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特許7510355ハイドロゲルを調製するための機能化キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ハイドロゲルを調製するための機能化キット
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/14 20060101AFI20240626BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20240626BHJP
   A01K 21/00 20060101ALI20240626BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
A61L31/14 300
A61L31/12 100
A01K21/00
A01N1/02
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020567545
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2019064468
(87)【国際公開番号】W WO2019234010
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】20180768
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】509003184
【氏名又は名称】スパームヴァイタル アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】コムミスル,エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】アルム-クリスチャンセン,アン,ヘーゲ
(72)【発明者】
【氏名】クリンケンベルグ,ゲイル
(72)【発明者】
【氏名】キラース,ラース
(72)【発明者】
【氏名】グロム,ウィルヘルム,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】サンドル,ユージニア,マリアナ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンセン,ハイジ
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-113436(JP,A)
【文献】特開2014-205059(JP,A)
【文献】特表2001-525826(JP,A)
【文献】特表2014-533958(JP,A)
【文献】特表2009-542636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00-31/18
A01K 21/00
A01N 1/00-1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
持続放出組成物を調製するのに適したキットであって、該キットが第1の容器及び第2の容器を備え、前記第1の容器が活性化剤組成物と、第1の拡散バリア又は第2の拡散バリアのいずれかと、を含み、前記第2の容器がイオン架橋性生体適合性ポリマーと、不活性架橋剤と、任意に、放出される材料とを含み、前記第1及び/又は第2の拡散バリアが、前記活性化剤組成物及び前記不活性架橋剤が遅延速度で互いに接触することを可能にすることにより、活性架橋剤の遅延放出及び持続放出を保証し、
ここで、
前記第1の容器は、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーが前記第1の容器及び/又は前記第2の容器全体にわたって前記活性架橋剤と接触することを可能にするサイズ及び形態であり、それによって架橋された生体適合性ポリマーが前記第1の容器及び/又は前記第2の容器全体にわたって存在することを保証し、
前記イオン架橋性生体適合性ポリマーは、二価陽イオン架橋性生体適合性ポリマーであり、
「活性架橋剤」という用語は、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを指し、
「不活性架橋剤」という用語は、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出することができるようになるために、前記活性化剤組成物による活性化を必要とする化合物を指し、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記第1の拡散バリアと混合された前記活性化剤組成物は、前記第1の容器の内表面にコーティングされるか、又は、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記活性化剤組成物及び前記第1の拡散バリアは、前記第1の容器の内表面に別々の層でコーティングされ、それによって内表面層及び中間層を形成し、前記中間層は前記活性化剤組成物を含むか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記活性化剤組成物、ii)第2のポリマー材料内に包埋された又はカプセル封入された前記活性化剤組成物、又はiii)i)とii)との混合物を前記第1の容器の前記第1のポリマー材料内に含み、前記第2の拡散バリアは前記第1のポリマー材料、前記第2のポリマー材料又はそれらの組み合わせであるか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記活性化剤組成物、ii)第2のポリマー材料内に包埋された又はカプセル封入された前記活性化剤組成物、又はiii)i)とii)との混合物と混合されている第3のポリマー材料と、前記第1の容器の前記第1のポリマー材料とを前記第1の容器に含み、それによって前記第1の容器は内表面層及び外表面層を備え、前記内表面層は前記活性化剤組成物を含み、前記第2の拡散バリアは、前記第2のポリマー材料、前記第3のポリマー材料又はそれらの組み合わせであり、
前記第1のポリマー材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、アクリル(acrylics)、ポリカーボネート、EVA(エチレン-酢酸ビニル)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーを含むポリプロピレン、ポリプロピレンとポリオレフィンエラストマーとのブレンドからなる群から選択される、キット。
【請求項2】
持続放出組成物を調製するのに適したキットであって、該キットが第1の容器及び第2の容器を備え、前記第1の容器が不活性架橋剤と、第1の拡散バリア又は第2の拡散バリアのいずれかと、を含み、前記第2の容器がイオン架橋性生体適合性ポリマーと、活性化剤組成物と、任意に、放出される材料とを含み、前記第1及び/又は第2の拡散バリアが、前記活性化剤組成物及び前記不活性架橋剤が遅延速度で互いに接触することを可能にすることにより、活性架橋剤の遅延放出及び持続放出を保証し、
ここで、
前記第1の容器は、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーが前記第1の容器及び/又は前記第2の容器全体にわたって前記活性架橋剤と接触することを可能にするサイズ及び形態であり、それによって架橋された生体適合性ポリマーが前記第1の容器及び/又は前記第2の容器全体にわたって存在することを保証し、
前記イオン架橋性生体適合性ポリマーは、二価陽イオン架橋性生体適合性ポリマーであり、
「活性架橋剤」という用語は、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを指し、
「不活性架橋剤」という用語は、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出することができるようになるために、前記活性化剤組成物による活性化を必要とする化合物を指し、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記第1の拡散バリアと混合された前記不活性架橋剤は、前記第1の容器の内表面にコーティングされるか、又は、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記不活性架橋剤及び前記第1の拡散バリアは、前記第1の容器の内表面に別々の層でコーティングされ、それによって内表面層及び中間層を形成し、前記中間層は前記不活性架橋剤を含むか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記不活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された又はカプセル封入された前記不活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物を前記第1の容器の前記第1のポリマー材料内に含み、前記第2の拡散バリアは前記第1のポリマー材料、前記第2のポリマー材料又はそれらの組み合わせであるか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記不活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された又はカプセル封入された前記不活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物と混合されている第3のポリマー材料と、前記第1の容器の前記第1のポリマー材料とを前記第1の容器に含み、それによって前記第1の容器は内表面層及び外表面層を備え、前記内表面層が前記不活性架橋剤を含み、前記第2の拡散バリアが前記第2のポリマー材料、前記第3のポリマー材料又はそれらの組み合わせであり、
前記第1のポリマー材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、アクリル(acrylics)、ポリカーボネート、EVA(エチレン-酢酸ビニル)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーを含むポリプロピレン、ポリプロピレンとポリオレフィンエラストマーとのブレンドからなる群から選択される、キット。
【請求項3】
持続放出組成物を調製するのに適したキットであって、該キットが第1の容器及び第2の容器を備え、前記第1の容器が活性架橋剤と、第1の拡散バリア又は第2の拡散バリアのいずれかと、を含み、前記第2の容器がイオン架橋性生体適合性ポリマーと、任意に、放出される材料とを含み、前記第1及び/又は第2の拡散バリアが、活性架橋剤の遅延放出及び持続放出を可能とし、
ここで、
前記第1の容器は、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーが前記第1の容器及び/又は前記第2の容器全体にわたって前記活性架橋剤と接触することを可能にするサイズ及び形態であり、それによって架橋された生体適合性ポリマーが前記第1の容器及び/又は前記第2の容器全体にわたって存在することを保証し、
前記イオン架橋性生体適合性ポリマーは、二価陽イオン架橋性生体適合性ポリマーであり、
「活性架橋剤」という用語は、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを指し
記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記第1の拡散バリアと混合された前記活性架橋剤は、前記第1の容器の内表面にコーティングされるか、又は、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記活性架橋剤及び前記第1の拡散バリアは、前記第1の容器の内表面に別々の層でコーティングされ、それによって内表面層及び中間層を形成し、前記中間層は前記活性架橋剤を含むか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された又はカプセル封入された前記活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物を前記第1の容器の前記第1のポリマー材料内に含み、前記第2の拡散バリアは前記第1のポリマー材料、前記第2のポリマー材料又はそれらの組み合わせであるか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された又はカプセル封入された前記活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物と混合されている第3のポリマー材料と、前記第1の容器の前記第1のポリマー材料とを前記第1の容器に含み、それによって前記第1の容器は内表面層及び外表面層を備え、前記内表面層が前記活性架橋剤を含み、前記第2の拡散バリアが前記第2のポリマー材料、前記第3のポリマー材料又はそれらの組み合わせであり、
前記第1のポリマー材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、アクリル(acrylics)、ポリカーボネート、EVA(エチレン-酢酸ビニル)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーを含むポリプロピレン、ポリプロピレンとポリオレフィンエラストマーとのブレンドからなる群から選択される、キット。
【請求項4】
前記イオン架橋性生体適合性ポリマーがイオン架橋性アルギン酸塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項5】
前記アルギン酸塩が、マンヌロン酸残基よりも多くのグルロン酸残基を有する、請求項4に記載のキット。
【請求項6】
前記放出される材料が、生体材料、治療剤、診断剤又はそれらの任意の混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項7】
