(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
H01P 5/02 20060101AFI20240626BHJP
H01P 3/04 20060101ALI20240626BHJP
H01P 3/08 20060101ALI20240626BHJP
H04B 5/48 20240101ALI20240626BHJP
【FI】
H01P5/02 603Z
H01P3/04
H01P3/08 100
H04B5/48
(21)【出願番号】P 2020037160
(22)【出願日】2020-03-04
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019097070
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉木 寛人
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-004837(JP,A)
【文献】特表2017-520923(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0862713(KR,B1)
【文献】特表2007-525862(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0279302(US,A1)
【文献】特開平08-224233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/02
H01P 3/08
H01P 3/04
H04B 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延伸する第1の1対の電極を有する第1カプラと、
前記第1の1対の電極
と電磁界結合する第2の1対の電極を有する第2カプラと、
前記第1カプラ
を介して差動信号を
送信または受信する
第1の回路と、
前記第2カプラ
を介して差動信号を
送信または受信する
第2の回路と、を有し、
前記第1の1対の電極は、第1の電極と第2の電極とを有し、
前記第2の1対の電極は、前記第1の電極に少なくとも部分的に対向する第3の電極と、前記第2の電極に少なくとも部分的に対向する第4の電極とを有し、
前記所定方向と垂直な平面において、前記第3の電極の幅は前記第1の電極の幅より小さく、前記第4の電極の幅は前記第2の電極の幅より小さく、前記第3の電極と前記第4の電極の前記幅の方向における離間距離は前記第1の電極と前記第2の電極の前記幅の方向における離間距離より大きく、
前記第1カプラまたは前記第2カプラは、前記第1カプラと前記第2カプラとが前記所定方向に相対的に移動可能とする機構を有することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記所定方向と垂直な平面において前記第1の電極と前記第2の電極の外側の端部間距離は、前記第3の電極と前記第4の電極の外側の端部間距離より小さいことを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記第1の1対の電極それぞれの大きさ及び形状は略同一であり、
前記第2の1対の電極それぞれの大きさ及び形状は略同一であることを特徴とする請求項
1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記相対的に移動可能とする構成を用いて、前記第1の1対の電極と前記第2の1対の電極とが少なくとも一部対向する位置関係を保ちながら、前記第1カプラと前記第2カプラとの少なくとも一方を所定方向に移動させる移動制御手段を有することを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記移動制御手段は、回転軸を有し、前記回転軸を中心に円周方向に移動させるように構成されることを特徴とする請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記第1の1対の電極ぞれぞれの前記所定方向の長さは、前記第2の1対の電極それぞれの前記所定方向の長さと異なることを特徴とする請求項
1乃至5のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項7】
前記所定方向と垂直な平面において、前記第1の1対の電極の各々の幅と
前記幅の方向における離間距離との第1の和と、前記第2の1対の電極の各々の幅と
前記幅の方向における離間距離との第2の和とが異なることを特徴とする請求項1乃至
6の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項8】
