(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】床版吊り上げ治具及び床版吊り上げ方法
(51)【国際特許分類】
E01D 24/00 20060101AFI20240626BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20240626BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
E01D24/00
E04G21/16
E04G23/08 Z
(21)【出願番号】P 2021121816
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】新井 崇裕
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-506505(JP,A)
【文献】実公昭49-036687(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
E04G 21/14-21/16
E04G 23/08
B66C 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床版を吊り上げる床版吊り上げ治具であって、
前記床版に形成された孔に挿入されると共に下端に前記孔の内径よりも小さい外径を有する第1拡径部が形成された芯棒と、
前記芯棒が挿通される筒状部、及び前記筒状部の下端において拡径可能とされた第2拡径部を有する拡径部材と、
前記芯棒の外面に対向する位置において前記拡径部材を吊り下げる吊り下げ部材と、
を備え、
前記拡径部材は、前記芯棒に沿って移動可能とされており、前記芯棒に対して下方に移動した状態で前記筒状部が前記第1拡径部に引っ掛かると共に前記第2拡径部が拡径し、
拡径した前記第2拡径部の外径の最大値が前記孔の内径よりも大き
く、
前記吊り下げ部材は、前記芯棒の外面に支持されたワイヤを含み、
前記吊り下げ部材は、前記ワイヤの上端に位置する環状部を有し、
前記芯棒は、前記芯棒の外面に固定されたフック部を有し、
前記ワイヤは、前記環状部が前記フック部に引っ掛けられることによって前記外面に支持される、
床版吊り上げ治具。
【請求項2】
前記拡径部材は、前記筒状部に対して前記筒状部の径方向に沿って前記第2拡径部を揺動可能に支持するヒンジ部を有する、
請求項1に記載の床版吊り上げ治具。
【請求項3】
前記芯棒は、前記第1拡径部の下端に位置する縮径部を有する、
請求項1又は2に記載の床版吊り上げ治具。
【請求項4】
床版を吊り上げる床版吊り上げ方法であって、
前記床版に孔を形成する工程と、
床版吊り上げ治具の芯棒の第1拡径部を前記孔に挿入する工程と、
前記芯棒が挿通される筒状部、及び前記筒状部に対して拡径可能とされた第2拡径部を有する拡径部材を前記孔に挿入する工程と、
前記第2拡径部を拡径させて前記第2拡径部を前記床版に引っ掛ける工程と、
前記第2拡径部が引っ掛かった状態で前記芯棒を引き上げて前記床版を吊り上げる工程と、
を備え
、
前記床版吊り上げ治具は、前記芯棒の外面に対向する位置において前記拡径部材を吊り下げる吊り下げ部材を有し、
前記吊り下げ部材は、前記芯棒の外面に支持されたワイヤを含み、
前記吊り下げ部材は、前記ワイヤの上端に位置する環状部を有し、
前記芯棒は、前記芯棒の外面に固定されたフック部を有し、
前記ワイヤは、前記環状部が前記フック部に引っ掛けられることによって前記外面に支持される、
床版吊り上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、床版を吊り上げる床版吊り上げ治具及び床版吊り上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から床版を吊り上げる床版吊り上げ装置及び床版吊り上げ方法については種々のものが知られている。特開2001-81731号公報には、老朽化等によって交換が必要となったコンクリート床版を解体する床版解体装置が記載されている。この床版解体装置は、床版の上面に配置される一対の基台と、一対の基台を掛け渡すと共に床版の上方において水平方向に延在する梁部材と、梁部材を鉛直方向に貫通する一対のねじ付き鋼棒とを備える。
【0003】
