(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】イミド基を持つアミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2020160105
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】辻本 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/071483(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054797(WO,A1)
【文献】特開2020-012103(JP,A)
【文献】特開2016-153217(JP,A)
【文献】特開2012-197237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表されるアミド酸オリゴマー(A)中のアミド酸単位の一部がイミド環に変換されており、イミド化率が1%~80%であるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有し、水中に分散させて測定した平均粒子径が100~500μmの範囲内である不定形粒子。
【化9】
(一般式(2)中、R
1およびR
2は、互いに同一または互いに異なっていてもよい二価の芳香族ジアミン残基を表し、R
3およびR
4は、互いに同一または互いに異なっていてもよい四価の芳香族テトラカルボン酸残基を表し、R
5およびR
6は、何れか一方が水素原子であり、他方がフェニル基であり、mおよびnは、1≦m、0≦n、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列は、ブロック、ランダムの何れであってもよい。)
【請求項2】
20重量%以下の溶媒を含有する請求項1に記載の不定形粒子。
【請求項3】
溶媒が、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒、ヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒、アルコール系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、エーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、または、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒であって、その沸点(混合溶媒では各々の単独溶媒での沸点)が130℃以下である請求項2に記載の不定形粒子。
【請求項4】
溶媒がメタノールと1,3-ジオキソランとの混合溶媒である請求項3に記載の不定形粒子。
【請求項5】
下記一般式(2)で表されるアミド酸オリゴマー(A)中のアミド酸単位の一部がイミド環に変換されており、イミド化率が0~1%であるイミド基含有アミド酸オリゴマー(P)の溶液を溶融加工する工程を含む請求項1に記載の不定形粒子の製造方法。
【化10】
(一般式(2)中、R
1およびR
2は、互いに同一または互いに異なっていてもよい二価の芳香族ジアミン残基を表し、R
3およびR
4は、互いに同一または互いに異なっていてもよい四価の芳香族テトラカルボン酸残基を表し、R
5およびR
6は、何れか一方が水素原子であり、他方がフェニル基であり、mおよびnは、1≦m、0≦n、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列は、ブロック、ランダムの何れであってもよい。)
【請求項6】
上記溶融加工を250℃以下の温度で行う請求項5に記載の不定形粒子の製造方法。
【請求項7】
溶融加工の際に押出機を使用する請求項6に記載の不定形粒子の製造方法。
【請求項8】
押出機内の滞留時間が1~30分間である請求項7に記載の不定形粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミド基を持つアミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドは、成形性に優れ、高分子系で最高レベルの耐熱性を有し、機械的特性および電気的特性等にも優れていることから、航空機、宇宙産業用機器、電気電子機器、一般産業用途および車輌用エンジン(周辺)部材等の広い分野で素材(耐熱複合材)として用いられている。それゆえ、マトリクス樹脂であるポリイミドを安価で簡便にかつ短時間で製造することができる方法が求められている。
【0003】
ポリイミドの製造方法として、特許文献1には、ポリアミド酸溶液を加熱処理して、溶媒からポリイミド粒子を沈澱させ、当該溶媒からポリイミドパウダーを直接採取するポリイミドパウダーの製造方法が記載されている。特許文献2には、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを反応溶媒中で反応させ、微細粒子を析出させた後、水を留去しながら反応を継続させ、ポリイミド粉末を製造する方法が記載されている。特許文献3には、末端変性イミドオリゴマーのNMP溶液をイオン交換水に投入し、析出した固形分を濾別して顆粒状の末端変性イミドオリゴマーを得た後、当該末端変性イミドオリゴマーを粉砕することで末端変性イミドオリゴマー粉末を得る製造方法が記載されている。
【0004】
また、ポリアミド酸の粉末を得て、それを成形することで、ポリイミドの粉末を単離することなく、直接にポリイミドの成形体を得る方法も知られている。特許文献4には、特定の溶媒中でポリアミド酸を重合させて懸濁液から粉粒体を取り出し、それを加熱成形してポリアミド酸成形体とし、さらにイミド化させる、ポリイミド成形体の製法が記載されている。
【0005】
また、ポリアミド酸の粉末を接着剤として使用できることも知られている。特許文献5,6には、ポリアミド酸の溶液を作製した後、複数の方法によってポリアミド酸の粉体を製造し、冷間圧延鋼の接着に使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-33875号公報
【文献】特開平11-302380号公報
【文献】WO 2018/180930 A1
【文献】特開平7-118388
【文献】特開平6-16811
【文献】特開平6-1856
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2に記載の技術では、ポリアミド酸を溶液中で加熱してポリイミドの溶液を作製した後、ポリイミド粒子を沈澱させ、回収、洗浄、乾燥することによって粉体状のポリイミドを製造している。上記特許文献3に記載の技術では、溶液中のイミドオリゴマーを貧溶媒で沈澱(析出)させ、回収、洗浄、乾燥することによって粉体状のイミドオリゴマーを製造している。上記特許文献4に記載の技術では、特定の溶媒中でポリアミド酸の懸濁液を作成し、ポリアミド酸を回収、洗浄、乾燥することによって粉体状のポリアミド酸を製造している。上記特許文献5,6に記載の技術では、上記に類似の方法のほか、ポリアミド酸の溶液を作製した後、溶媒を揮発させることによって、ポリアミド酸の粉体を製造している。
【0008】
従って、上記特許文献1~4に記載の技術は、工程が多く煩雑であり、製造に長時間(数時間)を要するので、ポリイミドを安価で簡便にかつ短時間で製造するという観点から見て、更なる改善の余地がある。また、上記特許文献5、6に記載の、ポリアミド酸の溶液から溶媒を揮発させることによってポリアミド酸の粉体を製造する技術は、ごく限られた組成のポリアミド酸と、ごく限られた種類の溶剤との組み合わせのみが例示されており、汎用性については全く不明であるうえ、また、得られるポリアミド酸の用途は接着剤に限られて例示されており、成形体を得るために適したポリアミド酸への適用については全く不明である。加えて、高沸点の非プロトン性溶媒を使用しており安全性に懸念があるうえ、その他の溶媒への適用については全く不明である。
【0009】
本発明の一態様は、従来技術と比較して、安価で簡便に、かつ極めて短時間で、イミド基を持つアミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子(P)を製造することができる製造方法、および当該アミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子(P)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アミド酸オリゴマーの溶液を溶融加工することにより、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子を安価で簡便、かつ極めて短時間(たとえば数分間)で製造することができること、また、得られたイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)はこれまでにない新規な物性および特性を有すること、を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明の一実施の形態は、以下の構成を含む。
[1]下記一般式(2)で表されるアミド酸オリゴマー(A)中のアミド酸単位の一部がイミド環に変換されており、イミド化率が1~80%(ここで、α~βはα以上β以下を表す。以下同じ)であるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有し、
水中に分散させて測定した平均粒子径が100~500μmの範囲内である不定形粒子。
【0012】
【0013】
(一般式(2)中、R1およびR2は、互いに同一または互いに異なっていてもよい二価の芳香族ジアミン残基を表し、R3およびR4は、互いに同一または互いに異なっていてもよい四価の芳香族テトラカルボン酸残基を表し、R5およびR6は、何れか一方が水素原子であり、他方がフェニル基であり、mおよびnは、1≦m、0≦n、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列は、ブロック、ランダムの何れであってもよい。)
[2]20重量%以下の溶媒を含有する[1]に記載の不定形粒子。
[3]溶媒が、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒、ヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒、アルコール系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、エーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒、または、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒であって、その沸点(混合溶媒では各々の単独溶媒での沸点)が130℃以下である[2]に記載の不定形粒子。
[4]溶媒がメタノールと1,3-ジオキソランとの混合溶媒である[3]に記載の不定形粒子。
[5]下記一般式(2)で表されるアミド酸オリゴマー(A)中のアミド酸単位の一部がイミド環に変換されており、イミド化率が0~1%であるイミド基含有アミド酸オリゴマー(P)の溶液を溶融加工する工程を含む[1]に記載の不定形粒子の製造方法。
【0014】
【0015】
(一般式(2)中、R1およびR2は、互いに同一または互いに異なっていてもよい二価の芳香族ジアミン残基を表し、R3およびR4は、互いに同一または互いに異なっていてもよい四価の芳香族テトラカルボン酸残基を表し、R5およびR6は、何れか一方が水素原子であり、他方がフェニル基であり、mおよびnは、1≦m、0≦n、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列は、ブロック、ランダムの何れであってもよい。)
