(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂およびその製造方法、ならびにポリイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240626BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
(21)【出願番号】P 2021524858
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2020021778
(87)【国際公開番号】W WO2020246466
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2019104217
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小川 紘平
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正広
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/046180(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088543(WO,A1)
【文献】特開2018-087260(JP,A)
【文献】特開2018-193343(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180926(WO,A1)
【文献】特開2018-028052(JP,A)
【文献】特開2019-001989(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169651(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73
C08J5/18
C08L79
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸二無水物由来構造とジアミン由来構造とを有するポリイミド樹脂であって、
前記ジアミンとして、ジアミン全量100mol%に対して、フルオロアルキル置換ベンジジンを40~100mol%含み、
前記酸二無水物として、酸二無水物全量100mol%に対して、一般式(1)で表される酸二無水物を40~
65mol%
、シクロブタン構造を有する酸二無水物を15~60mol%
、ならびに2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選択される1種以上を含む、
ポリイミド樹脂:
【化1】
一般式(1)において、R
1~R
8はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のパーフルオロアルキル基であり、R
1~R
4のうちの1つ以上およびR
5~R
8のうちの1つ以上は、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基である。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される酸二無水物が、式(2)で表される化合物である、請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【化2】
【請求項3】
前記シクロブタン構造を有する酸二無水物が、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物である、請求項1または2に記載のポリイミド樹脂。
【請求項4】
前記フルオロアルキル置換ベンジジンが、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンである、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
前記ジアミンとして、さらに、ジアミノジフェニルスルホンを5~40mol%含む、請求項1~
4のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂の製造方法であって、
溶媒中で前記ジアミンと前記酸二無水物とを反応させてポリアミド酸溶液を調製し、
前記ポリアミド酸溶液に脱水剤およびイミド化触媒を添加して、ポリアミド酸をイミド化する、ポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項7】
さらに、有機溶媒にポリイミドが溶解しているポリイミド溶液と、ポリイミドの貧溶媒とを混合して、ポリイミド樹脂を析出させる、請求項
6に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記ポリアミド酸溶液の調製において、
(A)酸二無水物およびジアミンのいずれか一方を過剰量として反応させることにより、酸無水物末端またはアミン末端のオリゴマーを調整し、
(B)ジアミンの総仕込み量と酸二無水物の総仕込み量が等モル量となるようにジアミンおよび酸二無水物の残部を添加して後重合を行う、
請求項
6または7に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記ポリアミド酸溶液の調製において、
前記ジアミンの全量および前記酸二無水物全量のいずれか一方を、有機溶媒に溶解または分散させた後、他方を添加する、
請求項
6または7に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のポリイミド樹脂を含むポリイミドフィルム。
【請求項11】
引張弾性率が5.0GPa以上である、請求項
10に記載のポリイミドフィルム。
【請求項12】
鉛筆硬度がH以上である請求項
10または11に記載のポリイミドフィルム。
【請求項13】
黄色度が3.0以下である請求項
10~12のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項14】
請求項1~
