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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240626BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20240626BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240626BHJP
   B23K 26/046 20140101ALI20240626BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/53
B23K26/00 P
B23K26/046
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020129441
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022026123
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】荻原 孝文
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094902(JP,A)
【文献】特開2020-068316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
B23K 26/00
B23K 26/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハにレーザ光を照射するレーザ照射部と、
前記ウエハにおける前記レーザ光の入射面又は該入射面の反対側の面である、測定対象面の変位を測定する測定部と、
前記ウエハに前記レーザ光が照射されることにより前記ウエハの内部に一又は複数の改質領域が形成されるように前記レーザ照射部を制御することと、前記レーザ光が照射された後の前記測定対象面の変位である加工後変位が測定されるように前記測定部を制御することと、前記測定部によって測定された前記加工後変位に基づき、前記ウエハの加工状態の推定に係る情報を導出することと、を実行するように構成された制御部と、を備え
前記制御部は、前記測定対象面の領域毎に、前記測定部によって測定された前記加工後変位と基準変位との差分を導出し、該差分に基づき、前記ウエハの加工状態の推定に係る情報を導出し、
前記制御部は、前記差分に基づいて、前記レーザ光が照射されることにより前記ウエハの内部に形成される前記改質領域から延びる亀裂の状態を推定する、検査装置。
【請求項2】
表示部を更に備え、
前記制御部は、導出した前記ウエハの加工状態の推定に係る情報が表示されるように、前記表示部を制御する、請求項1記載の検査装置。
【請求項3】
前記測定部は、測定光を前記測定対象面に照射すると共に、前記測定対象面における前記測定光の反射光を受光し検出することにより前記測定対象面における変位を測定する測定ユニットを有する、請求項1又は2記載の検査装置。
【請求項4】
前記測定ユニットは、前記レーザ照射部によって前記ウエハに照射される前記レーザ光の集光点を調整するために前記測定対象面における変位を測定するオートフォーカスユニットである、請求項3記載の検査装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記レーザ光が照射される前の前記測定対象面の変位である加工前変位が更に測定されるように前記測定部を制御し、
前記加工前変位を前記基準変位として、前記ウエハの加工状態の推定に係る情報を導出する、請求項1~4のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記差分の絶対値が第1閾値よりも大きい領域については、前記亀裂が、前記入射面に到達し且つ前記反対側の面に到達していない状態であるか、或いは、前記入射面に到達しておらず且つ前記反対側の面に到達している状態であると推定し、
前記差分の絶対値が第1閾値以下である領域については、前記亀裂が前記入射面及び前記反対側のいずれにも到達していない状態であるか、或いは、前記入射面及び前記反対側のいずれにも到達している状態であると推定する、請求項1~5のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項7】
前記制御部は、
周囲の領域との前記差分の絶対値の差が第2閾値よりも大きい領域については、前記亀裂が、前記入射面に到達し且つ前記反対側の面に到達していない状態であるか、或いは、前記入射面に到達しておらず且つ前記反対側の面に到達している状態であると推定し、
前記差分の絶対値の差が第2閾値以下である領域については、前記亀裂が前記入射面及び前記反対側のいずれにも到達していない状態であるか、或いは、前記入射面及び前記反対側のいずれにも到達している状態であると推定する、請求項1~6のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項8】
前記ウエハに対して透過性を有する光を出力し、前記ウエハを伝搬した光を検出する撮像部を更に備え、
前記制御部は、光を検出した前記撮像部から出力される信号を更に考慮して、前記亀裂の状態を推定する、請求項1~7のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項9】
前記制御部は、
第1の方向に沿って前記測定対象面に測定光が照射され、該測定対象面における前記測定光の反射光が検出されることによって前記第1の方向に沿った各領域における前記レーザ光が照射される前の前記測定対象面の変位である加工前変位が測定されるように、前記測定部を制御し、
前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って、複数ライン分、前記ウエハにレーザ光が照射されて複数の加工ラインが形成されるように、前記レーザ照射部を制御し、
前記複数の加工ラインを跨ぐように、前記第1の方向に沿って前記測定光が前記測定対象面に照射され、該測定対象面における前記測定光の反射光が検出されることによって前記第1の方向に沿った各領域における前記加工後変位が測定されるように、前記測定部を制御し、
互いに対応する領域毎に、前記加工後変位及び前記加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する前記加工状態の推定に係る情報を導出する、請求項1~8のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項10】
前記制御部は、
第1の方向に沿って前記測定対象面に測定光が照射され、該測定対象面における前記測定光の反射光が検出されることによって前記第1の方向に沿った各領域における前記レーザ光が照射される前の前記測定対象面の変位である加工前変位が測定されるように、前記測定部を制御し、
前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って前記測定対象面に前記測定光が照射され、該測定対象面における前記測定光の反射光が検出されることによって前記第2の方向に沿った各領域における前記加工前変位が測定されるように、前記測定部を制御し、
前記第2の方向に沿って、複数ライン分、前記ウエハにレーザ光が照射されて複数の加工ラインが形成されるように、前記レーザ照射部を制御し、
前記第1の方向に沿って、複数ライン分、前記ウエハにレーザ光が照射されて複数の加工ラインが形成されるように、前記レーザ照射部を制御することと、前記第2の方向に沿った前記複数の加工ラインを跨ぐように前記第1の方向に沿って前記測定対象面に前記測定光が照射され、該測定対象面における前記測定光の反射光が検出されることによって前記第1の方向に沿った各領域における前記加工後変位が測定されるように、前記測定部を制御することと、を共に実施し、
前記第1の方向に沿った前記複数の加工ラインを跨ぐように前記第2の方向に沿って前記測定対象面に前記測定光が照射され、該測定対象面における前記測定光の反射光が検出されることによって前記第2の方向に沿った各領域における前記加工後変位が測定されるように、前記測定部を制御し、
前記第1の方向に沿った互いに対応する領域毎に、前記加工後変位及び前記加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する前記加工状態の推定に係る情報を導出し、前記第2の方向に沿った互いに対応する領域毎に、前記加工後変位及び前記加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する前記加工状態の推定に係る情報を導出する、請求項1~8のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項11】
前記制御部は、
前記加工後変位の測定のために前記第1の方向に沿って照射される前記測定光の照射ラインと前記第1の方向に沿った前記複数の加工ラインのいずれかとが重なるように、前記測定部及び前記レーザ照射部を制御し、
前記加工後変位の測定のために前記第2の方向に沿って照射される前記測定光の照射ラインと前記第2の方向に沿った前記複数の加工ラインとが重ならないように、前記測定部及び前記レーザ照射部を制御する、請求項1記載の検査装置。
【請求項12】
前記制御部は、
第1の方向に沿って前記測定対象面に測定光が照射され、該測定対象面における前記測定光の反射光が検出されることによって前記第1の方向に沿った各領域における前記レーザ光が照射される前の前記測定対象面の変位である加工前変位が測定されるように、前記測定部を制御し、
前記第1の方向に沿って前記ウエハにレーザ光が照射されて加工ラインが形成されるように、前記レーザ照射部を制御し、
前記加工ラインに沿って前記測定光が前記測定対象面に照射され、該測定対象面における前記測定光の反射光が検出されることによって前記加工ラインに沿った各領域における前記加工後変位が測定されるように、前記測定部を制御し、
前記加工ラインに沿った互いに対応する領域毎に、前記加工後変位及び前記加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する前記加工状態の推定に係る情報を導出する、請求項1~8のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項13】
前記制御部は、所定の加工条件に基づいて加工制御を行い、前記ウエハの加工状態の推定に係る情報に基づき、加工の合否を判定し、判定結果が不合格である場合には、前記加工条件を補正する、請求項1~1のいずれか一項記載の検査装置。
【請求項14】
ウエハの内部に一又は複数の改質領域が形成されるように前記ウエハにレーザ光を照射するレーザ加工工程と、
前記レーザ加工後における、前記ウエハの測定対象面の変位である加工後変位を測定する加工後測定工程と、
前記加工後変位に基づき、前記ウエハの加工状態を推定する推定工程と、を含み、
前記推定工程では、
前記測定対象面の領域毎に、前記加工後測定工程において測定された前記加工後変位と基準変位との差分を導出し、該差分に基づき、前記ウエハの加工状態の推定に係る情報を導出し、
前記差分に基づいて、前記レーザ光が照射されることにより前記ウエハの内部に形成される前記改質領域から延びる亀裂の状態を推定する、検査方法。
【請求項15】
前記レーザ加工工程前において、前記測定対象面の変位である加工前変位を測定する加工前測定工程を更に含み、
前記推定工程では、前記測定対象面の領域毎に、前記加工後変位と前記加工前変位との差分を導出し、該差分に基づき、前記ウエハの加工状態を推定する、請求項1記載の検査方法。
【請求項16】
前記加工前測定工程では、第1の方向に沿って、測定光を前記測定対象面に照射し、該測定対象面における前記測定光の反射光を受光し検出することにより、前記第1の方向に沿った各領域における前記加工前変位を測定し、
前記レーザ加工工程では、前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って、複数ライン分、前記ウエハにレーザ光を照射し、複数の加工ラインを形成し、
前記加工後測定工程では、前記複数の加工ラインを跨ぐように、前記第1の方向に沿って、測定光を前記測定対象面に照射し、該測定対象面における前記測定光の反射光を受光し検出することにより、前記第1の方向に沿った各領域における前記加工後変位を測定する、請求項1記載の検査方法。
【請求項17】
前記加工前測定工程は、第1の方向に沿って、測定光を前記測定対象面に照射し、該測定対象面における前記測定光の反射光を受光し検出することにより前記第1の方向に沿った各領域における前記加工前変位を測定する第1加工前工程と、前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って測定光を前記測定対象面に照射し、該測定対象面における前記測定光の反射光を受光し検出することにより前記第2の方向に沿った各領域における前記加工前変位を測定する第2加工前工程と、を含み、
前記レーザ加工工程は、前記第2の方向に沿って、複数ライン分、前記ウエハにレーザ光を照射し複数の加工ラインを形成する第1加工工程と、前記第1の方向に沿って、複数ライン分、前記ウエハにレーザ光を照射し複数の加工ラインを形成する第2加工工程と、を含み、
