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特許7510416弾性波装置、高周波フロントエンド回路及び通信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】弾性波装置、高周波フロントエンド回路及び通信装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
H03H9/25 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021530593
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025013
(87)【国際公開番号】W WO2021006055
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019126540
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 英樹
【合議体】
【審判長】土居 仁士
【審判官】千葉 輝久
【審判官】衣鳩 文彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/070369(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/012005(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/097016(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043610(WO,A1)
【文献】特開2019-80313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶からなる支持基板と、
前記支持基板上に形成されておりLiTaOからなる圧電体層と、
前記圧電体層上に形成されており、複数の電極指を有するIDT電極と、を備え、
前記IDT電極は、前記圧電体層のマイナス面側に形成されており、
前記圧電体層のカット角は、39°Y以上48°Y以下であり、
前記圧電体層の厚さは、0.05λ以上0.5λ以下であ
前記支持基板を伝搬する遅い横波の音速は、共振の音速よりも大きい、
弾性波装置。
【請求項2】
前記支持基板を伝搬する前記遅い横波の音速は、3950m/s以上である、
請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記支持基板を伝搬する前記遅い横波の音速は、4100m/s以上である、
請求項2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記支持基板を伝搬する前記遅い横波の音速は、共振の音速3800m/sよりも大きく、かつ、反共振の音速3950m/s以上である、
請求項2又は3に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記支持基板の結晶軸のZ軸と前記LiTaOの結晶軸のX軸とでなす角度は、±20°以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記支持基板の結晶軸のZ軸と前記LiTaOの結晶軸のX軸とは、平行である、
請求項5に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記圧電体層の前記カット角は、42°Y以上である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項8】
前記圧電体層の前記カット角は、44°Y以上である、
請求項7に記載の弾性波装置。
【請求項9】
前記圧電体層は、前記支持基板に直接積層されている、
請求項1~8のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の弾性波装置を含み所定の周波数帯域の高周波信号を通過させるフィルタと、
前記フィルタに接続されており前記高周波信号の振幅を増幅させる増幅回路と、を備える、
高周波フロントエンド回路。
【請求項11】
請求項10に記載の高周波フロントエンド回路と、
前記高周波信号を処理する信号処理回路と、を備える、
