(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】コーティング剤、および該コーティング剤を用いたモジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/28 20060101AFI20240626BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240626BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240626BHJP
H01L 21/56 20060101ALI20240626BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240626BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240626BHJP
【FI】
H05K3/28 G
H01L23/30 B
H01L21/56 R
H05K3/28 C
C09D201/00
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2021505073
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010209
(87)【国際公開番号】W WO2020184545
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019044156
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】黒住 悟
(72)【発明者】
【氏名】井上 将男
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-148612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/28
H01L 23/29
H01L 21/56
C09D 201/00
C09D 7/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性接着部材を有し電子素子が実装された回路基板と、
前記導電性接着部材を被覆するコーティング層と
、を備える電子部品と、
前記電子部品の表面を被覆する第1の熱可塑性樹脂を含む外装体と、
を備え、
前記コーティング層は
、第2の熱可塑性樹脂と中空粒子とを少なくとも含み、前記コーティング層中の中空粒子の含有量が前記回路基板と接する面側の方が低くなるように、厚さ方向において中空粒子の濃度勾配を有する、
モジュール。
【請求項2】
導電性接着部材を有し電子素子が実装された回路基板と、前記導電性接着部材を被覆するコーティング層と、を備える電子部品と、
前記電子部品の表面を被覆する第1の熱可塑性樹脂を含む外装体と、
を備え、
前記コーティング層は、第2の熱可塑性樹脂(但し、シリコーン樹脂を除く)と中空粒子とを少なくとも含み、前記コーティング層中の中空粒子の含有量が前記回路基板と接する面側の方が低くなるように、厚さ方向において中空粒子の濃度勾配を有する、モジュール。
【請求項3】
前記コーティング層は、中空粒子の含有量が1質量%未満である第1の層と、中空粒子の含有量が1質量%以上である第2の層とを少なくとも含む、請求項1
または2に記載の
モジュール。
【請求項4】
前記コーティング層上に、中空粒子の含有量が0質量%以上である第3の層をさらに備える、請求項1
~3のいずれか一項に記載の
モジュール。
【請求項5】
前記第1の層が前記回路基板と接する面側に設けられている、請求項
3に記載の
モジュール。
【請求項6】
前記中空粒子はアクリル系樹脂を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の
モジュール。
【請求項7】
前記第2の層は、0.2W/m・k未満の熱伝導率を有する、請求項
3または5に記載の
モジュール。
【請求項8】
前記第1の層は、3×10
9MΩ・cm以上の体積抵抗率を有する、請求項
3、5、7のいずれか一項に記載の
モジュール。
【請求項9】
前記コーティング層の厚みが50~500μmである、請求項1~
8のいずれか一項に記載の
モジュール。
【請求項10】
請求項
1に記載のモジュールを製造する方法であって、
金型内に前記電子部品を配置して射出成型を行い、前記電子部品の表面を被覆するように外装体を形成する、
ことを含む、モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング剤に関し、より詳細には、各種電子素子を回路基板に実装した電子部品を熱から保護するためのコーティング剤、該コーティング剤を用いたモジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に搭載される車載制御装置(ECU:Electronic Control Unit)は、通常、半導体部品等の電子部品が実装された回路基板と、この回路基板を収容する筺体とを含んで構成される。電子部品は、例えば電子部品の端子が、回路基板の配線回路パターンにはんだ付けされ、固定される。筺体は、特許文献1に記載のように回路基板を固定するベースと回路基板を覆うようにベースに組み付けられるカバーとからなるものが一般的である。