前記加工後測定工程は、前記第2の方向に沿った前記複数の加工ラインを跨ぐように、前記第1の方向に沿って測定光を前記測定対象面に照射し、該測定対象面における前記測定光の反射光を受光し検出することにより前記第1の方向に沿った各領域における前記加工後変位を測定する第1加工後工程と、前記第1の方向に沿った前記複数の加工ラインを跨ぐように、前記第2の方向に沿って測定光を前記測定対象面に照射し、該測定対象面における前記測定光の反射光を受光し検出することにより前記第2の方向に沿った各領域における前記加工前変位を測定する第2加工後工程と、を含み、
前記第1加工後工程は、前記第2加工工程と共に実行される、請求項1記載の検査方法。
【請求項18】
前記加工前測定工程では、第1の方向に沿って、測定光を前記測定対象面に照射し、該測定対象面における前記測定光の反射光を受光し検出することにより、前記第1の方向に沿った各領域における前記加工前変位を測定し、
前記レーザ加工工程では、前記第1の方向に沿って前記ウエハにレーザ光を照射し加工ラインを形成し、
前記加工後測定工程では、前記加工ラインに沿って、測定光を前記測定対象面に照射し、該測定対象面における前記測定光の反射光を受光し検出することにより、前記加工ラインに沿った各領域における前記加工後変位を測定する、請求項1記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板と、半導体基板の一方の表面に形成された機能素子層と、を備えるウエハを複数のラインのそれぞれに沿って切断するために、半導体基板の他方の面側からウエハにレーザ光を照射することにより、複数のラインのそれぞれに沿って半導体基板の内部に複数列の改質領域を形成する検査装置が知られている。特許文献1に記載の検査装置は、赤外線カメラを備えており、半導体基板の内部に形成された改質領域、機能素子層に形成された加工ダメージ等を半導体基板の裏面側から観察することが可能となっている。当該検査装置では、例えば、このような内部観察結果に基づき、加工後におけるウエハの亀裂状態が推定され、亀裂状態の推定結果に基づき加工の合否(設定した加工条件で所望の加工を行えているか否か)が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-64746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した検査装置によれば、赤外線カメラによる内部観察によってウエハの亀裂状態を高精度に推定することができる。ここで、本技術分野においては、ウエハの亀裂状態(加工状態)を高精度に推定することと共に、より容易に亀裂状態(加工状態)を推定することが求められている。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ウエハの加工状態をより容易に推定することができる検査装置及び検査方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、レーザ加工後の入射面又は該入射面の反対側の面における変位(凹凸形状)とウエハの加工状態とに相関性があることに着目し、このようなウエハの加工後変位に基づきウエハの加工状態の推定に係る情報を導出する検査装置を着想するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一態様に係る検査装置は、ウエハにレーザ光を照射するレーザ照射部と、ウエハにおけるレーザ光の入射面又は該入射面の反対側の面である、測定対象面の変位を測定する測定部と、ウエハにレーザ光が照射されることによりウエハの内部に一又は複数の改質領域が形成されるようにレーザ照射部を制御することと、レーザ光が照射された後の測定対象面の変位である加工後変位が測定されるように測定部を制御することと、測定部によって測定された加工後変位に基づき、ウエハの加工状態の推定に係る情報を導出することと、を実行するように構成された制御部と、を備える。
【0008】
本発明の一態様に係る検査装置では、レーザ光が照射されるウエハにおける入射面又は入射面の反対側の面である、測定対象面の加工後変位が測定され、該加工後変位に基づいて、ウエハの加工状態の推定に係る情報が導出される。上述したように、測定対象面における加工後変位(凹凸形状)とウエハの加工状態とは、相関性を有している。そのため、加工後変位に基づきウエハの加工状態の推定に係る情報が導出されることにより、当該推定に係る情報に基づいて、ウエハの加工状態を適切に推定することができる。そして、測定対象面の加工後変位を測定する処理は、例えば、赤外線カメラ等によるウエハの内部観察によってウエハの加工状態(亀裂状態)を特定する処理と比べて極めて容易である。このため、本発明の一態様に係る検査装置によれば、ウエハの加工状態をより容易に推定することができる。
【0009】
上記検査装置は、表示部を更に備え、制御部は、導出したウエハの加工状態の推定に係る情報が表示されるように、表示部を制御してもよい。制御部によって導出されたウエハの加工状態の推定に係る情報が表示部に表示されることにより、例えば、加工状態の推定に係る情報として加工状態を推定するための情報を表示した場合には、ユーザが、表示内容に基づいて、ウエハの加工状態を容易に推定することができる。また、加工状態の推定に係る情報として加工状態の推定結果そのものを表示した場合には、加工状態の推定結果の妥当性をユーザに確認させることができる。
【0010】
測定部は、測定光を測定対象面に照射すると共に、測定対象面における測定光の反射光を受光し検出することにより測定対象面における変位を測定する測定ユニットを有していてもよい。このような構成によれば、簡易な構成及び処理によって、測定対象面における変位を高精度に測定することができる。
【0011】
測定ユニットは、レーザ照射部によってウエハに照射されるレーザ光の集光点を調整するために測定対象面における変位を測定するオートフォーカスユニットであってもよい。このような構成によれば、ウエハに対してレーザ照射を行う検査装置において通常設けられているオートフォーカスユニットを利用して、測定対象面における変位を測定することができる。すなわち、本構成によれば、オートフォーカスユニットを利用してウエハ表面の変位(凸凹形状)を測定し、該変位に基づいて、ウエハの加工状態を容易に推定することができる。
【0012】
制御部は、測定対象面の領域毎に、測定部によって測定された加工後変位と基準変位との差分を導出し、該差分に基づき、ウエハの加工状態の推定に係る情報を導出してもよい。加工後変位と基準変位との差分は、加工の影響による変位量をより正確に示すものである。このため、当該差分に基づき加工状態の推定に係る情報が導出されることによって、ウエハの加工状態をより正確に推定することができる。
【0013】
制御部は、レーザ光が照射される前の測定対象面の変位である加工前変位が更に測定されるように測定部を制御し、加工前変位を基準変位として、ウエハの加工状態の推定に係る情報を導出してもよい。このように、レーザ光が照射される前の測定対象面の変位である加工前変位が実際に測定されて、該加工前変位が基準変位とされることにより、加工後変位と基準変位との差分が、加工の影響による変位量をより正確に示すものとなる。このため、当該差分に基づき加工状態の推定に係る情報が導出されることによって、ウエハの加工状態をより正確に推定することができる。
【0014】
制御部は、差分に基づいて、レーザ光が照射されることによりウエハの内部に形成される改質領域から延びる亀裂の状態を推定してもよい。加工後変位及び基準変位の差分(レーザ加工後の測定対象面における変位)と改質領域から延びる亀裂の状態とには、相関性がある。このため、差分に基づいて亀裂の状態を推定することにより、亀裂の状態(すなわちウエハの加工状態)を高精度に推定することができる。
【0015】
制御部は、差分の絶対値が第1閾値よりも大きい領域については、亀裂が、入射面に到達し且つ反対側の面に到達していない状態であるか、或いは、入射面に到達しておらず且つ反対側の面に到達している状態であると推定し、差分の絶対値が第1閾値以下である領域については、亀裂が入射面及び反対側のいずれにも到達していない状態であるか、或いは、入射面及び反対側のいずれにも到達している状態であると推定してもよい。本発明者らは、加工後変位及び基準変位の差分の絶対値(レーザ加工後の測定対象面における変位)が大きい領域については、亀裂が入射面及び反対側の面のいずれか一方のみに到達している状態(いわゆるBHC又はHCの状態)となっており、上記差分が小さい領域については、亀裂が入射面及び反対側の面のいずれにも到達していない状態(いわゆるSTの状態)か或いは亀裂が入射面及び反対側の面のいずれにも到達している状態(いわゆるFCの状態)となっていることを見出した。このような考えに基づき、差分がある閾値(第1閾値)よりも大きいか否かに応じて亀裂の状態が推定されることにより、亀裂の状態(すなわちウエハの加工状態)をより高精度に推定することができる。
【0016】
制御部は、周囲の領域との差分の絶対値の差が第2閾値よりも大きい領域については、亀裂が、入射面に到達し且つ反対側の面に到達していない状態であるか、或いは、入射面に到達しておらず且つ反対側の面に到達している状態であると推定し、差分の絶対値の差が第2閾値以下である領域については、亀裂が入射面及び反対側のいずれにも到達していない状態であるか、或いは、入射面及び反対側のいずれにも到達している状態であると推定してもよい。差分に基づき亀裂の状態を推定するに際しては、差分の絶対値から判断するよりも、差分の絶対値の周囲との差から判断する(相対値から判断する)ほうが容易且つ正確である場合がある。このような考えに基づき、周囲の領域との差分の差がある閾値(第2閾値)よりも大きいか否かに応じて亀裂の状態が推定されることにより、亀裂の状態(すなわちウエハの加工状態)をより高精度且つ容易に推定することができる。
【0017】
上記検査装置は、ウエハに対して透過性を有する光を出力し、ウエハを伝搬した光を検出する撮像部を更に備え、制御部は、光を検出した撮像部から出力される信号を更に考慮して、亀裂の状態を推定してもよい。このような構成によれば、基本的なウエハの加工状態の推定については測定対象面における変位に基づいて行いつつ、例えば、一部の領域(より詳細に亀裂の状態等を調べたい領域)の亀裂状態の推定のみ、撮像部から出力される信号に基づいて行う等の処理が可能になり、亀裂状態の推定をより高精度に行うことができる。また、この場合であっても、撮像部から出力される信号のみから全ての亀裂状態を推定する場合と比較して、ウエハの加工状態を容易に(大幅にタクト短縮して)推定することができる。
【0018】
制御部は、第1の方向に沿って測定対象面に測定光が照射され、該測定対象面における測定光の反射光が検出されることによって第1の方向に沿った各領域における加工前変位が測定されるように、測定部を制御し、第1の方向に交差する第2の方向に沿って、複数ライン分、ウエハにレーザ光が照射されて複数の加工ラインが形成されるように、レーザ照射部を制御し、複数の加工ラインを跨ぐように、第1の方向に沿って測定光が測定対象面に照射され、該測定対象面における測定光の反射光が検出されることによって第1の方向に沿った各領域における加工後変位が測定されるように、測定部を制御し、互いに対応する領域毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する加工状態の推定に係る情報を導出してもよい。このように、複数の加工ラインを跨ぐ方向(第1の方向)に沿った各領域について加工後変位及び加工前変位が測定され、領域毎に加工後変位及び加工前変位の差分が導出されることにより、複数の加工ラインそれぞれにおけるレーザ加工後の変位の程度を特定し、複数の加工ラインそれぞれの加工状態を適切に推定することができる。このような構成によれば、例えば複数の加工ラインの加工条件を互いに異ならせておき、それぞれの加工条件における加工状態を推定することにより、効率的に、複数の加工条件の適否を判定することができる。そして、複数の加工ラインの変位の程度が特定されることにより、異なる加工ライン同士の変位を比較することによって、絶対的な変位量だけでなく、他の加工ラインと比較した変位量の相対的な情報に基づき、容易且つ正確に、複数の加工ラインそれぞれの加工状態を推定することができる。
【0019】
制御部は、第1の方向に沿って測定対象面に測定光が照射され、該測定対象面における測定光の反射光が検出されることによって第1の方向に沿った各領域における加工前変位が測定されるように、測定部を制御し、第1の方向に交差する第2の方向に沿って測定対象面に測定光が照射され、該測定対象面における測定光の反射光が検出されることによって第2の方向に沿った各領域における加工前変位が測定されるように、測定部を制御し、第2の方向に沿って、複数ライン分、ウエハにレーザ光が照射されて複数の加工ラインが形成されるように、レーザ照射部を制御し、第1の方向に沿って、複数ライン分、ウエハにレーザ光が照射されて複数の加工ラインが形成されるように、レーザ照射部を制御することと、第2の方向に沿った複数の加工ラインを跨ぐように第1の方向に沿って測定対象面に測定光が照射され、該測定対象面における測定光の反射光が検出されることによって第1の方向に沿った各領域における加工後変位が測定されるように、測定部を制御することと、を共に実施し、第1の方向に沿った複数の加工ラインを跨ぐように第2の方向に沿って測定対象面に測定光が照射され、該測定対象面における測定光の反射光が検出されることによって第2の方向に沿った各領域における加工後変位が測定されるように、測定部を制御し、第1の方向に沿った互いに対応する領域毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する加工状態の推定に係る情報を導出し、第2の方向に沿った互いに対応する領域毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する加工状態の推定に係る情報を導出してもよい。
