪拌リアクター内で細胞が培養された温度にほぼ等しい。
【0091】
いくつかの実施形態において、温度は、あらかじめ決められていてもよい。
【0092】
いくつかの実施形態において、前記方法は、該方法における使用に適した温度を決定する工程をさらに含んでもよい。例えば、この決定工程は、モデリング、実証試験またはその組み合わせを含んでもよい。
【0093】
本発明により提供される、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、様々な細胞型、細胞培養プロトコル、種々の攪拌リアクターなどとの使用に合わせて、さらに最適化されてもよい。
【0094】
本明細書において説明されるように、凝集塊の解離の度合いならびに/または凝集塊がより小さな凝集塊、小さな細胞集団および/もしくは単一細胞に解離される程度(すなわち解離に至る細胞集団のパーセンテージ)に影響を及ぼすパラメータとしては、以下に記載のものが挙げられるが、これらに限定はされない。(1)使用する解離試薬およびその成分の濃度;(2)攪拌強度(例えば電力入力、インペラーチップ速度、インペラー速度、ロッキング速度、ロッキング角度、せん断速度、レイノルズ数など);(3)リアクター容器の形状;(4)混合メカニズム(例えば、インペラーの種類);(5)解離プロセスの持続時間;および/または(6)温度。いくつかの実施形態において、これらのパラメータのうち1以上が、あらかじめ決められていてもよい。いくつかの実施形態において、前記方法は、該方法における使用に適したこれらのパラメータのうちいずれかを決定する1以上の工程をさらに含んでもよい。例えば、これらの1以上の決定工程は、モデリング、実証試験またはその組み合わせを含んでもよい。
【0095】
実施の際、リアクターの形状および混合メカニズムの選択は、細胞培養のための必要条件(例えば細胞型、所望の細胞数、細胞の分化または成熟のプロトコルなど)に基づくものであってもよい。
【0096】
実施の際、コロモゴロフの渦長さ、レイノルズ数および/またはせん断速度のような流体力学パラメータは、前記形状/混合メカニズム、流体の物理的特性(例えば粘度および密度)および攪拌速度/強度に基づいて計算されてもよい。
【0097】
検討すべきパラメータが複数存在し、パラメータのレベルが複数存在する可能性がある(例えば、複数種の解離試薬および濃度の組み合わせが可能である)ことから、
- 攪拌リアクター内に細胞凝集塊を含む細胞培養物を供給すること;
- 該細胞凝集塊を解離試薬と接触させること;
- 前記攪拌リアクター内で解離力を発生させること;および
- 接触後の細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、接触後の細胞凝集塊を発生した解離力に曝すこと
を含む、本発明により開示される新規かつ進歩的な方法を用いることにより、当業者は、本発明によって提供される細胞凝集塊を解離させるための方法を、特定の細胞型を用いて使用するために最適化してもよい。例えば、当業者は最初に、複数種の解離試薬のスクリーニングを行うための攪拌速度を求めるために、中間的な値(例えば、攪拌リアクター内で細胞凝集塊の培養に用いられた力とほぼ同等の解離力)を用いたパイロット実験を実施することもあり、この場合、実験の全期間にわたって一定の間隔で(例えば30分間にわたって10分ごとに)、(例えば凝集塊のサイズおよび/または細胞生存率を判定するための)サンプリングが行われる。このようなパイロット実験は、公称温度37℃で行われてもよく、これは、ほとんどのヒト細胞型の培養に通常用いられる温度である。
【0098】
最適化の別の例では、リアクターの形状および混合メカニズムは所望の細胞型のための培養必要条件に基づいて決定されてもよく、関心対象が5種類の解離試薬である場合、実験を3回ずつ繰り返す最適化実験では、関心対象である条件を試験するには15回の実施が必要となる。このプロセスの持続時間に対する、解離のパーセンテージおよび細胞生存率に基づいて、当業者は、好ましい単一の解離試薬または解離試薬の2~3の最有力候補を特定できる。最適化のまた別の例では、解離試薬の2つの最有力候補が選択され、例えば、完全実施要因計画を使用して、攪拌の速度および持続時間を変化させてその影響の定量的な検討が行われる。3段階の攪拌速度(低、中、高)および持続時間(パイロットスタディーの結果に基づいて中点の囲い込みを行う)を使用し、繰り返しを3回とすると、合計54回の実施が必要となる。データを分析することにより数学的モデルを構築し、そこから「最適」なプロセス条件を見積もってもよい。この最初の「最適値」を参考条件として使用し、引き続き実験を行うことにより、例えば洗浄を行うか行わないか、あるいは温度といった変数の影響を評価してもよい。
【0099】
当業者であれば、本発明によって提供される細胞凝集塊を解離させるための方法を最適化するために、実験計画または全般的なアプローチとして別の形態を使用してもよいことを理解するであろう。例えば、より大きなプロセスの個別の工程を、複数の制限事項または必要条件に付すことは、一般的に行われる。例えば、ユーザが、細胞凝集塊の解離を長くても10分以内に完了させることを必要とし、このプロセスにおける細胞生存率のある程度の損失は許容しているとする。この場合、解離プロセスを加速させるために、攪拌強度および/または解離試薬濃度を増加させてもよい。別の例において、試薬の選択は、コストを考慮することによって、あるいは望ましからざる成分(例えば動物由来の成分)の存在によって限定されているかもしれない。この場合、解離後に準最適な細胞生存率をもたらす解離試薬を選択してコストを低減させてもよい。細胞凝集塊を解離させるための開示の方法が実施される状況(例えば制限事項、必要条件、許容事項などが挙げられるが、これらに限定はされない)を考慮することにより、当業者は、パラメータを変えることの影響を調査するための許容可能な計画を立て、それによって本発明により提供される細胞解離方法を最適化してもよい。
