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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240626BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20240626BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240626BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 F
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020048447
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021150467
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】土屋 賢人
(72)【発明者】
【氏名】乾 延彦
(72)【発明者】
【氏名】星山 裕希
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-024045(JP,A)
【文献】特開2012-238820(JP,A)
【文献】特開2014-031501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/373
H05K 7/20
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性板状フィラーを含む熱伝導シートであって、
前記熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面において、前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を測定したとき、前記角度分布は+10~+80°又は-10~-80°の範囲内に角度分布のピークを有し、
前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する前記熱伝導性板状フィラーは、前記熱伝導シートの深さ0.2mmより内部に存在する熱伝導性板状フィラーに比べて、前記熱伝導シートの厚さ方向に対して傾斜しており、前記熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面において、前記熱伝導シートの深さ0.2mmより内部に存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を測定したとき、前記角度分布は-40~+40°の範囲内に角度分布のピークを有する、熱伝導シート。
【請求項2】
前記熱伝導性板状フィラーの長手方向の平均長さが5μm以上であり、かつアスペクト比が5以上である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記角度分布のピークの半値幅が80°以下である、請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
プラス側の角度に前記角度分布のピークがある場合、前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの数に対して前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度がマイナスである熱伝導性板状フィラーの数の割合が30%未満であるか、又は、
マイナス側の角度に前記角度分布のピークがある場合、前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの数に対して前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度がプラスである熱伝導性板状フィラーの数の割合が30%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布の標準偏差が30以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項6】
熱伝導率が6W/mK以上である請求項1~のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項7】
30%圧縮強度が1300kPa以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【請求項8】
前記熱伝導シートにおける前記熱伝導性板状フィラーの含有量が40体積%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性板状フィラーを含有する熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導シートは、主に、半導体パッケージのような発熱体と、アルミニウムや銅等の放熱体との間に配置して、発熱体で発生する熱を放熱体に速やかに移動させる機能を有する。近年、半導体素子の高集積化や半導体パッケージにおける配線の高密度化によって、半導体パッケージの単位面積当たりの発熱量が大きくなっており、これに伴い、従来の熱伝導シートに比べ、熱伝導率が向上した、より速やかな熱放散を促すことができる熱伝導シートへの需要が高まってきている。
また、様々な形状を有する半導体パッケージ等の発熱体に密着させるために、形状追従性のよい柔軟な熱伝導シートが望まれている。
例えば、特許文献1には、発熱性部品の放熱に有効に用いられる低硬度熱伝導性シリコーンゴムに関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-204259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている低硬度熱伝導性シリコーンゴムのような柔軟な熱伝導シートは、変形しやすいため、取り扱い作業性が悪い。このため、柔軟な熱伝導シートは、使用する前に、剥離シートに予め積層しておく必要があった。
しかしながら、熱伝導シートのタック性により熱伝導シートが剥離シートに付着し、熱伝導シートを剥離シートから剥がすとき、カスが発生したり、熱伝導シートにスジが発生したりする場合があった。また、リワークのために熱伝導シートを剥離したとき、残渣が残るため、リワークのためには清掃、部品交換などの工程負荷が増すことがあった。
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、タック性が低く、柔軟性及び熱伝導性が優れている熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、熱伝導性付与剤として熱伝導性板状フィラーを使用するとともに、熱伝導シートの表面近傍に存在する熱伝導性板状フィラーの傾きを制御することにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]~[9]に関する。