【0020】
このような構成によれば、互いに交差する方向それぞれに複数の加工ラインが形成される場合(加工ラインが格子状に形成される場合)においても、加工状態の推定に係る情報が適切に導出される。すなわち、第1の方向に沿って形成される複数の加工ラインを跨ぐ方向(第2の方向)に沿った各領域について加工後変位及び加工前変位が測定され、領域毎に加工後変位及び加工前変位の差分が導出されることにより、第1の方向に沿って形成される複数の加工ラインそれぞれの加工状態を適切に推定することができる。また、第2の方向に沿って形成される複数の加工ラインを跨ぐ方向(第1の方向)に沿った各領域について加工後変位及び加工前変位が測定され、領域毎に加工後変位及び加工前変位の差分が導出されることにより、第2の方向に沿って形成される複数の加工ラインそれぞれの加工状態を適切に推定することができる。そして、第1の方向に沿った複数の加工ラインの形成と、第1の方向に沿った(第2の方向に沿った複数の加工ラインを跨ぐ)各領域における加工後変位の測定とは、同一の方向に沿った処理であるため同時に実行することが可能であるところ、これらの処理が共に(同時に)実行されることにより、処理効率を大幅に向上させることができる。
【0021】
制御部は、加工後変位の測定のために第1の方向に沿って照射される測定光の照射ラインと第1の方向に沿った複数の加工ラインのいずれかとが重なるように、測定部及びレーザ照射部を制御し、加工後変位の測定のために第2の方向に沿って照射される測定光の照射ラインと第2の方向に沿った複数の加工ラインとが重ならないように、測定部及びレーザ照射部を制御してもよい。いま、加工後変位を高精度に測定するためには、加工後変位を測定したい対象の加工ラインとは加工方向が異なる加工ラインの影響を排除したい。すなわち、ある方向に沿った複数の加工ラインに関して加工後変位を測定する場合においては、当該ある方向とは異なる方向に沿った加工ラインの影響を排除したい。この場合、ある方向に沿った複数の加工ラインを跨ぐように当該ある方向と異なる方向に沿って照射される測定光の照射ラインが、当該ある方向と異なる方向に沿った加工ラインと重ならないことが必要になる。この点、第2の方向に沿った測定光の照射ラインと第2の方向に沿った複数の加工ラインとが重なっていないことにより、第1の方向に沿った複数の加工ラインに関する加工後変位を高精度に測定することができる。ここで、上述したように、本処理では、第2の方向に沿った加工ラインが形成された後において、第1の方向に沿った加工ラインの形成及び第1の方向に沿った加工後変位の測定が共に実行されている。このように、同一方向に沿って、加工ラインの形成及び加工後変位の測定が共に実行される場合においては、加工ライン及び変位測定のための測定光の照射ラインが重なっていても、変位測定のための測定光の照射を加工ラインの形成に先行して実行する(共に実行しつつ、測定光の照射が加工ラインの形成よりも先行するように制御する)ことにより、新たに形成する加工ラインの影響を受けずに、形成済みの加工ラインの加工後変位を測定することができる。すなわち、本処理においては、第1の方向に沿った加工ラインの形成及び第1の方向に沿った加工後変位の測定が共に実行されるため、第1の方向に沿った加工ラインのいずれかと第1の方向に沿って照射される測定光の照射ラインとが重なっていても、第1の方向に沿った加工ラインの形成の影響を受けずに、第2の方向に沿った複数の加工ラインに関する加工後変位を高精度に推定することができる。そして、第1の方向に沿った加工ラインのいずれかと第1の方向に沿って照射される測定光の照射ラインとが重なっていることにより、加工ラインの形成及び測定光の照射に関する処理を単純化(容易化)することができる。
【0022】
制御部は、第1の方向に沿って測定対象面に測定光が照射され、該測定対象面における測定光の反射光が検出されることによって第1の方向に沿った各領域における加工前変位が測定されるように、測定部を制御し、第1の方向に沿ってウエハにレーザ光が照射されて加工ラインが形成されるように、レーザ照射部を制御し、加工ラインに沿って測定光が測定対象面に照射され、該測定対象面における測定光の反射光が検出されることによって加工ラインに沿った各領域における加工後変位が測定されるように、測定部を制御し、加工ラインに沿った互いに対応する領域毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する加工状態の推定に係る情報を導出してもよい。このように、加工前変位を測定するための測定光の照射方向、加工ラインの形成方向、及び、加工後変位を測定するための測定光の照射方向が共通化されることにより、ウエハを回転させる処理等が不要になり、処理効率を向上させることができる。なお、加工ラインに沿って測定光が照射される本態様においては、複数の加工ラインを跨ぐように測定光が照射される場合と異なり、複数の加工ライン同士を比較した変位量の相対的な情報に基づく加工状態の推定ができないが、加工後の絶対的な変位量に基づいて加工ラインの加工状態を推定することができる。
【0023】
制御部は、所定の加工条件に基づいて加工制御を行い、ウエハの加工状態の推定に係る情報に基づき、加工の合否を判定し、判定結果が不合格である場合には、加工条件を補正してもよい。このような構成によれば、ウエハの加工状態の推定結果を考慮して加工条件を変更することができ、加工条件の適正化までを一元的且つ自動的に実施することができる。
【0024】
本発明の一態様に係る検査方法は、ウエハの内部に一又は複数の改質領域が形成されるようにウエハにレーザ光を照射するレーザ加工工程と、レーザ加工後における、ウエハの測定対象面の変位である加工後変位を測定する加工後測定工程と、加工後変位に基づき、ウエハの加工状態を推定する推定工程と、を含む。
【0025】
上記検査方法は、レーザ加工工程前において、測定対象面の変位である加工前変位を測定する加工前測定工程を更に含み、推定工程では、測定対象面の領域毎に、加工後変位と加工前変位との差分を導出し、該差分に基づき、ウエハの加工状態を推定してもよい。
【0026】
加工前測定工程では、第1の方向に沿って、測定光を測定対象面に照射し、該測定対象面における測定光の反射光を受光し検出することにより、第1の方向に沿った各領域における加工前変位を測定し、レーザ加工工程では、第1の方向に交差する第2の方向に沿って、複数ライン分、ウエハにレーザ光を照射し、複数の加工ラインを形成し、加工後測定工程では、複数の加工ラインを跨ぐように、第1の方向に沿って、測定光を測定対象面に照射し、該測定対象面における測定光の反射光を受光し検出することにより、第1の方向に沿った各領域における加工後変位を測定してもよい。
【0027】
加工前測定工程は、第1の方向に沿って、測定光を測定対象面に照射し、該測定対象面における測定光の反射光を受光し検出することにより第1の方向に沿った各領域における加工前変位を測定する第1加工前工程と、第1の方向に交差する第2の方向に沿って測定光を測定対象面に照射し、該測定対象面における測定光の反射光を受光し検出することにより第2の方向に沿った各領域における加工前変位を測定する第2加工前工程と、を含み、レーザ加工工程は、第2の方向に沿って、複数ライン分、ウエハにレーザ光を照射し複数の加工ラインを形成する第1加工工程と、第1の方向に沿って、複数ライン分、ウエハにレーザ光を照射し複数の加工ラインを形成する第2加工工程と、を含み、加工後測定工程は、第2の方向に沿った複数の加工ラインを跨ぐように、第1の方向に沿って測定光を測定対象面に照射し、該測定対象面における測定光の反射光を受光し検出することにより第1の方向に沿った各領域における加工後変位を測定する第1加工後工程と、第1の方向に沿った複数の加工ラインを跨ぐように、第2の方向に沿って測定光を測定対象面に照射し、該測定対象面における測定光の反射光を受光し検出することにより第2の方向に沿った各領域における加工前変位を測定する第2加工後工程と、を含み、第1加工後工程は、第2加工工程と共に実行されてもよい。
【0028】
加工前測定工程では、第1の方向に沿って、測定光を測定対象面に照射し、該測定対象面における測定光の反射光を受光し検出することにより、第1の方向に沿った各領域における加工前変位を測定し、レーザ加工工程では、第1の方向に沿ってウエハにレーザ光を照射し加工ラインを形成し、加工後測定工程では、加工ラインに沿って、測定光を測定対象面に照射し、該測定対象面における測定光の反射光を受光し検出することにより、加工ラインに沿った各領域における加工後変位を測定してもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ウエハの加工状態をより容易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】一実施形態の検査装置の構成図である。
図2】一実施形態のウエハの平面図である。
図3図2に示されるウエハの一部分の断面図である。
図4図1に示されるレーザ照射ユニットの構成図である。
図5図1に示される検査用撮像ユニットの構成図である。
図6図1に示されるアライメント補正用撮像ユニットの構成図である。
図7】亀裂の状態毎のウエハ断面を模式的に示す図である。
図8】検査工程を示す図である。
図9】推定結果の表示画面の一例である。
図10図8の検査工程(検査方法)のフローチャートである。
図11】変形例に係る検査方法のフローチャートである。
図12】変形例に係る表示画面の一例である。
図13】亀裂の状態毎のウエハ断面を模式的に示す図である。
図14】変形例に係る検査工程を示す図である。
図15図14の検査工程(検査方法)のフローチャートである。
図16】変形例に係る検査工程を示す図である。
図17図16の検査工程(検査方法)のフローチャートである。
図18】変形例に係る検査工程を示す図である。
図19】変形例に係る検査装置の構成の一部を模式的に示す図である。
図20】変形例に係る表示画面の一例である。
図21】変形例に係る表示画面の一例である。
図22】変形例に係る検査装置の構成の一部を模式的に示す図である。
図23】変形例に係る検査方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[検査装置の構成]
【0032】
図1に示されるように、検査装置1は、ステージ2と、レーザ照射ユニット3と、複数の撮像ユニット4,5,6と、駆動ユニット7と、制御部8と、ディスプレイ150(表示部)とを備えている。検査装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成する装置である。
【0033】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを吸着することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能であり、Z方向に平行な軸線を中心線として回転可能である。なお、X方向及びY方向は、互いに垂直な第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は、鉛直方向である。
【0034】
レーザ照射ユニット3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。
【0035】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延び易いという特性を有している。このような改質領域12の特性は、対象物11の切断に利用される。
【0036】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0037】
撮像ユニット4は、対象物11に形成された改質領域12、及び改質領域12から延びた亀裂の先端を撮像可能に構成されている。なお、撮像ユニット4については、必須の構成要素ではないが、本実施形態では検査装置1が撮像ユニット4を有しているとして説明する。
【0038】
撮像ユニット5及び撮像ユニット6は、制御部8の制御のもとで、ステージ2に支持された対象物11を、対象物11を透過する光により撮像する。撮像ユニット5,6が撮像することにより得られた画像は、一例として、レーザ光Lの照射位置のアライメントに供される。なお、撮像ユニット5,6については、必須の構成要素ではないが、本実施形態では検査装置1が撮像ユニット5,6を有しているとして説明する。
【0039】
駆動ユニット7は、レーザ照射ユニット3及び複数の撮像ユニット4,5,6を支持している。駆動ユニット7は、レーザ照射ユニット3及び複数の撮像ユニット4,5,6をZ方向に沿って移動させる。
【0040】
制御部8は、ステージ2、レーザ照射ユニット3、複数の撮像ユニット4,5,6、及び駆動ユニット7の動作を制御する。制御部8は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部8では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。
【0041】
ディスプレイ150は、ユーザから情報の入力を受付ける入力部としての機能と、ユーザに対して情報を表示する表示部としての機能とを有している。
【0042】
[対象物の構成]