【0100】
一実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、開放系内で実施できる。
【0101】
一実施形態において、攪拌リアクター内の細胞凝集塊を解離させる方法は、閉鎖系内で実施できる。閉鎖系内での実施は、汚染のリスクを低減しうる、培養環境(例えばDO、pH、温度など)を維持できる、さほどストリンジェントでない環境(例えば低グレードのクリーンルーム)での作業が容易になる、労力を低減しうる、自動化が容易になる、などの1以上の理由から、有利であるかもしれない。
【0102】
いくつかの実施形態において、細胞培養物を解離試薬と接触させる前に、細胞培養物を洗浄してもよい。洗浄により、解離試薬を阻害するおそれのある1以上の薬剤が除去されうる。例えば、細胞凝集塊を濃縮した後に洗浄することで、使用後の培地を除去してもよい。次いで、洗浄後の細胞を、解離試薬を含む希釈溶液中に再懸濁してもよい。洗浄は、閉鎖系で行っても開放系で行ってもよい。いくつかの実施形態において、洗浄のために細胞培養物を攪拌リアクターから取り除いてもよく、洗浄の後に、洗浄済みの細胞を攪拌リアクターに戻してもよい。一実施形態において、洗浄工程は、攪拌リアクター内で行われてもよい。
【0103】
本発明において提供される方法により、いくつかのワークフローが可能となる。そのようなワークフローとしては、以下でさらに説明するが、例えば、継代、連続継代、幹細胞および/もしくは前駆細胞からの成熟細胞の作製、細胞プロセス開発における解離した細胞凝集塊の使用、ならびに/または臨床試験、治療および/もしくは細胞バンディングのための細胞増殖などが挙げられる。
【0104】
III.細胞を継代する方法
【0105】
細胞を継代するための方法が提供される。概して言えば、該方法は、
- 攪拌リアクター内に細胞凝集塊を含む細胞培養物を供給すること;
- 該細胞凝集塊を解離試薬と接触させること;
- 前記攪拌リアクター内で解離力を発生させること;
- 接触後の細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、接触後の細胞凝集塊を発生した解離力に曝すこと;および
- 解離後の細胞凝集塊を培養し、それによって前記攪拌リアクター内で細胞を継代すること
を含む。
【0106】
いくつかの実施形態において、引き続いてさらなる1以上の工程、すなわち「一度解離した細胞凝集塊」(すなわち、一度継代した細胞凝集塊)を解離試薬と接触させる工程、該細胞凝集塊を解離させるための解離力を発生させる工程および攪拌リアクター内で「二度解離させた細胞凝集塊」(すなわち、二度継代した細胞凝集塊)を培養する工程が、細胞の連続継代を容易にするために実施されてもよい。細胞を継代する該方法の様々な実施形態において、1以上のさらなる工程が実施されてもよい。
【0107】
例えば、いくつかの実施形態において、攪拌リアクター内で細胞凝集塊を一定期間培養する。培養期間の終わりに、阻害薬剤を除去するために細胞凝集塊を洗浄し、次いで攪拌リアクター内で解離試薬と接触させてもよい。次いで、攪拌リアクター内で解離力を発生させる。解離力は、細胞凝集塊を操作者の所望に応じて細胞集団および/または単一細胞へと解離させるものであればよい。解離力は、あらかじめ決められていてもよく、ユーザによって、例えば本明細書に記載されるように、決定してもよい。解離力は、細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、細胞凝集塊に加えられる。次いで、細胞培養物中の解離試薬を、中和または希釈してもよい。いくつかの実施形態では、継代に利用できる細胞数を判定するために、細胞の計数を行う。次いで、培養物の一部または全体を洗浄して、解離試薬を除去してもよい。所望の接種密度(ユーザの決定による)を達成するために、望ましい数の細胞を、新鮮培地に再懸濁してもよい。最後に、次なる培養期間のために、細胞をリアクター内に再接種してもよい。
【0108】
いくつかの実施形態において、次なる培養期間に使用されるリアクターは、最初に細胞凝集塊を培養し解離させるために使用したものと同じリアクターであってもよい。いくつかの実施形態において、次なる培養期間に使用されるリアクターは、最初に細胞凝集塊を培養し解離させるために使用したものとは異なるリアクターであってもよい。次なる培養期間に使用されるリアクターが異なるリアクターであるいくつかの実施形態において、該リアクターは、最初に細胞凝集塊を培養し解離させるために使用したものと同じ種類の攪拌リアクターであってもよく、異なる種類のリアクターであってもよい。次なる培養期間に使用されるリアクターが異なるリアクターであるいくつかの実施形態において、該リアクターは、最初に細胞凝集塊を培養し解離させるために使用したものと同じサイズの攪拌リアクターであってもよく、異なるサイズのリアクターであってもよく、該異なるサイズのリアクターは、いくつかの実施形態ではより小さいものであり、別の実施形態ではより大きいものである。
【0109】
好ましい一実施形態では、大規模な生産のために、第2のまたは後続の培養期間における使用に適したリアクターは、最初の培養および解離に使用されるリアクターよりも大きなリアクターである。好ましい一実施形態では、第2のまたは後続の培養期間において、複数のリアクターが使用され、これらのリアクターへの接種が並行して行われることによって、並行連続継代が容易になる。
【0110】
いくつかの実施形態において、本発明により提供される方法を用いて閉鎖系内で細胞凝集塊を解離させることにより、細胞凝集塊の連続継代が可能となる。いくつかの実施形態において、本発明により提供される方法を用いて開放系内で細胞凝集塊を解離させることにより、細胞凝集塊の連続継代が可能となる。
【0111】
IV.攪拌リアクター内で幹細胞または前駆細胞の集団から成熟細胞を作製する方法
