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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】列車位置検知装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240626BHJP
   B61L 25/02 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G06T7/00 650Z
G06T7/00 300F
B61L25/02 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020077307
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2021174221
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山越 基玄
【審査官】真木 健彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-078700(JP,A)
【文献】特開2012-238242(JP,A)
【文献】特開2011-201426(JP,A)
【文献】特開2017-174380(JP,A)
【文献】特開2019-046371(JP,A)
【文献】特開2017-001638(JP,A)
【文献】特開2013-245950(JP,A)
【文献】光岡 聖悟,鉄道車載カメラを用いた高精度位置検知技術の開発,SSII2010 第16回 画像センシングシンポジウム講演論文集,日本,画像センシング技術研究会,2010年06月09日,IS4-07,P. IS4-07-1 ~ IS4-07-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00
B61L 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車に搭載されたGPS受信機と撮像装置と車上装置とを有し、
前記撮像装置は、列車が走行する線路近傍に設定された固有の地点情報表示部を含む画像を予め撮影し、
前記車上装置は、
列車の進行上の列車位置の精度が求められる特定場所から手前の複数の地点を予め撮影した前記画像の前記地点情報表示部を含むエリアの色情報を含んだ画像特定情報と、撮影時の位置情報とを、前記特定場所ごとに区切った複数の区間ごとに格納する情報記憶部と、
速度発電機から出力する速度信号により列車の現在位置である第1位置を算出する位置検出部と、
前記位置検出部が算出した前記第1位置と、前記GPS受信機からの信号によって得られる列車の位置である第2位置とに基づいて、前記複数の区間から列車の現在位置に関する判定を行う判定区間を選択する判定区間選択部と、
前記列車が走行中に前記特定場所の手前の所定地点に到達して前記撮像装置で撮影した走行画像の画像中で所定エリアを抽出し、この所定エリア内で少なくとも色情報を含む画像特定情報を認識する特徴抽出部と、
前記特徴抽出部で認識した前記走行画像の画像特定情報と、前記判定区間選択部で選択した前記判定区間の前記情報記憶部に記憶されている前記画像の画像特定情報とを比較して、両者が一致しているかどうか判定する画像判定部と、
前記画像判定部において画像特定情報が一致していると判定された、前記情報記憶部に記憶されている前記画像の位置情報を抽出して、列車の現在の走行位置と決定する位置情報抽出部と、
を有し、
前記判定区間選択部は、前記複数の区間のうち前記第1位置に対応する区間と前記第2位置に対応する区間とが異なる場合、前記第1位置に対応する区間から前記第2位置に対応する区間までの間の区間を前記判定区間として選択する、
ことを特徴とする列車位置検知装置。
【請求項2】
前記画像判定部は、前記走行画像の中の前記所定エリアに含まれている所定色の画素の数が、前記画像の中の前記エリアに含まれている特徴色の画素の数に対して、予め設定した割合以上であるときに、画像特定情報が一致していると判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の列車位置検知装置。
【請求項3】
前記所定色の画素は、RGBそれぞれの値が予め設定した範囲内にある画素として設定されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の列車位置検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の走行位置を検知する列車位置検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より一般的に、走行している列車の位置を検知するために、列車の車軸に設けた速度発電機から出力する交流信号により車輪の回転数を積算して、列車の走行距離を算出している。このように車輪の回転数を利用して列車の走行位置を検出する方法では、走行中における車輪の空転や滑走が生じると、列車の走行距離を正確に算出できなくなるので、列車の走行位置検出精度が低下してしまう。
