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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】柱梁接合部の自己修復構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20240626BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E04H9/02 301
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020168418
(22)【出願日】2020-10-05
(65)【公開番号】P2022060756
(43)【公開日】2022-04-15
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】渕山 美怜
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066761(JP,A)
【文献】特開平10-238138(JP,A)
【文献】特開2012-112199(JP,A)
【文献】特開平10-331437(JP,A)
【文献】特開2007-255129(JP,A)
【文献】特開2000-145158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G23/00-23/08
E04H9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート造の柱と、
前記柱に接合するコンクリート造の梁と、
前記柱の側面と前記側面に連結する前記梁の上面及び下面とによって画成された隅部の各々に固定された補修具とを備え、
各々の前記補修具は、
前記柱の前記側面と前記梁の前記上面又は前記下面とに固定されたシートと、
前記シートに密閉状態で保持された流動性を有する補修材とを含み、
前記補修材は、所定規模以上の地震時に前記密閉状態から脱し、所定時間で硬化するように構成されたことを特徴とする柱梁接合部の自己修復構造。
【請求項2】
前記シートは、内層と、前記補修材を透過させない外層とを含み、前記外層よりも内側において前記補修材を保持することを特徴とする請求項1に記載の柱梁接合部の自己修復構造。
【請求項3】
前記内層は、所定規模以上の地震時に破断する素材によって構成され、前記外層は、前記内層よりも伸縮性が高い素材によって構成され、前記補修材は前記内層の内部又は前記内層と前記外層との間に配置されることを特徴とする請求項2に記載の柱梁接合部の自己修復構造。
【請求項4】
前記補修材は、前記シートにおいて互いに分離して保持される第1成分及び第2成分を含むことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の柱梁接合部の自己修復構造。
【請求項5】
コンクリート造の柱と、
前記柱に接合するコンクリート造の梁と、
前記柱の側面と前記側面に連結する前記梁の上面及び下面とによって画成された隅部の各々に固定された補修具とを備え、
各々の前記補修具は、
前記柱の前記側面と前記梁の前記上面又は前記下面とに固定されたシートと、
前記シートに保持された流動性を有する補修材とを含み、
前記補修材は、前記シートにおいて互いに分離して保持される第1成分及び第2成分を含み、
前記第1成分及び前記第2成分は、水及び無機材、又は、主剤及び前記主剤用の硬化剤であることを特徴とす柱梁接合部の自己修復構造。
【請求項6】
コンクリート造の柱と、
前記柱に接合するコンクリート造の梁と、
前記柱の側面と前記側面に連結する前記梁の上面及び下面とによって画成された隅部の各々に固定された補修具とを備え、
各々の前記補修具は、
前記柱の前記側面と前記梁の前記上面又は前記下面とに固定されたシートと、
前記シートに保持された流動性を有する補修材とを含み、
前記隅部の各々において、前記補修具を覆うように、前記柱の前記側面と前記梁の前記上面又は前記下面とに取り付けられたプレートを更に備え、
前記プレートは、前記柱の前記側面に沿って取り付けられた縦部と、前記梁の前記上面又は前記下面とに取り付けられ、前記梁の延在方向において前記縦部の上下方向長さよりも短い長さを有する横部とを含むことを特徴とす柱梁接合部の自己修復構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリート造の柱と梁との接合部の自己修復構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図8に示すように、鉄筋コンクリート造の建物における柱梁接合部1は、鉄筋コンクリート造の柱2と鉄筋コンクリート造の梁3が交差している部分である。従前、地震時には、図8(B)に示すように、柱梁接合部1内にはひび割れが生ぜず、梁3に曲げひび割れ4が生じて梁曲げ降伏破壊が起こるものとして設計が行われていた。しかし、近年、柱梁強度比(柱2と梁3の危険断面が曲げ終局強度に至る時の節点位置での曲げモーメントの比)が小さい場合には、図8(A)に示すように、柱梁接合部1内に隅部から斜めにひび割れ5が生じ、柱梁接合部1内で梁主筋および柱主筋が引張降伏する接合部降伏破壊が起こることが指摘されている。
