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特許7510256製鋼用フラックスの製造に用いられる基材、製鋼用フラックス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】製鋼用フラックスの製造に用いられる基材、製鋼用フラックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20240626BHJP
   B22D 13/02 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
B22D11/108 F
B22D13/02 502M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020011680
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021115611
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】和田 太一
(72)【発明者】
【氏名】梶原 一希
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-144311(JP,A)
【文献】特開昭59-027753(JP,A)
【文献】特開2005-118802(JP,A)
【文献】特開2000-169136(JP,A)
【文献】特開2013-163194(JP,A)
【文献】特開平10-034301(JP,A)
【文献】特開平10-263769(JP,A)
【文献】特開平10-216907(JP,A)
【文献】特開平08-025007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/108
B22D 13/02
B22D 43/00
C21C 7/076
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼用フラックス(金属発熱材としてCa-Si、Al-MgおよびCa-Al合金のうちの1種以上を5~20質量%、および助燃材として酸化鉄を5~20質量%含むモールドパウダーを除く)の製造に用いられるプリメルト基材であって、
プリメルト基材の全量を基準として、合計で35質量%以上のSiO及びCaOと、12質量%以上40質量%以下のNaOと、を含有し、
Fの含有量が、プリメルト基材の全量を基準として24質量%以下である、プリメルト基材(結晶を組成割合で50質量%以上含むものを除く)
【請求項2】
前記Fの含有量が、前記プリメルト基材の全量を基準として6.5質量%以上である、請求項1に記載のプリメルト基材。
【請求項3】
プリメルト基材(結晶を組成割合で50質量%以上含むものを除く)を含む原料から製鋼用フラックス(金属発熱材としてCa-Si、Al-MgおよびCa-Al合金のうちの1種以上を5~20質量%、および助燃材として酸化鉄を5~20質量%含むモールドパウダーを除く)を得る工程を備える製鋼用フラックスの製造方法であって、
前記プリメルト基材が、前記プリメルト基材の全量を基準として、合計で35質量%以上のSiO及びCaOと、12質量%以上40質量%以下のNaOと、を含有し、
前記プリメルト基材中のFの含有量が、前記プリメルト基材の全量を基準として24質量%以下である、製造方法。
【請求項4】
前記プリメルト基材中のFの含有量が、前記プリメルト基材の全量を基準として6.5質量%以上である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記原料中のNaFの含有量が、前記原料の全量を基準として10質量%未満である、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記原料がNaFを含まない、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料が、前記プリメルト基材に加えて、NaF以外のNa源を更に含む、請求項3~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記原料が、前記プリメルト基材に加えて、NaF以外のF源を更に含む、請求項3~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼用フラックスの製造に用いられる基材、製鋼用フラックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼用フラックスは、例えば、鋼の鋳造工程で鋳型内において、あるいは、その前工程でタンディッシュにおいて用いられる。