(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】α-アミラーゼ変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 9/26 20060101AFI20240626BHJP
C12N 15/56 20060101ALI20240626BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240626BHJP
C11D 3/386 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C12N9/26 A
C12N15/56 ZNA
C12N5/10
C11D3/386
(21)【出願番号】P 2020146078
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】釋 真緒
(72)【発明者】
【氏名】日置 貴大
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰人
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-500058(JP,A)
【文献】特表2016-538860(JP,A)
【文献】国際公開第2013/184577(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 1/38
C12N 5/00- 5/28
C12N 9/00- 9/99
C11D 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、下記
(i)~(v)のいずれかのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された、α-アミラーゼ変異体。
(i)配列番号2で示されるアミノ酸配列の295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列の295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(iii)配列番号2で示されるアミノ酸配列の331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(iv)配列番号2で示されるアミノ酸配列の295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(v)配列番号2で示されるアミノ酸配列の295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
【請求項2】
配列番号2で示されるアミノ酸配列の295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基の置換が、Q、E、G、H、L、M、S、T又はVへの置換であり、配列番号2で示されるアミノ酸配列の296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基の置換が、Yへの置換であり、配列番号2で示されるアミノ酸配列の303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基の置換が、A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、S、T又はVへの置換であり、配列番号2で示されるアミノ酸配列の331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基の置換が、Sへの置換である、請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項
3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
【請求項5】
請求項
4に記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
【請求項6】
微生物である、請求項
5に記載の形質転換細胞。
【請求項7】
請求項
1又は2に記載の変異体を含む洗浄剤組成物。
【請求項8】
衣料洗浄剤又は食器洗浄剤である、請求項
7に記載の洗浄剤組成物。
【請求項9】
低温で使用される、請求項
8に記載の洗浄剤組成物。
【請求項10】
5~40℃の温度で使用される、請求項
9に記載の洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-アミラーゼ変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
α-アミラーゼは澱粉産業、醸造産業、繊維産業、医薬品産業及び食品産業等幅広い産業分野で利用されている他、洗浄剤への配合適性が知られており、デンプン質の汚れを除去する成分として自動食器洗浄機用の食器洗浄剤や衣料用洗剤等へ配合されている。
【0003】
洗浄剤用として有用なα-アミラーゼとしては、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM-1378(FERM BP-3048)株由来のα-アミラーゼAP1378(特許文献1)、バチルス リケニフォルミス由来のα-アミラーゼであるターマミルやデュラミル(登録商標)の他、バチルス エスピー(Bacillus sp.)DSM12649株由来のα-アミラーゼAA560(特許文献2)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)SP722株由来のα-アミラーゼSP722(特許文献3の配列番号4)等のバチルス属細菌由来のα-アミラーゼが知られている。また、サイトファーガ属由来のα-アミラーゼCspAmy2(特許文献4)等も知られている。
【0004】
近年では、環境保護や洗浄コスト軽減の観点から、食器洗浄や洗濯洗浄、特にランドリーでの洗濯洗浄の際の温度を下げることが重要とされ、また洗浄時間の短縮化も望まれている。しかしながら、アミラーゼを含む大部分の酵素の至適温度は、低温洗浄において通常設定される温度よりも高く、このため、多くのデンプン質の汚れは完全に除去することが困難となっている。
したがって、低温においても、洗浄性能やデンプン分解活性が保持され、汚れ除去効果が高いα-アミラーゼを見出すことが重要である。
低温でのα-アミラーゼの洗浄性能は、デンプンに対するアミラーゼの結合性(デンプン吸着性)と逆相関し、デンプン吸着性の低いアミラーゼが低温での洗浄性能が高いことが報告されている(特許文献5)。そして、特許文献5では、デンプン吸着性は既知のデンプン結合残基及びその隣接残基に変異を導入することで低減できることが開示されている。
【0005】
なお、CspAmy2については、これを親酵素とした変異体が作出されているが(特許文献4及び6)、低温で十分にデンプン分解活性が向上した変異体については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第94/26881号
【文献】国際公開第00/60060号
【文献】国際公開第06/002643号
【文献】国際公開第2014/164777号
【文献】特表2014-520517号公報
【文献】特表2019-500058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低温において既存の洗浄用α-アミラーゼと比較して高い洗浄力を示すα-アミラーゼを開発するには、低温におけるデンプン分解活性の維持、及び低いデンプン吸着性の2点が特に重要であると考えられるが、一方で、低温におけるデンプン分解活性の維持は容易ではない。従来、既存のいかなる洗剤用途アミラーゼも、活性の強さが選抜指標の一部であったと考えられるにもかかわらず、低温におけるデンプン分解活性を十分に維持していない。
したがって、低温において既存の洗浄用アミラーゼと比較して高い洗浄力を示すアミラーゼを開発するには、低温で高いデンプン分解活性を保持するα-アミラーゼを新たに見出すことが重要である。しかしながら、既存のα-アミラーゼよりも低温で高いデンプン分解活性を保持するα-アミラーゼを選抜する配列上の指標などは存在せず、その探索は容易ではない。
本発明は、低温でのデンプン分解活性が向上したα-アミラーゼ変異体を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、バチルス属細菌由来の既存のα-アミラーゼ及びNCBIタンパク質配列データベースに含まれる推定α-アミラーゼ配列の中から見出されたバチルス コリエンシス(Bacillus koreensis)由来のα-アミラーゼについて、20℃という低温でのデンプン分解活性を測定したところ、当該バチルス コリエンシス由来のα-アミラーゼが良好なデンプン分解活性を有すること、当該バチルス コリエンシス由来のα-アミラーゼの特定の変異体が低温で高いデンプン分解活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に係るものである。
