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特許7510323ミシン及びその刺繍縫製方法並びに刺繍縫製プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ミシン及びその刺繍縫製方法並びに刺繍縫製プログラム
(51)【国際特許分類】
   D05B 19/04 20060101AFI20240626BHJP
   D05B 59/02 20060101ALI20240626BHJP
   D05C 5/06 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
D05B19/04
D05B59/02
D05C5/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020170668
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062566
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森元 綺里
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-141234(JP,A)
【文献】特開2020-146331(JP,A)
【文献】特開平08-131676(JP,A)
【文献】特開平10-192577(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0213412(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102007021300(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 19/04
D05B 59/02
D05C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫い始めから解れ止め又は糸切りまでを単位とするオブジェクトの情報と該オブジェクトを縫製するために必要な必要下糸量に関する情報とが関連付けられて登録された模様データを取得する模様データ取得部と、
下糸残量を取得する下糸残量取得部と、
前記模様データに基づく前記オブジェクトの必要下糸量と前記下糸残量との大小に基づいて、前記オブジェクトが縫製可能か否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて前記オブジェクトを縫製対象とするか否かを決定する決定部と
を備え
前記模様データには、同一色の前記オブジェクトで構成される色レイヤーと、前記色レイヤーを構成する前記オブジェクトの情報とが関連付けられて登録されており、
前記判定部は、いずれかの前記色レイヤーを判定対象として選択し、選択した前記色レイヤーにおいて、オブジェクト単位で縫製可能か否かの判定を行い、判定対象である前記色レイヤーにおいて必要下糸量が下糸残量以下である未縫製のオブジェクトが存在しなくなった場合に、未縫製の他の色レイヤーを前記判定対象として選択するミシン。
【請求項2】
前記模様データには、前記オブジェクトの情報と縫製順序とが関連付けられて登録されており、
前記判定部は、前記オブジェクトが縫製可能か否かを前記縫製順序に従って判定し、
前記決定部は、縫製不可能と判定された前記オブジェクトを縫製対象から除外する請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記模様データには、縫製順序を相互に変更できない複数のオブジェクトからなるオブジェクトグループの情報と該オブジェクトグループにおける縫製順序とが登録されており、
前記判定部は、前記オブジェクトグループに属する各前記オブジェクトについて、前記縫製順序に従ってオブジェクト単位で縫製可能か否かを判定し、いずれかの前記オブジェクトについて縫製不可能と判定した場合に、縫製不可能と判定した前記オブジェクト以降のオブジェクトについても縫製不可能と判定する請求項1又は2に記載のミシン。
【請求項4】
縫い始めから解れ止め又は糸切りまでを単位とするオブジェクトの情報と該オブジェクトを縫製するために必要な必要下糸量に関する情報とが関連付けられて登録された模様データを取得する模様データ取得工程と、
下糸残量を取得する下糸残量取得工程と、
前記模様データに基づく前記オブジェクトの必要下糸量と前記下糸残量との大小に基づいて、前記オブジェクトが縫製可能か否かを判定する判定工程と、
判定結果に基づいて前記オブジェクトを縫製対象とするか否かを決定する決定工程と
をコンピュータが実行し、
前記模様データには、同一色の前記オブジェクトで構成される色レイヤーと、前記色レイヤーを構成する前記オブジェクトの情報とが関連付けられて登録されており、
前記判定工程は、いずれかの前記色レイヤーを判定対象として選択し、選択した前記色レイヤーにおいて、オブジェクト単位で縫製可能か否かの判定を行い、判定対象である前記色レイヤーにおいて必要下糸量が下糸残量以下である未縫製のオブジェクトが存在しなくなった場合に、未縫製の他の色レイヤーを前記判定対象として選択するミシンの刺繍縫製方法。
【請求項5】
