(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】工作機械の送り軸の熱変位対策構造
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/25 20060101AFI20240626BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240626BHJP
B23Q 15/18 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
B23Q1/25
B23Q17/00 A
B23Q15/18
(21)【出願番号】P 2020028983
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000174987
【氏名又は名称】三井精機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098279
【氏名又は名称】栗原 聖
(72)【発明者】
【氏名】崔 成日
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-242358(JP,A)
【文献】特開2002-013924(JP,A)
【文献】特開2001-050776(JP,A)
【文献】特開2003-097936(JP,A)
【文献】特開2004-125638(JP,A)
【文献】特開2009-101435(JP,A)
【文献】特開平01-295743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/00 - 1/76
B23Q 9/00 - 13/00
B23Q 17/00 - 23/00
B24B 5/00 - 7/30
B24B 41/00 - 51/00
G05B 19/18 - 19/46
G01B 7/00 - 11/30
G01B 21/00 - 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の熱膨張率を有する金属材から成り、送り軸を保持しつつ該送り軸を軸方向に移動させ得る構造物と、長尺板状に形成され該長尺板状の長さ方向に前記金属材の熱膨張率よりも低い熱膨張率を有し、かつ前記長さ方向に引っ張り剛性を有し、前記長さ方向が前記構造物の前記軸方向に沿うように介挿させた低熱膨張材と、位置検出器とを有する工作機械の送り軸の熱変位対策構造であって、前記位置検出器の検出部が前記低熱膨張材に固定されると共に、該低熱膨張材の前記長さ方向の一端側を前記構造物に固定する取り付け金具を設け、該取り付け金具は前記軸方向に弾性変形し易い構造にし、
前記取り付け金具とは別に、前記低熱膨張材の前記長さ方向の一端側とは反対側端部を前記構造物に固定する手段を設け、
前記低熱膨張材と前記構造物との相対的熱変位を吸収できるようにしたことを特徴とする工作機械の送り軸の熱変位対策構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の送り軸の熱変位対策構造に関し、特に、工作機械のスピンドル等の熱源による構造物の熱変位に対して低熱膨張材を用いた対策構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の工作機械では、例えば、駆動されるモータの発熱、軸受けの回転による摩擦熱等の熱源により、スピンドルヘッド等の構造物が膨張してスピンドル先端の工具の機械位置が変位するので、工具とワークとの相対位置にずれが生じる結果、精度の高い加工を困難にするという問題がある。このスピンドルヘッド等の熱膨張による工具の機械位置の変位を除去するために、予めワークの加工前に暖機運転を行い、加工、寸法測定、補正を繰り返して行い(例えば、特許文献1参照)、或いは、変位センサや温度センサを設け、検出した変位や温度に基づいてNCによる指令位置を補正するようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-091261号公報
【文献】特開平10-138091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のように暖機運転を行う従来例では、作業者の熟練が要求されるだけでなく、加工時間の短縮を期待できないという問題がある。また、特許文献2に記載のようにセンサによる検出結果に基づいてNCによる指令位置を補正する従来例では、複雑なシステムを用い、複数の係数を測定結果により求めなければならないので、NCによる複雑な処理が必要となってしまう。
【0005】