(1)配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、下記1)及び/又は2)で示される位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された、α-アミラーゼ変異体。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)303位若しくはこれに相当する位置、並びに(b)295位、296位及びこれらに相当する位置からなる群より選択される1以上の位置
2)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(c)331位若しくはこれに相当する位置
(2)(1)の変異体をコードするポリヌクレオチド。
(3)(2)のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
(4)(3)のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
(5)(1)の変異体を含む洗浄剤組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のα-アミラーゼ変異体は、親α-アミラーゼと比して低温でのデンプン分解活性が向上しており、低温洗浄に使用した場合でも優れたデンプン汚れ除去を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】各アミラーゼの20℃における相対デンプン分解活性。
【
図2】各アミラーゼの20℃における相対デンプン分解活性。
【
図3】各アミラーゼの20℃における相対デンプン分解活性。
【
図4】各アミラーゼの20℃における相対デンプン分解活性。
【
図5】各アミラーゼの20℃における相対デンプン分解活性。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「アミラーゼ」(EC3.2.1.1;α-D-(1→4)-グルカングルカノヒドロラーゼ)とは、デンプンならびに他の直鎖又は分岐1,4-グリコシドオリゴ糖若しくは多糖類の加水分解を触媒する酵素群を意味する。α-アミラーゼ活性は、デンプンの酵素的分解による還元末端の生成量を測定することによって決定することができる。また、これに限定されず、例えばPhadebasのような色素架橋デンプンの酵素的分解による色素の遊離を測定することによっても決定することができる(Soininen, K., M. Ceska, and H. Adlercreutz. "Comparison between a new chromogenic α-amylase test (Phadebas) and the Wohlgemuth amyloclastic method in urine." Scandinavian journal of clinical and laboratory investigation 30.3 (1972): 291-297.)。
【0013】
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGENETYX Ver.12のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0014】
本明細書において、「アミノ酸残基」とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸残基、アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リシン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)及びバリン(Val又はV)を意味する。
【0015】
本明細書において、アミノ酸の置換は、公認されているIUPACの1文字のアミノ酸略記により、[元のアミノ酸、位置、置換されたアミノ酸]で表記されることがある。例えば、303位のチロシンのアスパラギンへの置換は、「Y303N」と示される。
複数の置換を含む変異体は、加算記号(「+」)によって表記される。例えば、「Y295E+Y303N」は、それぞれ、295位のチロシンのグルタミン酸への置換と303位のチロシンのアスパラギンへの置換を表す。
【0016】
本明細書において、プロモーター等の制御領域と遺伝子の「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
【0017】
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、「プロモーターの下流に配置された遺伝子」とは、DNAセンス鎖においてプロモーターの3’側に該遺伝子が存在することを意味し、遺伝子の上流とは、DNAセンス鎖における該遺伝子の5’側の領域を意味する。
【0018】
本明細書において、細胞の機能や性状、形質に対して使用する用語「本来」とは、当該機能や性状、形質が当該細胞に元から存在していることを表すために使用される。対照的に、用語「外来」とは、当該細胞に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や性状、形質を表すために使用される。例えば、「外来」遺伝子又はポリヌクレオチドとは、細胞に外部から導入された遺伝子又はポリヌクレオチドである。外来遺伝子又はポリヌクレオチドは、それが導入された細胞と同種の生物由来であっても、異種の生物由来(すなわち異種遺伝子又はポリヌクレオチド)であってもよい。
【0019】
<α-アミラーゼ変異体>
本発明のα-アミラーゼ変異体(「本発明の変異体」と称す)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、下記1)及び/又は2)で示される位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたα-アミラーゼ変異体である。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)303位若しくはこれに相当する位置、並びに(b)295位、296位及びこれらに相当する位置からなる群より選択される1以上の位置
2)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(c)331位若しくはこれに相当する位置
ここで、「1)及び/又は2)」とは、1)単独、2)単独、又は1)及び2)を意味する。
好ましくは、本発明の変異体は、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、上記1)及び/又は2)で示される位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたα-アミラーゼ変異体であって、上記1)(a)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、S、T又はVへの置換であり、上記1)(b)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、(b-1)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基のQ、E、G、H、L、M、S、T又はVへの置換及び(b-2)296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基のYへの置換、のいずれか一方又は両方の置換であり、上記1)(c)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、Sへの置換である、α-アミラーゼ変異体である。
すなわち、「変異体」は、親α-アミラーゼを構成するアミノ酸において、上記の所定位置のアミノ酸残基が置換されたα-アミラーゼ活性を有するポリペプチドを意味する。斯かる所定位置のアミノ酸残基の置換は、低温でのデンプン分解活性を向上するための置換であり、したがって、当該変異体は、親α-アミラーゼと比して向上した低温でのデンプン分解活性を有する。
【0020】