【0112】
攪拌リアクター内で幹細胞および/または前駆細胞の集団から成熟細胞を作製して回収する方法が提供される。概して言えば、該方法は、
- 攪拌リアクター内に幹細胞または前駆細胞の集団を含む細胞培養物を供給すること;
- 攪拌リアクター内で幹細胞および/または前駆細胞を成熟細胞へと分化させ、該成熟細胞の凝集塊を得ること;
- 前記成熟細胞凝集塊を解離試薬と接触させること;
- 攪拌リアクター内で、前記成熟細胞凝集塊を解離させるのに十分な解離力を発生させること;および
- 接触後の成熟細胞凝集塊を解離させるのに十分な条件下で、接触後の成熟細胞凝集塊を発生した解離力に曝すこと
を含む。
【0113】
いくつかの実施形態では、解離した成熟細胞が回収される。
【0114】
例えば、一実施形態において、幹細胞および/または前駆細胞は攪拌リアクター内で成熟した子孫へと分化させる(例えば、hPSCが心筋細胞へと分化させる)。所望の分化子孫が培養物中で得られた後、本明細書に記載の方法を用いて培養物を回収してもよい。阻害薬剤を除去するために成熟細胞の凝集塊を洗浄し、次いで攪拌リアクター内で解離試薬と接触させてもよい。次いで、攪拌リアクター内で解離力を発生させる。解離力は、細胞凝集塊を操作者の所望に応じて細胞集団および/または単一細胞へと解離させるものであればよい。最終生成物(細胞集団および/または単一細胞)が得られるまで、適切な条件下(例えば37℃)で適切な時間、凝集塊に解離力を加える。次いで、解離試薬を、中和または希釈してもよい。培養物中の細胞数を判定するために、細胞の計数を行ってもよい。次いで、解離試薬を除去するために培養物全体を洗浄し、最終生成物を得るために(例えば凍結保存品、再生医療、薬物スクリーニング、細胞治療などに)利用してもよい。
【0115】
成熟細胞を回収するこれまでの方法は、一般に労力を要し、かつ複数段階で行われる。また、培養物が2.0×10個を超える細胞を含んでいる場合、複数のバッチが必要となることもある。本明細書に記載の解離方法を用いることで、いくつかの実施形態では、成熟細胞凝集塊の解離、およびそれに続く解離した成熟細胞の回収は、単一のバッチで、必要となる操作者の介入が比較的少ない状態で行うことができる。
【0116】
V.開示の方法の使用
【0117】
本明細書に記載の方法は、例えば、研究用途、治療および/もしくは診断のための試験、患者の治療ならびに/または細胞バンクを作製するための細胞の作製に使用してもよい。
【0118】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される担体と、本明細書に記載の方法により得られた少なくとも1個の細胞とを含む医薬組成物を、その必要のある対象に投与することを含む方法が提供される。
【0119】
いくつかの実施形態では、治療の必要な対象における疾患を、上記の方法により作製された細胞の治療有効量をその必要のある対象に投与することによって治療する方法が提供される。いくつかの実施形態において、このような方法はさらに、治療の必要な対象における疾患を、薬学的に許容される担体と、本明細書において提供される方法により作製された細胞とを含む医薬組成物の治療有効量を投与することによって治療する方法を含む。本明細書に記載の方法が多能性幹細胞、例えば多能性(pluripotent)幹細胞、多能性(multipotent)幹細胞および/もしくは前駆細胞、ならびに/または分化細胞に適用可能でありうることは、理解されるであろう。
【0120】
以下の非限定的な実施例を考慮することにより、本発明はさらに十分に理解される。
【実施例
【0121】
VI.実施例
【0122】
実施例1:攪拌槽型リアクター内のヒト多能性幹細胞(hPSC)の凝集塊を解離させる方法の開発:
【0123】
材料および方法:
【0124】
細胞株
【0125】
マウス胎児線維芽細胞(MEF)上でのTrypLE(登録商標)Selectを用いた単一細胞継代に適合するES02細胞株(WiCell International)(「HES2」と呼ぶ)およびESI-17細胞株(ESI BIO)を使用した。
【0126】
接着hPSCの培養
【0127】
HES2細胞は、繊維芽細胞成長因子2(FGF2)を添加したHES培地中の有系分裂不活化MEF層上で培養した。簡単に言えば、HES2細胞を解凍し、有系分裂不活化MEF層を含むウェルに接種した。細胞の培養は、FGF2を添加したHES倍地中、37℃、5%COで行った。培地全体を毎日交換した。80~90%コンフルエントに達した時点で、TrypLE(登録商標)Select(Thermo Fisher Scientific)を用いて培養物を回収した。細胞は、先に説明したように有系分裂不活化MEF上に単一細胞として播種して培養するか、またはY-27623(TOCRIS Bioscience)を添加したmTeSR(登録商標)1(Stem Cell Technologies)中に接種して浮遊培養した。
【0128】
ESI-17細胞は、mTeSR(登録商標)1中のMatrigel(登録商標)(VWR)層上で培養した。簡単に言えば、ESI-17細胞は、使用の1時間前に解凍し、Matrigel(登録商標)でコートしたウェルに播種した。細胞の培養は、mTeSR(登録商標)1中、37℃、5%COで行った。培地全体を毎日交換した。80~90%コンフルエントに達した時点で、培養物を継代した。接着培養用には、Gentle Cell Dissociation Reagent(登録商標)(Stem Cell Technologies)を用いて細胞を回収し、Matrigel(登録商標)でコートしたプレート/フラスコ上に細胞小集団として播種した。浮遊培養用には、Y-27623であらかじめ処理した細胞をTrypLE(登録商標)Selectを用いて回収し、次いでY-27623を添加したmTeSR(登録商標)1に接種して浮遊培養した。
【0129】
懸濁凝集塊ベースのhPSC培養
【0130】
