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特許7510360死滅したまたは不活化されたメタノブレビバクター古細菌(Methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物を調製するための方法およびそれによって得られる組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】死滅したまたは不活化されたメタノブレビバクター古細菌(Methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物を調製するための方法およびそれによって得られる組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20240626BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20240626BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240626BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240626BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240626BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20240626BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20240626BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61P29/00
A61P31/00
A61P1/04
A61K47/46
A61K9/20
A61P31/00 171
A61P43/00 171
A23L33/135
A23K10/16
A23K10/30
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020573267
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2019067236
(87)【国際公開番号】W WO2020002543
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】18180236.4
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523327385
【氏名又は名称】アルカイヤ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サザーランド、ダンカン - ブルース
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-509161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0180962(US,A1)
【文献】特開2005-110799(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0034198(US,A1)
【文献】特開2017-081838(JP,A)
【文献】Corinna BANG et al.,“The Intestinal Archaea Methanosphaera stadtmanae and Methanobrevibacter smithii Activate Human Dendritic Cells”,PLoS ONE,2014年06月10日,Vol. 9, No. 6,p.e99411,DOI: 10.1371/journal.pone.0099411
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/74
A61P 29/00
A61P 31/00
A61P 1/04
A61K 47/46
A61K 9/20
A61P 43/00
A23L 33/135
A23K 10/16
A23K 10/30
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの食品/錠剤および/または動物の飼料/錠剤に組み込むための、弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物を調製する方法であって、
a)メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を収集すること;
b)前記メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を、5~60秒間の低温殺菌、凍結処理、赤外線照射または空気乾燥技術によって弱毒化または死滅させること;
c)前記弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を凍結乾燥して、前記細胞を含む組成物を得ること
を含む、方法。
【請求項2】
前記弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞が、宿主パターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力を維持している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞組成物を、植物由来の担体または従来の担体に添加し、前記植物由来の担体が、スピルリナ、クローバ、アルファルファ、ムラサキウマゴヤシ、オート麦、小麦、微細藻類、大型藻類、大麦、トウモロコシ、大豆、米、穀物、草、果物、野菜、および/またはそれらの抽出物もしくは混合物の中から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記低温殺菌が、50℃~80℃の温度で5~60秒間実施され、前記赤外線照射が、750nm~1ミリメートルの波長で実施される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞がメタノブレビバクター・スミシイ(methanobrevibacter smithii)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
対象における腸内病原体感染に対する耐性を改善するためおよび/または腸の炎症を減少させるための、弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物であって、前記組成物が、前記組成物1グラム当たり少なくとも10個の弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項7】
前記弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞が、宿主パターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力を維持している、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
対象における腸内病原体感染に対する耐性を改善するためおよび/または腸の炎症を減少させるための、弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物であって、
前記弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞が、宿主パターン認識受容体システムを介した前記微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力を維持していることを特徴とする、組成物。
【請求項9】
前記対象が、それを必要とする動物またはヒト対象である、請求項6~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記動物が家畜である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記動物が鳥、哺乳動物または水生動物である、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、前記対象の1キログラム当たりおよび1日当たり、少なくとも10個の弱毒化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞の投与量で投与される、請求項6~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞が、メタノブレビバクター・スミシイ(methanobrevibacter smithii)である、請求項6~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
動物対象のワクチン接種治療と組み合わせた、請求項6~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記腸の炎症の軽減が、ヒトまたは動物対象における炎症性腸疾患(IBD)に対する感受性を低下させることを含む、請求項6~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記腸の炎症の軽減が、ヒトまたは動物対象における感染によって引き起こされる免疫病理および疾患の重症度を軽減することを含む、請求項6~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記腸内病原体感染に対する耐性が、ヒトまたは動物対象における自然免疫バリア機能を促進すること、および寄生虫感染に対する感受性を低下させることを含む、請求項6~14のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における腸内病原体感染に対する耐性を改善するため、および/または腸の炎症を軽減するために、食品/飼料/錠剤に高用量で組み込むための培養されたメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter archaea)を濃縮および不活化する方法に関する。動物対象のワクチン接種治療と組み合わせて、ヒトの炎症性腸疾患(IBD)に対する感受性を低下させる方法において、感染症によって引き起こされる免疫病理および疾患の重症度を軽減するための方法において、ならびに動物またはヒト対象において自然免疫バリア機能を促進し、寄生虫感染症に対する感受性を低下させるための方法において、使用するための組成物も開示される。
【背景技術】
【0002】
プロバイオティクスは、食事補助剤として摂取した場合、免疫系および代謝機能の改善を含む健康上の利益をレシピエントに与える生きた微生物である。消化と免疫学的健康状態を支持する微生物の密な共生群集は、脊椎動物の腸にコロニーを形成する。進化を通して、共生微生物はそれらの微小環境内に共局在することが公知であり、集合的に微生物叢と称され、例えば、反芻動物(例えばウシ)では、酵母、セルロース分解細菌および古細菌を含む、腸内の繊維消化を促進する微生物がルーメンに共局在する。飼料に添加された古細菌プロバイオティクスは、微生物叢の機能を支持することに優れている。
【0003】
例えば、国際公開第2016/147121 A1号(ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE)は、動物の飼料のプロバイオティクス補助剤として使用される古細菌、特にメタン生成古細菌(Archaebacteria)を含む、またはそれらからなる栄養補助食品を開示する。サプリメントは、標準的な飼料に加えて、または食品組成物として、例えば畜産動物に提供することができる。そのようなサプリメントは、水産養殖で特に有用であり、動物の成長率を高め、寄生虫感染に対する動物の感受性を低減し、および/または環境への動物の糞便廃棄物の影響を改善できることが証明されている。生物活性食品サプリメントを含む組成物を製造する方法およびその使用も包含される。
【0004】
メタノブレビバクター属(Methanobrevibacter)(Mbb)古細菌は、多くの草食脊椎動物にとって腸内細菌叢の重要な割合を構成する。健康なヒトでは、メタノブレビバクター・スミシイ(Methanobrevibacter smithii)が、大腸に存在する嫌気性微生物叢の約10%を占める。Mbbは、セルロース分解細菌によって生成された水素を代謝してメタンガスを生成し、セルロース消化微生物叢が繁殖するために必要な「水素シンク」を生成する。したがって、メタンを生成するMbbは、草食動物(特に反芻動物)の食餌代謝において重要な役割を果たす。
【0005】
共生腸内細菌叢が健康な宿主の免疫系によって寛容されることは十分に確立されている。共生微生物叢は腸の免疫恒常性を促進する。これは、炎症および病理を誘発する病原性微生物とは対照的である。
【0006】
Mbbは草食動物の腸内細菌叢の主成分であるため、Mbbと宿主の免疫系は、おそらく、免疫寛容と腸の恒常性を促進するような方法で進化を通して共適応している。国際公開第2016/147121 A1号は、以前にMbbの有益な免疫調節特性を明らかにした。したがって、プロバイオティクスまたは食品/飼料サプリメントとしてのMbbの使用は、免疫系の機能を改善することができる。
【0007】
欧州特許第2251 017 A1号(CEDARS SINAI MEDICAL CENTER)および米国特許第6,328,959 B1号(Kayar S.et al.)は、特定の状況でのメタン生成の利点を記載しており、特にメタン生成菌送達を使用したメタン生成について報告している。
【0008】