[1]熱伝導性板状フィラーを含む熱伝導シートであって、
前記熱電シートの厚さ方向に平行な断面において、前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を測定したとき、前記角度分布は+10~+80°又は-10~-80°の範囲内に角度分布のピークを有する、熱伝導シート。
[2]前記熱伝導性板状フィラーの長手方向の平均長さが5μm以上であり、かつアスペクト比が5以上である、上記[1]に記載の熱伝導シート。
[3]前記角度分布のピークの半値幅が80°以下である、上記[1]又は[2]に記載の熱伝導シート。
[4]プラス側の角度に前記角度分布のピークがある場合、前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの数に対して前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度がマイナスである熱伝導性板状フィラーの数の割合が30%未満であるか、又は、
マイナス側の角度に前記角度分布のピークがある場合、前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの数に対して前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度がプラスである熱伝導性板状フィラーの数の割合が30%未満である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の熱伝導シート。
[5]前記熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面において、前記熱伝導シートの深さ0.2mmより内部に存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を測定したとき、前記角度分布は-40~+40°の範囲内に角度分布のピークを有する、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱伝導シート。
[6]前記熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と前記熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布の標準偏差が30以下である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の熱伝導シート。
[7]熱伝導率が6W/mK以上である上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の熱伝導シート。
[8]30%圧縮強度が1300kPa以下である、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の熱伝導シート。
[9]前記熱伝導シートにおける前記熱伝導性板状フィラーの含有量が40質量%以上である、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の熱伝導シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タック性が低く、柔軟性及び熱伝導性が優れている熱伝導シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態の熱伝導シートのおける熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面の概略図である。
図2図2は、図1に示す本発明の一実施形態の熱伝導シートの断面の概略図での表面近傍を拡大した図である。
図3図3は、図1に示す本発明の一実施形態の熱伝導シートにおける熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱導電性板状フィラーの角度分布の一例を示すグラフである。
図4図10は、スライス工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱伝導シート]
本発明の熱伝導シートは、熱伝導性板状フィラーを含む熱伝導シートである。そして、本発明の熱伝導シートは、熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面において、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を測定したとき、その角度分布は+10~+80°又は-10~-80°の範囲内に角度分布のピークを有する。なお、熱伝導シートの厚さ方向に対して時計回りの方向をプラスの角度とし、反時計回りの方向をマイナスの角度とする。
熱伝導性板状フィラーを含有する熱伝導シートは、一般に、多く含有させなくても熱伝導性を高めるためことができるため、熱伝導シートの柔軟性を高くすることができる。また、本発明の熱伝導シートでは、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーが、+10~+80°又は-10~-80°の範囲内に角度分布のピークを有するので、熱伝導シートのタック性を低減できるとともに、熱伝導性を良好にできる。
【0010】
本発明の熱伝導シートの熱伝導性板状フィラーの上述の角度分布におけるピークの位置は、例えば、後述の熱伝導シートの製造方法において、スライス工程の条件を変えることで、制御することができる。
【0011】
(熱伝導性板状フィラー)
本発明の熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラーは熱伝導シート中に分散されている。熱伝導性板状フィラーの熱伝導率は特に限定されないが、好ましくは12W/m・K以上であり、より好ましくは15~70W/m・K、さらに好ましくは25~70W/m・Kである。
熱伝導性板状フィラーの材質としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、金属、炭素系材料などが挙げられる。
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。
窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ホウ素ナノチューブ、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。
酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)(酸化アルミニウムの水和物(ベーマイトなど)を含む。)、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。また、酸化物として、チタン酸バリウムなどの遷移金属酸化物などや、さらには、金属イオンがドーピングされている、例えば、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズなどが挙げられる。
【0012】
水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
金属としては、例えば、銅、金、ニッケル、錫、鉄、または、それらの合金が挙げられる。
炭素系材料としては、例えば、黒鉛、ダイヤモンド、グラフェンなどが挙げられる。
上記した中でも、熱伝導性板状フィラーとしては、窒化ホウ素が好ましい。
【0013】
本発明の熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラーのアスペクト比は、好ましくは5以上である。熱伝導性板状フィラーのアスペクト比が5以上であると、熱伝導シートの熱伝導性をさらに向上させることができる。このような観点から、熱伝導性板状フィラーのアスペクト比は、より好ましくは10以上である。また、熱伝導性板状フィラーのアスペクト比の範囲の上限値は、特に限定されないが、通常200以下である。
なお、アスペクト比とは、熱伝導性板状フィラーの最大長さの最小長さ(最大長さに対して垂直方向)に対する比(最大長さ/最小長さ)であり、具体的には、熱伝導性板状フィラーの最大長さの厚みに対する比(最大長さ/厚み)である。熱伝導性板状フィラーのアスペクト比は走査型電子顕微鏡で、十分な数(例えば250個)の熱伝導性板状フィラーを観察して平均値として求めるとよい。
【0014】
本発明の熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラーの長手方向の平均長さは、好ましくは5μm以上である。熱伝導性板状フィラーの長手方向の平均長さが5μm以上であると、フィラーとしての取り扱いが容易になり、熱伝導シート中に熱伝導性板状フィラーを容易に分散させることができる。また、上述の角度分布におけるピークの位置の制御が容易になる。このような観点から、熱伝導性板状フィラーの長手方向の平均長さは、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上である。また、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmの範囲内に熱伝導性板状フィラーを存在させる観点から、熱伝導性板状フィラーの長手方向の平均長さは、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは250μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。なお、熱伝導性板状フィラーの長手方向の長さは、熱伝導性板状フィラーの最大長さである。また、熱伝導性板状フィラーの長手方向の平均長さは、上述のアスペクト比の算出に使用した熱伝導性板状フィラーの最大長さの平均値である。
【0015】
本発明の熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラーの含有量は、好ましくは40体積%以上である。熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラーの含有量が40体積%以上であると、熱伝導シートの熱伝導性をさらに向上させることができる。このような観点から、熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラーの含有量は、より好ましくは45体積%以上であり、さらに好ましくは50体積%以上である。また、熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラーの含有量は好ましくは70体積%以下である。熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラーの含有量が70体積%以下であると、熱伝導シートの柔軟性をさらに改善することができる。このような観点から、熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラーの含有量は、より好ましくは60体積%以下であり、さらに好ましくは55体積%以下である。なお、かかる熱伝導性板状フィラーの体積割合は、熱伝導シート全量基準での値であり、熱伝導シートを構成する各成分の質量から算出可能である。例えば、各成分の質量を各成分の23℃における密度で除することによって算出可能である。
【0016】
本発明の熱伝導シートは、熱伝導性板状フィラー以外のフィラーを含有してもよい。熱伝導性板状フィラー以外のフィラーには、例えば、球状フィラー、針状フィラー、繊維状フィラーなどが挙げられる。球状フィラーには、例えば、アルミナ、カーボンブラック、天然シリカ、乾式合成シリカ、湿式合成シリカ、炭酸カルシウム(パテライト)、ガラス系ビーズ、シリカ系ビーズ、球状金属系フィラーなどが挙げられる。また、針状フィラーには、例えば、ウォラストナイト、ゾノトライト、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、セピオライト、炭酸カルシウム(アラゴナイト)、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、塩基性硫酸マグネシウム、γ-酸化鉄、二酸化クロム、Co-Cr合金などが挙げられる。さらに、繊維状フィラーには、例えば、カーボンマイクロコイル、カーボンナノチューブ、気相成長黒鉛、繊維状金属系フィラー、バサルトファイバ、ガラス繊維、カーボン繊維などが挙げられる。これらのフィラーは、単独使用または2種類以上併用することができる。これらのフィラーの中で、熱伝導シートの熱伝導性を向上させるという観点から、カーボンナノチューブ及びガラス繊維が好ましい。
【0017】
本発明の熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラー以外のフィラーの含有量は、好ましくは90体積%以下であり、より好ましくは70体積%以下であり、さらに好ましくは50体積%以下である。本発明の熱伝導シートにおける熱伝導性板状フィラー以外のフィラーの含有量の範囲の下限値は特に限定されないが、例えば0質量%以上である。なお、本発明の熱伝導シートが熱伝導性板状フィラー以外のフィラーを含有することにより、例えば、熱伝導シートの熱伝導率をさらに改善することができる。
【0018】