前記第1の和と前記第2の和のうちの小さい方の和が、他方の和の半分以上であることを特徴とする請求項
7に記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記
第2の回路は、前記第2の1対の電極のそれぞれとビアを介して接続されていることを特徴とする請求項1乃至
8の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項10】
前記無線通信システムはCT装置に取り付けられることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項11】
前記第1カプラと前記第2カプラの少なくとも一方が、CT装置のガントリーに配置されることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項12】
前記無線通信システムは、X線情報を無線通信することを特徴とする請求項10または11に記載の無線通信システム。
【請求項13】
所定方向に延伸する第1の1対の電極を有する第1カプラと、前記第1の1対の電極
と電磁界結合する第2の1対の電極を有する第2カプラと、を有する無線通信システムの制御方法であって、
前記第1カプラ
を介して差動信号を
送信または受信する
第1の工程と、
前記第2カプラ
を介して差動信号を
送信または受信する
第2の工程と
、を有し、
前記第1の1対の電極は、第1の電極と第2の電極とを有し、
前記第2の1対の電極は、前記第1の電極に少なくとも部分的に対向する第3の電極と、前記第2の電極に少なくとも部分的に対向する第4の電極とを有し、
前記所定方向と垂直な平面において、前記第3の電極の幅は前記第1の電極の幅より小さく、前記第4の電極の幅は前記第2の電極の幅より小さく、前記第3の電極と前記第4の電極の前記幅の方向における離間距離は前記第1の電極と前記第2の電極の前記幅の方向における離間距離より大きく、
前記第1カプラまたは前記第2カプラは、前記第1カプラと前記第2カプラとが前記所定方向に相対的に移動することを特徴とする制御方法。
【請求項14】
前記所定方向と垂直な平面において前記第1の電極と前記第2の電極の外側の端部間距離は、前記第3の電極と前記第4の電極の外側の端部間距離より小さいことを特徴とする請求項13に記載の制御方法。
【請求項15】
前記相対的に移動することにおいて、前記第1の1対の電極と前記第2の1対の電極とが少なくとも一部対向する位置関係を保ちながら、前記第1カプラと前記第2カプラとの少なくとも一方を所定方向に移動させ
ることを特徴とする請求項
13または14に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器や産業用ロボットにカメラ等の装置が取り付けられ、固定部と、固定部に対して平行移動や回転運動などを行う可動部との間で画像信号などの大容量のデータ伝送を高速に行うシステムが増えつつある。例えば、CT装置では、回転部であるガントリを用いて、相異なる回転角度で多数のX線像を撮影し、得られたX線像を固定部に設けられたコンピュータが所定のアルゴリズムに従って処理し、診断用または検査用の像を作成する。このために、回転部から固定部へ多数のX線像が転送される。
【0003】
特許文献1は、このようなCT装置における回転部と固定部の間のデータ通信を行う為の通信システムを開示している。特許文献1に記載された通信システムは、全体的に環状の回転フレームに実質的に沿って位置決めされて取り付けられた差動伝送線路と、固定フレームに取り付けられた差動結合器とを有する。差動結合器は、差動伝送線路との無線結合により差動伝送線路に印加された信号を受け取ることができるように、差動伝送線路に十分に接近して通路内に位置決めされ、配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、回転部の回転軸に沿った断面において、差動結合器と差動伝送線路の信号導体の断面が同じサイズを有し、正対するように対称に配置された構造を有している。しかしながら、この構造では、回転部と固定部の間に、回転部の回転軸方向へのずれが発生すると、差動結合器と差動伝送線路の信号導体の位置関係が横ずれをおこし、差動結合器において受信される差動信号が大きく変動する。その結果、通信品質が低下し、回転部から固定部へ送信されるデータに誤りが生じる虞がある。同様の課題は、固定部と回転部との間で通信するシステムに限らず、固定部と平行移動する可動部との間で通信するシステムなど、電磁界結合により無線通信を行うシステムにおいて生じうる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、電磁界結合により無線通信を行う機器間の位置ずれによる通信品質の低下を抑制することが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による無線通信システムは以下の構成を備える。すなわち、