【0003】
これに対し、例えば特許文献1に開示されるように、地上側に設置された地上子やIDタグ、トランスポンダ等を列車が通過するたびに、列車の走行距離を補正することが行われている。但し、そのように走行位置を補正するためには、できるだけ多くの地上子等を設置する必要があり、特に曲線部などで速度制限区間を増やす場合には、地上子等の増設や移設が必要になるので、多くの費用がかかってしまう。
【0004】
そこで、特許文献2に開示されるように、予めカメラ(撮像装置)によって線路沿いの風景や看板、目印等の地点情報表示標識を多数、撮影して位置情報と共に画像パターンとして記憶させておき、走行中に撮影した画像パターンと比較して、現在の列車の位置を検知することが提案されている。また、特許文献3には、車両に搭載したGPS受信機からの緯度・経度信号に基づいて、車両の現在位置を検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭60-157957号公報
【文献】特開2008-247154号公報
【文献】特開2002-335607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献3に開示されるGPSを利用した位置検出では、ある程度以上の速度で走行する列車においては十分な精度が得られないことが知られている。また、前記特許文献2に開示されるように、カメラによって撮影した画像のパターンを予め撮影した多数の画像のパターンと比較して、一致するものが記憶されているかどうか判定することは容易ではない。
【0007】
すなわち、走行中の列車から見える風景の内、近くのものは刻一刻と見え方が変化してゆくので、その中に含まれている標識等の見え方も刻一刻と変化してしまい、これを撮影した画像のパターンを記憶しているものと比較しても、一般的なパターンマッチングの手法では十分な精度が得られないことが多い。しかも、標識等の見え方は降雨や降雪の中で変化することは勿論、陽当たりによっても変化する場合がある。
【0008】
なお、地点情報表示標識を比較的遠くに設定すれば、列車の走行に伴う見え方の変化は小さくなるものの、降雨や降雪による影響は強くなってしまう。また、列車の走行に伴い遠くの地点情報表示標識との間に何らかの障害物が入ることがあり、こうなると撮影すらできなくなってしまう。これは、列車が路上を走行する路面電車の場合に特に問題になりやすい。
【0009】
本発明は以上の課題を考慮したものであり、その目的は、駅、踏切やポイント(転轍機)など高い精度が求められる場所において、列車の走行位置を精度よく、かつ安定して検知できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る1つの態様は、列車に搭載された撮像装置と車上装置とを有し、前記撮像装置は、列車が走行する線路近傍に設定された固有の地点情報表示部を含む画像を予め撮影し、前記車上装置は、情報記憶部、特徴抽出部、画像判定部および位置情報抽出部を有し、前記情報記憶部には、予め撮影した前記画像の前記地点情報表示部を含むエリアの色情報を含んだ画像特定情報と、撮影時の位置情報とが格納され、前記特徴抽出部は、前記列車が走行中に前記撮像装置で撮影した走行画像の画像中で所定エリアを抽出し、この所定エリア内で少なくとも色情報を含む画像特定情報を認識し、前記画像判定部は、前記特徴抽出部で認識した前記走行画像の画像特定情報と、前記情報記憶部に記憶されている前記画像の画像特定情報とを比較して、両者が一致しているかどうか判定し、前記位置情報抽出部は、前記画像判定部において画像特定情報が一致していると判定された、前記情報記憶部に記憶されている前記画像の位置情報を抽出して、列車の現在の走行位置と決定するように構成されているものである。
(2)上記(1)の態様において、前記画像判定部は、前記走行画像の中の前記所定エリアに含まれている所定色の画素の数が、前記画像の中の前記エリアに含まれている特徴色の画素の数に対して、予め設定した割合以上であるときに、画像特定情報が一致していると判定するようにしてもよい。
