(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】感温抵抗体及びこれを備えた感温素子
(51)【国際特許分類】
H01C 7/02 20060101AFI20240626BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20240626BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240626BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20240626BHJP
C08L 83/08 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
H01C7/02
C08K3/01
C08L63/00 A
C08L67/03
C08L83/08
(21)【出願番号】P 2020177679
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】久須 風子
(72)【発明者】
【氏名】土谷 裕美
(72)【発明者】
【氏名】近藤 瞳
(72)【発明者】
【氏名】大東 さつき
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-165957(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0142525(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/02
C08K 3/01
C08L 63/00
C08L 67/03
C08L 83/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極に電気的に接続される感温抵抗体であって、
少なくとも一種のポリアリレート樹脂と、
エポキシ樹脂と、
導電性粒子と、
両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンと、
を含んでおり、
前記エポキシ樹脂は、前記ポリアリレート樹脂100質量部に対し、1.0~2.5質量部含有されている、感温抵抗体。
【請求項2】
前記ポリアリレート樹脂は、80質量%以上含有されている、請求項1に記載の感温抵抗体。
【請求項3】
前記両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンは、前記ポリアリレート樹脂100質量部に対し、0.1~1.0質量部含有されている、請求項1または2に記載の感温抵抗体。
【請求項4】
前記ポリアリレート樹脂が少なくとも2種類含有され、
一方の前記ポリアリレート樹脂のガラス転移温度が250℃未満であり、他方の前記ポリアリレート樹脂のガラス転移温度が250℃以上である、請求項1から3のいずれかに記載の感温抵抗体。
【請求項5】
前記導電性粒子は、前記ポリアリレート樹脂100質量部に対し、8~11質量部含有されている、請求項1から4のいずれかに記載の感温抵抗体。
【請求項6】
前記導電性粒子は、カーボンブラックである、請求項1から5のいずれかに記載の感温抵抗体。
【請求項7】
硬化剤及び硬化促進剤をさらに含有している、請求項1から6のいずれかに記載の感温抵抗体。
【請求項8】
少なくとも1つの正極と、
少なくとも1つの負極と、
前記正極及び負極に電気的に接続される、請求項1から7のいずれかに記載の感温抵抗体と、
前記正極、負極、及び前記感温抵抗体を支持する基材フィルムと、
を備えている、感温素子。
【請求項9】
少なくとも一種のポリアリレート樹脂と、
エポキシ樹脂と、
導電性粒子と、
両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンと、
溶剤と、
を含有する、感温抵抗体を形成するためのインク。
【請求項10】
前記溶剤は、少なくとも安息香酸メチルと二塩基酸エステルとを含有する、請求項9に記載の感温抵抗体を形成するためのインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感温抵抗体及びこれを備えた感温素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度が所定値まで上昇すると、急激に電気抵抗が上昇するPTC特性(Positive Temperature Coefficient)を有する感温抵抗体が知られている。このような感温抵抗体としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンなどの結晶性重合体に金属微粉末やカーボンブラックなどを分散させたものが知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