5のいずれかに記載のポリイミド樹脂がジクロロメタンを含む溶媒に溶解したポリイミド溶液を、基材に塗布し、前記溶媒を除去する、ポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂およびその製造方法、ポリイミド溶液、ならびにポリイミドフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の表示デバイスの軽量化やフレキシブル化のために、基板や表面保護材として従来使用されているガラスの代替材料としてポリイミドフィルムの適用が検討されている。一般的なポリイミドは、黄色または褐色に着色しており、有機溶媒に対する溶解性を示さないが、脂環式構造やフルオロアルキル基の導入により、低着色のポリイミドが得られる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のポリイミド樹脂から得られるポリイミドフィルムは、デバイスの外表面に配置されるカバーウィンドウ等に使用するには機械強度が十分ではない。本発明は、ジクロロメタン等の低沸点溶媒に溶解し、かつ透明性および機械強度に優れるポリイミド樹脂およびポリイミドフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態にかかるポリイミド樹脂は、酸二無水物由来構造とジアミン由来構造とを有し、酸二無水物として、一般式(1)で表される酸二無水物およびシクロブタン構造を有する酸二無水物を含み、ジアミンとしてフルオロアルキル置換ベンジジンを含む。
【0006】
【0007】
一般式(1)において、R1~R8はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のパーフルオロアルキル基であり、R1~R4のうちの1つ以上およびR5~R8のうちの1つ以上は、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基である。
【0008】
一般式(1)で表される酸二無水物の量は、酸二無水物全量100mol%に対して、40~85mol%が好ましい。シクロブタン構造を有する酸二無水物の量は、酸二無水物全量100mol%に対して、15~60mol%が好ましい。フルオロアルキル置換ベンジジンの量は、ジアミン全量100mol%に対して、40~100mol%が好ましい。
【0009】
一般式(1)で表される酸二無水物の具体例として、式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0010】
【0011】
シクロブタン構造含有酸二無水物の具体例として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。フルオロアルキル置換ベンジジンの具体例として、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンが挙げられる。
【0012】
ポリイミドは、上記以外の酸二無水物成分やジアミン成分を含んでいてもよい。上記以外の酸二無水物の例として、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物および2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物が挙げられる。上記以外のジアミンの例として、ジアミノジフェニルスルホンが挙げられる。
【0013】
ポリイミド樹脂を溶媒に溶解してポリイミド溶液を調製し、ポリイミド溶液を基材上に塗布し、溶媒を除去することにより、ポリイミドフィルムが得られる。ポリイミドを溶解する溶媒としては、ジクロロメタン等の低沸点溶媒が好ましい。
【0014】
ポリイミドフィルムの厚みは40μm以上であってもよい。ポリイミドフィルムの黄色度は3.0以下であってもよく、引張弾性率は5.0GPa以上であってもよく、鉛筆硬度はH以上であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリイミド樹脂は、ジクロロメタン等の低沸点溶媒に可溶であり、残存溶媒の低減に高温での加熱を必要としないため、透明性の高いポリイミドフィルムが得られる。本発明のポリイミド樹脂は、ジクロロメタン等の低沸点溶媒に可溶であり、残存溶媒の低減に高温での加熱を必要としないため、透明性の高いポリイミドフィルムが得られる。本発明のポリイミドフィルムは、機械強度が高く、膜厚が大きい場合であっても透明性が高いため、ディスプレイ用の基板材料や、カバーウィンドウ材料等として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[ポリイミド樹脂]
ポリイミドは、一般に、テトラカルボン酸二無水物(以下、単に「酸二無水物」と記載する場合がある)とジアミンとの反応により得られるポリアミド酸を脱水環化することにより得られる。すなわち、ポリイミドは酸二無水物由来構造とジアミン由来構造とを有する。本発明のポリイミド樹脂は、酸二無水物成分として、エステル基含有酸二無水物(ビス無水トリメリット酸エステル)および脂環式構造を有する酸二無水物を含み、ジアミン成分として、フルオロアルキル置換ベンジジンを含む。
【0017】
<酸二無水物>
本発明のポリイミドは、酸二無水物として、下記一般式(1)で表されるエステル基含有酸二無水物、およびシクロブタン構造を有する脂環式酸二無水物を含む。
【0018】
【0019】
一般式(1)において、R1~R8はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~20のアルキル基、または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基である。R1~R4の少なくとも1つは水素原子以外の置換基であり、R5~R8の少なくとも1つは水素原子以外の置換基(すなわち、炭素原子数1~20のアルキル基または炭素原子数1~20のフルオロアルキル基)である。
【0020】
(エステル基含有酸二無水物)
酸二無水物成分の全量100mol%のうち、上記一般式(1)で表される酸二無水物の含有量は、40~85mol%であり、40~80mol%が好ましく、40~75mol%がより好ましく、45~70mol%または50~65mol%であってもよい。
