(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】光学機器
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20240626BHJP
G02B 7/00 20210101ALI20240626BHJP
【FI】
G02B7/02 A
G02B7/02 C
G02B7/00 A
(21)【出願番号】P 2020130281
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝啓
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-266387(JP,A)
【文献】特開2013-231889(JP,A)
【文献】特開2013-088516(JP,A)
【文献】特開2018-049049(JP,A)
【文献】特開2007-065500(JP,A)
【文献】特開2004-247619(JP,A)
【文献】米国特許第05923482(US,A)
【文献】特開2012-048008(JP,A)
【文献】特開2011-227349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/00 - 7/24
H01L 21/30 - 21/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子と、
前記光学素子の外径部に当接すると共に、光軸の方向における前記光学素子の一方の側に当接して前記光学素子を保持する保持部材と、
前記光軸の方向における前記光学素子の他方の側に当接する弾性部材と、
前記弾性部材を介して前記光学素子を前記保持部材に付勢する付勢部材と、
前記付勢部材を前記保持部材に固定する複数の固定部材とを有する光学機器において、
前記付勢部材は、前記保持部材に当接する第1の面及び当接しない第2の面において、複数の前記固定部材により前記保持部材に固定され
、
前記第2の面に対向する前記保持部材の対向面と前記第2の面との間には、隙間が設けられており、前記固定部材により前記隙間が調整されることを特徴とする、光学機器。
【請求項2】
複数の前記固定部材は、前記光軸の方向から前記付勢部材を前記保持部材に固定することを特徴とする、請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記付勢部材は、環状の形状を有し、前記第1の面と前記第2の面とは、周方向に交互に前記付勢部材に設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光学機器。
【請求項4】
前記第1の面と前記第2の面とは、前記周方向に等間隔に前記付勢部材に設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の光学機器。
【請求項5】
前記付勢部材の前記第1及び第2の面には、貫通孔が設けられており、前記固定部材が前記貫通孔を挿通し、前記付勢部材が前記保持部材に固定されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項6】
前記弾性部材は、前記光学素子と前記付勢部材との間で圧縮挟持され、
前記弾性部材により前記光学素子が前記光軸の方向に付勢されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項7】
前記付勢部材は可撓性を有し、
前記固定部材により前記付勢部材の前記第2の面が弾性変形し、前記弾性部材を介して前記光学素子を更に付勢する付勢力が生じ、
少なくとも一つの前記固定部材によって前記付勢力を調整することによって、前記光学素子の特性が調整されることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項8】
前記付勢部材を前記保持部材に対して回転させることで、前記付勢力が調整されることを特徴とする、請求項7に記載の光学機器。
【請求項9】
前記光学素子は、最も被写体側に位置するレンズであることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラなどの光学機器のレンズ鏡筒において、レンズ鏡筒内の特定のレンズ群の相対的な間隔、偏芯、倒れを調整機構により調整し、光学性能を設計値に近づける調整が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、リソグラフィー工程に使用される露光装置において、光学部材の形状の変形量に基づいて、調整ユニットで光学部材に与える力を調整することが開示されている。特許文献2では、デジタル複写機やレーザープリンタ等の画像形成装置の光書き込み系の光走査装置内に用いられる光学素子において、長尺レンズ(長尺光学素子)の曲がりを外力の作用によって調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3787556号公報