(3)上記(2)の態様において、前記所定色の画素は、RGBそれぞれの値が予め設定した範囲内にある画素として設定されていてもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれかの態様において、列車にはGPS受信機が搭載され、前記車上装置は、前記GPS受信機からの信号によって得られる列車の位置情報に基づいて、前記情報記憶部に記憶されている複数の前記画像のうちから少なくとも1つの前記画像を選択する、判定区間選択部をさらに有し、前記画像判定部は、前記判定区間選択部によって選択された前記画像の画像特定情報を、前記特徴抽出部で認識した画像特定情報と比較するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の列車位置検知装置によれば、列車の走行中に撮影した画像中で地点情報表示部を含む所定エリアを抽出し、この所定エリア内で少なくとも色情報を含む画像特定情報を認識する。そして、この画像特定情報と、予め位置情報と共に記憶した画像の画像特定情報とを比較して、両者が一致している場合に、前記記憶した画像の位置情報から列車の走行位置を決定することにより、列車が走行している現在位置を精度よく、かつ安定して検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る実施形態の列車位置検知装置の概略構成を示す図である。
図2】撮影された画像とその中の地点情報表示部の一例を示す説明図である。
図3】車上装置の構成を示す機能ブロック図である。
図4】画像データをデータファイルから選択する処理の説明図である。
図5】列車位置検知装置の処理の一例を示すフローチャートである。
図6】情報記憶部から選択した或る線区の画像データの例を示す図である。
図7】撮影された画像と画像データの地点情報表示部の対比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本明細書の実施形態においては、全体を通じて、同一の部材には同一の符号を付している。
【0014】
図1はこの発明の列車位置検知装置の概略構成を模式的に示しており、本実施形態では列車位置検出装置は、列車や路面電車等の列車1に搭載された撮像装置2(例えばカメラ)と、その動作を制御するとともに、撮影された画像のデータを取得して以下に述べるような処理を行う車上装置3と、を有する。撮像装置2は列車1が走行する線路近傍の風景や構造物(以下、風景等という)4を、例えば停留所、標識や転轍機など、固有の地点情報表示部5を含めて撮影する。
【0015】
車上装置3は、いわゆるコンピュータ装置からなり、所定のプログラムを実行して各種の処理を行う処理演算ユニット(CPU)、この処理演算ユニットにおいて使用されるプログラムやデータを記憶するROMやRAM等のメモリを備えている。一例として処理演算ユニットは、走行中に撮像装置2によって撮影された画像のデータを使用して、列車1の現在位置に関する判定を行い、この判定結果に基づいて現在位置を補正する。
【0016】
そのために車上装置3は、図3の機能ブロック図に示すように、情報記憶部7、画像処理部8、画像判定部9、位置情報抽出部10を有している。また、この実施形態の車上装置3は、速度発電機11から出力する速度信号により列車1の現在位置を算出する位置検出部12と、この位置検出部12が算出した位置情報およびGPS受信機13からの信号に基づいて、列車1の現在位置に関する判定を行う区間を選択する判定区間選択部14と、を備えている。
【0017】
情報記憶部7は、予め列車1を走行させながら、進路上の駅、踏切やポイント(転轍機)など列車位置の精度が求められる場所の手前において、撮像装置2によって線路近傍の風景等4を撮影し、撮影した画像から特徴となる固有の地点情報表示部5の画像のデータ(画像情報)を多数、画像データPDとして記憶している。
【0018】
ここで、地点情報表示部5について詳しくは、図2に一例を示すように、予めデータを採取するために列車1を走行させて、ある線区Kのポイントの手前を撮影する。撮影した画像Pの中で特徴になるものを地点情報表示部5として選定する。例えば標識や転轍機、信号機等が好ましく、駅舎の一部であってもよい。地点情報表示部5は、周囲との区別がつき易い明瞭な色(例えば黄色、赤色等で以下、特徴色という)を有していればよく、形状は問わない。また、専用の標識や看板等を設置する必要はない。
【0019】
そして、画像Pの中で選定した地点情報表示部5を含むように仮想線で示すエリアA1,A2を設定する。画像Pは、情報記憶部7に画像データPDとして格納され、格納する多数の画像データPDは、それぞれ撮影した画像P上の地点情報表示部5の位置や選定した数が違うため、エリアの位置や数の情報を含んでいる。例えば矩形状の領域の座標を設定している。
【0020】
情報記憶部7は、画像データPDを列車が走行して通過する順番に記憶している。図6にある区間(線区K)の一例を示す。ポイントに達する前に正確な位置が検知できるように、ポイントの手前150m、100m、50m地点の画像データPDを、列車が走行して通過する順に画像データPD1、画像データPD2、画像データPD3を記憶している。なお、1区間(線区)に記憶する画像データPDの数は、1つの画像Pで選択される地点情報表示部5の数によって設定してもよいし、精度が求められる当該場所の安全性が求められる重要度などによって設定してもよい。