前記放出される材料が精子である、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項8】
前記第1の容器が授精1回用量に対する容器である、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項9】
前記第1の拡散バリアが、i)天然ポリマー、ii)合成ポリマー又はコポリマー、又はiii)それらの任意の混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項10】
前記活性化剤組成物と不活性架橋剤との混合物が、活性架橋剤の形成をもたらし、前記活性架橋剤が、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適している、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項11】
前記不活性架橋剤が水に不溶性の二価陽イオン塩である、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項12】
前記活性化剤組成物が、前記不活性架橋剤を活性架橋剤へと変換することができる少なくとも1つの化合物を含み、前記活性架橋剤が前記イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適している、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項13】
前記活性化剤組成物がプロトン供与体を含み、前記不活性架橋剤が、前記プロトン供与体と接触すると前記イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出する化合物である、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項14】
前記活性化剤組成物が、水と接触するとプロトン供与体へと変換される化合物を含む、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項15】
水と接触するとプロトン供与体へと変換される前記化合物が、無機酸無水物、有機酸無水物及びラクトン、又はそれらの任意の混合物からなる群から選択される、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記第1及び第2の拡散バリアは同一又は異なるが、ただし、前記第2の拡散バリアが押出し成形に適合性を有し、
押出し成形適合性を有する前記第2の拡散バリアは、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、アクリル(acrylics)、ポリカーボネート、EVA(エチレン-酢酸ビニル)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーを含むポリプロピレン、ポリプロピレンとポリオレフィンエラストマーとのブレンドからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項17】
前記ポリプロピレンは医療グレードのポリプロピレンである、請求項1~3および16のいずれか一項に記載のキット。
【請求項18】
前記ポリオレフィンエラストマーは、EOC(エチレンオクテングレード)、EPR(エチレンプロピレンゴム)、これらのポリマーのブレンドからなる群から選択される、請求項1~3および16のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
前記イオン架橋性生体適合性ポリマーがイオン架橋性アルギン酸塩であり、前記アルギン酸塩がマンヌロン酸残基よりも多くのグルロン酸残基を有し、
前記放出される材料が精子であり、
前記第1の容器が授精1回用量に対する容器である、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
前記第1の容器及び/又は第2の容器が、内径1cm未満のチューブの形状を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
持続放出組成物を調製するための請求項1~20のいずれか一項に記載のキットの使用。
【請求項22】
前記持続放出組成物が、動物の繁殖に使用される、請求項21に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持続放出組成物の調製、特にアルギン酸マトリクス内に包埋された精子を含む持続放出組成物の調製に適したキットに関する。
【背景技術】
【0002】
人工授精(AI:Artificial Insemination)は、自然な性交ではなく人工的な手段で動物の子宮又は子宮頸部に精子を入れる技術である。この技術は1940年代から使用されており、現在では望ましい特性を伝播するための動物の交配方法として及び繁殖において広く利用され、特に、ウシ、ブタ、ヒツジ、家禽及びウマ等の家畜の場合だけでなく、純種のイヌ、水生動物等のペット、及び絶滅危惧種の場合にも利用されている。
【0003】
人工授精の使用及び精子の保存に関する現代のAIの開発及びブリーダーの課題に関する概要が非特許文献1及び非特許文献2に開示されている。
【0004】
精子は典型的には、収集され、増殖させた後、例えば凍結保存によって保存される。凍結保存技術の使用は、動物の特定の種に由来する精子が、精子の品質、生存能力及び受精能力の過度の劣化をもたらすことなく、かかる処置に耐えることを前提としている。次いで、精子は、典型的には、凍結保存又は新鮮貯蔵のいずれか適した方で保存されて、雌性の場所に運ばれる。精子は、授精時まで、そして授精後に卵細胞(複数の場合もある)が受精場所に到達するまで、雌性動物内で十分な期間生存可能に保たれることが不可欠である。
【0005】
収集後、授精時点まで、より長期間にわたり精子が受精能力を維持することを保証する貯蔵の方法及び手段の提供を目的とした保存方法、特に、授精後より長期間にわたって精子が受精能力を維持することを保証する方法及び手段の提供を目的とした保存方法に対して数多くの着目及び研究がなされている。
【0006】
特許文献1は、アルギン酸塩に精子が包埋された保存システムを開示している。この保存システムは、とりわけ、授精後より長い期間精子の受精能力を与えることで利益をもたらすと言われている。
【0007】
特許文献2は、精子が改良されたアルギン酸マトリクスに包埋されている保存システムを教示する。改良されたアルギン酸マトリクスは、とりわけ、受精の可能性が高い精子を長期間にわたって放出するため、排卵に対する授精時間の重要性を更に低くすることを保証すると言われている。
【0008】
上記の保存システムによって、排卵に関して最も好ましい授精時点にブリーダーが出くわすことへの依存が少なくなるにもかかわらず、製造には訓練された人員が必要である。そのため、上記の保存システムの製造手順を簡素化する手段が必要とされている。
【0009】
本発明者らが知る限りでは、かかる保存システムの製造手順を簡素化する手段に焦点を当てた研究は多くない。しかしながら、その他の保存システム及びそれに関連するシステムを製造する手段はこれまで公開されている。
【0010】
非特許文献3は、少なくとも第1及び第2の容器を備えるキットを開示している。第1の容器はアルギン酸ナトリウム溶液を含み、第2の容器は塩化カルシウム(活性架橋剤)溶液を含む。塩化カルシウムは、アルギン酸ナトリウムの溶液中で解離する。遊離カルシウムイオンはアルギン酸ナトリウムと相互作用することにより、架橋アルギン酸塩を形成する。
【0011】
特許文献3は、動物の人工授精に使用するのに適したアルギン酸塩-精子系を製造する方法を教示する。アルギン酸塩-精子系は、授精ストローを備える。このストローは、従来、細いチューブ及び細いチューブに挿入されたストッパーによって形成されている。充填状態では、ストッパーは、チューブの第1の端部近くに配置され、液体ベースの物質、特にアルギン酸塩に溶解された精子の用量は、ストロー内でストッパーと管の第2の端部との間に配置される。ストローを満たすため、ストッパーに近いチューブの第1の端部を、真空源と連絡するように置き、一方、第2の端部を、ストローに導入される物質を含む管と連絡するように置く。最初にストッパーと第2の端部との間に含まれる空気は、ストッパーを通って吸引され、その間、物質はストッパーに到達するまでチューブ内を前進するが、ストッパーが液密になるために物質はストッパーを通過することはできない。精子がストッパーに吸収されることを避けるため、ストッパーにカルシウム塩又はバリウム塩を含浸させることが提案される。カルシウム塩及びバリウム塩は水溶性(活性架橋剤)である必要がある。アルギン酸塩溶液がカルシウム又はバリウムの塩と接触すると、アルギン酸塩は直ちにゲルへと変換される。アルギン酸塩プラグは、精子がストッパーに吸収されないことを保証する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2008/004890号
【文献】国際出願PCT/EP2017/081128号
【文献】国際公開第2015/181496号
【非特許文献】
【0013】
【文献】R. H. Foote (2002), American Society of Animal Science (http://www.asas.org/symposia/esupp2/Footehist.pdf)
【文献】"Reproduction in farm animals", edited by B. Hafez, E.S.E. Hafez.-7th ed., Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 2000.-XIII, ISBN 0-683-30577-8 (ib.)
【文献】"Alginate 3d Cell Culture Kit", 16 December 2012, pages 1-10
【発明の概要】
【0014】
本発明の第1の態様は、持続放出組成物を調製するのに適したキットであって、該キットが第1の容器及び第2の容器を備え、前記第1の容器が活性化剤組成物と、第1の拡散バリア又は第2の拡散バリアのいずれかと、を含み、前記第2の容器がイオン架橋性生体適合性ポリマーと、不活性架橋剤と、任意に、放出される材料とを含み、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記第1の拡散バリアと混合された前記活性化剤組成物は、前記第1の容器の内表面にコーティングされるか、又は、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記活性化剤組成物及び前記第1の拡散バリアは、前記第1の容器の内表面に別々の層でコーティングされ、それによって内表面層及び中間層を形成し、前記中間層は前記活性化剤組成物を含むか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記活性化剤組成物、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された前記活性化剤組成物、又はiii)i)とii)との混合物が、前記第1の容器の製造中に前記第1のポリマー材料へと押出され、前記第2の拡散バリアは前記第1のポリマー、前記第2のポリマー若しくはそれらの組み合わせであるか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記活性化剤組成物、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された前記活性化剤組成物、又はiii)i)とii)との混合物と混合されている第3のポリマー材料が、前記第1の容器の製造中に前記第1のポリマー材料と共押出しされ、それによって内表面層及び外表面層を形成し、前記内表面層が前記活性化剤組成物を含み、前記第2の拡散バリアは、前記第2のポリマー、前記第3のポリマー又はそれらの組み合わせである、キットに関している。
【0015】
本発明の第2の態様は、持続放出組成物を調製するのに適したキットであって、該キットが第1の容器及び第2の容器を備え、前記第1の容器が不活性架橋剤と、第1の拡散バリア又は第2の拡散バリアのいずれかと、を含み、前記第2の容器がイオン架橋性生体適合性ポリマーと、活性化剤組成物と、任意に、放出される材料とを含み、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記第1の拡散バリアと混合された前記不活性架橋剤は、前記第1の容器の内表面にコーティングされるか、又は、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記不活性架橋剤及び前記第1の拡散バリアは、前記第1の容器の内表面に別々の層でコーティングされ、それによって内表面層及び中間層を形成し、前記中間層は前記不活性架橋剤を含むか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記不活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された前記不活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物が、前記第1の容器の製造中に前記第1のポリマー材料へと押出され、前記第2の拡散バリアは前記第1のポリマー、前記第2のポリマー若しくはそれらの組み合わせであるか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記不活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された前記不活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物と混合されている第3のポリマー材料が、前記第1の容器の製造中に前記第1のポリマー材料と共押出しされ、それによって、内表面層及び外表面層を形成し、前記内表面層が前記不活性架橋剤を含み、前記第2の拡散バリアが前記第2のポリマー、前記第3のポリマー若しくはそれらの組み合わせである、キットに関する。