米国特許第2012/034198 A1号(Garner et al.)は、乾燥微生物の投与および保存のための方法および製剤を記載する。微生物の投与および保存のためのプレバイオティクス製剤を含む微生物ベースの製品が開示されている。これらのプレバイオティクス製剤は、動物またはヒトの対象への投与のために作用することができ、乾燥微生物を保存または貯蔵するように作用することができる。特に、周囲温度および37℃での保存中の凍結乾燥された乳酸菌を保護するための方法が記載されている。
【0009】
ラクトバチルス(Lactobacillus)種は、病原菌の増殖を阻害し、胃腸の免疫機能を高めることによって、ヒトの健康と福利および動物の健康と生産性を高めることができるため、プレバイオティクスとして広く使用されている。プロバイオティクス化合物は、プレバイオティクス細菌と一緒に投与することができ、好ましくはプレバイオティクス細菌によって代謝されるため、プレバイオティクス細菌による胃腸管のコロニー形成を刺激することができる。ラクトバチルス(Lactobacillus)種をプレバイオティクスとして使用するために、重要なプロセスは、例えば遠心分離および凍結乾燥または低温での保存による細菌の濃縮である。輸送、棚保管などを含むプレバイオティクスとしての実際の使用のためには、室温および37℃までの温度でのインキュベーション中、ならびにプロバイオティクスとしてのフラクトオリゴ糖および乾燥細菌を凍結するための流動剤としてのステアリン酸カルシウムを添加することによって、微生物が生存能力を維持することが重要である。著者らは、いくつかのラクトバチルス種を用いた実験で、これらの成分の添加が、高温でのインキュベーション中のこれらの細菌の生存能力を高めることを示した。ラクトバチルス(Lactobacillus)種は発酵性の中程度の嫌気性菌であるが、酸素に対する耐性が、無菌培養で少量の酸素に極めて感受性であるメタン生成菌よりもはるかに高いため、嫌気性チャンバおよびガス処理マニホールドのような特定の機器なしで取り扱うおよびプレートすることができる。したがって、標準的な条件を使用したメタン生成菌の凍結乾燥がメタン生成菌の保存方法として機能することは期待できない。5%グルコースおよび3mg/mlの硫化鉄を添加したウマ血清での凍結乾燥とそれに続く8℃または-70℃での保存は、メタノバクテリウム科(Methanobacteriaceae)の一部の種を保存する方法として報告されているが、メタノコッカス属(Methanococcus)およびメタノスピリルム属(Methanospirillum)では良好に機能しなかった(The Prokaryotes,Rosenberg et al.eds.2014,pp.123-163,Springer Verlag Berlin HeidelbergにおいてWhitman et al.によって総説されている)。
【0010】
米国特許第2016/074440 A1号(Brugere et al.)は、腸または膣などのヒトの体腔のレベルでトリメチルアミン(TMA)を治療、低減または排除するための薬剤として使用するための、TMAメチルトランスフェラーゼおよびTMAメチル基アクセプタコリノイドタンパク質を発現する微生物、好ましくは古細菌を含み、ヒトの体腔において水素の存在下でTMAを代謝することができる組成物を開示する。さらに、TMAメチルトランスフェラーゼおよびTMAメチル基アクセプタコリノイドタンパク質を含む組成物。これらの組成物は、トリメチルアミン尿症を治療するため、細菌性膣症の場合に膣液を治療するため、およびTMAによる臭気を低減または除去するために使用される。これらの組成物はまた、血漿TMAOのレベルを低下させるため、アテローム斑の形成を防止するため、および/または心血管疾患を予防するために有用である。特に、Brugere et al.は、生きているMbb古細菌(特にトリメチルアミン(TMA)を代謝できるTMAメチルトランスフェラーゼ)の代謝機能を利用して、膣症および治療のためにTMAを代謝する必要がある他の医学的状態を治療できることを示している。
【0011】
Corinna Bang et al.“The Intestinal Archaea Methanosphaera stadtmanae and Methanobrevibacter smithii Activate Human Dendritic Cells”PLOS ONE Vol.9,no 6,E99411,10 June 2014(XP055590654)は、生きている古細菌M.スタットマナエ(M.stadtmanae)およびM.スミシイ(M.smithii)が、ヒト樹状細胞におけるTNF-aおよびIL-1b分泌を刺激できることを示す(2×10 moDCの20時間刺激とそれに続くELISA検出法)。この試験の古細菌細胞は、不活化されていない生細胞である。この試験は、炎症反応を阻害するMbb古細菌細胞能力の実証していない。
【0012】
Mbbを生のプロバイオティクスまたは食品/飼料サプリメントとして使用することの潜在的な負の副作用は、メタンガスの過剰な生成である。胃腸管での過度の鼓腸またはメタンの蓄積は、動物またはヒト消費者にとって望ましい作用ではない。例えば、Uday C Ghoshal et al.“Slow Transit Constipation Associated with Excess Methane Production and Its Improvement Following Rifaximin Therapy:A Case Report”in J.Neurogastroenterol Motil.Published on 2011 Apr.27:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3093012/およびAttaluri A.et al.“Methanogenic flora is associated with altered colonic transit but not stool characteristics in constipation without IBS”Am.J.Gastroenterol.2010 June;105(6):1407-11:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19953090は、排便に関連する過剰なメタンの難点を強調している。
【0013】
農業の場合、メタンは地球温暖化の原因となる問題のある温室効果ガスである。したがって、免疫系の機能を支持するためにMbbを使用することの重要な難点は、望ましくない過剰なメタン生成である。
【0014】
動物の飼料中の組成物1グラム当たり10~10のプロバイオティクスサプリメントとして使用された場合の生きた腸古細菌は、成長速度を改善し、免疫系機能を改善することが示されている。
【0015】
古細菌のプロバイオティクスサプリメントの免疫刺激特性は用量反応性であるが、高微生物バイオマスの非効率的な培養は、飼料および食品への適用のための高用量の使用を制限する。食品および飼料産業のために腸内古細菌を富化するより効率的な手段は、依然として重要なイノベーションギャップである。第二に、加工食品/飼料中のプロバイオティクスの生存能力を確保することは、品質管理および認証プロセスに課題をもたらす。したがって、免疫刺激効力を高め、品質管理の容易さを改善する方法は、食品/飼料でのヒトおよび動物の消費のための古細菌ベースのサプリメントの主要な障壁のままである。
【0016】
レシピエントにおいてメタン副産物を増加させることなくMbbの免疫調節効果を可能にする技術的解決策が必要とされている。対象における腸内病原体感染に対する耐性または腸の炎症の減少などの免疫調節効力を高めることも望ましい。したがって、とりわけ、これらの技術的問題を克服することが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0017】
興味深いことに、出願人は、腸内古細菌の免疫調節特性が、腸内古細菌の生存能力に一意的に依存するわけではないことを観察した;その代わりに、出願人は、非生存メタノブレビバクター(methanobrevibacter)(Mbb)古細菌に存在する微生物関連分子パターン(MAMP)も、食品および飼料に組み込まれた場合に免疫原性であると認められることを観察した。腸内古細菌は厳密に嫌気性であり、酸素の存在下では成長しないが、いくつかの菌株は空気耐性であると報告されている。古細菌は、極限条件下で生き残ることを可能にする別個の細胞機能を適応させた。したがって、腸内メタノブレビバクター(methanobrevibacter)古細菌を不活化するために必要な治療条件は不明なままである。免疫原性MAMPを維持しながらメタノブレビバクター(methanobrevibacter)古細菌を不活化する方法は、食品/飼料でのヒトおよび動物の消費のための古細菌ベースのサプリメントを実現するために必要な品質管理を容易にする。さらに、先行技術では、Mbb古細菌の不活化閾値は検討されていないと考えられる。
【0018】
本明細書で、出願人は、MAMPを維持する方法で、空気、熱または赤外線照射曝露の組合せを使用して、得られた濃縮バイオマスを不活化する方法を説明する。濃縮された不活化古細菌製剤が飼料組成物1グラム当たり10~1012古細菌細胞に相当する比率で飼料に含まれる場合、実験動物は、食餌療法または感染によって誘発される免疫病理、疾患および死亡に対して有意により耐性であった。
【0019】
本発明の1つの目的は、ヒトの食品/錠剤および/または動物の飼料/錠剤に組み込むための、不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物を調製する方法を対象とし、この方法は、
a)メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞の液体懸濁液を収集すること;
b)前記液体懸濁液中の前記メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を不活化または死滅させること;
c)前記液体懸濁液を凍結乾燥して、不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞組成物を得ることであって、ここで、前記不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞は、宿主のパターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力の少なくとも80%を維持していること、
を含む。
【0020】
本発明の別の目的は、対象における腸内病原体感染に対する耐性を改善するためおよび/または腸の炎症を減少させるための方法において使用するための、本発明の方法に従って得られる不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物を提供することであり、前記不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞は、宿主のパターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力の少なくとも80%を維持しており、および前記組成物は、前記組成物1グラム当たり少なくとも10個の不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む。
【0021】
本発明のさらなる目的は、
-動物対象のワクチン接種治療と組み合わせて;
-ヒトの炎症性腸疾患(IBD)に対する感受性を低下させる方法において;
-感染症によって引き起こされる免疫病理および疾患の重症度を軽減するための方法において;
-ヒトまたは動物対象において自然免疫バリア機能を促進し、寄生虫感染に対する感受性を低下させるための方法において
使用するための、本発明の方法に従って得られる不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物を提供することであり、前記不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞は、宿主のパターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力の少なくとも80%を維持しており、および前記組成物は、前記組成物1グラム当たり少なくとも10個の不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む。
【0022】
本発明の他の目的および利点は、以下の例示的な図面および付随する特許請求の範囲を参照して進行する、次の詳細な説明の検討から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、M.スミシイ(M.Smithii)がマス上皮細胞においてLPSを介したIL-1b、TNF-α、NF-kBを阻害することを示す。各処理の3つの重複する生物学的複製物で測定された平均発現値と標準偏差が示されている。対照との統計的な有意な差((a)=陰性対照細胞培地との比較、(b)=陽性対照であるLPS 50mg/lとの比較、および(c)=LPS 50mg/l 6時間-L15/ex 6時間との比較)を、一元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くダネット検定(P<0.05)で決定した。試験項目A)は凍結不活化M.スミシイ(M.Smithii)古細菌抽出物を示し、B)は高温不活化M.スミシイ(M.Smithii)古細菌抽出物を示す。
図2図2は、細菌の細胞壁構造と比較した古細菌の細胞壁構造を示す。図中の参照は次の通りである:1.古細菌(M.スミシイ);2.古細菌脂質;3.細菌脂質;4.分岐イソプロペン鎖;5.非分岐脂肪酸;6.エーテル結合および7.エステル結合。