【0003】
このような車載制御装置において、近年、スペースの制約による小型化が要求されている。これに伴い装置の小型化が要求され、特許文献2のように、各種電子素子を基板に実装した回路基板を射出成形用金型に設置し、熱可塑性樹脂により回路基板を封止して一体化したモジュールが開示されている。
【0004】
ところで、環境問題に対応するため、近年は鉛フリーはんだが数多く採用されており、このいような鉛フリーのはんだは経時的にウィスカが成長することが知られている。上記のような自動車分野等では、回路基板の小型化に伴って電子回路も微小化する傾向にあり、鉛フリーはんだを使用した回路基板では、成長したウィスカによって、隣接した電子素子同士や半田同士が短絡するという問題がある。このような問題に対して、特許文献3等では、はんだ部分を中空粒子でコーティングすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2017-38343号公報
【文献】特開2012-151296号公報
【文献】特開2013-131559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、外装体で回路基板を保護することに代えて、インモールド成形により回路基板を熱可塑性樹脂で封止することで、電子部品と外装体との間に必然的に生じる空間を低減しようとしたところ、回路基板上のはんだ部分が、インモールド成形時の溶融樹脂や金型からの熱によって、再溶融し、はんだと基板との接続が不良になるという製造上の問題が発生するおそれがあることを見出した。そこで、本発明者らは、特許文献3で提案されているような中空粒子および熱可塑性樹脂を含むコーティング剤を回路基板表面に塗布して、はんだ部分を被覆することを試みたところ、コーティング層によってインモールド成型時の熱が電子部品に伝わるのを抑制できるものの、コーティング層の体積抵抗率が低減し、電子基板の絶縁抵抗性が低下してしまうという新たな課題を見出した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、断熱性と絶縁抵抗性とを有し、射出成型等によるモジュール化に好適に使用できる電子部品を提供することである。
【0008】
また、本発明の別の目的は、該電子部品の製造方法、ならびに該電子部品を用いたモジュールおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、体積抵抗率が低減する原因がコーティング層に含まれる中空粒子にあることが判明した。そして、本発明者らは、中空粒子を含むコーティング層において、中空粒子の含有量が回路基板と接する面側の方が低くなるように、コーティング層の厚さ方向において、中空粒子の濃度勾配を付けることにより、優れた断熱性と高い体積抵抗率とを両立できることを見出し、以下の本発明を完成させた。本発明の要旨は、以下の[1]~[13]のとおりである。
【0010】
[1]電子素子が実装された回路基板と、前記回路基板表面を被覆するコーティング層とを備えた電子部品であって、
前記コーティング層は熱可塑性樹脂と中空粒子とを少なくとも含み、
前記コーティング層は、前記コーティング層中の中空粒子の含有量が前記回路基板と接する面側の方が低くなるように、厚さ方向において中空粒子の濃度勾配を有する、電子部品。
[2]前記コーティング層は、中空粒子の含有量が1質量%未満である第1の層と中空粒子の含有量が1質量%以上である第2の層とを少なくとも含む、[1]の電子部品。
[3]前記コーティング層上に、中空粒子の含有量が0質量%以上である第3の層をさらに備える、[1]または[2]の電子部品。
[4]前記第1の層が前記回路基板と接する面側に設けられている、[2]または[3]の電子部品。
[5]前記中空粒子はアクリル系樹脂を含む、[1]~[4]のいずれかの電子部品。
[6]前記第2の層は、0.2W/m・k未満の熱伝導率を有する、[2]~[5]のいずれかの電子部品。
[7]前記第1の層は、3×109MΩ・cm以上の体積抵抗率を有する、[2]~[6]のいずれかの電子部品。
[8]前記コーティング層の厚みが50~500μmである、[1]~[7]のいずれかの電子部品。
[9][2]~[8]いずれかの電子部品を製造する方法であって、
電子素子が実装された回路基板の表面に、第1の層形成用組成物を塗布して第1の層を形成する工程、
前記第1の層の表面に、第2の層形成用組成物を塗布して第2の層を形成する工程、
を含む、電子部品の製造方法。
[10]前記塗布がディッピング処理である、[9]の方法。
[11]前記第1の層形成組成物の塗布後に塗膜を乾燥し、前記塗膜上に繰り返し前記第1の層形成組成物を塗布する、[9]または[10]の方法。
[12][1]~[8]のいずれかの電子部品と、前記電子部品の表面を被覆する外装体とを備えた、モジュール。