所定方向に延伸する第1の1対の電極を有する第1カプラと、
前記第1の1対の電極と電磁界結合する第2の1対の電極を有する第2カプラと、
前記第1カプラを介して差動信号を送信または受信する第1の回路と、
前記第2カプラを介して差動信号を送信または受信する第2の回路と、を有し、
前記第1の1対の電極は、第1の電極と第2の電極とを有し、
前記第2の1対の電極は、前記第1の電極に少なくとも部分的に対向する第3の電極と、前記第2の電極に少なくとも部分的に対向する第4の電極とを有し、
前記所定方向と垂直な平面において、前記第3の電極の幅は前記第1の電極の幅より小さく、前記第4の電極の幅は前記第2の電極の幅より小さく、前記第3の電極と前記第4の電極の前記幅の方向における離間距離は前記第1の電極と前記第2の電極の前記幅の方向における離間距離より大きく、
前記第1カプラまたは前記第2カプラは、前記第1カプラと前記第2カプラとが前記所定方向に相対的に移動可能とする機構を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電磁界結合により無線通信を行う機器間の位置ずれによる通信品質の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一実施形態に係る近接通信システムの斜視図。
【
図2】第一実施形態に係る差動伝送線路と差動結合器の断面図。
【
図3A】従来の近接通信システムにおける、受信差動信の変動を説明する図。
【
図3B】第一実施形態に係る、受信差動信の変動を抑制する原理を説明する図。
【
図5】第二実施形態に係るシミュレーション結果を示す図。
【
図6】第三実施形態に係る近接通信システムの断面図。
【
図7】第四実施形態に係る近接通信システムの斜視図と断面図。
【
図8】第五実施形態に係る近接通信システムの斜視図。
【
図9】第六実施形態に係る、受信差動信号の変動を抑制する原理を説明する図。
【
図10】第七実施形態に係る、受信差動信号の変動を抑制する原理を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<第一実施形態>
図1は、第一実施形態に係る、送信機と受信機を備えた無線通信システムの一例としての近接通信システムの斜視図である。送信機は、送信カプラとしての差動伝送線路1と、送信回路3とを備える。受信機は、受信カプラとしての差動結合器2と、受信回路4とを備える。差動伝送線路1と差動結合器2は、少なくとも一部対向するように配置される。送信回路3から出力された差動信号は、電磁結合状態の送信カプラと受信カプラを通して受信回路4により受信される。より具体的には、送信回路3から差動伝送線路1に差動信号が印加されると、差動伝送線路1と差動結合器2との電磁界結合により差動結合器2から差動信号が出力され、出力された差動信号が受信回路4により受信される。受信回路4は、受信した無線信号である差動信号を所望のデジタル信号波形に整形して出力する。すなわち、受信回路4は、差動結合器2の1対の差動信号線21,22と接続して、当該1対の差動信号線が受信した差動信号を検出する。受信回路4から出力されたデジタル信号は種々の信号処理に用いられる。すなわち、1対の差動信号線21、22は、無線で差動信号を受信するためのアンテナとして機能する1対の電極である。
【0012】
送信回路3は、送信カプラに差動信号を出力する機能を有している。必要によって、送信回路3が増幅器や減衰器、種々のフィルタ回路を有していても良い。また、送信回路3が差動信号を分配するための分配器等を有していれば、複数の送信カプラに同時に送電することもできる。受信回路4は、無線信号をデジタル信号に変換する機能を有し、具体的には、コンパレータ回路等によって実現される。なお、ダンピング抵抗やローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ、コモンモードフィルタなどのフィルタ回路が、ノイズ対策等のために、受信回路4に接続されていても良い。また、受信回路4は、複数の受信信号を合成するための合波器を有していても良い。上述の様に、送信カプラと受信カプラは、差動伝送線路1と差動結合器2の組み合わせで構成される。
【0013】
なお、
図1では、送信カプラが差動伝送線路1により、受信カプラが差動結合器2により構成された近接通信システムを示しており、差動伝送線路1の方が差動結合器2よりも大きい構成となっている。しかしながら、差動伝送線路1と差動結合器2の大小関係はこれに限られるものではなく、差動伝送線路1の方が差動結合器2よりも小さい構成であってもよい。すなわち、差動信号線21,22に差動信号が印加され、差動信号線11,12がこれを受信する構成であってもよい。