【0003】
このような接合部降伏破壊によって生じたひび割れ等の損傷を補修する方法として、柱梁接合部の側面から有機系の樹脂をひび割れに注入することが考えられる。また、特許文献1には、柱梁接合部の側面に連続繊維シートを貼り付けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-075145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、1つの柱梁接合部には、平面視で十字状に梁が取り付くことが多い。この場合、柱梁接合部の側面が露出しておらず、上記の補修方法を採用することができない。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、平面視で十字状に梁が取り付いた柱梁接合部にも適用可能な柱梁接合部の自己修復構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある実施形態に係る柱梁接合部(1)の自己修復構造(10,20,30,40,50)は、コンクリート造の柱(2)と、前記柱(2)に接合するコンクリート造の梁(3)と、前記柱(2)の側面と前記側面に連結する前記梁(3)の上面及び下面とによって画成された隅部の各々に固定された補修具(11,21,31)とを備え、各々の前記補修具(11,21,31)は、前記柱(2)の前記側面と前記梁(3)の前記上面又は前記下面とに固定されたシート(12,22)と、前記シート(12,22)に保持された流動性を有する補修材(13,32)とを含むことを特徴とする。補修材(13,32)は、密閉状態で保持され、所定規模以上の地震時に前記密閉状態から脱し、所定時間で硬化するように構成されても良い。
【0008】
この構成によれば、柱の側面と梁の上面及び下面によって画成される隅部に取り付けられた補修具によって柱梁接合部を補修できるため、平面視で十字状に梁が取り付いた柱梁接合部でも補修することができる。
【0009】
本発明のある実施形態に係る柱梁接合部(1)の自己修復構造(20,30,40,50)は、上記構成において、前記シート(22)は、内層(23)と、前記補修材(13,32)を透過させない外層(24)とを含み、前記外層(24)よりも内側において前記補修材(13,32)を保持することを特徴とする。ここで、「内」及び「外」という用語に関して、柱又は梁に近づく側が「内」側であり、柱又は梁から離れる側が「外」側である。
【0010】
この構成によれば、補修材は、外層を透過できないため、外側に漏れずに柱梁接合部のひび割れに浸入し易い。
【0011】
本発明のある実施形態に係る柱梁接合部(1)の自己修復構造(20,30,40,50)は、上記構成において、前記内層(23)は、所定規模以上の地震時に破断する素材によって構成され、前記外層(24)は、前記内層(23)よりも伸縮性が高い素材によって構成され、前記補修材(13,32)は前記内層(23)の内部又は前記内層(23)と前記外層(24)との間に配置されることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、補修材が内層によって保護されるため、補修材を安定して保持できる。
【0013】
本発明のある実施形態に係る柱梁接合部(1)の自己修復構造(30,40,50)は、上記構成の何れかにおいて、前記補修材(32)は、前記シート(22)において互いに分離して保持される第1成分(33)及び第2成分(34)を含むことを特徴とする。前記第1成分及び前記第2成分は、水及び無機材、又は、主剤及び前記主剤用の硬化剤であることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、補修材を2つの成分に分けて保持することにより、所定規模以上の地震が起こるまでの補修材の品質の劣化を抑制できる。
【0015】
本発明のある実施形態に係る柱梁接合部(1)の自己修復構造(50)は、上記構成の何れかにおいて、前記隅部の各々において、前記補修具(11,21,31)を覆うように、前記柱(2)の前記側面と前記梁(3)の前記上面又は前記下面とに取り付けられたプレート(51)を更に備え、前記プレート(51)は、前記柱(2)の前記側面に沿って取り付けられた縦部(52)と、前記梁(3)の前記上面又は前記下面とに取り付けられ、前記梁(3)の延在方向において前記縦部(52)の上下方向長さよりも短い長さを有する横部(53)とを含むことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、縦部が横部よりも長いため、柱の曲げ強度は梁の曲げ強度よりも大きく増大し、柱梁強度比が大きくなるため、接合部降伏破壊ではなく、梁降伏破壊となりやすく、柱梁接合部内の損傷が抑制される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、平面視で十字状に梁が取り付いた柱梁接合部にも適用可能な柱梁接合部の自己修復構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る柱梁接合部の自己修復構造を示す縦断面図