アミノ酸配列上の「相当する位置」は、目的配列と参照配列(本発明においては配列番号2で示されるアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。あるいは、Clustal Wの改訂版であるClustal W2やClustal omegaを使用することもできる。Clustal W、Clustal W2及びClustal omegaは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。
【0021】
当業者であれば、上記で得られたアミノ酸配列のアラインメントを、最適化するようにさらに微調整することができる。そのような最適アラインメントは、アミノ酸配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。ここでアミノ酸配列の類似性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときにその両方の配列に同一又は類似のアミノ酸残基が存在する位置の数の全長アミノ酸残基数に対する割合(%)をいう。類似のアミノ酸残基とは、タンパク質を構成する20種のアミノ酸のうち、極性や電荷の点で互いに類似した性質を有しており、いわゆる保存的置換を生じるようなアミノ酸残基を意味する。そのような類似のアミノ酸残基からなるグループは当業者にはよく知られており、例えば、アルギニンとリシン又はグルタミン;グルタミン酸とアスパラギン酸又はグルタミン;セリンとスレオニン又はアラニン;グルタミンとアスパラギン又はアルギニン;ロイシンとイソロイシン等がそれぞれ挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
ここで、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるα-アミラーゼは、本発明の変異体の「親α-アミラーゼ」である。「親α-アミラーゼ」は、そのアミノ酸残基に所定の変異がなされることにより、本発明の変異体となる基準α-アミラーゼを意味する。
【0023】
本発明において、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、NCBIタンパク質配列データベースにおいて、α-アミラーゼとして推定されたタンパク質である。すなわち、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、アクセッション番号KOO43440.1(本発明においては、「BkoAmy」と称する)として、当該データベースに登録されている。
【0024】
配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列からなるα-アミラーゼとしては、配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性、具体的には、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるα-アミラーゼが挙げられる。
少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列には、1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が含まれる。「1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、1個以上30個以下、好ましくは20個以下、より好ましくは10個以下、さらに好ましくは5個以下のアミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0025】
当該親α-アミラーゼは、配列番号2で示されるアミノ酸配列の303位又はこれに相当する位置に何れもチロシンを有するものが好ましく、295位又はこれに相当する位置に何れもチロシンを有するものが好ましく、296位又はこれに相当する位置に何れもアラニンを有するものが好ましく、331位又はこれに相当する位置に何れもスレオニンを有するものが好ましい。
【0026】
本発明の変異体としては、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、下記(i)~(v)のいずれかのアミノ酸残基が置換された変異体が挙げられる。
(i)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(ii)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(iii)331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(iv)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(v)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
斯かる変異体としては、295位又はこれに相当する位置のチロシンをグルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、セリン、スレオニン又はバリンに置換したもの、303位又はこれに相当する位置のチロシンをアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、セリン、スレオニン又はバリンに置換したものが好ましく、295位又はこれに相当する位置のチロシンをグルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、セリン、スレオニン又はバリンに置換したもの、296位又はこれに相当する位置のアラニンをチロシンに置換したもの、303位又はこれに相当する位置のチロシンをアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、セリン、スレオニン又はバリンに置換したものがより好ましい。あるいは、331位又はこれに相当する位置のスレオニンをセリンに置換したものが好ましく、295位又はこれに相当する位置のチロシンをグルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、セリン、スレオニン又はバリンに置換したもの、303位又はこれに相当する位置のチロシンをアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、セリン、スレオニン又はバリンに置換したもの、331位又はこれに相当する位置のスレオニンをセリンに置換したものがより好ましい。また、295位又はこれに相当する位置のチロシンをグルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、セリン、スレオニン又はバリンに置換したもの、296位又はこれに相当する位置のアラニンをチロシンに置換したもの、303位又はこれに相当する位置のチロシンをアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、セリン、スレオニン又はバリンに置換したもの、331位又はこれに相当する位置のスレオニンをセリンに置換したものがさらに好ましい。
【0027】
したがって、好ましい実施形態において、本発明の変異体は、配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、Y295Q+Y303N、Y295E+Y303N、Y295G+Y303N、Y295L+Y303N、Y295M+Y303N、Y295S+Y303N、Y295T+Y303N、Y295V+Y303N、Y295H+A296Y+Y303A、Y295H+A296Y+Y303R、Y295H+A296Y+Y303N、Y295H+A296Y+Y303D、Y295H+A296Y+Y303C、Y295H+A296Y+Y303Q、Y295H+A296Y+Y303E、Y295H+A296Y+Y303G、Y295H+A296Y+Y303H、+Y295H+A296Y+Y303I、Y295H+A296Y+Y303L、Y295H+A296Y+Y303K、Y295H+A296Y+Y303M、Y295H+A296Y+Y303S、Y295H+A296Y+Y303T、Y295H+A296Y+Y303V、T331S、Y295E+Y303N+T331S、及びY295H+A296Y+Y303N+T331Sのいずれかのアミノ酸置換を含むα-アミラーゼ変異体である。なかでも、配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、Y295H+A296Y+Y303A、Y295H+A296Y+Y303R、Y295H+A296Y+Y303N、Y295H+A296Y+Y303D、Y295H+A296Y+Y303C、Y295H+A296Y+Y303Q、Y295H+A296Y+Y303E、Y295H+A296Y+Y303G、Y295H+A296Y+Y303H、+Y295H+A296Y+Y303I、Y295H+A296Y+Y303L、Y295H+A296Y+Y303K、Y295H+A296Y+Y303M、Y295H+A296Y+Y303S、Y295H+A296Y+Y303T、Y295H+A296Y+Y303V、T331S、Y295E+Y303N+T331S、及びY295H+A296Y+Y303N+T331Sのいずれかのアミノ酸置換を含むα-アミラーゼ変異体がより好ましく、配列番号2で示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、Y295H+A296Y+Y303N+T331Sのアミノ酸置換を含むα-アミラーゼ変異体がさらに好ましい。