本実施形態の対象物11は、図2及び図3に示されるように、ウエハ20である。ウエハ20は、半導体基板21と、機能素子層22と、を備えている。なお、本実施形態では、ウエハ20は機能素子層22を有するとして説明するが、ウエハ20は機能素子層22を有していても有していなくてもよく、ベアウエハであってもよい。半導体基板21は、表面21a及び裏面21bを有している。半導体基板21は、例えば、シリコン基板である。機能素子層22は、半導体基板21の表面21aに形成されている。機能素子層22は、表面21aに沿って2次元に配列された複数の機能素子22aを含んでいる。機能素子22aは、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。機能素子22aは、複数の層がスタックされて3次元的に構成される場合もある。なお、半導体基板21には、結晶方位を示すノッチ21cが設けられているが、ノッチ21cの替わりにオリエンテーションフラットが設けられていてもよい。
【0043】
ウエハ20は、複数のライン15のそれぞれに沿って機能素子22aごとに切断される。複数のライン15は、ウエハ20の厚さ方向から見た場合に複数の機能素子22aのそれぞれの間を通っている。より具体的には、ライン15は、ウエハ20の厚さ方向から見た場合にストリート領域23の中心(幅方向における中心)を通っている。ストリート領域23は、機能素子層22において、隣り合う機能素子22aの間を通るように延在している。本実施形態では、複数の機能素子22aは、表面21aに沿ってマトリックス状に配列されており、複数のライン15は、格子状に設定されている。なお、ライン15は、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。
【0044】
[レーザ照射ユニットの構成]
図4に示されるように、レーザ照射ユニット3は、光源31(レーザ照射部)と、空間光変調器32と、集光レンズ33と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。空間光変調器32は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。空間光変調器32は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。集光レンズ33は、空間光変調器32によって変調されたレーザ光Lを集光する。なお、集光レンズ33は、補正環レンズであってもよい。
【0045】
本実施形態では、レーザ照射ユニット3は、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウエハ20にレーザ光Lを照射することにより、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の内部に2列の改質領域12a,12bを形成する。改質領域12aは、2列の改質領域12a,12bのうち表面21aに最も近い改質領域である。改質領域12bは、2列の改質領域12a,12bのうち、改質領域12aに最も近い改質領域であって、裏面21bに最も近い改質領域である。
【0046】
2列の改質領域12a,12bは、ウエハ20の厚さ方向(Z方向)において隣り合っている。2列の改質領域12a,12bは、半導体基板21に対して2つの集光点C1,C2がライン15に沿って相対的に移動させられることにより形成される。レーザ光Lは、例えば集光点C1に対して集光点C2が進行方向の後側且つレーザ光Lの入射側に位置するように、空間光変調器32によって変調される。なお、改質領域の形成に関しては、単焦点であっても多焦点であってもよいし、1パスであっても複数パスであってもよい。
【0047】
レーザ照射ユニット3は、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウエハ20にレーザ光Lを照射する。一例として、厚さ775μmの単結晶シリコン基板である半導体基板21に対し、表面21aから54μmの位置及び128μmの位置に2つの集光点C1,C2をそれぞれ合わせて、複数のライン15のそれぞれに沿って半導体基板21の裏面21b側からウエハ20にレーザ光Lを照射する。このとき、例えば2列の改質領域12a,12bに渡る亀裂14が半導体基板21の表面21aに至る条件とする場合、レーザ光Lの波長は1099nm、パルス幅は700n秒、繰り返し周波数は120kHzとされる。また、集光点C1におけるレーザ光Lの出力は2.7W、集光点C2におけるレーザ光Lの出力は2.7Wとされ、半導体基板21に対する2つの集光点C1,C2の相対的な移動速度は800mm/秒とされる。
【0048】
このような2列の改質領域12a,12b及び亀裂14の形成は、次のような場合に実施される。すなわち、後の工程において、例えば、半導体基板21の裏面21bを研削することにより半導体基板21を薄化すると共に亀裂14を裏面21bに露出させ、複数のライン15のそれぞれに沿ってウエハ20を複数の半導体デバイスに切断する場合である。
【0049】
図4に示されるように、レーザ照射ユニット3は、AF(オートフォーカス)ユニット71(測定部,測定ユニット)を更に有している。AFユニット71は、ウエハ20における入射面である裏面21bに厚さ方向(Z方向)の変位(うねり)が存在する場合においても、裏面21bから所定距離の位置にレーザ光Lの集光点を精度良く合わせるための構成である。AFユニット71は、光源31によってウエハ20に照射されるレーザ光Lの集光点を調整するために、裏面21b(測定対象面)における変位を測定する。AFユニット71は、具体的には、AF用レーザ光LA(測定光)を裏面21bに照射すると共に、裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光を受光し検出することにより、裏面21bの変位データを取得する(変位を測定する)。
【0050】
AFユニット71は、AF用レーザ光LAを出力するAF用光源71aと、AF用レーザ光LAの反射光を受光し検出する変位検出部71bと、を有している。AF用光源71aから出射されたAF用レーザ光LAは、AF用ダイクロイックミラー72において反射され、集光レンズ33を経て裏面21bに照射される。このように、AF用レーザ光LAとレーザ光Lとは、同じ集光レンズ33からウエハ20に照射される(同軸である)。そして、裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光は、AF用ダイクロイックミラー72において反射され変位検出部71bに検出される。変位検出部71bは、例えば4分割フォトダイオードを含んで構成されている。4分割フォトダイオードは、AF用レーザ光LAの反射光の集光像を分割して受光し、それぞれの光量に応じた電圧値を出力する構成である。当該集光像は、AF用レーザ光LAの反射光に非点収差が付加されているため、AF用レーザ光LAの集光点に対してウエハ20の裏面21bがどの位置にあるかによって、形状(縦長、真円、横長)が変化する。すなわち、集光像は、集光点に対するウエハ20の裏面21bの位置に応じて変化する。そのため、4分割フォトダイオードから出力される電圧値は、AF用レーザ光LAの集光点に対するウエハ20の裏面21bの位置に応じて変化することとなる。
【0051】
変位検出部71bの4分割フォトダイオードから出力される電圧値は、制御部8に入力される。制御部8は、変位検出部71bの4分割フォトダイオードから出力された電圧値に基づいて、AF用レーザ光LAの集光点に対するウエハ20の裏面21bの位置に関する位置情報として演算値を演算する。そして、制御部8は、当該演算値に基づき、駆動ユニット7(アクチュエータ)を制御して、光源31から照射されるレーザ光Lの集光点の位置が裏面21bから一定の深さとなるように集光レンズ33の位置を上下方向に微調整する。このように、レーザ光Lによるレーザ加工と共に(レーザ加工に先行して)AFユニット71による測距結果に基づく制御が行われることにより、入射面である裏面21bにうねりが存在する場合においても、常に、裏面21bから所定距離の位置にレーザ光Lの集光点を精度良く合わせることができる。
【0052】
本実施形態では、AFユニット71は、ウエハ20の加工状態(亀裂状態)を推定する際に利用される裏面21b(測定対象面)の変位を測定する測定部としても機能する(詳細は後述)。
【0053】
[検査用撮像ユニットの構成]
図5に示されるように、撮像ユニット4(撮像部)は、光源41と、ミラー42と、対物レンズ43と、光検出部44と、を有している。撮像ユニット4はウエハ20を撮像する。光源41は、半導体基板21に対して透過性を有する光I1を出力する。光源41は、例えば、ハロゲンランプ及びフィルタによって構成されており、近赤外領域の光I1を出力する。光源41から出力された光I1は、ミラー42によって反射されて対物レンズ43を通過し、半導体基板21の裏面21b側からウエハ20に照射される。このとき、ステージ2は、上述したように2列の改質領域12a,12bが形成されたウエハ20を支持している。
【0054】
対物レンズ43は、半導体基板21の表面21aで反射された光I1を通過させる。つまり、対物レンズ43は、半導体基板21を伝搬した光I1を通過させる。対物レンズ43の開口数(NA)は、例えば0.45以上である。対物レンズ43は、補正環43aを有している。補正環43aは、例えば対物レンズ43を構成する複数のレンズにおける相互間の距離を調整することにより、半導体基板21内において光I1に生じる収差を補正する。なお、収差を補正する手段は、補正環43aに限られず、空間光変調器等のその他の補正手段であってもよい。光検出部44は、対物レンズ43及びミラー42を透過した光I1を検出する。光検出部44は、例えば、InGaAsカメラによって構成されており、近赤外領域の光I1を検出する。なお、近赤外領域の光I1を検出(撮像)する手段はInGaAsカメラに限られず、透過型コンフォーカル顕微鏡等、透過型の撮像を行うものであればその他の撮像手段であってもよい。
【0055】
撮像ユニット4は、2列の改質領域12a,12bのそれぞれ、及び、複数の亀裂14a,14b,14c,14dのそれぞれの先端を撮像することができる。亀裂14aは、改質領域12aから表面21a側に延びる亀裂である。亀裂14bは、改質領域12aから裏面21b側に延びる亀裂である。亀裂14cは、改質領域12bから表面21a側に延びる亀裂である。亀裂14dは、改質領域12bから裏面21b側に延びる亀裂である。
【0056】
[アライメント補正用撮像ユニットの構成]
図6に示されるように、撮像ユニット5は、光源51と、ミラー52と、レンズ53と、光検出部54と、を有している。光源51は、半導体基板21に対して透過性を有する光I2を出力する。光源51は、例えば、ハロゲンランプ及びフィルタによって構成されており、近赤外領域の光I2を出力する。光源51は、撮像ユニット4の光源41と共通化されていてもよい。光源51から出力された光I2は、ミラー52によって反射されてレンズ53を通過し、半導体基板21の裏面21b側からウエハ20に照射される。
【0057】
レンズ53は、半導体基板21の表面21aで反射された光I2を通過させる。つまり、レンズ53は、半導体基板21を伝搬した光I2を通過させる。レンズ53の開口数は、0.3以下である。すなわち、撮像ユニット4の対物レンズ43の開口数は、レンズ53の開口数よりも大きい。光検出部54は、レンズ53及びミラー52を通過した光I2を検出する。光検出部55は、例えば、InGaAsカメラによって構成されており、近赤外領域の光I2を検出する。なお、光検出部55は、SDカメラであってもよく、透過性を有しない光を検出するものであってもよい。
【0058】
撮像ユニット5は、制御部8の制御のもとで、裏面21b側から光I2をウエハ20に照射すると共に、表面21a(機能素子層22)から戻る光I2を検出することにより、機能素子層22を撮像する。また、撮像ユニット5は、同様に、制御部8の制御のもとで、裏面21b側から光I2をウエハ20に照射すると共に、半導体基板21における改質領域12a,12bの形成位置から戻る光I2を検出することにより、改質領域12a,12bを含む領域の画像を取得する。これらの画像は、レーザ光Lの照射位置のアライメントに用いられる。撮像ユニット6は、レンズ53がより低倍率(例えば、撮像ユニット5においては6倍であり、撮像ユニット6においては1.5倍)である点を除いて、撮像ユニット5と同様の構成を備え、撮像ユニット5と同様にアライメントに用いられる。
【0059】
[検査装置によるウエハの検査]
以下では、ウエハ20の切断等を目的として改質領域を形成する処理を実施する場合において、設定した加工条件でウエハ20のレーザ加工を行った際のウエハ20の加工状態(亀裂状態)を推定し、推定結果に基づき加工条件の適否(検査の合否)を判定する処理について説明する。本実施形態に係る検査装置1は、レーザ光が照射されたウエハの裏面21b(測定対象面)の変位をAFユニット71により測定し、測定した裏面21bの変位に基づいて、ウエハ20の加工状態を推定する。
【0060】
最初に、図7を参照して、加工状態(亀裂状態)の推定原理について説明する。図7は、レーザ加工後の亀裂の状態毎のウエハ20の断面(縦断面)を模式的に示す図である。図7(a)は、亀裂14がレーザ光Lの入射面である裏面21bには到達しておらず且つ反対側の面である表面21aに到達している「BHC(Bottom side half-cut)状態」を示している。図7(b)は、亀裂14が裏面21b及び表面21aのいずれにも到達していない「ST(Stealth)状態」を示している。図7(c)は、亀裂14が裏面21b及び表面21aのいずれにも到達している「FC(Full-cut)状態」を示している。図7(d)は、亀裂14が裏面21bに到達し且つ表面21aに到達していない「HC(Half-cut)状態」を示している。以下、各状態を、単に、BHC、ST、FC、HCと記載する。