図3】LPSが誘導するNF-kB発現は、生きている不活化されたMbb古細菌抽出物によって阻害される。(A)紫外線照射処理、得られたMbb古細菌抽出物はLPS誘導NF-kB発現を阻害しない;(B)生細胞+ve対照、この試料はLPS誘導NF-kB発現を阻害する;(C)凍結処理、得られたMbb古細菌抽出物はLPS誘導NF-kB発現を阻害する;(D)72℃で15分の処理、得られたMbb古細菌抽出物はLPS誘導NF-kB発現を阻害しない;(E)80℃で1分の処理、得られたMbb古細菌抽出物はLPS誘導NF-kB発現を阻害する。
図4】エルシニア・ルッケリ(Yersinia ruckeri)に感染した魚の累積死亡率
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書に記載されているものと類似または等価の方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書中で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。本明細書で論じられる刊行物および出願は、本出願の出願日前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書中のいかなる内容も、本発明が先行発明によりそのような刊行物に先行する権利を与えられないことの承認として解釈されるべきではない。さらに、材料、方法、および例は例示にすぎず、限定することを意図するものではない。
【0025】
矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先される。
【0026】
特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本明細書の主題が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、本発明の理解を容易にするために以下の定義が提供される。
【0027】
「含む」という用語は、一般に含有するという意味で使用され、すなわち1つ以上の機能または成分の存在を許容する。
【0028】
本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの」および「その」は、文脈上明らかに異なる指示がない限り、複数の指示対象を含む。
【0029】
動物の摂食において、「繊維(fiberまたはfibre)」は、化学的または植物の解剖学的概念ではなく、栄養を定義するために使用される用語である。繊維は、「消化管の空間を占める、消化されにくく、緩やかに消化される、または不完全に利用可能な、飼料の画分」(Mertens,1989)であり、繊維を不溶性成分と定義している。栄養的には、繊維は、消化の機械的過程(咀嚼と通過)および発酵に関連する酵素分解に関連する物理的属性と化学的属性の両方を有する。
【0030】
ウシおよびヒツジなどの反芻動物は、茎葉飼料消費者として進化した。我々が繊維として測定する植物細胞壁は、動物によって消化されることはできず、微生物によって発酵されなければならない。繊維の発酵消化は緩やかで不完全であり、反芻動物は、効率的な消化をもたらす多くの属性を発達させてきた。反芻動物は、茎葉飼料の大きな粒子を飲み込み、発酵に十分な時間を与えるためにそれらをルーメン内に選択的に保持する。消化を促進し、消化管を通過できるようにするために、大きな粒子を逆流させ、噛み直す(反芻)。咀嚼中に、ルーメン内のpHを維持するのに役立つ唾液緩衝液を生成する。理想的には、粗飼料は、反芻動物の独特の消化能力を利用するための食餌の不可欠な部分であり得る。
【0031】
共生微生物群集を形成することにより、プロバイオティクスサプリメントとして提供されたときの繊維溶解性古細菌は、植物ベースの食事の消化を促進するのに役立ち得る。微生物群集は腸内の繊維にコロニーを形成する。セルロースを含む植物繊維を分解するこれらの微生物群集は、集合的に繊維分解性およびセルロース分解性微生物と称される。さらに、脊椎動物の免疫細胞(白血球)の大部分は腸に含まれるため、繊維にコロニーを形成する微生物およびその発酵副産物が免疫細胞を調節できることは公知である。
【0032】
「生物活性」という用語は、生体、組織/細胞に影響を及ぼす化合物を指す。栄養学の分野では、生物活性化合物は必須栄養素とは区別される。栄養素は身体の持続可能性に不可欠であるが、生物活性化合物または物質は、それらなしでも身体が適切に機能できるため、または栄養素が同じ機能を果たすため、必須ではない。生物活性化合物は健康に影響を及ぼし得る。
【0033】
「プレバイオティクス」は、有益な微生物(例えば細菌および真菌)の成長または活性を誘導する食品成分である。最も一般的な例は胃腸管内であり、プレバイオティクスは腸内細菌叢の生物の組成を変化させ得る。食事療法では、プレバイオティクスは、典型的には消化されないまま胃腸管の上部を通過し、大腸にコロニーを形成する有益な細菌の成長または活性を、それらの基質として働くことによって刺激する非消化性繊維化合物である。
【0034】
本明細書で使用される場合、「プロバイオティクス」という用語は、適切な量で投与された場合、宿主に健康上の利益を与える生きた微生物飼料サプリメントである。この概念は、腸内微生物が食物に依存することで、動物の体内の叢を改変し、有害な微生物を有用な微生物に置き換える手段を取ることが可能になると主張することによって、前世紀の前半に導入された。プロバイオティクスの一般的に主張されている利点には、潜在的に病原性の胃腸微生物の減少、胃腸の不快感の軽減、免疫系の強化、皮膚機能の改善、腸の規則性の改善、スギ花粉アレルゲンに対する耐性の強化、体内病原菌の減少、膨満と鼓腸の軽減、DNAの保護、酸化的損傷からのタンパク質と脂質の保護、および抗生物質治療を受けている対象の個々の腸内細菌叢の維持が含まれる。
【0035】
プロバイオティクスのより詳細な定義は、宿主に関連するまたは周囲の微生物群集を改変することによって、飼料の改善された使用を保証することによって、またはその栄養を増強することによって、疾患に対する宿主の応答を増強することによって、または周囲環境の質を改善することによって、宿主動物に有益な影響を及ぼす微生物に関する。この定義は水産養殖に関して特に適切である。実際に、腸が、水が限られた世界の湿った生息地である陸生環境とは対照的に、水生環境では宿主と微生物が生態系を共有する。したがって、水生動物の環境は陸生生物よりも微生物叢にはるかに大きな影響を及ぼし、水生媒質中の細菌は宿主の腸内細菌叢の組成に大きく影響する。水生動物は、宿主動物とは独立してそれらの病原体を支持する環境に取り囲まれているため、日和見病原体は魚の周囲に高密度で到達することができ、したがって一般に、飼料でまたは飲み込むことによって摂取される。さらに、母親からの固有のコロニー形成細菌を有する陸生生物とは対照的に、水生生物は主に無菌卵として生まれた。周囲の細菌は卵の表面にコロニーを形成し、若齢幼虫はしばしば発達した腸を有さず(例えばエビ)、および/または腸、鰓または皮膚に微生物群集を持たない。結果として、周囲の水中の細菌の特性は非常に重要であるため、周囲環境の改善は繁殖動物の健康にとって極めて重要である。
【0036】
ウシなどの反芻動物は、共生するルーメン微生物の豊かで多様な群集に依存して飼料を消化する。これらの共生生物は、宿主が消化できない飼料を、揮発性脂肪酸などの宿主が使用できる栄養源に発酵させることができる。ルーメン微生物は、多種多様な飼料成分を分解する、または他の微生物によって形成された生成物の一部をさらに代謝する、セルロース分解物、デンプン分解物、タンパク質分解物などの様々な機能群に割り当てることができる。
【0037】
本明細書で「繊維関連微生物叢」とも称される「繊維分解微生物叢」、特に「ルーメン微生物叢」は、セルロースを集合的に分解する細菌、原生動物、真菌および古細菌を含む嫌気性微生物の共生群集からなる。ルーメン微生物叢は、セルロース発酵から生じる水素副産物をメタンに代謝するメタノブレビバクター(methanobrevibacter)(Mbb)種を特徴とする。ルーメン微生物叢という用語は、反芻動物のルーメンから抽出された微生物叢および当業者によって実験室で調製された人工ルーメン微生物叢の両方を指す。
【0038】
より好ましくは、繊維分解微生物叢培養物またはプロバイオティクスは、本明細書でメタン生成古細菌(Archaebacteria)種とも称される古細菌(Archaebacteria)種から選択される少なくとも1つの集団を含む。
【0039】
本明細書で使用される「集団」という用語は、時間および空間によって定義される同じ種の個々の生物の群に関する。ただし、この用語は、群集、すなわち、いくつもの種を含み得る、特定の生態的地位に生息する生物の群も意味し得る。この文脈では、「集団」という用語は「混合集団」とも称される。
【0040】
本発明を実施するのに適した「メタン生成古細菌(methanogenic Archaebacteria)種」のリストは、メタノバクテリウム・ブライアンティイ(Methanobacterium bryantii)、メタノバクテリウム・フォルミカム(Methanobacterium formicum)、メタノブレビバクター・アルボリフィリクス(Methanobrevibacter arboriphilicus)、メタノブレビバクター・ゴットシャルキイ(Methanobrevibacter gottschalkii)、メタノブレビバクター・ルミナンチウム(Methanobrevibacter ruminantium)、メタノブレビバクター・スミシイ、(Methanobrevibacter smithii)、メタノコッカス・チュングシンゲンシス(Methanococcus chunghsingensis)、メタノコッカス・ブルトニイ(Methanococcus burtonii)、メタノコッカス・エオリクス(Methanococcus aeolicus)、メタノコッカス・デルタエ(Methanococcus deltae)、メタノコッカス・ヤンナシイ(Methanococcus jannaschii)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)、メタノコッカス・バンニエリ(Methanococcus vannielii)、メタノコーパスクラム・ラブレアナム(Methanocorpusculum labreanum)、メタノクレウス・ブルゲンシス(Methanoculleus bourgensis)、メタノクレウス・マリスニグリ(Methanoculleus marisnigri)、メタノフロレンス・ストーダレンミレンシス(Methanoflorens stordalenmirensis)、メタノフォリス・リミナタンス(Methanofollis liminatans)、メタノゲニウム・カリアシ(Methanogenium cariaci)、メタノゲニウム・フリギダム(Methanogenium frigidum)、メタノゲニウム・オルガノフィルム(Methanogenium organophilum)、メタノゲニウム・ウォルフェイ(Methanogenium wolfei)、メタノミクロビウム・モービレ(Methanomicrobium mobile)、メタノピルス・カンドレリ(Methanopyrus kandleri)、メタノレグラ・ブーネイ(Methanoregula boonei)、メタノサエタ・コンシリイ(Methanosaeta concilii)、メタノサエタ・サーモフィラ(Methanosaeta thermophila)、メタノサルキナ・アセチボランス(Methanosarcina acetivorans)、メタノサルキナ・バーケリ(Methanosarcina barkeri)、メタノサルキナ・マゼイ(Methanosarcina mazei)、メタノスファエラ・スタッドマナエ(Methanosphaera stadtmanae)、メタノスピリリウム・フンガテイ(Methanospirillium hungatei)、メタノサーモバクター・デフルビイ(Methanothermobacter defluvii)、メタノサーモバクター・サームオートトロフィカス(Methanothermobacter thermautotrophicus)、メタノサーモバクター・サーモフレクサス(Methanothermobacter thermoflexus)、メタノサーモバクター・ウォルフェイ(Methanothermobacter wolfei)およびメタノスリックス・ソーエンゲニイ(Methanothrix sochngenii)を含む。好ましい一実施形態では、古細菌(Archeabacteria)種はメタノブレビバクター(methanobrevibacter)(Mbb)である。さらにより好ましくは、本発明の組成物の活性薬剤として使用されるメタノブレビバクター(Methanobrevibacter)種は、メタノブレビバクター・スミシイ(Methanobrevibacter smithii)種である。
【0041】
メタン生成古細菌(Archaebacteria)種は、無酸素状態で代謝副産物としてメタンを生成する。メタン生成菌は、自然界に広く分布する厳密な嫌気性菌の多様な群であり、湛水土壌、堆積物、下水汚泥消化槽または特定の動物の消化管のような様々な恒久的無酸素生息地で見出すことができる。公知のメタン生成菌はすべて古細菌(Archaea)に属し、酸素に極めて感受性である。メタン生成菌の顕著な特徴は、C-1化合物(例えばCO、メタノール、ホルマート、またはN-メチル基)のメタン(CH)への還元である。メタン生成菌は、嫌気性環境において他の形態の嫌気性呼吸によって生成された過剰な水素および発酵生成物を除去する極めて重要な生態学的役割を果たす。メタン生成古細菌(Archaea)は、メタンの酸化からエネルギーを引き出す生物が存在する生態系でも極めて重要な役割を果たし、その多くはバクテリアであり、そのような環境ではメタンの主要な供給源であり、一次生産者としての役割を果たすことができる。メタン生成菌はまた、炭素循環に重要な役割を果たし、有機炭素を、主要な温室効果ガスでもあるメタンに分解する。
【0042】