製鋼用フラックスの組成は、潤滑、保温、酸化防止、抜熱制御といった種々の特性や、製造する鋼の種類に応じて設計される。例えば、高炭素鋼の製造に用いられるフラックスには、低粘度かつ低溶融温度であることが求められる場合があり、このような場合、基材(プリメルト基材とも呼ばれる)に対して、NaFなどのフッ化物を添加することが一般的に行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-36889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、NaFは劇物扱い(毒物及び劇物取締法の対象物質)となる予定であるため、在庫管理や輸送管理などの取扱いの負担を低減する観点から、NaFを極力用いずに(例えばフラックス中のNaFが10質量%未満となるように)、製鋼用フラックスを得ることが望ましい。その一方で、NaFに含まれるNa及びFは、製鋼用フラックスの特性などの観点からは必要な元素であるため、NaFを用いない分のNa及びFを別途補う必要があるが、製鋼用フラックスの製造に問題が生じないようにNa及びFを補うことは必ずしも容易でない。
【0005】
そこで、本発明の一側面は、NaFを極力用いずに、Na及びFを含む製鋼用フラックスを好適に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの検討によれば、製鋼用フラックスの製造に用いられる基材の組成を工夫することにより、NaFを極力用いずに、Na及びFを含むフラックスを好適に製造できること、具体的には、基材におけるNaFの再晶出及び固まりの発生を抑制すると共に、フラックス製造時における臭気の発生も抑制しつつ、使用時の噴上げ及び発炎の発生をも抑制可能なフラックスを製造できることが見出された。
【0007】
本発明の一側面は、製鋼用フラックスの製造に用いられる基材であって、基材の全量を基準として、合計で35質量%以上のSiO及びCaOと、12質量%以上40質量%以下のNaOと、を含有し、Fの含有量が、基材の全量を基準として24質量%以下である、基材である。この基材において、Fの含有量は、基材の全量を基準として6.5質量%以上であってよい。
【0008】
本発明の他の一側面は、基材を含む原料から製鋼用フラックスを得る工程を備える製鋼用フラックスの製造方法であって、基材が、基材の全量を基準として、合計で35質量%以上のSiO及びCaOと、12質量%以上40質量%以下のNaOと、を含有し、基材中のFの含有量が、基材の全量を基準として24質量%以下である、製造方法である。
【0009】
この基材中のFの含有量は、基材の全量を基準として6.5質量%以上であってよい。原料中のNaFの含有量は、原料の全量を基準として10質量%未満であってよい。原料は、基材に加えて、NaF以外のNa源を更に含んでよい。原料は、基材に加えて、NaF以外のF源を更に含んでよい。
【0010】
本発明の他の一側面は、フラックスの全量を基準として、合計で30質量%以上のSiO及びCaOと、6質量%以上のNaOと、3質量%以上のFと、を含有し、NaFの含有量が、フラックスの全量を基準として10質量%未満である、製鋼用フラックスである。この製鋼用フラックスは、NaFを含有しなくてよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、NaFを極力用いずに、Na及びFを含む製鋼用フラックスを好適に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の一実施形態は、基材を含む原料から製鋼用フラックス(以下、単に「フラックス」ともいう)を得る工程を備えるフラックスの製造方法である。当該工程は、例えば、基材にその他の原料を配合する配合工程を含んでおり、配合工程で得られた配合物を分散媒に分散させてスラリーを調製した後、当該スラリーを噴霧及び乾燥する造粒工程を更に含んでいてもよい。造粒工程が含まれない場合、例えば、粉末状のフラックスが得られる。造粒工程が含まれる場合、例えば、中空顆粒状のフラックスが得られる。
【0014】