【0016】
本発明の第3の態様は、持続放出組成物を調製するのに適したキットであって、該キットが第1の容器及び第2の容器を備え、前記第1の容器が活性架橋剤と、第1の拡散バリア又は第2の拡散バリアのいずれかと、を含み、前記第2の容器がイオン架橋性生体適合性ポリマーと、任意に、放出される材料とを含み、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記第1の拡散バリアと混合された前記活性架橋剤は、前記第1の容器の内表面にコーティングされるか、又は、
前記第1の容器は前記第1の拡散バリアを含み、前記活性架橋剤及び前記第1の拡散バリアは、前記第1の容器の内表面に別々の層でコーティングされ、それによって内表面層及び中間層を形成し、前記中間層は前記活性架橋剤を含むか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された前記活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物が、前記第1の容器の製造中に前記第1のポリマー材料へと押出され、前記第2の拡散バリアは前記第1のポリマー、前記第2のポリマー若しくはそれらの組み合わせであるか、又は、
前記第1の容器は前記第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)前記活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された前記活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物と混合されている第3のポリマー材料が、前記第1の容器の製造中に前記第1のポリマー材料と共押出しされ、それによって、内表面層及び外表面層を形成し、前記内表面層が前記活性架橋剤を含み、前記第2の拡散バリアが前記第2のポリマー、前記第3のポリマー若しくはそれらの組み合わせである、キットに関する。
本発明の第1、第2、及び第3の態様に係る一実施の形態において、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーは、二価陽イオン架橋性生体適合性ポリマーである。
【0017】
本発明の第1、第2、及び第3の態様に係る他の実施の形態において、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーは、イオン架橋性アルギン酸塩である。前記アルギン酸塩が、マンヌロン酸残基よりも多くのグルロン酸残基を有していることが好ましい。
【0018】
本発明の第1、第2、及び第3の態様に係る更に他の実施の形態において、前記放出される材料が、細胞、特に幹細胞のような生体材料、治療剤、診断剤又はそれらの任意の混合物からなる群から選択される。特に好ましい実施形態では、前記放出される材料は、精子である。
【0019】
本発明の第1、第2、及び第3の態様に係る更に別の実施の形態において、前記第1の容器が授精1回用量に対する受精ストロー又は受精チューブのような容器であり、受精ストローであることがより好ましい。受精ストローの一例が図1に示されている。典型的な受精ストローの寸法が実施例4に示されている。
【0020】
一実施の形態において、前記第1の容器及び/又は第2の容器が 内径が10cm未満の、例えば、5cm未満、3cm未満、2cm未満、1cm未満 、8mm未満、5mm未満、又は4mm未満のチューブの形状を有している。
【0021】
一実施の形態において、前記第1の容器及び/又は第2の容器が、内径が0.1cm~10cmの範囲の、例えば、0.1~5cm 、0.1~3cm、0.1~1cm、又は、0.1~0.5cmの範囲のチューブの形状を有している。
【0022】
本発明の第1、第2、又は第3の態様に係るさらに他の実施の形態において、前記第1の容器は受精ストローであり、当該受精ストローは第1の端部(2)と第2の端部(3)の間に延びガス透過性の液密プラグ(4)を含むチューブ(1)を備え、当該プラグは、チューブ内にチューブの第1の端部の近辺に配置され、チューブ(2)の第1の端部に向けられた第1の端部とチューブの第2の端部に向けられた第2の端部との間に延びている。
【0023】
本発明の第1、第2、又は第3の態様に係る更に他の実施の形態において、前記第1の容器及び/又は第2の容器は、前記イオン架橋性生体適合性ポリマーが前記第1の容器及び/又は前記第2の容器全体にわたって前記活性架橋剤と接触することを可能にするサイズ及び形態をもつことが好ましく、それによって架橋された生体適合性ポリマーが前記第1の容器及び/又は前記第2の容器全体にわたって存在することを保証している。
【0024】
第1の容器及び/又は第2の容器全体でイオン架橋性生体適合性ポリマーを、妥当な時間内に架橋することができることが好ましい。一実施の形態では、妥当な時間は、48時間未満、24時間未満、12時間未満、6時間未満、4時間未満、2時間未満又は1時間未満である。
【0025】
本発明の第1、第2又は第3の態様による別の実施の形態では、第1の容器及び/又は第2の容器は、持続放出組成物を調製するのに適している。本発明の第1、第2又は第3の態様による更に別の実施の形態では、第1の容器及び/又は第2の容器は、持続放出組成物を調製するのに適しており、持続放出組成物は、動物の繁殖における使用及び/又はヒト若しくは動物の身体への生体材料の移植に適している。本発明の第1、第2又は第3の態様による別の実施の形態では、第1の容器及び/又は第2の容器は、持続放出組成物を調製するのに適したサイズ及び/又は形態である。持続放出組成物は、動物の繁殖における使用、ヒト若しくは動物の身体への生体材料の移植、細胞の培養、生体材料の保存及び/又は生体材料の凍結保存に適している。
【0026】
生体材料の保存は、例えば、オルガネラ、細胞、組織、細胞外マトリクス、器官、又は調節されていない化学反応速度論によって引き起こされる損傷を受けやすい任意の他の生体構造物が低温、典型的には0℃以下の温度、-5℃以下の温度等、例えば、-10℃以下の温度、-20℃以下の温度、-30℃以下の温度、-40℃以下の温度、-50℃以下の温度、-60℃以下の温度、又は-70℃以下の温度まで冷却することによって保存されるプロセスであり得る。
【0027】
凍結保存又は低温貯蔵(cryo-conservation)は、オルガネラ、細胞、組織、細胞外マトリクス、器官、又は調節されていない化学反応速度論によって引き起こされる損傷を受けやすい任意の他の生体構造物が、非常に低い温度、典型的には、例えば固体の二酸化炭素を使用して-80℃、又は例えば液体窒素を使用して-196℃まで冷却することによって保存されるプロセスである。
【0028】
本発明の第1、第2又は第3の態様による別の実施の形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、水和性拡散バリアである。好ましくは、第1のポリマー材料は、水和性拡散バリアではない。
【0029】
本発明の第1、第2又は第3の態様による更に別の実施の形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、フィルム形成ポリマーである。好ましくは、第1のポリマー材料はフィルム形成ポリマーではない。
【0030】
本発明の第1又は第2の態様による更なる実施の形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、活性化剤組成物及び不活性架橋剤が遅延速度で互いに接触することを可能にし、それによって活性架橋剤の遅延放出及び持続放出を保証する。
【0031】
本発明の第1、第2又は第3の態様による更なる実施の形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、活性架橋剤の遅延放出及び持続放出を可能にする。
【0032】
本発明の第1、第2又は第3の態様による一実施の形態では、第1の拡散バリアは、i)アルギン酸塩等の天然ポリマー、デキストラン、デンプン及びアガロースのような他の多糖、CMC(カルボキシメチルセルロース)、メチルセルロース及びエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースとしてのセルロース誘導体、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、シェラックのようなタンパク質、ii)PVA(ポリビニルアルコール)、水溶性ポリアミド、ポリアクリル酸及びポリアクリル酸無水物、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸無水物、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリ-n-イソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドンのような合成ポリマー若しくはコポリマー、又はiii)それらの任意の混合物からなる群から選択される。第1の拡散バリアは、親水性であることが好ましい。
【0033】
本発明の第1又は第2の態様による別の実施の形態では、活性化剤組成物と不活性架橋剤との混合物は、活性架橋剤の形成をもたらし、活性架橋剤が、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適している。
【0034】
本発明の第3の態様による更に別の実施の形態では、活性架橋剤は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適している。
【0035】
本発明の第1又は第2の態様による更なる実施の形態では、不活性架橋剤は、二価陽イオン炭酸塩、より好ましくはCaCO、BaCO又はそれらの任意の混合物等の水に不溶性の二価陽イオン塩である。
【0036】
本発明の第3の態様による更に別の実施の形態では、活性架橋剤は、二価陽イオン塩化物、二価陽イオン酢酸塩、二価陽イオンクエン酸塩、好ましくはCaCl、BaCl、Ca(CHCOO)、Ba(CHCOO)、クエン酸カルシウム、クエン酸バリウム又はそれらの任意の混合物、より好ましくはCaCl、Ca(CHCOO)、クエン酸カルシウム又はそれらの任意の混合物等の水に可溶性の二価陽イオン塩である。
【0037】
本発明の第1又は第2の態様による更なる実施の形態では、活性化剤組成物は、不活性架橋剤を活性架橋剤へと変換することができる少なくとも1つの化合物を含み、活性架橋剤は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適している。
【0038】
本発明の第1又は第2の態様による別の実施の形態では、活性化剤組成物は、酸等のプロトン供与体を含み、不活性架橋剤は、プロトン供与体と接触するとイオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出する化合物である。好ましい実施の形態では、プロトン供与体は水に可溶性である。別の好ましい実施の形態では、プロトン供与体は、i)アスコルビン酸、クエン酸若しくはそれらの任意の混合物等の有機酸、ii)リン酸、塩酸若しくはそれらの任意の混合物等の無機酸、又はiii)有機酸と無機酸との混合物からなる群から選択される。
【0039】
本発明の第1又は第2の態様による更に別の実施の形態では、活性化剤組成物は、水と接触すると酸等のプロトン供与体へと変換される化合物を含む。好ましい実施の形態では、水と接触するとプロトン供与体へと変換される化合物は、無機酸無水物、コハク酸無水物等の有機酸無水物、及びグルコノデルタラクトン等のラクトン、又はそれらの任意の混合物、好ましくは有機酸無水物及びグルコノデルタラクトン、より好ましくはグルコノデルタラクトン及び/又はコハク酸無水物からなる群から選択される。
【0040】
それらの実施の形態では、i)活性化剤組成物がプロトン供与体又は水と接触するとプロトン供与体へと変換される化合物を含み、ii)第1及び/又は第2の拡散バリアが強酸と相溶性ではなく、プロトン供与体(所与の化合物を水と接触させた場合に形成される任意のプロトン供与体を含む)は、好ましくはpKa>3を有するプロトン供与体である。アスコルビン酸又はグルクロン酸は、pKa>3を有する弱酸の例である。CMC(カルボキシメチルセルロース)、Benecel MP 812 W(メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース)、及びMethocel K100(メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース-ヒプロメロース)等のセルロース系ポリマーは、塩酸のような強酸との相溶性がない拡散バリアの例である。かかるバリアが強酸と接触すると、強酸がセルロース系ポリマーと反応する場合があり、ポリマーマトリクスの分解及び/又は架橋につながるリスクがある。そのため、一実施の形態では、プロトン供与体はpKa>3を有する。
【0041】
本発明の第1又は第2の態様による更に別の実施の形態では、活性化剤組成物は、ヒドロラーゼ又はヒドロラーゼによって加水分解可能な基質のいずれかを含む。活性化剤組成物がヒドロラーゼを含む場合、もともとヒドロラーゼを含まない容器は、ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を更に含む。活性化剤組成物がヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む場合、もともとヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含まない容器は、ヒドロラーゼを更に含む。
【0042】