細胞の培養は、15mLの培養物を収容できるよう構成されたambr(登録商標)15細胞培養システム(Sartorius Stedim)を用いてスパージャー管のない方形容器内で、または150mLの培養物を収容できるよう構成された円筒状のMiniBio 500バイオリアクターシステム(Applikon)内で行った。いずれのバイオリアクターも、マリンインペラーを備えたものであった。細胞は、Y-27632を添加したmTeSR(登録商標)1に接種した。培地は、新鮮なmTeSR(登録商標)1を用いて、毎日部分的に交換した。ambr(登録商標)15システムにおける培地の交換は、手作業で行った。MiniBio 500システムでは、BioSep灌流装置(Applikon)を用いて連続的に培地の灌流を行った。培養物は、最長7日間維持した後、回収または継代した。溶存酸素は空気、窒素ガスまたは酸素ガスによって制御した。温度は37℃に制御した。
【0131】
攪拌槽型リアクター(STR)内での解離
【0132】
ReLeSR(登録商標)(Stem Cell Technologies)、Accutase(登録商標)(Innovative Cell Technologies)、Accumax(登録商標)(Innovative Cell Technologies)またはTrypLE(登録商標)Selectを、10μg/mLのDNase I(Calbiochem)を添加した等容量の、マグネシウム・カルシウム不含リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した。凝集塊を手作業で濃縮し、PBSで洗浄し、希釈した解離試薬中に再懸濁した。次いで、凝集塊を、ambr(登録商標)15容器内で450rpm(下向流)の速度で、またはMiniBio 500内で150rpmの速度で、37℃において最長30分間攪拌することにより、解離させた。解離の進行は、目視により監視した。50μmを超える細胞集団の占める割合が培養物全体の5%未満となった時点を、解離の完了とみなした。解離が完了した時点で、10μg/mLのDNase Iを含む3倍容量のDMEM-F12で希釈した。
【0133】
閉鎖解離プロセスの場合、濃縮および洗浄の工程を行うために、濃縮および洗浄のための装置SonoSep(SonoSep Technologies)を、MiniBio 500による解離プロセスに組み込んだ。凝集塊は、流量5mL/分、電力4Wおよび運転:停止サイクル2分:10秒に設定したSonoSep装置内で濃縮した。次いで、細胞貯蔵槽に集めた凝集塊を流量2mL/分、電力2Wおよび運転:停止サイクル5分:30秒で洗浄した。凝集塊を50mLのPBSで洗浄した。次いで、凝集塊を希釈した解離試薬中に再懸濁し、再度2mL/分の流量でMiniBio 500内へ導入した。上記と同様にして、閉鎖プロセスにおける解離を行った。
【0134】
培養評価:STRシステムからのサンプリング
【0135】
試料の取り出しは、ambr(登録商標)15のリキッドハンドラーまたはMiniBio 500システムの試料ポートを用いて、STRシステムの動作や制御を中断させることなく行った。試料を超低接着24ウェルプレートまたは6ウェルプレートに分注し、撮像した。
【0136】
培養評価:凝集塊の寸法測定
【0137】
試料を超低接着24ウェルプレートに分注し、拡大倍率4倍の倒立光学顕微鏡(EVOS(登録商標)XLCore Cell Imaging System)を使用して撮像した。ImageJ(1.47v)を用いて、凝集塊/細胞を手作業で楕円形にフィットさせた。試料中の250個の細胞および/または細胞集団の長軸および短軸の算術平均を用いて、各試料の平均直径を決定した。
【0138】
培養評価:細胞の計数および生存率
【0139】
NucleoCounter(登録商標)NC-200(登録商標)自動細胞計数装置を用いて、細胞の計数を行った。Via1-Cassette(登録商標)を用いて、全細胞をアクリジンオレンジで染色し、死細胞はDAPIで対比染色することにより、総細胞密度と生存率を測定した。採取した試料からSTR内の生存細胞の総数を推定し、増殖倍率を計算した(等式1)。
【0140】
増殖倍率=N/N(等式1)
およびNは、それぞれ培養プロセスの終了時および開始時のリアクター内の生存細胞の総数である。
【0141】
培養評価:フローサイトメトリー
【0142】
多能性を評価するために、hPSCによる4つの多能性マーカー(Tra-1-60、SSEA4、Oct4およびSox2)の発現を測定した。以下に方法を簡単に述べる。細胞を2%のパラホルムアルデヒドで固定し、染色に供するまで4℃のFACS Wash Buffer中で保存した。各時点での生物学的反復は1回としてすべての試料を染色し、固定から2週間以内に同時に分析した。試料を0.1%のTriton X-100で透過処理し、次いで、α-Tra-1-60、α-SSEA4、α-Oct4およびα-Sox2(BD Biosciences)で染色した。データの収集は、LSR Fortessa(登録商標)フローサイトメーター(BD Biosciences)上で行った。FlowJo(登録商標)ソフトウェア(vX.0.7)を用いて試料の分析を行い、着色されていない(陰性)対照を基に、正の多能性発現を判定した。
【0143】
統計
【0144】
3回以上の生物学的反復を含むデータセットに関しては、平均±標準偏差としてデータを示す。
【0145】
結果:
【0146】