撤去対象の床版は予め切断されており、撤去対象の床版の左右両側に位置する床版の上面に基台が配置される。梁部材は撤去対象の床版の上方に位置しており、一対のねじ付き鋼棒のそれぞれは撤去対象の床版に形成された貫通孔を鉛直方向に貫通している。撤去対象の床版の各貫通孔の下側にはアンカープレート及びナットが配置され、各ねじ付き鋼棒の下端はアンカープレートを鉛直方向に貫通した状態でナットに螺合されることによって撤去対象の床版に固定される。
【0004】
梁部材の上面にはアンカープレート及びナットが配置され、各ねじ付き鋼棒の上端はアンカープレートを鉛直方向に貫通した状態でナットに螺合されることによって梁部材に固定される。各ねじ付き鋼棒の上端はナットから上方に突出しており、各ねじ付き鋼棒の上方に突出した部分には電動式レンチが装着される。この電動式レンチが梁部材に固定されているナットを回転させることによりねじ付き鋼棒が上昇し、各ねじ付き鋼棒の上昇に伴って撤去対象の床版が上昇して解体される。解体された床版は、現場から撤去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した床版解体装置では、撤去対象の床版に鉛直方向に貫通する貫通孔を形成し、貫通孔にねじ付き鋼棒が挿通される。そして、撤去対象の床版の貫通孔の下側には、アンカープレート、及びねじ付き鋼棒が螺合するナットが配置される。貫通孔の下側にアンカープレート及びナットを配置する作業は人手で行う必要がある。このため、撤去対象の床版に対する装置の設置が煩雑であり、床版の吊り上げに伴う作業の作業性において改善の余地がある。
【0007】
本開示は、床版の吊り上げに伴う作業を容易に行うことができる床版吊り上げ治具及び床版吊り上げ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る床版吊り上げ治具は、床版を吊り上げる床版吊り上げ治具であって、床版に形成された孔に挿入されると共に下端に孔の内径よりも小さい外径を有する第1拡径部が形成された芯棒と、芯棒が挿通される筒状部、及び筒状部の下端において拡径可能とされた第2拡径部を有する拡径部材と、芯棒の外面に対向する位置において拡径部材を吊り下げる吊り下げ部材と、を備え、拡径部材は、芯棒に沿って移動可能とされており、芯棒に対して下方に移動した状態で筒状部が第1拡径部に引っ掛かると共に第2拡径部が拡径し、拡径した第2拡径部の外径の最大値が孔の内径よりも大きく、吊り下げ部材は、芯棒の外面に支持されたワイヤを含み、吊り下げ部材は、ワイヤの上端に位置する環状部を有し、芯棒は、芯棒の外面に固定されたフック部を有し、ワイヤは、環状部がフック部に引っ掛けられることによって外面に支持される。
【0009】
この床版吊り上げ治具では、床版に形成された孔に挿入される芯棒が第1拡径部を有し、第1拡径部は当該孔の内径よりも小さい。床版吊り上げ治具は芯棒に挿通される拡径部材を有し、拡径部材は芯棒が挿通される筒状部と筒状部の下端において拡径可能とされた第2拡径部とを備える。拡径部材は、芯棒の外面に対向する位置において吊り下げ部材によって吊り下げられており、芯棒に沿って上下に移動可能とされている。拡径部材では、芯棒に対して下方に移動したときに筒状部が第1拡径部に引っ掛かると共に、第2拡径部は第1拡径部に沿って下方に移動しながら拡径する。そして、下方に移動して拡径した第2拡径部の外径の最大値は孔の内径よりも大きい。従って、孔に芯棒の第1拡径部を挿入した状態で第2拡径部を拡径させることにより、孔の内径よりも大きい第2拡径部を孔に引っ掛けることができる。この状態で芯棒を引き上げることにより、第2拡径部が孔に引っ掛かった状態で床版を吊り上げることができるので、孔の下側にアンカープレート又はナット等を配置する作業を不要とすることができる。従って、床版の吊り上げに伴う作業を容易に行うことができる。
【0010】
拡径部材は、筒状部に対して筒状部の径方向に沿って第2拡径部を揺動可能に支持するヒンジ部を有してもよい。この場合、第2拡径部は、ヒンジ部を介して筒状部に揺動可能に支持される。従って、筒状部に対する第2拡径部の拡径をスムーズに行うことができる。
【0011】
芯棒は、第1拡径部の下端に位置する縮径部を有してもよい。この場合、縮径部が芯棒の下端に位置するので、芯棒の下方に位置する床版の孔に芯棒を挿入しやすくすることができる。すなわち、縮径部を下方に向けた状態で孔の上から芯棒を挿入することにより、孔に対して芯棒が引っ掛かる可能性を低減できるので、孔への芯棒の挿入をスムーズに行うことができる。
【0012】
拡径部材を吊り下げる吊り下げ部材として、簡易な構造のワイヤを用いることができる。また、吊り下げ部材の構造を簡易にすることができるので、吊り下げ部材のハンドリング性を良好にすることができる。