請求項4に記載のミシンの刺繍縫製方法をコンピュータに実行させるためのミシンの刺繍縫製プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン及びその刺繍縫製方法並びに刺繍縫製プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の模様を組み合わせた刺繍を縫製可能なミシンが知られている。このようなミシンでは、刺繍縫いを行っている途中で下糸がなくなると、ミシンを止めて停止位置から数十針前に戻し、下糸を交換して再起動する必要がある。
そこで、このような煩雑な作業を軽減するために、例えば、一つの模様毎又は色レイヤー毎に、下糸残量と必要下糸量との比較を行い、下糸残量が必要下糸量よりも不足した場合に、下糸交換が必要な警告表示を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-154455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、縫製可能な模様も多様化及び複雑化し、一つの模様を縫製するために必要とされる下糸量も増加する傾向にある。このため、下糸残量が一つの模様の必要下糸量よりも不足する頻度は増加傾向にあり、下糸の交換頻度の増加や無駄にする下糸量の増加を招いていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、下糸の無駄を削減できるとともに、下糸交換の頻度を低減させることのできるミシン及びその刺繍縫製方法並びに刺繍縫製プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、縫い始めから解れ止め又は糸切りまでを単位とするオブジェクトの情報と該オブジェクトを縫製するために必要な必要下糸量に関する情報とが関連付けられて登録された模様データを取得する模様データ取得部と、下糸残量を取得する下糸残量取得部と、前記模様データに基づく前記オブジェクトの必要下糸量と前記下糸残量との大小に基づいて、前記オブジェクトが縫製可能か否かを判定する判定部と、前記判定部の判定結果に基づいて前記オブジェクトを縫製対象とするか否かを決定する決定部とを備え、前記模様データには、同一色の前記オブジェクトで構成される色レイヤーと、前記色レイヤーを構成する前記オブジェクトの情報とが関連付けられて登録されており、前記判定部は、いずれかの前記色レイヤーを判定対象として選択し、選択した前記色レイヤーにおいて、オブジェクト単位で縫製可能か否かの判定を行い、判定対象である前記色レイヤーにおいて必要下糸量が下糸残量以下である未縫製のオブジェクトが存在しなくなった場合に、未縫製の他の色レイヤーを前記判定対象として選択するミシンである。
【0007】
本発明の参考例としての一態様は、縫い始めから解れ止め又は糸切りまでを単位とするオブジェクトの情報と該オブジェクトを縫製するために必要な必要下糸量に関する情報とが関連付けられて登録された模様データを取得する模様データ取得部と、下糸残量を取得する下糸残量取得部と、前記模様データに基づく前記オブジェクトの必要下糸量と前記下糸残量との大小に基づいて、前記オブジェクトが縫製可能か否かを判定する判定部と、前記判定部の判定結果に基づいて前記オブジェクトを縫製対象とするか否かを決定する決定部とを備えるミシンである。
上記構成によれば、模様データには、縫い始めから解れ止め又は糸切りまでを一つの単位とするオブジェクトの情報と、そのオブジェクトの縫製に必要な必要下糸量とが登録されている。そして、判定部において、このオブジェクト単位で、必要下糸量と下糸残量との大小に基づいて縫製可能か否かが判定され、この判定結果に基づいて当該オブジェクトを縫製対象とするか否かが決定部によって決定される。
このように、オブジェクト単位で縫製対象とするか否かを決定するので、複数のオブジェクトによって構成される模様単位で、必要下糸量と下糸残量とを比較する従来の手法に比べて、下糸の無駄を削減でき、下糸交換の頻度を低減させることが可能となる。
上記「必要下糸量に関する情報」には、「必要下糸量」自体の他、必要下糸量を算出するために必要となるデータ(例えば、針落ち点情報等)であってもよい。
【0008】
上記ミシンにおいて、前記模様データには、前記オブジェクトの情報と縫製順序とが関連付けられて登録されており、前記判定部は、前記オブジェクトが縫製可能か否かを前記縫製順序に従って判定し、前記決定部は、縫製不可能と判定された前記オブジェクトを縫製対象から除外することとしてもよい。
【0009】
上記構成によれば、模様データには、オブジェクトの情報と縫製順序とが関連付けられている。判定部では、縫製順序に従って、オブジェクト単位で縫製可能か否かが判断され、縫製不可能と判定されたオブジェクトは、決定部によって縫製対象から除外される。これにより、判定部によって縫製不可能と判定されたオブジェクトについては縫製順序からスキップされ、縫製可能と判定されたオブジェクトのみが縫製順序に従って縫製されることとなる。
【0010】
上記ミシンにおいて、前記模様データには、縫製順序を相互に変更できない複数のオブジェクトからなるオブジェクトグループの情報と該オブジェクトグループにおける縫製順序とが登録されており、前記判定部は、前記オブジェクトグループに属する各前記オブジェクトについて、前記縫製順序に従ってオブジェクト単位で縫製可能か否かを判定し、いずれかの前記オブジェクトについて縫製不可能と判定した場合に、縫製不可能と判定した前記オブジェクト以降のオブジェクトについても縫製不可能と判定することとしてもよい。
