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特許7510278光吸収体、光吸収体付物品、撮像装置、及び光吸収性組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】光吸収体、光吸収体付物品、撮像装置、及び光吸収性組成物
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240626BHJP
   G03B 11/00 20210101ALI20240626BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G02B5/22
G03B11/00
H01L27/146 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020092608
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021189251
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄一郎
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-203467(JP,A)
【文献】特開2014-142629(JP,A)
【文献】特開2016-206558(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030247(WO,A1)
【文献】特開2003-177235(JP,A)
【文献】特開2020-046446(JP,A)
【文献】特開2020-034858(JP,A)
【文献】国際公開第17/183671(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107621750(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0252282(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0275326(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-28
G03B 11/00
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホン酸と銅成分とを含む光吸収性化合物と、
紫外線の少なくとも一部を吸収する紫外線吸収剤と、
金属成分を有するアルコキシド及び金属成分を有するアルコキシドの加水分解物の少なくとも1つと、を含有しており、
前記紫外線吸収剤は、分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基のいずれか一方の基を有する化合物であり、
0°の入射角度における透過スペクトルが下記(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、及び(VI)の条件を満たす、光吸収体。
(I)波長450nm~600nmの範囲における透過率の平均値が75%以上である。
(II)波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる第一波長は、380nm以上440nm以下である。
(III)波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる第二波長は、680nm以上740nm以下である。
(IV)波長350nm~370nmの範囲における透過率の最大値が1%以下である。
(V)波長800nm~900nmの範囲における透過率の最大値が5%以下である。
(VI)波長1100nm~1200nmの範囲における透過率の最大値が5%以下である。
【請求項2】
前記透過スペクトルは、下記(VII)の条件をさらに満たす、請求項1に記載の光吸収体。
(VII)波長750nmにおける透過率が7%以上である。
【請求項3】
前記透過スペクトルは、下記(VIII)の条件をさらに満たす、請求項1又は2に記載の光吸収体。
(VIII)波長780nmにおける透過率が3%以上である。
【請求項4】
55°の入射角度における当該光吸収体の透過スペクトルは、波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる第三波長を有し、
前記第三波長と前記第一波長との差の絶対値が12nm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の光吸収体。
【請求項5】
55°の入射角度における当該光吸収体の透過スペクトルは、波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる第四波長を有し、
前記第四波長と前記第二波長との差の絶対値が24nm以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の光吸収体。
【請求項6】
物品と、
前記物品の表面の一部に形成された、請求項1~5のいずれか1項に記載の光吸収体と、を備えた、
光吸収体付物品。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の光吸収体を備えた、撮像装置。
【請求項8】
光吸収性組成物であって、
ホスホン酸と銅成分とを含む光吸収性化合物と、
紫外線の少なくとも一部を吸収する紫外線吸収剤と、
金属成分を有するアルコキシド及び金属成分を有するアルコキシドの加水分解物の少なくとも1つと、含有しており、
前記紫外線吸収剤は、分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基のいずれか一方の基を有する化合物であり、
当該光吸収性組成物を硬化して得られる光吸収体の0°の入射角度における透過スペクトルが下記(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、及び(vi)の条件を満たす、光吸収性組成物。
(i)波長450nm~600nmの範囲における透過率の平均値が75%以上である。
(ii)波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる第一波長は、380nm以上440nm以下である。
(iii)波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる第二波長は、680nm以上740nm以下である。
(iv)波長350nm~370nmの範囲における透過率の最大値が1%以下である。
(v)波長800nm~900nmの範囲における透過率の最大値が5%以下である。
(vi)波長1100nm~1200nmの範囲における透過率の最大値が5%以下である。
【請求項9】
前記透過スペクトルは、下記(vii)の条件をさらに満たす、請求項8に記載の光吸収性組成物。
(vii)波長750nmにおける透過率が7%以上である。
【請求項10】
前記透過スペクトルは、下記(viii)の条件をさらに満たす、請求項8又は9に記載の光吸収性組成物。
(viii)波長780nmにおける透過率が3%以上である。
【請求項11】
55°の入射角度における前記光吸収体の透過スペクトルは、波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる第三波長を有し、
前記第三波長と前記第一波長との差の絶対値が12nm以下である、
請求項8~10のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