【0014】
差動伝送線路1は、フラットケーブルやフレキシブル基板やプリント回路基板等で形成される。例えば、差動伝送線路1では、FR-4などの絶縁部材上に、マイクロストリップ構造やコンプレーナ構造の1対の差動信号線11,12が形成されている。1対の差動信号線11,12には、送信回路3から差動信号が印加される。すなわち、1対の差動信号線11、12は、無線で差動信号を送信するためのアンテナとして機能する1対の電極である。差動信号線11,12は、多層基板の内層に形成されてもよいし、表層に形成されてもよい。差動信号線11,12が表層に形成される場合は、保護部材としてレジスト材などで差動信号線を覆う等の処理が施されているのが好ましい。差動伝送線路1の差動信号線11,12が配置された面の反対側の面には、GND層10が形成されている。
【0015】
差動伝送線路1において、所望の特性インピーダンスになるように差動信号線11,12の幅(差動信号線幅)や差動信号線11,12間の距離(信号線間距離(電極間距離))が決定されている。差動信号線11,12の一端は終端回路5で終端され、他端には送信回路3が接続される。例えば、差動インピーダンスが100Ωとなるように差動信号線幅と信号線間距離が決定される。但し、差動信号線幅と信号線間距離は、送信回路3および終端回路5と整合していれば良く、特に限定されない。また、差動伝送線路1を長く形成したい場合は、
図1に示されるような基板を複数接続することで実現できる。このとき、接続される各基板については、差動信号線が略等しい差動特性インピーダンスを有し、電気的に接続されていれば良く、電気的材料定数や基板の層構成について何等制限はない。
【0016】
差動結合器2も、差動伝送線路1と同様にプリント回路基板等で形成され得る。差動結合器2では、差動信号線21,22の両端が電気的に開放された状態で配置されている。差動信号線21,22は、差動伝送線路1の差動信号線11,12に印加された差動信号を、電磁界結合により受信し、受信回路4に供給する。差動結合器2の差動信号線21,22が配置された面の反対側の面には、GND層20(
図2(a)参照)が形成されている。
図1では、差動信号線21,22のそれぞれの長さ方向の略中央において受信回路4が電気的に接続された構成が示されているがこれに限られるものではない。例えば、差動信号線21,22の一端が終端回路にて終端され、他端に受信回路4が接続される、いわゆる方向性結合器であっても良い。差動結合器2の長さは、差動伝送線路1の長さより短く、差動信号の伝送速度により調整される。また、差動伝送線路1と差動結合器2は、少なくとも一部対向する位置関係を保ちながら、所定方向(例えば差動信号線21と差動信号線22が並ぶ方向に略垂直な方向、すなわち
図1の左右方向)に相対的に移動可能に配置される。例えば、差動伝送線路1は、移動/回転側に配置され、差動結合器2は固定側に配置される。もしくは、差動伝送線路1が固定側に配置され、差動結合器2が移動/回転側に配置される。好適な例としては、CT装置の回転部(ガントリ)側に差動伝送線路1が、固定部側に差動結合器2が配置され、回転部から固定部へX線情報を送信する構成があげられる。ただし、差動伝送線路1と差動伝送線路2の両方が移動してもよい。近接通信システムは、差動伝送線路1と差動伝送線路2の少なくとも何れか(少なくとも一方)を所定方向に移動させるためのモータ等の駆動部(移動制御部)を有する。
【0017】
本実施形態における電磁界結合には、電界結合と磁界結合の両方が含まれる。すなわち、カプラ間における無線通信は、電界結合によって行われてもよいし、磁界結合によって行われてもよいし、電界結合と磁界結合の両方によって行われてもよい。磁界結合には電磁誘導及び磁界共鳴が含まれる。なお本実施形態では、主に電界結合による無線通信が行われる場合を中心に説明する。本実施形態では、差動信号線21の重心と差動信号線22の重心とを結ぶ方向は、差動信号線11の重心と差動信号線22の重心とを結ぶ方向と略一致する。また、差動信号線11と差動信号線22の大きさ及び形状は略同一であり、差動信号線11と差動信号線22の大きさ及び形状は略同一である。ただし、各差動信号線の大きさ及び形状の関係はこれに限定されるものではない。
【0018】
次に、
図2を用いて、第一実施形態に係る近接通信システムと従来の近接通信システムの構成の違いについて説明する。
図2(a)は、特許文献1に開示されているような、従来の差動伝送線路1と差動結合器2の断面図である。