【0028】
<本発明の変異体をコードするポリヌクレオチド>
本発明の変異体は、当技術分野で公知の各種の変異導入技術を使用して製造することができる。例えば、その基準アミノ酸配列をコードする親α-アミラーゼ遺伝子(基準α-アミラーゼ遺伝子)内の置換対象のアミノ酸残基をコードするポリヌクレオチドを、置換後のアミノ酸残基をコードするポリヌクレオチドに変異させ、更にその変異遺伝子から変異体を発現させることにより、製造することができる。
【0029】
本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドは、一本鎖若しくは二本鎖DNA、RNA、又は人工核酸の形態であり得、あるいはcDNA、又はイントロンを含まない化学合成DNAであり得る。
【0030】
本発明において、親α-アミラーゼのアミノ酸残基を変異させる手段としては、当技術分野で公知の各種変異導入技術を使用することができる。例えば、親α-アミラーゼのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(以下、親遺伝子ともいう)において、変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を、変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列に変異させることにより、本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0031】
親遺伝子への目的の変異の導入は、基本的には、当業者に周知の様々な部位特異的変異導入法を用いて行うことができる。部位特異的変異導入法は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法などの任意の手法により行うことができる。市販の部位特異的変異導入用キット(例えば、Stratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等)を使用することもできる。
【0032】
親遺伝子への部位特異的変異導入は、最も一般的には、導入すべきヌクレオチド変異を含む変異用プライマーを用いて行うことができる。該変異用プライマーは、親遺伝子における変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列を含む領域にアニーリングし、かつその変異すべきアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)に代えて変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)を有するヌクレオチド配列を含むように設計すればよい。変異前及び変異後のアミノ酸残基をコードするヌクレオチド配列(コドン)は、当業者であれば通常の教科書等に基づいて適宜認識し選択することができる。あるいは、部位特異的変異導入は、導入すべきヌクレオチド変異を含む相補的な2つのプライマーを別々に用いて変異部位の上流側及び下流側をそれぞれ増幅したDNA断片を、SOE(splicing by overlap extension)-PCR(Gene,1989,77(1):p61-68)により1つに連結する方法を用いることもできる。
【0033】
親遺伝子を含む鋳型DNAは、上述したα-アミラーゼを産生する微生物から、常法によりゲノムDNAを抽出するか、又はRNAを抽出し逆転写によりcDNAを合成することによって、調製することができる。あるいは、親α-アミラーゼのアミノ酸配列に基づいて、対応するヌクレオチド配列を化学合成して鋳型DNAとして用いてもよい。α-アミラーゼとして既述したBkoAmyをコードする塩基配列を含むDNA配列を配列番号1に示した。
【0034】
変異用プライマーは、ホスホロアミダイト法(Nucleic Acids R4esearch,1989,17:7059-7071)等の周知のオリゴヌクレオチド合成法により作製することができる。そのようなプライマー合成は、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成装置(ABI社製など)を用いて実施することもできる。該変異用プライマーを含むプライマーセットを使用し、親遺伝子を鋳型DNAとして上記のような部位特異的変異導入を行うことにより、目的の変異を有する本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドを得ることができる。
【0035】
当該本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖のDNA、cDNA、RNAもしくは他の人工核酸を含み得る。該DNA、cDNA及びRNAは、化学合成されていてもよい。また当該ポリヌクレオチドは、オープンリーディングフレーム(ORF)に加えて、非翻訳領域(UTR)のヌクレオチド配列を含んでいてもよい。また当該ポリヌクレオチドは、本発明の変異体産生用の形質転換体の種にあわせて、コドン至適化されていてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。
【0036】
<ベクター又はDNA断片>
得られた本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドはベクターに組み込むことができる。当該ポリヌクレオチドを含有するベクターの種類としては、特に限定されず、プラスミド、ファージ、ファージミド、コスミド、ウイルス、YACベクター、シャトルベクター等の任意のベクターであってよい。また該ベクターは、限定ではないが、好ましくは、細菌内、好ましくはバチルス属細菌(例えば枯草菌又はその変異株)内で増幅可能なベクターであり、より好ましくは、バチルス属細菌内で導入遺伝子の発現を誘導可能な発現ベクターである。中でも、バチルス属細菌と他の生物のいずれでも複製可能なベクターであるシャトルベクターは、本発明の変異体を組換え生産する上で好適に用いることができる。好ましいベクターの例としては、限定するものではないが、pHA3040SP64、pHSP64R又はpASP64(特許第3492935号)、pHY300PLK(大腸菌と枯草菌の両方を形質転換可能な発現ベクター;Jpn J Genet,1985,60:235-243)、pAC3(Nucleic Acids Res,1988,16:8732)等のシャトルベクター;pUB110(J Bacteriol,1978,134:318-329)、pTA10607(Plasmid,1987,18:8-15)等のバチルス属細菌の形質転換に利用可能なプラスミドベクター、等が挙げられる。また大腸菌由来のプラスミドベクター(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC57、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)を用いることもできる。
【0037】
上記ベクターは、DNAの複製開始領域又は複製起点を含むDNA領域を含み得る。あるいは、上記ベクターにおいては、本発明の変異体をコードするポリヌクレオチド(すなわち変異体遺伝子)の上流に、該遺伝子の転写を開始させるためのプロモーター領域、ターミネーター領域、又は発現されたタンパク質を細胞外へ分泌させるための分泌シグナル領域などの制御配列が作動可能に連結されていてもよい。なお、遺伝子と制御配列が「作動可能に連結されている」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域による制御の下に発現し得るように配置されていることをいう。
【0038】
上記プロモーター領域、ターミネーター、分泌シグナル領域等の制御配列の種類は、特に限定されず、導入する宿主に応じて、通常使用されるプロモーターや分泌シグナル配列を適宜選択して用いることができる。例えば、ベクターに組み込むことができる制御配列の好適な例としては、Bacllus sp.KSM-S237株のセルラーゼ遺伝子のプロモーター、分泌シグナル配列等が挙げられる。