通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に弾性波装置、高周波フロントエンド回路及び通信装置に関し、より詳細には、支持基板及び圧電体層を備える弾性波装置、弾性波装置を備える高周波フロントエンド回路、及び、高周波フロントエンド回路を備える通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、支持基板及び圧電体層を備える弾性波装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された弾性波装置は、水晶からなる支持基板と、支持基板上に積層されているLiTaO(リチウムタンタレート)からなる圧電体層と、圧電体層上に形成されているIDT電極とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2018/0109241号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載された従来の弾性波装置では、圧電体層の分極方向又はカット角によって、弾性波装置自身の通過帯域の0.7倍付近にレイリーモードによるスプリアスが発生して、弾性波装置の特性劣化を引き起こす可能性がある。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされた発明であり、本発明の目的は、スプリアスを低減させることができる弾性波装置、高周波フロントエンド回路及び通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る弾性波装置は、支持基板と、圧電体層と、IDT電極とを備える。前記支持基板は、水晶からなる。前記圧電体層は、前記支持基板上に形成されており、LiTaOからなる。前記IDT電極は、前記圧電体層上に形成されており、複数の電極指を有する。前記IDT電極は、前記圧電体層のマイナス面側に形成されている。前記圧電体層のカット角は、39°Y以上48°Y以下である。前記圧電体層の厚さは、0.05λ以上0.5λ以下である。前記支持基板を伝搬する遅い横波の音速は、共振の音速よりも大きい。
【0008】
本発明の一態様に係る高周波フロントエンド回路は、フィルタと、増幅回路とを備える。前記フィルタは、前記弾性波装置を含み、所定の周波数帯域の高周波信号を通過させる。前記増幅回路は、前記フィルタに接続されており、前記高周波信号の振幅を増幅させる。
【0009】
本発明の一態様に係る通信装置は、前記高周波フロントエンド回路と、信号処理回路とを備える。前記信号処理回路は、前記高周波信号を処理する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様に係る弾性波装置、高周波フロントエンド回路及び通信装置によれば、スプリアスを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る弾性波装置の回路図である。
図2図2は、同上の弾性波装置を備える通信装置の構成図である。
図3図3は、同上の弾性波装置の断面図である。
図4図4Aは、同上の弾性波装置の要部の平面図である。図4Bは、図4AのX1-X1線断面図である。
図5図5は、圧電体層のカット角とレイリーモードの位相特性との関係を示すグラフである。
図6図6は、圧電体層のカット角とTCFとの関係を示すグラフである。
図7図7は、実施形態の変形例に係る弾性波装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に係る弾性波装置、高周波フロントエンド回路及び通信装置について、図面を参照して説明する。下記の実施形態等において参照する図3図4A図4B及び図7は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさや厚さそれぞれの比は、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0013】
(実施形態)
(1)弾性波装置、マルチプレクサ、高周波フロントエンド回路及び通信装置の構成
実施形態に係る弾性波装置、マルチプレクサ、高周波フロントエンド回路及び通信装置の構成について、図面を参照して説明する。
【0014】
(1.1)弾性波装置
実施形態に係る弾性波装置1は、図1に示すように、弾性波装置1の外部のアンテナ200に電気的に接続される第1端子101と第1端子101とは異なる第2端子102との間に設けられる。弾性波装置1は、ラダー型フィルタであり、複数(例えば、9つ)の弾性波共振子31~39を備える。複数の弾性波共振子31~39は、第1端子101と第2端子102とを結ぶ第1経路r1上に設けられた複数(例えば、5つ)の直列腕共振子(弾性波共振子31,33,35,37,39)と、第1経路r1上の複数(4つ)のノードN1,N2,N3,N4それぞれとグラウンドとを結ぶ複数(4つ)の第2経路r21,r22,r23,r24上に設けられた複数(例えば、4つ)の並列腕共振子(弾性波共振子32、34、36、38)と、を含む。なお、弾性波装置1では、第1経路r1上に直列腕共振子以外の素子としてインダクタ又はキャパシタとしての機能を有する素子が配置されていてもよい。また、弾性波装置1では、各第2経路r21,r22,r23,r24上に、並列腕共振子以外の素子としてインダクタ又はキャパシタとしての機能を有する素子が配置されていてもよい。