例えば、感温抵抗体に電極を配した感温素子が、高温に達すると電流が流れなくなる温度センサ(スイッチ)などとして使用されている。この温度センサは、所定温度に達するまでは電気抵抗が小さく電流が流れるものの、所定温度に達すると電池抵抗が急激に大きくなり電流が流れなくなる感温抵抗体の特性を利用したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような感温素子に用いられる感温抵抗体には改良の余地があり、例えば、電極及び基材との高い密着性と、例えば、200℃程度の高温での温度測定を両立できる感温抵抗体は未だ提案されていなかった。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、電極及び基材に対する密着性と高温での温度測定が可能な感温抵抗体及びこれを備えた感温素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
項1.正極及び負極に電気的に接続される感温抵抗体であって、
少なくとも一種のポリアリレート樹脂と、
エポキシ樹脂と、
導電性粒子と、
両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンと、
を含んでおり、
前記エポキシ樹脂は、前記ポリアリレート樹脂100質量部に対し、1.0~2.5質量部含有されている、感温抵抗体。
【0007】
項2.前記ポリアリレート樹脂は、80質量%以上含有されている、項1に記載の感温抵抗体。
【0008】
項3.前記両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンは、前記ポリアリレート樹脂100質量部に対し、0.1~1.0質量部含有されている、項1または2に記載の感温抵抗体。
【0009】
項4.前記ポリアリレート樹脂が少なくとも2種類含有され、
一方の前記ポリアリレート樹脂のガラス転移温度が250℃未満であり、他方の前記ポリアリレート樹脂のガラス転移温度が250℃以上である、項1から3のいずれかに記載の感温抵抗体。
【0010】
項5.前記導電性粒子は、前記ポリアリレート樹脂100質量部に対し、8~11質量部含有されている、項1から4のいずれかに記載の感温抵抗体。
【0011】
項6.前記導電性粒子は、カーボンブラックである、項1から5のいずれかに記載の感温抵抗体。
【0012】
項7.硬化剤及び硬化促進剤をさらに含有している、項1から6のいずれかに記載の感温抵抗体。
【0013】
項8.少なくとも1つの正極と、
少なくとも1つの負極と、
前記正極及び負極に電気的に接続される、請求項1から7のいずれかに記載の感温抵抗体と、
前記正極、負極、及び前記感温抵抗体を支持する基材フィルムと、
を備えている、感温素子。
【0014】
項9.少なくとも一種のポリアリレート樹脂と、
エポキシ樹脂と、
導電性粒子と、
両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンと、
溶剤と、
を含有する、感温抵抗体を形成するためのインク。
【0015】
項10.前記溶剤は、少なくとも安息香酸メチルと二塩基酸エステルとを含有する、項9に記載の感温抵抗体を形成するためのインク。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る感温抵抗体によれば、電極及び基材に対する密着性を向上できるとともに、高温での温度測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る感温素子の一実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明に係る感温素子を温度分布センサに適用した分解斜視図である。
【
図4】
図3の温度分布センサシートの平面図である。
【
図8】
図4の温度分布センサシートの製造方法の一例である。
【
図9】
図4の温度分布センサシートと外部機器との構成図である。
【
図10】実施例及び比較例に係る感温抵抗体の、エポキシ樹脂の含有量とガラス転移温度及び軟化点との関係を示すグラフである。
【
図11】実施例1に係る感温抵抗体を有する感温素子の平面図である。
【
図12】実施例1に係る感温抵抗体を有する感温素子の、温度と出力の関係を示すグラフである。
【
図13】実施例1に係る感温抵抗体の表面性状を観察した写真である。
【
図14】比較例4に係る感温抵抗体の表面性状を観察した写真である。
【
図15】実施例5に係る感温抵抗体の表面性状を観察した写真である。
【
図16】実施例6に係る感温抵抗体の表面性状を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1.感温素子の概要>
以下、本発明に係る感温素子の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態に係る感温素子の断面図、
図2は