【0013】
環状部をフック部に引っ掛けることによって芯棒の外面にワイヤを支持することができる。よって、吊り下げ部材の構成を簡易にすることができる。
【0014】
本開示に係る床版吊り上げ方法は、床版を吊り上げる床版吊り上げ方法であって、床版に孔を形成する工程と、床版吊り上げ治具の芯棒の第1拡径部を孔に挿入する工程と、芯棒が挿通される筒状部、及び筒状部に対して拡径可能とされた第2拡径部を有する拡径部材を孔に挿入する工程と、第2拡径部を拡径させて第2拡径部を床版に引っ掛ける工程と、第2拡径部が引っ掛かった状態で芯棒を引き上げて床版を吊り上げる工程と、を備え、床版吊り上げ治具は、芯棒の外面に対向する位置において拡径部材を吊り下げる吊り下げ部材を有し、吊り下げ部材は、芯棒の外面に支持されたワイヤを含み、吊り下げ部材は、ワイヤの上端に位置する環状部を有し、芯棒は、芯棒の外面に固定されたフック部を有し、ワイヤは、環状部がフック部に引っ掛けられることによって外面に支持される。
【0015】
この床版吊り上げ方法では、床版に孔を形成し、形成した孔に芯棒の第1拡径部を挿入する。芯棒には拡径部材の筒状部が挿通されており、拡径部材は筒状部に対して拡径可能とされた第2拡径部を有する。芯棒の第1拡径部が挿入された床版の孔に拡径部材を挿入し、拡径部材の第2拡径部を床版の孔に対して拡径させて第2拡径部を床版に引っ掛ける。そして、第2拡径部が床版に引っ掛かった状態で芯棒を引き上げることによって床版を吊り上げる。従って、第2拡径部が床版に引っ掛かった状態で芯棒を引き上げることによって床版を吊り上げることができるので、孔の下側にアンカープレート又はナット等を配置する作業を不要とすることができる。よって、床版の吊り上げに伴う作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、床版の吊り上げに伴う作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る床版吊り上げ治具を示す側面図である。
【
図4】(a)、(b)及び(c)は、
図1の床版吊り上げ治具の拡径部材のヒンジ部の例を示す断面図である。
【
図5】
図1の床版吊り上げ治具の芯棒の第1拡径部、及び拡径部材の第2拡径部を拡大した断面図である。
【
図6】(a)は、
図1の床版吊り上げ治具の拡径部材を吊り下げる吊り下げ部材を示す側面図である。(b)は、(a)の吊り下げ部材及び芯棒を示す断面図である。
【
図7】
図1の床版吊り上げ治具と床版を示す断面図である。
【
図8】
図1の床版吊り上げ治具と床版を示す平面図である。
【
図9】実施形態に係る床版吊り上げ方法の一工程を示す断面図である。
【
図13】変形例に係る床版吊り上げ方法の一工程を示す断面図である。
【
図16】変形例に係る床版吊り上げ治具を示す断面図である。
【
図17】(a)及び(b)は、床版に形成される孔の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本開示に係る床版吊り上げ治具及び床版吊り上げ方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。図面の説明について同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易化のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0019】
図1は、本実施形態に係る床版吊り上げ治具1を示す側面図である。床版吊り上げ治具1は、床版C(
図7参照)を吊り上げる。具体的には、本実施形態に係る床版吊り上げ治具1は、コンクリート床版である床版Cを吊り上げるときに用いられる治具である。床版Cの吊り上げは、例えば、床版Cの更新、床版Cの撤去、又は床版Cの新設、のときに行われる。床版吊り上げ治具1は、床版Cの厚さ方向である長手方向D1に沿って延在する芯棒10と、芯棒10に挿通された拡径部材20と、芯棒10の外面に対向する位置において拡径部材20を吊り下げる吊り下げ部材30とを備える。
【0020】
芯棒10は、床版Cに形成された孔C3(
図7参照)に挿入される。芯棒10は、例えば、鋼棒である。しかしながら、芯棒10の材料は、金属に限らず、FRP(繊維強化プラスチック:Fiber Reinforced Plastics)等であってもよい。芯棒10は、長手方向D1に沿って延びる棒状部11と、棒状部11の長手方向D1の一端において拡径する第1拡径部12とを有する。
