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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】バイオディーゼル組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/198 20060101AFI20240626BHJP
   C10L 1/02 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C10L1/198
C10L1/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021520198
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 FI2019050764
(87)【国際公開番号】W WO2020089521
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】20185919
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】ピエタリネン スヴィ
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/199608(WO,A1)
【文献】特開2005-220227(JP,A)
【文献】特表2016-509104(JP,A)
【文献】特表2017-502107(JP,A)
【文献】特表2014-508536(JP,A)
【文献】SRIRAAM R. CHANDRASEKARAN; ET AL,ANTIOXIDANTS FROM SLOW PYROLYSIS BIO-OIL OF BIRCH WOOD: APPLICATION FOR BIODIESEL AND BIODIESEL AND BIOBASED LUBRICANTS,ACS SUSTAINABLE CHEMISTRY & ENGINEERING,米国,2016年03月07日,VOL:4, NR:3,PAGE(S):1414-1421,https://doi.org/10.1021/acssuschemeng.5b01302,BIOBASED LUBRICANTS
【文献】SOREN BARSBERG; ET AL,CONTROL OF LIGNIN SOLUBILITY AND PARTICLE FORMATION MODULATES ITS ANTIOXIDANT:以下備考,ENERGY & FUELS,米国,2014年07月09日,VOL:28, NR:7,PAGE(S):4539-4544,https://doi.org/10.1021/ef500368x,EFFICIENCY IN LIPID MEDIUM: AN IN SITU ATTENUATED TOTAL REFLECTANCE FT-IR STUDY
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/02
C10L 1/192
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤を含むバイオディーゼル組成物であって、前記安定化剤は、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有する解重合リグニンを含み、
前記解重合リグニンが、
リグニンを準備する工程と、
前記リグニンを解重合プロセスに供する工程と、
を備える方法により製造され、
前記解重合プロセスが、塩基触媒分解プロセス又は酵素による解重合プロセスであり、
前記解重合プロセスにおいて、硫黄含有還元剤が使用されず、
前記解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の前記リグニンのTEAC値の50%以下であり、前記解重合リグニンの重量平均分子量は、前記リグニンの重量平均分子量の60%以下であ、バイオディーゼル組成物。
【請求項2】
前記解重合リグニンのTEAC値が、解重合前の対応するリグニンのTEAC値の40%以下、又は30%以下、又は20%以下である請求項1に記載のバイオディーゼル組成物。
【請求項3】
前記解重合リグニンが、420~4000g/mol、又は500~3600g/mol、又は700~3000g/molの重量平均分子量を有する請求項1または請求項2に記載のバイオディーゼル組成物。
【請求項4】
前記解重合リグニンの重量平均分子量が前記対応するリグニンの重量平均分子量の50%以下、又は40%以下である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のバイオディーゼル組成物。
