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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】湿式吹付けコンクリート
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240626BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240626BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240626BHJP
   C04B 111/23 20060101ALN20240626BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/14 A
C04B18/14 Z
C04B22/06 Z
C04B111:23
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021054365
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022151337
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】593225161
【氏名又は名称】米倉 亜州夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107205
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】米倉 亜州夫
(72)【発明者】
【氏名】廣中 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 光
(72)【発明者】
【氏名】倉田 桂政
(72)【発明者】
【氏名】三島 俊一
(72)【発明者】
【氏名】串橋 巧
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-199287(JP,A)
【文献】特開2001-316150(JP,A)
【文献】特開2002-080262(JP,A)
【文献】特開2020-016028(JP,A)
【文献】特開2012-106905(JP,A)
【文献】特開2020-164396(JP,A)
【文献】特開2002-293603(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043568(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/045511(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/037729(WO,A1)
【文献】特開2019-043793(JP,A)
【文献】特開平08-245255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 111/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースコンクリートと、該ベースコンクリートに後添加される急結剤との組み合わせを含む湿式吹付けコンクリートであって、
前記ベースコンクリートは、セメント、シリカヒューム及び高炉スラグ微粉末を含有する水硬性材料を含み、
前記セメント、前記シリカヒューム及び前記高炉スラグ微粉末の質量比が2:1:1であり、
前記ベースコンクリートは、更に水、細骨材、粗骨材及び減水剤を含み、
前記減水剤は、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤であり、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができ、
前記減水剤は、前記水硬性材料に対して1.2質量%以上1.9質量%以下含まれ、
前記ベースコンクリートは、前記水硬性材料に対する前記水の比率W/Bが40%以上60%以下であり、
前記ベースコンクリートのスランプ値が9.5cm以上21.0cm以下であり
前記急結剤がカルシウムアルミネートを含む粉末急結剤である、湿式吹付けコンクリート。
【請求項2】
前記水硬性材料に対して前記急結剤が6.0質量%以上11.0質量%以下添加される、請求項1に記載の湿式吹付けコンクリート。
【請求項3】
前記ベースコンクリートが、水溶性高分子からなる粉塵低減剤を更に含む、請求項1又は2に記載の湿式吹付けコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式吹付けコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
NATM等の山岳トンネル工法における吹付けコンクリートは、ロックボルトともに最も主要な支保部材である。具体的には、山岳トンネル工法では、掘削により露出した地山面に吹き付けられた吹付けコンクリート、地山面に沿って組み立てられた鋼製支保工、地山に打設されたロックボルト等を備えたトンネル支保工により安全性を確保している。