図1の平面図である。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る感温素子10は、シート状の基材4を備えており、この基材4上に、シート状に形成された、第1の電極2、感温抵抗体1、及び第2の電極3がこの順で積層されている。この感温素子10は、一定の温度に保持されると、その温度の高低に応じて感温抵抗体1の電気抵抗が変化する。そして、その電気抵抗は第1の電極2と第2の電極3とを通じ、図示を省略する電源に伝達され、これによって抵抗値が測定される。こうして測定した抵抗値から、この感温素子10の温度を検出することができる。以下、この感温素子10を構成する各部材について詳細に説明する。
【0019】
<1-1.感温抵抗体>
本実施形態に係る感温抵抗体1は、温度の上昇と共に、電気抵抗値が上昇する特性を備えており、具体的には、少なくとも30℃~200℃の範囲においては、温度が上昇すると電気抵抗値が高くなり、温度が低下すると電気抵抗値が低くなる特性を備えている。この感温抵抗体1は、ポリアリレート樹脂、エポキシ樹脂、導電性粒子、及び両末端アミン変性ポリジメチルシロキサン、を含んでいる。以下、詳細に説明する。
【0020】
<1-1-1.ポリアリレート樹脂>
ポリアリレート樹脂は、特に限定されず、あらゆるポリアリレート樹脂を用いることができる。ポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸残基および二価フェノール残基を含み、詳しくは芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、二価フェノールまたはその誘導体とよりなる非晶性の芳香族ポリエステル重合体である。ポリアリレート樹脂は、溶液重合法、溶融重合法、界面重合法などの方法により製造できる。
【0021】
ポリアリレート樹脂は、感温抵抗体1に、80~95質量%含有されることが好ましく、83~89質量%含有されることがさらに好ましい。
【0022】
1種類のポリアリレート樹脂を用いるほか、複数種のポリアリレート樹脂を混合することもできる。例えば、ガラス転移温度が250℃未満のポリアリレート樹脂と、ガラス転移温度が250℃以上のポリアリレート樹脂とを混合することができる。例えば、耐熱性を向上するにはガラス転移温度が高いポリアリレート樹脂を用いればよいが、ガラス転移温度の高いポリアリレート樹脂は剛直であることがあるため、溶剤に対する溶解度が低い傾向にある。したがって、このように、ガラス転移温度の高いポリアリレート樹脂と低いポリアリレート樹脂とを混合すると、ガラス転移温度を高くでき、且つ溶剤に対する溶解度を向上することができる。ガラス転移温度が250℃未満のポリアリレート樹脂と、ガラス転移温度が250℃以上のポリアリレート樹脂との混合比は、例えば、100:0~40:60とすることが好ましく、80:20~50:50とすることがさらに好ましい。
【0023】
<1-1-2.エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂は、ポリアリレート樹脂100質量部に対し、1.0~2.5質量部含有されることが好ましく、1.3~2.2質量部含有されることがさらに好ましい。また、この感温抵抗体1における固形分の配合比率としては、0.8~2.2質量%含有されることが好ましく、1.2~1.9質量%含有されることがさらに好ましい。なお、後述する感温抵抗体1用のインクの調製時の添加量としては、0.3質量%より多く1.3質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上0.9質量%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
<1-1-3.導電性粒子>
感温抵抗体1に含まれる導電性粒子としては、導電性を備える粒子であれば特に制限されず、公知の感温抵抗体に含まれる導電性粒子を用いることができる。導電性粒子の具体例としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンナノコイルなどの炭素系粒子(繊維状物も含む);鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、マグネシウム、プラチナ、銀、金、及びこれらの金属のうち少なくとも1種を含む合金などの金属粒子;酸化スズ、酸化亜鉛、ヨウ化銀、ヨウ化銅、チタン酸バリウム、酸化インジウム錫、チタン酸ストロンチウムなどの導電性無機材料粒子などが挙げられる。これらの中でも、広い温度範囲にわたって被検体の温度を精度高く測定できる感温素子とする観点からは、導電性カーボンブラックが特に好ましい。導電性粒子は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
導電性粒子の粒子径としては、特に制限されないが、好ましくは1μm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下が挙げられる。
【0026】