【請求項5】
前記バイオディーゼル組成物が、15ppm以下の硫黄、若しくは10ppm以下の硫黄を含むか、又は実質的に硫黄を含まない請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のバイオディーゼル組成物。
【請求項6】
解重合されるリグニンが工業リグニンである請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のバイオディーゼル組成物。
【請求項7】
バイオディーゼルが脂肪酸メチルエステルベースのバイオディーゼルである請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のバイオディーゼル組成物。
【請求項8】
前記バイオディーゼル組成物が、250~1000ppmの前記安定化剤を含む請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のバイオディーゼル組成物。
【請求項9】
前記バイオディーゼル組成物が、1重量%以下の化石炭素、若しくは0.5重量%以下の化石炭素を含むか、又は実質的に化石炭素を含まない請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のバイオディーゼル組成物。
【請求項10】
バイオディーゼル組成物用安定化剤の製造方法であって、
リグニンを準備する工程と、
前記リグニンの抗酸化能力を高めるために、前記リグニンを解重合プロセスに供して、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有する解重合リグニンを得る工程であって、前記解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の前記リグニンのTEAC値の50%以下であり、前記解重合リグニンの重量平均分子量は、前記リグニンの重量平均分子量の60%以下である工程と
を備え
記解重合プロセスが、塩基触媒分解プロセス又は酵素による解重合プロセスであり、
前記解重合プロセスにおいて、硫黄含有還元剤が使用されない、方法。
【請求項11】
安定化剤を含むバイオディーゼル組成物の製造方法であって、前記安定化剤をバイオディーゼルと組み合わせる工程を備え、前記安定化剤は、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有する解重合リグニンを含み、
前記解重合リグニンが、
リグニンを準備する工程と、
前記リグニンを解重合プロセスに供する工程と、
を備える方法により製造され、
前記解重合プロセスが、塩基触媒分解プロセス又は酵素による解重合プロセスであり、
前記解重合プロセスにおいて、硫黄含有還元剤が使用されず、
前記解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の前記リグニンのTEAC値の50%以下であり、前記解重合リグニンの重量平均分子量は、前記リグニンの重量平均分子量の60%以下であ、方法。
【請求項12】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のバイオディーゼル組成物を含むディーゼル燃料。
【請求項13】
バイオディーゼル組成物の酸化を低減するためのバイオディーゼル組成物における安定化剤としての解重合リグニンの使用であって、前記解重合リグニンは、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有し、
前記解重合リグニンが、
リグニンを準備する工程と、
前記リグニンを解重合プロセスに供する工程と、
を備える方法により製造され、
前記解重合プロセスが、塩基触媒分解プロセス又は酵素による解重合プロセスであり、
前記解重合プロセスにおいて、硫黄含有還元剤が使用されず、
前記解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の前記リグニンのTEAC値の50%以下であり、前記解重合リグニンの重量平均分子量は、前記リグニンの重量平均分子量の60%以下であ、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオディーゼル組成物に関する。本開示はさらに、バイオディーゼル組成物用安定化剤の製造方法及びバイオディーゼル組成物の製造方法に関する。本開示はさらに、ディーゼル燃料に関する。