吹付けコンクリートに関しては、吹付け機械、吹付け材料及び施工性などの分野で開発や改良が進み、技術性能の向上と実用化がなされてきた。
例えば特許文献1には、地山を掘削する掘削工程と、地山の掘削により露出した地山面に吹付けコンクリートを吹き付ける支保工程と、を備えるトンネル施工方法において、吹付けコンクリートとして、中庸熱セメントと、高炉スラグ粉末と、シリカヒューム粉末と、高性能減水剤と、骨材と、急結剤と、水とを含み、且つ、特定のヤング係数及び圧縮強度を有するものを用いることが提案されている。このような吹付けコンクリートを用いることで、該吹付けコンクリートにひび割れが生じることや圧縮破壊が発生することが防止される、と同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-016028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、土木工事において、黄鉄鉱等を多く含む地盤を掘削すると地下水が酸性化することがある。地下水の酸性化は、硫化物を含む岩石が酸素と接触することで酸化して生じた硫酸イオンが、地下水に溶けた結果生じるものである。例えば温泉地や酸性岩盤地帯では、pHが低い強酸性の湧水が生じることがある。
【0005】
一般的なセメント系材料は硫酸によって劣化し易いことが知られている。この事情は、上述した吹付けコンクリートにおいても同様である。吹付けコンクリートは、上述のとおり山岳トンネルの掘削面に施工されることがあることから、酸性の地下水とコンクリートとが接触することに起因するコンクリートの劣化を抑制する必要がある。
したがって本発明の課題は、従来のコンクリートと同等の強度を示しつつ、耐酸性に優れた湿式吹付けコンクリートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ベースコンクリートと、該ベースコンクリートに後添加される急結剤との組み合わせを含む湿式吹付けコンクリートであって、
前記ベースコンクリートは、セメント、シリカヒューム及び高炉スラグ微粉末を含有する水硬性材料を含み、
前記セメント、前記シリカヒューム及び前記高炉スラグ微粉末の質量比が2:1:1であり、
前記ベースコンクリートは、前記水硬性材料に対する水の比率W/Bが60%以下であることを条件として、該ベースコンクリートのスランプ値が9.5cm以上21.0cm以下となるような量の減水剤を含み、
前記急結剤がカルシウムアルミネートを含む粉末急結剤である、湿式吹付けコンクリートを提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来のコンクリートと同等の強度を示しつつ、耐酸性に優れた湿式吹付けコンクリートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は湿式吹付けコンクリートに関する。吹付けコンクリートは乾式と湿式に大別される。乾式吹付けコンクリートは、水と急結剤以外の材料をドライミックスした後、圧縮空気によってノズルまで圧送し、ノズルの直前で別のポンプで送られてきた水及び急結剤と混合して対象物に吹き付ける方法である。一方、本発明に係る湿式吹付けコンクリートでは、急結剤以外の材料を練混ぜた後(ウェットミックス)、該材料を圧縮空気又はポンプでノズルまで圧送し、ノズルの直前で別のポンプで送られてきた急結剤と混合して対象物に吹き付ける。したがって、湿式吹付けコンクリートは、急結剤以外の材料と、該材料に後添加される急結剤との組み合わせを含んでなる。
【0009】
本発明における湿式吹付けコンクリートにおいて、上述した「急結剤以外の材料」とは、ベースコンクリート、すなわち急結剤が添加される前の状態のコンクリートのことである。ベースコンクリートは、セメントを含んで構成される。これに加えてベースコンクリートは、シリカヒューム及び高炉スラグ微粉末を含有することが好ましい。本明細書においては、セメント、シリカヒューム及び高炉スラグ微粉末のことを「水硬性材料」と呼ぶこととする。以下、水硬性材料を構成する成分についてそれぞれ説明する。
【0010】
水硬性材料の一つであるセメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント又はアルミナセメント等が挙げられる。これらのセメントは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。これらのセメントのうち、ポルトランドセメント又は高炉セメントを用いることが好ましい。
ポルトランドセメント又は高炉セメントという表現には、いずれか一方のみを用いる場合と両者を併用する場合とが含まれる。ポルトランドセメントは、JIS R 5210に規定されるポルトランドセメントが好ましく、普通、早強、超早強又は中庸熱などのポルトランドセメントのうち、いずれの種類のポルトランドセメントでもよい。また、高炉セメントとしては、スラグ比率によって区分されるA種(5~30%)、B種(30~60%)、C種(60~70%)の三種のうち、いずれの種類の高炉セメントでもよい。
【0011】