【0061】
ここで、ウエハ20の亀裂状態は、レーザ加工後の入射面(裏面21b)における変位(凸凹形状)と相関性を有している。すなわち、BHCでは裏面21bが凹形状となり(図7(a)参照)、ST又はFCでは裏面21bが平坦(凹凸無し)となり(図7(b)及び図7(c)参照)、HCでは裏面21bが凸形状となる。このため、検査装置1は、AFユニット71によりレーザ加工後の裏面21bの変位を測定することにより、測定した箇所が、BHCであるか、ST(又はFC)であるか、HCであるかを推定することができる。なお、レーザ加工後の裏面21bにおける変位のみからは、ST及びFCを判別することができないが、後述するように、検査装置1は、撮像ユニット4,5,6において撮像される裏面21bの撮像結果に基づき、ST及びFCを判別することができる。図7(b)及び図7(c)から明らかなように、ST及びFCを判別するためにはウエハ20の内部の撮像結果までは必要とされずウエハ20の裏面21bの撮像結果がわかればよい。そのため、ST及びFCを判別する上においては、撮像ユニット4,5,6の光検出部はInGaAsカメラではなくSDカメラ等であってもよい。
【0062】
図8は、加工状態(亀裂状態)を推定する際の具体的な検査工程を示す図である。図8(a)に示されるように、最初に、レーザ加工によって形成される複数の加工ラインPLに交差(例えば直交)する方向(第1の方向)に沿って、レーザ加工前の各領域の変位(加工前変位)が測定される。つづいて、図8(b)に示されるように、ウエハ20が90°回転させられ、第1の方向に交差する方向(第2の方向)に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光Lが照射されて複数の加工ラインPLが形成される。この場合、複数の加工ラインPLは、例えば互いに異なる加工条件で加工される。そして、図8(c)に示されるように、ウエハ20が再度90°回転させられ(図8(a)と同じ向きにされ)、第1の方向に沿って、各領域の変位(加工後変位)が測定される。このような測定が行われた後に、検査装置1は、互いに対応する領域毎に加工後変位及び加工前変位の差分を導出する。これにより、各加工ラインPLについて、レーザ加工の影響による変位(裏面21bの凹凸形状)が導出される。検査装置1は、各加工ラインPLについての変位(裏面21bの凹凸形状)に基づいて、各加工ラインPLの加工状態(亀裂状態)を推定し、推定結果に基づいて、各加工ラインPLについて設定されていた加工条件の適否(検査の合否)を判定する。以下、当該検査工程における検査装置1の処理について、具体的に説明する。
【0063】
制御部8は、ウエハ20にレーザ光Lが照射されることによりウエハ20の内部に一又は複数の改質領域が形成されるように光源31を制御することと、レーザ光Lが照射された後の裏面21b(測定対象面)の変位である加工後変位が測定されるようにAFユニット71を制御することと、AFユニット71によって測定された加工後変位に基づき、ウエハ20の加工状態の推定に係る情報を導出することと、を実行する。制御部8は、導出したウエハ20の加工状態の推定に係る情報が表示されるように、ディスプレイ150を制御する。図9は、ディスプレイ150に表示される表示画面の一例である。加工状態の推定に係る情報とは、加工状態の推定結果そのものであってもよいし、加工状態を推定するための情報であってもよい。加工状態の推定結果そのものとは、例えば図9に示される「BHC」「ST」「HC」等の情報である。加工状態を推定するための情報とは、例えばディスプレイ150に表示されたその情報に基づきユーザが加工状態(BHC等)を推定することが可能になる情報であり、例えば図9に示される裏面21bにおける変位量を示す情報である。本実施形態では、制御部8が、加工状態を推定するための情報だけでなく、加工状態の推定結果そのものも導出し、いずれの情報もディスプレイ150に表示されるとして説明するが、制御部8が加工状態を推定するための情報のみを導出しディスプレイ150が加工状態を推定するための情報のみを表示してもよい。
【0064】
制御部8は、詳細には、裏面21bの領域毎に、AFユニット71によって測定された加工後変位と基準変位との差分を導出し、該差分に基づき、ウエハ20の加工状態を推定する。このように、加工後変位と基準変位との差分が導出されることにより、レーザ加工の影響による裏面21bの変位(凹凸状態の変化)がより正確に導出される。基準変位は、例えば裏面21bの各領域の加工前の変位が予め把握されている場合には、当該予め把握されている加工前の変位であってもよい。本実施形態では、制御部8は、レーザ加工前において実際に測定された加工前変位を基準変位とする。すなわち、制御部8は、レーザ光が照射される前の裏面21bの変位である加工前変位が更に測定されるようにAFユニット71を制御し(図8(a)参照)、当該加工前変位を基準変位として、ウエハ20の加工状態を推定する。すなわち、制御部8は、AFユニット71によって測定された加工後変位(図8(c)参照)とAFユニット71によって測定された加工前変位(図8(b)参照)との差分を導出し、該差分に基づき、ウエハ20の加工状態を推定する。
【0065】
制御部8は、測定対象面の各領域における加工後変位及び加工前変位の差分に基づいて、各領域に関して、レーザ光Lが照射されることによりウエハ20の内部に形成される改質領域から延びる亀裂14の状態を推定する。ここでの各領域とは、図8(b)に示される各加工ラインPLである。
【0066】
制御部8は、上記差分の絶対値がある閾値(第1閾値)よりも大きい領域については、BHC或いはHCであると推定し、差分の絶対値が上記閾値(第1閾値)以下である領域については、ST或いはFCであると推定してもよい。このように制御部8は、差分の絶対値に基づいて、各領域の亀裂状態を推定してもよい。また、制御部8は、周囲の領域との上記差分の絶対値の差が閾値(第2閾値)よりも大きい領域については、BHC或いはHCであると推定し、周囲の領域との上記差分の絶対値の差が上記閾値(第2閾値)以下である領域については、ST或いはFCであると推定してもよい。
【0067】
制御部8は、図8に示される検査工程で検査が実施されるように、各構成を制御する。制御部8は、図8(a)に示されるように、第1の方向の照射ラインAL1に沿って裏面21bにAF用レーザ光LAが照射され該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって第1の方向に沿った各領域における加工前変位が測定されるように、AFユニット71を制御する。AFユニット71は、AF用レーザ光LAを裏面21bに照射すると共に裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光を受光し検出することにより、照射ラインAL1の各領域における裏面21bの変位データを取得し、該変位データ(電圧値)を制御部8に出力する。また、AFユニット71は、AF用レーザ光LAの反射光を受光し検出した全光量を示す情報(電圧値)を制御部8に出力する。
【0068】
つづいて、制御部8は、図8(b)に示されるように、第1の方向に交差する第2の方向に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光Lが照射されて複数の加工ラインPLが形成されるように、光源31を制御する。つづいて、制御部8は、図8(c)に示されるように、複数の加工ラインPLを跨ぐように、第1の方向の照射ラインAL2に沿って裏面21bにAF用レーザ光LAが照射され該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって第1の方向に沿った各領域における加工後変位が測定されるように、AFユニット71を制御する。AFユニット71は、照射ラインAL2の各領域における裏面21bの変位データを取得し、該変位データ(電圧値)を制御部8に出力する。また、AFユニット71は、AF用レーザ光LAの反射光を受光し検出した全光量を示す情報(電圧値)を制御部8に出力する。なお、照射ラインAL1及びAL2は、互いに対応する領域を有していれば、必ずしも領域が一致していなくてもよい。すなわち、加工後変位測定時の照射ラインAL2は、加工前変位測定時の照射ラインAL1と完全に重なっていてもよいし、一部重なっていてもよいし、互いに対応する(ある程度互いに近接している)ものの重なっていなくてもよい。最後に、制御部8は、照射ラインAL1及びAL2の互いに対応する領域毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する亀裂状態を推定する。具体的には、制御部8は、各加工ラインPL毎に亀裂状態を推定する。
【0069】
上述した各加工ラインPL毎の亀裂状態の推定を行うためには、制御部8は、照射ラインAL1,AL2にAF用レーザ光LAが照射されることにより得られる、裏面21bの変位データ(変位を示す信号)が、いずれの加工ラインPLに対応する変位データであるかを特定する必要がある。制御部8は、ウエハ端特定処理、及び、加工ライン特定処理を行うことにより、変位データと加工ラインPLとの紐づけを行い、加工ラインPL毎の亀裂状態の推定を実現している。以下、ウエハ端特定処理、及び、加工ライン特定処理について、図9を参照して説明する。
【0070】
図9において、横軸は時間を示しており、左縦軸はAFユニット71において検出される全光量に対応する電圧値を示しており、右縦軸はレーザ加工後における裏面21bの変位データとレーザ加工前における裏面21bの変位データとの差分(詳細には、差分の30区間移動平均)を示す変位量に対応する電圧値を示している。図9において、全光量は実線で示されており、変位量は点線で示されている。制御部8は、まず、全光量の2つの変化点をウエハ20の両端部であると特定するウエハ端特定処理を行う。これは、ウエハ20にAF用レーザ光LAが照射されていない状態においてはその反射光が検出されないのに対してウエハ20にAF用レーザ光LAが照射されている状態においてはその反射光が検出されることとなるため、検出される全光量からウエハ端が特定できるものである。なお、制御部8は、変位量が一定値でなくなる2つの点をウエハ20の両端部であると特定してもよい。ウエハ20の端部の位置が特定されるため、照射ラインAL1の変位データ(レーザ加工前の変位データ)及び照射ラインAL2の変位データ(レーザ加工後の変位データ)の互いに対応する時間の変位データの差分が導出されることにより、図9に示される差分を示す変位量のデータが得られる。つづいて、制御部8は、加工インデックスとAFユニット71の走査速度とから、加工ラインPLの変位データを特定する加工ライン特定処理を行う。いま、例えば加工インデックスが5mmであり、AFユニット71の走査速度が5mm/secであるとすると、各加工ラインPLの変位データの間隔が1secであると特定される。この場合、図9に示されるように、ウエハ端から1sec、2sec、3sec、4sec、5sec、6sec…の変位データが各加工ラインPLの変位データであると特定される。ここまでの処理により、加工ラインPL毎の変位データの差分(変位量)が特定される。
【0071】
制御部8は、変位データの差分(変位量)の絶対値がある閾値(第1閾値)よりも大きい加工ラインPLについてBHC或いはHCであると推定し、変位量の絶対値が第1閾値以下である加工ラインPLについてST或いはFCであると推定してもよい。いま、例えば図9に示される例では、上記第1閾値が0.04Vとされている。このため、図9に示されるように、変位データの差分(変位量)の絶対値が0.04Vよりも大きい1secの加工ラインPL、2secの加工ラインPL、及び6secの加工ラインPLが、BHC或いはHCであると推定される。さらに、BHCでは裏面21bが凹形状となる(図7(a)参照)のに対して、HCでは裏面21bが凸形状となるため、変位量の正負は互いに逆になる。いま、予め、BHCの場合は変位量が負、HCの場合が変位量が正になるように設定されているとする。この場合、図9に示されるように、変位量の絶対値が0.04Vよりも大きく且つ変位量が負の値である1secの加工ラインPL及び2secの加工ラインPLがBHCであると推定される。また、変位量の絶対値が0.04Vよりも大きく且つ変位量が正の値である6secの加工ラインPLがHCであると推定される。そして、変位データの差分(変位量)の絶対値が0.04V以下である3secの加工ラインPL、4secの加工ラインPL、及び5secの加工ラインPLが、ST或いはFCであると推定される。さらに、制御部8は、いずれかの撮像ユニット4,5,6において撮像される裏面21bの撮像結果に基づき、ST及びFCを判別することができる。図9に示される例では、3secの加工ラインPL、4secの加工ラインPL、及び5secの加工ラインについてSTであると推定されている。
【0072】
また、制御部8は、周囲の領域との変位データの差分(変位量)の絶対値の差が閾値(第2閾値)よりも大きい加工ラインPLについてBHC或いはHCであると推定し、周囲の領域との変位量の絶対値の差が第2閾値以下である加工ラインPLについてST或いはFCであると推定してもよい。ここでの周囲の領域の変位量とは、例えば、加工ラインPL以外の(加工ラインPL間の)領域の変位量である。このような領域は、レーザ加工されていないため、変位データの差分(変位量)が小さくなる。このような処理によっても、図9に示されるように、周囲の領域との変位量の絶対値の差が大きい1secの加工ラインPL、2secの加工ラインPL、及び6secの加工ラインPLが、BHC或いはHCであると推定され、周囲の領域との変位量の絶対値の差が小さい3secの加工ラインPL、4secの加工ラインPL、及び5secの加工ラインPLが、ST或いはFCであると推定される。