STR内でhPSC凝集塊を単一細胞(または含有細胞数が5個未満である細胞集団)へと解離させる方法を開発するために、攪拌下で凝集塊を解離させる4種類の解離試薬の効果を評価した。試験した試薬は、10μg/mLのDNase Iおよび50%のReLeSR(登録商標)、50%のTrypLE(登録商標)Select、50%のAccutase(登録商標)または50%のAccumax(登録商標)であり、PBS液中で用いた。凝集塊を4種類の試薬のいずれかで再懸濁し、ambr(登録商標)15 STRシステム内で37℃で攪拌した。培養物は、最大せん断応力が0.37Pa、コロモゴロフの渦長さが101μmである流体力学環境を生成する450rpmで攪拌した。5分ごとに、解離の進行を視覚的に評価した。25分後、解離試薬を希釈し、生存率および5個以上の細胞を含んでいる細胞集団のパーセンテージについて培養物の評価を行った。この時点で、用いた試薬にかかわらず、培養物の大半が解離していた(すなわち、細胞培養物中の細胞集団は<10%であった(図1))。ReLeSR(登録商標)中での凝集塊の解離は、試験した他の解離試薬よりも遅かったが、これは20分間の攪拌後に大きな凝集塊が観察されたことから証明される(図1)。ReLeSR(登録商標)培養物の生存率(81.7%)は、TrypLE(登録商標)Select、Accumax(登録商標)およびAccutase(登録商標)培養物(それぞれ95.2%、92.4%および93.1%)よりも低かった。TrypLE(登録商標)Selectは最もコスト効率の良い試薬であった。したがって、細胞凝集塊を解離させる方法のさらなる開発のためには、10μg/mLのDNase Iおよび50%のTrypLE(登録商標)Selectを含むPBS液を使用した。
【0147】
次いで、本発明の解離方法により解離後のhPSCの多分化能が悪影響を受けたか否かを確認するための実験を行った。HES2 hPSC凝集塊の3つのバッチを、ambr(登録商標)15システム内の10μg/mLのDNase Iおよび50%のTrypLE(登録商標)Selectを含むPBS液中で、450rpm、37℃にて21~22分間攪拌して解離させた。9分間解離させた後、およびその後3分ごとに、解離の進行を視覚的に評価した。解離が完了した後、生存率、単一細胞になっていない培養物(すなわち5個以上の細胞を含んでいる残存細胞集団)のパーセンテージならびに多能性マーカーTra-1-60、SSEA4、Oct4およびSox2の発現について、培養物の評価を行った。次いで、細胞をambr(登録商標)15システム内に再接種し、4日間増殖させた後、培養物の多分化能について再度評価を行った。解離に要する時間(21.8±0.2分,n=3)および解離後の生存率(98.3±0.7%,n=3)は一貫していた(表2)。単一細胞になっていない培養物(すなわち5個以上の細胞を含んでいる細胞集団)のパーセンテージは、1~8%の範囲で差があった。細胞の多分化能に関して、本発明の解離方法による悪影響はなかった(表2)。バッチ1および3の細胞の多分化能では、4日間の培養後に4~6%の変動が見られたが、これは標準的な接着培養による継代において典型的に見られる範囲内(±10%)に収まっている。
【0148】
バッチ2では、開始時の培養物の質(すなわち多分化能)が低かった(37.0%)(表2)。解離プロセスがhPSCやその分化子孫に悪影響を及ぼすことはなかった。しかしながら、分化細胞はhPSCほど速く増殖しないことから、4日間の培養期間中に分化子孫に対するhPSCの比率は増加したと言える。そのため、培養期間の終わりには、多能性細胞のパーセンテージは75.6%まで増加した(表2)。
【0149】
【表2】
【0150】
バッチ3の解離中、凝集塊の直径を異なる時点で測定した。9分間攪拌した時点では、細胞培養物の22パーセントは50μm(細胞約3~5個分の幅)よりも大きいままであった(図2)。完全な解離は22分後に達成され(表2)、この時点では、5個以上の細胞を含む細胞集団(すなわち幅が細胞約2~3個分である細胞集団)が占める割合は、細胞培養物の2%未満であった。
【0151】
これらの結果は、STR内でhPSC凝集塊を着実かつ効果的に解離させる方法の裏付けとなるものである。TrypLE(登録商標)をベースにした溶液を用いた場合、この方法では着実に凝集塊が解離し、生じる最終生成物は生存率>90%、また細胞集団としての残存率は<10%となることがわかった。この解離方法が最終生成物の多分化能に悪影響を及ぼすことはなかった。さらに、この方法は、細胞凝集塊の質(すなわち開始時の多分化能)にかかわらず有効であった。
【0152】
実施例2:攪拌槽型リアクター内での継代および連続増殖への、解離方法の適用
【0153】
実施例の解離方法をMiniBio 500 STRシステム内で実施し、hPSC凝集塊を継代して100~150mLの規模で連続的に増殖させた。
【0154】
MiniBio 500システムでは、最大せん断応力が0.13Pa、コロモゴロフの渦長さが169μmである流体力学環境を生成するために、150rpmの攪拌を行った。2つのhPSC細胞株すなわちHES2およびESI-17を、MiniBio 500内で5代にわたって継代し、凝集塊として増殖させた。継代は、MiniBio 500内において、凝集塊を10μg/mLのDNase Iおよび50%のTrypLE(登録商標)Selectを含むPBS液中、37℃にて13~19分間攪拌して解離させた後、細胞を計数してMiniBio 500内に再接種することにより行った。継代が終了するごとに、細胞の増殖倍率および多分化能(%Tra-1-60SSEA4Oct4Sox2)を評価し、第4継代の終了時に細胞核型の分析を行った。
MiniBio 500内でのhPSC凝集塊の解離は、生存率、増殖能、多分化能および核型に関して、hPSCのHES2およびESI-17のいずれにも悪影響は及ぼさなかった(図3)。解離後の細胞生存率は、hPSCのHES2およびESI-17のいずれについても、各継代において90%を超えていた(図3)。細胞株HES2およびESI-17のいずれについても、増殖倍率(図3A)および多分化能(図3B)の変化が、最初の3継代において観察された。このような変化は、解離よりもむしろ、hPSCを接着培養から凝集塊ベースの浮遊培養へと変えたことに起因する。
【0155】
実施例3:解離方法の閉鎖系への適用
【0156】