【0011】
上記構成によれば、模様データには、縫製順序を相互に変更できない複数のオブジェクトからなるオブジェクトグループの情報と、そのオブジェクトグループにおける縫製順序とが登録されている。同じオブジェクトグループに属する複数のオブジェクトについては、判定部により、縫製順序に従って、オブジェクト単位で縫製可能か否かが順次判定される。そして、縫製不可能と判定されたオブジェクトがあった場合には、それ以降のオブジェクトについても縫製不可能と判定される。これにより、同じオブジェクトグループに属する複数のオブジェクトについては、登録された縫製順序の前後が変更されることなく、縫製を行うことが可能となる。
【0012】
上記ミシンにおいて、前記模様データには、同一色の前記オブジェクトで構成される色レイヤーと、前記色レイヤーを構成する前記オブジェクトの情報とが関連付けられて登録されており、前記判定部は、いずれかの前記色レイヤーを判定対象として選択し、選択した前記色レイヤーにおいて、オブジェクト単位で縫製可能か否かの判定を行い、判定対象である前記色レイヤーにおいて必要下糸量が下糸残量以下である未縫製のオブジェクトが存在しなくなった場合に、未縫製の他の色レイヤーを前記判定対象として選択することとしてもよい。
【0013】
上記構成によれば、模様データには、オブジェクトの情報と色レイヤーとが関連付けられて登録されている。判定部において、いずれかの色レイヤーが判定対象として選択され、選択された色レイヤーに属するオブジェクトに関して、オブジェクト単位で縫製可能か否かが判定される。選択された色レイヤーにおいて、必要下糸量が下糸残量以下である未縫製のオブジェクトが存在しなくなると、未縫製の他の色レイヤーが判定対象として選択され、この色レイヤーにおいても、オブジェクト単位で縫製可能か否かの判定が行われる。これにより、複数の色レイヤーを跨いで縫製可能なオブジェクトを見つけることができ、単一の色レイヤーで判定を終了する場合に比べて、下糸を有効に利用することができ、下糸の無駄を削減することができる。
【0014】
本発明の第2態様は、縫い始めから解れ止め又は糸切りまでを単位とするオブジェクトの情報と該オブジェクトを縫製するために必要な必要下糸量に関する情報とが関連付けられて登録された模様データを取得する模様データ取得工程と、下糸残量を取得する下糸残量取得工程と、前記模様データに基づく前記オブジェクトの必要下糸量と前記下糸残量との大小に基づいて、前記オブジェクトが縫製可能か否かを判定する判定工程と、判定結果に基づいて前記オブジェクトを縫製対象とするか否かを決定する決定工程とをコンピュータが実行し、前記模様データには、同一色の前記オブジェクトで構成される色レイヤーと、前記色レイヤーを構成する前記オブジェクトの情報とが関連付けられて登録されており、前記判定工程は、いずれかの前記色レイヤーを判定対象として選択し、選択した前記色レイヤーにおいて、オブジェクト単位で縫製可能か否かの判定を行い、判定対象である前記色レイヤーにおいて必要下糸量が下糸残量以下である未縫製のオブジェクトが存在しなくなった場合に、未縫製の他の色レイヤーを前記判定対象として選択するミシンの刺繍縫製方法である。
【0015】
本発明の第3態様は、上記ミシンの刺繍縫製方法をコンピュータに実行させるためのミシンの刺繍縫製プログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、下糸の無駄を削減できるとともに、下糸交換の頻度を低減させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るミシンが備えるハードウェア構成の一例を示した概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係るミシンが有する各種機能のうち、刺繍縫製機能の一例を抽出して示した機能ブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る模様データの一例を示した図である。
図4図3に示した模様データにおいて、小模様ID「J1」を構成する各色レイヤーのパターンの一例を示した図である。
図5図3に示した模様データにおいて、色レイヤーID「C3」を構成する各オブジェクトのパターンの一例を示した図である。
図6】本発明の一実施形態に係る刺繍縫製方法の手順の一例を示したフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態に係る刺繍縫製方法の手順の一例を示したフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態に係る刺繍縫製方法の手順の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態に係るミシン及びその刺繍縫製方法並びに刺繍縫製プログラムについて、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係るミシン1が備えるハードウェア構成の一例を示した概略構成図である。図1に示すように、ミシン1は、例えば、制御装置10、通信装置14、タッチパネルディスプレイ15、縫製機構16、下糸残量検知センサ17等を備えている。これら各部は、例えば、バス20を介して接続されている。
【0020】