【請求項12】
55°の入射角度における前記光吸収体の透過スペクトルは、波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる第四波長を有し、
前記第四波長と前記第二波長との差の絶対値が24nm以下である、
請求項8~11のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収体、光吸収体付物品、撮像装置、及び光吸収性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、良好な色再現性を有する画像を得るために様々な光学フィルタが固体撮像素子の前面に配置されている。一般的に、固体撮像素子は、紫外線領域から赤外線領域に至る広い波長範囲で分光感度を有する。一方、人間の視感度は可視光の領域にのみ存在する。このため、撮像装置における固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけるために、固体撮像素子の前面に赤外線又は紫外線の一部の光を遮蔽する光学フィルタを配置する技術が知られている。
【0003】
従来、そのような光学フィルタとしては、誘電体多層膜による光反射を利用して赤外線又は紫外線を遮蔽するものが一般的であった。一方、近年、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタが注目されている。光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタの透過率特性は入射角の影響を受けにくいので、撮像装置において光学フィルタに斜めに光が入射する場合でも色味の変化が少ない良好な画像を得ることができる。また、光反射膜を用いない光吸収型光学フィルタは、光反射膜による多重反射を原因とするゴーストやフレアの発生を抑制することができるので、逆光状態や夜景の撮影において良好な画像を得やすい。加えて、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタは、撮像装置の小型化及び薄型化の点でも有利である。
【0004】
そのような光吸収剤として、ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤が知られている。例えば、特許文献1には、フェニル基又はハロゲン化フェニル基を有するホスホン酸(フェニル系ホスホン酸)と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する光吸収層を備えた、光学フィルタが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、赤外線及び紫外線を吸収可能なUV‐IR吸収層を備えた光学フィルタが記載されている。UV‐IR吸収層は、ホスホン酸と銅イオンとによって形成されたUV‐IR吸収剤を含んでいる。光学フィルタが所定の光学特性を満たすように、UV‐IR吸収性組成物は、例えば、フェニル系ホスホン酸と、アルキル基又はハロゲン化アルキル基を有するホスホン酸(アルキル系ホスホン酸)とを含有している。
【0006】
また、特許文献3には、有機色素含有層と、ホスホン酸銅含有層とを備えた赤外線カットフィルタが記載されている。
【0007】
一方、特許文献4には、吸収層と、反射層と、透明基板とを備え、入射角0°の分光透過率曲線において所定の要件を満たす光学フィルタが記載されている。吸収層は、スクアリリウム色素等の近赤外線吸収色素を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6339755号公報
【文献】特許第6232161号公報
【文献】特許第6281023号公報
【文献】国際公開第2020/004641号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3に記載の光学フィルタにおいて、赤外線領域に近いカットオフ波長は、600~680nmの範囲に調整されている。このことは、赤外線を良好に遮蔽する観点からは有利であるものの、赤色帯域における透過率を高める観点から有利であるとは言い難い。一方、特許文献4に記載の光学フィルタにおいて、赤外線領域の近くで透過率が50%となる波長は680nm以上であるものの、反射層が必要であり、吸収層で十分でない光の遮蔽を反射層によって補わなければならない。このため、特許文献4に記載の光学フィルタにおいて、反射層の形成のために煩雑な工程が必要である。
【0010】
そこで、本発明は、可視光の領域、特に赤色帯域における透過率が高くなりやすく、かつ、近赤外線を良好に遮蔽できる光吸収体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
0°の入射角度における透過スペクトルが下記(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、及び(VI)の条件を満たす、光吸収体を提供する。
(I)波長450nm~600nmの範囲における透過率の平均値が75%以上である。
(II)波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる第一波長は、380nm以上440nm以下である。
(III)波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる第二波長は、680nm以上740nm以下である。
(IV)波長350nm~370nmの範囲における透過率の最大値が1%以下である。
(V)波長800nm~900nmの範囲における透過率の最大値が5%以下である。
(VI)波長1100nm~1200nmの範囲における透過率の最大値が5%以下である。
【0012】
また、本発明は、
物品と、
前記物品の表面の一部に形成された、上記の光吸収体と、を備えた、
光吸収体付物品を提供する。
【0013】
また、本発明は、
光吸収性組成物であって、
当該光吸収性組成物を硬化して得られる光吸収体の0°の入射角度における透過スペクトルが下記(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、及び(vi)の条件を満たす、光吸収性組成物を提供する。
(i)波長450nm~600nmの範囲における透過率の平均値が75%以上である。
(ii)波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる第一波長は、380nm以上440nm以下である。
(iii)波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる第二波長は、680nm以上740nm以下である。
(iv)波長350nm~370nmの範囲における透過率の最大値が1%以下である。
(v)波長800nm~900nmの範囲における透過率の最大値が5%以下である。
(vi)波長1100nm~1200nmの範囲における透過率の最大値が5%以下である。
【発明の効果】
【0014】
上記の光吸収体において、可視光の領域、特に赤色帯域における透過率が高くなりやすい。加えて、上記の光吸収体は、近赤外線を良好に遮蔽できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A図1Aは、本発明に係る光吸収体の一例を示す断面図である。
図1B図1Bは、本発明に係る光吸収体付物品の一例を示す断面図である。
図1C図1Cは、本発明に係る光吸収体付物品の別の一例を示す断面図である。
図1D図1Dは、本発明に係る光吸収体を備えた光学部材の一例を示す断面図である。