配合工程で用いられる基材は、主成分としてSiO及びCaOを含有する。SiO及びCaOの合計の含有量は、基材の全量を基準として、例えば、35質量%以上、40質量%以上、又は45質量%以上であってよく、90質量%以下、85質量%以下、又は80質量%以下であってよい。SiOの含有量は、基材の全量を基準として、例えば、20質量%以上であってよく、50質量%以下であってよい。CaOの含有量は、基材の全量を基準として、例えば、3質量%以上であってよく、50質量%以下であってよい。
【0015】
基材は、基材の全量を基準として、12質量%以上40質量%以下のNaOを含有する。これにより、NaFを極力用いずに、Naを含む製鋼用フラックスを好適に製造することができる。より具体的には、NaOの含有量が12質量%以上であると、NaFを極力用いずに、かつ、Naを補うためのNaF以外の原料の添加量を少なくすることができるため、フラックス製造時の臭気の発生や、フラックス使用時の噴上げ及び発炎を抑制できる。また、NaOの含有量が40質量%以下であると、基材におけるNaFの再晶出及び固まりの発生によりフラックスを製造できなくなることを抑制できる。
【0016】
同様の観点から、NaOの含有量は、基材の全量を基準として、14質量%以上、16質量%以上、又は18質量%以上であってもよく、37質量%以下、34質量%以下、又は31質量%以下であってもよい。
【0017】
基材は、Fを含有しても含有しなくてもよいが、基材中にNaFが再晶出してフラックスを製造できなくなることを抑制できる観点から、Fの含有量は、基材の全量を基準として24質量%以下となっている。同様の観点から、Fの含有量は、基材の全量を基準として、23質量%以下、21質量%以下、又は19質量%以下であってもよい。
【0018】
基材は、NaFを極力用いずに、Fを含む製鋼用フラックスを更に好適に製造することができる観点から、好ましくはFを含有する。基材がFを含有する場合、Fの含有量は、基材の全量を基準として、好ましくは、6.5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上、又は12質量%以上であってよい。この場合、基材中のNaOの含有量が多くなりすぎることによる固まりの発生を更に抑制できると共に、配合工程におけるF源(詳細は後述)の添加量を抑えられるため、原料中のNaOの濃度低下を抑制できる(すなわち、基材中のNaOの含有量は少なくてよい)。なお、基材中のFの含有量を多くする場合、基材製造時に用いるホタル石の量を多くすればよい。
【0019】
SiO、CaO及びNaOの含有量は、基材について蛍光X線分析を行うことにより、Si、Ca及びNaの含有量を測定し、これらの含有量をそれぞれ酸化物(SiO、CaO及びNaO)の含有量に換算した値として求められる。Fの含有量は、基材について蛍光X線分析を行うことにより測定されるFの含有量として求められる。
【0020】
蛍光X線分析は、以下の手順により行われる。
まず、基材と四ホウ酸リチウム(融剤)とを、基材:四ホウ酸リチウム=3:5(質量比)の割合で混合する。得られた混合物を白金製の鋳型に入れ、1100℃で6分間加熱することで溶かした後、放冷することにより蛍光X線分析用試料(ガラスビード)が得られる。なお、基材が1100℃での加熱により化学反応を生じる場合や、基材が白金製の鋳型と反応する場合は、上述の方法に代えて、圧縮機によって基材を成形することにより蛍光X線分析用試料(ブリケット)を作製する。
続いて、得られた蛍光X線分析用試料を蛍光X線分析装置に設置し、各成分の含有量を分析する。なお、各成分の含有量は、標準試料を用いて作成された検量線に基づいて算出される。また、蛍光X線分析の条件は、蛍光X線分析用試料と標準試料とで互いに同一にする。
【0021】
基材は、SiO、CaO、NaO及びFに加えて、その他の成分を更に含有してもよい。その他の成分は、例えば、Al、MgO等であってよい。
【0022】
基材は、一実施形態において、例えば、複数の原料をキュポラで溶融した後、溶融物をジェット水流によって急冷・水砕し、乾燥後に粉砕する工程を経て得られる。基材は、他の一実施形態において、例えば、複数の原料を電気炉や平炉で溶融し、溶融物を水槽などに入れて冷却して、乾燥後に粉砕する工程を経て得られる。前者の実施形態は、キュポラ(内壁が耐火物ではなく鉄皮水冷方式)で溶融するため、Fによる溶損が発生しにくく、かつ、溶融物が急冷されるため、NaFの再晶出が起こりにくい点で、後者の実施形態より好ましい。
【0023】
