(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】電池測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240626BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240626BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240626BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20240626BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240626BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/389
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2021121914
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2023-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】北川 福郎
(72)【発明者】
【氏名】溝口 朝道
(72)【発明者】
【氏名】内山 正規
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-190502(JP,A)
【文献】特開2018-179652(JP,A)
【文献】特開2018-121511(JP,A)
【文献】特開2019-190939(JP,A)
【文献】特開2010-135075(JP,A)
【文献】国際公開第2021/045172(WO,A1)
【文献】特開2017-168357(JP,A)
【文献】特開2021-068647(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0190277(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/396、
27/00-27/32、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42-10/48、
B60L 1/00-3/12、
7/00-13/00、
15/00-59/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質(45)と電極(44a,44b)とを有する蓄電池(40)の状態を測定する電池測定装置(50)であって、
前記蓄電池の反応抵抗(Rct)を取得する反応抵抗取得部と、
前記蓄電池が、初期劣化中であるか否かを判定する劣化判定部と、
前記反応抵抗取得部により取得された前記反応抵抗に基づき前記蓄電池の劣化状態を推定する状態推定部と、を備え、
前記状態推定部は、
前記劣化判定部により前記初期劣化中であると判定された場合、前記反応抵抗の減少に比例して前記劣化状態が進行することを示す第1相関情報を用いて、前記反応抵抗取得部により取得された前記反応抵抗に基づき前記劣化状態を推定する一方、
前記劣化判定部により前記初期劣化中でないと判定された場合、前記反応抵抗の増加に比例して前記劣化状態が進行することを示す第2相関情報を用いて、前記反応抵抗取得部により取得された前記反応抵抗に基づき前記劣化状態を推定する電池測定装置。
【請求項2】
前記劣化判定部は、前記状態推定部により推定された前記劣化状態の履歴に基づいて、前記劣化状態が予め定められた状態となった場合に、前記初期劣化中でないと判定する請求項1に記載の電池測定装置。
【請求項3】
前記劣化判定部は、前記反応抵抗取得部により取得された前記反応抵抗の履歴に基づいて、前記反応抵抗が減少から増加に転じた場合に、前記初期劣化中でないと判定する請求項1又は2に記載の電池測定装置。
【請求項4】
前記劣化判定部は、前記蓄電池を、ある電圧から所定量充電した場合の前記蓄電池の電圧に基づいて、前記初期劣化中であるか否かを判定する請求項1~3のうちいずれか1項に記載の電池測定装置。
【請求項5】
前記蓄電池のオーミック抵抗(Rohm)を取得するオーミック抵抗取得部と、
前記オーミック抵抗に基づき前記蓄電池の内部温度を推定する温度推定部と、を備え、
前記状態推定部は、前記内部温度に対応した前記第1相関情報又は前記第2相関情報を用いて前記劣化状態を推定する請求項1~4のうちいずれか1項に記載の電池測定装置。
【請求項6】
前記蓄電池の周辺温度を取得する周辺温度取得部と、
前記蓄電池の内部温度と前記周辺温度とが等しいか否かを判定する温度判定部と、
前記温度判定部により前記内部温度と前記周辺温度とが等しいと判定された場合に、前記周辺温度に基づいて前記オーミック抵抗と前記内部温度との相関関係を示す温度相関情報を算出する温度相関情報算出部と、を備え、
前記温度推定部は、前記温度相関情報を用いて、前記オーミック抵抗に基づき前記内部温度を推定する請求項5に記載の電池測定装置。
【請求項7】
前記反応抵抗取得部は、前記
温度相関情報算出部により前記温度相関情報が算出された直後に前記反応抵抗を取得する請求項6に記載の電池測定装置。
【請求項8】
前記蓄電池の周辺温度を取得する周辺温度取得部と、
前記蓄電池の内部温度と前記周辺温度とが等しいか否かを判定する温度判定部と、を備え、
前記温度推定部は、前記温度判定部により前記内部温度と前記周辺温度とが等しくないと判定された場合に、前記周辺温度と前記内部温度との温度差に基づいて前記内部温度を補正し、
前記状態推定部は、補正後の前記内部温度に対応した前記第1相関情報又は前記第2相関情報を用いて前記劣化状態を推定する請求項5に記載の電池測定装置。
【請求項9】