【文献】特開2007-65500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、光学部材の変形量を検出する検出手段、弾性部材、光学部材に当接するフックを調整ユニット内で構成しなければならず、そのため、調整ユニット自体が大型化する懸念があった。また、特許文献2は、フラットな長尺光学素子の保持機構に特化したものであり、曲率面を有する外径が円形状の光学素子の曲率面の変形を補正するには適していない。
【0006】
本発明は、光学素子を調整する簡便な機構を備えた光学機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光学素子と、前記光学素子の外径部に当接すると共に、光軸の方向における前記光学素子の一方の側に当接して前記光学素子を保持する保持部材と、前記光軸の方向における前記光学素子の他方の側に当接する弾性部材と、前記弾性部材を介して前記光学素子を前記保持部材に付勢する付勢部材と、前記付勢部材を前記保持部材に固定する複数の固定部材とを有する光学機器において、前記付勢部材は、前記保持部材に当接する第1の面及び当接しない第2の面において、複数の前記固定部材により前記保持部材に固定され、前記第2の面に対向する前記保持部材の対向面と前記第2の面との間には、隙間が設けられており、前記固定部材により前記隙間が調整されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学素子を調整する簡便な機構を備えた光学機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るレンズ鏡筒の概略断面図である。
【
図3】
図2の断面線III-IIIにおける部分断面図である。
【
図4】付勢部材115を被写体側から見た部分図である。
【
図5】
図2の断面線V-Vにおける部分断面図である。
【
図6】付勢部材115を被写体側から見た部分斜視図である。
【
図7】全光学系でアス成分を持った時の波面形状の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るレンズ鏡筒(光学機器)の概略断面図である。以下、
図1を参照して、本発明の実施形態に係るレンズ鏡筒について説明する。
【0011】
第1固定筒101は、1Aレンズ保持枠112と1Bレンズ保持枠113を有し、第1レンズ群105を保持している。また、1Aレンズ保持枠112は第2固定筒102と径嵌合すると共に、光軸Oの方向で当接することで光軸Oの方向への移動が規制され、更に光軸Oの方向からビスで締結されている。
【0012】
第1固定筒101は、1Aレンズ保持枠112と径嵌合すると共に、光軸Oの方向で当接することで光軸Oの方向への移動が規制され、更に光軸Oの方向からビスで締結されている。第1レンズ群105を構成する第1レンズ111(光学素子)は、1Aレンズ保持枠112に保持されるが、その保持方法の詳細は、後述する。
【0013】
第1レンズ群105の第1レンズ111以外のレンズは、1Bレンズ保持枠113に保持され、1Bレンズ保持枠113は、保持部材(不図示)によって1Aレンズ保持枠112に光軸Oの方向への移動が規制され、保持されている。1Bレンズ保持枠113のレンズ保持手段は、熱カシメや接着に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0014】
第2固定筒102は、第3固定筒103と径嵌合し、不図示の連結部材によって光軸Oの方向への移動が規制され、保持されている。第2固定筒102には、第2レンズ群106、第3レンズ群107、第4レンズ群108、第5レンズ群109が保持されている。第2レンズ群106、第3レンズ群107、第4レンズ群108、第5レンズ群109は、各レンズ群の各レンズ保持枠に保持され、各レンズ群のレンズ外径が各レンズ保持枠と係合し、熱カシメあるいは、接着によって固定されている。なお、各レンズ群の各レンズ保持枠への保持手段は、熱カシメや接着に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0015】
第2レンズ群106は、フォーカスレンズ群である。第2レンズ群106を光軸Oの方向へ進退させる駆動手段は、駆動源となるフォーカスモータ120である。また、駆動機構は、フォーカスモータ120により回転される送りねじ(不図示)と、第2レンズ群106を保持する2群レンズ保持枠121と、2群レンズ保持枠121に取り付けられ、送りねじに係合するラック(不図示)を含む。ラックは、送りねじの回転を光軸Oの方向への駆動力に変換し、2群レンズ保持枠121を光軸Oの方向に移動させる。2群レンズ保持枠121は、光軸Oの方向に延びるガイドバー(不図示)に摺動可能に係合することで直進ガイドされる。