感温抵抗体1に含まれる導電性粒子の含有量としては、特に制限されず、所望の電気抵抗値や体積抵抗値となるように設定すればよい。例えば、導電性粒子の含有量は、ポリアリレート樹脂100質量部に対し、8~11質量部含有されることが好ましく、8.5~10質量部含有されることがさらに好ましい。また、この感温抵抗体1における固形分の配合比率としては、7~10質量%含有されることが好ましく、7.5~9質量%含有されることがさらに好ましい。
【0027】
<1-1-4.両末端アミン変性ポリジメチルシロキサン>
両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンは、例えば、ポリアリレート樹脂100質量部に対し、0.1~1.0質量部含有することができる。両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンを添加することで、乾燥後の感温抵抗体の表面に気泡割れ痕やクラックが生じるのを抑制することができる。また、エポキシ樹脂と併用することで、基材4との密着性を向上することができる。但し、両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンの耐熱性はポリアリレート樹脂よりも低いため、両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンの配合量が1.0質量部を超えると、感温抵抗体1のガラス転移温度が低下する可能性がある。両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンの配合量が1.0質量部を超えると、感温抵抗体1の基材4への密着性が低下する可能性がある。
【0028】
<1-1-5.添加剤>
感温抵抗体1には、前述の導電性粒子及び樹脂に加えて、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、特に制限されず、例えば、硬化剤や硬化促進剤等の感温抵抗体に含まれる公知の添加剤を使用することができる。なお、硬化剤としては、例えば、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、または芳香族アミン系硬化剤等を用いることができる。その他、酸化チタン、アルミナ、マイカなどのPTC特性を備える感温抵抗体に含まれる公知の添加剤を使用することができる。
【0029】
<1-1-6.感温抵抗体の電気特性>
本実施形態の感温素子(感温抵抗体)において、30℃~200℃の温度範囲における電気抵抗値の変化率としては、特に制限されないが、被検体の温度をより一層精度高く測定する観点からは、0.12~2.4%/℃の範囲にあることが好ましく、0.5~1%/℃の範囲にあることが特に好ましい。なお、この感温素子(感温抵抗体)を30℃~200℃よりも狭い温度範囲で使用する場合には、当該温度範囲における電気抵抗値の変化率が1~2.4%/℃の範囲にあることにより、被検体の温度をより一層精度高く測定することができる。例えば、30℃~150℃の範囲で被検体の温度をより一層精度高く測定する観点からは、30℃~150℃の温度範囲における電気抵抗値の変化率が上記の範囲にあることが好ましい。また、例えば、30℃~100℃の範囲で被検体の温度をより一層精度高く測定する観点からは、30℃~100℃の温度範囲における電気抵抗値の変化率が上記の範囲にあることが好ましい。なお、本発明において、感温素子(感温抵抗体)の電気抵抗値の変化率の値は、後述する実施例に記載の方法により測定された値である。
【0030】
本実施形態の感温素子(感温抵抗体)の30℃~200℃の温度範囲における体積抵抗率としては、特に制限されないが、被検体の温度をより一層精度高く測定する観点からは、好ましくは10Ω・cm~100kΩ・cm、より好ましくは100Ω・cm~50kΩ・cmが挙げられる。なお、本発明において、感温素子(感温抵抗体)の30℃~200℃の温度範囲における体積抵抗率の値は、後述する実施例に記載の方法により測定された値である。
【0031】
なお、感温抵抗体1は、シート状(薄膜状)に形成されるが、その厚みは、特に制限されない。但し、被検体の温度をより一層精度高く測定する観点からは、好ましくは100μm以下、より好ましくは10~50μm程度、さらに好ましくは20~40μm程度が挙げられる。
【0032】
<1-2.インク>
次に、上記感温抵抗体1を形成するためのインクについて説明する。このインクは、前述のポリアリレート樹脂、エポキシ樹脂、導電性粒子、及び両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンに加えて、溶剤を含んでおり、これらが溶剤中に分散した形態を備えている。本実施形態の感温抵抗体1は、例えば、このインクを電極の表面に塗布し、溶剤を乾燥させることにより容易に製造することができる。また、このインクには、溶剤に加えて、消泡剤などの公知の成分を加えることもできる。
【0033】