SonoSep濃縮洗浄装置をMiniBio 500に組み込むことにより、実施例1の解離方法を閉鎖系に適用した。
【0157】
解離に要する時間、解離後の細胞生存率、および5個以上の細胞からなる残存細胞集団のパーセンテージは、閉鎖系(SonoSepをMiniBio 500に組み込み)においても開放系(濃縮および洗浄を手作業で行うMiniBio 500)においても同様であった(表3)。このような結果は、本明細書において提供される細胞凝集塊解離方法の、継代への適用を裏付けるものである。よってhPSCを閉鎖系内で連続的に製造することが可能となり、そのような製造は自動化することもできる。
【0158】
【表3】
【0159】
比較的多くの(例えば、最大3.2×10個までの細胞を含む)細胞凝集塊を解離させる目的で、本発明の方法をMiniBio 500内における単一の自動化されたプロセスに容量150mLで適用し、これは首尾よく実施できた。結果として、増殖能、多分化能および核型に悪影響を及ぼすことなく、2つのhPSC細胞株を5代にわたって継代できた。さらに、MiniBio 500システムに濃縮洗浄装置を組み込むことによって、このプロセスを閉鎖できることが示された。したがって、多数の凝集塊を単一バッチで解離できるようにすることにより、本発明の方法を用いたSTR内での凝集塊の解離は、手作業による解離を改良することができ、それによって作業者への依存が解消され、閉鎖プロセスの実践により汚染のリスクが低減される。
【0160】
実施例4:STR内でhPSCから心筋細胞懸濁液を生成させるための、解離方法の適用
【0161】
材料および方法
【0162】
懸濁凝集塊ベースの心筋細胞の分化
【0163】
マリンインペラーを備えた円筒状のMiniBio 500バイオリアクターシステム内で、細胞を分化させた。分化に先立ち、ヒトPSCを増殖させた。分化を誘導するために、培養物からhPSC凝集塊を取り出し、DMEM-F12で洗浄し、3段階のプロセスで心筋細胞に分化させた(Witty,A.D.et al.Generation of the epicardial lineage from human pluripotent stem cells.Nat.Biotech.32,1026-1035(2014))。凝集塊は第1段階の培地で2日間、第2段階の培地で2日間、さらにVEGFを含まない第3段階の培地で9日間培養した。第3段階では、2日ごとに培地を完全に交換した。培地の交換工程は、すべて手作業で行った。溶存酸素は、空気、窒素ガスまたは酸素ガスによって制御した。温度は37℃に制御した。
【0164】
hPSC由来の心筋細胞凝集塊の手作業による解離
【0165】
凝集塊を、10μg/mLのDNase Iを添加したハンクス緩衝塩類溶液(Thermo Fisher Scientific)で一度洗浄した。次いで、凝集塊を、1000U/mLのコラゲナーゼタイプII(Worthington)中、37℃で2時間インキュベートした。大きな凝集塊を解離させるために、凝集塊を軽くピペッティングした。次いで、凝集塊を、10μg/mLのDNase Iを添加したTrypLE(登録商標)Selectに再懸濁し、37℃で10分間インキュベートした。凝集塊をマイクロピペットで解離させた。次いで、細胞をFACS Wash Bufferで2倍に希釈した。
【0166】
心筋細胞の評価
【0167】
心筋細胞を評価するために、心筋細胞マーカーである心筋トロポニンT(cTnT)の発現を測定した。以下に方法を簡単に述べる。上述のように細胞を固定し、透過処理した。次いで、細胞をマウスIgG α-cTnT(Thermo Fischer Scientific)で染色し、続いてα-マウスIgG-Alexa fluor-488(Thermo Fischer Scientific)で染色した。データの収集は、LSR Fortessaフローサイトメーター上で行った。FlowJoソフトウェア用いて試料を分析し、二次抗体のみの対照を基にして正のcTnT発現を分析した。
【0168】
hPSC由来の心筋細胞凝集塊のMiniBio 500内での解離
【0169】
実施例1の解離方法を適用して、心筋細胞を作製し、解離させ、MiniBio 500 STRシステムから回収した。MiniBio 500内で、ESI-17 hPSCを増殖させ、心筋細胞へと分化させた。12日間が経過した後、分化が達成されたこと(>70%cTnT)を確認するために、心筋細胞マーカーである心筋トロポニンT(cTnT)の発現について細胞を評価した。次いで翌日、心筋細胞凝集塊を、MiniBio 500システム内の10μg/mLのDNase Iおよび50%のTrypLE(登録商標)Selectを含むPBS液中で、150rpm、37℃にて21分間攪拌して解離させた。解離後、細胞を回収して計数し、ゼラチン上に播種した。播種の翌日、生存細胞の総数およびcTnTの発現について、細胞の再評価を行った。
【0170】
hPSC由来の心筋細胞凝集塊のAmbr(登録商標)15バイオリアクター内での解離
【0171】
ESI-17 PSCを15日間かけて心筋細胞へと分化させたところ、平均直径が140μmの凝集塊が得られた。心筋細胞凝集塊を、約1.6×10個/mLの細胞密度で1mg/mLのコラゲナーゼII(Worthington)を含む温ハンクス平衡塩類溶液(HBSS,Thermo Fisher)24mL中に再懸濁し、この凝集塊/コラゲナーゼ懸濁液を3つのAmbr容器に8mLずつ加えた。容器をリアクターにロードし、Ambrを以下の設定とした:攪拌速度=下向流450rpm、DO=90%、温度=37℃。
【0172】