【0021】
棒状部11は、例えば、丸棒状(円柱状)を呈する。例えば、芯棒10の下端には孔C3の内径よりも小さい外径を有する第1拡径部12が形成される。芯棒10の外径等については後に詳述する。第1拡径部12の径(直径)は、棒状部11の長手方向D1の一端から徐々に大きくなっている。この場合、第1拡径部12の外面は棒状部11から離間するに従って拡径するテーパ面とされている。
【0022】
例えば、芯棒10は、第1拡径部12の棒状部11とは反対側に縮径部13を有してもよい。縮径部13は、芯棒10の長手方向D1の一端に位置しており、第1拡径部12から縮径する部位に相当する。縮径部13は芯棒10を床版Cの孔C3に挿入しやすくするための部位であり、孔C3に入る芯棒10の縮径部13が縮径されていることにより、孔C3によりスムーズに芯棒10を挿入できる。縮径部13は、例えば、第1拡径部12から離間するに従って徐々に縮径するテーパ面である。
【0023】
図2は、
図1のA-A線断面図である。
図1及び
図2に示されるように、拡径部材20は、芯棒10に挿通されると共に吊り下げ部材30によって吊り下げされている。拡径部材20は、例えば、筒状(一例として円筒状)を呈する。拡径部材20は、拡径部材20の径方向D2に拡径可能とされた第2拡径部21と、第2拡径部21の上部に位置する筒状部22とを備える。
【0024】
図3は、
図1のB-B線断面図である。
図2及び
図3に示されるように、例えば、拡径部材20は、複数の第2拡径部21を備える。複数の第2拡径部21のそれぞれは芯棒10に対して径方向D2に移動可能とされている。長手方向D1に沿って見たときに、複数の第2拡径部21は、互いに分割された状態で筒状部22に連結されている。拡径部材20は、例えば、金属製である。しかしながら、拡径部材20の材料は、FRPであってもよく、特に限定されない。
【0025】
第2拡径部21は、筒状部22の下端において拡径可能とされている。長手方向D1に沿って見たときに、互いに分割された複数の第2拡径部21のそれぞれが筒状部22に対して径方向D2に移動可能とされている。
図3の点線は、拡径部材20が芯棒10に対して下方に移動して第1拡径部12に沿って下方に移動した各第2拡径部21が拡径された状態を模式的に図示している。
【0026】
一例として、拡径部材20は、4つの第2拡径部21を備える。この場合、第1拡径部12の曲率と第2拡径部21の曲率との差を低減させることができると共に、拡径部材20の構成を簡易にできる。しかしながら、拡径部材20が有する第2拡径部21の個数は、2個、3個、又は5個以上(一例として6個又は8個)であってもよく、特に限定されない。
【0027】
筒状部22には芯棒10が挿通されている。例えば、筒状部22は芯棒10の棒状部11に挿通されている。すなわち、筒状部22は棒状部11の径方向D2の外側に位置する。筒状部22は、棒状部11に対して長手方向D1に沿って移動可能とされている。棒状部11において、筒状部22が一定位置よりも上方に位置するときには第2拡径部21は拡径せず、筒状部22が当該一定位置よりも下方に移動するときに第2拡径部21が第1拡径部12の外面に倣って拡径する。
【0028】
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)は、第2拡径部21と筒状部22との連結構造の例を模式的に示す断面図である。
図4(a)~
図4(c)に示されるように、拡径部材20は、例えば、筒状部22に対して筒状部22の径方向D2に沿って第2拡径部21を揺動可能に支持するヒンジ部23A,23B,23Cを有する。
【0029】
図4(a)に示される例において、ヒンジ部23Aは、第2拡径部21及び筒状部22の径方向D2の外側に貼り付けられている。すなわち、ヒンジ部23Aは、第2拡径部21及び筒状部22の間における径方向D2の外側に位置しており、ヒンジ部23Aを中心として第2拡径部21が回動(揺動)自在とされている。
【0030】
図4(b)に示される例において、ヒンジ部23Bは、第2拡径部21及び筒状部22の間に配置されている。一例としてのヒンジ部23Bは、第2拡径部21に埋め込まれている第1部分と、筒状部22に埋め込まれている第2部分と、第1部分及び第2部分を互いに回動可能に連結する連結部とを有する。ヒンジ部23Bを中心として第2拡径部21は回動自在とされている。ヒンジ部23Bは、第2拡径部21及び筒状部22に対して径方向D2の外側又は内側に突出しないように配置されている。従って、ヒンジ部23Bを一層邪魔になりにくくすることができる。