[13][12]のモジュールを製造する方法であって、
金型内に前記電子部品を配置して射出成型を行い、前記電子部品の表面を被覆するように外装体を形成する工程、
を含む、モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子部品によれば、電子素子が実装された回路基板表面に設けられたコーティング層が、コーティング層中の中空粒子の含有量が回路基板と接する面側の方が低くなるように、厚さ方向において中空粒子の濃度勾配を有しているため、コーティング層中の中空粒子の含有量が多い部分が断熱効果を発揮し、射出成形時の熱によるはんだ等の導電性接着部材の再溶融や基板の熱劣化(樹脂の熱膨張による応力破損等)を抑制することができるとともに、コーティング層中の中空粒子の含有量が少ない部分が電気絶縁効果を発揮し、絶縁抵抗性に優れる回路基板を有する電子部品とするこができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による電子部品の概略断面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態による電子部品の概略断面図である。
【
図3】本発明一実施形態による電子部品のコーティング層部分を拡大した概略断面図である。
【
図4】本発明の他の実施形態による電子部品のコーティング層部分を拡大した概略断面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態による電子部品のコーティング層部分を拡大した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0014】
[電子部品]
図1は、本発明の一実施形態による電子部品の概略断面図である。電子部品1は、
図1に示すように、はんだ30A、30Bを介して電子素子40A、40Bが実装された回路基板20とコーティング層10とを備えている。回路基板20の表面は、電子素子40A、40Bを含めてコーティング層10により被覆されている。コーティング層は、回路基板全体を被覆するように設けられていてもよいが、
図2に示すように、熱等の影響を受けやすいはんだ付けされた電子素子40A、40B付近のみをコーティング層10により被覆してもよい。
【0015】
図3は、本発明の電子部品のコーティング層部分を拡大した概略断面図である。コーティング層10は、
図3に示すように、熱可塑性樹脂10Aと中空粒子10Bとを少なくとも含む。コーティング層10は、コーティング層10中の中空粒子10Bの含有量が回路基板と接する面20A側の方が低くなるように、厚さ方向において中空粒子の濃度勾配を有している。本発明における濃度勾配とは、層中又は層間の何れかの箇所に中空粒子の濃淡があることをいうものとする。
【0016】
本発明においては、中空粒子の含有量が多い部分が断熱効果を発揮し、射出成形時の熱によるはんだ等の導電性接着部材の再溶融や基板の熱劣化(樹脂の熱膨張による応力破損等)を抑制することができる。一方、コーティング層中の中空粒子の含有量が少ない部分が電気絶縁効果を発揮し、後述するようなモジュールとした場合に優れた絶縁破壊強さを維持することができる。すなわち、中空粒子を含むことによって電気絶縁性が低下してしまうという課題をコーティング層中に中空粒子の含有量が少ない部分を設けることにより、断熱性と電気絶縁性とを両立したものである。
【0017】
本発明の実施形態においては、コーティング層10は、
図3に示すように、厚さ方向において徐々に中空粒子の含有量が変化するように、中空粒子の濃度勾配を設けてもよいが、
図4に示すように、コーティング層10を中空粒子10Bを含まない第1の層11、および中空粒子10Bを含む第2の層12の2層構成としてもよい。
図4に示すような実施形態においては、断熱性と電気絶縁性との両立の観点から、第1の層11は回路基板と接する面20A側に設けられていることが好ましい。なお、第1の層11は、実質的に中空粒子が含まれていなければよく、中空粒子の含有量が1質量%未満であってもよい。また、第2の層12は、1質量%以上の中空粒子が含まれていることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明の実施形態においては、
図5に示すように、コーティング層は、3層以上の複数の層から構成されていてもよく、例えば中空粒子を含まない第1の層11、中空粒子を含む第2の層13、および中空粒子を含む第3の層14から構成されていてもよい。この場合も、断熱性と電気絶縁性との両立の観点から、第1の層11は回路基板と接する面20A側に設けられていることが好ましい。また、第2の層13および第3の層14中の中空粒子の含有量は同じでもよいが、断熱性と電気絶縁性との両立の観点から、第2の層13よりも第3の層14の方が中空粒子の含有量が多いことが好ましい。
【0019】
また、図示しないが、本発明においてコーティング層が3層以上の場合は、第一の層が中空粒子を含まず、第二の層が中空粒子を含み、第三の層が中空粒子を含まない層構成であってもよい。