本開示はさらに、バイオディーゼル組成物における安定化剤としての解重合リグニンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオディーゼルは、ディーゼルエンジン車で使用できる一般的なバイオ燃料である。バイオディーゼルは、純粋な形で使用することができるが、ディーゼルエンジン車からの微粒子、一酸化炭素、及び炭化水素のレベルを下げるために、ディーゼル添加剤として使用されることが多い。バイオディーゼルは、生物由来の原料からエステル交換反応によって製造された脂肪酸メチルエステル(FAME)で構成されている。通常、植物油、廃食用油、又は動物性脂肪が原料として使用される。バイオディーゼルの特性と要件は、規格によって規定されている。最も監視されているパラメータは、バイオディーゼルの酸化安定性である。バイオディーゼル中のFAMEの組成並びに脂肪酸鎖中の二重結合の数及びその位置に起因して、バイオディーゼルは酸化反応の影響を受けやすい。それゆえ、バイオディーゼルの製造には酸化防止剤が使用される。市販の酸化防止剤は、通常、化石原料から作製される。バイオディーゼルでは、コスト、入手性及び性能の点から、主にフェノール系酸化防止剤が使用されている。しかしながら、本発明者は、純粋にバイオベースの材料から生成されるバイオディーゼル組成物を提供する必要性を認識している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
バイオディーゼル組成物が開示される。当該バイオディーゼル組成物は、安定化剤を含んでいてもよい。この安定化剤は、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する解重合リグニンを含んでいてもよい。この解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の対応するリグニンのTEAC値の50%以下である。解重合リグニンの重量平均分子量は、上記対応するリグニンの重量平均分子量の60%以下である。
【0004】
バイオディーゼル組成物用安定化剤の製造方法が開示される。この方法は、リグニンを準備する工程と、リグニンの抗酸化能力を高めるために、リグニンを解重合プロセスに供して、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有する解重合リグニンを得る工程であって、この解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の対応するリグニンのTEAC値の50%以下であり、解重合リグニンの重量平均分子量は、上記対応するリグニンの重量平均分子量の60%以下である工程とを備えてもよい。
【0005】
安定化剤を含むバイオディーゼル組成物の製造方法が開示される。この方法は、安定化剤をバイオディーゼルと組み合わせる工程を備えていてもよく、この安定化剤は、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有する解重合リグニンを含み、この解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の対応するリグニンのTEAC値の50%以下であり、解重合リグニンの重量平均分子量は、上記対応するリグニンの重量平均分子量の60%以下である。
【0006】
ディーゼル燃料が開示される。このディーゼル燃料は、本明細書に開示されるバイオディーゼル組成物を含んでいてもよい。
【0007】
さらに、バイオディーゼル組成物の酸化を低減するためのバイオディーゼル組成物における安定化剤としての解重合リグニンの使用であって、この解重合リグニンは、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有し、この解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の対応するリグニンのTEAC値の50%以下であり、解重合リグニンの重量平均分子量は、上記対応するリグニンの重量平均分子量の60%以下である使用が開示される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
安定化剤を含むバイオディーゼル組成物が開示される。この安定化剤は、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有する解重合リグニン(解重合を受けたリグニン)を含んでもよい。この解重合リグニンのTEAC値は、解重合前(解重合を受ける前の)の対応するリグニンのTEAC値の50%以下である。解重合リグニンの重量平均分子量は、上記対応するリグニンの重量平均分子量の60%以下である。
【0009】