熱伝導性板状フィラーとマトリックスとの間の親和性を改善するために、熱伝導性板状フィラーを表面処理してもよい。たとえば、脂肪酸、その金属塩、樹脂酸、ワックス類、界面活性剤などの化合物を用いて熱伝導性板状フィラーをコーティングしてもよい。また、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤を化学反応で熱伝導性板状フィラーの表面に結合させてもよい。
【0019】
本発明の熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面において、本発明の熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を測定したとき、角度分布は+10~+80°又は-10~-80°の範囲内に角度分布のピークを有する。上述の角度分布のピークの位置が+10°未満であると又は-10°よりも大きいと、熱伝導シートの表面における熱伝導性フィラーの露出面積が小さくなり、その結果、熱伝導シートのタック性が高くなる。そして、熱伝導シートが剥離シートに付着する場合があり、熱伝導シートを剥離シートから剥がすとき、カスが発生したり、熱伝導シートにスジが発生したりする場合がある。また、リワークの際の熱伝導シートの剥離時に、残渣が残るため、リワークのために清掃や部品の交換などが必要になる場合がある。上述の角度分布のピークの位置が+80°よりも大きいと又は-80°よりも小さいと、熱伝導シートの熱伝導率が、半導体パッケージのような発熱体の熱放散に使用するには不十分になる場合がある。このような観点から、上述の角度分布のピークは、好ましくは+15~+75°又は-15~-75°の範囲内にあり、より好ましくは+20~+70°又は-20~-70°の範囲内にあり、さらに好ましくは+22~+60°又は-22~-60°の範囲内にある。なお、本発明の熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布は、後述の実施例に記載された方法で測定された値である。また、熱伝導性板状フィラーの長手方向とは、本発明の熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面において、熱伝導性板状フィラーの長さが最大になる方向である。さらに、本発明の熱伝導シートの一方の面側で、上述の角度分布のピークの位置が上述の範囲内であればよい。しかし、本発明の熱伝導シートの両方の面で、上述の角度分布のピークの位置が上述の範囲内であることが好ましい。
上述したように、本発明の熱伝導シートの熱伝導性板状フィラーの上述の角度分布におけるピークの位置は、例えば、後述の熱伝導シートの製造方法において、スライス工程の条件を変えることで、制御することができる。
【0020】
本発明の熱伝導シートにおいて、上述の角度分布のピークの半値幅は、好ましくは80°以下である。上述の角度分布のピークの半値幅が80°以下であると、熱伝導性板状フィラーの傾斜が均一になりやすくなり、熱伝導性や剥離性が向上する。このような観点から、上述の角度分布のピークの半値幅は、より好ましくは40°以下である。なお、上述の角度分布のピークの半値幅は、通常30°以上である。
【0021】
本発明の熱伝導シートにおいて、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの数をXとする。そして、プラス側の角度に上述の角度分布のピークがある場合、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度がマイナスである熱伝導性板状フィラーの数をY1とする。この場合、割合(Y1/X)は30%未満であることが好ましい。
又、マイナス側の角度に上述の角度分布のピークがある場合、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度がプラスである熱伝導性板状フィラーの数をY2とする。この場合、割合(Y2/X)は30%未満であることが好ましい。
【0022】
割合(Y1/X)及び割合(Y2/X)が30%未満であると、熱伝導性板状フィラーの傾斜が均一になりやすくなり、熱伝導性や剥離性が向上する。このような観点から、割合(Y1/X)及び割合(Y2/X)は28%以下であることがより好ましい。
【0023】
なお、熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度がマイナスであるとは、熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度が0°未満-90°以上であることをいう。一方、熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度がプラスであるとは、熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度が0°超+90°以下であることをいう。
熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度が90°の場合、熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度がプラスであるか、マイナスであるかがわからないので、角度分布のピークがある側と反対側の角度とする。つまり、プラス側に角度分布のピークがある場合は、熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度が90°であるものは、-90°とする。一方、マイナス側に角度分布のピークがある場合は、熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度が90°であるものは、+90°とする。
【0024】
なお、割合(Y1/X)及び割合(Y2/X)は、具体的には、後述の実施例で測定される値である。
【0025】
熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布の標準偏差は、好ましくは30以下である。上述の角度分布の標準偏差が30以下であると、熱伝導性板状フィラーの傾斜が均一になりやすくなり、熱伝導性や剥離性が向上する。このような観点から、上述の角度分布の標準偏差は20以下であることがより好ましく、15以下であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面において、本発明の熱伝導シートの深さ0.2mmより内部に存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を測定したとき、角度分布は-40~+40°の範囲内に角度分布のピークを有することが好ましい。上述の角度分布が-40~+40°の範囲内に角度分布のピークを有することにより、熱伝導性フィラーは概ね厚さ方向に配向し、熱伝導シートの熱伝導率をさらに向上させることができる。このような観点から、上述の角度分布のピークは、-30~+30°の範囲内にあることがより好ましく、-20~+20°の範囲内にあることがさらに好ましく、-15~+15°の範囲内にあることがよりさらに好ましい。なお、本発明の熱伝導シートの深さ0.2mmより内部に存在する熱伝導性板状フィラーとは、本発明の熱伝導シートの熱伝導性板状フィラーから、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーを除いたものであるともいえる。なお、本発明の熱伝導シートの深さ0.2mmより内部に存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布は、後述の実施例に記載された方法で測定された値である。