メタン生成は、ヒトおよび他の動物、特に反芻動物の腸でも起こる。ルーメンでは、メタン生成菌を含む嫌気性生物がセルロースを動物が使用できる形態に消化する。これらの微生物が存在しなければ、ウシなどの動物は草を摂取することができないであろう。メタン生成の有用な生成物は腸によって吸収され、一方、メタンは動物によって放出される。
【0043】
脊椎動物の腸は、消化と宿主の免疫学的健康状態を支持する微生物の密な共生群集によってコロニー形成されている。進化を通して、共生微生物はそれらの微小環境内に共局在することが公知であり、例えば反芻動物(例えばウシ)では、酵母、セルロース分解細菌および古細菌を含む、腸内の繊維消化を促進する微生物が、個々の草の繊維ストランドに付着し、共局在する。
【0044】
「病原体関連分子パターン」またはPAMPは、自然免疫系の細胞によって認識される病原体の群に関連する分子である。これらの分子は、微生物のクラス内で保存された小分子モチーフと称することができる。それらは、植物および動物の両方においてトール様受容体(TLR)および他のパターン認識受容体(PRR)によって認識される。グリカンおよび複合糖質を含む多種多様な異なる種類の分子がPAMPとして機能することができる。PAMPは、いくつかの保存された非自己分子を同定することによって自然免疫応答を活性化し、感染から宿主を保護する。
【0045】
グラム陰性菌の細胞膜上に見出される内毒素である細菌リポ多糖(LPS)は、PAMPの原型クラスであると考えられている。LPSは、自然免疫系の認識受容体であるTLR4によって特異的に認識される。他のPAMPには、細菌フラジェリン(TLR5によって認識される)、グラム陽性菌由来のリポテイコ酸、ペプチドグリカン、および通常はウイルスに関連する核酸変異体、例えばTLR3によって認識される二本鎖RNA(dsRNA)またはTLR9によって認識される非メチル化CpGモチーフが含まれる。「PAMP」という用語は比較的新しいが、微生物に由来する分子は多細胞生物から受容体によって検出されるに違いないという概念は何十年もの間保持されており、「内毒素受容体」への言及は多くの古い文献に見出される。
【0046】
「PAMP」という用語は、病原体だけでなく、ほとんどの微生物が検出された分子を発現するという理由で批判されてきた;そのため、「微生物関連分子パターン」(MAMP)という用語が提案されている。MAMPと組み合わせて、病原体受容体に結合することができるビルレンスシグナルが、(病原体特異的)PAMPを構成する1つの方法として提案されている。MAMPは微生物にとって不可欠な構造であり、その理由で保存されている。MAMPには、リポ多糖(LPS)細胞膜、フラジェリン、ベータグリカン、ペプチドグリカン、キチンなどが含まれるが、これらに限定されない。MAMPは、パターン認識受容体(PRR)によって認識される。
【0047】
本発明の1つの目的は、ヒトの食品/錠剤および/または動物の飼料/錠剤に組み込むための、不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物を調製する方法を提供することであり、この方法は、
a)メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞の液体懸濁液を収集すること;
b)前記液体懸濁液中の前記メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を不活化または死滅させること;
c)前記液体懸濁液を凍結乾燥して、不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞組成物を得ることであって、ここで、前記不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞は、宿主のパターン認識受容体(PRR)システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力の少なくとも80%を維持していること、
を含む。
【0048】
例4で証明されるように、本発明の方法に従って不活化されたMbbは、NF-kBレポータシステムを調節できることが証明され、生物活性MAMPが不活化処理後に保存されたことを示す。
【0049】
Trine H.Mogensen“Pathogen Recognition and Inflammatory Signalling in Innate Immune Defenses”Clin Microbiol Rev.2009 Apr;22(2):240-273:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2668232/には、PRRおよびNF-Kb誘導性遺伝子の説明を含む、パターン認識に関する一般的な総説がある。この論文はまた、治療法におけるTLRアンタゴニストの利点(不活化メタノブレビバクター(methanobrevibacter)古細菌抽出物を用いて例4で行われたLPS誘発炎症を有効に阻害することによる)も記載している。
【0050】
試料の段階希釈およびMAMP(例えばLPS)を制御するための比較分析は、MAMPシグナル伝達の可能性および宿主PRRシステムとの相互作用の効力を定量化する方法である。Corinna Bang et al.“The Intestinal Archaea Methanosphaera stadtmanae and Methanobrevibacter smithii Activate Human Dendritic Cells”PLOS ONE Vol.9,no 6,E99411,10 June 2014(XP055590654)https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0099411では、100万個の古細菌細胞が200,000個の樹状細胞からのシグナルをトリガすることができた。これらは、不活化されたメタノブレビバクター(methanobrevibacter)古細菌細胞ではなく、段階希釈が行われた。これは、インビトロで200,000個の細胞を刺激するための1マイクログラムの古細菌に相当する。
【0051】
当業者には明らかなように、MAMPの最小値の量は相対的である。同族受容体(TLR-4)が定義されているLPSなどの精製MAMPは、特定の細胞株でのシグナル活性化に必要な用量閾値(mg/L)を確立することができる。これは、他のMAMPの参照値および対照としての役割を果たすことができる。
【0052】
古細菌抽出物はMAMPの組合せ(タンパク質、細胞壁断片、グリコシル化分子)を含み、市販のLPSなどの精製産物ではないため、本発明は、インビトロモデルでNF-kBシグナル伝達を調節するために必要な最小用量を指す。他の細胞株では、検出可能なシグナル伝達をトリガするために必要なMAMPの最小量はより少ない可能性がある。刺激も、より長期間にわたって実施することができ、その後、検出可能なシグナルをトリガするために必要なMAMPの最小用量が減少する。
【0053】
したがって、検出可能なシグナルのためのMAMPの相対的最小量は、所与の細胞株におけるそのMAMP(またはMAMPの組合せ)の同族PRR、レポータ細胞の種類、および刺激の持続時間に依存する。
【0054】
本発明の文脈において、最小用量または量は、インビトロ細胞アッセイにおける生物学的シグナルの検出のための、200,000個の標的細胞当たり10mg/Lまたは1マイクログラムの不活化メタノブレビバクター(methanobrevibacter)古細菌MAMP生成物である。
【0055】
好ましくは、前記不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞は、宿主のパターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力の90%、理想的には95%、より好ましくは99%、最も好ましくは100%までを維持している。
【0056】
好ましくは、宿主のパターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力の維持は、NF-kBレポータ経路によって測定される。NF-kBは、パターン認識受容体(PRR)の下流にシグナル伝達する転写因子である。NF-kBの転写調節を測定することは、上流のパターン認識受容体の相互作用を決定する方法である。
【0057】
NF-kBは、炎症反応の包括的な主要調節因子である。NF-kBに依存しない経路が存在するが、NF-kBレポータモデルは、パターン認識シグナル伝達能力を決定するための優れた方法である。
【0058】
パターン認識受容体(PRR)は、動物とヒトの自然免疫系において重要な役割を果たす。パターン認識受容体は、病原体に特有の分子を検出する生殖細胞系列にコードされたホストセンサである。それらは、微生物関連分子パターン(MAMP)とも称される病原体関連分子パターン(PAMP)を同定するために、上皮細胞などの自然免疫系の細胞によって発現されるタンパク質である。
【0059】
リポ多糖(LPS)は、グラム陰性菌の外膜の主成分である。LPSは、宿主のパターン認識受容体を活性化することによって強力な炎症性免疫応答を誘発することができる、重要な種類のMAMPである。哺乳動物では、パターン認識受容体TLR4がLPSを認識し、炎症反応を誘発することができる。魚では、パターン認識受容体NOD1がLPSを識別し、NF-κBシグナル伝達経路を活性化することができる。
【0060】
NF-κB(活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサ)は、DNAの転写とサイトカイン産生を調節するタンパク質複合体である。NF-κBは、感染に対する免疫応答の調節に重要な役割を果たす。NF-κBの誤った調節は、癌、炎症性疾患および自己免疫疾患に関連している。
【0061】
細胞表面受容体の刺激を介して細菌のMAMPは、NF-κBの活性化および遺伝子発現の急速な変化をもたらす。例えば、Toll様受容体は、NF-κBの活性化をもたらすパターン認識分子である(グラム陰性菌のLPS成分の受容体としてのTLR4)。インビトロ細胞培養物におけるNF-kBのRNA発現レベルは、様々な種類のMAMPによる細胞表面のパターン認識受容体の活性化についての有効なレポータシステムを提供する。
【0062】
宿主のパターン認識受容体(PRR)システムを介したMAMPのシグナル伝達能力とは、所与の生成物(例えば古細菌抽出物からの細胞壁)由来のMAMPがPRRと相互作用し、それによってその後の下流シグナルカスケード(例えばNF-kB経路、NF-kB遺伝子転写の調節)に変化を及ぼす能力を指す。宿主のパターン認識受容体システムを介したMAMPのシグナル伝達能力が維持されている場合にのみ、シグナル伝達および下流の遺伝子転写(例えばNf-kB)の調節が調整され得る。
【0063】
好ましい実施形態では、得られた本発明の不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞組成物を、植物由来の担体または従来の担体、好ましくは生体適合性担体に添加する。
【0064】
不活化古細菌はまた、典型的な凍結乾燥担体材料などの凍結乾燥で日常的に使用されるような、スクロース、糖またはデンプンベースの担体などの従来の担体と組み合わせて使用することができる。
【0065】
「担体材料」とは、不活化古細菌に固体マトリックス支持体を提供する、剤形賦形剤を意味する。不活化メタノブレビバクター(methanobrevibacter)古細菌は、担体材料のマトリックス内に組み込まれる。本発明の担体材料はゼラチンを含み得る。適切なゼラチンの例には、プレーンゼラチンおよび、例えばゼラチンを水中で加熱することによって部分的に加水分解されているゼラチンが含まれる。例えば、多糖類、プレーンゼラチン、および加水分解ゼラチン。他の適切な担体材料の例は、不活性であり、食品/飼料/飲料での使用のためまたは医薬剤形を調製するために薬学的に許容されるものである。そのような担体材料は、デキストランおよびポリペプチドなどの多糖類を含む。
【0066】
好ましくは、植物担体はプレバイオティクスである。より好ましくは、植物由来の担体は、スピルリナ、クローバ、アルファルファ、ムラサキウマゴヤシ、オート麦、小麦、微細藻類、大型藻類、大麦、トウモロコシ、大豆、米(穀物、草、藻類など、果物、野菜;セルロース、糖、炭水化物もしくは葉緑素を含む材料)および/またはそれらの抽出物もしくは混合物の中から選択される。
【0067】
あるいは、植物由来の担体は繊維である。
【0068】
細胞壁の構造が古細菌と細菌を区別する決定的な特徴であることは公知である。古細菌の脂質細胞壁は、エーテル結合によって結合された分岐イソプレン鎖で形成されている。これは、エステル結合によって結合された非分岐脂肪酸で形成される細菌の脂質細胞壁とは対照的である。この異なる細胞壁の生化学が、古細菌が極限環境で生活することを可能にしている。古細菌ドメインは、「極限環境」微生物を進化させてきた。例えば、好熱菌メタノブレビバクター(Methanobrevibacter)種は、100℃を超える温度で繁殖することが公知である。極限条件へのそのような適応は、部分的には細胞膜構造によるが、熱ショックタンパク質を含む分子シャペロンにも起因する。草食哺乳動物の大腸にコロニーを形成するように進化したM.スミシイ(M.smithii)の特定の構造的および機能的特徴は、好熱菌と同じように保存されていると考えられる(例えば細胞膜構造)。
【0069】
DNA抽出手順中に、メタノブレビバクター・スミシイ(Methanobrevacter smithii)種は、DNAを分離するためにより厳しい細胞破壊手順を必要とすることが観察された。この所見は、より堅固な細胞壁構造を有する古細菌と一致する。
【0070】
したがって、本発明による組成物のメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を不活化または死滅させる方法は、微生物関連分子分子パターン(MAMP)の少なくとも80%を保存できることが不可欠である。
【0071】