シリカヒュームは、金属シリコン又はフェロシリコンをアーク式電気炉で製造するときに発生する排ガス中のダストを集塵して得られる超微粒子であり、ポゾラン反応性を有する。シリカヒュームをセメントと併用し、セメントの使用割合を減少させることにより、セメントと水との水和反応による水酸化カルシウムの生成の抑制と、生成された水酸化カルシウムとシリカヒュームの急速なポゾラン反応により、水和初期の水酸化カルシウムが消費され、硫酸と反応して生成される二水石膏が減少し、湿式吹付けコンクリートの耐酸性が向上する。シリカヒュームとしては、コンクリート及びモルタルに混和材料として従来用いられているシリカヒュームを特に制限なく用いることができる。シリカヒュームの粒度及び粉末度は、特に制限されないが、例えばJIS A 6207に規定される範囲が好ましい。
【0012】
高炉スラグ微粉末は、銑鉄製造過程で生成する高炉水砕スラグを乾燥及び粉砕した微粉末であり、潜在水硬性を有する。高炉スラグ微粉末をセメントと併用し、セメントの使用割合を減少させることにより、セメントと水との水和反応による水酸化カルシウムの生成の抑制と、水和中・長期で生成された水酸化カルシウムと高炉スラグ微粉末との潜在水硬性による反応により、水和中・長期での水酸化カルシウムが消費され、硫酸と反応して生成される二水石膏が減少し、湿式吹付けコンクリートの耐酸性が向上する。また高炉スラグ微粉末は、潜在水硬性を有することから、高炉スラグ微粉末をセメントと併用することによって、セメントの使用割合の低下に伴う強度低下を抑制して、湿式吹付けコンクリートに、耐酸性に加えて高い強度を付与することができる。高炉スラグ微粉末は、比表面積に応じて、微粉末3000、微粉末4000、微粉末6000、微粉末8000の4種類がJISに規格化されており、いずれも使用可能であるが、比表面積が3500cm/g以上5000cm/g未満の微粉末4000を用いることが好ましい。
【0013】
セメント、シリカヒューム及び高炉スラグ微粉末を含有する水硬性材料における各成分の配合割合は、本発明の湿式吹付けコンクリートの耐酸性が高まるように調整されることが好ましい。この観点から、水硬性材料においては、セメントの配合量を100質量部としたとき、シリカヒュームの配合量が45質量部以上55質量部以下であることが好ましく、48質量部以上52質量部以下であることが更に好ましい。一方、高炉スラグ微粉末に関しては、セメントの配合量を100質量部としたとき、高炉スラグ微粉末の配合量が45質量部以上55質量部以下であることが好ましく、48質量部以上52質量部以下であることが更に好ましい。
【0014】
湿式吹付けコンクリートの耐酸性を一層高める観点から本発明者が検討した結果、セメント(C)、シリカヒューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)の質量比(C:SF:BFS)を2:1:1として用いることが有利であることが判明した。具体的には、水硬性材料に含まれるセメント(C)、シリカヒューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)を、前記の質量比(つまりC:SF:BFS=2:1:1)に設定し、湿式吹付けコンクリートの他の構成成分と配合し、更に急結剤として特定の物質を使用することが、湿式吹付けコンクリートの耐酸性を高める点から好ましい。急結剤と混合後の湿式吹付けコンクリートにおける、セメント(C)、シリカヒューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)の質量比も基本的に前記と同じである。
C:SF:BFS=2:1:1に設定することで、すなわち質量基準で、シリカヒューム(SF)と高炉スラグ微粉末(BFS)とを同量使用し、セメント(C)をそれらの2倍量用いることにより、セメントの使用量の抑制等による優れた耐酸性、シリカヒュームの初期における急速なポゾラン反応性によるセメントと水との水和反応によって生成された水和初期の水酸化カルシウムの消費による耐酸性の向上、及び高炉スラグ微粉末の潜在水硬性等による水和中・長期における優れた水酸化カルシウムの消費と強度発現性等により、耐酸性及び強度に優れた硬化体を生じる湿式吹付けコンクリートが得られる。その上、圧送性や定着性等の、湿式吹付けコンクリートに要求される他の性能に優れた湿式吹付けコンクリートの設計が容易となる。
また、C:SF:BFS=2:1:1に設定した水硬性材料を含むベースコンクリートと、後述する急結剤とを組み合わせて用いることによって、後述する実施例の結果から明らかなとおり、コンクリートの吹付け時における該コンクリートの跳返りを抑制できるという利点もある。跳返りの抑制は、水硬性材料に含まれるシリカヒューム及び高炉スラグ微粉末など、セメントよりも小粒径の材料の作用によって一層顕著なものとなる。
【0015】
本明細書において「C:SF:BFS=2:1:1に設定する」というときには、水硬性材料の調製時における不可避的な配合量の変動、例えばセメント(C)に対してシリカヒューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)がそれぞれ独立に±5質量%程度の範囲で変動することを許容する。