【0039】
あるいは、上記本発明のベクターには、該ベクターが適切に導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤の耐性遺伝子)がさらに組み込まれていてもよい。あるいは、宿主に栄養要求性株を使用する場合、要求される栄養の合成酵素をコードする遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。またあるいは、生育のために特定の代謝を必須とする選択培地を用いる場合、該代謝の関連遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。このような代謝関連遺伝子の例としては、アセトアミドを窒素源として利用するためのアセトアミダーゼ遺伝子が挙げられる。
【0040】
上記本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドと、制御配列及びマーカー遺伝子との連結は、SOE(splicing by overlap extension)-PCR法(Gene,1989,77:61-68)などの当該分野で公知の方法によって行うことができる。連結した断片のベクターへの導入手順は、当該分野で周知である。
【0041】
<形質転換細胞>
本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主へ導入するか、又は本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドを含むDNA断片を宿主のゲノムに導入することにより、本発明の形質転換細胞を得ることができる。
【0042】
宿主細胞としては、細菌、糸状菌などの微生物が挙げられる。細菌の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、リステリア属(Listeria)、バチルス属(Bacillus)に属する細菌などが挙げられ、このうち、大腸菌及びバチルス属細菌(例えば、枯草菌Bacillus subtilis Marburg No.168(枯草菌168株)又はその変異株)が好ましい。枯草菌変異株の例としては、J.Biosci.Bioeng.,2007,104(2):135-143に記載のプロテアーゼ9重欠損株KA8AX、ならびにBiotechnol.Lett.,2011,33(9):1847-1852に記載の、プロテアーゼ8重欠損株にタンパク質のフォールディング効率を向上させたD8PA株を挙げることができる。糸状菌の例としては、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rizhopus)などが挙げられる。
【0043】
宿主へのベクターの導入の方法としては、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法などの当該分野で通常使用される方法を用いることができる。導入が適切に行われた株をマーカー遺伝子の発現、栄養要求性などを指標に選択することで、ベクターが導入された目的の形質転換体を得ることができる。
【0044】
あるいは、本発明の変異体をコードするポリヌクレオチド、制御配列及びマーカー遺伝子を連結した断片を、宿主のゲノムに直接導入することもできる。例えば、SOE-PCR法などにより、上記連結断片の両端に宿主のゲノムと相補的な配列を付加したDNA断片を構築し、これを宿主に導入して、宿主ゲノムと該DNA断片との間に相同組換えを起こさせることによって、本発明の変異体をコードするポリヌクレオチドが宿主のゲノムに導入される。
【0045】
斯くして得られた、本発明の変異体をコードするポリヌクレオチド又はそれを含むベクターが導入された形質転換体を適切な培地で培養すれば、該ベクター上のタンパク質をコードする遺伝子が発現して本発明の変異体が生成される。当該形質転換体の培養に使用する培地は、当該形質転換体の微生物の種類にあわせて、当業者が適宜選択することができる。
【0046】
あるいは、本発明の変異体は、無細胞翻訳系を使用して本発明の変異体をコードするポリヌクレオチド又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸等の試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
【0047】
上記培養物又は無細胞翻訳系にて生成された本発明の変異体は、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、単離又は精製することができる。このとき、形質転換体内のベクター上で本発明のα-アミラーゼ変異体をコードする遺伝子と分泌シグナル配列が作動可能に連結されている場合、生成されたタンパク質は細胞外に分泌されるため、より容易に培養物から回収され得る。培養物から回収されたタンパク質は、公知の手段でさらに精製されてもよい。
【0048】
斯くして得られる本発明の変異体は、親α-アミラーゼと比して向上した低温でのデンプン分解活性を有する。
ここで、「デンプン分解活性」は、デンプンの酵素的分解による還元末端の生成量を測定することによって決定することができる。また、これに限定されず、例えばPhadebasのような色素架橋デンプンの酵素的分解による色素の遊離を測定することによっても決定することができる。Phadebasにより測定したデンプン分解活性と、洗浄剤として用いた際の洗浄性能との間には相関が見られる。
【0049】
本発明の変異体は、各種洗浄剤組成物配合用酵素として有用であり、特に低温洗浄に適した洗浄剤組成物配合用酵素として有用である。
ここで、「低温」としては、40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下が挙げられ、また5℃以上、10℃以上、15℃以上が挙げられる。また、5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃が挙げられる。
【0050】
洗浄剤組成物中への本発明の変異体の配合量は、当該タンパク質が活性を示す量であれば特に制限されないが、例えば、洗浄剤組成物1kg当たり好ましくは1mg以上、より好ましくは10mg以上、より好ましくは50mg以上であり、且つ好ましくは5000mg以下、より好ましくは1000mg以下、より好ましくは500mg以下である。また1~5000mgであるのが好ましく、10~1000mgであるのがより好ましく、50~500mgであるのがより好ましい。
【0051】
洗浄剤組成物は、本発明の変異体以外に様々な酵素を併用することもできる。例えば、加水分解酵素、酸化酵素、還元酵素、トランスフェラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、シンテターゼ等である。このうち、本発明のタンパク質とは異なるアミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、ケラチナーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、リパーゼ、プルラナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、グルコシダーゼ、グルカナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等が好ましく、特にプロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、リパーゼが好ましい。
プロテアーゼとしては市販のAlcalase、Esperase、Everlase、Savinase、Kannase、Progress Uno(登録商標;ノボザイムズ社)、PREFERENZ、EFFECTENZ、EXCELLENZ(登録商標;デュポン社)、Lavergy(登録商標;BASF社)、またKAP(花王)、等が挙げられる。
セルラーゼとしてはCelluclean、Carezyme(登録商標;ノボザイムズ社)、またKAC、特開平10-313859号公報記載のバチルス・エスピーKSM-S237株が生産するアルカリセルラーゼ、特開2003-313592の号公報記載の変異アルカリセルラーゼ(以上、花王)等が挙げられる。
アミラーゼとしてはTermamyl、Duramyl、Stainzyme、Stainzyme Plus、Amplify Prime(登録商標;ノボザイムズ社)、PREFERENZ、EFFECTENZ(登録商標;デュポン社)、またKAM(花王)、等が挙げられる。