【0016】
ラックは、2群レンズ保持枠121に対して、光軸Oの方向に延びる軸(不図示)を中心として回転可能に保持される。そして、ラックは、ねじりコイルばね(不図示)が発生するねじり方向の付勢力によって回転方向に付勢され、送りねじとガイドバーに対してそれらの径方向のうち一方向から押圧されている。またラックは、ねじりコイルばねが発生する光軸Oの方向の付勢力によって付勢され、2群レンズ保持枠121に対して、光軸Oの方向のうち一方向から押圧されている。これらの付勢力によってラック、送りねじ、ガイドバー及び2群レンズ保持枠121が互いに押圧されて、これらの間のガタつきが防止される。
【0017】
第3レンズ群107のレンズを保持する3群レンズ保持枠122は、第2固定筒102に径嵌合し、光軸Oの方向で当接することで光軸Oの方向への移動が規制され、光軸Oの方向からビスで締結される。
【0018】
第4レンズ群108は、手振れ補正の機能を有するレンズ群である。可動群である4群レンズ保持枠123に、レンズ及びPITCH方向とYAW方向へ駆動力を発生するためのコイル(不図示)が保持されている。4群ベース124は、可動群のコイルに対向する位置に駆動力を発生するための磁石を有し、コイルと磁石によって磁気回路を形成している。4群レンズ保持枠123と4群ベース124の間には、3つのボール(不図示)が挟持され、ボールが光軸直交平面における所定の範囲内で移動が規制される移動規制部が、4群レンズ保持枠123と4群ベース124に設けられている。4群レンズ保持枠123と4群ベース124で挟持されたボールが移動規制部から脱落するのを防止するために、引っ張りコイルばね(不図示)が備えられている。引っ張りコイルばねの一端が4群レンズ保持枠123側のばね掛け部に掛かり、他端が4群ベース124側のばね掛け部に掛かることで、4群レンズ保持枠123を4群ベース124に対し引き込んでいる。
【0019】
第5レンズ群109のレンズを保持する5群レンズ保持枠125は、第2固定筒102に径嵌合し、保持部材(不図示)によって第2固定筒102に光軸Oの方向への移動が規制され、保持されている。
【0020】
外装ユニット126を構成する部材の1つである第1外装環127は、第1固定筒101と径嵌合すると共に、光軸Oの方向で当接することで光軸Oの方向への移動が規制され、更に光軸Oの方向からビスで締結されている。第3外装環129は、第2外装環128に対し径嵌合し、光軸Oの方向への規制は複数の係止爪(不図示)によってバヨネット結合されることで規制される。また、第2外装環128と第3外装環129の回転方向の規制は、規制部材(不図示)により規制されている。
【0021】
フォーカスリング130は、第2外装環128と第3外装環129により光軸Oの方向で挟持されると共に、光軸Oの方向への移動が規制され、第2外装環128に対して径嵌合する。フォーカスリング130の内周部のフランジ部には、周方向に周期的なスリット形状が設けられている。フォーカスリング130の回転量及び回転方向を検出する検出部材(不図示)は、このスリット形状の回転方向への移動を光学的に検出するように周方向に所定の間隔をもって並んだ2つのフォトインタラプタにより構成されている。
【0022】
基板131の制御回路は、検出部材(不図示)の検出値に基づいて所定の駆動信号を生成し、駆動信号によりフォーカスモータ120が回転し、第2レンズ群106が光軸Oの方向へ進退する。また、第2固定筒102に組み込まれたフォーカスリセットスイッチ(不図示)は、2群レンズ保持枠121に形成された遮光壁(不図示)の光軸Oの方向への移動を光学的に検出するフォトインタラプタにより構成されている。フォーカスリセットスイッチは、2群レンズ保持枠121が基準位置に位置していることを検出するために設けられている。
【0023】
第3固定筒103は、外装筒133に対し径嵌合し、光軸Oの方向で当接することで光軸Oの方向への移動が規制されている。外装筒133は、マウント132と第3固定筒103に挟持され、マウント132と第3固定筒103がビスで締結される。カメラボディ(不図示)と着脱可能なマウント132に対し、外装筒133が径嵌合し、光軸Oの方向で当接することで光軸Oの方向が規制されている。
【0024】
以下、本発明の特徴的な構成について詳述する。
図2は、レンズ鏡筒を被写体側から見た図である。
図3は、
図2の断面線III-IIIにおける断面図であり、1Aレンズ保持枠112に保持される第1レンズ111の保持部拡大図である。
図4は、付勢部材115を被写体側から見た部分図であり、破線は撮像面側に設けられた付勢部材115の第1の面115cを示す。
【0025】
第1レンズ111は、撮像面側である一方の側の当接部111aにおいて1Aレンズ保持枠112のレンズ規制部112aと当接し、撮像面側への移動が規制されている。また、第1レンズ111の外径部111bは、1Aレンズ保持枠112のレンズ嵌合部112bと当接している。