具体的には、例えば、次のようにインクを作製することもできる。まず、ポリアリレート樹脂と安息香酸メチルとを混合し、ポリアリレート樹脂を溶解したポリアリレート樹脂ワニスを作製する。このポリアリレート樹脂ワニスにおける固形分の割合は、例えば、18~22質量%とすることができる。これに続いて、エポキシ樹脂、導電性粒子、両末端アミン変性ポリジメチルシロキサン、硬化剤、及び硬化促進剤を混合することで、感温抵抗体用のインクを作製する。このようにワニスを先に作製するのは、ポリアリレート樹脂の溶解を確認した上で、他の材料を混合するためである。また、必要に応じて、ポリアリレート樹脂ワニスには、遅揮散性溶剤である二塩基酸エステルを含有することができる。これにより、インクの塗布表面の表面性状を良好にすることができる。この場合、溶剤における、安息香酸メチルと二塩基酸エステルとの質量比は、例えば、99:1~90:10であることが好ましい。
【0034】
なお、このインクに使用される溶剤としては、導電性粒子と樹脂を分散させることができ、電極の表面に塗布した後に乾燥させることができるものであれば、特に制限されない。溶剤の具体例としては、トリエチレングリコールジメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられる。溶剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。このインクにおける溶剤の割合としては、特に制限されず、例えば20~40質量%程度が挙げられる。また、樹脂及び導電性粒子の配合量等は、溶剤が乾燥した後に前述の感温抵抗体における含有量となるように調整すればよい。
【0035】
インクの塗布法は、特に制限されず、例えば公知の方法を用いて行うことができ、例えば、キャスト法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法などの塗布法;スクリーン印刷法、インクジェット法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの各種印刷法を採用することができる。
【0036】
<1-3.電極>
次に、第1及び第2の電極2,3について説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る感温素子では、これらの電極2,3が互いに接触しないように、これら電極2,3の間に感温抵抗体1が配置される。これにより、各電極2,3と感温抵抗体1とが電気的に接続されている。第1及び第2の電極2,3は、それぞれ、導電性材料により構成されていればよい。導電性材料としては、例えば、銅、アルミニウム、銀、及びこれらのうち少なくとも1種を含む合金など金属、これらのうち少なくとも1種の金属粉を含む樹脂により形成された導電性ペーストなどが挙げられる。
【0037】
第1及び第2の電極2,3の厚みとしては、特に制限されないが、被検体の温度をより一層精度高く測定する観点からは、好ましくは20μm以下、より好ましくは1~15μm程度、さらに好ましくは8~10μm程度が挙げられる。
【0038】
<1-4.基材>
基材4は、絶縁性のシート状材料で形成することができ、その材料は特には限定されないが、例えば、ポリイミド、PETなどの可撓性を有する材料で形成することができる。なお、ポリイミドは、耐熱性が良好であるため、好適に用いることができる。基材4の厚みは、特には限定されないが、感温抵抗体が形成された後のカールを防止するためには厚みが大きいことが好ましく、例えば、10~200μmであることが好ましく、25~125μmであることが好ましく、75~125μmであることがさらに好ましい。
【0039】
<2.感温素子の製造方法>
次に、感温素子10の製造方法の一例について説明する。まず、基材4の上に第1の電極2をスクリーン印刷により形成する。次に、第1の電極2の上に感温抵抗体1をスクリーン印刷により形成する。続いて、感温抵抗体1を挟むようにして、第1の電極2の上に第2の電極3をスクリーン印刷により形成する。その後、各電極2,3には適宜配線を施すことができる。こうして、本実施形態に係る感温素子10が形成される。
【0040】
なお、両電極2,3、及び感温抵抗体1は、スクリーン印刷以外の方法で形成することもでき、インクジェット法など前述の方法により形成してもよい。また、両電極2,3を、細線状に形成するには、基板配線技術(銅エッチングなど)により配線してもよい。これにより、非常に薄く(例えば0.1mm)、且つ、柔軟性のある感温素子10を成形することができる。
【0041】
このように形成された感温素子10の厚み(基材4以外の感温抵抗体1、第1の電極2、及び第2の電極3が積層された方向の厚み)としては、特に制限されない。例えば、
図1及び
図2のような感温素子10の場合、被検体の温度をより一層精度高く測定する観点からは、好ましくは100μm以下、より好ましくは30~80μm程度、さらに好ましくは40~60μm程度が挙げられる。
【0042】
<3.温度分布センサシート>