【0073】
以上の処理により、制御部8は、加工ラインPL毎の加工状態(亀裂状態)を推定し、該推定結果をディスプレイ150に表示させる。そして、制御部8は、各加工ラインPLの亀裂状態に基づき、加工の合否(加工条件の適否)を判定する。各加工ラインPLの亀裂状態が想定どおり(検査条件どおり)である場合には、加工条件が適切であるとして、検査合格となる。一方で、亀裂状態が想定どおりでない加工ラインPLが存在する場合には、制御部8は、検査不合格と判定し、加工条件を補正する処理を行い、再度検査を実行する。加工条件の補正とは、例えば光源31の出力の補正、レーザパラメータの補正、各種収差の補正、CP値の補正等である。
【0074】
[検査方法]
本実施形態の検査方法について、図10を参照して説明する。図10は、図8の検査工程(検査方法)のフローチャートである。
【0075】
図10に示されるように、最初に、ディスプレイ150によって検査条件の選択入力が受け付けられ、検査条件が選択される(ステップS1)。検査条件としては、例えば複数の加工ラインPL毎に、改質領域の形成位置、改質領域の下端距離、亀裂状態等が設定される。そして、当該検査条件に示された加工が可能になるように、加工条件が設定される。加工条件とは、例えば、光源31の出力、レーザパラメータ、各種収差の補正、CP値等である。
【0076】
つづいて、撮像ユニット5,6が制御されることによりレーザ光Lの照射位置に関するアライメント処理が実施されると共に、レーザ加工を行う際の加工深さ(高さ)であるZハイトをセットするハイトセット処理が実施される(ステップS2)。
【0077】
つづいて、図8(a)に示されるように、AF用レーザ光LAが裏面21bに照射されると共に裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出され、第1の方向に沿った照射ラインAL1の各領域における裏面21bの変位データである加工前AF波形が取得される(ステップS3)。
【0078】
つづいて、図8(b)に示されるように、ステージ2が回転することによりウエハ20が90°回転し(ステップS4)、第1の方向に交差する方向(第2の方向)に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光Lが照射されて複数の加工ラインPLが形成される(ステップS5)。
【0079】
つづいて、図8(c)に示されるように、ステージ2が回転することによりウエハ20が90°回転し図8(a)と同じ向きになり(ステップS6)、AF用レーザ光LAが裏面21bに照射されると共に裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出され、第1の方向に沿った照射ラインAL2の各領域における裏面21bの変位データである加工後AF波形が取得される(ステップS7)。
【0080】
つづいて、検査装置1では、各種信号処理が実行されて、各加工ラインPLの加工状態が推定され、推定結果がディスプレイ150に表示される(ステップS8)。具体的には、検査装置1は、ウエハ端特定処理、加工ライン特定処理を行った後に、各加工ラインPLについて裏面21bの変位データの差分(変位量)に基づき亀裂状態を推定する。
【0081】
そして、各加工ラインPLの亀裂状態に基づき、検査の合否(加工条件の適否)が判定される(ステップS9)。検査が合格である場合には処理が終了する。一方で、亀裂状態が想定どおりでない加工ラインPLが存在し、検査が不合格である場合には、加工条件を補正する補正処理が実行され(ステップS10)、新たな加工条件で、再度ステップS1からの処理が実行される。
【0082】
[作用効果]
次に、本実施形態に係る検査装置1の作用効果について説明する。
【0083】
検査装置1は、ウエハ20にレーザ光を照射する光源31と、ウエハ20におけるレーザ光Lの入射面である裏面21b(測定対象面)の変位を測定する測定部としてのAFユニット71と、ウエハ20にレーザ光Lが照射されることによりウエハ20の内部に一又は複数の改質領域が形成されるように光源31を制御することと、レーザ光Lが照射された後の裏面21bの変位である加工後変位が測定されるようにAFユニット71を制御することと、AFユニット71によって測定された加工後変位に基づき、ウエハ20の加工状態の推定に係る情報を導出することと、を実行するように構成された制御部8と、を備えている。
【0084】
本実施形態に係る検査装置1では、レーザ光Lが照射されるウエハ20における裏面21b(測定対象面)の加工後変位が測定され、該加工後変位に基づいて、ウエハ20の加工状態の推定に係る情報が導出される。上述したように、裏面21bにおける加工後変位(凹凸形状)とウエハ20の加工状態とは、相関性を有している。そのため、加工後変位に基づきウエハ20の加工状態の推定に係る情報が導出されることにより、当該推定に係る情報に基づいて、ウエハ20の加工状態を適切に推定することができる。そして、裏面21b(測定対象面)の加工後変位を測定する処理は、例えば、赤外線カメラ等によるウエハ20の内部観察によってウエハ20の加工状態(亀裂状態)を特定する処理と比べて極めて容易である。このため、本実施形態に係る検査装置1によれば、ウエハ20の加工状態をより容易に推定することができる。
【0085】
検査装置1は、ディスプレイ150を備えており、制御部8は、導出したウエハ20の加工状態の推定に係る情報が表示されるように、ディスプレイ150を制御する。制御部8によって導出されたウエハの加工状態の推定に係る情報がディスプレイ150に表示されることにより、例えば、加工状態の推定に係る情報として加工状態を推定するための情報を表示した場合には、ユーザが、表示内容に基づいて、ウエハ20の加工状態を容易に推定することができる。また、加工状態の推定に係る情報として加工状態の推定結果そのものを表示した場合には、加工状態の推定結果の妥当性をユーザに確認させることができる。
【0086】
AFユニット71は、AF用レーザ光LAを裏面21bに照射すると共に、裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光を受光し検出することにより裏面21bにおける変位を測定する。このような構成によれば、簡易な構成及び処理によって、裏面21bにおける変位を高精度に測定することができる。
【0087】
また、検査装置1では、裏面21bにおける変位を測定する測定ユニットが、光源31によってウエハ20に照射されるレーザ光Lの集光点を調整するために裏面21bにおける変位を測定するAFユニット71であることにより、ウエハ20に対してレーザ照射を行う検査装置において通常設けられているオートフォーカスユニットを利用して、裏面21bにおける変位を測定することができる。すなわち、本構成によれば、オートフォーカスユニットを利用して裏面21bの変位(凸凹形状)を測定し、該変位に基づいて、ウエハ20の加工状態を容易に推定することができる。
【0088】
制御部8は、裏面21bの領域毎に、AFユニット71によって測定された加工後変位と基準変位との差分を導出し、該差分に基づき、ウエハ20の加工状態の推定に係る情報を導出する。加工後変位と基準変位との差分は、加工の影響による変位量をより正確に示すものである。このため、当該差分に基づき加工状態の推定に係る情報が導出されることによって、ウエハ20の加工状態をより正確に推定することができる。
【0089】
制御部8は、レーザ光Lが照射される前の裏面21bの変位である加工前変位が更に測定されるようにAFユニット71を制御し、加工前変位を基準変位として、ウエハ20の加工状態の推定に係る情報を導出する。このように、レーザ光Lが照射される前の裏面21bの変位である加工前変位が実際に測定されて、該加工前変位が基準変位とされることにより、加工後変位と基準変位との差分が、加工の影響による変位量をより正確に示すものとなる。このため、当該差分に基づき加工状態の推定に係る情報が導出されることによって、ウエハ20の加工状態をより正確に推定することができる。
【0090】
制御部8は、上記差分に基づいて、レーザ光Lが照射されることによりウエハ20の内部に形成される改質領域から延びる亀裂14の状態を推定する。加工後変位及び基準変位の差分(レーザ加工後の裏面21bにおける変位)と改質領域から延びる亀裂の状態とには、相関性がある。このため、差分に基づいて亀裂の状態を推定することにより、亀裂の状態(すなわちウエハ20の加工状態)を高精度に推定することができる。
【0091】
制御部8は、差分の絶対値が第1閾値よりも大きい領域については、BHC或いはHCであると推定し、差分の絶対値が第1閾値以下である領域については、ST或いはFCであると推定する。本発明者らは、加工後変位及び基準変位の差分の絶対値(レーザ加工後の測定対象面における変位)が大きい領域については、亀裂14が入射面及び反対側の面のいずれか一方のみに到達している状態(いわゆるBHC又はHCの状態)となっており、上記差分が小さい領域については、亀裂14が入射面及び反対側の面のいずれにも到達していない状態(いわゆるSTの状態)か或いは亀裂14が入射面及び反対側の面のいずれにも到達している状態(いわゆるFCの状態)となっていることを見出した。このような考えに基づき、差分がある閾値(第1閾値)よりも大きいか否かに応じて亀裂14の状態が推定されることにより、亀裂14の状態(すなわちウエハ20の加工状態)をより高精度に推定することができる。
【0092】
制御部8は、周囲の領域との上記差分の絶対値の差が第2閾値よりも大きい領域については、BHC或いはHCと推定し、差分の絶対値の差が第2閾値以下である領域については、ST或いはHCであると推定してもよい。差分に基づき亀裂14の状態を推定するに際しては、差分の絶対値から判断するよりも、差分の絶対値の周囲との差から判断する(相対値から判断する)ほうが容易且つ正確である場合がある。このような考えに基づき、周囲の領域との差分の差がある閾値(第2閾値)よりも大きいか否かに応じて亀裂14の状態が推定されることにより、亀裂14の状態(すなわちウエハ20の加工状態)をより高精度且つ容易に推定することができる。
【0093】
制御部8は、第1の方向に沿って裏面21bにAF用レーザ光LAが照射され、該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって第1の方向に沿った各領域における加工前変位が測定されるように、AFユニット71を制御し、第1の方向に交差する第2の方向に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光が照射されて複数の加工ラインPLが形成されるように、光源31を制御し、複数の加工ラインPLを跨ぐように、第1の方向に沿ってAF用レーザ光LAが裏面21bに照射され、該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって第1の方向に沿った各領域における加工後変位が測定されるように、AFユニット71を制御し、互いに対応する領域毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する加工状態の推定に係る情報を導出する。このように、複数の加工ラインPLを跨ぐ方向(第1の方向)に沿った各領域について加工後変位及び加工前変位が測定され、領域毎に加工後変位及び加工前変位の差分が導出されることにより、複数の加工ラインPLそれぞれにおけるレーザ加工後の変位の程度を特定し、複数の加工ラインPLそれぞれの加工状態を適切に推定することができる。このような構成によれば、例えば複数の加工ラインPLの検査条件を互いに異ならせておき、それぞれの検査条件における加工状態を推定することにより、効率的に、加工条件の適否を判定することができる。そして、複数の加工ラインPLの変位の程度が特定されることにより、異なる加工ラインPL同士の変位を比較することによって、絶対的な変位量だけでなく、他の加工ラインと比較した変位量の相対的な情報に基づき、容易且つ正確に、複数の加工ラインPLそれぞれの加工状態を推定することができる。
【0094】
制御部8は、所定の加工条件に基づいて加工制御を行い、ウエハ20の加工状態の推定に係る情報に基づき、加工の合否を判定し、判定結果が不合格である場合には、加工条件を補正してもよい。このような構成によれば、ウエハ20の加工状態の推定結果を考慮して加工条件を変更することができ、加工条件の適正化までを一元的且つ自動的に実施することができる。
【0095】
[変形例]
以上、本実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、検査の合否を判定し必要に応じて加工条件の補正を行うとして説明したが、検査装置1は加工条件の補正を行わずに、単に加工状態の推定結果をディスプレイ150に表示するものであってもよい。また、検査装置1は、加工状態の推定に係る情報を導出するまでの処理のみを行い、ディスプレイ150に推定結果等を表示するものでなくてもよい。
【0096】