[6]上記溶融加工を250℃以下の温度で行う[5]に記載の不定形粒子の製造方法。
[7]溶融加工の際に押出機を使用する[6]に記載の不定形粒子の製造方法。
[8]押出機内の滞留時間が1~30分間である[7]に記載の不定形粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を貧溶媒で沈澱(析出)させたり、粉砕したりする手間が掛からない。それゆえ、取り扱い性に優れ、従来技術と比較して、安価で簡便に、かつ極めて短時間(数分間)で、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子を製造することができる製造方法、および、これまでにない新規な物性および特性を有するイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】不定形粒子を光学顕微鏡で観察した一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては、特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。また、「重量」と「質量」は同義語として使用する。
【0019】
〔1.イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子〕
本発明の一実施の形態における、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は、不定形粒子であり、個々の粒子には鋭角な部分がある(球状ではない)。粒子が「不定形粒子」であるかどうかは、例えば光学顕微鏡を用いて観察することにより、容易に判定することができる。
【0020】
本発明のイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は、必須成分としてイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含み、さらに任意成分として、イミドオリゴマー(B)、溶媒(C)、その他の成分を含んでも良い。この中では、イミドオリゴマー(B)または溶媒(C)のいずれかを含むことが好ましく、イミドオリゴマー(B)および溶媒(C)を含むことがより好ましい。
イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)とイミドオリゴマー(B)は、化学的に対応していなくても良いが、化学的に対応していることが好ましい。つまり、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)はイミドオリゴマー(B)の前駆体であることが好ましく、イミドオリゴマー(B)は、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)から化学反応(イミド化)により生成されるものであることが好ましい。
【0021】
イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)は、上記一般式(2)で表されたアミド酸オリゴマー(A)中のアミド酸単位の一部がイミド環に変換されたものである。すなわち、アミド酸オリゴマー(A)は、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)とは異なる。
アミド酸単位から変換されたイミド環の割合は、イミド化率で表現することが出来る。
イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)のイミド化率は、1H-NMRで、芳香族1H由来のピーク面積と、残存アミド1H由来のピーク面積とを測定して算出することができる。本発明のイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)のイミド化率(Rp)は1~80%であるが、3~60%であることが好ましく、5~40%であることがより好ましい。
【0022】
言い換えると、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)においては、1分子中のアミド酸単位とイミド環単位のモル数が以下の関係にある。
0.01≦(イミド環単位のモル数)/(イミド環単位のモル数+アミド酸単位のモル数)≦0.80
好ましくは、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)においては、1分子中のアミド酸単位とイミド環単位のモル数が以下の関係にある。
0.03≦(イミド環単位のモル数)/(イミド環単位のモル数+アミド酸単位のモル数)≦0.60
より好ましくは、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)においては、1分子中のアミド酸単位とイミド環単位のモル数が以下の関係にある。
0.05≦(イミド環単位のモル数)/(イミド環単位のモル数+アミド酸単位のモル数)≦0.40
【0023】
本発明においては、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)が、上記のような特定の範囲のイミド化率(Rp)を有することが、本発明の効果を奏するために必要である。イミド化率(Rp)が1%未満の場合には、流動性が高すぎることにより、液ダレ・気泡などの不具合が発生する場合がある。イミド化率(Rp)が80%を超える場合には、流動性が低すぎることにより、成形性が劣る場合がある。また、本発明においては、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)が有するイミド基が、機械物性、たとえば破断伸びにすぐれた成形体を与えることに寄与していると考えられる。
【0024】
アミド酸オリゴマー(P)は、イミド化率(Rp)が60%を超えて80%未満であっても成形流動性を確保することが可能であるが、より高い成形流動性を求める場合には、イミド化率(Rp)が60%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
【0025】
また、イミド化率(Rp)が低い場合には、たとえば厚みのある成形体をイミド化・成形を同時に実施して得ようとする場合、イミド化によって生成する水が抜けにくく気泡となる場合があるため、イミド化率(Rp)が3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
【0026】
また、イミド化率(Rp)は成形体の性状や成形条件によって適宜設定する必要がある。たとえば、厚みのある成形体をイミド化・成形を同時に実施して得ようとする場合には、イミド化率(Rp)が5%以上80%未満であることが好ましく、10%以上80%未満であることがより好ましい。またたとえば、その機械物性において破断伸びにすぐれた成形体を得ようとする場合には、イミド化率(Rp)が5%以上50%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましい。
【0027】
イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)のイミド化率(Rp)は、溶融加工の温度および時間を制御することによって制御することができる。また、異なったイミド化率を有する複数種のイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を配合することによっても調整可能である。尚、イミド化率の測定方法は、実施例にて詳述する。
【0028】
本発明の、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子に、イミドオリゴマー(B)が含まれる場合には、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)とイミドオリゴマー(B)との合計を100wt%として、(P)が50wt%以上100wt%未満であることが好ましい。
【0029】
また、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)とイミドオリゴマー(B)とが有するすべてのイミド単位とアミド酸単位とを勘案したイミド化率(Rpb)が1~80%であることが好ましい。言い換えると、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)とイミドオリゴマー(B)とを含有する不定形粒子においては、そのすべてのアミド酸単位とイミド環単位のモル数が以下の関係にあることが好ましい。
0.01≦(イミド環単位のモル数)/(イミド環単位のモル数+アミド酸単位のモル数)≦0.80
【0030】
化学的に対応しているアミド酸オリゴマー(P)とイミドオリゴマー(B)が併存する場合には、アミド酸オリゴマー(P)がイミドオリゴマー(B)よりも低い温度で軟化・流動するため、アミド酸オリゴマーが相対的に少量(たとえば、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)とイミドオリゴマー(B)とが有するすべてのイミド単位とアミド酸単位とを勘案したイミド化率(Rpb)が50%以上80%未満の領域)であっても、成形流動性を確保することが可能である。しかしながら、イミド化率(Rpb)が80%を超える場合には、成形性が劣る場合がある。また、イミド化率(Rpb)が低い場合には、たとえば厚みのある成形体をイミド化・成形を同時に実施して得ようとする場合、イミド化によって生成する水が抜けにくく気泡となる場合があるため、成形体の性状や成形条件によって適宜設定する必要がある。たとえば、厚みのある成形体をイミド化・成形を同時に実施して得ようとする場合には、イミド化率(Rpb)が5%以上80%未満であることが好ましく、10%以上80%未満であることがより好ましい。またたとえば、その機械物性において破断伸びにすぐれた成形体を得ようとする場合には、イミド化率(Rpb)が5%以上50%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は、分子量が互いに異なるイミド基を持つアミド酸オリゴマーの混合物であってもよい。また、モノマー組成が互いに異なるイミド基を持つアミド酸オリゴマーの混合物であってもよい。これらの場合、それぞれのイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P1、P2・・・)に化学的に対応したイミドオリゴマー(B1、B2・・・)が含まれていることが好ましい。
【0032】
イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子に含まれる可溶性ポリマー成分(たとえば、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)とイミドオリゴマー(B))の分子量(重量平均分子量)は、GPCによって確認することができる。上記分子量は、1000~100000であることが好ましく、3000~50000であることがより好ましく、5000~30000であることがさらに好ましい。イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)の分子量は、溶融加工の温度および時間を制御することによって制御することができる。尚、分子量の測定条件は、GPCにより、測定するイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子中のオリゴマーの構造に応じて最適となるように設定される。
【0033】
イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子の平均粒子径は、当該イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子を水中に分散させることによって測定することができる。上記平均粒子径は、10~500μmの範囲内であることが好ましく、10~300μmの範囲内であることがより好ましく、20~100μmの範囲内であることがさらに好ましい。また、粒子径分布(D50)は、100~500μmの範囲内であることが好ましい。尚、平均粒子径の測定方法は、実施例にて詳述する。
【0034】
本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子の最低溶融粘度は、20000Pa・sec以下であることが好ましく、10000Pa・sec以下であることがより好ましく、5000Pa・sec以下であることがさらに好ましく、3000Pa・sec以下であるこ
とが特に好ましい。本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子の最低溶融粘度は、1~20000Pa・secであることが好ましいものの、この範囲に限定されない。最低溶融粘度が上記範囲内であれば、本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は成形性により優れる。尚、本明細書において、最低溶融粘度とは、後述の実施例に記載の方法によって測定された値を指す。
【0035】
本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子の280℃における溶融粘度は、200~1000000Pa・secであることが好ましく、200~800000Pa・secであることがより好ましく、200~500000Pa・secであることがさらに好ましい。280℃における溶融粘度が1000000Pa・secを超えると流動し難くなる傾向がある。そのため、繊維強化複合材料を作製するとき、繊維間にイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)が含浸し難く、ボイド若しくは未含浸部分等の欠陥が低減された、または、無くなった繊維強化複合材料を得ることが難しくなる傾向がある。また、280℃における溶融粘度が200Pa・secを下回ると樹脂が流動し易くなり過ぎてプリプレグが作製し難くなる傾向があり、結果としてプリプレグとしてのドレープ性の確保が難しくなる場合がある。本明細書において、280℃における溶融粘度とは、後述の実施例に記載の方法によって測定された値を指す。
【0036】
本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)は、下記一般式(2)で表されるアミド酸オリゴマー(A)中のアミド酸単位の一部がイミド環に変換されており、イミド化率(Rp)が1~80%であるものである。
【0037】
〔2.イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)〕
以下、本明細書において「アミド酸オリゴマー」は、特記しない限り、「末端変性アミド酸オリゴマー」と同義語として使用する。
本発明の、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)は、下記一般式(2)で表されるアミド酸オリゴマー(A)中のアミド酸単位の一部がイミド環に変換されており、イミド化率(Rp)が1~80%であるイミド基を持つアミド酸オリゴマーである。
【0038】
【0039】
(一般式(2)中、R1およびR2は、互いに同一または互いに異なっていてもよい二価の芳香族ジアミン残基を表し、R3およびR4は、互いに同一または互いに異なっていてもよい四価の芳香族テトラカルボン酸残基を表し、R5およびR6は、何れか一方が水素原子であり、他方がフェニル基であり、mおよびnは、1≦m、0≦n、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列は、ブロック、ランダムの何れであってもよい。)
【0040】
本発明の一実施の形態において、一般式(2)中、R1およびR2で表される二価の芳香族ジアミン残基とは、芳香族ジアミン類が有する二つのアミノ基の間に存在する芳香族有機基を指す。また、本発明の一実施の形態において、一般式(2)中、R3およびR4で表される四価の芳香族テトラカルボン酸残基とは、芳香族テトラカルボン酸が有する四つのカルボニル基の間に存在する芳香族有機基を指す。ここで、芳香族有機基とは、芳香環を有する有機基である。当該芳香族有機基は、炭素数4~30の有機基であることが好ましく、炭素数4~18の有機基であることがより好ましく、炭素数4~12の有機基であることがさらに好ましい。また、芳香族有機基は、炭素数6~30の炭素と水素とを含む基であることが好ましく、炭素数6~18の炭素と水素とを含む基であることがより好ましく、炭素数6~12の炭素と水素とを含む基であることがさらに好ましい。R1およびR2で表される二価の芳香族ジアミン残基は、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。また、R1およびR2で表される二価の芳香族ジアミン残基は、繰り返し単位毎に異なる芳香族ジアミン残基であってもよい。
【0041】
R1およびR2で表される二価の芳香族ジアミン残基としては、具体的には、例えば、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(Ph-ODA)、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、1,3-ジアミノベンゼン、4-フェノキシ-1,3-ジアミノベンゼンから選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0042】
一般式(2)で表されるアミド酸オリゴマー(A)は、例えば、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを用いたアミド酸オリゴマーであって、以下の方法で合成されていることがより好ましい。即ち、一般式(2)で表されるアミドオリゴマー(A)は、
(i) 1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸類(特に、その酸二無水物)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類(特に、その酸二無水物)、およびビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル類(特に、その酸二無水物)からなる群より選ばれる、1種類以上のテトラカルボン酸類と、
(ii)2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類と、
(iii) アミド酸オリゴマーに不飽和末端基を導入するための不飽和酸無水物である4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸(PEPA)と、
を、ジカルボン酸基の全量と1級アミノ基の全量とがほぼ等しい量となるように仕込み、有機溶媒の存在下(または非存在下)で反応させることによって合成されていることがより好ましい。
【0043】
尚、ジカルボン酸基が複数隣接している場合は、「カルボキシル基の数÷2」を「ジカルボン酸基の数」とする。例えば、「COOH~COOH~COOH~COOH」という構造中には、2個のジカルボン酸基が含まれているとする。
【0044】
このように合成されたアミド酸オリゴマー(A)において、R3およびR4は、それぞれ独立に、上記1種類以上の芳香族テトラカルボン酸類に由来する四価の芳香族テトラカルボン酸残基から選択され、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。また、1<mおよび1<nの場合(m,nは整数)には、各繰り返し単位のR3(またはR4)は、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。さらに、1<mの場合には、R5がフェニル基であってR6が水素原子である繰り返し単位と、R5が水素原子であってR6がフェニル基である繰り返し単位との、一方または両方が任意に含まれていてもよい。
【0045】
一般式(2)中、mおよびnは、1≦m、0≦n、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たす。
本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)は、1≦m≦5であってもよく、0<n≦5であってもよく、1<m+n≦10であってもよく、0.5≦m/(m+n)<1であってもよい。さらに、本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)は、4≦m+nであることがより好ましく、5≦m+nであることがさらに好ましい。mおよびnが上記関係を満たす場合には、本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)は、溶液の保存安定性にさらに優れ、硬化して得られるポリイミドは、耐熱性および機械的強度にさらに優れる。尚、mおよびnは、原料として用いるテトラカルボン酸類および芳香族ジアミン類の種類、モル比等を制御することによって、容易に調整することができる。
【0046】
本明細書において「繰り返し単位の配列はブロック、ランダムの何れであってもよい」とは、繰り返し単位の部分がブロック重合体であってもよく、ランダム重合体であってもよいことを意図する。
【0047】
上記イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)は、より好ましくは、主鎖にアミド結合を有するアミド酸オリゴマーであって、(i) 末端(より好ましくは両末端)に4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸に由来する付加重合可能な不飽和末端基を有しており、(ii)1≦m+n≦20の関係を満たし、(iii) 室温(例えば、23℃)で固体である。
【0048】
上記1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸類としては、例えば、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)、および1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸の酸誘導体(エステル、塩等)が挙げられる。これらの中で、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物がより好ましい。
【0049】
上記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸の酸誘導体(エステル、塩等)が挙げられる。これらの中で、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がより好ましい。
【0050】
上記ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル類としては、例えば、ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル、ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル二無水物(s-ODPA)、およびビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテルの酸誘導体(エステル、塩等)が挙げられる。これらの中で、ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル二無水物がより好ましい。