【0026】
第1レンズ111の被写体側には、リング状の形状をした弾性部材114が配置されており、弾性部材114は、第1レンズ111の被写体側である他方の側の当接部111cと全周で接触している。また、弾性部材114の被写体側には、環状の形状を有する付勢部材115が配置されている。
【0027】
そして、1Aレンズ保持枠112は、付勢部材115に当接する当接面112cを複数有し、一方、付勢部材115は、当接面112cに当接する第1の面115cを複数有する。すなわち、複数の当接面112cの各々が複数の第1の面115cの各々に当接する。第1の面115cは、
図4の破線で示すように略円形で、
図3に示すように当接面112c側に隆起するように形成されており、同様に当接面112cも第1の面115c側に隆起するように形成されている。
【0028】
第1の面115cには、光軸Oから半径r離れた所に貫通孔115dが設けられており、貫通孔115dは、略円形の第1の面115cと同軸である。また、当接面112cには、光軸Oから半径r離れた所に貫通孔115dよりも直径が小さい有底穴112dが設けられており、有底穴112dと貫通孔115dは同軸である。固定部材であるビス116が、被写体側(光軸Oの方向)から付勢部材115の貫通孔115dを挿通し、1Aレンズ保持枠112の有底穴112dに係合することで、付勢部材115が1Aレンズ保持枠112に固定される。実施形態では、ビス116のねじ山が螺合する有底穴112dには、タップが切られていないが、予めタップを切っておいてもよい。
【0029】
上記のように、1Aレンズ保持枠112の当接面112cと付勢部材115の第1の面115cが当接し、当接箇所においてビス116で締結されている。1Aレンズ保持枠112に付勢部材115が固定されることにより、付勢部材115の付勢部115aと第1レンズ111との間で弾性部材114が圧縮挟持される。そして、第1レンズ111がレンズ規制部112aへ付勢され、第1レンズ111が1Aレンズ保持枠112に保持される。
【0030】
このような構成により、第1レンズ群105から第5レンズ群109までが光軸O上に並び、全光学系を透過した光線が撮像面上で結像されることになる。しかしながら、レンズの製造誤差やレンズを保持する保持枠、その他の構成部材の製造誤差によって、結像面の面形状は必ずしも設計値の通りにはならない。そのため、所定のレンズ群の偏芯、倒れ、光軸Oの方向の位置の調整を行うことで理想の結像面形状に近づけるように光学調整が行われる。このような光学調整の1つにアス調整というものがある。アスとは、非点収差の略語であり、球面レンズの曲率が方向によって異なることで、その方向毎に焦点距離が変わってしまう現象である。結像位置が変わってしまうことで、ぼやけた画像になってしまう。ただし、レンズ鏡筒内のある光学素子が持つアス成分と、別の箇所の光学素子が持つアス成分が打ち消しあうようにすることで、全光学系での光学性能を維持することができる。
【0031】
そのため、レンズ鏡筒を一度組み上げて光学調整をする段階で、光学系の透過波面を測定し、撮像面の像面形状に許容できないアス成分がある場合には、アス成分の大きな特定のレンズ、あるいはレンズ群を光軸Oの回りに回転させる。この操作により、その他のレンズ群とのアス成分をキャンセルさせて、撮像面形状を許容内のアス量に抑えることが可能である。ただし、特定のレンズ、あるいはレンズ群を組み上げたレンズ鏡筒から取り外し、再度組みなおす必要があるため、非常に手間がかかる。回転させる機構を設ける場合には、部品点数の増加や、レンズ鏡筒の大型化が懸念される。
【0032】
また、アスは、レンズ単品の加工誤差で発生するだけでなく、レンズをレンズ保持枠に組込むことで、レンズ保持枠とレンズの接触部で働く応力、カシメや押え環、接着による固定部で働く応力によっても発生する。そのため、レンズに対して働く応力が均等になるようにすることも、アスの発生を抑制する手段である。
【0033】
図7は、全光学系でアス成分を持った時の波面形状の一例を示す。波面形状に均一性がなく、全光学系での曲率が方向によって異なっていることが見て取れる。
【0034】
次に、光学素子の透過波面を調整する本発明の簡便な機構について詳述する。
図5は、
図2の断面線V-Vにおける断面図であり、1Aレンズ保持枠112に保持される第1レンズ111の保持部拡大図である。
図6は、付勢部材115を撮像面側から見た部分斜視図であって、ビス116が挿通している状態を示す。
【0035】
図5の断面線V-Vにおける断面において、第1レンズ111は、一方の側の当接部111aにおいて1Aレンズ保持枠112のレンズ規制部112aと当接し、撮像面側への移動が規制されている。また、第1レンズ111の外径部111bは、1Aレンズ保持枠112には当接していない。
【0036】