また、検査装置1においては、上述したとおり、InGaAsカメラ等のウエハ20に対して透過性を有する光を検出するカメラを用いることなく、ウエハ20におけるレーザ光の入射面の変位から加工状態(亀裂状態)を推定することができるが、更に、InGaAsカメラ等のウエハ20に対して透過性を有する光を検出するカメラを含んで構成された撮像ユニット4の機能を利用することによって、より詳細にウエハ20の加工状態を推定することができる。すなわち、検査装置1は、ウエハ20に対して透過性を有する光を出力し、ウエハ20を伝搬した光を検出する撮像ユニット4を備え、制御部8は、光を検出した撮像ユニット4から出力される信号を更に考慮して、亀裂14の状態を推定してもよい。この場合、検査装置1は、撮像ユニット4を利用して、ウエハ20の内部観察結果から、より詳細なウエハ20の加工状態を推定することができる。検査装置1は、例えば、入射面の変位からBHCであると推定された複数の加工ラインPLのうち、検査条件において改質領域の形成位置が最も浅い位置とされている加工ラインPL(すなわち、BHCとSTとの境界である加工ラインPL)のみ、InGaAsカメラにより改質領域の位置及び亀裂14の長さを計測することにより、内部観察を行う加工ラインPLを少なくし大幅にタクトを短縮しつつ、検査の正確性を担保することができる。
【0097】
図11は、InGaAsカメラによる内部観察結果を更に考慮する場合の検査方法のフローチャートである。図11に示されるステップS101~ステップS108は、上述した図10のステップS1~ステップS8と同様である。ステップS108に続き、検査装置1では、特定の加工ラインPL(例えば最も浅い位置でBHCとなっている加工ラインPL)のみ、InGaAsカメラによる内部観察を行う(ステップS109)。そして、検査装置1では、InGasカメラによる内部観察結果もさらに考慮されて、各加工ラインPLの亀裂状態に基づき、検査の合否(加工条件の適否)が判定される(ステップS110)。その後の補正処理(ステップS111)については、図10のステップS10の処理と同様である。
【0098】
また、上記実施形態では、加工後変位と加工前変位との差分を導出し該差分に基づきウエハ20の加工状態の推定に係る情報を導出するとして説明したがこれに限定されず、例えば加工後変位のみからウエハ20の加工状態(詳細には亀裂状態)の推定に係る情報を導出してもよい。図12は、加工後変位のみからウエハ20の亀裂状態を推定する場合においてディスプレイ150に表示される表示画面の一例である。上述した図9の例では、加工後変位と加工前変位との差分が変位量として示されていたのに対して、図12の例では、加工後変位が変位量として示されている。このように、加工後変位のみが変位量として表示される場合であっても、例えば加工前のウエハ20がある程度平坦であることが担保できる場合には、表示された状態に基づき、高精度にウエハ20の亀裂状態を推定することができる。なお、図9に示される例では、ディスプレイ150に亀裂状態の推定結果そのもの(BHC等)が表示されていたが、図12に示されるように、ユーザが加工状態(亀裂状態)を推定するための情報のみが導出されてディスプレイ150に表示されていてもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、ウエハ20の亀裂状態とレーザ加工後の入射面(裏面21b)における変位(凸凹形状)とが相関性を有している(図7参照)として、レーザ加工後の裏面21bの変位を測定することによりウエハ20の亀裂状態を推定するとして説明したが、これに限定されず、例えば、レーザ加工後における入射面の反対側の面(表面21a)の変位を測定することによりウエハ20の亀裂状態を推定してもよい。すなわち、検査装置1は、ウエハ20におけるレーザ光Lの入射面の反対側の面である表面21aを測定対象面として、該表面21aの変位を測定し、該変位に基づきウエハ20の亀裂状態を推定してもよい。図13は、レーザ加工後の亀裂の状態毎のウエハ20の断面(縦断面)を模式的に示す図である。図13(a)はBHC、図13(b)はST、図13(c)はFC、図13(d)はHCの各状態を示している。図13(a)に示されるようにBHCでは表面21aが凸形状となり、図13(b)及び図13(c)に示されるようにST及びFCでは表面21aが平坦(凹凸無し)となり、図13(d)に示されるようにHCでは表面21aが凹形状となる。このように、ウエハ20の亀裂状態とレーザ加工後の表面21aにおける変位(凸凹形状)とは、相関性を有している。このため、検査装置1は、AFユニット71によりレーザ加工後の表面21aの変位を測定することによっても、測定した箇所が、BHCであるか、ST(又はFC)であるか、HCであるかを推定することができる。
【0100】
また、加工状態(亀裂状態)を推定する具体的な検査工程として図8及び図10に示されるように加工前変位の測定、ウエハ20の90°回転、レーザ加工、ウエハ20の90°回転、加工後変位の測定、亀裂状態の推定を順次行う例を説明したが、亀裂状態を推定する検査工程はこれに限定されない。図14は変形例に係る検査工程を示す図である。図14に示される検査方法では、最初に、第1の方向の照射ラインAL1に沿ってレーザ加工前変位が測定され(図14(a))、つづいて、レーザ加工(CH1)によって第1の方向に交差する第2の方向に複数の加工ラインPL1が形成されると共に、レーザ加工(CH2)によって第1の方向に複数の加工ラインPL2が形成され(図14(b))、つづいて、第1の方向の照射ラインAL2に沿ってレーザ加工後変位が測定される(図14(c))。照射ラインAL1及び照射ラインAL2は、例えば互いに完全に重なるラインであり、複数の加工ラインPL2とは重ならないラインである。このような測定が行われた後に、検査装置1は、加工ラインPL1毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出する。これにより、各加工ラインPL1について、レーザ加工の影響による変位(裏面21bの凹凸形状)が導出される。検査装置1は、各加工ラインPL1についての変位(裏面21bの凹凸形状)に基づいて、各加工ラインPL1の加工状態(亀裂状態)を推定し、推定結果に基づいて、各加工ラインPL1について設定されていた加工条件の適否(検査の合否)を判定する。なお、図14に示される例では、第1の方向の照射ラインAL1,AL2に沿った変位のみが測定されているため、複数の加工ラインPL1の加工状態のみが推定されているが、第2の方向の照射ラインの加工前後の変位が測定されることにより、複数の加工ラインPL2の加工状態についても推定することができる。
【0101】
図15は、図14の検査工程(検査方法)のフローチャートである。図15に示されるステップS201及びステップS202は、上述した図10のステップS1及びステップS2と同様である。ステップS202に続き、検査装置1では、図14(a)に示されるように、AF用レーザ光LAが裏面21bに照射されると共に裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出され、第1の方向に沿った照射ラインAL1の各領域における裏面21bの変位データである加工前AF波形が取得される(ステップS203)。つづいて、図14(b)に示されるように、第1の方向に交差する方向(第2の方向)に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光L(CH1)が照射されて複数の加工ラインPL1が形成されると共に、第1の方向に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光L(CH2)が照射されて複数の加工ラインPL2が形成される(ステップS204)。つづいて、図14(c)に示されるように、AF用レーザ光LAが裏面21bに照射されると共に裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出され、第1の方向に沿った照射ラインAL2の各領域における裏面21bの変位データである加工後AF波形が取得される(ステップS205)。その後のステップS206~ステップS208は、上述した図10のステップS8~ステップS10と同様である。
【0102】
図16は、別の変形例に係る検査工程を示す図である。図16に示される検査方法では、互いに対向する複数の加工ラインPL1,PL2が形成される場合において、互いに対向する複数の加工ラインPL1,PL2それぞれについて、変位が導出されて加工状態(亀裂状態)が推定される。当該検査方法では、最初に、第1の方向の照射ラインAL11に沿ってレーザ加工前変位が測定され、また、第1の方向に交差する第2の方向の照射ラインAL21に沿ってレーザ加工前変位が測定される(図16(a))。つづいて、レーザ加工(CH1)によって第2の方向に複数の加工ラインPL1が形成される(図16(b)参照)。つづいて、レーザ加工(CH2)によって第1の方向に複数の加工ラインPL2が形成されると共に(加工ラインPL2の形成と同時に)第1の方向の照射ラインAL12に沿ってレーザ加工後変位が測定される(図16(c))。最後に、第2の方向の照射ラインAL22に沿ってレーザ加工後変位が測定される(図16(d)参照)。照射ラインAL11及び照射ラインAL12は例えば互いに完全に重なるラインであり、照射ラインAL21及び照射ラインAL22は例えば互いに完全に重なるラインである。また、照射ラインAL11及び照射ラインAL12は複数の加工ラインPL2のいずれかと重なっており、照射ラインAL21及び照射ラインAL22は複数の加工ラインPL1のいずれとも重なっていない。このような測定が行われた後に、検査装置1は、各加工ラインPL1,PL2について、加工後変位及び加工前変位の差分を導出する。これにより、各加工ラインPL1,PL2について、レーザ加工の影響による変位(裏面21bの凹凸形状)が導出される。検査装置1は、各加工ラインPL1,PL2についての変位(裏面21bの凹凸形状)に基づいて、各加工ラインPL1,PL2の加工状態(亀裂状態)を推定し、推定結果に基づいて、各加工ラインPL1,PL2について設定されていた加工条件の適否(検査の合否)を判定する。
【0103】
上述した処理が行われる場合、制御部8は、第1の方向の照射ラインAL11に沿って裏面21bにAF用レーザ光LAが照射され、該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって照射ラインAL11に沿った各領域における加工前変位が測定されるように、AFユニット71を制御し、第1の方向に交差する第2の方向の照射ラインAL21に沿って裏面21bにAF用レーザ光LAが照射され、該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって照射ラインAL21に沿った各領域における加工前変位が測定されるように、AFユニット71を制御し、第2の方向に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光L(CH1)が照射されて複数の加工ラインPL1が形成されるように、光源31を制御し、第1の方向に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光(CH2)が照射されて複数の加工ラインPL2が形成されるように、光源31を制御することと、第2の方向に沿った複数の加工ラインPL1を跨ぐように第1の方向の照射ラインAL12に沿って裏面21bにAF用レーザ光LAが照射され、該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって第1の方向の照射ラインAL12に沿った各領域における加工後変位が測定されるように、AFユニット71を制御することと、を共に実施し、第1の方向に沿った複数の加工ラインPL2を跨ぐように第2の方向の照射ラインAL22に沿って裏面21bにAF用レーザ光LAが照射され、該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって第2の方向の照射ラインAL22に沿った各領域における加工後変位が測定されるように、AFユニット71を制御し、第1の方向に沿った互いに対応する領域毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する加工状態の推定に係る情報を導出し、第2の方向に沿った互いに対応する領域毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する加工状態の推定に係る情報を導出する。
【0104】
このような構成によれば、互いに交差する方向それぞれに複数の加工ラインPL1,PL2が形成される場合(加工ラインが格子状に形成される場合)においても、加工状態の推定に係る情報が適切に導出される。すなわち、第1の方向に沿って形成される複数の加工ラインPL2を跨ぐ方向(第2の方向)に沿った各領域について加工後変位及び加工前変位が測定され、領域毎に加工後変位及び加工前変位の差分が導出されることにより、第1の方向に沿って形成される複数の加工ラインPL2それぞれの加工状態を適切に推定することができる。また、第2の方向に沿って形成される複数の加工ラインPL1を跨ぐ方向(第1の方向)に沿った各領域について加工後変位及び加工前変位が測定され、領域毎に加工後変位及び加工前変位の差分が導出されることにより、第2の方向に沿って形成される複数の加工ラインPL1それぞれの加工状態を適切に推定することができる。そして、第1の方向に沿った複数の加工ラインPL2の形成と、第1の方向に沿った(第2の方向に沿った複数の加工ラインを跨ぐ)各領域における加工後変位の測定とは、同一の方向に沿った処理であるため同時に実行することが可能であるところ(図16(c))、これらの処理が共に(同時に)実行されることにより、処理効率を大幅に向上させることができる。
【0105】