図2図2は、本発明に係る撮像装置の一例を示す図である。
図3A図3Aは、実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図3B図3Bは、実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図3C図3Cは、実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図4A図4Aは、実施例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図4B図4Bは、実施例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図4C図4Cは、実施例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図5A図5Aは、実施例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図5B図5Bは、実施例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図5C図5Cは、実施例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図6図6は、比較例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図7図7は、比較例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図8図8は、比較例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図9図9は、比較例4に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
CMOSセンサ等を備えたカメラを車載システムの一部として車両に搭載することが考えられる。加えて、このようなカメラを、ドローン及び自律ロボット等の運転装置、移動装置、及び搬送装置に使用することも考えられる。この場合、カメラによって主に外部の状況が撮影画像等の情報として取得され、その取得された情報によって、運転者、操縦者、又は自動操縦ための制御システムの動作がサポートされうる。この場合、外部環境の認識の精度を向上させる観点から、可視光域における透過率が高く、かつ、赤外線を良好に遮蔽できる光学フィルタをカメラが備えることが有利である。可視光域とは、電磁波のうち人が光として認識できる波長の範囲のものであり、その波長の範囲の下限は360~400nmであり、その波長の範囲の上限は760~830nmである。また、日本産業規格(JIS) Z 8120:2001によれば、可視光域は、380~780nmの範囲でありうる。赤外線、特に近赤外線(NIR)は、可視光域の波長範囲を超えた波長1400nm程度までの範囲の波長を有する電磁波と定義される。
【0017】
信号及び道路標識等において、危険又は安全に関わる表示が赤色で表されている場合がある。例えば、赤信号のほか、交通標識(道路標識)における、車両進入禁止、停止、及び徐行などの規制標識はそのような表示に該当する。光学フィルタの透過スペクトルにおいて、赤色に対応する波長範囲の透過率が高いことは、上記のような赤信号及び規制標識等を含む、周辺の物体を的確に認識するために重要である。規制標識などに表されている赤色は、再帰反射性シート等の部材の仕様にもよるが、例えば、下限が580~620nmであり、上限が約780nmを超える波長範囲において高い反射率を示す。可視光域の波長上限を780nmと仮定すると、光学フィルタの透過スペクトルにおいて、波長580~780nmの範囲における透過率が高く、又は、波長620~760nmの範囲における透過率が高く、または波長620~750nmの範囲における透過率が高いことが有利である。
【0018】
加えて、光学フィルタが赤外線を良好に遮蔽できることは、例えば、周辺を走行する車両、移動装置、又は搬送装置における赤外線を用いたセンシングの影響を受けてカメラが良好な撮影画像を得られないといった問題を抑制するために重要である。特許文献4に記載の光学フィルタの特性はこのような観点から調整されているものと理解される。一方、特許文献4に記載の光学フィルタは吸収層に加えて反射層を備えている。このため、本発明者は、反射層を用いなくても、赤色帯域における透過率を高くでき、かつ、近赤外線を良好に遮蔽できる技術を開発すべく多大な試行錯誤を重ねた。その結果、遂に本発明を完成させた。
【0019】
本明細書では、特段の指定がない限り、可視光域又は可視光の領域は、波長380~780nmの範囲と定義され、赤色帯域は、波長580~780nmの範囲の帯域又は当該範囲内の一部の帯域と定義される。また、特段の指定がない限り、赤外線は、波長が可視光域の上限である780nmより大きく、かつ、波長1400nmまでの範囲に属する光(電磁波)と定義され、近赤外線(NIR)に対応する。紫外線は、波長280nmから可視光域の下限である380nmまでの範囲に属する光(電磁波)と定義され、UV-A及びUV-Bの一部に対応する。
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の例示に関するものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1Aは、光吸収体10を示す断面図である。0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、下記(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、及び(VI)の条件を満たす。
(I)波長450nm~600nmの範囲における透過率の平均値TA 0(450-600)が75%以上である。
(II)波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる第一波長λ50 0(UV)は、380nm以上440nm以下である。
(III)波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる第二波長λ50 0(IR)は、680nm以上740nm以下である。
(IV)波長350nm~370nmの範囲における透過率の最大値TM 0(350-370)が1%以下である。
(V)波長800nm~900nmの範囲における透過率の最大値TM 0(800-900)が5%以下である。
(VI)波長1100nm~1200nmの範囲における透過率の最大値TM 0(1100-1200)が5%以下である。
【0022】
(I)、(II)、及び(III)の条件が満たされていることにより、可視光の領域における透過率が高くなりやすく、特に(III)の条件が満たされていることにより、光吸収体10の赤色帯域における透過率が高くなりやすい。加えて、(V)及び(VI)の条件が満たされていることにより、光吸収体10が赤外線を良好に遮蔽できる。また、(IV)の条件が満たされていることにより、光吸収体10が紫外線を良好に遮蔽できる。
【0023】
(I)の条件に関し、平均値TA 0(450-600)は、望ましくは80%以上であり、より望ましくは85%以上である。加えて、0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、望ましくは下記(Ia)の条件をさらに満たす。
(Ia)波長650nm~670nmの範囲における透過率の平均値TA 0(650-670)が70%以上である。
【0024】