本発明は上述のような事情から為されたものであり、その目的は、工作機械の送り軸等の熱変位対策として、暖機運転を減らして加工時間を短縮できる上に、シンプルな機構を用いて、複雑な計算や測定を必要とすること無く、軸の正確な位置検出を可能とする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上述した工作機械の送り軸等の熱変位対策を鋭意研究した結果、シンプルな機構を用いて、複雑な計算や測定を必要とすること無く、軸の位置を検出する位置検出器の検出部が熱変位の影響を受け難い構造とすることで、暖機運転を減らして加工時間を短縮できる新規且つ有用な着想を得るに至った。
【0007】
即ち、本発明に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造では、所定の熱膨張率を有する金属材から成り、送り軸を保持しつつ該送り軸を軸方向に移動させ得る構造物と、長尺板状に形成され該長尺板状の長さ方向に前記金属材の熱膨張率よりも低い熱膨張率を有し、かつ前記長さ方向に引っ張り剛性を有し、前記長さ方向が前記構造物の前記軸方向に沿うように介挿させた低熱膨張材と、位置検出器とを有する工作機械の送り軸の熱変位対策構造であって、前記位置検出器の検出部が前記低熱膨張材に固定されると共に、該低熱膨張材の前記長さ方向の一端側を前記構造物に固定する取り付け金具を設け、該取り付け金具は前記軸方向に弾性変形し易い構造にし、
前記取り付け金具とは別に、前記低熱膨張材の前記長さ方向の一端側とは反対側端部を前記構造物に固定する手段を設け、
前記低熱膨張材と前記構造物との相対的熱変位を吸収できるようにしたことを特徴とする。
このように、前記低熱膨張材には、例えば、CFRP等、低熱膨張率と長さ方向(熱膨張方向)の剛性を併せ持った材料を用いる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軸の位置検出器の検出部が熱変位の影響を受け難い構造とすることで、暖機運転を減らして加工時間を短縮できる上に、シンプルな機構を用いて、複雑な計算や測定を必要とすること無く、軸の正確な位置検出を可能とする技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造を説明するための図であり、(a)は、送り軸としてのスピンドルを高速回転可能に保持しつつ軸方向に移動させ得る構造物であるスピンドルヘッド、低熱膨張材、位置検出器、及び取り付け金具を含む熱変位対策構造の全体図、(b)は、低熱膨張材を固定するスピンドルヘッドの端部の拡大図、(c)は、低熱膨張材を固定したスピンドルヘッドの端部の拡大図、(d)は、位置検出器の検出部のスピンドルヘッドへの固定部の拡大図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造において、スピンドルヘッド、低熱膨張材及び取り付け金具の主要構成と共に、各部品同士の組み立て方を示す図であり、(a)は、スピンドルヘッドの拡大図、(b)は、取り付け金具の表面側を示す図、(c)は、取り付け金具の裏面側を示す図、(d)は、分かり易いように取り付け金具の表面に位置検出器の検出部を取り付け、低熱膨張材にも取り付けた状態を示す図(尚、実際は、検出部とリニアスケールが組合されて位置検出器を構成しており、検出部のみが取り出されて取り付け金具に取り付けられるものではない)、(e)は、(d)に示したアセンブリをスピンドルヘッドへ固定した図、(f)は、(e)の取り付け金具と位置検出器の拡大図、(g) は、(e)のスピンドルヘッドの端部の拡大図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造の作用効果を説明するための図であり、(a)は、その全体図、(b)は、その自然状態を示す拡大図、(c)は、そのスピンドルヘッドが熱膨張して延びた場合をイメージした拡大図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造の要部を示す図であり、(a)は、その取り付け金具の正面図、(b)は、その取り付け金具の斜視図、(c)は、その取り付け金具の正面側から見た斜視図、(d)は、その取り付け金具を用いてCFRP材と位置検出器の検出部をスピンドルヘッドへ取り付けた状態の斜視図、(e)は、(d)の取り付け金具と位置検出器の拡大図、(f) は、(d)のスピンドルヘッドの端部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造を説明するための図であり、(a)は、工作機械のZ軸、低熱膨張材、位置検出器、及び取り付け金具を含む熱変位対策構造の全体図、(b)は、低熱膨張材を固定するスピンドルヘッドの端部の拡大図、(c)は、低熱膨張材を固定したスピンドルヘッドの端部の拡大図、(d)は、位置検出器の検出部のスピンドルヘッドへの固定部の拡大図である。まず、本発明の理解を容易にするため、上記