【0020】
以下、本発明の電子部品を構成するコーティング層を形成するための組成物について説明する。
【0021】
上記した電子部品を構成するコーティング層は、熱可塑性樹脂および中空粒子を少なくとも含む組成物を用いて、電子素子が実装された回路基板の表面に塗布、乾燥することにより形成することができる。
【0022】
<熱可塑性樹脂>
コーティング層形成用組成物に含まれる熱可塑性樹脂としては従来公知のものを使用でき、例えば、合成樹脂や水系エマルション樹脂が挙げられる。合成樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、ユリア樹脂、シリコン樹脂、メラミン尿素、樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を組合せて用いることができる。これら熱可塑性樹脂なかでも、回路基板と中空粒子との接着性の観点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリオレフィン系エラストマーをより好ましく使用することができる。ポリオレフィン系エラストマーとしては、具体的には、プロピレンとαオレフィンとの共重合体、αオレフィン重合体、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等のエチレン-プロピレン系ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)等が挙げられる。また、水系エマルションとしては、シリコンアクリルエマルション、ウレタンエマルション、アクリルエマルション等が挙げられる。
【0023】
本発明のコーティング層形成用組成物には、熱可塑性樹脂が5~40質量%含まれることが好ましく、半導体等の電子素子の衝撃保護の観点からは、熱可塑性樹脂の配合量は8~30質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることがさらに好ましい。なお、ここでの熱可塑性樹脂の配合量とは、固形分換算した熱可塑性樹脂の配合量を意味する。
【0024】
<有機溶剤>
コーティング層形成用組成物には、有機溶剤が含まれていてもよい。有機溶剤は、上記した熱可塑性樹脂や、後述する中空粒子や他の成分を溶解ないし分散させるための分散媒として機能する。このような機能を有するものであれば有機溶剤は特に制限なく使用でき、熱可塑性樹脂の溶解性、揮発速度、中空粒子の分散性、他の充填剤、分散剤等との相性等を考慮して、従来公知のケトン系、アルコール系、芳香族系等の有機溶剤のなかから適宜選択して使用することができる。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、アルキルシクロヘキサン、シクロヘキセン、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられ、これらのなかでも炭素数1~5のアルキル基を有するシクロヘキサンが好ましく用いられる。こられは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を使用する場合には、有機溶剤としては溶解度の観点から炭素数1~12の脂肪族炭化水素、特にメチルシクロヘキサンを好適に使用することができる。
【0026】
本発明のコーティング層形成用組成物には、有機溶剤が5~95質量%含まれることが好ましく、塗布工程での流動性の確保および塗布後の乾燥工程の簡便さを両立させる観点からは、有機溶剤の配合量は30~92質量%であることがより好ましく、60~90質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
<中空粒子>
コーティング層形成用組成物に含まれる中空粒子は、被膜に断熱性を付与するものである。このような中空粒子としては、単孔中空粒子、多孔中空粒子のいずれでもあってもよい。 なお、単孔中空粒子とは、粒子内部に一つの空孔を有する粒子である。多孔中空粒子とは、粒子内部に複数の空孔を有する粒子である。多孔中空粒子中の複数の空孔は、独立して存在していてもよいし、繋がっていてもよい。
【0028】
中空粒子は、40~95体積%の中空率を有することが好ましく、有機溶剤揮発後の断熱形状が保持できる観点からは40~70体積%であることがより好ましく、45~60体積%であることがさらに好ましい。なお、本発明において中空率は、次の方法により測定される値を意味するものとする。
中空粒子の密度の測定値(B)に対して、その中空粒子を構成する材料の理論密度を(A)とし場合に中空率(C)は、下記式により算出することができる。
C(%)=(A-B)/A×100
【0029】
また、中空粒子は、熱可塑性樹脂に均一に分散した状態で被膜化されることが好ましいことから、中空粒子は5.0以下の比重を有することが好ましく、より好ましい比重は、0.1~1.5である。なお、本発明において中空粒子の比重は、水の密度(1.0g/cm