(Ia)の条件に関し、平均値TA 0(650-670)は、望ましくは72%以上であり、より望ましくは74%以上である。
【0025】
(II)の条件に関し、第一波長λ50 0(UV)は、望ましくは385nm以上420nm以下であり、より望ましくは390nm以上410nm以下である。
【0026】
(III)の条件に関し、第二波長λ50 0(IR)は、望ましくは680nmを超え740nm以下であり、より望ましくは685nm以上730nm以下であり、さらに望ましくは690nm以上720nm以下である。
【0027】
(IV)の条件に関し、最大値TM 0(350-370)は、望ましくは0.5%以下である。
【0028】
(V)の条件に関し、最大値TM 0(800-900)は、望ましくは3%以下である。
【0029】
(VI)の条件に関し、最大値TM 0(1100-1200)は、望ましくは3%以下である。
【0030】
0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、例えば、下記(VII)の条件をさらに満たす。これにより、光吸収体10の赤色帯域における透過率がより確実に高くなりやすい。
(VII)波長750nmにおける透過率T0(750)が7%以上である。
【0031】
(VII)の条件に関し、透過率T0(750)は、望ましくは10%以上であり、より望ましくは15%以上である。
【0032】
0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、例えば、下記(VIII)の条件をさらに満たす。これにより、光吸収体10の赤色帯域における透過率がより確実に高くなりやすい。
(VIII)波長780nmにおける透過率T0(780)が3%以上である。
【0033】
(VIII)の条件に関し、透過率T0(780)は、望ましくは4%以上であり、より望ましくは5%以上である。
【0034】
55°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、例えば、波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる第三波長λ50 55(UV)を有する。第三波長λ50 55(UV)と第一波長λ50 0(UV)との差の絶対値Δλ50 0/55(UV)は、例えば、12nm以下である。これにより、光吸収体10の透過スペクトルの入射角依存性が小さくなりやすい。このため、例えば、光吸収体10を備えた撮像装置によって得られる画像の中心部及び周辺部において色味の変化を抑制できる。加えて、光吸収体10を備えた撮像装置が撮像可能な画角の範囲に存在する被写体の画像において色味の変化を抑制できる。絶対値Δλ50 0/55(UV)は、望ましくは10nm以下であり、より望ましくは8nm以下であり、さらに望ましくは6nm以下である。
【0035】
55°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、例えば、波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる第四波長λ50 55(IR)を有する。第四波長λ50 55(IR)と第二波長λ50 0(IR)との差の絶対値Δλ50 0/55(IR)は、例えば、24nm以下である。これにより、光吸収体10の透過スペクトルの入射角依存性が小さくなりやすい。このため、例えば、光吸収体10を備えた撮像装置によって得られる画像の中心部及び周辺部において色味の変化を抑制できる。加えて、光吸収体10を備えた撮像装置が撮像可能な画角の範囲に存在する被写体の画像において色味の変化を抑制できる。絶対値Δλ50 0/55(IR)は、望ましくは20nm以下であり、より望ましくは18nm以下であり、さらに望ましくは16nm以下である。
【0036】
45°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、例えば、波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる波長λ50 45(UV)を有する。波長λ50 45(UV)と第一波長λ50 0(UV)との差の絶対値Δλ50 0/45(UV)は、例えば10nm以下であり、望ましくは8nm以下であり、より望ましくは5nm以下である。
【0037】
35°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、例えば、波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる波長λ50 35(UV)を有する。波長λ50 35(UV)と第一波長λ50 0(UV)との差の絶対値Δλ50 0/35(UV)は、例えば8nm以下であり、望ましくは6nm以下であり、より望ましくは4nm以下である。
【0038】
45°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、例えば、波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる波長λ50 45(IR)を有する。波長λ50 45(IR)と第二波長λ50 0(IR)との差の絶対値Δλ50 0/45(IR)は、例えば18nm以下であり、望ましくは16nm以下であり、より望ましくは12nm以下である。
【0039】
35°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルは、例えば、波長650nm~750nmの範囲において透過率が50%となる波長λ50 35(IR)を有する。波長λ50 35(IR)と第二波長λ50 0(IR)との差の絶対値Δλ50 0/35(IR)は、例えば12nm以下であり、望ましくは10nm以下であり、より望ましくは8nm以下である。
【0040】
光吸収体10は、典型的には所定の光吸収剤を含有している。光吸収体10に含有される光吸収剤は、0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルが(I)~(VI)の条件を満たす限り、特定の物質に限定されない。光吸収体10は、例えば、ホスホン酸と銅成分とを含む形成された光吸収性化合物と、紫外線の少なくとも一部を吸収する紫外線吸収剤とを含有している。
【0041】
光吸収性化合物におけるホスホン酸は、0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルが(I)~(VI)の条件を満たす限り、特定のホスホン酸に限定されない。そのホスホン酸は、例えば、下記式(a)で表される。式(a)において、R1は、アルキル基又はアルキル基における少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アルキル基である。この場合、光吸収体10の透過帯域が波長700nm付近まで及びやすく、光吸収体10が所望の透過率特性を有しやすい。
【0042】
【化1】
【0043】
ホスホン酸は、例えば、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ノルマル(n-)プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ノルマル(n-)ブチルホスホン酸、イソブチルホスホン酸、sec-ブチルホスホン酸、tert-ブチルホスホン酸、又はブロモメチルホスホン酸である。
【0044】