【0021】
これら多数の画像データPDにはそれぞれ、画像を撮影した場所の列車の位置情報、地点情報表示部5を含む選定したエリアの位置や数のエリア情報と、以下に述べる画像特定情報(少なくとも地点情報表示部5を含む選定エリアの色の情報)とが、識別子とともに格納されている。図2の画像PのエリアA1,A2は、図6の画像データPD2にエリアB1,B2として設定されエリア情報や画像特定情報および列車の位置情報が記憶されている。
【0022】
画像処理部8は、撮像装置2で撮影した画像のデータに対して一般的なノイズの除去や輝度値の階調補正等の前処理を行う。また、画像判定部9は、列車1が走行中に撮像装置2で撮影した画像Pと、既に撮影されて情報記憶部7に記憶されている画像データPDとの比較を行う。
【0023】
すなわち、列車1が走行して精度が求められる当該場所の手前において、位置情報を補正する所定地点に達すると、撮像装置2によって撮影が行われ、画像判定部9は、情報記憶部7から後述する判定区間選択部14において選択された線区の画像データPDからエリア情報および画像特定情報(例えば、図6において最初に通過する予定の画像データPD1のエリア数、エリアB1の位置(座標)および画像特定情報)を取得した後、撮像装置2で撮影した画像Pの当該エリアを抽出し、このエリア内の色情報等の特徴を認識する。つまり、画像判定部9は、画像データPDの画像特定情報と比較するために、撮影した画像Pの当該エリアの画像に含まれる特徴(画像特定情報)を抽出する特徴抽出部に対応している。
【0024】
例えば、列車1が線区Kを走行し位置検出部12の列車の位置情報により所定地点(例えばポイントから手前150mの地点)に達すると、撮像装置2で撮影して図2に示す画像Pを取得する。画像判定部9は、情報記憶部7から図6に示す線区Kの最初に通過する予定の画像データPD1を選択して、画像データPD1のエリア情報および画像特定情報を取得して、図7(a)に示すように画像データPD1のB1から順に画像のエリア位置が対応する画像PのA1と画像特定情報を比較する。
【0025】
そして、画像PのA1のエリア内に含まれる特徴色の画素の数をカウントする。この特徴色としては、地点情報表示部5の汚れや天候など現在の撮影時と画像データPDを採取(撮影)したときとの撮影条件の違いによる影響を考慮して、RGBそれぞれの値が予め設定した範囲内にある画素とすればよい。一例として、特徴色が赤である場合、RGBそれぞれ8ビットとすれば、R=32~256、G=0~64、B=0~64の画素のように設定することができる。
【0026】
このような特徴色の画素の数は、前記のエリア内に地点情報表示部5が存在している可能性を表しており、画素数の近い画像同士は、それらを撮影したときの列車の位置が近いと考えることができる。言い換えると、この実施形態の列車位置検出装置では、撮影した画像中の予め設定した所定エリア内に含まれる特徴色の画素数を、画像特定情報として用いている。
【0027】
すなわち、画像判定部9では、情報記憶部7に記憶されている多数の画像データPDのうち、後述する判定区間選択部14において選択された線区の画像データPDと比較する。そして、画像データPDの所定エリア内における画像特定情報、即ち特徴色の画素数に対して、今撮影した画像Pの所定エリア内における特徴色の画素数が予め設定した割合(例えば60~70%)以上であれば、両者の画像特定情報が一致していると判定する。
【0028】
つまり、この実施形態の画像判定部9では、撮影した画像の中の所定エリアに含まれている特徴色の画素数が、この所定エリア内に含まれているはずの特徴色の画素数に対して予め設定した割合以上であるときに、画像特定情報が一致していると判定する。こうして色情報を画像特定情報とするのは、地点情報表示部5の形状パターンなどに比べて、列車1の走行に伴う見え方の変化の影響を受け難いからである。
【0029】
詳しくは、走行中の列車から見える風景の内、近くのものは刻一刻と見え方が変化してゆくので、その中に含まれている標識等の見え方も刻一刻と変化してしまい、これを撮影した画像のパターンを記憶しているものと比較しても、一般的なパターンマッチングの手法では十分な精度が得られないことが多い。しかも、標識等の見え方は降雨や降雪の中で変化することは勿論、陽当たりによっても大きく変化することがある。
【0030】
この点、画像を構成する画素の色情報、即ちRGBのそれぞれの値は、列車の走行に伴う見え方の変化の影響を受け難い。色情報は、RGBそれぞれの値が予め設定した範囲内にあるものとして設定しているので、経年劣化や汚れの付着による変化に対しても比較的安定である。また、陽当たりの変化による影響は、画像の輝度情報には比較的強く現れる一方、色情報への影響はそれほど強くはない。
【0031】