一般式(1)で表される酸二無水物の含有量が上記範囲内であることにより、ポリアミド酸の重合反応や溶液でのイミド化反応の際に、著しい増粘やゲル化等を抑制できるとともに、ポリイミド樹脂の低沸点溶媒への溶解性を担保できる。また、一般式(1)で表される酸二無水物の含有量が上記範囲内であることにより、ポリイミドフィルムの機械強度が向上する傾向がある。
【0021】
一般式(1)で表される酸二無水物は、無水トリメリット酸と置換基を有するビフェノールとのエステルである。一般式(1)で表される酸二無水物はビフェニル構造を有するため、ポリイミドの耐紫外線特性が高められ、紫外線照射に伴う透明性の低下(黄色度YIの増加)が抑制される傾向がある。
【0022】
一般式(1)における置換基R1~R8は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、または炭素数1~20のフルオロアルキル基である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。フルオロアルキル基としては、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。フルオロアルキル基の中では、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等のパーフルオロアルキル基が好ましい。
【0023】
一般式(1)において、R1~R4の少なくとも1つは水素原子以外の置換基であり、R5~R8の少なくとも1つは水素原子以外の置換基である。R2およびR3の少なくとも一方、およびR6およびR7の少なくとも一方が、水素原子以外の置換基であることが好ましい。これらが水素原子以外の置換基であれば、立体障害によってビフェニルの2つのベンゼン環の間の結合がねじれてπ共役の平面性が低下するため、吸収端波長が短波長シフトして、ポリイミドの着色が低減する傾向がある。
【0024】
一般式(1)において、R2およびR6がメチル基であり、R3およびR7が水素原子であることが好ましい。中でも、R1、R4、R5およびR8がメチル基である下記式(2)で表されるビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジイル(TAHMBP)が好ましい。
【0025】
【0026】
(シクロブタン構造含有酸二無水物)
酸二無水物成分の全量100mol%のうち、シクロブタン構造を有する酸二無水物の含有量は、15~60mol%であり、15~50mol%が好ましく、15~40mol%がより好ましい。シクロブタン構造を有する酸二無水物の含有量が15mol%以上であることにより、ポリイミドフィルムの機械強度が向上する傾向があり、60mol%以下であることにより、低沸点溶媒等に対するポリイミド樹脂の溶解性が向上する傾向がある。
【0027】
シクロブタン構造を有する酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジプロピル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ジプロピル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタン-1,2:3,4-ビス(テトラメチレン)-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。中でも、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)が好ましい。
【0028】
(他の酸二無水物)
ジクロロメタン等の低沸点溶媒への溶解性を損なわず、かつ透明性や機械強度等の特性を損なわない範囲で、上記以外の酸二水物成分を併用してもよい。上記以外の酸二無水物の例としては、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物等のフッ素含有芳香族酸二無水物が挙げられる。その他の酸二無水物としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p-フェニレンビストリメリット酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,1’‐ビシクロヘキサン‐3,3’,4,4’‐テトラカルボン酸‐3,4:3’,4’‐二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,3-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[(3,4-ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2-ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、2,2-ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4’-ビス[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4’-ビス[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4-[4-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,2-ビス{4-[3-(1,2-ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}-1,1,1,3,3,3-プロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0029】
例えば、酸二無水物として、一般式(1)で表される酸二無水物およびシクロブタン構造を有する酸二無水物に加えて、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)や3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を用いることにより、ジクロロメタン等の低沸点溶媒への溶解性を保ちつつ、ポリイミドフィルムの機械強度が高められる傾向がある。特に、6FDAを用いた場合に、ポリイミドフィルムの透明性が向上する傾向がある。酸二無水物成分の全量100mol%のうち6FDAの含有量は、5mol%以上が好ましく、10mol%以上がより好ましく、15mol%以上であってもよい。酸二無水物成分の全量100mol%のうちBPDAの含有量は、5mol%以上、10mol%以上または15mol%以上であってもよい。