図2】接合部降伏破壊の説明図
図3】地震時における第1実施形態に係る柱梁接合部の自己修復構造を示す説明図
図4】第2実施形態に係る柱梁接合部の自己修復構造を示す縦断面図
図5】第3実施形態に係る柱梁接合部の自己修復構造を示す縦断面図
図6】第4実施形態に係る柱梁接合部の自己修復構造を示す縦断面図
図7】第5実施形態に係る柱梁接合部の自己修復構造を示す縦断面図
図8】地震時における柱梁接合部の破壊形式を示す模式図(A:接合部降伏破壊、B:梁曲げ降伏破壊)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、コンクリート断面を示す図において鉄筋の図示は省略している。
【0020】
図1は、柱梁接合部1における第1実施形態に係る自己修復構造10を示す。柱梁接合部1は、鉄筋コンクリート造の柱2と、鉄筋コンクリート造の梁3との交差部である。柱2は、横断面において矩形をなし、梁3は、その延在方向に直交する断面において矩形をなしている。梁3は、図1の紙面に直交する方向にも延在して平面視で十字状に交差している。なお、梁3が柱梁接合部1の側面から1方、2方(例えば、平面視で90°又は180°をなす2方)又は3方(例えば、平面視でT字状)に延出していてもよく、梁3が90°以外の角度で交差していてもよく、柱2及び梁3の断面の輪郭が矩形以外の形状であってもよい。
【0021】
自己修復構造10は、柱2と、柱2に接合する梁3と、柱2の側面とこの側面に連結する梁3の上面及び下面の各々とによって画成された隅部に固定される補修具11とを備える。図示を省略するが、補修具11は、柱2の側面と図の紙面に直交する方向に延在する梁3の上面及び下面とによって画成される隅部の各々にも設けられる。補修具11は、隅部に固定されたシート12と、シート12に保持された流動性を有する補修材13とを備える。
【0022】
シート12は、隅部において、柱2の側面と梁3の上面又は下面に固定されており、側面から見てL字形状をなす。シート12の柱2及び梁3への固定は、例えば接着剤による貼り付けによってなされる。
【0023】
補修材13は、薄膜によって密閉された状態でシート12に保持されている。薄膜は、所定規模以上の地震時に破断する。補修材13の密閉は、薄膜に代えて、密閉作用を有して所定規模以上の地震時に柱2及び梁3側の表面が破断するシート12によってなされてもよい。補修材13は、流動性を有し、密閉された状態から脱すると所定の時間で硬化するものであり、例えば、補修材13内の水や溶媒が蒸発することにより固まる乾燥固化型のものや、空気中、シート中又は柱梁接合部1中の湿気と化学反応を起こして固まる化学反応型のものである。補修材13は、例えば、液体接着材である。補修材13は、シート12の内部に保持されてもよく、シート12における柱2及び梁3側の表面に保持されてもよい。補修材13がシート12の内部に保持される場合には、シート12は、所定規模以上の地震時に補修材13が柱梁接合部1に生じたひび割れに向かって移動可能な素材、例えば、織布、不織布、スポンジ状の樹脂、又は所定の規模以上の地震時に破断する樹脂等、によって構成される。シート12として、所定の規模以上の地震時に破断する樹脂を用いる場合には、L字形状の角隅部に薄肉部を設ける等、角隅部が破断しやすいようにすることが好ましい。また、補修材13が、シート12における柱2及び梁3側の表面に保持される場合には、シート12は、補修材13が透過せず地震時に破断し難い素材、例えばポリエチレンテレフタラートシート等から構成されることが好ましいが、密閉状態から脱した補修材13が浸入浸出可能な素材、例えば、織布、不織布、スポンジ状の樹脂等から構成されてもよい。
【0024】
図2は、地震時に接合部降伏破壊が発生する場合の柱2及び梁3の揺れを模式的に示す説明図である。図2(A)に示すように、所定規模以上の地震時には、縦断面視で矩形をなす柱梁接合部1の対角線に沿ってひび割れが生じ、柱2及び梁3が回転移動する。図示する状態では、上下の柱2から延出する三角形部分が反時計回りに移動し、左右の梁3から延出する三角形部分が時計回りに移動している。次いで、図2(B)に示すように、上下の柱2から延出する三角形部分が時計回りに移動し、左右の梁3から延出する三角形部分が反時計回りに移動する。図2(C)に示すように、再び、上下の柱2から延出する三角形部分が反時計回りに移動し、左右の梁3から延出する三角形部分が時計回りに移動する。この回転移動が繰り返されることによって、図2(D)に示すように、対角線に沿ってひび割れ5が発達する。
【0025】
図3は、第1実施形態に係る自己修復構造10における地震時の接合部降伏破壊を模式的に示す説明図である。柱梁接合部1における対角線に沿って分割された三角形部分の動きは、図2に示すものと同じである。所定規模以上の地震時には、補修材13を密閉していた薄膜が破断して、補修材13が移動可能となる。図3(A)に示すように、上下の柱2から延出する三角形部分が反時計回りに移動し、左右の梁3から延出する三角形部分が時計回りに移動した状態では、柱梁接合部1の右上及び左下の隅部のひび割れの隙間と、左上から右下にかけての対角線に沿った中央部分の隙間とが拡がっている。この時、右上及び左下のシート12に保持されていた補修材13が、柱梁接合部1の右上及び左下の隅部のひび割れの隙間に浸入している。