本発明の第1又は第2の態様による更なる実施の形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、活性化剤組成物である。好ましい実施の形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、酸等のプロトン供与体であるか、又は水と接触するとプロトン供与体へと変換される。より好ましい実施の形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、ポリアルキルシアノアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸無水物、ポリメタクリル酸無水物又はそれらの任意の混合物からなる群から選択される。
【0043】
本発明の第1、第2又は第3の態様による別の実施の形態では、第1のポリマー材料は、ポリプロピレン、好ましくは医療グレードのポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アセタール、アクリル(acrylics)、ポリカーボネート、EVA(エチレン-酢酸ビニル)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、ポリプロピレンとEOC(エチレンオクテングレード)、EPR(エチレンプロピレンゴム)等のポリオレフィンエラストマーとのブレンド、又はかかるポリマーのブレンドからなる群から選択される。
【0044】
本発明の第1、第2又は第3の態様による更に別の実施の形態では、第2の拡散バリアは、押出し成形に適合性でなくてはならない。
【0045】
本発明の第1、第2又は第3の態様による更に別の実施の形態では、第1及び第2の拡散バリアは同じ又は異なるが、ただし、第2の拡散バリアは押出し成形に適合性がある。
【0046】
本発明の第1、第2及び第3の態様による更に別の実施の形態では、第1、第2及び第3のポリマー材料は同じ又は異なってもよいが、ただし、第2及び第3のポリマー材料は押出し成形に適合性である。第1のポリマー材料が押出し成形に供されるそれらの実施の形態の場合、第1のポリマー材料も押出し成形に適合性でなければならないことを理解されたい。
【0047】
本発明の第4の態様は、持続放出組成物を調製するための本発明の第1、第2又は第3の態様のいずれか1つによるキットの使用に関するものである。
【0048】
本発明の第4の態様による一実施の形態では、持続放出組成物は動物の繁殖に使用するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】第1の端部2と第2の端部3との間に延びるチューブを備え、ガス透過性の液密プラグ4を備え、該プラグはチューブにおいてその第1の端部の近辺に配置され、チューブの第1の端部2に向かう第1の端部とチューブの第2の端部3に向かう第2の端部との間に延びる、授精ストロー1を示す図である。固体形態のCaCOとGDLとの混合物6は、ガス透過性の液密プラグ4の端部の近辺に配置され、チューブの第2の端部3に面する。精子及びアルギン酸塩を含む混合物5をストローに導入し、それによって精子が包埋されたイオン架橋ポリマーを形成する。
図2】本発明の様々な実施形態を示す図である。上図は、授精ストローの内側のポリマーフィルム、すなわち拡散バリア中の活性化剤組成物を示す。中央の図は、授精ストロー中のポリマー材料へと押出されている活性化剤組成物を示す図であり、ポリマー材料は拡散バリアとして作用する。下の図は、第1の容器の製造中にポリマー2中の活性化剤組成物がポリマー1と共押出しされ、それによって二層構造を形成する状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
定義
「活性化剤組成物」という用語は、不活性架橋剤を活性化することができる1つ以上の化合物を含む組成物を指す。不活性架橋剤が活性化されると、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンが、活性化された架橋剤から放出される。
【0051】
「活性架橋剤」という用語は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適した化合物を指す。言い換えれば、「活性架橋剤」を中性のpHでアルギン酸ナトリウム溶液と混合すると、イオン架橋されたアルギン酸塩が形成される。活性架橋剤は典型的には、水と接触するとイオンを放出する化合物であり、イオンはイオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適している。そのため、CaCl及びBaClは、本明細書で規定される定義による活性架橋剤の例であり、一方CaCO及びBaCOは不活性架橋剤の例である。
【0052】
「生体適合性ポリマー」という用語は、害を及ぼすことなく、生きた組織又は生物と共存する能力を有するポリマーを指し、すなわち、宿主に悪影響を及ぼすことなく、好ましくは宿主にいかなる悪影響も及ぼすことなく、宿主に導入され得るポリマーを指す。
【0053】
本明細書で使用する場合、「コーティングされた」という用語は、基材の表面、例えば授精ストロー又は授精チューブの内表面に適用される被覆材、例えば拡散バリアを指す。コーティング自体は、基材を完全に覆うオールオーバーコーティングであってもよく、又は基材の一部のみを覆ってもよい。
【0054】
本明細書で使用される場合、「共押出し」という用語は、通常、複数の材料の層を同時に押出すことを指す。このタイプの押出し成形は、2つ以上の押出し機を利用して溶融し、異なる粘性プラスチックを一定の体積スループット(volumetric throughput)で所望の形態で押出す単一の押出しヘッド(ダイ)に供給する。層の厚さは、典型的には、材料を供給する個々の押出し機の相対速度及びサイズによって制御される。
【0055】
「押出し成形に適合性」という用語は、より高い温度に供された後であってもその特性を保持する能力を指す。
【0056】
本明細書で使用される場合、「拡散バリア」という用語は、特に水を含む溶液等の液体溶液との接触時に、活性架橋剤、不活性架橋剤及び/又は活性化剤組成物に対して透過性のあるバリアを指す。拡散バリアは上記化合物に透過性があるが、バリアを横切る移動速度は、自由流によって達成され得たであろう速度よりも低く、それによってバリアを横切る移動速度を遅くする。多くの現実世界のシナリオでは、単一のポリマーでは或る用途の全ての要求を満たすことはできない。複合押出しではブレンドされた材料を押出すことができるが、共押出しでは、別々の材料を押出し製品内に異なる層として保持し、酸素透過性、強度、剛性、及び耐摩耗性等の異なる特性を持つ材料を適切に配置することができる。
【0057】
本明細書で使用される場合、「包埋された」という用語は、包埋された材料が自然に動く可能性が妨げられていることを意味し、すなわち、カプセルの液体コア等の液体中に保管された場合に、そうでなければ動き得る材料が自然に動き得ることが妨げられていることを意味する。固定化の程度は、例えば機械的強度等のマトリクスの特徴によって変化する。包埋された材料は、例えば、イオン架橋されたアルギン酸塩等のイオン架橋ポリマー内に包埋された精子、第2のポリマー材料内に包埋された活性化剤組成物、第2のポリマー材料内に包埋された活性架橋剤、及び/又は第2のポリマー材料内に包埋された不活性架橋剤であり得る。
【0058】
本明細書で使用される場合、「カプセル封入された」という用語は、カプセル封入された材料がその自然に動く可能性を保持すること、すなわち材料がカプセルの液体コアに保管されることを意味する。
【0059】
本明細書で使用される場合、「押出し(extruded)」という用語は、典型的には、所望の断面のダイを通して材料を押し出すことにより、固定された断面プロファイル、例えば、授精ストロー又は授精チューブのプロファイルの目的物を作り出すために使用されるプロセスを指す。押出される材料が何らかのポリマー樹脂である場合、典型的には、ポリマー樹脂は加熱要素と押出しスクリューからの剪断加熱との組み合わせによって溶融状態まで加熱される。このスクリュー又は2軸スクリュー押出しの場合の複数のスクリューは、ダイを通して樹脂を押し進めて、樹脂を所望の形状に形成する。押出し物は、ダイ又は水タンクを通して引き出されながら冷却され、凝固する。押出し成形は、連続的(理論的には無限に長い材料を製造する)又は半連続的(多くの小片を製造する)であってもよい。一般的に押出し材料としては、金属、ポリマー、セラミックス、コンクリート、模型用粘土、及び食品が挙げられる。押出し成形の製品は、一般に「押出し物」と呼ばれる。
【0060】
本明細書で使用される場合、「ヒドロラーゼ」という用語は、ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質(複数の場合もある)を含む溶液とヒドロラーゼを含む別の溶液とを混合する際にHを産生することを可能にするヒドロラーゼを包含することを意味する。本発明の一実施形態によれば、ヒドロラーゼはリパーゼである。本発明の更に別の実施形態によれば、リパーゼはアシルヒドロラーゼであり、より好ましくは、例えば酵母カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)から単離されたトリアシルグリセロールリパーゼ等のトリアシルグリセロールリパーゼである。好適なリパーゼは、Sigma-Aldrich Co. LLC(L1754-Type VII又はL3001 Type I、CAS番号9001-62-1)から入手可能である。
【0061】
「不活性架橋剤」という用語は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出することができるようになるために、活性化剤組成物による活性化を必要とする化合物を指す。不活性架橋剤が活性化剤組成物によって活性化されない場合、不活性架橋剤は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出することができない。言い換えれば、「不活性架橋剤」を、例えば、活性化剤組成物の不在下で、中性のpHでアルギン酸ナトリウム溶液と混合すると、イオン架橋されたアルギン酸塩は形成されない。しかしながら、「不活性架橋剤」を、例えば、活性化剤組成物の存在下でアルギン酸ナトリウム溶液と混合すると、イオン架橋されたアルギン酸塩が形成される。不活性架橋剤は典型的には、25℃、pH>8の水と接触した場合に、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出しない化合物である。したがって、CaCl及びBaClは、本明細書で規定されている定義による不活性架橋剤ではなく、一方CaCO及びBaCOは不活性架橋剤の例である。
【0062】
「イオン架橋性生体適合性ポリマー」という用語は、直鎖状又は分岐鎖状の高分子がイオン結合によって相互に連結され、3次元ポリマーネットワークを形成することができるポリマーを指す。イオン架橋性生体適合性ポリマーがイオン結合によって相互に連結されると、このポリマーはイオン架橋された生体適合性ポリマーと称される。
【0063】
本明細書で使用される場合、「マトリクス」という用語は、放出される材料が包埋されるマトリクスを指す。マトリクスは移動の可能性を低減し、固定化の程度は、典型的には、例えば機械的強度等のマトリクスの特徴によって変化する。しかしながら、固定化の程度だけでなく、典型的にはマトリクスの溶出速度もマトリクスの特徴によって変化する。典型的には、架橋度が高いマトリクスは、架橋度の低いマトリクスよりも機械的強度が高く、したがって溶出速度は遅くなる。そのため、別々の機械的強度を有する2つのマトリクスを組み合わせることにより、組み合わされたマトリクスは、別々の機械的強度を有する2つのセクションを持つことになる。高い機械的強度は低い溶出速度と関連し、低い機械的強度は高い溶出速度に関連するため、2つのセクションは別々の溶出速度を持つことになる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「機械的強度」という用語は、実施の形態2に記載する方法に従って測定される。2つのセクションのうち1つの機械的強度が、実施の形態2に記載される方法で測定される他方のセクションの機械的強度と著しく異なる場合、2つのセクションは別々の機械的強度を有すると見なされる。一実施形態では、第1のセクションの機械的強度:第2のセクションの機械的強度の比が1に等しくない場合、2つのセクションは別々の機械的強度を有すると見なされる。
【0065】
本明細書で使用される場合、「精子」という用語は、精子自体、また精漿(seminal fluid)に含有される精子を含み、すなわち、持続放出組成物を形成する際に精液を直接使用することができる。しかしながら、精漿から単離された精子を、任意に、他の適切な保管溶液に含めて、持続放出組成物を形成するために使用することもできる。
【0066】
「持続放出」という用語は、制御放出、長期放出、時限放出、徐放(retarded release)、拡張放出及び遅延放出を包含するものとされる。
【0067】
発明の詳細な説明
本明細書で具体的に定義されない限り、使用される全ての技術用語及び科学用語は、ポリマー工学、生化学、分子生物学及び動物育種の分野の当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を持つ。
【0068】
本明細書において数値の制限又は範囲が記載されている場合、終点が含まれる。また、数値の制限又は範囲内の全ての値及び部分範囲は、明示的に書き出されているかのように明確に含まれる。
【0069】
本明細書に記載されるものに類似する又はそれらと同等の方法及び材料はいずれも、本発明の実施又は試験において使用することができ、適切な方法及び材料が本明細書に記載されている。本明細書で言及される全ての出版物、特許出願、特許、及びその他の参照は、それらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。矛盾が発生した場合、定義を含む本明細書が優先される。
【0070】