3)に対する中空粒子の密度(即ち、測定値(B))を意味するものとする。なお、熱可塑性樹脂および中空粒子を有機溶剤に溶解ないし分散させた組成物において、熱可塑性樹脂よりも中空粒子の方が比重が小さい場合、コーティング層組成物を回路基板表面に塗布して塗膜を形成すると、有機溶剤が蒸発して塗膜が乾燥するまでの間に、熱可塑性樹脂と中空粒子の比重差から、塗膜の表面付近ほど中空粒子の濃度が高くなるため、結果として、
図3に示したように、コーティング層中の中空粒子の含有量が回路基板と接する面側の方が低くなるように、コーティング層の厚さ方向において、中空粒子の濃度勾配を付けることができる。
【0030】
中空粒子の平均粒径は、スリップの発生抑制の観点から、1~500μmであることが好ましく、5~100μmがより好ましく、10~70μmであることがさらに好ましい。なお、本発明において平均粒径とは、粉体状態にある中空粒子をレーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定した粒子径の平均値(D50)を意味する。
【0031】
中空粒子は、熱可塑性樹脂粒子、熱硬化性樹脂粒子、ガラスを殻とする有機中空粒子(樹脂中空粒子)、あるいはガラス粒子、セラミック粒子等の無機中空粒子のいずれであってもよいが、機械物性の観点から熱可塑性樹脂粒子を好適に使用することができる。中空粒子として用いることのできる熱可塑性樹脂としては、スチレン骨格を有する単量体(スチレン、パラクロロスチレン、α-メチルスチレン等)、(メタ)アクリロイル基を有する単量体(アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ニトリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等)等)、酢酸ビニル、ビニルエーテル(例えばビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等)、ビニルケトン(ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等)、オレフィン(例えばエチレン、プロピレン、ブタジエン等)等の単量体の単独重合体、またはこれら単量体を2種以上組み合せた共重合体を殻とする有機中空粒子が挙げられる。
【0032】
また、中空粒子として、非ビニル系樹脂(エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ポリエーテル樹脂、変性ロジン等)、これらと前記ビニル系樹脂との混合物、または、これらの共存下でビニル系単量体を重合して得られるグラフト重合体等を殻とする有機中空粒子も挙げられる。
【0033】
上記した樹脂のなかでもポリアクリロニトリル、アクリル系樹脂が耐熱性の観点から好ましく用いられる。
【0034】
中空粒子は、膨張性、非膨張性の中空粒子のいずれであってもよい。なお、膨張性の中空粒子とは、熱等の外部からの刺激により、粒子(または内部の空孔)の体積が増加する粒子をいうものとする。
【0035】
上記した中空粒子は、市販のものを使用してもよく、一例として、アドバンセルEM、HB(以上、積水化学工業株式会社製)、エクスパンセルU、E(以上、日本フェライト株式会社製)、マツモトマイクロスフェアーF、F-E(以上、松本油脂製薬株式会社製)等の樹脂製中空粒子や、シリナックス(日鉄工業株式会社製)、イースフィアーズ(太陽セメント株式会社製)、ハードライト(昭和化学株式会社製)、セノライト、マールライト、ガラスバルーン(以上、巴工業株式会社)等の無機系中空粒子を挙げることができる。
【0036】
コーティング層形成用組成物中に含まれる中空粒子の含有量は、固形分換算において、1~10質量%であることが好ましく、より好ましくは3~8質量%である。なお、
図4および
図5に示したように、コーティング層が複数層から構成される場合には、各コーティング層を形成する際の組成物中の中空粒子の含有量を調整すればよい。特に、回路基板に接する面側に設けられる第1の層を形成するための組成物には中空粒子が含有されていないことが好ましい。
【0037】
コーティング層形成用組成物には、上記した成分以外にも他の成分が含まれていてもよい。例えば、脂肪族アミド化合物が含まれていてもよい。脂肪族アミド化合物が含まれることで、コーティング層形成用組成物中の熱可塑性樹脂と中空粒子との分散安定性が向上し、コーティング層形成用組成物を回路基板表面に塗布してコーティング層を形成した際に、コーティング層(塗膜)中で均一に熱可塑性樹脂と中空粒子とが分散され、その結果、コーティング層は均一な断熱性を有するものと考えられる。脂肪族アミド化合物は、分子中に-NH-CO-結合を持つ化合物であり、例えば脂肪酸と脂肪族アミンおよび/または脂環式アミンとの反応物やそのオリゴマー等が挙げられる。アミド結合を有する化合物は水素結合が関与した網目状のネットワーク構造を形成するため、当該ネットワーク構造の形成が中空粒子の均一分散性に関係しているものと考えられる。
【0038】
脂肪族アミド化合物は、チクソ性を備えるものが好ましい。チクソ性を備える脂肪族アミド化合物を用いることで、中空粒子を均一に分散した状態で長期間保持できる傾向にある。