【0027】
本発明の熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーは、本発明の熱伝導シートの深さ0.2mmより内部に存在する熱伝導性板状フィラーに比べて、厚さ方向に対して傾斜していることが好ましい。具体的には、本発明の熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面において、本発明の熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布のピークの位置をAとする。本発明の熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面において、本発明の熱伝導シートの深さ0.2mmより内部に存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布のピークの位置をBとする。このとき、上述の2つのピーク位置の差(A-B)の絶対値は0°よりも大きく80°以下であることが好ましい。これにより、熱伝導シートのタック性をさらに低くし、熱伝導性をさらに高くすることができる。このような観点から、上述の2つのピーク位置の差(A-B)の絶対値は、5°以上70°以下であることがより好ましく、8°以上65°以下であることがさらに好ましく、10°以上60°以下であることがよりさらに好ましい。
【0028】
本発明の熱伝導シートの一例を図1及び図2に示す。図1は、本発明の一実施形態の熱伝導シートの厚さ方向に平行な断面の概略図である。図2は、図1に示す本発明の一実施形態の熱伝導シートの断面の概略図での表面近傍を拡大した図である。また、本発明の一実施形態の熱伝導シートにおける熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱導電性板状フィラーの角度分布の一例を示すグラフを図3に示す。
なお、図1のx方向は後述の樹脂層の積層方向に対応する。z方向は厚さ方向に対応し、y方向は、x方向及びy方向と垂直をなす方向である。図1及び図2に示す熱伝導シート1の断面はz軸に平行である。
また、図3のグラフの横軸は、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向Lとz方向とのなす角度θを示す。図3のグラフの縦軸は、熱伝導性板状フィラーの数nを示す。
【0029】
熱伝導シート1では、熱伝導シート1の表面11から深さ0.2mmの領域13に存在する熱伝導性板状フィラー2の長手方向Lとz方向とのなす角度θの角度分布Dは、+10~+80°又は-10~-80°の範囲内に角度分布Dのピークθpを有している。また、熱伝導シート1の表面12から深さ0.2mmの領域14に存在する熱伝導性板状フィラー2の長手方向とz方向とのなす角度の角度分布は、+10~+80°又は-10~-80°の範囲内に角度分布のピークを有していてもよいし、有していなくてもよい。しかし、熱伝導シート1の表面12から深さ0.2mmの領域14に存在する熱伝導性板状フィラー2の長手方向とz方向とのなす角度の角度分布は、+10~+80°又は-10~-80°の範囲内に角度分布のピークを有することが好ましい。
熱伝導シート1の深さ0.2mmより内部の領域15に存在する熱伝導性板状フィラー2の長手方向とz方向とのなす角度の角度分布は-40~+40°の範囲内に角度分布のピークを有することが好ましい。なお、符号3は、熱伝導シート1のマトリックスを示し、マトリックス3は、例えば、後述の樹脂である。
【0030】
(樹脂)
本発明の熱伝導シートは樹脂を含有することが好ましい。熱伝導シートの樹脂の種類は、特に制限されないが、柔軟性を良好とする観点から、エラストマー樹脂であることが好ましい。
エラストマー樹脂の種類としては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、水素添加ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、アクリルゴム(なお、アクリルゴムとは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを含むモノマーの重合物を意味する)等が挙げられる。
上記したエラストマー樹脂は、常温(23℃)かつ常圧(1気圧)で固体状のエラストマーであってもよいし、液状のエラストマーであってもよい。
【0031】
本発明の熱伝導シート中の樹脂全量基準で、エラストマー樹脂の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0032】
本発明の熱伝導シートの柔軟性を向上させる観点から、熱伝導シート中のエラストマー樹脂は、液状エラストマー樹脂を含有することが好ましい。液状エラストマー樹脂としては、特に限定されず、例えば、上記したエラストマー樹脂のうち液状のものを用いることができるが、中でも、液状アクリロニトリルブタジエンゴム、液状エチレン-プロピレン-ジエンゴム、液状ポリイソプレンゴム、液状ポリブタジエンゴムが好ましい。
エラストマー樹脂は、1種のみを用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0033】
液状エラストマー樹脂の25℃における粘度は、好ましくは1~150Pa・sであり、より好ましくは10~100Pa・sである。液状エラストマー樹脂を2種以上混合して使用する場合は、混合した後の粘度が上記のとおりであることが好ましい。上記範囲であると、後述するオイルブリード距離を短くすることができ、電子部品の汚染を防止しやすくなる。樹脂の粘度は、例えば、樹脂50gを、25℃で、B型粘度計(東洋産業株式会社製)で測定した値である。
熱伝導シートの熱伝導性、柔軟性、取り扱い性を良好とする観点から、樹脂の粘度は、後述する熱伝導性フィラーの種類に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0034】