上記処理において、制御部8は、加工後変位の測定のために第1の方向に沿って照射されるAF用レーザ光LAの照射ラインAL12と第1の方向に沿った前記複数の加工ラインPL2のいずれかとが重なるように、AFユニット71及び光源31を制御し、加工後変位の測定のために第2の方向に沿って照射されるAF用レーザ光LAの照射ラインAL22と第2の方向に沿った前記複数の加工ラインPL1とが重ならないように、AFユニット71及び光源31を制御してもよい。いま、加工後変位を高精度に測定するためには、加工後変位を測定したい対象の加工ラインとは加工方向が異なる加工ラインの影響を排除したい。すなわち、ある方向に沿った複数の加工ラインに関して加工後変位を測定する場合においては、当該ある方向とは異なる方向に沿った加工ラインの影響を排除したい。この場合、ある方向に沿った複数の加工ラインを跨ぐように当該ある方向と異なる方向に沿って照射されるAF用レーザ光LAの照射ラインが、当該ある方向と異なる方向に沿った加工ラインと重ならないことが必要になる。この点、第2の方向に沿ったAF用レーザ光LAの照射ラインAL22と第2の方向に沿った複数の加工ラインPL1とが重なっていないことにより、第1の方向に沿った複数の加工ラインPL2に関する加工後変位を高精度に測定することができる。ここで、上述したように、本処理では、第2の方向に沿った加工ラインPL1が形成された後において、第1の方向に沿った加工ラインPL2の形成及び第1の方向に沿った加工後変位の測定が共に実行されている(図16(b)及び図16(c))。このように、同一方向に沿って、加工ラインの形成及び加工後変位の測定が共に実行される場合においては、加工ライン及び変位測定のためのAF用レーザ光LAの照射ラインが重なっていても、変位測定のためのAF用レーザ光LAの照射を加工ラインの形成に先行して実行する(共に実行しつつ、AF用レーザ光LAの照射が加工ラインの形成よりも先行するように制御する)ことにより、新たに形成する加工ラインの影響を受けずに、形成済みの加工ラインの加工後変位を測定することができる。すなわち、本処理においては、第1の方向に沿った加工ラインPL2の形成及び第1の方向の照射ラインAL12に沿った加工後変位の測定が共に実行されるため、第1の方向に沿った加工ラインPL2のいずれかと第1の方向に沿って照射されるAF用レーザ光LAの照射ラインAL12とが重なっていても、第1の方向に沿った加工ラインPL2の形成の影響を受けずに、第2の方向に沿った複数の加工ラインPL1に関する加工後変位を高精度に推定することができる。そして、第1の方向に沿った加工ラインPL2のいずれかと第1の方向に沿って照射されるAF用レーザ光LAの照射ラインAL12とが重なっていることにより、加工ラインPL2の形成及びAF用レーザ光LAの照射に関する処理を単純化(容易化)することができる。
【0106】
図17は、図16の検査工程(検査方法)のフローチャートである。図17に示されるステップS301及びステップS302は、上述した図10のステップS1及びステップS2と同様である。ステップS302に続き、検査装置1では、図16(a)に示されるように、AF用レーザ光LAが裏面21bに照射されると共に裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることにより、第1の方向に沿った照射ラインAL11の各領域における裏面21bの変位データである加工前AF波形が取得され、第2の方向に沿った照射ラインAL21の各領域における裏面21bの変位データである加工前AF波形が取得される(ステップS303)。つづいて、図16(b)に示されるように、第2の方向に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光L(CH1)が照射されて複数の加工ラインPL1が形成される(ステップS304)。つづいて、図16(c)に示されるように、第1の方向に沿って、複数ライン分、ウエハ20にレーザ光L(CH2)が照射されて複数の加工ラインPL2が形成されると共に、第1の方向に沿った照射ラインAL12の各領域における裏面21bの変位データである加工後AF波形が取得される(ステップS305)。つづいて、図16(d)に示されるように、第2の方向に沿った照射ラインAL22の各領域における裏面21bの変位データである加工後AF波形が取得される(ステップS306)。その後のステップS307~ステップS309は、上述した図10のステップS8~ステップS10と同様である。
【0107】
また、上記実施形態では、複数の加工ラインを跨ぐようにAF用レーザ光LAを照射しその反射光を検出することにより各加工ラインの加工状態を推定するとして説明したがこれに限定されず、加工ラインに沿ってAF用レーザ光LAを照射しその反射光を検出することにより加工ラインの加工状態を推定してもよい。図18は、加工ラインに沿ってAF用レーザ光LAを照射して加工ラインの加工状態を推定する態様の検査工程を示す図である。図18に示される検査工程では、制御部8は、まず、第1の方向の照射ラインAL1に沿って裏面21bにAF用レーザ光LAが照射され、該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって第1の方向の照射ラインAL1に沿った各領域における加工前変位が測定されるように、AFユニット71を制御する(図18(a))。この場合、制御部8は、全ての加工予定ラインを照射ラインAL1としてもよいし、一部(例えば1つ)の加工予定ラインのみを照射ラインAL1としてもよい。つづいて、制御部8は、第1の方向に沿ってウエハ20にレーザ光が照射されて複数の加工ラインPLが形成されるように、光源31を制御する(図18(b)。制御部8は、加工前変位が測定されることと複数の加工ラインPLが形成されることとが同時に実行されるように、AFユニット71及び光源31を制御してもよい。つづいて、制御部8は、加工ラインPLに重なる照射ラインAL2に沿ってAF用レーザ光LAが裏面21bに照射され、該裏面21bにおけるAF用レーザ光LAの反射光が検出されることによって加工ラインPLに重なる照射ラインAL2に沿った各領域における加工後変位が測定されるように、光源31を制御する(図18(c))。照射ラインAL1及び照射ラインAL2は例えば互いに重なるラインである。制御部8は、全ての加工ラインPLを照射ラインAL2としてもよいし、一部(例えば1つ)の加工ラインPLのみを照射ラインAL2としてもよい。そして、制御部8は、照射ラインAL1及び照射ラインAL2に沿った互いに対応する領域毎に、加工後変位及び加工前変位の差分を導出し、該差分に基づき、各領域に関する加工状態(亀裂状態)を推定する。
【0108】
このように、加工前変位を測定するためのAF用レーザ光LAの照射方向、加工ラインPLの形成方向、及び、加工後変位を測定するためのAF用レーザ光LAの照射方向が共通化されることにより、実施形態で説明したようなウエハ20を回転させる処理等が不要になり、処理効率を向上させることができる。なお、加工ラインPLに沿ってAF用レーザ光LAが照射される本態様においては、複数の加工ラインPLを跨ぐようにAF用レーザ光LAが照射される場合と異なり、複数の加工ラインPL同士を比較した変位量の相対的な情報に基づく加工状態の推定ができないが、加工後の絶対的な変位量に基づいて加工ラインPLの加工状態を推定することができる。
【0109】
上述した図18に示される検査工程を実施する場合において、検査装置1は、レーザ光Lの照射とは別軸でAF用レーザ光LAを照射する構成を設ける(両側別軸AFを設ける)ことにより、加工前変位を測定するためのAF用レーザ光LAの照射、加工ラインPLの形成、及び加工後変位を測定するためのAF用レーザ光LAの照射を同時に実施してもよい。図19は、両側別軸AFユニットを有する検査装置の構成の一部を模式的に示す図である。図19に示される構成では、集光レンズ33を経てウエハ20に照射されるレーザ光Lとは別軸でAF用レーザ光LAを照射するAFユニット571,671が設けられている。AFユニット571は、レーザ加工進行方向において、レーザ光Lよりも前側にAF用レーザ光LAを照射する。AFユニット571は、レーザ加工進行方向において、レーザ光Lよりも後側にAF用レーザ光LAを照射する。往路復路でレーザ加工進行方向が反対になる場合には、AFユニット571,671の役割は反対になる。このような両側別軸AFの構成によれば、レーザ加工進行方向にAF用レーザ光LAを照射する工程と共に、AFユニット571からAF用レーザ光LAを照射することによる加工前変位の測定と、AFユニット671からAF用レーザ光LAを照射することによる加工後変位の測定と、を実行することができる。これにより、図18に示される検査工程を実施する場合において、より効率的に加工状態の推定を行うことができる。
【0110】
図20は、上述した両側別軸AFの構成で加工ラインPLの加工状態を推定する場合の表示画面の一例を示す図である。図20(b)はAFユニット571により測定された加工前変位(加工前AF波形)を示しており、図20(c)はAFユニット671により測定された加工後変位(加工後AF波形)を示している。加工前変位(図20(b)及び加工後変位(図20(c)の差分が導出されることにより、図20(a)に示される変位データの差分である変位量が表示される。図20(a)では、亀裂状態がHCである場合の変位量が示されている。
【0111】
上述したように、両側別軸AFの構成で加工ラインPLの加工状態を推定する場合においては、1つの加工ラインPLにおける変位のみが測定されるため、複数の加工ラインPL同士を比較した変位量の相対的な情報に基づく加工状態の推定を行うことができないが、図21に示されるように、亀裂状態によって、変位データの差分である変位量の絶対値及び正負が異なるため、これらの情報に基づき適切に加工ラインPLの加工状態を推定することができる。例えば図21(a)に示される例では、変位量の絶対値の平均値(実線で示した値)が比較的大きく、正の値であることに基づいて、亀裂状態がHCであると推定することができる。また、例えば図21(b)に示される例では、変位量の絶対値の平均値(実線で示した値)が比較的小さいことに基づいて、亀裂状態がST又はFCであると推定することができ、さらに撮像ユニットの撮像結果を考慮することにより、亀裂状態がSTであると推定することができる。
【0112】
加工前変位の測定、加工ラインPLの形成、及び加工後変位の測定を同時に実施する構成は、図19の両側別軸AFの構成に限定されない。例えば、図22(a)に示されるように、検査装置1は、レーザ光Lよりも後側にAF用レーザ光LAを照射するAFユニット671(図19)に替えて、裏面21bの凹凸測定用の一般的な測距センサ871を、加工後変位の測定に係る構成として備えていてもよい。さらに、図22(b)に示されるように、検査装置1は、レーザ光Lよりも前側にAF用レーザ光LAを照射するAFユニット571(図19)に替えて、裏面21bの凹凸測定用の一般的な測距センサ771を、加工後変位の測定に係る構成として備えていてもよい。図22(b)の構成では、別軸AFの構成が不要となるため、図4のレーザ照射ユニット3と同様に1つの集光レンズ33からレーザ光L及びAF用レーザ光LAを照射する構成(同軸AF)を採用することができる。なお、測距センサ771,871としては、例えば2次元のレーザ変位センサを用いることができる。
【0113】
また、検査装置1は、空間光変調器32のパターンオフセット(LCOSパターンオフセット)の自動設定を行うものであってもよい。集光レンズ33の入射瞳面の中心に対して空間光変調器32の変調パターンの中心を適切な量だけオフセットさせることにより、改質領域の形成状態を好適にコントロールすることができることが知られている。LCOSパターンオフセットの自動設定とは、変調パターンの中心の好適なオフセット量を自動的に導出し設定するものである。いま、例えば5つの加工ラインPLについて、オフセット量(パターンオフセット値)を1.0刻みで変化させるとする。すなわち、図23に示されるように、適切なオフセット量だと思われる3ライン目(中心)を基準として、1ライン目のオフセット量を中心-2.0、2ライン目のオフセット量を中心-1.0、4ライン目のオフセット量を中心+1.0、5ライン目のオフセット量を中心+2.0に設定したとする。そして、検査装置1によって各加工ラインPLの亀裂状態が2パターンの検査条件でそれぞれ推定された結果、図23に示されるように、3ライン目のみ、いずれも亀裂状態がBHCになったとする。この場合、検査装置1は、いずれの検査条件でもBHCになった3ライン目のオフセット量を好適なオフセット量であると推定する。検査装置1は、検査前に適切なオフセット量だと想定されていたオフセット量が実際に適切であったとして、当該3ライン目のオフセット量を検査におけるオフセット量に設定する。一方で、検査装置1は、別のラインでのみBHCとなった場合には、当該別のラインのオフセット量を最適値として設定する。
【0114】
また、実施形態では、検査装置1が予め定められている加工条件の適否を判定するとして説明したが、検査装置1は、亀裂状態を推定することにより加工条件を新たに導出する(条件出しを行う)ものであってもよい。また、検査装置1は、ステルスダイシング装置だけでなく、スライシング装置及びトリミング装置における亀裂状態の自動判定に用いられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0115】
1…検査装置、4…撮像ユニット(撮像部)、8…制御部、20…ウエハ、21b…裏面(測定対象面)、31…光源(レーザ照射部)、71…AFユニット(測定部,測定ユニット)、150…ディスプレイ(表示部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23