すなわち、地点情報表示部5に直射日光が当たるような場合、その陽当たりの変化によって地点情報表示部5の見え方が大きく変化することがあるが、その場合でも画素の色情報は輝度情報ほどには変化しない。また、降雨や降雪の中で地点情報表示部5の見え方が大きく変化しても、色情報の変化はそれほど大きくない。よって、前記のように色情報を主として用いることで、画像の一致について誤って判定することを抑制できる。
【0032】
なお、前記の例とは反対に、画像判定部9で認識した画像における特徴色の画素数(画像特定情報)に対して、記憶されている画像における特徴色の画素数が予め設定した割合(例えば60~70%)以上である場合に、画像特定情報が一致していると判定するようにしてもよい。また、その割合の具体的な数値は、地点情報表示部5の設置状況によっても異なるので、実験等によって設定することが好ましい。
【0033】
より具体的には、図7(a)に示すように、画像データPD1のB1と画像PのA1の画像特定情報を比較して、特徴色の画素数が予め設定した割合に満たなかった場合は、画像データPD1のB2と画像PのA2を比較せずに、次の画像データPD2を選択してエリア情報および画像特定情報を取得する。すなわち、画像全体を比較対象とせずに画像の一部のエリアを比較対象とすることで判定時間が短くなる。
【0034】
そして、図7(b)に示すように、画像データPD1の次の画像データPD2のB1から順に、画像のエリア位置が対応する画像PのA1と画像特定情報を比較して、特徴色の画素数が予め設定した割合以上であれば両エリアの画像特定情報が一致していると判定する。次に画像データPD2のB2と、画像データPD2のB2に画像のエリア位置が対応する画像PのA2との画像特定情報を比較する。
【0035】
画像データPD2のB2と画像PのA2の画像特定情報を比較して、特徴色の画素数が予め設定した割合以上であれば両エリアの画像特定情報が一致していると判定する。これで、画像データPD2の所定エリア全てが一致し、画像データPD2と画像Pが一致したことになり、画像データPD2の列車の位置情報(100m)が走行中の列車1の現在位置として決定することになる。
【0036】
ここで、画像データPD2のB2と画像PのA2の画像特定情報を比較して、特徴色の画素数が予め設定した割合に満たなかった場合は、次の画像データPD3を選択しエリア情報および画像特定情報を取得することになる。
【0037】
そして、次の画像データPD3の各エリアに対して画像Pの当該エリアと比較しても特徴色の画素数が予め設定した割合に満たなかった場合は、情報記憶部7に記憶されている線区Kの全ての画像データPDが不一致となり、画像Pと一致する画像が情報記憶部7に記憶されていないか、判定できないほど撮影条件が違ったことになる。
【0038】
画像Pと一致する画像データPDがない場合は、列車1は再び撮像装置2で撮影して、新たな画像Pを画像データPD1から順に比較することになる。画像データPDと画像Pの画像特定情報が一致して列車1の現在位置が決定するか、位置検出部12の補正前の十分な精度が得られない列車の位置情報による当該場所に到達するまで繰り返してよい。また、所定回数以上、繰り返された場合、異常信号を出力して終了し、列車1の運転席に警告灯等を設置して運転手にその旨を報知してもよい。
【0039】
前記のように画像判定部9において、撮影した画像と画像特定情報の一致する画像が、情報記憶部7に記憶されていると判定されたとき、位置情報抽出部10では、その一致している画像と共に格納されている列車の位置情報(即ち、当該画像を撮影したときの列車1の位置情報)を抽出して、列車1の現在の走行位置として決定する。この決定した位置情報を基に位置検出部12は、列車1の位置情報を補正する。
【0040】
こうして補正された列車1の現在位置に基づいて、列車の運転に係る制御が行われる。すなわち、例えば、車上装置3の速度制御部(図示せず)が、補正後の列車1の位置に対応する区間毎の制限速度情報を読み出して、速度発電機11からの信号により速度検出部(図示せず)から出力される列車1の走行速度が、前記の読み出した制限速度以下になるように、列車の運転に制御を実行する。
【0041】
判定区間選択部14では、位置検出部12の列車の位置情報による列車1の現在位置と、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)によって得られる列車1の位置に基づいて、前記画像判定部9による判定を行う区間(線区)が選択される。すなわち、本実施形態の列車1にはGPS受信機13が搭載されており、車上装置3は、そのGPS受信機13からの信号と、位置検出部12からの列車の位置情報とに基づいて、前記のような判定を行う区間を選択する判定区間選択部14も備えている。
【0042】