前記状態推定部により推定された前記劣化状態に基づいて、前記蓄電池を制御する制御部を備える請求項1~8のうちいずれか1項に記載の電池測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄電池の状態を測定するため、蓄電池の劣化状態を推定することが行われていた(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の発明では、発振器から正弦波電流などの交流信号を蓄電池に流し、その応答信号(電圧変動)をロックインアンプにより検出し、交流信号と応答信号とに基づいて、複素インピーダンス特性を算出する。そして、交流信号の周波数を変化させて算出した蓄電池の複素インピーダンス曲線から、蓄電池の反応抵抗を算出し、蓄電池の反応抵抗に基づいて劣化状態を推定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、蓄電池の反応抵抗に基づいて劣化状態が推定される場合、予め定められた反応抵抗と劣化状態との相関情報を用いて劣化状態が推定される。しかし、蓄電池を構成する電解質や電極の状態によっては、反応抵抗と劣化状態とが1対1に対応しておらず、予め定められた反応抵抗と劣化状態との相関情報を用いて劣化状態が推定されても、推定される劣化状態と実際の劣化状態との間に推定誤差が生じるという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、蓄電池の劣化状態を精度よく推定できる電池測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、電解質と電極とを有する蓄電池の状態を測定する電池測定装置であって、前記蓄電池の反応抵抗を取得する反応抵抗取得部と、前記蓄電池が、初期劣化中であるか否かを判定する劣化判定部と、前記反応抵抗取得部により取得された前記反応抵抗に基づき前記蓄電池の劣化状態を推定する状態推定部と、を備え、前記状態推定部は、前記劣化判定部により前記初期劣化中であると判定された場合、前記反応抵抗の減少に比例して前記劣化状態が進行することを示す第1相関情報を用いて、前記反応抵抗取得部により取得された前記反応抵抗に基づき前記劣化状態を推定する一方、前記劣化判定部により前記初期劣化中でないと判定された場合、前記反応抵抗の増加に比例して前記劣化状態が進行することを示す第2相関情報を用いて、前記反応抵抗取得部により取得された前記反応抵抗に基づき前記劣化状態を推定する。
【0007】
電解質と電極とを有する蓄電池では、電解質の劣化による影響が大きい初期劣化と、電極の劣化による影響が大きい後期劣化とがそれぞれ生じることを発見した。このような蓄電池では、初期劣化が生じている場合、反応抵抗と劣化状態との相関関係を示す相関情報が、反応抵抗の減少に比例して劣化状態が進行することを示す第1相関情報となる。また、初期劣化が生じていない場合、上記相関情報が、反応抵抗の増加に比例して劣化状態が進行することを示す第2相関情報となる。第1相関情報と第2相関情報とは、互いに異なる。そのため、蓄電池に初期劣化が生じている場合に、誤って第2相関情報を用いて劣化状態が推定されると、推定される劣化状態に誤差が生じる。
【0008】
本発明では、蓄電池が、初期劣化中であるか否かを判定し、その判定結果に基づいて、劣化状態の推定に用いる相関情報を切り替えるようにした。これにより、蓄電池が初期劣化中であるか否かに応じて、反応抵抗の増減に比例する劣化状態の推定方法を切り替えることができ、反応抵抗から精度よく劣化状態を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】第1実施形態における反応抵抗と劣化状態との関係を示すグラフ。
【
図4】第1実施形態における推定処理のフローチャート。
【
図5】第2実施形態における推定処理のフローチャート。
【
図6】第2実施形態における反応抵抗と劣化状態との関係を示すグラフ。
【
図7】積算電流量と開放電圧との関係を示すグラフ。
【
図8】第3実施形態における推定処理のフローチャート。
【
図9】各温度における第1回帰直線と第2回帰直線とを示すグラフ。
【
図14】第4実施形態における推定処理のフローチャート。
【
図15】その他の実施形態における反応抵抗の算出処理を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、「電池測定装置」を車両(例えば、ハイブリッド車や電気自動車)の電源システムに適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1に示すように、電源システム10は、回転機(モータジェネレータ)などの電気負荷20と、蓄電池40と、蓄電池40の状態を測定する電池測定装置50と、電気負荷20などを制御するECU60と、を備えている。
【0012】
蓄電池40は、電気負荷20に電気的に接続されている。蓄電池40の正極と電気負荷20とを接続する正極側電源経路L1及び蓄電池40の負極と電気負荷20とを接続する負極側電源経路L2の少なくとも一方には、リレースイッチSMR(システムメインリレースイッチ)が設けられており、リレースイッチSMRにより、蓄電池40と電気負荷20との間の通電及び通電遮断が切り替え可能に構成されている。なお、蓄電池40として、リチウムイオン蓄電池が用いられている。
【0013】
図2に基づいて蓄電池40の構成について説明する。蓄電池40は、電極体44と、電解質45と、電極体44及び電解質45を収容する収容ケース46と、を備えている。電解質45は、非水電解液であり、有機溶剤のエチレンカーボネートやジエチルカーボネート等に、添加物としての六フッ化リン酸リチウム(フッ化物)等を溶解したものである。収容ケース46は、例えばアルミニウム合金により形成されており、その上面の長手方向両端に、外部端子47が設けられている。
【0014】
図2に示すように、電極体44は、正極電極としての正極導電板44aと、負極電極としての負極導電板44bと、正極導電板44aと負極導電板44bとの間に配置されるセパレータ44cとを備える積層体により構成されている。
【0015】
詳しく説明すると、正極導電板44aは、アルミニウム等の金属箔から構成される正極金属箔44dと、この正極金属箔44dの表裏面に塗布された正極活物質44eとから構成される。負極導電板44bは、銅等の金属薄から構成される負極金属箔44fと、この負極金属箔44fの表裏面に塗布された負極活物質44gとから構成される。セパレータ44cは、ポリエチレン樹脂により形成された多孔質の絶縁膜である。
図2に示すように、電極体44は、セパレータ44cを介して、正極導電板44aと負極導電板44bとの間でリチウムイオンが移動することにより通電する。
【0016】
図2では、蓄電池40の複素インピーダンス(Zm)の等価回路モデルが示されている。この等価回路モデルでは、蓄電池40の内部複素インピーダンスは、オーミック抵抗Rohmと反応抵抗Rctと拡散抵抗Rwとの直列接続体により構成されている。オーミック抵抗Rohmは、蓄電池40を構成する電極や電解液での通電抵抗である。反応抵抗Rctは、電極における電極界面反応による抵抗を表すものであり、抵抗成分42aと容量成分42bとの並列接続体として表される。拡散抵抗Rwは、電極表面に塗布された電極活物質内部へのリチウムイオンの拡散に伴う抵抗を表すものである。
【0017】
次に、
図1に基づいて、電池測定装置50について説明する。電池測定装置50は、蓄電池40の蓄電状態(SOC)及び劣化状態(SOH)などを測定する装置である。電池測定装置50は、電流モジュレーション回路51と、第1電圧計52と、劣化状態推定装置としての制御装置53と、を備えている。