1Aレンズ保持枠112は、付勢部材115に対向する対向面112eを複数有し、一方、付勢部材115は、対向面112eに対向する第2の面115eを複数有する。すなわち、複数の対向面112eの各々が複数の第2の面115eの各々に当接せずに隙間Gを有して対向する。第2の面115eは、平面で形成され、第1の面115cとは異なる。一方、対向面112eは、当接面112cと同様に第2の面115e側に隆起するように形成されている。
【0037】
第2の面115eには、光軸Oから半径r離れた所に貫通孔115fが設けられている。また、対向面112eには、光軸Oから半径r離れた所に貫通孔115fよりも直径が小さい有底穴112fが設けられており、有底穴112fと貫通孔115fは同軸である。固定部材であるビス116が、被写体側(光軸Oの方向)から付勢部材115の貫通孔115fを挿通し、1Aレンズ保持枠112の有底穴112fに係合することで、付勢部材115が1Aレンズ保持枠112に固定される。
【0038】
上記のように、1Aレンズ保持枠112の対向面112eと付勢部材115の第2の面115eが当接せずに隙間Gを有してビス116で締結されている。この状態から更にビス116を締め込んでいくと、可撓性を有する付勢部材115の薄肉部115bがビス頭部116bにより付勢され、隙間Gが狭くなるように薄肉部115bが弾性変形する。薄肉部115bが弾性変形することで、付勢部材115の付勢部115aの弾性部材114への付勢力が大きくなると共に、弾性部材114の圧縮量も大きくなり局所的に第1レンズ111に加わる付勢力が大きくなる。言い換えると、第1レンズ111の被写体側の曲率が局所的に変化する。
【0039】
全光学系で透過波面の形状を測定し、アス成分を持っていると判定された時に、所望の角度位置にある付勢部材115の第2の面115eと1Aレンズ保持枠112の対向面112eの間の隙間Gを狭めるように、ビス116を締め込む。全光学系で透過波面の形状をモニタしながら、ビス116の締め込み量を調整することで、隙間Gを調整し、第1レンズ111の被写体側の曲率を変化させ、よりバランスのとれた均一な波面形状になるようにアス量を小さくする調整が可能である。波面形状を調整するために、必要な箇所のみ、付勢部材115の第2の面115eと1Aレンズ保持枠112の対向面112eの間の隙間Gを少なくとも一つのビス116で狭めればよい。そのため、複数箇所ある付勢部材115の第2の面115eと1Aレンズ保持枠112の対向面112eの間の全ての隙間Gを狭める必要はない。また、調整対象の第1レンズ111は、全光学系の最も被写体側に位置しており、全光学系を通しての透過波面の調整を行う。そのため、レンズ鏡筒内部にある他のレンズ群やレンズを取り外して、組込みの角度位置を変更してその他のレンズ群とのアス成分のキャンセルをさせるような、手間のかかる透過波面の調整は必要ない。なお、第1レンズ111は曲率面に付勢力が与えられることでアス成分が敏感に変わる光学特性を有していることが望ましい。
【0040】
また、付勢部材115は、弾性部材114を介して第1レンズ111を1Aレンズ保持枠112に保持させる役割と、透過波面の調整をするための構成部材としての役割を兼ねるため、透過波面調整のための専用部材を用いる必要がない。そのため、部品点数の削減と周辺部の省スペース化が図られている。更に、ビス116を光軸Oの方向から締結するので、そのため、透過波面を調整する機構がレンズ鏡筒の半径方向に大型化せず、省スペース化が図られている。
【0041】
更に、実施形態では当接面112cの有底穴112d、第1の面115cの貫通孔115d、対向面112eの有底穴112f及び第2の面115eの貫通孔115fの各中心は、光軸
直交平面において、光軸Oから半径rの位置である。また、
図6に示すように、付勢部材115の第1の面115cと第2の面115eは、光軸Oの周方向に交互に等分に配置されている。第1の面115cと第2の面115eの配置の数や周方向の間隔は任意に設定することができる。同様に、1Aレンズ保持枠112の当接面112cと対向面112eも光軸Oの周方向に交互に等分に配置されている。更に、1Aレンズ保持枠112の当接面112cと対向面112eは、光軸Oの方向において同一の面となっている。
【0042】
透過波面の調整をする際に、特定の1Aレンズ保持枠112の当接面112cと付勢部材115の第1の面115cが接触する角度位置で、第1レンズ111の曲率面を付勢したい場合もある。その際に付勢部材115を1Aレンズ保持枠112に対して回転させ、互いに当接する当接面112cと第1の面115cの角度位置を変更することで、第1レンズ111の曲率面を付勢する角度位置を変更可能としている。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
111 第1レンズ(光学素子)
111b 外径部
112 1Aレンズ保持枠(保持部材)
114 弾性部材
115 付勢部材
115c 第1の面
115e 第2の面
116 ビス(固定部材)
O 光軸