【0031】
図4(c)に示される例において、ヒンジ部23Cは、第2拡径部21及び筒状部22の間に配置された柔軟材料である。ヒンジ部23Cは、第2拡径部21及び筒状部22よりも肉薄とされた部分であってもよい。第2拡径部21と筒状部22の間に配置されたヒンジ部23Cが肉薄の柔軟材料によって構成されている場合、ヒンジ部23Cを介して第2拡径部21を径方向D2に揺動可能となる。以上、ヒンジ部23A,23B,23Cについて例示したが、第2拡径部21及び筒状部22を互いに連結するヒンジ部の構造は、上記の各例に限られず適宜変更可能である。
【0032】
図5は、下方に移動して拡径した状態の第2拡径部21と芯棒10の第1拡径部12とを拡大して示す断面図である。
図5は、第1拡径部12及び第2拡径部21を長手方向D1に沿って延びる平面によって切断した断面図である。
図5に示されるように、拡径した第2拡径部21の長手方向D1への長さは、第1拡径部12の長手方向D1への長さよりも長い。従って、筒状部22が第1拡径部12の上端に引っ掛かった状態において第2拡径部21の下端は第1拡径部12(縮径部13)の下端よりも下方に突出する。
【0033】
棒状部11の直径L1よりも第1拡径部12の直径の最大値L3の方が大きく、一例として、最大値L3は直径L1よりも10mm大きい。例えば、直径L1は36mmであり、最大値L3は46mmである。第1拡径部12の最大値L3は、孔C3の内径X(
図7参照)よりも小さい。
【0034】
例えば、最大値L3は、内径Xよりも4mm小さい。一例として、内径Xは50mmである。また、拡径部材20の径方向D2の厚さL2(第2拡径部21の厚さ、及び筒状部22の厚さ)の2倍と、棒状部11の直径L1との和は、内径Xよりも小さい。一例として、拡径部材20の径方向D2の厚さL2は3.2mmである。
【0035】
この場合、厚さL2の2倍と棒状部11の直径L1との和が内径Xよりも小さいので、棒状部11及び筒状部22は床版Cの孔C3に対して挿入可能とされている。また、拡径部材20の径方向D2の厚さL2の2倍と、第1拡径部12の直径の最大値L3との和は、内径Xよりも大きい。一例として、拡径部材20の径方向D2の厚さL2が3.2mmである場合、厚さL2の2倍と最大値L3との和は52.4mmである。従って、第1拡径部12において拡径した第2拡径部21の外径の最大値L4は床版Cの孔C3の内径Xより大きいので、拡径した第2拡径部21の外面が孔C3に引っ掛かることとなる(後に詳述)。
【0036】
図6(a)は、例示的な吊り下げ部材30を拡大して示す側面図である。
図6(b)は、長手方向D1に沿って延びる平面によって吊り下げ部材30及び芯棒10(棒状部11)を切断したときにおける断面図である。
図1、
図2、
図6(a)及び
図6(b)に示されるように、吊り下げ部材30は、芯棒10の外面に対向する位置において拡径部材20を吊り下げる。
【0037】
吊り下げ部材30は、拡径部材20に連結されたワイヤ31と、ワイヤ31を棒状部11に引っ掛ける環状部32とを有する。吊り下げ部材30は、例えば、複数のワイヤ31と、複数のワイヤ31のそれぞれの上端に位置する環状部32とを有する。一例として、吊り下げ部材30は2本のワイヤ31を有し、2本のワイヤ31は芯棒10(棒状部11)を挟んで互いに対向するように配置される。
【0038】
ワイヤ31は、例えば、金属製である。しかしながら、ワイヤ31の材料は、FRPであってもよく、特に限定されない。環状部32は、例えば、ワイヤ31の拡径部材20とは反対側の端部に位置するリングである。芯棒10は、一例として、棒状部11の外面に固定されたフック部15を有し、フック部15に環状部32が引っ掛けられることによって拡径部材20が吊り下げられてもよい。吊り下げ部材30によって吊り下げられている状態において、拡径部材20は、第2拡径部21が第1拡径部12より上方に位置するように吊り下げられる。
【0039】
次に、本実施形態に係る床版吊り上げ方法の具体例について
図7を参照しながら説明する。以下では、床版吊り上げ治具1を用いて床版Cを吊り上げる方法について説明する。例えば、床版Cは既存の床版Cであって、以下では既存の床版Cを吊り上げて撤去する手順の例について説明する。床版Cは、例えば、フランジB1及びウェブB2を有するH形鋼である鋼桁Bに載せられている。床版Cは、鉛直上方を向く上面C1と、上面C1とは反対側を向く下面C2とを有する。鋼桁Bは、一例として、橋桁である。
【0040】