制御装置10は、例えば、CPU11、CPU11が実行するプログラム及びこのプログラムにより参照されるデータ等を記憶するための補助記憶装置12、各プログラム実行時のワーク領域として機能する主記憶装置13を備えている。
【0021】
補助記憶装置12の一例として、HDD(Hard Disk Drive)などの磁気ディスク、光磁気ディスク、SSD(Solid State Drive)等の半導体メモリ等が挙げられる。
【0022】
通信装置14は、インターネット等のネットワークを介して所定の接続先(例えば、サーバ)と接続し、接続先との間で相互通信を実現させる。通信装置14は、制御装置10からの指令に基づいて制御される。
【0023】
タッチパネルディスプレイ15は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELディスプレイ(OLED:Organic Light Emitting Diode)等のディスプレイにタッチパネルが重畳された構成とされている。タッチパネルディスプレイ15は、ユーザがミシン1に対して指示を与えるための入力部と、情報を表示する表示部として機能する。なお、タッチパネルディスプレイ15に代えて、入力部と表示部とがそれぞれ個別に設けられた構成とされていてもよい。
【0024】
タッチパネルディスプレイ15に表示される情報は制御装置10によって制御される。また、タッチパネルディスプレイ15を介して入力された情報は、制御装置10に出力され、入力情報に基づく各種処理が制御装置10によって行われる。
例えば、タッチパネルディスプレイ15は、登録されている複数の模様を選択肢として表示し、表示された複数の模様の中からユーザが所望する模様を選択できるように構成されている。ユーザによって選択された模様の情報、換言すると、模様ID(図3参照)は、制御装置10に出力される。
【0025】
縫製機構16は、縫目形成のための機械機構であり、例えば、縫針を上下駆動させるための上下駆動部16a及び縫針の縫点を水平面上で移動させるための水平駆動部16bを備えている。
上下駆動部16aは、例えば、縫針を上下駆動させるためのモータを備えている。また、水平駆動部16bは、ミシンの縫点をX軸方向に移動させるためのモータ及びミシンの縫点をY軸方向に移動させるためのモータを備えている。
制御装置10からの指令に基づいて、これらモータが駆動されることにより、所望の縫点(例えば、XY座標系によって決定される所望の座標点)に対して縫針を上下運動させることにより、上糸と下糸とが絡み、被縫製物に所望の縫目や模様を形成する。
なお、縫製機構16については、公知であり、よく知られた機構であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0026】
下糸残量検知センサ17は、例えば、縫製機構16が備える下糸供給部(図示略)に設けられており、現在装着されているボビンの下糸残存量を検出し、出力する。例えば、下糸残量検知センサ17は、公知の構成を採用することが可能であり、一例として、特開平1-126996号公報に記載された構成のものを採用することが可能である。
【0027】
図2は、本実施形態に係るミシン1が有する各種機能のうち、刺繍縫製機能の一例を抽出して示した機能ブロック図である。
後述する各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラム(例えば、刺繍縫製プログラム)の形式で補助記憶装置12に記憶されており、このプログラムをCPU11が主記憶装置13に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、補助記憶装置12に予めインストールされている形態や、他のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0028】
図2に示すように、ミシン1の制御装置10は、例えば、模様データ記憶部21、模様データ取得部22、下糸残量取得部23、判定部24、決定部25及び縫製制御部26を備えている。
【0029】
模様データ記憶部21には、複数の模様データが格納されている。本実施形態において、一つの模様は、少なくとも一つの小模様から構成されている。また、小模様は、少なくとも一つのオブジェクトから構成されている。オブジェクトは、例えば、縫い始めから解れ止め又は糸切りまでを一つの単位としたものである。そして、模様データには、このように構成される各模様を縫製するのに必要となる情報が登録されている。
【0030】
図3は、本実施形態に係る模様データの一例を示した図である。
図3に示すように、模様データには、模様を識別するための模様ID、模様を構成する小模様を識別するための小模様ID、小模様を構成するオブジェクトを識別するためのオブジェクトID(オブジェクトの情報)、及びオブジェクトを縫製するのに必要な必要下糸量に関する情報が関連付けられて登録されている。
ここで、「必要下糸量に関する情報」は、必要下糸量を得るために必要となる情報であり、例えば、「必要下糸量」自体の他、必要下糸量を算出するために必要となるデータ(例えば、針落ち点情報等)であってもよい。
【0031】
さらに、模様データには、小模様に用いられる上糸の色の情報を識別するための色レイヤーIDが登録されている。
更に、模様データには、オブジェクトIDと縫製順序とが関連付けられて登録されている。また、模様データには、縫製順序を相互に変更できない複数のオブジェクトからなるオブジェクトグループの情報と該オブジェクトグループにおける各オブジェクトの縫製順序とが登録されている。