上記の各実施形態においては、得られる基材中のSiO、CaO、NaO及びFの含有量が上記の範囲内となるように、溶融する際の複数の原料の組成が、例えば、珪石粉、セメント、炭酸カルシウム、消石灰、ホタル石、ソーダ灰等から適切に選択される。
【0024】
原料は、基材に加えて、その他の原料を更に含んでよい。原料は、NaFを含んでもよく含まなくてもよいが、一実施形態において、在庫管理や輸送管理などの取扱いの負担を低減する観点から、原料中のNaFの含有量は、原料の全量を基準として10質量%未満となっている。同様の観点から、NaFの含有量は、原料の全量を基準として、好ましくは、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、又は1質量%以下であり、より好ましくは0質量%である(すなわち原料はNaFを含まない)。
【0025】
原料中のNaFの含有量は、X線回折測定のピーク強度から測定できる。具体的には、ガラス粉(非晶質)にNaFを2質量%、4質量%、6質量%、8質量%、及び10質量%の含有量でそれぞれ添加した5点の比較用試料を準備し、それらのX線回折測定のピーク強度から検量線を作成した上で、検量線に基づき原料中のNaFの含有量を算出する。X線回折測定は、Cuターゲット、管電圧50KV、管電流40mAの測定条件で行い、2θ=38~39degreeにおける回折ピーク(第1ピーク)の強度をピーク強度として採用する。
【0026】
その他の原料は、得られるフラックスを所望の組成とするために適宜用いられる。その他の原料としては、例えば、Siを構成元素とする化合物を主成分とする原料(Si源)、Caを構成元素とする化合物を主成分とする原料(Ca源)、Alを構成元素とする化合物を主成分とする原料(Al源)、NaF以外のNaを構成元素とする化合物を主成分とする原料(Na源)、NaF以外のFを構成元素とする化合物を主成分とする原料(F源)、及びCを構成元素とする化合物を主成分とする原料(C源)が挙げられる。Na源及びF源は、例えば物性調整剤として機能し得る。C源は、例えば溶融速度調整剤として機能し得る。
【0027】
Si源は、例えば、珪石粉、ガラス粉であってよい。Ca源は、例えば、ホタル石、炭酸カルシウム、セメント、ダイカルシウムシリケ-トであってよい。Al源は、例えば、アルミナ、バンド頁岩であってよい。NaF以外のNa源は、例えば、ソーダ灰、氷晶石、硼砂であってよい。NaF以外のF源は、例えば、ホタル石、氷晶石、LiF等であってよい。
【0028】
本実施形態では、上述した基材を用いるため、原料中の基材の含有量を多くし、その他の原料(特にNa源)の含有量を少なくすることができ、その結果、フラックス製造時の臭気の発生や、フラックス使用時の噴上げ及び発炎を抑制できる。
【0029】
具体的には、基材の含有量は、原料の全量を基準として、例えば、20質量%以上、30質量%以上、40質量以上、50質量%以上、又は60質量以上であってよい。その他の原料の合計の含有量は、原料の全量を基準として、例えば、5質量%以上であってよく、80質量%以下、70質量%以下、又は60質量以下であってよい。その他の原料のうち、NaF以外のNa源の含有量は、原料の全量を基準として、3質量%以上であってよく、16質量%以下、14質量%以下、12質量%以下、又は10質量以下であってよい。
【0030】
また、一実施形態において、原料中のF源の含有量も少なくすることができる。その他の原料のうち、NaF以外のF源の含有量は、原料の全量を基準として、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量以下であってよい。
【0031】
造粒工程が含まれる場合、配合工程では、その他の原料として有機バインダーなどを更に配合してもよい。この場合、造粒工程では、まず、配合工程で得られた配合物を水などの分散媒に分散させてスラリーを調製する。その後、スラリーをスプレー等で噴霧した上で、乾燥させる。これにより、分散媒が蒸発し、中空顆粒状のフラックスが得られる。配合物の含有量は、スラリーの全量を基準として、例えば、40質量%以上、50質量%以上、又は60質量以上であってよく、80質量%以下であってよい。
【0032】
以上説明した製造方法により得られるフラックスは、フラックスの全量を基準として、合計で30質量%以上のSiO及びCaOと、6質量%以上のNaOと、3質量%以上のFと、を含有する。
【0033】