アルギン酸マトリクスに精子を包埋することは、授精後より長い期間にわたって精子の受精能力を与えることで利益をもたらすことがこれまで示されている(特許文献1)。包埋によりアルギン酸マトリクス内に精子が固定化され、制限された動きは精子によるエネルギー消費の減少をもたらし、貯蔵寿命及び受精能力に関して有益であると推定されている。
【0071】
上記に基づいて、固定化の程度が精子によるエネルギー消費、それによる精子の貯蔵寿命及び受精能力に影響を与えると仮定することは合理的と思われる。固定化の程度は、典型的には、例えば機械的強度等のマトリクスの特徴によって変化するため、かかる特徴は貯蔵寿命及び受精能力に直接影響を与えることが予想され得る。
【0072】
特にイオン架橋されたポリマー、及びイオン架橋されたアルギン酸塩等の架橋度が低い架橋ポリマーは、架橋度が高いイオン架橋されたポリマーに比べ機械的強度が低下する。かかるマトリクスは、マトリクス内の制約がより少なく、より高い移動度を可能とし得るため、上記の観点から、貯蔵寿命及び受精能力に関して好ましくないことが予想され得る。
【0073】
特許文献2の著者は、驚くべきことに、マトリクスの機械的強度を、包埋された精子の貯蔵寿命及び受精能力に悪影響を及ぼすことなく、著しく低下させ得ることを示した。機械的強度はマトリクスの溶出速度に直接結びついているため、この知見により、包埋された精子の貯蔵寿命及び受精能力に悪影響を及ぼすことなく、マトリクスの溶出プロファイルを調整することが可能となった。
【0074】
貯蔵寿命及び受精能力に悪影響を及ぼすことなく溶出プロファイルを調整することができることで、授精後、長期間にわたってポリマーマトリクスから精子が持続的に放出されるシステムを設計することができる。ポリマーマトリクス内に包埋されたまま貯蔵寿命及び受精能力が維持されることから、連続放出により、授精後長期間にわたって受精に利用することができる高品質の精子が確保されるため、排卵に関して授精時間はそれほど重要ではなくなる。
【0075】
しかしながら、上記の保存システムはいずれも、ブリーダーが排卵に関して最も好ましい授精時点に出くわすことへの依存が少ないにもかかわらず、保存システムを調製する手順は複雑であり、多くの場合、望ましい結果を達成するためには訓練された人員を必要とする。そのため、上記の保存システムの製造手順を簡素化する手段が必要とされている。
【0076】
上記の必要性は、持続放出組成物を調製するのに適したキットを提供することによって解決された。キットは使いやすく、訓練された人員を必要とせず、ポリマーマトリクス、特にアルギン酸塩のゲル化の制御を保証し、精子がポリマーマトリクス全体に均等に分布している、持続放出組成物を提供する。
【0077】
本発明は、人工授精、すなわち、動物の繁殖に使用されることを意図した持続放出組成物の簡素化された調製のために設計されたが、本発明の概念はまた、他の分野での利用を見出すこともできることが理解されよう。他の分野での利用の例は、治療剤の投与、診断剤の投与、又は細胞等の生体材料、特に幹細胞の投与に使用されることを意図した持続放出組成物の調製の簡素化であり得る。
【0078】
したがって、本発明の第1の態様は、持続放出組成物を調製するのに適したキットであって、キットが第1の容器及び第2の容器を備え、第1の容器が活性化剤組成物と、第1の拡散バリア又は第2の拡散バリアのいずれかと、を含み、第2の容器がイオン架橋性生体適合性ポリマーと、不活性架橋剤と、任意に、放出される材料とを含み、
ここで、
第1の容器は第1の拡散バリアを含み、第1の拡散バリアと混合された活性化剤組成物は、第1の容器の内表面にコーティングされるか、又は、
第1の容器は第1の拡散バリアを含み、活性化剤組成物及び第1の拡散バリアは、第1の容器の内表面に別々の層でコーティングされ、それによって内表面層及び中間層を形成し、中間層は活性化剤組成物を含むか、又は、
第1の容器は第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)活性化剤組成物、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された活性化剤組成物、又はiii)i)とii)との混合物が、第1の容器の製造中に第1のポリマー材料へと押出され、第2の拡散バリアは第1のポリマー、第2のポリマー若しくはそれらの組み合わせであるか、又は、
第1の容器は第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)活性化剤組成物、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された活性化剤組成物、又はiii)i)とii)との混合物と混合されている第3のポリマー材料が、第1の容器の製造中に第1のポリマー材料と共押出しされ、それによって内表面層及び外表面層を形成し、内表面層は活性化剤組成物を含み、第2の拡散バリアは、第2のポリマー、第3のポリマー又はそれらの組み合わせである、キットに関する。
【0079】
本発明の第2の態様は、持続放出組成物を調製するのに適したキットであって、キットが第1の容器及び第2の容器を備え、第1の容器が不活性架橋剤と、第1の拡散バリア又は第2の拡散バリアのいずれかと、を含み、第2の容器がイオン架橋性生体適合性ポリマーと、活性化剤組成物と、任意に、放出される材料とを含み、
ここで、
第1の容器は第1の拡散バリアを含み、第1の拡散バリアと混合された不活性架橋剤は、第1の容器の内表面にコーティングされるか、又は、
第1の容器は第1の拡散バリアを含み、不活性架橋剤及び第1の拡散バリアは、第1の容器の内表面に別々の層でコーティングされ、それによって内表面層及び中間層を形成し、中間層は不活性架橋剤を含むか、又は、
第1の容器は第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)不活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された不活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物が、第1の容器の製造中に第1のポリマー材料へと押出され、第2の拡散バリアは第1のポリマー、第2のポリマー若しくはそれらの組み合わせであるか、又は、
第1の容器は第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)不活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された不活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物と混合されている第3のポリマー材料が、第1の容器の製造中に第1のポリマー材料と共押出しされ、それによって、内表面層及び外表面層を形成し、内表面層が不活性架橋剤を含み、第2の拡散バリアが第2のポリマー、第3のポリマー若しくはそれらの組み合わせである、キットに関する。
【0080】
本発明の第3の態様は、持続放出組成物を調製するのに適したキットであって、キットが第1の容器及び第2の容器を備え、第1の容器が活性架橋剤と、第1の拡散バリア又は第2の拡散バリアのいずれかと、を含み、第2の容器がイオン架橋性生体適合性ポリマーと、任意に、放出される材料とを含み、
ここで、
第1の容器は第1の拡散バリアを含み、第1の拡散バリアと混合された活性架橋剤は、第1の容器の内表面にコーティングされるか、又は、
第1の容器は第1の拡散バリアを含み、活性架橋剤及び第1の拡散バリアは、第1の容器の内表面に別々の層でコーティングされ、それによって内表面層及び中間層を形成し、中間層は活性架橋剤を含むか、又は、
第1の容器は第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物が、第1の容器の製造中に第1のポリマー材料へと押出され、第2の拡散バリアは第1のポリマー、第2のポリマー若しくはそれらの組み合わせであるか、又は、
第1の容器は第2の拡散バリアを含み、第1のポリマー材料から作られ、i)活性架橋剤、ii)第2のポリマー材料内に包埋された若しくはカプセル封入された活性架橋剤、又はiii)i)とii)との混合物と混合されている第3のポリマー材料が、第1の容器の製造中に第1のポリマー材料と共押出しされ、それによって、内表面層及び外表面層を形成し、内表面層が活性架橋剤を含み、第2の拡散バリアが第2のポリマー、第3のポリマー若しくはそれらの組み合わせである、キットに関する。
【0081】
上に列挙される態様の主題は、いずれも活性架橋剤の遅延放出及び持続放出を提供するという点で同じ課題に対する代替の解決策となる。この課題は、架橋剤と組み合わせて拡散バリアを有することによって解決され、架橋剤は活性架橋剤又は不活性架橋剤のいずれかである。拡散バリアは、活性架橋剤の遅延放出及び持続放出を保証する。
【0082】
持続放出組成物
本発明によるキットによって調製され得る持続放出組成物は、典型的には、特定の期間にわたって材料の連続供給を確保すると同時に、放出されていない材料を放出時点までマトリクス内に保持されたままにすることを保証するために、所定の速度で材料を放出するように設計される。
【0083】
一実施形態では、放出される材料は、授精後少なくとも2時間、例えば、授精後少なくとも4時間、授精後少なくとも8時間、授精後少なくとも16時間、授精後少なくとも32時間、又は授精後少なくとも144時間の期間にわたって放出される。別の実施形態では、放出される材料は、授精後2時間~144時間の範囲、例えば、授精後4時間~120時間、授精後8時間~96時間、授精後16時間~72時間、授精後24時間~96時間、授精後24時間~120時間、又は授精後24時間~144時間の期間にわたって放出される。
【0084】
さらに、持続放出組成物は、イオン架橋されたアルギン酸塩等のイオン架橋された生体適合性ポリマーに包埋されている放出される材料を含む。
【0085】
一実施形態では、イオン架橋された生体適合性ポリマーは、別々の機械的強度を有する少なくとも第1及び第2のセクションを有する。イオン架橋された生体適合性ポリマーの機械的強度を実施の形態2に記載される方法に従って測定することができる。
【0086】
イオン架橋された生体適合性ポリマーのセクションが別々の機械的強度を有する場合、イオン架橋された生体適合性ポリマーは、不均質の架橋生体適合性ポリマーであり、すなわち機械的強度に関して不均質であるとされる。
【0087】
セクション間の機械的強度の差が小さい場合、イオン架橋されたアルギン酸塩は実際にはセクションごとに徐々に溶解する。しかしながら、セクション間の機械的強度の差が大きい場合、イオン架橋されたアルギン酸塩は、典型的には、時差(time-staggered)溶解プロファイルに従う。
【0088】
持続放出組成物を、所定の数のセクションに分割することができる。各セクションは、持続放出組成物の部分となる。セクションは、同一の又は異なる体積サイズであってもよい。
【0089】
別々の機械的強度を有する第1及び第2のセクションは、類似又は同一の体積サイズであってもよい。別々の機械的強度を有する第1及び第2のセクションは、持続放出組成物において互いに隣接して配置されてもよく、又は持続放出組成物において互いに隣接して配置されなくてもよい。
【0090】
さらに、持続放出組成物は、原則として、球、円環、円柱、円錐、立方体、直方体、三角錘、四角錘、三角柱、又はそれらの任意の組み合わせ等の任意の3次元形状を取ることができる。
【0091】
本発明による別の実施形態では、イオン架橋された生体適合性ポリマーは、類似又は同一の機械的強度を有する少なくとも第1及び第2のセクションを有する。イオン架橋された生体適合性ポリマーの機械的強度を実施例2に記載される方法に従って測定することができる。
【0092】
イオン架橋された生体適合性ポリマーのセクションが同一の機械的強度を有する場合、イオン架橋された生体適合性ポリマーは、均質な架橋生体適合性ポリマーであり、すなわち機械的強度に関して均質であるとされる。
【0093】
本発明による一実施形態では、イオン架橋された生体適合性ポリマーは、機械的強度に関して均質である。
【0094】
本発明による別の実施形態では、イオン架橋された生体適合性ポリマーは、機械的強度に関して不均質である。
【0095】
本発明によるキットを使用することにより、訓練された人員を必要とすることなく、持続放出組成物をより容易に調製することができる。上記キットは、第1の容器及び第2の容器を備える。
【0096】
イオン架橋性生体適合性ポリマー
第2の容器は、イオン架橋性アルギン酸塩等のイオン架橋性生体適合性ポリマーを含む。しかしながら、第2の容器は、天然起源又は合成、及びホモポリマー又はコポリマーにかかわらず、更に架橋性生体適合性ポリマーを含み得ることも理解されたい。本発明による一実施形態では、第2の容器は、イオン架橋性アルギン酸塩以外の架橋性生体適合性ポリマーを含まない。
【0097】
本発明による更なる実施形態では、イオン架橋性生体適合性ポリマーは、二価陽イオン架橋性アルギン酸塩等の二価陽イオン架橋性ポリマーである。
【0098】
アルギン酸塩は、1,4-結合-β-D-マンヌロン酸とα-L-グルロン酸との陰イオンコポリマーである。様々な形態のアルギン酸塩が市販されている。かかる形態は、典型的には、60%の1,4-結合-β-D-マンヌロン酸及び40%のα-L-グルロン酸、又は30%の1,4-結合-β-D-マンヌロン酸及び70%のα-L-グルロン酸である。本発明による一実施形態では、イオン架橋されたポリマーは、マンヌロン酸残基よりも多くのグルロン酸残基を有するアルギン酸塩である。特定の実施形態では、イオン架橋されたポリマーは50%超のグルロン酸残基、例えば60%超のグルロン酸残基、70%超のグルロン酸残基、又は80%超のグルロン酸残基で構成されているアルギン酸塩である。パーセンテージは、アルギン酸塩ポリマー中の残基の総数に基づいて計算される。100個のグルロン酸残基と400個のマンヌロン酸残基とを有するイオン架橋されたポリマーは、20%のグルロン酸残基及び80%のマンヌロン酸残基で構成されている。
【0099】
本発明による一実施形態では、アルギン酸塩はマンヌロン酸残基よりも多くのグルロン酸残基を有する。
