(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
H04W 36/18 20090101AFI20240626BHJP
H04W 56/00 20090101ALI20240626BHJP
H04W 36/02 20090101ALI20240626BHJP
H04W 88/12 20090101ALI20240626BHJP
H04W 84/10 20090101ALI20240626BHJP
【FI】
H04W36/18
H04W56/00 110
H04W36/02
H04W88/12
H04W84/10
(21)【出願番号】P 2021045697
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】大窪 琢斗
(72)【発明者】
【氏名】大橋 史弥
(72)【発明者】
【氏名】木場 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】クリスチナサラスワチ リアンタラ
【審査官】桑原 聡一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-165281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局からの音声データを複数の基地局から受信する回線制御装置を備える無線通信システムであって、
前記複数の基地局は、前記音声データの音声フレーム毎に受信電界強度と時刻情報とを付与して前記回線制御装置に送信し、
前記回線制御装置は、前記基地局毎に、受信した前記音声データの音声フレームを前記時刻情報と共に特定時間分記憶し、
前記特定時間分記憶してから、同一の移動局からの音声データの音声フレームを複数の基地局から受信した
と判断した場合
、前記特定時間分記憶した音声フレームの中で、最後に記憶された音声フレームに付与された受信電界強度を
前記複数の基地局で比較して、前記受信電界強度が大きい方の音声フレームを送信した基地局を、出力音声を採用する基地局として選択し、選択された基地局が前記選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局と異なるか否かを判断し、異なる基地局の場合には、前記選択の直前に出力した音声フレームに付された時刻情報に連続する時刻情報が付された音声フレームを、前記異なる基地局に対応して
前記特定時間分記憶された音声フレームから採用して出力することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
各基地局から回線制御装置への最大伝送時間が1フレーム時間以内である場合、回線制御装置は、2フレーム時間を特定時間として音声データの音声フレームを記憶することを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
回線制御装置は、前記選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局とは異なる基地局を選択する際に、回線制御装置への伝送時間が、前記選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局よりも、前記異なる基地局の方が長い場合には、前記異なる基地局に対応して記憶された2フレーム分の音声フレームの内、遅い方の時刻情報が付された音声フレームを採用して出力することを特徴とする請求項2記載の無線通信システム。
【請求項4】
回線制御装置は、前記選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局とは異なる基地局を選択する際に、回線制御装置への伝送時間が、前記選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局よりも、前記異なる基地局の方が短い場合には、前記異なる基地局に対応して記憶された2フレーム分の音声フレームの内、早い方の時刻情報が付された音声フレームを採用して出力することを特徴とする請求項2記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の基地局が同一周波数を用いて移動局と通信を行う無線通信システムに係り、特に、複数の基地局のエリアが重複する位置における音声品質を向上させることができる無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