【0018】
電流モジュレーション回路51は、測定対象である蓄電池40に所定の交流信号を入力する回路である。具体的に説明すると、電流モジュレーション回路51は、発信器51aと、発信器51aに直列に接続された第1電流計51bとを有する。電流モジュレーション回路51は、第1電気経路81により蓄電池40に接続されている。
【0019】
発信器51aは、制御装置53から指示信号を入力するように構成されている。発信器51aは、指示信号により指示された交流信号を生成し、蓄電池40に入力する。交流信号は、例えば正弦波信号や矩形波信号である。第1電流計51bは、第1電気経路81に流れる電流信号を測定し、測定した電流信号を制御装置53に出力するように構成されている。
【0020】
第1電圧計52は、第1電気経路81と異なる(独立している)第2電気経路82により蓄電池40に接続されている。第1電圧計52には、交流信号の入力時、蓄電池40の端子間において、蓄電池40の複素インピーダンス情報を反映した応答信号(電圧変動)が生じる。第1電圧計52は、この応答信号を測定し、測定した応答信号を制御装置53に出力するように構成されている。
【0021】
また、電池測定装置50は、第2電流計54と、第2電圧計55と、温度計56と、を備えている。第2電流計54は、正極側電源経路L1に設けられている。第2電流計54は、電気負荷20に流れる電流を検出し、検出した検出電流を制御装置53に出力するように構成されている。第2電圧計55は、電気負荷20に並列に接続されている。第2電圧計55は、電気負荷20に印加される電圧を検出し、検出した検出電圧を制御装置53に出力するように構成されている。温度計56は、蓄電池40の近傍に配置されている。温度計56は、蓄電池40の周辺温度TEを検出し、検出した周辺温度TEを制御装置53に出力するように構成されている。
【0022】
制御装置53は、マイコンを主体として構成され、自身が備える記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、各種制御機能を実現する。制御装置53は、検出電流及び検出電圧に基づいて、電気負荷20の駆動状態を把握し、その駆動状態をECU60に出力する。
【0023】
また、制御装置53は、発信器51aに対して、蓄電池40に入力する交流信号を指示する指示信号を出力する。制御装置53は、応答信号及び電流信号に基づいて、蓄電池40の複素インピーダンスに関する情報を算出する。つまり、制御装置53は、応答信号及び電流信号に基づいて、複素インピーダンスの実部(ReZm)、複素インピーダンスの虚部(ImZm)を算出する。制御装置53は、算出結果に基づいて、例えば、複素インピーダンス平面プロット(コールコールプロット)を作成し、電極44a,44b及び電解質45などの特性を把握する。例えば、制御装置53は、蓄電状態(SOC)や劣化状態(SOH)を把握する。
【0024】
図2に、蓄電池40の複素インピーダンス平面プロットを示す。なお、複素インピーダンス平面プロットは、容量成分に着目したベクトル軌跡を第一象限に示すために、縦軸の上側が「-ImZm」となるように、つまり虚数部が反転するように記載される。
図2に実線で示すように、複素インピーダンス平面プロット上においては、指示信号により指示された交流信号の周波数ωrにより複素インピーダンスが変化し、低周波領域に半円状の軌跡である円弧Crが現れる。円弧Crにおける高周波側の端点PAでは、複素インピーダンスの虚部がゼロとなる。この端点PAにおける複素インピーダンスの実部の値が、オーミック抵抗Rohmを表す。
【0025】
円弧Crの低周波側には、直線状の軌跡である直線Drが現れる。円弧Crと直線Drとの接続点を、円弧Crにおける低周波側の端点PBとした場合に、端点PBにおける複素インピーダンスの実部の値と、端点PAにおける複素インピーダンスの実部の値の差分値が、反応抵抗Rctを表す。
【0026】
なお、円弧Crにおいて、複素インピーダンスの虚部の値が最も小さくなる点を、円弧Crにおける極小点PCとした場合に、極小点PCにおける複素インピーダンスの虚部の値の絶対値は、反応抵抗Rctの半分の値となる。制御装置53は、複素インピーダンス平面プロットを作成することで、端点PA,PB及び極小点PCの少なくとも一方を用いて反応抵抗Rctを取得することができる。
【0027】
ところで、従来、蓄電池40は、劣化状態を示すSOHと反応抵抗Rctは1対1で相関し、使用によりSOHが減少すると(劣化状態が進行すると)、
図2に破線で示すように、一律に反応抵抗Rctが大きくなっていくと考えられていた。
【0028】
しかしながら、本発明者は、蓄電池40の電極44a,44bや電解質45の状態によっては、使用によりSOHが減少しても、反応抵抗Rctが大きくなるとは限らないことを発見した。具体的には、蓄電池40が新品(初期状態)である期間から、予め決められた劣化状態になるまでの間は、使用によりSOHが減少すると、反応抵抗Rctが小さくなり(
図2の一点鎖線参照)、予め決められた劣化状態になった後から使用によりSOHが減少すると、反応抵抗Rctが大きくなる(
図2の破線参照)ことを発見した。以下では、蓄電池40が新品(初期状態)であるときから、予め決められた劣化状態になるまでにおける蓄電池40の劣化を、初期劣化と示す。また、蓄電池40が予め決められた劣化状態よりも劣化したときにおける蓄電池40の劣化を、後期劣化と示す。
【0029】
なお、初期劣化中、SOHの減少に比例して反応抵抗Rctが小さくなるのは、電解質45の劣化による影響が大きいためだと考えられ、後期劣化中、SOHの減少に比例して反応抵抗Rctが大きくなるのは、電極44a,44bの劣化による影響が大きいためだと考えられる。つまり、本実施形態のような電極44a,44bや電解質45を有する蓄電池40においては、このような現象が発生しうると考えられる。
【0030】
ここで、初期劣化中におけるSOHと反応抵抗Rctとの関係と、後期劣化中におけるSOHと反応抵抗Rctとの関係と、初期劣化から後期劣化に切り替わるタイミングについて
図3に基づいて説明する。
【0031】
図3は、SOHと反応抵抗Rctとの関係を示すものである。この関係は、実験などによって、測定された結果に基づいて得られたものである。
図3に示すように、蓄電池40のSOHが、初期状態(新品)から状態閾値SMthに低下するまで、SOHの減少に比例して反応抵抗Rctが小さくなることがわかる。そして、蓄電池40のSOHが、状態閾値SMthからさらに低下すると、SOHの減少に比例して反応抵抗Rctが大きくなることがわかる。
【0032】
この