【0051】
本発明の一実施の形態において、R3および/またはR4は、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類、およびビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル類以外の芳香族テトラカルボン酸類に由来する構造を有していてもよい。つまり、上記イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類、およびビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル類以外の、他の芳香族テトラカルボン酸類を原料に加えて(モノマーとして用いて)合成してもよい。このような他の芳香族テトラカルボン酸類としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i-BPDA)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。他の芳香族テトラカルボン酸類は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
また、上記イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル以外の、他の芳香族ジアミン類を原料に加えて(モノマーとして用いて)合成してもよい。このような他の芳香族ジアミン類としては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、2,6-ジエチル-1,3-ジアミノベンゼン、4,6-ジエチル-2-メチル-1,3-ジアミノベンゼン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-ODA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6-ジエチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジエチルアニリン)、ビス(2-エチル-6-メチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2-エチル-6-メチルアニリン)、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェノキシ)プロパン、2,2-ビス[4’-(4''-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン等が挙げられる。上述した中では、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、および1,3-ジアミノベンゼンが、他の芳香族ジアミン類としてより好ましい。他の芳香族ジアミン類は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
特に、機械的強度が求められる用途においては、上記アミド酸オリゴマーの合成において、(i) 2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルと、(ii)他の芳香族ジアミン類と、を併用することが好ましい。この場合には、他の芳香族ジアミン類の使用量は、芳香族ジアミン類の合計量を100mol%として、0を超えて50mol%以下であることが好ましく、0を超えて25mol%以下であることがより好ましく、0を超えて10mol%以下であることがさらに好ましい。このときに用いる他の芳香族ジアミン類としては、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、および1,3-ジアミノベンゼンから選択される1種類以上が好ましい。
【0054】
同様に、機械的強度が求められる用途においては、一般式(1)中、0.50≦m/(m+n)<1であることが好ましく、0.75≦m/(m+n)<1であることがより好ましく、0.90≦m/(m+n)<1であることがさらに好ましく、0.90≦m/(m+n)≦0.95であることがより一層好ましい。
【0055】
このようなアミド酸オリゴマーは、取り扱い性に優れ、高い溶解性を有する上に、機械的特性も高くなる。
【0056】
末端変性(エンドキャップ)用の不飽和酸無水物としては、4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸を使用することが好ましい。上記アミド酸オリゴマーを合成するときには、4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸を、芳香族テトラカルボン酸類の合計量を100mol%として、5~200mol%の範囲で用いることが好ましく、5~150mol%の範囲内の割合で用いることがより好ましい。
【0057】
〔3.イミドオリゴマー(B)〕
本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は、任意成分として、下記一般式(1)で表されるイミドオリゴマー(B)を含んでいても良い。イミドオリゴマー(B)と、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)あるいはアミド酸オリゴマー(A)とは、化学的に対応していることが好ましい。つまり、イミドオリゴマー(B)は、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)あるいはアミド酸オリゴマー(A)から化学反応(イミド化)により生成されるものであることが好ましい。
【0058】
ここで、イミドオリゴマー(B)は、イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)とは異なる。すなわち、イミドオリゴマー(B)は、下記一般式(1)で表されるイミドオリゴマー(B)中のイミド単位の一部がアミド酸単位に変換されていても良く、イミド化率(Rb)が80%を超えて100%以下である。好ましくは、イミド化率が90%以上100%以下である。
【0059】
言い換えると、イミドオリゴマー(B)においては、1分子中のアミド酸単位とイミド環単位のモル数が以下の関係にある。
0.80<(イミド環単位のモル数)/(イミド環単位のモル数+アミド酸単位のモル数)≦1.00
好ましくは、イミドオリゴマー(B)においては、1分子中のアミド酸単位とイミド環単位のモル数が以下の関係にある。
0.90≦(イミド環単位のモル数)/(イミド環単位のモル数+アミド酸単位のモル数)≦1.00
【0060】
尚、本明細書において「イミドオリゴマー」は、特記しない限り、「末端変性イミドオリゴマー」と同義語として使用する。
【0061】
【0062】
(一般式(1)中、R1およびR2、R3およびR4、R5およびR6、mおよびn、繰り返し単位の配列は、一般式(2)と同様である。)
本発明の一実施の形態において、一般式(1)中、R1およびR2で表される二価の芳香族ジアミン残基とは、一般式(2)と同様である。また、本発明の一実施の形態において、一般式(1)中、R3およびR4で表される四価の芳香族テトラカルボン酸残基とは、一般式(2)と同様である。
【0063】
R1およびR2で表される二価の芳香族ジアミン残基としては、一般式(2)と同様に、具体的には、例えば、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(Ph-ODA)、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、1,3-ジアミノベンゼン、4-フェノキシ-1,3-ジアミノベンゼンから選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0064】
一般式(1)で表されるイミドオリゴマー(B)は、例えば、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを用いたイミドオリゴマーであって、対応する(A)からイミド化によって誘導されていることが好ましい。
【0065】
このように誘導されたイミドオリゴマー(B)において、R3およびR4は、一般式(2)と同様である。
【0066】
一般式(2)中、mおよびnは、一般式(2)と同様である。
【0067】
上記イミドオリゴマーは、より好ましくは、主鎖にイミド結合を有するイミドオリゴマーであって、(i) 末端(より好ましくは両末端)に4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸に由来する付加重合可能な不飽和末端基を有しており、(ii)1≦m+n≦20の関係を満たし、(iii) 室温(例えば、23℃)で固体である。
【0068】
上記1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸類としては、例えば、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)、および1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸の酸誘導体(エステル、塩等)が挙げられる。これらの中で、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物がより好ましい。尚、R3およびR4が1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸類である場合には、イミドオリゴマーは、下記一般式(1-2)で表される。一般式(1-2)中、R1、R2、R5、R6、mおよびnの定義は、一般式(1)における定義と同じである。
【0069】
【0070】
上記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸の酸誘導体(エステル、塩等)が挙げられる。これらの中で、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がより好ましい。尚、R3およびR4が3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類である場合には、イミドオリゴマーは、下記一般式(1-3)で表される。一般式(1-3)中、R1、R2、R5、R6、mおよびnの定義は、一般式(1)における定義と同じである。
【0071】
【0072】
上記ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル類としては、例えば、ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル、ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル二無水物(s-ODPA)、およびビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテルの酸誘導体(エステル、塩等)が挙げられる。これらの中で、ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル二無水物がより好ましい。尚、R3およびR4がビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル類である場合には、イミドオリゴマーは、下記一般式(1-4)で表される。一般式(1-4)中、R1、R2、R5、R6、mおよびnの定義は、一般式(1)における定義と同じである。
【0073】
【0074】