上述した感温素子10は、2つの電極2,3と1つの感温抵抗体1により形成されたが、多数の電極及び感温抵抗体により、複数の位置で温度を検知可能な感温素子を形成することもできる。以下では、本発明に係る感温素子を温度分布センサシートに適用した実施形態について、
図3~
図7を参照しつつ説明する。
図3はこの温度分布センサの分解斜視図、
図4は温度分布センサシートの平面図、
図5は
図4の一部断面図、
図6は
図4の要部Cの拡大図、
図7は
図4の一部斜視図である。
【0043】
ここで、一例として挙げる温度分布センサシート100は、温度分布を測定するものである。この温度分布センサシートは、温度の高低に応じて抵抗値などの電磁気的特性が変化する複数の感温素子が二次元的に配列されたものである。
【0044】
図3~
図7に示すように、この温度分布センサシート100は、シート状の基材4と、この基材4の上に設けられた第1の配線電極20と、第1の配線電極20の上に設けられた第2の配線電極30と、第1の配線電極20と第2の配線電極30との間に設けられた複数の感温抵抗体1と、を有している。また、基材4と同様の大きさのシート状の保護材8が、第2の配線電極30を覆うように配置されている。以下、詳細に説明する。
【0045】
図4に示すように、第1の配線電極20は、複数の線状の第1の電極2がA方向(第1の方向)に平行に配置されたものである。また、
図5及び
図7に示すように、各感温抵抗体1は、帯状に形成されており、第1の電極2の各々を覆うように配置されている。また、第2の配線電極30は、複数の線状の第2の電極3がB方向(第2の方向)に平行に配置されたものである。この例では、A方向とB方向とは直交しているが、それ以外の角度で交差していてもよい。そして、
図6に示すように、第1の配線電極20と第2の配線電極30とが交差する箇所が、温度検出部21を構成し、その1つ1つが感温センサとして機能する。また、
図5に示すように、温度検出部21同士の間には、絶縁材料9が設けられている。これにより、第1の配線電極20から第2の配線電極30にかけての厚みが均一にされている。
【0046】
このように、第1の電極2から第2の電極3にかけての厚みを均一にすることで、温度分布の計測時に、被検体による押圧力が温度検出部21に集中するのを防止することができる。その結果、温度検出部21に設けられた感温抵抗体1に歪が生じないので、測温誤差の発生を防止することができる。また、温度分布センサシート100が押し付けられた被検体に凹凸圧痕が発生するのを防止することができる。なお、感温抵抗体1は、帯状に形成されていなくてもよく、第1の配線電極20と第2の配線電極30との間の、少なくとも温度検出部21に設けられていればよい。
【0047】
図5及び
図7に示すように、第2の配線電極30の上に配置された保護材8は、絶縁材料で形成されている。これにより、第2の配線電極30の表面が保護されているとともに、第2の配線電極30同士の短絡が防止されている。なお、保護材8を設ける代わりに、温度検出部21を絶縁樹脂材で被覆してもよい。また、温度検出部21を保護材8や絶縁樹脂材といった絶縁材料で被覆することで、吸湿により温度検出部21の電磁気的特性が変化したり、加水分解により感温抵抗体1が劣化して変質したりするのを防止することができる。
【0048】
このような温度分布センサシート100は、上述した製造方法により製造することができる。すなわち、
図8に示すように、基材4上に、第1の配線電極20を形成した後、第1の配線電極20の各第1の電極2をそれぞれ覆うように、感温抵抗体1を形成する。その後、各感温抵抗体1と90度交差するように、第2の配線電極30を形成する。これらは、上述したスクリーン印刷などで形成することができる。その後、第2の配線電極30を覆うように、保護材8を配置する。
【0049】
また、
図9に示すように、上記のように温度分布センサシート100は、コネクタ81を介してパーソナルコンピュータ等のコンピュータ82に接続され、温度分布センサシート100上の温度分布を算出することができる。コネクタ81には、例えば、複数の温度検出部21に順番に電圧の印加等を行うために、マルチプレクサという電子素子が組み込まれており、温度検出部21における電磁気的特性の変化を出力値として取得する。
【0050】
そして、コネクタ81は、複数の温度検出部21に順番に電圧を印加することで、複数の温度検出部21の各々から順番に出力を得ることができる。具体的には、第1の配線電極20と第2の配線電極30のうち、一方をドライブ電極、他方をレシーブ電極とすると、コネクタ81は、複数のドライブ電極に順番に電圧を印加し、印加された状態で複数のレシーブ電極の抵抗値を順番に測定することにより、それぞれの温度検出部21の出力を得る。レシーブ電極の抵抗値は、オペアンプで反転増幅し、電圧値として取得する。印加電圧や出力の増幅率を設定することで、出力を任意に増幅することができる。
【0051】
こうして、コネクタ81は、温度分布センサシート100の各温度検出部21から出力された温度値を示すアナログ信号をデジタル信号に変換してPC82へと出力する。そして、複数の温度検出部21の各々で得られた出力値から温度分布を算出することで、被検体の温度分布を測定することができる。