図3から、蓄電池40のSOHが、初期状態(新品)から状態閾値SMthに低下するまでが初期劣化中であり、蓄電池40のSOHが、状態閾値SMthからさらに低下したとき、後期劣化中であることがわかる。また、初期劣化中におけるSOHと反応抵抗Rctとの計測結果から、第1回帰直線Lk1を求めることができる。この第1回帰直線Lk1が、初期劣化中におけるSOHと反応抵抗Rctとの関係を示す第1相間情報に相当する。この第1相間情報によれば、反応抵抗Rctの減少に比例して、SOHが低下する(つまり、劣化状態が進行している(劣化している)ことを示す)。
【0033】
同様に、後期劣化中におけるSOHと反応抵抗Rctとの計測結果から、第2回帰直線Lk2を求めることができる。この第2回帰直線Lk2が、後期劣化中におけるSOHと反応抵抗Rctとの関係を示す第2相間情報に相当する。この第2相間情報によれば、反応抵抗Rctの増加に比例して、SOHが低下する。また、状態閾値SMthは、第1回帰直線Lk1と、第2回帰直線Lk2との交点PDから推定可能である。
【0034】
図1に示すように、本実施形態の制御装置53は、上記関係を考慮して、初期劣化中であるか否かを判定する劣化判定部53aとしての機能を備える。具体的には、制御装置53の劣化判定部53aは、蓄電池40のSOHの履歴から初期劣化中であるか否かを判定する。
【0035】
なお、本実施形態では、測定誤差や蓄電池40による違いを考慮し、状態閾値SMthが含まれる所定範囲Hkを規定し、所定範囲Hkの上限閾値SHthよりもSOHが高い場合、制御装置53は、初期劣化中であると判定する。本実施形態において、所定範囲Hkは、状態閾値SMthを中心として予め決められた範囲内としているが、測定精度や実験結果を考慮して、範囲を任意に変更してもよい。また、所定範囲Hkの下限閾値SLthよりもSOHが低い場合、制御装置53は、後期劣化中であると判定する。一方、SOHが所定範囲Hk内の場合、制御装置53は、いずれの状態であるか特定しにくい境界状態(予め決められた劣化状態)であると判定する。境界状態であると判定した場合、制御装置53は、いずれかの相間情報を利用すべきか特定しにくいため、SOHが状態閾値SMthであると推定する。
【0036】
また、制御装置53は、上記関係を考慮して、初期劣化中であると判定された場合に、第1相関情報を用いてSOHを推定し、初期劣化中でないと判定された場合に、第2相関情報を用いてSOHを推定する状態推定部53bとしての機能を備える。
【0037】
また、制御装置53は、状態推定部53bにより推定されたSOHに基づいて、蓄電池40を制御する制御部53cとしての機能を備える。蓄電池40の制御とは、例えば、蓄電池40の蓄電状態(SOC)の算出や、蓄電池40の充放電制御等が含まれる。なお、制御装置53において、車両の急加速を制限する省燃費モードへの移行制御、及び蓄電池40の交換アラームをインパネルランプや警告音で通知する通知制御が実施されてもよい。
【0038】
次に、SOHを推定するために制御装置53により実行される推定処理について詳しく説明する。
図4に、制御装置53により実行される推定処理の手順を示す。推定処理は、例えば所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0039】
ステップS10において、制御装置53は、反応抵抗Rctを取得する。具体的には、制御装置53は、前述したように、蓄電池40の複素インピーダンス平面プロットの全部又は一部を作成し、反応抵抗Rctを取得する。なお、本実施形態において、ステップS10の処理を実行することにより、制御装置53が「反応抵抗取得部53d」としての機能を備えることとなる。
【0040】
ステップS11において、制御装置53は、初期劣化中であるか否かを示す劣化フラグFgが「1」であるかを判定する。劣化フラグFgには、蓄電池40が初期状態(新品)である場合、つまり、工場における生産段階(出荷段階)において「0」(新品;初期劣化)が設定される。一方、劣化フラグFgには、初期劣化中でないと判定された場合、「0」(後期劣化)が設定される。
【0041】
制御装置53は、劣化フラグFgに「0」(初期劣化)が設定されている場合、ステップS11の処理を肯定判定しステップS12の処理に進む。ステップS12において、制御装置53は、ステップS10で取得した反応抵抗Rctに基づいて、第1相関情報を用いてSOHを算出し、ステップS13の処理に進む。
【0042】
ステップS13において、制御装置53は、ステップS12で算出されたSOHが、上限閾値SHthよりも大きいか否かを判定する。
【0043】
制御装置53は、SOHが上限閾値SHthよりも大きいと判定した場合、蓄電池40がまだ初期劣化中であると判定し、ステップS14の処理に進む。つまり、劣化フラグFgに「0」(初期劣化)を設定したまま、ステップS14の処理に進む。ステップS14において、制御装置53は、ステップS12において第1相間情報を用いて算出されたSOHが、今回の推定処理における推定結果であるとして決定し、推定処理を終了する。
【0044】
一方、ステップS13において、SOHが上限閾値SHth以下と判定した場合、制御装置53は、ステップS13で否定判定し、ステップS15の処理に進む。ステップS15において、制御装置53は、初期劣化中であると特定できないことから劣化フラグFgを「0」(初期劣化)から「1」(後期劣化)に切り替える。つまり、制御装置53は、境界状態若しくは後期劣化中であると判断し、劣化フラグFgに「1」(後期劣化)を設定する。
【0045】
続くステップS16において、制御装置53は、状態閾値SMthが、今回の推定処理における推定結果であるとして決定し、推定処理を終了する。
【0046】
一方、ステップS11において、劣化フラグFgに「1」(後期劣化)が設定されている場合、制御装置53は、ステップS11を否定判定し、ステップS17の処理に進む。ステップS17において、制御装置53は、ステップS10で取得した反応抵抗Rctに基づいて、第2相関情報を用いてSOHを算出し、ステップS18の処理に進む。
【0047】
ステップS18において、制御装置53は、ステップS17で算出されたSOHが下限閾値SLthよりも大きいか否かを判定する。ステップS18において、SOHが下限閾値SLthよりも大きい場合、制御装置53は、ステップS18を肯定判定し、ステップS19の処理に進む。つまり、制御装置53は、ステップS17で算出されたSOHが所定範囲Hk内であり、境界状態であると判定した場合、ステップS19の処理に進む。ステップS19において、制御装置53は、状態閾値SMthが、今回の推定処理における推定結果であるとして決定し、推定処理を終了する。
【0048】