光吸収体10は、例えば、金属成分を有するアルコキシド及び金属成分を有するアルコキシドの加水分解物の少なくとも1つをさらに含有している。金属成分を有するアルコキシド及び金属成分を有するアルコキシドの加水分解物の少なくとも1つを含むアルコキシド化合物は、例えば、光吸収性組成物が硬化性化合物を含み、流動性の光吸収性組成物を硬化させて光吸収体10を形成するときに、光吸収性組成物の硬化を促す触媒として機能しうる。光吸収性組成物を加熱処理によって硬化させるときに加熱処理の温度が高いほど、耐熱性等の耐環境性が向上しやすい。一方、加熱処理の温度が高いと、一部の紫外線吸収剤の特性が低下する可能性がある。紫外線吸収剤の特性が低下すると、紫外線吸収剤が吸収する光の波長が予定の吸収波長からずれる可能性がある。紫外線吸収剤の吸収能力の低下又は消滅が起こる可能性もある。しかし、光吸収体10がアルコキシド化合物を含有している場合、加熱処理の温度が高くなくても光吸収性組成物の硬化を促すことができる。その結果、光吸収体10が高い耐環境性を有しやすい。
【0045】
アルコキシド化合物に含まれる金属成分は、特定の成分に限定されない。その金属成分の例は、例えば、Al、Ti、Zr、Zn、Sn、及びFeである。アルコキシド化合物として、例えば、CAT-AC、DX-9740、D-20、D-25、DX-175、D-15、及びD-31を使用できる。これらは、いずれも信越化学工業社の製品である。
【0046】
紫外線吸収剤は、0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルが(I)~(VI)の条件を満たす限り、特定の化合物に限定されない。紫外線吸収剤は、例えば、分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基の両方を有しない化合物であり、構造式で表したときに、一分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基の両方の基を有しない化合物である。金属成分を有するアルコキシド等の分子内の特定の位置に反応物質又は前駆体が配位すること等によって光吸収性組成物の硬化が促されうる。例えば、光吸収性組成物の硬化のための反応に供される物質以外の物質により配位しやすい基が存在すると、触媒の作用が弱められる可能性がある。特に、ヒドロキシ基及びカルボニル基のいずれも高い電子供与性を有しており、アルコキシド化合物がこれらの基を有する紫外線吸収剤と反応又は配位して、それらの一部が錯体を形成することによって、紫外線吸収剤に本来的に備わっている紫外線吸収特性が変化する可能性がある。しかし、紫外線吸収剤が分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基の両方の基を有しない化合物である場合、アルコキシド化合物が紫外線吸収剤と錯体を形成しにくく、紫外線吸収剤の本来の紫外線吸収特性が発揮されやすい。なお、紫外線吸収剤は、分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基のいずれか一方のみの基を含んでいてもよい。
【0047】
紫外線吸収剤は、望ましくは、所望の波長範囲の光を吸収すること、特定の溶剤に対し相溶性を有すること、光吸収性組成物において良好に分散すること、及び耐環境性に優れていること等の観点から選択される。紫外線吸収剤の例は、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸系化合物、及びトリアジン系化合物である。例えば、紫外線吸収剤として、TinuvinPS、Tinuvin99-2、Tinuvin234、Tinuvin326、Tinuvin329、Tinuvin900、Tinuvin928、Tinuvin405、及びTinuvin460を使用できる。これらはBASF社製の紫外線吸収剤であり、Tinuvinは登録商標である。
【0048】
光吸収体10は、例えば、リン酸エステルをさらに含有している。リン酸エステルの働きにより、光吸収体10において光吸収性化合物が適切に分散しやすい。リン酸エステルは、光吸収性化合物の分散剤として機能していてもよく、その一部が金属成分と反応して化合物を形成していてもよい。例えば、リン酸エステルは、光吸収性化合物に配位し、又は、その化合物と反応していてもよく、銅成分と一部錯体を形成していてもよい。
【0049】
リン酸エステルは、特定のリン酸エステルに限定されない。リン酸エステルは、例えば、ポリオキシアルキル基を有する。このようなリン酸エステルとしては、プライサーフA208N:ポリオキシエチレンアルキル(C12、C13)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208F:ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフA219B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフAL:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、プライサーフA212C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、又はプライサーフA215C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらはいずれも第一工業製薬社製の製品である。加えて、リン酸エステルとして、NIKKOL DDP-2:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、NIKKOL DDP-4:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、又はNIKKOL DDP-6:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらは、いずれも日光ケミカルズ社製の製品である。
【0050】
光吸収体10は、例えば、樹脂をさらに含有している。樹脂は、0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルが(I)~(VI)の条件を満たす限り、特定の樹脂に限定されない。樹脂の例は、環状ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、変性アクリル樹脂、シリコーン樹脂、及びPVB等のポリビニル系樹脂である。光吸収性膜10における樹脂は、熱又は光等のエネルギー照射によって硬化しうる硬化性樹脂の硬化物でありうる。
【0051】
光吸収体10におけるホスホン酸及びリン酸エステルの含有量は特定の値に限定されない。光吸収体10におけるリン酸エステルの含有量に対するホスホン酸の含有量の比は、例えば、質量基準で1.0~3.0である。これにより、光吸収体10が水蒸気と接触してもリン酸エステルの加水分解が抑制され光吸収体10が良好な耐候性を有しやすい。
【0052】
ホスホン酸及びリン酸エステルに由来するリン成分の含有量に対する、銅成分の含有量の比は、特定の値に限定されない。その比は、質量基準で、例えば1~3であり、望ましくは1.5~2である。
【0053】
光吸収体10におけるアルコキシド化合物の含有量は、特定の値に限定されない。上記の通り、アルコキシド化合物は、光吸収性組成物の硬化を促す触媒として働く。光吸収性組成物におけるアルコキシド化合物の少量の含有により、この触媒としての作用が発揮されうる。アルコキシド化合物における金属成分の含有量に対する、リン成分の含有量の比は、質量基準で、例えば5~5000であり、望ましくは50~500である。リン成分は、典型的には、光吸収性化合物及びリン酸エステルに由来する。一方、アルコキシド化合物における金属成分の含有量に対する、銅成分の含有量の比は、例えば10~10000であり、望ましくは100~1000である。