無線通信システムには、防災行政無線等に用いられるものがある。
このような無線通信システムでは、上位局である指令台と無線通信の基地局とを接続する回線制御装置が設けられている。
回線制御装置は、回線制御や呼制御を行って、指令台と移動局との通信や、移動局同志の通信を実現する。
基地局は、有線回線を介して回線制御装置に接続すると共に、自己の通信エリア(エリア、基地局エリア)内に在圏する移動局と無線通信を行う。
【0003】
[基地局エリアの概略:
図6]
ここで、基地局エリアについて
図6を用いて簡単に説明する。
図6は、基地局エリアの概略を示す説明図である。
図6に示すように、基地局A(20a)と、基地局B(20b)は、有線回線を介して回線制御装置10に接続されており、基地局Aの圏内及び基地局Bの圏内は、それぞれ点線で示す楕円の範囲である。
【0004】
ここで、両基地局の圏内が重なる範囲(重複エリア)は、基地局A(20a)、基地局B(20b)の両方に接続可能なエリアとなっている。
基地局A(20a)、基地局B(20b)は、移動局から音声を受信すると、受信電界強度を検出し、音声データに電界強度の値を付して回線制御装置に送信する。
【0005】
そして、回線制御装置10では、同一移動局の音声を複数の基地局から受信した場合には、それぞれの基地局における受信電界強度を比較して、受信電界強度が大きい方の音声、つまり音声品質が良好な方の音声を採用して通信相手に送信する。
【0006】
[受信電界強度と採用音声の関係:
図7]
移動局が、基地局A(20a)から重複エリアを通って基地局B(20b)に移動する場合を例として、受信電界強度と採用音声の関係について
図7を用いて説明する。
図7は、受信電界強度と採用音声の関係を示す説明図である。
図7に示すように、移動局が基地局A(20a)から基地局B(20b)に移動する場合、重複エリアに入った当初は、基地局Aにおける受信音声の受信電界強度が強く(大きく)、基地局B(20b)における受信電界強度は弱い(小さい)。
回線制御装置10は、音声フレームを受信すると、各基地局から音声フレームに付されて送信された受信電界強度を比較して、電界強度が強い基地局A(20a)からの音声フレームのデータを採用して出力する。
【0007】
しかし、移動局が重複エリア内を基地局B(20b)に向かって移動するにつれて、基地局A(20a)における受信電界強度は次第に弱まり、基地局B(20b)における受信電界強度は強まっていく。
そして、基地局B(20b)における受信電界強度が基地局A(20a)における受信電界強度を上回ると、回線制御装置10は、採用音声を基地局B(20b)からの音声データに切り替えて出力する。
このようにして採用音声の切り替えが行われていた。
【0008】
[音声品質の低下]
基地局から回線制御装置への音声伝送は、伝送方式や距離の違いにより、基地局毎に伝送時間が異なる場合がある。
この伝送時間の違いにより、通話における音声品質が低下してしまうことがある。
【0009】
音声品質が低下する例について、
図8、
図9を用いて説明する。
図8は、音声が重複する場合の説明図、
図9は音声が欠落する場合の説明図である。
[音声が重複する場合:
図8]
遅延が小さい基地局から遅延が大きい基地局への切り替えが発生した場合には、音声データが重複する。
図8では、回線制御装置10への伝送時間が短い(遅延が小さい)基地局Aと、回線制御装置10への伝送時間が長い(遅延が大きい)基地局Bとの重複エリアを例として説明する。
【0010】
重複エリアにおいては、基地局A(20a)、基地局B(20b)共に移動局からの音声を受信して、受信電界強度を付して回線制御装置10に送信する。
しかし、伝送時間に差があるため、回線制御装置10において受信する音声データ(移動局音声_d1,移動局音声_d2,…移動局音声_d5)は、
図8(a)(b)に示すように、基地局A(20a)からの音声に比べて基地局B(20b)からの音声は遅れて受信し、同じ音声データ(音声フレーム)でも受信のタイミングに時間差が生じる。
【0011】
ここで、基地局A(20a)から基地局B(20b)への切り替えが発生した場合、
図8(c)に示すように、切替タイミングの後の基地局B(20b)からの音声は、既に基地局A(20a)の音声を採用して送信した音声と同一のデータとなり、音声が重複してしまう。ここでは、移動局音声_d3が2回続けて出力されることになる。
【0012】
[音声が欠落する場合:
図9]
逆に、遅延が大きい基地局から遅延が小さい基地局への切り替えが発生した場合には、音声データが欠落する。