エラストマー樹脂全量基準に対して、液状エラストマーの含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0035】
熱伝導シートは、シリコーン、液状シリコーンなどのシリコーン系樹脂の含有量を一定値以下にすることが好ましい。具体的には、熱伝導シート中の樹脂全量基準で、シリコーン系樹脂の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは0質量%である。このようにすることで、アウトガスに含まれるシロキサン量を低減することが可能となる。
【0036】
(その他の添加剤)
本発明の熱伝導シートには、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、分解温度調整剤などの熱伝導シートに一般的に使用する添加剤を配合されてもよい。
【0037】
(熱伝導シートの物性)
本発明の熱伝導シートの熱伝導率は、熱伝導シートの放熱性を良好とする観点から、好ましくは6W/m・K以上であり、より好ましくは8W/m・K以上であり、さらに好ましくは10W/m・K以上である。また、熱伝導シートの熱伝導率は、通常、100W/m・K以下である。なお、本発明の熱伝導シートの熱伝導率は、後述の実施例に記載の方法で測定された値である。
本発明の熱伝導シートの30%圧縮強度は、熱伝導シートの柔軟性を良好とする観点から、好ましくは1300kPa以下であり、より好ましくは1000kPa以下、さらに好ましくは800kPa以下であり、よりさらに好ましくは700kPa以下である。また、熱伝導シートの30%圧縮強度は、通常50kPa以上である。なお、本発明の熱伝導シートの30%圧縮強度は、後述の実施例に記載の方法で測定された値である。
【0038】
熱伝導シートは架橋されていることが好ましい。熱伝導シートが架橋されていることで、剥離シートに対する剥離性や熱伝導シートの形状保持性がさらに良好になる。
【0039】
[熱伝導シートの製造方法]
本発明の熱伝導シートの製造方法は、特に限定されないが、以下に説明するように、混練工程、積層工程、及びスライス工程を含む方法により製造することができる。
【0040】
<混練工程>
熱伝導性板状フィラー、樹脂及び添加剤などを混練して、熱伝導性樹脂組成物を作製する。
前記の混練は、例えば、熱伝導性板状フィラーと樹脂とを、プラストミル等の二軸スクリュー混練機や二軸押出機等を用いて、加熱下において混練することが好ましく、これにより、熱伝導性フィラーが樹脂中に均一に分散された熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
次いで、該熱伝導性樹脂組成物をプレスすることにより、シート状の樹脂層(熱伝導性樹脂層)を得ることができる。これにより、樹脂層の厚さ方向に対して、熱伝導性板状フィラーの長手方向が略垂直になるように、熱伝導性板状フィラーは配向する。
【0041】
<積層工程>
積層工程では、混練工程で得た樹脂層を積層してn層構造の積層体を作製する。積層方法としては、例えば、混練工程で作製した樹脂層をx分割して積層し、x層構造の積層体を作製後、必要に応じて、熱プレスを行い、その後、更に、必要に応じて、分割と積層と上述の熱プレスを繰り返して、幅がDμmでn層構造の積層体を作製する方法を用いることができる。
積層工程後の積層体の幅(Dμm)、熱伝導性板状フィラーの厚み(dμm)は、0.0005≦d/(D/n)≦1を満足することが好ましく、0.001≦d/(D/n)≦1を満足することがより好ましく、0.02≦d/(D/n)≦1を満足することがさらに好ましい。
このように、複数回の成形を行う場合には、各回における成形圧を、1回の成形で行う場合に比べて、小さくすることができるため、成形に起因する積層構造の破壊等の現象を回避することができる。
その他の積層方法として、例えば、多層形成ブロックを備える押出機を用い、上述の多層形成ブロックを調製して、共押出し成形により、n層構造で、かつ、厚さDμmの積層体を得る方法を用いることもできる。
具体的には、第1の押出機及び第2の押出機の双方に混練工程で得た熱伝導性樹脂組成物を導入し、第1の押出機及び第2の押出機から熱伝導性樹脂組成物を同時に押出す。第1の押出機及び第2の押出機から押出された熱伝導性樹脂組成物は、フィードブロックに送られる。フィードブロックでは、第1の押出機及び上記第2の押出機から押出された熱伝導性樹脂組成物が合流する。それによって、熱伝導性樹脂組成物が積層された2層体を得ることができる。次に、2層体を多層形成ブロックへと移送し、押出し方向に平行な方向であり、かつ積層面に垂直な複数の面に沿って2層体を複数に分割後、積層して、n層構造で、厚みDμmの積層体を作製することができる。このとき、1層当たりの厚み(D/n)は、多層形成ブロックを調整して所望の値とすることができる。
なお、樹脂層を積層するときは、樹脂層における熱伝導性板状フィラーの配向方向が一致するように樹脂層を積層することが好ましい。
【0042】
(スライス工程)
積層工程で得た積層体を積層方向に対して平行方向にスライスすることにより、熱伝導シートを作製することができる。これにより、熱伝導シートの厚さ方向が積層方向に対して垂直である熱伝導シートを得ることができる。上述したように、樹脂層の厚さ方向に対して、熱伝導性板状フィラーの長手方向は略垂直であるので、熱伝導シートの厚さ方向は、熱伝導性板状フィラーの長手方向と略一致する。これにより、熱伝導シートの熱伝導率を高めることができる。
【0043】
熱伝導性板状フィラーの配向方向に対して交差するように積層体をスライスすることが好ましい。これにより、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーが傾斜しやすくなる。例えば、図4に示すように、熱伝導性板状フィラー2の配向方向(z方向)に対して交差するように積層体10を切断するとよく、熱伝導性板状フィラー2の配向方向(z方向)に対して垂直な方向(y方向)に沿って積層体10を切断(Sに沿って切断)することがより好ましい。なお、図4においてx方向が樹脂層の積層方向である。
【0044】
スライス工程のスライス条件を変えることにより、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーについては、熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布のピークの位置を制御することができる。例えば、スライス工程で、ワイヤソーを使用して積層体をスライスする場合、ワイヤ径の変更や、積層体にワイヤソーのワイヤを押し付けたときのワイヤの上下運動の有無により、上述の角度分布のピークの位置を制御することができる。より具体的には、ワイヤのワイヤ径を大きくすると、上述の角度分布のピークの位置がプラスの角度の場合、上述の角度分布のピークの位置をプラス側にシフトし、上述の角度分布のピークの位置がマイナスの角度の場合、上述の角度分布のピークの位置をマイナス側にシフトすることができる。また、積層体にワイヤソーのワイヤを押し付けたときのワイヤの上下運動があると、上述の角度分布のピークの半値幅を大きくしたり、ピークの位置とは反対側の角度を有する熱伝導性板状フィラーの割合を大きくしたりすることができる。