【0015】
(1.2)マルチプレクサ
実施形態に係るマルチプレクサ100は、図2に示すように、第1端子101と、第2端子102と、第3端子103と、弾性波装置1からなる第1フィルタ21と、第2フィルタ22と、を備える。
【0016】
第1端子101は、マルチプレクサ100の外部のアンテナ200と電気的に接続可能なアンテナ端子である。
【0017】
第1フィルタ21は、弾性波装置1を含み、第1端子101と第2端子102との間に設けられている第1受信用フィルタである。第1フィルタ21は、所定の第1周波数帯域の高周波信号を通過させ、第1周波数帯域以外の信号を減衰させる。
【0018】
第2フィルタ22は、第1端子101と第3端子103との間に設けられている第2受信用フィルタである。第2フィルタ22は、所定の第2周波数帯域の高周波信号を通過させ、第2周波数帯域以外の信号を減衰させる。
【0019】
第1フィルタ21と第2フィルタ22とは互いに異なる通過帯域を有している。マルチプレクサ100では、第1フィルタ21の通過帯域が、第2フィルタ22の通過帯域よりも低周波数域である。したがって、マルチプレクサ100では、第2フィルタ22の通過帯域が第1フィルタ21の通過帯域よりも高周波数側にある。マルチプレクサ100では、例えば、第1フィルタ21の通過帯域の最大周波数が、第2フィルタ22の通過帯域の最小周波数よりも低い。
【0020】
マルチプレクサ100では、第1フィルタ21と第2フィルタ22とが共通の第1端子101に接続されている。
【0021】
また、マルチプレクサ100は、第4端子104と、第5端子105と、第3フィルタ23と、第4フィルタ24と、を更に備える。ただし、マルチプレクサ100において、第4端子104と、第5端子105と、第3フィルタ23と、第4フィルタ24は、必須の構成要素ではない。
【0022】
第3フィルタ23は、第1端子101と第4端子104との間に設けられている第1送信用フィルタである。第3フィルタ23は、所定の第3周波数帯域の高周波信号を通過させ、第3周波数帯域以外の信号を減衰させる。
【0023】
第4フィルタ24は、第1端子101と第5端子105との間に設けられている第2送信用フィルタである。第4フィルタ24は、所定の第4周波数帯域の高周波信号を通過させ、第4周波数帯域以外の信号を減衰させる。
【0024】
(1.3)高周波フロントエンド回路
高周波フロントエンド回路300は、図2に示すように、マルチプレクサ100と、第1増幅回路303と、第1スイッチ回路301と、を備える。また、高周波フロントエンド回路300は、第2増幅回路304と、第2スイッチ回路302と、を更に備える。ただし、高周波フロントエンド回路300において、第2増幅回路304及び第2スイッチ回路302は、必須の構成要素ではない。
【0025】
第1増幅回路303は、マルチプレクサ100の第1フィルタ21及び第2フィルタ22に電気的に接続されている。より詳細には、第1増幅回路303は、第1スイッチ回路301を介して、第1フィルタ21及び第2フィルタ22に接続されている。第1増幅回路303は、アンテナ200、マルチプレクサ100及び第1スイッチ回路301を経由した高周波信号(受信信号)を増幅して出力する。第1増幅回路303は、ローノイズアンプ回路である。
【0026】
第1スイッチ回路301は、マルチプレクサ100の第2端子102及び第3端子103に個別に接続された2つの被選択端子と、第1増幅回路303に接続された共通端子と、を有する。つまり、第1スイッチ回路301は、第2端子102を介して第1フィルタ21と接続されており、第3端子103を介して第2フィルタ22と接続されている。
【0027】
第1スイッチ回路301は、例えば、SPDT(Single Pole Double Throw)型のスイッチによって構成される。第1スイッチ回路301は、制御回路(図示せず)によって制御される。第1スイッチ回路301は、上記制御回路からの制御信号に従って、共通端子と被選択端子とを接続する。第1スイッチ回路301は、スイッチIC(Integrated Circuit)によって構成されてもよい。なお、第1スイッチ回路301では、共通端子と接続される被選択端子は1つに限らず、複数であってもよい。つまり、高周波フロントエンド回路300は、キャリアアグリゲーション(Carrier Aggregation)に対応するように構成されていてもよい。
【0028】