一方、ステップS18において、SOHが下限閾値SLth以下となった場合、制御装置53は、ステップS18を否定判定し、ステップS20の処理に進む。つまり、制御装置53は、ステップS17で算出されたSOHが所定範囲Hkの下限閾値SLth以下であり、後期劣化中であると判定し、ステップS20の処理に進む。
【0049】
ステップS20において、制御装置53は、ステップS13において第2相間情報を用いて算出されたSOHが、今回の推定処理における推定結果であるとして決定し、推定処理を終了する。
【0050】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0051】
制御装置53は、初期劣化中であると判定された場合に、反応抵抗Rctの減少とSOHの低下が比例する第1相関情報を用いてSOHを推定し、初期劣化中でないと判定された場合に、反応抵抗Rctの増加とSOHの低下が比例する第2相関情報を用いてSOHを推定する。このように、制御装置53は、蓄電池40が初期劣化中であるかに応じて、反応抵抗Rctの増減に比例するSOHの推定方法を切り替えるため、反応抵抗Rctから精度よくSOHを推定することができる。
【0052】
制御装置53は、第1相間情報を用いて反応抵抗Rctに基づいて推定されたSOHの履歴から初期劣化中であるか否かを判定する。具体的には、制御装置53は、SOHが所定範囲Hkの上限閾値SHthよりも大きいときは、初期劣化中であると判定し、SOHが所定範囲Hkの上限閾値SHth以下であるときは、初期劣化中でないと判定する。工場出荷段階において蓄電池40が初期状態であることを特定することは可能であるため、第1相間情報を用いて反応抵抗Rctに基づいて推定されたSOHの履歴から、初期劣化中であるか否かを精度よく判定することが可能となる。
【0053】
制御装置53は、SOHが所定範囲Hkの上限閾値SHth以下となり、SOHが所定範囲Hk内となると、境界状態であると判定し、SOHが状態閾値SMthであると推定する。境界状態では、測定誤差や蓄電池40の製造ばらつき等により蓄電池40が初期劣化中であるか、又は後期劣化中であるか特定しにくいため、SOHが状態閾値SMthであると推定されることで、蓄電池40がいずれの状態であるかを特定することなく、SOHを推定することができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の電池測定装置50について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。また、この第2実施形態では、基本構成として、第1実施形態のものを例に説明する。
【0055】
図3に示すように、蓄電池40の反応抵抗Rctは、初期劣化中、SOHが低下するにつれて減少し、後期劣化中、SOHが低下するにつれて増加する。つまり、反応抵抗Rctの履歴を見て、反応抵抗Rctが低下から増加に転じた時点において、初期劣化が終了したことを予測できる。そこで、本実施形態では、蓄電池40の反応抵抗Rctの履歴に基づいて、蓄電池40が初期劣化中であるか否かを判定する。
【0056】
図5に、本実施形態における推定処理の手順を示す。制御装置53は、ステップS10で反応抵抗Rctを取得すると、ステップS30の処理に進む。今回の推定処理において取得された反応抵抗Rctを、今回値Rct(n)(nは自然数)と記載し、前回の推定処理において取得された反応抵抗Rctを、前回値Rct(n-1)と記載する。「n」は、推定処理の実行回数を示す。前回の推定処理において取得された反応抵抗Rctは、制御装置53の記憶部に記憶されている。なお、Rct(0)は初期値であり、予め設定されている。
【0057】
ステップS30において、制御装置53は、今回値Rct(n)から前回値Rct(n-1)を減算した抵抗差ΔRが、ゼロよりも小さいか否かを判定する。抵抗差ΔRがゼロよりも小さいと判定した場合、つまり、反応抵抗Rctが減少している場合、制御装置53は、蓄電池40が初期劣化中であると判定し、ステップS30を肯定判定し、ステップS31の処理に進む。ステップS31において、制御装置53は、第1相関情報を用いてSOHを算出する。続くステップS32において、制御装置53は、算出されたSOHを推定結果として決定し、ステップS33の処理に進む。ステップS33において、制御装置53は、今回値Rct(n)を記憶し、推定処理を終了する。
【0058】
一方、抵抗差ΔRがゼロ以上であると判定した場合、つまり、反応抵抗Rctが増加している場合、制御装置53は、蓄電池40が初期劣化中でないと判定し、ステップS30の処理を否定判定し、ステップS34の処理に進む。ステップS34において、制御装置53は、第2相関情報を用いてSOHを算出する。続くステップS35において、制御装置53は、算出されたSOHを推定結果として決定し、ステップS33の処理に進む。
【0059】
図6を用いて、本実施形態の推定処理による作用について説明する。
【0060】
図6には、n=1(初回値)~6の推定処理における反応抵抗Rct及びSOHの測定結果が記載されている。n=1~6の測定結果のうち、n=1~5の測定結果では、実行順序に従って回数を重ねるごとに、反応抵抗Rctが減少していくことがわかる。そのため、n=1~5の推定処理では、抵抗差ΔRがゼロよりも小さくなり、蓄電池40が初期劣化中であると判定される。
【0061】
一方、n=6における反応抵抗Rctは、n=5における反応抵抗Rctよりも増加している。そのため、n=6の推定処理において、抵抗差ΔRがゼロ以上であると判定される。つまり、反応抵抗Rctが減少から増加に転じたことを判定できる。これにより、蓄電池40が初期劣化中でないと判定され、SOHの推定に用いる相関情報が、第1相関情報から第2相関情報に切り替えられる。
【0062】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0063】
蓄電池40の反応抵抗Rctは、初期劣化中、SOHが低下するにつれて減少し、後期劣化中、SOHが低下するにつれて増加するため、制御装置53は、反応抵抗Rctの履歴に基づいて、蓄電池40が初期劣化中であるか否かを判定するようにした。そのため、SOHを推定しなくても、反応抵抗Rctの履歴から初期劣化中であるか否かを判定することが可能となる。
【0064】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の電池測定装置50について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。また、この第3実施形態では、基本構成として、第1実施形態のものを例に説明する。
【0065】