なお、床版Cを結合する鋼桁Bの形式としては、非合成桁と合成桁とが挙げられる。非合成桁では、鋼桁Bと床版Cをスラブ止めによって結合し、鋼桁Bのみで荷重に抵抗する。これに対し、合成桁では、鋼桁Bと床版Cをスタッド等で結合し、鋼桁Bと床版Cが一体となって荷重に抵抗する。本実施形態では、例えば、非合成桁によって鋼桁Bに床版Cが結合されている。よって、合成桁の場合と比較して軽い力で床版Cを引き上げることが可能とされている。
【0041】
図7及び
図8に示されるように、まず、床版Cに孔C3を形成する(孔を形成する工程)。例えば、孔C3として、床版Cの厚さ方向に貫通する貫通孔を掘削によって形成する。一方、第2拡径部21が第1拡径部12の上側に位置して、芯棒10の直径、及び拡径部材20の直径の最大値が孔C3の内径Xよりも小さくなるように拡径部材20を吊り下げ部材30によって吊り下げておく(拡径部材を吊り下げる工程)。例えば、環状部32を芯棒10の外面に固定されたフック部15に引っ掛けることによって吊り下げ部材30を介して拡径部材20を吊り下げておく。
【0042】
以上のように拡径部材20を吊り下げ部材30によって吊り下げた状態として、
図9に示されるように、床版吊り上げ治具1の芯棒10の第1拡径部12を孔C3に挿入する(挿入する工程)。そして、拡径部材20を孔C3に挿入する(拡径部材を挿入する工程)。例えば、芯棒10及び拡径部材20を床版Cの孔C3に挿通させて芯棒10及び拡径部材20を床版Cの下面C2よりも下方に突出させる。
【0043】
このとき、吊り下げ部材30の上端は、例えば、床版Cの上面C1よりも上方に位置する。この状態で吊り下げ部材30による拡径部材20の吊り下げを解除すると(一例としてフック部15から環状部32を外すと)、芯棒10に対して拡径部材20が下降する(拡径部材を下降させる工程)。
【0044】
図10に示されるように、芯棒10に対する拡径部材20の下降に伴い、第2拡径部21が第1拡径部12の外面に沿って下降すると共に筒状部22に対して拡径する(拡径する工程)。例えば、筒状部22が第1拡径部12の上端に引っ掛かると共に拡径した第2拡径部21が芯棒10(第1拡径部12)の下端から突出した状態となる。
【0045】
図10及び
図11に示されるように、第1拡径部12の上端に筒状部22が引っ掛かり第2拡径部21が拡径した状態では、第2拡径部21が床版Cに引っ掛かる(第2拡径部を床版に引っ掛ける工程)。
図10及び
図11の例では、孔C3の下端の径方向D2の外側に位置する下面C2に第2拡径部21が引っ掛かっている。
【0046】
図11及び
図12に示されるように、第2拡径部21が床版Cに引っ掛かった状態で芯棒10を引き上げることによって床版Cを吊り上げる(床版を吊り上げる工程)。例えば、第2拡径部21が孔C3の下端において床版Cの下面C2に引っ掛かった状態になると、芯棒10(一例として芯棒10のみ)が引き上げられたときに第2拡径部21が下面C2に当接して芯棒10の引き上げ力が第1拡径部12及び第2拡径部21を介して床版Cに伝達される。このように引き上げ力が床版Cに伝達されることによって、鋼桁Bから床版Cを吊り上げることができる。以上の工程を経て床版Cを吊り上げる一連の工程が完了する。
【0047】
次に、変形例に係る床版吊り上げ方法について
図13を参照しながら説明する。
図13に示されるように、変形例に係る床版吊り上げ方法では、吊り上げた床版Cを下ろす手順について説明する。以下では、床版Cを仮置き場E(一例としてトレーラーの仮置き場)に下ろす例について説明する。
【0048】
まず、第1拡径部12の上端に筒状部22が引っ掛かり第2拡径部21が拡径した状態において吊り上げられていた床版Cが仮置き場Eの上面に載せられる(床版を載せる工程)。そして、
図14に示されるように、吊り下げ部材30によって拡径部材20を引き上げて第2拡径部21を第1拡径部12に沿って上方に移動させる(拡径部材を引き上げる工程)。
【0049】
このとき、第1拡径部12に対して第2拡径部21が上方に移動すると共に、第1拡径部12の外面に沿って第2拡径部21が縮径する(第2拡径部が縮径する工程)。そして、第2拡径部21が縮径した状態で吊り下げ部材30によって拡径部材20を吊り下げる(拡径部材を吊り下げる工程)。このとき、例えば環状部32をフック部15に引っ掛けることによって吊り下げ部材30で拡径部材20を吊り下げた状態にする。
【0050】
拡径部材20が吊り下げ部材30によって吊り下げられた状態では芯棒10の直径、及び拡径部材20の直径の最大値が孔C3の内径Xよりも小さくなる。従って、