第2増幅回路304は、高周波フロントエンド回路300の外部(例えば、後述のRF信号処理回路402)から出力された高周波信号(送信信号)を増幅し、第2スイッチ回路302及びマルチプレクサ100を経由してアンテナ200に出力する。第2増幅回路304は、パワーアンプ回路である。
【0029】
第2スイッチ回路302は、例えば、SPDT(Single Pole Double Throw)型のスイッチによって構成される。第2スイッチ回路302は、上記制御回路によって制御される。第2スイッチ回路302は、上記制御回路からの制御信号に従って、共通端子と被選択端子とを接続する。第2スイッチ回路302は、スイッチIC(Integrated Circuit)によって構成されてもよい。なお、第2スイッチ回路302では、共通端子と接続される被選択端子は1つに限らず、複数であってもよい。
【0030】
(1.4)通信装置
通信装置400は、図2に示すように、高周波フロントエンド回路300と、信号処理回路401と、を備える。信号処理回路401は、高周波信号を処理する。信号処理回路401は、RF信号処理回路402と、ベースバンド信号処理回路403と、を備える。なお、ベースバンド信号処理回路403は、必須の構成要素ではない。
【0031】
RF信号処理回路402は、アンテナ200で受信される高周波信号を処理する。高周波フロントエンド回路300は、アンテナ200とRF信号処理回路402との間で高周波信号(受信信号、送信信号)を伝達する。
【0032】
RF信号処理回路402は、例えばRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)であり、高周波信号(受信信号)に対する信号処理を行う。例えば、RF信号処理回路402は、アンテナ200から高周波フロントエンド回路300を介して入力された高周波信号(受信信号)に対してダウンコンバート等の信号処理を行い、当該信号処理により生成された受信信号をベースバンド信号処理回路403へ出力する。ベースバンド信号処理回路403は、例えばBBIC(Baseband Integrated Circuit)である。ベースバンド信号処理回路403で処理された受信信号は、例えば、画像信号として画像表示のために、又は、音声信号として通話のために使用される。
【0033】
また、RF信号処理回路402は、例えば、ベースバンド信号処理回路403から出力された高周波信号(送信信号)に対してアップコンバート等の信号処理を行い、信号処理が行われた高周波信号を第2増幅回路304へ出力する。ベースバンド信号処理回路403は、例えば、通信装置400の外部からの送信信号に対する所定の信号処理を行う。
【0034】
(2)弾性波装置の各構成要素
以下、実施形態に係る弾性波装置1の各構成要素について、図面を参照して説明する。ここでは、1つの弾性波共振子に着目して、弾性波装置1について説明する。
【0035】
弾性波装置1は、図3図4A及び図4Bに示すように、支持基板4と、圧電体層6と、IDT(Interdigital Transducer)電極7と、を備える。
【0036】
(2.1)支持基板
支持基板4は、水晶からなる基板である。より詳細には、支持基板4は、圧電体層6及びIDT電極7を支持している。支持基板4では、圧電体層6を伝搬する弾性波の音速よりも伝搬するバルク波の音速が高速である。支持基板4では、その中を伝搬する複数のバルク波のうち、最も低音速なバルク波の音速が、圧電体層6を伝搬する弾性波の音速よりも高速である。複数の弾性波共振子3の各々は、IDT電極7の弾性波伝搬方向の両側それぞれに反射器(例えば、短絡グレーティング)を備えた1ポート型弾性波共振子である。ただし、反射器は、必須ではない。なお、各弾性波共振子3は、1ポート型弾性波共振子に限らず、例えば、複数のIDT電極により構成される縦結合型弾性波共振子であってもよい。
【0037】
(2.2)圧電体層
本実施形態では、圧電体層6は、支持基板4に直接積層されている。圧電体層6は、IDT電極7側の第1主面61と、支持基板4側の第2主面62と、を有する。第2主面62が支持基板4側になるように、圧電体層6は、支持基板4上に形成されている。
【0038】
圧電体層6は、支持基板4上に形成されており、LiTaO(リチウムタンタレート)からなる。より詳細には、圧電体層6は、例えば、Γ°YカットX伝搬LiTaO圧電単結晶である。Γ°YカットX伝搬LiTaO圧電単結晶は、LiTaO圧電単結晶の3つの結晶軸をX軸、Y軸、Z軸とした場合に、X軸を中心軸としてY軸からZ軸方向にΓ°回転した軸を法線とする面で切断したLiTaO単結晶であって、X軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶である。Γ°は、例えば、39°以上48°以下である。圧電体層6のカット角は、カット角をΓ〔°〕、圧電体層6のオイラー角を(φ,θ,ψ)とすると、Γ=θ+90°である。圧電体層6は、Γ°YカットX伝搬LiTaO圧電単結晶に限らず、例えば、Γ°YカットX伝搬LiTaO圧電セラミックスであってもよい。