本発明の一実施の形態において、R3および/またはR4は、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類、およびビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル類以外の芳香族テトラカルボン酸類に由来する構造を有していてもよい。つまり、上記イミドオリゴマーを、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類、およびビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル類以外の、他の芳香族テトラカルボン酸類を原料に加えて(モノマーとして用いて)合成してもよい。このような他の芳香族テトラカルボン酸類としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i-BPDA)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。他の芳香族テトラカルボン酸類は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0075】
また、上記イミドオリゴマー(B)を誘導するアミド酸オリゴマー(A)を、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル以外の、他の芳香族ジアミン類を原料に加えて(モノマーとして用いて)合成してもよい。このような他の芳香族ジアミン類としては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、2,6-ジエチル-1,3-ジアミノベンゼン、4,6-ジエチル-2-メチル-1,3-ジアミノベンゼン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-ODA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6-ジエチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジエチルアニリン)、ビス(2-エチル-6-メチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2-エチル-6-メチルアニリン)、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェノキシ)プロパン、2,2-ビス[4’-(4''-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン等が挙げられる。上述した中では、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、および1,3-ジアミノベンゼンが、他の芳香族ジアミン類としてより好ましい。他の芳香族ジアミン類は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0076】
特に、機械的強度が求められる用途においては、上記アミド酸オリゴマーの合成において、(i) 2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルと、(ii)他の芳香族ジアミン類と、を併用することが好ましい。この場合には、他の芳香族ジアミン類の使用量は、芳香族ジアミン類の合計量を100mol%として、0を超えて50mol%以下であることが好ましく、0を超えて25mol%以下であることがより好ましく、0を超えて10mol%以下であることがさらに好ましい。このときに用いる他の芳香族ジアミン類としては、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、および1,3-ジアミノベンゼンから選択される1種類以上が好ましい。
【0077】
同様に、機械的強度が求められる用途においては、一般式(1)中、0.50≦m/(m+n)<1であることが好ましく、0.75≦m/(m+n)<1であることがより好ましく、0.90≦m/(m+n)<1であることがさらに好ましく、0.90≦m/(m+n)≦0.95であることがより一層好ましい。
【0078】
このようなアミド酸オリゴマーは、取り扱い性に優れ、高い溶解性を有する上に、機械的特性も高くなる。
【0079】
末端変性(エンドキャップ)用の不飽和酸無水物としては、4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸を使用することが好ましい。上記アミド酸オリゴマーを合成するときには、4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸を、芳香族テトラカルボン酸類の合計量を100mol%として、5~200mol%の範囲で用いることが好ましく、5~150mol%の範囲内の割合で用いることがより好ましい。
【0080】
〔4.溶媒〕
アミド酸オリゴマー(P)を含有する粒子は、任意成分として、溶媒(C)を含んでいても良い。アミド酸オリゴマー(P)を含有する粒子における溶媒(C)の含有率(残存溶媒)は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、8重量%以下であることがさらに好ましい。
また、上記溶媒は、特に限定されないものの、例えば、アミド酸オリゴマーの合成時に用いた溶媒が挙げられる。
【0081】
例えばアルコール系溶媒、エーテル系溶媒、ヒドロキシエーテル系溶媒からなる群より選択される一種以上の溶媒を含む溶媒を挙げることが出来る、
【0082】
さらに例示すると、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒;ヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒;アルコール系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒;エーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒;または、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒;が挙げられる。また、これら溶媒は、単独溶媒で用いられる場合であっても混合溶媒で用いられる場合であっても、その沸点(混合溶媒では各々の単独溶媒での沸点)が130℃以下であることがより好ましい。これらの中では、メタノールと1,3-ジオキソランとの混合溶媒がより好ましい。
【0083】
尚、溶媒の含有率は、アミド酸オリゴマーを含有する粒子をDSCによってガラス転移温度(Tg)付近に加熱して軟化させ、内部に取り込まれている溶媒を揮発させることによって測定することができる。即ち、本明細書において、溶媒の含有率(残存溶媒)とは、TGA-DSCにおける、ガラス転移温度付近でのアミド酸オリゴマーを含有する粒子の重量減少率から算出した値を指す。
【0084】
〔5.その他の添加物〕
本発明の一実施の形態に係るイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は、他の可溶性ポリイミド或いは熱可塑性ポリイミドと混合してもよい。上記熱可塑性ポリイミドは、加熱により軟性になるポリイミドであり、市販品が挙げられるものの、特に限定されない。
【0085】
〔6.イミド化・硬化物〕
本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子をイミド化・硬化して得られるポリイミド樹脂の空気中での5%重量減少温度は、520℃以上であることが好ましく、530℃以上であることがより好ましく、535℃以上であることがさらに好ましい。空気中での5%重量減少温度は、高温環境下でポリイミド樹脂を長期間使用したときの酸化劣化速度と相関があると考えられる。空気中での5%重量減少温度が高い程、ポリイミド樹脂を高温環境下で長期間使用することができる。即ち、空気中での5%重量減少温度が高い程、長期間の耐熱安定性に優れていると言える。尚、空気中での5%重量減少温度は、後述の実施例に記載の方法によって測定された値を指す。
【0086】
本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は、プレスして加熱溶融させ、イミド化・硬化させることによって例えばフィルム状のポリイミドとすることができる。このフィルムは、これまでにない新規な物性および特性を有し、取り扱い性に優れると共に、成型性に優れ、また、優れた耐熱性、機械的物性を示す繊維強化複合材料が得られるという利点を有する。
【0087】
イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は、航空機、宇宙産業用機器および車輌用エンジン(周辺)部材、搬送用アーム、ロボットアーム、ロール材、摩擦材、軸受け等の摺動性部材等の一般産業用途を初めとした、成形性の容易さおよび高い耐熱性が求められる広い分野で利用可能である。そして、航空機部材としては、例えば、エンジンのファンケース、インナーフレーム、動翼(ファンブレード等)、静翼(構造案内翼(SGV)等)、バイパスダクト、各種配管等が挙げられる。車輌部材としては、例えば、ブレーキ部材、エンジン部材(シリンダー、モーターケース、エアボックス等)、エネルギー回生システム部材等が挙げられる。
【0088】
〔7.イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子の製造方法〕
上記イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)は、具体的な一例を挙げれば、以下の方法で合成することができる。
1.(i) 3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸類(特に、この酸二無水物)、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸類(特に、この酸二無水物)、およびビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル類(特に、この二無水物)からなる群より選ばれる、1種類以上の芳香族テトラカルボン酸類と、(ii)2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類と、(iii) 4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸と、を、ジカルボン酸基の全量と1級アミノ基の全量とがほぼ等しい量となるように用意する。
2.用意した各モノマーを、有機溶媒中で、約100℃以下(好ましくは約80℃以下)の反応温度で重合させることにより、溶液の状態のアミド酸オリゴマー(A)を合成する。
3.上記アミド酸オリゴマーの溶液を、180℃以下の温度で溶融加工する。このようにして、末端に4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸残基を有するアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子が得られる。
【0089】
上記アミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子のより好ましい製造方法の具体的な一例としては、以下の方法が挙げられる。
1.2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類を、有機溶媒中に均一に溶解させる。
2.得られた溶液に、芳香族テトラカルボン酸二無水物を加えて均一に溶解させる。この芳香族テトラカルボン酸二無水物は、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、およびビス(3,4-カルボキシフェニル)エーテル二無水物から選択される1種類以上である。