【0016】
ベースコンクリートには、上述した水硬性材料の他に、水(W)、細骨材(S)、粗骨材(G)及び減水剤(G)が配合されてもよい。
細骨材(S)としては、モルタルやコンクリートに従来使用されている各種公知のものを特に制限なく用いることができる。細骨材は、10mmふるいをすべて通過し、5mm以下のものが85質量%以上含まれるものが好ましい。細骨材は、通常、細砂、粗砂、4~6号珪砂等の砂であり、山砂、川砂、海砂、人工細砂等を用いることができる。これらの細骨材は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。細骨材としては、施工性(圧送性や充填性)や乾燥収縮の低減等の観点から、粒径2.5mm以下の細砂等の砂を用いることが好ましい。
粗骨材(G)としては、例えば砂利、砕石、石灰石粗骨材等のJIS A 5005「コンクリート用砕石及び砕砂」に規定される粗骨材を用いることができる。これらの粗骨材は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ベースコンクリートにおける細骨材(S)及び粗骨材(G)の配合量は、従来の湿式吹付けコンクリートにおける細骨材(S)及び粗骨材(G)の配合量と同様に設定することができる。
【0017】
ベースコンクリートにおいては、水硬性材料(B)に対する水(W)の比率(すなわち水結合材比)W/Bが60%以下であることが、湿式吹付けコンクリートの流動性及び圧縮強度の向上等の観点から好ましい。この観点からW/Bは、40%以上60%以下であることが一層好ましい。
W/BにおけるWは単位水量(kg/m)を表し、Bは単位水硬性材料量(kg/m)を表す。水としては、上水や工業用水等の、モルタルやコンクリートの調製に従来用いられている各種の水を用いることができる。
【0018】
ベースコンクリートにおいては、前記の水硬性材料に、細骨材(S)、粗骨材(G)及び水(W)を配合すること加えて減水剤を配合し、上述したW/Bが60%以下であることを条件として、スランプ値を9.5cm以上21.0cm以下とすることが、ベースコンクリートの流動性や硬化後のコンクリートの強度の点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、スランプ値を11.5cm以上20.5cm以下とすることが更に好ましい。
【0019】
減水剤としては、当該技術分野においてこれまで用いられているものを特に制限なく用いることができる。AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤が挙げられる。減水剤は、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤であることが好ましく、特に、高性能減水剤又は高性能AE減水剤であることが好ましい。これらの減水剤は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
高性能減水剤としては、例えば、アルキルアリルスルホン酸塩(例えばナフタリンスルホン酸塩)、メラミンスルホン酸塩、ポリカルボン酸系化合物を主成分とするものが挙げられる。
高性能AE減水剤は、一般に、ポリカルボン酸系、ナフタリン系、アミノスルホン酸系及びメラミン系の4種類に分類されており、いずれを使用することもできる。
減水剤は、液状、粉状又はペースト状のものを用いることができる。
また減水剤は、一般的な粉体の減水剤として容易に入手可能である等の観点から、アリルスルホン酸系化合物又はポリカルボン酸系化合物からなるものを用いることが好ましい。アリルスルホン酸系化合物又はポリカルボン酸系化合物からなるものには、アリルスルホン酸系化合物又はポリカルボン酸系化合物を主成分とする粉体も含まれる。
【0020】
ベースコンクリートは、更に粉塵低減剤を含むことが、粉塵低減の観点、及びポンプ圧送性の向上の観点から好ましい。この観点から、粉塵低減剤として、各種の水溶性高分子を用いることが有利である。
水溶性高分子からなる粉塵低減剤としては、例えば水溶性セルロースエーテルや、ポリカルボン酸系重合体を用いることができる。
【0021】
水溶性セルロースエーテルとしては、例えばヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース (HPC)、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース (HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース (HPMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)等が挙げられる。ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。