図9(c)に示すように、基地局B(20b)から基地局A(20a)への切り替えが発生すると、切替タイミング直前の基地局B(20b)からの音声は、移動局音声_d2であるが、切替タイミング後の基地局A(20a)からの音声は移動局音声_d4となって、移動局音声_d3が欠落してしまう。
【0013】
このように、従来は、回線制御装置と各基地局との伝送時間に差があるため、複数の基地局の圏内が重複するエリアでは、音声データの重複や欠落といった音声品質の劣化が生じていた。
【0014】
[関連技術]
尚、無線通信システムの従来技術としては、特開2018-056884号公報「デジタル無線システム」(特許文献1)がある。
特許文献1には、回線制御装置を用いずに基地局間で同期を行って、複数基地局からの同一周波数による無線信号がオーバーリーチするエリアにおける電波干渉をなくすデジタル無線システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、従来の無線通信システムでは、複数の基地局の圏内が重複するエリアにおいて、音声品質が劣化するという問題点があった。
【0017】
尚、特許文献1には、回線制御装置が、基地局のエリアが重複する場所にいる移動局からの音声について、基地局の切り替えが発生する際に、音声データに付した時刻情報が連続するように出力することは記載されていない。
【0018】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、複数の基地局の圏内が重複するエリアにおける音声品質を向上させることができる無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、移動局からの音声データを複数の基地局から受信する回線制御装置を備える無線通信システムであって、複数の基地局は、音声データの音声フレーム毎に受信電界強度と時刻情報とを付与して前記回線制御装置に送信し、回線制御装置は、基地局毎に、受信した音声データの音声フレームを時刻情報と共に特定時間分記憶し、特定時間分記憶してから、同一の移動局からの音声データの音声フレームを複数の基地局から受信したと判断した場合、特定時間分記憶した音声フレームの中で、最後に記憶された音声フレームに付与された受信電界強度を当該複数の基地局で比較して、受信電界強度が大きい方の音声フレームを送信した基地局を、出力音声を採用する基地局として選択し、選択された基地局が選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局と異なるか否かを判断し、異なる基地局の場合には、選択の直前に出力した音声フレームに付された時刻情報に連続する時刻情報が付された音声フレームを、異なる基地局に対応して特定時間分記憶された音声フレームから採用して出力することを特徴としている。
【0020】
また、本発明は、上記無線通信システムにおいて、各基地局から回線制御装置への最大伝送時間が1フレーム時間以内である場合、回線制御装置は、2フレーム時間を特定時間として音声データの音声フレームを記憶することを特徴としている。
【0021】
また、本発明は、上記無線通信システムにおいて、回線制御装置は、選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局とは異なる基地局を選択する際に、回線制御装置への伝送時間が、選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局よりも、異なる基地局の方が長い場合には、異なる基地局に対応して記憶された2フレーム分の音声フレームの内、遅い方の時刻情報が付された音声フレームを採用して出力することを特徴としている。
【0022】
また、本発明は、上記無線通信システムにおいて、回線制御装置は、前記選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局とは異なる基地局を選択する際に、回線制御装置への伝送時間が、前記選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局よりも、前記異なる基地局の方が短い場合には、前記異なる基地局に対応して記憶された2フレーム分の音声フレームの内、早い方の時刻情報が付された音声フレームを採用して出力することを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、移動局からの音声データを複数の基地局から受信する回