【0052】
以上のような温度分布センサシート100は、半導体、セラミックコンデンサ、液晶、ガラス、プリンター、フィルム等の製造工程において加熱加工する際や、ホットプレートやパソコン、電池等の電子機器類の発熱部分、及びこれらと接触する金属や樹脂材料の熱伝播や放熱状態、人体や動物の体温等、あらゆるものの温度分布を計測するのに使用することができる。そのため、材料加工の効率化、材料設計、機械設計、改良、商品開発、治療、療養の分析判断等に利用することができる。
【0053】
<4.特徴>
本実施形態に係る感温抵抗体は、ポリアリレート樹脂及び導電性粒子に対し、上述したような所定量のエポキシ樹脂が含有されているため、基材及び電極との密着性を向上できるとともに、少なくとも200℃までの温度の測定が可能となる。
【0054】
<5.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組合せが可能である。
【0055】
上記実施形態では、基材4、第1の電極2、感温抵抗体1、及び第2の電極3を矩形状に形成しているが、これに限定されるものではなく、矩形状、円形、多角形状など種々の形状に形成することができ、また電極2,3については、上述した温度分布センサシートで例示したような、細線状に形成することもできる。また、感温素子を構成する各電極2,3及び感温抵抗体1の数も特には限定されない。
【0056】
また、上記実施形態では、基材4としてシート状の材料を用いたが、硬質の基板上に設けることもでき、両電極2,3及び感温抵抗体1を配置する基材は特には限定されない。さらに、基材を用いず、両電極2,3及び感温抵抗体1により本発明の感温素子を構成することもできる。また、保護材8、絶縁材料9は必ずしも必要ではないが、感温素子の用途に応じて適宜採用することができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
<1.実施例及び比較例に係るインクの作製>
実施例1~2、及び比較例1~4に係る感温抵抗体用のインクを以下の通り、調製した。すなわち、以下の表1に記載の通り、ポリアリレート樹脂(ユニチカ株式会社製M-2040H)を安息香酸メチル(東京化成工業社製)に混合し、遊星式攪拌脱泡装置(クラボウ社製のマゼルスターKK-V1000)を用いて溶解した。こうして、ポリアリレート樹脂ワニスを作製した。このワニスにおけるポリアリレート樹脂の含有量は20質量%とした。続いて、このポリアリレート樹脂ワニスに、エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製WHR-991S)、硬化剤(日本化薬株式会社製GPH65-50N)、硬化促進剤(四国化成株式会社製C11ZA-10N)、両末端アミン変性ポリジメチルシロキサン(JNC株式会社製FM-3311)、及びカーボンブラック(CABOT社製XC-72R)を、上記遊星式攪拌脱泡装置を用いて混合し、感温抵抗体を形成するためのインクを調製した。
【表1】
【0059】
また、実施例3,4のインクを作製した。実施例3のインクは、ポリアリレート樹脂ワニスが実施例1と相違するが、その他の組成は実施例1と同じである。すなわち、実施例3では、ワニスの溶剤として、安息香酸メチル(東京化成工業社製)に加え、二塩基酸エステル(三協化学株式会社No.23エステル)を混合した。安息香酸メチルと二塩基酸メチルの質量比は9:1とした。
【0060】
実施例4は、実施例1とポリアリレート樹脂が相違しているが、その他の組成及びインクは同じである。すなわち、実施例4では、2種類のポリアリレート樹脂(ユニチカ株式会社製M-2000HとM-2040H)を1:1の質量比で用いた。なお、M-2000Hのガラス転移温度は275℃、M-2040Hのガラス転移温度は235℃である。
【0061】
続いて、上記のように調製されたインクを、基材としてのポリイミド樹脂(宇部興産株式会社製ユーピレックス)のシート上に、スクリーン印刷によって、乾燥後の厚さが6μmとなるように塗布した。そして、オーブンで乾燥し、実施例1~4及び比較例1~4に係る感温抵抗体を形成した。
【0062】
<2.密着性試験>
JIS K5600-5-6に規定されるクロスカット法により付着性を試験した。具体的には、基材上に形成された感温抵抗体に1mm間隔の格子が形成されるようにカットを行った後、付着テープを貼り付け、これを剥がすことで、付着性を確認した。結果は、以下の通りである。なお、以下の分類は、JIS K5600-5-6に規定されているものである。
【0063】
・実施例1:分類0(カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない)
・実施例2:分類0(カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない)