したがって、メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を、MAMPの役割を通してその免疫学的活性および機能を維持しながら、有効に不活化または死滅させる方法を提供することが本発明の目的である。
【0072】
本発明の文脈において、「不活化、不活化された、または不活化する」という用語は、細胞を死滅させる方法を指し、それにより、処理後のこの細胞は完全に死滅している。
【0073】
凍結乾燥は、メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞の100%の不活化または死滅を可能にする好都合な技術ではなく、したがって、この技術は本発明の方法の不活化工程b)では使用されない。
【0074】
本発明の別の実施形態によれば、もはや複製することができず、いかなる代謝活性も有さない不活化細胞として本明細書で定義される「弱毒化メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞」もまた、本発明の方法で使用され得る(すなわち例4 §3.2参照)。
【0075】
不活化工程b)がメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞の液体懸濁液に対して行われること(湿式工程)は本発明の重要な特徴であり、さもなければ不活化(細胞の死滅)は満足のいくものとならない。しかしながら、生細胞と非生細胞の組合せが好ましい場合は、動物飼料押出(蒸気および機械的圧力を組み合わせた乾燥細胞の十分な高温曝露)などの工業的プロセスを使用して、乾燥Mbbを不活化し得る。後者の場合、生細胞と死細胞の望ましい比率が得られるように押出機の操作条件を最適化すべきである。
【0076】
メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を懸濁するための当業者に公知の任意の好都合な液体を使用することができる。MBBを懸濁するための好都合な液体の例は、PBS、生理食塩水、水、スクロース溶液、増殖培地、ルーメン液、アセタート、揮発性脂肪酸溶液などの中から選択される。
【0077】
本発明の一実施形態では、メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞の不活化プロセスは、低温殺菌、凍結処理、紫外線もしくは赤外線照射、または空気乾燥技術によって実施される。好ましくは、メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞は、極低温化を介するか、または短い熱パルス処理で構成される低温殺菌によって不活化される。
【0078】
「極低温化」または「凍結処理」または「凍結不活化」は、古細菌細胞を不活化するために凍結融解サイクルを繰り返すプロセスである。古細菌細胞を凍結不活化する方法を例2に示す。
【0079】
本発明では、凍結不活化は、通常、-210℃~-20℃の範囲で少なくとも5秒間の凍結サイクル、続いて0℃~37℃の範囲で少なくとも5秒間の解凍サイクルで実施される。凍結融解サイクルは少なくとも2回実施される。
【0080】
例えば、液体窒素凍結保存の場合、温度範囲は、好ましくは-196℃~-210℃に含まれるであろう。
【0081】
「空気乾燥技術」は、古細菌細胞を不活化するための曝気のプロセスを含む。空気乾燥によって古細菌細胞を不活化する方法を例3に示す。
【0082】
一実施形態では、好ましくは短い熱パルス処理で構成される低温殺菌は、55℃~80℃の温度で少なくとも5~60秒間以上実施される。
【0083】
好ましくは、低温殺菌は少なくとも20秒間実施される。
【0084】
別の実施形態では、紫外線照射は、10~400ナノメートルの波長で実施される。
【0085】
紫外(UV)光は、可視光線よりも高い周波数(より短い波長)を有する光である。UV光は、8*1014~3*1016Hz(800THz~30PHz)の範囲の周波数、および10-8mから3.8*10-7m(10nm~380nm)の波長を有する。
【0086】
さらに別の実施形態では、赤外線照射は、750nm~1ミリメートルの波長で実施される。
【0087】
赤外光の波長は1ミリメートル~750ナノメートルであり、紫外光の波長は400ナノメートル~10ナノメートルである。赤外線は、700ナノメートル(nm)の可視スペクトルの名目上の赤色の端から1ミリメートル(mm)に及ぶ。この波長範囲は、約430THz~300GHzの周波数範囲に対応する。
【0088】
やはり当業者には明らかなように、メタノブレビバクター(methanobrevibacter)種などの少なくとも1つの古細菌(Archaebacteria)の集団は、単離された古細菌(Archaebacteria)株(その凍結乾燥形態を含む)の商業的な購入、ペレット化工程を伴うまたは伴わない適切な培養ブロス(例えばLeibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures GmbHのメタノスフェラ(Methanosphaera)培地Iまたはメタノバクテリウム(Methanobacterium)培地など)での古細菌(Archaebacteria)の培養などの任意の公知の方法で得ることができる。
【0089】
ルーメン抽出物は、完全な培養条件(ウシのルーメン中の嫌気性条件)下で微生物(特にメタン生成古細菌(Archaea)に栄養を与える栄養素を含むため、古細菌(Archaebacteria)のための完全な培地補助剤である。日常的な実験手順を通して、1日に1頭のウシから大量のルーメン抽出物を抽出することができる;これはおそらく滅菌することができ(例えば酸素および/または極端な温度への曝露を介して)、そこから得られるルーメン液を、嫌気性の制御された実験室条件下で古細菌(Archaebacteria)を培養するための基礎として使用することができる。
【0090】
好ましくは、本発明による組成物の不活化古細菌(Archaebacteria)細胞は、メタノブレビバクター・スミシイ(methanobrevibacter smithii)である。
【0091】
対象における腸内病原体感染に対する耐性を改善するためおよび/または腸の炎症を減少させるための方法において使用するための、本発明の方法に従って得られた不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む組成物を提供することが本発明の別の目的であり、前記不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞は、宿主のパターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力の少なくとも80%を維持しており、および前記組成物は、前記組成物1グラム当たり少なくとも10個の不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を含む。
【0092】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、前記組成物1グラム当たり10個、好ましくは1010個、より好ましくは1011個、さらにより好ましくは1012個の不活化メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacterial)細胞を含む。
【0093】
好ましくは、前記不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞は、宿主のパターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力の90%、理想的には95%、より好ましくは99%、最も好ましくは100%までを維持している。
【0094】
好ましくは、宿主のパターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力の維持は、NF-kBレポータ経路によって測定される。
【0095】
本発明によれば、対象は、それを必要とする動物またはヒト対象である。
【0096】
好ましくは、動物は、鳥、哺乳動物または水生動物である。
【0097】
好ましくは、対象は家畜である。本発明の他の実施形態では、対象はヒトである。
【0098】
本発明の好ましい実施形態では、本発明で言及される家畜は、鳥、哺乳動物または水生動物(エビ、甲殻類もしくは魚など)である。
【0099】
しかしながら、本発明はこの用途に限定されない。本発明の組成物は、ペット、捕獲動物またはヒトにも投与され得る。
【0100】
したがって、特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、例えば栄養補助食品または錠剤などのヒトの食品において使用するためのものである。
【0101】
「錠剤」は、圧縮された固体物質の小さな円盤または円筒であり、本出願の文脈では、典型的にはそれを必要とする対象に経口投与される測定された量の不活化メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞である。
【0102】
好ましい実施形態では、本発明に従って使用するための組成物は、前記対象の1キログラム当たりおよび1日当たり、少なくとも10個の不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞の投与量で投与される。好ましくは、組成物は、少なくとも1010個の不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞の投与量で、より好ましくは、前記対象の1キログラム当たりおよび1日当たり少なくとも2.1010個またはさらにそれ以上の不活化または死滅したメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞の投与量で投与される。
【0103】
特に、本発明による不活化メタノブレビバクター(methanobrevibacter)古細菌を含む組成物は、食物アレルギー/非感受性(グルテン、ラクトースなど)によって引き起こされる腸の炎症を軽減するために使用することができる。
【0104】
メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacterial)細胞を不活化することの利点は、生細胞で可能であるよりも多くのメタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞を、例えば食品/飼料/錠剤/飲料/坐剤に組み込む可能性をもたらす。これは、結果として、腸内病原体感染に対する耐性のより良い改善、および/または不活化メタノブレビバクター古細菌(methanobrevibacter Archaebacteria)細胞にも存在する微生物関連分子パターン(MAMP)の作用と活性を介して対象における腸の炎症を軽減するための改善をもたらす。
【0105】
一実施形態では、本発明の組成物は、動物対象のワクチン接種治療と組み合わせて使用することができる。
【0106】
動物は、疾患を予防するためにワクチンを接種される。動物にワクチンを接種することは、動物の苦痛を軽減し、動物集団における微生物の伝染を減らし、しばしば疾患動物の治療に支払うよりも手頃な費用である。ペットは、狂犬病、パルボウイルス、ジステンパーおよび肝炎などの感染症のワクチンを接種される。
【0107】
シチメンチョウ、ニワトリ、ウシおよびブタなどの家畜は、ロタウイルス、大腸菌(E.coli)、伝染性角結膜炎およびブルセラ症のような疾患から保護するためにワクチン接種を受ける。ワクチン接種は、個々の動物、集団および群れ、ならびに人々を健康に保つ。動物用ワクチンは、動物用生物学的製剤として公知の動物用医薬品のカテゴリーの一部であり、主に動物の免疫系を刺激して疾患を予防または治療することによって機能する。本発明の組成物と組み合わせたワクチン接種治療は、ワクチン接種の副作用を低減し、免疫を回復するのに役立つ。
【0108】
本発明の別の実施形態によれば、本発明の組成物は、腸の炎症の軽減に使用され、これは、ヒトまたは動物対象における炎症性腸疾患(IBD)に対する感受性を低下させることを含む。
【0109】
「炎症性腸疾患」(IBD)は、消化管の慢性炎症を伴う障害を表すために使用される包括的な用語である。これは複雑な疾患であり、食事に対する過敏症を含む様々な原因があり得る。炎症性腸疾患(IBD)は、結腸と小腸の炎症状態の群である。クローン病および潰瘍性大腸炎は、炎症性腸疾患の主要な種類である。クローン病は小腸と大腸に影響を及ぼすだけでなく、口、食道、胃および肛門にも影響を与える可能性があるのに対し、潰瘍性大腸炎は主に結腸と直腸に影響を及ぼすことに留意することが重要である。
【0110】
特に、本発明による不活化メタノブレビバクター(methanobrevibacter)古細菌を含む組成物は、食物アレルギー/非感受性(グルテン、ラクトースなど)によって引き起こされる腸の炎症を軽減するために使用することができる。
【0111】
さらに、本発明による不活化メタノブレビバクター(methanobrevibacter)古細菌を含む組成物は、ガスを発生させることなく免疫系を調節するための坐剤として(および結腸浣腸などのために)使用することができる。
【0112】
別の実施形態によれば、本発明の組成物は、ヒトまたは動物対象における感染によって引き起こされる免疫病理および疾患の重症度を軽減することを含む、腸の炎症を軽減するための方法において使用される。
【0113】
「免疫病理」は、炎症および宿主組織への損傷を引き起こす過剰なまたは過敏な免疫応答に起因する。例としては、サイトカイン放出症候群、好酸球増加症、好中球増加症、1~4型過敏症(アレルギー反応など)が含まれる。
【0114】
免疫病理は、自己免疫(宿主の微生物叢、宿主の食事抗原、宿主の分子を標的とする宿主免疫応答)の結果であり得る。炎症性腸疾患(IBD)は免疫病理の一例である。
【0115】