線制御装置を備える無線通信システムであって、複数の基地局は、音声データの音声フレーム毎に受信電界強度と時刻情報とを付与して前記回線制御装置に送信し、回線制御装置は、基地局毎に、受信した音声データの音声フレームを時刻情報と共に特定時間分記憶し、特定時間分記憶してから、同一の移動局からの音声データの音声フレームを複数の基地局から受信したと判断した場合、特定時間分記憶した音声フレームの中で、最後に記憶された音声フレームに付与された受信電界強度を当該複数の基地局で比較して、受信電界強度が大きい方の音声フレームを送信した基地局を、出力音声を採用する基地局として選択し、選択された基地局が選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局と異なるか否かを判断し、異なる基地局の場合には、選択の直前に出力した音声フレームに付された時刻情報に連続する時刻情報が付された音声フレームを、異なる基地局に対応して特定時間分記憶された音声フレームから採用して出力する無線通信システムとしているので、基地局の圏内が重なるエリアにおいて、基地局を切り替える際に、時刻情報が連続するように音声データを出力することで、音声データの重複や欠落を防ぎ、音声品質を向上させることができる効果がある。
【0024】
また、本発明によれば、各基地局から回線制御装置への最大伝送時間が1フレーム時間以内である場合、回線制御装置は、2フレーム時間を特定時間として音声データの音声フレームを記憶する上記無線通信システムとしているので、伝送時間が長い方の基地局から短い方の基地局に切り替える場合と、伝送時間が短い方の基地局から長い方の基地局に切り替える場合のいずれにおいても、時刻情報が連続するよう音声データを出力することができ、音声品質を向上させることができる効果がある。
【0025】
また、本発明によれば、回線制御装置は、選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局とは異なる基地局を選択する際に、回線制御装置への伝送時間が、選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局よりも、異なる基地局の方が長い場合には、異なる基地局に対応して記憶された2フレーム分の音声フレームの内、遅い方の時刻情報が付された音声フレームを採用して出力する上記無線通信システムとしているので、音声データの重複を防ぐことができる効果がある。
【0026】
また、本発明によれば、回線制御装置は、前記選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局とは異なる基地局を選択する際に、回線制御装置への伝送時間が、前記選択の直前まで出力音声を採用されていた基地局よりも、前記異なる基地局の方が短い場合には、前記異なる基地局に対応して記憶された2フレーム分の音声フレームの内、早い方の時刻情報が付された音声フレームを採用して出力する上記無線通信システムとしているので、音声データの欠落を防ぐことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本無線通信システムの概要を示す説明図である。
【
図2】回線制御装置に到達する音声を示す説明図である。
【
図3】回線制御装置における動作例(1)の説明図である。
【
図4】回線制御装置における動作例(2)の説明図である。
【
図5】回線制御装置における音声採用の処理を示すフローチャートである。
【
図6】基地局エリアのイメージを示す説明図である。
【
図7】受信電界強度と採用音声の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る無線通信システム(本無線通信システム)は、基地局が、GPS(Global Positioning System)信号等から時刻情報を取得して基地局間で時刻同期しており、移動局から音声データを受信すると、受信電界強度と共に受信時刻情報を付して回線制御装置に送信し、回線制御装置が、基地局から音声データを受信すると、音声データと対応する時刻情報の組を特定時間分蓄積しておき、同一移動局からの音声を複数の基地局から受信した場合には、付された受信電界強度を比較して、大きい方の基地局からの音声を採用して出力し、基地局の切り替えが生じた場合には、対応する時刻情報が連続するように音声データを出力するようにしており、複数の基地局の圏内が重複するエリアにおいても音声データを重複や欠落することなく時系列に連続して出力でき、音声品質を向上させることができるものである。