・実施例3:分類0(カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない)
・実施例4:分類0(カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない)
・比較例1:分類5(はがれの程度が分類4を超える場合)
・比較例2:分類4(塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは,明確に35%を超えるが65%を上回ることはない)
・比較例3:分類5(はがれの程度が分類4を超える場合)
・比較例4:分類0(カットの縁が完全に滑らかで,どの格子の目にもはがれがない)
【0064】
以上の結果より、実施例1,2は十分な密着性が得られているが、比較例1~3は密着性が劣ることが分かった。すなわち、エポキシ樹脂の配合比率が0.8質量%より大きければ、密着性が向上することが分かった。なお、この試験においては、ポリイミド樹脂に対する密着性を試験しているが、一般的な材料の電極に対しても同様の密着性が得られることを本発明者は確認している。
【0065】
<3.熱物性>
上記のように形成された実施例1~4及び比較例1~4に係る感温抵抗体のガラス転移温度(DSC測定)及び軟化点(動的粘弾性測定)を測定した。結果は以下の表2に示す通りである。
【表2】
【0066】
実施例1~4及び比較例1~4のいずれもガラス転移温度及び軟化点が200℃以上であった。また、表2の結果のうち、実施例1,2及び比較例1,2を
図10に示すように、グラフに表し、近似曲線を算出したところ、エポキシ樹脂の配合比率が3質量%以下(ポリアリレート樹脂100質量部に対して3.5質量部以下)であれば、ガラス転移温度が200℃以上になることが分かった。したがって、この感温抵抗体を有する感温素子は、200℃以上の温度を測定できることが分かった。特に、実施例4は、ガラス転移温度の高いポリアリレート樹脂を含有しているため、感温抵抗体のガラス転移温度が最も高くなった。
【0067】
<4.センサ特性>
実施例1に示すインクを用いた感温抵抗体を有する感温素子を作製した。具体的には、
図11に示す感温素子を作製した。この感温素子は、銀により形成された矩形状の第1電極及び第2電極の間に、矩形状の感温抵抗体を配置したものである。各電極の厚みは7μm、感温抵抗体の厚みは20~25μmであった。
【0068】
こうして作製された感温素子をホットプレートによって加熱し、温度が50℃、100℃、150℃、200℃となったときに、感温抵抗体の抵抗値を算出した。各測定点間の昇温時間は3分であり、各測定点においては5分間、その温度を維持した。そして、このような昇温と抵抗値の算出を3回行った。また、抵抗値に基づいて出力値を算出した。結果は、
図12に示すとおりである。
【0069】
図12に示すように、この感温素子では、少なくとも50~200℃において、温度と出力値とが線形の関係を示しているため、少なくとも50~200℃の温度を正確に測定できることが分かった。
【0070】
<5.表面性状>
まず、実施例1及び比較例4に係る感温抵抗体の表面性状を観察した。
図13は実施例1を示し、
図14は比較例4を示している。また、
図13(a)及び
図14(a)は200倍の倍率で観察した写真である。一方、
図13(b)及び
図14(b)は50倍の倍率で実施例1,4に照射した光の透過光を観察した写真であり、丸を付している部分は貫通孔が生じている部分である。
【0071】
乾燥後の感温抵抗体の表面には気泡割れ痕やクラックが生じることがあり、これらが基材まで達して貫通孔を形成することがある。
図13及び
図14に示すように、両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンを含有している実施例1は、貫通孔がほとんど生じていないが、両末端アミン変性ポリジメチルシロキサンを含有していない比較例4は多数の貫通孔が生じていることが分かる。
【0072】
また、実施例1のインク及び実施例3のインクを約18μmの厚さで塗布した、実施例5,6に係る感温抵抗体をさらに作製した。ここでは、各インクを2回スクリーン印刷を行うことで、厚さを調整した。
図15は実施例5を示し、
図16は実施例6を示している。また、
図15(a)及び
図16(a)は200倍の倍率で観察した写真である。一方、
図15(b)及び
図16(b)は50倍の倍率で実施例5,6に照射した光の透過光を観察した写真であり、丸を付している部分は貫通孔が生じている部分である。
図15に示すように、実施例5は実施例1と組成が同じであるが、厚さが大きくなると貫通孔が生じやすい傾向にあることが分かった。一方、
図16に示すように、実施例6は、実施例3と同じ組成であるが、溶剤に二塩基酸エステルが含有されているため、厚さが多くなっても、貫通孔が生じにくくなっていることが分かった。
【符号の説明】
【0073】
10、100 感温素子(温度分布センサシート)
1 感温抵抗体
2 第1の電極
3 第2の電極
4 基材