リパーゼとしてはLipolase、Lipex(登録商標;ノボザイムズ社)等が挙げられる。
【0052】
洗浄剤組成物には公知の洗浄剤成分を配合することができ、当該公知の洗浄剤成分としては、例えば次のものが挙げられる。
【0053】
(1)界面活性剤
界面活性剤は洗浄剤組成物中0.5~60質量%配合され、特に粉末状洗浄剤組成物については10~45質量%、液体洗浄剤組成物については20~90質量%配合することが好ましい。また本発明の洗浄剤組成物がランドリー用衣料洗浄剤、自動食器洗浄機用洗浄剤である場合、界面活性剤は一般に1~10質量%、好ましくは1~5質量%配合される。
【0054】
洗浄剤組成物に用いられる界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤の1種又は組み合わせを挙げることが出来るが、好ましくは陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤である。
【0055】
陰イオン性界面活性剤としては、炭素数10~18のアルコールの硫酸エステル塩、炭素数8~20のアルコールのアルコキシル化物の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、内部オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸塩、α-スルホ脂肪酸アルキルエステル塩又は脂肪酸塩が好ましい。本発明では特に、アルキル鎖の炭素数が10~14の、より好ましくは12~14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩及びアルキレン鎖の炭素数が12~20の、より好ましくは16~18の内部オレフィンスルホンから選ばれる一種以上の陰イオン性界面活性剤が好ましく、対イオンとしては、アルカリ金属塩やアミン類が好ましく、特にナトリウム及び/又はカリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが好ましい。内部オレフィンスルホン酸は例えばWO2017/098637を参照することができる。
【0056】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8~20)エーテル、アルキルポリグリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8~20)フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸(炭素数8~22)エステル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸(炭素数8~22)エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーが好ましい。特に、非イオン性界面活性剤としては、炭素数10~18のアルコールにエチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを4~20モル付加した〔HLB値(グリフィン法で算出)が10.5~15.0、好ましくは11.0~14.5であるような〕ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0057】
(2)二価金属イオン捕捉剤
二価金属イオン捕捉剤は0.01~50質量%、好ましくは5~40質量%配合される。本発明洗浄剤組成物に用いられる二価金属イオン捕捉剤としては、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、オルソリン酸塩などの縮合リン酸塩、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩、合成層状結晶性ケイ酸塩、ニトリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、イソクエン酸塩、ポリアセタールカルボン酸塩などが挙げられる。このうち結晶性アルミノケイ酸塩(合成ゼオライト)が特に好ましく、A型、X型、P型ゼオライトのうち、A型が特に好ましい。合成ゼオライトは、平均一次粒径0.1~10μm、特に0.1~5μmのものが好適に使用される。
【0058】
(3)アルカリ剤
アルカリ剤は0.01~80質量%、好ましくは1~40質量%配合される。粉末洗剤の場合、デンス灰や軽灰と総称される炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、並びにJIS1号、2号、3号などの非晶質のアルカリ金属珪酸塩が挙げられる。これら無機性のアルカリ剤は洗剤乾燥時に、粒子の骨格形成において効果的であり、比較的硬く、流動性に優れた洗剤を得ることができる。これら以外のアルカリとしてはセスキ炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられ、またトリポリリン酸塩などのリン酸塩もアルカリ剤としての作用を有する。また、液体洗剤に使用されるアルカリ剤としては、上記アルカリ剤の他に水酸化ナトリウム、並びにモノ、ジ又はトリエタノールアミンを使用することができ、活性剤の対イオンとしても使用できる。
【0059】
(4)再汚染防止剤
再汚染防止剤は0.001~10質量%、好ましくは1~5質量%配合される。本発明洗浄剤組成物に用いられる再汚染防止剤としてはポリエチレングリコール、カルボン酸系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。このうちカルボン酸系ポリマーは再汚染防止能の他、金属イオンを捕捉する機能、固体粒子汚れを衣料から洗濯浴中へ分散させる作用がある。カルボン酸系ポリマーはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などのホモポリマーないしコポリマーであり、コポリマーとしては上記モノマーとマレイン酸の共重合したものが好適であり、分子量が数千~10万のものが好ましい。上記カルボン酸系ポリマー以外に、ポリグリシジル酸塩などのポリマー、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、並びにポリアスパラギン酸などのアミノカルボン酸系のポリマーも金属イオン捕捉剤、分散剤及び再汚染防止能を有するので好ましい。
【0060】
(5)漂白剤
例えば過酸化水素、過炭酸塩などの漂白剤は1~10質量%配合するのが好ましい。漂白剤を使用するときは、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)や特開平6-316700号公報記載などの漂白活性化剤(アクチベーター)を0.01~10質量%配合することができる。
【0061】
(6)蛍光剤
洗浄剤組成物に用いられる蛍光剤としてはビフェニル型蛍光剤(例えばチノパールCBS-Xなど)やスチルベン型蛍光剤(例えばDM型蛍光染料など)が挙げられる。蛍光剤は0.001~2質量%配合するのが好ましい。
【0062】
(7)その他の成分
洗浄剤組成物には、衣料用洗剤の分野で公知のビルダー、柔軟化剤、還元剤(亜硫酸塩など)、抑泡剤(シリコーンなど)、香料、防菌防カビ剤(プロキセル[商品名]、安息香酸など)、その他の添加剤を含有させることができる。
【0063】
洗浄剤組成物は、上記方法で得られた本発明のタンパク質及び上記公知の洗浄成分を組み合わせて常法に従い製造することができる。洗剤の形態は用途に応じて選択することができ、例えば液体、粉体、顆粒、ペースト、固形などにすることができる。
【0064】
斯くして得られる洗浄剤組成物は、衣料洗浄剤、食器洗浄剤、漂白剤、硬質表面洗浄用洗浄剤、排水管洗浄剤、義歯洗浄剤、医療器具用の殺菌洗浄剤などとして使用することができるが、好ましくは衣料洗浄剤、食器洗浄剤が挙げられ、より好ましくはランドリー用衣料洗浄剤(ランドリー用洗濯洗剤)、手洗いによる食器洗浄剤、自動食器洗浄機用洗浄剤が挙げられる。
また、当該洗浄剤組成物は、40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下で、且つ5℃以上、10℃以上、15℃以上での使用に適する。また、5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃での使用に適する。好ましい使用態様としては、ランドリーでの低温(15~30℃)洗浄における使用、自動食器洗浄機による低温(15~30℃)洗浄における使用が挙げられる。
【0065】
上述した実施形態に関し、本発明においては更に以下の態様が開示される。