図1(a)を参照しつつ、本発明が適用される一例としての送り軸(Z軸)の概略構成につき述べる。スピンドル12を高速回転可能に収納する構造物(スピンドルヘッド)10は、所定の熱膨張率を有する金属材から成り、軸の駆動部(リニアモータ、マグネットユニットとコイルユニット)14により(Z)軸方向(同図では上下方向)に駆動される。また、これらスピンドルヘッド10及び軸の駆動部14は、サドル(キャリア)16により構造体(コラムの一部)18上を(X)軸方向(同図では左右方向)に摺動する。更に、構造体(コラムの一部)18がY軸方向に移動可能に構成され得るが、その説明及び図示は省略する。このような構成において、スピンドルヘッド10が(Z)軸方向(同図では上下方向)に駆動されることによりスピンドル12の先端に取り付けられた工具12Aによりワーク(図示せず)に対する切り込み等が行われる。ここで、スピンドルヘッド10の(Z)軸方向の制御にはフィードバック用位置検出器20が用いられ、この位置検出器20のリニアスケール22は、サドル16側に固定され、検出部24は、スピンドルヘッド10側に固定される。尚、26はLMガイド、28はLMブロックである。
【0011】
しかしながら、以上の構成において、スピンドル12を高速回転させるモータ(図示せず)の発熱、内部の軸受け(図示せず)の回転による摩擦熱等の熱源により、特に、構造物であるスピンドルヘッド10の先端側が熱膨張する。軸の位置はフィードバック用位置検出器で検出された位置情報でフィードバックされるので、位置検出器の検出部から工具の間に発生する熱変位により、スピンドル12先端の工具12Aとワーク(図示せず)との相対位置にずれが生じる結果、精度の高い加工を困難にするという問題が生じる。このため従来は、暖機運転を行って熱膨張の影響を解消してから加工を行い、複雑なシステム構成で温度センサ等により都度測定を行い、その結果を加味した補正を行う等の対策をしていた。そこで、シンプルな機構を用いて、複雑な計算や測定を必要とすること無く、正確な加工位置の検出を可能とするため、本発明の熱対策構造を適用することとした。
【0012】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造において、スピンドルヘッド、低熱膨張材及び取り付け金具の主要構成と共に、各部品同士の組み立て方を示す図であり、(a)は、スピンドルヘッドの拡大図、(b)は、取り付け金具の表面側を示す図、(c)は、取り付け金具の裏面側を示す図、(d)は、分かり易いように取り付け金具の表面に位置検出器の検出部を取り付け低熱膨張材にも取り付けた状態を示す図(尚、実際は、ヘッド部とリニアスケールが組合されて位置検出器を構成しており、検出部のみが取り出されて取り付け金具に取り付けられるものではない)、(e)は、(d)に示したアセンブリをスピンドルヘッドへ固定した図、(f)は、(e)の取り付け金具と位置検出器の検出部の拡大図、(g) は、(e)のスピンドルヘッドの端部の拡大図である。即ち、本発明の第1の実施形態に係る工作機械[全体は図示せず、そのコラムの一部等は
図1(a)参照]の送り軸の熱変位対策構造では、スピンドル12を高速回転可能に収納する構造物であり所定の熱膨張率を有する金属材から成るスピンドルヘッド10と、上記金属材の熱膨張率よりも低い熱膨張率を有し上記スピンドルヘッド10の軸方向に沿って介挿させた低熱膨張材としてのCFRP材30と、位置検出器20とを有し、上記位置検出器の検出部24と低熱膨張材(CFRP材30)とスピンドルヘッド10とを繋ぐ取り付け金具40を設け、該取り付け金具40の相対的に薄い部分40Aを弾性変形させて低熱膨張材(CFRP材30)とスピンドルヘッド10との相対的熱変位を吸収するようにした。即ち、本発明の第1の実施形態では、
図1(a)に示すように、上述したように所定の熱膨張率を有する金属材から成るスピンドルヘッド10の先端側に、(Z)軸方向(同図では上下方向)沿って上記スピンドルヘッド10の熱膨張率よりも低い熱膨張率を有する略長尺板L字状の低熱膨張材としてのCFRP材30[
図2(d)参照]を介挿させると共に、上記位置検出器20の検出部(ヘッド部)24と低熱膨張(CFRP)材30とスピンドルヘッド10とを繋ぐ取り付け金具40を設け、取り付け金具40の相対的に薄い部分40A[
図2(b)(c)参照]を弾性変形させて低熱膨張(CFRP)材30とスピンドルヘッド10との相対的熱変位を吸収するようにしている。即ち、スピンドルヘッド10の端部と位置検出器の検出部24との間を低熱膨張(CFRP)材30で繋ぐことで工具12Aの先端と位置検出器の検出部24との間に発生する熱変位を抑えるようにしている。また、スピンドル12の熱によって発生するスピンドルヘッド10の熱変位と低熱膨張(CFRP)材30との相対変位は特殊な形状の取り付け金具40で吸収するようにしている。
【0013】
次に、本発明の第1の実施形態である熱対策構造についてより詳細に説明する。
[構成]
本発明の第1の実施形態である熱対策構造では、スピンドルヘッド10の先端側略半分の位置検出側(