最初の2時間、30分ごとにリキッドハンドラーを用いて各容器から試料(200μL)を取り出し、10%のFBSと10μg/mLのDNase Iを添加した400μLのDMEM/F12を含む超低接着24ウェルプレート(Corning)に移した。よく混合された懸濁液から適切なサンプリングができるように、P1000を用いて細胞懸濁液を軽く10回ピペッティングし、細胞を解離させた。倒立顕微鏡を用いて解離後の培養物の画像を取得し、ほぼ解離している試料について、NucleoCounter NC-200を用いて生存率(%)、生存細胞密度(VCD)および凝集塊の割合(%)を求めるために計数を行った。3つの容器に残存する凝集塊の平均パーセンテージが5%以下となった時点を、解離の完了とみなした。
【0173】
結果:
【0174】
解離後の培養物の生存率は89.2%であり、5個以上の細胞の集団として残存していたのは、培養物全体の2%に過ぎなかった。これらの結果は、手作業で解離したHES2 hPSC由来の心筋細胞で観察された結果(生存率:86.9±4.1%、%集団:8±3%、n=10)と類似している。MiniBio 500内での心筋細胞凝集塊の解離は、解離後のcTnT細胞の接着効率に影響しなかった(図4A)。接着効率(57%)は、HES2 hPSC由来の心筋細胞凝集塊で観察された範囲(27~93%、n=3)内にあった。培養物中のcTnT細胞のパーセンテージは、解離前(75.2%)も播種の翌日(76.4%)も変わりはなかった(図4B)。培養物の収縮活性は、播種後1日目から7日目まで観察された。
【0175】
本発明により提供される方法は、MiniBio 500内におけるhPSC由来の3.2×10個の心筋細胞の回収に首尾よく適用された。解離後の心筋細胞は、首尾よく播種され、回収された。さらに、心筋細胞は、解離および播種の後、cTnT発現活性および収縮活性を保持していた。STR内における解離後の生存率および残存細胞集団のパーセンテージは、別の細胞株を手作業で解離した際に観察された範囲内にあった。STRシステムでは、1つのバッチで処理された凝集塊は手作業の20倍であった。STRシステムで細胞を解離させる方法は、手作業での解離と比較すると、必要な時間は5分の1となり、解離工程および解離試薬は1工程および1試薬のみであり、作業者の関与も最小限で済む。したがって、本明細書に開示される細胞解離プロトコルにより、心筋細胞製造プロセスの効率が向上し、少なくとも約500mLの規模での培養が可能となる。
【0176】
Ambr(登録商標)15バイオリアクター内における、コラゲナーゼを用いたPSC由来の心筋細胞の解離は、3時間を要した(図9)。最終的な生存細胞密度は約1.9×10個/mLであり、これは、3時間後に回収された解離細胞の収率が良好(推定播種密度の約120%)であることを示している。開始時の推定細胞密度は1.6×10個/mLであったが、この値は、小さな解離試料の計数値に基づくものであり、したがって、推定計数値を25%上回る収率は異常ではない。
【0177】
実施例5:凝集塊のサイズを変化させる
【0178】
方法:
【0179】
PSC凝集塊の増殖
【0180】
単一細胞としたESI-17細胞を、全容量125mL、播種密度2.5×10個/mLでスピナーフラスコ内に接種した。最初の24時間は、10μMのRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤Y-27632(Tocris)を添加したmTeSR(登録商標)1培地(StemCELL Technologies)中、110rpmで攪拌しながら細胞を培養した。その後は毎日、mTeSR(登録商標)1(ROCK阻害剤を含まない)を用いて培地の50%を交換したが、凝集塊の損失を最小限に抑えるよう、遠心は緩やかに(200×g)行った。
【0181】
解離に供する目的で、3日目、6日目、8日目に小、中、大のPSC凝集塊(平均直径それぞれ約100μm、約175μm、約210μm)を、スピナーフラスコから回収した。解離の実施日に、攪拌培養した試料から2mLを得て、TrypLE(登録商標)Select(Thermo Fisher)を用いて単一細胞へと解離させ、スピナーフラスコ内の生存細胞密度を判定するために計数した。5.4×10個の細胞に相当する量の凝集塊懸濁液をスピナーフラスコから取り、200×gで3分間遠心した。凝集塊を、10μg/mLのDNase I(Calbiochem)を添加した、10mLのカルシウム・マグネシウム不含温ダルベッコPBS(TPBS-/-,Thermo Fisher)で洗浄し、その後遠心した。次いで、上記と同様にDNase Iを添加した全量12mLの温PBS-/-に、凝集塊を再懸濁した。
【0182】
3つのAmbr(登録商標)15容器に、凝集塊懸濁液を4mLずつ加えた。これらの容器をAmbrバイオリアクターにロードし、以下の設定で培養を行った:攪拌速度=下向流450rpm、溶存酸素(DO)=90%、温度=37℃。バイオリアクターの始動直後、10μg/mLのDNase Iを添加した温TrypLE(登録商標)Selectを、Ambr(登録商標)15リキッドハンドラーを用いて各容器に4mLずつ加え、最終細胞濃度を2.25×10個/mLとした。
【0183】
リキッドハンドラーを用いて5分ごとに各容器から試料(200μL)を取り出し、10%のウシ胎仔血清(FBS、Thermo Fisher)および10μg/mLのDNase Iを添加した400μLのDMEM/F12(Thermo Fisher)を含む超低接着24ウェルプレート(Corning)に移した。倒立顕微鏡を用いて試料の画像を取得し、小細胞集団および単一細胞のみを含むように見える試料について、NucleoCounter NC-200を用いて生存率(%)、生存細胞密度(VCD)および凝集塊の割合(%)を測定した。3つの容器に残存する凝集塊の平均パーセンテージが3%以下となった時点を、解離の完了とみなした。
【0184】
結果:
【0185】