【0100】
アルギン酸塩は、例えば安定剤として及び粘度制御のため食品産業で、例えば崩壊剤として医薬品及び化粧品産業で広く使用されている。様々な目的で、それぞれグルロン酸又はマンヌロン酸に富むアルギン酸塩がいずれも利用可能であり(Mancini et al., (1999), Journal of Food Engineering 39, 369-378)、グルロン酸に富むアルギン酸塩を製造するための様々な方法が知られている(国際公開第8603781号、米国特許第4,990,601号、米国特許第5,639,467号を参照されたい)。
【0101】
第1の容器
第1の容器は、典型的には、調節されていない化学反応速度論によって引き起こされる損傷を受けやすい生体材料(例えば、精子)を非常に低温(典型的には、固体の二酸化炭素を使用して-80℃、又は液体窒素を使用して-196℃)に冷却することによって保存するプロセスである、生体材料の凍結保存又は低温貯蔵に使用される。十分な低温では、問題の生体材料に損傷を引き起こす可能性がある任意の酵素又は化学的活性は、効果的に停止される。凍結保存法では、凍結中に氷晶の形成によって引き起こされる更なる損傷を引き起こすことなく、低温に到達することが求められる。
【0102】
そのため、本発明の第1、第2又は第3の態様による一実施形態では、第1の容器は、-20℃未満の温度、-80℃未満の温度又は-196℃未満の温度等の非常に低い温度に供されることに適合性のある材料から作られている。かかる温度の例としては、固体の二酸化炭素を使用した-80℃、又は液体窒素を使用した-196℃が挙げられる。材料が非常に低温に供されることに適合性であるためには、材料は、かかる低温での長期保存中に同じ形状、構造及び機能を保持しなければならない。また、第1の容器が第1の容器内に保管される生体材料に反応しないか、又はそうでなければ悪影響を及ぼさないことも重要である。
【0103】
第1の容器は、生体材料の凍結保存又は低温貯蔵に使用することができるにもかかわらず、第1の容器はまた、精子の新鮮な調製物に使用することができることも理解されたい。第1の容器が精子の新鮮な調製物に使用され、凍結保存又は低温貯蔵を必要としない場合、第1の容器は非常に低温に供されることに適合性のある材料から作られる必要はないが、第1の容器内に貯蔵される生体材料に反応しないか、又はそうでなければ悪影響を及ぼすことのない任意の材料から作られてもよい。
【0104】
本発明による好ましい一実施形態では、第1の容器は、授精ストロー及び授精チューブ等の授精1回用量に対する容器である。授精ストローを図1に示す。これらのストローは、従来、例えば内径1.6mm又は2.5mmの細いチューブ及び細いチューブ内に挿入されたプラグ4によって形成される。
【0105】
充填状態では、プラグはチューブの第1の端部2の近くに配置され、第2の容器内に元々含まれる内容物がストロー内でプラグとチューブの第2の端部3との間に配置される。ストローを充填するため、プラグ4に近いチューブの第1の端部2を、典型的には、真空源と連絡するように置き、一方、第2の端部3を、ストローに導入される物質を含む第2の容器と連絡するように置く。最初にプラグと第2の端部3との間に含まれる空気は、プラグ4を通って吸引され、その間、物質はプラグ4に到達するまでチューブ内を前進するが、プラグ4が液密になるために物質はプラグ4を通過することができない。必要であれば、充填後、ストローをその一方又は両方の端部近くで溶接し、典型的には、-80℃未満の温度又はより好ましくはおよそ-196℃の温度等で冷却して保管する。
【0106】
ストローを空にするため、必要に応じて溶接された末端部分を切断し、解凍した後、プラグ4に最も近い端部を経て、プラグ4に重みがかかるまでロッドをチューブに挿入する。このロッドを使用することで、ストロー内に最初に含まれる物質の用量がその端部を通って排出されるように、プラグ4から最も遠い端部に向かってピストンのようにプラグをスライドさせる。
【0107】
第2の容器
第2の容器は、生体材料の凍結保存又は低温貯蔵に使用されるとは限らない、すなわち、必ずしも-80℃又は-196℃のような低温に供されないため、第1の容器と同じ又は異なる材料から作られる場合がある。しかしながら、第2の容器はまた、第1の容器に内容物が移される前に、第2の容器内に含まれ得る生体材料と反応しないか、又はそうでなければ悪影響を及ぼさない材料から作られることが重要である。
【0108】
放出される材料
本発明による一実施形態では、第2の容器は、放出される材料を更に含む。
【0109】
本発明による一実施形態では、放出される材料は、細胞、特に幹細胞のような生体材料、治療剤、診断剤又はそれらの任意の混合物からなる群から選択される。本発明による特に好ましい一実施形態では、放出される材料は精子である。
【0110】
拡散バリア(複数の場合もある)
本発明によるキットを使用して持続放出組成物を製造する場合、放出される材料、例えば精子は、典型的には、第2の容器の内容物に添加され、その後、第2の容器の内容物は第1の容器に移される。この手順の結果、第1の容器の1つ以上の拡散バリアが水に曝露され、それによって、水和性拡散バリア(複数の場合もある)が水和拡散バリア(複数の場合もある)へと変換される。水和拡散バリア(複数の場合もある)は、好ましくは活性化剤組成物、不活性架橋剤及び/又は活性架橋剤に透過性である。
【0111】
そのため、本発明による一実施形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、水和性拡散バリアであり、すなわち、拡散バリアは水に接触すると水和される。別の実施形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、水和性拡散バリアであるが、ただし、第1のポリマー材料は水和性拡散バリアではない。
【0112】
本発明による別の実施形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、フィルム形成ポリマーである。フィルム形成ポリマーは、容器の内表面等の基材上に柔軟で凝集性の連続的な被覆を残す一群の化学物質である。フィルム形成ポリマーの例は、ポリビニルピロリドン(PVP)、アクリレート、アクリルアミド、及び様々なコポリマーである。
【0113】
本発明による別の実施形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアはフィルム形成ポリマーであるが、ただし、第1のポリマー材料はフィルム形成ポリマーではない。
【0114】
本発明による更なる実施形態では、第1の拡散バリアは、i)アルギン酸塩等の天然ポリマー、デキストラン、デンプン及びアガロースのような他の多糖、CMC(カルボキシメチルセルロース)、メチルセルロース及びエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースとしてのセルロース誘導体、ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、シェラックのようなタンパク質、ii)PVA(ポリビニルアルコール)のような合成ポリマー若しくはコポリマー、水溶性ポリアミド、ポリアクリル酸及びポリアクリル酸無水物、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸無水物、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリ-n-イソプロピルアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、又はiii)それらの任意の混合物からなる群から選択される。第1の拡散バリアは、親水性であることが好ましい。
【0115】
本発明による一実施形態では、第1の拡散バリアの厚さは50nm~100μmの範囲であり、より好ましくは100nm~10μmの範囲である。さらに、第1の拡散バリアは、好ましくは均一で可能な限り薄くなければならない。
【0116】
良好な結果を達成するため、イオン架橋性生体適合性ポリマーのゲル化を制御することが好ましく、すなわち、ゲルがあまり速く形成されず、放出される材料が持続放出組成物、すなわちイオン架橋された生体適合性ポリマー全体に均一に分布することが好ましい。
【0117】
本発明の第1、第2及び第3の態様では、イオン架橋性生体適合性ポリマーの制御されたゲル化は、活性架橋剤の遅延放出及び持続放出によって達成される。
【0118】
本発明の第1及び第2の態様では、活性架橋剤の遅延放出及び持続放出は、第2の容器の内容物を第1の容器に移した後、不活性架橋剤が少なくとも1つの拡散バリアによって活性化剤組成物から分離されることを保証することによって達成される。活性化剤組成物が不活性架橋剤に接触すると、不活性架橋剤は活性架橋剤へと変換される。次いで、活性架橋剤は、イオン架橋性生体適合性ポリマーと共にイオン架橋された生体適合性ポリマーを形成する。ゲル化速度は、イオン架橋性生体適合性ポリマーに利用可能な活性架橋剤の量を調節することによって制御することができる。
【0119】
本発明の第3の態様では、活性架橋剤の遅延放出及び持続放出は、活性架橋剤が少なくとも1つの拡散バリアによってイオン架橋性生体適合性ポリマーから分離されることを保証することによって達成される。活性架橋剤が拡散バリア(複数の場合もある)を通過し、イオン架橋性生体適合性ポリマーと接触すると、イオン架橋された生体適合性ポリマーが形成される。ゲル化速度は、イオン架橋性生体適合性ポリマーに利用可能な活性架橋剤の量を調節することによって、すなわち、拡散バリア(複数の場合もある)を横切る輸送速度を調節することによって制御することができる。
【0120】
本発明の第1及び第2の態様による更に別の実施形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、活性化剤組成物及び不活性架橋剤が遅延速度で互いに接触することを可能にし、それによって活性架橋剤の遅延放出及び持続放出を保証する。
【0121】
本発明の第3の態様による更なる実施形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、活性架橋剤の遅延放出及び持続放出を可能にする。
【0122】
本発明による一実施形態では、活性化剤組成物は、第1及び/又は第2の拡散バリア内に均一に分布される。さらに、乾燥中に相分離が起こらないことが好ましいとされる。
【0123】
本発明の第1及び第2の態様による更に別の実施形態では、活性化剤組成物と不活性架橋剤との混合物が、活性架橋剤の形成をもたらし、活性架橋剤は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適している。
【0124】
活性架橋剤
「活性架橋剤」という用語は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適した化合物を指す。活性架橋剤は典型的には、水と接触すると、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出する化合物である。水と接触するとイオンを放出する化合物は、典型的には水溶性であり、好ましくは1g/Lよりも高い、例えば10g/Lより高い、又は100g/Lより高い水(25℃、pH=7)への溶解度を有する化合物である。CaCl及びBaClは、それぞれ、およそ811g/L及び358g/Lの水(25℃、pH=7)への溶解度を有するため、本発明による活性架橋剤の代表的な例となる。対照的に、CaCO及びBaCOは、それぞれおよそ0.013g/L及び0.024g/Lの水(25℃、pH=7)への溶解度を有するため、本明細書で定義される活性架橋剤ではなく、むしろ不活性架橋剤とされるべきである。
【0125】
本発明による一実施形態では、活性架橋剤は、二価陽イオン塩化物、二価陽イオン酢酸塩、二価陽イオンクエン酸塩、好ましくはCaCl、BaCl、Ca(CHCOO)、Ba(CHCOO)、クエン酸カルシウム、クエン酸バリウム又はそれらの任意の混合物、より好ましくはCaCl、Ca(CHCOO)、クエン酸カルシウム又はそれらの任意の混合物等の水に可溶性の二価陽イオン塩である。
【0126】
本発明による別の実施形態では、第1の容器も第2の容器も、第2の容器の内容物を第1の容器の内容物と混合する前に、いかなる活性架橋剤も含まない。
【0127】
不活性架橋剤-活性化剤組成物
「不活性架橋剤」という用語は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出することができるようになるために、活性化剤組成物による活性化を必要とする化合物を指す。不活性架橋剤が活性化剤組成物によって活性化されない場合、不活性架橋剤は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出することができない。不活性架橋剤は、典型的には25℃、pH>8の水と接触した場合に、イオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出しない化合物である。
【0128】
本発明による一実施形態では、不活性架橋剤は、1g/L未満、例えば10g/L未満又は100g/L未満の水(25℃、pH=7)への溶解度を有する化合物である。CaCl及びBaClは、それぞれ、およそ811g/L及び358g/Lの水(25℃、pH=7)への溶解度を有するため、本明細書で定義されている不活性架橋剤ではない。しかしながら、CaCO及びBaCOは、それぞれおよそ0.013g/L及び0.024g/Lの水(25℃、pH=7)への溶解度を有するため、本明細書で定義される不活性架橋剤とされるべきである。
【0129】
本発明による一実施形態では、不活性架橋剤は、二価陽イオン炭酸塩、より好ましくはCaCO、BaCO又はそれらの任意の混合物等の水に不溶性の二価陽イオン塩である。
【0130】