【0030】
酸二無水物成分の全量100mol%のうち、一般式(1)で表される酸二無水物およびシクロブタン構造を有する酸二無水物以外の酸二無水物の含有量は、40mol%以下が好ましい。酸二無水物成分の全量100mol%のうち、6FDAの含有量は25mol%以下が好ましく、BPDAの含有量は25mol%以下が好ましい。
【0031】
<ジアミン>
(フルオロアルキル置換ベンジジン)
本発明のポリイミドは、ジアミン成分として、フルオロアルキル置換ベンジジンを含む。ジアミン成分の合計100mol%のうち、フルオロアルキル置換ベンジジンの含有量は、40~100mol%であり、60mol%以上が好ましく、70mol%以上がより好ましい。フルオロアルキル置換ベンジジンの含有量が40mol%以上であれば、ポリイミドフィルムの着色が抑制されるとともに、鉛筆硬度や弾性率が高くなる傾向がある。
【0032】
フルオロアルキル置換ベンジジンの例としては、2,2’-ジメチルベンジジン、2-フルオロベンジジン、3-フルオロベンジジン、2,3-ジフルオロベンジジン、2,5-ジフルオロベンジジン、2、6-ジフルオロベンジジン、2,3,5-トリフルオロベンジジン、2,3,6-トリフルオロベンジジン、2,3,5,6-テトラフルオロベンジジン、2,2’-ジフルオロベンジジン、3,3’-ジフルオロベンジジン、2,3’-ジフルオロベンジジン、2,2’,3-トリフルオロベンジジン、2,3,3’-トリフルオロベンジジン、2,2’,5-トリフルオロベンジジン、2,2’,6-トリフルオロベンジジン、2,3’,5-トリフルオロベンジジン、2,3’,6,-トリフルオロベンジジン、2,2’,3,3’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,5,5’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,6,6’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,6,6’-ヘキサフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’、6,6’-オクタフルオロベンジジン、2-(トリフルオロメチル)ベンジジン、3-(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2、6-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,3’-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,6,-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3,3’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6,6’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン等が挙げられる。
【0033】
中でも、ビフェニルの2位にフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル置換ベンジジンが好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下「TFMB」と記載)が特に好ましい。ビフェニルの2位および2’位にフルオロアルキル基を有することにより、フルオロアルキル基の電子求引性によるπ電子密度の低下に加えて、フルオロアルキル基の立体障害によって、ビフェニルの2つのベンゼン環の間の結合がねじれてπ共役の平面性が低下するため、吸収端波長が短波長シフトして、ポリイミドの着色を低減できる。
【0034】
(他のジアミン)
ジクロロメタン等の低沸点溶媒への溶解性を損なわず、かつ透明性や機械強度等の特性を損なわない範囲で、上記以外のジアミンを併用してもよい。フルオロアルキル置換ベンジジン以外のジアミンの例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス(2-アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、trans-1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,3-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(2-アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,4-ジアミノ-2-フルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ジフルオロベンゼン、1、4-ジアミノ-2,6-ジフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリフルオロベンゼン、1、4-ジアミノ、2,3,5,6-テトラフルオロベンゼン、1,4-ジアミノ-2-(トリフルオロメチル)ヘンゼン、1,4-ジアミノ-2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1、4-ジアミノ-2,6-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ジアミノ-2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1、4-ジアミノ、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼンが挙げられる。
【0035】
例えば、ジアミンとして、フルオロアルキル置換ベンジジンに加えて、ジアミノジフェニルスルホンを用いることにより、ポリイミド樹脂の溶媒への溶解性や透明性が向上する場合がある。ジアミノジフェニルスルホンの中でも、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)および4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)が好ましい。3,3’-DDSと4,4’-DDSを併用してもよい。