【0039】
実施形態に係る弾性波装置1における弾性波共振子3では、圧電体層6を伝搬する弾性波のモードとして、縦波、SH波若しくはSV波、又はこれらが複合したモードが存在する。弾性波共振子3では、SH波を主成分とするモードをメインモードとして使用している。高次モードとは、圧電体層6を伝搬する弾性波のメインモードよりも高周波数側に発生するスプリアスモードのことである。圧電体層6を伝搬する弾性波のモードが「SH波を主成分とするモードをメインモード」であるか否かについては、例えば、圧電体層6のパラメータ(材料、オイラー角及び厚さ等)、IDT電極7のパラメータ(材料、厚さ及び電極指周期等)等を用いて、有限要素法により変位分布を解析し、ひずみを解析することにより、確認することができる。圧電体層6のオイラー角は、分析により求めることができる。
【0040】
なお、圧電体層6の単結晶材料、カット角については、例えば、フィルタの要求仕様(通過特性、減衰特性、温度特性及び帯域幅等のフィルタ特性)等に応じて、適宜、決定すればよい。
【0041】
圧電体層6の厚さは、IDT電極7の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、3.5λ以下である。電極指周期とは、IDT電極7の複数の電極指72の周期である。これにより、Q値を高くすることができる。
【0042】
好ましくは、圧電体層6の厚さは、2.5λ以下である。これにより、TCF(Temperature Coefficients of Frequency:周波数温度係数)を改善させることができる。より好ましくは、圧電体層6の厚さは、1.5λ以下である。これにより、広い範囲で電気機械結合係数を調整することができる。さらに好ましくは、圧電体層6の厚さは、0.05λ以上0.5λ以下である。これにより、より広い範囲で電気機械結合係数を調整することができる。
【0043】
(2.3)IDT電極
IDT電極7は、圧電体層6上に形成されている。「圧電体層6上に形成されている」とは、圧電体層6上に直接的に形成されている場合と、圧電体層6上に間接的に形成されている場合と、を含む。IDT電極7は、圧電体層6を挟んで支持基板4とは反対側に位置している。
【0044】
IDT電極7は、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Ti、Ni、Cr、Mo、W又はこれらの金属のいずれかを主体とする合金などの適宜の金属材料により形成することができる。また、IDT電極7は、これらの金属又は合金からなる複数の金属膜を積層した構造を有していてもよい。例えば、IDT電極7は、Al膜であるが、これに限らず、例えば、圧電体層6上に形成されたTi膜からなる密着膜と、密着膜上に形成されたAl膜からなる主電極膜との積層膜であってもよい。密着膜の厚さは、例えば、10nm程度である。また、主電極膜の厚さは、例えば130nm程度である。
【0045】
IDT電極7は、図4A及び図4Bに示すように、複数のバスバー71と、複数の電極指72と、を有する。複数のバスバー71は、第1バスバー711と、第2バスバー712と、を含む。複数の電極指72は、複数の第1電極指721と、複数の第2電極指722と、を含む。なお、図4Bでは、支持基板4の図示を省略してある。
【0046】
第1バスバー711及び第2バスバー712は、支持基板4の厚さ方向に沿った第1方向D1(Γ°Y方向)に直交する第2方向D2(X軸方向)を長手方向とする長尺状である。IDT電極7では、第1バスバー711と第2バスバー712とは、第1方向D1と第2方向D2と両方に直交する第3方向D3において対向している。
【0047】
複数の第1電極指721は、第1バスバー711に接続されており、第2バスバー712に向かって延びている。ここにおいて、複数の第1電極指721は、第1バスバー711から第3方向D3に沿って延びている。複数の第1電極指721の先端と第2バスバー712とは離れている。例えば、複数の第1電極指721は、互いの長さ及び幅が同じである。
【0048】
複数の第2電極指722は、第2バスバー712に接続されており、第1バスバー711に向かって延びている。ここにおいて、複数の第2電極指722は、第2バスバー712から第3方向D3に沿って延びている。複数の第2電極指722のそれぞれの先端は、第1バスバー711とは離れている。例えば、複数の第2電極指722は、互いの長さ及び幅が同じである。図4Aの例では、複数の第2電極指722の長さ及び幅は、複数の第1電極指721の長さ及び幅それぞれと同じである。