免疫病理は、高等脊椎動物と低等脊椎動物で発生し得るが、例えば哺乳動物の免疫系は硬骨魚の免疫系よりも高度に進化しているため、その機序は異なり得る。IBDの症状は、ヒトだけでなく下等脊椎動物でも起こり得る。例えば、サケは、それらがうまく適応していない植物の豊富な食餌を与えられた場合、多くのIBD症状(炎症性サイトカイン、腸の腫脹など)を発症する。2015年には、米国の成人の推定1.3%がIBDと診断されたと報告した(https://www.cdc.gov/ibd/data-statistics.htm)。
【0116】
「感染によって引き起こされる疾患の重症度」とは、体重減少、上皮病変、腫脹、組織中の病原体負荷、線維症、糞便の柔らかさ、行動(嗜眠、姿勢、食欲)、血清中の免疫マーカ(炎症性サイトカインなど...)を含む症状のレベル/程度を指す。感染によって引き起こされる疾患の重症度は、生存率も指す。
【0117】
別の実施形態によれば、本発明の組成物は、自然免疫バリア機能を促進し、ヒトまたは動物対象における寄生虫感染に対する感受性を低下させるための方法において使用される。
【0118】
「自然免疫バリア」は、病原性微生物による侵入を回避し、病原体を封じ込め、それらの拡散を防ぐための複数の成分/層を含む。上皮表面(例えば腸を裏打ちする)は機械的バリアを提供する。粘液層(抗菌ペプチド、ムチン、ディフェンシンおよび免疫グロブリンを含む)は、病原体の侵入を阻止する生化学的バリアを提供する。固有層に存在する先天性白血球(マクロファージ、樹状細胞、顆粒球などを含む)は、免疫活性化分子(サイトカイン)を感知し、分泌する免疫系の歩哨である。先天性白血球はまた、侵入する微生物を捕獲して中和する機構を有する。まとめると、多層の自然免疫バリアは、感染から宿主を保護する上で重要な役割を果たす。
【0119】
対象の免疫学的健康状態の改善などの、本発明による組成物を使用するための非治療的適応症も包含される。
【0120】
「免疫」とは、免疫されている質または状態、特に、中でも病原性微生物の発生を防ぐことによって、またはその生成物の作用に対抗することによって、特定の疾患に抵抗することができる状態である。
【0121】
「健康状態」という用語は、全身の健康状態(健康および福利の状態)を指す。身体的健康状態とは、心臓、血管、肺、腸および筋肉が最適な効率で働くように機能することであり、したがって、身体が効率的に機能する能力として定義される。
【0122】
「免疫学的健康状態」を改善するとは、
-感染に抵抗する、
-共生微生物を許容/育成する、
-自然免疫系を調節する、
-パターン認識シグナル伝達を調節する、
-適切なサイトカインネットワークを調節する、
-白血球の分布を調節する、
-粘膜免疫グロブリン分泌を調節する、
-粘液の質を調節する、
-創傷修復システムを調節し、宿主組織の完全性を維持する(「ハウスキーピング」機能)
ための非治療的方法を意味する。
【0123】
本発明の文脈において、免疫系の機能の改善は、腸の恒常性の調節、炎症バランスの調節、免疫遺伝子の活性化および/または免疫認識を含む。
【0124】
本発明に従って、「腸の恒常性」という用語は、腸の免疫系が共生微生物叢を許容し、育成するときの相利共生の状態を指す。腸内免疫系は、共生微生物叢と共に、「ディスバイオシス(dysbiosis)」とも呼ばれる微生物の日和見的過剰増殖を防止する。ディスバイオシスは、微生物叢の組成が乱される場合に起こる。ディスバイオシスは、免疫系を活性化して炎症因子(例えばサイトカイン:IFN-g、TNF-aなど)を産生することができる。これは、腸の正常な(または通常の)機能を妨げる(したがって腸の恒常性が妨げられる)可能性がある。
【0125】
「炎症バランス」とは、細胞および分子の炎症ネットワークの調節を指す。炎症の主な機能は、病原体を排除することである。炎症は感染に抵抗するために重要であるが、宿主組織に損傷を引き起こし得る。したがって、免疫病理を最小限に抑えながら病原体の適切な排除を確保するために、炎症は十分に調節/バランスがとられなければならない。いくつかの場合には、十分に調節されない炎症は、病原体自体によって引き起こされる損傷よりも宿主に対して有害であり得る。
【0126】
「免疫遺伝子の活性化および/または免疫認識」は、微生物パターンの微小環境を感知し、最も一般的にはサイトカイン(免疫系のホルモン型分子)を産生することによって免疫系を制御するシグナル伝達カスケードを調節する受容体を含むパターン認識システムを指す。免疫遺伝子は、白血球(WBC)の増殖、分布および活性化状態を調節する。病原体関連分子パターン(PAMP)は、炎症を誘発することが公知である。共生微生物叢の微生物関連分子パターン(MAMP)は、炎症を軽減し、代わりに腸内の耐性状態を促進することが公知である。適切な免疫認識とそれに続く適切な免疫遺伝子の活性化は、適切な免疫系機能に不可欠である。
【0127】
さらに、米国特許出願第2016/074440 A1号(Brugere et al.)などの先行技術のいずれも、不活化(死滅)したMbb古細菌(活性なTMAメチルトランスフェラーゼを欠く)の適用を実証していないと考えられる。さらに、Brugere et al.は、不活化Mbb古細菌によって誘導されるパターン認識受容体シグナル伝達を検討していない。
【0128】
当業者は、本明細書に記載されている本発明が、具体的に記載されているもの以外の変形および修正を受け入れる余地があることを理解するであろう。本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱することなくそのようなすべての変形および修正を含むことが理解されるべきである。本発明はまた、個別にまたは集合的に、本明細書で参照または指示されるすべての方法、特徴、組成物および化合物、ならびに前記方法または特徴の任意の2つ以上のありとあらゆる組合せを含む。したがって、本開示は、すべての態様において例示的であり、限定的ではないと見なされるべきであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって示され、同等の意味および範囲内に含まれるすべての変更は、その中に包含されることが意図されている。
【0129】
本明細書全体を通して様々な参考文献が引用されており、それらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0130】
前述の説明は、以下の例を参照してより十分に理解されるであろう。しかしながら、そのような例は、本発明を実施する方法の例示であり、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0131】

例1:
不活化されたM.スミシイ(M.Smithii)古細菌抽出物は腸の炎症を抑制する
1.緒言
上皮細胞は、脊椎動物の腸における重要な免疫メディエータおよび機能的バリアである。
【0132】
細菌の細胞膜に由来するLPSは、プロトタイプの炎症試薬である。
【0133】
IL-1bおよびTNF-aはどちらも、上皮細胞のLPS刺激によって誘発される炎症性サイトカインマーカである。NF-kBは、炎症性サイトカインの主要な調節因子である。
【0134】
目的:
この試験では、不活化M.スミシイ(M.Smithii)の免疫調節作用を、LPSで活性化したマス上皮細胞にM.スミシイ(M.Smithii)を曝露し、IL-1b、TNF-aおよびNF-kBのRNA発現レベルを決定することによって評価した。
【0135】
2.材料および方法
2.1 細胞
24ウェルプレートおよび6ウェルプレート中の68継代のRTgutGC(ニジマス(Oncorhynchus mykiss)の腸)細胞株の細胞。濃度ごとに、3つの複製ウェルに、それぞれ24ウェルおよび6ウェルごとに2mlおよび8mlの曝露溶液を添加した。試験は19±1℃で実施した。
【0136】
2.2 マーカ遺伝子
【表1】
【0137】
2.3 RNAの単離/cDNAの合成
Qiagen RNeasy Plus MiniKitを使用して、RTGutGC細胞から全RNAを抽出した。
【0138】
ゲノム:
DNA汚染物質を、gDNA Eliminatorスピンカラム(Qiagen)を使用して除去した。NanoDrop分光光度計(PEQLAB Biotechnologie GMBH)を使用してRNAの量と質を決定した。高容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems)を使用して全RNAからcDNAを合成した。
【0139】
2.4 マーカ遺伝子のmRNA発現の定量化
選択したすべてのマーカ遺伝子のmRNA発現レベルを、GoTaq(登録商標)qPCR Master Mix(Promega)を使用して分析した。すべての試料を、LightCycler480(Roche)を使用して、白色384ウェルプレート(Roche)で3回重複して分析した。転写レベルを、独立したRNA単離からの試料のcDNAで測定した。qPCRの結果を、様々なPCR増幅効率を考慮に入れたQ-Gene Core Module(http://www.qgene.org/)の正規化手順に従って、ハウスキーピング遺伝子EF1aと比較して計算した。
【0140】
2.5 遺伝子発現解析試験項目AおよびBの結果:
図1a、1b、1c:遺伝子発現の結果。
【0141】
各処理の3つの重複する生物学的複製物で測定された平均発現値と標準偏差が示されている。
【0142】
対照との統計的な有意な差(a=陰性対照細胞培地との比較、b=陽性対照であるLPS 50mg/lとの比較、およびc=LPS 50mg/l 6時間-L15/ex 6時間との比較)を、一元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くダネット検定(P<0.05)で決定した。
【0143】
結果:
標準的な炎症性試薬であるLPS 50mg/Lにマスの上皮細胞を6時間曝露すると、L15/ex培地対照と比較して、炎症マーカ遺伝子NF-kB、IL-1bおよびTNFαの遺伝子発現が大幅に増加した。LPSを除去し、100mg/Lの試験項目A(凍結不活化M.スミシイ(M.smithii)古細菌抽出物)に置き換えると、L15/ex培地対照に置き換えた場合と比較して、すべての炎症マーカの発現レベルが有意に低下した。対照的に、試験項目B(高温不活化M.スミシイ(M.smithii)古細菌抽出物)は、NF-kB発現の有意な減少のみをもたらし、IL-1bまたはTNF-αの発現減少はもたらさなかった。不活化されたM.スミシイ(M.Smithii)古細菌抽出物はLPSを介した炎症を抑制した。凍結不活化M.スミシイ(M.smithii)古細菌抽出物は、高温不活化M.smithii古細菌抽出物よりも広く、より強力な抗炎症作用を及ぼした。
【0144】
図1a、1b、1c:M.スミシイ(M.smithii)は、マス上皮細胞においてLPSを介したIL-1b、TNF-αおよびNF-kBを阻害する
試験項目:
凍結不活化M.スミシイ(M.smithii)古細菌抽出物
高温不活化M.スミシイ(M.smithii)古細菌抽出物
【0145】
遺伝子発現の結果:
各処理の3つの重複する生物学的複製物で測定された平均発現値と標準偏差が示されている。対照との統計的な有意な差(a=陰性対照細胞培地との比較、b=陽性対照であるLPS 50mg/lとの比較、およびc=LPS 50mg/l 6時間-L15/ex 6時間との比較)を、一元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くダネット検定(P<0.05)で決定した。
【0146】
考察:
LPSを介した炎症は、主要なパターン認識受容体であるToll様受容体4(TLR4)およびNOD-1によって媒介されることが広く公知である。この試験は、不活化された古細菌抽出物がLPSを介した炎症を阻害することを示す。さらに、凍結不活化古細菌抽出物は、高温不活化古細菌抽出物よりも強力に抗炎症性である。これらのデータは、不活化された古細菌が、適切に処理された場合、不活化後に免疫学的に活性なMAMPを保持できることを明らかにする。古細菌のMAMPは、おそらくTLR4との競合的架橋を介して、LPS-TLR4媒介炎症を妨げると予想される。
【0147】
MAMPを保持する適切に不活化された古細菌抽出物は、免疫病理を軽減する優れた可能性を示し、また腸内の免疫恒常性を促進し、ディスバイオシス、感染および疾患のリスクを全身的に軽減する優れた可能性を示す。
【0148】
結論:
メタノブレビバクテリウム(Methanobrevibactericeae)科の不活化されたM.スミシイ(M.smithii)古細菌は、腸上皮細胞において抗炎症特性を示す。M.スミシイ(M.smithii)古細菌抽出物の低温不活化は、高温不活化M.スミシイ(M.smithii)古細菌抽出物よりも免疫機能性MAMPのより良い保存を提供する。
【0149】
例2
極低温化
生きている遠心分離したM.スミシイ(M.smithii)古細菌バイオマス10gを15mLファルコンチューブに移す。生きている遠心分離された古細菌を、ファルコンチューブを液体窒素に5分間浸すことによって急速凍結する。次に、凍結古細菌を含むファルコンチューブを、13℃に維持した水浴中で10分間解凍する。この凍結融解サイクルをさらに3~10回実施する。
【0150】
不活化された古細菌抽出物は、直ちに使用するか、あるいは、例えば通常の凍結乾燥製剤化および処理によって保存することができる。
【0151】
得られた粉末は、純粋な不活化M.スミシイ(M.smithii)古細菌抽出物を含む。M.スミシイ(M.smithii)の生存不能性は、通常のM.スミシイ(M.smithii)嫌気性培養法およびThermofisherのLive/Dead BacLight Bacterial Viability Kitを使用して検証可能である。
【0152】
例3
空気乾燥