【0029】
[本無線通信システムの概要:
図1]
本無線通信システムの概要について
図1を用いて説明する。
図1は、本無線通信システムの概要を示す説明図である。
本無線通信システムの基本的な構成は、従来の本無線通信システムと同様であるが、基地局及び回線制御装置の構成及び動作が従来とは異なっている。
図1に示すように、本無線通信システムは、回線制御装置1と、基地局A(2a)、基地局B(2b)と、移動局3とを備えている。
個々の基地局を区別しない場合には、基地局2と記載することもある。
更に、回線制御装置1には、有線回線によって指令台等が接続されているが、図示は省略する。また、図示しない基地局や移動局が設けられることもある。
【0030】
回線制御装置1は、本無線通信システムの特徴部分であり、呼制御及び回線制御を行い、特に、基地局の圏内が重複するエリアにいる移動局からの音声を、重複や欠落なく出力する処理を行う。回線制御装置1の処理については後述する。
【0031】
基地局A(2a)は、GPSアンテナ21を備え、複数のGPS衛星からGPS信号を受信して、GPS受信信号から時刻情報を取得する。
同様に、基地局B(2b)は、GPSアンテナ22を備え、GPS受信信号から時刻情報を取得する。
基地局2は、GPS受信信号から時刻情報を取得する代わりに、接続する有線ネットワークから、ネットワーク信号に含まれる時刻情報を取得してもよい。
これにより、本システム内の基地局2は、互いに時刻同期している。
【0032】
そして、基地局2は、移動局3から音声を受信すると、従来と同様に受信電界強度を検出すると共に、受信時刻を取得して、音声データに受信電界強度及び受信時刻を付して回線制御装置1に送信する。
【0033】
本無線通信システムの動作の概要について、移動局3が、基地局A(2a)の圏内から隣接する基地局B(2b)の圏内に移動する場合を例として説明する。
移動局3が
図1の左の位置にいる場合には、基地局A(2a)における受信音声の受信電界強度は強く、基地局B(2b)における受信音声の受信電界強度は弱い。
しかし、移動局3が移動して、右の位置に来ると、基地局A(2a)における受信音声の受信電界強度は弱く、基地局B(2b)における受信音声の受信電界強度は強くなる。
【0034】
回線制御装置1は、従来と同様に、移動局3からの音声を、基地局A(2a)、基地局B(2b)の両方から受信した場合、両者における受信電界強度を比較して、強い方の音声を採用して送出する。
そして、本無線通信システムの回線制御装置1では、音声の採用において、一方の基地局から他方の基地局への切り替えが発生した場合に、音声データに付された時刻情報を利用して、重複や欠落が発生しないように音声データを採用する処理を行う。
【0035】
[回線制御装置1に到達する音声:
図2]
本無線通信システムの回線制御装置1における音声採用について具体的に説明する前に、基地局のエリアが重複している場合の、回線制御装置1に到達する音声について
図2を用いて説明する。
図2は、回線制御装置に到達する音声を示す説明図である。
ここでは、回線制御装置1までの距離や伝送方式の違いによって、基地局A(2a)は基地局B(2b)に比べて遅延が小さいものとする。
【0036】
また、基地局2A(2a)と基地局2B(2b)の圏内が重なったエリアにおいて、移動局3と各基地局2との間の無線区域における遅延時間の差は小さいものとみなせるため、基地局A(2a)及び基地局B(2b)は、移動局3からの同一の音声フレームには同一の時刻情報を付して回線制御装置1に送信することになる。
【0037】
具体的には、回線制御装置1は、基地局A(2a)から、時刻情報t1、t2、…t5が付された移動局音声(移動局音声_t1,移動局音声_t1,…移動局音声_t5)を受信する。
有線回線における遅延が大きい基地局B(2b)からは、基地局A(2a)からの音声よりも遅れて、移動局音声_t1,移動局音声_t1,…移動局音声_t5を受信する。
ここで、有線回線による遅延時間は、最大でも1音声フレーム時間(40ms)であるため、基地局A(2a)と基地局B(2b)から受信する音声データの時間差も、最大で1音声フレーム時間となる。この時間を、最大遅延時間(最大遅延)と称するものとする。
図2では、わかりやすくするため、基地局B(2b)からの音声が、基地局A(2a)からの音声に比べて、1フレーム分遅延している場合を示している。
【0038】
つまり、