図1(a)に示す例では右側)端面の中央部(スピンドルヘッド10の厚み方向の中央)に溝10h[
図2(a)参照]を形成し、この溝10h内に、長尺板状の低熱膨張材としてのCFRP材30を介挿させる。そして、
図2(b)(c)に示す形状の取り付け金具40の背面側を、
図2(d)に示すように、CFRP材30を跨ぐように取り付ける。また、この取り付け金具40の背面両側部を、
図1(d)及び
図2(e)に示すように、スピンドルヘッド10の上記端面に取り付ける。更に、
図1(a)(d)に示すように、取り付け金具40の上面中央部に位置検出器20の検出部(ヘッド部)24を載置して取り付ける。
【0014】
[取り付け金具の形状]
図2(b)(c)に示すように、取り付け金具40は、全体として略矩形の平板状に形成され、上面(表)側の長手方向の中央に位置検出器20の検出部(ヘッド部)24を載置し取付ける取り付け面42と、そのネジ留め穴42a、42bが設けられている。また、底面(裏)側の長手方向両側にスピンドルヘッド10への取り付け面44、44と、その各2個のネジ留め穴44a、44bが設けられ、且つ、その中央にCFRP材30への取り付け面46と、その5個のネジ留め穴46aが設けられている。また、取り付け金具40は、その厚み方向を貫通する切り欠き(くびれ)48A、48Bが図示の形状に形成されており、これにより長手方向の両端部には、相対的に薄い部分40Aが形成されている。
【0015】
[位置検出器、取り付け金具、CFRP材の取り付け方]
図2(d)に示すように、CFRP材30は、長尺板状で端部30eが直角に屈曲した略L字形状を有しており、屈曲した端部30eには、スピンドルヘッド10の対応箇所への留め付け穴30a,30aが形成されており、また、その近傍にもスピンドルヘッド10への留め付け穴30cが形成されている。まず、このCFRP材30の反対側端部に、
図2(d)に示すように、位置検出器の検出部(ヘッド部)24を載置し固定した取り付け金具40を取り付ける。このように取り付け金具40を取り付けたCFRP材30(アセンブリ)を、
図2(e)に示すように、対応する留め付け孔が形成されたスピンドルヘッド10に介挿させると共に、上述した留め付け穴30a,30a並びに留め付け穴30cに、
図2(g)に示すように、ボルト止めして固定する。また、スピンドルヘッド10への取り付け面44、44の各2個のネジ留め穴44a、44bを介して取り付け金具40をスピンドルヘッド10に取り付ける。尚、
図1(d)及び
図2(f)に示すように、取り付け金具40の上面中央部に位置検出器20の検出部(ヘッド部)24が載置して取り付けられ、
図2(g)に示すように、ボルト止めして固定される。尚、本実施形態では、低熱膨張材(CFRP材30)を略L字形状に形成しているが、必ずしもL字形状にする必要は無く、その端部を構造物(スピンドルヘッド10)に確りと止めることができる形状であれば、平板状等他の形状でも構わない。
【0016】
また、
図1(b)(c)に示すように、CFRP材30を取り付ける前のスピンドルヘッド10の位置検出側には、CFRP材30を取り付けるための溝10hが形成されており、このスピンドルヘッド10の溝10h内に、位置検出器のヘッド部24を載置した取り付け金具40を更にCFRP材30に取り付けたアセンブリを、
図1(c)に示すように、埋め込んで介挿させることで、本発明の実施形態に係る熱対策構造が完成される。
【0017】
[作用効果]
図3は、本発明の第1の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造の作用効果を説明するための図であり、(a)は、その全体図、(b)は、その自然状態を示す拡大図、(c)は、そのスピンドルヘッドが熱膨張して延びた場合をイメージした拡大図である。
図1及び
図2を参照して上述した構成において、スピンドル12を高速回転させるモータ(図示せず)の発熱、内部の軸受け(図示せず)の回転による摩擦熱等の熱源により、特に、構造物であるスピンドルヘッド10のスピンドル側が熱膨張する。しかしながら、低熱膨張材であるCFRP材30は、その熱膨張率がスピンドルヘッド10の熱膨張率より小さいので、その基端側に取り付けられた取り付け金具40の上面中央部に載置取り付けられた位置検出器の検出部(ヘッド部)24の位置は、スピンドルヘッド10のスピンドル側の熱膨張の影響を受け難い。そして、取り付け金具40のスピンドルヘッド10への取り付け面44、44は熱膨張方向に引っ張られるので、薄い部分40Aが弾性変形して、CFRP材30とスピンドルヘッド10との相対的熱変位分を吸収する。即ち、取り付け金具40は、切り欠き(くびれ)48A、48Bを有することにより、その長手方向(スピンドルヘッド10へ取り付けられた場合は、その熱膨張方向)にだけ弾性変形するという弾性変形の異方性を有することを本質とする部材である。本実施形態では、図示の形状に形成されているが、この形状に限られず、取り付け金具40は、切り欠き(くびれ)等を有することにより、その長手方向(スピンドルヘッド10へ取り付けられた場合は、その熱膨張方向)にだけ弾性変形し易い形状であれば、例えば、以下の第2の実施形態(変形例)に示すように、他の形状でも構わない。