蓄電池40は、SOHに応じて、ある電圧から所定量充電した場合における電圧が異なることがわかっている。
図7には、点PEに示すOCV(開放電圧)の蓄電池40を充電した場合の、積算電流量及びOCVの相関関係(以下、単に相関関係)が示されている。
図7において、実線は、蓄電池40のSOHが状態閾値SMthである場合の相関関係(以下、基準相関関係)Zkを示す。破線は、蓄電池40のSOHが状態閾値SMthよりも大きい場合、つまり初期劣化中である場合の相関関係Zaを示す。一点鎖線は、蓄電池40のSOHが状態閾値SMthよりも小さい場合、つまり初期劣化中でない場合の相関関係Zbを示す。
【0066】
図7に示すように、初期劣化中である場合の相関関係Zaは、基準相関関係Zkよりも低圧側に位置しており、初期劣化中でない場合の相関関係Zbは、基準相関関係Zkよりも高圧側に位置していることがわかる。そのため、蓄電池40の相関関係を取得し、取得した相関情報が基準相関関係Zkよりも低圧側に位置しているか否かを判定することにより、蓄電池40が初期劣化中であるか否かを判定することが可能である。
【0067】
具体的には、まず、点PEに示す状態の蓄電池40が、所定量QA充電される。基準相関関係Zkにおいて、蓄電池40のOCVが満充電電圧Vmaxとなる場合の電流積算量を満充電容量Qmaxとした場合に、所定量QAは、充電後の蓄電池40の積算電流量が満充電容量Qmax以下となる充電量に設定されている。
【0068】
次に、充電後の蓄電池40のOCVが取得され、取得されたOCVと電圧閾値Vthとの比較結果から、蓄電池40が初期劣化中であるか否かを判定することができる。ここで、電圧閾値Vthは、基準相関関係Zkにおいて、充電後の蓄電池40の積算電流量に対応する開放電圧の値である。充電後の蓄電池40のOCVが電圧閾値Vthよりも低い場合、蓄電池40が初期劣化中であると判定することができる。また、充電後の蓄電池40のOCVが電圧閾値Vth以上である場合、蓄電池40が初期劣化中でないと判定することができる。
【0069】
図8に、本実施形態における推定処理の手順を示す。制御装置53は、ステップS10で反応抵抗Rctを取得すると、ステップS40に進む。ステップS40において、制御装置53は、蓄電池40を、ある電圧から所定量QA充電し、ステップS41に進む。ある電圧は、現在の蓄電池40の電圧でもよければ、予め定められた電圧であってもよい。
【0070】
ステップS41において、制御装置53は、充電後の蓄電池40のOCV(開放電圧)を取得する。続くステップS43において、制御装置53は、ステップS42で取得されたOCVが、電圧閾値Vthよりも低いか否かを判定する。ステップS42で取得されたOCVが電圧閾値Vthよりも低いと判定した場合、つまり、取得した相関情報が基準相関関係Zkよりも低圧側に位置している場合、制御装置53は、蓄電池40が初期劣化中であると判定し、ステップS31の処理に進む。
【0071】
一方、ステップS42で取得されたOCVが電圧閾値Vth以上であると判定した場合、つまり、取得した相関情報が基準相関関係Zkよりも高圧側に位置している場合、制御装置53は、蓄電池40が初期劣化中でないと判定し、ステップS33の処理に進む。
【0072】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0073】
蓄電池40をある電圧から所定量QA充電した場合におけるOCVは、初期劣化中、電圧閾値Vthよりも低くなり、後期劣化中、電圧閾値Vth以上となるため、制御装置53は、充電後のOCVに基づいて、蓄電池40が初期劣化中であるかを判定するようにした。そのため、SOHの履歴や反応抵抗Rctの履歴が不明であっても、蓄電池40を充電した場合の相関関係から初期電荷中であるか否かを判定することが可能となる。
【0074】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態の電池測定装置50について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。また、この第4実施形態では、基本構成として、第1実施形態のものを例に説明する。
【0075】
図9には、蓄電状態(SOC)が20%の蓄電池40において、温度が0℃,10℃,25℃,40℃である場合における測定結果に基づいて、算出された第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2が記載されている。
図9に示すように、第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2は、蓄電池40の温度により変動する。そのため、SOHを推定する場合には、蓄電池40の温度を算出し、その温度に対応した第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を用いてSOHを推定する必要がある。
【0076】
ここで、第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2は、蓄電池40の内部温度TAに対応し、温度計56を用いて検出される周辺温度TEには必ずしも対応していない。内部温度TAを算出する方法として、反応抵抗Rctの温度特性を利用する方法と、オーミック抵抗Rohmの温度特性を利用する方法とが知られている。
【0077】
図10に、反応抵抗Rctの温度特性を示す。反応抵抗Rctは、内部温度TAに対する温度感度が高く、内部温度TAが低くなるにつれて指数関数的に増加する。そのため、低温領域においては、内部温度TAの温度誤差に対する反応抵抗Rctの抵抗誤差が大きくなる。その結果、SOHの推定精度が悪化する。
【0078】
一方、
図11に、オーミック抵抗Rohmの温度特性を示す。オーミック抵抗Rohmは、反応抵抗Rctに比べて内部温度TAに対する温度感度が低い。また、オーミック抵抗Rohmは、内部温度TAに対して線形比例する。そのため、特定の温度領域において、内部温度TAの温度誤差に対する反応抵抗Rctの抵抗誤差が大きくなることがなく、SOHの推定精度の悪化が抑制される。
【0079】
そこで、本実施形態の制御装置53は、オーミック抵抗Rohmを用いて内部温度TAを算出し、その内部温度TAに対応した第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を用いてSOHを推定する。具体的には、制御装置53は、オーミック抵抗Rohmと内部温度TAとの関係式を算出し、算出された関係式を用いて、オーミック抵抗Rohmに基づいて内部温度TAを算出する。
【0080】
ここで、オーミック抵抗Rohmは、蓄電池40の経年劣化により変化し、この変化に伴ってオーミック抵抗Rohmと内部温度TAとの関係式も変化する。