【0026】
次いで、図3(B)に示すように、上下の柱2から延出する三角形部分が時計回りに移動し、左右の梁3から延出する三角形部分が反時計回りに移動すると、柱梁接合部1の左上及び右下の隅部のひび割れの隙間が拡がって左上から右下にかけての対角線に沿った中央部分のひび割れが狭まるとともに、右上及び左下の隅部のひび割れの隙間が狭まって右上から左下にかけての対角線に沿った中央部分のひび割れの隙間が広がる。この時、左上及び右下のシート12及び隅部に保持されていた補修材13が、柱梁接合部1の左上及び右下の隅部のひび割れの隙間に浸入する。また、右上及び左下の隅部から浸入していた補修材13の一部が対角線の中央部分に向かって押し出されるとともに、他の一部が右上及び左下のシート12に向かって押し出される。シート12に向かって押し出された補修材13は、隅部とシート12との間、及び/又は、シート12の内部に保持される。
【0027】
次いで、図3(C)に示すように、上下の柱2から延出する三角形部分が反時計回りに移動し、左右の梁3から延出する三角形部分が時計回りに移動すると、柱梁接合部1の右上及び左下の隅部のひび割れの隙間が拡がって右上から左下にかけての対角線に沿った中央部分のひび割れが狭まるとともに、左上及び右下の隅部のひび割れの隙間が狭まって左上から右下にかけての対角線に沿った中央部分のひび割れの隙間が広がる。この時、右上及び左下のシート12及び隅部に保持されていた補修材13が、柱梁接合部1の右上及び左下の隅部のひび割れの隙間に浸入する。また、左上及び右下の隅部から浸入していた補修材13の一部が対角線の中央部分に向かって押し出されるとともに、他の一部が左上及び右下のシート12に向かって押し出される。シート12に向かって押し出された補修材13は、隅部とシート12との間、及び/又は、シート12の内部に保持される。
【0028】
図3(B)及び図3(C)の動きが交互に繰り返されることにより、補修材13がひび割れの隅々まで行き渡る。地震が収まると、図3(D)に示すように、補修材13がひび割れ5に注入された状態で硬化し、ひび割れ5が補修される。
【0029】
補修具11が柱2と梁3とによって画成される隅部に設けられるため、自己修復構造10は四方に梁3が延出して平面視で十字状に梁が取り付いた柱梁接合部1にも適用可能である。
【0030】
次に、図4を参照して、本発明に係る第2実施形態に係る自己修復構造20を説明する。説明に当たって、第1の実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。第2実施形態に係る自己修復構造10は、補修具21の構造において第1実施形態と相違する。
【0031】
自己修復構造20は、柱2と、梁3と、柱2の側面とこの側面に連結する梁3の上面及び下面とによって画成された隅部の各々に固定される補修具21とを備える。図4は、柱2の側面と梁3の上面とに取り付けられた自己修復構造20を示す。図示されない他の隅部にも補修具21は設けられる。補修具21は、隅部に固定されたシート22と、シート22に保持された硬化可能な流動性を有する補修材13とを備える。
【0032】
シート22は、補修材13を保持する内層23と、補修材13が透過しない外層24とを含む。内層23は柱2及び梁3に当接し、外層24は、内層23における柱2及び梁3に当接する面とは反対側の表面に当接している。内層23は、所定規模以上の地震時に補修材13が柱梁接合部1に生じたひび割れに向かって移動可能な素材、例えば、織布、不織布、スポンジ状の樹脂、又は所定の規模以上の地震時に破断する樹脂等、によって構成される。内層23として、所定の規模以上の地震時に破断する樹脂を用いる場合には、L字形状の角隅部に薄肉部を設ける等、角隅部が破断しやすいようにすることが好ましい。外層24は、補修材13を密閉する薄膜が破断する所定規模以上の地震時にも破断しないように、伸縮性を有する破れ難い素材によって構成される。外層24は、液体不透過性であることが好ましい。例えば、外層24は、ポリエチレンテレフタラートシートによって構成される。外層24は、補修材13が漏れることを防ぐように、内層23と同じ又は内層23よりも大きな輪郭を有することが好ましい。
【0033】
補修材13は、シート22における外層24よりも内側に保持される。内層23が、織布、不織布、スポンジ状の樹脂等の透過性を有する素材から構成される場合には、補修材13は、内層23における柱2及び梁3側の表面、内層23の内部、又は内層23と外層24との間に配置される。内層23が、所定の規模以上の地震時に破断する樹脂等、破断するまでは補修材13を透過させない素材から構成される場合には、補修材13は、内層23の内部、又は内層23と外層24との間に配置される。
【0034】
所定規模以上の地震時に薄膜が破れて密閉状態から脱した補修材13は、外層24を透過できないため、外側に漏れずに柱梁接合部1のひび割れに浸入し易い。
【0035】