【0032】
図3に示した模様データにおいて、模様ID「K1」で識別される模様は、小模様ID「J1」~「J3」で識別される小模様から構成されている。小模様ID「J1」で識別される小模様は、色レイヤーID「C1~C4」で識別される色で構成されている。また、小模様ID「J1」で識別される小模様は、オブジェクトID「1a」、「2a」、「3a」~「3e」、「4a」、「4b」等で識別されるオブジェクトから構成されている。
【0033】
さらに、図3に示す模様データには、色レイヤー毎に、各オブジェクトの縫製順序が登録されている。例えば、色レイヤーID「C3」の場合、オブジェクトID「3a」、「3b」、「3c」、「3d」、「3e」の順にデフォルトの縫製順序が登録されている。また、図3に例示した模様データでは、オブジェクトID「3c」と「3d」で識別されるオブジェクトは、縫製順序を入れ替えることができないオブジェクトグループとして登録され、オブジェクトID「3c」のオブジェクトを縫製した後に、オブジェクトID「3d」のオブジェクトを縫製することが登録されている。
【0034】
また、模様データには、オブジェクトID毎に、必要下糸量、縫製開始位置、糸切位置がそれぞれ登録されている。また、これらの情報に加えて、オブジェクトID毎に、縫製軌跡の情報が登録されていてもよい。
【0035】
図4及び図5は、図3に示した模様データに対応する小模様パターンの一例を示した図である。図4に示すように、例えば、小模様ID「J1」で識別される小模様は、子猫が「CAT」の文字が印字された枠を両手で支える模様であり、4つの色レイヤーから構成されている。
【0036】
オブジェクトID「1a」で識別される枠のパーツは、色レイヤーID「C1」で識別される色の上糸で縫製される。
オブジェクトID「2a」で識別される「CAT」の文字は、色レイヤーID「C2」で識別される色の上糸で縫製される。
オブジェクトID「3a」~「3d」で識別される猫のそれぞれのパーツは、色レイヤーID「C3」で識別される色の上糸で縫製され、オブジェクトID「4a」~「4n」で識別される猫の顔のパーツは、色レイヤーID「C4」で識別される色の上糸で縫製される。
【0037】
また、図5に示すように、色レイヤーID「C3」の上糸で縫製される猫のパーツは、2つの耳、一つの顔、2つの手のパーツから構成され、それぞれのパーツに対してオブジェクト「3a」~「3d」のオブジェクトIDが付与されている。
【0038】
図2に戻り、模様データ取得部22は、模様データ記憶部21に格納されている複数の模様データの中からユーザによって指定された模様に対応する模様データを取得する。例えば、ユーザがタッチパネルディスプレイ15を操作することによって、模様ID「K1」で識別される模様が指定された場合、模様データ取得部22は、指定された模様ID「K1」の模様データを模様データ記憶部21から読み出す。
【0039】
下糸残量取得部23は、下糸残量検知センサ17によって検知された下糸残量を取得する。
【0040】
判定部24は、模様データ取得部22によって取得された模様データに基づくオブジェクトの必要下糸量と、下糸残量取得部23によって取得された下糸残量との大小に基づいて、オブジェクトが縫製可能か否かを判定する。
【0041】
判定部24は、模様データに必要下糸量自体が登録されていた場合には、その必要下糸量を用いて判定を行い、必要下糸量を算出するための情報が登録されていた場合には、それらの情報に基づいて演算を行うことにより必要下糸量を算出する。例えば、針落ち点情報が登録されていた場合には、縫目データの相対移動量を累計して縫い距離を求め、これに所定の定数を乗じることにより、必要下糸量を算出する。また、予め一針に必要な必要下糸量が決められている場合には、これに針数を乗じることにより必要下糸量を算出することとしてもよい。
【0042】
判定部24は、下糸残量取得部23によって取得された下糸残量がオブジェクトの必要下糸量以上であれば縫製可能であると判定し、下糸残量がオブジェクトの必要下糸量未満であれば縫製不可能であると判定する。
判定部24は、例えば、各オブジェクトの縫製順序に従って、オブジェクト単位で縫製可能か否かを判定する。
【0043】
更に、判定部24は、模様データ取得部22によって取得された模様データにおいて、オブジェクトの縫製順序を相互に変更できないオブジェクトグループが登録されていた場合には、そのオブジェクトグループに属する複数のオブジェクトについては、縫製順序に従ってオブジェクト単位で縫製可能か否かを判定し、いずれかのオブジェクトについて縫製不可能と判定した場合に、縫製不可能と判定したオブジェクト以降に縫製順位が設定されているオブジェクトについても縫製不可能と判定する。
例えば、図3及び図5に示したオブジェクトID「3c」、「3d」のオブジェクトは、オブジェクトグループとして登録されている。従って、例えば、判定部24は、オブジェクトID「3c」について縫製不可能と判定した場合、オブジェクトID「3d」についても自動的に縫製不可能と判定する。
【0044】
決定部25は、判定部24の判定結果に基づいてオブジェクトを縫製対象とするか否かを決定する。すなわち、決定部25は、判定部24によって縫製可能であると判定されたオブジェクトを縫製対象とし、縫製対象のオブジェクトIDを縫製制御部26に出力する。また、判定部24によって縫製不可能であると判定されたオブジェクトについては、縫製対象から除外する。