平均直径100μm、175μm、220μmの凝集塊を使用して、Ambrバイオリアクター内で解離を達成できた。解離に要した時間は、大きな凝集塊の場合が最も長く(55分間)、小さな凝集塊および中程度の凝集塊の場合はそれぞれ40分間および35分間であった。解離時の細胞懸濁液の生存率は、いずれも高かった(>96%、図5)。小さな凝集塊および大きな凝集塊の細胞回収パーセンテージは、大規模STRにおいて通常達成される値よりも低かった(図6)。中程度の凝集塊の回収率は、非常に高かった(図6)。小さな凝集塊および大きな凝集塊の回収率が低いことには、いくつかの要因が考えられる。第1に、開始時の細胞密度は、開始時の集団から得た小さな試料に基づくものであり、多量の細胞の懸濁液を代表するものではなかったかもしれない。第2に、Ambr(登録商標)15容器の形状により、得られる機械せん断応力は大規模なSTRで見られるものとは異なるものとなり、この高いせん断応力のために、多くの細胞が表面近くに存在している小さな凝集塊では、細胞の損失が多くなるのかもしれない。第3に、大きな凝集塊に関しては、解離時間が長い(約50%)ことに加えて集団内に多数の小さな凝集塊(凝集塊の直径の平均値および中央値はそれぞれ220μmおよび216μm、最頻値は118μm)が存在することが、回収率の低下につながったのかもしれない。
【0186】
3つの凝集塊サイズのいずれに関しても、必要な解離時間は、より大容量のSTRの使用により達成される時間(通常約9~11分間)よりも長かった。これは、Ambr(登録商標)15バイオリアクターの容器およびインペラーの形状ならびに小さな方形容器の流れのパターンが異なるためであると思われる。表4の結果は、小さな凝集塊の解離が時間の経過とともに進行することを示している。20分の時点では、凝集塊のパーセンテージは13%であった。凝集塊のパーセンテージを3%というしきい値未満に低下させるには、さらに20分を要した。
【0187】
【表4】
【0188】
実施例6:解離力を変化させる:
【0189】
方法:
【0190】
実施例5と同様に、PSC凝集塊を増殖させた。
【0191】
6日目にスピナーフラスコから回収した中程度の大きさの凝集塊を用いて、様々な速度における凝集塊の解離を評価した。3つの容器からなる各セットの攪拌速度を変えることで、細胞培養物が以下の速度(いずれも下向流)で解離させられるようにしたこと以外は、実施例5の記載と同一の方法で行った:450rpm、650rpm、800rpm、1000rpmおよび1500rpm。
【0192】
結果:
【0193】
攪拌速度を上げるとともに解離時間は短縮されたが、細胞計数装置を用いて測定した生存率(%)は、いずれの速度においても90%より高い値に維持されていた(データ示さず)。650rpmを超える攪拌速度率では、細胞の顕著な損失が見られ、高速の攪拌が細胞の収率に悪影響を及ぼすことが示された(図7)。通常の培養における攪拌速度(Ambr(登録商標)15におけるPSC培養の標準は450rpm)よりも顕著に高い速度である650rpmでは、細胞がせん断されたものと考えられる。
【0194】
実施例7:攪拌リアクターの形状を変化させる:
【0195】
方法:
【0196】
実施例5の記載と同様に、スピナーフラスコ(Bellco、作業容量125mL)、MiniBio500 STR(Applikon、作業容量125mL)またはDASGIP(登録商標)Fermpro 200mL STR(Eppendorf、作業容量125mL)のいずれかを用いて、PSCを培養した。これらの容器はそれぞれ、Ambrとは明らかに異なる形状を有している。5日間の培養の後、PSC凝集塊をPBS-/-で洗浄することによって凝集塊を解離させ、10μg/mLのDNase Iを添加した50%TrypLE(登録商標)Select50%PBS-/-中に2.25×10個/mLの細胞密度で再懸濁し、PSC凝集塊の培養を行ったSTRに戻した。MiniBio500バイオリアクターおよびDASGIP(登録商標)バイオリアクターの攪拌速度は150rpmとし、温度は37℃に制御した。スピナーフラスコの攪拌速度は100rpmとした。解離は、9分間または光学顕微鏡下で大半が単一細胞として観察されるようになるまで行った。
【0197】
結果:
【0198】
PSC凝集塊を大規模STR内の50%TrypLE(登録商標)Select50%PBS-/-混合物中で攪拌したところ、十分に高い生存率と細胞回収率を維持しながら、凝集塊のほとんどを単一細胞へと解離させることができた。スピナーフラスコ、MiniBio500 STRおよびDASGIP(登録商標)STR内で増殖させたPSCは、それらの培養を行ったSTR内において、9~11分間で単一細胞へと解離した(凝集塊<4%)。STRの種類に依らず、解離中の攪拌はPSCの培養中の攪拌と同様に行った。STRの種類にかかわらず、解離後の細胞生存率は95%を超え、解離後の平均細胞回収率も>95%であった(図8、STR当たりn=3、データは平均±SDとして示す)。試験した3種類のSTRは独特の形状を有し、構造においても、パドルインペラー(スピナーフラスコ)、円筒状丸底容器(MiniBio500)および円筒状平底容器(DASGIP(登録商標))など様々であった。提供されるPSCの解離方法は、種々のSTRで使用することができ、また凝集塊は、それらが培養された容器内で解離させることができる。
【0199】
特定の具体的な実施形態を参照しつつ本発明を説明してきたが、添付の請求項に要約される本発明の目的および範囲を逸脱することなく様々な変形が可能であることは、当業者には明らかであろう。本明細書に記載される実施例はいずれも、本発明を例示する目的で含まれているに過ぎず、本発明の限定を意図するものではない。また、本明細書で提供される図面はいずれも、本発明の様々な態様の例示のみを目的としており、正確な縮尺を表すものではなく、本発明の限定を意図するものでもない。本明細書で引用された先行技術による開示は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0200】
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9