さらに、バイオディーゼル組成物用安定化剤の製造方法が開示される。この方法は、リグニンを準備する工程と、リグニンの抗酸化能力を高めるために、リグニンを解重合プロセスに供して、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有する解重合リグニンを得る工程であって、この解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の対応するリグニンのTEAC値の50%以下であり、解重合リグニンの重量平均分子量は、上記対応するリグニンの重量平均分子量の60%以下である工程とを備えてもよい。
【0010】
さらに、安定化剤を含むバイオディーゼル組成物の製造方法であって、安定化剤をバイオディーゼルと組み合わせる工程を備え、この安定化剤は、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有する解重合リグニンを含み、この解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の対応するリグニンのTEAC値の50%以下であり、この解重合リグニンの重量平均分子量は、上記対応するリグニンの重量平均分子量の60%以下である方法が開示される。
【0011】
さらに、本開示に開示されるバイオディーゼル組成物を含むディーゼル燃料が開示される。1つの実施形態では、当該ディーゼル燃料は、当該バイオディーゼル組成物を、少なくとも2重量%、又は少なくとも5重量%、又は少なくとも20重量%、又は少なくとも50重量%、又は少なくとも80重量%、又は約100重量%含む。1つの実施形態では、当該ディーゼル燃料は、当該バイオディーゼル組成物に加えて、炭化水素系ディーゼル又は鉱物系ディーゼルを含む。1つの実施形態では、当該ディーゼル燃料は、本開示に記載されるバイオディーゼル組成物に加えて、別のバイオベースのディーゼルを含む。
【0012】
さらに、バイオディーゼル組成物の酸化を低減するためのバイオディーゼル組成物における安定化剤としての解重合リグニンの使用であって、この解重合リグニンは、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有し、この解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の対応するリグニンのTEAC値の50%以下であり、この解重合リグニンの重量平均分子量は、上記対応するリグニンの重量平均分子量の60%以下である使用が開示される。
【0013】
本発明者は、驚くべきことに、リグニン分子がより小さな構造やオリゴマーに解重合又は分解されると、その抗酸化能力又は抗酸化活性を高めることができることを見出した。リグニンを解重合すると抗酸化能力が高まる理由については特定の理論に限定されるものではないが、解重合によってリグニンの高分子構造が開き、通常はリグニン構造中の反応性基を無効にしている立体障害が取り除かれると考えることができる。従って、リグニンが解重合されると、反応性基がさらなる反応のためによりアクセスしやすくなると考えられてもよい。抗酸化活性の向上は、バイオディーゼル組成物における安定化剤として解重合リグニンを使用し、バイオディーゼルの酸化を阻害又は低減することを可能にするという付加的な効用を有する。これは、リグニンが、解重合した状態では、バイオディーゼル組成物中でより容易に溶解することに起因すると考えられる。
【0014】
本明細書の文脈において、「対応するリグニン」という用語は、解重合前であることを除いて解重合リグニンと同じリグニン分子を指してもよい。従って、対応するリグニンは、TEAC値が決定される基準リグニンとみなすことができる。対応するリグニンのTEAC値は、リグニンが解重合された後に測定されるTEAC値と比較される。
【0015】
1つの実施形態では、解重合リグニンのTEAC値は、解重合前の対応するリグニンのTEAC値の40%以下、又は30%以下、又は20%以下である。
【0016】
トロロックス等価抗酸化能(trolox equivalent antioxidant capacity、TEAC)値は、試料の抗酸化能力を示すために一般的に用いられる値である。TEAC値、ひいては抗酸化能力は、以下のα,α-ジフェニル-β-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル除去アッセイ法によって求めることができる。DPPHアッセイ用の試料(10mg)がボルテックスにかける(20秒)ことによりメタノール(2ml)に溶解され、必要なときに、濾過された後に、さらなる希釈液が調製される。