【0045】
縫製制御部26は、縫製対象として決定されたオブジェクトの情報、具体的には、当該オブジェクトの縫製開始位置及び糸切位置、縫製軌跡等の情報を模様データから取得し、取得したこれら情報に基づいて縫製機構16、具体的には、図1に示した上下駆動部16a、水平駆動部16b等を制御することにより、オブジェクト単位で縫製を行う。
【0046】
次に、本実施形態に係る刺繍縫製方法について図6図8を参照して説明する。図6図8は、本実施形態に係る刺繍縫製方法の手順の一例を示したフローチャートである。図6図8に記載されている各処理は、例えば、上述したCPU11が補助記憶装置12に記憶されている刺繍縫製プログラムを主記憶装置13に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより実行される。
【0047】
まず、ユーザがタッチパネルディスプレイ15を操作することによって、ユーザが所望する模様が指定され、縫製開始の指示が入力されると、指定された模様の模様データを模様データ記憶部21から取得する(SA1)。
【0048】
まず、模様データに登録されている色レイヤーのうち、未判定の色レイヤーを判定対象として設定するとともに、判定対象として設定した色レイヤーの判定ステータスを「判定済み」とする(SA2)。このように、判定ステータスを設定することにより、判定済みの色レイヤーと未判定の色レイヤーとを判別することが可能となる。
なお、色レイヤー毎に縫製順序が設定されていた場合には、その縫製順序に従って判定対象とする色レイヤーを設定することとしてもよい。
【0049】
続いて、判定対象として設定された色レイヤーにおいて、未判定のオブジェクトを判定対象として設定するとともに、判定対象として設定したオブジェクトの判定ステータスを「判定済み」とする(SA3)。このように、判定ステータスを設定することにより、判定済みのオブジェクトと未判定のオブジェクトとを判別することが可能となる。
なお、オブジェクト毎に縫製順序が設定されている場合には、縫製順序に従って判定対象とするオブジェクトを設定してもよい。
【0050】
続いて、現在の下糸残量を取得し(SA4)、取得した下糸残量と判定対象のオブジェクトの必要下糸量とを比較する(SA5)。この結果、下糸残量が必要下糸量以上であった場合には(SA5:YES)、判定対象のオブジェクトを縫製対象として決定し、当該オブジェクトの縫製を実行する(SA6)。また、縫製を行ったオブジェクトの縫製ステータスを「縫製済み」とする。このように、縫製ステータスを設定することにより、縫製済みのオブジェクトと未縫製のオブジェクトとを判別することが可能となる。
【0051】
続いて、判定対象として設定された色レイヤーにおいて、未判定のオブジェクトがあるか否かを判定する(SA7)。この結果、未判定のオブジェクトがある場合には(SA7:YES)、ステップSA3に戻り、未判定のオブジェクトを判定対象として設定し、以降の処理を繰り返す。
【0052】
そして、ステップSA5において、下糸残量が判定対象のオブジェクトの必要下糸量よりも少ないと判定された場合は(SA5:NO)、続いて、当該判定対象のオブジェクトがオブジェクトグループとして登録されているか否かを判定する(図7のステップSA8)。すなわち、判定対象のオブジェクトが縫製順序を相互に変更できないオブジェクトであるかを判定する。この結果、判定対象のオブジェクトがオブジェクトグループでないと判定された場合は(SA8:NO)、判定対象のオブジェクトを縫製不可能と判定し、縫製対象から除外する(SA9)。そして、当該オブジェクトの縫製を行わないまま、図6のステップSA7に移行し、以降の処理を行う。また、当該オブジェクトについては、縫製は行われないため、縫製ステータスは「未縫製」のまま維持される。
【0053】
一方、図7のステップSA8において、判定対象のオブジェクトがオブジェクトグループであると判定された場合には(SA8:YES)、当該オブジェクトグループにおいて、判定対象のオブジェクト以降のオブジェクトを全て縫製不可能と判定し、縫製対象から除外する(SA10)。そして、これらのオブジェクトについては縫製を行わないまま、図6のステップSA7に移行する。これにより、判定対象がオブジェクトグループである場合には、そのオブジェクトグループに属する複数のオブジェクトのうち、判定対象のオブジェクト以降の縫製順序が設定されている全てのオブジェクトについて縫製対象から除外され、縫製が行われないこととなる。また、このようにして縫製対象から除外されたオブジェクトの判定ステータスは「判定済み」とされ、縫製ステータスは、「未縫製」とされる。
【0054】
続いて、図6のステップSA7において、未判定のオブジェクトがないと判定された場合には(SA7:NO)、未判定の色レイヤーがあるか否かが判定される(SA11)。この結果、未判定の色レイヤーがある場合には、ステップSA2に戻り、以降の処理が行われる。一方、未判定の色レイヤーがないと判定された場合には(SA11:NO)、未縫製のオブジェクトがあるか否かを判定する(SA12)。すなわち、縫製対象から除外され、未だ縫製が行われていないオブジェクトがあるか否かを判定する。この結果、未縫製のオブジェクトがある場合には、図8のステップSA13に進み、下糸交換の報知を行う。下糸交換の報知は、例えば、タッチパネルディスプレイ15に、「下糸交換をしてください」等の下糸交換を促すメッセージを表示させることにより行われる。また、音声によって報知することとしてもよい。