3.得られた溶液を、約5~60℃の反応温度にて、1~180分間程度攪拌しながら反応させる。
4.得られた反応液に、4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸を加えて、均一に溶解させる。
5.得られた溶液を、約5~60℃の反応温度にて、1~180分間程度攪拌しながら反応させる。このようにして、溶液の状態のアミド酸オリゴマー(A)を合成する。
6.得られた反応液を、180℃以下の温度で溶融押出することにより、イミド化反応を起こさせると共に粒子状とする。溶融押出後、必要に応じて、得られた粒子を室温付近まで冷却する。これにより、上記イミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子を合成する。
【0090】
上記合成における全てまたは一部の工程は、不活性ガス雰囲気下(窒素ガス、アルゴンガス等の雰囲気下)または減圧下で行うことが好ましい。
【0091】
上記合成で用いる有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、γ-ブチロラクトン(GBL)、シクロヘキサノン、および、メタノールと1,3-ジオキソランとの混合溶媒等が挙げられる。これら有機溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これら有機溶媒は、可溶性ポリイミドに関する公知技術を適用して、適宜選択することができる。これらの中で、メタノールと1,3-ジオキソランとの混合溶媒を用いることがより好ましい。
【0092】
即ち、本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子の製造方法は、下記一般式(2)で表されるアミド酸オリゴマー(A)の溶液を溶融加工する工程を包含する方法である。
【0093】
【0094】
(式(2)中、R1およびR2は、同一または互いに異なっていてもよい二価の芳香族ジアミン残基を表し、R3およびR4は、同一または互いに異なっていてもよい二価の芳香族テトラカルボン酸残基を表し、R5およびR6は、水素原子またはフェニル基であって、何れか一方がフェニル基であり、mおよびnは、1≦m、0≦n、1≦m+n≦20および0.05≦m/(m+n)≦1の関係を満たし、繰り返し単位の配列は、ブロック、ランダムの何れであってもよい。)
アミド酸オリゴマーの溶液は、上述したように、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類と末端変性用の不飽和酸無水物とを溶媒中で反応させることによって製造することができる。アミド酸オリゴマーの溶液の製造方法は、公知の製造方法を採用することができ、上述した方法に特に限定されない。
【0095】
アミド酸オリゴマーの溶液を調製するのに用いる溶媒、即ち、アミド酸オリゴマーを溶解させる溶媒としては、反応時に用いる溶媒が好適であり、具体的には、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、沸点202℃(以下、特に断りのない限り、沸点は常圧下での温度を示す))、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、沸点165℃)、N,N-ジエチルアセトアミド(沸点185℃)、N-メチルカプロラクタム(減圧下(25mmHg)での沸点120℃)等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン(GBL、沸点204℃)等のエステル系溶媒;シクロヘキサノン(沸点156℃)等のケトン系溶媒;1,3-ジオキサン(沸点105℃)、1,4-ジオキサン(沸点101℃)、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、1,3-ジオキソラン(沸点75℃)、1,2-ジメトキシエタン(沸点83℃)等のエーテル系溶媒;メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、1-プロパノール(沸点98℃)、2-プロパノール(沸点82℃)等のアルコール系溶媒;メトキシメタノール(沸点90~95℃)、エトキシメタノール(沸点102℃)、2-メトキシエタノール(沸点124℃)、2-エトキシエタノール(沸点135℃)、1-メトキシ-2-プロパノール(沸点119℃)等のヒドロキシエーテル系溶媒;が挙げられる。これら溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、上記溶媒として、例えばメタノールと1,3-ジオキソランとの混合溶媒等の混合溶媒を用いてもよい。
【0096】
溶媒の沸点(常圧下)は、溶融加工時における揮発のし易さから、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることがさらに好ましく、100℃以下であることが最も好ましい。沸点(常圧下)が200℃を超えると、アミド酸オリゴマーの析出が円滑に進行しなかったり、溶媒を揮発させ難かったりする場合がある。
【0097】
また、揮発時におけるイミドオリゴマーの析出のし易さから、溶媒は、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、およびヒドロキシエーテル系溶媒、並びに、これら溶媒の混合溶媒がより好ましく、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、およびヒドロキシエーテル系溶媒、並びに、これら溶媒の混合溶媒がさらに好ましく、エーテル系溶媒、およびヒドロキシエーテル系溶媒、並びに、これら溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒が特に好ましい。エーテル系溶媒は、一分子当たり酸素原子を2つ以上有していることが、溶解性に優れることからより好ましい。アミド酸オリゴマーを溶解させる能力が高すぎる溶媒は、アミド酸オリゴマーの析出が円滑に進行しなかったり、溶媒を揮発させ難かったりする場合がある。また、アミド酸オリゴマーを溶解させる能力が低すぎる溶媒では、適切な濃度のアミド酸オリゴマー溶液を得ることができない。
【0098】
上記例示の溶媒のうち、アミド酸オリゴマーの原料として用いるテトラカルボン酸類および芳香族ジアミン類の溶解性に優れるアルコール系溶媒と、上記テトラカルボン酸類および得られるアミド酸オリゴマーの溶解性に優れるエーテル系溶媒との混合溶媒;アルコール系溶媒およびエーテル系溶媒の特徴を併せ持つヒドロキシエーテル系溶媒の単独溶媒;アルコール系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒;エーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒;または、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒とヒドロキシエーテル系溶媒との混合溶媒;が、アミド酸オリゴマーを効率よく重合することができるので特に好ましい。そして、溶解性を考慮して、エーテル系溶媒は、一分子当たり酸素原子を2つ以上有していることがより好ましい。また、これら溶媒は、単独溶媒で用いられる場合であっても混合溶媒で用いられる場合であっても、その沸点(混合溶媒では各々の単独溶媒での沸点)が130℃以下であることがより好ましい。そして、揮発性を考慮すれば、アルコール系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒が、共沸混合物を形成して揮発することからさらに好ましい。アルコール系溶媒およびヒドロキシエーテル系溶媒は、分子が有しているヒドロキシル基が、例えば酸素による自動酸化の途中でエーテル系溶媒から形成されるおそれのあるラジカルを安定化させるため、アミド酸オリゴマーを得るときに過酸化物が生成され難くなるという優れた点がある。即ち、アルコール系溶媒およびヒドロキシエーテル系溶媒は、エーテル系溶媒の安定化剤としての働きも備えている。上記ヒドロキシエーテル系溶媒は、エーテル系溶媒と異なり、単独溶媒で用いた場合でも自己を安定化させる働きがある。但し、更なる安定化を期待して、アルコール系溶媒との混合溶媒として用いてもよい。
【0099】
アルコール系溶媒とエーテル系溶媒との混合溶媒としては、具体的には、例えば、メタノールと1,3-ジオキソランとの混合溶媒が好適であり、メタノール:1,3-ジオキソランが重量比で1:4~4:1の混合溶媒がより好ましく、1:2~2:1の混合溶媒がさらに好ましい。
【0100】
アミド酸オリゴマーの溶液の濃度は、10~90重量%であることが好ましく、20~70重量%であることがより好ましく、30~50重量%であることがさらに好ましい。アミド酸オリゴマーの溶液の濃度が上記範囲内であると、アミド酸オリゴマーを含有する粒子を効率的に製造することができる。
【0101】
溶融加工する工程では、アミド酸オリゴマー(A)の溶液から溶媒を揮発させながら、アミド酸オリゴマーを溶融加工してイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を作製する。
上記溶融加工は、180℃以下の温度で行うことが好ましい。従って、溶融加工における加工機の設定温度は、80~230℃であることが好ましく、100~210℃であることがより好ましく、120~190℃であることがさらに好ましい。加工機の設定温度が80℃未満であると、溶媒の揮発が不十分な傾向にある。加工機の設定温度が230℃を超えると、対応するイミドオリゴマーが過剰に生成したり、所望しない硬化反応が促進される傾向にある。溶融加工するときの温度を調節することにより、イミド化反応を容易に制御することができる。
【0102】
溶融加工する方法は、特に限定されないものの、加工機として押出機を用いて溶融押出する方法が簡便である。溶融加工する工程において使用することができる押出機は、アミド酸オリゴマーを加熱して、溶融混練しながら押出することができる押出機であればよく、例えば、一軸押出機、二軸押出機が挙げられるが、特に限定されない。中でも、二軸のスクリュー型押出機が好ましい。押出機は、その先端に多孔板を備えていてもよい。
【0103】
押出機は、溶融押出を好適に実施することができるように、供給口側から押出口側に向かって温度勾配を設けることが望ましい。具体的には、供給口側の温度は、室温~80℃であることが好ましく、室温~50℃であることがより好ましく、室温付近℃であることがさらに好ましい。押出口側の温度は、80~230℃であることが好ましく、100~210℃であることがより好ましく、120~190℃であることがさらに好ましい。
【0104】
押出機は、アミド酸オリゴマーの溶液から溶媒を揮発させる脱溶媒装置、必要な場合に所望のイミド化率に達するまでイミド化反応(脱水反応)を行う反応器、および得られたアミド酸オリゴマーを粒子状にする粉体化装置の役割を果たす。それゆえ、押出機内で、供給口側から押出口側に向かって、溶媒の揮発(脱溶媒)、必要な場合のイミド化反応、および粉体化を連続的に実施することができる。
【0105】
即ち、本発明の一実施の形態におけるアミド酸オリゴマー含有する粒子の製造方法においては、例えば押出機を用いて、アミド酸オリゴマーの溶液を加熱しながら溶融混練し、溶融混練中に溶媒、および必要な場合においては、イミド化反応によって生成した水を揮発させながらイミド化反応を行うので、部分的なイミド化が必要な場合であってもイミド化剤および脱水化剤を添加しなくてもよい。
【0106】
押出機内におけるアミド酸オリゴマーの滞留時間は、1~30分間であることが好ましく、2~20分間であることがより好ましく、3~10分間であることがさらに好ましい。スクリュー等の押出部材の形状や回転数を制御して滞留時間を調節することにより、必要な場合におけるイミド化反応を容易に制御することができる。滞留時間が1分間未満であると、溶媒の除去が不十分であったり、所望のイミド化率が得られない傾向にある。滞留時間が30分間を超えると、硬化反応が促進される傾向にある。