DPPHラジカル(2,2’-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル)の保存液は、23.8mgを100mlのメタノールに溶解して調製される。この溶液は暗所で保存され(最長1週間)、分析前にメタノールで1:5に希釈される。トロロックスのIC50値を決定するために、1.29~12.9μg/mlの間の6つの濃度レベルとブランク(メタノール)が三重に調製される。DPPH溶液(0.5ml)が検量線(トロロックス)溶液及び分析試料(0.5ml)に混合され、次いでこれらはボルテックスにかけられて30分間放置された後、515nmで吸光度が測定される。線形のトロロックス曲線(吸光度対濃度)から、DPPH吸光度が元の半分になる点が求められ、曲線の式を用いてトロロックス濃度(IC50、μg/ml)が算出される。試料の希釈液から、50%阻害を囲む2点が選択され、回帰線の式を用いて正確なIC50値が算出される。トロロックス等価抗酸化能(TEAC)値は、試料のIC50をトロロックスのIC50値で除算して算出される。このように、IC50値が低いだけでなく、TEAC値も低いということは、DPPHラジカル除去活性が高いことを意味する。
【0017】
1つの実施形態では、安定化剤は、解重合リグニンからなるか、又は解重合リグニンから作られている。1つの実施形態では、安定化剤は、360g/mol以上5000g/mol以下の重量平均分子量を有する解重合リグニンからなるか、又は解重合リグニンから作られている。
【0018】
1つの実施形態では、解重合プロセスは、塩基触媒分解プロセス又は酵素による解重合プロセスである。
【0019】
本明細書の文脈において、「塩基触媒分解プロセス」という用語は、高温でのアルカリの使用によってリグニンが分解又は解重合されるプロセスを指してもよい。1つの実施形態では、そのような温度は、250~380℃、又は280~320℃である。1つの実施形態では、アルカリは、アルカリ金属の水酸化物を含む。1つの実施形態では、アルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。1つの実施形態では、アルカリは水酸化ナトリウムである。
【0020】
本明細書の文脈において、「酵素による解重合プロセス」という用語は、酵素の使用によってリグニンが分解又は解重合されるプロセスを指してもよい。1つの実施形態では、酵素は、リグニン酸化酵素である。1つの実施形態では、酵素は、ラッカーゼ由来の酵素である。1つの実施形態では、酵素による解重合プロセスは、水溶液中で行われる。1つの実施形態では、この水溶液は、溶媒又は触媒を含まない。
【0021】
リグニンを解重合するために使用される成分とその正確な量は様々であり、異なる成分とその量の選択は、本明細書に基づけば当業者の知識の範囲内である。温度及びpH値は、解重合プロセス中に必要に応じて制御及び調整することができる。
【0022】
1つの実施形態では、解重合リグニンは、420~4000g/mol、又は500~3600g/mol、又は700~3000g/molの重量平均分子量を有する。
【0023】
リグニンの重量平均分子量は、高性能サイズ排除クロマトグラフィーを用いて測定することができる。1つの実施形態では、リグニンの重量平均分子量は、以下の方法で、高性能サイズ排除クロマトグラフィーを用いて決定される。並行して2回の測定が行われる。溶離液として0.1M NaOHが使用される。較正は、分子量1100~73900g/molのポリスチレンスルホン酸ナトリウム標準試料を用いて行われる。品質管理には、標準品質のクラフトリグニン及びPSS分子量標準が使用される。使用されるカラムは、PSS MCXプレカラム、スルホン化スチレン-ジビニルベンゼン共重合体マトリックスを充填した1000Å及び100,000Åの分離カラムである。定組成の(アイソクラティックな)ランプログラムが使用される。ランタイムは45分である。注入量は50μlである。流量は毎分0.5mlである。温度は25℃である。クロマトグラフィーの結果として、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、ピーク分子量(Mp)及び多分散性指数(PDI)の値を報告することができる。
【0024】
1つの実施形態では、解重合リグニンの重量平均分子量は、対応するリグニンの重量平均分子量の50%以下、又は40%以下である。解重合リグニンの重量平均分子量は、対応するリグニンの重量平均分子量に比べて低下している。
【0025】
1つの実施形態では、当該バイオディーゼル組成物は、15ppm以下の硫黄、若しくは10ppm以下の硫黄を含むか、又は実質的に硫黄を含まない。当該バイオディーゼル組成物中に存在する硫黄の量は、当該バイオディーゼル組成物の製造に使用されるリグニンの種類の選択によって少なくとも部分的に影響を受ける可能性がある。硫黄含有量は、規格ASTM D5453に基づいて測定することができる。