【0055】
この報知に対して、ユーザによって下糸交換が行われると(SA14:YES)、縫製ステータスが「未縫製」のオブジェクト及び色レイヤーの判定ステータスを「未判定」にリセットし(SA15)、図6のステップSA2に戻り、以降の処理を行う。これにより、未縫製であった色レイヤーやオブジェクトについて、再び下糸残量との比較が行われ、現在の下糸残量で縫製可能なオブジェクトについて縫製が進められることとなる。そして、全てのオブジェクトについて縫製が行われると(SA12:NO)、本処理を終了する。
【0056】
次に、本実施形態における刺繍縫製方法について、図3に示した模様データのうち、小模様ID「J1」の小模様について刺繍を行う場合を例示して簡単に説明する。また、説明の便宜上、図6のステップSA2~SA11が繰り返し行われることにより、色レイヤーID「C1」、「C2」については、下糸残量が足りていることからオブジェクトID「1a」、「2a」の縫製が実行され、色レイヤーID「C3」が判定対象として設定されたところから説明する。
【0057】
この場合、まず、色レイヤーID「C3」が判定対象として設定され(SA2)、オブジェクトID「3a」が判定対象として設定される(SA3)。続いて、現在の下糸残量が取得され(SA4)、下糸残量と必要下糸量「U3」とが比較される(SA5)。この結果、下糸残量が必要下糸量「U3」よりも多ければ(SA5:YES)、オブジェクトID「3a」の縫製が実行される(SA6)。続いて、色レイヤーID「C3」については、未判定のオブジェクト「3b」~「3e」が存在することから、ステップSA7において肯定判定となり(SA7:YES)、オブジェクトID「3b」が判定対象に設定される(SA3)。続いて、現在の下糸残量が取得され(SA4)、下糸残量と必要下糸量「U4」とが比較される(SA5)。この結果、下糸残量が必要下糸量「U4」よりも多ければ(SA5:YES)、オブジェクトID「3b」の縫製が実行される(SA6)。続いて、ステップSA7において再び肯定判定となり(SA7:YES)、オブジェクトID「3c」が判定対象に設定される(SA3)。
【0058】
続いて、現在の下糸残量が取得され(SA4)、下糸残量と必要下糸量「U5」とが比較される(SA5)。この結果、下糸残量が必要下糸量「U5」よりも少ないと判定された場合には(SA5:NO)、続いて、判定対象のオブジェクトがオブジェクトグループか否かが判定される(図7のSA8)。この結果、判定対象であるオブジェクトID「3c」は、オブジェクトグループであるので(SA8:YES)、当該オブジェクトグループにおいて、オブジェクトID「3c」以降に縫製順序が設定されているオブジェクトID「3d」についても縫製対象から除外される(SA10)。
【0059】
これにより、オブジェクトID「3c」、「3d」については縫製が行われることなく、続く、図6のステップSA7において、肯定判定となり(SA7:YES)、続くオブジェクトID「3e」が判定対象として設定される(SA3)。続いて、現在の下糸残量が取得され(SA4)、下糸残量と必要下糸量「U7」とが比較される(SA5)。この結果、下糸残量が必要下糸量「U7」よりも多ければ(SA5:YES)、オブジェクトID「3e」の縫製が実行される(SA6)。続いて、ステップSA7において、色レイヤー「C3」については、全てのオブジェクトについて判定が行われたことから否定判定となり(SA7:NO)、続くステップSA11において、色レイヤー「C4」は未判定であるから肯定判定となり(SA11:YES)、判定対象として、色レイヤーID「C4」が設定される。
【0060】
そして、色レイヤー「C4」についても同様の処理が進められ、全てのオブジェクトID「4a」~「4n」について下糸残量が必要下糸量以上であると判定されることから縫製が実施されると、ステップSA7、SA11において、いずれも肯定判定となり、ステップSA12に進む。
【0061】
ステップSA12では、未縫製であるオブジェクトID「3c」、「3d」が残っていることから肯定判定となり、図8のステップSA13に進み、下糸交換の報知が行われる。そして、下糸交換が行われると(SA14:YES)、未縫製のオブジェクトであるオブジェクトID「3c」、「3d」及びこれらが属する色レイヤーID「C3」の判定ステータスが「未判定」にリセットされ(SA15)、図6のステップSA2に戻る。
【0062】
そして、未判定の色レイヤーである色レイヤーID「C3」が判定対象として設定され(SA2)、続いて、未判定のオブジェクトであるオブジェクトID「3c」が判定対象として設定される(SA3)。そして、下糸残量が取得され(SA4)、下糸残量と必要下糸量とが比較される(SA5)。この結果、下糸を交換したばかりであるから、下糸残量が必要下糸量以上であると判定され(SA5:YES)、オブジェクトID「3c」の縫製が行われる(SA6)。そして、ステップSA7において、未判定のオブジェクトがあることから、肯定判定となり、オブジェクトID「3d」についても同様の処理が行われ、縫製が実行される。そして、小模様ID「J1」の小模様を構成する全てのオブジェクトについて縫製が完了すると、ステップSA11,ステップSA12において否定判定となり、本処理が終了する。
【0063】