<1>配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、下記1)及び/又は2)で示される位置のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換された、α-アミラーゼ変異体。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)303位若しくはこれに相当する位置、並びに(b)295位、296位及びこれらに相当する位置からなる群より選択される1以上の位置
2)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(c)331位若しくはこれに相当する位置
<2>前記1)(a)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、S、T又はVへの置換であり、前記1)(b)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、(b-1)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基のQ、E、G、H、L、M、S、T又はVへの置換及び(b-2)296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基のYへの置換、のいずれか一方又は両方の置換であり、前記1)(c)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、Sへの置換である、<1>に記載の変異体。
<3>アミノ酸残基の置換が、下記(i)~(v)のいずれかのアミノ酸残基における置換である、<1>又は<2>に記載の変異体。
(i)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(ii)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(iii)331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(iv)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
(v)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基、303位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基及び331位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基
<4>アミノ酸残基の置換が、前記(i)のアミノ酸残基における置換である、<3>に記載の変異体。
<5>アミノ酸残基の置換が、前記(ii)のアミノ酸残基における置換である、<3>に記載の変異体。
<6>アミノ酸残基の置換が、前記(iii)のアミノ酸残基における置換である、<3>に記載の変異体。
<7>アミノ酸残基の置換が、前記(iv)のアミノ酸残基における置換である、<3>に記載の変異体。
<8>アミノ酸残基の置換が、前記(v)のアミノ酸残基における置換である、<3>に記載の変異体。
<9>変異体が、Y295Q+Y303N、Y295E+Y303N、Y295G+Y303N、Y295L+Y303N、Y295M+Y303N、Y295S+Y303N、Y295T+Y303N、Y295V+Y303N、Y295H+A296Y+Y303A、Y295H+A296Y+Y303R、Y295H+A296Y+Y303N、Y295H+A296Y+Y303D、Y295H+A296Y+Y303C、Y295H+A296Y+Y303Q、Y295H+A296Y+Y303E、Y295H+A296Y+Y303G、Y295H+A296Y+Y303H、+Y295H+A296Y+Y303I、Y295H+A296Y+Y303L、Y295H+A296Y+Y303K、Y295H+A296Y+Y303M、Y295H+A296Y+Y303S、Y295H+A296Y+Y303T、Y295H+A296Y+Y303V、T331S、Y295E+Y303N+T331S、及びY295H+A296Y+Y303N+T331Sのいずれかのアミノ酸置換を含むものである、<1>~<3>のいずれかに記載の変異体。
<10>親α-アミラーゼと比較してデンプン分解活性、好ましくは5~40℃でのデンプン分解活性が向上している、<1>~<9>のいずれかに記載の変異体。
【0066】
<11>配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、下記1)及び/又は2)で示される位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することを含む、α-アミラーゼ変異体の製造方法。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)303位若しくはこれに相当する位置、並びに(b)295位、296位及びこれらに相当する位置からなる群より選択される1以上の位置
2)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(c)331位若しくはこれに相当する位置
<12>前記1)(a)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、S、T又はVへの置換であり、前記1)(b)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、(b-1)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基のQ、E、G、H、L、M、S、T又はVへの置換及び(b-2)296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基のYへの置換、のいずれか一方又は両方の置換であり、前記1)(c)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、Sへの置換である、<11>に記載の方法。
【0067】
<13>配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列において、下記1)及び/又は2)で示される位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することを含む、デンプン分解活性の向上方法。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)303位若しくはこれに相当する位置、並びに(b)295位、296位及びこれらに相当する位置からなる群より選択される1以上の位置
2)配列番号2で示されるアミノ酸配列の(c)331位若しくはこれに相当する位置
<14>前記1)(a)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、S、T又はVへの置換であり、前記1)(b)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、(b-1)295位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基のQ、E、G、H、L、M、S、T又はVへの置換及び(b-2)296位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基のYへの置換、のいずれか一方又は両方の置換であり、前記1)(c)で示される位置のアミノ酸残基の置換が、Sへの置換である、<13>に記載の方法。
【0068】
<15><1>~<10>のいずれかに記載の変異体をコードするポリヌクレオチド。
<16><15>に記載のポリヌクレオチドを含むベクター又はDNA断片。
<17><16>に記載のベクター又はDNA断片を含有する形質転換細胞。
<18>微生物である、<17>に記載の形質転換細胞。
<19>大腸菌又はバチルス属細菌である、<17>又は<18>に記載の形質転換細胞。
<20><1>~<10>のいずれかに記載の変異体を含む洗浄剤組成物。
<21>衣料洗浄剤又は食器洗浄剤である、<20>に記載の洗浄剤組成物。
<22>ランドリー用衣料洗浄剤又は手洗い若しくは自動食器洗浄機用の食器洗浄剤である、<21>に記載の洗浄剤組成物。
<23>粉末又は液体である、<21>又は<22>に記載の洗浄剤組成物。
<24>低温で使用される、<21>~<23>のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