図15に示されるように、拡径部材20が吊り下げ部材30によって吊り下げられた状態で芯棒10が引き上げられることにより、床版Cの孔C3から床版吊り上げ治具1を引き抜くことが可能となる。以上のように床版吊り上げ治具1を引き抜いた後に一連の工程が完了する。
【0051】
次に、本実施形態に係る床版吊り上げ治具1及び床版吊り上げ方法から得られる作用効果について説明する。床版吊り上げ治具1では、床版Cに形成された孔C3に挿入される芯棒10が第1拡径部12を有し、第1拡径部12は孔C3の内径Xよりも小さい。床版吊り上げ治具1は芯棒10に挿通される拡径部材20を有し、拡径部材20は芯棒10が挿通される筒状部22と筒状部22の下端において拡径可能とされた第2拡径部21とを備える。
【0052】
拡径部材20は、芯棒10の外面に対向する位置において吊り下げ部材30によって吊り下げられており、芯棒10に沿って上下に移動可能とされている。拡径部材20では、芯棒10に対して下方に移動したときに筒状部22が第1拡径部12(例えば第1拡径部12の上端)に引っ掛かると共に、第2拡径部21は第1拡径部12に沿って下方に移動しながら拡径する。
【0053】
そして、下方に移動して拡径した第2拡径部21の外径の最大値は孔C3の内径Xよりも大きい。従って、孔C3に芯棒10の第1拡径部12を挿入した状態で第2拡径部21を拡径させることにより、
図11及び
図12に示されるように、孔C3の内径Xよりも大きい第2拡径部21を孔C3に引っ掛けることができる。この状態で芯棒10を引き上げることにより、第2拡径部21が孔C3に引っ掛かった状態で床版Cを吊り上げることができるので、孔C3の下側にアンカープレート又はナット等を配置する作業を不要とすることができる。従って、床版Cの吊り上げに伴う作業を容易に行うことができる。
【0054】
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)に示されるように、拡径部材20は、筒状部22に対して筒状部22の径方向D2に沿って第2拡径部21を揺動可能に支持するヒンジ部23A,23B,23Cを有してもよい。この場合、第2拡径部21は、ヒンジ部23A,23B,23Cを介して筒状部22に揺動可能に支持される。従って、筒状部22に対する第2拡径部21の拡径をスムーズに行うことができる。
【0055】
図1に示されるように、芯棒10は、第1拡径部12の下端に位置する縮径部13を有してもよい。この場合、縮径部13が芯棒10の下端に位置するので、芯棒10の下方に位置する床版Cの孔C3に芯棒10を挿入しやすくすることができる。すなわち、縮径部13を下方に向けた状態で孔C3の上から芯棒10を挿入することにより、孔C3に対して芯棒10が引っ掛かる可能性を低減できるので、孔C3への芯棒10の挿入をスムーズに行うことができる。
【0056】
吊り下げ部材30は、芯棒10の外面に支持されたワイヤ31を含んでいてもよい。この場合、拡径部材20を吊り下げる吊り下げ部材30として、簡易な構造のワイヤ31を用いることができる。また、吊り下げ部材30の構造を簡易にすることができるので、吊り下げ部材30のハンドリング性を良好にすることができる。
【0057】
吊り下げ部材30は、ワイヤ31の上端に位置する環状部32を有し、芯棒10は、芯棒10の外面に固定されたフック部15を有し、ワイヤ31は、環状部32がフック部15に引っ掛けられることによって芯棒10の外面に支持されてもよい。この場合、環状部32をフック部15に引っ掛けることによって芯棒10の外面にワイヤ31を支持することができる。よって、吊り下げ部材30の構成を簡易にすることができる。
【0058】
本実施形態に係る床版吊り上げ方法では、床版Cに孔C3を形成し、形成した孔C3に芯棒10の第1拡径部12を挿入する。芯棒10には拡径部材20の筒状部22が挿通されており、拡径部材20は筒状部22に対して拡径可能とされた第2拡径部21を有する。芯棒10の第1拡径部12が挿入された床版Cの孔C3に拡径部材20を挿入し、拡径部材20の第2拡径部21を床版Cの孔C3に対して拡径させて第2拡径部21を床版Cに引っ掛ける。そして、第2拡径部21が床版Cに引っ掛かった状態で芯棒10を引き上げることによって床版Cを吊り上げる。従って、第2拡径部21が床版Cに引っ掛かった状態で芯棒10を引き上げることによって床版Cを吊り上げることができるので、孔C3の下側にアンカープレート又はナット等を配置する作業を不要とすることができる。よって、床版Cの吊り上げに伴う作業を容易に行うことができる。