図2(a)に示されるように、差動伝送線路1と差動結合器2における差動信号線幅(w)と信号線間距離(g)の和が等しく、ともにw1となっている。なお、差動信号線11,12と差動信号線21,22の信号線幅はすべて等しい。また、差動信号線11,12と差動信号線21,22の間の距離(間隙)はGとなっている。
【0019】
図2(b)は、第1実施形態による差動伝送線路1と差動結合器2の断面図である。差動伝送線路1の差動信号線幅と信号線間距離の和w1に対して、差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離の和w2が小さくなっている。なお、1対の差動信号線11,12の線幅、1対の差動信号線21,22の線幅はそれぞれ等しく、本例では、差動信号線21,22の線幅が差動信号線11,12の線幅よりも狭い。差動結合器2は、差動伝送線路1に対して、差動信号線間の間隙Gを空けて差動信号線間の中心軸がなるべく一致するように配置される。差動伝送線路1には、非反転信号が伝送される差動信号線11と反転信号が伝送される差動信号線12が形成される。差動結合器2上に形成された差動信号線21と差動信号線22には、差動伝送線路1の差動信号線11,12により非反転信号と反転信号がそれぞれ誘起される。
【0020】
図3A、
図3Bを参照して第一実施形態の近接通信システムが横ずれに強い原理を説明する。
図3A、
図3Bでは、
図2に示した差動伝送線路1と差動結合器2の間に横ずれを生じさせた場合の受信電圧について説明する図である。なお、横ずれとは、差動信号の伝送方向(差動伝送線路1から差動結合器2に向かう方向)に対して垂直、且つ、差動結合器2の移動方向(差動信号線11、12の長尺方向)に直交する方向のずれである。
【0021】
まず、
図2(a)に示したように、差動伝送線路1と差動結合器2における差動信号線幅と信号線間距離との和が等しい、従来の近接通信システムの場合を説明する。
図3Aの左側に示されるように、差動伝送線路1と差動結合器2における差動信号線幅と信号線間距離との和の中央が一致している場合(横ずれが生じていない場合)、最大結合状態となる。この場合、差動結合器2が受信できる反転信号と非反転信号の振幅は、同じ大きさで、最大となる。以下、この状態の反転信号と非反転信号の振幅の差である差動電圧を1とする。
【0022】
図3Aの左側の状態から、差動信号の伝送方向に対して垂直な方向のずれである横ずれYが生じた様子を
図3Aの右側に示す。この場合、2つの差動信号線が、ともに対向する差動信号線から遠ざかってしまう。その結果、差動結合器2において受信できる反転信号と非反転信号の振幅はともに小さくなり(図示の例では30%減少している)、それらの振幅の差である差動電圧も小さくなってしまう。なお、より厳密には、
図3Aの右側に示されるように、非反転信号が誘起される差動信号線21が、反転信号が伝送される差動信号線12に近づくため、差動信号線21に生じる電圧が一部相殺され、差動信号線21に誘起される非反転信号はより小さくなる。
【0023】
次に、本実施形態による近接通信システムの場合を説明する。ここでは、
図2(b)に示したように、差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離との和w2が、差動伝送線路1の差動信号線幅と信号線間距離の和w1より狭い場合について説明する。
図3Bの左側に示されるように、差動伝送線路1と差動結合器2を、中心軸が一致(w1とw2の中央が一致)するように対向配置させた状態では、反転信号同士と非反転信号同士は、それぞれ最大結合状態ではない。そのため、差動結合器2が受信できる差動電圧レベルは、
図3Aの左側に示した状態よりも小さくなる。しかしながら、各差動信号線同士の結合度は同じであるため反転信号と非反転信号の受信電圧は同じ大きさとなりバランスが保たれた状態となる。
図3Bでは、非反転信号と反転信号の振幅がともに0.35であり、差動電圧が0.7となっている。
【0024】
図3Bの左側の状態から信号伝送方向に対して垂直な方向なずれである横ずれYが発生した場合を
図3Bの右側に示す。差動伝送線路1上の差動信号線11と差動結合器2上の差動信号線21は離れる方向へ変化するため、差動信号線21に誘起される非反転信号はより小さくなる。
図3Bの例では、振幅値が0.35から0.25へ減少している。しかしながら、差動伝送線路1上の差動信号線12と差動結合器2上の差動信号線22は、互いに近づく方向へ変化する(最大結合状態へ近づく)ため、差動信号線22に誘起される反転信号は大きくなる。
図3Bの例では振幅値が0.35から0.4へ増大している。よって、差動結合器2で受信できる差動電圧の変動(0.7→0.65)は、
図3Aにおいて横ずれが発生した場合(1.0→0.7)よりも小さくなる。
【0025】