図11に破線で示すように、オーミック抵抗Rohmと内部温度TAとの関係式では、その傾きθが劣化によらず一定である一方、
図11に点PFで示すように、その切片が蓄電池40の経年劣化により変化する。本実施形態では、蓄電池40の経年劣化によるオーミック抵抗Rohmの変化を考慮し、制御装置53は、周辺温度TEを用いて、オーミック抵抗Rohmと内部温度TAとの関係式を算出する温度ドリフト補正を行う。
【0081】
制御装置53は、周辺温度TEが内部温度TAに等しい平衡温度分布状態であると判定した場合に、周辺温度TEとオーミック抵抗Rohmを取得し、取得した周辺温度TEを内部温度TAとして用いるとともに、既知の傾きθに基づいて温度ドリフト補正を行う。制御装置53は、例えばオーミック抵抗Rohm及び周辺温度TEを繰り返し取得しており、単位時間当たりのオーミック抵抗Rohmの変化量が、第1閾値よりも小さくなり、かつ単位時間当たりの周辺温度TEの変化量が、第2閾値よりも小さくなった場合に、平衡温度分布状態であると判定する。
【0082】
一方、制御装置53は、平衡温度分布状態でないと判定した場合、温度ドリフト補正を行うことができない。この場合、制御装置53は、周辺温度TEと内部温度TAとの温度差に基づいて内部温度TAを補正する。以下、内部温度TAを補正する方法について説明する。
【0083】
図12(a)に示すように、本実施形態では、電極体44は、正極導電板44aと負極導電板44bとセパレータ44cとの積層体を、所定の軸方向Xに偏平に巻回することによって構成されている。
図12(a)では、電極体44が、正極導電板44aと負極導電板44bとセパレータ44cとの積層体を、5重に巻回することによって構成されている。そのため、電極体44は、互いに並列接続された第1~第5巻回体Br1~Br5が、この順に電極体44の中央部分から外周部分に向かって等間隔に並んでいる構成とみなすことができる。
【0084】
第1巻回体Br1の温度は、内部温度TAに等しい。本実施形態では、第5巻回体Br5の温度は、周辺温度TEに等しい。この場合、第1~第5巻回体Br1~Br5は、等間隔に並んで配置されているため、第2巻回体Br2の温度TB、第3巻回体Br3の温度TC、及び第4巻回体Br4の温度TDは、内部温度TA及び周辺温度TEを用いて、以下の数式(1)~(3)のように表される。
【数1】
【数2】
【数3】
【0085】
内部温度TAと周辺温度TEとが等しくない場合、第1~第5巻回体Br1~Br5の温度TA~TEが互いに異なる。その結果、第1~第5巻回体Br1~Br5の反応抵抗RctA~RctEが互いに異なる。第1~第5巻回体Br1~Br5の反応抵抗RctA~RctEは、
図12(b)に示す反応抵抗Rctの温度特性において、各温度TA~TEに対応する反応抵抗RctA~RctEとして算出することができる。
【0086】
また、
図13(a)に示すように、第1~第5巻回体Br1~Br5は互いに並列に接続されている。そのため、蓄電池40の反応抵抗Rctは、第1~第5巻回体Br1~Br5の反応抵抗RctA~RctEを用いて、以下の数式(4)のように表される。
【数4】
【0087】
数式(4)に示す蓄電池40の反応抵抗Rctを用いて、内部温度TAが補正後の内部温度TAである補正温度TZに補正される。補正温度TZは、
図13(b)に示す反応抵抗Rctの温度特性において、蓄電池40の反応抵抗Rctに対応する内部温度TAとして算出することができる。
【0088】
図14に、本実施形態における推定処理の手順を示す。
【0089】
ステップS50において、制御装置53は、オーミック抵抗Rohmを取得する。具体的には、制御装置53は、前述したように、蓄電池40の複素インピーダンス平面プロットの一部又は全部を作成し、複素インピーダンス平面プロットからオーミック抵抗Rohmを算出する。なお、本実施形態において、ステップS50の処理が「オーミック抵抗取得部」に相当する。
【0090】
続くステップS51において、制御装置53は、温度計56から周辺温度TEを取得し、ステップS52の処理に進む。なお、本実施形態において、ステップS51の処理が「周辺温度取得部」に相当する。
【0091】
ステップS52において、制御装置53は、周辺温度TEが内部温度TAに等しい平衡温度分布状態であるか否かを判定する。平衡温度分布状態であると判定した場合、制御装置53は、ステップS52を肯定判定し、ステップS53の処理に進む。なお、本実施形態において、ステップS51の処理が「温度判定部」に相当する。
【0092】
ステップS53において、制御装置53は、温度ドリフト補正を行い、オーミック抵抗Rohmと内部温度TAとの関係式を算出する。続くステップS54において、制御装置53は、ステップS54で算出されたオーミック抵抗Rohmと内部温度TAとの関係式を用いて、ステップS50で取得されたオーミック抵抗Rohmに基づいて内部温度TAを推定する。なお、本実施形態において、ステップS53の処理が「温度相関情報算出部」に相当する。
【0093】
続くステップS55において、制御装置53は、反応抵抗Rctを取得し、ステップS56に進む。つまり、制御装置53は、ステップS53で温度ドリフト補正を行った直後に、反応抵抗Rctを取得する。
【0094】
ステップS56において、制御装置53は、ステップS54で推定した内部温度TAに対応した第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を決定し、ステップS57に進む。制御装置53には、複数の内部温度TAに対応する複数の第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2が記憶されている。ステップS56では、制御装置53に記憶された複数の第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2から、ステップS54で推定した内部温度TAに対応する第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を選出することで、第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を決定する。
【0095】
ステップS57において、制御装置53は、ステップS56で決定された第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を用いて、ステップS55で取得された反応抵抗Rctに基づいてSOHを推定し、推定処理を終了する。なお、反応抵抗Rctに基づいてSOHを推定する方法としては、第1~第3実施形態に記載した方法を用いることができる。
【0096】