図2に示すように、回線制御装置1で受信する音声は、基地局A(2a)からの音声データに比べて、基地局B(2b)から受信する音声データは1フレーム分遅れており、同じ時刻で比較すると、基地局B(2b)からの音声データは時刻情報が1つ前のタイミングを示すものとなっている。
【0039】
本無線通信システムの回線制御装置1は、音声データを受信すると、基地局2に対応して、フレーム毎に、受信電界強度及び受信時刻を付して蓄積しておく。
そして、同一の移動局3からの音声データを複数の基地局2から受信した場合には、従来と同様に受信電界強度を比較して、蓄積された音声データから、受信電界強度が大きい方の基地局2の音声データを送出する。
尚、ここでは、回線制御装置1における音声データの蓄積量は2フレーム分として順次上書きし、音声データの受信から送出開始までの処理時間は、2フレーム時間とする。
音声データを蓄積するメモリは、例えばシフトレジスタ等で構成される。
【0040】
つまり、本無線通信システムの回線制御装置は、受信した音声データを、電界強度の大小に基づいて直ちに送出するのではなく、一旦蓄積した音声データを送出するようにしている。そして、その間に基地局の切り替えがあっても、蓄積された音声データの中から適切な音声データを選択して通話先に送出し、重複や欠落のない音声通信を実現するものである。
【0041】
[回線制御装置における動作例(1):
図3]
次に、回線制御装置1における動作例について説明する。まず、基地局切り替え時の音声データの重複を防ぐ動作について
図3を用いて説明する。
図3は、回線制御装置における動作例(1)の説明図であり、(a)(b)は回線制御装置における蓄積音声、(c)は回線制御装置1における採用音声の説明図である。
【0042】
図3(a)に示すように、回線制御装置1は、時刻T1で基地局A(2a)からの移動局音声_t1を受信して蓄積する。
また、
図3(b)に示すように、回線制御装置1は、時刻T2で、基地局A(2a)からの移動局音声_t2、基地局B(2b)からの移動局音声_t1を受信して、それぞれ蓄積する。
【0043】
時刻T3では、基地局A(2a)からの移動局音声_t3、基地局B(2b)からの移動局音声_t2を受信して、蓄積する。基地局A(2a)の移動局音声_t1は削除され、移動局音声_t3が代わりに記憶される。
以下、同様にして、受信音声が順次上書きされながら2フレーム分蓄積される。
時刻T4の時点では、音声を蓄積するメモリに、基地局A(2a)に対応して、移動局音声_t3及び移動局音声_t4が記憶されており、基地局B(2b)に対応して、移動局音声_t2及び移動局音声_t3が記憶されている。
【0044】
そして、回線制御装置1では、同一移動局3について複数の基地局2から音声を受信した場合、蓄積データからいずれかの基地局2の音声データを選択(採用)して、送出する。送出開始は、受信から2フレーム分遅れとしている。
図3(c)の例では、まず、電界強度の大きい基地局A(2a)のデータを採用し、時刻T3で(A)移動局音声_t1、時刻T4で(A)移動局音声_t2を送出する。
【0045】
時刻T5で、基地局B(2b)における受信電界強度が基地局Aにおける受信電界強度を上回ると、回線制御装置1は、採用音声を基地局A(2a)の音声から基地局B(2b)の音声に切り替える。
【0046】
その際、回線制御装置1は、前の送出タイミング(T4)で送出した音声データ((A)移動局音声_t2)の次の時刻情報(次のタイミングを示す時刻情報)が付された音声データ((B)移動局音声_t3)を基地局B(2b)の蓄積音声から読み出して送出する。
これにより、送出される音声データの時刻情報は、t1、t2、t3、…と連続することになり、切り替え前後での音声の重複を防ぐことができるものである。
【0047】
[回線制御装置における動作例(2):
図4]
次に、基地局切り替え時の音声データの欠落を防ぐ動作について
図4を用いて説明する。
図4は、回線制御装置における動作例(2)の説明図であり、(a)(b)は回線制御装置における蓄積音声、(c)は回線制御装置1における採用音声の説明図である。
図4(a)(b)は、
図3と同様であるため、説明は省略する。
音声欠落が発生するのは、有線回線における遅延が大きい基地局B(2b)から遅延が小さい基地局A(2a)に切り替えられる場合である。
【0048】
図4(c)に示すように、回線制御装置1では、受信から2フレーム分遅れて、蓄積された音声データの出力を開始し、時刻T4で電界受信強度の大きい基地局B(2b)からの音声データ(B)移動局音声_t1を送出し、時刻T5で(B)移動局音声_t2を送出する。