【0039】
コーティング層形成用組成物に好適に使用できる脂肪族アミド化合物としては、脂肪酸ポリアミド構造を有し、当該脂肪酸が炭素数8から30の長鎖アルキル基を有するものが好ましい。当該長鎖アルキル基は直鎖状のもの、分岐状のもののいずれも用いることができる。また前記長鎖アルキル基は繰り返しにより炭素-炭素結合で長鎖に繋がったものでも良い。具体例としては、例えばラウリン酸アマイド、ステアリン酸アマイドなどの飽和脂肪酸モノアマイド、オレイン酸アマイドなどの不飽和脂肪酸モノアマイド、N-ラウリルラウリン酸アマイド、N-ステアリルステアリン酸アマイドなどの置換アマイド、メチロールステアリン酸アマイドなどのメチロールアマイド、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイドなどの飽和脂肪酸ビスアマイド、メチレンビスオレイン酸アマイドなどの不飽和脂肪酸ビスアマイド、m-キシリレンビスステアリン酸アマイドなどの芳香族ビスアマイド、脂肪酸アマイドのエチレンオキシド付加体、脂肪酸エステルアマイド、脂肪酸エタノールアマイド、N-ブチル-N’-ステアリル尿素などの置換尿素等を挙げることができ、これらは単独または2種以上組み合わせて使用することができる。これらのなかでも、チクソ作用によって組成物中の中空粒子の分散性が向上する観点から、飽和脂肪酸モノアマイドがより好ましい。
【0040】
上記した脂肪族アミド化合物は、市販のものを使用してもよく、一例としてDISPARLON 6900-20X、DISPARLON 6900-10X、DISPARLON A603-20X、DISPARLON A603-10X、DISPARLON A670-20M、DISPARLON 6810-20X、DISPARLON 6850-20X、DISPARLON 6820-20M、DISPARLON 6820-10M、DISPARLON FS-6010、DISPARLON PFA-131、DISPARLON PFA-231(以上、楠本化成株式会社製)、フローノン RCM-210(共栄化学株式会社製)、BYK-405(ビックケミージャパン社製)等が挙げられる。
【0041】
コーティング層形成用組成物には、脂肪族アミド化合物が0.001~10質量%含まれることが好ましく中空粒子の均一分散性の観点からは、脂肪族アミド化合物の配合量は0.05~7質量%であることがより好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。なお、ここでの脂肪族アミド化合物の含有量とは、(A)熱可塑性樹脂および(B)有機溶剤の総和に対して脂肪族アミド化合物が含まれる割合を意味するものとする。
【0042】
<回路基板>
回路基板としては、特定のものに限定されるわけではないが、半導体素子、抵抗チップ、コンデンサ、外部との接続端子等の電子素子が実装される回路基板、とりわけ、各種電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を構成する回路基板であることが好ましい。プリント配線基板等の回路基板に、半導体素子、抵抗チップ、コンデンサ、外部との接続端子等の各種電子素子を実装し、はんだ等の導電性接着部材により回路基板と各素子とを電気的に接続した電子部品をモジュール化することにより電子制御装置を作製することができる。各種電子制御装置は、航空機や自動車用の電子制御装置であることが好ましく、センサーに関する電子制御装置であることがより好ましい。
【0043】
回路基板には、半導体素子、抵抗チップ、コンデンサ、外部との接続端子等の各種電子素子が実装されている。また、回路基板と電子素子とが導電性接着部材により電気的に接続されている。導電性接着部材としては、導電性フィラーを含む合成樹脂やはんだが挙げられ、はんだが好ましく用いられる。はんだは、スズ(Sn)が含まれていればよく、Sn-Pb系合金、Sn-Ag-Cu系合金、Sn-Zn-Bi系合金、Sn-Zn-Al系合金等が挙げられ、環境に関する法規制から、Sn-Ag-Cu系合金、Sn-Zn-Bi系合金、Sn-Zn-Al系合金等のいわゆる鉛フリーはんだが好ましく用いられる。
【0044】
導電性フィラーを含む樹脂としては、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂に対し、金、銀、銅、ニッケル、アルミ等の導電性フィラーを含むものが好ましく用いられる。
【0045】
導電性接着部材は、配線基板と各種素子とを電気的に接続する際の作業性の観点から、融点が通常は250℃以下であり、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。なお、導電性フィラーを含む樹脂として熱硬化性樹脂等を使用する場合において、当該熱硬化性樹脂の融点が測定できない場合は、耐熱温度をその代替とする。
【0046】
[電子部品の製造方法]
本発明の電子部品は、電子素子が実装された回路基板の表面に、上記したコーティング層形成用組成物を塗布、乾燥することにより形成することができる。特に、