【0107】
即ち、本発明の一実施の形態におけるアミド酸オリゴマー含有する粒子の製造方法においては、押出部材の形状や回転数、溶融押出するときの温度および滞留時間を適切に調節することにより、溶融押出することによって得られるアミド酸オリゴマー含有する粒子の、必要な場合におけるイミド化率を容易に制御することができる。
【0108】
押出機から押出されたイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は不定形粒子である。アミド酸オリゴマーを含有する粒子が連なってフレーク状になっている場合は、軽く粉砕すればよい。得られたイミド基を持つアミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子は、精製しなくとも硬化反応に供することができる。
【0109】
本発明の一実施の形態における製造方法では、溶融加工する工程を行うことでイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子が作製され、また、必要な場合におけるイミド化のときに溶媒・イミド化剤および脱水化剤を用いないので、溶液中のアミド酸オリゴマーを貧溶媒で沈澱(析出)させる回収工程や、洗浄工程、乾燥工程等の後工程が不要である。それゆえ、本発明の一実施の形態における製造方法は、従来技術と比較して、安価で簡便に、かつ極めて短時間(数分間)でアミド酸オリゴマーを含有する粒子を製造することができる。
【0110】
本発明の一実施の形態における製造方法で得られるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する粒子は、不定形粒子であり、個々の粒子には鋭角な部分がある(球状ではない)。粒子が「不定形粒子」であるかどうかは、例えば光学顕微鏡を用いて観察することにより、容易に判定することができる。例えば、上記製造方法によって製造した本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子を光学顕微鏡で観察した
図1と、従来の製造方法によって製造したアミド酸オリゴマーを含有する粒子を光学顕微鏡で観察した
図2とを比較すると、本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子には個々の粒子に鋭角な部分があり、「不定形粒子」であることが容易に理解される。
【0111】
〔8.プリプレグ〕
本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子は、強化繊維と混合されることにより、プリプレグとすることができる。当該プリプレグは、本発明の一実施の形態におけるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)を含有する不定形粒子を用いることにより、溶媒等の揮発分の残存が低減されている。また、上記プリプレグを用いて製造された樹脂複合材料(例えば、炭素繊維強化複合材料)は、溶媒等の揮発分の揮発および分解に起因するボイド等の欠陥が低減される(若しくは無くなる)ので、樹脂単体同等以上のガラス転移温度(Tg)を有するという極めて有利な効果を奏する。尚、本発明の一実施の形態には、上記プリプレグを積層し、加熱硬化して得られる繊維強化積層板が含まれ得る。
【0112】
プリプレグの揮発分残存量は、プリプレグに含まれるイミド基を持つアミド酸オリゴマー(P)に由来する重量に対して20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、8重量%以下であることがさらに好ましい。尚、プリプレグの揮発分は、アミド酸オリゴマー製造時の有機溶媒と、アミド酸オリゴマーがイミド化する際に脱離する水分も含む。プリプレグの揮発分残存量が上記範囲であれば、当該プリプレグを用いて樹脂複合材料(例えば、炭素繊維強化複合材料)を作製したときに、溶媒等の揮発および分解に起因するボイド等の欠陥が低減され、或いは無くなって、樹脂単体同等以上のTgを有する良好な複合材料が得られるので好ましい。
【0113】
また、本発明の一実施の形態においては、分子量が比較的大きいアミド酸オリゴマーであっても、アミド酸オリゴマーを含有する粒子の懸濁液を作製することなく、プリプレグおよび樹脂複合材料を製造することができる。さらに、プリプレグは、ドレープ性を維持することができ、得られる樹脂複合材料は、耐熱性に優れる。
【0114】
尚、本明細書において「プリプレグ」とは、アミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子が強化繊維に部分的に含浸して(半含浸状態)、一体化した樹脂-強化繊維複合体を意味する。「プリプレグ」は、半含浸状態であるがゆえに樹脂が含浸していない繊維配列を含み、それによりドレープ性が損なわれず、複雑な形状への賦形性が良好である。「プリプレグ」の一態様として、樹脂に富んだ層を強化繊維の外表面上に有する形態を示すことが多い。
【0115】
上記「ドレープ性」とは、樹脂-強化繊維複合体の変形のしなやかさの度合いを示す指標を意味する。「ドレープ性」は、樹脂-強化繊維複合体を型等の他の物体に沿って変形させた場合に、破壊や強化繊維の折損を伴うことなく、形状に柔軟に追随する度合いを表す指標である。ドレープ性が高いと曲面に賦形するのが容易であり、ドレープ性が低いと曲面に賦形するのが困難となる。また、ドレープ性が低いと複雑な形状のプレス成型品を成形することも当然難しくなる。
【0116】
本発明は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0117】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、実施例および比較例における圧力は、全てサンプルにかかる実圧であって、プレス機等の表示圧(ゲージ圧)ではない。
【0118】
〔イミドオリゴマーを含有する粒子の各種試験方法〕
(1)ガラス転移温度(Tg)および発熱開始温度の測定
TAインスツルメンス社製のQ100(DSC)装置を用いて測定を行った。測定条件は、1st run:40~450℃、昇温速度20℃/min 、2nd run:40~500℃、昇温速度20℃/min とした。そして、2nd runのヒートフロー(W/g)曲線が低下する前後における2つの接線の交点を、イミドオリゴマーを含有する粒子の硬化後のガラス転移温度(Tg)とした。即ち、イミドオリゴマーを含有する粒子(パウダー)の硬化後のガラス転移温度(Tg)は、DSC測定における2nd runのTgである。また、ヒートフロー(W/g)曲線において発熱ピークが観察された場合に、発熱ピークの温度を、イミドオリゴマー含有する粒子の硬化発熱ピーク温度とした。
【0119】
(2)イミド化率の測定
イミドオリゴマーを重DMF(重水素化N,N-ジメチルホルムアミド)に溶解して測定試料とし、プロトン核磁気共鳴分光装置(型式:AV-400M、(株)Bruker社製、1H-NMR)を用いて、30℃にてピーク面積の測定を行った。そして、化学シフトが7~9ppmの芳香族1H由来のピーク面積と、化学シフトが11ppm付近の残存アミド1H由来のピーク面積とから、イミドオリゴマーを含有する粒子のイミド化率(mol%)を算出した。
【0120】
(3)粒子径分布および平均粒子径の測定
イミドオリゴマーを含有する粒子を水に分散させて測定試料とし、レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装(株)製:マイクロトラック)を用いて、イミドオリゴマー含有する粒子の体積平均粒子径分布を測定した。そして、50%累積体積平均粒子径を、イミドオリゴマー含有する粒子の平均粒子径(μm)とした。
【0121】
(4)引張試験
(株)島津製作所製のオートグラフAGS-Xを用い、チャック間距離:20mm、TS:5mm/分にて、イミドオリゴマーを含有する粒子から作製された硬化物フィルム(プレス成型品)の引張試験を行い、機械物性(引張弾性率(N/mm2)、破断応力(N/mm2)、および破断ひずみ(%))を測定した。
【0122】
(5)溶解度試験
イミドオリゴマーを含有する粒子0.1gにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)10gを加えて、濃度が1重量%となるように室温で1時間攪拌した後、目視にて不溶分の有無を確認することにより、溶解度試験を行った。
【0123】
(6)粒子形状
イミドオリゴマーを含有する粒子を適量取り、光学顕微鏡(VHX-5000、KEYENCE 社製)を用いて、凝集している粒子の形状を観察した。また、スクリュー管にメタノール3.7gを入れ、約0.1mgのイミドオリゴマーを含有する粒子を添加した後、超音波洗浄装置で超音波を10分間かけた。次いで、得られた懸濁液をパスツールピペットによって採取してガラス板の上に1滴、滴下し、ドラフト中、室温で十分に乾燥させた。そして、粒子一粒の形状は、メタノールを揮発させた後の残存物を、超深度顕微鏡(KEYENCE社製)を用いて観察した。
【0124】
(7)流動性
イミドオリゴマーを含有する粒子の流動性の評価は、相対比較で、良好(A)、やや良好(B)、普通(C)、使用可(ぎりぎり使用することができる)(D)、不良(E)とした。
【0125】
(8)残存溶媒率
アミド酸オリゴマーを含有する粒子を約2mg秤量し、TGA-50(島津製作所(株)製)によって、窒素気流下で室温から600℃まで5℃/分で昇温し、ガラス転移温度(Tg)付近で観察された重量減少率を、溶媒の含有率(残存溶媒率)とした。
【0126】
(9)BET比表面積
アミド酸オリゴマーを含有する粒子をTriStar3000(島津製作所(株)製)に投入し、120℃1時間空気中の前処理を行わせたのち、窒素、77KにてBET比表面積の測定を行った。
【0127】
(10)GPC分子量
アミド酸オリゴマーを含有する粒子のN-メチルピロリドン(0.01MのLiBrを含有する)溶液を作成し、そのサンプル20μLを、脱気装置・ポンプ・カラムオーブン・UV検出器・屈折率検出器を備え付け、Phenogel(カラム、Phenomenex製)を直列に接続したProminence(島津製作所(株)製)にて測定した。校正曲線作成サンプルは標準ポリスチレン(TOSOH社製)とした。
【0128】
〔製造例1〕
温度計および攪拌子を備えた7Lオートクレーブの内側をヒーターで45℃に加温した後、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(Ph-ODA)1105g(4.0mol)、並びに、1,3-ジオキソラン1650gおよびメタノール1650gの混合溶媒(重量比1:1)を入れ、窒素フローを開始した。2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの溶解後、上記オートクレーブに1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)232.6gを、間隔を空けて3回(合計697.8g(3.2mol))加えて、設定温度45℃で3時間、重合反応させることにより、アミド酸オリゴマーを得た。このアミド酸オリゴマーを含む反応溶液に、4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸(PEPA)397.1g(1.6mol)を加え、引き続き1.5時間、反応させることによって末端変性した。これにより、末端変性アミド酸オリゴマーの溶液を得た(固形分濃度(理論値)=2200/5500=約40重量%)。
【0129】