【0026】
本明細書の文脈において、「リグニン」という用語は、任意の好適なリグニン源に由来するリグニンを指してもよい。1つの実施形態では、リグニンは実質的に純粋なリグニンである。「実質的に純粋なリグニン」という表現は、少なくとも70%の純粋なリグニン、又は少なくとも90%の純粋なリグニン、又は少なくとも95%の純粋なリグニン、又は少なくとも98%の純粋なリグニンとして理解されるべきである。1つの実施形態では、実質的に純粋なリグニンは、30%以下、10%以下、又は5%以下、又は2%以下の他の成分及び/又は不純物を含む。このような他の成分の例として、抽出物及びヘミセルロース等の炭水化物を挙げることができる。
【0027】
1つの実施形態では、リグニンは、30重量%未満、又は10重量%未満、又は5重量%未満、又は2重量%未満の炭水化物を含む。リグニン中に存在する炭水化物の量は、規格SCAN-CM 71に準拠したパルスアンペロメトリック検出器付き高性能陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAE-PAD)によって測定することができる。
【0028】
1つの実施形態では、リグニンの灰分百分率は、7.5重量%未満、又は5重量%未満、又は3重量%未満である。灰分含有量は、有機物が燃焼する前にアルカリ塩が溶融しないように、リグニン試料を炭化して素早く燃焼させ(例えば20~200℃で30分間、その後、温度が200~600℃に1時間調整され、その後、温度を600~700℃に1時間調整する)、最後にこのリグニン試料が700℃で1時間点火されることによって測定することができる。リグニン試料の灰分含有量は、燃焼及び点火後に試料に残った質量のことであり、試料の乾燥含有量に対するパーセントで示される。1つの実施形態では、リグニンは工業リグニンである。本明細書の文脈において、「工業リグニン」という用語は、任意のバイオマス中のリグニンから任意の技術的プロセスによって誘導されるリグニンを指してもよい。1つの実施形態では、工業リグニンは、工業的プロセスから受け取ったリグニンである。
【0029】
1つの実施形態では、リグニンは、クラフトリグニン、水蒸気爆砕リグニン、バイオリファイナリーリグニン、超臨界分離リグニン、加水分解リグニン、フラッシュ沈殿リグニン、バイオマス由来のリグニン、アルカリパルプ化プロセスからのリグニン、ソーダプロセスからのリグニン、オルガノソルブパルプ化からのリグニン、アルカリプロセスからのリグニン、酵素加水分解プロセスからのリグニン、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。1つの実施形態では、リグニンは木質系リグニンである。リグニンは、軟木、硬木、一年生植物、又はそれらの任意の組み合わせに由来することができる。
【0030】
1つの実施形態では、リグニンは、クラフトリグニンである。「クラフトリグニン」によって、本明細書では、特段の記載がない限り、クラフト黒液に由来するリグニンと理解するべきである。黒液とは、クラフトパルプ化プロセスで使用されるリグニン残渣、ヘミセルロース、無機化学物質のアルカリ性水溶液である。パルプ化プロセス由来の黒液は、軟木及び硬木の異なる樹種に由来する成分を様々な割合で含んでいる。リグニンは、例えば沈殿や濾過等のさまざまな技法により黒液から分離することができる。リグニンは通常、11~12より低いpH値で析出し始める。異なる特性を持つリグニン画分を析出させるために、異なるpH値を用いることができる。これらのリグニン画分は、分子量分布、例えばMw及びMn、多分散性、ヘミセルロースや抽出物の含有量等によって互いに異なる。より高いpH値で析出したリグニンのモル質量は、より低いpH値で析出したリグニンのモル質量よりも大きい。さらに、より低いpHで析出したリグニン画分の分子量分布は、より高いpH値で析出したリグニン画分の分子量分布よりも広い。析出したリグニンは、酸性の洗浄工程を用いて、無機不純物、ヘミセルロース、木材抽出物から精製することができる。さらなる精製は、濾過によって成し遂げることができる。
【0031】