【0059】
以上、本開示に係る床版吊り上げ治具及び床版吊り上げ方法の実施形態について説明した。しかしながら、本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲において変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。すなわち、床版吊り上げ治具の各部の形状、大きさ、数、材料及び配置態様、並びに、床版吊り上げ方法の工程の内容及び順序は、上記の要旨を逸脱しない範囲において適宜変形可能である。
【0060】
図16の変形例に示されるように、本開示に係る床版吊り上げ治具及び床版吊り上げ方法は、床版Cの孔C3への芯棒10の挿入を案内する案内部材40を備えてもよい。案内部材40は、例えば、下方に向かうに従って縮径する筒状部41と、筒状部41の下端において孔C3に嵌め込まれる嵌合部42とを有する。一例として、嵌合部42は孔C3の上端に形成された拡径部C4に嵌め込まれる。このように、下方に向かうに従って縮径する筒状部41を有する案内部材40が孔C3に設けられることにより、案内部材40に芯棒10を下ろしたときに芯棒10を筒状部41の内面に沿って孔C3に案内することができる。従って、平面視における芯棒10の位置が孔C3から多少ずれたとしても、案内部材40によって孔C3に対する芯棒10の平面位置を矯正することができる。従って、孔C3に対する芯棒10の挿入をスムーズに行うことができる。
【0061】
前述した実施形態では、下端に位置する縮径部13が設けられた芯棒10について説明した。しかしながら、縮径部13を有しない芯棒であってもよく、芯棒の形状等は適宜変更可能である。また、拡径部材及び吊り下げ部材の形状等についても適宜変更可能である。例えば、前述の実施形態では、2本のワイヤ31を備える吊り下げ部材30について説明した。しかしながら、床版吊り上げ治具は、ワイヤを有しない吊り下げ部材を備えていてもよい。このように吊り下げ部材の態様についても適宜変更可能である。
【0062】
また、前述した実施形態では、床版Cに貫通孔である孔C3を形成する例について説明した。しかしながら、本開示に係る床版吊り上げ治具及び床版吊り上げ方法では、貫通孔でない孔が床版に形成されてもよい。例えば、
図17(a)に示されるように、床版Cの上面C1から下方に延在する内面C131、及び内面C131から下方に向かうに従って拡径する拡径孔部C132を有する孔C13が形成されてもよい。この場合、孔C13の拡径孔部C132に拡径部材20の第2拡径部21を引っ掛けることによって前述した実施形態と同様に床版Cを吊り上げることができる。
【0063】
また、
図17(b)に示されるように、上面C1から下方に延在する内面C231、及び内面C231の下端において拡径された拡径孔部C232を有する孔C23が形成されてもよい。拡径孔部C232は、内面C231の下端から内面C231の径方向外側に拡張する円筒状を呈する。この孔C23に対しても、孔C23の拡径孔部C232の上端に拡径部材20の第2拡径部21を引っ掛けることによって前述した実施形態と同様に床版Cを吊り上げることができる。このように床版に形成する孔の態様も適宜変更可能である。
【0064】
また、前述した実施形態では、ワイヤ31及び環状部32を備える吊り下げ部材30について説明した。しかしながら、拡径部材20を吊り下げる吊り下げ部材の態様は、吊り下げ部材30に限られず適宜変更可能である。例えば、吊り下げ部材は、拡径部材20に連結されたワイヤと、ワイヤを引き上げるウインチと、ウインチを駆動及び制御する制御部とを備えたものであってもよい。この場合、芯棒10に対する拡径部材20の上下移動を人手によらず自動で行うことが可能となる。従って、床版Cの吊り上げに関する作業を更に容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
1…床版吊り上げ治具、10…芯棒、11…棒状部、12…第1拡径部、13…縮径部、15…フック部、20…拡径部材、21…第2拡径部、22…筒状部、23A,23B,23C…ヒンジ部、30…吊り下げ部材、31…ワイヤ、32…環状部、40…案内部材、41…筒状部、42…嵌合部、B…鋼桁、B1…フランジ、B2…ウェブ、C…床版、C1…上面、C2…下面、C3,C13,C23…孔、C131,C231…内面、C132,C232…拡径孔部、C4…拡径部、D1…長手方向、D2…径方向、E…仮置き場、L1…直径、L2…厚さ、L3,L4…最大値、X…内径。