【0054】
光吸収体10における紫外線吸収剤の含有量は、0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルが(I)~(VI)の条件を満たす限り、特定の値に限定されない。紫外線吸収剤の少量の含有により高い吸収能力が発揮されうる。光吸収体10における銅成分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、質量基準で、例えば0.01~1であり、望ましくは0.02~0.5であり、より望ましくは0.07~0.14である。光吸収体10におけるリン成分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、質量基準で、例えば0.02~2であり、望ましくは0.04~1であり、より望ましくは0.12~0.26である。
【0055】
図1に示す通り、光吸収体10は、例えば膜状である。本明細書において、「膜」は、コーティング又は層と同義である。光吸収体10は、膜状に限定されない。
【0056】
0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルが(I)~(VI)の条件を満たす限り、光吸収体10の厚みは特定の値に限定されない。光吸収体10の厚みは、例えば500μm以下であり、望ましくは250μm以下であり、より望ましくは150μm以下であり、さらに望ましくは100μm以下である。光吸収体10の厚みが小さいことは、光吸収体10を備えた撮像装置の低背位化の観点から有利である。
【0057】
光吸収体10は、例えば、所定の光吸収性組成物を硬化させることによって作製できる。
【0058】
0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルが(I)~(VI)の条件を満たす限り、光吸収性組成物は特定の組成物に限定されない。光吸収性組成物は、例えば、ホスホン酸と銅成分とを含む光吸収性化合物と、紫外線の少なくとも一部を吸収する紫外線吸収剤とを含有している。光吸収性化合物に関し、光吸収体10における光吸収性化合物の記載を参照できる。
【0059】
光吸収性組成物は、例えば、金属成分を有するアルコキシド及び金属成分を有するアルコキシドの加水分解物の少なくとも1つをさらに含有している。金属成分を有するアルコキシド及び金属成分を有するアルコキシドの加水分解物に関し、光吸収体10におけるアルコキシド化合物の記載を参照できる。
【0060】
0°の入射角度における光吸収体10の透過スペクトルが(I)~(VI)の条件を満たす限り、光吸収性組成物における紫外線吸収剤は、特定の化合物に限定されない。紫外線吸収剤の例として、光吸収体10における紫外線吸収剤の記載を参照できる。紫外線吸収剤は、例えば、分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基の両方の基が含まれていない化合物である。つまり、紫外線吸収剤は、ヒドロキシ基及びカルボニル基のいずれか一方のみの基が含まれる化合物であってもよい。
【0061】
光吸収性組成物は、例えばリン酸エステルをさらに含有している。これにより、光吸収性組成物において光吸収性化合物が適切に分散しやすい。リン酸エステルに関し、光吸収体10におけるリン酸エステルの記載を参照できる。
【0062】
光吸収性組成物は、例えば硬化性樹脂をさらに含有している。硬化性樹脂に関し、光吸収体10における樹脂の記載を参照できる。
【0063】
光吸収性組成物の調製において、光吸収性化合物における銅成分の供給源は、特定の物質に限定されない。銅成分の供給源は、例えば銅塩である。銅塩は、塩化銅、蟻酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、及びクエン酸銅の無水物又は水和物であってもよい。例えば、酢酸銅一水和物は、Cu(CH3COO)2・H2Oと表され、1モルの酢酸銅一水和物によって1モルの銅イオンが供給される。
【0064】
例えば、光吸収体10を物品の表面に形成した部材を光学フィルタとして使用できる。加えて、光吸収体10を物品の表面に形成した後に剥がすことによって光吸収体10自体を独立して光学フィルタとして使用することもできる。光吸収体10の作製方法は、特定の方法に限定されない。光吸収体10は、キャスティング(注型)、圧縮成形、真空成形、プレス成形、射出成形、ブロー成形、及び押出成形法等の方法によって作製されてもよい。
【0065】
図1Aに示す通り、光吸収体10は、単独で使用されてもよい。一方、図1Bに示す通り、光吸収体付物品1aを提供できる。光吸収体付物品1aは、物品20と、光吸収体10とを備えている。光吸収体10は、物品20の表面の少なくとも一部を覆っている。
【0066】
光吸収体付物品1aにおける物品20の形状は特定の形状に限定されない。物品20は、平板状の部材又は基板であってもよい。物品20は、特定の物品に限定されない。物品20は、例えば、レンズ、ミラー、プリズム、ディフューザ、平板マイクロレンズアレイ、偏光子、回折格子、ホログラム、光変調素子、光偏向素子、及びフィルタ等の光学素子(音響光学素子を含む)であってもよい。物品20は、固体撮像デバイス、建築物若しくは自動車の窓若しくはウィンドシールド、ヘルメット、及びゴーグル等の光透過性のシールド、又はディスプレイ及びスクリーン等の表示装置であってもよい。光吸収体10によって覆われる物品20の表面は、平面であってもよく、曲面であってもよく、凹凸を有する面であってもよい。
【0067】
光吸収性組成物を用いてレンズ等の光学素子を成形することによって光吸収体10が得られてもよい。この場合、光吸収体10は単独で使用されてもよい。
【0068】
図1Cに示す通り、光吸収体付物品1aには、誘電体多層膜30が形成されていてもよい。加えて、図1Dに示す通り、光吸収体10には、誘電体多層膜30が形成されていてもよい。誘電体多層膜30において、例えば、SiO2、TiO2、MgF2、及びTa25等の異なる屈折率を有する二種類以上の誘電体が代わる代わる積層されている。誘電体多層膜30は、光反射性又は光反射防止性を発揮しうる。光吸収体10と、誘電体多層膜30との協働により、光の遮蔽機能が発揮されてもよい。例えば、誘電体多層膜30が光反射性を有する場合、光吸収特性に関し、光吸収体10に求められる負担を軽減できる。このため、例えば、光吸収体10の厚みを低減できる。また、光吸収体10における光吸収性組成物の含有量又は紫外線吸収剤の含有量を低減することもできる。
【0069】
光吸収体10を備えた装置を提供できる。このような装置の用途は、特定の用途に限定されない。このような装置は、例えば、車載用カメラ及び車載用センサである。この場合、光吸収体10が所定の紫外線吸収性を有するので、撮像素子及びセンサ素子を紫外線から保護できる。また、光吸収体10が波長700nm付近において高い透過率を有するので、赤外線又は赤色レーザーを用いたlight detection and ranging(Lidar)システム等のセンシングシステムにおいて光吸収体10を使用できる。光吸収体10において、特に赤色に属する光の透過性が高いので、光吸収体10を備えた装置において、赤信号及び道路標識等の対象物を認識する能力が高くなりやすい。加えて、光吸収体10は、特定の波長領域の光を吸収によって遮蔽するので、光吸収体10を備えた装置において、ゴースト及びフレアを抑制できる。さらに、Lidarシステムは、車載用途の機器のみならず、スマートフォン等の携帯型情報端末にも搭載されうる。
【0070】