SiO及びCaOの合計の含有量は、フラックスの全量を基準として、35質量%以上、40質量%以上、又は50質量%以上であってもよく、90質量%以下、85質量%以下、又は80質量%以下であってもよい。SiOの含有量は、フラックスの全量を基準として、例えば、20質量%以上であってよく、50質量%以下であってよい。CaOの含有量は、フラックスの全量を基準として、例えば、3質量%以上であってよく、50質量%以下であってよい。
【0034】
NaOの含有量は、フラックスの全量を基準として、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、又は10質量%以上であってもよい。上記の製造方法によれば、所定の基材を用いることにより、このように比較的多い量のNaOを含有するフラックスが、NaFを極力用いずに好適に得られる。NaOの含有量は、フラックスの全量を基準として、例えば、50質量%以下、45質量%以下、又は40質量%以下であってもよい。
【0035】
Fの含有量は、フラックスの全量を基準として、例えば、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、又は8質量%以上であってもよい。上記の製造方法によれば、所定の基材を用いることにより、このように比較的多い量のFを含有するフラックスが、NaFを極力用いずに好適に得られる。Fの含有量は、フラックスの全量を基準として、例えば、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であってもよい。
【0036】
SiO、CaO及びNaOの含有量は、フラックスについて蛍光X線分析を行うことにより、Si、Ca及びNaの含有量を測定し、これらの含有量をそれぞれ酸化物(SiO、CaO及びNaO)の含有量に換算した値として求められる。Fの含有量は、フラックスについて蛍光X線分析を行うことにより測定されるFの含有量として求められる。フラックスの蛍光X線分析は、上述した基材の蛍光X線分析と同様の手順により行われる。なお、フラックスの蛍光X線分析において、上述したガラスビードを作成した上で分析を行う場合、ガラスビード作製時にフラックスを一旦溶融させることになるため、各成分の含有量は、強熱減量を考慮すると溶融後のフラックスの全量を基準とした含有量に換算することもできる。
【0037】
フラックスは、NaFを含んでもよく含まなくてもよいが、一実施形態において、在庫管理や輸送管理などの取扱いの負担を低減する観点から、フラックス中のNaFの含有量は、フラックスの全量を基準として10質量%未満となっている。同様の観点から、NaFの含有量は、フラックスの全量を基準として、好ましくは、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、又は1質量%以下であり、より好ましくは0質量%である(すなわちフラックスはNaFを含まない)。
【0038】
フラックス中にNaFが含まれるか否かは、フラックスについてX線回折測定を行ったときに、NaFに由来する回折ピークが観測される否か(検出限界以上であるか否か)によって確認できる。フラックス中のNaFの含有量は、X線回折測定のピーク強度から測定できる。フラックスのX線回折測定は、上述した基材のX線回折測定と同様の手順により行われる。
【0039】
フラックスは、上述した各成分に加えて、その他の成分を更に含有してもよい。その他の成分は、例えば、Al、Fe、MgO、LiO、B等であってよい。
【0040】
フラックスは、鋼の製造(製鋼)に好適に用いられ、より具体的には、例えば、連続鋳造用フラックス、遠心鋳造用フラックス、タンディッシュ排滓用フラックス等として好適に用いられる。フラックスは、連続鋳造用フラックス又は遠心鋳造用フラックスとしてより好適に用いられ、中炭素鋼の連続鋳造用フラックス、高炭素鋼の連続鋳造用フラックス、又は遠心鋳造用フラックスとして特に好適に用いられる。
【実施例
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0042】
(基材の準備)
まず、所望の基材の組成に応じて、珪石粉、セメント、炭酸カルシウム、消石灰、ホタル石、ソーダ灰等を混合し、キュポラにて溶融した。得られた溶融物をジェット水流によって急冷・水砕し、乾燥後に粉砕して基材を得た。得られた基材の組成を表1に示す。
【0043】
<NaFの再晶出の有無の評価>