【0036】
ジアミン全量100mol%に対するジアミノジフェニルスホンの含有量は、3mol%以上が好ましく、5mol%以上がより好ましく、8mol%以上または10mol%以上であってもよい。ポリイミド樹脂の機械強度の観点から、ジアミン全量100mol%に対するジアミノジフェニルスルホンの含有量は、40mol%以下が好ましく、30mol%以下がより好ましい。
【0037】
<ポリイミドの組成>
上記のように、本発明のポリイミドは、酸二無水物成分として、一般式(1)で表される酸二無水物およびシクロブタン構造を有する酸二無水物を含み、ジアミンとして、フルオロアルキル置換ベンジジンを含む。一般式(1)で表される酸二無水物としては、式(2)で表されるTAHMBPが好ましく、シクロブタン構造含有酸二無水物としてはCBDAが好ましく、フルオロアルキル置換ベンジジンとしてはTFMBが好ましい。ポリイミドは、酸二無水物成分として、さらに6FDAおよび/またはBPDAを含んでいてもよく、ジアミン成分としてさらに3,3’-DDSおよび/または4,4’-DDSを含んでいてもよい。
【0038】
酸二無水物成分の全量100mol%のうち、TAHMBPの量は、40~85mol%がより好ましく、CBDAの量は15~60mol%が好ましい。さらに、ポリイミド樹脂の溶解性向上やフィルムの透明性向上の観点から、酸二無水物成分として、6FDAおよび/またはBPDAを、それぞれ25mol%以下含むことが好ましい。
【0039】
ジアミン成分全量100mol%のうち、TFMBの量は40~100mol%が好ましく、70~95mol%がより好ましい。また、ジアミン成分として3,3’-DDSまたは4,4’-DDSを5~30mol%含むことが好ましい。
【0040】
上記の組成のポリイミドは、ジクロロメタン等の低沸点溶媒への溶解性が高いため、ポリイミドフィルムの残存溶媒量を容易に低減可能であり、かつ、高透過率、低黄色度、および高機械強度のポリイミドフィルムを作製できる。
【0041】
[ポリイミド樹脂の製造方法]
ポリイミド樹脂の製造方法は特に限定されないが、溶媒中でジアミンと酸二無水物とを反応させてポリイミド前駆体であるポリアミド酸を調製し、ポリアミド酸の脱水環化によりイミド化する方法が好ましい。例えば、ポリアミド酸溶液にイミド化触媒および脱水剤を添加して、ポリアミド酸を脱水閉環することによりポリイミド溶液が得られる。ポリイミド溶液とポリイミドの貧溶媒とを混合して、ポリイミド樹脂を析出させ、固液分離することによりポリイミド樹脂が得られる。
【0042】
<ポリアミド酸の調製>
溶媒中で酸二無水物とジアミンとを反応させることにより、ポリアミド酸溶液が得られる。ポリアミド酸の重合には、原料としてのジアミンおよび酸二無水物、ならびに重合生成物であるポリアミド酸を溶解可能な有機溶媒を特に限定なく使用できる。有機溶媒の具体例としては、メチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルホン等のスルホン系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、重合反応性およびポリアミド酸の溶解性に優れることから、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、またはN-メチルピロリドンが好ましく用いられる。
【0043】
有機溶媒中にジアミンおよび酸二無水物を溶解させることにより、ポリアミド酸の重合が進行する。ポリアミド酸溶液の固形分濃度(反応溶液におけるジアミンおよび酸二無水物の仕込み濃度)は、通常5~40重量%程度であり、10~30重量%が好ましい。酸二無水物とジアミンは等モル量(95:105~105:95)使用することが好ましい。どちらかの成分が過剰になると、ポリアミド酸およびポリイミドの分子量が十分に大きくならず、ポリイミドフィルムの機械強度が低下する場合がある。
【0044】
反応温度は特に限定されないが、0℃以上80℃以下が好ましく、20℃以上45℃以下がより好ましい。0℃以上とすることで反応速度の低下を抑制でき、比較的短時間で重合反応を実施できる。また80℃以下とすることにより、酸二無水物成分の開環による重合度の低下等を抑制できる。
【0045】
ポリアミド酸の重合における有機溶媒(反応系)へのジアミンおよび酸二無水物の添加順序は特に限定されない。ポリアミド酸およびポリイミドにおけるモノマー成分(酸二無水物由来構造およびジアミン由来構造)の並びは、ランダムでもよくブロックでもよい。
【0046】
ジアミン全量、または酸二無水物全量のいずれか一方を有機溶媒中に溶解またはスラリー状に分散させた後、他方を添加することにより、ランダム体のポリアミド酸が得られる。例えば、ジアミンを有機溶媒中に溶解またはスラリー状に分散させて、ジアミン溶液とし、酸二無水物をジアミン溶液中に添加すればよい。酸二無水物を有機極性溶媒に溶解した溶液にジアミンを添加してもよい。複数種の酸二無水物およびジアミンは、一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。ジアミンおよび酸二無水物は、固体の状態で添加してもよく、有機溶媒に溶解、またはスラリー状に分散させた状態で添加してもよい。
【0047】
モノマーの添加順序を調整することにより、得られるポリイミドの諸物性を制御することもできる。例えば、(A)複数種の酸二無水物およびジアミンのうち、特定の酸二無水物とジアミンを先に反応させることにより、特定の酸二無水物とジアミンとが結合した構造単位(繰り返し単位)を有するセグメント(オリゴマー)が形成される。オリゴマーを調整後に、(B)ジアミンおよび酸二無水物の残部を添加してさらに反応を進めることにより(後重合)、分子内にブロック構造を含むポリアミド酸が得られる。このポリアミド酸をイミド化することにより、特定のジアミンと特定の酸二無水物とが結合した構造単位が連続しているブロックを分子構造内に含むポリイミドが得られる。ポリイミドがブロック構造を有する場合、ポリイミドフィルムの機械強度や耐熱性が向上する傾向がある。
【0048】