【0049】
IDT電極7では、複数の第1電極指721と複数の第2電極指722とが、第2方向D2において、1本ずつ交互に互いに離隔して並んでいる。したがって、第1バスバー711の長手方向において隣り合う第1電極指721と第2電極指722とは離れている。IDT電極7の電極指周期は、隣り合う第1電極指721と第2電極指722との互いに対応する辺間の距離である。IDT電極7の電極指周期は、第1電極指721又は第2電極指722の幅をW1とし、隣り合う第1電極指721と第2電極指722とのスペース幅をS1とした場合、(W1+S1)で定義される。IDT電極7において、電極指の幅W1を電極指周期で除した値であるデューティ比は、W1/(W1+S1)で定義される。デューティ比は、例えば、0.5である。IDT電極7の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとしたとき、λは、複数の第1電極指721及び複数の第2電極指722の繰り返し周期P1で定義される。
【0050】
複数の第1電極指721と複数の第2電極指722とを含む一群の電極指(複数の電極指72)は、複数の第1電極指721と複数の第2電極指722とが、第2方向D2において、離隔して並んでいる構成であればよく、複数の第1電極指721と複数の第2電極指722とが交互に互いに離隔して並んでいない構成であってもよい。例えば、第1電極指721と第2電極指722とが1本ずつ離隔して並んでいる領域と、第1電極指721又は第2電極指722が第2方向D2において2つ並んでいる領域と、とが混在してもよい。IDT電極7における複数の第1電極指721及び複数の第2電極指722それぞれの数は特に限定されない。
【0051】
(2.4)IDT電極の配置及び圧電体層のカット角
IDT電極7は、図3に示すように、圧電体層6のマイナス面側に形成されている。より詳細には、圧電体層6では、第1主面61がマイナス面であり、第2主面62がプラス面である。言い換えると、第1主面61がマイナス面となり、かつ、第2主面62がプラス面となるように、圧電体層6は支持基板4上に形成されている。そして、IDT電極7は、圧電体層6の第1主面61つまりマイナス面に形成されている。
【0052】
圧電体層6のカット角は、39°Y以上48°Y以下である。図5に示すように、圧電体層6のカット角が39°Y以上48°Y以下である場合、圧電体層6のカット角が39°Y未満である場合及び圧電体層6のカット角が48°Yより大きい場合に比べて、位相特性が優れている。
【0053】
好ましくは、圧電体層6のカット角は、42°Y以上である。図6に示すように、TCFを小さくすることができる。例えば、TCFの絶対値を5ppm/℃以下にすることができる。
【0054】
より好ましくは、圧電体層6のカット角は、44°Y以上である。これにより、TCFをより小さくすることができる。例えば、TCFの絶対値を2ppm/℃以下にすることができる。
【0055】
(2.5)支持基板の音速
支持基板4を伝搬する遅い横波の音速は、3950m/s以上である。より詳細には、支持基板4を伝搬する上記遅い横波の音速は、共振の音速3800m/sよりも大きく、かつ、反共振の音速3950m/s以上である。これにより、良好な共振特性及び反共振特性を得ることができる。
【0056】
より好ましくは、支持基板4を伝搬する上記遅い横波の音速は、4100m/s以上である。より詳細には、支持基板4を伝搬する上記遅い横波の音速は、反共振の音速3950m/sと共振の音速3800m/sとの差分(150m/s)と反共振の音速3950m/sとの和4100m/s以上である。これにより、ラダー型フィルタの特性を向上させることができる。
【0057】
(2.6)支持基板とIDT電極との関係
支持基板4Z軸とLiTaOのX軸(第2方向D2)とでなす角度は、±20°以下である。図3の例では、支持基板4のZ軸とIDT電極7の複数の電極指72が並んでいる方向(第2方向D2)とでなす角度は、±20°以下である。これにより、支持基板4を伝搬する遅い横波の音速を4100m/s以上にすることができる。
【0058】
より好ましくは、支持基板4Z軸とLiTaOのX軸(第2方向D2)とでなす角度は、平行である。図3の例では、支持基板4のZ軸とIDT電極7の複数の電極指72が並んでいる方向(第2方向D2)とは、平行である。これにより、Z伝搬にすることができるので、支持基板4での高音速化を実現することができる。
【0059】
(3)効果
実施形態に係る弾性波装置1では、IDT電極7が圧電体層6のマイナス面側に形成されており、かつ、圧電体層6のカット角が39°Y以上48°Y以下である。これにより、スプリアスを低減させることができる。