【0018】
[変形例]
図4は、本発明の第2の実施形態(変形例)に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造の要部を示す図であり、(a)は、その取り付け金具の正面図、(b)は、その取り付け金具の斜視図、(c)は、その取り付け金具の正面側から見た斜視図、(d)は、その取り付け金具を用いてCFRP材と位置検出器をスピンドルヘッドへ取り付けた状態の斜視図、(e)は、(d)の取り付け金具と位置検出器の拡大図、(f) は、(d)のスピンドルヘッドの端部の拡大図である。即ち、本発明の第2の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造では、
図4(a)(b)(c)に示すような形状の取り付け金具400を用いる。取り付け金具400は、全幅に亘って表面側から厚み方向に切り込まれた切り欠き408Aと、同様に全幅に亘って、裏面側から厚み方向に切り込まれた切り欠き408Bとを有している。従って、この取り付け金具400を用いることにより、
図4(a)(c)に示す相対的に薄い部分を弾性変形させることで、低熱膨張材であるCFRP材30と送り軸ヘッド部としてのスピンドルヘッド10の相対的熱変位を吸収することが可能である。尚、この取り付け金具400は、位置検出器20の検出部(ヘッド部)24を載置して取り付けるものではなく、CFRP材30の一端側30kを、
図2(e)に示すように、スピンドルヘッド10に固定するものであり、その固定穴402、404は、CFRP材30の上記一端側30kをボルト等により取り付け金具400に固定するための穴であり、その固定穴406A、406Bは、CFRP材30の上記一端側30kを、
図4(e)に示すように、ボルト等によりスピンドルヘッド10に固定するための穴である。即ち、本実施形態では、位置検出器20の検出部(ヘッド部)24は、取り付け金具400を介さずCFRP材30に直接載置し取り付けられる。
【0019】
以上のように、上述した本発明の第1の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造では、所定の熱膨張率を有する金属材から成る送り軸の構造物(スピンドルヘッド)と、前記金属材の熱膨張率よりも低い熱膨張率を有し前記送り軸の軸方向に沿って介挿させた低熱膨張材と、軸の位置検出器の検出部と前記低熱膨張材の一端側とを前記構造物に固定するための取り付け金具を有する熱変位対策構造であって、該取り付け金具に薄い部分を設け、位置検出器の検出部が熱変位の影響を受け難くすると共に、前記低熱膨張材と前記送り軸ヘッド部との相対的熱変位を吸収出来るようにしたことを特徴とする。一方、本発明の第2の実施形態に係る工作機械の送り軸の熱変位対策構造では、位置検出器の検出部は、取り付け金具を介さず低熱膨張材に直接載置し取り付けられる。この両実施形態を含む上位概念としては、本発明は、所定の熱膨張率を有する金属材から成る送り軸の構造物(スピンドルヘッド)と、前記金属材の熱膨張率よりも低い熱膨張率を有し、前記送り軸ヘッド部の軸方向に沿って介挿させた低熱膨張材及び前記低熱膨張材と前記送り軸ヘッド部との相対的熱変位を吸収出来る取り付け金具を有する熱変位対策構造であって、位置検出器の検出部が前記ヘッド部の熱変位の影響を受け難くすると共に、前記低熱膨張材と前記送り軸ヘッド部との相対的熱変位はヘッド部の軸方向に変形し易い取り付け金具を設けて吸収できるようにしたことを特徴とする工作機械の送り軸の熱変位対策構造と規定される。
【0020】
尚、上述した第1及び第2の実施形態では、低熱膨張材としてCFRP材を用いたが、所定の熱膨張率を有する材質から成る送り軸構造物(スピンドルヘッド)の当該熱膨張率よりも低い熱膨張率を有するものであれば、例えばスーパーインバーなどCFRP材以外のものでも良いが、低熱膨張率と長さ方向(熱膨張方向)の剛性を併せ持った材料を用いるのが望ましい。即ち、送り軸構造物(スピンドルヘッド)に固定されるので、送り軸構造物(スピンドルヘッド)に引っ張られて機械的に伸びてしまうと意味が無いので、その引っ張り方向に機械的な剛性(強度)があるものが望ましい。
【符号の説明】
【0021】
10 構造物(スピンドルヘッド)、 12 スピンドル、 12A 工具、14 軸の駆動部、 16 サドル(キャリア)、 18 構造体(コラム)、20 位置検出器、 22 リニアスケール、 24 検出部、26 LMガイド、 28 LMブロック、30 低熱膨張材(CFRP材)、40 取り付け金具、 40A 薄い部分