具体的には、図4に模式的に示すように、情報記憶部7には列車1の進行上の駅、踏切やポイントなど列車位置の精度が求められる場所ごとに区切った区間である線区を設定し、線区A~Dそれぞれの列車位置の精度が求められる所定場所に到達するまでに、列車位置を特定するための多数の画像データPDが線区ごとに記憶され画像データファイルが格納されている。そして、本実施形態では、位置検出部12から補正前の列車1の位置と、GPS受信機13からの信号によって得られる列車1の位置とに基づいて、以下のように線区A~Dが選択される。
【0043】
例えば線区Aでは列車1は駅を出発したばかりで位置検出部12の列車の位置情報の誤差は少ないため、列車1の位置補正は線区B以降が対象となる。列車1が線区Bを走行中に、位置検出部12の列車の位置情報から列車1が所定地点に到達し撮像装置2で撮影すると、判定区間選択部14は、位置検出部12の列車の位置情報が、列車1が線区Bを走行中であることを示し、且つGPS受信機13からのGPS信号が、列車1が線区Bを走行中であることを示しているとき、情報記憶部7の画像データファイルから線区Bに含まれる画像データPD(図の例では4個の画像)を選択して、画像判定部9に送る。
【0044】
また、判定区間選択部14は、位置検出部12の列車の位置情報が、列車1が線区Bを走行中であることを示したが、GPS受信機13からのGPS信号が、列車1が線区Dを走行中であることを示しているとき、情報記憶部7の画像データファイルから線区BからDに含まれる画像データPD(図の例では9個の画像)を選択する。
【0045】
このように列車1の位置検出部12およびGPS受信機13からの走行位置に関する情報に基づいて選択した区間(線区)の画像データPDのみを、画像判定部9による判定に供することによって、画像特定情報の一致を判定する処理の遅延を防止することができる。列車1の走行する線区の全体に沿って記憶されている多数の画像のデータの全てと画像特定情報を比較するのは、徒に処理の演算量の増大を招き、その遅延につながるからである。
【0046】
次に、本実施形態の列車位置検出装置によって列車1の走行位置を補正する車上装置3の処理について、図5のフローチャートを参照して具体的に説明する。このフローチャートに示すルーチンは、列車1が走行を開始すると、予め設定した時間(例えば100ミリ秒)毎に繰り返し実行される。
【0047】
ルーチンが開始すると、まず、ステップS1において、位置検出部12の列車の位置情報による列車1の走行位置から、精度が求められる当該場所の手前、列車1の位置を補正する所定地点に到達したか確認を行い、所定地点に到達していない場合は、否定判定(NO)となって、到達するまで繰り返して確認を行う。
【0048】
列車1が走行して駅、踏切やポイントなど列車位置の精度が求められる場所に近づき、位置検出部12の列車の位置情報により列車1が位置を補正する所定地点に達すると肯定判定(YES)となり、ステップS2において撮像装置2が動作され、走行する線路近傍の風景等4を撮影し地点情報表示部5を含む画像Pが撮影される。こうして撮影された画像Pのデータは車上装置3の画像処理部8に出力され、前述のように撮影した画像Pに対して一般的なノイズの除去や輝度値の階調補正等の前処理が行われる。
【0049】
こうして前処理を行った画像Pが画像判定部9に出力される一方、これと並行して、判定区間選択部14により、前述のように位置検出部12の列車の位置情報と、GPS受信機13からの信号によって得られる列車1の位置情報とに基づいて比較の対象となる区間(線区)が選択され、情報記憶部7の画像データファイル(多数の画像データPD)から選択された区間(線区)の判定に供する少なくとも1つの画像データPDが選択される(ステップS3)。
【0050】
画像判定部9では上述したように判定区間選択部14によって送られた画像データPDから列車1が最初に到達する予定の1つの画像データPD(図6の画像データPD1)を選択し(ステップS4)、当該画像データPDと画像Pの画像特定情報の比較が行われ(ステップS5)、撮影された画像Pの画像特定情報、即ち画像の中の所定エリアに含まれている特徴色の画素数が、画像データPDの所定エリアに含まれている特徴色の画素数(言い換えると、所定エリア内に含まれているはずの特徴色の画素数)に対して予め設定した割合以上であるときに、画像特定情報が一致していると判定される。
【0051】
そして、画像特定情報が画像データPDのエリアと一致しない場合は、否定判定(NO)となって、判定に供する画像データPDの全てを画像Pと比較したか確認し(ステップS6)、選択した全ての画像データPDを画像Pと比較していないと否定判定(NO)となって、次の画像データPD(図6の画像データPD2)を選択してステップS4に戻り、前記の処理を繰り返す(ステップS4~S6)。
【0052】