【0060】
実施形態に係る弾性波装置1では、支持基板4の音速が3950m/sである。これにより、良好な共振特性及び反共振特性を得ることができる。これにより、ラダー型フィルタの特性を向上させることができる。
【0061】
実施形態に係る弾性波装置1では、支持基板4のZ軸とLiTaOのX軸(第2方向D2)とでなす角度が±20°以下である。これにより、遅い横波の音速を4100m/s以上にすることができる。
【0062】
実施形態に係る弾性波装置1では、支持基板4のZ軸とLiTaOのX軸(第2方向D2)とが平行である。これにより、Z伝搬にすることができるので、支持基板4での高音速化を実現することができる。
【0063】
実施形態に係る弾性波装置1では、圧電体層6のカット角が42°Y以上である。これにより、TCFを小さくすることができる。例えば、TCFの絶対値を5ppm/℃以下にすることができる。
【0064】
実施形態に係る弾性波装置1では、圧電体層6のカット角が44°Y以上である。これにより、TCFをより小さくすることができる。例えば、TCFの絶対値を2ppm/℃以下にすることができる。
【0065】
実施形態に係る弾性波装置1では、圧電体層6が支持基板4に直接積層されている。これにより、スプリアスをより低減させることができるので、特性劣化を抑制することができる。
【0066】
実施形態に係る弾性波装置1では、圧電体層6の厚さが3.5λ以下である。これにより、Q値を高くすることができる。
【0067】
実施形態に係る弾性波装置1では、圧電体層6の厚さが2.5λ以下である。これにより、TCFを改善させることができる。
【0068】
実施形態に係る弾性波装置1では、圧電体層6の厚さが1.5λ以下である。これにより、広い範囲で電気機械結合係数を調整することができる。
【0069】
実施形態に係る弾性波装置1では、圧電体層6の厚さが0.05λ以上0.5λ以下である。これにより、より広い範囲で電気機械結合係数を調整することができる。
【0070】
(4)変形例
以下、実施形態の変形例について説明する。
【0071】
実施形態の変形例として、圧電体層6は、支持基板4に直接積層されていることに限定されず、支持基板4上に間接的に形成されていてもよい。言い換えると、図7に示すように、圧電体層6と支持基板4との間に他の層が存在していてもよい。図7の例では、支持基板4上に低音速膜5が形成されており、圧電体層6が低音速膜5上に形成されていてもよい。
【0072】
変形例に係る弾性波装置1aは、図7に示すように、支持基板4と、低音速膜5と、圧電体層6と、IDT電極7と、を備える。
【0073】
低音速膜5は、圧電体層6を伝搬するバルク波の音速より、低音速膜5を伝搬するバルク波の音速が低速となる膜である。低音速膜5は、支持基板4と圧電体層6との間に設けられている。低音速膜5が支持基板4と圧電体層6との間に設けられていることにより、弾性波の音速が低下する。弾性波は本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中する。したがって、圧電体層6内及び弾性波が励振されているIDT電極7内への弾性波のエネルギーの閉じ込め効果を高めることができる。その結果、低音速膜5が設けられていない場合に比べて、損失を低減し、Q値を高めることができる。
【0074】
低音速膜5の材料は、例えば酸化ケイ素である。なお、低音速膜5の材料は、酸化ケイ素に限定されず、ガラス、酸窒化ケイ素、酸化タンタル、酸化ケイ素にフッ素、炭素、若しくはホウ素を加えた化合物、又は、上記各材料を主成分とする材料であってもよい。
【0075】
低音速膜5の材料が酸化ケイ素である場合、温度特性を改善することができる。圧電体層6の材料であるLiTaOの弾性定数が負の温度特性を有し、酸化ケイ素の温度特性が正の温度特性を有する。したがって、弾性波装置1では、TCFの絶対値を小さくすることができる。さらに、酸化ケイ素の固有音響インピーダンスは、圧電体層6の材料であるLiTaOの固有音響インピーダンスより小さい。したがって、電気機械結合係数の増大すなわち比帯域の拡大と、周波数温度特性の改善との両方を図ることができる。
【0076】
低音速膜5の厚さは、2.0λ以下であることが好ましい。低音速膜5の厚さを2.0λ以下とすることにより、膜応力を低減させることができ、その結果、ウェハの反りを低減させることができ、良品率の向上及び特性の安定化が可能となる。また、低音速膜5の厚さが0.1λ以上0.5λ以下の範囲内であれば、電気機械結合係数がほとんど変わらない。
【0077】
なお、支持基板4と圧電体層6との間には、上述のように1つの層(低音速膜5)が存在することに限定されず、複数の層が積層されていてもよい。