図2に示す通り、例えば、光吸収体10を備えた撮像装置100を提供できる。撮像装置100は、例えば、レンズ系40と、撮像素子50とをさらに備えている。光吸収体10は、例えば、レンズ系40と、撮像素子50との間に配置されている。撮像装置100の適用対象は、特定の製品に限定されない。撮像装置100は、例えば、スマートフォン等の携帯型情報端末に搭載されたカメラモジュール、車載用のセンシングモジュールに組み込まれる装置、及びドローンなどの無人飛行機又は無人水上艇(USV)におけるセンシングモジュールに組み込まれる装置として適用可能である。光吸収体10は、光吸収体10が搭載される装置等の周囲の明るさを検知するための環境光センサに適用されてもよい。
【実施例
【0071】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、各実施例及び各比較例に係る光学フィルタの評価方法を説明する。
【0072】
(透過スペクトル測定)
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用いて、各実施例に係る光学フィルタの0°、35°、45°、及び55°の入射角における透過スペクトルを測定した。結果を図3A図5Cに示す。一方、同様にして、各比較例に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを測定した。結果を図6図9に示す。これらの透過スペクトルから看取した各光学フィルタにおける特性値を表3に示す。表3における各項目における添え字「IA」は入射角度[°]を示す。
【0073】
(厚み測定)
キーエンス社製のレーザー変位計LK-H008を用いて、光学フィルタの厚みを測定した。結果を表3に示す。
【0074】
<実施例1>
酢酸銅一水和物4.500gと、テトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、第一工業製薬社製のリン酸エステル化合物プライサーフA208Nを2.572g加えて30分間撹拌し、A液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸2.886gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、B液を得た。A液を撹拌しながらA液にB液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン100gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C液を得た。このC液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後のD液を取り出した。このようにしてホスホン酸と銅成分とによって形成された化合物を含む組成物αを得た。ホスホン酸と銅成分とによって形成された化合物は、組成物中に微粒子として分散していることが推察された。
【0075】
BASF社製のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Tinuvin326を5gの分量で95gのトルエンに添加し、30分間撹拌を行って紫外線吸収剤を含む組成物β-1を得た。なお、Tinuvin326は、下記式(b-1)で表される、2-[5-Chloro-(2H)-Benzotriazol-2-yl]-4-methyl-6-(tert-butyl)phenolを含んでいた。
【0076】
【化2】
【0077】
組成物αと、2.0gの組成物β-1と、信越化学工業社製のアルミニウムアルコキシド化合物CAT-AC 0.09gとを、信越化学工業社製のシリコーン樹脂KR-300 8.80gに添加し、30分間撹拌して、実施例1に係る光吸収性組成物を得た。光吸収性組成物の調製における材料の添加量又は光吸収性組成物における所定の成分の含有量を表1に示す。また、成分の含有量の比を表2に示す。なお、リン酸エステルとして用いたプライサーフA208Nの平均的な分子量は、632g/molであると定めた。
【0078】
ダイキン工業社製の表面防汚コーティング剤オプツールDSX(有効成分の濃度:20質量%)0.1gと、3M社製のハイドロフルオロエーテル含有液ノベック7100 19.9gとを混合し、5分間撹拌して、フッ素処理剤(有効成分の濃度:0.1質量%)を調製した。このフッ素処理剤を、130mm×100mm×0.70mmの寸法を有するホウケイ酸ガラス(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)にフローコート法により塗布した。その後、そのガラス基板を室温で24時間放置してフッ素処理剤の塗膜を乾燥させ、その後、ノベック7100を含んだ無塵布で軽くガラス表面を拭きあげて余分なフッ素処理剤を取り除いた。このようにしてフッ素処理基板を作製した。
【0079】
フッ素処理基板の一方の主面の中心部の80mm×80mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて室温~45℃の範囲で緩やかに温度を上げながら溶媒を揮発させて乾燥を進め、最終的に85℃で6時間の熱処理行い、溶媒を完全に揮発させて硬化させた。その後フッ素処理基板から塗膜を引き剥がし、フィルム状の光吸収体からなる実施例1に係る光学フィルタを得た。0°及び35°の入射角度、0°及び45°の入射角度、0°及び55°の入射角度における実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルをそれぞれ図3A図3B、及び図3Cに示す。
【0080】
<実施例2>
紫外線吸収剤として、BASF社製のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Tinuvin234 5.0gをトルエン95.0gに添加して30分間攪拌し、紫外線吸収剤を含む組成物β-2を調製した。Tinuvin234は、下記式(b-2)で表される、Phenol,2-(2H-Benzotriazol-2-yl)-4,6-bis(1-methyl-1-Phenylethyl)を含んでいた。光吸収性組成物の調製において、2.0gの組成物β-1の代わりに、3.6gの組成物β-2を加えた以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る光吸収性組成物を調製した。光吸収性組成物の調製における材料の添加量又は光吸収性組成物における所定の成分の含有量を表1に示す。また、成分の含有量の比を表2に示す。
【0081】
【化3】
【0082】
実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、実施例2に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルム状の光吸収体からなる実施例2に係る光学フィルタを作製した。0°及び35°の入射角度、0°及び45°の入射角度、0°及び55°の入射角度における実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルをそれぞれ図4A図4B、及び図4Cに示す。
【0083】
<実施例3>