CaCO及びBaCOのような不活性架橋剤は、イオン架橋性生体適合性ポリマーを酸性pHで架橋するのに適したイオンを放出する。そのため、プロトン供与体として作用し得る任意の化合物は、かかる不活性架橋剤に適した活性化剤組成物となり得る。
【0131】
したがって、本発明による一実施形態では、活性化剤組成物は、酸等のプロトン供与体を含み、不活性架橋剤は、プロトン供与体と接触するとイオン架橋性生体適合性ポリマーを架橋するのに適したイオンを放出する化合物である。プロトン供与体は水に可溶性であるのが好ましい。
【0132】
好ましい実施形態では、プロトン供与体は、i)アスコルビン酸、クエン酸若しくはそれらの任意の混合物等の有機酸、ii)リン酸、塩酸若しくはそれらの任意の混合物等の無機酸、又はiii)有機酸と無機酸との混合物からなる群から選択される。
【0133】
本発明による代替の実施形態では、活性化剤組成物は、水と接触すると酸等のプロトン供与体へと変換される化合物を含む。かかる化合物の代表例は、無機酸無水物、有機酸無水物、及びグルコノデルタラクトン等のラクトン、又はそれらの任意の混合物である。より好ましい実施形態では、活性化剤組成物は、有機酸無水物、グルコノデルタラクトン又はそれらの任意の混合物であり、更に好ましくは、活性化剤組成物は、グルコノデルタラクトン(グルコノ-δ-ラクトン)を含む。
【0134】
グルコノ-δ-ラクトンは、溶液中でゆっくりと加水分解してグルコン酸を形成する単純な糖である。この加水分解により、例えば、CaCO又はBaCO等の二価陽イオン炭酸塩から炭酸が形成され得るポイントまで溶液pHが徐々に低下して、活性イオンを放出してゲル化を誘発する。グルコノ-δ-ラクトンの加水分解速度、したがってゲル化の開始は、例えば溶液の温度変化によって変化する場合がある。活性化された架橋剤-イオン架橋性生体適合性ポリマーの接触面でゲル化が進行すると、架橋されたポリマー高分子の体積が減少し、順次残りのポリマー溶液の有効濃度が低下する。
【0135】
活性化剤組成物の別の例は、国際公開第2013/076232号に記載され、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。該文献で開示されている活性化システムは、ヒドロラーゼ及びヒドロラーゼによって加水分解可能な基質の使用を伴う。
【0136】
本明細書で使用される場合、「ヒドロラーゼ」という用語は、基質(複数の場合もある)を含む溶液とヒドロラーゼを含む別の溶液とを混合する際にHを産生することを可能にするヒドロラーゼを包含することを意味する。本発明の一実施形態によれば、ヒドロラーゼはリパーゼである。本発明の更に別の実施形態によれば、リパーゼはアシルヒドロラーゼであり、より好ましくは、例えば酵母カンジダ・ルゴサから単離されたトリアシルグリセロールリパーゼ等のトリアシルグリセロールリパーゼである。好適なリパーゼは、Sigma-Aldrich Co. LLC(L1754-Type VII又はL3001 Type I、CAS番号9001-62-1)から入手可能である。
【0137】
本発明によれば、基質と結合する際にHの生成が生じる任意のヒドロラーゼを使用することができることが理解される。そのため、使用され得るヒドロラーゼは、カルボン酸エステルヒドロラーゼ、オキサロアセターゼ、グリコシダーゼ、エーテルヒドロラーゼ及びキチンデアセチラーゼ等の鎖状アミド中のペプチド結合以外の炭素-窒素結合に作用するヒドロラーゼからなる群から選択され得る。
【0138】
カルボン酸エステルヒドロラーゼの非限定的な例は、カルボキシルエステラーゼ、トリグリセロールリパーゼ、アセチルエステラーゼ、ステロールエステラーゼ、L-アラビノノラクトナーゼ、グルコノラクトナーゼ、アシルグリセロールリパーゼ、g-アセチルグルコースデアセチラーゼ、リポタンパク質リパーゼ、脂肪アシルエチルエステルシンターゼ、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)デポリメラーゼ、及びジアシルグリセロールアシルヒドロラーゼである。オキサロアセターゼの非限定的な例は、フマリルアセトアセターゼ、アシルピルビン酸ヒドロラーゼ、及びアセチルピルビン酸ヒドロラーゼである。
【0139】
グリコシダーゼの非限定的な例は、a-グルクロニダーゼである。エーテルヒドロラーゼの非限定的な例は、イソコリスマターゼである。
【0140】
ヒドロラーゼの基質は、ヒドロラーゼへの結合によってHの産生をもたらす基質である。よって、基質は、本発明により使用されるヒドロラーゼの種類に応じて変化し得る。
【0141】
本発明による好適な基質は、カルボン酸等の有機酸のエステルである。
【0142】
本発明の一実施形態によれば、基質は式I:
【化1】
(式中、R、R、及びRは独立して、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換のC1~C12アルキルカルボニル鎖、例えば、メタノン、エタノン、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ドデカノン等を表す)の化合物である。一実施形態によれば、R、R、及びRはそれぞれメタノンである。別の実施形態によれば、R、R、及びRはそれぞれエタノンである。更に別の実施形態によれば、R、R、及びRはアセトンである。式Iの基質は、本発明によるヒドロラーゼとしてトリアシルグリセロールリパーゼを使用する場合に特に有用である。基質への結合により、上記式Iのエステルはグリセロールとカルボン酸とに分割され、すなわち、そのようにしてHを提供する。
【0143】
アルキルカルボニル鎖は、分岐鎖であってもよく、又は非分岐鎖であってもよい。さらに、アルキルカルボニル鎖は、置換されていてもよく、又は非置換であってもよい。当業者であれば、本明細書の教示に基づき、式Iによって包含される様々な基質を使用することができ、本明細書の教示に基づき、本明細書により使用される適切な基質を選択し得ることを認めるであろう。よって、当業者であれば、アルキル鎖の長さを、基質のグリセロール及びカルボン酸を産生する酵素の能力に影響を及ぼすことなく変化させることができ、そのようにしてHイオンの放出がもたらされることを認めるであろう。
【0144】
本発明の好ましい実施形態によれば、基質は、下記式のトリアセチン、トリプロピオニン及びトリブチリンの群から選択される。
【化2】
【0145】
よって、一実施形態によれば、R、R、及びRはC1~C4のアルキルカルボニルを表す。
【0146】
本発明の更に別の実施形態によれば、存在する基質は、トリプロピオニン及びトリブチリンからなる群から選択される。
【0147】
本発明によれば、上記に規定されるヒドロラーゼ及び基質の混合は、Hの産生をもたらす。さらに、上記Hは、不活性架橋剤からのイオンの放出をもたらす。
【0148】
ヒドロラーゼは、不活性架橋剤を直接活性化しないにもかかわらず、ヒドロラーゼが不活性架橋剤の活性化をもたらす一連の事象を開始することから、それでもヒドロラーゼは活性化剤組成物となると考えることができる。そのため、活性化剤組成物は、不活性架橋剤を(例えば、プロトン供与体を用いて)直接活性化してもよく、又は不活性架橋剤を(例えば、ヒドロラーゼ及びその基質を用いて)間接的に活性化してもよい。
【0149】
本発明による好ましい実施形態では、活性化剤組成物は、不活性架橋剤の活性化をもたらす一連の事象を開始することにより、不活性架橋剤を間接的に活性化する。かかる活性化剤組成物の一例は、酸が形成され、順次、例えばCaCOと相互作用して、該炭酸塩からの遊離カルシウムイオンの放出をもたらす、基質を加水分解するヒドロラーゼである。不活性架橋剤を間接的に活性化する活性化剤組成物の別の例は、不活性架橋剤を活性化することができるようになる前に、酸形態へと加水分解される必要があるグルコノ-δ-ラクトンである。
【0150】
本発明による一実施形態では、ヒドロラーゼ及びその基質は、第1の容器の内容物を第2の容器の内容物と混合する前は、別々の容器内に含まれる。本発明による別の実施形態では、ヒドロラーゼ及びその基質は、同じ容器に含まれてもよいが、ただし、2つの化合物は、例えば第1の拡散バリア、第2の拡散バリア又はそれらの任意の混合物等の拡散バリアによって分離される。
【0151】
本発明による一実施形態では、活性化剤組成物はヒドロラーゼを含む。ヒドロラーゼがその目的を果たすためには、ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質は第1及び/又は第2の容器のいずれかに存在しなければならないが、ただし、第1の容器の内容物が第2の容器の内容物と混合される前は、基質はヒドロラーゼと接触していない。
【0152】
本発明による別の実施形態では、活性化剤組成物は、ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む。基質がその目的を果たすためには、ヒドロラーゼは第1及び/又は第2の容器のいずれかに存在しなければならないが、ただし、第1の容器の内容物が第2の容器の内容物と混合される前は、基質はヒドロラーゼと接触していない。
【0153】
本発明による更なる実施形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、拡散バリア及び活性化剤組成物の両方として作用し得る。これは、例えば酸等のプロトン供与体である拡散バリアを選択すること、又は水等の液体に接触するとプロトン供与体へと変換される拡散バリアを選択することによって達成され得る。
【0154】
そのため、本発明による一実施形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは活性化剤組成物である。
【0155】
本発明による別の実施形態では、第1及び/又は第2の拡散バリアは、酸等のプロトン供与体であるか、又は水と接触するとプロトン供与体へと変換される。この特性を有する拡散バリアは、ポリアルキルシアノアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸無水物、ポリメタクリル酸無水物又はそれらの任意の混合物からなる群から選択され得る。
【0156】
本発明を総合的に説明した上で、実施例を参照することにより、更なる理解を得ることができ、これらの実施例は、本明細書において説明のみを目的として提供され、別段の定めがない限り限定を意図するものではない。
【実施例
【0157】
実施例1:授精ストロー内のアルギン酸ゲルにおけるウシ精子の調製
材料
以下の化学物質を使用した:Sigma-Aldrich(アメリカ、セントルイス)よりトリズマ塩酸塩、EDTA、NaHCO、NaCl、NaOH、グリセロール(99%超)、フルクトース、アスコルビン酸及びクエン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(CMC)。Sekisui Specialty Chemicals Europe S.L.(スペイン、タラゴナ)よりポリビニルアルコール(PVA)、Selvol 523/Selvol 325。Apro(ノルウェー、オスロ)よりグルコース無水物。Brenntag Specialties(アメリカ、サウスプレインフィールド)よりViCality AlbaFil炭酸カルシウム、及びNovamatrix A/S(ノルウェー、ドランメン)よりアルギン酸ナトリウム(UP-LVG)。
【0158】
精子の供給源
ノルウェー、トロンハイムのハルシュタインガード及びシュタンゲのストーレリーのGeno施設でウシ精子を採取した。
【0159】
バッファー溶液
以下のエクステンダー溶液を使用した:
精子の一次希釈用エクステンダー:1.45g/lのトリズマ塩酸塩グルコース、0.4g/lのクエン酸ナトリウム、1g/lのフルクトース、及び200ml/lの卵黄。NaOHを添加して溶液のpHを6.4に調整した。
精子の二次希釈用エクステンダー溶液:1g/lのViCality Albafil炭酸カルシウム、54g/lのフルクトース、170g/lのグリセロール及び10g/lのUP-LVGアルギン酸ナトリウム。いずれのエクステンダーもEU dir 88/407で要求される最終濃度を少なくとも与える標準抗生物質カクテルを含有する。
【0160】
授精ストローのコーティング:
授精ストロー(「ミディアム」タイプ)を、13.6μmol/mLのアスコルビン酸水溶液と水中3%PVAとの混合物、又は13.6μmol/mLのアスコルビン酸水溶液と水中1.5%CMCとの混合物でフラッシングすることによってコーティングした。ストローをコーティング溶液でフラッシングした後、室温の真空チャンバー内で乾燥させた。
【0161】
ウシ精子の希釈及び固定化
Geno施設でウシ精子を採取した。採取直後に、一次希釈用エクステンダー溶液中1ml当たり133×106細胞の濃度まで精子を希釈した。次いで、得られた精子を含有する溶液を4℃まで冷却した。4℃まで冷却した後、溶液を等容量の二次希釈用エクステンダー溶液と混合した。
【0162】
次いで、精子を含有する溶液を、上記のとおりアスコルビン酸及びPVA、又はアスコルビン酸及びCMCのいずれかでコーティングされた授精ストローに移した。授精ストローを4℃に保持し、1時間、3時間、5時間及び24時間後にゲル化及びpHについて内容物を確認した。
【0163】
ゲル化及びゲル強度及び精子の運動性の評価
両方のタイプのコーティングについて、ストロー内の液体の粘度の増加を1時間後に観察した。3時間後、ストロー内にゲルが形成され、24時間後、ストロー内で堅固なゲルが観察された。
【0164】
精子の運動性を、顕微鏡的判定を用いて評価した。運動性の測定前に、授精ストローの内容物をエッペンドルフチューブ内の0.9mlの改変IVT溶液に加え、チューブをおよそ10分間チューブタンブラー上で注意深く振盪することにより、アルギン酸ゲルを改変IVT溶液(3g/lのグルコース、20g/lのクエン酸ナトリウム、2.1g/lのNaHCO、1.16g/lのNaCl、3g/lのEDTA、pH7.35)中で液化した。運動性の顕微鏡的判定の前に、チューブを37℃のヒートブロックにおいて最低15分間予熱した。およそ3μlの溶液を予熱した顕微鏡スライドに添加し、光学顕微鏡を使用して直ちに検査した。各試料中の運動性精子の数を最近傍5%間隔と推定した。