内層23を所定の規模以上の地震時に破断する素材から構成し、補修材13を内層23の内部又は内層23と外層24との間に配置した場合には、補修材13をより安定して保持できる。
【0036】
次に、図5を参照して、第3実施形態に係る自己修復構造30を説明する。説明に当たって、第2の実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。
【0037】
自己修復構造30は、柱2と、梁3と、柱2の側面とこの側面に連結する梁3の上面及び下面とによって画成された隅部の各々に固定される補修具31とを備える。図5は、柱2の側面と梁3の上面とに取り付けられた自己修復構造30を示す。図示されない他の隅部にも補修具31は設けられる。補修具31は、隅部に固定されたシート22と、シート22に保持された補修材32とを備える。第3実施形態に係る自己修復構造30は、補修材32が、2つの成分に分離した状態でシート22に保持されている点で、第2実施形態と相違する。
【0038】
補修材32は、第1成分33と第2成分34とを含む。第1成分33及び第2成分34は、互いに分離してシート22の内層23に保持されている。例えば、第1成分33が、水であり、第2成分34がセメント及び細骨材の混合物等の無機材であってもよく、両者が互いに混ざることによってモルタル等の流動性を有する補修材32となる。また、第1成分33が流動性を有する主剤であり、第2成分34が主剤用の硬化剤であってもよく、所定規模以上の地震時に両社が混ざることによって流動性を有するとともに所定の時間で硬化する補修材32となる。流動性を有する第1成分33は、地震時に破断する薄膜に収容されている。流動性を有する第1成分33は、第2実施形態の補修材13と同様の位置に配置される。第2成分34は、流動性を有する場合は、第2実施形態の補修材13と同様の位置に配置され、流動性を有さない場合は、第1成分33と同様の位置又は第1成分33よりも内側に配置される。
【0039】
補修材32を2つの成分に分けて保持することにより、所定規模以上の地震が起こるまでの補修材32の品質の劣化を抑制できる。
【0040】
図6は、第4実施形態に係る自己修復構造40を示す。説明に当たって、第3の実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。第3実施形態に係る自己修復構造30では、各々の補修具31において、補修材32の第1成分33及び第2成分34がそれぞれ1か所にまとめられているが(図5参照)、第4実施形態に係る自己修復構造40では、各々の補修具31において、補修材32の第1成分33及び第2成分34がそれぞれシート22の内層23の複数個所に保持されている。このため、所定規模以上の地震時に、第1成分33及び第2成分34が互いに混ざりやすくなる。
【0041】
図7を参照して、第5実施形態に係る自己修復構造50について説明する。説明に当たって、第1~第4実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。自己修復構造50は、隅部の各々において、第1~第4実施形態の自己修復構造10,20,30,40の何れかの構成に加えて、補修具11,21,31を覆うように、柱2の側面と梁3記上面又は下面とに取り付けられた鋼製のプレート51を更に備える。
【0042】
プレート51は、側面視でL字形状をなし、柱2の側面に沿って取り付けられた縦部52と、梁3の上面又は下面とに取り付けられ、梁3の延在方向において縦部52の上下方向長さよりも短い長さを有する横部53とを含む。プレート51は、アンカーボルト54によって柱2及び梁3に固定されるが、接着剤等の他の固定手段によって柱2及び梁3に固定されてもよい。
【0043】
縦部52が横部53よりも長いため、柱2の曲げ強度は梁3の曲げ強度よりも大きく増大する。すなわち、柱梁強度比が大きくなる。このため、接合部降伏破壊ではなく、梁降伏破壊となりやすく、柱梁接合部1の破壊が抑制される。なお、梁3の曲げ強度を小さくしても柱梁強度比は大きくなるが、この場合、建物全体の体力を落とすことになる。第5実施形態に係る自己修復構造50おいては、梁3の曲げ強度を小さくしているわけではないため、建物全体体力の低下を防止できる。第5実施形態に係る自己修復構造50から補修具11,21,31を取り除いた構造は、既存の柱梁接合部1の破壊態様を接合部降伏破壊(図8(A)参照)から曲げ降伏破壊(図8(B))に変更する補強構造として利用できる。
【0044】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。柱梁接合部、柱及び/又は梁はプレストレストコンクリートであってもよい。第3又は第4実施形態の2つの成分に分離して配置された補修材を第1実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1:柱梁接合部
2:柱
3:梁
10,20,30,40,50:自己修復構造
11,21,31:補修具
12,22:シート
13,32:補修材
33:第1成分
34:第2成分
51:プレート
52:縦部
53:横部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8