紫外線吸収剤として、BASF社製のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤Tinuvin329 5.0gをトルエン95.0gに添加して30分間攪拌し、紫外線吸収剤を含む組成物β-3を調製した。Tinuvin329は、下記式(b-3)で表される、2Phenol,2-(2H-Benzotriazol-2-yl)-4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)を含んでいた。光吸収性組成物の調製において、2.0gの組成物β-1の代わりに、4.0gの組成物β-3を加えた以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る光吸収性組成物を調製した。光吸収性組成物の調製における材料の添加量又は光吸収性組成物における所定の成分の含有量を表1に示す。また、成分の含有量の比を表2に示す。
【0084】
【化4】
【0085】
実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、実施例3に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルム状の光吸収体からなる実施例3に係る光学フィルタを作製した。0°及び35°の入射角度、0°及び45°の入射角度、0°及び55°の入射角度における実施例3に係る光学フィルタの透過スペクトルをそれぞれ図5A図5B、及び図5Cに示す。
【0086】
<比較例1>
組成物β-1を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る光吸収性組成物を調製した。光吸収性組成物の調製における材料の添加量又は光吸収性組成物における所定の成分の含有量を表1に示す。また、成分の含有量の比を表2に示す。
【0087】
実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、比較例1に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルム状の光吸収体からなる比較例1に係る光学フィルタを作製した。0°の入射角度における比較例1に係る光学フィルタの透過スペクトルを図6に示す。
【0088】
<比較例2>
紫外線吸収剤として、BASF社製のヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤Uvinul3049 2.0gをトルエン98.0gに添加して30分間攪拌し、紫外線吸収剤を含む組成物β-4を調製した。Uvinul3049は、下記式(b-4)で表される化合物を含んでいた。光吸収性組成物の調製において、2.0gの組成物β-1の代わりに、5.0gの組成物β-4を加えた以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る光吸収性組成物を調製した。光吸収性組成物の調製における材料の添加量又は光吸収性組成物における所定の成分の含有量を表1に示す。また、成分の含有量の比を表2に示す。
【0089】
【化5】
【0090】
実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、比較例2に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルム状の光吸収体からなる比較例2に係る光学フィルタを作製した。0°の入射角度における比較例2に係る光学フィルタの透過スペクトルを図7に示す。
【0091】
<比較例3>
2.0gの紫外線吸収剤Uvinul3049を、トルエン98.0gに添加して30分間攪拌し、紫外線吸収剤を含む組成物を作製した。この組成物5.0gを、信越化学工業社製のシリコーン樹脂KR-300 10.0gに添加し、30分間撹拌して、比較例3に係る光吸収性組成物を得た。光吸収性組成物の調製における材料の添加量又は光吸収性組成物における所定の成分の含有量を表1に示す。また、成分の含有量の比を表2に示す。
【0092】
実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、比較例3に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルム状の光吸収体からなる比較例3に係る光学フィルタを作製した。0°の入射角度における比較例3に係る光学フィルタの透過スペクトルを図8に示す。
【0093】
<比較例4>
2.0gの紫外線吸収剤Uvinul3049を、トルエン98.0gに添加して30分間攪拌して紫外線吸収剤を含む組成物を作製した。この組成物5.0gと、信越化学工業社製のアルミニウムアルコキシドCAT-AC 0.10gとを、信越化学工業社製のシリコーン樹脂KR-300 10.0gに添加して30分間撹拌して、比較例4に係る光吸収性組成物を得た。光吸収性組成物の調製における材料の添加量又は光吸収性組成物における所定の成分の含有量を表1に示す。また、成分の含有量の比を表2に示す。
【0094】
実施例1に係る光吸収性組成物の代わりに、比較例4に係る光吸収性組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルム状の光吸収体からなる比較例4に係る光学フィルタを作製した。0°の入射角度における比較例4に係る光学フィルタの透過スペクトルを図9に示す。
【0095】
表3に示す通り、各実施例に係る光学フィルタの透過スペクトルによれば、これらの光学フィルタは所望の透過率特性を有していた。一方、0°の入射角度における比較例1に係る光学フィルタの透過スペクトルによれば、波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる波長λ50 0(UV)が354nmであり、かつ、TM (350-370)が70%を超えていた。このため、比較例1に係る光学フィルタは、所望の透過率特性を有しているとは言い難かった。
【0096】
0°の入射角度における比較例2に係る光学フィルタの透過スペクトルによれば、λ50 0(UV)が443nmであった。このため、比較例2に係る光学フィルタは、所望の透過率特性を有しているとは言い難かった。比較例2に係る光学フィルタの作製に用いられた紫外線吸収剤Uvinul3049は、分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基の両方の基が含まれており、触媒としての、金属成分を含むアルコキシド化合物と、紫外線吸収剤とが一部反応して、紫外線吸収剤の本来の吸収波長が長波長側にシフトしたものと推察される。
【0097】
比較例3及び4は、光吸収性組成物におけるアルミニウムアルコキシドの有無により、光学フィルタの透過スペクトルにどのような差異が生じるかを検討するための例である。比較例3及び4に係る光学フィルタによる光吸収特性の差異は、特に、波長350nm~450nmの範囲において透過率が50%となる波長λ50 0(UV)に現れた。紫外線吸収剤及びアルミニウムアルコキシドを共に含有している比較例4に係る光学フィルタでは、波長λ50 0(UV)は444nmであった。一方、アルミニウムアルコキシドを含有していない比較例3に係る光学フィルタでは、波長λ50 0(UV)は400nmであった。これらの結果から、分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基の両方の基が含まれている紫外線吸収剤がアルミニウムアルコキシドのような金属成分を含むアルコキシド化合物とともに含有されていると、紫外線吸収剤が本来備える特性が変化することが理解される。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【符号の説明】
【0101】
1a 光吸収体付物品
10 光吸収体
20 物品
30 誘電体多層膜
40 レンズ系
50 撮像素子
100 撮像装置
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9