上記の工程(A)において、酸二無水物およびジアミンのいずれか一方を過剰量として反応させることにより、酸無水物末端またはアミン末端のオリゴマーが形成される。オリゴマーの調製における酸二無水物およびジアミンの仕込み量は、全仕込み量((A)と(B)の仕込み量の合計)に対して、70~95mol%が好ましく、75~90mol%がより好ましい。
【0049】
オリゴマーの調製において、ジアミンの仕込み量を酸二無水物の仕込み量よりも多くすれば、アミン末端のオリゴマーが生成する。アミン末端のオリゴマーを調製する場合のジアミンの仕込み量は、酸二無水物の仕込み量に対して、モル比で1.01~1.25倍が好ましく、1.03~1.2倍がより好ましく、1.05~1.18倍がさらに好ましい。両者の比が1に近いほど、オリゴマーの分子量が大きくなる傾向がある。
【0050】
オリゴマーの調製においては、ジアミンとしてTFMB等のフルオロアルキル置換ベンジジンを含め、酸二無水物としてTAHMBP等の一般式(1)で表される酸二無水物およびCBDA等のシクロブタン構造含有酸二無水物を含めることが好ましい。特に、ジアミンとしてフルオロアルキル置換ベンジジンのみを用いることが好ましい。オリゴマーの組成、すなわちブロックの構造を調整することにより、ポリイミドフィルムの機械強度が向上する傾向がある。
【0051】
工程(B)において、ジアミンの総仕込み量と酸二無水物の総仕込み量が等モル量(95:105~105:95)となるようにジアミンおよび酸二無水物の残部を添加することにより、上記の(A)工程で調製したオリゴマーの末端と、(B)工程で添加したモノマーとが反応し、交互ブロック構造のポリアミド酸が得られる。このポリアミド酸をイミド化することにより、特定のジアミンと特定の酸二無水物とが結合した構造単位が連続しているブロックを分子構造内に含むポリイミドが得られる。
【0052】
工程(B)において、残部の酸二無水物およびジアミンは、同時に添加してもよく、順次添加してもよい。残部の酸二無水物とジアミンとを予め反応させたオリゴマーを、(A)で調製したオリゴマーの溶液に添加してもよい。
【0053】
<イミド化>
ポリアミド酸の脱水環化によりポリイミドが得られる。溶液でのイミド化には、ポリアミド酸溶液に脱水剤およびイミド化触媒等を添加する化学イミド化法が適している。イミド化の進行を促進するために、ポリアミド酸溶液を加熱してもよい。
【0054】
イミド化触媒としては、第三級アミンが用いられる。第三級アミンとしては複素環式の第三級アミンが好ましい。複素環式の第三級アミンの具体例としては、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン等が挙げられる。脱水剤としてはカルボン酸無水物が用いられ、具体的には無水酢酸、プロピオン酸無水物、n-酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等が挙げられる。イミド化触媒の添加量は、ポリアミド酸のアミド基に対して、0.5~5.0倍モル当量が好ましく、0.7~2.5倍モル当量がより好ましく、0.8~2.0倍モル当量がさらに好ましい。脱水剤の添加量は、ポリアミド酸のアミド基に対して、0.5~10.0倍モル当量が好ましく、0.7~5.0倍モル当量がより好ましく、0.8~3.0倍モル当量がさらに好ましい。
【0055】
<ポリイミド樹脂の析出>
ポリアミド酸のイミド化により得られたポリイミド溶液は、そのまま製膜用ドープとして用いることもできるが、一旦、ポリイミド樹脂を固形物として析出させることが好ましい。ポリイミド樹脂を固形物として析出させることにより、ポリアミド酸の重合時に発生した不純物や残存モノマー成分、ならびに脱水剤およびイミド化触媒等を、洗浄・除去できる。そのため、透明性や機械特性に優れたポリイミドフィルムが得られる。
【0056】
ポリイミド溶液と貧溶媒とを混合することにより、ポリイミド樹脂が析出する。貧溶媒は、ポリイミド樹脂の貧溶媒であって、ポリイミド樹脂を溶解している溶媒と混和するものが好ましく、水、アルコール類等が挙げられる。アルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、2-ブチルアルコール、2-ヘキシルアルコール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、フェノール、t-ブチルアルコール等が挙げられる。ポリイミドの開環等が生じ難いことから、イソプロピルアルコール、2-ブチルアルコール、2-ペンチルアルコール、フェノール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコールが好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。
【0057】
[ポリイミドフィルム]
ポリイミド樹脂を有機溶媒に溶解したポリイミド溶液(製膜用ドープ)を、基材上に塗布し、溶媒を乾燥除去させることによりポリイミドフィルムを製造できる。
【0058】
ポリイミド樹脂を溶解させる有機溶媒としては、上記のポリイミド樹脂を溶解可溶なものであれば特に限定されない。溶媒の乾燥除去が容易であり、ポリイミドフィルムの残存溶媒量を低減可能であることから、ジクロロメタン、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、アセトン、および1,3-ジオキソラン等の低沸点溶媒が好ましく、中でもジクロロメタンが特に好ましい。前述のように、酸二無水物成分およびジアミン成分の組成比を所定範囲とすることにより、ジクロロメタン等の低沸点溶媒に対しても高い溶解性を示すポリイミドが得られる。
【0059】
ポリイミド溶液の固形分濃度は、ポリイミドの分子量、フィルムの厚みや製膜環境等に応じて適宜設定すればよい。固形分濃度は、5~30重量%が好ましく、8~20重量%がより好ましい。
【0060】
ポリイミド溶液は、ポリイミド以外の樹脂成分や添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、紫外線吸収剤、架橋剤、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子等が挙げられる。ポリイミド溶液(製膜ドープ)の固形分100重量部に対するポリイミド樹脂の含有量は、60重量部以上が好ましく、70重量部以上がより好ましく、80重量部以上がさらに好ましい。