ポリカルボン酸系重合体としては、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸塩、マレイン酸エステル等のマレイン酸系化合物;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸塩、メタクリル酸塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸系化合物;カルボキシル基を有する不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体等の単量体の重合体が挙げられる。重合体は、一種の単量体の単独重合体でも、二種以上の共重合体でもよい。また、これらの単量体の一種又は二種以上と、スチレンやカルボキシル基を有しない不飽和(ポリ)アルキレングリコールエーテル系単量体等他のビニル型単量体の一種又は二種以上との共重合体でもよい。
【0022】
粉塵低減剤は、ベースコンクリート中の水硬性材料(B)に対して、0.05質量%以上0.15質量%以下配合されることが好ましい。
【0023】
本発明においては、上述した各種成分が配合されたベースコンクリートと、急結剤とを混合して、吹付け用の水硬性組成物、すなわち湿式吹付けコンクリートを調製し、該湿式吹付けコンクリートを対象物に吹き付ける。急結剤とはセメントの水和反応を著しく早め、凝結時間を短縮するために用いられるセメント混和剤のことである。急結剤としては、例えば無機塩系急結剤、セメント鉱物系急結剤、天然鉱物系急結剤、及び水ガラス系急結剤が挙げられる。
無機塩系急結剤としては、例えばアルミン酸塩及び炭酸塩が挙げられる。セメント鉱物系としてはカルシウムアルミネート、及びカルシウムサルホアルミネート、更にこれに石膏や無機塩系急結剤を添加したものもが挙げられる。
また、急結剤は、酸性のものとアルカリ性のものに大別されるところ、本発明においてはアルカリ性の急結剤を用いることが好ましい。この理由は、酸性の急結剤を、上述した高炉スラグ微粉末を含有するセメントと併用すると、酸性の急結剤が高炉スラグ微粉末と反応して塩化水素を発生させるおそれがあるところ、アルカリ性の急結剤を用いた場合にはそのようなおそれがないからである。
以上の観点、及び湿式吹付けコンクリートの耐酸性を高める観点から。アルカリ性のセメント鉱物系急結剤を用いることが好ましく、カルシウムアルミネートを含む粉末急結剤を用いることが特に好ましい。
【0024】
本明細書において「カルシウムアルミネート」とは、カルシアを含む原料と、アルミナを含む原料とを混合して、キルンでの焼成、電気炉での溶融などの熱処理をすることによって得られる、CaO及びAlを主成分とした水和活性を有する化合物の総称である。主成分とは、全体に占める割合が50質量%を超えることを意味する。
【0025】
カルシウムアルミネートの例としては、CaO及び/又はAlの一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化合物、アルカリ土類金属ハロゲン化合物、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ土類金属硫酸塩などの物質と置換した化合物;CaO及びAlを主成分とした化合物に、前記の物質が少量固溶した化合物が挙げられる。
カルシウムアルミネートの鉱物形態は、特に限定されず、結晶質、非晶質、又はそれらが混在していてもよい。
カルシウムアルミネートのAlに対するCaOのモル比(CaO/Al)は、特に限定されないが、好ましくは2.0以上2.6以下である。モル比をこの範囲内に設定することで、十分な初期強度を発現させることができ且つ十分な長期強度も発現させることができる。
カルシウムアルミネートを含む急結剤は、アルミン酸ナトリウムを非含有であることが、安全性の観点から好ましい。本明細書において「アルミン酸ナトリウムを非含有である」とは、カルシウムアルミネートを含む急結剤に意図的にアルミン酸ナトリウムを含有させることを排除する趣旨である。したがって、カルシウムアルミネートを含む急結剤に、意図せず、不可避的に、アルミン酸ナトリウムが含有されていることは妨げられない。
【0026】
急結剤の形態は特に限定されない。急結剤は、例えば粉体、液体、懸濁液状、スラリー状などであり得る。特に粉体の急結剤を用いることが、凝結時間の短縮の観点から好ましい。
【0027】
急結剤は、ベースコンクリートにおける水硬性材料に対して6.0質量%以上11.0質量%以下添加されることが、十分な初期強度及び長期強度を発現させる観点から有利である。急結剤を6.0質量%以上添加することで、吹付けコンクリートとして満足すべき性能を得ることができる。また、急結剤を11.0質量%以下添加することで、十分に高い長期強度を得ることができる。特に、極初期の凝結性を高める観点から、とりわけ、アルミン酸ナトリウムを非含有であるカルシウムアルミネートを含む急結剤についての極初期の凝結性を高める観点から、急結剤は、水硬性材料に対して6.6質量%以上10.9質量%以下添加されることが更に好ましく、9.9質量%以上10.9質量%以下添加されることが一層好ましい。
【0028】