生きている遠心分離されたM.スミシイ(M.smithii)古細菌バイオマス10gを、直径10cm(40~500ミクロン、好ましくは70ミクロンの細孔)のナイロンメッシュストレーナに薄く塗布する。次に、乾燥のために37℃の温風をバイオマスの表面に吹き付ける(例えば空気乾燥装置、工業用オーブンなどを使用して)。2時間乾燥し、バイオマスをナイロンメッシュに対して平らな面で20分間隔で穏やかに混合することによって均一にして、バイオマス内のすべての細胞が空気に持続的に曝露されることを確実にする。回収後1~5時間、M.スミシイ(M.smithii)を空気に長時間曝露すると、細胞が不活化される。空気乾燥プロセスの後、不活化された古細菌抽出物は、直ちに使用するか、あるいは、例えば通常の凍結乾燥製剤化および処理によって保存することができる。
【0153】
得られた粉末は、純粋な不活化M.スミシイ(M.smithii)古細菌抽出物を含む。M.スミシイ(M.smithii)の生存不能性は、通常のM.スミシイ(M.smithii)嫌気性培養法およびThermofisherのLive/Dead BacLight Bacterial Viability Kitを使用して検証可能である。
【0154】
例4:
宿主のパターン認識受容体システムを介した微生物関連分子パターン(MAMP)のシグナル伝達能力を維持することができるメタノブレビバクター(Methanobrevibacter)(Mbb)古細菌の不活化のための方法
【0155】
1.緒言
1.1.メタノブレビバクター(Methanobrevibacter)(Mbb)の熱に対する耐性
古細菌ドメインの属であるメタノブレビバクター(Methanobrevibacter)(Mbb)は、生命科学における新たな商業的用途(例えばプロバイオティクスとして)を有する。Mbbは厳密な嫌気性菌であるため、ほとんどの種の空気に対する耐性は低いと考えられる。さらに、草食動物の腸に固有のMbbは、好熱菌Mbbとは対照的に、一般に生理学的温度に適応する。腸のMbbが空気および極端な温度への曝露にどの程度耐性であるかは不明なままである。
【0156】
細胞壁の構造は、古細菌を細菌と区別する古細菌の決定的な特徴である(図2)。古細菌の脂質細胞壁は、エーテル結合によって結合された分岐イソプレン鎖で形成されている。これは、エステル結合によって結合された非分岐脂肪酸で形成される細菌の脂質細胞壁とは対照的である。この異なる細胞壁の生化学が、古細菌が極限環境で生活することを可能にしている。古細菌ドメインは、「極限環境」微生物を進化させてきた。例えば、好熱菌メタノブレビバクター(Methanobrevibacter)種は、100℃を超える温度で繁殖することが公知である。極限条件へのそのような適応は、部分的には細胞膜構造によるが、熱ショックタンパク質を含む分子シャペロンにも起因する。草食哺乳動物の大腸にコロニーを形成するように進化したM.スミシイ(M.smithii)の特定の構造的および機能的特徴は、好熱菌と同じように保存されていると考えられる(例えば細胞膜構造)。
【0157】
DNA抽出手順中に、M.スミシイ(M.smithii)種は、DNAを分離するためにより厳しい細胞破壊手順を必要とすることが観察された。この所見は、より堅固な細胞壁構造を有する古細菌と一致する。
【0158】
極限環境微生物の特徴(例えば細胞壁構造)が保存されているため、熱処理、空気および照射に対するMbbの耐性は不明なままである。古細菌は、細胞壁の構造が異なるため、抗生物質処理に耐性であることが公知である。処理後の生存能力は、生死染色および培養技術を使用して評価することができる。さらに、レシピエント動物の腸の免疫系と相互作用する微生物関連分子パターン(MAMP)に対するそのような処理の影響は不明なままである。
【0159】
1.2.不活化処理後の古細菌のMAMP-PRR相互作用は不明である
パターン認識受容体(PRR)は、動物の自然免疫系において重要な役割を果たす。パターン認識受容体は、病原体に特有の分子を検出する生殖細胞系列にコードされたホストセンサである。それらは、微生物関連分子パターン(MAMP)とも称される病原体関連分子パターン(PAMP)を同定するために、上皮細胞などの自然免疫系の細胞によって発現されるタンパク質である。
【0160】
リポ多糖(LPS)は、グラム陰性菌の外膜の主成分である。LPSは、宿主のパターン認識受容体を活性化することによって強力な炎症性免疫応答を誘発することができる、重要な種類のMAMPである。哺乳動物では、パターン認識受容体TLR4がLPSを認識し、炎症反応を誘発することができる。魚では、パターン認識受容体NOD1がLPSを識別し、NF-κBシグナル伝達経路を活性化することができる。
【0161】
NF-κB(活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサ)は、DNAの転写とサイトカイン産生を調節するタンパク質複合体である。NF-κBは、感染に対する免疫応答の調節に重要な役割を果たす。NF-κBの誤った調節は、癌、炎症性疾患および自己免疫疾患に関連している。
【0162】
1.3.MAMP-PRRシグナル伝達:NF-kBレポータモデル
細胞表面受容体の刺激を介して細菌のMAMPは、NF-κBの活性化および遺伝子発現の急速な変化をもたらす。例えば、Toll様受容体は、NF-κBの活性化をもたらすパターン認識分子である(グラム陰性菌のLPS成分の受容体としてのTLR4)。
【0163】
インビトロ細胞培養物におけるNF-kBのRNA発現レベルは、様々な種類のMAMPによる細胞表面のパターン認識受容体の活性化についての明確なレポータシステムを提供する。
【0164】
この試験では、出願人は、主要な腸のMbbプロトタイプであるM.スミシイ(M.smithii)を不活化するために必要な閾値を明らかにし、不活化古細菌抽出物に由来するMAMPがニジマスの上皮細胞においてLPS誘導NF-kB活性化を阻害する能力を評価する。
【0165】
2.材料および方法
2.1.Mbb処理
DSMZから得られたM.スミシイ(M.smithii)(Mbb)の菌株を嫌気性バイオリアクタで培養した。
【0166】
*定常増殖期に、細胞を回収し、PBSで2回すすいで、微量の培地をすべて除去した。
【0167】
次に、細胞を以下に記載するように様々な処理に曝露し、それらの生存能力を生死細胞染色および培養法を使用して評価した。
【0168】
2.1.1.生細胞、陽性対照
100mlの滅菌血清ボトルで、増殖培地20ml中0.01gの湿ったMbbバイオマスの懸濁液を調製する->生存能力を評価する。
残りの細胞をPBS中10%スクロース溶液5mLに懸濁する。
急速凍結する。
ドライアイス上に保存し、その後凍結乾燥する。
【0169】
2.1.2.紫外線不活化処理
紫外線照射のために、PBS 7Lに湿ったMbbバイオマス5gを懸濁する。
【0170】
照射後(照射パラメータ:2KJ/L放射線量、処理時間40秒)、遠心分離し、ペレット化する。
【0171】
100mlの滅菌血清ボトルで、増殖培地20ml中0.01gの湿ったMbbバイオマス(新しいUV処理ペレットから)の懸濁液を調製する->生存能力を評価する。
残りの細胞をPBS中10%スクロース溶液5mLに懸濁する。
ドライアイス上に保存し、その後凍結乾燥する。
【0172】
2.1.3.72℃で15分間-持続的熱処理
湿ったMbbバイオマス5gを72℃で15分間置く(チューブを水浴に入れる)。
100mlの滅菌血清ボトルで、増殖培地20ml中0.01gの湿ったMbbバイオマスの懸濁液を調製する->生存能力を評価する。
残りの細胞をPBS中10%スクロース溶液5mLに懸濁する。
急速凍結する。
ドライアイス上に保存し、その後凍結乾燥する。
【0173】
2.1.4.80℃で1分間-パルス熱処理
湿ったMbbバイオマス5gを80℃で1分間置く(チューブを水浴に入れる)。
100mlの滅菌血清ボトルで、増殖培地20ml中0.01gの湿ったMbbバイオマスの懸濁液を調製する->生存能力を評価する。
残りの細胞をPBS中10%スクロース溶液5mLに懸濁する。
急速凍結する。
ドライアイス上に保存し、その後凍結乾燥する。
【0174】
2.1.5.凍結不活化処理
湿ったMbbバイオマス5gを液体窒素(LN)中に10分間入れる。
細胞を10分間室温に移す(解凍されるまで)
凍結融解(LN<->RT)をさらに10回繰り返す。
100mlの滅菌血清ボトルで、増殖培地20ml中0.01gの湿ったMbbバイオマスの懸濁液を調製する->生存能力を評価する。
残りの処理した細胞をPBS中10%スクロース溶液5mLに懸濁する。ドライアイス上に保存し、その後凍結乾燥する。
【0175】
2.1.6.湿潤細胞を空気に曝露することによる減弱
バイオリアクター内の空気を10分間スパージする。
【0176】
2.2.生存能力試験
様々な処理後の古細菌の生存能力および不活化を、以下に記載するように生死染色および培養法を使用して評価した。
【0177】
2.2.1.生死染色
細胞の生存能力を、Live/dead Baclight(登録商標)キットL7012(ThermoFisher Scientific,Switzerland)を使用して評価した。
【0178】
2.2.1.1.フローサイトメトリ
M.スミシイ(M.smithii)細胞を、製造者の指示に従って、Syto 9およびヨウ化プロピジウム(PI)を含むLive/dead Baclight(登録商標)キットL7012(ThermoFisher Scientific,Switzerland)で染色した。簡単に説明すると、M.スミシイ(M.smithii)懸濁液250μLを2000×gまたは3000×gでそれぞれ5分間遠心分離し、上清を廃棄し、ペレットを同じ初期容量の0.85%NaClで再懸濁した。懸濁液を約1x10微生物/mL(約0.03 OD670)に調整し、さらに0.85%NaClで1:100に希釈して、最終密度を約1×10微生物/mLにした。別途に、1の割合のSyto 9を1の割合のPIと混合し、この色素混合物0.75μLを各微生物懸濁液250μlに添加し、最終混合物を暗所にて室温で20分間インキュベートした。対照用に二組、試料用に三組調製した。
【0179】
絶対計数を行う場合は、BD Trucount(商標)チューブ(BD Biosciences,Switzerland)を使用した。各時点の複製物のアリコートを遠心分離し、前述のように処理した。約1x10微生物/mLの懸濁液の最終的な250μLを、対応するTrucount(商標)チューブ(各試料につき1チューブ)で製造者の指示に従って調製し、Syto 9+PI混合物0.75μLを添加し、懸濁液を暗所にて室温で20分間インキュベートした。
【0180】
フローサイトメトリの取得は、Flow Cytometry Core Platform of the Faculty of Medicine(University of Geneva,Switzerland)で実施された。取得は、チャネルFL-1~FL-3に488nm励起レーザー、チャネルFL-4に635nm励起レーザーを備えたBD Accuri(商標)C6フローサイトメータ(BD Biosciences,Switzerland)を使用して実施した。前方散乱(FSC)および側方散乱(SSC)を、488/10nmのバンドパスフィルタを通して488nm励起から収集した。Syto 9を488nmレーザーで励起し、その発光を533/30nmのバンドパスフィルタを使用してFL-1チャネルで収集した。PIは、488nmレーザーで励起し、その発光をFL-3チャネルで670nmのロングパスフィルタを通して収集した。絶対計数用のTrucount(商標)チューブのビーズを635nmレーザーで励起し、FL-4チャネルの675/25nmバンドパスフィルタを通して赤色蛍光を収集した。電圧補償は設定しなかった。細胞は、サイズ(FSCチャネル)よりも蛍光によってノイズからよりよく識別されるため、SSC対FL-1プロットからゲートした。各試料について、「細胞」ゲートで10,000事象が記録された。データはBD Accuri C6ソフトウェアで取得した。
【0181】
2.2.1.2.フローサイトメトリデータ解析
フローサイトメトリデータをFlowJo(登録商標)ソフトウェア(バージョン10;(著作権)FlowJo LLC,USA)で解析し、絶対計数を行う場合はBD Accuri C6ソフトウェアも使用した。この装置での取得にはダブレットの排除を必要としなかった。生対照と死対照は、それぞれ「生」と「死」の集団のゲートを配置するのに役立った。「生」ゲートと「死」ゲートの間に出現する事象のために、「損傷」と名付けた別のゲートを設定した。各ゲートまたは集団の細胞の割合は、解析ソフトウェアによって与えられた。
【0182】
各試料の生細胞の絶対濃度を、方程式3:
【数1】

に従って生ゲートで計数された事象の数から決定し、ここで、Fはフラスコ内の濃度からフローサイトメトリで分析された画分までの希釈係数である。
【0183】
2.2.1.3.蛍光顕微鏡検査法
0.85%NaClに再懸濁した、遠心分離したM.スミシイ(M.smithii)懸濁液(フローサイトメトリと同じ条件)を、0.85%NaCl(50μL調製した)でさらに1:10に希釈した。Syto 9/PI混合物0.15μLを細胞懸濁液に添加し、暗所にて室温で20分間インキュベートした。続いて、各試料4μLをスライド(76×26mm)に載せ、カバーガラス(22×22mm)で覆い、マニキュア液で密封した。画像取得と画像解析は、Bioimaging Core Facility of the Faculty of Medicine(University of Geneva,Switzerland)で実施された。Zeiss Axio Imager Z1(Zeiss)に取り付けたAxioCam 506 mono detector(Zeiss,Feldbach,Switzerland)を使用した。これに、0.072×0.072μmの解像度を有する63x/1.4NAオイルPlan-Apochromat対物レンズを取り付けた。Syto 9を、励起用のBP 450-490、ビームスプリッターとしてのFT 510、および発光用のBP 515-565で構成されるFITC(緑色)フィルタセットを通して励起し、検出した。PIは、励起用のBP 546/12、ビームスプリッターとしてのFT 580、および発光用のLP 590で構成されるCy3(赤色)フィルタセットを通して励起し、検出した。露光時間は、緑色チャネルについては120ミリ秒、赤色チャネルについては150ミリ秒に設定した。画像を、Windows 10 OSで動作するPC上でソフトウェアZen(バージョン2.3、Zeiss)で記録し、処理した。示されている画像は、補間フィルタを使用して処理した。