<25>40℃以下、35℃以下、30℃以下、25℃以下で、且つ5℃以上、10℃以上、15℃以上で使用されるか、又は5~40℃、10~35℃、15~30℃、15~25℃で使用される、<24>に記載の洗浄剤組成物。
<26>ランドリーでの低温(15~30℃)洗浄において使用されるか、又は自動食器洗浄機による低温(15~30℃)洗浄において使用される、<21>に記載の洗浄剤組成物。
【実施例】
【0069】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0070】
(1)アミラーゼ発現プラスミドの構築
人工遺伝子合成したBkoAmy遺伝子(配列番号1)を鋳型としてプライマーペアBkoAmy_fw/BkoAmy_rv(配列番号11及び12)及びPrimeSTAR Max Premix(タカラバイオ)を使用してPCRを行った。WO2006/068148A1の実施例7に記載のプラスミドpHY-S237を鋳型とし、プライマーペアS237t_fw/S237s_rv(配列番号13及び14)を使用して、同様にPCRを行った。それぞれのPCR産物を用いて、In-Fusion,HD Cloning kit(Clontech)のプロトコルに従ってIn-Fusion反応を行った。In-Fusion反応液で枯草菌を形質転換してプラスミドpHY-BKoAmy(野生型BKoAmy発現プラスミド)を構築した。同様にAP1378、AA560、SP722、Cspamy2についても人工遺伝子合成した遺伝子(それぞれ配列番号3、5、7、9)を鋳型として、それぞれプライマーペアAP1378_fw/AP1378_rv(配列番号15及び16)、AA560_fw/AA560_rv(配列番号17及び18)、SP722_fw/SP722_rv(配列番号19及び20)、Cspamy2_fw/Cspamy2_rv(配列番号21及び22)を用いてPCR及びIn-Fusion反応を行った。In-Fusion反応液で枯草菌を形質転換してそれぞれプラスミドpHY-AP1378、pHY-AA560、pHY-SP722、pHY-Cspamy2を構築した。
【0071】
変異体の構築方法は以下の手順で行った。5’末端にリバースプライマーとの相補配列を15塩基有し変異配列を含むフォワードプライマー、及び変異配列の直前の塩基を5’末端とするリバースプライマーを変異導入用プライマー対として用いた。上述のプラスミドpHY-BKoAmy又は本実施例にて作製したBkoAmy変異体発現プラスミドを鋳型として、変異導入用プライマー対を使用してPCRを行った。このPCR産物を用いて枯草菌を形質転換し、目的のBkoAmy変異体発現プラスミドを保持する形質転換体を取得した。
【0072】
(2)形質転換
宿主には、枯草菌168株(Bacillus subtilis Marburg No.168株:Nature,390,1997,p.249)を使用した。1mLのLB培地に枯草菌168株を植菌し、30℃、200rpmで一晩振盪培養した。1mLの新たなLB培地にこの培養液を10μL植菌して37℃、200rpmで3時間培養した。この培養液を遠心分離してペレットを回収した。ペレットに4mg/mLのリゾチーム(SIGMA)を含むSMMP(0.5Mシュークロース、20mMマレイン酸二ナトリウム、20mM塩化マグネシウム6水塩、35%(w/v)Antibiotic medium 3(Difco))を500μL添加し、37℃で1時間インキュベートした。次に遠心分離によりペレットを回収し、400μLのSMMPに懸濁した。懸濁液33μL、DNAを混合し、さらに100μLの40%PEGを加え攪拌し、さらにSMMPを350μL加えた後、30℃で1時間振盪した。この液200μLをテトラサイクリン(15μg/mL、SIGMA)を含むDM3再生寒天培地(0.8%寒天(和光純薬)、0.5%コハク酸2ナトリウム6水塩、0.5%カザミノ酸テクニカル(Difco)、0.5%酵母エキス、0.35%リン酸1カリウム、0.15%リン酸2カリウム、0.5%グルコース、0.4%塩化マグネシウム6水塩、0.01%牛血清アルブミン(SIGMA)、0.5%カルボキメチルセルロース、0.005%トリパンブルー(Merck)及びアミノ酸混液(トリプトファン、リジン、メチオニン各10μg/mL);%は(w/v)%)に塗抹して30℃で3日間インキュベートし、形成したコロニーを取得した。
【0073】
(3)酵素生産培養
15ppmテトラサイクリンを添加したLB培地300μLを分注した96穴ディープウェルプレートに(2)で得た組換え枯草菌コロニーを植菌した後、30℃、210rpmで一晩培養した。翌日、培養液6μLを2×L-マルトース培地(2%トリプトン、1%酵母エキス、1%NaCl、7.5%マルトース、7.5ppm硫酸マンガン五水和物、0.04%塩化カルシウム二水和物、15ppmテトラサイクリン;%は(w/v)%)100μLを分注した96穴ディープウェルプレートに植菌し、30℃、210rpmで2日間培養した後、菌体から産生された酵素を含む培養上清を遠心分離により回収した。
【0074】
(4)培養上清のタンパク質濃度測定
培養上清のタンパク質濃度測定にはプロテインアッセイラピッドキット ワコーII(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いた。アミラーゼ発現カセットを持たないpHY300PLK(タカラバイオ)導入株の培養上清のタンパク質濃度をブランクとすることで培養上清中のアミラーゼの濃度を算出した。
【0075】
(5)デンプン分解活性測定
各培養上清について、Phadebas(Phadebas AB)を用いてデンプン分解活性を測定した。Phadebasは青色色素と共有結合した不溶性デンプンから成る錠剤である。α-アミラーゼによるデンプン分解に伴って水溶性の青色色素が放出される。620nmの吸光度により測定される青色色素の濃度はサンプル中のアミラーゼ活性に比例する。
1/15M リン酸バッファー(pH7.4) 5mLにつき1錠の基質錠剤を懸濁して用いた。96穴ディープウェルプレートに500μLの基質懸濁液を分注した。1/15M リン酸バッファー(pH7.4)で適宣希釈した酵素溶液を添加して混合した。20℃で30分間静置した後、250μLの10%クエン酸水溶液を加えて反応を停止した。3000rpmで20分間遠心し上清100μLを新たな96穴プレートに移し、吸光度を620nmにおいて測定した。各測定値は活性測定の直線範囲内であることを確認した。ブランク(酵素非添加)の値を引くことでデンプン分解活性ΔA620を算出し、加えたアミラーゼ濃度で割ることで比活性ΔA620/ppmを求め、さらに野生型BkoAmyの比活性で割ることで相対デンプン分解活性を求めた。
【0076】
野生型BkoAmyと既存のバチルス属細菌由来の洗浄用アミラーゼの親酵素(AP1378、AA560、SP722)のデンプン分解活性を比較した結果、野生型BkoAmyが20℃において良好なデンプン分解活性を示した(
図1)。
野生型BkoAmyに303R、E、Q、H、S、G、V、I、K、D、T、A、M、C、L、N及び331S単独変異を導入した結果、20℃におけるデンプン分解活性が向上した(
図2及び
図4)。また、295位及び/又は296位の変異では活性向上効果が見られなかった一方で、予想外にも295H及び296Yと303位の上記変異を組み合わせることで顕著にデンプン分解活性が向上した(
図2)。さらに、295S、T、G、M、L、V、Q、Eと303Nの組み合わせにおいても同様にデンプン分解活性が向上した(
図3)。これに加え、295位及び/又は296位並びに303位の変異による活性向上効果が確認できた変異体において331S変異を導入した結果、さらに高いデンプン分解活性を示した(
図4)。この時最も高いデンプン分解活性を示した295H+296Y+303N+331S変異体のデンプン分解活性を、既存の洗浄用アミラーゼの親酵素(AP1378、AA560、SP722、Cspamy2)の活性と比較した結果、上記変異体が顕著に高い活性を有することが示された(
図5)。
【0077】
(6)洗浄力評価
直径5.5mmの円形に裁断したCS-26汚染布をCFT社から入手して使用した。96穴アッセイプレートの各ウェルにCS-26円形汚染布を2枚ずつ挿入し、水道水で1200倍に希釈したアタック抗菌EXスーパークリアジェル(花王)を200μLずつ加えた。適宣希釈した酵素溶液を10μLずつ添加し、シールをして20℃でキュートミキサーを用いて1200rpm、15分間振盪した。洗浄終了後、100μLの洗浄液を新たな96穴アッセイプレートに移し、488nmの吸光度を測定した。酵素溶液のかわりに水道水を加えたものをブランクとし、ブランクとの差分ΔA488を洗浄力として求めた。
変異導入の結果大幅な活性向上が見られた295H+296Y+303N+331Sは野生型Bkoamyと比較して低温で顕著に高い洗浄力を示した(
図6)。
【配列表】