【0165】
両方のタイプのコーティングを有するストローの充填から1時間後に評価した場合におよそ85%の精子が運動性であり、5時間後にはおよそ70%の精子が両方のタイプのストローで運動性であった。24時間後に評価すると、アスコルビン酸及びPVAでコーティングされたストローではおよそ50%の精子が運動性であったのに対し、アスコルビン酸及びCMCでコーティングされたストローでは60%の精子が運動性であった。
【0166】
実施例2:固定化された精子細胞を用いた異なるアルギン酸ゲルの機械的強度の判定
材料
以下の化学物質を使用した:Sigma-Aldrich(アメリカ、セントルイス)よりトリズマ塩酸塩、EDTA、D-(+)-グルコン酸δ-ラクトン、NaHCO、NaCl、グリセロール(99%超)、フルクトース及びクエン酸ナトリウム。Apro(ノルウェー、オスロ)よりグルコース無水物。KSL staubtechnik gmbh(ドイツ、ラウインゲン)よりEskal500炭酸カルシウム、及びNovaMatrix, FMC BioPolymer AS(ノルウェー、サンドビカ)よりアルギン酸ナトリウム(UP LVG及びUP VLVG)。標準授精ストロー0.25ml(French mini straw(IMV、フランスのレーグル))。
【0167】
精子の供給源
ノルウェー、トロンハイムのハルシュタインガード及びシュタンゲのストーレリーのGeno施設でウシ精子を採取した。
【0168】
バッファー溶液
以下のエクステンダー溶液を使用した:
精子の一次希釈用エクステンダー:1.45g/lのトリズマ塩酸塩グルコース、0.4g/lのクエン酸ナトリウム、1g/lのフルクトース、及び200ml/lの卵黄。NaOHを添加して溶液のpHを6.4に調整した。
精子の二次希釈用エクステンダー溶液:0.5g/lのEskal500炭酸カルシウム、54g/lのフルクトース、170g/lのグリセロール及び12g/lのアルギン酸ナトリウム(UP LVG及びUP VLVGの混合物)。いずれのエクステンダーもEU dir 88/407で要求される最終濃度を少なくとも与える標準抗生物質カクテルを含有する。
【0169】
ウシ精子の希釈、固定化及び低温貯蔵
Geno施設でウシ精子を採取した。採取直後に、一次希釈用エクステンダー溶液中1ml当たり133×10細胞の濃度まで精子を希釈した。次いで、得られた精子を含有する溶液を4℃まで冷却した。4℃まで冷却した後、溶液を等容量の二次希釈用エクステンダー溶液と混合した。ゲル化を開始するため、混合物にD-(+)-グルコン酸δ-ラクトンを最終濃度55mMまで加え、精液ストローに満たした。ストローを4℃でおよそ4.5時間保管し、低温貯蔵の標準的な手順に従って液体Nで凍結させた。様々な機械的強度のアルギン酸ゲルを生成するため、二次希釈用溶液中のUP LVG及びUP VLVGの比を変化させた。
【0170】
機械的強度の評価
処理ごとに10本の冷凍精液ストローを37℃で1分間解凍し、続いて、密接に接触させて平行に整列させ、金属板の中心に置いた。精液ストローに由来するゲルの機械的強度を定量するため、P/35プローブ(35mm DIA CYLINDER ALUMINIUM)を搭載したテクスチャアナライザTA XT Plus(英国、サリー州ゴダルマイニングのStable micro systems)を使用した。測定(テストモード圧縮)を、1kgロードセルを使用して試験速度0.1mm/秒で80%歪みに対して行った。機械的強度を、ゲルの変形に対する力の初期線形傾斜(0.05mm~0.1mm)として定量した。実施例1のように手動評価によって弱い又は軟質と特徴付けられたストローに由来するゲルの機械的強度は、43g/mmと測定された。手動評価によって強いと特徴付けられたストローに由来するゲルの機械的強度は、90g/mmと測定された。
【0171】
実施例3:コーティングされた授精ストロー
コーティングされた授精ストローの調製
材料:Sekesui Specialty Chemicals Europe S.L.(スペイン、タラゴナ))よりポリビニルアルコールSelvol 523及びSelvol 325、CP Kelcoよりカルボキシメチルセルロース(CMC):CEKOL、セルロースガム、カルボキシメチルセルロースナトリウムE466、Ashland Wilmington(アメリカ、デラウェア)よりメチルセルロースとヒドロキシプロピルメチルセルロースとの混合物Benecel MP 812W、Dow Chemical Companyよりメチルセルロースとヒドロキシプロピルメチルセルロースとの混合物、ヒプロメロースMethocel K100、Sigma Aldrichよりアスコルビン酸、VWRより塩酸AnalaR NORMAPUR(商標)。
【0172】
1)授精ストローを、13.6μmol/mLのアスコルビン酸水溶液と、水中3%PVA(ポリビニルアルコール)又は5%PVA(ポリビニルアルコール)との混合物でフラッシングすることによってコーティングした。
2)授精ストローを、13.6μmol/mLのアスコルビン酸水溶液と水中1.5%CMC(カルボキシメチルセルロース)との混合物(コーティング溶液)でフラッシングすることによってコーティングした。ストローをコーティング溶液でフラッシングした後、室温にて真空で動かしながら(in motion)乾燥させた。
3)授精ストローを、13.6μmol/mLのアスコルビン酸水溶液と水中1.5%Benecel MP 812 W(メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース)との混合物、又は13.6μmol/mLのアスコルビン酸水溶液と水中1.5%Methocel K100(メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース-ヒプロメロース)との混合物(コーティング溶液)でフラッシングすることによってコーティングした。ストローをコーティング溶液でフラッシングした後、室温にて真空で動かしながら乾燥させた。
4)授精ストローを、35μmol/mLの塩酸水溶液と、水中3%PVA(ポリビニルアルコール)又は水中5%PVA(ポリビニルアルコール)との混合物(コーティング溶液)でフラッシングすることによりコーティングした。ストローをコーティング溶液でフラッシングした後、室温にて真空で動かしながら乾燥させた。
【0173】
CMC(カルボキシメチルセルロース)、Benecel MP 812 W(メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース)、及びMethocel K100(メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース-ヒプロメロース)等のセルロース系ポリマーには、塩酸のような強酸との相溶性がない。このタイプのポリマーでは、アスコルビン酸又はグルクロン酸のようなpKa>3の弱酸が適している。強酸はセルロース系ポリマーと反応し、ポリマーマトリクスの分解又は架橋につながる。
【0174】
精子の供給源
ノルウェー、シュタンゲのストーレリーのGeno施設でウシ精子を採取した。
【0175】
バッファー溶液
以下のエクステンダー溶液を使用した:
精子の一次希釈用エクステンダー:1.45g/lのトリズマ塩酸塩グルコース、0.4g/lのクエン酸ナトリウム、1g/lのフルクトース、及び200ml/lの卵黄。NaOHを添加して溶液のpHを6.4に調整した。
精子の二次希釈用エクステンダー溶液:5g/lのViCality Extra Light炭酸カルシウム(ペンシルベニア州ベスレヘムのSpeciality Minerals inc)、54g/lのフルクトース、170g/lのグリセロール、及び10g/lのUP-LVGアルギン酸ナトリウム(ノルウェー、サンドビカのNovaMatrix)。いずれのエクステンダーも、EU dir 88/407で要求される最終濃度を少なくとも与える標準抗生物質カクテルを含有する。
【0176】
ウシ精子の希釈及び固定化
Geno施設でウシ精子を採取した。採取直後に、一次希釈用エクステンダー溶液中1ml当たり133×10細胞の濃度まで精子を希釈した。次いで、得られた精子を含有する溶液を4℃まで冷却した。4℃まで冷却した後、溶液を等容量の二次希釈用エクステンダー溶液と混合した。
【0177】
次いで、精子を含有する溶液を、コーティングされた授精ストローの調製のポイント1~4のもとで上記のようにコーティングされた授精ストローに移した。授精ストローを、ゲル形成のために4℃で保管した。
【0178】
ゲル化及びゲル強度及び精子の運動性の評価
ストローをゲルの形成について調べ、固定化された精子の生存率を4℃で3時間及び24時間保管した後に評価した。結果を表1に要約する。充填から3時間後、全てのストロー内にゲルが形成された。ストロー内のゲル強度の一部のみ又は軽微な変化が、3時間~24時間の間に観察された。
【0179】
精子の運動性を、顕微鏡的判定を用いて評価した。運動性の測定前に、授精ストローの内容物をエッペンドルフチューブ内の0.9mlの改変IVT溶液に加え、チューブをおよそ10分間チューブタンブラー上で注意深く振盪することにより、アルギン酸ゲルを改変IVT溶液(3g/lのグルコース、20g/lのクエン酸ナトリウム、2.1g/lのNaHCO、1.16g/lのNaCl、3g/lのEDTA、pH7.35)中で液化した。運動性の顕微鏡的判定の前に、チューブを37℃のヒートブロックにおいて最低15分間予熱した。およそ3μlの溶液を予熱した顕微鏡スライドに添加し、光学顕微鏡を使用して直ちに検査した。各試料中の運動性精子の数を最近傍5%間隔と推定した。
【0180】
結果を表1に要約する。試験した全ストローを用いて、ストローを充填してから3時間後に評価すると、60%~80%の精子が運動性であった。24時間後に評価すると、およそ40%~65%の精子が試験したストローで運動性であった。
【0181】
【表1】
【0182】
実施例4:PVCストローからの活性化剤組成物の放出
コーティングされた授精ストローの調製
材料:スウェーデンのINEOS Compoundsより医療グレードのポリ塩化ビニル(PVC)ドライブレンド(NORVINYL HA.97.00.PJ.19020.1)、及びSigma Aldrichよりコハク酸無水物。
【0183】
ラボコンパウンダーKETSE 20/40 EC押出し機を使用して、押出しPVCストローを調製した。ストロー製造用のチュービングダイヘッドは、内径2mm及び外径2.5mmであった。チュービングダイヘッドに接続している押出し機は、6つの加熱ゾーンを有する。バレルの全長は800mmであるが、PVCの劣化を防ぐために加工長を400mmに短縮した。
【0184】
コハク酸無水物を、PVCにそれぞれ1重量%及び1.5重量%の量で添加した。全ての原料を室温であらかじめ混合し、押出し機のフィーダーに供給した。190℃でブレンドを溶かし、混合した。押出しストローを冷却し、水浴中で収集した。
【0185】
押出しストローを、授精ストローの表面にあったコハク酸無水物を除去するために、追加の水で直ちに洗浄し、使用前に授精ストローを乾燥させた。
【0186】
精子の供給源
ノルウェー、シュタンゲのストーレリーのGeno施設でウシ精子を採取した。
【0187】
バッファー溶液
以下のエクステンダー溶液を使用した:
精子の一次希釈用エクステンダー:1.45g/lのトリズマ塩酸塩グルコース、0.4g/lのクエン酸ナトリウム、1g/lのフルクトース、及び200ml/lの卵黄。NaOHを添加して溶液のpHを6.4に調整した。
精子の二次希釈用エクステンダー溶液:5g/lのViCality Extra Light炭酸カルシウム(ペンシルベニア州ベスレヘムのSpeciality Minerals inc)、54g/lのフルクトース、170g/lのグリセロール、及び10g/lのUP-LVGアルギン酸ナトリウム(ノルウェー、サンドビカのNovaMatrix)。いずれのエクステンダーも、EU dir 88/407で要求される最終濃度を少なくとも与える標準抗生物質カクテルを含有する。
【0188】
ウシ精子の希釈及び固定化
Geno施設でウシ精子を採取した。採取直後に、一次希釈用エクステンダー溶液中1ml当たり133×10細胞の濃度まで精子を希釈した。次いで、得られた精子を含有する溶液を4℃まで冷却した。4℃まで冷却した後、溶液を等容量の二次希釈用エクステンダー溶液と混合した。
【0189】
次いで、精子を含有する溶液を、それぞれ1重量%及び1.5重量%のコハク酸無水物と共に授精ストローに移した。授精ストローを、ゲル形成のために4℃で保管した。
【0190】
ゲル化及びゲル強度及び精子の運動性の評価
ストローをゲルの形成について調べ、固定化された精子の生存率を4℃で3時間及び24時間保管した後に評価した。結果を表2に要約する。充填から3時間後、試験した両方のタイプのストロー内にゲルが形成された。ストロー内では、4℃で3時間~24時間のインキュベーションでゲル強度のわずかな変化のみが観察された。
【0191】
精子の運動性を、顕微鏡的判定を用いて評価した。運動性の測定前に、授精ストローの内容物をエッペンドルフチューブ内の0.9mlの改変IVT溶液に加え、チューブをおよそ10分間チューブタンブラー上で注意深く振盪することにより、アルギン酸ゲルを改変IVT溶液(3g/lのグルコース、20g/lのクエン酸ナトリウム、2.1g/lのNaHCO、1.16g/lのNaCl、3g/lのEDTA、pH7.35)中で液化した。運動性の顕微鏡的判定の前に、チューブを37℃のヒートブロックにおいて最低15分間予熱した。およそ3μlの溶液を予熱した顕微鏡スライドに添加し、光学顕微鏡を使用して直ちに検査した。各試料中の運動性精子の数を最近傍5%間隔と推定した。
【0192】
結果を表2に要約する。試験した全ストローを用いて、ストローを充填してから3時間後に評価すると、60%~70%の精子が運動性であった。24時間後に評価すると、およそ50%~60%の精子が試験したストローで運動性であった。
【0193】
【表2】
図1
図2