図4や
図5に示したような複数層からなるコーティング層を形成する場合、先ず、電子素子が実装された回路基板の表面に、中空粒子を含有しない第1の層形成用組成物を塗布して第1の層を形成し、第1の層の表面に、中空粒子を含有する第2の層形成用組成物を塗布して第2の層を形成することにより、複数層からなるコーティング層を形成することができる。
【0047】
コーティング層形成用組成物の塗布は、電子部品の導電性接着部材部分が少なくとも被覆されるようにコーティング剤を電子部品に塗布する。各種電子素子を熱から保護する観点からは、導電性接着部材部分のみならず、各種電子素子が実装された回路基板全体が被覆されるようにコーティング層形成用組成物を塗布することが好ましい。コーティング層形成用組成物は、スクリーン印刷法、バーコーター、ブレードコーター、ディッピング等の従来公知の方法により、回路基板表面に塗布することができるが、本発明においてはディッピング処理により行われることが好ましい。
【0048】
コーティング層形成用組成物を塗布した後、乾燥することにより有機溶媒を除去してコーティング層を形成することができる。乾燥は、常温乾燥であってもよく、また熱風乾燥機等を使用して行ってもよい。
【0049】
さらに、コーティング層の厚みを調整するため、塗布、乾燥工程を繰り返してもよい。特に、第1の層形成組成物の塗布後に塗膜を乾燥し、前記塗膜上に繰り返し前記第1の層形成組成物を塗布し、乾燥させることにより、第1の層の厚さを、第2の層よりも厚くすることができる。
【0050】
上記のように形成されたコーティング層の厚さは50~500μmであることが好ましく、より好ましくは100~300μmである。本発明の実施形態において、
図4に示したように、コーティング層を第1の層および第2の層の2層から構成する場合は、第1の層の厚みと第2の層の厚みの比率は、1:1~3:1であることが好ましく、より好ましくは1.5:1~2.5:1であることが好ましい。
【0051】
本発明の実施形態において、
図4に示したように、コーティング層を第1の層および第2の層の2層から構成する場合は、第1の層は中空粒子を含まないことから、3×10
9MΩ・cm以上の体積抵抗率を有する。そのため、優れた絶縁抵抗性を有する電子部品とすることができる。なお、体積抵抗率はJIS K6911に準拠して測定された値を意味する。
【0052】
また、第2の層は中空粒子を含むため、0.2W/m・k未満の熱伝導率を有する。そのため、射出成形時の熱によるはんだ等の導電性接着部材の再溶融や基板の熱劣化(樹脂の熱膨張による応力破損等)を抑制することができる。なお、はんだの融点が217℃であり、ポリブチレンテレフタレートを金型温度240℃で射出成形を行うことでモジュールを製造すると仮定した場合、射出成形時にはんだが融点以上に加熱されるのを抑制するために必要な熱伝導率をシミュレーションによって計算したところ、熱伝導率が0.2W/m・K以下であった。
【0053】
また、コーティング層を、上記したように、中空粒子を含まない第1の層および中空粒子を含む第2の層の積層構造とすることにより、絶縁破壊強さが予想外に向上する。
【0054】
<モジュール>
本発明の電子部品は、電子部品を保護するために外装体に収容して一体化し、モジュールとしてもよい。近年はモジュールの小型化の要請もあり、外装体内に電子部品を収納することに代えて、電子部品自体を熱可塑性樹脂で封止して一体化したモジュールとすることが行われている。このようなモジュールは、金型内に電子部品を配置して射出成型(インモールド成形)を行うことにより作製されている。この場合、溶融した熱可塑性樹脂の熱が電子部品に伝わり、はんだ等の導電性接着部材を再溶融してしまうことがあり、はんだの部分的な再溶融や樹脂の熱膨張によって電子部品が破損してしまうことがあった。本発明の電子部品であれば、このような外部からの熱を遮蔽でき、電子部品の破損を抑制することができる。また、高い体積抵抗率を有することから絶縁性にも優れる回路基板を有するモジュールとすることができる。
【0055】
モジュールは、電子部品、センサー類、外部との接続端子等を封止材によって被覆することにより製造することができるが、本発明においては、金型内に、電子部品、センサー類、外部との接続端子等を配置して射出成型を行い、電子部品の表面を被覆するように熱可塑性樹脂の外装体を形成することにより製造することができる。なお、モジュールは、回路基板の一部やセンサー類、ケーブル等の封止材に覆われていない部分が存在してもよい。また、いわゆるインモールド形成を行うことにより、電子部品が熱可塑性樹脂からなる封止材で封止されて一体化した所望形状のモジュールを製造することができる。
【0056】
封止材としては、射出成型が可能な樹脂であれば特に制限はないが、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリル樹脂、ABS樹脂等が挙げられ、成形性と機械物性の観点からポリブチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0057】