【0045】
(その他工程)
熱伝導シートの製造方法においては、樹脂を架橋する工程を行ってもよい。ただし、スライス工程により、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向が容易に変わるようにするために、スライス工程の後に樹脂を架橋する工程を行うことが好ましい。架橋は、例えば、電子線、α線、β線、γ線等の電離性放射線を照射する方法、有機過酸化物を用いる方法等により行えばよい。シート面(シート表面)に電離性放射線を照射することが好ましく、電離性放射線の中でも、電子線が好ましい。電子線照射を行う場合の加速電圧は、例えば、200~700kVが好ましく、250~600kVがより好ましい。電子線照射の照射量は200~800kGyが好ましく、250~700kGyがより好ましい。
【0046】
本発明の熱伝導シートは、上記したとおり、タック性が低く、柔軟性及び熱伝導性が優れている。これにより、熱伝導シートの取り扱い作業性を改善するために、熱伝導シートを剥離シートに予め積層した場合に、熱伝導シートを剥離シートから剥がすとき、カスが発生したり、熱伝導シートにスジが発生したりすることを抑制することができる。また、リワークのために熱伝導シートを剥離したとき、残渣が残ることを抑制でき、リワークの際の工程負荷の増加を抑制できる。なお、剥離シートには、例えば、剥離剤を塗布した樹脂フィルム、エンボス加工を施した樹脂フィルムなどが挙げられる。
【実施例
【0047】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0048】
以下の実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
(1)樹脂
・液状エラストマー:株式会社クラレ製、商品名「L-1203」水添実施グレード
【0049】
(2)熱伝導性板状フィラー
・窒化ホウ素 デンカ株式会社製、商品名「SGP」
形状:板状(鱗片状)
長手方向の平均長さ:45μm
アスペクト比:10
長辺方向熱伝導率:250W/m・K
厚み:1μm
(3)その他の添加剤
・サリチル酸誘導体 株式会社ADEKA社製、商品名「アデカスタブCDA-1」
・N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン 大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラック White」
【0050】
各種物性、評価方法は以下のとおりである。
<熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布>
X線CT装置で熱伝導シートの表面から深さ0.2mmの領域を撮影し、再構成して熱伝導シートの表面から深さ0.2mmの領域の3次元像を得た。得られた画像のうち、MD方向に対して垂直な断面での断層像を取り出し、画像解析によって窒化ホウ素を抽出、その配向を解析した。
【0051】
1)X線CT装置
使用装置:リガク株式会社製 商品名「高分解能3DX線顕微鏡 nano3DX」
測定条件:ターゲット モリブデン
使用レンズ 540nm
ビニング 2
露光時間 20秒
撮影枚数 1000枚
サンプル形状:2.5mm×2.5mm×サンプル厚み
なお、撮影で得られる視野は直径1.8mm×高さ1.3mmの円柱状であった。
また、サンプルの切断面を避けて撮影した。
さらに、MDがy軸、TDがx軸、厚さ方向がz軸になるようにサンプルをセットした。
なお、「TD」は、後述の積層体の積層方向である。「MD」はTDに直交しかつシートに平行な方向である。なお、TDは、厚さ方向に対して垂直な方向であれば、積層方向でなくてもよい。
【0052】
2)画像解析
画像解析ソフト:Thermo Fisher Scientific社製 Avizo 2019.3 なお、拡張機能として、XFiberを使用した。
X線CT装置で得られた画像を以下の手順で解析した。
(i)画像連結:複数視野に渡るサンプルの場合は画像を連結する。
(ii)水平修正:Transform Editorを使用し、サンプルの表面が画像中で水平になるように調整し、Resample Transformed Imageを適用した。なお、Resample Transformed Imageでは、Modeをextendedに変更し、その他の条件は初期値とした。
(iii)測定スライス抽出:水平修正した画像にSegmentation Editorを使用し、xz平面(MD方向に対し垂直な断面)のスタック画像の中から中心部の一枚を全面選択しマスク画像とした。
(iv)2値化:水平修正した画像にInteractive Thresholdingを適用、マスク画像は前述のものを使用した。閾値は、窒化ホウ素のみが抽出されるよう調整した。
(v)配向解析:2値化した画像に、Cylinder Correlationを適用した。なお、Cylinder Correlationの条件は以下のとおりであった。
・Cylinder Length:30
・Anguler Sampling:5
・Mask Cylinder Radius:2.5
・Outer Cylinder Radius:1.5
・Inner Cylinder Radius:0
・その他は初期値
(vi)Cylinder Correlationを適用した画像に対し、Trace Correlation Linesを適用し、結果をXML形式で保存した。なお、Trace Correlation Linesの条件は以下の通りであった。
・Minimum Seed Correlation:65
・Minimum Continuation Quality:65
・Direction Coefficient:0.15
・Minimum Distance:1
・Minimum Length:30
・Length:10
・Angle:37
・Minimum Step Size(%):10
(vii)出力されたデータのOrientation ThetaはZ軸(熱伝導シートの厚さ方向)に対する窒化ホウ素の長手方向の角度を示し、窒化ホウ素の長手方向が熱伝導シートの厚さ方向(z軸)に沿っている場合は0°となり、直交する場合は90°となる。このOrientation Thetaのデータを用いて、窒化ホウ素の長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を算出した。