本発明の湿式吹付けコンクリートは、水硬性材料として普通ポルトランドセメントのみを用いた場合と比較して、硬化後のコンクリートの強度及びベースコンクリートの送液性を高い状態に保ちつつ、耐酸性に優れたものとなる。本発明の湿式吹付けコンクリートは、その高い耐酸性を活かして、酸性化した地下水が滲出する施工箇所に適用することが有利である。特に本発明の湿式吹付けコンクリートは、山岳トンネルの築造工事における、掘削後のトンネルの内面に適用することが好ましい。
【実施例
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0030】
〔実施例1及び2並びに比較例1〕
(1)ベースコンクリートの調製
以下の表1に示す配合のベースセメントを調製した。具体的には、セメント(C)、シリカヒューム(SF)及び高炉スラグ微粉末(BFS)を、C:SF:BFS=2:1:1の質量比で含有する水硬性材料(B)を調製し、その水硬性材料(B)に、細骨材(S)、粗骨材(G)、水(W)、減水剤及び粉塵低減剤を、同表に示す割合となるように配合し、フレッシュコンクリートであるベースコンクリートを得た。
【0031】
表1中の記号は以下を示す。
C:普通ポルトランドセメント(密度3.15g/cm
SF:シリカヒューム(密度2.3g/cm
BFS:高炉スラグ微粉末(密度2.9g/cm
S:細骨材(川砂、絶乾密度2.61g/cm
G:粗骨材(砕石6号、絶乾密度2.68g/cm
W:水(上水)
減水剤:粉体高性能減水剤、アリルスルホン酸系化合物
粉塵低減剤:水溶性高分子
急結剤:粉末カルシウムアルミネート(アルミン酸ナトリウム含有)
【0032】
このようにして得られたベースコンクリートについて、JIS A 1101「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠してスランプ値を測定した。その結果を表2に示す。
【0033】
(2)湿式吹付けコンクリートの吹付け
前記(1)で得られたベースコンクリートと、急結剤とを、表1に示す割合で混合して模擬山岳トンネルの内面に吹き付けた。ベースコンクリートの吐出量は10m/hrに設定した。
吹き付けたコンクリートについて、以下の方法で圧縮強度(プルアウト圧縮強度及びコア28日圧縮強度)を測定した。また、以下の方法で耐硫酸試験を行った。更に、以下の方法で跳返り率を測定した。それらの結果を以下の表2に示す。
【0034】
〔圧縮強度(プルアウト圧縮強度)〕
土木学会コンクリート標準示方書JSCE-F-561「吹付けコンクリート(モルタル)の圧縮強度試験用供試体の作り方(案)」に準拠し、プルアウト試験用皿にコンクリートを吹き付けて供試体を作製した。そして、JSCE-G-561「引抜き方法による吹付けコンクリートの初期強度試験方法」に準拠して供試体の圧縮強度を測定した。測定は、20℃で24時間気中養生後に行った。
【0035】
〔圧縮強度(コア28日圧縮強度)〕
土木学会コンクリート標準示方書JSCE-F-561「吹付けコンクリート(モルタル)の圧縮強度試験用供試体の作り方(案)」に準拠し、パネル型枠にコンクリートを吹き付けた。吹付け後、温度20℃、湿度80%RHの恒温室で3日間気中養生を行った。3日経過後、コアリングして供試体を得、該供試体を20℃で28日間水中養生した。28日経過後、供試体の圧縮強度をJIS A 1107「コンクリートからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法」に準拠して測定した。
【0036】
〔耐硫酸試験〕
「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」-断面修復用モルタルに関する品質試験方法(5)耐硫酸性に準拠して測定した。コンクリートを吹き付けてから5日後にコアブロックから供試体を切り出し(直径75mm、高さ150mm)、28日間、20℃±2℃で水中養生した。その後、5%硫酸水溶液に28日間浸漬した。硫酸水溶液は7日毎に全量を取り替えた。硫酸水溶液から引き上げた供試体の表面の水分を拭き取り、速やかに質量測定を行い、質量変化率を算出した。
【0037】
〔跳返り率〕
土木学会コンクリート標準示方書JSCE-G-561に準拠して測定した。
【0038】
〔実施例3及び4並びに比較例2〕
以下の表1に示す配合のベースセメントを調製した。ベースコンクリートのスランプ値は表2に示すとおりであった。
調製したベースコンクリートと急結剤とを表1に示す割合で混合して、湿式吹付けコンクリートを得た。急結剤として粉末カルシウムアルミネート(アルミン酸ナトリウムを非含有)を用いた。この湿式吹付けコンクリートについて、圧縮強度を測定した。また耐硫酸試験を行った。それらの結果を表2に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すプルアウト圧縮強度の測定結果においては、すべての実施例において、一般的な規格値である5.0N/mmを超える数値が達成されていることが分かる。
また、同表に示すコア28日圧縮強度の結果から明らかなとおり、各実施例で得られた湿式吹付けコンクリートは、比較例のコンクリートに比べて圧縮強度が高いものであることが分かる。
更に、同表に示す耐硫酸試験の結果から明らかなとおり、各実施例で得られた湿式吹付けコンクリートは、比較例のコンクリートに比べて耐酸性に優れることが分かる。