1つの実施形態では、リグニンはフラッシュ沈殿リグニンである。「フラッシュ沈殿リグニン」という用語は、本明細書では、200~1000kPaの超過圧力の影響下で、二酸化炭素系酸性化剤、好ましくは二酸化炭素を用いてリグニンの沈殿レベルまで黒液流のpHを低下させること、及びリグニンを沈殿させるために圧力を突然解放することによって連続的なプロセスで黒液から沈殿させたリグニンとして理解すべきである。フラッシュ沈殿リグニンの製造方法は、フィンランド国特許出願第20106073号に開示されている。上記の方法における滞留時間は300秒未満である。2μm未満の粒子径を有するフラッシュ沈殿リグニン粒子は、凝集体を形成し、これは、例えば、濾過を用いて黒液から分離することができる。フラッシュ沈殿リグニンの利点は、通常のクラフトリグニンに比べてより高い反応性である。フラッシュ沈殿リグニンは、さらなる加工のために必要な場合は精製および/または活性化してよい。
【0032】
1つの実施形態では、リグニンは、アルカリプロセスに由来する。このアルカリプロセスは、バイオマスを強アルカリで液体化することから始まり、その後、中和プロセスを行うことができる。アルカリ処理の後、リグニンは、上に提示したのと同様の方法で沈殿させることができる。
【0033】
1つの実施形態では、リグニンは、水蒸気爆砕に由来する。水蒸気爆砕は、木材及び他の繊維状有機材料に適用することができるパルプ化及び抽出の技術である。
【0034】
「バイオリファイナリーリグニン」とは、本明細書では、特段の記載がない限り、バイオマスが燃料、化学物質及び他の材料に変換される精製施設又は精製プロセスから回収できるリグニンと理解されたい。
【0035】
「超臨界分離リグニン」とは、本明細書では、特段の記載がない限り、超臨界流体分離又は超臨界流体抽出の技術を用いてバイオマスから回収可能なリグニンと理解されたい。超臨界状態とは、物質の臨界点を超える温度と圧力に対応する。超臨界状態では、明確な液相及び気相は存在しない。超臨界水又は超臨界液体による抽出は、超臨界状態の水や液体を用いてバイオマスを分解し、セルロース系の糖に変換する方法である。水や液体が溶媒として働き、セルロース植物体から糖を抽出し、リグニンは固体粒子として残る。
【0036】
1つの実施形態では、リグニンは、加水分解プロセスに由来する。加水分解プロセスに由来するリグニンは、紙-パルプ又は木材-化学プロセスから回収することができる。
【0037】
1つの実施形態では、リグニンは、オルガノソルブプロセスに由来する。オルガノソルブは、リグニン及びヘミセルロースを可溶化するために有機溶媒を使用するパルプ化技術である。
【0038】
1つの実施形態では、リグニンは、酵素加水分解プロセスからのものである。酵素加水分解は、酵素が水という要素を加えて分子の結合を切断するのを助けるプロセスである。1つの実施形態では、酵素加水分解は、セルロースの酵素加水分解を含む。
【0039】
本明細書の文脈において、「バイオディーゼル」という用語は、植物油又は動物性脂肪から得られる長鎖脂肪酸のモノアルキルエステルを指してもよい。1つの実施形態では、バイオディーゼルは、脂肪酸メチルエステル(FAME)ベースのバイオディーゼルである。「FAME」によく使われる別の対応する用語は、菜種油メチルエステル(RME)である。バイオディーゼルに認められる特性は、規格、例えばASTM D6751-07bによって規定されている。
【0040】
1つの実施形態では、当該バイオディーゼル組成物は、250~1000ppmの安定化剤を含む。
【0041】
1つの実施形態では、当該バイオディーゼル組成物は、1重量%以下の化石炭素、若しくは0.5重量%以下の化石炭素を含むか、又は実質的に化石炭素を含まない。本明細書の文脈において、「化石炭素」という用語は、化石原料又は石油系原料中の炭素を指してもよい。1つの実施形態では、当該バイオディーゼル組成物は、生物由来物質のみに由来する。そのような実施形態では、当該バイオディーゼル組成物は現代の炭素のみを含んでいてもよい。本明細書の文脈において、「現代の炭素」という用語は、バイオマス又は生物由来物質に含まれる炭素を指してもよい。植物及び他の形態の生命体は14Cを代謝し、これはすべての生命体及びバイオ製品の一部となる。これに対し、石油系炭素には特徴的な量の14Cが含まれていない。そのため、石油系原料とバイオマス系材料は、14Cの含有量に基づいて区別することができる。14C含有量に基づいて石油系材料とバイオマス系材料を区別するために、標準的な方法のASTM-D6866を、材料のバイオベース含有量を評価するために使用することができる。
【0042】
本出願に記載されたバイオディーゼル組成物は、解重合リグニンを含むバイオベースの安定化剤を含むという付加的な有用性を有する。リグニンの使用は、生物由来物質のみから構成されるバイオディーゼル組成物の製造を可能にする、すなわち、完全にバイオベースのバイオディーゼル組成物を製造することができるという付加的な有用性を有する。リグニンは生物由来の成分であり、リグニンを使用することは、燃料のCO排出量を削減することができるという付加的な有用性を有する。バイオディーゼル組成物における安定化剤としての解重合リグニンの使用は、より小さな構造に分解される前の同じリグニンと比較して、向上した抗酸化能力を示すという付加的な有用性を有する。このように、解重合リグニンは、バイオディーゼル組成物の酸化防止剤として使用することができる。この安定化剤は、現代の炭素のみを含むという付加的な有用性を有する。従って、例えばFAMEの安定化剤として解重合リグニンを使用する場合、生物由来の成分の量を増やすことができる。