【0078】
上記の変形例に係る弾性波装置1aにおいても、実施形態に係る弾性波装置1と同様の効果を奏する。
【0079】
以上説明した実施形態及び変形例は、本発明の様々な実施形態及び変形例の一部に過ぎない。また、実施形態及び変形例は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0080】
(態様)
本明細書には、以下の態様が開示されている。
【0081】
第1の態様に係る弾性波装置(1;1a)は、支持基板(4)と、圧電体層(6)と、IDT電極(7)とを備える。支持基板(4)は、水晶からなる。圧電体層(6)は、支持基板(4)上に形成されており、LiTaOからなる。IDT電極(7)は、圧電体層(6)上に形成されており、複数の電極指(72)を有する。IDT電極(7)は、圧電体層(6)のマイナス面側に形成されている。圧電体層(6)のカット角は、39°Y以上48°Y以下である。第1の態様に係る弾性波装置(1;1a)によれば、スプリアスを低減させることができる。
【0082】
第2の態様に係る弾性波装置(1;1a)では、第1の態様において、支持基板(4)を伝搬する遅い横波の音速は、3950m/s以上である。第2の態様に係る弾性波装置(1;1a)によれば、良好な共振特性及び反共振特性を得ることができる。
【0083】
第3の態様に係る弾性波装置(1;1a)では、第2の態様において、支持基板(4)を伝搬する前記遅い横波の音速は、4100m/s以上である。第3の態様に係る弾性波装置(1;1a)によれば、ラダー型フィルタの特性を向上させることができる。
【0084】
第4の態様に係る弾性波装置(1;1a)では、第1~3の態様のいずれか1つにおいて、支持基板(4)のZ軸とLiTaOのX軸(第2方向D2)とでなす角度は、±20°以下である。第4の態様に係る弾性波装置(1;1a)によれば、遅い横波の音速を4100m/s以上にすることができる。
【0085】
第5の態様に係る弾性波装置(1;1a)では、第4の態様において、支持基板(4)のZ軸とLiTaOのX軸(第2方向D2)とは、平行である。第5の態様に係る弾性波装置(1;1a)によれば、Z伝搬にすることができるので、支持基板(4)での高音速化を実現することができる。
【0086】
第6の態様に係る弾性波装置(1;1a)では、第1~5の態様のいずれか1つにおいて、圧電体層(6)のカット角は、42°Y以上である。第6の態様に係る弾性波装置(1;1a)によれば、TCFを小さくすることができる。例えば、TCFの絶対値を5ppm/℃以下にすることができる。
【0087】
第7の態様に係る弾性波装置(1;1a)では、第6の態様において、圧電体層(6)のカット角は、44°Y以上である。第7の態様に係る弾性波装置(1;1a)によれば、TCFをより小さくすることができる。例えば、TCFの絶対値を2ppm/℃以下にすることができる。
【0088】
第8の態様に係る弾性波装置(1)では、第1~7の態様のいずれか1つにおいて、圧電体層(6)は、支持基板(4)に直接積層されている。第8の態様に係る弾性波装置(1)によれば、スプリアスをより低減させることができるので、特性劣化を抑制することができる。
【0089】
第9の態様に係る高周波フロントエンド回路(300)は、フィルタ(第1フィルタ21;第2フィルタ22;第3フィルタ23;第4フィルタ24)と、増幅回路(第1増幅回路303;第2増幅回路304)とを備える。フィルタは、第1~8の態様のいずれか1つの弾性波装置(1;1a)を含み、所定の周波数帯域の高周波信号を通過させる。増幅回路は、フィルタに接続されており、高周波信号の振幅を増幅させる。第9の態様に係る高周波フロントエンド回路(300)によれば、弾性波装置(1;1a)において、スプリアスを低減させることができる。
【0090】
第10の態様に係る通信装置(400)は、第9の態様の高周波フロントエンド回路(300)と、信号処理回路(401)とを備える。信号処理回路(401)は、高周波信号を処理する。第10の態様に係る通信装置(400)によれば、弾性波装置(1;1a)において、スプリアスを低減させることができる。
【符号の説明】
【0091】
1,1a 弾性波装置
21 第1フィルタ(フィルタ)
22 第2フィルタ(フィルタ)
23 第3フィルタ(フィルタ)
24 第4フィルタ(フィルタ)
4 支持基板
6 圧電体層
7 IDT電極
72 電極指
300 高周波フロントエンド回路
303 第1増幅回路(増幅回路)
304 第2増幅回路(増幅回路)
400 通信装置
401 信号処理回路
D2 第2方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7