(viii)これらの解析を、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmの領域、及び熱伝導シートの深さ0.2mmより内部の領域で行った。
(ix)得られた角度分布から、角度分布のピーク位置、角度分布のピークの半値幅、窒化ホウ素の長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度が所定範囲内にある窒化ホウ素の数、角度分布の標準偏差などを算出した。
【0053】
<熱伝導率>
得られた熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率を、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(NETZSCH社製「LFA447」)を用いて測定を行った。
【0054】
<30%圧縮強度>
得られた熱伝導シートの30%圧縮強度を、エー・アンド・ディ社製「RTG-1250」を用いて測定した。サンプル寸法を2mm×15mm×15mm、測定温度を23℃、圧縮速度を1mm/minとして測定を行った。
【0055】
<剥離試験>
熱伝導シートを100mm×100mmの大きさに切断して、サンプルを作製した。室温下、得られたサンプルの上に剥離シート(PETフィルム(厚さ50μm)のエンボス加工品(PET原反:東レ株式会社製、エンボス加工:合同樹脂工業株式会社製、商品名「PG28N」))を密着させて24時間放置後、角度135°の状態を維持したままサンプルから剥離シートを剥離し、剥離シートの表面状態を評価した。
A:剥離シートの表面に剥がれたサンプルはなかった。
B:剥離シートの表面に剥がれたサンプルはあったが、剥離シートにおける剥がれたサンプルがあった部分の面積は30%未満であった。
C:剥離シートにおける剥がれたサンプルがあった部分の面積は30%以上であった。
【0056】
(実施例1)
100質量部の液状エラストマー、300質量部の窒化ホウ素、2.0質量部のアデカスタブCDA-1及び0.5質量部のノクラックWhiteからなる混合物を溶融混練後、プレスすることにより厚さ0.5mm、幅80mm、奥行き80mmのシート状の樹脂層を得た。次に積層工程として、得られた樹脂層を16等分して重ねあわせて総厚さ8mm、幅20mm、奥行き20mmの16層からなる積層体を得た。次いで、ワイヤソー(ジャパンファインスチール株式会社製、商品名「コアワイヤ」)を使用して、積層方向に平行にスライスし、厚さ2mm、幅8mm、奥行き20mmの熱伝導シートを得た。なお、積層体の積層方向が水平方向になるように積層体を設置し、ワイヤを上から下へ移動させることにより、積層体をスライスした積層体を構成する樹脂層の1層の厚みは0.5mm(500μm)であった。このスライスした積層体の両面に加速電圧525kVの電子線を600kGy照射してスライスした積層体を架橋して、実施例1の熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートについて、窒化ホウ素の角度分布、熱伝導率、及び30%圧縮強度を測定し、剥離試験を行った。なお、ワイヤソーの条件は以下の通りである。評価結果を表1に示す。
<ワイヤソーの条件>
・使用したワイヤ:コアワイヤ(ジャパンファインスチール株式会社製。商品名「コアワイヤ」、材質:鉄鋼材、ワイヤ径:φ0.15mm)
・ワイヤ張力:50N
・熱伝導シートに対する押し付け力:20N
・ワイヤの上下運動の有無:なし
なお、ワイヤの上下運動が「有」の場合、ワイヤを上から下に移動させた後、さらに下から上に移動して積層体をスライスした。
【0057】
(実施例2)
積層体のスライスに使用したワイヤを0.15mmのワイヤ径のワイヤから0.25mmのワイヤ径のワイヤ(ジャパンファインスチール株式会社製、商品名「コアワイヤ」、材質:鉄鋼材)に変更した以外は、実施例1の熱伝導シートと同様な方法で、実施例2の熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートの評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
積層体のスライスに使用したワイヤを0.15mmのワイヤ径のワイヤから0.30mmのワイヤ径のワイヤ(ジャパンファインスチール株式会社製。商品名「コアワイヤ」、材質:鉄鋼材)に変更した以外は、実施例1の熱伝導シートと同様な方法で、実施例3の熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートの評価結果を表1に示す。
【0059】
(実施例4)
ワイヤソーの上下運動を「なし」から「あり」に変更した以外は、実施例1の熱伝導シートと同様な方法で、実施例4の熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートの評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例5)
積層体のスライスに使用したワイヤを0.15mmのワイヤ径のワイヤから0.30mmのワイヤ径のワイヤ(ジャパンファインスチール株式会社製、商品名「コアワイヤ」、材質:鉄鋼材)に変更し、ワイヤソーの上下運動を「なし」から「あり」に変更した以外は、実施例1の熱伝導シートと同様な方法で、実施例5の熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートの評価結果を表1に示す。
【0061】
(比較例1)
積層体のスライスに使用したワイヤを0.15mmのワイヤ径のワイヤから0.10mmのワイヤ径のワイヤ(ジャパンファインスチール株式会社製、商品名「コアワイヤ」、材質:鉄鋼材)に変更した以外は、実施例1の熱伝導シートと同様な方法で、比較例1の熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートの評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1~5の熱伝導シートは、熱伝導シートの表面から深さ0.2mmに存在する熱伝導性板状フィラーの長手方向と熱伝導シートの厚さ方向とのなす角度の角度分布を測定したとき、角度分布は+10~+80°の範囲内に角度分布のピークを有していた。このため、実施例1~5の熱伝導シートは、タック性が低く、柔軟性及び熱伝導性が優れていた。一方、比較例1の熱伝導性シートは、上記角度分布のピークの位置が、-10°超+10°未満の範囲内であったため、タック性が高かった。
【符号の説明】
【0064】
1 熱伝導シート
2 熱伝導性板状フィラー
3 マトリックス(樹脂)
10 積層体
11,12 熱伝導シートの表面
13,14 熱伝導シートの表面から深さ0.2mmの領域
15 熱伝導シートの深さ0.2mmより内部の領域
図1
図2
図3
図4