封止材としてポリブチレンテレフタレートを使用する場合などは、射出成型時の温度は230~270℃程度であるため、導電性接着部材が再溶融してしまう恐れがある。本発明においては、電子部品の表面に被膜を形成しておくことで、電子部品に熱が伝播するのを低減し、上記したような導電性接着部材の再溶融や樹脂の熱膨張による電子部品が破損するのを抑制することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、これらの例により本発明が限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
コーティング層形成用組成物として、下記のコーティング組成物1および2を準備した。
<コーティング組成物1>
コーティング組成物1として、熱可塑性樹脂と有機溶媒の混合物(エアブラウン社製 Humiseal 1B51NSLU-40(ポリオレフィン系エラストマー14質量%、メチルシクロヘキサン86質量%))を準備した。
<コーティング組成物2>
熱可塑性樹脂と有機溶媒の混合物(エアブラウン社製 Humiseal 1B51NSLU-40 100質量部に対して、中空粒子(積水化学工業社製 アドバンセルHB2051、素材:アクリロニトリル、比重:0.4g/cm3、中空率:50%、平均粒子径:20μm)を3質量部、および脂肪族アミド化合物を0.6質量部加え、十分に撹拌してコーティング組成物2を調製した。
【0060】
上記したコーティング組成物1にポリイミドフィルムを浸漬した後、引き上げ、60℃の空気中で30分間乾燥を行うディッピング工程を2回繰り返して行うことにより、ポリイミドフィルム表面に第1の層を形成した。次いで、第1の層が形成されたポリイミドフィルムを、上記したコーティング組成物2に浸漬した後、引き上げ、60℃の空気中で30分間乾燥を行うディッピング工程を1回行うことにより第2の層を形成した。
【0061】
上記のようにして得られたコーティング層が形成されたポリイミドフィルムは、第1の層および第2の層の総厚は307μmであった。また、第1の層と第2の層の厚みの比率は約2:1であった。
【0062】
コーティング層が形成されたポリイミドフィルムについて、エーディーシー社製 ULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340を用いて、JIS-K 6911に準拠して体積抵抗率を測定した。
【0063】
また、コーティング層が形成されたポリイミドフィルムについて、小島電機製作所製 耐電圧試験装置を用いて、JIS C 2110-1:2016に準拠して絶縁破壊の強さを測定した。評価結果は、下記表1に示されるとおりであった。
【0064】
[比較例1]
ポリイミドフィルムに、バーコーターを用いてコーティング組成物1を塗布し、乾燥させて有機溶媒を蒸発させることにより第1の層のみを形成した。コーティング膜の厚みは300μmであった。得られた試験片は実施例1と同様の評価に加えて、得られたコーティング層の熱伝導率を非定常法細線加熱法によって測定した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0065】
[比較例2]
ポリイミドフィルムに、バーコーターを用いてコーティング組成物2を塗布し、乾燥させて有機溶媒を蒸発させることにより第2の層のみを形成した。コーティング膜の厚みは300μmであった。得られた試験片は実施例1と同様の評価に加えて、得られたコーティング層の熱伝導率を非定常法細線加熱法によって測定した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0066】
【0067】
なお、はんだの融点が217℃であり、基板上にポリブチレンテレフタレートを金型温度240℃で射出成形を行うと仮定した場合、射出成形時にはんだが融点以上に加熱されるのを抑制するために必要な熱伝導率をシミュレーションによって計算したところ、熱伝導率が0.2W/m・K以下であれば、はんだの再溶融を抑制できるとの結果から、熱伝導率が0.2W/m・K以下であれば本発明の課題を達成できるものと考えられる。
【0068】
表1の評価結果からも明らかなように、中空粒子を含むコーティング層のみを備えるポリイミドフィルム(比較例2)は優れた断熱性を備えるが、体積抵抗率は、中空粒子を含まないコーティング層のみを備えるポリイミドフィルム(比較例1)に比べて一桁低く、絶縁破壊強さも劣位であることがわかる。
【0069】
一方、第1の層および第2の層を備えるポリイミドフィルム(実施例1)は、コーティング層中の中空粒子の含有量がポリイミドフィルムと接する面側の方が低くなるように、コーティング層が厚さ方向において中空粒子の濃度勾配を有しているため、断熱性および体積抵抗率の両方に優れることに加え、積層することで絶縁破壊の強さが向上するという効果も見いだされた。
通常、半導体コーティング用樹脂に比べて空気の方が絶縁破壊の強さが低いが、表面に中空粒子を含む層を形成することで電流が表層で分散、均一化され、結果として単層よりも絶縁破壊強さが向上したものと考えられる。