以上のような原理により、差動伝送線路1の差動信号線幅と信号線間距離の和w1に対して差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離の和w2を小さくすることにより、横ずれに対する差動電圧の変動を小さくすることができる。
【0026】
以下、第一実施形態の効果を検証するための実際の測定結果を示す。差動伝送線路1と差動結合器2は、基材として日本ピラー工業社のフッ素樹脂基板NPC-H220A、呼び厚さ1.6mmを使用した。また、差動伝送線路1と差動結合器2において、銅箔厚は35μ、GNDの幅は30mmである。差動伝送線路1の差動信号線幅は5mm、信号線間距離は4.8mmである。したがって、差動伝送線路1の差動信号線幅と信号線間距離の和と、差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離の和は、それぞれ14.8mmとなる。差動伝送線路1の差動信号線11,12の一端にFPGAよりCML形式の差動信号を、RFアンプを経由して給電した。なお、送信信号パターンはPRBS7、送信データレートは2Gbpsである。差動信号線11,12の他端は、51Ωのチップ抵抗を介してGNDに接続した。
【0027】
上述した差動伝送線路1と、以下に述べる2種類の差動結合器2により、評価サンプルとして2種類の近接通信システムを用意した。以下、評価サンプル1、評価サンプル2と記載する。
【0028】
図4(a)は、評価サンプル1による差動伝送線路1と差動結合器2の断面図を示す。評価サンプル1の差動結合器2の差動信号線21,22の差動信号線幅は5mm、信号線間距離は4.8mmであり、差動伝送線路1の差動信号線11,12と同じ寸法である。また、差動結合器2の長さは30mmで、中央よりビアを介して差動信号線21,22の反対側の面に信号を引き出し、U.FL(ヒロセ電機社製)コネクタに接続し、SMAコネクタへ変換してオシロスコープで波形を測定した。この測定結果を表1に示す。表1より、横ずれなしの状態から1.2mm横ずれさせた場合、振幅が概ね8割弱程度に減衰した。
【0029】
図4(b)に、評価サンプル2による差動伝送線路1と差動結合器2の断面図を示す。評価サンプル2の差動結合器2の差動信号線21,22の差動信号線幅は4mm、信号線間距離は1.6mmであり、差動伝送線路1の差動信号線11,12より狭い寸法となっている。すなわち、差動伝送線路1の差動信号線幅と信号線間距離の和w1(=14.8mm)に対して差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離の和w2(=9.6mm)が小さくなっている。評価サンプル1と同様に、評価サンプル2における受信差動電圧の変動をオシロスコープで測定した結果を表2に示す。表2より横ずれなしの状態から1.2mm横ずれさせた場合でも、受信信号の振幅減少は2%程度に抑制されることが分かる。
【0030】
【0031】
以上の測定結果より、差動伝送線路1と差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離の和が等しい場合に比べ、差動伝送線路1の上記和に対して差動結合器2の上記和が小さい場合の方が、横ずれに対して受信信号の変動が抑制できることがわかる。
【0032】
以上のように、第1実施形態の近接通信システムによれば、横ずれ時の差動信号電圧の変動を抑制でき、近接無線通信における通信品質を向上したシステムを提供することができる。また、差動結合器2の信号線間距離を狭くすることで外来ノイズの影響を受けにくくする効果も得られる。また、
図1に示されるように差動信号線21,22の線路長の略中央において受信回路4と電気的に接続された構成にすれば、差動結合器の長さが半分になるので伝送を高速化でき、かつ、差動伝送線路の給電方向に関係なく信号を受信できる。
【0033】
<第二実施形態>
第一実施形態では、2つの評価サンプルを用いて実際に受信電圧レベルの変動をオシロスコープで測定し効果を検証した。第二実施形態では、3D電磁界シミュレートを用いて、差動結合器の差動信号線幅と信号配線間距離をパラメータに受信電圧の変動を計算した。表3に評価サンプルのパラメータの一覧を記載する。表3において、評価サンプル1では、差動伝送線路1と差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離の和が同じである。評価サンプル2~4では、差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離が、それぞれ差動伝送線路1よりも小さくなっている。すなわち、評価サンプル2~4では、差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離の和が、差動伝送線路1の差動信号線幅と信号線間距離の和よりも小さくなっている。以下、w1、w2を差動信号線対の幅ともいう。