時刻T6で基地局B(2b)から基地局A(2a)への基地局切替が発生すると、回線制御装置1は、前の送出タイミング(T5)で送出した音声データ((B)移動局音声_t2)の次の時刻情報が付された音声データ((A)移動局音声_t3)を基地局A(2a)の蓄積音声から読み出して送出する。
これにより、基地局切り替え前後における音声の欠落を防ぐことができるものである。
【0049】
上述したように、本無線通信システムの回線制御装置1では、最大遅延時間を1フレーム時間として、音声データを2フレーム分蓄積すると共に、送出開始を受信から2フレーム時間遅れとしているため、通話中に、遅延が小さい基地局から大きい基地局への切り替え、又は遅延の大きい基地局から遅延が小さい基地局への切り替えのいずれが発生した場合でも、蓄積された2つの音声フレームの内のいずれかを出力することで時刻情報が連続する音声データを出力することができ、音声品質を向上させることができるものである。
【0050】
具体的には、遅延が小さい基地局から大きい基地局に切り替える場合には、切り替え後の基地局に対応して蓄積された2フレーム分の音声データから、遅いタイミングを示す時刻情報が付された音声データ(先に記憶された方のフレーム)を採用する。
逆に、遅延が大きい基地局から小さい基地局に切り替える場合には、切り替え後の基地局に対応して蓄積された2フレーム分の音声データから、早いタイミングを示す時刻情報が付された音声データ(後で記憶された方のフレーム)を採用する。
【0051】
[回線制御装置における音声採用の処理:
図5]
次に、本無線通信システムの回線制御装置における音声採用の処理について、
図5を用いて説明する。
図5は、回線制御装置における音声採用の処理を示すフローチャートである。
図5に示すように、回線制御装置1は、基地局2から音声データを受信すると(S1)、まず、音声データとそれに付された時刻情報とを対応付けて蓄積する(S2)。
【0052】
そして、回線制御装置1は、当該音声データの送信元である移動局3の音声データを、複数の基地局2から受信していないかどうかを判断する(S2)。
処理S2で、複数の基地局2から受信していない場合には、処理S7に移行して、蓄積された音声データを採用し、読み出して通話先に送出する(S7)。
【0053】
また、処理S3で複数の基地局2から受信していた場合には、回線制御装置1は、音声データに付された電界強度の大きい基地局を選択し(S4)、基地局切り替えが発生したかどうかを判断する(S5)。
処理S5で基地局切り替えが発生していない場合には、処理S7に移行して、選択された基地局2の蓄積音声から次の時刻情報の音声データを採用音声として読み出して送出する。
【0054】
また、処理S5で基地局切り替えが発生した場合には、処理S4で選択された基地局(切り替え後の基地局)の蓄積データから、前のタイミングで送出した音声データの時刻情報に続く時刻情報が付された音声データを特定する(S6)。このように、採用音声の時刻情報を連続させることにより、音声データの重複や欠落を防ぐものである。
そして、回線制御装置1は、当該音声データを採用音声として読み出して送出する。
このようにして、本無線通信システムの回線制御装置1における音声採用の処理が行われる。
【0055】
[実施の形態の効果]
本無線通信システムによれば、基地局2が、GPS信号やネットワーク信号から時刻情報を取得して基地局間で時刻同期しており、移動局3から音声データを受信すると、受信電界強度と共に受信時刻情報を付して回線制御装置1に送信し、回線制御装置1が、基地局2から音声データを受信すると、音声データと対応する時刻情報の組を特定時間分蓄積しておき、同一移動局3からの音声を複数の基地局2から受信した場合には、付された受信電界強度を比較して、大きい方の基地局2からの音声を採用して出力し、基地局2の切り替えが生じた場合には、切り替えの直前に出力した音声データに付された時刻情報に連続する時刻情報が付された音声データを、切り替え後の基地局2に対応して蓄積されたデータから選択して出力するようにしており、複数の基地局2の圏内が重複するエリアにおいても、音声データを時系列に重複や欠落することなく出力でき、音声品質を向上させることができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、複数の基地局の圏内が重複するエリアにおける音声品質を向上させることができる無線通信システムに適している。
【符号の説明】
【0057】
1,10…回線制御装置、 2,20…基地局、 3…移動局、 21,22…GPSアンテナ