一方、ステップS52において、平衡温度分布状態でないと判定した場合、制御装置53は、ステップS52を否定判定し、ステップS58の処理に進む。ステップS58において、制御装置53は、ステップS50で取得されたオーミック抵抗Rohmに基づいて内部温度TAを推定する。ステップS52で否定判定した場合、制御装置53は、温度ドリフト補正を行うことができない。そのため、以前の推定処理において温度ドリフト補正され、制御装置53に記憶されたオーミック抵抗Rohmと内部温度TAとの関係式を用いて内部温度TAを推定する。そのため、ステップS58で推定される内部温度TAの推定精度は、ステップS54で推定される内部温度TAの推定精度に比べて低くなる。なお、本実施形態において、ステップS54,S58の処理が「温度推定部」に相当する。
【0097】
続くステップS59において、制御装置53は、ステップS51で取得された周辺温度TEとステップS58で推定された内部温度TAとの温度差を用いて、蓄電池40の温度分布を算出し、ステップS60に進む。
【0098】
ステップS60において、制御装置53は、
図12(b),13(a)に示すように、ステップS59で算出された蓄電池40の温度分布に基づいて、蓄電池40の反応抵抗Rctを算出する。続くステップS61において、制御装置53は、13(b)に示すように、ステップS60で算出された蓄電池40の反応抵抗Rctに基づいて、内部温度TAを補正し、ステップS56に進む。
【0099】
ステップS56において、制御装置53は、ステップS60で補正した内部温度TAに対応した第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を決定し、ステップS57に進む。ステップS57において、制御装置53は、ステップS56で決定された第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を用いて、ステップS60で算出された反応抵抗Rctに基づいてSOHを推定し、推定処理を終了する。
【0100】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0101】
制御装置53は、オーミック抵抗Rohmに基づいて内部温度TAを推定する。オーミック抵抗Rohmは、反応抵抗Rctに比べて温度感度が低く、かつ内部温度TAに対して線形比例する。そのため、オーミック抵抗Rohmに基づいて内部温度TAを推定することで、反応抵抗Rctに基づいて内部温度TAを推定する場合に比べて、内部温度TAの温度誤差に対する反応抵抗Rctの抵抗誤差を抑制することができ、反応抵抗Rctから精度よくSOHを推定することができる。
【0102】
制御装置53は、周辺温度TEが内部温度TAに等しい平衡温度分布状態であると判定すると、周辺温度TEを用いて、オーミック抵抗Rohmと内部温度TAとの関係式を算出する温度ドリフト補正を行う。このように、制御装置53は、蓄電池40の経年劣化によるオーミック抵抗Rohmの変化に応じて、オーミック抵抗Rohmと内部温度TAとの関係式を補正するため、この関係式から精度よく内部温度TAを算出することができる。
【0103】
制御装置53は、温度ドリフト補正を行った直後に反応抵抗Rctを取得する。平衡温度分布状態では蓄電池40内に温度差が生じていないため、温度ドリフト補正を行った直後に反応抵抗Rctを取得することで、反応抵抗Rctを精度よく取得することができる。
【0104】
制御装置53は、平衡温度分布状態でないと判定すると、周辺温度TEと内部温度TAとの温度差に基づいて内部温度TAを補正する。そのため、平衡温度分布状態でない場合であっても、適切に第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を決定することができ、決定した第1回帰直線Lk1及び第2回帰直線Lk2を用いてSOHを推定することができる。
【0105】
(第4実施形態の変形例)
以下、第4実施形態の変形例について説明する。本変形例では、
図14に示す推定処理において、平衡温度分布状態でないと判定された場合において、蓄電池40の外周部分の温度を算出する方法を説明する。
【0106】
本変形例では、
図15に示すように、周辺温度TEは、蓄電池40から離間した点PGにおける温度であり、蓄電池40の外周部分の温度とは異なる。この場合、内部温度TA及び周辺温度TEに基づいて、蓄電池40の外周部分の温度である第5巻回体Br5の温度TFが算出されることで、第4実施形態と同様に、蓄電池40の内部温度TAが補正される。なお、
図15では、第2~第4巻回体Br2~Br4の表示が省略されている。
【0107】
図15において、電極体44における第1巻回体Br1と第5巻回体Br5との間の厚みを「L」とし、蓄電池40内における熱伝導率を「λ」とし、蓄電池40外における熱伝導率を「h」とする。この場合、蓄電池40内外における単位面積当たりの通過熱量qは、以下の数式(5)のように表すことができる。
【数5】
【0108】
そのため、第5巻回体Br5の温度TFは、数式(6)のように表すことができ、数式(6)に基づいて、蓄電池40の内部温度TAを補正することができる。
【数6】
【0109】
(他の実施形態)
・上記実施形態において、蓄電池40に初期劣化と後期劣化が生じる例を示したが、初期劣化を含む3つ以上の劣化が生じてもよい。
【0110】
・劣化状態の履歴は、劣化フラグFgに限られず、今までに実行された推定処理において推定された劣化状態の推定値であってもよい。
【0111】
・蓄電池40の内部温度TAと周辺温度TEとが等しいか否かを判定する方法は、オーミック抵抗Rohm及び周辺温度TEの時間変化を用いる方法に限られず、内部温度TAと周辺温度TEとの温度差に基づいて判定してもよい。
【0112】
・上記実施形態において、蓄電池40に所定の交流信号を入力する例を示したが、蓄電池40から所定の交流信号を出力させて蓄電池40に外乱を与えてもよい。例えば、電流モジュレーション回路51において、発信器51aに代えて抵抗素子とスイッチとの直列接続体が第1電気経路81に接続されていてもよい。この場合、スイッチが、制御装置53からの指示信号に基づいて開閉制御されることにより、指示信号により指示された交流信号が蓄電池40から出力される。
【0113】
・上記実施形態では、電池測定装置50を車両の電源システムに適用したが、電動飛行機や電動船舶の電源システムに適用してもよい。
【0114】
本開示に記載の制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0115】
40…蓄電池、44a…正極導電板、44b…負極導電板、45…電解質、50…電池測定装置、Rct…反応抵抗。