【実施例
【0043】
以下、様々な実施形態について詳細に言及する。
【0044】
以下の説明では、当業者が本開示に基づいて実施形態を利用することができるような詳細さでいくつかの実施形態を開示する。多くの工程又は特徴が本明細書に基づいて当業者にとって自明になるため、実施形態のすべての工程又は特徴が詳細に説明されているわけではない。
【0045】
例1 - バイオディーゼル組成物用安定化剤の製造
この例では、安定化剤を製造し、それらの抗酸化能力を決定した。
【0046】
本例に用いたリグニンは、ブナ材(ファグス・シルバチカ、ヨーロッパ・ブナ、Fagus sylvatica)由来のリグニンであった。本例で使用したリグニンは、上述したアルカリプロセス又は酵素加水分解プロセスのいずれかから得られたものであった。使用したリグニンは、規格ISO 11885(2009-06-22)に基づいて、硫黄を含まないと判定された。
【0047】
リグニンを分解又は解重合するために、2つの異なる解重合プロセスを使用した。すなわち、リグニンは、1)塩基触媒分解プロセス(BCD)、又は2)酵素による解重合プロセスのいずれかに供した。酵素による加水分解プロセスに由来するリグニンは酵素による解重合プロセスに供し、アルカリ工程に由来するリグニンは塩基触媒分解プロセスに供した。
【0048】
リグニンの塩基触媒分解は、水酸化ナトリウムの存在下、280~320℃の温度の高温圧縮水の中で行った。リグニン溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は3重量%に設定し、リグニン溶液中のリグニンの濃度は10重量%に設定した。滞留時間を5分、10分、15分に調整して3種類の試料を用意した。その結果、リグニンのアリール-アリール-エーテル結合(a-O-4、b-O-4、4-O-5)が開裂した。
【0049】
酵素解重合プロセスによるリグニンの分解は、リグニン酸化酵素の存在下、水溶液中で行った。
【0050】
リグニン試料を解重合プロセスに供する前と、解重合プロセスに付した後のリグニン試料について、重量平均分子量とTEAC値を測定した。重量平均分子量とTEAC値は、上述の説明に従って測定した。その結果を下記表に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
受け取った結果から、リグニンをその重量平均分子量が360g/mol以上5000g/mol以下の範囲内に入るように解重合することは、その抗酸化の潜在能力又は抗酸化能力に有益な影響を与えることが分かる。
【0053】
実施例2 - バイオディーゼル組成物の製造
この例では、FAMEを例1で製造した安定化剤と混合することにより、バイオディーゼル組成物を製造した。このバイオディーゼル組成物における安定化剤の量は500ppmであった。安定化剤は、FAMEの酸化を低減又は阻害するのに適した抗酸化能力を有する。
【0054】
技術の進歩に伴い、基本的な考え方を様々な形で実施することができることは、当業者にとって自明である。従って、実施形態は、上述の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で変わってもよい。
【0055】
本明細書で説明した実施形態は、互いに任意の組み合わせで使用されてもよい。実施形態のいくつかを一緒に組み合わせて、さらなる実施形態を形成してもよい。本明細書に開示される組成物、方法、燃料、又は使用は、本明細書にこれまで記載された実施形態のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。上述の有益さ及び利点は、1つの実施形態に関するものであってもよく、複数の実施形態に関するものであってもよいことが理解されるであろう。実施形態は、記載された問題のいずれか又はすべてを解決するもの、又は記載された有益さ及び利点のいずれか又はすべてを有するものに限定されない。さらに、「ある」項目への言及は、それらの項目の1つ又は複数を指すことが理解されるであろう。本明細書では、「を含む」という用語は、1つ以上の追加の特徴又は行為の存在を排除することなく、その後に続く特徴(複数可)又は行為(複数可)を含むことを意味するために使用される。