【0061】
ポリイミド溶液を基材に塗布する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、バーコーターやコンマコーターにより塗布することができる。ポリイミド溶液を塗布する基材としては、ガラス基板、SUS等の金属基板、金属ドラム、金属ベルト、プラスチックフィルム等を使用できる。生産性向上の観点から、支持体として、金属ドラム、金属ベルト等の無端支持体、または長尺プラスチックフィルム等を用い、ロールトゥーロールによりフィルムを製造することが好ましい。プラスチックフィルムを支持体として使用する場合、製膜ドープの溶媒に溶解しない材料を適宜選択すればよく、プラスチック材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート等が用いられる。
【0062】
溶媒の乾燥時には加熱を行うことが好ましい。加熱温度は、特に限定されないが、着色を抑制する観点から、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。溶媒の乾燥時には、段階的に加熱温度を上昇させてもよい。減圧下で溶媒の感想を行ってもよい。上記のポリイミド樹脂は、ジクロロメタン等の低沸点溶媒に可溶であるため、200℃以下の加熱でも残存溶媒を容易に低減可能である。
【0063】
ポリイミドフィルムの残存溶媒量(フィルムの質量に対するフィルムに含まれる溶媒の質量)は、1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。残存溶媒量がこの範囲であれば、ポリイミドフィルムの機械強度が向上する傾向がある。
【0064】
ポリイミドフィルムの厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。ポリイミドフィルムの厚みは、例えば5~100μm程度である。ディスプレイのカバーウィンドウ材料等の耐衝撃性が要求される用途においては、ポリイミドフィルムの厚みは、30μm以上が好ましく、35μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましい。本発明のポリイミドフィルムは、膜厚が40μm以上と厚い場合であっても優れた透明性を有する。優れた透明性を維持する観点から、ポリイミドフィルムの厚みは、90μm以下が好ましく、85μm以下がより好ましい。
【0065】
[ポリイミドフィルムの特性]
ポリイミドフィルムの黄色度(YI)は、3.0以下が好ましく2.5以下がより好ましい。黄色度が3.0以下の場合、フィルムが黄色に着色することなく、ディスプレイ用等のフィルムとして好適に使用できる。
【0066】
ポリイミドフィルムの全光線透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。またポリイミドフィルムの波長400nmにおける光透過率は、35%以上が好ましく、40%以上がさらに好ましい。ポリイミドフィルムの引張弾性率は、4.9GPa以上が好ましく、5.0GPa以上がより好ましく、5.2GPa以上がさらに好ましい。
【0067】
ロールトゥーロール搬送時のロールとの接触や、巻取時のフィルム同士の接触によるフィルムの傷付きを防止する観点から、ポリイミドフィルムの鉛筆硬度はHB以上が好ましく、F以上がより好ましい。ポリイミドフィルムがディスプレイのカバーウィンドウ等に用いられる場合は、外部からの接触に対する耐擦傷性が求められるため、ポリイミドフィルムの鉛筆硬度はH以上が好ましい。
【0068】
[ポリイミドフィルムの用途]
本発明のポリイミドフィルムは、黄色度が小さく、透明性が高くディスプレイ材料として好適に用いられる。特に、機械的強度が高いポリイミドフィルムは、ディスプレイのカバーウィンドウ等の表面部材への適用が可能である。本発明のポリイミドフィルムは、実用に際して、表面に帯電防止層、易接着層、ハードコート層、反射防止層等を設けてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明について具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0070】
[ポリアミド酸溶液の調製]
<ランダム体の重合:実施例3,10~12、比較例1,7,8>
セパラブルフラスコに溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを投入し、窒素雰囲気下で撹拌しながら、表1の組成Aに示すモル比のジアミンおよび酸二無水物を投入し、窒素雰囲気下で5時間撹拌して、固形分濃度18%のポリアミド酸溶液を得た。
【0071】
<ブロック体の重合:実施例1,2,4~9、比較例2~6>
セパラブルフラスコに溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを投入し、窒素雰囲気下で撹拌しながら、表1の組成Aに示すモル比のジアミンおよび酸二無水物を投入し、窒素雰囲気下で10時間撹拌してオリゴマーを合成した。その後、表1の組成Bに示すモル比でジアミンおよび酸二無水物を投入し、窒素雰囲気下で時間撹拌して後重合を行い、固形分濃度18%のポリアミド酸溶液を得た。
【0072】
表1に示す原料モノマーの略称は下記の通りである。
TMHQ: p-フェニレンビストリメリット酸二無水物
TAHMBP:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’-ジイル
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
3,3’-DDS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
4,4’-DDS:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン
【0073】
[イミド化、ポリイミド樹脂の単離、およびポリイミド溶液の調製]