【0184】
2.2.1.4.統計分析
所与の温度での曝露後のM.スミシイ(M.smithii)の増殖の程度を、処理後0日目から6日目までのOD600対時間のグラフの曲線下面積(AUC)を決定することによって評価した。AUC平均値間の有意差は、平均の多重比較のために一元配置分散分析およびテューキーのHSD検定によって評価した。
【0185】
P値が0.05未満である場合に差は有意であると見なした。
【0186】
O.D.読み取りによる生細胞培養物の決定
細胞懸濁液の試料2mLを取り、キュベットに入れる。(ブランクは水に対して測定される)。600nmの波長で光学密度(OD)を測定する。線形吸光度範囲は0.1~0.3であり、測定値がこの範囲よりも高い場合は、試料をDI水で希釈しなければならない。
【0187】
光学密度は、所与の範囲の細胞懸濁液中のバイオマスに正比例する。
【0188】
2.3.NF-kBレポータシステム
NF-kBは、パターン認識受容体(PRR)の下流にシグナル伝達する転写因子である。NF-kBの転写調節を測定することは、上流のパターン認識受容体の相互作用を決定する方法である。
【0189】
2.3.1.細胞
24ウェルプレートおよび6ウェルプレート中の68継代のRTgutGC(ニジマス(Oncorhynchus mykiss)の腸)細胞株の細胞。濃度ごとに、3つの複製ウェルに、それぞれ24ウェルおよび6ウェルごとに2mlおよび8mlの曝露溶液を添加した。試験は19±1℃で実施した。
【表2】
【0190】
2.3.2.マーカ遺伝子
【表3】
【0191】
2.3.3.RNAの単離/cDNAの合成
Qiagen RNeasy Plus MiniKitを使用して、RTGutGC細胞から全RNAを抽出した。ゲノムDNA汚染物質を、gDNA Eliminatorスピンカラム(Qiagen)を使用して除去した。NanoDrop分光光度計(PEQLAB Biotechnologie GMBH)を使用してRNAの量と質を決定した(付属書参照)。高容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems)を使用して全RNAからcDNAを合成した。
【0192】
2.3.4.マーカ遺伝子のmRNA発現の定量化
選択したすべてのマーカ遺伝子のmRNA発現レベルを、GoTaq(登録商標)qPCR Master Mix(Promega)を使用して分析した。すべての試料を、LightCycler480(Roche)を使用して、白色384ウェルプレート(Roche)で3回重複して分析した。転写レベルを、独立したRNA単離からの試料のcDNAで測定した。qPCRの結果を、様々なPCR増幅効率を考慮に入れたQ-Gene Core Module(http://www.qgene.org/)の正規化手順に従って、ハウスキーピング遺伝子EF1aと比較して計算した。
【0193】
2.3.5.遺伝子発現解析試験項目の結果
各処理の3つの重複する生物学的複製物で測定された平均発現値と標準偏差が示されている。対照との統計的な有意な差(a=陰性対照細胞培地との比較、b=陽性対照であるLPS 50mg/lとの比較、およびc=LPS 50mg/l 6時間-L15/ex 6時間との比較)を、一元配置分散分析(ANOVA)とそれに続くダネット検定(P<0.05)で決定した。
【0194】
3.結果
3.1.不活化の閾値を決定し、パターン認識シグナル伝達能力を試験した
凍結乾燥されたMbbは、極端な熱処理に対して耐性であった。不活化は、処理前に、最初にMbb細胞を湿潤培養物に懸濁する必要があった。Mbb不活化閾値の要約を表2に示す。NF-kBのシグナル伝達能力に対する処理の種類の影響も表4に示す。
【表4】

【0195】
凍結処理または短い熱パルス(80℃で1分間)によるMbbの不活化は、どちらもNF-kBレポータシグナル伝達経路との相互作用を維持する方法であり、これらの処理方法を使用した場合、MAMPのシグナル伝達能力が維持されることを示す。
【0196】
対照的に、紫外線照射または持続的な熱(72℃で15分間)のいずれかを使用したMbbの不活化は、NF-kBパターン認識との相互作用を維持しなかった。
【0197】
3.2.培養中の細胞を空気に曝露することによる減弱
増殖培地の激しいスパージングによる湿ったMbb細胞の空気(酸素)への10分間の曝露は、弱毒化状態を生じさせる。細胞は生存特徴(F420酵素および生細胞の染色特徴)を示すが、細胞内に空気が蓄積するため複製することができない。対照的に、凍結乾燥された乾燥細胞は、細胞内に空気を吸収しないため、空気に耐性である。
【0198】
3.3 NF-kBレポータ経路を介したパターン認識シグナル伝達を維持するMbb不活化処理。
図3(A)~(E)に示されている結果の統計的有意性:
A)
培地対照L-15/exとの有意差:
LPS、試験項目100mg/l+LPS、LPS(5時間)-L-15/ex(5時間)、LPS(5時間)-P/S 0.1mg/ml(5時間)、LPS(5時間)-試験項目100mg/l(5時間)
B)
LPS対照との有意差:
L-15/ex、P/S 0.1mg/ml、試験項目100mg/l、試験項目
100mg/l+LPS、LPS(5時間)-L-15/ex(5時間)、LPS(5時間)-P/S
0.1mg/ml(5時間)、LPS(5時間)-試験項目100mg/l(5時間)
C)
LPS 50mg/l 5時間-L-15/ex 5時間との有意差:
L-15/ex、LPS、P/S 0.1mg/ml、試験項目100mg/l
【0199】
結論
Mbbの不活化閾値を特徴づけた。短い熱パルスまたは凍結処理は、どちらもLPS誘発炎症の抑制に関与する機能的断片を保存する方法であった。
【0200】
本発明の方法に従って不活化されたMbbは、NF-kBレポータシステムを調節できることが証明され、生物活性MAMPが不活化処理後に維持されることを示した。
【0201】
例5
ニジマス(Oncorhynchus mykiss)の赤口病の経過に対する不活化古細菌抽出物の効果を試験するための実験
背景技術
養殖業は世界で最も急速に成長しつつある産業の1つであり、世界のタンパク質資源の重要な部分を生み出している。しかし、様々な要因、とりわけ疾患が、養殖の取り組みの生産性に影響を及ぼす。集中的な養魚条件では、細菌性疾患は壊滅的な影響を及ぼす可能性がある。感染を防止するまたはその影響を軽減するために、様々なアプローチを検討しなければならない。抗生物質に耐性のある細菌の問題が増加していることを考えると、代替手段が必要であり、大いに歓迎される。可能性のある1つのアプローチは、腸の免疫系に有益な作用をもたらし、細菌感染の有害な影響を軽減することができる添加物を含む飼料を飼育動物に与えることである。
【0202】
目的
この例は、ニジマスの腸内赤口病(Enteric Red Mouth Disease)(ERM)の経過に対する不活化メタノブレビバクター(Methanobrevibacter)(Mbb)古細菌抽出物の効果を試験することを目的とした。ERMの病因物質であるエルシニア・ルッケリ(Yersina ruckeri)を魚に投与し、不活化古細菌抽出物を与えた群における疾患の経過を、対照食を与えた群の経過と比較した。
【0203】
材料および方法
魚:
体重29+1グラムの若齢ニジマスを入手し、対照食および実験食(すなわち本発明の組成物)を1ヶ月間与えた。
【0204】
タンク:
順化および攻撃誘発実験開始までのその後の期間には、水道水のフロースルーシステムと一定の曝気を備えた130リットルのガラス水槽を使用した。実験全体を通して水温は15.5±1.0℃に維持した。
【0205】
攻撃誘発実験のために、試験魚を、水道水のフロースルーシステムと一定の曝気を備えた38リットルのガラス水槽に移した。水温は15.5±1.0℃に維持した。
【0206】
魚に体重の1%の割合で毎日給餌した。食餌の割合は、魚の体重増加に合わせて定期的に調整した。攻撃誘発実験では、すべての水槽で生き残った魚の数に合わせて食餌の割合を毎日調整した。
【0207】
試験食:
すべての食餌を魚の到着から実験の終了まで与えた。
【表5】
【0208】
Mbbは出願人が調製した。M.スミシイ(M.smithii)の純粋培養物を採取し、細胞計数チャンバを使用して数えた。熱処理を使用して湿潤細胞を不活化し(BAC Light生死染色法およびO.D.培養法で検証)、その後、魚の飼料ペレットに含める前に凍結乾燥した。
【0209】
魚の取り扱い
到着時に、魚を群およびタンクごとに計量した。その後、攻撃誘発実験のために実験タンクに移したときに魚を計量した。得られたデータに基づいて、タンク当たりの食餌の平均投与量を計算し、それに応じて調整した。
【0210】
細菌
実験室分離株およびInstitute of Veterinary Bacteriology(IVB)から入手したエルシニア・ルッケリ(Yersinia ruckeri)の分離株(指定名17/Ref0264)を使用した。後者の分離株は、もともと商業的養魚場のニジマスから分離されていた。
【0211】
細菌を25℃のLB培地で増殖させ、18時間後に回収した。次に、細菌の密度を分光光度法で評価し、PBSで濃度を必要な値に調整した。
【0212】
攻撃誘発用量の決定
適切な攻撃誘発用量を決定するために、予備実験を実施した。4つの用量:5*104、105、5*10および10細菌/mlを評価した。各用量の実験室株を使用した最初の実験では、10匹の魚を感染させた。2番目の同様の実験では、ただし今回は分離株17/Ref0264を使用して、用量ごとに5匹の魚を使用した。これらの実験を、水道水のフロースルーシステムおよび一定の曝気を備えた4つの個別の38リットルガラス水槽で実施した。水温は15.5±0.5℃であった。予備攻撃誘発実験の魚には対照食を与えた。
【0213】
感染は、水量を10リットルに下げ、魚を細菌に1時間曝露することによって実施した。この期間中、水流を停止し、曝気を増加させた。1時間後、水流を再開し、曝気を通常の力に設定した。
【0214】
その後、毎日の死亡率を14日間にわたって記録した。
【0215】
攻撃誘発実験
適切な感染量を決定した後、各食餌群からの魚を群ごとに3つの38リットルタンクに無作為に分配した(タンク当たり20匹の魚)。これにより、合計12のタンクが生じた。次に、魚を攻撃誘発し、手順は予備実験と同じであった。予備実験の結果に基づいて、感染量を3*105細菌/mlに設定し、分離株17/Ref0264を使用した。
【0216】
その後、毎日の死亡率を記録し、福祉上の理由から瀕死の魚を取り出し、安楽死させた。これらの動物は死亡として数えた。データから、経時的な死亡率および相対生存率(RPS)の群平均値を計算した。後者については、次の式を使用した:
1-(特別食群の累積死亡率%/対照群の累積死亡率%)x100。
【0217】
疾患の経過は、いずれのタンクでも少なくとも3日間連続して死亡/瀕死の動物が認められなくなるまで、4週間追跡した。
【0218】
追加調査
主な実験では、各タンクからの最初に死亡した魚を細菌学的検討に供し、死亡を引き起こす細菌学的病因を確認した。これらの魚から増殖した細菌をMALDI-TOFF MSによって同定した。実験の終わりに、生き残ったすべての魚を感染の外部徴候について評価した。
【0219】
結果
感染量の決定
実験室株を使用した予備攻撃誘発では、死亡は全く発生せず、分離株が魚に対する病原性を失っていることを示した。2回目の予備攻撃誘発では、10、5*10および10細菌/mlで攻撃誘発した魚の死亡率が得られた(表6)。対照群の死亡率50%を目標としたため、予備試験の結果に基づいて、3*10細菌/mlの攻撃誘発用量を選択した。
【表6】
【0220】
攻撃誘発実験
最初の瀕死の魚は、感染の8日後(d.p.i.)に対照群の1つの複製で発見された。感染後10日目に、本発明の組成物を与えられた群の水槽でも瀕死の魚が報告された。累積死亡率の経過を図4に示す。
【0221】
すべての水槽からの最初の瀕死の魚を安楽死させ、Y.ルッケリ(Y.ruckeri)の存在について分析した。検討したすべての魚から細菌培養物を増殖させることができ、MALDI-TOFF MSによる同定でそれらがY.ルッケリ(Y.ruckeri)であることを確認した。他の細菌は見出されなかった。したがって、ERM病原体を疾患の唯一の原因として決定することができた。瀕死の動物は、出血性のひれ、体腔の漿膜の点状出血、体の筋肉組織の出血、および胃と腸の水などの、ERMの典型的な特徴を示した。群間の病理学的な相違は明らかではなかった。
【0222】
群間の有意差を調べるために様々な統計方法を適用した;しかし、群間で差は有意ではなかった。
【0223】
考察
不活化されたMbb古細菌抽出物(本発明の組成物)を添加した食餌は、細菌エルシニア・ルッケリ(Yersinia ruckeri)で攻撃誘発されたニジマスの経過および累積死亡率に影響を及ぼした。この影響は、対照食を与えられた魚と比較して、不活化されたMbb古細菌抽出物を与えられた魚において有益であった。プラスの作用は、不活化古細菌抽出物処理に帰することができる。累積死亡率がより低かっただけでなく、不活化古細菌抽出物を与えられた魚では死亡の始まりが対照よりも遅かった。
【0224】
不活化古細菌抽出物を与えられた魚が対照群よりも累積死亡率が低かったという所見は、新規で予想外である。
【0225】
要約すると、エルシニア・ルッケリ(Yersinia ruckeri)で攻撃誘発された魚に対する不活化Mbb古細菌抽出物の有益な作用を実証することができた。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4