また、ステップS6において、判定に供する画像データPDの全てを画像Pと比較したか確認し、選択した全ての画像データPDを画像Pと比較した場合、すなわちステップS3で選択した全ての画像データPDと画像Pが一致していない場合は、肯定判定(YES)となってステップS2に戻り、前記の処理を繰り返す(ステップS2~S6)。なお、前述のようにステップS6で肯定判定の場合は、位置検出部12の位置情報による精度が求められる当該場所に到達するまで繰り返してもよいし、肯定判定が所定回数以上、繰り返された場合、異常信号を出力するようにして終了してもよい。
【0053】
ステップS5において、画像データPDの各エリアの画像特定情報が画像Pの当該エリアの画像特定情報と全てが一致した場合は、肯定判定(YES)となって、画像判定部9がその旨を示す信号を位置情報抽出部10に出力する。
【0054】
位置情報抽出部10では、前記の画像特定情報が一致した画像データPDに格納されている位置情報(即ち、当該画像を撮影したときの列車1の位置情報)を抽出し、これを列車1の現在の走行位置と決定して(ステップS7)、位置検出部12に出力する。これを基に位置検出部12は、列車1の走行位置すなわち列車の位置情報を補正して(ステップS8)、ルーチンが終了する。
【0055】
以上、説明したように本実施形態の列車位置検知装置によれば、列車1の走行中に撮影した画像Pで、記憶している画像データPDの地点情報表示部5を含むエリア位置に対応する当該エリアを抽出し、このエリア内に含まれる特徴色の画素数を画像特定情報として認識する。そして、この画像Pの画像特定情報と予め記憶した画像データPDの画像特定情報とを比較して、両者が一致している場合に、その画像データPDの位置情報から列車1の走行位置を決定する。
【0056】
こうして特徴色によって認識するようにすれば、地点情報表示部5を列車1から比較的近くに設定しても、列車1の走行に伴う見え方の変化の影響を受け難くなる上に、陽当たりや降雨、降雪の影響も比較的受け難くなる。また、地点情報表示部5を遠くに設定しなくてもよいので、このことによっても降雨や降雪の影響を受け難くなり、また、間に何らかの障害物が入る心配が少なくなる。
【0057】
よって、従来例のように撮影した画像中の対象物、標識の形状などを記憶してある画像と比較するのに比べて、判定の精度が高くなり、かつ安定する。そして、この判定結果に基づいて列車1の走行位置を所要の精度で安定して検出することができる。しかも、画像中の所定エリア内で特徴色の画素数を数えて比較するだけなので、複雑なパターンマッチング等に比べると処理の演算量が少ない。
【0058】
さらに、本実施形態では、撮影した画像の画像特定情報を、線区の全体に沿って記憶されている多数の画像の全てと比較するのではなく、位置検出部12やGPS受信機13からの信号によって得られる列車1の位置情報に基づいて、情報記憶部7の画像データファイルから選択した区間の画像のみと、比較するようにしている。このことによっても処理の演算量を少なくすることができ、画像判定部9による判定の遅延を抑制できる。
【0059】
加えて、前記のように特徴色によって認識するようにした場合、地点情報表示部5は認識し易い明瞭な色を有していればよく、その形状や材質についての制限は厳しくない。よって、地上に位置目盛を有する看板や目印など専用の標識をわざわざ設置する必要がなく、はっきりした色の標識や転轍機など既存の設置物を利用したり、或いは既存の設置物、構造物に塗装したりするだけでよいから、コスト面でのメリットも大きい。
【0060】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0061】
例えば、上述の実施形態では画像特定情報として、画像中の所定エリア内に含まれる1つの特徴色の画素数を用いているが、これに限らず、2つ以上の特徴色を設定し、それらの画素数を組み合わせてもよい。また、特徴色の画素数だけでなく、所定エリア内に含まれる地点情報表示部5の輪郭など、形状についての特徴も組み合わせて、画像特定情報とすることもできる。
【0062】
また、上述の実施形態では列車1にGPS受信機13を搭載した場合について説明しており、このGPS受信機13からの信号によって得られる列車1の位置情報に基づいて、比較する画像データPDを選択するようにしているが、これにも限定されない。すなわち、GPS受信機13を搭載していない場合に、位置検出部12からの信号によって得られる列車1の位置情報に基づいて、比較する画像のデータを選択するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1;列車、2;撮像装置、3;車上装置、4;風景等、5;地点情報表示部、
7;情報記憶部、8;画像処理部、9;画像判定部、10;位置情報抽出部、
11;速度発電機、12;位置検出部、13;GPS受信機、14;判定区間選択部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7