以上説明してきたように、本実施形態に係るミシン及びその刺繍縫製方法並びに刺繍縫製プログラムによれば、縫い始めから解れ止め又は糸切りまでを一つの単位とするオブジェクト毎に、下糸残量と必要下糸量とを比較し、縫製可能か否かを判定するので、複数のオブジェクトによって構成される模様単位で、必要下糸量と下糸残量とを比較する従来の手法に比べて、下糸の無駄を削減でき、下糸交換の頻度を低減させることが可能となる。
【0064】
すなわち、従来は、本実施形態における小模様又は色レイヤーを最小単位として定義し、その単位毎に下糸残量と必要下糸量とを比較して、縫製可能か否かを判定していた。例えば、図4に示した小模様ID「J1」の模様を例に挙げると、オブジェクトID「1a」、「2a」、「3a」~「3d」、「4a」~「4n」で構成される小模様、または、色レイヤー「C1」~「C4」のそれぞれを最小単位として定め、この単位毎に必要下糸量と下糸残量とを比較することにより、縫製可能か否かを判定していた。このため、例えば、色レイヤーID「C3」を構成するオブジェクトID「3a」~「3d」の全てをまとめて縫製するに足りる下糸残量がない場合には、その時点で下糸を交換しなければならなかった。これに比べて、本実施形態に係るミシン及びその刺繍縫製方法並びに刺繍縫製プログラムによれば、小模様や色レイヤーをさらに細分化した「オブジェクト」を最小単位として、下糸残量と必要下糸量とを比較して縫製を進めるので、上述した従来の場合に比べて、下糸の無駄を削減でき、下糸交換の頻度を低減させることが可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態によれば、模様データには、縫製順序を相互に変更できない複数のオブジェクトからなるオブジェクトグループの情報と該オブジェクトグループにおける縫製順序とが登録されている。そして、同じオブジェクトグループに属する複数のオブジェクトのうち、下糸残量が必要下糸量未満であると判定されたオブジェクトがあった場合には、それ以降のオブジェクトについて縫製対象から除外する。これにより、同じオブジェクトグループに属する複数のオブジェクトについては、登録された縫製順序の前後が変更されることなく、縫製を行うことが可能となる。
【0066】
更に、本実施形態によれば、模様データには、オブジェクトの情報と色レイヤーとが関連付けられて登録されており、判定対象とされた色レイヤーにおいて、必要下糸量が下糸残量以下である未判定のオブジェクトが存在しなくなると、未判定の他の色レイヤーを判定対象として設定し、引き続きオブジェクト単位で縫製可能か否かの判定を行う。これにより、複数の色レイヤーを跨いで縫製可能なオブジェクトを見つけることができ、単一の色レイヤーで判定を終了する場合に比べて、下糸をより有効に利用することができ、下糸の無駄をさらに削減することができる。
【0067】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。また、上記実施形態を適宜組み合わせてもよい。
また、上記実施形態で説明した刺繍縫製方法の流れも一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【0068】
例えば、上述した実施形態では、オブジェクト毎に縫製対象とするか否かを判定し、縫製対象として決定した場合にはそのオブジェクトの縫製を実行するという具合に、縫製可能か否かの判定と縫製実行とを交互に行っていた。しかしながら、この例に限定されず、例えば、オブジェクト毎に縫製可能か否かの判定を連続的に行い、小模様を構成する全てのオブジェクトについて縫製対象とするか否かの判定が完了した後に、縫製対象とされたオブジェクトについての縫製をまとめて実行することとしてもよい。この場合、下糸残量については、判定開始時において取得された下糸残量から縫製対象であると判定したオブジェクトの必要下糸量の累計をその都度減算することで、下糸残量を推定すればよい。
【0069】
また、本実施形態において、模様データは、ミシン1が備える模様データ記憶部21に格納されている場合を例示して説明したが、模様データの格納場所については特に限定されない。例えば、ネットワークに接続された特定のサーバに格納されており、このサーバからネットワークを介して模様データをダウンロードすることにより模様データ取得部22が所望の模様データを取得することとしてもよい。また、模様データは、ミシン1に着脱可能なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体(例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等)に記憶されていてもよく、これらがミシン1に接続された状態で模様データ取得部22が模様データを取得するような構成とされていてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 :ミシン
10 :制御装置
11 :CPU
12 :補助記憶装置
13 :主記憶装置
14 :通信装置
15 :タッチパネルディスプレイ
16 :縫製機構
16a :上下駆動部
16b :水平駆動部
17 :下糸残量検知センサ
21 :模様データ記憶部
22 :模様データ取得部
23 :下糸残量取得部
24 :判定部
25 :決定部
26 :縫製制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8