得られた末端変性アミド酸オリゴマーは、上記一般式(2)において、n=0であり、R1が2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル残基で表され、R3が1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物残基で表され、平均してm=4(4量体)である。得られた末端変性アミド酸オリゴマーの溶液を、ワニス(N1)とした。なお、ワニス中の末端変性アミド酸オリゴマーのイミド化率は、ほぼ0%であった。
【0130】
〔製造例2〕
温度計および攪拌子を備えた3つ口の300mLフラスコに、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル23.43g(84.8mmol)と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)82.5gとを入れた。2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの溶解後、上記フラスコに9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン3.28g(9.41mmol)を加えて、溶解するまで攪拌した。続いて、上記フラスコに1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物16.44g(75.4mmol)を加えた後、窒素封入して、室温で1.5時間、重合反応させることにより、アミド酸オリゴマーを得た。このアミド酸オリゴマーを含む反応溶液に、4-(2-フェニルエチニル)無水フタル酸9.35g(37.7mmol)とNMP15gとを加え、窒素封入して、室温で1.5時間、反応させることによって末端変性した。さらに、上記フラスコに窒素導入管を取り付け、窒素気流下、200℃で5時間攪拌してイミド結合させた後、冷却することによって、末端変性イミドオリゴマーのNMP溶液を得た(固形分濃度(理論値)=52.5/150=約35重量%)。
【0131】
得られた末端変性イミドオリゴマーは、上記一般式(1)において、R1が2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル残基または9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン残基で表され、R2が9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン残基で表され、R3およびR4が1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物残基で表され、平均してm=3.6、n=0.4である。得られた末端変性イミドオリゴマーのNMP溶液を、ワニス(N2)とした。なお、ワニス中の末端変性アミド酸オリゴマーのイミド化率は、ほぼ0%であった。
【0132】
〔実施例1〕
溶融加工する工程に用いる二軸押出機として、同方向二軸タイプ、スクリュー径25mmφ、最大スクリュー有効長(L/D)60である、MPU25TW((株)テクノベル製)を使用した。この二軸押出機のシリンダー部のヒーター温度を、ワニス投入口(C0)を水冷のみとすると共に、投入口側ブロック(C1)を40℃、上流側の中間ブロック(C4)を80℃、下流側の概ね半分のブロック(C6~C10、DH)を150℃とし、それらの間を、温度勾配をつけて設定した。二軸押出機の下流側末端にダイスは取り付けず、ダイヘッドをオープンとした。スクリュー回転数は10rpmに設定した。この回転数は、滞留時間:約6分間に相当する。
【0133】
ワニス投入口(C0)からワニス(N1)を投入したところ、二軸押出機の下流側末端から黄色のパウダーが吐出された。得られたパウダーにブロッキングは認められず、使用可の流動性を有していた。溶解度試験において、不溶分は確認されなかった。このパウダーを上述した各種試験方法で測定したところ、イミド化率は7.1mol%、平均粒子径は55μm(単一ピーク)、粒子形状は不定形であった。従って、当該パウダーはアミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子であった。
【0134】
また、このパウダーを、325℃に加温したホットプレスに投入して予熱し、溶融したことを確認した後、徐々に加圧して、ポンピングでエア抜き操作を繰り返した。その後、所定圧力をかけながら加温し、370℃に到達してから1時間、加熱・加圧して得られた硬化物フィルム(プレス成型品)に関して、引張試験を行うことによって機械物性(引張弾性率、破断応力、および破断ひずみ)を測定したところ、良好な物性を示した。結果をまとめて表1に示す。
【0135】
〔実施例2〕
二軸押出機のシリンダー部のヒーター温度を、ワニス投入口(C0)を水冷のみとすると共に、投入口側ブロック(C1)を40℃、上流側の中間ブロック(C4)を80℃、下流側の概ね半分のブロック(C6~C10、DH)を150℃とし、それらの間を、温度勾配をつけて設定した。スクリュー回転数は30rpmに設定した。この回転数は、滞留時間:約3分間に相当する。それ以外は、実施例1と同様の条件で、ワニス投入口(C0)からワニス(N1)を投入した。
【0136】
ワニス投入口(C0)からワニス(N1)を投入したところ、二軸押出機の下流側末端から黄色のパウダーが吐出された。得られたパウダーにブロッキングは認められず、使用可の流動性を有していた。溶解度試験において、不溶分は確認されなかった。このパウダーを上述した各種試験方法で測定したところ、イミド化率は20.0mol%、平均粒子径は48μm(単一ピーク)、粒子形状は不定形であった。従って、当該パウダーはアミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子であった。
【0137】
また、このパウダーから実施例1と同様の条件で得られた硬化物フィルムに関して、引張試験を行うことによって機械物性を測定したところ、良好な物性を示した。結果をまとめて表1に示す。
【0138】
〔比較例1〕
二軸押出機のシリンダー部のヒーター温度を、ワニス投入口(C0)を水冷のみとすると共に、投入口側ブロック(C1)を40℃、上流側の中間ブロック(C4)を80℃、下流側の概ね半分のブロック(C6~C10、DH)を200℃とし、それらの間を、温度勾配をつけて設定した。スクリュー回転数は30rpmに設定した。この回転数は、滞留時間:約3分間に相当する。それ以外は、実施例1と同様の条件で、ワニス投入口(C0)からワニス(N1)を投入した。
【0139】
ワニス投入口(C0)からワニス(N1)を投入したところ、二軸押出機の下流側末端から黄色のパウダーが吐出された。得られたパウダーにブロッキングは認められず、普通の流動性を有していた。溶解度試験において、不溶分は確認されなかった。このパウダーを上述した各種試験方法で測定したところ、イミド化率は91.8mol%、平均粒子径は54μm(ショルダーを有する単一ピーク)、粒子形状は不定形であった。従って、当該パウダーは、本発明のアミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子ではなかった。結果をまとめて表1に示す。
【0140】
〔比較例2〕
二軸押出機を使用せず、ワニス(N1)をガラス容器に注ぎ、45℃に設定した真空オーブン内に18時間静置した後、さらに、250℃に設定した熱風オーブンに1時間静置して、黄色固体を得た。即ち、パウダーは得られなかった。
【0141】
この固体を切り出し、上述した各種試験方法で測定したところ、イミド化率は99.9%であった。溶解度試験において、不溶分は確認されなかった。また、この固体から、実施例1と同じ条件で得られた硬化物フィルムについて、引張試験により機械物性を測定した。結果をまとめて表1に示す。
【0142】
〔比較例3〕
ワニス(N2)100gをメタノール720gに投入し、析出した粉体を濾別した。得られた粉体をメタノール480gで30分間洗浄することを5回繰り返した後、粉体を濾別した。得られた粉体を120℃で1日間、減圧乾燥することにより、顆粒状の末端変性イミドオリゴマーを得た。さらに、得られた顆粒状の末端変性イミドオリゴマーを、ハンマーミルで粉砕することにより、末端変性イミドオリゴマーパウダーを得た。
【0143】
得られたパウダーにブロッキングは認められず、使用可の流動性を有していた。溶解度試験において、不溶分は確認されなかった。このパウダーを上述した各種試験方法で測定したところ、イミド化率は98.2mol%、平均粒子径は71μm(単一ピーク)、粒子形状は不定形であった。また、このパウダーから、実施例1と同じ条件で得られた硬化物フィルムについて、引張試験により機械物性を測定したところ、良好な物性であった。結果をまとめて表1に示す。
【0144】
【0145】
〔結果に対する考察〕
実施例1~実施例2を比較すると、押出機のヒーター温度(下流側の概ね半分のブロック(C7~C10)の設定温度を指す。以下同じ)を150℃に設定することで、得られるパウダー(アミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子)のイミド化率をおおむね20mol%以下にすることが可能であり、粉体の流動性も不可ではないことが分かる。また、前記した押出機のヒーター温度が同一であっても、スクリュー回転数を制御することで、イミド化率を制御できることが分かる。
【0146】
この中では、実施例2に示す硬化物の物性において、特に破断歪みの値が大きく、機械物性に優れていることが分かる。その理由は不明ではあるが、部分的にイミド化した成分であるイミドオリゴマーは溶融しにくいためドメインを形成し、アミド酸オリゴマーは溶融しやすいためマトリクスを形成し、架橋にも粗密が出来ることで柔軟で粘り強い構造となり、弾性率をそれほど悪化させずに破断伸びを向上させたものと推測している。つまり、機械物性の観点からは、イミド化率には最適点が存在するものと推測している。
【0147】
また、実施例1~2と比較例1とを比較すると、前記した押出機のヒーター温度を200℃に上げることで、イミド化率が本発明で上限とされる80%を超えるほど著しく向上し、アミド酸オリゴマーを含有する粒子が得られなくなることが分かる。
【0148】
実施例1~2で得られたアミド酸オリゴマーを含有する不定形粒子から作製された硬化物フィルムの物性と、比較例2で得られたワニスから作製された硬化物フィルムの物性とを比較すると、実施例1と比較例2では類似の物性を示すことが分かる。しかしながら、比較例2では、ワニス(N1)から固体を得るのに19時間以上を要しており、効率性に劣る。しかも、比較例2では、得られた固体を切り出してから硬化物フィルムに加工するという手間を要し、加工性および取り扱い性にも劣る。これに対して、実施例1~2では、効率性、加工性および取り扱い性に優れることが分かる。
【0149】
比較例3では、従来の製造方法(粉砕法)で末端変性イミドオリゴマーパウダーを得ている。実施例1~2で得られた硬化物フィルムの物性と、比較例3で得られた硬化物フィルムの物性とを比較すると、比較例3のほうが伸びが小さく硬い物性を示すことが分かる。また、比較例3では、ワニス(N2)から再沈殿を行ってパウダーを得るのに大量のメタノールと共に長時間を要し、効率性に劣る。しかも、比較例3では、パウダーを得るのにハンマーミル(粉砕機)で粉砕するという手間を要し、加工性および取り扱い性にも劣る。これに対して、実施例1~2では、効率性、加工性および取り扱い性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明は、成形性に優れ、耐熱性を有し、機械的特性および電気的特性等にも優れていることから、航空機、宇宙産業用機器、電気電子機器、一般産業用途および車輌用エンジン(周辺)部材等の広い分野で素材(耐熱複合材)として利用可能である。