ポリアミド酸溶液100gに、イミド化触媒としてピリジン5.5gを添加し完全に分散させた後、無水酢酸8gを添加し、90℃で3時間攪拌してイミド化を行った。溶液がゲル化しなかったものについて、室温まで冷却した溶液を攪拌しながら、2-プロピルアルコール(以下「IPA」と記載)100gを、2~3滴/秒の速度で滴下し、ポリイミドを析出させた。さらにIPA150gを添加し、30分程度撹拌後、桐山ロートを使用して吸引ろ過を行った。得られた固体を100gのIPAで洗浄した。洗浄作業を6回繰り返した後、120℃に設定した真空オーブンで8時間乾燥させて、ポリイミド樹脂を得た。なお、比較例1~5では、イミド化の途中で溶液粘度が急上昇してゲル化したため、ポリイミド溶液が得られなかった。そのため、これらの比較例では、以降の操作および評価を実施しなかった。
【0074】
上記で得られたポリイミド樹脂1gにジクロロメタン(DCM)9gを添加して、室温で12時間撹拌した後、溶け残りの有無を目視にて確認することにより、ポリイミド樹脂のDCM溶解性を評価した。目視にて透明な溶液が得られていたものはDCM「可溶」、溶け残りが固形分として確認されたものをDCM「不溶」とした。なお、イミド化の際にゲル化したものについては、表1に「ゲル化」と記載している。
【0075】
[ポリイミドフィルムの作製]
ポリイミド樹脂をジクロロメタン(以下「DCM」と記載)に溶解し、固形分濃度10重量%のポリイミド溶液を得た。バーコーターを用いて、ポリイミド溶液を無アルカリガラス板に塗布し、40℃で60分、80℃で30分、150℃で30分、170℃で30分間、大気雰囲気下で加熱して溶媒を除去して、表1に示す厚みのポリイミドフィルムを得た。なお、比較例8のポリイミド樹脂はDCMに溶解しなかったため、メチルエチルケトン(MEK)にポリイミド樹脂を溶解したポリイミド溶液を用いてフィルムを作製した。
【0076】
[ポリイミドフィルムの評価]
(引張弾性率)
測定には島津製作所製の「AUTOGRAPH AGS-X」を用いて、次の条件で測定した。サンプル測定範囲;幅10mm、つかみ具間距離100mm、引張速度;20.0mm/min、測定温度;23℃。サンプルは23℃/55%RHで1日静置して調湿したものを用いた。
【0077】
(黄色度)
3cm角サイズのサンプルを用い、スガ試験機製の分光測色計「SC-P」により黄色度(YI)を測定した。
【0078】
(鉛筆硬度)
JIS K-5600-5-4「鉛筆引っかき試験」により、フィルムの鉛筆硬度を測定した。
【0079】
(400nmにおける透過率)
日本分光社製の紫外可視分光光度計「V-560」を用いて、フィルムの300~800nmにおける光透過率を測定し、400nmの波長における光透過率を読み取った。
【0080】
(全光線透過率)
スガ試験機製のヘイズメーター「HZ-V3」を用いて、JIS K7361-1に記載の方法により測定した。
【0081】
(残存溶媒量)
1,3-ジオキソラン約8.9gを溶媒として、ポリイミドフィルム約0.1gと内部標準物質としてのジエチレングリコールブチルメチルエーテル(DEGBME)約1gを溶解させ、測定用試料を調製した。この溶液を、ガスクロマトグラフ装置(GC,島津製作所社製)を用いて測定し、GCピーク面積と調製濃度からポリイミドフィルム中に含まれる残存溶媒量(DCMまたはMEK)を求めた。
【0082】
上記の実施例および比較例のポリイミド樹脂の組成(ポリアミド酸の重合における酸二無水物およびジアミンの仕込み量のモル比)、DCMへの溶解性、フィルムの製膜に用いた溶媒、ならびにポリイミドフィルムの評価結果を、表1に示す。
【0083】
【0084】
表1に示す通り、実施例1~12では、ポリイミドがDCM可溶性を示し、ポリイミドフィルムが5GPa以上の引張弾性率を示し、優れた機械強度と透明性を両立可能であることが分かる。
【0085】
酸二無水物全量に対するCBDAの量が10mol%の比較例1では、ポリイミドの溶媒溶解性が低く、イミド化の際に溶液がゲル化したため、ポリイミド樹脂を単離することができなかった。CBDAを用いなかった比較例2、ならびにTAHMBPの量が35mol%の比較例3およびTAHMBPの量が25mol%の比較例4も、比較例1と同様、イミド化の際にゲル化が生じた。
【0086】
酸二無水物として、トリメリット酸二無水物エステルであるTMHQを用いた比較例5も、イミド化の際にゲル化が生じた。実施例6と比較例5との対比から、ビフェニルのベンゼン環上に置換基を有する酸二無水物であるTAHMBP由来の構造を含むポリイミドが優れた溶媒可溶性を有することが分かる。
【0087】
酸二無水物としてCBDAと6FDAの組み合わせを用いた比較例8では、イミド化の際にゲル化は生じなかったものの、単離されたポリイミドはDCM溶解性を示さなかった。MEKを溶媒として製膜した比較例8のポリイミドフィルムは優れた透明性を示したが、引張弾性率が4.1GPaであり、実施例に比べて機械強度が劣っていた。また、比較例8ではMEKの残存溶媒量が2.8%であり、DCMを用いた他の例に比べて残存溶媒量が大きくなっていた。比較例8では、低沸点溶媒であるDCMを使用できないために、残存溶媒量の少ないポリイミドフィルムを得ることが困難であり、残存溶媒量を低減するためには、加熱時間を長くする必要があり、ポリイミドフィルムの生産性向上が困難である。
【0088】
比較例6および比較例7では、酸二無水物としてCBDAを用いなかったが、TAHMBPおよび6FDAの導入割合を大きくしたため、DCMに可溶なポリイミド樹脂が得られた。しかし、比較例6,7のポリイミドフィルムは、引張弾性率が5GPaを下回っており、機械強度が不十分であった。
【0089】
以上の結果から、ジアミン成分としてフルオロアルキル置換ベンジジン、酸二無水物として、ベンゼン環上に置換基を有するビフェノールとトリメリット酸二無水物とのエステルおよびシクロブタン構造を有する酸二無水物を、所定の比率で含むポリイミドは、DCM等の低沸点溶媒に可溶であるために、残存溶媒量の少ないフィルムを容易に作製可能であり、かつ、ポリイミドフィルムの機械特性と透明性とを両立可能であることが分かる。
【0090】
実施例1,2と実施例3との対比、および実施例8,9と実施例10との対比から、ブロック構造を有するポリイミドは、同一組成のランダム構造のポリイミドに比べて、高い弾性率を示すことが分かる。特に、ジアミン成分としてTFMBのみを含むブロックを形成した実施例1および実施例8において、ポリイミドフィルムの引張弾性率が向上する傾向がみられた。