得られた各基材について、X線回折測定を行い、NaFに由来する回折ピークの有無を確認した。結果を表1に示す。なお、X線回折測定は、Cuターゲット、管電圧50KV、管電流40mAの条件で行った。また、比較用試料としてガラス粉(非晶質)を準備し、基材の2θ=38~39degreeにおける回折ピーク(第1ピーク)の強度が、比較用試料の当該回折ピークの強度を超えた場合に、NaFに由来する回折ピーク「有」と判断し、そうでない場合にNaFに由来する回折ピーク「無」と判断した。
【0044】
<固まりの有無の評価>
得られた各基材と水とを、基材:水=10:1の質量比で混合した。得られた混合物を10mmφ円柱に成型し、24時間乾燥して試料を得た。得られた試料に対してプッシュゲージで圧力をかけ、試料が崩壊したときの圧力(N)を測定した。圧力が400N以下である場合を「A」と評価し、圧力が400Nを超える場合を「B」と評価した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(中炭素鋼の連続鋳造用フラックスの製造)
上記で得られた基材のうち表2に示す種類の基材を用いた。得られるフラックスにおける各成分の含有量(上述した手順により作製されたガラスビードを蛍光X線分析で測定して求められる含有量)が、フラックス(溶融後のフラックス)の全量を基準として、SiO:33.3質量%、CaO:41.6質量%、NaO:10.4質量%、F:10.3質量%、Al:5.4質量%、LiO:1.2質量%、MgO、B等のその他の成分:1.0質量%以下となるように(この組成は、中炭素鋼の連続鋳造用フラックスとして好適である)、当該基材に対して表2に示すその他の原料を加えて配合し、原料を準備した。なお、表2中の「その他」は、珪石粉、ガラス粉、バンド頁岩、アルミナ、炭酸カルシウム、セメント、炭酸リチウム、骨材カーボン、及び有機バインダーを含む。続いて、原料に水を加えてスラリーを調製した後、当該スラリーを噴霧造粒することにより、中空顆粒状のフラックス(中炭素鋼の連続鋳造用フラックス)を得た。
【0047】
<臭気の評価>
原料の準備及びスラリーの準備を行った作業者10名に対して、不快感の有無を質問し、不快感「有」と回答した作業者が1名でもいれば臭気「有」として評価し、当該作業者が1名もいなければ臭気「無」として評価した。結果を表2に示す。
【0048】
<噴上げ及び発炎の評価>
高周波誘導加熱炉において、1550℃に保持した溶銑上に得られた各フラックスを散布し、噴上げ及び発炎の有無を目視により評価した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
(高炭素鋼の連続鋳造用フラックスの製造)
上記で得られた基材のうち表3に示す種類の基材を用いた。得られるフラックスにおける各成分の含有量(上述した手順により作製されたガラスビードを蛍光X線分析で測定して求められる含有量)が、フラックス(溶融後のフラックス)の全量を基準として、SiO:31.0質量%、CaO:31.0質量%、NaO:20.9質量%、F:10.2質量%、Al:8.9質量%、MgO、B等のその他の成分:各1.0質量%以下となるように(この組成は、高炭素鋼の連続鋳造用フラックスとして好適である)、当該基材に対して表3に示すその他の原料を加えて配合し、原料を準備した。なお、表3中の「その他」は、珪石粉、ガラス粉、バンド頁岩、アルミナ、炭酸カルシウム、セメント、炭酸リチウム、骨材カーボン、及び有機バインダーを含む。これらの点以外は、中炭素鋼の連続鋳造用フラックスと同様にして、高炭素鋼の連続鋳造用フラックスの製造及び評価を行った。評価の結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
(遠心鋳造用フラックスの製造)
上記で得られた基材のうち表4に示す種類の基材を用いた。得られるフラックスにおける各成分の含有量(上述した手順により作製されたガラスビードを蛍光X線分析で測定して求められる含有量)が、フラックス(溶融後のフラックス)の全量を基準として、SiO:33.6質量%、CaO:3.9質量%、NaO:36.6質量%、F:17.8質量%、LiO:2.2質量%、MgO:4.6質量%、B:7.4質量%、Al等のその他の成分:各1.0質量%以下となるように(この組成は、遠心鋳造用フラックスとして好適である)、当該基材に対して表4に示すその他の原料を加えて配合し、粉末状のフラックス(遠心鋳造用フラックス)を得た。なお、表4中の「その他」は、珪石粉、ガラス粉、軽焼マグネサイト、炭酸リチウム、及び硼砂を含む。得られた遠心鋳造用フラックスについて、中炭素鋼の連続鋳造用フラックスと同様の評価を行った。評価の結果を表4に示す。
【0053】
【表4】