【0034】
【0035】
表3に示した評価サンプル1~4について、横ずれの発生による受信電圧の変動をシミュレーションした結果を、
図5に示す。横軸は、横ずれ量を示しており、差動伝送線路1の差動信号線幅と信号配線間距離の和の半分、つまり7.4mmで割った値で正規化している。縦軸は、受信電圧を示しており、正対している時の受信電圧で割った値で正規化している。差動伝送線路と差動結合器間の間隙は、1mmである。近接通信システムで発生する横ずれが、差動伝送線路1における差動信号線対の幅の20%程度(本実施形態でいうと3mm程度)までであれば、評価サンプル2と評価サンプル3が評価サンプル1より横ずれに対して強いことがわかる。また、評価サンプル3のパラメータより差動結合器2の差動信号線対の幅は、差動伝送線路1の差動信号線対の幅の半分程度までが、横ずれに対して効果があることがわかる。すなわち、差動伝送線路1の差動信号線対の幅が差動結合器2の差動信号線対の幅の半分以上であることが好ましい。
【0036】
<第三実施形態>
図6に第三実施形態に係る近接通信システムの差動伝送線路1と差動結合器2の断面図を示す。第三実施形態では、差動結合器2の差動信号線21,22から信号を取り出すためのビア31,32の接続位置について検討する。差動伝送線路1と差動結合器2の差動信号線に関する寸法は、第二実施形態の評価サンプル2と同じである。第三実施形態では、差動結合器2の差動信号線21,22における信号を裏面に引き出すビア31,32の、差動信号線21,22における位置をパラメータとしている。
図6(a)は、差動信号線21,22の中央にビアを配置した例であり、ビア間距離は5.6mmである。
図6(b)は、差動信号線21,22の内側にビアを配置した例であり、ビア間距離は、1.6mmである。
図6(c)は、差動信号線21,22の外側にビアを配置した例であり、ビア間距離は9.6mmである。横ずれは1.5mmである。その他は、第二実施形態と同様である。
【0037】
表4に、受信電圧変動をシミュレーションした結果を示す。表4では、
図6(a)を評価サンプル1、
図6(b)を評価サンプル2、
図6(c)を評価サンプル3としてシミュレーション結果を示している。表4より、ビア位置は、1対の差動信号線の線幅の中央よりも他方の信号線側の位置に配置するのが好ましく、1対の差動信号線の内側の端部(
図6(b))がより好ましいことが分かる。すなわち、ビア(受信回路)は、1対の電極それぞれの重心よりも他方の電極側の位置に接続されていることが好ましい。
【0038】
【0039】
<第四実施形態>
図7(a)に第四実施形態に係る近接通信システムの斜視図を、
図7(b)に第四実施形態に係る差動伝送線路1と差動結合器2の断面図を示す。第四実施形態では、差動伝送線路1の差動信号線対の幅w1よりも差動結合器2の差動信号線対の幅w6の方が広くなっている。原理的に、差動伝送線路1の差動信号線対の幅より差動結合器2の差動信号線対の幅の方が狭い構成(例えば、第1実施形態の構成)と同様な効果がある。さらには、第四実施形態の構成では、差動伝送線路1における信号線間距離が近くなるので、差動信号ペア間の結合が強くでき、放射ノイズを抑制可能となる。
【0040】
以上のように、第四実施形態の近接通信システムによれば、差動伝送線路の信号線間距離が狭くなるので、横ずれに強く、且つ、差動伝送線路からの放射ノイズを抑制することができる。なお、第四実施形態で説明した構成(差動伝送線路の差動信号線対の幅が差動結合器の差動信号線対の幅よりも小さい構成)に関して、第一実施形態から第三実施形態で説明した内容を適用することができる。すなわち、第一実施形態から第三実施形態で説明した、差動伝送線路の差動信号線対と差動結合器の差動信号線対の大きさの関係について、差動伝送線路を差動結合器に、差動結合器を差動伝送線路にそれぞれ読み替えた構成であってもよい。
【0041】
<第五実施形態>
図8は、第五実施形態に係る近接通信システムの斜視図を示す。
図8に示されるように、差動伝送線路1に対して複数の差動結合器2、2'を設けることも可能である。このような構成は、バス配線の非接触化に適している。また、複数の差動結合器2の各々に周波数特性を持たせて受信回路で加算することにより、高帯域化を実現することが可能となる。
【0042】
以上のように、第五実施形態の近接通信システムによれば、複数の差動結合器2で差動伝送線路1の信号を受信できるようになる。さらには、各差動結合器の周波数特性をずらして、信号を合成するように構成することで、通信の広帯域化を実現することが可能となる。
【0043】
<第六実施形態>
図9は、第六実施形態による差動伝送線路1と差動結合器2の断面図である。差動伝送線路1の差動信号線幅と信号線間距離の和w1は略等しい。差動伝送線路1の差動信号線幅11、12は、差動結合器2の差動信号線幅21、22より広い。差動伝送線路1の差動信号線間幅w4は、差動結合器2の差動信号線間幅w3より狭い。
【0044】
図9の左側の状態から差動信号の伝送方向に対して垂直な方向のずれである横ずれYが生じた様子を
図9の右側に示す。差動結合器2が距離Yだけ横にずれたことにより、差動電素線路1の差動信号線11、12と差動結合器2の差動信号線間21、22間の結合度が変化する。9a、9bは、差動伝送線路1と差動結合器2の差動信号線間の結合度を電圧で示している。電圧が高い方が結合度は高い。
図9の左側に示されている横ずれのない状態において、差動信号線11と差動信号線21の間の結合度91と、差動信号線12と差動信号線22の間の結合度92は等しく0.4Vであり、差動電圧は0.8Vとなる。ここで差動電圧のマイナスは表記しない。
【0045】
図9の右側に示される状態では、差動結合器2がY分横ずれしたことにより、差動信号線11と差動信号線21が正対し、その結合度93は強まっている。逆に、差動信号線12と差動信号線22は、差動結合器2がY分横ずれしたことにより両者間の距離が大きくなるため、その結合度94が弱まる。9bでは、差動信号線11と差動信号線21間の結合度93は0.5V、差動信号線12と差動信号線22間の結合度94は0.25Vとなっている。結果、差動電圧は0.75Vとなり、横ずれしない場合(本例では0.8V)と比較しても結合度はそれほど大きく低下していない。従って
図9に示す差動信号線の配置は差動結合器1が横ずれした時にも通信を維持できる。
【0046】
<第七実施形態>
図10は、第七実施形態による差動伝送線路1と差動結合器2の断面図である。差動伝送線路1の差動信号線幅と信号線間距離の和w1より差動結合器2の差動信号線幅と信号線間距離の和w11は広い配置になっている。ただし、
図9と同様に、差動伝送線路1の差動信号線幅11、12は、差動結合器2の差動信号線幅21、22より広く、差動伝送線路1の差動信号線間距離w4は、差動結合器2の差動信号線間距離w3より狭い。
【0047】
図10の右側は、
図10の左側の状態から、差動信号の伝送方向に対して垂直な方向のずれである横ずれYが生じた様子を示す。差動結合器2が距離Yだけ横にずれたことにより、差動伝送線路1の差動信号線11、12と差動結合器2の差動信号線間21、22との間の結合度が変化する。
【0048】
10a、10bは各差動結合器間の差動信号線間の結合度を電圧で示している。電圧が高い方が結合度は高い。10aにおいて、差動信号線11と差動信号線21の間の結合度101、差動信号線12と差動信号線22の間の結合度102は等しく0.35Vであり、差動電圧は0.7Vとなる。ここで差動電圧のマイナスは表記しない。
【0049】
図9の結合度と比較して、
図10の構成では差動信号線21、22が差動伝送線路1の差動信号線11、12よりも外側に配置されているため、結合度が弱まっている。10aは差動結合器2がずれる前の結合度を、10bは差動結合器2がY分横ずれした場合の結合度を表している。結合度103は差動結合器2がY分横ずれした事により、差動信号線11と差動信号線21が正対するようになるため、結合度が強まる。逆に結合度104は差動結合器2がY分横ずれした事により、差動信号線12と差動信号線22の間の距離が大きくなり、結合度が弱まっている。本例では、差動信号線11と差動信号線21の間の結合度103は0.5V、差動信号線12と差動信号線22の間の結合度104は0.2Vとなっている。結果、差動電圧は0.7Vとなり、横ずれしない場合の結合度0.7Vと比較して結合度は等しい。従って
図10に示す差動信号線の配置は差動結合器1が横ずれした時にも通信を維持できることがわかる。
【0050】
図3Bでは、差動信号線21、22間の距離が差動信号線11、12間の距離より狭い場合を説明している。これに対して
図9、
図10の差動結合器の差動信号線の配置はw4<w3である。この場合、
図9、
図10の差動信号線21、22間の距離が離れているため線間の容量結合が低くなり、高周波特性が良好になる。差動結合器の実装スペースを鑑みて、差動信号線の配置を考慮することができる。
【0051】
以上説明したように、上記各実施形態の通信システムにおいて、差動信号線21の重心と差動信号線22の重心との距離は、差動信号線11の重心と差動信号線22の重心との距離と異なる。このような構成により、差動伝送線路1と差動結合器2との間で横ずれが生じても差動電圧の変化が小さく、電磁界結合により無線通信を行う機器間の位置ずれによる通信品質の低下が抑制される。
【符号の説明】
【0052】
1:差動伝送路、2:差動結合器、11,12,21,22:差動信号線、3:送信回路、4:受信回路、5:終端回路